(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987913
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】ロックタイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/02 20060101AFI20211220BHJP
F16D 41/08 20060101ALI20211220BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
F16D43/02
F16D41/08 Z
F16H1/32 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-49071(P2020-49071)
(22)【出願日】2020年3月19日
(65)【公開番号】特開2021-148205(P2021-148205A)
(43)【公開日】2021年9月27日
【審査請求日】2020年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
【審査官】
筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6770661(JP,B1)
【文献】
特開2016−186322(JP,A)
【文献】
特開2013−234729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 43/02
F16D 41/08
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されるとともに、前記出力部材から前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材が回転不能となって遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材には円筒形状の偏心輪が、前記出力部材には出力内歯歯車が夫々設けられており、さらに、
断面円形の収容空間部を備えた固定のハウジングと、前記収容空間部に収容される遊星歯車体とを具備し、
前記収容空間部の中心軸は前記共通の回転軸と同心であって、前記収容空間部には中心軸が前記共通の回転軸と同心の固定外歯歯車が配設されており、
前記遊星歯車体は、前記入力部材の前記偏心輪の内側に嵌り込むと共に前記固定外歯歯車と噛み合う遊星内歯歯車と、前記出力内歯歯車と噛み合う遊星外歯歯車とを備え、前記遊星内歯歯車及び前記遊星外歯歯車は軸方向に隣接して一体であって且つ共通の中心軸を有し、前記遊星歯車体は前記共通の回転軸に対し偏心して公転及び自転可能であり、
前記収容空間部には更に、円環形状の補助板が隙間嵌合せしめられており、前記補助板の内周面には、前記固定外歯歯車と噛み合う補助内歯歯車が前記共通の回転軸に対して偏心して形成され、前記補助内歯歯車は付勢手段によって軸方向に付勢されて前記遊星内歯歯車の軸方向端面に当接せしめられている、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記補助内歯歯車の歯数及び前記遊星内歯歯車の歯数は同一であって且つ前記固定外歯歯車の歯数よりも1多い、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
前記出力内歯歯車の歯数は前記遊星外歯歯車の歯数よりも1多い、請求項1又は2に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項4】
前記遊星内歯歯車は、前記入力部材の前記偏心輪の内側に嵌り込む円筒形状の嵌合部を備えた接続部材を備えている、請求項1乃至3のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項5】
前記固定外歯歯車、前記遊星内歯歯車、前記遊星外歯歯車、及び前記出力内歯歯車の歯はいずれもトロコイド歯形である、請求項1乃至4のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項6】
前記補助内歯歯車の歯はトロコイド歯形である、請求項5に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材と出力部材との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力部材(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力部材(従動側)からの動力伝達は、出力部材を回転不能として遮断するロックタイプ双方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から作業機器等を駆動する動力伝達系、例えば、モーターにより物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置となったとき、モーターを停止すると物品が自動的にその位置を保持するような作動が求められる場合がある。そのため、入力軸(入力部材)及び出力軸(出力部材)を備えたロックタイプの双方向クラッチを用いて、入力軸を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力軸の回転により物品を昇降させる装置が知られている。この装置の双方向クラッチでは、モーターにより入力軸を正・逆回転したときは、出力軸が連動して正・逆回転し物品を昇降させる一方、出力軸を正・逆回転しようとすると、出力軸がロックされた状態となって物品の落下を防止する。
【0003】
ロックタイプの双方向クラッチを利用する昇降装置の概要と、双方向クラッチの構造の一例とを
図10、
図11により説明する。
図10は、ベルト及びプーリによって物品を上下する昇降装置と、その駆動装置に備えられる双方向クラッチのA−A断面構造を表すものであり、
図11(a)は、出力軸が入力軸と連動して物品を昇降する状態のA−A断面を、(b)は、出力軸がロックされて物品の落下を阻止する状態のA−A断面を示す。
図10の昇降装置は、上下に配置したプーリP1、P2の間にベルトBを掛け渡し、ベルトBに移送する物品Wを固着した装置であって、上方のプーリP1には、これを回転駆動する正・逆回転可能なモーターMが、双方向クラッチDCを介して連結されている。双方向クラッチDCは、モーターMに連なる入力軸IS、プーリP1に連なる出力軸OS及び固定のハウジングHGを有している。
【0004】
A−A断面図に示されるように、双方向クラッチDCのハウジングHG内では、入力軸ISが複数の扇形部に分割され、扇形部の内側に出力軸OSが嵌め込まれる。出力軸OSには、入力軸ISの隣接する扇形部の間に入り込む突起部が設けてあり、この突起部の先端に形成したV字状凹所とハウジングHGとの間には、ローラRが介在されている。
【0005】
図11(a)に示すように、モーターMにより入力軸ISが回転するときは、入力軸ISの扇形部の側面と出力軸OSの突起部の側面とが当接し、出力軸OSは、入力軸ISに押される形で同一方向に同一速度で回転する。入力軸ISが逆方向に回転するときも同様であって、
図10の昇降装置において、モーターMを正・逆回転すると、ベルトBに固着した物品Wを上昇又は下降させることができる。
これに対し、出力軸OSが回転したときは、(b)に示されるように、ローラRがV字状凹所の斜面に押し上げられて外方に移動し、ハウジングHGと出力軸OSの突起部との間に挟み込まれる。これにより、出力軸OSがロックされてその位置で停止し、入力軸ISに回転が伝達されることはない。つまり、
図10の昇降装置では、モーターMによる駆動を停止しても、物品Wが自重により落下するのを自動的に阻止することができる。このようなロックタイプの双方向クラッチは、本出願人の創案に係る特許第4850653号公報に開示されている。
【0006】
ロックタイプの双方向クラッチは、例えば、複写機のフィニッシャーにおいて、用紙を載せた用紙テーブルを移送する昇降装置、あるいは、建築物の窓のブラインドを昇降する昇降装置に適用することができる。そして、これを利用すると簡易な装置による自動的な動力伝達の制御が可能となって、例えば、電磁クラッチにより制御する場合のような、電力等の使用が不必要となるとともに、出力軸側から不測の逆入力があった場合に、駆動源のモーターを保護することも可能となる。
【0007】
ところで、機械部品あるいは作業機器等を回転駆動する動力伝達系では、駆動する機器の特性に合わせるよう、回転速度やトルクを変更するための減速機あるいは増速機も常套的に使用されている。最近は様々な分野で動力を用いた自動操作が進展し、複写機等のOA機器などにおいては、非常に小型のモーターを駆動源として各種の機器を駆動することが多い。小さいモーターは高速回転、低トルクであるため、こうした場合には、回転速度等を調整する小型の減速機がしばしば動力伝達系に介在される。
【0008】
減速機としては、異なる径のプーリを用いるベルト伝動装置等の摩擦伝動式のものもあるが、一般的には歯車式減速機が用いられ、その中には、遊星運動を利用する内接歯車式の減速機がある。この減速機では、固定された内歯歯車の内側にこれと噛み合う外歯歯車(遊星歯車体)を偏心して配置し、内接歯車機構を構成する。外歯歯車を内歯歯車に沿って移動し公転させると、両歯車の噛み合いにより外歯歯車自体が自転することとなり、公転と自転の回転速度の差を利用して減速が行われる。一般にサイクロ減速機(「サイクロ」は登録商標)と呼ばれる減速機は、このような内接歯車式の減速機の一種である。
【0009】
下記特許文献2には、本願の出願人が本願に先立って特許出願した内接歯車機構式の減速機の一例が示されている。特許文献2に示されている減速機は、共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材と、固定内歯歯車と、固定内歯歯車の内側に偏心して配置され固定内歯歯車と噛み合いながら公転及び自転を行う遊星歯車体とを具備している。入力部材には円形の偏心板が、出力部材には出力外歯歯車が夫々設けられている。遊星歯車体は、入力部材の偏心板の外側に嵌り込むと共に固定内歯歯車と噛み合う遊星外歯歯車と、出力外歯歯車と噛み合う遊星内歯歯車とを備え、遊星外歯歯車及び遊星内歯歯車は軸方向に隣接して一体であって且つ共通の中心軸を有している。
【0010】
入力部材が一方向に回転すると、入力部材の偏心板は共通の回転軸の周りを偏心して一方向に回転する。これにより、偏心板が嵌り込んだ遊星外歯歯車は、共通の回転軸の周りを一方向に公転しながら固定内歯歯車との噛み合いによって他方向に自転させられる。遊星外歯歯車は遊星内歯歯車と一体であって且つこれと共通の中心軸を有することから、遊星内歯歯車は遊星外歯歯車と同一の作動をする。このとき、遊星外歯歯車と噛み合う出力外歯歯車は、遊星外歯歯車の自転成分のみを取り出して、入力部材の回転に対し減速して自転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4850653号公報
【特許文献2】特開第2013−245801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に示されたロックタイプ双方向クラッチでは、その機能を達成するには、入力軸ISの扇形部と出力軸OSの突起部との間などに間隙を設ける必要があり、作動中に衝撃音が発生する。また、双方向クラッチを
図10の昇降装置に適用した場合、モーターMを正転させて物品Wを上昇するときは問題ないが、モーターMを逆転させ物品Wを下降するときに、物品Wの重力に起因して出力軸OSの速度が細かな変動を繰り返し、振動や異音を生じることがある。これは、次の理由による。
物品Wを下降させるためモーターMを逆回転させた場合に、物品Wに作用する重力により、出力軸OSが入力軸ISよりも速く回転(オーバーラン)することがあり、オーバーランが起こると、
図11(b)の状態となってローラRとハウジングHGとが噛み合い、出力軸OSがロックする。このロック状態は、入力軸ISの回転でローラRが押されたときに解除されるが、噛み込みと解除の繰り返しは、出力軸OSの速度に細かな変動を与えることとなる。なお、ロック状態の解除には、ローラに働く摩擦力に打ち勝つトルク(モーメント)を付与する必要があるが、この点は、停止状態にある物品Wを上昇させるときも同じであって、モーターMには、物品Wを上昇させる負荷トルクに加えて噛み込み解除のためのトルクも要求される。
【0013】
さらに、
図10のロックタイプの双方向クラッチでは、出力軸OSの回転数は常に入力軸ISの回転数と等しいとともに、出力軸OSの回転方向も入力軸ISの回転方向と等しい。双方向クラッチ自体では、回転方向や回転速度を変更する変速作動が不可能であり、そのため、入出力軸間でトルクを増減することもできず、出力軸OSに作用する負荷トルクが大きいときは、それに見合うトルクを発生する大型のモーターを駆動源として用意する必要がある。
【0014】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、作動に伴う異音等の発生を防止するとともに、出力軸を停止させるときはロック状態を確実に保持することができる、新規且つ改良されたロックタイプ双方向クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題に鑑み、本発明者は、鋭意検討の結果、噛み込み用ローラを用いることなく、内接遊星歯車機構式減速機の一部である固定外歯歯車に補助内歯歯車を
偏心して噛み合わせると共に、補助内歯歯車を付勢手段で軸方向に付勢して遊星歯車体の軸方向端面に当接させ、
さらに、補助内歯歯車が内周面に形成された円環形状の補助板を固定のハウジングが有する断面円形の収容空間部に隙間嵌合せしめることによって、上記主たる技術的課題を解決することができることを見出した。
【0016】
即ち、本発明によれば、共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されるとともに、前記出力部材から前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材が回転不能となって遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材には円筒形状の偏心輪が、前記出力部材には出力内歯歯車が夫々設けられ
ており、さらに、
断面円形の収容空間部を備えた固定のハウジングと、前記収容空間部に収容される遊星歯車体とを具備し、
前記収容空間部の中心軸は前記共通の回転軸と同心であって、前記収容空間部には中心軸が前記共通の回転軸と同心の固定外歯歯車が配設されており、
前記遊星歯車体は、前記入力部材の前記偏心輪の内側に嵌り込むと共に前記固定外歯歯車と噛み合う遊星内歯歯車と、前記出力内歯歯車と噛み合う遊星外歯歯車とを備え、前記遊星内歯歯車及び前記遊星外歯歯車は軸方向に隣接して一体であって且つ共通の中心軸を有し、
前記遊星歯車体は前記共通の回転軸に対し偏心して公転及び自転可能であり、
前記収容空間部には更に、円環形状の補助板が隙間嵌合せしめられており、前記補助板の内周面には、前記固定外歯歯車と噛み合う補助内歯歯車が前記共通の回転軸に対して偏心して形成され、前記補助内歯歯車は付勢手段によって軸方向に付勢されて前記遊星内歯歯車の軸方向端面に当接せしめられている、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチが提供される。
【0017】
好ましくは、
前記補助内歯歯車の歯数及び前記遊星内歯歯車の歯数は同一であって且つ前記固定外歯歯車の歯数よりも1多いのが好ましい。好適には、前記出力内歯歯車の歯数は前記遊星外歯歯車の歯数よりも1多い。好ましくは、前記遊星内歯歯車は、前記入力部材の前記偏心輪の内側に嵌り込む円筒形状の嵌合部を備えた接続部材を備えている。前記固定外歯歯車、前記遊星内歯歯車、前記遊星外歯歯車、及び前記出力内歯歯車の歯はいずれもトロコイド歯形であるのが好都合である。この場合には、前記補助内歯歯車の歯はトロコイド歯形であるのがよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のロックタイプ双方向クラッチは、共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材と、固定外歯歯車と、共通の回転軸に対し偏心して配置され固定外歯歯車と噛み合いながら公転及び自転する遊星歯車体とを具備している。入力部材には円筒形状の偏心輪が、出力部材には出力内歯歯車が夫々設けられている。遊星歯車体は、入力部材の偏心輪の内側に嵌り込むと共に固定外歯歯車と噛み合う遊星内歯歯車と、出力内歯歯車と噛み合う遊星外歯歯車とを備え、遊星内歯歯車及び遊星外歯歯車は軸方向に隣接して一体であって且つ共通の中心軸を有する。固定外歯歯車には更に、補助内歯歯車が
偏心して噛み合
い、補助内歯歯車は付勢手段によって軸方向に付勢されて遊星内歯歯車の軸方向端面に当接せしめられて
おり、補助内歯歯車が内周面に形成された円環形状の補助板は固定のハウジングが有する断面円形の収容空間部に隙間嵌合せしめられている。
【0019】
本発明のロックタイプ双方向クラッチは上記のとおりの構成を備えていることから、入力部材から出力部材への回転は減速して伝達される。入力部材から出力部材へ回転が伝達される際には、遊星内歯歯車(遊星歯車体)は補助内歯歯車に対して滑る。一方、出力部材から入力部材への回転の伝達は、遊星内歯歯車及び固定外歯歯車の噛み合いによる周方向の所謂ガタと補助内歯歯車及び固定外歯歯車の噛み合いによる周方向のガタとの間で生じる位相のずれ、並びに付勢手段によって生じる遊星歯車体と補助内歯歯車との間の摩擦によって遊星歯車体の回転が規制され、これによって出力部材がロックされて遮断される。
【0020】
本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、内接歯車機構式減速機を利用して、入力部材から出力部材へ回転動力を伝達するとともに、反対向きへの伝達は遮断する。出力部材からの回転伝達の遮断は、内接歯車機構をロック状態とすることにより摩擦力を利用しないで行われるから、出力部材の停止の保持が摩擦力により制限されることはない。さらに、内接歯車機構のロック状態は、出力部材側から駆動しようとすると直ちに生じるので、
図10の双方向クラッチとは異なり、作動中に衝撃音が発生することはない。また、ローラの噛み込みと解除の繰り返しに起因する出力部材の速度変動の発生がないとともに、ローラの噛み込みの解除のために余分なトルクを付与する必要も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に従って構成されるロックタイプ双方向クラッチの好適実施形態の全体構成を示す図。
【
図2】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの入力部材を単体で示す図。
【
図3】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの出力部材を単体で示す図。
【
図4】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチのハウジングを単体で示す図。
【
図5】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの遊星歯車体を単体で示す図。
【
図6】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの補助板を単体で示す図。
【
図7】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチを入力部材側から回転させたときの作動を説明するための図。
【
図8】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチを出力部材側から回転させようとしたときの作動を説明するための図。
【
図9】本発明に従って構成されるロックタイプ双方向クラッチの変形例の全体構成を示す図。
【
図10】従来のロックタイプ双方向クラッチの一例を示す図。
【
図11】
図10のロックタイプ双方向クラッチの作動を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に従って構成されるロックタイプ双方向クラッチの好適実施形態について、更に詳述する。
【0023】
図1を参照して説明すると、本発明に従って構成された、全体を番号2で示すロックタイプ双方向クラッチは、入力部材4と、出力部材6と、固定外歯歯車8と、遊星歯車体10とを具備している。
図1においては、容易に理解できるよう、後述するハウジング30及びシールド板46並びにベアリング42、52、及び60にはハッチングを付していない。
【0024】
図1と共に
図2を参照して説明すると、入力部材4は金属製であって、入力軸部12を備えている。入力軸部12は全体的に円筒形状であって、その軸方向片端部(
図1の中央縦断面及び
図2のA−A断面において右側端部)の外周面には、直径方向に対向する一対の切り欠き14が形成されている。入力軸部12は一対の切り欠き14を介してモーターの如き図示しない駆動源に接続される。入力軸部12の軸方向他端(同左側端)には円形の入力フランジ16が接続されている。入力フランジ16の中心は入力軸部12の回転軸(後述する共通の回転軸o)に対してeだけ偏心している。入力フランジ16の外周縁には軸方向他側に向かって延びる円筒形状の偏心輪18が設けられている。偏心輪18の内周面の軸方向他端部には、周方向に連続して延在する円環形状の溝20が形成されている。
【0025】
図1と共に
図3を参照して説明すると、出力部材6は入力部材4と軸方向に隣接して配置され、出力部材6及び入力部材4は共通の回転軸oを中心として回転可能である。出力部材6は金属製であって、入力軸部12と共に共通の回転軸oと同軸上に位置する出力軸部22を備えている。出力軸部22は全体的に円筒形状であって、その軸方向他端部(
図1の中央縦断面及び
図3のA−A断面において左側端部)の外周面には、直径方向に対向する一対の切り欠き24が形成されている。出力軸部22は一対の切り欠き24を介して昇降装置の如き図示しない従動部材に接続される。出力軸部22の軸方向片端(同右側端)には円形の出力フランジ26が接続されている。出力フランジ26の中心は共通の回転軸oと同心である。出力フランジ26の外周縁部には出力内歯歯車28が設けられている。従って、出力内歯歯車28は共通の回転軸oと同心である。図示の実施形態においては、出力内歯歯車28の歯はトロコイド歯形であって、その歯数は9である。
【0026】
図1に示すとおり、固定外歯歯車8は共通の回転軸oと同心に配置されている。
固定外歯歯車8は、全体が番号30で示される固定のハウジングに設けられている。
図1と共に
図4(a)を参照してハウジング30について説明すると、ハウジング30は金属製であって、略正方形の端板32と、この端板の外周縁から軸方向に延びる筒形状の外周壁34とを備えており、外周壁34の内側には、入力部材4の偏心輪18、出力部材6の出力内歯歯車28、遊星歯車体10、及び後述する補助歯車体等を収容する断面円形の収容空間部36が設けられている。端板32の中央には、出力部材6の出力軸部22が挿通されてこれを回転可能に支持する円形の中央貫通穴38が形成されている。固定外歯歯車8は端板32の中央であって且つ外周壁34の内側(つまり収容空間部36内)に設けられている。固定外歯歯車8の歯はトロコイド歯形であって、その歯数は9である。固定外歯歯車8の中央には中央貫通穴38に連通すると共に収容空間部36内に開放された断面円形の凹部40が形成されている。凹部40は中央貫通穴38と同心であって、凹部40には出力軸部22を回転可能に支持する周知のベアリング42が配設される。外周壁34の隅部には夫々軸方向に貫通する外側貫通穴44も形成されている。外側貫通穴44には、後述するシールド板を固定する際に使用されるボルトが挿通される。
【0027】
外周壁34の開放端は
図4(b)に示されるシールド板46によって閉鎖される。シールド板46は金属製であって、ハウジング30の端板32と対応する略正方形である。シールド板46の中央には、入力部材4の入力軸部12が挿通されてこれを回転可能に支持する円形の中央貫通穴48が形成されている。シールド板46の中央には更に、中央貫通穴48に連通すると共に中央貫通穴48とは軸方向反対側に開放された断面円形の凹部50も形成されている。凹部50は中央貫通穴48と同心であって、凹部50には入力軸部12を回転可能に支持する周知のベアリング52が配設される。シールド板46の隅部には夫々軸方向に貫通する外側貫通穴54が形成されている。ハウジング30とシールド板46とは、外側貫通穴44及び54に図示しないボルトを挿通してナットで締結することで締結される。
【0028】
図1に示すとおり、遊星歯車体10はハウジング30の内側において、前記共通の中心軸oに対し偏心して配置さ
れている。
図1と共に
図5を参照して説明すると、遊星歯車体10は金属製であって、入力部材4の偏心輪18の内側に嵌り込むと共に固定外歯歯車8と噛み合う遊星内歯歯車56と、出力内歯歯車28と噛み合う遊星外歯歯車58とを備えている。図示の実施形態においては、遊星内歯歯車56は周知のベアリング60を介して偏心輪18の内側に嵌り込んでいる。遊星歯車体10は、遊星内歯歯車56及び遊星外歯歯車58を仕切る仕切り壁61を備えており、遊星内歯歯車56は仕切り壁61の他側面(
図1の中央縦断面及び
図5のA−A断面において左側面)に、遊星外歯歯車58は片側面(同右側面)に夫々設けられている。これにより、遊星内歯歯車56及び遊星外歯歯車58は軸方向に隣接して一体であって且つ共通の中心軸o´を有する。遊星歯車体10には中心軸o´と同心に軸方向に貫通する断面円形の貫通穴も形成されており、ここには出力軸部22が挿通されている。
図1に示すとおり、遊星内歯歯車56及び遊星外歯歯車58の共通の中心軸o´は共通の回転軸oに対して偏心して位置する。図示の実施形態においては、遊星内歯歯車56及び遊星外歯歯車58の歯は共にトロコイド歯形であって、遊星内歯歯車56の歯数は10、遊星外歯歯車58の歯数は8である。つまり、遊星外歯歯車58の歯数は出力内歯歯車28の歯数よりも1少ない。
【0029】
図1に示すとおり、固定外歯歯車8には金属製の補助内歯歯車62
も噛み合っている。
図1と共に
図6を参照して説明すると、
断面円形の収容空間部36には、円環形状の補助板64が隙間嵌合せしめられており、補助内歯歯車62は補助板64の内周面に形成され、補助内歯歯車62の中心は共通の回転軸oに対して偏心している。従って、補助内歯歯車62は固定外歯歯車8に偏心して噛み合っている。補助内歯歯車62の歯数は遊星内歯歯車56の歯数と同一であって固定外歯歯車8の歯数よりも1多い。補助内歯歯車62は付勢手段66によって遊星内歯歯車56の軸方向端面に当接せしめられている。付勢手段66は金属製の波ばねであって、これは
図1の中央縦断面を参照することによって理解されるとおり、入力部材4の入力フランジ16とシールド板46との間に配置され、入力部材4及び出力部材6を介して遊星歯車体10を補助板64に弾性的に押し当てている。
【0030】
続いて、
図7及び
図8を参照して、ロックタイプ双方向クラッチ2の作動について説明する。
図7における各矢印に示すように、入力部材4が、駆動源のモーターにより時計方向(中央縦断面図の右方から見て)に回転すると、入力部材4の偏心輪18は共通の回転軸oの周りを偏心して回転する。つまり、偏心輪18は、その中心が共通の回転軸oの周りを半径eの円に沿って時計方向に移動(公転)しながら全体が時計方向に自転する。そうすると、偏心輪18の内側に嵌り込む遊星内歯歯車56は、B−B断面において各矢印で示すとおり、偏心輪18と一体となって公転すると共に、噛み合う固定外歯歯車8との歯数差によって自転させられる。図示の実施形態においては、固定外歯歯車8の歯数が9、遊星内歯歯車56の歯数が10であることから、偏心輪18が1回転すると、これに嵌り込んだ遊星内歯歯車56は、1だけ公転すると共に、遊星内歯歯車56と固定外歯歯車8との歯数差によって1/10だけ自転することとなる。このとき、遊星内歯歯車56は付勢手段66によって軸方向に付勢された状態で補助板64と当接しているが、遊星内歯歯車56は補助板64との摩擦に抗して上述したとおりに動く。遊星内歯歯車56と遊星外歯歯車58とは一体であることから、遊星外歯歯車58が上述したとおりに回転すると、A−A断面において矢印で示すとおり、出力内歯歯車28は時計方向に回転せしめられる。このとき、A−A断面に示されるような内接歯車機構にあっては、
【数1】
na:出力内歯歯車の自転角速度
nb:遊星外歯歯車の自転角速度
nc:遊星外歯歯車の公転角速度
a:出力内歯歯車の歯数
b:遊星外歯歯車の歯数
の関係があることから、出力内歯歯車28(出力部材6)の自転角速度は以下のように算出される。図示の実施形態にあっては、上述したとおり、遊星外歯歯車58の自転角速度nbは1/10、同歯車の公転角速度ncは1、そして、出力内歯歯車28の歯数aは9、遊星外歯歯車58の歯数bは8であることから、上記(式)によれば、出力内歯歯車28の自転角速度naは1/5となる。従って、出力部材6は、入力部材4の1回転に対して1/5に減速して時計方向に回転せしめられる。
【0031】
一方、
図8における各破線矢印で示すとおり、出力部材6を回転させようとしても、出力部材6から入力部材4への回転の伝達は出力部材6がロックされる。つまり、出力部材6から入力部材4への回転の伝達は、出力部材6が回転不能となって遮断される。これは、遊星内歯歯車56及び固定外歯歯車8の噛み合いによる周方向の所謂ガタと補助内歯歯車62及び固定外歯歯車8の噛み合いによる周方向のガタとの間で生じる位相のずれ、並びに付勢手段66によって生じる遊星歯車体10と補助内歯歯車62との間の摩擦によって遊星歯車体10の回転が規制されるためである。
【0032】
本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、内接歯車機構式減速機を利用して、入力部材から出力部材へ回転動力を伝達するとともに、反対向きへの伝達は遮断する。出力部材からの回転伝達の遮断は、内接歯車機構をロック状態とすることにより摩擦力を利用しないで行われるから、出力部材の停止の保持が摩擦力により制限されることはない。さらに、内接歯車機構のロック状態は、出力部材側から駆動しようとすると直ちに生じるので、
図10の双方向クラッチとは異なり、作動中に衝撃音が発生することはない。また、ローラの噛み込みと解除の繰り返しに起因する出力部材の速度変動の発生がないとともに、ローラの噛み込みの解除のために余分なトルクを付与する必要も生じない。
【0033】
図9には、本発明に従って構成されるロックタイプ双方向クラッチの変形例が示されている。全体が番号2´で示されるロックタイプ双方向クラッチの変形例と上述したロックタイプ双方向クラッチ2とは、入力部材と遊星歯車体との接続の部分の構成において相違し、その他の構成においては同一である。以下では、上述したロックタイプ双方向クラッチ2と同一の構成については番号の後に「´」を付してその詳細な説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0034】
入力部材4´が備える入力フランジ16´及び偏心輪18´は比較的小径である。偏心輪18´の内側には、共通の回転軸oと同心の円筒形状の入力支持壁68´が設けられており、入力支持壁68´は入力フランジ16´に接続されている。遊星内歯歯車56´は、入力部材4´の偏心輪18´の内側に嵌り込む円筒形状の嵌合部70´を備えた接続部材72´を備えている。理解しやすいように、
図9では、接続部材72´には薄墨を付して示している。
図9の中央縦断面に示すとおり、図示の実施形態においては、嵌合部70´は周知のベアリング60´を介して偏心輪18´の内側に嵌り込んでおり、嵌合部70´の内側には入力支持壁68´が相対回転可能に嵌め込まれている。本実施形態にあっては、ベアリング60´の径を
図1のロックタイプ双方向クラッチ2のベアリング60の径よりも小さくすることができ、製造コストを低減させることができると共に径方向をコンパクトにすることができる。嵌合部70´の軸方向他端(
図9の中央縦断面において左側端)には円板形状の接続フランジ74´が接続されている。接続フランジ74´の中央には円形の貫通穴76´が形成されており、この内側で入力支持壁68´の端面は出力部材6´の出力フランジ26´と当接してこれによって軸受けされている。接続フランジ74´の外周縁には、嵌合部70´とは軸方向反対側に向かって延びる円筒形状の接続壁78´が形成されている。接続壁78´の内周面には軸方向に直線状に延びる係止溝80´が周方向に等間隔をおいて複数形成されている。遊星内歯歯車56´の外周面には、上記係止溝80´と周方向に係止する係止片82´が係止溝80´と対応して形成されており、係止溝80´と係止片82´との係止によって、遊星内歯歯車56´は接続部材72´と一体となる。ロックタイプ双方向クラッチ2´の作動はロックタイプ双方向クラッチ2の作動と同一であるため、作動についての説明は省略する。
【0035】
以上、本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、遊星外歯歯車の歯数は出力内歯歯車の歯数よりも1少なく設定されていたが、両歯車の歯数及び歯数差は任意に設定可能である。また、図示の実施形態においては、出力内歯歯車及び作動外歯歯車は共にトロコイド歯形であったが、上述した作動が可能であれば両歯車の歯形はトロコイド歯形に限定されず任意の歯形であって良い。さらにまた、図示の実施形態においては、ロックタイプ双方向クラッチを構成する各構成部材はいずれも金属製であったが、これらは合成樹脂等その他適宜の材料によって形成されてもよい。
【符号の説明】
【0036】
2:ロックタイプ双方向クラッチ
4:入力部材
6:出力部材
8:固定外歯歯車
10:遊星歯車体
18:偏心輪
28:出力内歯歯車
56:遊星内歯歯車
58:遊星外歯歯車
62:補助内歯歯車
66:付勢手段