(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987750
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】構造化ジルコニウム溶液
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20211220BHJP
【FI】
C01G25/00
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-519897(P2018-519897)
(86)(22)【出願日】2016年10月27日
(65)【公表番号】特表2018-533538(P2018-533538A)
(43)【公表日】2018年11月15日
(86)【国際出願番号】GB2016053332
(87)【国際公開番号】WO2017072507
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2019年10月16日
(31)【優先権主張番号】1518996.2
(32)【優先日】2015年10月27日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507217615
【氏名又は名称】マグネシウム エレクトロン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】デビッド アラスター スケィペンズ
【審査官】
青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−218928(JP,A)
【文献】
特開2009−270040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ジルコニウム;
(b)硝酸イオン、酢酸イオンおよび/または塩化物イオン;および
(c)アミン基、有機サルフェート基、スルホネート基、ヒドロキシル基、エーテル基またはカルボン酸基の少なくとも1つの官能基を有する有機化合物である1つ以上の錯化剤を含み、
成分(a):成分(b)(モル比)は1:0.7〜1:4.0であり、成分(a):成分(c)(モル比)は1:0.0005〜1:0.1であり、pHは5未満であり、ZrO2当量基準でジルコニウムを5〜30重量%含む、ジルコニウム溶液またはゾル。
【請求項2】
前記ジルコニウム溶液またはゾルが成分(b)として硝酸イオンを含む場合、成分(a):成分(b)(モル比)は1:0.8〜1:2.0であり;前記ジルコニウム溶液またはゾルが成分(b)として酢酸イオンを含む場合、成分(a):成分(b)(モル比)は1:1.5〜1:4.0であり;前記ジルコニウム溶液またはゾルが成分(b)として塩化物イオンを含む場合、成分(a):成分(b)(モル比)は1:0.7〜1:2.2である、請求項1に記載のジルコニウム溶液またはゾル。
【請求項3】
成分(b)として硝酸イオンを含む、請求項1または2に記載のジルコニウム溶液またはゾル。
【請求項4】
屈折率は少なくとも1.34である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のジルコニウム溶液またはゾル。
【請求項5】
mS/cmで表される導電率は、1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留後、少なくとも10%高い、請求項1〜4のいずれか一項に記載のジルコニウム溶液またはゾル。
【請求項6】
成分(a)は塩基性硫酸ジルコニウムである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のジルコニウム溶液またはゾル。
【請求項7】
(a)ジルコニウム塩を硝酸、酢酸および/または塩酸に溶解させる工程;
(b)得られた溶液に1つ以上の錯化剤を添加する工程であって、前記1つ以上の錯化剤は、アミン基、有機サルフェート基、スルホネート基、ヒドロキシル基、エーテル基またはカルボン酸基の少なくとも1つの官能基を有する有機化合物である工程;および
(c)得られた溶液またはゾルを少なくとも75℃の温度に加熱する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のジルコニウム溶液またはゾルを製造する方法。
【請求項8】
前記ジルコニウム塩は、塩基性炭酸ジルコニウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)において、溶液またはゾルは少なくとも40℃に加熱される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
塩基を添加することによって溶液またはゾルのpHを上昇させる工程を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(c)において、加熱は、溶液またはゾルを少なくとも80℃に加熱することを含む、請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)において、溶液は当該温度に1〜5時間維持される、請求項7〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)の後に、(d)硫酸イオンを添加する工程を含む、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記錯化剤はα−ヒドロキシカルボン酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のジルコニウム溶液またはゾル。
【請求項15】
前記錯化剤はα−ヒドロキシカルボン酸である、請求項7〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜6、14のいずれか一項に記載のジルコニウム溶液またはゾルを使用する、混合金属水酸化物、混合金属酸化物、架橋剤、または官能性もしくは非官能性バインダーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウムゾル/溶液およびジルコニウムゾル/溶液の製造方法に関する。本発明はまた、ジルコニウム混合金属水酸化物、酸化物、リン酸塩、硫酸塩または他のジルコニウム種の調製におけるジルコニウムゾル/溶液の使用、ならびに、架橋剤(特に油田および破砕用途)としての、およびコーティングまたは触媒における官能性または非官能性バインダーとしてのジルコニウムゾル/溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜4において、Woodheadはジルコニウムゾルを形成することを記載している。これらの文献に記載された方法は本発明に係る錯化剤を含まないため、後の用途で使用するためにはゾルにおける構造生成(重合度合い)が不十分である。Woodheadの特許文献で言及されている酸化物生成物は非常に高密度であると記載されており、例えば、触媒用途には完全に不適当である。
【0003】
特許文献5は、特許文献2で製造された、ジルコニアゾルを含む種々の金属ゾルに関し、有機ポリマー(すなわち、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアミノ基を含むもの)が添加されている。しかしながら、有機物の存在下では加熱工程が行われず、ゾル形成段階でZr前駆体の熱加水分解を制御する役割を果たさない。さらに、ゾルのpHは約9〜10である。同様に、特許文献6は、塩基性炭酸ジルコニウムを硝酸に溶解して調製したジルコニウム前駆体を使用する。 次いで、増粘剤をアルカリ性ゲル化浴に滴下する前に添加する。本発明に係る錯化剤は使用していない。
【0004】
特許文献7〜9はいずれも、ジルコニアコロイド/ゾルの形成に関する。しかしながら、いずれの文献にも、ジルコニウムゾルの形成に本発明に係る錯化剤を使用することは開示されていない。
【0005】
特許文献10では、150℃で24時間加熱したオキシ硝酸ジルコニウム前駆体を使用することが記載されている。特許文献11では、ジルコニアのコロイド状含水酸化物の形成について論じられている。特許文献12では、塩基性炭酸ジルコニウムを硝酸に溶解して調製したジルコニアゾルを使用することが記載されている。いずれの文献にも、本発明に係る錯化剤の使用については言及されていない。
【0006】
特許文献13では、ジカルボン酸(例えば、シュウ酸)水溶液にジルコニウム化合物(例えば、塩基性炭酸ジルコニウム)を溶解させてジルコニアゾルを形成することが言及されている。最終生成物は、通常、濃度が非常に低く(約2%ZrO
2)またpHは約6〜7であり、本発明の組成物とは顕著に異なる。さらに、この方法では硝酸、酢酸または塩酸にジルコニウム塩を溶解させていない。
【0007】
特許文献14は、ジルコニウムキレート(α−ヒドロキシカルボン酸)の水溶液の調製に関し、マンデル酸、例えば、ジルコニウムマンデル酸ナトリウム、ジルコニウムマンデル酸カリウム、アミンジルコニウムマンデル酸塩について具体的に記載されている。[α−ヒドロキシカルボキシレート]:Zr比は0.5:1〜20:1であり、本発明で使用される錯化剤の量よりも顕著に高い。
【0008】
特許文献15は、有機キレート剤(例えば、オキシ酸)の存在下での炭酸ジルコニウムアンモニウムの熱処理(加水分解)によるジルコニアゾルの形成に関する。炭酸ジルコニウムアンモニウムを使用するとpH>7のゾルが形成され、これは本発明のpHよりも著しく高い。
【0009】
ジルコニウムゾル/溶液の改良調製方法であって、ゾル/溶液から形成される生成物に有利な特性を付与することができるものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】英国特許第1181794号明細書
【特許文献2】米国特許第3518050号明細書
【特許文献3】米国特許第3645910号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第20030069132A1号明細書
【特許文献5】米国特許第3776987号明細書
【特許文献6】米国特許第5750459号明細書
【特許文献7】中国特許出願公開第102040379号明細書
【特許文献8】中国特許出願公開第102775143号明細書
【特許文献9】中国特許出願公開第102464353号明細書
【特許文献10】米国特許第4788045号明細書
【特許文献11】米国特許第3359213号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第20060115397号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第1994979A1号明細書
【特許文献14】米国特許第5466846号明細書
【特許文献15】米国特許第5234870号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明の一態様によれば、
(a)ジルコニウム;
(b)硝酸イオン、酢酸イオンおよび/または塩化物イオン;および
(c)アミン基、有機サルフェート基、スルホネート基、ヒドロキシル基、エーテル基またはカルボン酸基の少なくとも1つの官能基を有する有機化合物である1つ以上の錯化剤を含み、
成分(a):成分(b)(モル比)は1:0.7〜1:4.0であり、成分(a):成分(c)(モル比)は1:0.0005〜1:0.1であり、pHは5未満である、ジルコニウム溶液またはゾルが提供される。
【0012】
より具体的には、上記溶液またはゾルは、ジルコニウムを5〜30重量%(ZrO
2当量基準)、より具体的には10〜20重量%、更により具体的には12〜16重量%の量で含み得る。ZrO
2として表される当量のジルコニウム含有量は、例えば、100gの15重量%溶液が15gのZrO
2と同じジルコニウム含有量を有することを意味する。
【0013】
特に、上記溶液またはゾルは成分(b)として硝酸イオン(nitrate ion)を含み得る。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、他の酸を使用してもよいものの、硝酸によって提供される硝酸イオンは、水溶液中でジルコニウムイオンと特に良く配位すると考えられる。
【0014】
上記溶液またはゾルが成分(b)として硝酸イオンを含む場合、成分(a):成分(b)(モル比)は、好ましくは1:0.8〜1:2.0である。上記溶液またはゾルが成分(b)として酢酸イオン(acetate ion)を含む場合、成分(a):成分(b)(モル比)は、好ましくは1:1.5〜1:4.0である。上記溶液またはゾルが成分(b)として塩化物イオン(chloride ion)を含む場合、成分(a):成分(b)(モル比)は好ましくは1:0.7〜1:2.2である。
【0015】
より具体的には、上記溶液またはゾルが成分(b)として硝酸イオンまたは塩化物イオンを含む場合、上記溶液またはゾルのpHは2未満であり、いくつかの実施形態では1未満である。特に、上記溶液またはゾルが成分(b)としての酢酸イオンを含む場合、上記溶液またはゾルのpHは5未満であり、いくつかの実施形態ではpHは4未満である。
【0016】
本発明の文脈において、用語「錯化剤」はジルコニウムに結合する配位子(リガンド)を意味するために使用される。いくつかの実施形態において、錯化剤は、カルボン酸、ジカルボン酸、α−ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、有機サルフェート、スルホネート、またはポリオールであり得る。特に、錯化剤は、多座配位性、より具体的には二座配位子性のリガンドであり得る。いくつかの実施形態では、錯化剤は非ポリマー性であり得る。ポリオールは、多糖または炭水化物、例えばスターチであり得る。特に、錯化剤はα−ヒドロキシカルボン酸であり得る。錯化剤は、一般的に、ジルコニウムに配位する極性基(すなわち、アミン基、有機サルフェート基、スルホネート基、ヒドロキシル基、エーテル基またはカルボン酸基)と、1つ以上の炭化水素基とを有する。いくつかの実施形態では、1つ以上の炭化水素基は、1つ以上の芳香族置換基、より具体的には1つ以上のフェニル置換基を有し得る。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、多座配位子は金属イオンに対して効果的に配位する。同一分子内で様々な官能基を組み合わせることは金属イオン上の様々な配位環境と相互作用する上で有利であり得、立体効果と電子効果の両方をもたらす。そのため、ジルコニウム溶液またはゾルから形成される材料に所望される細孔サイズおよび細孔ネットワークの性質に応じて、様々な炭化水素基を有する錯化剤が使用され得る。例えば、α−ヒドロキシカルボン酸は、芳香族(例えば、フェニル)または非芳香族のα−ヒドロキシカルボン酸、より具体的にはマンデル酸、ベンジル酸または乳酸、さらに具体的にはマンデル酸であり得る。
【0017】
より具体的には、成分(a):成分(c)(モル比)は、1:0.001〜1:0.05、さらに具体的には1:0.002〜1:0.02である。
【0018】
いくつかの実施形態では、ジルコニウム溶液またはゾルの屈折率は少なくとも1.34である。屈折率は、脱イオン水でゼロ調整した589nm照明源を使用して20℃で測定した。装置は、Bellingham+Stanley社製のRFM970−T屈折計を使用した。ゾルのジルコニウム溶液は、より具体的には、少なくとも1.05g/cm
3の密度を有する。密度は既知の体積を秤量することによって測定した。密度の測定には、1000μl Thermo scientific FINNPIPETTE F2、および小数点以下4桁まで測定できるOHAUS Pioneer balanceを使用した。
【0019】
ジルコニウム溶液またはゾルは熱処理で「熟成」され得る。当該溶液は、通常、室温(すなわち、25℃)から60〜100℃の範囲、より具体的には80〜100℃の範囲の温度に加熱される。加熱速度は、通常、0.1〜5℃/分、より好ましくは0.2〜1.5℃/分の範囲である。次いで、上記溶液またはゾルを最高温度に約0.5〜15時間、より具体的には1〜5時間、通常約2時間維持する。これは滞留時間として知られている。次いで、上記溶液を室温に放置冷却または冷却する。熱処理の例では、上記溶液またはゾルを1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し、2時間滞留させる。いくつかの実施形態では、ジルコニウム溶液またはゾルは、1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し、2時間滞留させときに3000cpの最大粘度を有する。粘度はChandler 5550粘度計を使用し、せん断速度100s
−1で測定した。
【0020】
いくつかの実施形態では、ジルコニウム溶液またはゾルの導電率は、1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留後の方が高い。より具体的には、mS/cmで表される導電率は、1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留後、少なくとも10%高く、より具体的には少なくとも20%高い。1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留させた後のジルコニウム溶液またはゾルの導電率は、一般的に10〜1000mS/cm、好ましくは25〜450mS/cmである。導電率はHANNA HI8733導電率計を用いて測定し、温度補正は2に設定した。較正チェックはHI70030標準(25℃で12880μS/cm)を使用して毎日実施した。使用した測定器の最大範囲は200mS/cmであった。したがって、200mS/cmを超える全ての値については、サンプルを脱イオン水で3倍希釈し、次いで結果を再計算して当該希釈を考慮した。
【0021】
特に、溶液またはゾルが成分(b)として硝酸イオンを含む場合、当該溶液を1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留後、UV−Vis分光法による測定で361nmにおける吸光度(すなわち強度)が上昇する。好ましくは、吸光度は>2.7倍上昇する(すなわち、上記特定の加熱条件後の吸光度は初期値よりも2.7倍超大きい)。HeLios(登録商標)UV−Visible分光光度計v4.55を用いてUV−Vis分析を行った。
【0022】
より具体的には、1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留後のジルコニウム溶液またはゾル中の滴定可能な酸の量は、4.5〜15mmolH
+/gZrO
2である。滴定可能な酸の量は自動滴定装置TitroLine(SCHOTT Instruments社製)を用いて測定した。試料1mlを脱イオン水800mlに溶解し、0.1M NaOHを用いて等価点(pH7.0−7.1)を滴定した。各使用前にpH4緩衝液およびpH7緩衝液を用いてpHメーターを較正し、また、既知の遊離酸性度の標準を用いて機器をチェックした。いくつかの実施形態では、ジルコニウム溶液またはゾル中の滴定可能な酸の量は、1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留後の方が低い。特に、溶液またはゾルが成分(b)として硝酸イオンを含む場合、ジルコニウム溶液またはゾル中の滴定可能な酸の量は、1℃/分の加熱速度で94℃の温度に加熱し2時間滞留後の方が低い。
【0023】
本発明の更なる態様によれば、ジルコニウム溶液またはゾルを製造する方法であって、
(a)ジルコニウム塩を硝酸、酢酸および/または塩酸に溶解させる工程;
(b)得られた溶液に1つ以上の錯化剤を添加する工程であって、前記1つ以上の錯化剤は、アミン基、有機サルフェート基、スルホネート基、ヒドロキシル基、エーテル基またはカルボン酸基の少なくとも1つの官能基を有する有機化合物である工程;および
(c)得られた溶液またはゾルを少なくとも75℃の温度に加熱する工程を含む方法が提供される。
【0024】
いくつかの実施形態において、ジルコニウム塩は塩基性炭酸ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムであり得る。ある実施形態では、塩基性炭酸ジルコニウム(zirconium basic carbonate;ZBC)が好ましい。鉱酸に容易に溶解し、市販されており、また、生成される炭酸塩アニオンは一過性であるため後続の複雑な反応に関与しないからである。いくつかの代替的なアニオンは環境的に好ましくないことがある。いくつかの実施形態では、ジルコニウム塩は硝酸に溶解される。
【0025】
上記方法で形成されるジルコニウム溶液またはゾルの性質、ならびにその成分の性質は、ジルコニウム溶液またはゾル自体に関して上に規定した通りであることが好ましい。
【0026】
特に、工程(a)において、得られた上記溶液またはゾルは加熱され得る。特に、上記溶液またはゾルは、25℃を超える温度、より具体的には少なくとも40℃、さらにより具体的には少なくとも50℃、より具体的には50〜70℃の範囲の温度に加熱され得る。より具体的には、上記溶液またはゾルは約60℃に加熱され得る。いくつかの実施形態では、工程(a)における加熱は、ジルコニウム塩の溶解や、溶解した二酸化炭素の上記溶液またはゾルからの除去を助けることができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、上記方法は、塩基を添加することによって上記溶液またはゾルのpHを上昇させる(すなわち、部分的に中和する)追加の工程を含み得る。この追加工程は、工程(a)または工程(b)のいずれかの前、最中または後に実施され得る。上記溶液またはゾルが60℃の温度に達する前に行われるならば、工程(c)中に行うこともできる。このpHの上昇は遊離酸度の低下として説明することもできる。特に、pHの上昇は溶液の加熱前に行われ得る。適切な塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、有機アミンが挙げられる。特に、塩基は無機塩基でもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、上記溶液は、工程(a)の後であって工程(b)の前に希釈され得る。この希釈は、通常、水、好ましくは脱イオン水で行われる。より具体的には、希釈工程の有無にかかわらず、上記溶液またはゾルは、ジルコニウムを5〜30重量%(ZrO
2当量基準)、より具体的には10〜20重量%、更により具体的には12〜16重量%の量で含み得る。
【0029】
特に、工程(b)における有機錯化剤は、ジルコニウム溶液またはゾルに関して上で規定した通りである。
【0030】
より具体的には、工程(c)において、上記加熱は、上記溶液またはゾルを少なくとも80℃、より具体的には90℃の温度に加熱することを含み得る。上記溶液またはゾルはこの温度に0.5〜15時間維持され得る。これは滞留時間として知られている。特に、上記溶液またはゾルは、この温度に1〜5時間、より具体的には約2時間維持され得る。より具体的には、工程(c)において、上記溶液の温度は0.1〜5℃/分、さらにより具体的には0.2〜1.5℃/分の速度で上昇され得る。次いで、上記溶液またはゾルは放置冷却または冷却され得る。より詳細には、上記溶液またはゾルは、40℃未満、さらにより具体的には30℃未満、より具体的には室温にまで放置冷却または冷却され得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、上記方法は、工程(c)の後に、(d)硫酸イオンを添加する工程を含む。この工程は、一般的に沈殿物として形成される硫酸ジルコニウムを形成するために行われる。この材料は、硫酸ジルコニウム(IV)、塩基性硫酸ジルコニウム、またはZBS(zirconium basic sulphate)としても知られている。好ましくは、硫酸イオンは、ジルコニウム溶液またはゾルに、ジルコニウムに対する硫酸イオンのモル比が0.1〜1.5となる量で添加される。工程(d)は、通常、98℃以下の温度で行われる。驚くべきことに、本発明の方法を使用することによって、ZBSが当該技術分野で知られている温度よりも低い温度で形成され得ることが本発明者らによって見出された。商業的なZBS製造プロセスは、通常、工業的に許容可能な時間枠内でZBSを沈殿させるために最大98℃の高温を使用する。特に、工程(d)は、40℃未満、好ましくは30℃未満、より好ましくは室温で(すなわち、上述のとおり、上記溶液またはゾルを放置冷却または冷却した後)実施され得る。本発明の第3の態様によれば、上記方法によって得られる塩基性硫酸ジルコニウムが提供される。本発明の第4の態様によれば、(a)アミン基、有機サルフェート基、スルホネート基、ヒドロキシル基、エーテル基またはカルボン酸基の少なくとも1つの官能基を有する有機化合物である1つ以上の錯化剤を含み、ジルコニウム:錯化剤(モル比)は1:0.0005〜1:0.1である塩基性硫酸ジルコニウムが提供される。より具体的には、ジルコニウム:錯化剤(モル比)は1:0.001〜1:0.05、さらに具体的には1:0.002〜1:0.02である。
【0032】
ジルコニウム溶液またはゾルは、上記工程の1つ以上の最中に攪拌され得る。
【0033】
本発明の第5の態様によれば、上で規定された方法によって得られるジルコニウム溶液またはゾルが提供される。
【0034】
本発明の第6の態様によれば、本発明のジルコニウム溶液またはゾルから、あるいは本発明の方法によって得られたジルコニウム溶液またはゾルから形成された、混合金属水酸化物および酸化物、架橋剤(特に油田および破砕用途のもの)、ならびにコーティングにおける官能性または非官能性バインダーが提供される。
【0035】
本明細書で規定された組成物または上記方法で製造された組成物を、特に高温の水熱エージング条件下でエージングさせると、印象的なことに、メソ多孔質領域の細孔容積が保持できることがわかる。この効果には2つの利益があり得る。1つめは、得られる固体中のガス拡散制限を最小限に抑える細孔径が保持されることであり、2つめは、担持金属分散の喪失による触媒活性の低下が最小限になるように適切なサイズの細孔が十分な容積で保持されることである。細孔径分布および細孔容積に変化がないことは固相焼結プロセスの阻害を示しており、これにより、好適なことに、カプセル化を介して担持金属分散の変化が小さくなり得る。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施例を参照して本発明を例示説明する。
【0037】
実験例1〜11
これらの実験例は全て第1の実験例(実験例1)の変形である。実験例1では、塩基性炭酸ジルコニウムを硝酸に溶解してNO
3:Zr(モル比)が0.9:1となるようにストック溶液を調製した。このストック溶液を60℃に加熱して溶解を完了した。このストック溶液の濃度(質量基準のZrO
2当量として表す)は26.0%であり、「ZHN−1」(すなわち、ジルコニウムヒドロキシニトレート)と称される。
【0038】
次いで、出発ジルコニウム濃度が14%(質量基準のZrO
2当量)となるように、必要な量の脱イオン水、硝酸、水酸化ナトリウム、マンデル酸を各実験に必要に応じて添加した。
【0039】
市販のマンデル酸を脱イオン水に溶解してマンデル酸のストック溶液(8.0重量%)を調製した。以下、特段断わりのない限り、マンデル酸(「Mand」)は1.5mol%(ジルコニウム基準)添加し、加熱速度は1℃/分、ピーク温度は94℃、ピーク温度での滞留時間は2時間とした。
【0040】
実験例1〜11の実験条件を以下の表1に、結果を以下の表2に示す。表1において、「ZOC」はオキシ塩化ジルコニウムを意味する。特段指定のない限り、錯化剤はマンデル酸である。
【0041】
表2において、「前」は、初期溶液(すなわち、ピーク温度まで加熱し、ピーク温度で滞留する前)について測定した値を指す。「後」は、この熱処理を行い、周囲温度(すなわち、室温)に冷却した後の値を指す。
【0043】
表1の実験例の溶液の調製に関する更なる詳細を以下に示す。
【0044】
実験例1
65.38gのZHN−1ストック溶液を、2.877gの30%HNO
3、13.03gのマンデル酸ストック溶液および40.14gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に加え、せん断速度100s
−1(実験期間中一定)で窒素下500psiに加圧した。
【0045】
温度を15分かけて周囲温度から60℃に上昇させ、次いで60℃で10分間滞留させた。その後、温度を1℃/分の速度で60℃から94℃に上昇させ、続いて94℃で2時間滞留させた。最後に、温度を約20分かけて周囲温度まで下げた。in−situ粘度をこのプログラム中に記録した。
【0046】
得られたゾルを粘度計測器から取り出し、pH、導電率、屈折率、密度、塩基滴定およびUV−Vis測定で特性解析した。元の溶液(すなわち、上記の温度プログラムに供されないもの)も同様に特性解析した。
【0048】
65.38gのZHN−1ストック溶液を2.877gの30%HNO
3および53.17gの脱イオン水と混合(すなわち、錯化剤は未添加)し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0049】
実験例3
82.13gのオキシ塩化ジルコニウム溶液(20.7%ZrO
2当量、市販の結晶から調製)を3.909gのマンデル酸ストック溶液および35.39gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0050】
実験例4
65.38gのZHN−1ストック溶液を、11.51gの30%HNO
3、1.303gのマンデル酸ストック溶液、16.44gの水酸化ナトリウム溶液(10重量%)および26.79gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0051】
実験例5
65.38gのZHN−1ストック溶液を、2.877gの30%HNO
3、3.909gのマンデル酸ストック溶液および49.26gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0052】
実験例6
65.38gのZHN−1ストック溶液を、2.877gの30%HNO
3、3.909gのマンデル酸ストック溶液および49.26gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、温度を60℃から85℃まで1℃/分の速度で上昇させ85℃で2時間滞留させた以外は実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0053】
実験例7
65.38gのZHN−1ストック溶液を、2.877gの30%HNO
3、0.333gの可溶性スターチ粉末および52.83gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0054】
実験例8
65.38gのZHN−1ストック溶液を、2.877gの30%HNO
3、0.261gのマンデル酸ストック溶液および52.91gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0055】
実験例9
実験例1〜8に関して上述したZHN−1と類似の溶液を同じ試薬/条件を用いて調整したが、NO
3:Zr(モル比)を0.8:1とした。濃度(質量基準のZrO
2当量として表す)は18.0%であった。この溶液94.44gを3.909gのマンデル酸ストック溶液および23.07gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0056】
実験例10
65.38gのZHN−1ストック溶液を、2.877gの30%HNO
3、3.909gのマンデル酸ストック溶液および49.26gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、60℃から94℃まで0.25℃/分の上昇速度を適用したこと以外は実験例1と全く同じ方法で処理した。
【0057】
実験例11
65.38gのZHN−1ストック溶液を、31.65gの30%HNO
3、3.909gのマンデル酸ストック溶液および20.49gの脱イオン水と混合し、10分間撹拌した。次いで、この溶液53cm
3をChandler 5550粘度計の反応容器に添加し、次に実験例1と全く同じ方法で処理した。