特許第6987780号(P6987780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6987780-非水電解質二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987780
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20211220BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20211220BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20211220BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20211220BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20211220BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0569
   H01M4/66 A
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-553760(P2018-553760)
(86)(22)【出願日】2017年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2017041176
(87)【国際公開番号】WO2018101048
(87)【国際公開日】20180607
【審査請求日】2020年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-231176(P2016-231176)
(32)【優先日】2016年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 隆希
(72)【発明者】
【氏名】沖 雪尋
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−071975(JP,A)
【文献】 特開2013−235786(JP,A)
【文献】 特開2013−232400(JP,A)
【文献】 特表2014−515171(JP,A)
【文献】 特開2000−090937(JP,A)
【文献】 特開平11−339811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/36−10/39
H01M 4/66
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを有する正極と、
負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを有する負極と、
フルオロエチレンカーボネートを含む非水電解質と、
を備え、
前記負極集電体は、鉄を含有する銅合金で構成されており、
前記非水電解質の非水溶媒中の前記フルオロエチレンカーボネートの含有量は、前記非水溶媒の体積に対して2体積%〜40体積%であり、
前記銅合金中の前記鉄の含有量は、前記銅合金の質量に対して0.02質量%超過2質量%以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極が、正極活物質として一般式LiαNiMnCo(0<α≦1.2、x+y+z=1、x≧y>0、x≧z>0)で表されるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを有する請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの非水電解質二次電池において、非水電解質の溶媒としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)が広く使用されている。FECは、非水電解質二次電池のサイクル寿命を延ばす効果がある。例えば、特許文献1には、非水電解液の溶媒としてFECが含まれ、非水電解液の粘度を2.5mPas以下とした非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−270147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、非水電解質二次電池は、低温環境下で使用される機会が増えている。FECを用いた非水電解質二次電池では、負極上に還元生成物からなる皮膜が形成され、常温・高温環境での充放電時におけるサイクル特性は向上する一方、低温環境での充放電時には放電容量が低下し、サイクル特性がかえって悪くなるという課題が判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを有する正極と、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを有する負極と、フルオロエチレンカーボネートを含む非水電解質とを備え、前記負極集電体は、鉄を含有する銅合金で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、FECを用いた非水電解質二次電池において、低温使用時の放電容量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
近年、例えば寒冷地で使用される蓄電システムの需要が高まっており、非水電解質二次電池が低温環境下で使用される機会が増加している。上述のように、フルオロエチレンカーボネート(FEC)は電池のサイクル特性を改善するために、非水電解質の溶媒として広く使用されているが、本発明者らの検討の結果、FECが存在すると低温使用時には放電容量が低下することが判明した。しかし、寒冷地で使用される蓄電システムでも夏場には高温に曝されることがあり、当該蓄電システムを含む多くの用途では常温・高温使用時のサイクル寿命にも配慮する必要があるため、FECを使用しないことは望ましくない。
【0009】
本発明者らは、FECを含む非水電解質二次電池において、鉄を含有する銅合金で構成された負極集電体を用いることにより、低温使用時の放電容量が特異的に向上することを見出した。かかる負極集電体を用いた場合、低温充電時に生成するリチウム含有還元物が負極表面の全体に薄く広がって均一に堆積することで不可逆容量が減少し、低温使用時の放電容量が改善されるものと推定される。鉄を含有する銅合金からなる負極集電体は、純銅からなる一般的な負極集電体と比べて伸長し易いため、本開示に係る非水電解質二次電池では、充放電時に電極群内の圧力上昇が抑えられ、電極群内の電解液分布が均一化し易いと考えられる。そして、電極群内の均一な電解液分布は、負極表面におけるリチウム含有還元物の均一な堆積に寄与すると推定される。
【0010】
なお、FECを含む非水電解質二次電池において、純銅からなる一般的な負極集電体を用いた場合は、低温充電時に上記リチウム含有還元物が負極表面の特定箇所に厚く堆積する。例えば、巻回構造の電極体の場合、負極の巻き終り側の端部にリチウム含有還元物が局所的に厚く堆積し易いことが分かった。FECを含む従来の非水電解質二次電池において、低温使用時の放電容量の低下は、当該還元物の偏在が主な要因であると考えられる。
【0011】
以下、実施形態の一例として、円筒形の金属製ケースを備えた円筒形電池である非水電解質二次電池10を例示するが、本開示の非水電解質二次電池はこれに限定されない。本開示の非水電解質二次電池は、例えば角形の金属製ケースを備えた角形電池、樹脂製シートからなる外装体を備えたラミネート電池などであってもよい。また、非水電解質二次電池を構成する電極体として、正極及び負極がセパレータを介して巻回された巻回型の電極体14を例示するが、電極体はこれに限定されない。電極体は、例えば複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体であってもよい。
【0012】
図1は、非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回構造を有する電極体14と、非水電解質(図示せず)とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻状に巻回されてなる。以下では、電極体14の軸方向一方側を「上」、軸方向他方側を「下」という場合がある。
【0013】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状に形成され、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層された状態となる。電極体14において、各電極の長手方向が巻回方向となり、各電極の幅方向が軸方向となる。正極11と正極端子とを電気的に接続する正極リード19は、例えば正極11の長手方向中央部に接続され、電極群の上端から延出している。負極12と負極端子とを電気的に接続する負極リード20は、例えば負極12の長手方向端部に接続され、電極群の下端から延出している。
【0014】
図1に示す例では、ケース本体15と封口体16によって、電極体14及び非水電解質を収容する金属製の電池ケースが構成されている。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って封口体16側に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。非水電解質二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16のキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20はケース本体15の底部側に延び、ケース本体15の底部内面に溶接される。非水電解質二次電池10では、ケース本体15が負極端子となる。
【0015】
ケース本体15は、有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、電池ケース内の密閉性が確保されている。ケース本体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する張り出し部21を有する。張り出し部21は、ケース本体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体16を支持する。
【0016】
封口体16は、電極体14側から順に、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、及びキャップ26が積層された構造を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。下弁体23には通気孔が設けられているため、異常発熱で電池の内圧が上昇すると、上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部からガスが排出される。
【0017】
以下、電極体14の各構成要素(正極11、負極12、セパレータ13)及び非水電解質について詳説する。
【0018】
[正極]
正極11は、正極集電体11aと、正極集電体11a上に形成された正極合材層11bとを有する。正極集電体11aには、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層11bは、正極活物質の他に、導電材及び樹脂バインダーを含むことが好適である。正極11は、例えば正極集電体11a上に正極活物質、導電材、及び樹脂バインダー等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極合材層11bを集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0019】
正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物を主成分として含む。正極活物質は、実質的にリチウム遷移金属酸化物のみから構成されていてもよく、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着したものであってもよい。リチウム遷移金属酸化物は、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
リチウム遷移金属酸化物に含有される金属元素としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)等が挙げられる。好適なリチウム遷移金属酸化物の一例は、一般式LiαNiMnCo(0<α≦1.2、x+y+z=1、x≧y>0、x≧z>0)で表されるニッケルマンガンコバルト酸リチウムである。このようなニッケルマンガンコバルト酸リチウムを正極活物質として用いることにより、低温使用時の非水電解質二次電池の放電容量がさらに向上する。
【0021】
正極合材層11bに含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層11bに含まれる樹脂バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0022】
[負極]
負極12は、負極集電体12aと、負極集電体12a上に形成された負極合材層12bとを有する。負極集電体12aは、鉄を含有する銅合金で構成されている。負極合材層12bは、負極活物質の他に、樹脂バインダーを含むことが好適である。負極12は、例えば負極集電体12a上に負極活物質、樹脂バインダー等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層12bを集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0023】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む酸化物などを用いることができる。負極活物質は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
負極合材層12bに含まれる樹脂バインダーには、正極の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて合材スラリーを調製する場合は、CMC又はその塩、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどを用いることが好ましい。
【0025】
負極集電体12aは、上述の通り、鉄を含有する銅合金(以下、「Cu−Fe合金」とする)で構成される。Cu−Fe合金は、Cuを主成分とし、少量のFeを含有する合金である。負極集電体12aは、Cu−Fe合金を表層に配置したフィルムであってもよいが、好ましくはCu−Fe合金の箔である。Cu−Fe合金の箔の厚みは、例えば5μm〜15μmである。上述のように、FECを含む非水溶媒の存在下、Cu−Fe合金の箔を負極集電体12aに適用することで、低温使用時における電池の放電容量を特異的に向上させることができる。
【0026】
負極集電体12aを構成するCu−Fe合金は、Cu、Fe以外の成分を含有していてもよく、実質的にCu、Feのみを含有していてもよい。Cu−Fe合金中のFeの含有量は、Cu−Fe合金の質量に対して0.02質量%超過2質量%以下が好ましく、0.1質量%〜2質量%(0.1質量%以上2質量%以下)がより好ましい。Feの含有量が多くなり過ぎると、負極集電体12aの強度が低下して集電体が破断し易くなるため好ましくなく、他方、Feの含有量が少なくなり過ぎると、低温使用時における放電容量の改善効果が小さくなるため好ましくない。Feの含有量が当該範囲内であれば、負極集電体12aの適切な強度を維持しながら、低温使用時の放電容量を改善し易くなる。
【0027】
Cu−Fe合金中のCuの含有量は、Cu−Fe合金の質量に対して98質量%以上99.98質量%未満が好ましい。Cu−Fe合金にCu、Fe以外の成分が含有される場合、その含有量はFeの含有量より少量であることが好ましい。
【0028】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱性材料を含む耐熱層が形成されていてもよい。耐熱性材料としては、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド(アラミド)等のポリアミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド等のポリイミド樹脂などが例示できる。
【0029】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、少なくともFECが含まれる。FECの含有量は、非水溶媒の体積に対して2体積%〜40体積%(2体積%以上40体積%以下)が好ましく、10体積%〜35体積%がより好ましい。FECの含有量が当該範囲内であれば、低温〜高温環境下での使用時において良好なサイクル特性を維持し易くなる。非水溶媒には、FEC以外のフッ素系溶媒、又は非フッ素系溶媒のうち少なくとも1種を併用することが好適である。なお、非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。また、非水電解質には、ビニレンカーボネート(VC)、エチレンサルファイト(ES)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、及びこれらの変性体などの添加剤が含まれていてもよい。
【0030】
FECとしては、4−フルオロエチレンカーボネート(モノフルオロエチレンカーボネート)、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5−トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5−テトラフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、4−フルオロエチレンカーボネートが特に好ましい。
【0031】
FEC以外の非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のカルボン酸エステル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの水素をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体が挙げられる。これらは、1種類を使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
環状カーボネート類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、ECが特に好ましい。鎖状カーボネート類の例としては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられる。これらのうち、DMC、EMCが特に好ましい。
【0033】
環状エーテル類の例としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類の例としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0034】
好適な非水溶媒の一例としては、FECと、EC、EMC、DMCの少なくとも1種を含む非フッ素系溶媒との組み合わせが挙げられる。この場合、ECの含有量は、非水溶媒の体積に対して10体積%〜30体積%が好ましい。EMCの含有量は、非水溶媒の体積に対して20体積%〜40体積%が好ましい。DMCの含有量は、非水溶媒の体積に対して20体積%〜40体積%が好ましい。
【0035】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6−x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8モル〜1.8モルである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.5Mn0.3Co0.2で表されるニッケルマンガンコバルト酸リチウムを用いた。正極活物質を95質量部と、アセチレンブラックを2質量部と、ポリフッ化ビニリデンを3質量部と、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを混合して、正極合材スラリーを調製した。次に、正極合材スラリーを厚み13μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面にそれぞれ塗布し、塗膜が形成された当該集電体を100℃〜150℃の温度で熱処理してNMPを除去した。その後、集電体及び合材層を含む極板の厚みが0.15mmとなるようにロールプレス機で塗膜を圧縮して正極合材層を形成した。正極合材層が両面に形成された集電体を所定の電極サイズに切断して正極を得た。
【0038】
[負極の作製]
負極活物質として黒鉛粉末を96質量部と、スチレンブタジエンゴムを2質量部と、カルボキシメチルセルロースを2質量部とを混合し、さらに水を適量加えて、負極合材スラリーを調製した。次に、負極合材スラリーを厚み10μmのCu−Fe合金の箔からなる負極集電体の両面にそれぞれ塗布し、塗膜が形成された当該集電体を100℃〜150℃の温度で熱処理して水分を除去した。その後、集電体及び合材層を含む極板の厚みが0.16mmとなるようにロールプレス機で塗膜を圧縮して負極合材層を形成した。負極合材層が両面に形成された集電体を所定の電極サイズに切断して負極を得た。
【0039】
負極集電体を構成するCu−Fe合金は、実質的にCu、Feのみを含有し、Cu−Fe合金中のFeの含有量は0.02質量%である。Cu−Fe合金中のFeの含有量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により測定される。
【0040】
[非水電解液の調製]
FECと、ECと、EMCと、DMCとを、10:25:30:35の体積比で混合した。当該混合溶媒に、1.4モル/Lの濃度になるようにLiPFを溶解させた後、2重量%の濃度(対非水電解液)となるようにビニレンカーボネート(VC)を添加して非水電解液を調製した。
【0041】
[電池の作製]
上記正極にアルミニウムリードを、上記負極にニッケルリードをそれぞれ取り付け、セパレータを介して正極及び負極を渦巻き状に巻回することで巻回型の電極体を作製した。当該電極体を、直径18mm、高さ65mmの有底円筒形状の電池ケース本体に収容し、上記非水電解液を注入した後、ガスケット及び封口体により電池ケース本体の開口部を封口して、18650型、電池容量が2300mAhの円筒形非水電解質二次電池を作製した。
【0042】
<実施例2>
負極集電体として、Feの含有量が2.0質量%であるCu−Fe合金の箔を用い、非水電解液の非水溶媒として、FECと、ECと、EMCと、DMCとを、40:10:30:20の体積比で混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
<比較例1>
負極集電体として、純銅箔(Fe含有量0%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
<比較例2>
非水電解液の非水溶媒として、ECと、EMCと、DMCとを、35:30:35の体積比で混合したものを用いたこと以外は、比較例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0045】
<比較例3>
非水電解液の非水溶媒として、ECと、EMCと、DMCとを、35:30:35の体積比で混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0046】
<比較例4>
負極集電体として、純銅箔(Fe含有量0%)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
上記各非水電解質二次電池について以下の方法で性能評価を行い、評価結果を表1に示した。表1には、当該評価結果と共に、非水溶媒中のFECの含有量、及び負極集電体を構成する銅を主成分とする金属箔中のFeの含有量を示す。
【0048】
[低温使用時における放電容量の評価]
0℃の温度条件下において、電池電圧が4.1Vになるまで2300mAの電流でCCCV充電し(カットオフ電流:46mA)、10分間休止した後、放電電流2300mAで電池電圧が3.0VになるまでCC放電を行い、10分間休止した。この充放電サイクルを3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量を求めた。
【0049】
[サイクル特性(25℃)の評価]
25℃の温度条件下において、電池電圧が4.1Vになるまで2300mAの電流でCCCV充電し(カットオフ電流:46mA)、10分間休止した後、放電電流2300mAで電池電圧が3.0VになるまでCC放電を行い、10分間休止した。この充放電サイクルを600サイクル繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する600サイクル目の放電容量の比率(放電容量維持率)を求めた。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、実施例1,2の電池は、比較例1,4の電池と比べて、低温使用時の放電容量が高い。且つ、実施例1,2の電池の25℃におけるサイクル特性は、比較例1,4の電池の当該サイクル特性より優れていた。FECを用いない比較例2,3の電池は、低温使用時における放電容量は良好であるものの、25℃におけるサイクル特性(放電容量維持率)が80%以下まで低下する。この結果から明らかであるように、FECの存在下、Cu−Fe合金で構成された負極集電体を用いることで、低温使用時の高い放電容量と常温使用時の良好なサイクル特性を両立することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 非水電解質二次電池、11 正極、11a 正極集電体、11b 正極合材層、12 負極、12a 負極集電体、12b 負極合材層、13 セパレータ、14 電極体、15 ケース本体、16 封口体、17,18 絶縁板、19 正極リード、20 負極リード、21 張り出し部、22 フィルタ、23 下弁体、24 絶縁部材、25 上弁体、26 キャップ、27 ガスケット
図1