【実施例】
【0022】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0023】
検討1
BCR(Biological Clean Room)内で乳酸菌汚染があった場合を想定し、Enterococcus faecalis (以下、E.faecalis)、Leuconostoc mesenteroides(以下、L.mesenteroides)及びLactobacillus plantarum(以下、L.plantarum)の3種の乳酸菌の混合菌を10〜100CFU/g(二次汚染想定)で、モデル食肉製品(ウインナー形状)に接種し、保存性を確認した。
【0024】
用いた乳酸菌について、表1にまとめた。
【0025】
【表1】
【0026】
より具体的には、次のようにして検討した。
豚肉、食塩、砂糖、リン酸塩、調味料等を混合して調製した練肉をコラーゲンケーシングに充填し、加熱(蒸煮・乾燥・ライトスモーク)及び冷却乾燥した後、真空袋に充填し、ボイル殺菌して、ウインナー形状のモデル食肉製品を製造した。このとき、さらに検討成分として、(T−2a)ソルビン酸0.3質量%及びフマル酸製剤0.3質量%を含むモデル食肉製品、(T−3a)酢酸含有醸造酢0.3質量%及び乳酸製剤1質量%含むモデル食肉製品、も併せて製造した。なお、検討成分が含まれないものを(T−1a)とした。これらのモデル食肉製品(T−1a、T−2a、T−3a)を、菌接種用検体として用いた。
【0027】
なお、本検討及び以下の検討において、用いたフマル酸製剤には33質量%のフマル酸が含有されており、用いた乳酸製剤には乳酸カリウムが含有されている。
【0028】
各モデル食肉製品の真空袋をクリーンベンチ内で開封し、1検体が約30gとなるように、小さくカットした真空袋に2本ずつ無菌的に移した。サンプリングした検体に、事前に調製した1.0×10
4 CFU/mlの接種用菌液を100μlずつ接種し、真空袋の外側から揉み込むことで菌液を製品全体に行き渡らせ、真空包装した。菌液を1製品30g当たり100μl接種したため、各製品当たり33.3CFU/g(二次汚染レベル)で接種したことになる。
【0029】
菌を接種した製品及び菌未接種の製品を、600MPa、10℃、3分間の設定で高圧処理した。また、高圧処理を行わないものをコントロールとした。処理後の検体は4℃で24時間保管後、初発の細菌検査を行い、その後、10℃における保存検査を実施し、乳酸菌数を測定した。
【0030】
乳酸菌数の測定は、厚生労働省監修の食品衛生検査指針に基づき、混釈平板培養法により行った。具体的には、試料希釈液をシャーレに採取し、BCP(ブロムクレゾールパープル)加プレートカウント寒天培地を注入して混合し、静置して培地を凝固させ、シャーレを倒置して35±1℃で48℃±3時間培養し、周囲が黄変したコロニー数をカウントした。
【0031】
T−1a、T−2a、及びT−3aの各モデル食肉製品についての結果を、それぞれ、表2、表3、及び表4に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
なお、T−1a〜T−3aについて、菌接種をしない以外は同様に検討した場合には、乳酸菌数は検討した全保存期間に渡って0であったことも確認した。
【0036】
検討2
豚肉、食塩、砂糖、リン酸塩、調味料等を混合して調製した練肉(但し検討1で用いた練肉と組成は異なる)をコラーゲンケーシングに充填し、加熱(蒸煮・乾燥・ライトスモーク)及び冷却乾燥した後、真空袋に充填し、ボイル殺菌して、ウインナー形状のモデル食肉製品を製造した。このとき、検討成分として何も添加しないものをT−1b、ソルビン酸を0.2質量%となるよう添加したものをT−2b、フマル酸製剤を約0.2質量%となるよう添加したものをT−3b、ソルビン酸を0.1質量%及びフマル酸製剤を約0.1質量%となるよう添加したものをT−4bとし、これらのモデル食肉製品(T−1b、T−2b、T−3b、T−4b)を、菌接種用検体として用いた。
【0037】
各モデル食肉製品の真空袋をクリーンベンチ内で開封し、1検体が約30gとなるように、小さくカットした真空袋に2本ずつ無菌的に移した。サンプリングした検体に、事前に調製した2.3×10
4 CFU/mlの接種用菌液を100μlずつ接種し、真空袋の外側から揉み込むことで菌液を製品全体に行き渡らせ、真空包装した。菌液を1製品30g当たり100μl接種したため、各製品当たり76.7CFU/g(二次汚染レベル)で接種したことになる。
【0038】
菌を接種した製品及び菌未接種の製品を、600MPa、10℃、3分間の設定で高圧処理した。また、高圧処理を行わないものをコントロールとした。処理後の検体は4℃で24時間保管後、初発の細菌検査を行い、その後、10℃における保存検査を実施し、乳酸菌数を測定した。
【0039】
T−1b、T−2b、T−3b、及びT−4bの各モデル食肉製品についての結果を、それぞれ、表5、表6、表7、及び表8に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
【表8】
【0044】
なお、T−1b〜T−4bについて、菌接種をしない以外は同様に検討した場合には、乳酸菌数は検討した保存期間全てに渡って0であったことも確認した。
【0045】
ソルビン酸単独及び/又はフマル酸を添加し、高圧処理することで、優れた乳酸菌増殖抑制効果が得られることが分かった。
【0046】
ソルビン酸もカビや酵母に対する抗菌力の高さは知られている一方、乳酸菌に対する抗菌力は弱いとされているところ、ソルビン酸添加に高圧処理と組み合わせることにより、優れた乳酸菌の増殖抑制効果が得られることがわかった。
【0047】
また、特に、フマル酸は、グラム陰性菌に対して殺菌効果があることは知られているものの、グラム陽性菌に対する効果は知られていなかった。このため、フマル酸添加に高圧処理を組み合わせることにより、グラム陽性菌である乳酸菌に対しても優れた増殖抑制効果を奏することは、予想外であるといえる。
【0048】
またさらに、ソルビン酸は保存料である一方、フマル酸はpH調整剤であるところ、食肉製品の需要者(消費者)は保存料よりもpH調整剤の方を好ましい添加物と認識する傾向があるため、フマル酸添加と高圧処理の組み合わせにより、実用的な乳酸菌増殖抑制効果が得られることは大きな利点となるともいえる。