(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の乗りかごを備え、同じ階の乗場で上下呼びを登録する第1の登録方式と行先呼びを登録する第2の登録方式とを切り替え可能なエレベータの群管理システムにおいて、
上記第1の登録方式と上記第2の登録方式とが切り替えられた場合に、過去一定時間内の需要を判断する第1の需要判断手段と、
上記各乗りかごの中から切り替え後の呼びを割り当てるための割当対象かごの候補を選定し、上記各乗りかごの切り替え前の台数から上記割当対象かごの候補を除いた台数で運行した場合の需要を判断する第2の需要判断手段と、
上記第1の需要判断手段の結果と上記第2の需要判断手段の結果とに基づいて、上記割当対象かごを最終的に決定する割当対象決定手段と
を具備したことを特徴とするエレベータの群管理システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0011】
図1は第1の実施形態に係るエレベータの群管理システムの構成を示すブロック図であり、複数台の乗りかごが群管理された構成が示されている。なお、乗りかごの台数は任意であり、少なくとも2台以上あれば良い。図中の11a,11b,11c…はエレベータ制御装置、12a,12b,12c…は乗りかごである。
【0012】
エレベータ制御装置11a,11b,11c…は、各号機の乗りかご12a,12b,12c…に対応して設けられている。エレベータ制御装置11aは、A号機の乗りかご12aの運転制御を行う。具体的には、エレベータ制御装置11aは、乗りかご12aを昇降動作させるための図示せぬモータ(巻上機)の制御やドアの開閉制御などを行う。B号機のエレベータ制御装置11b、C号機のエレベータ制御装置11cも同様である。これらのエレベータ制御装置11a,11b,11c…は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータによって構成される。乗りかご12a,12b,12c…は、モータ(巻上機)の駆動により昇降路内を昇降動作する。
【0013】
乗りかご12a,12b,12c…には、それぞれにかご呼びを登録するためのかご呼び登録装置13a,13b,13c…が備えられている。「かご呼び」は、図示せぬかご操作盤上に設けられた階床ボタンの操作によって登録される呼びであり、利用者の行先階と乗りかごの情報を含んでいる。
【0014】
ここで、本実施形態は、ハイブリッドDCS方式のエレベータの群管理システムを想定している。ハイブリッドDCSは、上下呼び登録装置21と、乗場行先階登録装置(HDC)22とを備える。上下呼び登録装置21と乗場行先階登録装置22は、同じ階の乗場に併設されており、利用者が登録切替装置23を操作することで切り替えることができる。上下呼び登録装置21と乗場行先階登録装置22は、例えば基準階などの特定の階に併設され、他の階には上下呼び登録装置21または乗場行先階登録装置22が設置される。なお、全ての階に上下呼び登録装置21と乗場行先階登録装置22とが併設されていても良い。
【0015】
図2に示すように、上下呼び登録装置21は、上方向ボタン21aと下方向ボタン21bを備え、これらのボタン操作によって上下呼びを登録するための第1の登録装置である。上下呼びには、出発階(呼び登録階)と利用者の行先方向(上り方向/下り方向)の情報が含まれている。乗場行先階登録装置22は、乗場で行先呼びを登録するための第2の登録装置である。行先呼びには、出発階(呼び登録階)と利用者の行先階の情報が含まれている。
【0016】
図3に示すように、乗場行先階登録装置22は、利用者の行先階を入力するための操作部22aと、操作部22aによって入力された行先階に向かう乗りかご(割当かご)を利用者に知らせるための表示部22bとを有する。「割当かご」とは、呼びが登録された乗りかごのことである。なお、行先階の入力方法としては、テンキーの操作によるものが一般的であるが、例えばICカードなどを用いた方法であっても良い。また、乗場行先階登録装置22は、乗場から離れた場所に設置されていても良い。
図3の例では、利用者が入力した行先階が13階であり、その行先階に対してA号機の乗りかご12aが割り当てられたことが表示されている。利用者は、この表示に従ってA号機の乗場で待機することになる。
【0017】
登録切替装置23は、利用者が呼びの登録方式を切り替えるための装置であり、上下呼び登録装置21と乗場行先階登録装置22に接続されている。
図4に示すように、登録切替装置23は、切り替え操作用のスイッチ23aと、登録方式の切り替えに関するメッセージを表示するための表示部23bとを備える。なお、上下呼び登録装置21、乗場行先階登録装置22、登録切替装置23を一体化したタッチパネル式の登録装置を用いて、画面上のタッチ操作によって上下呼びの登録方式と行先呼び記の登録方式とを切り替える構成にしても良い。
【0018】
図5に示すように、乗場25には乗場ドア26の近傍に乗場行先階表示装置(HDI)24が設置されている。乗場行先階表示装置24は、乗りかごの行先階を所定の時間、表示するための装置である。上記「所定の時間」とは、乗場行先階表示装置24の設置階において、その乗りかごの行先階へ向けた応答を完了するまでの間である。
図5の例では、A号機の行先階として7階、11階、13階が表示されている。このような表示により、利用者は乗りかごの行先階を確認した上で乗車できる。なお、
図5の例では、A号機の乗場行先階表示装置24だけが示されているが、実際には各号機毎に乗場行先階表示装置24が設置されており、それぞれに対応した乗りかごの行先階が表示される。
【0019】
群管理制御装置30は、乗りかご12a,12b,12c…の運転を統括的に制御する装置である。群管理制御装置30は、エレベータ制御装置11a,11b,11c…と同様に、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータによって構成される。本実施形態において、この群管理制御装置30には、呼び管理部31、運転情報取得部32、第1の需要判断部33、第2の需要判断部34、割当対象決定部35、割当出力部36が備えられている。なお、これらは、ソフトウェアによって実現しても良いし、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現しても良いし、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現しても良い。
【0020】
呼び管理部31は、乗場で登録される上下呼び、行先呼び、かご内で登録されるかご呼びを受け付け、これらの呼びが割り当てられた乗りかごの情報と共に管理する。運転情報取得部32は、エレベータ制御装置11a,11b,11c…を通じて各号機の乗りかご12a,12b,12c…の運転情報(現在位置、運転方向、ドアの開閉状態、荷重など)を取得する。
【0021】
第1の需要判断部33は、登録切替装置23によって呼びの登録方式が切り替えられたときに、その切り替え前の需要を判断する。「切り替え前の需要」とは、呼びの登録方式が切り替える前のエレベータの交通需要のことであり、後述するように、過去一定時間内の応答済みの呼びを元に算出される未応答時間Ta(実測値)によって判断される。「未応答時間」とは、任意の階の乗場で呼びが登録されてから、乗りかごがその呼びの登録階(出発階)に到着するまでの時間のことであり、「応答時間」とも言う。
【0022】
第2の需要判断部34は、各乗りかごの中から切り替え後の呼びを割り当てるための割当対象かごの候補を選定し、現在の乗りかごの割当対象かごの候補を除いた台数で運行した場合の切り替え後の需要を判断する。「切り替え後の需要」とは、呼びの登録方式が切り替えられた後のエレベータの交通需要のことであり、後述するように、未応答の呼びを元に算出される未応答時間Tb(予測値)によって判断される。
【0023】
割当対象決定部35は、第1の需要判断部33の結果と第2の需要判断部34の結果とに基づいて、割当対象かごを最終的に決定する。詳しくは、上記割当対象決定手段は、第2の需要判断部34から得られる第2の未応答時間Tbが第1の需要判断部33から得られる第1の未応答時間Taを超えない場合に、割当対象かごの候補を割当対象かごとして決定する。
【0024】
割当出力部36は、割当対象決定部35によって割当対象かごとして決定された乗りかごが複数台存在した場合には、その中で最適な1台の乗りかごを選択する。割当出力部36は、エレベータ制御装置11a,11b,11c…の中の当該乗りかごに対応したエレベータ制御装置に割当信号を出力して、呼びが登録された階(出発階)に応答させる。割当対象かごとして決定された乗りかごが1台の場合には、その1台が当該呼びに応答することになる。
【0025】
ここで、行先呼びの場合には、割当出力部36から乗場行先階登録装置22と乗場行先階表示装置24に当該行先呼びが割り当てられた乗りかご(割当かご)の情報が送られる。これにより、乗場行先階登録装置22の表示部22bに利用者が乗るべき乗りかごの情報が表示され(
図3参照)、乗場行先階表示装置24には当該乗りかごの行先階が表示される(
図5参照)。
【0026】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図6は本実施形態における群管理制御装置30の処理動作を示すフローチャートである。このフローチャートで示される処理は、呼びの登録方式を行先呼びの登録方式から上下呼びの登録方式に切り替えられる合でも、上下呼びの登録方式から行先呼びの登録方式に切り替えられる場合でも適用可能である。
【0027】
一般に、利用者が多い時間帯では、行先呼びの登録方式(乗場行先階登録装置22)が有効的ではあるが、利用者によっては乗場行先階登録装置22の操作方法が分からず、上下呼びの登録方式(上下呼び登録装置21)を好むことがある。利用者が登録切替装置23を操作すると、呼びの登録方式の切り替え指示が群管理制御装置30に入力される(ステップS11のYes)。これにより、群管理制御装置30は、第1の需要判断部33、第2の需要判断部34、割当対象決定部35を用いて、以下のような処理を実行する。
【0028】
すなわち、群管理制御装置30は、まず、現在から過去一定時間(例えば5分)内の応答済みの呼びに対する第1の未応答時間Taを算出する(ステップS12)。例えば、切り替え前に登録された呼びが行先呼びであり、その行先呼びに対してA号機の乗りかご12aが応答したとする。この場合、行先呼びが登録されてから、乗りかご12aが当該行先呼びの登録階に到着するまでの時間が第1の未応答時間Taとして算出される。
【0029】
なお、過去一定時間内に複数の応答済み呼びがあった場合には、これらの呼びに対する各乗りかごの未応答時間の平均値が第1の未応答時間Taとして算出される。この第1の未応答時間Taは実績値であり、切り替え前の需要を判断するための指標値として用いられる。
【0030】
次に、群管理制御装置30は、呼び管理部31に記憶されている未応答の呼びを元にOD(Origin-Destination)表を作成する。「OD表」とは、各階で登録された呼びに対し、利用者の出発階と行先階とを対応付けた表のことである。上下呼びの場合には、利用者の行先階がわからないため、過去の交通需要などを考慮して行先階を推測することになる。群管理制御装置30は、このOD表を用いて、現在の乗りかごの台数(切り替え前の台数)から割当対象かごの候補を除いた台数で、切り替え時に残っている未応答の呼びに応答した場合の運行を予測し、その予測結果から第2の未応答時間Tbを求める(ステップS13)。
【0031】
例えば、切り替え前の乗りかごの台数が5台であったとする。最初は、この5台の乗りかごの中から1台の乗りかごが割当対象かごの候補として選定される。したがって、4台の乗りかごで未応答の呼びに応答した場合の運行をシミレーションして、各乗りかごの未応答時間の平均値を第2の未応答時間Tbとして求める。この第2の未応答時間Tbは予測値であり、切り替え後の需要を判断するための指標値として用いられる。
【0032】
ここで、割当対象かごの候補を選定する場合に、既に割り当てられている呼びが少ない乗りかごを優先的に選ぶものとする。これは、割当対象かごとして決定されたときに、既に割り当てられている呼びを他の乗りかごに割当変更してフリーかごの状態にするためである。なお、割当変更先の乗りかごは、運転方向、行先階、乗車人数などを考慮して決められる。
【0033】
第2の未応答時間Tbが得られると、群管理制御装置30は、その第2の未応答時間Tbを第1の未応答時間Taと比較する(ステップS14)、その結果、第2の未応答時間Tbが第1の未応答時間Taを超えない場合には、群管理制御装置30は、割当対象かごの候補として選定された乗りかごを割当対象かごとして最終的に決定し、その乗りかごに割り当てられていた呼びを他の乗りかごに割当変更する(ステップS15)。
【0034】
同様にして、群管理制御装置30は、各乗りかごの中から割当対象かごの候補を2台,3台…と増やし、現在の乗りかごの台数から割当対象かごの候補台数を除いて、未応答の呼びに応答した場合の第2の未応答時間Tbを計算し、第1の未応答時間Taと比較する。そして、群管理制御装置30は、最終的にTb≦Taを満足する最大台数の乗りかごを割当対象かごとして決定し、これらの乗りかごに割り当てられていた呼びを他の乗りかごに割当変更する(ステップS13〜S16)。
【0035】
なお、割当対象かごの候補を複数台選定する場合に、既に割り当てられている呼びが少ない乗りかごから順に選ぶものとする。もし、既に割り当てられている呼びの数が同じであれば、切り替え後の呼びの登録階に近い乗りかごを優先する。また、上記ステップS14において、Tb>Taであった場合には、切り替え前の利用者に長待ちが生じるため、Tb≦Taの範囲で割当対象かごの台数を決めるものとする。
【0036】
このようにして、割当対象かごの台数が決定されると、群管理制御装置30は、呼びの登録方式を切り替え、利用者が新たに登録した呼びに対して、割当対象かごを応答させる(ステップS17)。この場合、割当対象かごとして複数台の乗りかごが選定されていれば、群管理制御装置30は、上記各乗りかごの中で新たな呼びの登録階に近い乗りかごを応答させる。割当対象かごとして1台の乗りかごが選定されていれば、群管理制御装置30は、その1台の乗りかごを新たな呼びの登録階に応答させる。
【0037】
図7および
図8に割当対象かごの選定例を示す。
図7は切り替え前の需要が多い場合の割当対象かごの選定例、
図8は切り替え前の需要が少ない場合の割当対象かごの選定例を示している。図中の12a〜12eは、A〜E号機の乗りかごを示す。
【0038】
いま、5台の乗りかご12a〜12eが運転中の状態で、利用者Pbによって呼びの登録方式が上下呼び登録方式に切り替えられたとする。上述したように、切り替え前の過去一定時間内の登録済みの呼びを元に第1の未応答時間Taが算出される。また、切り替え前の乗りかごの台数(ここでは5台)から割当対象かごの候補を除いた台数で未応答の呼びに対応した場合の第2の未応答時間Tbが算出される。そして、第1の未応答時間Taと第2の未応答時間Tbとの比較により、Tb≦Taの範囲で割当対象かごが選定される。
【0039】
図7に示すように、切り替え前の需要が多い場合には、切り替え時に未応答の呼びが多数残っているため、多数の乗りかごでこれらの未応答呼びに応答する必要がある。したがって、割当対象かごの台数は少なくなる。
図7の例では、E号機の乗りかご12eだけが割当対象かごとして選定されている。この場合、乗りかご12eに既に登録済みの呼びがあれば、その呼びはA〜D号機の乗りかご12a〜12dのいずれかに割当変更される。これにより、利用者Pbを待たせることなく、乗りかご12eを応答させることができる。また、切り替え前に登録した利用者Paの人数が多くても、4台の乗りかご12a〜12dで応答するので、利用者Paを待たせることもない。
【0040】
一方、
図8に示すように、切り替え前の需要が少ない場合には、切り替え後に残っている未応答の呼びも少ないため、割当対象かごの台数が多くなる。
図8の例では、C〜E号機の乗りかご12c〜12eが割当対象かごとして選定され、切り替え後に登録された利用者Pbの呼びに応答する。これにより、切り替え後の需要が増えたとしても、切り替え前の利用者Paを待たせることない。
【0041】
なお、例えば一日の交通需要の変化を学習しておき、呼びの登録方式が切り替えられたときに、そのときの時間帯の交通需要に基づいて、割当対象かごの台数を調整することでも良い。例えば、今後の交通需要が高くなる傾向にあれば、Tb≦Taの範囲で決められた割当対象かごの台数よりも多くする。また、ビルの管理システムから時間帯毎の利用者の発生データを取得し、その発生データを用いて割当対象かごの台数を調整することでも良い。さらに、割当対象かごの台数を選定した後でも、今後の需要を監視し、選定時よりも需要が多くなれば、割当対象かごを増やすなどの調整を行うことが好ましい。
【0042】
このように、切り替え前の利用者と切り替え後の利用者の両方に配慮して割当対象かごを選定でき、切り替え前と切り替え後のどちらの利用者に対しても長待ちを防いで効率良く運ぶことができる。
【0043】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、呼びの登録方式が切り替えられた場合に、切り替え前の利用者と切り替え後の利用者の両方に配慮して乗りかごを応答させることができるエレベータの群管理システムを提供することができる。
【0044】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータの群管理システムは、第1の登録方式と第2の登録方式とが切り替えられた場合に、過去一定時間内の需要を判断する第1の需要判断手段と、各乗りかごの中から切り替え後の呼びを割り当てるための割当対象かごの候補を選定し、上記各乗りかごの切り替え前の台数から上記割当対象かごの候補を除いた台数で運行した場合の需要を判断する第2の需要判断手段と、上記第1の需要判断手段の結果と上記第2の需要判断手段の結果とに基づいて、上記割当対象かごを最終的に決定する割当対象決定手段とを備える。