【文献】
Neoplasia, 2013 Mar, vol. 15, no. 3, pp. 335-347 (Supplementary Materials pp.1-2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
HER3の発現に関連するガン又は腫瘍細胞が、扁平上皮細胞ガン、小細胞肺ガン、非小細胞肺ガン、胃ガン、膵臓ガン、膠細胞腫瘍、例えば膠芽細胞腫及び神経線維腫症、子宮頸ガン、卵巣ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、ヘパトーマ、乳ガン、結腸ガン、メラノーマ、結腸直腸ガン、子宮内膜ガン、唾液腺ガン、腎臓ガン、腎ガン、前立腺ガン、外陰ガン、甲状腺ガン、肝ガン及び頭頸部ガンの中から選択される、請求項13〜17のいずれか一項に記載の使用のための抗体及び/又はイムノコンジュゲート。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、抗ヒトHER3抗体であって、
−配列番号:2に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するH−CDR1;
−配列番号:3に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するH−CDR2;
−配列番号:4に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するH−CDR3;
−配列番号:6に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するL−CDR1;
−配列番号:7に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するL−CDR2;及び
−配列番号:8に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するL−CDR3
からなる群より選択されるCDRの少なくとも1つを含み、
ヒト定常領域を有し;並びに
抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の65%未満がフコース分子を含む抗ヒトHER3抗体を開示する。
【0017】
特に、本発明は、ニューレグリン非競合アロステリック抗ヒトHER3抗体であって、
−配列番号:2に記載されている配列を有するH−CDR1;
−配列番号:3に記載されている配列を有するH−CDR2;
−配列番号:4に記載されている配列を有するH−CDR3;
−配列番号:6に記載されている配列を有するL−CDR1;
−配列番号:7に記載されている配列を有するL−CDR2;及び
−配列番号:8に記載されている配列を有するL−CDR3
からなる群より選択されるCDRの少なくとも1つを含み、
ヒト定常領域を有し;並びに
抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の65%未満がフコース分子を含むニューレグリン非競合アロステリック抗ヒトHER3抗体を開示する。
【0018】
本発明はまた、ニューレグリン非競合アロステリック抗ヒトHER3抗体であって、
(a)可変ドメインが、
配列番号:2に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するH−CDR1;
配列番号:3に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するH−CDR2;及び
配列番号:4に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有するH−CDR3
を含む重鎖
並びに
(b)可変ドメインが少なくとも、
L−CDR1として配列番号:6に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列;
L−CDR2として配列番号:7に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列;及び
L−CDR3として配列番号:8に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列
からなる群より選択される配列を有するCDRを含む軽鎖
を含み、
ヒト定常領域を有し;並びに
抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の65%未満がフコース分子を含むニューレグリン非競合アロステリック抗ヒトHER3抗体を開示する。
【0019】
したがって、本発明の第1の目的は、ニューレグリン非競合アロステリック抗ヒトHER3抗体であって、
(a)可変ドメインが、
−配列番号:2に記載されている配列を有するH−CDR1;
−配列番号:3に記載されている配列を有するH−CDR2;及び
−配列番号:4に記載されている配列を有するH−CDR3
を含む重鎖
並びに
(b)可変ドメインが少なくとも、
−配列番号:6に記載されている配列を有するL−CDR1;
−配列番号:7に記載されている配列を有するL−CDR2;及び
−配列番号:8に記載されている配列を有するL−CDR3
からなる群より選択されるCDRを含む軽鎖
を含み、
ヒト定常領域を有し;並びに
抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の65%未満がフコース分子を含むニューレグリン非競合アロステリック抗ヒトHER3抗体である。
【0020】
一実施態様によれば、本発明の抗体は、L−CDR1として配列番号:6に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列、L−CDR2として配列番号:7に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列、及びL−CDR3として配列番号:8に記載されている配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0021】
特に、本発明の抗体は、配列番号:6に記載されている配列を有するL−CDR1、配列番号:7に記載されている配列を有するL−CDR2、及び配列番号:8に記載されている配列を有するL−CDR3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0022】
さらなる実施態様によれば、本発明の抗体の重鎖可変領域は、配列番号:1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも90%若しくは95%の同一性を有する配列を有し、及び/又は軽鎖可変領域は、配列番号:5に記載されているアミノ酸配列と少なくとも90%若しくは95%の同一性を有する配列を有する。
【0023】
特に、配列番号:1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列を有する本発明の抗体の重鎖可変領域は、
配列番号:2に記載されている配列を有するH−CDR1;
配列番号:3に記載されている配列を有するH−CDR2;及び
配列番号:4に記載されている配列を有するH−CDR3
を有する。
【0024】
特に、配列番号:5に記載されているアミノ酸配列と少なくとも90%又は95%の同一性を有する配列を有する軽鎖可変領域は、
配列番号:6に記載されている配列を有するL−CDR1;
配列番号:7に記載されている配列を有するL−CDR2;及び
配列番号:8に記載されている配列を有するL−CDR3
を有する。
【0025】
好ましくは、前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号:1に記載されているアミノ酸配列を有し、及び/又は軽鎖可変領域は、配列番号:5に記載されているアミノ酸配列を有する。より好ましくは、前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号:1に記載されているアミノ酸配列を有し、及び軽鎖可変領域は、配列番号:5に記載されているアミノ酸配列を有する。
【0026】
別の実施態様によれば、本発明の抗体の重鎖は、配列番号:9に記載されているアミノ酸配列と少なくとも90%若しくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、及び/又は前記抗体の軽鎖は、配列番号:10に記載されているアミノ酸配列と少なくとも90%若しくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0027】
好ましくは、前記抗体の重鎖は、配列番号:9に記載されているアミノ酸配列を有し、及び/又は前記抗体の軽鎖は、配列番号:10に記載されているアミノ酸配列を有する。より好ましくは、前記抗体の重鎖は、配列番号:9に記載されているアミノ酸配列を有し、及び前記抗体の軽鎖は、配列番号:10に記載されているアミノ酸配列を有する。
【0028】
さらなる実施態様によれば、本発明の抗体は、抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、特に20%未満がフコース分子を含むようなものである。
【0029】
特定の実施態様によれば、本発明の抗体は、キメラ抗体、好ましくはキメラマウス/ヒト抗体、好ましくはヒト化抗体である。
【0030】
本発明の第2の目的は、少なくとも本発明のモノクローナル抗体の重鎖又は軽鎖をコードし、好ましくは本発明の抗体をコードする核酸配列に関する。
【0031】
本発明の第3の目的は、本発明の核酸を含むベクターに関する。
【0032】
本発明の第4の目的は、本発明の核酸又は本発明のベクターを含む宿主細胞に関する。
【0033】
本発明の第5の目的は、少なくとも本発明の抗体と、薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物に関する。
【0034】
本発明の第6の目的は、治療剤に連結された本発明の抗体を含むイムノコンジュゲートに関する。
【0035】
本発明の第7の目的は、少なくとも本発明のイムノコンジュゲートと、薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物に関する。
【0036】
本発明の第8の目的は、薬物として使用するための、本発明の抗体及び/又はイムノコンジュゲートに関する。
【0037】
本発明の第9の目的は、HER3の発現に関連するガンであって、ニューレグリン、特にニューレグリン1βが対象中に存在するガンの処置において使用するための、本発明の抗体及び/又はイムノコンジュゲートに関する。
【0038】
本発明の第10の目的は、HER3の発現に関連する腫瘍細胞であって、ニューレグリン、特にニューレグリン1βが対象中に存在する腫瘍細胞の成長の阻害において使用するための、本発明の抗体及び/又はイムノコンジュゲートに関する。
【0039】
一実施態様によれば、存在するニューレグリンは、腫瘍によって、並びに/又は腫瘍周囲の組織及び/若しくは器官によって分泌される。特定の実施態様では、腫瘍は、ニューレグリン依存性、特にニューレグリン1β依存性である。
【0040】
本発明にしたがってNRG、例えばNRG1α又はNRG1βが存在するかを決定するために、免疫組織化学の周知の方法は、Gilmour et al. December 2002, Vol. 8, pp. 3933-3942に記載されているように適用され得る。
【0041】
別の実施態様によれば、ニューレグリン、特にニューレグリン1βは、抗体及び/又はイムノコンジュゲートの前、その後又はそれと同時に対象へのその投与により存在する。
【0042】
特定の実施態様では、本発明において検討されるHER3の発現に関連するガン又は腫瘍細胞は、扁平上皮細胞ガン、小細胞肺ガン、非小細胞肺ガン、胃ガン、膵臓ガン、膠細胞腫瘍、例えば膠芽細胞腫及び神経線維腫症、子宮頸ガン、卵巣ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、ヘパトーマ、乳ガン、結腸ガン、メラノーマ、結腸直腸ガン、子宮内膜ガン、唾液腺ガン、腎臓ガン、腎ガン、前立腺ガン、外陰ガン、甲状腺ガン、肝ガン及び頭頸部ガンの中から選択される。
【0043】
それらは、好ましくは、乳ガン、卵巣ガン、小細胞肺ガン、非小細胞肺ガン、メラノーマ、膵臓ガン及び結腸直腸ガン、の中から選択され、より具体的には、乳ガン、卵巣ガン及び膵臓ガンの中から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な説明
本発明者らは、Lazrek et al (2013)が以前にアッセイしたマウス抗体9F7−F11の相補性決定領域(CDR)を含むGMB301と称されるキメラ低フコース抗ヒトHER3抗体を作製したところ、このGMB301抗体は、抗ガン剤として予想外の特性を有する。
【0046】
本発明者らは、Lazrek et al (2013)が使用した9F7−F11抗体のCDRを有するキメラ抗体であって、低フコース含量を有するキメラ抗体が、特にNRG発現腫瘍に対する増加したin vivo抗腫瘍活性を有することを示した。
【0047】
したがって、本発明者らは、予想外のことに、特定のグリコシル化パターン、より正確には低フコース含量及びヒト定常ドメインを有する抗体が、同じCDR及び高フコース含量を有する親マウス抗体とは異なるように抗ガン剤として作用し得ることを見出した。
【0048】
驚くべきことに、本発明者らは、本明細書に記載される低フコース抗体が、同じCDR、マウス定常ドメイン及び高フコース含量を有する親抗体と比較して、特異的な腫瘍ターゲティング活性を有することを示した。
【0049】
本発明者らによって得られた結果は、予想とは対照的に、9F7−F11抗体のCDR、ヒト定常ドメイン及び低フコース含量を有する前記抗体が、NRGの非存在下では、腫瘍に対する増加した腫瘍活性を示さないという一層驚くべきものである。
【0050】
したがって、本発明者らは、予想外のことに、本明細書に記載される低フコースキメラ抗HER3抗体の増加したin vivo抗腫瘍活性が、増強したADCC又はADCP特性を介して媒介されるのではなく、未知かつ予想外の機構によって媒介されると思われることを見出した。
【0051】
本明細書に記載される低フコース含量を有する抗HER3キメラ抗体は、ニューレグリンの存在下で、特にHER3を発現する腫瘍集団に対する改善された抗腫瘍活性(これは、特にHER3及びニューレグリンの両方を発現する腫瘍集団(オートクリン分泌)、又はパラクリン経路を介して微小環境から非腫瘍細胞によって分泌されるニューレグリンによって刺激され得る腫瘍集団に対する改善された抗腫瘍活性を包含する)を有する。
【0052】
本明細書の実施例に開示されているように、本発明者らは、全く予想外のことに、
(i)ニューレグリンの非存在下では、GMB301で処置した腫瘍において、腫瘍成長に対する前記抗体の活性が9F7−F11のものと同様であること;及び
(ii)ニューレグリンの存在下では選択的に、検討した腫瘍部位において、GMB301の抗腫瘍活性が9F7−F11の抗腫瘍活性よりも有意に高いことを見出した。
【0053】
当業者であれば、公知の抗体の低フコース(emabling)バージョンは、野生型抗体よりも効率的に機能すると予想するであろう。しかしながら、本発明の実施例で実証されているように、これは今回の場合には当てはまらない。
【0054】
本明細書に記載される抗HER3キメラ低フコース抗体は、従来技術に記載されている抗HER3抗体に対して少なくとも以下の利点を提供するということである:
−それは、(そのアロステリック効果により)オートクリン又はパラクリンリガンド依存性腫瘍に対してより効率的である;
−それは、HER3リガンドのアップレギュレーションによって媒介される耐性が生じる場合により効率的である;
−それは、既存の治療用抗体が臨床的に有効ではない症状、例えばトリプルネガティブ乳ガン、膵臓ガン及び他の特定のガン(例えば、腎細胞ガン)を処置するために使用され得る。
【0055】
定義
「ニューレグリン」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、多くの場合、「ヘレグリン」という用語と互換的に使用される。ヘレグリンファミリーとしては、α、β及びγヘレグリン(Holmes et al., Science, 256: 1205-1210 (1992);米国特許第5,641,869号;及びSchaefer et al. Oncogene 15: 1385-1394 (1997));neu分化因子(NDF)、グリア細胞成長因子(GGF);アセチルコリンレセプター誘導活性(ARIA);並びに感覚及び運動ニューロン由来因子(SMDF)が挙げられる。総説については、Groenen et al. Growth Factors 11:235-257 (1994); Lemke, G. Molec. & Cell. Neurosci. 7:247-262 (1996)及びLee etal. Pharm. Rev. 47:51-85 (1995); Falls and D. (2003). “neuregulins: functions, forms, and signaling strategies.” Experimental Cell Research 284(1): 14-30を参照のこと。
【0056】
「HER3」という用語は、Plowman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:4905-4909 (1990)に記載されているヒトHER3レセプターを指す;Kani et al., Biochemistry 44: 15842-857 (2005), Cho and Leahy, Science 297: 1330- 1333 (2002)も参照のこと。HER3は、「HER3」としても公知である。
【0057】
「抗ヒトHER3抗体」という用語は、ヒトHER3に対する抗体を指す。
【0058】
本発明によれば、「抗体」又は「イムノグロブリン」という用語は、同一の意味を有し、本発明において同様に使用される。本明細書で使用される「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子、及びイムノグロブリン分子の免疫学的活性部分(すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子)を指す。したがって、抗体という用語は、抗体分子全体だけではなく、抗体の変異体(誘導体を含む)を包含する。天然抗体では、2本の重鎖がジスルフィド結合によって互いに連結しており、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に連結している。ラムダ(l)及びカッパ(k)という2種類の軽鎖がある。抗体分子の機能活性を決定する主要な5つの重鎖クラス(又はアイソタイプ):IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEがある。各鎖は、別個の配列ドメインを含有する。軽鎖は、2個のドメイン(可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL))を含む。重鎖は、4個のドメイン(可変ドメイン(VH)及び3個の定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3。CHと総称される))を含む。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の両方の可変領域は、抗原に対する結合認識及び特異性を決定する。軽鎖(CL)及び重鎖(CH)の定常領域ドメインは、重要な生物学的特性、例えば抗体鎖の会合、分泌、経胎盤移動性、補体結合、及びFcレセプター(FcR)に対する結合を付与する。Fvフラグメントは、免疫グロブリンのFabフラグメントのN末端部分であり、1本の軽鎖及び1本の重鎖の可変部分から構成される。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性にある。抗体結合部位は、超可変領域又は相補性決定領域(CDR)に主に由来する残基から構成される。時には、非超可変領域又はフレームワーク領域(FR)に由来する残基が全体的なドメイン構造、したがって結合部位に影響を与える。相補性決定領域又はCDRは、ネイティブな免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合親和性及び特異性を共に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖はそれぞれ、3個のCDR(それぞれL−CDR1、L−CDR2、L−CDR3及びH−CDR1、H−CDR2、H−CDR3と称される)を有する。したがって、抗原結合部位は、重鎖及び軽鎖V領域のそれぞれに由来するCDRセットを含む6個のCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に介在するアミノ酸配列を指す。
【0059】
「キメラ抗体」という用語は、ある種に由来する抗体のVHドメイン及びVLドメインと、別の種に由来する定常ドメインとを含む抗体、例えば、可変領域配列がマウス抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体を指す。
【0060】
本発明によれば、「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体由来の可変領域フレームワーク及び定常領域を有するが、本発明の抗体のマウスCDRを保持する抗体を指す。
【0061】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性及び親和性を示す。
【0062】
「処置」又は「治療」という用語は、症状(例えば、疾患)、症状の症候を治癒し、癒し、緩和し、軽減し、変更させ、修正し、改善し、向上させ若しくはそれに影響を与えるか、又は疾患の症候、合併症、生化学的兆候の発症を予防し若しくは遅延させるか、又は統計的に有意な様式で疾患、症候若しくは障害のさらなる進行を別様に停止若しくは阻害する目的で、活性剤を投与することを指す。
【0063】
本発明によれば、「患者」又は「それを必要とする患者」という用語は、ヒトHER3の発現に関連するガンに罹患しているか又は罹患する可能性があるヒト又は非ヒト哺乳動物を意図する。
【0064】
本発明の抗体の「治療有効量」は、任意の医薬的治療に適用可能な適切なベネフィット/リスク比において、前記ガンを処置するための抗体の十分な量を意味する。しかしながら、本発明の抗体及び組成物の1日当たりの総用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決められることが理解されよう。任意の特定の患者のための特定の治療有効用量レベルは、処置される障害及び障害の重症度、使用される特定の抗体の活性、使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、総合的な健康状態、性別及び食事、投与時間、投与経路、使用される特定の抗体の排出率、治療の期間、使用される特定の抗体と組み合わせで使用される又は同時に使用される薬物、並びに医学分野で周知の因子を含む様々な因子に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルの化合物の用量で開始すること、及び所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加することは当業者に周知である。
【0065】
本明細書で使用される場合、2つのアミノ酸配列間の同一性の割合は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE. Meyers and W. Miller (Comput. Appl. Biosci., 4:1 1-17, 1988)のアルゴリズムを使用し、PAM120ウェイト残基表、12のギャップレングスペナルティ及び4のギャップペナルティを使用して決定され得る。加えて、2つのアミノ酸配列間の同一性の割合は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comにおいて入手可能)のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunsch (J. MoI, Biol. 48:444-453, 1970)アルゴリズムを使用し、Blossom62マトリックス又はPAM250マトリックスのいずれか及び16、14、12、10、8、6又は4のギャップウェイト及び1、2、3、4、5又は6のレングスウェイトを使用して決定され得る。
【0066】
本発明の抗体
本発明は、好ましくは精製された形態で又は単離された形態で、ニューレグリン(NRG)非競合アロステリック抗HER3抗体を提供する。
【0067】
したがって、本発明は、抗ヒトHER3抗体であって、
(a)可変ドメインが、
−配列番号:2に記載されている配列を有するH−CDR1;
−配列番号:3に記載されている配列を有するH−CDR2;及び
−配列番号:4に記載されている配列を有するH−CDR3
を含む重鎖
並びに
(b)可変ドメインが少なくとも、L−CDR1として配列番号:6、L−CDR2として配列番号:7、及びL−CDR3として配列番号:8からなる群より選択される配列を有するCDRを含む軽鎖
を含み、
ヒト定常領域を有し;並びに
抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の65%未満がフコース分子を含む抗ヒトHER3抗体に関する。
【0068】
本出願における目的の配列は、以下の表1に示されている:
【表1】
【0069】
一実施態様によれば、本発明の抗体は、L−CDR1として配列番号:6、L−CDR2として配列番号:7、及びL−CDR3として配列番号:8を含む軽鎖可変領域を含む。
【0070】
さらなる実施態様によれば、本発明の抗体の重鎖可変領域は、配列番号:1に記載されているアミノ酸配列を有し、及び/又は軽鎖可変領域は、配列番号:5に記載されているアミノ酸配列を有する。好ましくは、前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号:1に記載されているアミノ酸配列を有し、及び軽鎖可変領域は、配列番号:5に記載されているアミノ酸配列を有する。
【0071】
別の実施態様によれば、本発明の抗体の重鎖は、配列番号:9に記載されているアミノ酸配列を有し、及び/又は前記抗体の軽鎖は、配列番号:10に記載されているアミノ酸配列を有する。好ましくは、前記抗体の重鎖は、配列番号:9に記載されているアミノ酸配列を有し、及び前記抗体の軽鎖は、配列番号:10に記載されているアミノ酸配列を有する。
【0072】
さらなる実施態様によれば、本発明の抗体は、抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、特に20%未満がフコース分子を含むようなものである。
【0073】
特定の実施態様によれば、本発明の抗体は、キメラ抗体、好ましくはキメラマウス/ヒト抗体、特にヒト化抗体である。
【0074】
本発明の抗体を生産する方法
本発明の抗ヒトHER3抗体は、当技術分野で公知の任意の技術、例えば限定されないが、任意の化学的技術、生物学的技術、遺伝的技術又は酵素学的技術(単独又は組み合わせのいずれか)によって生産され得る。
【0075】
所望の配列のアミノ酸配列を認識することによって、当業者であれば、標準的なポリペプチド生産技術によって前記抗体を容易に生産し得る。例えば、それらは、周知の固相法を使用して、好ましくは商業的に入手可能なペプチド合成装置(例えば、Applied Biosystems, Foster City, Californiaによって作製された)を使用して、製造業者の説明書にしたがって合成され得る。あるいは、本発明の抗体は、当技術分野で周知のリコンビナントDNA技術によって合成され得る。例えば、抗体は、抗体をコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、このようなベクターを、所望の抗体を発現する適切な真核宿主又は原核宿主に導入した後に、DNA発現産物として得ることができ、そこからそれらは、周知の技術を使用して後に単離され得る。
【0076】
核酸配列
したがって、本発明のさらなる目的は、本発明の抗体をコードする核酸配列に関する。
【0077】
典型的には、前記核酸は、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ又はウイルスベクターなどの任意の適切なベクターに含められ得るDNA又はRNA分子である。
【0078】
ベクター
本明細書で使用される「ベクター」、「クローニングベクター」及び「発現ベクター」という用語は、宿主生物をトランスフォーメーションして導入配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進するために、DNA又はRNA配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入し得るビヒクルを意味する。
【0079】
よって、本発明のさらなる目的は、本発明の核酸を含むベクターに関する。
【0080】
このようなベクターは、対象に投与されると前記抗体の発現を引き起こし又は指令するための調節要素、例えばプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどを含み得る。動物細胞のための発現ベクターに使用されるプロモーター及びエンハンサーの例としては、SV40の初期プロモーター及びエンハンサー(Mizukami T. et al. 1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーター及びエンハンサー(Kuwana Y et al. 1987)、イムノグロブリンH鎖のプロモーター(Mason JO et al. 1985)及びエンハンサー(Gillies SD et al. 1983)などが挙げられる。
【0081】
ヒト抗体C領域をコードする遺伝子が挿入及び発現され得る限り、動物細胞のための任意の発現ベクターが使用され得る。適切なベクターの例としては、pAGE107(Miyaji H et al. 1990)、pAGE103(Mizukami T et al. 1987)、pHSG274(Brady G et al. 1984)、pKCR(O’Hare K et al. 1981)、pSG1 beta d2−4−(Miyaji H et al. 1990)などが挙げられる。
【0082】
プラスミドの他の例としては、複製開始点を含む複製プラスミド、又はpUC、pcDNA、pBRなどの組み込みプラスミドが挙げられる。
【0083】
ウイルスベクターの他の例としては、アデノウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス及びAAVベクターが挙げられる。このようなリコンビナントウイルスは、当技術分野で公知の技術によって、例えばパッケージング細胞のトランスフェクションによって、又はヘルパープラスミド若しくはウイルスによる一過性トランスフェクションによって生産され得る。ウイルスパッケージング細胞の典型的な例としては、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが挙げられる。このような複製欠損リコンビナントウイルスを生産するための詳細なプロトコールは、例えば、国際公開公報第95/14785号、国際公開公報第96/22378号、米国特許第5,882,877号、米国特許第6,013,516号、米国特許第4,861,719号、米国特許第5,278,056号及び国際公開公報第94/19478号に見られ得る。
【0084】
宿主細胞
本発明のさらなる目的は、本発明の核酸及び/又はベクターによってトランスフェクション、感染又はトランスフォーメーションされた宿主細胞に関する。
【0085】
「トランスフォーメーション」という用語は、宿主細胞が導入遺伝子又は配列を発現して、所望の物質、典型的には導入遺伝子又は配列によってコードされるタンパク質又は酵素を産生するように、「外来」(すなわち、外因性又は細胞外)遺伝子、DNA又はRNA配列を宿主細胞に導入することを意味する。導入DNA又はRNAを受け取って発現する宿主細胞は、「トランスフォーメーションされている」。
【0086】
本発明の核酸は、適切な発現系において本発明の抗体を生産するために使用され得る。「発現系」という用語は、例えば、ベクターによって運搬されて宿主細胞に導入される外来DNAによってコードされるタンパク質の発現のための適切な条件下にある宿主細胞及び適合ベクターを意味する。
【0087】
一般的な発現系としては、E.coli宿主細胞及びプラスミドベクター、昆虫宿主細胞及びバキュロウイルスベクター、並びに哺乳動物宿主細胞及びベクターが挙げられる。宿主細胞の他の例としては、限定されないが、原核細胞(例えば、細菌)及び真核細胞(例えば、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など)が挙げられる。特定の例としては、E.coli、Kluyveromyces又はSaccharomyces酵母、哺乳動物細胞株(例えば、Vero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞など)、及び初代哺乳動物細胞又は樹立哺乳動物細胞培養物(例えば、リンパ芽球、線維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞などから生産される)が挙げられる。例としては、マウスSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63−Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸レダクダーゼ遺伝子(以下、「DHFR遺伝子」と称される)が欠損されたCHO細胞(Urlaub G et al; 1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662、以下、「TB2/0細胞」と称される)なども挙げられる。
【0088】
キメラ抗体
特定の実施態様では、本発明のヒトキメラ抗体は、以前に記載されているようにVLドメイン及びVHドメインをコードする核酸配列を得、それらを、ヒト抗体CH及びヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターに挿入することによってヒトキメラ抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを動物細胞に導入することによってコード配列を発現させることによって生産され得る。
【0089】
ヒトキメラ抗体のCHドメインとしては、それは、ヒト免疫グロブリンに属する任意の領域であり得るが、IgGクラスのものが適切であり得、IgGクラスに属するサブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のいずれか1つが使用され得る。また、ヒトキメラ抗体のCLとしては、それは、Igに属する任意の領域であり得、κクラス又はλクラスのものが使用され得る。
【0090】
キメラ抗体を生産するための方法は、当技術分野で周知の従来のリコンビナントDNA技術及び遺伝子トランスフェクション技術を含む(Morrison SL. et al. (1984)並びに特許文献の米国特許第5,202,238号;及び米国特許第5,204,244号を参照のこと)。
【0091】
好ましい実施態様によれば、本発明の抗体は、ヒト化される。
【0092】
機能保存変異体
本発明のさらなる目的はまた、本発明の抗体の機能保存変異体を包含する。
【0093】
「機能保存変異体」は、ポリペプチドの全体的なコンフォメーション及び機能の変化を伴わずに、タンパク質又は酵素中の所定のアミノ酸残基が変更されているものであり、限定されないが、類似の特性(例えば、極性、水素結合ポテンシャル、酸性、塩基性、疎水性、芳香性など)を有するアミノ酸によるアミノ酸の置き換えが挙げられる。類似の機能の任意の2つのタンパク質間のタンパク質又はアミノ酸配列類似性の割合は変動し得、アライメントスキームにしたがって、例えば類似性がMEGALIGNアルゴリズムに基づくクラスタ法によって決定した場合に70%〜99%であり得るように、保存されていると示されているもの以外のアミノ酸は、タンパク質において異なり得る。「機能保存変異体」はまた、BLAST又はFASTAアルゴリズムによって決定した場合に、少なくとも60%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%、より一層好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドであって、比較されるネイティブな又は親のタンパク質と同じ又は実質的に同様の特性又は機能を有するポリペプチドを含む。
【0094】
2つのアミノ酸配列は、アミノ酸の80%超、好ましくは85%超、好ましくは90%超が同一であるか、又はより短い配列の全長にわたって約90%超、好ましくは95%超が類似(機能的に同一)である場合に「実質的に相同」又は「実質的に類似」である。好ましくは、類似配列又は相同配列は、例えば、GCG(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wisconsin)pileupプログラム、又はBLAST、FASTAなどの配列比較アルゴリズムのいずれかを使用してアライメントによって同定される。
【0095】
例えば、活性の認識可能な喪失を伴わなければ、特定のアミノ酸は、タンパク質構造中の他のアミノ酸によって置換され得る。タンパク質の相互作用能力及び性質は、タンパク質の生物学的機能活性を規定するので、同様の特性を有するタンパク質を得ながら、タンパク質配列において、及び当然ながらそのDNAコード配列において、特定のアミノ酸置換を行い得る。したがって、生物学的活性の認識可能な喪失を伴わなければ、本発明の抗体の配列、又は前記抗体をコードする対応するDNA配列において、様々な変更を行い得ることが企図される。
【0096】
特定のアミノ酸を、類似のヒドロパシー指標又はスコアを有する他のアミノ酸によって置換して、類似の生物学的活性を有するタンパク質を依然としてもたらすことができる(すなわち、生物機能的に同等のタンパク質を依然として得ることができる)ことが当技術分野で公知である。
【0097】
したがって、上記のように、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えばそれらの疎水性、親水性、電荷及びサイズなどに基づく。様々な上記特徴を考慮した例示的な置換は当業者に周知であり、アルギニン及びリジン;グルタミン酸及びアスパラギン酸;セリン及びトレオニン;グルタミン及びアスパラギン;並びにバリン、ロイシン及びイソロイシンが挙げられる。
【0098】
グリコシル化
本発明の抗体のグリコシル化は、そのフコース含量を考慮して変更される。
【0099】
抗体のグリコシル化は、典型的には、N結合型である。「N結合型」は、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を指す。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリン及びアスパラギン−X−トレオニン(Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチドにおけるこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。
【0100】
抗体上に存在する任意の炭水化物部分の除去は、化学的又は酵素的に達成され得る。化学的脱グリコシル化は、トリフルオロメタンスルホン酸化合物又は同等の化合物への抗体の曝露を必要とする。この処置は、抗体をインタクトに保ちながら、結合糖(N−アセチルグルコサミン又はN−アセチルガラクトサミン)を除くほとんど又は全ての糖の切断をもたらす。化学的脱グリコシル化は、Sojahr H. et al. (1987)及びEdge, AS. et al. (1981)に記載されている。抗体上の炭水化物部分の酵素的切断は、Thotakura, NR. et al. (1987)に記載されているように、様々なエンド−及びエキソ−グリコシダーゼを使用することによって達成され得る。
【0101】
より具体的には、本発明の抗体のグリコシル化は、抗体のグリコシル化部位が有するグリカン構造の65%未満がフコース分子を含むという点において変更されている。
【0102】
このような炭水化物改変は、例えば変更されたグリコシル化機構を有する宿主細胞で抗体を発現することによって達成され得る。変更されたグリコシル機構を有する細胞は、当技術分野で説明されており、本発明のリコンビナント抗体を発現し、それにより、変更されたグリコシル化を有する抗体を産生する宿主細胞として使用され得る。
【0103】
例えば、Hangらによる欧州特許出願公開第1,176,195号には、フコシルトランスフェラーゼをコードするFUT8遺伝子が機能的に破壊された細胞株が記載されており、このような細胞株で発現された抗体は、低フコシル化を示すか、又はフコシル残基を欠く。
【0104】
Prestaによる国際公開公報第03/035835号には、Asn(297)結合炭水化物にフコースを結合する能力が低下している変異体CHO細胞株、Lecl3細胞であって、その細胞株で発現される抗体の低フコシル化をもたらす変異体CHO細胞株、Lecl3細胞が記載されている(Shields, R.L. et al., 2002 J. Biol. Chem. 277:26733-26740も参照のこと)。
【0105】
また、米国特許第7931895号及び国際公開公報第01/77181号には、YB2/0細胞株(ATCC(登録商標)、参照CRL−1662)において生産された低フコース抗体の生産が記載されている。
【0106】
さらに、Eureka Therapeuticsは、変更された哺乳動物グリコシル化パターンを有する抗体であって、フコシル残基を欠く抗体を産生することができる遺伝子操作CHO哺乳動物細胞について記載している(http://www.eurekainc.com/a&boutus/companyoverview.html)。
【0107】
あるいは、本発明の抗体は、哺乳動物様グリコシル化パターンについて操作された酵母又は糸状菌であって、グリコシル化パターンとしてフコースを欠く抗体を産生することができる酵母又は糸状菌において生産され得る(例えば、欧州特許第1297172号を参照のこと)。
【0108】
抗体アッセイ
これらの抗体の全ては、当技術分野で公知の任意の方法によって、特異的結合についてアッセイされ得る。多くの異なる競合的結合アッセイフォーマットがエピトープ結合に使用され得る。使用され得るイムノアッセイとしては、限定されないが、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降素アッセイ、ゲル拡散沈降素アッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイ及び補体結合アッセイなどの技術を使用した競合アッセイシステムが挙げられる。このようなアッセイはルーチンであり、当技術分野で周知である(例えば、Ausubel et al., eds, 1994 Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & sons, Inc., New Yorkを参照のこと)。例えば、BIACORE(登録商標)(GE Healthcare, Piscaataway, NJ)は、モノクローナル抗体のパネルをエピトープビニングするためにルーチンに使用される様々な表面プラズモン共鳴アッセイフォーマットの1つである。加えて、ルーチンな交差ブロッキングアッセイ、例えばAntibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane, 1988に記載されているものが実施され得る。
【0109】
イムノコンジュゲート:
検出可能な標識
本発明の抗体は、抗HER3イムノコンジュゲートを形成するために、検出可能な標識とコンジュゲートされ得る。適切な検出可能な標識としては、例えば放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、生物発光標識又は金コロイドが挙げられる。このような検出可能に標識されたイムノコンジュゲートを作製及び検出する方法は、当業者に周知であり、以下により詳細に記載する。
【0110】
検出可能な標識は、オートラジオグラフィーによって検出される放射性同位体であり得る。本発明の目的のために特に有用なアイソトープは、
3H、
125I、
131I、
35S及び
14Cである。
【0111】
本発明の抗HER3イムノコンジュゲートはまた、蛍光化合物によって標識され得る。蛍光標識抗体の存在は、イムノコンジュゲートを適切な波長の光に曝露し、生じた蛍光を検出することによって決定される。蛍光標識化合物としては、フルオレセイン、イソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド及びフルオレスカミンが挙げられる。
【0112】
あるいは、本発明の抗HER3イムノコンジュゲートは、抗体を化学発光化合物にカップリングすることによって検出可能に標識され得る。化学発光タグ付イムノコンジュゲートの存在は、化学的反応の過程の間に生じる発光の存在を検出することによって決定される。化学発光標識化合物の例としては、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステルが挙げられる。
【0113】
同様に、生物発光化合物は、本発明の抗HER3イムノコンジュゲートを標識するために使用され得る。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増加させる生物学的システムにおいて見出された化学発光の1つである。生物発光タンパク質の存在は、発光の存在を検出することによって決定される。標識に有用な生物発光化合物としては、ルシフェリン、ルシフェラーゼ及びイクオリンが挙げられる。
【0114】
あるいは、抗HER3イムノコンジュゲートは、酵素に抗ヒトHER3モノクローナル抗体を連結することによって検出可能に標識され得る。抗HER3酵素コンジュゲートを適切な基質の存在下でインキュベーションすると、酵素部分が基質と反応して、例えば分光光度法、蛍光分析法又は可視的手段によって検出され得る化学的部分が生成する。多重特異性イムノコンジュゲートを検出可能に標識するために使用され得る酵素の例としては、βガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼが挙げられる。
【0115】
当業者であれば、本発明にしたがって使用され得る他の適切な標識を認識するであろう。抗ヒトHER3モノクローナル抗体に対するマーカー部分の結合は、当技術分野で公知の標準的な技術を使用して達成され得る。これに関する典型的な方法論は、Kennedy et al., Clin. Chim. Acta 70:1, 1976; Schurs et al., Clin. Chim. Acta 81:1, 1977; Shih et al., Int’l J. Cancer 46:1101, 1990; Stein et al., Cancer Res. 50:1330, 1990;及び上記Coliganに記載されている。
【0116】
また、免疫化学検出の簡便性及び汎用性は、アビジン、ストレプトアビジン及びビオチンとコンジュゲートされた抗ヒトHER3モノクローナル抗体を使用することによって増強され得る(例えば、Wilchek et al. (eds.), “Avidin-Biotin Technology,” Methods In Enzymology (Vol. 184) (Academic Press 1990); Bayer et al., “Immunochemical Applications of Avidin-Biotin Technology,” in Methods In Molecular Biology (Vol. 10) 149-162 (Manson, ed., The Humana Press, Inc. 1992).を参照のこと)。
【0117】
イムノアッセイを実施するための方法は、十分に確立されている(例えば、Cook and Self, “Monoclonal Antibodies in Diagnostic Immunoassays,” in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering, and Clinical Application 180-208 (Ritter and Ladyman, eds., Cambridge University Press 1995); Perry, “The Role of Monoclonal Antibodies in the Advancement of Immunoassay Technology,” in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications 107-120 (Birch and Lennox, eds., Wiley-Liss, Inc. 1995); Diamandis, Immunoassay (Academic Press, Inc. 1996).を参照のこと)。
【0118】
抗体−薬物コンジュゲート(ADC)
別の態様では、本発明は、抗ヒトHER3モノクローナル抗体−薬物コンジュゲートを提供する。本明細書で使用される「抗ヒトHER3モノクローナル抗体−薬物コンジュゲート」は、治療剤にコンジュゲートされた本発明の抗ヒトHER3モノクローナル抗体を指す。
【0119】
このような抗ヒトHER3モノクローナル抗体−薬物コンジュゲート(ADC)は、対象(例えば、HER3発現ガンを有する対象など)に投与した場合に、典型的には、単独で投与した場合だけではなく他の治療剤と組み合わせて投与した場合にも、HER3発現細胞に対する臨床的に有益な効果をもたらす。
【0120】
典型的な実施態様では、抗ヒトHER3モノクローナル抗体は、得られる抗体−薬物コンジュゲート(ADC)が、HER3発現細胞(例えば、HER3発現ガン細胞)に取り込まれ、又はインターナリゼーションされると、前記細胞に対する細胞毒性効果又は細胞増殖抑制効果を発揮するように、細胞毒性薬にコンジュゲートされる。抗体にコンジュゲートするために特に適切な部分は、化学療法剤、プロドラッグ変換酵素、放射性同位体若しくは化合物又は毒素である。例えば、抗ヒトHER3モノクローナル抗体は、細胞毒性薬、例えば化学療法剤又は毒素(例えば、細胞増殖抑制剤又は細胞破壊剤、例えばアブリン、リシンA、緑膿菌外毒素又はジフテリア毒素など)にコンジュゲートされ得る。
【0121】
細胞毒性薬の有用なクラスとしては、例えば、抗チューブリン剤、オーリスタチン、DNAマイナーグルーブ結合剤、DNA複製阻害剤、アルキル化剤(例えば、白金錯体、例えばシスプラチン、単核(白金)、二核(白金)及び三核白金錯体、並びにカルボプラチン)、アントラサイクリン、抗生物質、抗葉酸剤、代謝拮抗物質、化学療法増感剤、デュオカルマイシン、エトポシド、フッ化ピリミジン、イオノフォア、レキシトロプシン、ニトロソウレア、プラチノール、プレフォーミング化合物、プリン代謝拮抗物質、ピューロマイシン、放射線増感剤、ステロイド、タキサン、トポイソメラーゼ阻害剤又はビンカアルカロイドなどが挙げられる。
【0122】
個々の細胞毒性薬としては、例えばアンドロゲン、アントラマイシン(AMC)、アスパラギナーゼ、5−アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、ブサルファン、ブチオニン、スルホキシミン、カンプトテシン、カルボプラチン、カルムスチン(BSNU)、CC−1065(Li et al., Cancer Res. 42:999-1004, 1982)、クロランブシル、シスプラチン、コルヒシン、シクロホスファミド、シタラビン、シチジンアラビノシド、シトカラシンB、ダカルバジン、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ダウノルビシン、デカルバジン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エストロゲン、5−フルオロデオキシウリジン、リン酸エトポシド(etopside phosphate)(VP−16)、5−フルオロウラシル、グラミシジンD、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロムスチン(CCNU)、メクロレタミン、メルファラン、6−メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトラマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ニトロイミダゾール、パクリタキセル、プリカマイシン、プロカルビジン、ストレプトゾトシン、テノポシド(VM−26)、6−チオグアニン、チオTEPA、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビンが挙げられる。
【0123】
特に適切な細胞毒性薬としては、例えば、ドラスタチン(例えば、オーリスタチンE、AFP、MMAF、MMAE)、DNAマイナーグルーブ結合剤(例えば、エンジイン及びレキシトロプシン)、デュオカルマイシン、タキサン(例えば、パクリタキセル及びドセタキセル)、ピューロマイシン、ビンカアルカロイド、CC−1065、SN−38(7−エチル−10−ヒドロキシ−カンプトテイン)、トポテカン、モルホリノ−ドキソルビシン、リゾキシン、シアノモルフォリノ−ドキソルビシン、エチノマイシン、コンブレタスタチン、ネトロプシン、エポチロンA及びB、エストラムスチン、クリプトフィシン、セマドチン、メイタンシノイド、ディスコデルモリド、エリュテロビン並びにミトキサントロンが挙げられる。
【0124】
特定の実施態様では、細胞毒性薬は、従来の化学療法剤、例えばドキソルビシン、パクリタキセル、メルファラン、ビンカアルカロイド、メトトレキサート、マイトマイシンC又はエトポシドなどである。加えて、CC−1065類似体、カリケアミシン、メイタンシン、ドラスタチン10の類似体、リゾキシン及びパリトキシンなどの強力な薬剤を抗HER3発現抗体に連結され得る。
【0125】
特定のバリエーションでは、細胞毒性薬又は細胞増殖抑制剤は、オーリスタチンE(当技術分野でドラスタチン10としても公知である)又はその誘導体である。典型的には、オーリスタチン誘導体は、例えば、オーリスタチンEとケト酸との間で形成されるエステルである。例えば、オーリスタチンEをパラアセチル安息香酸又はベンゾイル吉草酸と反応させて、AEB及びAEVBをそれぞれ生成し得る。他の典型的なオーリスタチン誘導体としては、AFP(ジメチルバリン−バリン−ドライソロイイン−ドラプロリン−フェニルアラニン−p−フェニレンジアミン)、MMAF(ドバリン−バリン−ドライソロイニン−ドラプロリン−フェニルアラニン)及びMAE(モノメチルオーリスタチンE)が挙げられる。オーリスタチンE及びその誘導体の合成及び構造は、米国特許出願公開第20030083263号;国際公開公報第2002/088172号及び国際公開公報第2004/010957号;並びに米国特許第6,884,869号;米国特許第6,323,315号;米国特許第6,239,104号;米国特許第6,034,065号;米国特許第5,780,588号;米国特許第5,665,860号;米国特許第5,663,149号;米国特許第5,635,483号;米国特許第5,599,902号;米国特許第5,554,725号;米国特許第5,530,097号;米国特許第5,521,284号;米国特許第5,504,191号;米国特許第5,410,024号;米国特許第5,138,036号;米国特許第5,076,973号;米国特許第4,986,988号;米国特許第4,978,744号;米国特許第4,879,278号;米国特許第4,816,444号;及び米国特許第4,486,414号に記載されている。
【0126】
他のバリエーションでは、細胞毒性薬は、DNAマイナーグルーブ結合剤である(例えば、米国特許第6,130,237号を参照のこと)。例えば、特定の実施態様では、マイナーグルーブ結合剤は、CBI化合物である。他の実施態様では、マイナーグルーブ結合剤は、エンジインである(例えば、カリケアミシン)。
【0127】
特定の実施態様では、抗体−薬物コンジュゲート(ADC)は、抗チューブリン剤を含む。抗チューブリン剤の例としては、例えば、タキサン(例えば、Taxol(登録商標)(パクリタキセル)、Taxotere(登録商標)(ドセタキセル))、T67(Tularik)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン及びビノレルビン)並びにドラスタチン(例えば、オーリスタチンE、AFP、MMAF、MMAE、AEB、AEVB)が挙げられる。他の抗チューブリン剤としては、例えば、バッカチン誘導体、タキサン類似体(例えば、エポチロンA及びB)、ノコダゾール、コルチシン及びコルシミド、エストラムスチン、クリプトフィシン、セマドチン、マイタンシノイド、コンブレタスタチン、ディスコデルモリド並びにエリュテロビンが挙げられる。いくつかの実施態様では、細胞毒性薬は、別のグループの抗チューブリン剤であるメイタンシノイドである。例えば、特定の実施態様では、メイタンシノイドは、メイタンシン又はDM−1である(ImmunoGen, Inc.;Chari et al., Cancer Res. 52:127-131, 1992も参照のこと)。
【0128】
他の実施態様では、細胞毒性薬は、代謝拮抗剤である。代謝拮抗剤は、例えば、プリンアンタゴニスト(例えば、アゾチオプリン又はミコフェノレートモフェチル)、ジヒドロフォレートレダクターゼ阻害剤(例えば、メトトレキサート)、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン、ビダラビン、リババリン、アジドチミジン、シチジン、アラビノシド、アマンタジン、ジデオキシウリジン、ヨードデオキシウリジン、ポスカーネット又はトリフルリジンであり得る。
【0129】
他の実施態様では、抗ヒトHER3モノクローナル抗体は、プロドラッグ変換酵素にコンジュゲートされる。プロドラッグ変換酵素は、公知の方法を使用して、抗体にリコンビナント融合又は化学的にコンジュゲートされ得る。例示的なプロドラッグ変換酵素は、カルボキシペプチダーゼG2、βグルクロニダーゼ、ペニシリン−V−アミダーゼ、ペニシリン−G−アミダーゼ、βラクタマーゼ、β−グルコシダーゼ、ニトロレダクターゼ及びカルボキシペプチダーゼAである。
【0130】
治療剤をタンパク質(特に、抗体)にコンジュゲートするための技術は、周知である(例えば、Arnon et al., “Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy,” in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy (Reisfeld et al. eds., Alan R. Liss, Inc., 1985); Hellstrom et al., “Antibodies For Drug Delivery,” in Controlled Drug Delivery (Robinson et al. eds., Marcel Deiker, Inc., 2nd ed. 1987); Thorpe, “Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review,” in Monoclonal Antibodies ’84: Biological And Clinical Applications (Pinchera et al. eds., 1985); “Analysis, Results, and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy,” in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy (Baldwin et al. eds., Academic Press, 1985);及びThorpe et al., 1982, Immunol. Rev. 62:119-58を参照のこと。例えば、国際公開公報第89/12624号も参照のこと)。
【0131】
リンカー
典型的には、抗体−薬物コンジュゲート化合物は、薬物ユニットと抗体ユニットとの間にリンカーユニットを含む。いくつかの実施態様では、リンカーの切断が、細胞内環境において抗体から薬物ユニットを放出するように、リンカーは、細胞内条件下で切断可能である。また他の実施態様では、リンカーユニットは切断可能ではなく、薬物は、例えば抗体分解によって放出される。
【0132】
いくつかの実施態様では、リンカーは、細胞内環境(例えば、リソソーム又はエンドソーム又はカベオラ)に存在する切断物質によって切断可能である。例えば、リンカーは、限定されないが、リソソームプロテアーゼ又はエンドソームプロテアーゼを含む細胞内ペプチダーゼ又はプロテアーゼ酵素によって切断されるペプチジルリンカーであり得る。いくつかの実施態様では、ペプチジルリンカーは、少なくとも2アミノ酸長又は少なくとも3アミノ酸長である。切断物質としては、カテプシンB及びD並びにプラスミン(これらは全て、ジペプチド薬物誘導体を加水分解して、ターゲット細胞内において活性薬物の放出をもたらすことが公知である)が挙げられ得る(例えば、Dubowchik and Walker, 1999, Pharm. Therapeutics 83:67-123を参照のこと)。
【0133】
191P4D12発現細胞中に存在する酵素によって切断可能なペプチジルリンカーが最も典型的である。このようなリンカーの他の例は、例えば、米国特許第6,214,345号(これは、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。特定の実施態様では、細胞内プロテアーゼによって切断可能なペプチジルリンカーは、Val−Citリンカー又はPhe−Lysリンカーである(例えば、Val−Citリンカーを有するドキソルビシンの合成について記載されている米国特許第6,214,345号を参照のこと)。治療剤の細胞内タンパク質分解性放出を使用する1つの利点は、コンジュゲートされると薬剤が典型的には弱毒化され、コンジュゲートの血清安定性が典型的には高いことである。
【0134】
他の実施態様では、切断可能なリンカーは、pH感受性である(すなわち、特定のpH値において加水分解に対して感受性である)。
【0135】
典型的には、pH感受性リンカーは、酸性条件下で加水分解可能である。例えば、リソソーム内で加水分解可能な酸不安定性リンカー(例えば、ヒドラゾン、セミカルバゾン、チオセミカルバゾン、シス−アコニットアミド、オルトエステル、アセタール、ケタールなど)が使用され得る(例えば、米国特許第5,122,368号;米国特許第5,824,805号;米国特許第5,622,929号;Dubowchik and Walker, 1999, Pharm. Therapeutics 83:67-123; Neville et al., 1989, Biol. Chem. 264:14653-14661.を参照のこと)。このようなリンカーは、血中などの中性pH条件下で比較的安定であるが、リソソームの近似pHであるpH5.5未満又は5.0では不安定である。特定の実施態様では、加水分解可能なリンカーは、チオエーテルリンカーである(例えば、アシルヒドラゾン結合を介して治療剤に結合されたチオエーテルなど(例えば、米国特許第5,622,929号を参照のこと))。
【0136】
また他の実施態様では、リンカーは、還元条件下で切断可能である(例えば、ジスルフィドリンカー)。例えば、SATA(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート)、SPDP(N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート)、SPDB(N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)ブチレート)並びにSMPT(N−スクシンイミジル−オキシカルボニル−α−メチル−α−(2−ピリジル−ジチオ)トルエン)、SPDB及びSMPTを使用して形成され得るものを含む様々なジスルフィドリンカーが当技術分野で公知である(例えば、Thorpe et al., 1987, Cancer Res. 47:5924-5931; Wawrzynczak et al., In Immunoconjugates: Antibody Conjugates in Radioimagery and Therapy of Cancer (C. W. Vogel ed., Oxford U. Press, 1987)を参照のこと。米国特許第4,880,935号も参照のこと)。
【0137】
また他の特定の実施態様では、リンカーは、マロン酸リンカー(Johnson et al., 1995, Anticancer Res. 15:1387-93)、マレイミドベンゾイルリンカー(Lau et al., 1995, Bioorg-Med-Chem. 3(10):1299-1304)又は3’−N−アミド類似体(Lau et al., 1995, Bioorg-Med-Chem. 3(10):1305-12)である。
【0138】
また他の実施態様では、リンカーユニットは切断可能ではなく、薬物は抗体分解によって放出される。
【0139】
典型的には、リンカーは、細胞外環境に対して実質的に感受性ではない。リンカーとの関連で本明細書で使用される「細胞外環境に対して実質的に感受性ではない」は、抗体薬物コンジュゲート化合物が細胞外環境(例えば、血漿)に存在する場合、抗体−薬物コンジュゲート化合物のサンプル中のリンカーの約20%以下、典型的には約15%以下、より典型的には約10%以下、さらにより典型的には約5%以下、約3%以下又は約1%以下が切断されることを意味する。リンカーが細胞外環境に対して実質的に感受性ではないかは、例えば、抗体−薬物コンジュゲートを血漿と共に所定時間(例えば、2時間、4時間、8時間、16時間又は24時間)インキュベーションし、次いで、血漿中に存在する遊離薬物の量を定量することによって決定され得る。
【0140】
治療用途
本発明の抗体又はイムノコンジュゲート、特に抗体−薬物コンジュゲートは、任意のHER3発現ガンを処置するために有用であり得る。本発明の抗体は単独で、又は任意の適切な薬剤と組み合わせて使用され得る。HER3発現ガンの例としては、限定されないが、ガン腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病が挙げられる。
【0141】
このようなガンのより具体的な例としては、扁平上皮細胞ガン、小細胞肺ガン、非小細胞肺ガン、胃ガン、膵臓ガン、膠細胞腫瘍、例えば膠芽細胞腫及び神経線維腫症、子宮頸ガン、卵巣ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、ヘパトーマ、乳ガン、結腸ガン、メラノーマ、結腸直腸ガン、子宮内膜ガン、唾液腺ガン、腎臓ガン、腎ガン、前立腺ガン、外陰ガン、甲状腺ガン、肝ガン及び様々な種類の頭頸部ガンが挙げられる。
【0142】
それらは、好ましくは、乳ガン、卵巣ガン、小細胞肺ガン、非小細胞肺ガン、メラノーマ、膵臓ガン及び結腸直腸ガン、の中から選択され、より具体的には、乳ガン、卵巣ガン及び膵臓ガンの中から選択される。
【0143】
特定の一実施態様では、本発明の方法を使用して処置されるガンは、乳ガン又は卵巣ガンである。
【0144】
本発明は、HER3の発現に関連するガンを処置するための方法であって、治療有効量の本発明の抗体又はイムノコンジュゲートを、それを必要とする対象に投与することを含む方法を開示する。
【0145】
より具体的には、本発明の抗体及びイムノコンジュゲートは、HER3の発現に関連するガンであって、ニューレグリン、特にニューレグリン1βが存在するガンを処置するために有効である。
【0146】
したがって、本発明の目的は、HER3の発現に関連するガンであって、ニューレグリン、特にニューレグリン1βが対象中に存在するガンの処置において使用するための、本発明の抗体及び/又はイムノコンジュゲートである。
【0147】
一実施態様では、本発明の抗体及びイムノコンジュゲートは、リガンド(すなわち、NRG)依存性ガンの処置に特に適切である。
【0148】
一実施態様では、本発明の抗体は、(そのアロステリック効果により)オートクリン又はパラクリンリガンド依存性腫瘍の処置に特に適切である。
【0149】
したがって、本発明の実施態様では、存在するニューレグリンは、腫瘍によって、並びに/又は腫瘍周囲の組織及び/若しくは器官によって分泌される。
【0150】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体及びイムノコンジュゲートは、抗体、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、化学療法剤又は抗ホルモン剤による処置に対して耐性のガンの処置に特に適切である。
【0151】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、トリプルネガティブ乳ガン、膵臓ガン及び腎細胞ガンからなる群より選択されるガンの処置に特に適切である。
【0152】
特定の実施態様では、抗ヒトHER3モノクローナル抗体又はイムノコンジュゲート、特に抗体−薬物コンジュゲートは、疾患又は障害の処置のための第2の薬剤と組み合わせて使用される。
【0153】
ガンを処置するために使用される場合、本発明の抗ヒトHER3モノクローナル抗体又はイムノコンジュゲートは、従来のガン療法、例えば外科手術、放射線療法、化学療法又はそれらの組み合わせなどと組み合わせて使用され得る。
【0154】
特定の態様では、本発明の抗HER3抗体又は抗体−薬物コンジュゲートとの併用ガン療法に有用な他の治療剤としては、抗血管新生剤が挙げられる。
【0155】
いくつかの態様では、本発明の抗体又は抗体−薬物コンジュゲートは、サイトカイン(例えば、腫瘍に対する免疫応答を刺激するサイトカイン)と同時投与される。
【0156】
いくつかの他の態様では、併用療法に有用な他の治療剤としては、EGFR、HER2又はHER4などの、腫瘍成長に関与する特定の因子のアンタゴニストが挙げられる。
【0157】
特定の一実施態様では、本発明の抗ヒトHER3モノクローナル抗体又はイムノコンジュゲート、特に抗体−薬物コンジュゲートは、抗ヒトHER2モノクローナル抗体、例えばトラスツズマブ又はペルツズマブなどと組み合わせて使用される。
【0158】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載される抗ヒトHER3モノクローナル抗体又はイムノコンジュゲート、特に抗体−薬物コンジュゲートは、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)と組み合わせて使用される。BAY 43-9006(ソラフェニブ、Nexavar(登録商標))及びSU11248(スニチニブ、Sutent(登録商標))は、承認されている2つのTKIである。他のTKIとしては、限定されないが、イマチニブメシル酸塩(Gleevec(登録商標)、Novartis);ゲフィチニブ(Iressa(登録商標)、AstraZeneca);エルロチニブ塩酸塩(Tarceva(登録商標)、Genentech);バンデタニブ(Zactima(登録商標)、AstraZeneca)、ティピファニブ(Zarnestra(登録商標)、Janssen-Cilag);ダサチニブ(Sprycel(登録商標)、Bristol Myers Squibb);ロナファニブ(Sarasar(登録商標)、Schering Plough);バタラニブコハク酸塩(Novartis, Schering AG);ラパチニブ(Tykerb(登録商標)、GlaxoSmithKline);ニロチニブ(Novartis);レスタウルチニブ(Cephalon);パゾパニブ塩酸塩(GlaxoSmithKline);アキシチニブ(Pfizer);カネルチニブ二塩酸塩(Pfizer);ペリチニブ(National Cancer Institute, Wyeth);タンヅチニブ(Millennium);ボスチニブ(Wyeth);セマキサニブ(Sugen, Taiho);AZD-2171 (AstraZeneca);VX-680 (Merck, Vertex);EXEL-0999 (Exelixis);ARRY-142886 (Array BioPharma, AstraZeneca);PD-0325901 (Pfizer);AMG-706 (Amgen);BIBF-1120 (Boehringer Ingelheim);SU-6668 (Taiho);CP-547632 (OSI);(AEE-788 (Novartis);BMS-582664 (Bristol-Myers Squibb);JNK-401 (Celgene);R-788 (Rigel);AZD-1152 HQPA (AstraZeneca);NM-3 (Genzyme Oncology);CP-868596 (Pfizer);BMS-599626 (Bristol-Myers Squibb);PTC-299 (PTC Therapeutics);ABT-869 (Abbott);EXEL-2880 (Exelixis);AG-024322 (Pfizer);XL-820 (Exelixis);OSI-930 (OSI);XL-184 (Exelixis);KRN-951 (Kirin Brewery);CP-724714 (OSI);E-7080 (Eisai);HKI-272 (Wyeth);CHIR-258 (Chiron);ZK-304709 (Schering AG);EXEL-7647 (Exelixis);BAY-57-9352 (Bayer);BIBW-2992 (Boehringer Ingelheim);AV-412 (AVEO);YN-968D1 (Advenchen Laboratories);ミドスタウリン(Novartis);ペリフォシン(AEterna Zentaris, Keryx, National Cancer Institute);AG-024322 (Pfizer);AZD-1152 (AstraZeneca);ON-01910Na (Onconova);及びAZD-0530 (AstraZeneca)が挙げられる。
【0159】
医薬組成物
投与のために、本発明の抗ヒトHER3モノクローナル抗体又は抗体−薬物コンジュゲートは、医薬組成物として製剤化される。
【0160】
抗ヒトHER3モノクローナル抗体又は抗体−薬物コンジュゲートを含む医薬組成物は、薬学的に有用な組成物を調製するための公知の方法にしたがって製剤化され得、それにより、治療分子は、薬学的に許容し得る担体との混合物で組み合わされる。
【0161】
組成物は、その投与がレシピエント患者に許容し得る場合、「薬学的に許容し得る担体」と言われる。滅菌リン酸緩衝生理食塩水は、薬学的に許容し得る担体の一例である。他の適切な担体は、当業者に周知である(例えば、Gennaro (ed.), Remington’s Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Company, 19th ed. 1995).)を参照のこと)。製剤は、1つ以上の賦形剤、保存剤、可溶化剤、緩衝剤、バイアル表面のタンパク質のロスを防止するためのアルブミンなどをさらに含み得る。
【0162】
投与方法
医薬組成物の形態、投与経路、用量及びレジメンは、当然のことながら、処置すべき症状、疾患の重症度、患者の年齢、体重及び性別などに依存する。
【0163】
本発明の医薬組成物は、局所投与、経口投与、非経口投与、鼻内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与又は眼内投与などのために製剤化され得る。
【0164】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤のための薬学的に許容し得るビヒクルを含有する。これらは、特に、等張滅菌生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウム又は二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムなど又はこのような塩の混合物)、又は乾燥組成物、特に凍結乾燥組成物(これは場合に応じて、滅菌水又は生理学的食塩水の追加により、注射液の構成を可能にする)であり得る。
【0165】
投与に使用される用量は、様々なパラメータに応じて、特に、使用される投与様式、関連する病変、あるいは所望の処置期間に応じて適合され得る。
【0166】
医薬組成物を調製するために、有効量の抗体を薬学的に許容し得る担体又は水性媒体に溶解又は分散され得る。
【0167】
注射用途に適切な医薬形態としては、滅菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び滅菌注射液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。全ての場合において、形態は滅菌されていなければならず、容易にシリンジで扱える程度に流動性でなければならない。それは製造及び保存条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して防腐されていなければならない。
【0168】
遊離塩基又は薬理学的に許容し得る塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製され得る。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール及びその混合物中で及び油中で調製され得る。通常の保存及び使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存剤を含む。
【0169】
担体
本発明の抗体は、中性形態又は塩形態の組成物に製剤化され得る。薬学的に許容し得る塩としては、(タンパク質の遊離アミノ基を用いて形成される)酸付加塩、及び無機酸(例えば、塩酸又はリン酸)又は有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸など)で形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基で形成される塩はまた、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム又は水酸化鉄)及び有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなど)から誘導され得る。
【0170】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、適切なその混合物、及び植物油を含む、溶媒又は分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物作用の抑制は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に使用することによってもたらされ得る。
【0171】
必要に応じて上記に列挙されている様々な他の成分と一緒に、必要量の活性化合物を適切な溶媒に組み込み、続いて滅菌ろ過することによって、滅菌注射液を調製する。一般に、基本分散媒体と上に列挙されている必要な他の成分とを含有する滅菌ビヒクルに様々な滅菌有効成分を組み込むことによって、分散液を調製する。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌ろ過したその溶液から有効成分と任意のさらなる所望の成分との粉末が得られる真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0172】
より濃縮された又は高濃縮された直接注射用溶液の調製も企図され、この場合、極めて迅速な浸透をもたらして高濃度の活性薬剤を小腫瘍領域に送達するために、溶媒としてDMSOを使用することが想定される。
【0173】
製剤化したら、投与製剤と適合性の方法によって治療有効量で溶液を投与する。製剤は、上記注射液型などの様々な剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども用いられ得る。
【0174】
水溶液による非経口投与の場合、例えば、必要の場合には前記溶液を適切に緩衝化し、十分な生理食塩水又はグルコースを用いて液体希釈剤を最初に等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適切である。これに関して、当業者であれば、本開示を考慮して、用いられ得る滅菌水性媒体を理解するであろう。例えば、1投与量を等張NaCl溶液1mlに溶解し、皮下注入液1000mlに追加し得るか、又は推奨注入部位に注射し得る(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences” 15th Edition, pages 1035-1038 and 1570-1580を参照のこと)。処置される対象の症状に応じて、投与量のいくらかの変更が必ず生じるであろう。いずれにしても、投与責任者は、個々の対象に適切な用量を決定するであろう。
【0175】
本発明の抗体は、1用量当たり約0.0001〜1.0ミリグラム又は約0.001〜0.1ミリグラム又は約0.1〜1.0又はさらには約10ミリグラムほどを含むように治療混合物内に製剤化され得る。複数回用量も投与され得る。
【0176】
静脈内又は筋肉内注射などの非経口投与のために製剤化された化合物に加えて、他の薬学的に許容し得る形態としては、例えば、錠剤又は経口投与のための他の固体;徐放性カプセル;及び現在使用されている任意の他の形態が挙げられる。
【0177】
特定の実施態様では、抗体を宿主細胞に導入するために、リポソーム及び/又はナノ粒子の使用が企図される。リポソーム及び/又はナノ粒子の形成及び使用は、当業者に公知である。
【0178】
ナノカプセルは、一般に、化合物を安定かつ再現可能な方法で捕捉し得る。細胞内ポリマーオーバーローディングによる副作用を回避するために、一般に、in vivoで分解可能なポリマーを使用して、このような超微細粒子(約0.1μmのサイズ)を設計する。これらの要件を満たす生分解性ポリアルキル−シアノアクリラートナノ粒子が本発明における使用に企図され、このような粒子は容易に作製され得る。
【0179】
水性媒体に分散されて多層状で同心円状の二層ベシクル(多層ベシクル(MLV)とも称される)を自然に形成するリン脂質から、リポソームが形成される。MLVは、一般に、25nm〜4μmの直径を有する。MLVの超音波処理により、200〜500Åの範囲の直径を有する小単層ベシクル(SUV)であって、コアに水溶液を含有する小単層ベシクルが形成される。リポソームの物理的特徴は、pH、イオン強度及び二価カチオンの存在に依存する。
【0180】
キット
最後に、本発明はまた、少なくとも1つの本発明の抗体を含むキットを提供する。本発明の抗体を含有するキットは、HER3発現の検出において、又は治療的アッセイ若しくは診断的アッセイにおいて使用される。本発明のキットは、例えば組織培養プレート又はビーズ(例えば、セファロースビーズ)などの固体支持体にカップリングされた抗体を含有し得る。in vitroにおいて、例えばELISA又はウエスタンブロットにおいてHER3を検出及び定量するための抗体を含有するキットが提供され得る。検出に有用なこのような抗体は、蛍光又は放射性標識などの標識と共に提供され得る。
【0181】
以下の図面及び実施例によって、本発明をさらに説明する。しかしながら、これらの実施例及び図面は、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0182】
実施例1:GMB301の作製及び生産
ヒトCg1及びCk遺伝子の下流にある親9F7−F11抗体のVH及びVL DNA配列を哺乳動物発現ベクターにサブクローニングすることによって、低フコースキメラ抗体GMB301を得た。実質的には、YB2/0細胞株(ATCC(登録商標)、参照CRL−1662)において、このような低フコース抗体を生産した。
【0183】
簡潔に言えば、コドン最適化を用いた遺伝子合成(Geneart(登録商標))によって、VH−CH1−CH2−CH3γ鎖アイソタイプ1及びVL−CκDNA配列を構築した。各抗体鎖の発現のために、新たに合成した重鎖及び軽鎖をpMGM09−H及びpMGM09−Lkベクターにサブクローニングした。
【0184】
これらの哺乳動物発現ベクターは、CMVプロモーターによって駆動されるIgG1型アイソタイプの抗体の発現を可能にする。安定プールの作製のために、YB2/0細胞をトランスフェクションし、バッチ生産を1週間行った。
【0185】
実施例2:GMB301は、高い親和性でHER3細胞外ドメインに結合する
Maxisorp(登録商標)プレート(Nunc)コーティングウェル中で、GMB301を、ヒトHER3−Fc(リコンビナントHER3細胞外ドメインFc融合物、R&Dsystems)50ngと共に37℃で1時間インキュベーションした。
【0186】
使用したGMB301濃度は、3.3nM〜6.5pMの範囲内であった。HRPコンジュゲートF(ab’)2ヤギ抗ヒトIgG F(ab’)2特異的(Interchim)によって、結合したGMB301抗体を検出した。37℃で2時間経過し、PBS−Tween
200.5%で3回洗浄した後、HRP活性を検出するための基質としてTMB(3,3,5,5−テトラメチルベンジジン、Sigma)を使用し、1M H
2SO
4を追加して反応を停止し、プレートを450nmで読み取った。
【0187】
図1に示されているように、GMB301抗体は、HER3細胞外ドメインに対してナノモル以下の親和性を示す(EC50 0.19nM)。
【0188】
実施例3:膵臓ガン細胞株を異種移植したマウスにおける腫瘍成長の減少に対する、9F7−F11と比較したGMB301のin vivo効果
A.6〜8週齢の無胸腺雌性BALB/cヌードは、Janvier and Charles Rivers Laboratoriesから購入した。EGFR
high、HER2/3
low、PTEN/PIK3CA wt、NRG
negative及びKRAS/BRAF突然変異NRG1β非依存性膵臓ガン細胞HPAC(3×10
6個)を無胸腺BALB/cヌードマウスの右脇腹に皮下注射した。HPACは、リガンドNRG1βを分泌しない。実験動物研究に関するフランスのガイドラインにしたがって、全てのin vivo実験を行った(承諾番号B34−172−27)。
【0189】
腫瘍が約150mm
3の体積に達したら、腫瘍担持マウスを異なる処置群に無作為に分けた。GMB301及び抗体9F7−F11及びビヒクル(PBS)を腹腔内注射することによって、マウスを処置した。注射した抗体の量は、300μg/注射(15mg/kg)、週2回、4週間連続(Q3D−4W)であった。キャリパーを用いて腫瘍の寸法を毎週測定し、式D1×D2×D3/2によって体積を計算した。
【0190】
図2に示されているように、ビヒクルで処置したマウスにおいて測定した平均腫瘍サイズと比べて、GMB301処置マウスでは、HPAC腫瘍成長の有意な減少が観察される。驚くべきことに、9F7−F11−処置マウスでは、同様の結果が観察される。実際、これら2種類の抗体では、腫瘍成長の減少について、有意差は観察されない。
【0191】
B.無胸腺BALB/cヌードマウスの脇腹に注射した膵臓ガン細胞株がEGFR
high、HER2/3
high、KRAS/BRAF/PTEN/PIK3CA wt、NRG
positiveNRG1β依存性膵臓ガン細胞BxPC3(3×10
6個)であることを除いて、項目Aのものと同様のプロトコールを実施した。BxPC3は、低レベルでHER3レセプターを発現し(レセプター約10,000個/細胞)、リガンドNRG1βを分泌した(NRG1β依存性パラクリンモデル)。
【0192】
図3に示されているように、ビヒクルで処置したマウスにおいて測定した平均腫瘍サイズと比べて、GMB301処置マウスでは、BxPC3腫瘍成長の大きな減少が観察される。
【0193】
しかしながら、今回は、GMB301処置マウスにおいて観察された減少と比較して、9F7−F11で処置したマウス群では、平均腫瘍サイズのよりも小さな減少が観察された。早ければ腫瘍移植の29日後に、9F7−F11よりも良好なGMB301の効果を見ることができた。
【0194】
まとめると、これらの結果は、NRG1β分泌ガンを異種移植したマウスでは、GMB301が9F7−F11よりも効率的に腫瘍成長を遅延させたが、非NRG1β分泌ガンを異種移植したマウスでは、GMB301及び9F7−F11の有効性を比較した場合、同様の結果が得られることを実証している。
【0195】
したがって、本発明者らは、NRG依存性及び非依存性ガンに対して有効な抗体であって、天然リガンドNRGが発現されるガンにおいて、公知の抗HER3抗体と比較して優れた有効性を有する抗体を同定した。
【0196】
実施例4:H4B−121 emablingと比較した、腫瘍細胞に対するGMB301のADCC
LFBのEmabling(登録商標)Technologyにしたがって、H4B−121 emabling(H4B−121−emb)をYB2/0細胞株において生産し、低フコースH4B−121を作製した。
【0197】
Cytotox 96非放射性細胞毒性アッセイ(Promega)を使用してADCCを行って、損傷細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定した。
【0198】
DMEM+10%FCS+抗生物質中で、乳ガンMDA−MB−453由来のターゲット細胞(T)を培養し、トリプシン/EDTAを用いて指数増殖期に回収した。
【0199】
洗浄工程並びに細胞数及び生存率のチェック後、20,000個のMDA−MB−453細胞を滅菌平底96ウェルプレートの各ウェルに追加し、37℃、5%CO2で24時間プレインキュベーションした。
【0200】
次いで、エフェクター細胞の追加前に、1μg/ml試験抗体(GMB301、H4B−121−emb及び無関係なコントロール抗体(Px))を、ターゲット細胞MDA−MB−453、NRG1β(100ng/ml)と共に30分間インキュベーションした。(トリプリケート)
【0201】
製造業者のプロトコールにしたがって密度勾配遠心分離(Ficoll-Paque;d=1.077;GE Healthcare)によって、健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)をエフェクター細胞(E)として調製した。PBMCの細胞数を細胞6×10
6個/mlに調整し、300,000個のエフェクター細胞を各ウェルに追加した(15:1のE:T比)。
【0202】
以下のコントロールを各実験に用意した。ターゲット細胞のみ(ターゲットの自発的LDH放出)、PBMCのみ(エフェクターの自発的LDH放出)、ターゲット細胞+PBMC(抗体非依存的LDH放出)、Triton X−100で処置したターゲット細胞(ターゲットの最大LDH放出)。
【0203】
細胞溶解のために20時間インキュベーションした後、LDH放出測定のために、各ウェルの上清50μlを新たな平底96ウェルプレートに慎重に移した。
【0204】
再構成したLDH基質ミックス(50μl/ウェル)を、細胞毒性アッセイプレートから移したサンプルを含有する酵素アッセイプレートの各ウェルに追加した。
【0205】
暗所、室温で30分間インキュベーションした後、50μl/ウェルの停止溶液を追加し、吸光度を490nmで測定した。
【0206】
以下の式:
特異的溶解の%=(サンプル値からのLDH放出−エフェクターの自発的放出−ターゲットの自発的放出)/(ターゲットの最大放出−ターゲットの自発的放出)*100
を使用して、各サンプルの特異的溶解の%を決定した。
【0207】
図4に示されているように、GMB301は、H4B−121抗体のemablingバージョン(約25%の溶解)よりも強力なMDA−MB−453腫瘍細胞のADCCを誘導する(約65%の溶解)。
【0208】
実施例5:YB2/0細胞において生産された低フコース抗HER3抗体H4B−121−emb及びGMB301は、同様の親和性でHER3レセプターに結合する
リコンビナントヒトHER3細胞外ドメイン(ECD)はR&D Systemsから購入し、H4B−121は、実施例4に示されているように生産した。
【0209】
Nunc Maxisorpプレートを、50ng/ウェルのリコンビナントヒトHER3 ECDによって4℃で16時間コーティングし、PBS中2%BSAでブロッキングした。抗HER3抗体GMB301及びH4B−121−embを0.5μg/ml〜1ng/ml(3nM〜6.5pM)で連続希釈し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0210】
0.1%Tween 20を含有するPBSで洗浄した後、結合した抗HER3抗体を、HRPコンジュゲートF(ab’)2ヤギ抗ヒトF(ab’)
2特異的抗体(Interchim)によって検出した。
【0211】
37℃で2時間経過し、3回洗浄した後、ペルオキシダーゼ活性を検出するための基質としてTMB(3,3,5,5−テトラメチルベンジジン、Sigma)を使用し、1M H2SO4を追加して反応を停止し、プレートを450nmで読み取り、GraphPad Prismの4パラメータ非線形回帰フィットを使用して、結合データ曲線を分析した。
【0212】
図4に示されているように、H4B−121−Emb及びGMB301は、同様の親和性でHER3レセプターに結合し、H4B−121−embは0.11nM+/−0.02のEC50を有する一方、GMB301は0.19nM+/−0.01のEC50を有する。
【0213】
実施例6:腫瘍成長を減少させるために、及びNRG1依存的腫瘍の生存時間を増加させるために、GMB301は抗体H4B−121 emablingよりも効率的である
実施例4に示されているように、H4B−121を生産した。
【0214】
6〜8週齢の無胸腺雌性BALB/cヌードマウスは、Janvier and Charles Rivers Laboratoriesから購入した。NRG1依存的膵臓BxPC3(3×106個)、トリプルネガティブ乳ガンHCC−1806(1×106個)及び肺A549ガン細胞(4×106個)を無胸腺BALB/cヌードマウスの右脇腹に皮下注射した。
【0215】
実験動物研究に関するフランスのガイドラインにしたがって、全てのin vivo実験を行った(承諾番号B34−172−27)。
【0216】
腫瘍が約120〜150mm3の体積に達したら、腫瘍担持マウスを異なる処置群に無作為に分けた。GMB301及びH4B−121−Emb及びビヒクル((NaCl−ネガティブコントロール)を腹腔内注射することによって、マウスを処置した。注射した抗体の量は、300μg/注射(15mg/kg)、週2回、4週間連続(Q3D−4W)であった。
【0217】
キャリパーを用いて腫瘍の寸法を週1回測定し、式D1×D2×D3/2によって体積を計算した。
【0218】
図5の左のパネルに示されているように、コントロール又は抗体H4B−121−embで処置したマウスにおいて測定した平均腫瘍サイズと比べて、GMB301処置マウスでは、NRG1依存的BxPC3、HCC−1806及びA549腫瘍成長のより大きな減少が観察される。
【0219】
対比では、3つの異種移植NRG1依存的腫瘍モデルにおいて、H4B−121−embで処置した群と対比して、GMB301で処置した群では、より大きな利益(コントロール群と対比した処置利益の日数)が観察された(BxPC3:H4B−121−emb群は+14日間であるのに対して、GMB301は+21日間;HCC−1806:H4B−121−embは+7日間であるのに対して、GMB301は+21日間;A549:H4B−121−embは−7日間であるのに対して、GMB301は+21日間)(
図5、右のパネル)。