(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明では、図面中に示されている複数の視野全体を通して、同様の参照記号は、同様の又は対応する部分を示す。また、そうでないことが明記されていない限り、「上部(top)」、「底部(bottom)」、「外側(outward)」、「内側(inward)」等の用語は、便宜上の単語であり、限定的な用語として解釈されるものではないことも理解されたい。更に、あるグループが、複数の要素のグループのうちの少なくとも1つ及びその組合せを含むものとして記載されている場合は常に、上記グループは、列挙されているこれらの要素のうちの、独立した又は互いに組み合わされたいずれの個数の要素を含むか、本質的にこれらからなるか、又はこれらからなってよいものと理解される。同様に、あるグループが、複数の要素のグループのうちの少なくとも1つ又はその組合せからなるものとして記載されている場合は常に、上記グループは、列挙されているこれらの要素のうちの、独立した又は互いに組み合わされたいずれの個数の要素からなってよいものと理解される。そうでないことが明記されていない限り、値の範囲が列挙されている場合、これは、上記範囲の上限及び下限の両方、並びに上限と下限との間のいずれの範囲を含む。本明細書において使用される場合、名詞は、そうでないことが明記されていない限り、「少なくとも1つの(at least one)」又は「1つ以上(one or more)」の対象を指す。また、明細書及び図面中で開示される様々な特徴は、いずれの及びあらゆる組合せで使用できることも理解される。
【0011】
本明細書において使用される場合、「ガラス物品(glass article)」及び「複数のガラス物品(glass articles)」は、全体又は一部がガラス製のいずれの対象を含むよう、その最も広い意味で使用される。そうでないことが明記されていない限り、全ての組成はモルパーセント(モル%)で表される。熱膨張係数(CTE)は、10
‐7/℃で表され、またそうでないことが明記されていない限り、約20℃〜約300℃の温度に亘って測定された値を表す。
【0012】
用語「略、実質的に(substantially)」及び「約(about)」は本明細書において、いずれの量的比較、値、測定値又は他の表現に属し得る、不確定性の固有の度合いを表すために利用できることに留意されたい。これらの用語はまた、本明細書において、ある量的表現が、問題とされている主題の基本的な機能に変化をもたらすことなく、明記された基準値から変動し得る度合いを表すためにも利用される。従って「MgOを実質的に含まない」ガラスは、MgOがガラス中に積極的には添加又はバッチ化されないものの、汚染物質としてごく少量だけ存在し得るガラスである。
【0013】
本明細書に記載されるビッカース割れ開始閾値は、押込み荷重を0.2mm/分の速度でガラス表面に印加した後除去することによって決定される。最大押込み荷重を10秒間保持する。上記押込み閾値は、10個の窪みのうちの50%が、圧子痕跡の角から発生するいずれの数の放射状/中央割れを呈するような押込み荷重において定義される。最大負荷は、所定のガラス組成に関して上記閾値が満たされるまで増大する。全ての押込みの測定は、相対湿度50%において室温で実施される。
【0014】
圧縮応力及び層深さは、当該技術分野で公知の手段を用いて測定される。このような手段は、Luceo Co.,Ltd.(日本、東京)が製造しているFSM‐6000等の市販の機器を用いた表面応力の測定(FSM)を含むがこれに限定されず、圧縮応力及び層深さを測定する方法は、「化学強化フラットガラスに関する標準仕様」というタイトルのASTM1422C‐99、及びASTM1279.19779「アニーリング、熱強化及び完全強化されたガラスにおける縁部及び表面応力の非破壊光弾性測定のための標準的試験方法」に記載されており、これらの内容はその全体が参照によって本出願に援用される。表面応力測定は、応力光係数(SOC)の正確な測定によるものであり、これはガラスの複屈折に関連する。SOCは、繊維法及び4点屈曲法(上記2つの方法は両方とも、「ガラス応力光係数の測定のための標準的試験方法」というタイトルのASTM規格C770‐98(2008年)に記載されており、その内容はその全体が参照によって本出願に援用される)並びにバルクシリンダ法といった、当該技術分野で公知の方法によって測定される。
【0015】
図面全体及び特に
図1を参照すると、これらの図は特定の実施形態を説明する目的のものであり、本開示又は本開示に添付の請求項を制限することを意図したものではないことが理解されるだろう。これらの図面は必ずしも正確な縮尺ではなく、明瞭さ及び簡潔さのために、図面の特定の特徴及び特定の視野を、縮尺に関して誇張して、又は概略的に示す場合がある。
【0016】
本明細書では、SiO
2、Al
2O
3、Na
2O、MgO、B
2O
3及びP
2O
5を含有するガラスについて説明する。これらのガラスは全てイオン交換可能である。これらのイオン交換されたガラスの圧縮応力は、45又は50マイクロメートル(μm)において900メガパスカル(MPa)超であり、一部のガラスは少なくとも1ギガパスカル(GPa)の圧縮応力を呈する。これらのガラスのイオン交換速度は、他のアルカリアルミノケイ酸塩ガラスよりも遥かに速い。更に、一部のこれらのガラスの拡散率は、リンを含有するアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの拡散率に近い。
【0017】
本明細書で説明されるガラスは、SiO
2、Al
2O
3、Na
2O、少なくとも1つの2価金属酸化物、B
2O
3及びP
2O
5を含み、ここでガラス中のアルミナ(Al
2O
3)の量は、B
2O
3及びP
2O
5の合計量以上であり、即ちAl
2O
3(モル%)≧B
2O
3(モル%)+P
2O
5(モル%)である。いくつかの実施形態では、ガラスは:約54モル%〜約71モル%のSiO
2(即ち54モル%≦SiO
2≦72モル%);約9モル%〜約18モル%のAl
2O
3(即ち9モル%≦Al
2O
3≦18モル%);約9モル%〜約18モル%のNa
2O(即ち9モル%≦Na
2O≦18モル%);MgO、CaO、ZnO、BaO及びSrOのうちの少なくとも1つ(ここで0.5モル%≦MgO(モル%)+CaO(モル%)+ZnO(モル%)+BaO(モル%)+SrO(モル%)≦4モル%);約0.5モル%〜約11モル%のB
2O
3(即ち4モル%≦B
2O
3≦11モル%);並びに約0.5モル%〜約11molの%P
2O
5(即ち0.5モル%≦P
2O
5≦11モル%)(ここで4モル%≦B
2O
3+P
2O
5≦15モル%)から本質的になるか、又はこれらを含む。
【0018】
他の実施形態では、ガラスは:約58モル%〜約68モル%のSiO
2(即ち58モル%≦SiO
2≦68モル%);約9モル%〜約16モル%のAl
2O
3(即ち9モル%≦Al
2O
3≦16モル%);約12モル%〜約16モル%のNa
2O(即ち12モル%≦Na
2O≦16モル%);B
2O
3;及びP
2O
5(ここで4モル%≦B
2O
3(モル%)+P
2O
5(モル%)≦15モル%)から本質的になるか、又はこれらを含む。
【0019】
表1は、フュージョンドロープロセスによって作製された、本明細書で説明されるガラスの、組成並びに物理的特性(密度、熱膨張係数(CTE)、歪点、アニール点、軟化点、ヤング率、モル体積、剪断弾性係数、ポアソン比、応力光係数(SOC)、35キロポアズ温度(T
35kP)、及び液相温度(T
L))を列挙する。組成は、X線蛍光を用いて分析した。アニール点、歪み点及び軟化点は、繊維の伸度によって決定した。密度は浮力法によって決定し、CTEは室温〜300℃における平均値であり、SOCは、径方向圧縮法を用いて決定し、TLは勾配ボート内での72時間の保持によって決定した。
【0021】
研究用溶融器内で調製されたガラスの追加の例及び選択された物理的特性が、表2及び2aに列挙されている。表2において報告されている組成は、バッチ調製したままの状態の組成である。アニール点、歪み点及び軟化点は、繊維の伸度によって決定した。密度は浮力法によって決定し、CTEは室温〜300℃における平均値であり、応力光係数は、径方向圧縮法を用いて決定した。
【0027】
シリカ(SiO
2)は、本明細書で説明されるガラス組成物中において一次ガラス形成酸化物としての役割を果たす。SiO
2の濃度は、タッチスクリーン用途に好適な十分に高い化学耐久性をガラスに提供できるよう、十分に高くしなければならない。しかしながら、微小な気泡等の欠陥が現れ得るため、純粋なSiO
2又は高SiO
2ガラスの融点(即ち200ポアズ温度)は高くなり過ぎる。更にSiO
2は、殆どの酸化物に比べて、イオン交換によって生成される圧縮応力を低下させる。SiO
2はまた、ガラスの網状構造に自由容積を追加し、これによって、強度を制限する割れの系を形成するために必要な接点変形量を増大させる。いくつかの実施形態では、ガラスは約54モル%〜約71モル%のSiO
2を含む。他の実施形態では、ガラスは約58モル%〜約68モル%のSiO
2を含み、更に他の実施形態では、ガラスは約60モル%〜約70モル%のSiO
2を含む。
【0028】
アルミナ(Al
2O
3)もまた、これらのガラスにおいてガラス形成剤としての役割を果たし得る。SiO
2と同様、アルミナは一般に、溶融物の粘度を上昇させる。アルカリ類(即ちアルカリ金属及びその酸化物)又はアルカリ土類(即ちアルカリ土類金属及びその酸化物)に対するAl
2O
3の増大は一般に、ガラスの耐久性の改善をもたらす。アルミニウムイオンの構造的役割は、ガラスの組成に左右される。アルカリ金属酸化物(R
2O)の濃度がアルミナの濃度以上である(R
2O≧Al
2O
3)場合、全てのアルミニウムは四面体配位である。アルカリイオンはAl
3+イオンを電荷補償し、従ってアルミニウムイオンはAl
4+イオンとして機能し、これは四面体配位を取り易い。これは表1に列挙されている例示的なガラスのうちの一部に当てはまる。アルミニウムイオン以上のアルカリイオンは、非架橋酸素を形成する傾向を有する。表1に列挙されている他の例示的なガラスでは、アルカリ金属酸化物の濃度はアルミニウムイオンの濃度未満である(R
2O≦Al
2O
3)。ここで2価カチオン酸化物(R’O)もまた、四面体配位アルミニウムを電荷平衡状態とすることができる。カルシウム、ストロンチウム及びバリウムイオンの挙動は、上記2つのアルカリイオンの挙動と同等であるが、マグネシウム及び亜鉛イオンは、その高い電場強度により、アルミニウムを四面体配位において完全に電荷平衡状態とするものではない。これは、5及び6配位アルミニウムの形成をもたらし得る。
【0029】
一般にAl
2O
3は、アルカリイオンの比較的迅速な拡散を可能としながら、強いネットワーク骨格(即ち高い歪み点)を可能とするため、イオン交換可能なガラスにおいてある役割を果たす。しかしながら、ガラス中のAl
2O
3の濃度が高いと、ガラスの液相粘度が低下する。従ってガラス中のAl
2O
3濃度は妥当な範囲内に維持する必要がある。いくつかの実施形態では、ガラスは約9モル%〜約18モル%のAl
2O
3を含み、他の実施形態では約9モル%〜約16モル%のAl
2O
3を含む。更に他の実施形態では、ガラスは約10モル%〜約16モル%のAl
2O
3を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、ガラスはNa
2Oに加えて、少なくとも1つの追加のアルカリ金属酸化物(即ちLi
2O、K
2O、Rb
2O及び/又はCs
2O)を更に含む。アルカリ金属酸化物は、低融点及び低液相温度を達成するために役立つ。しかしながら、アルカリ金属酸化物を添加すると、熱膨張係数(CTE)が劇的に上昇し、ガラスの化学耐久性が低下する。イオン交換を実施するためには、例えば溶融塩浴等のイオン交換媒体中の比較的大きなアルカリイオン(例えばK
+)との交換のために、LiO
2及びNa
2O等の小さな金属酸化物がガラス中に存在する必要がある。一般に3つのタイプのイオン交換を実施できる:Na
+によるLi
+の交換;K
+によるLi
+の交換;及びK
+によるNa
+の交換。Na
+によるLi
+の交換は、深い表面圧縮層深さ(DOL)と、その一方で低い圧縮応力(CS)とをもたらす。K
+によるLi
+の交換は、浅い層深さと、その一方で比較的大きな圧縮応力とをもたらし、K
+によるNa
+の交換は、中程度の層深さ及び中程度の圧縮応力をもたらす。圧縮応力は交換されてガラスから出るアルカリイオンの数に比例するため、大きな圧縮応力を生成するためには、ガラス中の小さなアルカリ金属酸化物の濃度は十分に高い必要がある。従っていくつかの実施形態では、ガラスは、約9モル%〜約18モル%のNa
2Oを含み、他の実施形態では約12モル%〜約16モル%のNa
2Oを含む。いくつかの実施形態では、ガラスは更に、最高約2モル%の他のアルカリ金属酸化物を含む。ガラス中の酸化リチウム(Li
2O)の存在は、K
+‐Na
+イオン交換を阻害し、フュージョンドロー又はスロットドロー等の方法によるガラスの製造性を阻害する傾向を有する。従っていくつかの実施形態では、本明細書で説明されるガラスは、約1モル%未満のLi
2Oを含む。他の実施形態では、ガラスはLi
2Oを含まないか又は実質的に含まない。同様に、ガラス中のK
2Oの存在は、K
+‐Na
+イオン交換を阻害する傾向を有し、このアルカリ酸化物のガラス中の量も制限する必要がある。いくつかの実施形態では、ガラスは、約2モル%未満のK
2Oを含有し、他の実施形態では、約1モル%未満のK
2Oを含有する。
【0031】
アルカリ土類酸化物及びZnO等の2価カチオン酸化物は、ガラスの溶融挙動を改善する。しかしながらイオン交換性能に関して、2価カチオンの存在は、アルカリ金属イオンの移動性を低下させる傾向を有する。イオン交換性能へのマイナスの影響は特に、Ba
2+及びSr
2+等の比較的大きな2価カチオンを用いた場合に顕著である。更に、比較的小さな2価カチオン酸化物(例えばMg
2+、Zn
2+、Ca
2+)は一般に、比較的大きな2価カチオンよりも圧縮応力を増進させる。従ってMgO、ZnO及びいくつかの態様ではCaOは、アルカリイオン拡散性に対する悪影響を最小化しながら、改善された応力緩和に関していくつかの利点を提供する。しかしながら、MgO及びZnOの含有量が高過ぎると、これらはフォルステライト(Mg
2SiO
4)及びガーナイト(ZnAl
2O
4)又はウィレマイト(Zn
2SiO
4)を形成しがちであり、従って、MgO及びZnO濃度がある一定のレベルを超過すると、液相温度が急激に上昇する。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されるガラスは、MgO、ZnO、CaO、BaO及びSrOのうちの少なくとも1つを含み、0.5モル%≦MgO(モル%)+CaO(モル%)+ZnO(モル%)+BaO(モル%)+SrO(モル%)≦4モル%である。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されるガラスは、0モル%〜約4モル%のMgOを含み、他の実施形態では、約0.5モル%〜約4モル%のMgOを含む。酸化カルシウム及び亜鉛でMgOを置換してよい。特定の実施形態では、ガラスは最高約4モル%のZnOを含み、他の実施形態では約0.5モル%〜約4モル%のZnOを含む。いくつかの実施形態では、ガラスはMgO及びZnOを含み、0.5モル%≦MgO(モル%)+ZnO(モル%)≦4モル%である。同様にいくつかの実施形態では、ガラスは最高約4モル%のCaOを含み、他の実施形態では約0.5モル%〜約4モル%のCaOを含み、更に他の実施形態では、ガラスはMgO及びCaOを含み、0.5モル%≦MgO(モル%)+CaO(モル%)≦4モル%である。特定の実施形態では、ガラスは、CaO、BaO及びSrOのうちの少なくとも1つを実質的に含まないか又は含まない。
【0032】
B
2O
3及びP
2O
5の添加により、これらのガラスの損傷耐性は改善される。ホウ素は三角形配位であり、従って、アルカリ酸化物又は2価カチオン酸化物によって電荷平衡状態とされていない場合はその構造を開構造とする。三角形配位ホウ素の周辺のネットワークは、四面体配位ホウ素を取り囲むネットワークほどの剛性はなく、三角形配位ホウ素の結合は「弱く(floppy)」、従ってガラスは、割れの形成前にある程度の変形に耐えることができる。高配位状態に比べて、ホウ素の三角形配位はまた、ガラスネットワーク中に、より多い量の開空間をもたらす。更に、ホウ素及びリンの両方は、溶融粘度を低下させ、ジルコン破壊粘度の抑制を効果的に補助する。
【0033】
B
2O
3とは異なり、P
2O
5は拡散性を改善し、ガラスに関するイオン交換時間を低減する。しかしながら、三角形配位ホウ素及びリンによって形成される構造により、圧縮応力性能がある程度犠牲となり、この場合P
2O
5による影響も顕著である。表1に列挙されたガラスを層深さ50μmまでイオン交換するために必要な時間のプロットである
図3は、イオン交換速度に対するP
2O
5量の増加の影響を示す。
【0034】
いくつかの実施形態では、ガラスは約0.5モル%〜約11モル%のB
2O
3を含み、他の実施形態では約2モル%〜約10モル%のB
2O
3を含む。いくつかの実施形態では、ガラス中に存在するAl
2O
3の量は、ガラス中のB
2O
3の量より多いか又はB
2O
3の量以上であり(即ちAl
2O
3(モル%)≧B
2O
3(モル%))、またAl
2O
3(モル%)≧B
2O
3(モル%)+P
2O
5(モル%)である。いくつかの実施形態では、ガラスは0モル%〜約11モル%のP
2O
5を含み、他の実施形態では0モル%〜約7モル%のP
2O
5を含み、更に他の実施形態では0モル%〜約4モル%のP
2O
5を含む。いくつかの実施形態では、4モル%≦B
2O
3(モル%)+P
2O
5(モル%)≦15モル%である。
【0035】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明されるガラスは、当該技術分野で公知の手段を用いてイオン交換される。ある非限定的な例では、ガラスを、ガラス中に存在するNa
+カチオンより大きい、例えばK
+等のアルカリ金属カチオンを含有する、溶融塩浴に浸漬する。ガラスのイオン交換のために、溶融塩浴中での浸漬以外の手段を用いてもよい。このような手段は、ガラスの少なくとも1つの表面に、ガラス中に導入されることになるカチオンを含有するペースト又はゲルを塗布することを含むが、これに限定されない。
【0036】
イオン交換されたガラスは、
図1に概略図で示すように、圧縮応力(CS)下にある少なくとも1つの表面層を有する。ガラス100は、厚さt、第1の表面110及び第2の表面112を有する。いくつかの実施形態では、ガラス100は最高約2mm、他の実施形態では最高約1mm、他の実施形態では最高約0.7mm、更に他の実施形態では最高約0.5mmの厚さtを有する。ガラス100は、第1の表面120からガラス物品100の塊中に層深さd
1まで延在する圧縮応力下の第1の層120(「圧縮層」)を有する。
図1に示す実施形態では、ガラス100はまた、第2の表面112から第2の層深さd
2まで延在する圧縮応力下の第2の層122を有する。ガラス100はまた、d
1からd
2まで延在する中央領域130も有する。中央領域130は、引張応力又は中央張力下にあり、これは層120及び122の圧縮応力と平衡するか又は反作用する。第1及び第2の圧縮応力120、122の層深さd
1、d
2は、ガラス100の第1及び第2の表面110、112への急峻な衝撃によって導入される傷の伝播からガラス100を保護し、その一方で、第1及び第2の圧縮層120、122内の圧縮応力の大きさは、第1及び第2の圧縮層120、122の深さd
1、d
2を通して傷が突き進む可能性を最小化する。
【0037】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明されるイオン交換されたガラスは、ガラスの表面から少なくとも45μmの層深さまで延在する圧縮層を有し、特定の実施形態では、上記層深さは少なくとも約50マイクロメートル(μm)である。いくつかの実施形態では、少なくとも約45μmの層深さまでイオン交換した場合に、ガラスの1つ以上の圧縮層は、少なくとも約900MPa、他の実施形態では少なくとも約1GPaの圧縮応力下である。
【0038】
表3は、表1に列挙したイオン交換されたガラスのFSM測定から決定されたイオン交換特性(圧縮応力、層深さ)を列挙する。
図2は、表1に列挙したイオン交換されたガラスに関する、圧縮応力及び層深さのプロットである。イオン交換は、それぞれ1.3mmの厚さを有するフュージョンドローされた試料に関して、410℃の精製グレードKNO
3浴中で2時間、3時間、4時間、6時間、8時間及び12時間実施した。CS及びDOL値は平均値であり、SOCを31、及び屈折率(RI)を1.5と仮定することによって補正した。これらのガラスの圧縮応力は一般に900MPa超であり、いくつかの実施形態では
図2に示すように1GPa超である。これらのガラスのイオン交換速度は、リンを含有しないアルカリアルミノケイ酸塩ガラスよりも有意に高い。いくつかの実施形態では、ガラスは、少なくとも45μmの層深さ及び少なくとも約900MPaの圧縮応力を達成するために、約410℃〜約470℃の温度の、KNO
3を含むか又はKNO
3から本質的になるイオン交換浴中で、最高約5時間、いくつかの実施形態では最高約4時間、更に他の実施形態では最高約2時間イオン交換される。
図3は、表1に列挙したガラスに関して50μmの層深さを達成するために必要なイオン交換時間のプロットであり、上記時間は「時間(hour)」で表される。
図3及び表1から分かるように、これらのガラスを50μmのDOLまでイオン交換するために必要な時間は、ガラス中のP
2O
5の量が増大するに従って減少する。
【0040】
表4は、表2に列挙した試料12〜53に関するイオン交換特性を列挙する。圧縮応力及び層深さは、FSM測定から決定した。それぞれ1mmの厚さを有するアニールした試料を、470℃で、精製グレードKNO
3を含有する溶融塩浴中で2時間イオン交換した。表4のCS及びDOL値は平均値であり、SOCを31.8、及びRIを1.5と仮定することによって補正した。
【0042】
表2に列挙した試料54〜60に関するイオン交換特性を、表5に列挙する。圧縮応力及び層深さは、FSM測定から決定した。それぞれ1mmの厚さを有する試料を、精製グレードKNO
3を含有する溶融塩浴中において、420℃で2.5時間イオン交換した。表5のCS及びDOL値は平均値であり、SOCを31.8、及びRIを1.5と仮定することによって補正した。
【0044】
上述のようにしてイオン交換した場合、本明細書で説明されるガラスは、殆どのアルカリアルミノケイ酸塩ガラスに匹敵する、又は殆どのアルカリアルミノケイ酸塩ガラスより高い損傷耐性を示す。この品質は少なくとも部分的に、ガラス中のB
2O
3及びP
2O
5の存在を原因とする開構造によるものである。これらのネットワーク形成要素、特にB
2O
3は、三角形配位であり、ガラス構造を開構造とする。これはガラスの高いモル体積及び低い密度として表れ得る。三角形配位ネットワークは四面体配位ネットワークほどの剛性はなく、従って割れの形成が発生する前により多くの変形に耐えることができる。いくつかの実施形態では、イオン交換されたガラスは、少なくとも約10kgf(約98.1N)のビッカース割れ開始閾値を有する。他の実施形態ではビッカース割れ開始閾値は少なくとも約15kgf(約14.7N)であり、他の実施形態では少なくとも約20kgf(約196.1N)である。表1の試料1〜11に関して測定されたビッカース押込み閾値は、
図4にプロットされている。これらの試料は、精製グレードKNO
3を含有する溶融塩浴中において、410℃で2時間〜8時間イオン交換した。試料1は8時間イオン交換され、試料2〜5は4時間イオン交換され、試料6〜10は3時間イオン交換され、試料11は2時間イオン交換された。これらの試料に関して得られた圧縮応力及び層深さは、表3に列挙されている。表2の試料54〜60に関して測定されたビッカース押込み閾値は、
図5にプロットされている。これらの試料は、精製グレードKNO
3を含有する溶融塩浴中において、420℃で2.5時間イオン交換した。これらの試料に関して得られた圧縮応力及び層深さは、表5に列挙されている。
【0045】
別の態様では、ガラスをイオン交換する方法も提供される。方法600は、KNO
3を含むか又はKNO
3から本質的になるイオン交換浴を提供する第1のステップを含む。このイオン交換浴は、例えばNaNO
3等の他の塩を含有してよく、又はKNO
3のみを含むか若しくはKNO
3のみから本質的になってよい。このイオン交換浴は、プロセス全体を通して約410℃〜470℃の温度に維持される。続いて第2のステップでは、ガラスは、最高約4時間の期間に亘って上記イオン交換浴中でイオン交換され、上記期間の後、イオン交換されたガラスは、少なくとも約900MPa、及びいくつかの実施形態では少なくとも1GPaの圧縮応力下の層を有する。上記層はガラスの表面から少なくとも約45μmの層深さまで延在し、いくつかの実施形態では、層深さは少なくとも約50μmである。本方法でイオン交換されたガラスは、ここまでに説明されている、SiO
2、Al
2O
3、Na
2O、少なくとも1つの2価金属酸化物、B
2O
3及びP
2O
5を含むガラスであり、ここでAl
2O
3(モル%)≧B
2O
3(モル%)+P
2O
5(モル%)である。
【0046】
例示を目的として典型的な実施形態を明らかにしたが、以上の説明を、本開示又は添付の請求項の範囲に対する限定であると考えてはならない。従って、本開示又は添付の請求項の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な修正例、適合例及び代替例が当業者に想起され得る。