特許第6987692号(P6987692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジーテクトの特許一覧

<>
  • 特許6987692-アルミニウム合金の成形方法 図000002
  • 特許6987692-アルミニウム合金の成形方法 図000003
  • 特許6987692-アルミニウム合金の成形方法 図000004
  • 特許6987692-アルミニウム合金の成形方法 図000005
  • 特許6987692-アルミニウム合金の成形方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987692
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金の成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20211220BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20211220BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20211220BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20211220BHJP
【FI】
   B21D22/20 H
   B21D22/20 E
   B21D24/00 M
   C22F1/053
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 691B
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-86393(P2018-86393)
(22)【出願日】2018年4月27日
(65)【公開番号】特開2019-188453(P2019-188453A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2019年6月18日
【審判番号】不服2020-17797(P2020-17797/J1)
【審判請求日】2020年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】前野 智美
(72)【発明者】
【氏名】谷口 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 壮一
【合議体】
【審判長】 見目 省二
【審判官】 田々井 正吾
【審判官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−039719(JP,A)
【文献】 特開2013−116475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20 - 22/30
B21D 24/00 - 24/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liを含有しない、Al−Zn−Mg系合金またはAl−Zn−Mg−Cu系合金からなる析出硬化処理がされているA7075からなる板材を析出硬化の状態が維持された状態で加熱する第1工程と、
前記第1工程における加熱を実施した直後に、析出硬化の状態を維持して前記板材をプレス加工して成形体とする第2工程と
を備え、
前記第1工程では、前記板材をプレス加工可能な200℃〜250℃の範囲のいずれかの温度に3秒〜70秒加熱することを特徴とするアルミニウム合金の成形方法。
【請求項2】
請求項1記載のアルミニウム合金の成形方法において、
前記第2工程のプレス加工後に時効処理を行うことを特徴とするアルミニウム合金の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金からなる板材を成形加工するアルミニウム合金の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車の燃費向上のために軽量化が重要となっている。超高張力鋼板による薄肉化を中心に軽量化が進んでいるが、剛性に対して指数的に影響するため、板厚を薄くすることは、部品剛性の確保が難しく限界がある。これに対し、アルミニウム合金は、強度が高いだけでなく比重も軽いため、板厚を確保して軽量化ができる。特に、Al−Zn−Mg系合金またはAl−Zn−Mg−Cu系合金(7000系アルミニウム合金)は、強度が高く有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159489号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、7000系などの高強度のアルミニウム合金は、時効硬化している板材の室温における延性が約10%と低く、冷間プレス成形が困難である。このため、従来では、板材を溶体化処理し、この後、焼きなましの状態でプレスして成形するようにしている(特許文献1参照)。この方法は、高い温度に加熱する必要あるなど、コストが高いため、例えば、自動車部品などのコスト低減が要求される場合には適用が困難である。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、時効硬化しているアルミニウム合金をより低コストで成形できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウム合金の成形方法は、アルミニウム合金からなる析出硬化処理がされている板材を析出硬化の状態が維持された状態で加熱する第1工程と、析出硬化の状態を維持して板材をプレス加工して成形体とする第2工程とを備え、第1工程では、板材をプレス加工可能な温度に加熱する。
【0007】
上記アルミニウム合金の成形方法において、第1工程では、板材を170℃〜250℃の範囲のいずれかの温度に加熱すればよい。
【0008】
上記アルミニウム合金の成形方法において、第1工程では、板材を接触加熱により加熱するとよい。
【0009】
上記アルミニウム合金の成形方法において、アルミニウム合金は、Al−Zn−Mg系合金またはAl−Zn−Mg−Cu系合金である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、アルミニウム合金からなる析出硬化処理がされている板材を析出硬化の状態が維持された状態で加熱し、この析出硬化の状態を維持してプレス加工するので、時効硬化しているアルミニウム合金が、より低コストで成形できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態におけるアルミニウム合金の成形方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は、A7075材に対し、加熱処理の温度と、処理後の硬さとの関係を調査した結果を示す特性図である。
図3図3は、A7075材に対し、加熱処理の温度と、処理後の電気伝導率との関係を調査した結果を示す特性図である。
図4図4は、A7075材に対し、加熱処理の温度と、ハット曲げ成形をした後の硬さとの関係を調査した結果を示す特性図である。
図5図5は、A7075材に対し、加熱処理の時間と、処理後の硬さおよび電気伝導率との関係を調査した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態おけるアルミニウム合金の成形方法について図1を参照して説明する。
【0013】
まず、ステップS101で、アルミニウム合金からなる析出硬化処理がされている板材を析出硬化の状態が維持された状態で加熱する(第1工程)。ステップS101における板材の加熱は、例えば、よく知られたホットプレートなどを用いた接触加熱により実施すればよい。
【0014】
次に、ステップS102で、析出硬化の状態を維持して板材をプレス加工して成形体とする(第2工程)。例えば、ステップS101における加熱を実施した直後に、ステップS102のプレス加工を実施すればよい。
【0015】
板材は、例えば、A7075(JIS)などのAl−Zn−Mg系合金またはAl−Zn−Mg−Cu系合金である。ステップS101(第1工程)では、板材をプレス加工可能な温度に加熱する。例えば、板材がA7075の場合、200℃に加熱すれば、析出硬化の状態が維持され、かつプレス加工可能な状態となる。上記温度は、対象とする材料に合わせ、析出硬化の状態が維持された範囲で適宜に設定すればよく、200℃より低い温度条件としてもよい。
【0016】
上述した実施の形態におけるアルミニウム合金の成形方法によれば、析出硬化状態でプレス加工するので、加熱の温度をより低くすることができる。また、析出硬化状態でプレス加工しているので、成形後も析出硬化状態となっており、プレス加工した後で溶体化処理をする必要がない。このように、実施の形態によれば、従来に比較して、低コストで成形できる。なお、プレス加工した後で、時効処理をしてもよい。
【0017】
次に、加熱温度と硬さとの関係について調査した結果を図2に示す。調査は、析出硬化状態のA7075からなる板厚2mmの板材に対して実施した。接触加熱により加熱し、加熱時間は10秒とし、冷却した後に硬さ測定を実施した。図2において、黒四角は、時効処理をしていない場合の結果を示し、黒丸は、時効処理をした場合の結果を示している。図2に示すように、加熱温度が200℃であれば、冷却した後で、析出硬化している状態の硬さが得られている。また、加熱温度が250℃であっても、時効処理をすることで、時効硬化状態の硬さが得られている。
【0018】
ここで、析出硬化状態のアルミニウム合金を加熱し、析出硬化状態よりずれた状態となると、図3に示すように、アルミニウム合金の電気伝導率が変化する。なお、図3に示す結果は、図2に示す調査において用いた試料の電気伝導率の変化であり、黒四角は、時効処理をしていない場合の結果を示し、黒丸は、時効処理をした場合の結果を示している。図3に示すように、250℃を超えて高い加熱温度とすると、電気伝導率が大きく変化している。
【0019】
これらの調査結果より、加熱温度200℃は、析出硬化状態が維持されていることがわかる。また、加熱温度が250℃であれば、実質的に析出硬化状態であるものと考えられる。言い換えると、加熱の温度条件は、時効処理後で、析出硬化状態における硬さが得られる範囲とすればよいものといえる。
【0020】
また、加熱温度とプレス加工(ハット曲げ)後の硬さとの関係について調査した結果を図4に示す。調査は、析出硬化状態のA7075からなる板厚2mmの板材に対して実施した。接触加熱により加熱し、加熱時間は10秒とし、ハット曲げ成形した後に硬さ測定を実施した。図4において、黒四角は、時効処理をしていない場合の結果を示し、黒丸は、時効処理をした場合の結果を示している。図4において、160℃の結果は、3回の調査において、プレス加工において1回割れが発生した。これに対し、170℃以上では、いずれの調査でも、プレス加工において割れは発生していない。従って、加熱温度が170℃以上であれば、ハット曲げ成形が可能であるものといえる。また、170〜200℃では、時効硬化処理をしていなくても、ハット曲げ成形した後で、析出硬化している状態の硬さが得られている。また、加熱温度が250℃であっても、時効処理をすることで、ほぼ、時効硬化状態の硬さが得られている。
【0021】
次に、加熱時間について調査した結果について、図5に示す。なお、この調査は、析出硬化状態のA7075からなる板厚2mmの板材に対して実施し、200℃に加熱処理をして冷却した後で、硬さの測定および電気伝導率の測定を実施している。図5に示すように、加熱時間を3秒と短くしても、析出硬化状態の硬さが得られている。また、加熱時間が70秒を超えて900秒近くとなると、硬さの低下がみられ、電気伝導率に変化が見られた。これらの結果より、加熱時間は短い方がよいことがわかる。
【0022】
また、本発明のアルミニウム合金の成形方法によれば、プレス加工時の下死点保持時間を短くしても、プレス加工後の硬さに低下がみられない大きな変化は見られないことが判明している。従って、本発明によれば、従来のように、下死点の保持を所定の時間かける必要がなく、処理時間を短縮することが可能になる。
【0023】
また、本発明によれば、200℃程度の温度でプレス加工するため、潤滑剤を使用しなくても、焼き付きが発生しないという利点がある。
【0024】
以上に説明したように、本発明によれば、アルミニウム合金からなる析出硬化処理がされている板材を析出硬化の状態が維持された状態で加熱し、この析出硬化の状態を維持してプレス加工するので、時効硬化しているアルミニウム合金が、より低コストで成形できるようになるという優れた効果が得られる。
【0025】
従来では、溶体化処理し、この後、焼きなましの状態でプレス加工していたため、加熱温度が高く、コストの上昇を招いていた。なお、溶体化処理して焼きなました状態では、よく知られているように、アルミニウム合金は、析出硬化状態ではない。これに対し、発明者の鋭意の検討により、析出硬化状態であっても、200℃〜250℃程度に加熱することでプレス加工が可能であるという新たな技術的知見が得られたことにより、本発明がなされた。本発明によれば、従来に比較して、加熱の温度が低く、また、短時間で処理が可能であり、大きなコストの低減が見込める。
【0026】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、7000系アルミニウム合金を例に説明したが、これに限るものではなく、2000系、6000系のアルミニウム合金であっても、同様の効果が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5