特許第6988052号(P6988052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988052
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】汚染土壌浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20211220BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   B09C1/10ZAB
   B09C1/08
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-537308(P2018-537308)
(86)(22)【出願日】2017年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2017031017
(87)【国際公開番号】WO2018043508
(87)【国際公開日】20180308
【審査請求日】2020年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-170144(P2016-170144)
(32)【優先日】2016年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】中島 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】清塘 悠
(72)【発明者】
【氏名】清水 大和
(72)【発明者】
【氏名】奥田 信康
(72)【発明者】
【氏名】古川 靖英
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐二
(72)【発明者】
【氏名】向井 一洋
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 薫
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−007178(JP,A)
【文献】 特開2011−173037(JP,A)
【文献】 特開2003−300056(JP,A)
【文献】 特開2016−168554(JP,A)
【文献】 特開2007−098330(JP,A)
【文献】 特開2006−116509(JP,A)
【文献】 特開2010−214282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/10
B09C 1/08
B09C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌内の汚染物質を分解するための汚染土壌浄化方法であって、
注水用の第1井戸から離れた場所に設けられた第2井戸内の地下水における添加剤の初期濃度を測定する工程と、
前記添加剤を含む注入液を前記第1井戸から前記汚染土壌へ注入する工程と、
前記初期濃度と、前記第1井戸から前記汚染土壌へ注入する前記注入液における前記添加剤の注入濃度と、前記注入液の注入を開始してからの経過時間と、前記汚染土壌固有の土壌物性と、に基づいて、所定時間経過後の前記地下水における前記添加剤の予測濃度を算出する管理関数によって、前記第2井戸内の地下水における所定時間経過後の前記添加剤の予測濃度を算出する工程と、
前記予測濃度に基づき、所定時間が経過するまでに前記地下水における前記添加剤の濃度を目標濃度に到達させるための、前記添加剤の添加量又は揚水井戸からの揚水量を自動制御する工程と、を備えた、
汚染土壌浄化方法。
【請求項2】
所定時間経過後、前記第2井戸内の地下水における前記添加剤の実測濃度を測定する工程と、
前記管理関数によって算出され前記予測濃度と、前記実測濃度と、を比較する工程と、
前記予測濃度が、前記実測濃度と近似するように、前記管理関数を補正する工程と、を備えた、請求項1に記載の汚染土壌浄化方法。
【請求項3】
汚染土壌内の汚染物質を分解するための汚染土壌浄化方法であって、
注水用の第1井戸から離れた場所に設けられた第2井戸内の地下水の初期温度を測定する工程と、
注入液を前記第1井戸から前記汚染土壌へ注入する工程と、
前記初期温度と、前記第1井戸から前記汚染土壌へ注入する前記注入液の注入温度と、前記注入液の注入を開始してからの経過時間と、前記汚染土壌固有の土壌物性と、に基づいて、所定時間経過後の前記地下水の予測温度を算出する管理関数によって、前記第2井戸内の地下水における所定時間経過後の地下水の予測温度を算出する工程と、
前記予測温度に基づき、所定時間が経過するまでに前記地下水の温度を目標温度に到達させるための、前記注入液の加温量又は揚水井戸からの揚水量を自動制御する工程と、を備えた、
汚染土壌浄化方法。
【請求項4】
所定時間経過後、前記第2井戸内の地下水の実測温度を測定する工程と、
前記管理関数によって算出され前記予測温度と前記実測温度とを比較する工程と、
前記予測温度が、前記実測温度と近似するように、前記管理関数を補正する工程と、を備えた、請求項3に記載の汚染土壌浄化方法。
【請求項5】
汚染土壌内の汚染物質を分解するための汚染土壌浄化方法であって、
注水用の第1井戸から離れた場所に設けられた第2井戸内の地下水における添加剤の初期濃度及び前記地下水の初期温度を測定する工程と、
前記添加剤を含む注入液を前記第1井戸から前記汚染土壌へ注入する工程と、
前記初期濃度と、前記第1井戸から前記汚染土壌へ注入する前記注入液における前記添加剤の注入濃度と、前記注入液の注入を開始してからの経過時間と、前記汚染土壌固有の土壌物性と、に基づいて、所定時間経過後の前記地下水における前記添加剤の予測濃度を算出する第1管理関数によって、前記第2井戸内の地下水における所定時間経過後の前記添加剤の予測濃度を算出する工程と、
前記初期温度と、前記第1井戸から前記汚染土壌へ注入する前記注入液の注入温度と、前記注入液の注入を開始してからの経過時間と、前記汚染土壌固有の土壌物性と、に基づいて、所定時間経過後の前記地下水の予測温度を算出する第2管理関数によって、前記第2井戸内の地下水における所定時間経過後の地下水の予測温度を算出する工程と、
前記予測濃度及び前記予測温度に基づき、所定時間が経過するまでに前記地下水における前記添加剤の濃度を目標濃度に到達させ、かつ、前記地下水の温度を目標温度に到達させるための、前記添加剤の添加量及び前記注入液の加温量、又は、揚水井戸からの揚水量を自動制御する工程と、を備えた、
汚染土壌浄化方法。
【請求項6】
所定時間経過後、前記第2井戸内の前記地下水における前記添加剤の実測濃度及び前記地下水の実測温度を測定する工程と、
前記第1管理関数によって算出された前記予測濃度と前記実測濃度とを比較し、前記第2管理関数によって算出された前記予測温度と前記実測温度とを比較する工程と、
前記予測濃度が前記実測濃度と近似するように、かつ、前記予測温度が前記実測温度と近似するように、前記第1管理関数及び第2管理関数を補正する工程と、を備えた、請求項5に記載の汚染土壌浄化方法。
【請求項7】
前記添加剤は汚染物質を分解する浄化剤である、請求項1〜6の何れか1項に記載の汚染土壌浄化方法。
【請求項8】
前記添加剤は汚染物質を分解する浄化剤の生物的分解を活性化させる活性剤である、請求項1〜6の何れか1項に記載の汚染土壌浄化方法。
【請求項9】
前記第2井戸は観測井戸又は前記揚水井戸である、請求項1〜8の何れか1項に記載の汚染土壌浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005−52733号公報には、油分解促進剤が添加された液体を油汚染土壌へ注入する浄化装置が開示されている。注入された液体は汚染土壌に浸透し、集水井戸から汲み上げられる。そして、汲み上げられた回収液の濁度を、濁度計や作業者の目視によって確認し、汚染土壌へ注入する油分解促進剤の添加量を調整している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特開2005−52733号公報に示された浄化装置では、回収液の確認及び汚染土壌へ注入する油分解促進剤の添加量の調整を、その都度手作業で行う必要があり、手間がかかる。
【0004】
本開示は上記事実を考慮して、汚染土壌を浄化するための作業を省人化できる汚染土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1態様の汚染土壌浄化方法は、汚染土壌内の汚染物質を分解するための汚染土壌浄化方法であって、汚染物質を分解する浄化剤又は前記浄化剤の生物的分解を活性化させる活性剤を含む注入液を注水井戸から前記汚染土壌へ注入する工程と、前記注水井戸から離れた場所に設けられた観測井戸内又は揚水井戸内の地下水における前記浄化剤又は前記活性剤の濃度を測定する工程と、測定された前記濃度に基づき、前記注入液への前記浄化剤又は前記活性剤の添加量又は前記揚水井戸からの揚水量を自動制御する工程と、を備えている。
【0006】
本開示の第1態様の汚染土壌浄化方法は、観測井戸内又は揚水井戸内の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を原位置で測定し、測定した濃度に基づき、浄化剤又は活性剤の添加量又は揚水井戸からの揚水量を自動制御する。例えば、測定した濃度(すなわち汚染土壌内における活性剤の濃度)が目標濃度よりも低い場合は、自動的に注入液への活性剤添加量を増やす。又は自動的に揚水量を多くして地下水の吸引力を上げ、活性剤の汚染土壌中への浸透を促進させる。これにより、タイムリーに活性剤の濃度を調整し、汚染土壌を効率的に浄化することができる。
【0007】
本開示の第2態様の汚染土壌浄化方法は、前記注入液の注入を開始する前の前記観測井戸内又は前記揚水井戸内の地下水における前記浄化剤若しくは前記活性剤の初期濃度又は前記地下水の初期温度と、前記注水井戸から前記汚染土壌へ注入する前記注入液における前記浄化剤若しくは前記活性剤の注入濃度又は前記注入液の注入温度と、前記注入液の注入を開始してからの経過時間と、前記汚染土壌固有の土壌物性と、に基づいて、経過時間毎の前記地下水の前記浄化剤若しくは前記活性剤の予測濃度又は前記地下水の予測温度を算出する管理関数によって、前記観測井戸内又は前記揚水井戸内の地下水における前記浄化剤又は前記活性剤の濃度が目標濃度に到達する時間を予測する、又は、前記観測井戸内又は前記揚水井戸内の地下水における前記地下水の温度が目標温度に到達する時間を予測する。
【0008】
本開示の第2態様の汚染土壌浄化方法では、観測井戸又は揚水井戸における経過時間毎の地下水の浄化剤若しくは活性剤の予測濃度又は地下水の予測温度を、管理関数を用いて算出する。
【0009】
この管理関数は、注入液の注入を開始する前の観測井戸内又は揚水井戸内の地下水における浄化剤若しくは活性剤の初期濃度又は地下水の初期温度と、注入液における浄化剤若しくは活性剤の注入濃度又は注入液の注入温度と、注入液の注入を開始してからの経過時間と、汚染土壌固有の土壌物性と、に基づいて、経過時間毎の前記地下水の前記浄化剤若しくは前記活性剤の予測濃度又は前記地下水の予測温度を算出できるものである。
【0010】
すなわち、汚染土壌内における地下水の浄化剤又は活性剤の濃度又は地下水の温度が、目標値に到達するのに必要な時間を算出することで、汚染土壌の浄化を計画的に実施することができる。
【0011】
本開示の第3態様の汚染土壌浄化方法は、前記管理関数によって算出される前記予測濃度又は前記予測温度が、前記観測井戸内又は前記揚水井戸内の前記地下水における前記浄化剤若しくは前記活性剤の実測濃度又は前記地下水の実測温度と近似するように、前記初期濃度又は前記初期温度を所定時間経過後の前記観測井戸内又は揚水井戸内の地下水における前記浄化剤若しくは前記活性剤の濃度又は前記地下水の温度に置き換えると共に、前記注入濃度又は前記注入温度を変更して前記管理関数を補正する。
【0012】
本開示の第3態様に記載の汚染土壌浄化方法では、注入液の注入濃度又は注入温度を変更すると共に、変更後の注入濃度又は注入温度に基づいて管理関数を補正する。また、管理関数の初期濃度又は初期温度を、所定時間経過後の地下水における濃度又は温度に置き換える。これにより、管理関数によって算出される予測濃度と実測濃度との差又は管理関数によって算出される予測温度と実測温度との差が縮まり、管理関数による予測精度を高くすることができる。
【0013】
管理関数の予測精度が高くなることで、汚染土壌に適切な量の浄化剤又は活性剤が添加された注入液又は適切な温度の注入液を注入することができる。これにより、汚染土壌中の浄化剤又は活性剤の過不足を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る汚染土壌浄化方法によると、汚染土壌を浄化するための作業を省人化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本開示の第1実施形態に係る汚染土壌浄化システムの概略構成を示す平面図である。
図1B】本開示の第1実施形態に係る汚染土壌浄化システムの概略構成を示す立断面図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおける土壌浄化方法を示すフローチャートである。
図3】本開示の第2実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおける管理関数を示すグラフである。
図4】本開示の第3実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおける土壌浄化方法を示すフローチャートである。
図5】本開示の第3実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおいて補正前後の管理関数と実測濃度曲線を示すグラフである。
図6】本開示の第4実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおける土壌浄化方法を示すフローチャートである。
図7】本開示の第4実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおいて地下土壌への注入液の注入を停止及び再開する土壌浄化方法を示すグラフである。
図8】本開示の第1実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおける土壌浄化方法の変形例を示すフローチャートである。
図9】本開示の第2実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおいて、汚染物質の濃度が異なる2つの汚染土壌を浄化する変形例を示す平面図である。
図10】本開示の第2実施形態に係る汚染土壌浄化システムにおいて、汚染物質の濃度が異なる2つの汚染土壌を浄化する場合に用いる2つの管理関数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、複数の図面において同じ符号で表された共通の構成要素については、説明を省略する場合がある。
【0017】
[第1実施形態]
(全体構成)
第1実施形態における汚染土壌浄化システム20は、図1A図1Bに示す地下土壌10に含まれる汚染物質を分解するための汚染土壌浄化システムである。汚染土壌浄化システム20は、地下土壌10に構築された揚水井戸22、注水井戸24、観測井戸26及び遮水壁28と、地表面GLの上部に構築され、地下土壌10、揚水井戸22及び注水井戸24の間で地下水を還流させる浄化装置30と、を備えている。
【0018】
(汚染土壌)
地下土壌10は、地表面GLよりも下方の土壌であって、地下水が流れる帯水層12及び地下水が流れない不透水層14を備えている。この地下土壌10のうち、汚染物質が基準値(例えば汚染物質の種類毎に定められた値)以上含まれている部分を、汚染土壌Eとする。「汚染物質」とは、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー、ベンゼン等の有機物、シアン等の無機化合物、及びガソリンや軽油等の鉱油類を含む概念であり、以下では特に区別する場合を除いて、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー等の有機物を想定して説明する。
【0019】
なお、図1Bにおいては、地下水位Hを一点鎖線で図示しており、地下土壌内での地下水の流れの向きを破線の矢印で図示している。なお、この地下水の流れは注水井戸24から地下土壌10へ、後述する浄化剤又は活性剤を含む注入液を注入し、更に揚水井戸22から地下水を揚水することで発生する流れである。
【0020】
(揚水井戸)
揚水井戸22は、地下土壌10から地下水を揚水する揚水手段であり、図示しないポンプ等により帯水層12の地下水を吸い上げて、浄化装置30に送ることができる。また、揚水井戸22は汚染土壌Eと遮水壁28との間に配置され、下端が不透水層14に到達するように地下土壌10に埋設されている。
【0021】
図1Aにおいては図示の便宜上、2本の揚水井戸22a、22bのみを記載しているが、本開示の実施形態はこれに限らず、任意の本数を敷地の広さ等に応じて適宜配置して構わない。
【0022】
なお、揚水井戸22は汚染土壌Eに配置されていてもよい。また、揚水井戸22による揚水の具体的な方法や、揚水井戸22の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0023】
(注水井戸)
注水井戸24は、浄化装置30で生成された注入液を地下土壌10に注入する注入手段であり、図示しないポンプ等により注入液を地下土壌10内に送ることができる。また、注水井戸24は、汚染土壌Eと遮水壁28との間(すなわち汚染土壌Eからみて揚水井戸22の反対側)に配置された井戸であり、下端が不透水層14に到達するように地下土壌10に埋設されている。
【0024】
図1Aにおいては図示の便宜上、2つの注水井戸24a、24bのみを記載しているが、本開示の実施形態はこれに限らず、任意の数を敷地の広さ等に応じて適宜配置して構わない。
【0025】
なお、注水井戸24は汚染土壌Eに配置されていてもよい。また、注水井戸24による注入液の注入の具体的な方法や、注水井戸24の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0026】
(観測井戸)
観測井戸26は、地下の状態を観測する観測手段である。ここで、「地下の状態」とは、観測井戸26が埋設された位置における地下土壌10中の地下水の状態を示しており、例えば地下水位、地下水温度、地下水における浄化剤及び活性剤の濃度、地下水における汚染物質濃度などを含む。
【0027】
観測井戸26の内部には図示しない各種センサーが設置されている。これらのセンサーは、上述した地下水位、地下水温度、地下水における浄化剤及び活性剤の濃度、地下水における汚染物質濃度などを測定し、これらの測定値を浄化装置30における制御部38に電気信号で伝達する。
【0028】
なお、これらのセンサーは揚水井戸22及び注水井戸24の内部にも設置されている。すなわち、揚水井戸22及び注水井戸24はそれぞれ、観測手段としても機能する。また、図1A図1Bにおいては、図が煩雑になる事を避けるため、各種センサーと制御部38とに接続された信号線の図示は省略している。
【0029】
なお、観測井戸26は、遮水壁28で囲われた地下土壌内の複数箇所に埋設されている。図1Aにおいては図示の便宜上、3つの観測井戸26a、26b、26cのみを記載しているが、本開示の実施形態はこれに限らず、任意の数の観測井戸26を敷地の広さ等に応じて適宜配置することができる。
【0030】
(遮水壁)
遮水壁28は、汚染土壌Eの周囲を囲むように地下土壌10に配置されたコンクリート製の遮水手段であり、遮水壁28内外の地下水の流れを遮断している。すなわち、遮水壁28の「外側」の地下土壌10における地下水の流れと、遮水壁28の「内側」の地下土壌10における地下水の流れとを、相互に影響を及ぼさないようにしている。
【0031】
図1Bに示すように、遮水壁28の下端は不透水層14に根入れされている。これにより、汚染土壌Eは遮水壁28と不透水層14とで囲まれ、汚染物質が遮水壁28の外側の地下土壌10へ流出することが抑制されている。
【0032】
(浄化装置)
浄化装置30は、揚水井戸から揚水された地下水を浄化し、後述する浄化剤や活性剤を添加して地下土壌10へ戻すための装置であり、水処理装置32、加温装置34、添加槽36及び制御部38を含んで構成される。
【0033】
(水処理装置)
水処理装置32は、揚水井戸から揚水された地下水に空気を送り込み、揮発性汚染物質を揮発させて浄化する。
【0034】
(加温装置)
加温装置34は、後述する制御部38により温調される図示しないヒーターにより、水処理装置32で浄化された地下水を加温する。加温装置34によって地下水を加温することにより、地下土壌10内で汚染物質を生物分解する分解微生物の増殖を促進したり、分解微生物の活性を上げたりすることができる。
【0035】
(添加槽)
添加槽36は、地下水に対して浄化剤又は活性剤を添加して注入液を生成する。具体的には、後述する制御部38により制御された投入装置(図示省略)から、添加槽36内部の地下水に、浄化剤又は活性剤が添加される。
【0036】
ここで、「浄化剤」とは地下土壌10内で汚染物質を分解する物質のことであり、汚染物質を生物分解する分解微生物(例えばデハロコッコイデス)である。また、「活性剤」とは浄化剤の生物分解を活性化させる物質のことであり、一例として酵母エキスを使用している。
【0037】
この浄化剤又は活性剤は、後述する制御部38により制御された投入装置(図示省略)により、添加槽36内部の地下水に添加され、添加槽36内部に設置された撹拌装置で撹拌することで、注水井戸24から地下土壌10へ注入する注入液が生成される。
【0038】
(制御部)
制御部38は、観測井戸26、注水井戸24及び揚水井戸22それぞれの内部に設置されたセンサーによって測定された地下水位、地下水温度、地下水における浄化剤又は活性剤の濃度、地下水における汚染物質濃度などの情報を、電気信号として受信する。そして受信した情報に応じて、水処理装置32、加温装置34、添加槽36、揚水ポンプPを駆動制御する。
【0039】
(浄化方法)
第1実施形態に係る汚染土壌浄化システム20による汚染土壌Eの浄化方法について、図2に示したフローチャートを用いて説明する。
【0040】
まず、ステップ90で、注水井戸24から地下土壌10へ注入液を「注入」する。具体的には、図1A図1Bに示した制御部38が添加槽36を制御して、添加槽36から注水井戸24へ、浄化剤又は活性剤が添加された注入液が注入される。注入液に対する浄化剤又は活性剤の添加量は、添加後の注入液における浄化剤又は活性剤の濃度が、地下土壌10において目標とする浄化剤又は活性剤の濃度になるように設定される。
【0041】
注水井戸24へ注入された注入液は、揚水ポンプPが揚水井戸22から地下水を揚水して地下水の水勾配を生成することで、目標とする速度で注水井戸24から地下土壌10及び汚染土壌Eへ拡散する。
【0042】
次に、ステップS100で、「濃度測定」を行う。具体的には、観測井戸26の内部に設置されたセンサーが、地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を測定する。
【0043】
次に、ステップS110で、「濃度判定」を行う。この濃度判定では、ステップ100で計測された観測井戸26の地下水における浄化剤又は活性剤の実測濃度が目標濃度に達しているかどうかを、制御部38が判定する。
【0044】
実測濃度が目標濃度に達している場合、ステップS100に戻り再度濃度を測定し、ステップS110へ進んで目標濃度が維持されているかどうかを制御部38が判定する。このように、実測濃度が目標濃度を維持するように、濃度測定と濃度判定とを繰り返す。実測濃度が目標濃度に達していない場合、ステップS118に進む。
【0045】
ステップS118では、「揚水量調整」を行う。この揚水量調整では、制御部38が揚水ポンプPを制御して、揚水井戸22における地下水の揚水力を上げる。これにより浄化剤又は活性剤の汚染土壌Eへの浸透力を調整して、実測濃度を目標濃度に近づける。
【0046】
実測濃度が目標濃度に達したかどうかは、ステップS100へ戻り再度濃度を測定し、ステップS110に進んで再度制御部38によって判定される。
【0047】
以上のステップを繰り返すことで、汚染土壌Eの地下水における浄化剤又は活性剤の濃度が目標濃度に維持され、汚染土壌Eの汚染物質が次第に除去される。
【0048】
なお、本明細書において「揚水量」、「注入量」の用語は、それぞれ特に断りがない限り、浄化装置30と地下土壌10との間を移動する単位時間当たりの地下水、注入液の「体積(又は流量)」を示しているものとする。また、「添加量」は、注入液の単位容積当たりに添加される浄化剤又は活性剤の「重量」で示されるものとする。さらに、「濃度」は「重量濃度」で示されるものとする。なお、添加量及び濃度は、それぞれ体積及び体積濃度で示してもよい。
【0049】
(作用・効果)
第1実施形態に係る汚染土壌浄化システム20では、ステップS100で濃度測定を行い、ステップS110で濃度判定を行う。さらに、ステップS118で揚水量調整を行う。これにより、人の手を介さずにタイムリーに地下土壌10の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を調整し、汚染土壌を効率的に浄化することができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、ステップS100で「観測井戸26」の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を測定したが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えばステップS100では、「揚水井戸22」の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を測定してもよい。以下に説明する各実施形態についても同様である。
【0051】
この場合、ステップS110では、揚水井戸22の地下水における浄化剤又は活性剤の実測濃度が、目標濃度に達したかどうかを判定し、その判定結果に基づきステップS118で揚水量調整を行う。
【0052】
また、本実施形態においては、ステップS118で「揚水量調整」を行うものとしたが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば揚水量調整に代えて、注入液における浄化剤又は活性剤の濃度を調整する「濃度調整」を行ってもよい。この濃度調整においては、添加槽36における地下水への浄化剤又は活性剤の添加量を制御して、注入液における浄化剤又は活性剤の濃度を調整する。これにより、観測井戸26内の地下水における実測濃度が目標濃度に近づくようにする。
【0053】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る汚染土壌浄化システムは、第1実施形態に係る汚染土壌浄化システム20の構成及び浄化方法に加えて、以下に説明する管理関数を用いて、地下土壌10の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度が目標濃度に到達する時間を予測する。
【0054】
(管理関数)
図3には、地下土壌10に注入液の注入を開始してからの経過時間tと、観測井戸26の地下水における予測濃度Cとの関係を示す管理関数f(t)が実線で示されている。例えば時間t1における予測濃度は予測濃度C1とされている。
【0055】
この管理関数f(t)は、数式を用いて次のように表される。
【0056】
f(t)=(A−D)÷[1+(B/t)]+D・・・・・・・・・・・・・(1式)
A:注入液における浄化剤又は活性剤の濃度
B:地下土壌の土壌物性Xによって決まる定数
G:地下土壌の土壌物性Yによって決まる定数
D:注入液を注入する前の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度
t:注入液の注入を開始してからの経過時間
【0057】
この(1式)における定数B、Gは、地下土壌の土壌物性X、Yによって決まる定数であり、汚染土壌Eの浄化に先立って実施する土壌調査によって決定される。定数B、Gを決定するために用いる土壌調査の内容としては、例えば地下土壌の透水係数、土壌粒度等が挙げられる。
【0058】
(作用・効果)
第2実施形態に係る汚染土壌浄化システムでは、(1式)で示される管理関数f(t)を用いることで、図2のステップS90において注水井戸24へ注入される注入液における浄化剤又は活性剤の濃度Aと、注入液を注入する前の観測井戸26の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度Dと、地下土壌の土壌物性によって決まる定数B、Gと、地下土壌10に注入液の注入を開始してからの経過時間tと、に基づいて、観測井戸26の地下水における予測濃度が算出される。
【0059】
これにより、観測井戸26の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度が図3に示す目標濃度CEに到達する時間tEを予測することができる。
【0060】
また、時間tEが経過するまでに、地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を目標濃度CEに到達させるためには、注入液における浄化剤又は活性剤の濃度Aをどの程度に設定するべきか(すなわち注入液に浄化剤又は活性剤をどの程度添加すればよいか)を算出することができる。
【0061】
このため、汚染土壌Eを浄化するために必要な資源量、エネルギー、時間などを予め見積もり易く、事業計画を立てやすい。
【0062】
なお、管理関数は、地下土壌10に注入液の注入を開始してからの経過時間に対する観測井戸26の地下水の「温度」についても同様に設定することが可能である。
【0063】
この場合、(1式)における濃度A、Dはそれぞれ、注入液の温度、注入液を注入する前の地下水の温度に置き換えられる。また、定数B、Gを決定するために用いる調査結果としては、地下土壌の比熱や熱伝導性が挙げられる。さらに、図3の縦軸は温度に置き換えられる。
【0064】
「温度」を管理する管理関数を用いることで、図2のステップS90において注水井戸24へ注入される注入液の温度Aと、注入液を注入する前の観測井戸26の地下水の温度Dと、地下土壌の土壌物性によって決まる定数B、Gと、地下土壌10に注入液の注入を開始してからの経過時間tと、に基づいて、観測井戸26の地下水の予測温度が算出される。
【0065】
これにより、観測井戸26の地下水温度が目標温度に達する時間を予測することができる。また、所定の時間が経過するまでに、地下水の温度を目標温度に到達させるためには、注入液をどの程度加温すればよいかを算出することができる。地下水の目標温度を定め、注入液の加温量を調整することで、地下水の温度を、分解微生物の活性が高い温度に保つことができる。
【0066】
なお、本明細書では、これらの「濃度」又は「温度」を管理する管理関数を総称して単に管理関数と称することがあり、管理関数は、「濃度」、「温度」の何れか又は双方について設定することができる。以下の各実施形態においても同様である。
【0067】
また、本実施形態において管理関数は、観測井戸26の地下水濃度が目標濃度に達する時間を予測するものとしたが、本開示の実施形態はこれに限らず、揚水井戸22の地下水濃度が目標濃度に達する時間を予測することもできる。あるいは、観測井戸26と揚水井戸22の双方について地下水濃度が目標濃度に達する時間を予測することもできる。以下の各実施形態においても同様である。
【0068】
このように、管理関数は地下土壌10における特定箇所(例えば観測井戸26のある場所、揚水井戸22のある場所)における地下水の浄化剤又は活性剤の予測濃度を示しているものであり、地下土壌10全体の状態を示すものではない。
【0069】
このため、地下土壌10の汚染状況が均一でない場合や地下水の流れが均一でない場合等は、汚染状況や地下水の状況が異なる場所ごとに、それぞれの状況に応じた異なる管理関数を用いて、地下水の浄化剤又は活性剤の濃度を予測することができる。
【0070】
例えば図9には、地下土壌10に2つの汚染土壌Ea、Ebが形成されている状態が示されている。これらの汚染土壌Ea、Ebは汚染物質の濃度が異なるため、汚染物質を浄化するための最適な注入液の温度や、注入液に添加する最適な浄化剤又は活性剤の濃度も異なる。
【0071】
このような場合に、例えば図9に示す揚水井戸22a、注水井戸24a及び観測井戸26aを備え汚染土壌Eaを浄化する注揚水系統と、揚水井戸22b、注水井戸24b及び観測井戸26bを備え汚染土壌Ebを浄化する注揚水系統と、のそれぞれにおいて、図10に示すように、汚染土壌Ea、Ebごとにそれぞれ最適化された管理関数fa(t)、fb(t)を設定できる。
【0072】
なお、各注揚水系統に含まれる揚水井戸、注水井戸、観測井戸の数は、図9においては便宜的に1本ずつ示しているが、これらは複数設けてもよい。このように、地下土壌10において複数の管理関数を設定する実施形態については、以下に示す各実施形態においても適用できる。
【0073】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る汚染土壌浄化システムは、第2実施形態に係る汚染土壌浄化システムと同様、管理関数を用いて地下水における浄化剤又は活性剤の濃度が目標濃度に達する時間を予測し、さらに、管理関数により算出された予測濃度と実測濃度とを比較して、管理関数を補正する。
【0074】
第3実施形態に係る汚染土壌浄化システムによる汚染土壌Eの浄化方法について、図4に示したフローチャート及び図5に示したグラフを用いて説明する。なお、第1実施形態、第2実施形態と同様の内容については適宜説明を省略する。
【0075】
第3実施形態の浄化方法では、まず、図4に示したステップS90−2において、添加槽36から注水井戸24へ、浄化剤又は活性剤が添加された注入液が注入される。
【0076】
ここで上述した管理関数を用いることで、この注入液における浄化剤又は活性剤の濃度と、注入液を注入する前の観測井戸26の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度と、地下土壌の土壌物性と、地下土壌10に注入液の注入を開始してからの経過時間tと、に基づいて、観測井戸26の地下水における予測濃度が算出される。図5においては、例えば経過時間t1における予測濃度はC1とされている。
【0077】
なお、ステップ90−2において添加槽36で生成される注入液の濃度は、後述する目標濃度域CEの上限濃度C3に調整される。
【0078】
次のステップS100−2の「濃度測定」については第1実施形態におけるステップS100と同様であり説明は省略する。
【0079】
次に、ステップS110−2で「濃度判定」を行う。この濃度判定では、制御部38が、ステップ100−2で計測された観測井戸26の地下水における浄化剤又は活性剤の実測濃度と、管理関数により予測された観測井戸26の地下水における浄化剤又は活性剤の予測濃度とを比較し、予測濃度から実測濃度を引いた差が、予め設定された許容値以下かどうかを判定する。
【0080】
予測濃度から実測濃度を引いた差が許容値以下の場合、ステップS114に進む。許容値よりも大きい場合、ステップS118−2に進む。
【0081】
ステップS118−2では「揚水量調整」を行う。この揚水量調整では、制御部38が揚水ポンプPを制御して、揚水井戸22における揚水量を調整する。これにより地下水の水勾配を変えて、浄化剤又は活性剤の汚染土壌Eへの浸透力を調整する。
【0082】
予測濃度から実測濃度を引いた差が許容値以内になったかどうかは、ステップS100−2へ戻り、地下水における浄化剤又は活性剤の濃度をセンサーが測定し、ステップS110−2に進んで、制御部38が予測濃度と実測濃度とを比較することで判断される。予測濃度と実測濃度との差が許容値以下の場合、ステップS114に進む。
【0083】
ステップS114では、「収束値判定」を行う。この収束値判定では、ステップ100−2で計測された実測濃度が、所定の目標濃度域に到達する前に上げ止まっているかどうかを、制御部38が判定する。「目標濃度域」とは、汚染土壌Eを最も効率よく浄化することができる浄化剤又は活性剤の濃度域であり、汚染土壌Eの浄化に先立って実施する土壌調査により予め設定される。
【0084】
「実測濃度が上げ止まっている」とは、図5の時間t4に示すように、単位時間あたりの実測濃度の上昇幅(すなわち後述する実測濃度曲線F(t)の傾き)が、目標濃度域CEの下限濃度C2に到達する前にゼロに近づき(すなわち予め設定された所定値未満で上げ止まっており)、地下水における浄化剤又は活性剤の濃度が目標濃度域CEに到達する見込みが得られない、あるいは到達するのに想定以上の時間を要する状態のことを指す。
【0085】
実測濃度が目標濃度域に到達する前に上げ止まることなく上昇を続けている場合、ステップS100−2に戻り、ステップS110−2、S114を繰り返す。実測濃度が、目標濃度域に到達せず上げ止まっている場合、ステップS124に進む。
【0086】
ステップS124では、「濃度調整」を行う。この濃度調整においては、添加槽36における地下水への浄化剤又は活性剤の添加量を制御して、注入液における浄化剤又は活性剤の濃度を高くする。これにより、観測井戸26内の地下水における実測濃度が目標濃度域CEに近づけて、実測濃度の上げ止まりを解消する。
【0087】
次に、ステップS125で管理関数を補正(管理関数の補正方法については後述する)し、ステップS100−2に戻りステップS114に進んで、単位時間あたりの実測濃度の上昇幅が所定値以上になったかどうかを確認する。これにより、実測濃度の上げ止まりが解消されたかどうかが判断される。
【0088】
(管理関数の補正)
図5には、観測井戸26の内部に設置されたセンサーで測定された観測井戸26内の地下水における浄化剤又は活性剤の実測濃度を、注水井戸24から注入液の注入を開始してからの経過時間毎にプロットし、そのプロットした点に沿って近似的に生成された曲線が、実測濃度曲線F(t)として破線で示されている。
【0089】
上述したステップS114(図5の時間t4)に示されるように、実測濃度が目標濃度域に到達せず上げ止まっている場合、管理関数f(t)と実測濃度曲線F(t)とが乖離しており、管理関数f(t)における時間t4以降の予測濃度の信頼性が低い。このような場合、予測濃度が実測濃度と近似するように、管理関数を補正する。
【0090】
図5に示された管理関数g(t)は、管理関数f(t)を補正したものである。管理関数f(t)の補正方法は、(1式)における濃度Aを、ステップS124で調整された調整後の濃度に置き換え、(1式)における濃度Dを、濃度Aを補正した時点(時間t4)での地下水における浄化剤又は活性剤の濃度C4に置き換える。そして、図3に矢印Nで示したように、時間t4以降は、管理関数g(t)に基づいて地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を予測する。
【0091】
なお、上述したとおり、管理関数は、地下土壌10に注入液の注入を開始してからの経過時間に対する地下水の「温度」についても同様に設定することが可能である。
【0092】
この場合、ステップS100−2では、「濃度測定」に代えて「温度測定」を行う。具体的には、観測井戸26の内部に設置されたセンサーが、地下水の温度を測定する。
【0093】
また、ステップS110−2では、「濃度判定」に代えて「温度判定」を行う。具体的には、制御部38が、ステップ100−2で計測された観測井戸26の地下水の実測温度と、管理関数により予測された観測井戸26の地下水の予測温度とを比較し、実測温度が所定の範囲内かどうかを判定する。より具体的には、予測温度から実測温度を引いた差が、予め設定された許容値以内かどうかを判定する。
【0094】
また、ステップS118−2の「揚水量調整」では、地下水よりも高温である注入液の汚染土壌Eへの浸透力を調整する。
【0095】
また、ステップS114の「収束値判定」では、ステップ100−2で計測された実測温度が、所定の目標温度域に到達する前に上げ止まっていないかどうかを、制御部38が判定する。目標温度域は、汚染土壌Eを最も効率よく浄化することができる地下水の温度域(すなわち分解微生物が死滅せず、活性が最も高くなる温度域)であり、汚染土壌Eの浄化に先立って実施する土壌調査により予め設定される。
【0096】
また、ステップS124では、「濃度調整」に代えて「温度調整」を行う。この温度調整においては、制御部38が、加温装置34の出力を制御して、注入液の温度を高くする。これにより、観測井戸26内の地下水における実測温度が目標温度域CEに近づくようにする。
【0097】
なお、地下水における浄化剤又は活性剤の「濃度」を予測する管理関数と、地下水の「温度」を予測する管理関数は、何れか一方だけではなく、双方を用いてもよい。
【0098】
この場合、ステップS100−2では「濃度測定」及び「温度測定」を行い、ステップS110−2では「濃度判定」及び「温度判定」を行い実測濃度及び実測温度の少なくとも一方が予め設定された許容値外と判定された場合は、ステップS118−2で「揚水量調整」を行う。また、ステップS114の「収束値判定」では実測濃度及び実測温度の上げ止まりを判定し実測濃度及び実測温度の少なくとも一方が上げ止まっていると判定された場合は、ステップS124で「濃度調整」及び「温度調整」の少なくとも一方(すなわちステップS114で上げ止まっていると判断されたものの調整)を行う。さらにステップS125では、「地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を予測する管理関数」と「地下水の温度を予測する管理関数」のうち少なくとも一方(すなわちステップS124で濃度及び温度を調整したものに関する管理関数)を補正する。
【0099】
(作用・効果)
第3実施形態に係る汚染土壌浄化システムでは、管理関数の予測値と実測値とのずれに応じて、管理関数を補正する。
【0100】
これにより、管理関数の予測精度を高めることができる。このため、地下土壌に過剰な濃度の浄化剤又は活性剤を含んだ注入液を注入したり、注入液を加温しすぎることを抑制できる。したがって、資源やエネルギーの無駄を削減できる。また、注入液に含まれる浄化剤又は活性剤の量が不足したり、注入液の温度が不足する事を抑制できる。したがって、土壌浄化能力を維持することができる。
【0101】
[第4実施形態]
第4実施形態においては、図6に示すように、ステップS114において、実測濃度が目標濃度域に到達する前に上げ止まることなく上昇を続けている場合、ステップS100−2に戻らずに、ステップS120に進む。
【0102】
ステップS120以降のステップでは、汚染土壌浄化システムの稼働を自動停止、自動再開して、地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を目標濃度域に保持する。
【0103】
具体的に説明すると、まずステップS120では、「上限値判定」を行う。この上限値判定では、実測濃度が、予め設定された上限値に達したかどうかを判定する。予め設定する上限値は、例えば図7に示すように、目標濃度域CEの上限濃度C3等とする。
【0104】
実測濃度が上限濃度C3に達していない場合、ステップS100−2に戻る。図7の時間t3における実測濃度曲線F(t)が示すように、実測濃度が上限濃度C3に達した場合、ステップS128に進む。
【0105】
ステップS128では、添加槽36のポンプ及び揚水ポンプPを制御して、注水井戸24から地下土壌10への注入液の注入及び揚水井戸22からの地下水の揚水を停止する。
【0106】
次に、ステップS130で「濃度測定」を行う。具体的には、観測井戸26の内部に設置されたセンサーが、観測井戸26の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を測定する。
【0107】
次に、ステップS132で「下限値判定」を行う。この下限値判定では、ステップS128において注入液の注入を停止したことにより減少する地下水中の浄化剤又は活性剤の濃度が、予め設定された下限値に達したかどうかを、制御部38が判定する。この下限値は、図7における目標濃度域CEの下限濃度C2とされている。
【0108】
地下水における浄化剤又は活性剤の濃度が、下限濃度C2に達していない(すなわちC2まで下がっていない)場合、ステップS130に戻る。すなわち、地下水の浄化剤又は活性剤の濃度が、下限濃度C2に達するまで計測と判定を繰り返す。図7の時間t2に示すように、地下水の浄化剤又は活性剤の濃度が、下限濃度C2に達した場合、ステップS136に進む。
【0109】
ステップS136では、制御部38が添加槽36及び揚水ポンプPを制御して、注水井戸24から地下土壌10への注入液の注入及び揚水井戸22からの地下水の揚水を再開する。
【0110】
なお、ステップS128において注入液の注入を停止してからステップS136で再開するまでの間、管理関数による濃度予測は行わない。具体的には、図7に示すように、実測濃度が目標濃度域CEの上限濃度C3に達した時間t3から(すなわち注入液の注入を停止してから)、実測濃度が下限濃度C2に達する時間t2まで(すなわち注入液の注入を再開するまで)の期間は、管理関数による濃度予測は行わない。
【0111】
そして、ステップS136において注入液の注入を開始してからは、ステップS137で管理関数を補正し、新たな管理関数h(t)を用いて濃度を予測する。管理関数h(t)は、(1式)における濃度Aの値を、下限濃度C2よりも大きな任意の値とし、(1式)における濃度Dの値を、ステップS136において注入液の注入を開始する時点での濃度(すなわち下限濃度)C2に設定する。
【0112】
なお、ステップS120の「上限値判定」、ステップS130の「濃度測定」、ステップS132の「下限値判定」、ステップS137の「管理関数補正」は、それぞれ濃度に代えて温度についても行うことができる。あるいは、濃度、温度の双方について行うことができる。これらのステップを濃度、温度の双方について行う場合は、ステップS120の「上限値判定」で実測濃度、温度の「双方」が上限濃度、温度に達したと判断された場合に、ステップS128で注入液の注入を停止する。また、ステップS132で実測濃度、温度の「少なくとも一方」が下限濃度、温度に達したと判断された場合に、ステップS136で注入液の注入を再開する。
【0113】
(作用・効果)
第4実施形態に係る汚染土壌浄化システムでは、観測井戸26の内部に設置されたセンサーが測定した地下水における浄化剤又は活性剤の濃度に基づき、制御部38が地下土壌10への注入液の注入を停止及び再開する。
【0114】
これにより、地下土壌10における浄化剤又は活性剤の濃度を目標濃度域CEに維持することができる。このため、地下土壌10における浄化剤又は活性剤の濃度が不足したり、過剰になることを抑制できる。
【0115】
[変形例]
第1実施形態〜第4実施形態に係る汚染土壌浄化システムの各種変形例について説明する。
【0116】
第1実施形態においては、図8に示すようにステップS100とS110の間にステップS102及びS108を介在させてもよい。
【0117】
このステップS102では例えば「水位判定」を行う。この水位判定では、注入液が注入された注水井戸24の「水位」が上限値以下かどうかを判定する。なお、水位の上限値は、注水井戸24へ注入液を注入し続けた場合に、注水井戸24から地下水がオーバーフローする虞のある水位である。
【0118】
注水井戸24の水位が上限値よりも大きい場合、ステップS108において「水位調整」を行う。この水位調整では、注水井戸24から地下水を吸い上げて注水井戸24を洗浄して詰まりを除去し、注水井戸24から汚染土壌Eへ注入液を流れ易くする。
【0119】
なお、図8にはステップS102、S108として「水位判定」、「水位調整」を示しているが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えばステップS102では「注入濃度判定」を行ってもよい。この注入濃度判定では、添加槽36で生成された注入液における浄化剤又は活性剤の濃度が上限値以下かどうかを判定する。なお、濃度の上限値は水溶液における分解微生物の飽和濃度のことである。
【0120】
注入液における浄化剤又は活性剤の濃度が上限値よりも大きい場合は、ステップS108において「添加量調整」を行う。この添加量調整では、添加槽36での注入液への浄化剤又は活性剤の添加量を減らす。これにより、浄化剤又は活性剤の無駄を抑制する。
【0121】
また、ステップS102では例えば「注入温度判定」を行ってもよい。この注入温度判定では、添加槽36の注入液の温度が上限値以下かつ下限値以上かどうかを判定する。
【0122】
注入液の温度が上限値よりも大きい場合は、ステップS108において「加温調整」を行う。この加温調整では、加温装置34での加温量を減らし、分解微生物の死滅を抑制する。注入液の温度が下限値よりも小さい場合は、ステップS108において加温装置34での加温量を増やし、分解微生物が浄化機能を発揮するために必要な温度を維持する。
【0123】
また、ステップS102では例えば「揚水量判定」を行ってもよい。この揚水量判定では、揚水井戸22の水位の測定値から、揚水量が上限値以下かつ下限値以上かどうかを判定する。
【0124】
揚水量が上限値よりも大きい場合は、ステップS108において「ポンプ調整」を行う。このポンプ調整では、揚水井戸22から地下水を揚水する揚水ポンプPの出力を下げ、揚水ポンプPの故障を防ぐ。揚水量が下限値よりも小さい場合は、ステップS108において揚水ポンプPの出力を上げ、注水井戸24における注入液の注入量を下回らないようにする。
【0125】
また、ステップS102では例えば「流動判定」を行ってもよい。この流動判定では、揚水井戸22、注水井戸24、観測井戸26におけるそれぞれの水位から、地下土壌10における地下水の流れが想定した流れになっているかどうかを判定する。
【0126】
なお、「地下水の流れが想定した流れになっているかどうか」は、注水井戸24、揚水井戸22及び観測井戸26相互の水位差が想定範囲内かどうかで判断される。水位差が大きい場合、地下土壌10における水勾配が大きく、想定した流れよりも地下水の流れが過剰である。また水位差が小さい場合、地下土壌10における水勾配が小さく、想定した流れよりも地下水の流れが少ない。
【0127】
地下水の流れが想定した流れになっていない場合、ステップS108で「流量調整」を行う。この流量調整では、地下水の流れが想定した流れになるように、揚水井戸22における揚水量、注水井戸24における注入量の少なくとも一方を調整する。例えば注水井戸24の水位に対して揚水井戸22の水位が想定よりも高い(すなわち水位差が小さい)場合、揚水ポンプPの出力を大きくして、揚水井戸22からの揚水量を多くする。
【0128】
なお、本実施形態においては、遮水壁28の下端は不透水層14に根入れされており、遮水壁28内外の地下水の流れを遮断している。このため、例えば揚水量を大きくすることで地下水の流れを調整できる一方で、遮水壁28の外側から地下水が供給されないため、地下水位は低下する。このような場合は、揚水量に加え注水量も大きくすることで、地下水位を適切な高さに維持することができる。
【0129】
以上説明したステップS102の実施例である「水位判定」、「注入濃度判定」、「注入温度判定」、「揚水量判定」、「流動判定」は組み合わせて用いることができる。なお、これらのステップ102を適用する場合は、ステップ100において、それぞれ「注水井戸24の水位」、「添加槽36の注入液における浄化剤又は活性剤の濃度」、「添加槽36の注入液の温度」、「揚水井戸22の水位」、「揚水井戸22、注水井戸24、観測井戸26の水位」を測定する。
【0130】
また、ステップS102は、第2〜第4実施形態における汚染土壌浄化方法においても任意のタイミングで行うことができる。
【0131】
また、第1〜第4実施形態においては、図1A図1Bに示す遮水壁28の材質をコンクリートとしているが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば凍土、粘土、鋼製矢板、セメント改良体等を用いることができる。また、遮水壁28は必ずしも設ける必要はない。遮水壁28を設けない場合は、地下水の流れの上流側に注水井戸24を配置し、下流側に揚水井戸22を設置することが望ましい。これにより、注水井戸24から地下土壌10に注入した注入液を円滑に地下土壌10へ浸透させることができる。
【0132】
また、第1〜第4実施形態においては、図1A図1Bに示す水処理装置32において、地下水に空気を送り込むことで水質改善するものとしたが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば水質改善の方法として、地下水に浄化剤を添加し反応させて水質改善する方法、地下水に含まれる汚染物質を吸着することで地下水と汚染物質との分離を図る方法などを用いてもよい。
【0133】
浄化剤として汚染物質を生物分解する分解微生物を用いて地下水を浄化する場合には、栄養塩や酸素を混入したり、新たに分解微生物を混入したりしても良い。さらに、注水井戸24による注入液の注入を円滑に実施するため、凝集剤を混入したりしても良い。
【0134】
また、第1〜第4実施形態においては、ヒーターにより水処理装置32で浄化された地下水を加温するものとしたが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば空調機器(図示省略)の熱媒体と、水処理装置32で浄化された地下水とを熱交換させることにより地下水を加温しても良い。
【0135】
また、第1〜第4実施形態においては浄化剤として分解微生物を用いているが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば汚染物質を化学分解する過酸化水素、鉄系スラリー、加硫酸塩、フェントン試薬、過マンガン酸、過炭酸塩などの化学分解剤などとしてもよい。
【0136】
また、第1〜第4実施形態においては活性剤として酵母エキスを用いているが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば、水素徐放剤(例えばポリ乳酸エステル)、高脂肪酸エステル、ラクトース等としてもよい。
【0137】
なお、浄化剤と活性剤とは、それぞれ単独で注入液に添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。また、複数種類の浄化剤を注入液に添加することもできるし、複数種類の活性剤を注入液に添加することもできる。さらに、浄化剤、活性剤に加えて、地下水中での浄化剤や添加剤の濃度を測定しやすくするために、任意のトレーサー物質を添加してもよい。このように、本開示に係る汚染土壌浄化システムにおいては、各種の実施形態を組み合わせることができる。
【0138】
2016年8月31日に出願された日本国特許出願2016−170144号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載されたすべての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1A
図1B
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図10