(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(電池用セパレータ塗液)
本発明は、金属成分を含む無機粒子と、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、を含む電池用セパレータ塗液に関する。ここで、金属成分は、金属リン酸塩とした際の20℃における水に対する溶解度が1g/100ml以下であることを満たす金属成分である。
【0015】
本発明の電池用セパレータ塗液は上記構成を有するため、塗工層を薄く形成する場合においても良好な塗工性を発揮し得る。そして、本発明の電池用セパレータ塗液から形成された塗工層においては、塗工層の膜厚が薄い場合であっても塗工ムラ等の発生が抑制されている。なお、本明細書においては、塗工性の評価は塗工層の塗工ムラの有無で判定できる。
本発明の電池用セパレータ塗液から形成された塗工層を含む電池用セパレータは、塗工ムラのない塗工層を有するため安全性が高い。また、本発明においては、塗工層を薄く形成することができるため、電池用セパレータ自体の厚みを薄くすることが可能となり、高性能化も可能となる。
【0016】
<微細繊維状セルロース>
本発明の電池用セパレータ塗液は、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む。なお、本明細書においては、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを、微細繊維状セルロースともいう。
【0017】
リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースの含有量は、電池用セパレータ塗液の分散媒100質量部に対して、0.1質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。微細繊維状セルロースの含有量は、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は、電池用セパレータ塗液の分散媒100質量部に対して、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0018】
電池用セパレータ塗液中における微細繊維状セルロースは、電池用セパレータ塗液用増粘剤と呼ぶこともできる。このような増粘剤は、塗工後には不純物となる恐れがあるため、その添加量は少ない方が好ましい。本発明では、微細繊維状セルロースを電池用セパレータ塗液用増粘剤として用いることにより、その添加量を少なくすることができる点にも特徴がある。本発明においては、電池用セパレータ塗液用増粘剤の添加量が少ない場合であっても無機粒子の分散性を高めることができる。また、本発明においては、電池用セパレータ塗液用増粘剤の添加量を抑えることにより、その塗工容易性を高めることもできる。
【0019】
さらに、本発明では、微細繊維状セルロースを電池用セパレータ塗液用増粘剤として用いることにより、電池用セパレータ基材の微多孔が塞がることを抑制することもできる。通常、電池用セパレータ基材の微多孔の閉塞の抑止と、裏抜けの発生の防止はトレードオフの関係にあるが、本発明では、微細繊維状セルロースを電池用セパレータ塗液用増粘剤として用いることにより、基材の微多孔の閉塞の抑止と、裏抜けの発生の防止の両方が達成される。
【0020】
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度発現がしやすい傾向がある。
【0021】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0022】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0023】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0024】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0025】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー(電池用セパレータ塗液)粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0026】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0027】
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)を有する。すなわち、本発明で用いられる微細繊維状セルロースはリン酸化セルロースである。
【0028】
微細繊維状セルロースが有するリン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO
3H
2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
【0029】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0030】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α
n(n=1以上n以下の整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0031】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
【0032】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0033】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0034】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0035】
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0036】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0037】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。一方、セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0038】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
【0039】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0041】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0042】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0043】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0044】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0045】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。本発明においては、例えば、リン酸基導入工程を2回行うことも好ましい態様である。
【0046】
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースは電池用セパレータ塗液用増粘剤として良好な特性を発揮することができる。なお、本明細書において、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の含有量(リン酸基の導入量)は、後述するように微細繊維状セルロースが有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
【0047】
また、リン酸基の導入量は1.50mmol/g以上であることも好ましい。このような高置換量であると、微細繊維状セルロース同士の電荷反発、分散性が高まるため、例えば、微細繊維状セルロースを含む電池用セパレータ塗液中に、電池用セパレータ塗液中の無機粒子等から、無機金属イオンが放出された場合にも、優れた無機粒子分散性が発現しやすい。
【0048】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0049】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、
図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0050】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0051】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0053】
<解繊処理>
リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0054】
解繊処理の際には、繊維原料を、水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0055】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0056】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。また、処理条件も好ましい重合度が得られる条件であれば特に限定されない。
【0057】
<無機粒子>
電池用セパレータ塗液に含まれる無機粒子は、金属成分を含む。ここで、金属成分とは、元素周期表における非金属元素、希ガスを除く元素のイオンである。通常、無機粒子中では対となる陰イオンとイオン結合をして存在している。金属成分は、金属リン酸塩とした際の20℃における水に対する溶解度が1g/100ml以下であることを満たす金属成分である。すなわち、金属成分を、その金属成分を含む金属リン酸塩とした際、該金属リン酸塩の20℃における水に対する溶解度は1g/100ml以下である。なお、金属リン酸塩は、電池用セパレータ塗液中に実際に含まれるものではなく、電池用セパレータ塗液に含まれる無機粒子が有する金属成分が分かれば、その金属成分を含む金属リン酸塩の溶解度は文献値から決定することができる。例えば、金属成分を、金属リン酸塩とした際の20℃における水に対する溶解度は、丸善株式会社発行の化学便覧基礎編(改定3版、昭和59年6月25日発行)に記載された20℃における水に対する溶解度を参考にすることができる。
【0058】
無機粒子が含む金属成分を、金属リン酸塩とした際の20℃における水に対する溶解度は、1g/100ml以下であればよく、0.1g/100ml以下であることが好ましく、0.05g/100ml以下であることがさらに好ましい。なお、後述するように金属成分(金属元素)は、バリウム、アルミニウム、カルシウム及びリチウムから選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸三バリウム(Ba
3(PO
4))
2の20℃における水に対する溶解度は、0.002g/100mLであり、リン酸アルミニウム(AlPO
4)の20℃における水に対する溶解度は、1.4×10
-9g/100mLであり、リン酸三カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)の20℃における水に対する溶解度は、0.002g/100mLであり、リン酸三リチウム(Li
3PO
4)の20℃における水に対する溶解度は、0.04g/100mLである。
【0059】
金属リン酸塩の20℃における水に対する溶解度が上記範囲内であることは、無機粒子が有する金属成分の金属リン酸塩の溶解度が低いことを示しており、言い換えれば、金属成分とリン酸の親和性が高いことを意味している。すなわち、電池用セパレータ塗液中においては、金属成分を有する無機粒子と、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の親和性が高いことを意味している。無機粒子と、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の親和性が高いと、微細繊維状セルロースの各繊維上に無機粒子が保持されやすくなり、無機粒子が微細繊維状セルロース上に均一に存在することが可能となる。これにより、電池用セパレータ塗液中の無機粒子の分散性が高まることになる。また、電池用セパレータ塗液中の無機粒子の分散性が高まることにより、塗液の塗工性が向上し、塗工ムラの抑制などが実現されることとなると考えられる。
【0060】
無機粒子としては、例えば、酸化鉄、Al
2O
3(アルミナ)、TiO
2、BaTiO
3、Li
3PO
4(リン酸三リチウム)、SrTiO
3、MgO、NiO、CaO、CaCO
3、ZnO、Pb(Zr,Ti)O
3(PZT)、Pb
1-xLa
xZr
1-yTi
yO
3(PLZT)、Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3−PbTiO
3(PMN−PT)、Li
3PO
4、Li
xTi
y(PO
4)
3(0<x<2、0<y<3)、Li
xAl
yTi
z(PO
4)
3(0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)
xO
y(0<x<4、0<y<13)、Li
xLa
yTiO
3(0<x<2、0<y<3)、AlN(窒化アルミニウム)、CaF
2(フッ化カルシウム)、BaF
2(フッ化バリウム)、BaSO
4(硫酸バリウム)、Li
xGe
yP
zS
w(0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、Li
xN
y(0<x<4、0<y<2)、ベーマイト(AlOOH)、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト(例えば、Ca
10(PO
4)
6(OH)
2)、カオリン、ムライト、スピネル、かんらん石(オリビン)、セリサイト、ベントナイトなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物なども用いることができる。中でも、BaTiO
3、Al
2O
3、CaCO
3、Li
3PO
4及びヒドロキシアパタイトから選択される少なくとも1種の無機粒子であることが好ましい。すなわち、無機粒子が含有する金属成分(金属元素)は、バリウム、アルミニウム、カルシウム及びリチウムから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0061】
なお、上記無機粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記絶縁性微粒子を構成する材料など)で表面被覆することで、電気絶縁性を持たせた微粒子とすることもできる。
【0062】
無機粒子の形態としては、球状、多面体形状、板状などいずれの形態であってもよい。また、無機粒子の1次平均粒子径は0.001μm以上であることが好ましく、5μm以下であることが好ましい。なお、無機粒子が球状ではない場合は、同体積の球状であると仮定して1次平均粒子径を算出した値が上記範囲内であることが好ましい。
【0063】
無機粒子の含有量は、電池用セパレータ塗液の全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、無機粒子の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。無機粒子の含有量を上記範囲内とすることにより、後述する電池用セパレータ基材の耐熱性をより効果的に高めることができる。
なお、無機粒子の含有量は例えば1質量%以下であると、無機粒子同士の衝突確率が減り、より沈降し易い傾向が見られる。しかし、本発明の電池用セパレータ塗液は、所定条件の微細繊維状セルロースを含有するため、無機粒子の含有量が少ない場合であっても、無機粒子の沈降を抑制することができる。
【0064】
電池用セパレータ塗液中に含まれる無機粒子の含有量をW
Aとし、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースの含有量をW
Bとした場合、W
A/W
Bの値は、0.5以上200以下であることが好ましい。W
A/W
Bの値は、0.8以上であることがより好ましい。また、W
A/W
Bの値は、150以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましい。W
A/W
Bの値が上記範囲内にある場合、無機粒子が微細繊維状セルロースの各繊維上に均一に存在していることが予想される。無機粒子が微細繊維状セルロースの各繊維上に均一に存在している場合、無機粒子の添加量を少なく抑えることができ、無機粒子の均一分散性はより高まる傾向が見られる。
【0065】
<分散媒>
電池用セパレータ塗液は分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水や有機溶媒、及びこれらの混合物が挙げられる。中でも分散媒は水であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール等が挙げられる。なお、本明細書において分散媒とは、電池用セパレータ塗液中において、塗工層形成時の乾燥の際に残る固形分を除いた残りの部分を指す。
【0066】
分散媒の含有量は、電池用セパレータ塗液の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、分散媒の含有量は、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
<他の成分>
電池用セパレータ塗液は、上記成分のほかに、バインダー成分をさらに含んでもよい。上記バインダー成分の具体例としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体;エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル酸共重合体;フッ素系ゴム;スチレン−ブタジエンゴム(SBR);ポリウレタン;エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのバインダー成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのバインダー成分は、それ単体では水に不溶であるため、適当な界面活性剤と共に、エマルションの形で提供される。電池用セパレータ塗液がバインダー成分をさらに含むことにより、後述する電池用セパレータ基材との接着性を高めることができる。上記バインダー成分の含有量は電池用セパレータ塗液中の無機粒子の全質量に対して15質量%以下であることが好ましい。
【0068】
電池用セパレータ塗液は、上記成分のほかに、有機イオン等を含んでもよい。有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn−プロピルオニウムイオン、テトラn−ブチルオニウムイオンなども挙げることができる有機イオンの含有量は、電池用セパレータ塗液中の無機粒子の全質量に対して20質量%以下であることが好ましい。
【0069】
本発明の電池用セパレータ塗液は水溶性高分子を含んでいても良い。水溶性高分子としては、例えば、キサンタンガム、タマリンドガム、グルコマンナン、グアーガム、ローカストビーンガム、プルランなどの水溶性多糖類、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、カゼインナトリウムなどの水溶性たんぱく質、デキストリン、澱粉、変性澱粉、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロースなどのデンプン類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、アクリル酸アルキルエステル共重合体等の合成高分子等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
<電池用セパレータ塗液の製造方法>
本発明は、以下の(a)工程もしくは(b)工程を含む電池用セパレータ塗液の製造方法に関するものでもある。
(a)工程:金属成分を含む無機粒子と、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、を分散媒中で混合する工程。
(b)工程:金属成分を含む溶液中に、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを浸漬し、繊維状セルロース上に金属成分を含む無機粒子を析出させる工程。
但し、(a)及び(b)工程において金属成分は、金属リン酸塩とした際の20℃における水に対する溶解度が1g/100ml以下であることを満たす金属成分である。
【0071】
(a)工程では、金属成分を含む無機粒子と、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースをそれぞれ準備し、その後、分散媒中で両成分を混合する。混合の順番は特に限定されるものではなく、無機粒子を分散媒中で分散させた後に、微細繊維状セルロースを添加して混合してもよく、無機粒子と、微細繊維状セルロースを同時に分散媒に分散させてもよい。混合方法は、特に限定されないが、例えば、真空ホモミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練器、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザーなどを用いて混合することができる。このような混合工程を経ることで、目的の電池用セパレータ塗液が得られる。
【0072】
(b)工程では、金属成分を含む溶液中に、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを浸漬し、適宜金属成分を含む溶液を更新しながら、長時間静置する。このような工程を経ることで、金属成分を有する無機粒子が均一に析出した微細繊維状セルロースを得ることができる。
【0073】
金属成分を含む溶液としては、例えば、金属の水酸化物や塩化物を水に溶解させることで得られる水溶液を挙げることができる。このような水溶液としては、水酸化カルシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、水酸化バリウム水溶液、塩化バリウム水溶液、水酸化アルミニウム水溶液、塩化アルミニウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、塩化リチウム水溶液等を挙げることができる。金属成分を含む溶液の濃度は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、金属成分を含む溶液は飽和溶液であっても構わない。
【0074】
金属成分を含む溶液には、SBF(Simulated Body Fluid)溶液を用いることも出来る。なお、SBF溶液は、例えば、NaClが142g/L、NaHCO
3が103g/L、KClが27g/L、Na
2HPO
4・2H
2Oが5g/L、MgCl
2・6H
2Oが1.5g/L、CaCl
2・2H
2Oが2.5g/L、Na
2SO
4が1.0g/L、(CH
2OH)
3CNH
2が0.5g/Lとなるように調製された水溶液であり、金属成分を含まない適当な酸を加えてpHを調整してもよい。
【0075】
(b)工程において、繊維状セルロースに加える金属成分を含む溶液の量は、特に限定されないが、金属成分の電荷の量が、繊維状セルロースが有するリン酸基又はリン酸基に由来する置換基の電荷の量以上であることが好ましい。例えば、価数が2であるリン酸基が1mmol/g含まれる繊維状セルロースを1g供試する場合、2mmol以上の電荷を有する金属成分を含む溶液を加えることが好ましい。
【0076】
(b)工程において、金属成分を含む溶液中に、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを浸漬する際には、金属成分を含む溶液と微細繊維状セルロースの懸濁液を混合することが好ましい。混合方法は、特に限定されないが、例えば、真空ホモミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練器、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザーなどを用いて混合することができる。
【0077】
(b)工程において、金属成分を含む溶液中に、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを浸漬する際には、無攪拌状態または緩やかな攪拌状態で24時間以上静置することが好ましい。静置時間は、48時間以上であることがより好ましく、72時間以上であることがさらに好ましく、96時間以上であることが特に好ましい。静置する環境の温度は特に限定されないが、23±5℃であることが好ましい。
【0078】
(b)工程において、金属成分を含む溶液中に、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを浸漬する操作は2回以上繰り返し行ってもよく、途中で金属成分を含む溶液の濃度や組成を変更しても構わない。具体的には、1回目の操作の後に繊維状セルロースと金属成分を含む液をろ過する工程を設け、ろ過回収物(金属成分を有する微細繊維状セルロース)を回収する。そして、この回収物を、再度金属成分を含む溶液に浸漬してもよい。ろ過工程では、例えば、孔径が100nm以上1000nm以下のPTFEメンブレンフィルターを用いることができる。また、新たに金属成分を含む溶液を加える前や(b)工程を終える際には、余剰の金属成分をイオン交換水等で除去しても構わない。
【0079】
(b)工程で無機粒子を析出させた後には、上述したようなろ過工程が再度設けられ、金属成分を有する無機粒子が析出した繊維状セルロースが得られる。このようにして得られた繊維状セルロースをイオン交換水等に懸濁することで電池用セパレータ塗液が得られる。
【0080】
(電池用セパレータ)
本発明は、基材と、塗工層と、を有する電池用セパレータに関するものでもある。塗工層は、金属成分を含む無機粒子と、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、を含む。但し、金属成分は、金属リン酸塩とした際の20℃における水に対する溶解度が1g/100ml以下であることを満たす金属成分である。
【0081】
電池用セパレータは上述した電池用セパレータ塗液を基材上に塗工することにより形成される。電池用セパレータは、基材の少なくとも一方の面に塗工層を有するものであればよく、基材の両面に塗工層を有するものであってもよいが、基材の片面に塗工層を有するものであることが好ましい。なお、電池用セパレータは塗工層を有するものであるが塗工層を形成する電池用セパレータ塗液の一部は、基材の微多孔の内部に侵入していてもよい。このような状態は、電池用セパレータ塗液の一部が、基材の表層領域に染みこんでいる状態とも言える。
【0082】
塗工層は金属成分を含む無機粒子を含む。無機粒子としては、上述した無機粒子を列挙することができ、好ましい具体例は上述した通りであり、金属成分は、バリウム、アルミニウム、カルシウム及びリチウムから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0083】
塗工層の厚みは、基材側の孔径によって異なるが、例えば、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。また、塗工層の厚みは、4μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、2.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0084】
電池用セパレータの塗工層中に含まれる無機粒子の含有量をW
Aとし、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースの含有量をW
Bとした場合、W
A/W
Bの値は、0.5以上200以下であることが好ましい。W
A/W
Bの値は、0.8以上であることがより好ましい。また、W
A/W
Bの値は、150以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましい。
【0085】
塗工層においては、無機粒子がリン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースの各繊維上に均一に存在していることが好ましい。無機粒子がリン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースの各繊維上に均一に存在する場合、無機粒子の意図しない凝集が抑制されるため、無機粒子の分散性をより高めることができる。
【0086】
<基材>
電池用セパレータは基材を含む。基材は、電解液に対し安定なものであって、多孔性基材であることが好ましい。
【0087】
基材の具体的な構成材料としては、例えば、セルロース、セルロース変成体(カルボキシメチルセルロースなど)、ポリオレフィン(ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン由来の構造単位が85モル%以上の共重合ポリオレフィン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アラミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂;ガラス、アルミナ、シリカなどの無機材料(無機酸化物)が挙げられる。
中でも基材の構成材料は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、ポリプロピレン又はポリエチレンであることがより好ましい。基材はポリプロピレン又はポリエチレンからなる不織布もしくはフィルムであることが特に好ましい。
【0088】
基材がポリエチレンからなる不織布である場合は、ポリエチレン繊維を湿式抄紙法にて抄紙し不織布を形成することが好ましい。不織布においては、ポリエチレン繊維はランダムに配向していることが好ましい。
【0089】
基材がポリエチレンからなるフィルムである場合は、フィルムは延伸フィルムであることが好ましく、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0090】
電池用セパレータ基材は接着剤を有してもよい。電池用セパレータ基材が接着剤を有する場合は、接着剤としてアクリル系樹脂を含有することが好ましい。アクリル系樹脂としては、例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂、プロピレン−(メタ)アクリル酸系樹脂などを挙げることができる。接着剤は基材表面に噴霧されることが好ましく、基材の表層領域に存在することが好ましい。このような接着剤は、基材と塗工層の接着性を高める働きをする。
また、必要に応じて、他の樹脂を併用することもできる。併用可能な樹脂としては、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
【0091】
基材の坪量は、10g/m
2以上であることが好ましく、20g/m
2以上であることがより好ましい。また、基材の坪量は、100g/m
2以下であることが好ましく、80g/m
2以下であることがより好ましい。
【0092】
基材の密度は、0.1g/cm
3以上であることが好ましく、0.2g/cm
3以上であることがより好ましく、0.3g/cm
3以上であることがさらに好ましい。また、基材の密度は、3.0g/cm
3以下であることが好ましく、2.0g/cm
3以下であることがより好ましく、1.0g/cm
3以下であることがさらに好ましい。
【0093】
<電池用セパレータの製造方法>
電池用セパレータの製造工程は、基材の少なくとも一方の面に電池用セパレータ塗液を塗布する工程と、電池用セパレータ塗液が塗布された基材を乾燥する工程とを含むことが好ましい。電池用セパレータ塗液を基材表面に塗布する際には、従来から知られている塗工機を用いることができる。塗工機としては、例えば、ダイコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター、スクイズロールコーター、カーテンコーター、ブレードコーター、ナイフコーターなどを挙げることができる。なお、電池用セパレータ塗液は基材の片面に塗布されることが好ましい。
【0094】
電池用セパレータ塗液の塗布量(塗工層坪量)は、0.1g/m
2以上であることが好ましく、0.5g/m
2以上であることがより好ましく、1g/m
2以上であることがさらに好ましい。また、電池用セパレータ塗液の塗布量は4g/m
2以下であることが好ましく、3.5g/m
2以下であることがより好ましく、3g/m
2以下であることがさらに好ましい。
【0095】
(用途)
本発明の電池用セパレータは、リチウム二次電池等に代表される電気化学素子に好ましく用いられる。電気化学素子としては、有機電解液を用いるリチウム電池(一次電池および二次電池)の他、スーパーキャパシタなどの用途にも用いることができる。
【0096】
リチウム二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)や金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ形とすることもできる。
【0097】
リチウムイオン電池を構成している部材は、正極電極、負極電極、セパレータ、電解液に大きく分けることができる。正極電極及び負極電極は各々、電子を送り出し受け取る酸化/還元反応を行う活物質を含有する。正極電極と負極電極とは、電池用セパレータを介して積層した積層構造の電極群や、更にこれを巻回した巻回構造の電極群の形態で用いることができる。
【0098】
正極としては、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている正極であれば特に制限はない。正極は、Li
+イオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する。
負極としては、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている負極であれば特に制限はない。負極はLi
+イオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する。
【0099】
正極と負極とは、本発明の電池用セパレータを介して積層した積層構造の電極群や、更にこれを巻回した巻回構造の電極群の形態で用いることができる。
【0100】
電解液としては、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLi
+イオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に制限はない。有機溶媒としては、リチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。
【0101】
リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器、電気自動車、ハイブリッド式自動車、電動バイク、電動アシスト自転車、電動工具、シェーバーなどの各種機器の電源用途などに加えて、従来から知られている各種用途に用いられる。
【実施例】
【0102】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0103】
<微細繊維状セルロース1の製造>
乾燥質量100質量部の針葉樹クラフトパルプに、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸させ、リン酸二水素アンモニウムが49質量部、尿素が130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0104】
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
【0105】
得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、二回リン酸化セルロースの脱水シート1を得た。得られた脱水シート1をFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1230cm
-1以上1290cm
-1以下にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。
【0106】
得られた脱水シート1(二回リン酸化セルロース)にイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で200MPaの圧力にて2回処理し、微細繊維状セルロース1を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロース1はセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0107】
<微細繊維状セルロース2の製造>
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプと、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)1.25質量部と、臭化ナトリウム12.5質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が8.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上11以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0108】
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シート2を得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シート2の赤外線吸収スペクトルをFT−IRで測定した。その結果、1730cm
-1にカルボキシル基に基づく吸収が観察され、カルボキシル基の付加が確認された。この脱水シート2(TEMPO酸化セルロース)を用いて、微細繊維状セルロースを調製した。
【0109】
得られた脱水シート2(TEMPO酸化セルロース)にイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で200MPaの圧力にて2回処理し、微細繊維状セルロース2を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロース2はセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0110】
(微細繊維状セルロースの物性)
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
湿式微粒化装置にて処理をした微細繊維状セルロースの上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。微細繊維状セルロース1及び2は、繊維幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。
【0111】
<置換基量の測定>
置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基もしくはカルボン酸基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基もしくはカルボン酸基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、
図1(リン酸基)及び
図2(カルボキシル基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。算出した結果は以下の表1に示した。
【0112】
【表1】
【0113】
<実施例1>
チタン酸バリウム(BaTiO
3)粉末を、湿式ボールミルを用いて、1次平均粒子径が1μm以下となるまで微粉砕を行い、微粉砕BaTiO
3スラリーを得た。得られた微粉砕BaTiO
3スラリーの組成が、BaTiO
3100質量部に対して、イオン交換水51質量部となるよう、イオン交換水を加えた。さらに、固形分濃度が2質量%の微細繊維状セルロース1の懸濁液50g(微細繊維状セルロース1の固形分1gと水49gの懸濁液)を加え、T.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で3000rpmにて1時間撹拌した。このようにして、微粉砕BaTiO
350質量%、分散媒100質量部(上記分散媒51g+水49g)に対する微細繊維状セルロースの固形分濃度が1質量部の電池用セパレータ塗液を得た。
【0114】
<実施例2>
BaTiO
3粉末の代わりにアルミナ(Al
2O
3)粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、電池用セパレータ塗液を得た。
【0115】
<実施例3>
BaTiO
3粉末の代わりに炭酸カルシウム(CaCO
3)粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、電池用セパレータ塗液を得た。
【0116】
<実施例4>
BaTiO
3粉末の代わりにリン酸三リチウム(Li
3PO
4)粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、電池用セパレータ塗液を得た。
【0117】
<実施例5>
<CNF−Ca懸濁液の調製>
固形分濃度が2.0質量%の微細繊維状セルロース1の懸濁液500g(微細繊維状セルロース1の固形分10gと水490gの懸濁液)に、0.2質量%濃度の水酸化カルシウム水溶液500g(水酸化カルシウム1.0g、イオン交換水499g)を加え、T.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で8000rpmにて15分攪拌し、微細繊維状セルロースのカルシウム添加懸濁液(以下、CNF−Ca懸濁液とする)を得た。得られたCNF−Ca懸濁液を密閉容器に入れ、4日間無攪拌状態で保持した。
【0118】
<ろ過・再浸漬工程>
4日経過後、CNF−Ca懸濁液を孔径500nmのPTFEメンブレンフィルターでろ過し、PTFEメンブレンフィルター上に210gの回収物を得た。
回収物に、飽和水酸化カルシウム水溶液を290g加え、さらに4日静置後、同様のろ過方法で回収物を得て、イオン交換水で、余剰の水酸化カルシウム水溶液が除かれるまでろ過洗浄を繰返し、PTFEメンブレンフィルター上に回収物を得た。
【0119】
<CNF−Ca含有組成物の回収>
得られた回収物に、表2に組成を示すSBF(Simulated Body Fluid)290mLを加え、7日間静置した。7日間の静置中、<ろ過・再浸漬工程>に記載の方法と同様にして、得られた回収物に1日毎に新たなSBF290mLを加えた。7日間の静置後、同様のろ過方法で回収物を得て、イオン交換水で、余剰のSBFが除かれるまでろ過洗浄を繰返し、PTFEメンブレンフィルター上に精製されたCNF−Ca含有組成物を得た。
得られたCNF−Ca含有組成物の絶乾固形分質量は、18gであり、8gの無機粒子が微細繊維状セルロースに析出していた。析出した無機粒子は、X線回析分析の結果から、ヒドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウム)と同様のピークが確認され、少なくともカルシウム元素を含んでいた。
得られたCNF−Ca含有組成物18gにイオン交換水250gを加え、スリーワンモーターで緩やかに攪拌し、CNF−Ca含有組成物の懸濁液(電池用セパレータ塗液)を得た。
【0120】
【表2】
【0121】
<比較例1>
微細繊維状セルロース1の代わりに、微細繊維状セルロース2を用いた以外は実施例2と同様にして、電池用セパレータ塗液を得た。
【0122】
<比較例2及び3>
BaTiO
3粉末の代わりに炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータ塗液を得た。なお、後述する塗工性の評価において電池用セパレータを作製する際、比較例2では塗工層の厚みを2.5μmとして、比較例3では、塗工層の厚みを5.0μmとした。
【0123】
<比較例4及び5>
Al
2O
3粉末の代わりに炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)粉末を用いた以外は比較例1と同様にして、電池用セパレータ塗液を得た。なお、後述する塗工性の評価において電池用セパレータを作製する際、比較例4では塗工層の厚みを2.5μmとして、比較例5では、塗工層の厚みを5.0μmとした。
【0124】
<比較例6>
微細繊維状セルロース1の代わりに、微細繊維状セルロース2を用いた以外は実施例4と同様にして、電池用セパレータ塗液を得た。
【0125】
<評価>
得られた電池用セパレータ塗液の塗工性を、下記の方法により評価した。
【0126】
(基材の作製)
ポリエチレン繊維(繊維長:5mm、繊維強度:28cN/dtex、弾性率:900cN/dtex)を0.2質量%となるように水に分散し、湿式抄紙法にて、ランダムな配向のウェブを形成した。このウェブに接着剤としてエチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂(東邦化学製、ハイテックS−3148、エチレン/アクリル酸=80質量部/20質量部、樹脂末端にウレタン基を有する)を対ポリエチレン繊維比で10質量%となるように噴霧した後、110℃に設定した熱風乾燥機にて乾燥することによって30g/m
2の不織布を得た。この不織布に対しカレンダー処理を行い密度が0.64g/cm
3の不織布を得た。この不織布を、電池用セパレータ塗液を塗工するための不織布基材とした。
【0127】
(塗工性の評価)
不織布基材に電池用セパレータ塗液を塗工し、乾燥後の塗工層厚みが2.5μm(全ての実施例、比較例3及び5以外の比較例)または5μm(比較例3及び5)になるようにして、電池用セパレータを作製した。この際の塗工性を以下の基準で評価した。
○:塗工後の外観観察で全面にムラがない。
△:塗工後の外観観察で一部にムラ部分がある。
×:塗工後の外観観察で全面にムラがみられる。もしくは塗工自体が出来ない。
【0128】
【表3】
【0129】
表3からわかるように、実施例で得られた電池用セパレータ塗液は、塗工層厚みが薄くとも、塗工ムラの発生がなく、塗工性が良好であった。一方で、比較例で得られた電池用セパレータ塗液は、塗工層厚みを薄くした際の塗工性に劣っていた。
これらの結果は、無機粒子を構成する金属を含む金属リン酸塩の溶解度が低いこと、すなわち、無機粒子と、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の親和性が高いことに起因するものと考えられる。
【0130】
無機粒子と、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の親和性が、重要であることは、実施例4と比較例6の比較からも明らかである。具体的には、同じ無機粒子を用いても、良好な塗工層が得られる場合(実施例4)と、そうではない場合(比較例6)がある。これは、リン酸三リチウムの溶解度が、酢酸リチウムの溶解度に比べて低い、つまり、リン酸基とリン酸三リチウムの親和性が、カルボキシル基とリン酸三リチウムの親和性を上回るためであると考えられる。