特許第6987708号(P6987708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987708
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】衝撃試験機
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/08 20060101AFI20211220BHJP
   G01N 3/303 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   G01M7/08 Z
   G01N3/303 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-123923(P2018-123923)
(22)【出願日】2018年6月29日
(65)【公開番号】特開2020-3376(P2020-3376A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2020年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100676
【氏名又は名称】IMV株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀修
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 和良
(72)【発明者】
【氏名】中西 一志
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−091018(JP,A)
【文献】 特開2015−105824(JP,A)
【文献】 特開2016−065856(JP,A)
【文献】 特開平10−274576(JP,A)
【文献】 中国実用新案第202974614(CN,U)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0006619(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/08
G01N 3/00 − 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物を保持するスライダと、前記被試験物に対して衝撃を付与する衝撃付与機構とを備えた衝撃試験機であって、
前記衝撃付与機構は、前記スライダに取り付けられ交流電圧が印加されるドライブコイルと、前記ドライブコイルとの間に磁気ギャップが形成される溝部と、前記溝部に配置され直流電圧が印加される励磁コイルとを有し、
前記スライダは、前記ドライブコイルを前記溝部の外部から内部へ進入させるように移動可能に設けられ、
前記溝部に進入した前記ドライブコイルに交流電圧を印加することによって、前記ドライブコイルの進入方向とは反対方向の反発力を発生させ、この反発力によって前記ドライブコイルを前記溝部の内部から外部へ押し戻すように構成されていることを特徴とする衝撃試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃試験機において、
前記ドライブコイルへの交流電圧の印加が、前記ドライブコイルが前記溝部に進入した後に開始されることを特徴とする衝撃試験機。
【請求項3】
請求項1に記載の衝撃試験機において、
前記ドライブコイルへの交流電圧の印加が、前記ドライブコイルの全長の1/4〜1/2の距離だけ前記溝部に進入したときに開始されることを特徴とする衝撃試験機。
【請求項4】
請求項2または3に記載の衝撃試験機において、
前記ドライブコイルに交流電圧を印加するタイミングが、位置検出手段によって検出される前記ドライブコイルの位置に基づいて制御されることを特徴とする衝撃試験機。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の衝撃試験機において、
前記スライダが垂直方向に移動可能に設けられていることを特徴とする衝撃試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃試験システム等で用いられる衝撃試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、衝撃試験システム等に各種の衝撃試験機が用いられている。これら衝撃試験機は、車両に搭載する各種部品、モジュール、ユニット等の信頼性や耐久性を確認するために用いられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の衝撃試験機では、被試験物(供試体)を保持したスライダがテーブルに衝突する際に、スライダの衝突に対する緩衝機構が設けられており、この緩衝機構に動電型振動発生機が用いられている。
【0003】
具体的には、緩衝機構は、テーブルに取り付けられたドライブコイルと、ドライブコイルとの間に磁気ギャップが形成される溝部に設けられた励磁コイルとを含む構成になっており、励磁コイルに直流電圧が印加されるとともにドライブコイルに交流電圧が印加された状態で、ドライブコイルが溝部に移動する際に生じる電磁気力によって、テーブルに対する衝撃付与機能を制御している。このような特許文献1に記載の衝撃試験機によれば、比較的大きなストロークを必要とせずに精度のよい衝撃試験を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6057442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載の衝撃試験機は、スライダをテーブルに衝突させることによって、供試体に衝撃が付与される構造になっており、衝撃試験機の構成部品(スライダやテーブル等)の破損が懸念される。また、空気バネ等の緩衝機構を設ける必要があり、空気バネ等の劣化も懸念される。
【0006】
本発明は上述したような実情を考慮してなされたもので、構成部品の劣化や破損を抑制することが可能な衝撃試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、被試験物を保持するスライダと、前記被試験物に対して衝撃を付与する衝撃付与機構とを備えた衝撃試験機であって、前記衝撃付与機構は、前記スライダに取り付けられ交流電圧が印加されるドライブコイルと、前記ドライブコイルとの間に磁気ギャップが形成される溝部と、前記溝部に配置され直流電圧が印加される励磁コイルとを有し、前記スライダは、前記ドライブコイルを前記溝部の外部から内部へ進入させるように移動可能に設けられ、前記溝部に進入した前記ドライブコイルに交流電圧を印加することによって、前記溝部に進入した前記ドライブコイルに交流電圧を印加することによって、前記ドライブコイルの進入方向とは反対方向の反発力を発生させ、この反発力によって前記ドライブコイルを前記溝部の内部から外部へ押し戻すように構成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、ドライブコイルをスライダと一体的に移動可能とし、ドライブコイルを所定の初速を持った状態で磁気回路が形成された溝部へ進入させるようにしている。そして、ドライブコイルを、衝撃付与機構が発生する反発力によって打ち返すことで、溝部への進入時と略同じ大きさで逆向きの速度を持った状態で溝部の外部へ押し戻すようにしている。この際、電磁気的な反発力による制動力を受けることでドライブコイルの速度の向きが反転されるので、スライダが衝撃試験機の他の構成部品に機械的に衝突しないようにすることができる。したがって、スライダが衝撃試験機の他の構成部品に衝突することなく供試体に対する衝撃試験を行うことができ、衝撃試験機の構成部品の劣化や破損を抑制することができる。また、従来の衝撃試験機では、例えば空気バネ等の緩衝機構を設ける必要があったが、本発明によれば、そのような緩衝機構が不要になり、簡素な構造の衝撃試験機を実現できる。しかも、緩衝機構が不要になるだけでなく、緩衝機構の調整作業や部品交換等も不要になる。
【0009】
本発明において、前記ドライブコイルへの交流電圧の印加が、前記ドライブコイルが前記溝部に進入した後に開始されることが好ましい。この構成によれば、無駄な消費電力を抑制しつつ、ドライブコイルの保護を図ることができる。
【0010】
本発明において、前記ドライブコイルへの交流電圧の印加が、前記ドライブコイルの全長の1/4〜1/2の距離だけ前記溝部に進入したときに開始されることが好ましい。この構成によれば、ドライブコイルに発生する逆起電力を小さく抑えることができ、アンプから供給される電圧を低く抑えることができる。これにより、最大出力電圧の高い高性能のアンプを用いる必要がなくなり、装置設計の自由度を高めることができる。
【0011】
本発明において、前記ドライブコイルに交流電圧を印加するタイミングが、位置検出手段によって検出される前記ドライブコイルの位置に基づいて制御されることが好ましい。この構成によれば、位置検出手段によってドライブコイルの動作を監視してドライブコイルの位置に応じた正確なタイミングで、ドライブコイルに交流電圧を印加することができ、衝撃試験の精度を向上させることができる。
【0012】
本発明において、前記スライダが垂直方向に移動可能に設けられていることが好ましい。この構成によれば、重力を利用することで、簡素な構成でスライダに初速を与えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る衝撃試験機によれば、スライダが衝撃試験機の他の構成部品に衝突することなく供試体に対する衝撃試験を行うことができ、衝撃試験機の構成部品の劣化や破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る衝撃試験機の概略構成を示す図である。
図2】衝撃試験機の動作を順に説明するための図である。
図3】衝撃試験機の動作を順に説明するための図である。
図4】衝撃試験機の動作を順に説明するための図である。
図5】衝撃試験機の動作を順に説明するための図である。
図6】衝撃試験機の動作を順に説明するための図である。
図7】衝撃試験機の動作を順に説明するための図である。
図8】衝撃試験機の目標加速度波形、目標速度波形、及び目標変位波形の一例を示すグラフである。
図9】衝撃試験機の力係数の変化、加振力と要求パワーの変化、及びアンプへの要求電圧と要求電流の変化の一例を示すグラフである。
図10】従来の衝撃試験機の力係数の変化、加振力と要求パワーの変化、及びアンプへの要求電圧と要求電流の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る衝撃試験機1の概略構成を示す図である。図1に示すように、衝撃試験機1は、平板状のベース部材11、垂直方向(鉛直方向)に沿って延びる支柱部材12、支柱部材12に沿って垂直方向に移動可能なスライダ13、及び衝撃付与機構として設けられる振動発生機14を主に備えている。
【0017】
ベース部材11上に、支柱部材12が図示しない支持部材を介して固定されている。スライダ13は、ガイドローラ13aを有しており、支柱部材12に沿って移動することが可能になっている。スライダ13には、被試験物(供試体)Sがセットされる。具体的には、水平方向に延びる搭載面を有する搭載台13bがスライダ13に一体的に設けられており、搭載台13b上に図示しない治具を介して供試体Sが保持されるようになっている。スライダ13には、スライダ13の加速度を検出するための加速度センサ13cが設けられている。また、ベース部材11には、スライダ13の位置(スライダ13と振動発生機14との相対距離)を検出するための変位センサ11aが設けられている。図1では、変位センサ11aが、ベース部材11に固定された固定部材11bに取り付けられており、変位センサ11aがスライダ13の上方に配置された例を示している。なお、変位センサ11aの設置箇所はこれに限らず、例えば変位センサ11aを振動発生機14側に取り付け、変位センサ11aをスライダ13の下方に配置してもよい。
【0018】
支柱部材12の上部には、スライダ13の引き上げ、及びリリースを行うウインチリリース機構15が設けられている。ウインチリリース機構15は、スライダ13に対するキャッチ及びリリースを行うマグネット(電磁石)15aが、ワイヤ15bの先端に設けられた構成になっている。ウインチリリース機構15のマグネット15aに通電することによって、スライダ13がキャッチされ、この状態でワイヤ15bを巻き上げることにより、スライダ13が所定の高さまで引き上げられる。一方、ウインチリリース機構15のマグネット15aへの通電を停止することによって、ウインチリリース機構15からスライダ13がリリースされることにより、所定の高さまで引き上げられたスライダ13が落下する。また、スライダ13には、支柱部材12との間で制動力を発生させてスライダ13を減速させる減速機構16が設けられている。この減速機構16は、供試体Sへの衝撃付与後に、スライダ13をヨーク21に軟着陸して静止させるように、スライダ13の移動速度を制限するために設けられている。
【0019】
振動発生機14は、動電型振動発生機として構成されており、内側磁極21aと外側磁極21bと溝部21cとを有する強磁性体からなるヨーク21と、溝部21cに配置されヨーク21に静磁場を生成するための励磁コイル22と、ヨーク21に形成される磁気ギャップ内に配置される反発力発生用のドライブコイル23とを備えている。ヨーク21は、ベース部材11上に固定されている。ヨーク21の材質としては、高透磁率で高強度の磁性材料、例えばS25C等の低炭素鋼を好適に用いることができる。励磁コイル22は、外側磁極21bに保持されている。溝部21cは、内側磁極21aと外側磁極21bとによって形成された略円筒状の空間になっており、この溝部21cにドライブコイル23が入り込み、溝部21cに磁気ギャップが形成されるようになっている。また、励磁コイル22に直流電圧を印加することにより、励磁コイル22を取り巻くヨーク21内に磁気回路(静磁場)が生成される。そして、ドライブコイル23に交流電圧を印加して所定周波数の交流電流を流すことにより、磁気ギャップに生成される静磁場とドライブコイル23に流れる交流電流との間に電磁気力(ローレンツ力)が発生する。
【0020】
本実施形態では、ドライブコイル23は、スライダ13に一体的に設けられている。具体的には、ドライブコイル23は、スライダ13の搭載台13bの下方に取り付けられた円筒状部材の外周面に巻回されている。ドライブコイル23の中心軸は垂直方向に沿って延びており、ドライブコイル23は、スライダ13とともに垂直方向に移動可能になっている。ドライブコイル23が取り付けられる円筒状部材の材質としては、非磁性体の高強度の金属(例えばアルミニウム合金)や、合成樹脂(例えばカーボンファイバ)等を好適に用いることができる。
【0021】
そして、スライダ13を自重により落下させてドライブコイル23をヨーク21の溝部21c内に進入(突入)させることによって、スライダ13に保持された供試体Sの衝撃試験を行うようにしている。つまり、溝部21cに進入したドライブコイル23に交流電圧を印加することによって、振動発生機14による加振力を発生させる。そして、振動発生機14の発生する加振力により、ドライブコイル23の進入方向とは反対方向(上向き)の電磁気的な反発力を発生させ、この反発力によってドライブコイル23を溝部21cの内部から外部に向かって押し返すことによって、スライダ13に保持された供試体Sに対して衝撃が付与される。なお、ドライブコイル23が溝部21cに進入するとは、ドライブコイル23の先端(下端)が、磁気回路が形成されたヨーク21の溝部21cに入り込むことを言う。
【0022】
詳細には、ドライブコイル23に所定周波数の交流電流を流すことにより、ドライブコイル23に磁束の方向と直交する方向に向けた力が作用するので、ドライブコイル23の進入方向とは反対方向(上向き)の反発力がドライブコイル23に対して作用する。この電磁気的な反発力によってドライブコイル23の移動方向が反転される。つまり、反発力がドライブコイル23に作用し続けることにより、ドライブコイル23が溝部21c内に沈み込んだ後、ドライブコイル23が溝部21cから外部へ向けて放たれるように移動する。このようなドライブコイル23の動作によって、スライダ13に保持された供試体Sに対して衝撃が付与される。つまり、スライダ13がヨーク21に衝突することなくスライダ13の移動方向が反転されるので、スライダ13に保持された供試体Sに対して衝撃が付与される。
【0023】
また、衝撃試験機1は、シーケンスコントローラ30、励磁電源31、加振コントローラ32、及び電力増幅器(アンプ)33を備えている。シーケンスコントローラ30は、ウインチリリース機構15及び減速機構16を制御するとともに、励磁コイル22に励磁電力を予め供給するよう励磁電源31を制御する。
【0024】
また、シーケンスコントローラ30は加振コントローラ32を制御する。加振コントローラ32は、加速度センサ13cによるスライダ13の加速度データ(衝撃印加時の運動の加速度データ)及び変位センサ11aによるスライダ13の変位データ(衝撃印加時の運動の変位データ)に基づいて、ドライブコイル23に適切なドライブ電力を供給するよう電力増幅器33を制御する。加振コントローラ32の上記制御としてはフィードバック制御またはフィードフォワード制御を採用することができ、これらの制御によって衝撃波形の調整を容易に行うことができるようになっている。したがって、作業性が大変良い。
【0025】
次に、上記構成の衝撃試験機1の動作について、図2図7を参照して説明する。図2図7は、衝撃試験機1の動作を順に説明するための図である。
【0026】
まず、図2に示すように、供試体Sがスライダ13の搭載台13bの所定位置にセットされる。このとき、スライダ13はヨーク21上に載置される。ドライブコイル23の全長L1は溝部21cの深さよりも小さくなっており、ドライブコイル23の全体がヨーク21の溝部21c内に収容されている。また、ウインチリリース機構15のマグネット15aによってスライダ13がキャッチされている。
【0027】
次に、図3に示すように、ウインチリリース機構15の駆動によって、供試体S及びスライダ13が所定の高さまで引き上げられる。これにより、ドライブコイル23の全体がヨーク21の溝部21cから上方へ引き上げられる。なお、スライダ13の引き上げ高さH1(スライダ13の最下点からの距離)は、最大で4000mmとなっている。
【0028】
次に、図4に示すように、所定の高さまで引き上げられたスライダ13がウインチリリース機構15からリリースされ、供試体S及びスライダ13が支柱部材12に沿って落下し始める。この際、供試体S及びスライダ13は自由落下と略同様の状態で鉛直下方に向けて落下する。この場合、スライダ13の加速度は−1.0G(Gは重力加速度)となり、スライダ13の速度は0から負方向に増加し始める。なお、スライダ13をリリースする前に、励磁コイル22に直流電圧を印加しておき、この直流電圧の印加によりヨーク21内に形成される磁気回路が安定した後、スライダ13のリリースを行う。
【0029】
供試体S及びスライダ13の落下により、ドライブコイル23がヨーク21の溝部21c内に進入(突入)し始める。このとき、図5に示すように、ドライブコイル23に所定周波数の交流電流を供給する。これにより、上述したように、ドライブコイル23の進入方向とは反対方向(上向き)の反発力が発生する。この電磁気的な反発力によってドライブコイル23を溝部21cの内部から外部に向かって押し返すことによって、スライダ13に保持された供試体Sに対して衝撃が付与される。この場合、スライダ13の速度が正方向に反転する時点でスライダ13の速度は0となり、このとき、スライダ13の変位は最小値をとる。この反発力が継続して作用することで、スライダ13には進入時の初速−V0とは逆向きの速度+V0を持つような速度変化が発生し、スライダ13は進入してきた側(上側)に向かって打ち返される。
【0030】
そして、ドライブコイル23がヨーク21の溝部21cから外部へ離脱する前に、ドライブコイル23への交流電流の供給を停止する。この場合、スライダ13の加速度は振動発生機14から受ける力は0となり重力の影響のみが残るので−1.0Gに反転し、スライダ13の速度は正の最大値をとる。
【0031】
供試体S及びスライダ13が上方に向けて移動する際、図6に示すように、減速機構16を作動させてスライダ13と支柱部材12との間で制動力を発生させてスライダ13の速度を減速させる。減速機構16の作動開始高さH2(スライダ13の最下点からの距離)は、例えば300〜400mmとなっている。その後、供試体S及びスライダ13が自重により下方に向けて移動し、図7に示すように、スライダ13はヨーク21上の所定位置(試験開始前の元の位置)に静止する。この場合、スライダ13がヨーク21上に静止するまで、減速機構16の作動を継続して、供試体S及びスライダ13の移動速度を制限してもよい。減速機構16によって、スライダ13をヨーク21上に静止させる際の衝撃を緩和することができる。なお、スライダ13の下部に緩衝部材を設けることによって、スライダ13をヨーク21上に静止させる際の衝撃を緩和してもよい。
【0032】
ここで、上記構成の衝撃試験機1において、図8(a)〜(c)に示すような目標波形の設計を行った。すなわち、与えられた目標加速度波形(図8(a))と同じ加速度波形を有する運動の中で必要変位が最小になるものを選択した。図8(b)に示すように、この運動の初速は、−7.5m/sであり、0.11s後の終速は、8.1m/sであった。スライダ13にセットした供試体Sが所定の速度で移動してきて、振動発生機14によって電磁気的な反発作用によって、0.11s後に反対向きに所定の終速度で反転されるまでの間に、所定の加速度パルスの印加を行った。これにより、図8(c)に示すように、振動発生機14に要求されるストロークを、280mmに抑えることができた。
【0033】
このように、本実施形態では、ドライブコイル23をスライダ13と一体的に移動するように構成し、ドライブコイル23を所定の初速を持った状態で磁気回路が形成された溝部21cへ進入(突入)させるようにしている。そして、ドライブコイル23を、振動発生機14が発生する加振力によって打ち返すことで、溝部21cへの進入時と略同じ大きさで逆向き(上向き)の速度を持った状態で溝部21cの外部へ押し戻すようにしている。この際、電磁気的な制動力を受けることでドライブコイル23の速度の向きが反転されるので、スライダ13がヨーク21に機械的に衝突しないようにすることができる。したがって、本実施形態では、スライダ13が衝撃試験機1の他の構成部品に衝突することなく供試体Sに対する衝撃試験を行うことができ、衝撃試験機1の構成部品の劣化や破損を抑制することができる。
【0034】
また、従来の衝撃試験機では、例えば空気バネ等の緩衝機構を設ける必要があったが、本実施形態によれば、そのような緩衝機構が不要になり、簡素な構造の衝撃試験機1を実現できる。しかも、緩衝機構が不要になるだけでなく、緩衝機構の調整作業や部品交換等も不要になる。また、重力のみを利用してスライダ13を落下させることで、簡素な構成でスライダ13に初速を与えることができる。本実施形態では、スライダ13が垂直方向に移動可能に設けられており、スライダ13の移動方向の水平面に対する角度が90°になっている。しかし、これに限らず、スライダ13の移動方向の水平面に対する角度は、0°〜90°の範囲で任意に設定可能である。例えば、従来の衝撃試験機のように、所定の傾斜角度を有するスロープ部材を用いて、スライダ13を移動させる構成としてもよい。なお、スライダ13に所望の初速を与えるための射出機構等を別途設ける構成としてもよい。
【0035】
また、本実施形態では、スライダ13の進入時の初速と、振動発生機14の加振力とを設定することによって、衝撃試験機1の衝撃波形を容易に調整することができる。したがって、容易な作業性で衝撃波形の再現性を高くすることができ、衝撃試験の精度を向上させることができるである。さらには、衝撃試験機1による衝撃試験の自動化や、衝撃試験を繰り返し実行することも可能になる。
【0036】
本実施形態において、ドライブコイル23への交流電圧の印加が、ドライブコイル23が溝部21cに進入した後に開始されることが好ましい。ドライブコイル23が溝部21cに進入していない状態では、ドライブコイル23に交流電圧を印加したとしても電磁気力は発生しない。上述の打ち返しの動作を行うパルス状の加速度出力を得るには、ドライブコイル23に供給する電流(ドライブ電流)として、短時間の間、非常に大きな大電流が要求されることから、ドライブコイル23が溝部21cに進入していない状態で、ドライブコイル23に交流電圧を印加すると、無駄な消費電力が発生する。また、大電流によりドライブコイル23が焼損したり破損したりする可能性がある。したがって、ドライブコイル23に交流電圧を印加するタイミングとしては、ドライブコイル23が溝部21cに進入した後に設定されることが好ましい。こうすることにより、無駄な消費電力を抑制しつつ、ドライブコイル23の保護を図ることができる。
【0037】
上述のように、ドライブコイル23への交流電圧の印加は、ドライブコイル23が溝部21cのある程度の深さまで進入した後に開始されることが好ましい。詳細には、加振力等を考慮すると、ドライブコイル23への交流電圧の印加が、ドライブコイル23の全長L1の1/4〜1/2の距離だけ溝部21cに進入したときに開始されることが好ましい。この点について、図9図10を参照して説明する。図9のグラフは、衝撃試験機1において、ドライブコイル23への交流電圧の印加を、ドライブコイル23の全長L1(ここでは、300mm)の1/3の距離だけ溝部21cに進入したときに開始した場合について示している。図10のグラフは、従来の衝撃試験機の場合(ドライブコイルを進入させない場合)について比較例として示している。図9(b)、図10(b)は、要求加振力(実線)及び要求パワー(破線)を示しており、要求加振力及び要求パワーは、本実施形態の衝撃試験機1の場合と、従来の衝撃試験機の場合とで同一になっている。
【0038】
図9(a)、図10(a)は、ドライブコイル23の位置X1による力係数(単位ドライブ電流あたりの加振力)の変化を示している。ドライブコイル23の位置X1は、ドライブコイル23が溝部21cに進入した距離(進入深さ)であり、図5に示すように、溝部21cの上端からドライブコイル23の先端までの距離となっている。図9(a)、図10(a)では、ドライブコイル23が溝部21cに進入し始めたときの、ドライブコイル23の位置X1を0(mm)と表し、ドライブコイル23の全体が溝部21cに進入したときの、ドライブコイル23の位置X1を−300(mm)と表している。図10(a)に示すように、従来の衝撃試験機の場合、ドライブコイル23の位置X1は変化しないため、力係数(加振力)は一定になっている。
【0039】
一方、図9(a)に示すように、本実施形態の衝撃試験機1の場合、ドライブコイル23が200mm以上の距離、溝部21cに進入している場合、力係数(加振力)は一定である。しかし、ドライブコイル23が0〜200mmの間の距離、溝部21cに進入している場合、ドライブコイル23の進入深さが小さくなるにしたがって、力係数が比例的に低下していく。このため、ドライブコイル23が溝部21cのある程度の深さまで進入した後に、ドライブコイル23への交流電圧の印加を開始すればよい。こうすれば、従来の衝撃試験機の場合に比べて、ドライブコイル23に発生する逆起電力(誘導電流を打ち消すために必要になる電圧)を小さく抑えることができ、電力増幅器33から供給される電圧を低く抑えることができる。したがって、最大出力電圧の高い高性能の電力増幅器33を用いる必要がなくなり、装置設計の自由度を高めることができる。
【0040】
図9(c)、図10(c)は、電力増幅器33への要求電圧(破線)及び要求電流(実線)を示している。電力増幅器33への要求電圧(破線)は、ドライブコイル23に発生する逆起電力(1点鎖線)と、ドライブコイル23の電気抵抗に打ち勝って必要な電流をドライブコイル23に流すための要求電圧(2点鎖線)との総和になっている。図10(c)に示すように、従来の衝撃試験機の場合、電力増幅器33への要求電圧(破線)は、ドライブコイル23の速度が最大値となる進入開始時において最大となっており、その最大値は−247Vになっている。一方、図9(c)に示すように、本実施形態の衝撃試験機1の場合、ドライブコイル23の進入開始時には力係数が小さいため(図9(a)参照)、逆起電力に対抗するための要求電圧が小さく抑えられており、電力増幅器33への要求電圧(破線)は、−82Vになっている。また、電力増幅器33への要求電圧(破線)が最大となる時点ではドライブコイル23の速度が低下しているため、その最大値は±160Vになっている。そして、ドライブコイル23の進入開始から離脱までの全過程において、従来の衝撃試験機の場合に比べて、電力増幅器33への要求電圧(破線)が低く抑えられている。これにより、最大出力電圧の高い高性能の電力増幅器33を用いる必要がなくなり、装置設計の自由度を高めることができる。
【0041】
上述のようなドライブコイル23に交流電圧を印加するタイミングは、例えばドライブコイル23の先端位置(下端位置)に基づいて制御することが可能である。この場合、例えばレーザー式変位センサ等の位置検出手段をベース部材11の所定位置に設置し、この位置検出手段によって検出されたドライブコイル23の先端位置(ドライブコイル23の先端位置までの距離)に基づいて、ドライブコイル23に交流電圧を印加するタイミングを制御すればよい。これにより、位置検出手段によってドライブコイル23の動作を監視してドライブコイル23の位置に応じた正確なタイミングで、ドライブコイル23に交流電圧を印加することができ、衝撃試験機1による衝撃試験の精度を向上させることができる。
【0042】
今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の衝撃試験機は、車載機器やその他の機器の衝撃試験に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 衝撃試験機
13 スライダ
14 振動発生機(衝撃付与機構)
21 ヨーク
21c 溝部
22 励磁コイル
23 ドライブコイル
S 被試験物(供試体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10