(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987751
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】チタン合金粉末製のプリフォームを熱処理するための方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20211220BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20211220BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20211220BHJP
C22C 16/00 20060101ALI20211220BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
B22F3/10 M
B22F3/10 F
C22C1/04 E
C22C14/00 Z
C22C16/00
F27D3/12 Z
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-520029(P2018-520029)
(86)(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公表番号】特表2018-529027(P2018-529027A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】FR2016051710
(87)【国際公開番号】WO2017006053
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2019年7月2日
(31)【優先権主張番号】1556375
(32)【優先日】2015年7月6日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(73)【特許権者】
【識別番号】518005160
【氏名又は名称】アリヤーンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリブール,ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ビーア,ジャン−クロード
(72)【発明者】
【氏名】ジロ,クレマン
【審査官】
松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−273703(JP,A)
【文献】
特開平03−267306(JP,A)
【文献】
特開平06−330105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/10
C22C 1/04
C22C 14/00
C22C 16/00
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン系合金を含む粉末部品プリフォーム(3)を熱処理するための方法にして、炉(1)内において所定温度でプリフォームを熱処理することを含み、プリフォームが、熱処理中にホルダー(6)上にある、方法であって、ホルダー(6)が、45重量%以上のチタン含量を有するチタン系合金または95重量%以上のジルコニウム含量を有するジルコニウム系合金で出来ており、ホルダー材料が、熱処理の所定温度より高い溶融温度を有し、拡散防止バリア(7)が、ホルダーへのプリフォームの溶接を防止するためにプリフォーム(3)とホルダー(6)との間に配設されており、
ホルダー(6)がホルダープレートの形態になっており、
前記ホルダーがセラミック材料のトレイ(5)に載せられており、
ホルダーが、炉(1)内で位置決めされる前に、ストリッピングされることを特徴とする、方法。
【請求項2】
ホルダー(6)が、90重量%以上のチタン含量を有するチタン系合金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホルダー(6)が、99重量%以上のチタン含量を有するチタン系合金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ホルダー(6)が、T40、T60、TiAl6V4、TiAl−48−2−2の中から選択されるチタン系合金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ホルダー(6)が、Zircaloy−2、Zircaloy−4の中から選択されるジルコニウム合金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ホルダーが、0.1mmから20mmの間の厚さ(e)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
拡散防止バリア(7)が、アルミナまたは酸化イットリウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ホルダー(6)が、ストリッピングされていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
プリフォーム(3)の熱処理が、プリフォームの焼結であり、熱処理の所定温度が、焼結工程の温度であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末プリフォームの熱処理の分野全体に関する。より特定すると、本発明は、チタン系合金粉末の成形によって得られた三次元部品のプリフォームの焼結に適用するが、この焼結のみに適用するわけではない。
【背景技術】
【0002】
現在、(例えば、結合剤、熱間等方圧加圧法または「テープキャスティング」による粉末射出成型法(PIMまたはMIM)を使用して)プリフォームを得るために粉末の成形工程を実施し、続いて、プリフォームの焼結工程を実施することによって、金属(または金属合金)製のまたはセラミック製の三次元部品を製造するための方法を使用することが、一般的である。
【0003】
プリフォームの焼結は、一体化して1個の構成要素になった部品を得るために粉末をち密化するように意図された、高温における熱処理(一般的に、焼結温度は、プリフォームの粉末を形成する材料の溶融温度に対して70%から99%の間であり、または液相焼結の場合、この溶融温度より高いことさえある)からなる。
【0004】
酸化に特に影響されやすいチタン系合金(例えば、TiAl6V4、TiAl−48−2−2等)の場合、焼結条件は、酸素による完成部品の汚染を最小化するために、慎重に制御しなければならない。実際、完成部品中の酸素の存在は、完成部品の特性および機械的強度を顕著に悪化させる。
【0005】
これらのチタン系合金のために一般に使用されている焼結条件下において、特に、1100℃より高い焼結温度の場合、完成部品の汚染は、焼結後に比較的顕著である。焼結中に部品を汚染する可能性がある酸素供給源は、
炉のエンクロージャの雰囲気中に含有される微量の酸素、
炉の湿度および
焼結用具(プリフォームを支持しているプレートまたは炉自体等)中に存在する酸素
のうちのものであることが確認されている。
【0006】
酸化によって酸素を吸収する酸素ゲッターまたは酸素トラップを、例えばプリフォームの周囲に配設された金属片の形態で使用することが、公知である。
【0007】
しかしながら、これらの酸素トラップは、上述の合金上において、満足な酸素汚染レベルを達成することができず、この結果、最終的な部品の機械的強度が不十分になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の主要な目的は、チタン系合金を含む粉末部品プリフォームの熱処理の方法であって、炉内において所定温度でプリフォームを熱処理することを含み、プリフォームが、熱処理中にホルダー上にある、方法を提案することによって、上述の欠点を克服することである。本方法は、ホルダーが、45重量%以上のチタン含量を有するチタン系合金または95重量%以上のジルコニウム含量を有するジルコニウム系合金を含み、ホルダー材料が、熱処理の所定温度より高い溶融温度を有し、拡散防止バリアが、ホルダーへのプリフォームの溶接を防止するためにプリフォームとホルダーとの間に配設されていることを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による方法は特に、プリフォームが載せられたホルダーが、熱処理(この熱処理は、焼結であってよい。)後の最終的な部品の酸素汚染の低減を可能にするという点で、注目に値する。
【0010】
最初に、ホルダーが、高いチタン質量含量合金(一般的に、45%超)または高いジルコニウム質量含量合金(一般的に、95%超)を含むため、ホルダーは、炉のエンクロージャ中に存在する雰囲気中の微量の酸素を吸収することができる。実際、チタンまたはジルコニウムは、酸化によって周囲の酸素を容易に吸収することができる。
【0011】
さらに、ホルダーは、プリフォームをすでに汚染した可能性がある酸素の吸収を可能にする。実際、チタンおよびジルコニウムは、プリフォーム中に存在するチタンの酸化中に形成される酸化チタン(TiO
2)より還元作用が強い。したがって、ホルダーは、プリフォーム中に存在する酸素に対して、酸素トラップとして作用する。
【0012】
従来技術において、チタン系合金粉末プリフォームの焼結中、プリフォームは一般的に、(例えば、ジルコニア、アルミナまたはイットリアから製造された)セラミックトレーに載せられている。数回の焼結サイクル後には、セラミックが徐々に劣化していくことが分かっている。酸化還元反応が、セラミックトレーと部品との間で起き、この結果、トレーセラミックが還元され、部品が酸素に富むようになる。
【0013】
本発明による方法の場合、プリフォームは、ホルダー上に配設されており、炉内に存在する他の用具(炉床または上に提示のもの等のセラミックトレー等)と接触しておらず、これにより、有利なことに、これらの用具がプリフォームを汚染できないようにする。言い換えると、ホルダーは、これらの用具とプリフォームとの間で、酸素に対するバリアまたはバッファーとして作用する。
【0014】
最後に、ホルダーが、熱処理の所定温度(例えば、焼結工程の温度)より高い溶融温度を有する材料からなるため、プレートは、塑性変形可能であり、すなわち、プレートは、この所定温度にされたときに、特に、不可逆的な構造変化を受けない。したがって、ホルダーは、数回のサイクルの熱処理にわたって、変形なしで再使用することができる。
【0015】
一部の実施形態において、ホルダーは、90重量%以上、より好ましくは99%以上のチタン含量を有するチタン系合金を含む。例えば、ホルダーは、T40、T60、TiAl6V4、TiAl−48−2−2の中から選択されるチタン系合金を含んでもよい。
【0016】
代替的には、ホルダーは、Zircaloy−2、Zircaloy−4の中から選択されるジルコニウム系合金を含んでもよい。
【0017】
好ましくは、ホルダーは、0.1mmから20mmの間の厚さを有する。同様に好ましくは、拡散防止バリアは、アルミナまたは酸化イットリウム(イットリア)を含む。
【0018】
同様に好ましくは、プレートは、ストリッピングされている。「ストリッピングされている」は、例えば研磨、ミーリング、サンディング等による、プリフォームを支持するように意図されたホルダーの上面を浸食するように意図された任意の処理を意味する。この処理は、ホルダーが酸素(例えば、空気の酸素)の存在下に置かれている場合にホルダー上に形成し得る酸化物層を除去することを可能にするが、熱処理中に酸素を捕集するための反応性表面を増大させることも可能にする。
【0019】
プリフォームの熱処理は、プリフォームの焼結であってよく、熱処理の所定温度が、焼結工程の温度である。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、限定を加える特徴を有さない一実施形態を示している添付図面を参照することにより、下記に与えられた説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】炉のエンクロージャの中に位置決めされており、熱処理が意図されたプリフォームが置かれた、本発明によるホルダーの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで、本発明は、焼結部品の酸素汚染を低減するという目的で、チタン系合金の粉末部品プリフォームを焼結させる本発明の用途に関して、説明される。
【0023】
本発明は、粉末プリフォームの焼結のみに限定されるわけではなく、酸化に対する保護を必要とする任意の種類の熱処理、例えば、結合剤と混合された粉末ブランクとの分断処理において実施されることも同様に可能であることに留意すべきである。
【0024】
図1は、プリフォーム3の高温焼結を実施するために使用される、炉1のエンクロージャ2を非常に概略的に示している。
【0025】
プリフォーム3は、チタン系合金の粉末の成形によって製造されている。例えば、TiAl6V4、Ti−17、Ti−6242、Ti−5553、TiAl−48−2−2、TNMB1等のチタン系合金が使用可能である。
【0026】
それ自体は公知の方法において、プリフォーム3製造のための粉末の成形は、MIM(「金属射出成型」)方式の方法の使用、HIP(「熱間等方圧加圧法」)方式の方法の使用、粉末のキャスティング、テープキャスティング、押出等によって、達成されることが可能である。
【0027】
炉床4は、エンクロージャ2内に配置されているが、炉内に統合されていてもよい。この炉床4は、モリブデン合金プレート(例えば、TZM型のもの)またはグラファイトからなり得る。実際、数個の炉床4が焼結チャンバ中に存在してもよいことに留意すべきである。単純化の理由により、1個の炉床4のみが示されている。
【0028】
セラミック材料のトレー5は、おそらくは、炉の炉床4の上に広がることができる。このセラミックトレー5は、例えば、ジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)またはイットリア(Y
2O
3)を含んでもよい。
【0029】
本発明によれば、ホルダー6は、セラミックプレート5に載せられている。この場合、このホルダー6は、ホルダープレート6の形態になっており、特に二酸化チタン(TiO
2)に対して還元特性を有する金属または金属合金から製造されている。次いで、ホルダープレート6は、チャンバ2の雰囲気下に存在する酸素に対してだけでなく、ホルダープレート6および炉内に存在する用具上に配設されたプリフォーム3中に存在する酸素に対しても、酸素トラップとして作用する。さらに、このホルダープレート6は、セラミックトレー5および炉床4中に存在する酸素に対するバリアとしても機能し、この酸素は、もはや、焼結中にプリフォーム3に到達できない。
【0030】
ホルダー6は、セラミックトレー5または炉床4を、これらの用具に由来した酸素の汚染を限定するために可能な限り被覆することが好ましい。有利なことに、ホルダープレート6は、炉1のエンクロージャ2の基部を被覆している。
【0031】
ホルダー6の厚さeは、例えば、0.1mmから20mmの間であってよい。
【0032】
必要な還元特性を有する材料は例えば、十分に高い質量含量のこれらの元素を有するチタン系合金またはジルコニウム系合金の中から選択され得る。
【0033】
本発明によるホルダー6のためのチタン系合金は、好ましくは45%以上のチタン質量含量、より好ましくは90%以上のチタン質量含量またはさらにより好ましくは99%以上のチタン質量含量を有する。例えば、このような金は、T40、T60、TiAl6V4、TiAl−48−2−2という公知の合金の中から選択され得る。
【0034】
代替的には、本発明によるホルダープレート6のためのジルコニウム系合金は、好ましくは、95%以上のジルコニウム質量含量を有する。例えば、このような合金は、Zircaloy−2、Zircaloy−4という公知の合金の中から選択され得る。
【0035】
さらに、ホルダープレート6は、好ましくは、想定の熱処理温度において、ほぼ塑性変形可能であり、このことは、ホルダープレート6の機械的特性および形状が、ホルダープレート6が晒される温度によって影響されないことを意味する。言い換えると、ホルダープレート6は、寸法が安定でなければならないが、ホルダープレート6が支持している部品の質量によるわずかな変形を受ける可能性がある。
【0036】
実際、ホルダープレート6を構成する材料の溶融温度は、熱処理中に晒される最高の温度より高い。チタン系合金粉末プリフォームを焼結させる場合、焼結温度は、一般に、1100℃より高い。したがって、例えば、ホルダープレート6を構成する材料の溶融温度は、少なくとも、1100℃より高いことが必要である。
【0037】
ホルダープレート6をストリッピングした後、炉1内で位置決めすることが有利である。この位置決めを実施するために、ホルダープレート6は、研磨、ミーリングまたはサンディングされてもよい。このストリッピング処理は、野外でホルダープレート6上に形成されていた可能性があるあらゆる酸化物層の除去を可能にする。さらに、ストリッピングは、ホルダープレート6の反応性表面積を増大させて、酸素トラッピングを改善することも可能にする。
【0038】
ホルダープレート6上に後で配設されたプリフォーム3が、(溶接拡散現象による)金属元素の拡散によりホルダープレート6に付着することを防止するために、ホルダープレート6は、拡散防止バリア7(例えば、アルミナまたはイットリアを主体とする)によって少なくとも部分的に被覆されている。したがって、拡散防止バリアは、ホルダープレート6とプリフォーム3との間に配設されている。拡散防止バリア7の堆積は、ブラシを用いた粉末層の装着または溶液からの噴霧によって、直接実施されることが可能である。
【0039】
上述の拡散防止バリアに類似した拡散防止バリアが、互いに接着することを回避するために、セラミックプレート5とホルダー6との間(場合によっては、または炉床4とホルダー6との間)に配置されていてもよいことにも留意すべきである。
【0040】
すべての用具およびプリフォームが炉内で位置決めされたらすぐに、プリフォーム3は、焼結させることができる。チタン系合金粉末プリフォームを焼結させるための動作条件は、当業者に公知であり、ここではより詳細に説明しない。
【0041】
例
金属射出成型(MIM)法によって成形された、航空機タービンエンジン用のタービン翼の粉末プリフォームの焼結が実施される。使用された粉末は、TiAl−48−2−2型のチタン系合金を含む。
【0042】
この例において使用されたホルダー6は、TiAl6V4型のチタン系合金を含み、溶液からの噴霧により、酸化イットリウム(イットリア)型拡散防止バリアによって被覆される。
【0043】
プリフォームの焼結は、1380℃から1445℃の間の温度において、2時間から10時間の間の期間にわたって、中性アルゴン雰囲気下で実施される。
【0044】
焼結後の最終的な構成要素中の酸素含量(EN10276規格に従って測定される)は、1300ppm程度である。比較のために、本発明によるプレートの使用なしでプリフォームが同じ条件下で焼結された場合、部品中の酸素含量は、4500ppmに到達する。したがって、この例において、本発明によるプレートの使用は、最終的な部品中の酸素汚染を3.5分の1にすることを可能にする。