(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される鉛蓄電池は、鉛蓄電池であって、負極板と、前記負極板を挟んで第1の方向に互いに対向する第1の正極板および第2の正極板と、前記第1の正極板と前記負極板との間に配置された第1のセパレータ部分と、前記第2の正極板と前記負極板との間に配置された第2のセパレータ部分と、前記負極板に対して前記第1の方向に直交する第2の方向の一方側に位置し、前記第1のセパレータ部分と前記第2のセパレータ部分とを繋いでいる第3のセパレータ部分と、を含むセパレータと、前記負極板に対して前記第1の方向および前記第2の方向の両方に直交する第3の方向の一方側の位置であって、かつ、前記第2の方向において前記負極板の中心より前記第2の方向の前記一方側の位置に配置され、前記第1の正極板と前記第2の正極板とを連結している正極側集電体と、を備え、前記セパレータは、さらに、前記第1のセパレータ部分における前記第3の方向の前記一方側の端部から前記負極板と前記正極側集電体との間まで延びている第4のセパレータ部分と、前記第2のセパレータ部分における前記第3の方向の前記一方側の端部から前記負極板と前記正極側集電体との間まで延びている第5のセパレータ部分と、を含み、前記第4のセパレータ部分と前記第5のセパレータ部分とは、少なくとも前記負極板と前記正極側集電体との間の位置において封止された封止部分を有し、前記負極板の前記第2の方向の長さL1に対する前記第4のセパレータ部分と前記第5のセパレータ部分との封止部分の前記第2の方向の長さW1の比である特定比(W1/L1)は、0.4以下である。
【0012】
本鉛蓄電池では、負極板と正極側集電体との間に封止部分を有し、負極板と正極側集電体との間において第4のセパレータ部分と第5のセパレータ部分とが封止されることにより、負極板から正極側集電体に向かって析出する導電物が正極側集電体に達することが抑制されるため、封止部分を有しない構成に比べて、正極板と負極板との短絡を抑制することができる。また、本鉛蓄電池では、負極板の第2の方向の長さL1に対する封止部分の第2の方向の長さW1の比である特定比(W1/L1)が、0.4以下である。これにより、特定比(W1/L1)が、0.4よりも大きい構成に比べて、発生したガスによる電解液の攪拌効果が低下することが抑制されるため、成層化が解消され易くなる。すなわち、本鉛蓄電池によれば、正極板と負極板との短絡抑制と、成層化による電池寿命の短縮抑制との両立を図ることができる。
【0013】
(2)上記鉛蓄電池において、前記第1の正極板と前記第2の正極板とは、正極用本体部と、前記正極用本体部と前記正極側集電体との間に配置され、前記正極用本体部と前記正極側集電体とを連結している正極用耳部とをそれぞれ有し、前記封止部分の前記第2の方向の前記一方側と反対側である他方側の端部である封止端部は、前記正極用耳部の前記第2の方向の前記他方側の端部である耳端部よりも前記第2の方向の前記他方側に位置し、前記封止端部と前記耳端部との間の前記第2の方向の距離は、5mm以上である構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、封止端部と耳端部との間の距離が5mm未満である構成に比べて、負極板から正極側集電体または正極用耳部に向かって析出する導電物が正極側集電体または正極用耳部に達することが抑制されるため、正極板と負極板との短絡をより効果的に抑制することができる。
【0014】
(3)上記鉛蓄電池において、前記特定比(W1/L1)は、0.25以上、かつ、0.35以下である構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、特定比が0.25未満または0.35より大きい構成に比べて、正極板と負極板との短絡抑制と、成層化による電池寿命の短縮抑制とを効果的に両立させることができる。
【0015】
(4)上記鉛蓄電池において、前記第3の方向視で、前記封止部分は、少なくとも、前記セパレータの前記第2の方向の前記一方側の端部と重なっている構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、負極板から正極側集電体に向かって析出する導電物がセパレータの第2の方向の一方側の端部側から正極側集電体に達することが抑制されるため、封止部分が、セパレータの第2の方向の一方側の端部と重なっていない構成に比べて、正極板と負極板との短絡を確実に抑制することができる。
【0016】
(5)上記鉛蓄電池において、前記第4のセパレータ部分及び前記第5のセパレータ部分の前記第3の方向における寸法は、25mm以上であり、かつ、前記封止部分における前記第3の方向の前記一方側の端部と前記負極板における前記第3の方向の前記一方側の端部との間の前記第3の方向の距離は、25mm以上である構成としてもよい。第4のセパレータ部分及び第5のセパレータ部分の第3の方向における寸法が大きいほど、封止部分を、負極板の第3の方向の一方側の端部から第3の方向の一方側に離して配置することができ、封止部分が、負極板の第3の方向の一方側の端部から第3の方向の一方側に離れて配置されるほど、正極板と負極板との短絡を抑制しやすい。本鉛蓄電池によれば、第4のセパレータ部分及び第5のセパレータ部分の第3の方向における寸法は、25mm以上であり、かつ、封止部分における第3の方向の一方側の端部と負極板の第3の方向の一方側の端部との間の第3の方向の距離は、25mm以上である。これにより、上記寸法及び距離が25mm未満である構成に比べて、正極板と負極板との短絡を抑制することができる。
【0017】
(6)上記鉛蓄電池において、さらに、互いに対向する一つの対向部を含む絶縁性の封止部材を備え、前記第4のセパレータ部分と前記第5のセパレータ部分とは、前記封止部材の前記一対の対向部の間に挿入されている構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、第4のセパレータ部分と第5のセパレータ部分とが、封止部材の一対の対向部の間に挿入されることにより、封止部分が形成される。これにより、例えば第4のセパレータ部分と第5のセパレータ部分とが接着されて封止部分が形成される構成に比べて、封止部分を容易に形成することができる。また、負極板と正極側集電体との間には、封止部分に加えて、該封止部分に隣接するように配置される絶縁性の封止部材が介在する。したがって、封止部材が介在しない構成に比べて、負極板から正極側集電体に向かって析出する導電物が正極側集電体に達することがより確実に抑制されるため、正極板と負極板との短絡をより効果的に抑制することができる。
【0018】
(7)上記鉛蓄電池において、前記一つの対向部の互いに対向する2つの対向面の少なくとも一方の対向面は、前記第2の方向の前記一方側と反対側である他方側に向かうに連れて他方の前記対向面から離間するように傾斜している第1の傾斜面を含む構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、第1の傾斜面が封止部材に形成されていない構成に比べて、第4のセパレータ部分と第5のセパレータ部分とを封止部材の一対の対向部の間に容易に挿入させることができる。
【0019】
(8)上記鉛蓄電池において、前記封止部材の前記第3の方向の前記一方側と反対側である他方側の表面は、前記封止部材の前記第2の方向の前記一方側と反対側である他方側の端部に向かうに連れて前記負極板から離間するように傾斜する第2の傾斜面を含む構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、封止部材の一対の対向部の間に第4のセパレータ部分と第5のセパレータ部分を挿入する際に、封止部材の角部が第4のセパレータ部分や第5のセパレータ部分に接触して第4のセパレータ部分や第5のセパレータ部分が損傷することを抑制することができる。また、発生したガスを封止部材の第2の傾斜面に沿って対流させることができるため、発生したガスによる攪拌効果が封止部材によって低下することを抑制することができる。
【0020】
A.第1の実施形態:
A−1.鉛蓄電池100の構成:
図1は、鉛蓄電池100の断面構成を概略的に示す説明図である。鉛蓄電池100は、例えば電気式フォークリフトなどの電動車両の動力源に用いられる液式の鉛蓄電池(バッテリ)である。
図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとする。
図2以降についても同様である。
【0021】
図1に示すように、鉛蓄電池100は、電池筐体102と、極板群104と、正極側集電体106Pと、負極側集電体106Nと、封止部材200とを備える。
【0022】
(電池筐体102の構成)
電池筐体102は、内部に収容空間Sが形成された箱状体であり、例えば合成樹脂により形成されている。具体的には、電池筐体102は、電槽22と、蓋24とを含む。電槽22は、上面が開放した略直方体の容器である。電槽22の内部には、極板群104と、正極側集電体106Pと、負極側集電体106Nと、封止部材200とが収容されると共に、電解液Uが充填されている。電解液Uは、例えば希硫酸である。蓋24は、電槽22の上端開口部に対応した略矩形の扁平箱型部材である。蓋24には、正極端子部26Pと負極端子部26Nとがそれぞれ蓋24を上下方向に貫通するように設けられている。蓋24は、電槽22の上端開口部を塞ぐように配置されており、蓋24の下面の周縁部分と、電槽22の上端開口部の周囲部分とが、例えば熱溶着により接合されている。
【0023】
(極板群104の構成)
図2は、極板群104および封止部材200の上側の平面構成を概略的に示す説明図である。なお、
図2には、極板群104と封止部材200とが互いに分離された状態が示されている。また、
図2には、正極側集電体106Pと負極側集電体106Nとが点線で示されている。また、
図2中の「+」は正極を意味し、「−」は負極を意味する。
図2に示すように、極板群104は、複数の正極板110Pと、複数の負極板110Nと、シート120とを備える。
【0024】
図2に示すように、複数の正極板110Pと複数の負極板110Nとは、正極板110Pと負極板110Nとが1つずつ、上下方向に直交する所定の方向(Y軸方向 「極板配列方向」ということができる)に交互に並べて配置されている。また、各極板(正極板110P、負極板110N)は、略矩形の平板形状であり、極板配列方向に略直交するように配置されている。なお、正極側集電体106Pと負極側集電体106Nとは、上下方向(Z軸方向)と極板配列方向との両方に直交する方向(X軸方向 「集電体配列方向」ということができる)に並んで配置されている。極板配列方向(Y軸方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当し、集電体配列方向(X軸方向)は、特許請求の範囲における第2の方向に相当し、上下方向(Z軸方向)は、特許請求の範囲における第3の方向に相当する。
【0025】
正極板110Pは、複数本のチューブ内に正極活物質(例えば二酸化鉛)を保持させたクラッド式の極板であり、正極用本体部114Pと正極用耳部112Pとを備える。正極用本体部114Pは、Y軸方向視で略矩形状に形成されている。正極用耳部112Pは、正極用本体部114Pの上辺のX軸正方向側の端部付近から上方向に突出するように設けられている。以下、正極用耳部112PにおけるX軸正方向側の端部を、「外側耳端部112PA」といい、正極用耳部112PにおけるX軸負方向側の端部を、「内側耳端部112PB」という。内側耳端部112PBは、特許請求の範囲における耳端部に相当する。
【0026】
負極板110Nは、板状の格子体に負極活物質(例えば海綿状鉛)を保持させたペースト式の極板であり、負極用本体部114Nと負極用耳部112Nとを備える。負極用本体部114Nは、Y軸方向視で略矩形状に形成されている。負極用耳部112Nは、負極用本体部114Nの上辺のX軸負方向側の端部付近から上方向に突出するように設けられている。すなわち、正極用耳部112Pと負極用耳部112Nとは、極板群104において、X軸方向に互いに反対側に位置するように配置されている。
【0027】
シート120は、略帯状であり、絶縁性かつイオン伝導性材料(例えばガラス繊維や多孔質合成樹脂)により形成されている。シート120は、上下方向視で、正極板110Pと負極板110Nとの間を蛇行するように配置されたジグザグ形状とされている(
図2参照)。
図1に示すように、シート120は、中間シート部122と、該中間シート部122の上側に隣接する上側シート部124と、該中間シート部122の下側に隣接する下側シート部126とを含む。なお、中間シート部122と上側シート部124と下側シート部126とは一体部材である。シート120は、特許請求の範囲におけるセパレータに相当する。
【0028】
中間シート部122は、電池筐体102の収容空間Sにおいて、各正極板110Pが配置された領域と各負極板110Nが配置された領域とを区画するセパレータとして機能する。中間シート部122の上端部と各極板の上端部とは、上下方向において同じ位置に配置されており、中間シート部122の下端部と各極板の下端部とは、上下方向において同じ位置に配置されている。具体的には、
図2に示すように、中間シート部122は、複数の第1のセパレータ部分122Aと、複数の第2のセパレータ部分122Bと、複数の第1の接続部分122Cと、複数の第2の接続部分122Dとを含む。
【0029】
第1のセパレータ部分122Aは、各負極板110Nと、該負極板110Nに対してY軸正方向側に隣り合う正極板110Pとの間に配置される。ただし、複数の第1のセパレータ部分122Aの内、Y軸正方向側の端に位置する第1のセパレータ部分122Aの該一方側には正極板110Pが存在しなくともよい。第2のセパレータ部分122Bは、各負極板110Nと、該負極板110Nに対してY軸負方向側に隣り合う正極板110Pとの間に配置される。ただし、複数の第2のセパレータ部分122Bの内、Y軸負方向側の端に位置する第2のセパレータ部分122Bの該他方側には正極板110Pが存在しなくともよい。
【0030】
第1の接続部分122Cは、負極板110Nに対してX軸正方向側に配置され、第1のセパレータ部分122Aと第2のセパレータ部分122Bとを繋いでいる。つまり、第1の接続部分122Cは、X軸方向において負極用耳部112Nとは反対側に配置され、X軸方向において負極用耳部112Nとは反対側の負極板110Nの側面を覆っている。第2の接続部分122Dは、正極板110Pに対してX軸負方向側に配置され、第1のセパレータ部分122Aと第2のセパレータ部分122Bとを繋いでいる。つまり、第2の接続部分122Dは、X軸方向において正極用耳部112Pとは反対側に配置され、X軸方向において正極用耳部112Pとは反対側の正極板110Pの側面を覆っている。第1の接続部分122Cは、特許請求の範囲における第3のセパレータ部分に相当し、複数の正極板110Pの内、負極板110Nを挟んでY軸方向に互いに対向する一対の正極板110Pは、特許請求の範囲における第1の正極板および第2の正極板に相当する。
【0031】
上側シート部124は、中間シート部122の上端部から該中間シート部122の全長にわたって上方に同じ高さだけ延出しており、各極板の上端部より上側にはみ出すように配置されている。
図2に示すように、上側シート部124は、複数の第1の上側部分124Aと、複数の第2の上側部分124Bとを含む。第1の上側部分124Aは、第1のセパレータ部分122Aにおける上端部から上方に延出しており、負極板110Nと後述する正極側集電体106Pとの間まで延びている。第2の上側部分124Bは、第2のセパレータ部分122Bにおける上端部から上方に延出しており、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間まで延びている。第1の上側部分124Aは、特許請求の範囲における第4のセパレータ部分に相当し、第2の上側部分124Bは、特許請求の範囲における第5のセパレータ部分に相当する。
【0032】
下側シート部126は、中間シート部122の下端部から該中間シート部122の全長にわたって下方向に同じ高さだけ延出しており、各極板の下端部より下側にはみ出すように配置されている。以下、負極板110NにおけるX軸正方向側において、シート120(第1の接続部分122C)によって覆われている端部を、「閉塞端部110NA」といい、負極板110NにおけるX軸負方向側においてシート120に覆われておらず、開放されている端部を、「開放端部110NB」という。
【0033】
(正極側集電体106Pおよび負極側集電体106Nの構成)
正極側集電体106Pは、平板状の導電性部材である。正極側集電体106Pは、複数の正極板110Pおよび負極板110Nの上方に位置し、X軸方向において各正極板110Pおよび各負極板110Nの中心よりX軸正方向側、より具体的には、第1の接続部分122C側に位置し、上下方向に略直交するように配置されている。正極側集電体106Pの下面は、複数の正極用耳部112Pに接合されている。これにより、複数の正極板110Pが正極側集電体106Pを介して連結されている。また、正極側集電体106Pの上面は、正極端子部26Pに接合されており、これにより、各正極板110Pと正極端子部26Pとが電気的に接続されている。
【0034】
負極側集電体106Nは、平板状の導電性部材である。負極側集電体106Nは、複数の正極板110Pおよび負極板110Nの上方に位置し、X軸方向において各正極板110Pおよび各負極板110Nの中心よりX軸負方向側、より具体的には、第1の接続部分122Cと反対側に位置し、上下方向に略直交するように配置されている。負極側集電体106Nの下面は、複数の負極用耳部112Nに接合されている。これにより、複数の負極板110Nが負極側集電体106Nを介して連結されている。また、負極側集電体106Nの上面は、負極端子部26Nに接合されており、これにより、各負極板110Nと負極端子部26Nとが電気的に接続されている。
【0035】
(封止部材200の構成)
封止部材200は、正極側集電体106Pと負極板110Nとの間において、シート120の上側シート部124を部分的に封止するための部材である。封止部材200は、絶縁性の部材であり、例えばABS樹脂により形成されている。
図2に示すように、封止部材200は、X軸方向に延びる複数の本体部分210と、複数の本体部分210におけるX軸正方向側の端部同士を連結する連結部分220を備える。
【0036】
各本体部分210には、シート120の上側シート部124が挿入される挿入スリット212が形成されている。具体的には、本体部分210は、Y軸方向に隙間(挿入スリット212)を介して互いに対向する一対の対向部214,214と、該一対の対向部214,214の上端部同士を繋ぐカバー部216とを含む。このような構成により、本体部分210には、該本体部分210における下側とX軸負方向側とに開放した挿入スリット212が形成されている。以下、本体部分210(対向部214)の内、X軸正方向側、より具体的には、第1の接続部分122C側の端部を「外側封止端部210A」といい、X軸負方向側、より具体的には、第1の接続部分122Cと反対側の端部を「内側封止端部210B」という。各対向部214の互いに対向する2つの対向面215,215には、X軸負方向側に向かうに連れて互いに(挿入スリット212を通過し、かつ、Y軸方向に直交する仮想平面Hから)離間するように傾斜する第1の傾斜面218が形成されている。また、各対向部214の下側の表面には、内側封止端部210Bに近づくに連れて負極板110Nから離間するように傾斜する第2の傾斜面219が形成されている(
図3参照)。
【0037】
封止部材200を用いてシート120を封止するときに、
図2に示すように、封止部材200を、極板群104に対して負極板110Nの閉塞端部110NA側から、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間に差し込む。これにより、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間には、シート120の内、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとにより、後述する封止部分130が形成される。なお、各正極用耳部112Pは、互いに隣り合う2つの本体部分210の間に位置するため、封止部材200と正極用耳部112Pとが干渉することが抑制される。
【0038】
図3は、封止部材200周辺の詳細構成を示す説明図である。
図3に示すように、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとの内、X軸正方向側の部分、より具体的には、第1の接続部分122C側の折り返し部分が、封止部材200の一対の対向部214,214の間に圧入されている。これにより、封止部材200の一対の対向部214,214の間に圧入された第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとが接触されることによって、封止部分130(
図3 斜線部分)が形成されている。封止部分130は、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間に位置しており、上下方向視で、少なくとも、負極板110Nと正極側集電体106Pとが重複する領域全域に重なって配置されている。また、封止部分130は、シート120のX軸正方向側の端部と重なって配置されている。以下、封止部分130におけるX軸負方向側の端部、より具体的には、第1の接続部分122Cと反対側の端部を「開放封止端部130B」という。開放封止端部130Bは、特許請求の範囲における封止端部に相当する。
【0039】
また、上側シート部124の内、一対の対向部214,214の間に圧入されている部分より負極板110Nの開放端部110NB側の部分は、上下方向に開放可能になっており、さらには、そのほぼ全領域が上下方向に開放した状態が維持されていることが好ましい。
【0040】
また、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間に、カバー部216が介在するため、封止部材200がカバー部216を備えない構成である場合に比べて、負極板110Nと正極側集電体106Pと間の封止精度を向上させることができる。
【0041】
また、以下の説明では、負極板110Nの集電体配列方向(X軸方向)における長さL1に対する、封止部分130のX軸方向における長さW1の比(W1/L1)を、特定比という。また、封止部分130の開放封止端部130Bと、正極用耳部112Pの内側耳端部112PBとの間のX軸方向の距離を第1の距離X1という。また、封止部分130の上端部と負極板110Nの上端部との間の上下方向の距離を第2の距離Z1という。なお、本実施形態では、封止部分130の上端部と、第1の上側部分124A及び第2の上側部分124Bの上端部とが等しいことから、距離Z1は、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとの上下方向における寸法に等しい。第1の距離X1は、特許請求の範囲における第2の方向の距離に相当し、第2の距離Z1は、特許請求の範囲における第3の方向の距離に相当する。
【0042】
A−2.鉛蓄電池100のサンプルの製造方法:
鉛蓄電池100のサンプルの製造方法の一例を説明する。まず、各極板110P、110Nが形成される。負極板110Nの上下方向の外形寸法は271mmであり、X軸方向の外形寸法は142mmであり、Y軸方向の外形寸法は4mmである。また、負極用耳部112Nは、負極板110Nの開放端部110NBより1mmだけ内側の位置から、17mmだけ内側の位置までの間に鋳出されている。また、正極板110Pは、14本のチューブを有しており、正極用耳部112Pは、正極板110PにおけるX軸正方向側の端部から1mmだけ内側の位置から、18mmだけ内側の位置までの間に鋳出されている。なお、正極板110Pの外形寸法は、負極板110Nの外形寸法と略同一である。
【0043】
次に、形成された各極板110P、110Nに対して、濃度7%の希硫酸中でタンク化成が施される。これにより、負極板110Nの負極側活物質の質量は、1枚当たり465±10gとなり、正極板110Pの正極側活物質の質量は、1枚当たり792±12gとなる。タンク化成後、正極板110Pと負極板110Nとがシート120を介してY軸方向に交互に並べられ、これにより、3枚の正極板110Pと4枚の負極板110Nとを含む極板群104が形成される。なお、負極側集電体106Nは、負極板110Nの開放端部110NBより1mmだけ内側の位置から、26mmだけ内側の位置までの間に配置されており、正極側集電体106Pは、正極板110PのX軸正方向側の端部から1mmだけ内側の位置から、26mmだけ内側の位置までの間に配置されている。
【0044】
次に、形成された極板群104が、電槽22に挿入され、さらに、比重1.28(20℃)の希硫酸2000cm
3である電解液Uが電槽22に注入されることによって、鉛蓄電池100のサンプルが製造される。この鉛蓄電池100のサンプルでは、負極板110Nの上面と、正極側集電体106Pの下面との間の距離が、33mmに設定されている。なお、鉛蓄電池100のサンプルの公称容量は、200Ahである。
【0045】
A−3.鉛蓄電池100の稼働時間の評価方法:
鉛蓄電池100の稼働時間(サイクル数)の決定方法は次の通りである。本評価方法では、上記の製造方法により、シート120(セパレータ)の巻き方、上記寸法W1,X1,Z1の少なくとも1つが互いに異なる複数の種類の鉛蓄電池100のサンプルを製造し、これらのサンプルのそれぞれについて稼働時間を決定した。なお、サンプル毎に、そのサンプルに対応する種類の鉛蓄電池100(以下、「サンプル電池」という)を3個ずつ製造した。
【0046】
稼働時間の決定方法では、まず、サンプルの基準容量を決定する。本実施形態では、比較を容易にするために、全種類のサンプルに共通する基準容量を決定する。サンプルの基準容量は、放電容量試験により決定する。放電容量試験では、各種類のサンプルについて、3つのサンプル電池それぞれに試験を行った。具体的には、各サンプル電池を30℃の水槽中において、37.5A、放電容量の125%の条件で充電を行い、40.0Aの条件で放電を行い、端子間電圧が1.70Vを下回った時点の放電容量を測定する放電容量測定を5回繰り返す。そして、各サンプル電池で測定された5回の放電容量の内、最も大きい放電容量の値をそのサンプル電池の初期放電容量とする。放電容量試験では、該初期放電容量を、全種類のサンプルの全サンプル電池について取得する。本評価方法では、稼働時間の決定を行う全種類のサンプルの全サンプル電池の初期放電容量の平均値を、サンプルの基準容量として求めた。なお、基準容量は、210Ahであった。
【0047】
次に、各サンプルのサイクル寿命試験を行った。サイクル寿命試験では、各サンプルについて、3つのサンプル電池それぞれに試験を行った。具体的には、各サンプル電池を45℃の水槽中において、50A、3時間の放電、および、37.5A、5時間の充電を1サイクルとして、100サイクル毎に前記の放電容量試験を行った。
【0048】
サイクル寿命試験中に、サンプル電池の端子間電圧が1.30Vを下回り、その後5サイクル以内に放電終了時の端子間電圧が1.30V以上に回復しない場合には、そのサンプル電池は短絡したものと判断し、そのサンプル電池のサイクル寿命試験を中止した。各種類のサンプルの3個のサンプル電池の内の1個のサンプル電池において、端子間電圧が初めて1.30Vを下回った時点のサイクル数を、その種類のサンプルの短絡までのサイクル数T1と判断した(
図4参照)。なお、サイクル寿命試験を中止したサンプル電池と同一種類のサンプル電池のうち、サンプル寿命試験を中止したサンプル電池以外のサンプル電池については、サイクル寿命試験が継続された。
【0049】
100サイクル毎に行う放電容量試験において、各種類のサンプルのサンプル電池の平均の放電容量が、150Ah(すなわち基準容量の71%)を下回った場合には、そのサンプルはサイクル寿命に達したと判断し、そのサンプルの全てのサンプル電池についてサイクル寿命試験を中止した。そして、サイクル寿命試験において、サンプルの平均の放電容量が初めて150Ahを下回ったサイクル数T2を、以下のように定義した。すなわち、各種類のサンプルにおいて、100サイクル毎の容量試験結果によってサイクル寿命試験を中止した時点のサイクル数Tと、その時点に測定された平均の放電容量Q1と、その100サイクル前に測定された平均の放電容量Q2とを用いて、以下の式(1)により計算した(
図4参照)。
T2=T−(150−Q1)/(Q2−Q1)×100・・・(1)
【0050】
本評価方法では、各種類のサンプルにおいて、サイクル数T1とサイクル数T2との一方が取得された場合には、取得されたサイクル数を、その種類のサンプルの実質的なサイクル数T0として決定した。また、サイクル数T1とサイクル数T2との両方が取得された場合には、サイクル数T1とサイクル数T2との内の小さい方を、その種類のサンプルの実質的なサイクル数T0として決定した(
図4参照)。
【0051】
A−4.鉛蓄電池100のサイクル数評価:
図4は、第1の実施形態における鉛蓄電池100のサイクル数評価の結果を示す表である。
図4において、B系列(B0〜B11)の鉛蓄電池100は、第2の距離Z1が17mmの鉛蓄電池100を意味する。また、アルファベットの添え字は、長さW1の長さを表し、例えば、添え字「0」は、長さW1が0mmであることを意味し、添え字「5」は、長さW1が30mmであることを意味する(
図4 W1参照)。なお、長さW1の長さの調整は、封止部材200の本体部分210の長さにより調整した。
【0052】
図4には、比較例として、H5、J5の鉛蓄電池100のサイクル数が示されている。H5、J5の鉛蓄電池100では、シート120における第1の接続部分122Cが、X軸方向において負極用耳部112N側に配置され、第2の接続部分122Dが、X軸方向において正極用耳部112P側に配置されている点で、B系列の鉛蓄電池100と異なる。なお、H5の鉛蓄電池100における第2の距離Z1は、17mmであり、J5の鉛蓄電池100における第2の距離Z1は、30mmである。
【0053】
図5は、H5、J5の鉛蓄電池100における極板群104の構成を示す上面図である。H5、J5の鉛蓄電池100は、封止部材300を備える。封止部材300は、絶縁性であり、例えばABS樹脂により形成されている。
図5に示すように、封止部材300は、X軸方向に延びる複数の本体部分310と、複数の本体部分310のX軸負方向側における上端部を連結する上端カバー316を備える。
【0054】
各本体部分310には、シート120の上側シート部124が挿入される挿入スリット312が形成されている。具体的には、本体部分310は、Y軸方向に隙間を介して互いに対向する一対の対向部314,314を含む。上端カバー316は、該一対の対向部314,314の上端部同士を繋ぐ。このような構成により、本体部分310には、該本体部分210における下側とX軸方向の両側とに開放した挿入スリット312が形成されている。また、各対向部314の下側の表面には、X軸負方向側の端部に近づくに連れて負極板110Nから離間するように傾斜する第3の傾斜面319が形成されている。封止部材300を用いてシート120を封止するときに、
図5に示すように、封止部材300を、極板群104に対して負極板110NのX軸負方向側から、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間に差し込む。
【0055】
図4には、さらに、G系列(G0〜G8)の鉛蓄電池100のサンプルのサイクル数が示されている。G系列の鉛蓄電池100は、B系列の鉛蓄電池100と比べて、各極板110P、110Nの大きさ及び枚数が異なる。具体的には、G系列のサンプルには、2枚の正極板110Pと3枚の負極板110Nとが含まれる。負極板110Nの上下方向の外形寸法は115mmであり、X軸方向の外形寸法は100mmであり、Y軸方向の外形寸法は4mmである。また、負極用耳部112Nは、負極板110Nの開放端部110NBより1mmだけ内側の位置から、14mmだけ内側の位置までの間に鋳出されている。また、正極板110Pの正極用耳部112Pは、正極板110PにおけるX軸正方向側の端部から1mmだけ内側の位置から14mmだけ内側の位置までの間に鋳出されている。なお、正極板110Pの外形寸法は、負極板110Nの外形寸法と略同一である。G系列のサンプルでは、タンク化成後の負極板110Nの負極側活物質の質量が、1枚当たり200±7gとなり、タンク化成後の正極板110Pの正極側活物質の質量が、1枚当たり145±6gとなる。G系列のサンプルでは、負極板110Nの上面と、正極側集電体106Pの下面との間の距離が、18mmに設定されている。正極側集電体106Pと負極側集電体106NとのX軸方向における幅は、それぞれ23mmである。G系列のサンプルの第2の距離Z1は、17mmであり、公称容量は、25Ahである。
【0056】
G系列のサンプルに対して、前記の稼働時間の決定方法でサイクル数T0を決定した。G系列のサンプルに対する放電容量試験では、充電電流が4.96Aに設定されており、放電電流が5.0Aに設定されており、基準容量は、27.6Ahであった。また、G系列のサンプルに対するサイクル寿命試験では、放電電流が6.25Aに設定されており、充電電流は、4.69Aに設定されていた。
【0057】
図6は、サイクル寿命試験における各種類の鉛蓄電池100の放電容量の変化を示すグラフであり、
図7は、鉛蓄電池100の第1の距離X1とサイクル数T0との関係を示すグラフである。なお、
図6では、サイクル寿命試験中に短絡を起こしたサンプル電池を含むサンプルの放電容量を、その後に行われる放電容量試験の結果に関わらず、0Ahとした。
【0058】
図7の結果によれば、第2の距離Z1によらず、シート120における第1の接続部分122Cが、X軸方向において負極用耳部112Nと反対側に配置されており、第2の接続部分122Dが、X軸方向において正極用耳部112Pと反対側に配置されている鉛蓄電池100(B系列、G系列)が、シート120における第1の接続部分122Cが、X軸方向において負極用耳部112N側に配置されており、第2の接続部分122Dが、X軸方向において正極用耳部112P側に配置されている鉛蓄電池100(H5、J5)よりもサイクル数が大きい結果が得られた。この主な要因は、負極板110Nの負極用耳部112Nとは反対側の側面がシート120により覆われていることにより、負極板110Nの負極用耳部112Nとは反対側の側面に導電物が蓄積することが抑制され、負極板110Nの側面に蓄積した導電物による負極板110Nと正極側集電体106Pとの短絡が抑制されることであると考えられる。上記考察を裏付けるように、短絡したH5、J5の鉛蓄電池100を解体すると、負極板110Nの負極用耳部112Nとは反対側の側面に大量の遊離活物質が蓄積し、還元されて導電物と化していた。この導電物は、正極側集電体106Pまで伸びており、封止部分130の上側で正極側集電体106Pおよび正極用耳部112Pに接触していた。
【0059】
また、
図7の結果によれば、第1の距離X1が比較的小さい範囲(B0〜B8、G0〜G5)では、第1の距離X1が大きいほど、サイクル数T0が増加し、特に、第1の距離X1が5mm以上の範囲では、第1の距離X1が5mm未満の範囲に比べて、サイクル数T0の顕著な増加が認められた。この主な要因は、第1の距離X1が大きくなることで、負極板110Nと正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pとの短絡が抑制されたことであると考えられる。一方、第1の距離X1が比較的大きい範囲(B8〜B11、G5〜G8)では、第1の距離X1が大きいほど、サイクル数T0が減少する結果が得られた。この主な要因は、第1の距離X1が大きくなることで、充電末期に極板から発生するガスによる電解液Uの攪拌が抑制され、成層化が進行するからであると考えられる。
図7に示すように、B系列の鉛蓄電池100とG系列の鉛蓄電池100とでは、各極板110P、110Nの大きさが異なるため、電解液Uの攪拌が抑制される第1の距離X1の範囲が異なる。
【0060】
図8は、鉛蓄電池100の特定比(W1/L1)とサイクル数T0との関係を示すグラフである。
図8の結果によれば、B系列の鉛蓄電池100とG系列の鉛蓄電池100とにおいて、電解液Uの攪拌が抑制される特定比(W1/L1)の範囲が略等しくなっており、特に、特定比(W1/L1)が0.4よりも大きい範囲では、特定比(W1/L1)が0.4mm以下の範囲に比べて、サイクル数T0の顕著な低下が認められた。また、
図8に示すように、B系列の鉛蓄電池100とG系列の鉛蓄電池100とにおいて、サイクル数T0が最大となる範囲が略等しくなっており、特に、特定比(W1/L1)が0.25以上、かつ、0.35以下の範囲では、それ以外の範囲に比べて、サイクル数T0の顕著な増加が認められた。
【0061】
A−5.本実施形態の効果:
本実施形態の鉛蓄電池100では、シート120が、負極板110Nの負極用耳部112Nとは反対側の側面を覆うため、シート120が、負極板110Nの負極用耳部112N側の側面を覆う構成に比べて、負極板110Nの負極用耳部112Nとは反対側の側面に導電物が蓄積することが抑制され、該導電物による負極板110Nと正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pとの短絡を抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間に封止部分130が位置し、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間において第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとが封止されることにより、負極板110Nから正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに向かって析出する導電物が正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに達することが抑制されるため、封止部分130を有しない構成に比べて、正極板110Pと負極板110Nとの短絡を抑制することができる。特に、負極板110NのX軸方向の長さL1に対する封止部分130のX軸方向の長さW1の比である特定比(W1/L1)が、0.4以下であると、特定比(W1/L1)が、0.4よりも大きい構成に比べて、発生したガスによる電解液Uの攪拌効果が低下することが抑制されるため、成層化が解消され易くなる。すなわち、本実施形態によれば、正極板110Pと負極板110Nとの短絡抑制と、成層化による電池寿命の短縮抑制との両立を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、封止部分130の開放封止端部130Bは、正極用耳部112Pの内側耳端部112PBよりもX軸負方向側、より具体的には、第1の接続部分122Cと反対側に位置する。開放封止端部130Bと内側耳端部112PBとの間のX軸方向の第1の距離X1が5mm以上であると、第1の距離X1が5mm未満である構成に比べて、負極板110Nから正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに向かって析出する導電物が正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに達することが抑制されるため、正極板110Pと負極板110Nとの短絡をより効果的に抑制することができる。
【0064】
特に、特定比(W1/L1)が、0.25以上、かつ、0.35以下であると、特定比(W1/L1)が0.25未満または0.35より大きい構成に比べて、正極板110Pと負極板110Nとの短絡抑制と、成層化による電池寿命の短縮抑制とを効果的に両立させることができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、上下方向視で、封止部分130が、少なくとも、シート120のX軸正方向側と重なっている。そのため、負極板110Nから正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに向かって析出する導電物が中間シート部122のX軸正方向側から正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに達することが抑制されるため、封止部分130が、シート120のX軸正方向側と重なっていない構成に比べて、正極板110Pと負極板110Nとの短絡を確実に抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとが、封止部材200の一対の対向部214,214の間に圧入されることにより、封止部分130が形成される。そのため、例えば第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとが接着されて封止部分130が形成される構成に比べて、封止部分130を容易に形成することができる。また、負極板110Nと正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pとの間には、封止部分130に加えて、該封止部分130に隣接するように配置される絶縁性の封止部材200が介在する。したがって、封止部材200が介在しない構成に比べて、負極板110Nから正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに向かって析出する導電物が正極側集電体106Pまたは正極用耳部112Pに達することがより確実に抑制されるため、正極板110Pと負極板110Nとの短絡をより効果的に抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、封止部材200にテーパ状に傾斜した第1の傾斜面218が形成されている。このため、第1の傾斜面218がテーパ状に傾斜していない構成に比べて、一対の対向部214,214の間にシート120を容易に圧入させることができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、封止部材200に第2の傾斜面219が形成されている。そのため、本体部分210の一対の対向部214,214の間にシート120を圧入する際に、本体部分210の角部がシート120に接触してシート120が損傷することを抑制することができる。また、発生したガスを封止部材200の第2の傾斜面219に沿って対流させることができるため、発生したガスによる攪拌効果が封止部材200によって低下することを抑制することができる。
【0069】
B.第2の実施形態:
B−1.鉛蓄電池100のサイクル数評価:
図9は、鉛蓄電池100のサイクル数評価の結果を示す表である。
図9において、C系列(C0〜C7)、D5、および、E系列(E0〜E7)の鉛蓄電池100は、B系列の鉛蓄電池100と比較して、各極板110P、110NのX軸方向におけるシート120の巻き方、および、各極板110P、110Nの大きさ及び枚数が等しく、第2の距離Z1が異なる。C系列の鉛蓄電池100の第2の距離Z1は、23mmであり、D5の鉛蓄電池100の第2の距離Z1は、27mmであり、E系列の鉛蓄電池100の第2の距離Z1は、30mmである。なお、本実施形態で示す一部の鉛蓄電池100の放電容量の変化が、
図6に示されている。
【0070】
図10は、鉛蓄電池100の第1の距離X1とサイクル数T0との関係を示すグラフである。
図10の結果によれば、第1の距離X1が等しい鉛蓄電池100同士を比較すると、第2の距離Z1が大きいほど、サイクル数T0が増加し、特に、第2の距離Z1が25mm以上の範囲では、第2の距離Z1が25mm未満の範囲に比べて、サイクル数T0の顕著な増加が認められた。この主な要因は、第2の距離Z1が大きくなることで、負極板110Nに蓄積された導電物が封止部分130を超えて上側に蓄積しにくくなることであると考えられる。
【0071】
B−2.本実施形態の効果:
本実施形態の鉛蓄電池100では、封止部分130の上端部と負極板110Nの上面との間の上下方向の第2の距離Z1が25mm以上であるため、第2の距離Z1が25mm未満である構成に比べて、正極板110Pと負極板110Nとの短絡を抑制することができる。
【0072】
従って、鉛蓄電池100では、第2の距離Z1をなるべく大きく設計することが有効であるが、極板群104の寸法、鉛蓄電池100の寸法等の設計要因により、第2の距離Z1の設定範囲には制限がある。そのため、シート120の上端部を正極側集電体106Pの下面に極力近づけ、第2の距離Z1をできるだけ大きくする設計が有効である。
【0073】
C.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0074】
上記実施形態では、封止部分の上端と上側シート部124の上端とが等しい例を示したが、これに限定されない。例えば、封止部材200の本体部分210にカバー部216が形成されておらず、挿入スリット212が該本体部分210における上側にも開放されている場合には、封止部材200を、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとの上端部よりも下側であって、かつ、負極板110Nと正極側集電体106Pとの間の位置に差し込んで、封止部分を形成してもよい。この場合、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bの上下方向における寸法は、第2の距離Z1よりも大きくなる。
【0075】
上記実施形態では、封止部分が、上下方向視で、少なくとも、負極板110Nと正極側集電体106Pとが重複する領域全域に重なって配置されている例を示したが、必ずしも前記領域の全域に重なって配置されている必要はない。例えば、負極板110Nと正極側集電体106Pとが重複する領域の少なくとも一部において、封止部分が形成されていなくてもよい。すなわち、封止部分は、上下方向視で、少なくとも、負極板110Nと正極側集電体106Pとが重複する領域に重なって配置されていればよい。同様に、封止部分は、必ずしもシート120のX軸正方向側の端部と重なって配置されている必要はない。
【0076】
上記実施形態における封止とは、負極板110Nから析出する導電物の通過を阻止することができればよい。そのため、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとは、必ずしも密封されている必要はなく、導電物は通過しないが、充電末期に極板から発生するガスが通過できる程度の僅かな隙間が設けられていてもよい。
【0077】
上記実施形態では、シート120を封止する方法として、封止部材200を用いる方法を示したが、シート120を封止する方法は、これに限定されない。例えば、シート120を縫合または熱溶着してもよい。熱溶着は、封止部材を用いる場合と同等に、シート120を強固に封止することができ、新たな部品を用いる必要がないために、鉛蓄電池100の製造コストを低減することができる。また、鉛蓄電池100の製造工程にシート120の熱溶着装置を導入することで、シート120を熱溶着する工程を自動化することができる。
【0078】
また、シート120を封止する際に、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとを必ずしも接触させてシート120を封止する必要はない。例えば、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとの間が開放されており、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとの上部に、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとの間の位置を覆う蓋状の部材が配置されてもよい。この場合、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとの上部が蓋状の部材により覆われることで、第1の上側部分124Aと第2の上側部分124Bとが封止される。
【0079】
上記実施形態では、封止部材の材質として、ABS樹脂を示したが、鉛蓄電池100の稼働期間に亘りその形状を保持することが可能な材料であれば、特に限定されない。
【0080】
上記実施形態では、封止部材として、テーパ状の第1の傾斜面218や第2の傾斜面219が形成された封止部材200を示したが、第1の傾斜面218は必ずしも一対の対向部214,214の両方に形成されている必要はなく、一対の対向部214,214の片方だけに形成されていてもよい。また、第2の傾斜面219は必ずしも形成されていなくてもよい。
【0081】
上記実施形態では、Y軸方向視で略矩形状の負極用本体部114Nを備える負極板110Nを示したが、負極用本体部114Nの形状は上記に限られない。正極用本体部114Pについても同様である。
【0082】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、鉛蓄電池100の製造方法、鉛蓄電池100用のシート120や封止部材200等の形態で実現することが可能である。