(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チャンバの内部において、前記複数のフィラメントが前記挿入方向および前記チャンバ幅方向のうちの一方の方向である第1方向にそれぞれ延びるとともに前記挿入方向および前記チャンバ幅方向のうちの他方の方向である第2方向において互いに間隔をおいて配置され、更に前記第1方向および前記第2方向を含む平面と交差する第3方向において前記複数の基材に対向するように、前記複数のフィラメントを保持するフィラメント保持機構を更に有する、請求項1または2に記載の熱フィラメントCVD装置。
前記テーブルが、前記複数の基材を前記複数のフィラメントに近接した位置に保持する被覆処理位置と、前記複数の基材を前記被覆処理位置よりも前記複数のフィラメントから前記第3方向に離間した位置に保持する離間位置との間で移動するように、前記テーブルを前記第3方向に移動させる移動機構を更に備える、請求項4に記載の熱フィラメントCVD装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る熱フィラメントCVD装置1について説明する。
図1は、本実施形態に係る熱フィラメントCVD装置1の斜視図である。
図2乃至
図4は、それぞれ、熱フィラメントCVD装置1の内部構造を示す斜視図、正面図および平面図である。なお、
図2では、後記のチャンバ2の一部の図示を省略している。
【0020】
熱フィラメントCVD装置1は、複数のワーク5(基材)に対して被覆処理を行う。本実施形態では、一例として、ワーク5はドリル刃である。ワーク5の材料としては、一般的に、超硬合金が用いられる。熱フィラメントCVD法は、熱分解による生成物や化学反応によって、薄膜を形成する方法である。熱フィラメントCVD法は化学気相成長法(CVD)の一種であり、フィラメントが放出する熱エネルギーによる原料ガスの分解生成物や化学反応を利用する。熱フィラメントCVD装置1は、炭素系薄膜、特にダイヤモンド薄膜(多結晶ダイヤモンド薄膜)の成膜のために好適に用いることができる。本実施形態では、熱フィラメントCVD装置1は、熱フィラメントCVD法によってワーク5の表面にダイヤモンド薄膜を形成する。このようなダイヤモンド薄膜の成膜のための原料ガスとして、炭化水素等の炭素化合物ガスと、水素ガスとを混合した混合ガスが用いられる。本実施形態では、体積比率で1%のメタンと99%の水素とからなる混合ガスが用いられる。
【0021】
熱フィラメントCVD装置1は、内部空間を有するチャンバ2を備える。チャンバ2は、チャンバ本体2Sと、不図示の扉部と、を有する。チャンバ本体2Sは、上記の内部空間を画定する。チャンバ本体2Sは、底部20と、4本(複数)の脚部21と、前フランジ22と、右側壁23と、天板24と、左側壁25と、後壁26と、を有する(
図1、
図2)。前フランジ22には、開口部2Hが形成されている。不図示の扉部は、チャンバ本体2Sに対して開閉可能に装着されている。閉状態の扉部は、開口部2Hを封止する。また、開状態の扉部は、開口部2Hを開放する。4本の脚部21の下端部は、底部20から下方に延びている。なお、各脚部21は、エアシリンダ構造を有し、伸縮可能とされている。脚部21の上端部は、チャンバ2の内部に配置され、後記のステージ3に接続されている。チャンバ2の内部空間は、不図示の真空ポンプに連通しており、被覆処理時には、チャンバ2の内部空間が真空または略真空状態とされる。
【0022】
更に、熱フィラメントCVD装置1は、ステージ3と、複数のワーク5をそれぞれ支持する複数のワーク支持ブロック4(基材支持体)と、フィラメント電極ユニット6(フィラメントユニット)と、固定電極71と、可動電極72と、左支持部73と、右支持部74と、を備える。
【0023】
ステージ3は、チャンバ2の内部において水平に配置され、複数のワーク支持ブロック4を支持する。ステージ3は平面視で矩形形状を有しており、ステージ3の下面部の四隅には、前述の脚部21がそれぞれ接続されている。なお、後記のステージ駆動部83によって、各脚部21が伸縮されると、ステージ3が上下に移動する。ステージ3は、上面視で矩形状のテーブル31を有する。テーブル31には、複数のワーク支持ブロック4が左右方向において隙間なく配設されるように、凹状の固定部31Sが形成されている。
【0024】
複数のワーク支持ブロック4は、それぞれ、前後方向に長く延びる直方体形状(短冊形状)を備えている。複数のワーク支持ブロック4は、チャンバ2の開口部2Hを通じて前記挿入方向(
図14の矢印DS参照)に沿ってチャンバ2の内部に挿入可能とされる。ワーク支持ブロック4の上面部には、ワーク5が挿入可能でありワーク5を保持可能な複数の支持穴4H(
図9参照)(基材保持部)が開口(形成)されている。詳しくは、各ワーク支持ブロック4には、左右方向に間隔をおいて2列の支持穴4H群が形成されており、各支持穴4H群は、前後方向に間隔をおいて配置される複数の支持穴4Hを含む。この際、複数の支持穴4Hの前後方向における間隔は均等に設定されている。この結果、複数のワーク支持ブロック4は、複数のワーク5が前記挿入方向に沿って間隔をおいて配置されるように複数のワーク5をそれぞれ支持する。
【0025】
なお、前述のテーブル31は、複数のワーク5が複数のフィラメント60に対向して配置されるように複数のワーク支持ブロック4が載置されることを許容する載置面を有する。そして、テーブル31は、チャンバ2の内部において複数のワーク支持ブロック4が所定の挿入方向(
図14の矢印DS参照)と交差するチャンバ幅方向(
図14の左右方向)において隣接して配置されるように複数のワーク支持ブロック4を支持する。特に、本実施形態では、テーブル31は、載置面を有する本体部31Hと、規制部31T(立壁)と、一対の側壁31Rと、を有する。規制部31Tは、テーブル31の載置面に載置された複数のワーク支持ブロック4の前記挿入方向先端側に当接することで複数のワーク支持ブロック4を前記挿入方向において拘束する。また、一対の側壁31Rは、テーブル31の載置面に載置された複数のワーク支持ブロック4のうち左右方向の両端部に位置する一対のワーク支持ブロック4の側面にそれぞれ当接する。そして、一対の側壁31Rの左右方向における間隔は、複数のワーク支持ブロック4を左右方向において互いに当接させ、複数のワーク支持ブロック4を左右方向において拘束するように設定されている。
【0026】
フィラメント電極ユニット6は、
図2、
図3に示すように、チャンバ2の内部において、ステージ3(複数のワーク5)の上方に配置される。フィラメント電極ユニット6は、複数のフィラメント60を有する(
図4)。なお、フィラメント電極ユニット6の構造については、後記で更に詳述する。
【0027】
固定電極71および可動電極72は、チャンバ2の内部にそれぞれ配置される。
図2、
図4に示すように、固定電極71および可動電極72は、前後方向に延びるように配置されている。固定電極71は、複数のフィラメント60の左端部(第1方向の一端部)に電気的に接続される。一方、可動電極72は、複数のフィラメント60の右端部(第1方向の他端部)に電気的に接続される。固定電極71および可動電極72は、後記の加熱電源81に電気的に接続されている。加熱電源81の電力を受けて固定電極71および可動電極72は、複数のフィラメント60の左端部と右端部との間に所定の電流を流す。この結果、複数のフィラメント60が加熱される。
【0028】
左支持部73および右支持部74は、それぞれ、固定電極71および可動電極72を支持する。また、左支持部73および右支持部74は、加熱電源81とフィラメント電極ユニット6とを電気的に接続する。このため、左支持部73および右支持部74の内部には、不図示の電気配線が配設されている。左支持部73は、チャンバ2の外部に露出した左外側支持部731と、チャンバ2の内部に位置する左内側支持部732と、を有する(
図3)。同様に、右支持部74は、チャンバ2の外部に露出した右外側支持部741と、チャンバ2の内部に位置する右内側支持部742と、を有する。本実施形態では、右支持部74の右内側支持部742は、伸縮可能なシリンダ構造を備えている。右内側支持部742は、後記の電極駆動部82(
図5)が発生する駆動力を受けて、チャンバ2の内部で伸縮する。この結果、可動電極72がチャンバ2の内部において左右方向に移動可能とされる(
図4の矢印DR参照)。
【0029】
なお、
図3、
図4に示すように、チャンバ2の右側壁23および左側壁25には、それぞれ左支持部73および右支持部74が貫通する貫通孔23H、25Hが開口されている。これらの貫通孔と各支持部との隙間は、不図示のシール材によって封止されている。
図5は、本実施形態に係る熱フィラメントCVD装置1の電気的なブロック図である。熱フィラメントCVD装置1は、更に、制御部80を備える。制御部80は、熱フィラメントCVD装置1の動作を統括的に制御するもので、制御信号の送受先として、加熱電源81、電極駆動部82、ステージ駆動部83(移動機構)、操作部84および表示部85などに電気的に接続されている。なお、制御部80は、熱フィラメントCVD装置1に備えられたその他のユニットにも電気的に接続されている。なお、熱フィラメントCVD装置1は、ガス流量の制御部なども備えている(不図示)。
【0030】
加熱電源81は、固定電極71および可動電極72に所定の電流を流すことで、複数のフィラメント60を約2000℃から2500℃に加熱する。加熱電源81には、安定した直流特性を備えた高周波パルス電源が用いられることが望ましい。
【0031】
電極駆動部82は、不図示のモータおよびギア機構を備える。電極駆動部82は、チャンバ2の内部で可動電極72を移動させる駆動力を発生する。電極駆動部82は、右支持部74に連結されている。
【0032】
ステージ駆動部83は、不図示のモータおよびギア機構を備える。ステージ駆動部83は、チャンバ2の内部でステージ3を上下移動させる駆動力を発生する。ステージ駆動部83は、4本の脚部21に連結されている。
【0033】
操作部84は、不図示の操作パネルからなり、熱フィラメントCVD装置1を制御するための各種操作を受け付ける。
【0034】
表示部85は、不図示の液晶パネルからなり、熱フィラメントCVD装置1の各種動作情報などを表示する。
【0035】
制御部80は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成され、CPUが前記制御プログラムを実行することにより、電源制御部801、駆動制御部802、演算部803、判定部804、記憶部805および出力部806を機能的に有するように動作する。
【0036】
電源制御部801は、操作部84に入力された操作情報に応じて加熱電源81を制御する。電源制御部801は、加熱電源81の出力(kW)、加熱時間などを制御する。
【0037】
駆動制御部802は、操作部84に入力された操作情報に応じて電極駆動部82を制御し、可動電極72を左右に移動させる。また、駆動制御部802は、操作部84に入力された操作情報に応じてステージ駆動部83を制御し、ステージ3を上下に移動させる。
【0038】
演算部803は、フィラメント60の加熱時間に応じて、フィラメント60の熱膨張量を演算する。また、演算部803は、当該熱膨張量に基づいて可動電極72の移動設定量を演算する。
【0039】
判定部804は、加熱電源81の電流値の変化に基づいて、フィラメント60の断線を判定する。判定部804によってフィラメント60が断線したと判定されると、断線情報が表示部85に表示される。
【0040】
記憶部805は、熱フィラメントCVD装置1を制御するための各種パラメータ、閾値情報などを格納している。一例として、記憶部805は、演算部803がフィラメント60の熱膨張量を演算するためのパラメータを格納している。
【0041】
出力部806は、電源制御部801および駆動制御部802による加熱電源81および電極駆動部82の制御に応じて、各種の指令信号を出力する。
【0042】
<フィラメント電極ユニットの構造について>
次に、本実施形態に係る複数のフィラメントカートリッジの構造について、更に詳述する。
図6および
図7は、本実施形態に係る複数のカートリッジを含むフィラメント電極ユニット6の斜視図である。
図8は、フィラメント電極ユニット6の連結部材63の断面図である。
【0043】
本実施形態では、フィラメント電極ユニット6は、第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6C(複数のフィラメントカートリッジ)を有する。なお、第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cは、同じ構造を備えている。各カートリッジは、前記扉部が開放された状態で、開口部2H(
図1)を通じてチャンバ2の内部に装着可能とされる。以下では、第1カートリッジ6Aを例にして、その構造について説明する。第1カートリッジ6Aは、複数のフィラメント60と、左枠部61(フィラメント保持機構)と、右枠部62(フィラメント保持機構)と、一対の連結部材63と、を有する。なお、各カートリッジは、左右反転させてもチャンバ2内に装着することができる。
【0044】
複数のフィラメント60(
図4)は、それぞれ左右方向(第1方向)に延びるとともに前後方向(第1方向と交差する第2方向)に互いに間隔をおいて配置される。フィラメント60には、その線径が0.05〜1.0mmのタングステン又はタンタル等の高融点金属のワイヤが用いられる。なお、各フィラメントカートリッジには、それぞれ20本のフィラメント60が配設される。
【0045】
左枠部61は、前後方向に延びる部材であって複数のフィラメント60の左端部をそれぞれ支持する。左枠部61は、左枠前端部611と、左枠後端部612と、複数のフィラメント係止部613と、を有する。左枠前端部611は、左枠部61の前端部に配置され、前側の連結部材63の左端部を支持する。左枠後端部612は、左枠部61の後端部に配置され、後側の連結部材63の左端部を支持する。複数のフィラメント係止部613は、フィラメント60の左端部をそれぞれ係止する(
図13参照)。なお、左枠部61が固定電極71に支持されると、フィラメント係止部613を通じて、フィラメント60の左端部と加熱電源81とが導通する。
【0046】
同様に、右枠部62は、前後方向に延びる部材であって複数のフィラメント60の右端部をそれぞれ支持する。右枠部62は、右枠前端部621と、右枠後端部622と、複数のフィラメント係止部(不図示、上記のフィラメント係止部613と同様)と、を有する。右枠前端部621は、右枠部62の前端部に配置され、前側の連結部材63の右端部を支持する。右枠後端部622は、右枠部62の後端部に配置され、後側の連結部材63の右端部を支持する。複数のフィラメント係止部は、フィラメント60の右端部をそれぞれ係止する。なお、右枠部62が可動電極72に支持されると、フィラメント係止部を通じて、フィラメント60の右端部と加熱電源81とが導通する。
【0047】
一対の連結部材63は、左枠部61および右枠部62の前後方向における両端部をそれぞれ左右方向に沿って連結する。
図7および
図8を参照して、連結部材63は、金属製の第1支持ロッド631および第2支持ロッド632と、絶縁ブッシュ633と、を有する。また、第1支持ロッド631は、小径部631Aと、大径部631Bと、を含む。第2支持ロッド632は、先端部632Aを含む。第1支持ロッド631の大径部631Bには、
図8に示すように、円筒状の空洞部が形成されている。絶縁ブッシュ633は、円筒形状を有しており、大径部631Bの空洞部に予め嵌め込まれている。
図8に示すように、第2支持ロッド632の先端部632Aが、第1支持ロッド631内の絶縁ブッシュ633に挿入されている。なお、絶縁ブッシュ633は、セラミックなどの絶縁材料から構成されており、第1支持ロッド631と第2支持ロッド632との間での放電を阻止する。また、絶縁ブッシュ633は、金属製の先端部632Aに対する摺動性が高いため、連結部材63の伸縮動作に伴って電極駆動部82に係る駆動負荷を低減することができる。前述のように、電極駆動部82が発生する駆動力によって、可動電極72が左右に移動すると、可動電極72に接続された右枠部62および前後一対の第2支持ロッド632が可動電極72に追従して移動する。この際、絶縁ブッシュ633の内部で第2支持ロッド632の先端部632Aがスライド移動する。このように、本実施形態では、第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cが、複数のフィラメント60を平行に保持するとともに、フィラメント60が延びる方向に連結部材63が伸縮可能とされている。なお、第1支持ロッド631の大径部631Bおよび第2支持ロッド632の先端部632Aは、本発明の伸縮部63H(
図8)を構成する。伸縮部63Hは、電極駆動部82の駆動力を右支持部74から受けることで、左枠部61と右枠部62との距離の変化を許容するように伸縮する。
【0048】
<保持部について>
図9は、本実施形態に係る熱フィラメントCVD装置1の内部構造を示す正面図であって、フィラメント電極ユニット6が脱離された状態の正面図である。
図10は、フィラメント電極ユニット6の各カートリッジが固定電極71および可動電極72に装着される様子を示す斜視図である。
図11は、フィラメント電極ユニット6の各カートリッジが固定電極71および可動電極72に保持された状態の斜視図である。更に、
図12は、熱フィラメントCVD装置1の固定電極71の断面図であり、
図13は、固定電極71にフィラメント電極ユニット6の各カートリッジが保持された状態の断面図である。
【0049】
本実施形態では、固定電極71および可動電極72がフィラメント電極ユニット6を保持する保持部を有している。なお、固定電極71および可動電極72は、左右対称の形状を備えているため、以下では固定電極71を例に説明する。固定電極71は、
図12に示すように、右側に開放された断面コの字形状を有する。換言すれば、固定電極71は、係合凹部71H(保持部)を有する。係合凹部71Hは、固定電極71の前後方向全域に亘って形成されている。係合凹部71Hの上端部には、電極上側係合部71Jが形成されており、係合凹部71Hの下端部には、電極下側係合部71Kが形成されている。電極上側係合部71Jの断面は、三角形状を有し、上側傾斜部71J1および上内側部71J2によって画定されている。同様に、電極下側係合部71Kの断面は、三角形状を有し、下側傾斜部71K1および下内側部71K2によって画定されている。なお、
図12に示すように、上側傾斜部71J1と下側傾斜部71K1は互いに平行とされ、係合凹部71Hの内部に向かって(左方向に向かって)先下がりに傾斜している。また、固定電極71および可動電極72は、本発明のフィラメント保持機構の一部を構成する。
【0050】
一方、
図13を参照して、第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cの左枠部61は、固定電極71の係合凹部71Hに嵌合可能な形状を有している。すなわち、左枠部61は、左上端部に形成された上凸部61Aと、左下端部に形成された下凸部61Bと、を有する。下凹部61Bの右側には下凹部61Cが形成されている。上凸部61Aおよび下凹部61Bは、それぞれ、上側傾斜部71J1および下側傾斜部71K1に当接する傾斜面を有している(
図13)。
【0051】
図7に示すように、第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cが予め上下に重なるように組み合わされ、フィラメント電極ユニット6が一体的に固定電極71および可動電極72に装着される場合について説明する。
図13に示すように、第1カートリッジ6Aの上凸部61Aが第2カートリッジ6Bの下凹部61Cに嵌まり込むとともに、第2カートリッジ6Bの上凸部61Aが第3カートリッジ6Cの下凹部61Cに嵌まり込むことで、3つのカートリッジが互いに連結される。なお、可動電極72および右枠部62側も同様である。そして、フィラメント電極ユニット6のうち最も下方に位置する第1カートリッジ6Aの下凸部61Bが、固定電極71の電極下側係合部71K(
図12)に嵌合しながら、第1カートリッジ6Aが、固定電極71に沿ってチャンバ2内に挿入される。この際、第1カートリッジ6Aの右枠部62も、同様の構造によって、可動電極72に沿ってチャンバ内に挿入される。一方、フィラメント電極ユニット6のうち最も上方に位置する第3カートリッジ6Cの上凸部61Aは、固定電極71の電極上側係合部71J(
図12)に嵌合しながら、第3カートリッジ6Cが、固定電極71に沿ってチャンバ2内に挿入される。この際、第3カートリッジ6Cの右枠部62も、同様の構造によって、可動電極72に沿ってチャンバ内に挿入される。なお、フィラメント電極ユニット6の第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cは、
図6、
図10に示すように、下から順にチャンバ2内に挿入されてもよい。
【0052】
このように、本実施形態では、固定電極71および可動電極72が、開口部2Hを通じて前後方向と平行な装着方向(
図10の矢印DS)に沿ってチャンバ2の内部空間に挿入される第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cをガイドする形状を有する。また、固定電極71および可動電極72は、複数のフィラメント60が複数のワーク5に対して上下方向(第1方向および第2方向を含む平面と交差する第3方向)において対向するように各カートリッジの左枠部61および右枠部62を保持する(
図3、
図4)。そして、チャンバ2内に装着された第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cの複数のフィラメント60は、上下方向において互いに間隔をおいて配置される。この結果、左右方向において隣接するフィラメント60同士の間には、上下方向において第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cを貫くような空間が形成される。当該空間には、被覆処理時に、後記のようにワーク支持ブロック4に支持されたワーク5が挿入される。
【0053】
図14は、本実施形態に係る熱フィラメントCVD装置1の内部構造を示す斜視図であって、ワーク支持ブロック4がステージ3に装着される様子を示す斜視図である。また、
図15は、熱フィラメントCVD装置1の内部構造を示す平面図であって、ワーク支持ブロック4がステージ3に装着される様子を示す平面図である。前述のように、ステージ3は、テーブル31を備える。テーブル31には、凹状の固定部31Sが形成されている(
図3)。固定部31Sの左右方向における幅は、複数(10個)のワーク支持ブロック4の左右方向の幅の和に僅かな隙間嵌め公差を含めた長さに相当する。ワーク5がドリル刃である場合、重量が大きいため多くのワーク5を一度にテーブル31上に載置することが難しい。本実施形態では、
図14および
図15に示すように、複数のワーク支持ブロック4が前後方向に延びる直方体形状からなるため、テーブル31全体に分布する複数のワーク5(
図15)をテーブル31上に分割して載置することができる。また、凹状の固定部31Sは、複数のワーク支持ブロック4を左右方向において位置決めする機能を有している。更に、テーブル31は、固定部31Sの後端部に配置された規制部31T(
図4、
図14)(立壁)を有する。規制部31Tは、左右方向に延びる壁部であり、複数のワーク支持ブロック4に当接することで、ワーク支持ブロック4の後端位置を規制する。この結果、複数のワーク支持ブロック4上に支持される複数のワーク5の前後および左右方向における位置が規制される。換言すれば、各ワーク支持ブロック4に形成された複数の支持穴4H(
図9)は、上下方向(第3方向)から見て、固定電極71および可動電極72に保持されたフィラメント電極ユニット6の各カートリッジの複数のフィラメント60同士の間に複数のワーク5をそれぞれ配置させるように、ワーク支持ブロック4上に開口されている。そして、テーブル31の固定部31Sは、複数のフィラメント60同士の間に複数のワーク5をそれぞれ配置させるように、ワーク支持ブロック4の位置を規制する。
【0054】
図16は、本実施形態に係る熱フィラメントCVD装置1の内部構造を示す正面図であって、テーブル31(ステージ3)が上昇する様子を示す正面図である。
図17は、熱フィラメントCVD装置1の内部構造を示す斜視図であって、テーブル31が上昇した状態を示す斜視図である。更に、
図18は、熱フィラメントCVD装置1の内部構造を示す正面図であって、テーブル31が上昇した状態を示す正面図である。
【0055】
複数のワーク5に対する被覆処理の準備として、前述のように、固定電極71および可動電極72にフィラメント電極ユニット6が装着されるとともに、複数のワーク5を支持した複数のワーク支持ブロック4がそれぞれテーブル31に装着される。そして、不図示の扉部が閉止されると、真空ポンプによってチャンバ2内が略真空状態とされるとともに、混合ガスが導入される。作業者が操作部84(
図5)を操作するとステージ駆動部83がステージ3を上方に移動させる(
図16、
図17の矢印DT)。この結果、前後方向および左右方向を含む平面内において、複数のワーク5が複数のフィラメント60同士の間にそれぞれ位置する。なお、本実施形態では、
図18に示すように、第3カートリッジ6Cのフィラメント60と第2カートリッジ6Bのフィラメント60との間に、ワーク5の先端が位置するように、ステージ3の上方移動が制御される。
【0056】
次に、作業者による操作に応じて、電源制御部801が加熱電源81を制御し、固定電極71および可動電極72に電流が流入すると、複数のフィラメント60の加熱が開始される。この際、各フィラメント60は加熱とともに熱膨張する。本実施形態では、前述のように、電極駆動部82が可動電極72を左右方向(フィラメント60の延び方向)に移動させることが可能である。演算部803は、式1から、フィラメント60の熱膨張量ΔL(mm)を演算する。
ΔL=α×(T2−T1)×L ・・・(式1)
なお、式1において、αは材料ごとの熱膨張係数であり、T1は室温(℃)、T2は放射温度計で測定するフィラメント60の温度であり、L(mm)はフィラメント60の元の長さである。
【0057】
そして、駆動制御部802は、電極駆動部82を制御して、演算部803によって演算された熱膨張量分だけ可動電極72を右方(フィラメント60を引っ張る方向)に移動させる。この際、本実施形態では、フィラメント60の熱膨張量分だけ可動電極72が移動されるため、フィラメント60に余分な張力が付与されることがない。この結果、各フィラメント60の熱膨張に伴って、フィラメント60の中央部が下方に垂れること(変形)が抑止される。このような可動電極72の移動制御(フィラメント60の姿勢制御)は、フィラメント60の温度が上昇する加熱初期段階で主に実行される。なお、ワーク5に対する被覆処理時間の全体に亘って、このような制御が継続されてもよい。
【0058】
やがて、各フィラメント60が、加熱電源81の入力電力に応じた所定の加熱温度に至ると、チャンバ2内において、フィラメント60が原料ガスを加熱し、グラファイトおよび他の非ダイヤモンド炭素が、原子状水素と反応し蒸発する。ここで、原子状水素は、反応性の高い炭素−水素種を形成するために、元の炭化水素ガス(メタン)と反応する。この種が分解するときに、水素が放出され、純粋な炭素すなわちダイヤモンドが形成され、ワーク5にダイヤモンド膜が形成される。
【0059】
このように、本実施形態では、被覆処理に際して、フィラメント60の中央部が下方に垂れることが抑止されるため、フィラメント60の長手方向(左右方向)においてフィラメント60とワーク5との距離が変動することが抑止される。このため、テーブル31上の位置に応じて、ワーク5の成膜速度が変動することや成膜結果(膜厚、均一性)にばらつきが生じることが抑止される。なお、本実施形態のように、チャンバ2内で上下および前後方向に複数のフィラメント60が隣接して配置される場合、従来のような放射温度計を用いてフィラメント60の温度を直接測定すると、測定精度が低くなりやすい。また、フィラメント60の径が小さいため、放射される赤外線、電磁波の計測が困難であるとともに、測定設備が高額となる。一方、本実施形態では、加熱電源81の出力電力に応じて、フィラメント60の熱膨張量が演算されるとともに、当該熱膨張量に応じて可動電極72が移動される。したがって、フィラメント60の温度が直接測定される場合と比較して、制御バラつきが抑制され、フィラメント60の姿勢が安定して保持されるとともに、ワーク5に対する被覆品質が向上する。
【0060】
以上のように、本実施形態では、複数のフィラメント60を支持するフィラメントカートリッジ6A、6Bおよび6Cが、開口部2Hを通じてチャンバ2の内部に挿入される。この際、固定電極71および可動電極72が各フィラメントカートリッジをガイドするため、フィラメントカートリッジをチャンバ2内に容易に挿入することができる。また、固定電極71および可動電極72は、複数のフィラメント60が複数のワーク5に対向するようにチャンバ2内において各フィラメントカートリッジを保持する。このため、複数のフィラメント60をチャンバ2の内部における被覆処理位置に容易に配設することができる。また、複数のフィラメント60の一部が破断した場合には、フィラメントカートリッジを交換することで、破断したフィラメント60を容易に取り除くことができる。
【0061】
また、本実施形態では、チャンバ2の内部に対して複数のフィラメントカートリッジを容易に着脱することができる。また、複数のフィラメントカートリッジのフィラメント60が上下方向に間隔をおいて配置されるため、前後方向において隣接するフィラメント60間にワーク5を挿入可能な被覆処理空間を形成することができる。
【0062】
また、本実施形態では、被覆処理中に複数のフィラメント60が熱膨張した場合であっても、電極駆動部82によって左枠部61と右枠部62との距離を変化させることで、複数のフィラメント60の垂れ、変形を抑止することができる。また、フィラメントカートリッジの一対の連結部材63がそれぞれ伸縮部63Hを有しているため、複数のフィラメント60のカートリッジ構造を維持しながら、熱膨張による上記の変形を抑止することが可能となる。
【0063】
また、本実施形態では、複数のワーク5をそれぞれ支持する複数のワーク支持ブロック4が、開口部2Hを通じてチャンバ2の内部に挿入可能とされる。この際、作業者は、複数のワーク支持ブロック4を、テーブル31の載置面上を滑らせながら所定の挿入方向に沿って挿入することができる。このため、ワーク5が重量物であっても、複数のワーク5を、チャンバ2の内部において複数のフィラメント60に対向する被覆処理位置に容易に配置することができる。また、載置面に載置された複数のワーク支持ブロック4は、左右方向(チャンバ幅方向)において隣接して配置される。このため、複数のワーク5をチャンバ2の内部に密に配置することができる。
【0064】
また、本実施形態では、複数のワーク支持ブロック4の先端部がそれぞれ規制部31Tに当接することで、複数のワーク支持ブロック4、更には、各ワーク支持ブロック4上に支持された複数のワーク5の挿入方向における位置が規制される。また、複数のワーク支持ブロック4が順に挿入される場合には、先に挿入されたワーク支持ブロック4が後から挿入される隣接するワーク支持ブロック4をガイドすることができる。また、すべてのワーク支持ブロック4が挿入されると、複数のワーク支持ブロック4、更には、各ワーク支持ブロック4上に支持された複数のワーク5のチャンバ幅方向における位置が規制される。この結果、各ワーク5の位置が規制され、ワーク5に対する被覆処理が安定して実行可能とされる。
【0065】
また、本実施形態によれば、チャンバ2の内部において、複数のフィラメント60が前記挿入方向と平行な第1方向にそれぞれ延びるとともに前記第1方向と交差する第2方向において互いに間隔をおいて配置され、更に前記第1方向および前記第2方向を含む平面と交差する第3方向において複数のワーク5に対向するように、複数のフィラメント60を保持するフィラメント保持機構が備えられている。なお、チャンバ2の内部において、複数のフィラメント60が前記挿入方向と交差する第1方向にそれぞれ延びるとともに、前記挿入方向と平行な第2方向において互いに間隔をおいて配置され、更に前記第1方向および前記第2方向を含む平面と交差する第3方向において複数のワーク5に対向するように、複数のフィラメント60を保持する他のフィラメント保持機構が備えられてもよい。これらの構成によれば、複数のフィラメント60を含む平面が上下方向(第3方向)において複数のワーク5に対向して配置される。このため広い範囲において複数のワーク5に対して被覆処理を施すことが可能となる。
【0066】
更に、本実施形態では、ワーク支持ブロック4の複数の支持穴4Hにワーク5がそれぞれ挿入されるとともに、ワーク支持ブロック4がステージ3のテーブル31に保持されることで、複数のフィラメント60に対する複数のワーク5の被覆処理位置を合わせることができる。
【0067】
また、本実施形態では、ステージ駆動部83がテーブル31を含むステージ3を上下方向に移動させることで、複数のワーク5を複数のフィラメント60に近接した位置に保持する被覆処理位置と、複数のワーク5を被覆処理位置よりも複数のフィラメント60から下方向に離間した位置に保持する離間位置との間で、テーブル31を移動させることができる。
【0068】
以上、本発明の一実施形態に係る熱フィラメントCVD装置1について説明したが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明に係る熱フィラメントCVD装置として、以下のような変形実施形態が可能である。
【0069】
(1)上記の実施形態では、複数のフィラメント60が延びる方向(左右方向)と交差(直交)する前後方向(
図10の矢印DS)に沿って、第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cがチャンバ2内に挿入される態様にて説明したが、各カートリッジは複数のフィラメント60が延びる方向に沿ってチャンバ2内に挿入される態様でもよい。この場合、チャンバ2内において、複数のフィラメント60は前後方向に沿って延びる。当該方向は、複数のワーク支持ブロック4が挿入される方向と平行である。またこの場合、
図10の固定電極71および可動電極72がチャンバ2の前側および後側にそれぞれ配置されればよい。また、カートリッジの着脱時には前側に配置される電極が下方または上方に待避し、カートリッジの着脱を妨げないように配置されることが望ましい。また、チャンバ2のテーブル31、各フィラメントカートリッジは、鉛直方向に沿って配置される態様でもよい。すなわち、
図1における熱フィラメントCVD装置1が水平な軸回りに90度回転された構造が採用されてもよい。更に、第1カートリッジ6A、第2カートリッジ6Bおよび第3カートリッジ6Cにおけるフィラメント60の長手方向とワーク支持ブロック4の長手方向とは互いに交差(直交)するように配置されてもよい。
【0070】
(2)また、上記の実施形態では、固定電極71および可動電極72が本発明の保持部を構成する態様にて説明したが、複数のフィラメント60に電圧を印加する電極構造は他の態様でもよい。この場合、上記の実施形態と同様の係合凹部71Hをそれぞれ備える一対の保持部がチャンバ2内に備えられるとともに、当該保持部とは別の経路からフィラメント60に電圧が印加されてもよい。
【0071】
(3)また、上記の実施形態では、フィラメント60の熱膨張に応じて電極駆動部82が可動電極72を移動させる態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。熱フィラメントCVD装置1は、電極(保持部)を移動させる機構を備えることなく、フィラメント電極ユニット6のカートリッジ構造のみを備えるものでもよい。また、ワーク支持ブロック4は、複数のブロックに分割されることなく、テーブル31上に載置される1つのブロックからなるものでもよい。
【0072】
(4)また、上記の実施形態では、複数のフィラメント60の熱膨張に応じて可動電極72が移動される際に、式1を用いて可動電極72の移動量が演算される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。加熱電源81の出力およびフィラメント60の加熱時間(電圧印加時間)に応じたフィラメント60の熱膨張量が予め実験によって測定され(実験データ)、記憶部805に格納される態様でもよい。この場合、駆動制御部802(
図5)が、実際の被覆処理中の加熱電源81の出力および加熱時間から、対応する熱膨張量を記憶部805から参照し、当該熱膨張量にあわせて可動電極72を移動させてもよい。また、上記の式1および実験データが組み合わされることで、式1によって導出される熱膨張量が実験データによって補正され、フィラメント60の熱膨張に対してより高い精度を備えた可動電極72の移動制御が行われてもよい。