【実施例】
【0061】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
≪試験例1:小房子嚢菌からのDNA抽出法の比較検討≫
小房子嚢菌以外の子嚢菌類あるいは小房子嚢菌の培養菌体からのDNA抽出法と知られている4つの公知の方法と、本発明の方法を比較検討した。
【0063】
<1>材料
以下の4種類の小房子嚢菌の乾燥標本(三菱化学科学技術研究センター)を検討に使用した。公知の形態観察による分類により、目あるいは可能であれば属や種の同定を行った。
(A)及び(D)は試験に供する約3年前に採集された新しい標本、(B)及び(C)は試験に供する約26年前に採集された古い標本である。
(A)Dothidea sp. 標本番号59 採集日2010年11月24日
(B)Botryosphaeria sp. 標本番号5873 採集日1987年11月6日
(C)Rhytidhysteron rufulvum 標本番号5839 採集日1987年11月16日
(D)Ophiobolus fulgidus 標本番号108 採集日2010年6月24日
【0064】
<2>DNA抽出方法
<2−1>スライドガラス加圧法(比較例1)
Alex Weir & Meredith Blackwell 2001. Mycologia 93(4) 802-806を参考に以下の方法で行った。2枚のスライドガラスに小房子嚢菌の子実体20個体を挟んで、Yeast Cell
Lysis Solution(MasterPure(登録商標) Yeast DNA Purification Kit:Epicentre Biotechnologies社製)を一滴添加して指で強く押しつぶした。子実体が完全につぶれたら、300μLのYeast Cell Lysis Solutionでスライドガラスに付着した菌体を洗い落として、上記Epicentre Biotechnologiesによるキットの説明書に従ってDNAを抽出した。DNAは30μL溶液とした。DNAの収量は、子実体1個体あたり(A)24.6ng、(B)97.05ng、(C)130.95ng、(D)95.85ngであった。
【0065】
<2−2>金づち法(比較例2)
四本能尚、大原亜紀子、三川隆 1995. Microbiol. Cult. Coll. 19-21を参考に以下の方法で行った。小房子嚢菌の子実体20個をアルミホイル上に乗せて、2cm×2cm位の大きさに折りたたみ、更に、アルミホイルを2重にかけた。これを、1時間以上、−80℃に入れて凍結した。その後、フリーザーからアルミホイルを取り出し、すばやくプラスチックのハンマーで叩いて粉砕した。子実体及び子嚢が破砕したら、アルミホイルが破れないように開いて、Yeast Cell Lysis Solutionを300μL添加して、上記Epicentre Biotechnologiesによるキットの説明書に従ってDNAを抽出した。DNAは30μL溶液とした。DNAの収量は、子実体1個体あたり(A)185.85ng、(B)204.3ng、(C)451.635ng、(D)59.55ngであった。
【0066】
<2−3>超音波破砕法(比較例3)
R.A.Haugland, et al. 1999, Journal of Microbiological Methods 37, 165-176を参考に以下の方法で行った。小房子嚢菌の子実体50個体をホモジエナイザー(Mini Cordless Grinder:フナコシ社)に入れて、Yeast Cell Lysis Solutionを1ml添加して、ホモジェナイズした。子実体及び子嚢を破砕して、子嚢胞子の懸濁液を作製した。この胞子懸濁液400μLをマイクロチューブに入れて、ガラスビーズ(200mg)を添加して、超音波洗浄機で15分処理した。DNAの抽出、精製は上記Epicentre Biotechnologiesによるキットの説明書に従って行った。DNAは30μL溶液とした。DNAの収量は、子実体1個体あたり(A)14.4ng、(B)59.16ng、(C)91.02ng、(D)13.8ngであった。
【0067】
<2−4>ホモジナイズ破砕法(比較例4)
R.A.Haugland, et al. 1999, Journal of Microbiological Methods 37, 165-176を参考に以下の方法で行った。小房子嚢菌の子実体50個体をホモジナイザーに入れて、Yeast Cell Lysis Solutionを1ml添加して、ホモジナイズした。子実体および子嚢を破砕して、子嚢胞子の懸濁液を作製した。この胞子懸濁液400μLをマイクロチューブに入れて、ガラスビーズ(200mg)を添加して、ホモジナイザー(Mini Cordless Grinder:フナコシ社)で3分間、300rpmで破砕した。DNAの抽出、精製は上記Epicentre Biotechnologiesによるキットの説明書に従って行った。DNAは30μL溶液とした。DNAの収量は、子実体1個体あたり(A)32.22ng、(B)26.4ng、(C)179.04ng、(D)43.72ngであった。
【0068】
<2−5>支持体接着破砕法(実施例1)
ガラス製マイクロ試験管に接着剤(アロンアルフア extra(登録商標):東亜合成社)を数滴滴下し、その上に小房子嚢菌の子実体を5個体を置いて固化した。完全に固化した後、Yeast Cell Lysis Solutionを300μL試験管に添加して、切削ビット(DREMEL社)を付けたミニルーター(PROXXON社)で、2分、8000rpmで、子実体及び子嚢を粉砕した。DNAの抽出、精製は上記Epicentre Biotechnologiesによるキットの説明書に従って行った。DNAは30μL溶液とした。DNAの収量は、子実体1個体あたり(A)398.4ng、(B)303ng、(C)595.2ng、(D)336.06ngであった。
【0069】
<3>小房子嚢菌の同定方法
<3−1>DNAの増幅
<3−1−1>第1回目のPCR
DNA増幅キット(puRe Taq(登録商標)Ready-To-Go(登録商標)PCR beads、GE Healthcare社)を用い、総量を25μLとし、フォワードプライマーを10pmol、リバースプライマーを10pmol、前記方法による抽出DNA(鋳型DNA)2μLを含む
反応液で、DNAサーマルサイクラー(Applied Biosystems 2720:Applied Biosystems社製)により、95℃1分予備加熱後、95℃40秒、52℃40秒、72℃ 2分を25回のPCR反応を行い、次いで、95℃40秒、52℃40秒、72℃ 2分の15回の反応を行うが、伸張反応の時間を1サイクルごとに5秒ずつ加算して行き、72℃10分の伸張反応を行った。
プライマーは、表1に示す真菌に共通のプライマー(TM01F、TM11R)を用いた。
【0070】
<3−1−2>第2回目のPCR(nested−PCR)
鋳型DNAとして第1回目のPCR産物を用いる以外は第1回目のPCRと同じ反応液組成とした。鋳型DNAとしては、第1回目のPCR産物の1μLを使用した。nested−PCRは、DNAサーマルサイクラー(Applied Biosystems 2720:Applied Biosystems社製)により、94℃3分予備加熱後、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を30回のPCR反応を行い、72℃10分の伸張反応を行った。
【0071】
使用したプライマーを表1に示す。(A)Dothidea sp.の増幅には、Dothideales目特異プライマー:d04F、d08Rを使用した(実施例2)。(B)Botryosphaeria sp.の増幅には、Botryosphaeriales目特異プライマー:b04F、b08Rを使用した(実施例3)。(C)Rhytidhysteron rufulvumの増幅には、Hysteriales目特異プライマー:h04F、h08Rを使用した(実施例4)。(D)Opiobolus fulgidusの増幅には、Pleosporales目特異プライマー:p04F、p08Rを使用した(実施例5)。
【0072】
【表1】
【0073】
<3−1−3>電気泳動解析
前記<3−1−2>で得られた各々の増幅産物を、2%アガロースゲルにて電気泳動を行いエチジウムブロマイド染色により検出した。(A)Dothidea sp.及び(D)Opiobolus fulgidusの新しい標本については、比較例1〜4及び実施例1の方法で得られたDNAのいずれでも、増幅予想サイズの380bp〜400bpの大きさに増幅産物を確認することができた。しかし、(B)Botryosphaeria sp.及び(C)Rhytidhysteron rufulvumの古い標本については、実施例1においてのみ、増幅予想サイズの380bp〜400bpの大きさに増幅産物を確認することができた(
図1)。
【0074】
<3−2>配列解析及び相同性解析
前記<3−1−2>で得られたPCR産物を、以下のように配列解析した。すなわち、Nested-PCRによって増幅した各DNA断片をAlkaline phosphataseおよびShrimp Exnuclease
Iで処理し、残存プライマーおよび非特異的反応物を除去した。処理したDNA断片を鋳型として、Big DyeTerminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)を用いてシークエンス反応を行った。
反応物をBig Dye X-Terminator Purification Kit(Applied Biosystems社)を用いて精製し、シークエンスを実施した。
得られたシークエンスデータはGENETYX Ver.10を用いて一本鎖化と編集を行いCLUSTAL W によりアラインメント(相同性解析)を行った。
【0075】
<4>結果
従来のDNAの調製法では、小房子嚢菌の新しい標本((A)及び(D))は明瞭なDNAの増幅産物を得ることができたが、小房子嚢菌の古い標本((B)及び(C))はDNAの増幅産物を得ることができなかった。一方、本発明のDNAの調製法(支持体接着破砕法)では、いずれの標本でもDNA増幅産物を得ることができ、特に古い標本でも確実にDNA増幅産物を得ることができた。また、得られたDNA増幅産物の遺伝子配列相同性解析の結果、それぞれの属名と一致することがわかった。以上より、本発明のDNAの調製法は、小房子嚢菌から簡便且つ高収量でDNAを調製できることがわかった。特に、小房子嚢菌の古い標本では、いずれの公知のDNAの調製法でもDNAを調製することができず、本発明のDNAの調製法によってのみ達成できることがわかり、本発明のDNAの調製法の有用性が高いことが示された。
【0076】
≪試験例2:小房子嚢菌の同定のための増幅プライマーの検討≫
小房子嚢菌以外の子嚢菌類あるいは小房子嚢菌の培養菌体からの小房子嚢菌の同定法と知られている公知の方法と、本発明の方法を比較検討した。
【0077】
<1>材料
試験例1と同じ材料を使用した。
【0078】
<2>DNAの抽出方法
実施例1及び比較例1〜4と同じDNA抽出方法を行った。
【0079】
<3>小房子嚢菌の同定方法
<3−1>DNAの増幅
第1回目のPCRは、試験例1の<3−1−1>第1回目のPCRと同じ方法を行った。続いて、第2回目のPCRは、比較例5として、表1に示す第2の真菌に共通プライマー(TM01'F、TM11'R)を使用したこと以外は、試験例1と同様に行った。
得られた各々の増幅産物を、2%アガロースゲルにて電気泳動を行いエチジウムブロマイド染色により検出した。比較例5では、(A)Dothidea sp.、(B)Botryosphaeria sp.、(C)Rhytidhysteron rufulvum及び(D)Opiobolus fulgidusのいずれでも増幅予想サイズの600bpにバンドが検出できたが、上流にもスメアなバンドが検出されており、目的菌の遺伝子配列が解読不能であることが予想された(
図2)。
【0080】
<3−2>配列解析及び相同性解析
上記試験例1と同様に、前記<3−1>で得られた比較例5のPCR増幅産物を配列解析したが、波形が得られなかったり複数の波形が混在していたりして、いずれも配列解析することができなかった。一方、実施例2〜5のPCR増幅産物では、配列解析及び相同性解析することができた。
【0081】
<4>結果
以上より、公知の小房子嚢菌の同定法、すなわち、標本から調製されたDNAを、真菌共通プライマーセットで増幅し、その増幅産物を更に真菌共通プライマーセットで増幅する方法では、小房子嚢菌を同定することができないことがわかった。一方、小房子嚢菌の培養菌体では、上記の公知の小房子嚢菌の同定法で同定できたことが報告されている。培養菌体では、遺伝子上でも、より単一化されるため公知の小房子嚢菌の同定法で同定できたと考えられる。本発明では、培養菌体では無く、採集標本自体からの小房子嚢菌の同定
を課題としている。遺伝子解析は高感度であるため、微量の他遺伝子の混在を検出してしまう。採集標本では、形態観察では単一とみなされるが、実際には複数遺伝子の混在があり、遺伝子レベルでは検出してしまうことがわかった。
【0082】
従って、本発明の小房子嚢菌の同定法、すなわち、標本から調製されたDNAを、真菌共通プライマーセットで増幅し、その増幅産物を小房子嚢菌の目に特異的なプライマーセットで増幅する方法によって、小房子嚢菌の属や種を正確且つ簡便に同定できることが示された。
【0083】
≪試験例3:小房子嚢菌の同定≫
<1>材料
70サンプルの小房子嚢菌の乾燥標本(三菱化学科学技術研究センター)を検討に使用した(1985年〜2001年に収集)。標本に着生している子実体の形態観察により、モノグラフや分類学的文献を頼りに、目あるいは可能であれば属や種の同定を行った。
【0084】
<2>DNAの抽出方法
実施例1の<2−5>に従って、各々の標本サンプルからDNAを抽出した。得られたDNA含有液を以下の鋳型DNAサンプルとした。
【0085】
<3>小房子嚢菌の同定方法
<3−1>DNAの増幅
<3−1−1>第1回目のPCR
DNA増幅キット(puRe Taq(登録商標)Ready-To-Go(登録商標)PCR beads、GE Healthcare社)を用い、総量を25μLとし、フォワードプライマーを10pmol、リバースプライマーを10pmol、前記方法による抽出DNA(鋳型DNA)2μLを含む反応液で、DNAサーマルサイクラー(Applied Biosystems 2720:Applied Biosystems社製)により、95℃1分予備加熱後、95℃40秒、52℃40秒、72℃ 2分を25回のPCR反応を行い、次いで、95℃40秒、52℃40秒、72℃ 2分の15回の反応を行うが、伸張反応の時間を1サイクルごとに5秒ずつ加算して行き、72℃10分の伸張反応を行った。
プライマーは、表1に示す真菌に共通のプライマー(TM01F、TM11R)を用いた。
【0086】
<3−1−2>第2回目のPCR(nested−PCR)
鋳型DNAとして第1回目のPCR産物を用いる以外は第1回目のPCRと同じ反応液組成とした。鋳型DNAとしては、第1回目のPCR産物の1μLを使用した。nested−PCRは、DNAサーマルサイクラー(Applied Biosystems 2720:Applied Biosystems社製)により、94℃3分予備加熱後、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を30回のPCR反応を行い、72℃10分の伸張反応を行った。
【0087】
使用したプライマーを表1に示す。(A)Dothideales目の増幅には、Dothideales目特異プライマー:d04F、d08Rを使用した(実施例6)。(B)Botryosphaeriales目の増幅には、Botryosphaeriales目特異プライマー:b04F、b08Rを使用した(実施例7)。(C)Hysteriales目の増幅には、Hysteriales目特異プライマー:h04F、h08Rを使用した(実施例8)。(D)Pleosporales目の増幅には、Pleosporales目特異プライマー:p04F、p08Rを使用した(実施例9)。(E)Capnodiales目の増幅には、Capnodiales目特異プライマー:CC04F、C08Rを使用した(実施例10)。
【0088】
<3−2>配列解析
実施例1の<3−2>と同様に、前記<3−1−2>で得られたPCR産物を配列解析
した。
【0089】
<3−3>分子系統解析
前記<3−2>で得られた配列情報から、下記のように、分子系統解析を行った。得られたシークエンスデータはGENETYX Ver.10を用いて一本鎖化と編集を行いCLUSTAL
W によりアラインメント(相同性解析)を行った。系統樹はNJ法により作成して、ブートストラップ検定は1000回行った。
【0090】
<4>結果
供試した70サンプルについて380bp〜400bpの配列をシークエンスすることが出来た。70サンプル中36サンプルは、明確に系統上の位置を決定することができ、少なくとも属まで同定することが可能であった。一方、残る34株についてはデータベースに該当しなかったり、形態と遺伝子の相関性が見られなかったりなどの分類学的な問題があり所属する系統学的位置を決定することができなかった。しかし、データベースの拡充や形態や遺伝子の関係性の知見を考慮して解析していくことで、小房子嚢菌の正確な分類が可能になることが示された。
【0091】
系統学的位置を明確に決定できた36サンプルについて説明する。36サンプル中2サンプルはDothideales目に、1サンプルはPatellariales目に、1サンプルはHysteriales目、7サンプルはBotryosphaeriales目に、25サンプルはPleosporales目に分類されることが分かった。下記に更に詳細に説明する。
【0092】
Dothideales目 :標本188、標本173は、形態観察では、科以上の判別が困難であった。しかし、遺伝子解析から標本188はStylodothis puccinioides(種)と同定することができ、又、標本173はDothidea sp.(属)と同定することができた。
Patellariales目:標本5839は形態観察でRhytidhysteron rufulvum(種)と推定されていたが、遺伝子解析でも同じく、Rhytidhysteron rufulvum(種)と同定できた。
Hysteriales目:標本5362は形態観察でHysterium angustatum(種)と推定されていたが、遺伝子解析でも同じく、Hysterium angustatum(種)と同定できた。
Botryosphaeriales目:標本5873、4690、5917、5875、5923、6511は、形態観察でBotryosphaeria 属とまで推定されていたが、遺伝子解析によって、Botryosphaeria dothidea(種)と同定できた。また、標本4691は、形態観察でLasiodiplodia 属と推定されていたが、遺伝子解析によって、Botryosphaeria dothidea(種)と同定できた。
Pleosporales目:まず、解析した25サンプルはPleosporales内のPleosporaceae、LeptosphaeriaceaeおよびPhaeosphaeriaceaeの3つの科に分類された。 Pleosporaceae科:標本2667は形態観察でPleospora属とまで推定されていたが、遺伝子解析によって、Pleospora ambigus(種)と同定できた。
Leptosphaeriaceae科: 形態観察で標本5367は科以上の推定ができず、標本2312および2215はL. dolioloides(種)、標本2686はL. artemisiae(種)と推定されていた。遺伝子解析によって、これらはLeptosphaeria biglobosa(種)と同一系統群を構成し相互に近縁関係にあることが分かったが、種レベルの統合はできなかった。該種の標準配列がデータベースにないため、最も近縁配列に分類されたと考える。なお、いずれもLeptosphaeria属に同定できたことから、正しく属に分類できることが確かめられた。
標本2144および5718は、形態観察でLeptosphaeria doliolum(種)と、標本5273は、形態観察でLeptosphaeria(属)と推定されていたが、遺伝子解析によって、L.pedicularis(種)と同定できた。Leptosphaeria doliolumとL.pedicularisは、形態観察による分類が非常に難しく、遺伝子解析によって、正確に分類できることが確かめられた。
Phaeospaeriaceae科:標本2145は、形態観察でPhaeosphaeria(属)と推定されていたが、遺伝子解析によって、P.nigrans(種)と同定できた。また、標本5347は、形態観察でPhaeosphaeria(属)と推定されていたが、遺伝子解析によって、P.eustoma(種)・P.ave
naria(種)・P.nodorum(種)の近縁であると同定できた。
また、形態観察で、以下の16サンプルは、Ophiobolus属と推定されていた。遺伝子解析により、標本2708、2401、6559は、Ophiosphaerella属と同定できた。Ophiobolus属とOphiosphaerella属は、形態観察による分類が難しく、遺伝子解析によって、正確に分類できることが確かめられた。
また、それ以外はOphiobolus属と同定できたが、更に新しい3つの系統グループに分かれることがわかった。
Ophiobolus sp.属グループI(標本43、7195、5381)
Ophiobolus sp.属グループII(標本2333、5353、5722、4739、5104、209)
Ophiobolus sp.属グループIII(標本2723、7072、6433、4753)
Ophiobolus属菌は、糸状で多隔壁を持ち、子嚢中に8本の胞子が束状に並ぶ形態的な特徴を有し、単系統の種で構成されていると考えられてきた。今回の標本からの分子系統解析によって、Ophiobolus属は単系統な属ではなく、多系統な系統群で構成されていることが示された。これは、標本からの遺伝子解析の成果と云える。
【0093】
以上により、本発明の方法により、小房子嚢菌のような微小菌類の標本から簡単にDNAを取り出し、nested PCRによって特異的に目的の菌を増幅し塩基配列を決定することによって、属、種あるいは種内変異を解析できるようになった。
【0094】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】