特許第6988199号(P6988199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988199
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】多関節一指ハンド、及びピッキング装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20211220BHJP
【FI】
   B25J15/08 J
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-126425(P2017-126425)
(22)【出願日】2017年6月28日
(65)【公開番号】特開2019-5877(P2019-5877A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原 誠一
(72)【発明者】
【氏名】飛田 和輝
【審査官】 岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−508659(JP,A)
【文献】 特開2010−069557(JP,A)
【文献】 特開2005−088147(JP,A)
【文献】 特開2013−240863(JP,A)
【文献】 特開2003−220589(JP,A)
【文献】 特開2005−059110(JP,A)
【文献】 特開昭54−026058(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105583836(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の関節部を有し、前記複数の関節部が伸展状態を保つように付勢力が与えられた指機構と、
前記付勢力に抗して前記指機構を屈曲させる駆動部と、
を備え、
前記指機構は、
第1リンクと、
前記第1リンクに対して、第1方向に屈曲可能に連結された1以上の第2リンクと、
前記第2リンクに対して、前記第1方向、及び前記第1方向に対して逆方向となる第2方向の双方に屈曲可能に連結された第3リンクと、
前記指機構の屈曲状態において内側となる側に滑動可能に挿通され、一方端が前記第3リンクに固定された第1ワイヤと、
前記指機構の屈曲状態において外側となる側に滑動可能に挿通され、一方端が前記第3リンクに固定された第2ワイヤと、
を備え
前記駆動部は、
支点を軸心として回動運動するシーソーの一方端に前記第1ワイヤの他方端が接合され、前記シーソーの他方端に前記第2ワイヤの他方端が接合され、モータによって前記シーソーを回動させることによって前記第1ワイヤ及び前記第2ワイヤが滑動し、前記指機構を駆動するシーソー機構であって、
前記指機構は、
前記モータの回転方向によって屈曲状態と伸展状態とが制御される、
多関節一指ハンド。
【請求項2】
前記第1リンク及び前記第2リンクは、前記第1ワイヤ及び前記第2ワイヤがそれぞれ挿通される挿通孔が設けられ、
前記挿通孔の口径は、前記第1リンク及び前記第2リンクごとに異なっている、
請求項1に記載の多関節一指ハンド。
【請求項3】
前記第3リンクの先端に、前記第1方向に湾曲した爪部を有する
請求項1又は請求項2に記載の多関節一指ハンド。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の多関節一指ハンドと、
前記多関節一指ハンドが取り付けられ、前記多関節一指ハンドを回動させるハンドエフェクトと、
前記ハンドエフェクトを介して、前記多関節一指ハンドを支持するアームと、
を備える
ピッキング装置。
【請求項5】
前記伸展状態において、前記ハンドエフェクトの回動軸の延長軸上に前記多関節一指ハンドの先端部が重なる
請求項4に記載のピッキング装置。
【請求項6】
前記多関節一指ハンドに作用する力を検知する力覚センサを備える
請求項4又は請求項5に記載のピッキング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節一指ハンド、及びピッキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ロボットアームの先端に少なくとも3本の指を備えた多指多関節ハンドを取り付け、ワーク(対象物)をピッキングするピッキング装置が記載されている。この特許文献1に記載されたピッキング装置は、ワークに対し各指先端に設けた照明装置を1つずつ照射して、ワークからの反射光をカメラで撮像し、ワークの形状や位置、姿勢認識を行い、認識結果によって各指を駆動することでワークを把持することができる。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、関節数と同数の直動モータを組み合わせた多段直動アクチュエータを用いたロボットハンドの指機構が記載されている。この特許文献2に記載されたロボットハンドの指機構は、複数の直動モータを個別に制御することで、各リンクの回動を行わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−058243号公報
【特許文献2】特開2012−016784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、ワークの位置、姿勢を正確に認識し、認識結果によって多指多関節ハンドを駆動する必要があるため、ワークの認識処理や多指多関節ハンドの駆動制御が複雑化する。また、多指多関節ハンドの構造や直動機構が複雑になるため、低コスト化やメンテナンス性の向上には限界があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、ワークを把持するための構造を簡素化することができ、ワークの認識処理や駆動制御が容易な多関節一指ハンド、及びピッキング装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る多関節一指ハンドは、複数の関節部を有し、前記複数の関節部が伸展状態を保つように付勢力が与えられた指機構と、前記付勢力に抗して前記指機構を屈曲させる駆動部と、を備え、前記指機構は、第1リンクと、前記第1リンクに対して、第1方向に屈曲可能に連結された1以上の第2リンクと、前記第2リンクに対して、前記第1方向、及び前記第1方向に対して逆方向となる第2方向の双方に屈曲可能に連結された第3リンクと、を備える。
【0008】
これにより、多関節一指ハンドは、ワークを把持するための構造を簡素化することができ、ワークの認識処理や駆動制御が容易となる。また、ワークを引っ掛けて把持する前の各関節部の伸展状態を維持することができ、指機構の揺れを抑制することができる。さらに、指機構の先端部に外力が作用した場合に、指機構にかかる負荷による破損を防止することができる。
【0009】
多関節一指ハンドの望ましい態様として、前記駆動部は、軸方向に直動する直動軸を駆動する直動アクチュエータであって、前記第3リンクは、前記第1リンク及び前記第2リンクに挿通されたワイヤを介して前記直動軸に連結されていることが好ましい。
【0010】
これにより、多関節一指ハンドは、簡易な構造でワークを引っ掛けて把持することができる。
【0011】
多関節一指ハンドの望ましい態様として、前記第3リンクの先端に、前記第1方向に湾曲した爪部を有することが好ましい。
【0012】
これにより、ピッキング動作の初動においてワークを引っ掛け易くなる。
【0013】
本発明の一態様に係るピッキング装置は、上述した多関節一指ハンドと、前記多関節一指ハンドが取り付けられ、前記多関節一指ハンドを回動させるハンドエフェクトと、前記ハンドエフェクトを介して、前記多関節一指ハンドを支持するアームと、を備える。
【0014】
これにより、ワークの認識処理や駆動制御が容易なピッキング装置を得ることができる。
【0015】
ピッキング装置の望ましい態様として、前記伸展状態において、前記ハンドエフェクタの回動軸の延長軸上に前記多関節一指ハンドの先端部が重なることが好ましい。
【0016】
これにより、ピッキング装置は、ハンドエフェクタの回動位置によるずれを抑制することができ、制御が容易になる。
【0017】
ピッキング装置の望ましい態様として、前記多関節一指ハンドに作用する力を検知する力覚センサを備えることが好ましい。
【0018】
これにより、ピッキング装置は、多関節一指ハンドに作用する力を検知して信頼性の高い制御が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ワークを把持するための構造を簡素化することができ、ワークの認識処理や駆動制御が容易な多関節一指ハンド、及びピッキング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態1に係るピッキング装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの伸展状態における概略構造図である。
図3図3は、実施形態1に係る伸展状態の多関節一指ハンドを、図2に示す破線矢示方向から見た概略構造図である。
図4図4は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの屈曲状態における概略構造図である。
図5図5は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの関節部の変形例を示す図である。
図6図6は、実施形態1に係る指機構のリンクの横断面図である。
図7図7は、実施形態1に係る駆動部の第1変形例を示す図である。
図8図8は、実施形態1に係る駆動部の第2変形例を示す図である。
図9図9は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの屈曲状態における概略構造の変形例を示す図である。
図10図10は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの先端部分の具体的な形状例を示す図である。
図11図11は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの先端部分を、図10に示す実線矢示方向から見た図である。
図12図12は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの先端部分を、図10に示す破線矢示方向から見た図である。
図13図13は、実施形態1に係る多関節一指ハンドにおけるピッキング動作の一例を示す第1図である。
図14図14は、実施形態1に係る多関節一指ハンドにおけるピッキング動作の一例を示す第2図である。
図15図15は、実施形態1に係る多関節一指ハンドにおけるピッキング動作の一例を示す第3図である。
図16図16は、実施形態2に係るピッキング装置における多関節一指ハンドの先端位置の具体例を示す図である。
図17図17は、図16に示す多関節一指ハンドの先端部分の具体的な形状の一例を示す図である。
図18図18は、多関節一指ハンドの先端位置の比較例を示す図である。
図19図19は、実施形態3に係るピッキング装置の概略構成を示す図である。
図20図20は、実施形態4に係る多関節一指ハンドの伸展状態における概略構造図である。
図21図21は、実施形態4に係る多関節一指ハンドの屈曲状態における概略構造図である。
図22図22は、実施形態5に係る多関節一指ハンドのニュートラル状態における概略構造図である。
図23図23は、実施形態5に係る多関節一指ハンドの移動時における概略構造図である。
図24図24は、実施形態5に係る多関節一指ハンドのピッキング動作時における概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るピッキング装置の概略構成を示す図である。実施形態1に係るピッキング装置100は、作業エリア14内のトレー13にランダムに積み上げ収容されたワーク(対象物)15のピッキング及び搬送作業を行う。本実施形態では、リング形状のワーク15をピッキング及び搬送作業の対象とする例について説明する。
【0023】
図1に示すように、ピッキング装置100は、例えば基台3上に設置された多関節アーム2と、この多関節アーム2の先端に取り付けられた多関節一指ハンド1によって構成される。多関節アーム2及び多関節一指ハンド1は、制御装置4によって位置及び姿勢が制御される。
【0024】
多関節アーム2は、基台3側から順に、第1アーム部21a、第2アーム部21b、第3アーム部21c、及び第4アーム部21dを有している。
【0025】
第1アーム部21aは、基台3と第1軸22aを介して回動可能に連結されている。
【0026】
第2アーム部21bは、第1アーム部21aと第2軸22bを介して回動可能に連結されている。
【0027】
第3アーム部21cは、第2アーム部21bと第3軸22cを介して回動可能に連結されている。
【0028】
第4アーム部21dは、第3アーム部21cと第4軸22dを介して回動可能に連結されている。
【0029】
第4アーム部21dの先端には、第5軸22eを介して回動可能に連結されたハンドエフェクタ23が設けられている。
【0030】
第1軸22a、第2軸22b、第3軸22c、第4軸22d、及び第5軸22eには、それぞれ駆動部としてロータリアクチュエータ(図示せず)が設けられている。
【0031】
ハンドエフェクタ23には、複数の関節部を有する指機構11と、この指機構11を駆動する駆動部12とを備える多関節一指ハンド1が取り付けられている。すなわち、多関節一指ハンド1は、ハンドエフェクタ23を介して、多関節アーム2に支持されている。
【0032】
作業エリア14内の所定位置には、俯瞰センサ5が設けられている。俯瞰センサ5としては、例えばカメラや赤外線センサが用いられる。制御装置4は、俯瞰センサ5によって取り込まれた画像を解析することで、ピッキング装置100とトレー13内のワーク15との位置を把握することができる。
【0033】
ハンドエフェクタ23には、ハンドアイセンサ6が取り付けられている。ハンドアイセンサ6としては、例えばステレオ3Dカメラやレーザスキャナが用いられる。制御装置4は、ハンドアイセンサ6によって取り込まれた画像を解析することで、ワーク15の3次元形状を検出することができる。
【0034】
図2は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの伸展状態における概略構造図である。図3は、実施形態1に係る伸展状態の多関節一指ハンドを、図2に示す破線矢示方向から見た概略構造図である。図4は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの屈曲状態における概略構造図である。
【0035】
図2から図4に示すように、指機構11は、第1リンク111a、第2リンク111b、及び第3リンク111cを備えている。
【0036】
図2から図4に示す例では、3つの第2リンク111b(111b−1,111b−2,111b−3)を備えた例を示している。指機構11は、第2リンク111bを1つ以上有することで、屈曲状態においてワーク15を引っ掛けて把持することができる。なお、第2リンク111bの数は1つ以上であれば良く、第2リンク111bの数により本発明が限定されるものではない。以下、第1リンク111a、各第2リンク111b、及び第3リンク111cを特に区別する必要がない場合には、単に「リンク111」ともいう。
【0037】
各リンク111は、それぞれ関節部112を介して屈曲可能に連結されている。各関節部112は、それぞれの回動軸が平行に設けられている。各関節部112には、各関節部112が伸展状態を保つように付勢バネ115が設けられている。
【0038】
これにより、指機構11は、各関節部112が一列に並んだ状態となり、図2及び図3に示す伸展状態を維持することができる。また、ピッキング装置100は、上述した構成の多関節一指ハンド1を備えることで、多関節一指ハンド1の移動時において、ワーク15を引っ掛けて把持する前の伸展状態を維持することができ、指機構11の揺れを抑制することができる。
【0039】
なお、指機構11は、付勢バネ115に代えて、板バネや他の弾性部材を用いた構成であっても良い。また、弾性部材によって各リンク111を連結し、関節部112が構成される態様であっても良い。
【0040】
図2に示すように、指機構11は、図4に示す屈曲状態において内側となる側に切り欠き116が設けられている。図2に示す例では、各関節部112を介して対向する各リンク111の一方に切り欠き116が設けられている。
【0041】
これにより、各リンク111は、指機構11が図4に示す屈曲状態となる第1方向に屈曲可能となる。より具体的には、各第2リンク111bは、第1リンク111aに対して、第1方向に屈曲し、第3リンク111cは、各第2リンク111bに対して、第1方向に屈曲する。
【0042】
なお、切り欠き116の態様は上記に限るものではない。図5は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの関節部の変形例を示す図である。
【0043】
図5に示すように、各関節部112を介して対向する各リンク111の双方が切り欠かれた構造であっても良い。
【0044】
また、各リンクには、図4に示す指機構11の屈曲状態において内側となる側にワイヤ113が滑動可能に挿通されている。ワイヤ113の一方端113aは、第3リンク111cに設けられたワイヤ固定部114に固定されている。
【0045】
図2から図4に示す例において、駆動部12は、軸方向に直動する直動軸12aを駆動する直動アクチュエータである。直動アクチュエータは、例えば、モータの回転運動をボールネジ等によって直線運動に変換し、直動軸12aを駆動する。なお、直動アクチュエータの構造は上記に限るものではなく、例えば、直動エアシリンダ、リニアサーボ、又は圧電アクチュエータ等であっても良い。
【0046】
ワイヤ113の他方端は、駆動部12である直動アクチュエータの直動軸12aに接合されている。すなわち、第3リンク111cは、第1リンク111a、及び各第2リンク111bに挿通されたワイヤ113を介して直動軸12aに連結されている。
【0047】
図6は、実施形態1に係る指機構のリンクの横断面図である。図6に示すように、各リンク111には、ワイヤ113が挿通される挿通孔117を設けるのが好ましい。さらには、各リンク111に設ける挿通孔117の口径を、各リンク111毎に僅かに異ならせても良い。このようにすれば、挿通孔117とワイヤ113との間に生じる摩擦力を各リンク毎に異ならせることができる。これにより、各関節部112の屈曲優先度を設定することができる。
【0048】
図7は、実施形態1に係る駆動部の第1変形例を示す図である。図8は、実施形態1に係る駆動部の第2変形例を示す図である。
【0049】
図7に示す例では、滑車12bを設けて駆動部12(直動アクチュエータ)における直動軸12aの軸方向を変化させた例を示している。また、図8に示す例では、駆動部12(回転モータ)の回転軸にローラ12cを設けてワイヤ13を巻き取る例を示している。駆動部12の構成は、ワイヤ13を実線矢示方向に引くことが可能な構成であればどのような構成であっても良く、駆動部12の構成により本発明が限定されるものではない。
【0050】
上述した構成の多関節一指ハンド1を備えたピッキング装置100において、多関節一指ハンド1の移動時には、付勢バネ115による付勢力によって、図4に示す指機構11の屈曲状態において外側となる側で、対向する第1リンク111aの端面と第2リンク111b−1の端面とが突き当たる。また、対向する第2リンク111b−1の端面と第2リンク111b−2の端面とが突き当たる。また、対向する第2リンク111b−2の端面と第2リンク111b−3の端面とが突き当たる。これにより、多関節一指ハンド1は、図2及び図3に示す伸展状態となる。
【0051】
また、ワーク15を引っ掛けて把持するピッキング動作時には、駆動部12によってワイヤ113が図2から図4に示す実線矢示方向に引っ張られることで、各関節部112に設けられた付勢バネ115の付勢力に抗して指機構11が第1方向に徐々に屈曲していく。そして、図4に示す指機構11の屈曲状態において内側となる側で、対向する第1リンク111aの端面と第2リンク111b−1の端面とが突き当たる。また、対向する第2リンク111b−1の端面と第2リンク111b−2の端面とが突き当たる。また、対向する第2リンク111b−2の端面と第2リンク111b−3の端面とが突き当たる。また、対向する第2リンク111b−3の端面と第3リンク111cの端面が突き当たる。これにより、多関節一指ハンド1は、図4に示す屈曲状態となる。この屈曲状態において、多関節一指ハンド1は、ワーク15を引っ掛けて把持することができる。
【0052】
また、本実施形態では、図2に示すように、第2リンク111b−3には、図4に示す指機構11の屈曲状態において外側となる側にも切り欠き116が設けられている。このため、第3リンク111cは、指機構11の屈曲方向、すなわち第1方向と、この第1方向に対して逆方向となる第2方向との双方に屈曲可能となる。これにより、多関節一指ハンド1の移動時において指機構11の先端部にワーク15やトレー13によって外力が作用した場合に、指機構11にかかる負荷による破損を防止することができる。
【0053】
図9は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの屈曲状態における概略構造の変形例を示す図である。
【0054】
図9に示す例において、第2リンク111b−2,111b−3は、屈曲状態において内側となる側に設けられた切り欠き116を大きくしている。具体的には、第2リンク111b−2,111b−3間、及び、第2リンク111b−3、第3リンク111c間の各関節部112の屈曲角度を略90°としている。これにより、ワーク15を第2リンク111b−1と第3リンク111cとで挟み把持することができ、ワーク15を確実に把持することができる。
【0055】
さらに、他の関節部112、具体的には、第1リンク111a、第2リンク111b−1間、及び、第2リンク111b−1、第2リンク111b−2間の各関節部112の屈曲度合いを大きく(例えば、略90°)しても良い。このようにすれば、ワーク15を指機構11で巻き込んで把持することができ、ワーク15をより確実に把持することができる。
【0056】
なお、各関節部112における屈曲度合いは、ワーク15の大きさ等に応じて適宜変更することが可能であり、各関節部112における屈曲度合いにより本発明が限定されるものではない。
【0057】
図10は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの先端部分の具体的な形状例を示す図である。図11は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの先端部分を、図10に示す実線矢示方向から見た図である。図12は、実施形態1に係る多関節一指ハンドの先端部分を、図10に示す破線矢示方向から見た図である。
【0058】
図10から図12に示すように、第3リンク111cの先端には、指機構11の屈曲方向、すなわち第1方向に湾曲した爪部111Aを有している。
【0059】
図13は、実施形態1に係る多関節一指ハンドにおけるピッキング動作の一例を示す第1図である。図14は、実施形態1に係る多関節一指ハンドにおけるピッキング動作の一例を示す第2図である。図15は、実施形態1に係る多関節一指ハンドにおけるピッキング動作の一例を示す第3図である。図15において、Xは、ピッキング装置100のハンドエフェクタ23の回動軸を示している。
【0060】
図13から図15に示すように、実施形態1に係る多関節一指ハンド1は、ピッキング動作時において、まず、第3リンク111cが屈曲して第3リンク111cの爪部111Aによってワーク15を引っ掛ける(図13)。続いて、多関節一指ハンド1は、第2リンク111b−3、第2リンク111b−2、第3リンク111b−1の順で屈曲しワーク15を把持する(図14図15)。
【0061】
本実施形態に係る多関節一指ハンド1は、第3リンク111cの爪部111Aが指機構11の屈曲方向に湾曲しているため、図13に示すピッキング動作の初動においてワーク15を引っ掛け易くなる。
【0062】
例えば、複数のワーク15がトレー13内にランダムに積み上げられた状態でも、爪部111Aがワーク15間の隙間に入り易くなる。また、ワーク15がトレー13内で平置きされた状態でも、爪部111Aによってワーク15を引っ掛けて浮き上がらせることができる。
【0063】
また、本実施形態に係る多関節一指ハンド1は、ピッキング動作時に指機構11が屈曲していく過程において、指機構11の先端部の振れ幅が大きいため、ワーク15のピッキングの成功率が高くなる。
【0064】
例えば、図15に示すように、ハンドエフェクタ23の回動軸Xから離れた位置(図15に示す例では、ハンドエフェクタ23の回動軸XからLだけ離れた位置)にワーク15がある場合でも、ワーク15を捉え易い。
【0065】
このように、本実施形態に係る多関節一指ハンド1は、ピッキング動作時におけるワーク15と多関節一指ハンド1との位置ズレを、指機構11の先端部の振れによって受動的に補完することができ、ワーク15のピッキングの成功率を高めることができる。
【0066】
以上説明したように、実施形態1に係る多関節一指ハンド1、及びピッキング装置100は、複数の関節部112を有し、複数の関節部112が伸展状態を保つように付勢力が与えられた指機構11と、付勢力に抗して指機構11を屈曲させる駆動部12とを備える。指機構11は、第1リンク111aと、第1リンク111aに対して、第1方向に屈曲可能に連結された1以上の第2リンク111bと、第2リンク111bに対して、第1方向、及び第1方向に対して逆方向となる第2方向の双方に屈曲可能に連結された第3リンク111cとを備える。
【0067】
また、駆動部12は、軸方向に直動軸12aを駆動する直動アクチュエータを用いて構成される。第3リンク111cは、第1リンク111a及び第2リンク111bに挿通されたワイヤ113を介して直動軸12aに連結されている。
【0068】
上述のように構成された多関節一指ハンド1は、駆動部12である直動アクチュエータを作動させることで指機構11が屈曲し、ワーク15を指機構11に引っ掛けて把持することができる。また、多関節一指ハンド1の移動時において、ワーク15を引っ掛けて把持する前の伸展状態を維持することができ、指機構11の揺れを抑制することができる。さらに、多関節一指ハンド1の移動時において、指機構11の先端部にワーク15やトレー13によって外力が作用した場合に、指機構11にかかる負荷による破損を防止することができる。
【0069】
また、第3リンク111cの先端に、指機構11の屈曲方向、すなわち第1方向に湾曲した爪部111Aを設けることで、ピッキング動作の初動においてワーク15を引っ掛け易くなる。
【0070】
また、多関節一指ハンド1は、ピッキング動作時に指機構11が屈曲していく過程において、指機構11の先端部の振れが大きい。このため、ピッキング動作時におけるワーク15と多関節一指ハンド1との位置ズレを、指機構11の先端部の振れによって受動的に補完することができ、ワーク15のピッキングの成功率を高めることができる。
【0071】
このように、本実施形態によれば、ワーク15を把持するための構造を簡素化することができ、ワーク15の認識処理や駆動制御が容易な多関節一指ハンド1、及びピッキング装置100が得られる。
【0072】
(実施形態2)
図16は、実施形態2に係るピッキング装置における多関節一指ハンドの先端位置の具体例を示す図である。図17は、図16に示す多関節一指ハンドの先端部分の具体的な形状の一例を示す図である。図18は、多関節一指ハンドの先端位置の比較例を示す図である。なお、上述した実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0073】
図16及び図17に示すように、多関節一指ハンド1は、指機構11の伸展状態において、ハンドエフェクタ23の回動軸Xの延長軸上に第3リンク111cの爪部111Aの先端が位置する構成としている。
【0074】
図18に示すように、ハンドエフェクタ23の回動軸Xの延長軸に対して第3リンク111cの爪部111Aの先端がずれている(図18に示す例では、ハンドエフェクタ23の回動軸Xの延長軸に対して第3リンク111cの爪部111Aの先端が距離dだけずれている)場合には、ハンドエフェクタ23の回動位置によってずれた分だけ補正する必要があり制御が複雑になる。
【0075】
本実施形態では、指機構11の伸展状態において、多関節一指ハンド1が取り付けられるハンドエフェクタ23の回動軸Xの延長軸上に多関節一指ハンド1の先端部、すなわち第3リンク111cの爪部111Aの先端が重なる構成とすることで、ハンドエフェクタ23の回動位置によるずれを抑制することができ、制御が容易になる。
【0076】
(実施形態3)
図19は、実施形態3に係るピッキング装置の概略構成を示す図である。図19に示すピッキング装置100aでは、図1に示す実施形態1の構成に加え、ハンドエフェクタ23と多関節一指ハンド1との間に力覚センサ7が取り付けられている。その他の構成要素は、上述した実施形態1,2と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0077】
力覚センサ7としては、例えばひずみゲージや圧電素子等を組み合わせて構成されるセンサであり、互いに直交する3軸の方向に作用する力の大きさと、各軸回りに作用するモーメントの大きさを同時に検出することができる。制御装置4aは、力覚センサ7からの入力信号を解析することで、多関節一指ハンド1に作用する力を検知することができる。
【0078】
この力覚センサ7を備えることで、制御装置4aは、ワーク15の有無や、指機構11の屈曲方向に対して逆向きに掛かる力等、多関節一指ハンド1に作用する力を検知して信頼性の高い制御が可能となる。
【0079】
(実施形態4)
図20は、実施形態4に係る多関節一指ハンドの伸展状態における概略構造図である。図21は、実施形態4に係る多関節一指ハンドの屈曲状態における概略構造図である。
【0080】
図20図21に示す例では、指機構11の屈曲状態において内側となる側にワイヤ113−1が滑動可能に挿通されている。ワイヤ113−1の一方端113a−1は、第3リンク111cに設けられたワイヤ固定部114−1に固定されている。
【0081】
また、図20図21に示す例では、指機構11の屈曲状態において外側となる側にワイヤ113−2が滑動可能に挿通されている。ワイヤ113−2の一方端113a−2は、第3リンク111cに設けられたワイヤ固定部114−2に固定されている。
【0082】
図20図21に示す例において、駆動部12は、支点X1を軸心として回動運動するシーソー120の両端部にワイヤ113−1,113−2の他方端が接合され、モータ121によってシーソー120を回動させることによって指機構11を駆動するシーソー機構である。
【0083】
本実施形態において、指機構11の第1リンク111aは、ベース126に固定されている。
【0084】
シーソー120は、ベース126に固定されたシーソーベース127に、支点X1を軸心として回動可能に設けられている。また、シーソー120の支点X1にはシーソープーリー122が設けられている。
【0085】
モータ121は、ベース126に固定されたモータベース128に固定されている。モータ121の軸心X2にはモータプーリー123が設けられている。
【0086】
シーソープーリー122とモータプーリー123とにベルト124が巻き掛けられ、モータプーリー123、ベルト124、シーソープーリー122を介して、モータ121の駆動力がシーソー120に伝達される。
【0087】
モータ121によって図20に示す破線矢示方向にモータプーリー123が回転すると、モータ121の駆動力がシーソー120に伝達され、ガイドローラ125−1,125−2を介して、図21に示す実線矢示方向にワイヤ113−1,113−2が滑動する。これにより、多関節一指ハンド1は、図21に示す屈曲状態となる。
【0088】
上述した構成の多関節一指ハンド1を備えたピッキング装置100において、多関節一指ハンド1の移動時には、多関節一指ハンド1が図20に示す伸展状態となる。
【0089】
また、ワーク15を引っ掛けて把持するピッキング動作時には、駆動部12によってワイヤ113−1,113−2が滑動することで、指機構11が第1方向に徐々に屈曲し、多関節一指ハンド1が図21に示す屈曲状態となる。
【0090】
本実施形態では、図20に示すように、駆動部12(シーソー機構)によってワイヤ113−1,113−2にかかる張力で、多関節一指ハンド1の伸展状態が保たれる。これにより、多関節一指ハンド1の移動時において意図せず多関節一指ハンド1が屈曲することなく、より正確にワーク15を捉えることができる。
【0091】
(実施形態5)
図22は、実施形態5に係る多関節一指ハンドのニュートラル状態における概略構造図である。図23は、実施形態5に係る多関節一指ハンドの移動時における概略構造図である。図24は、実施形態5に係る多関節一指ハンドのピッキング動作時における概略構造図である。
【0092】
本実施形態では、上述した実施形態1の図10に示す多関節一指ハンドの先端部分の具体的な形状例を実施形態4に適用した場合における動作について説明する。
【0093】
上述した実施形態2では、指機構11の伸展状態において、多関節一指ハンド1が取り付けられるハンドエフェクタ23の回動軸の延長軸上に多関節一指ハンド1の先端部が重なる構成とする例を示したが、本実施形態では、モータ121が駆動力を発生していない状態において、付勢バネ115による付勢力によって図22に示すニュートラル状態が維持される。
【0094】
多関節一指ハンド1の移動時には、図23に示す破線矢示方向にモータプーリー123を回転させることで、図23に示す実線矢示方向にワイヤ113−1,113−2を滑動させ、多関節一指ハンド1が取り付けられるハンドエフェクタ23の回動軸の延長軸上に多関節一指ハンド1の先端部が重なるようにする。これにより、実施形態2と同様に、ハンドエフェクタ23の回動位置によるずれを抑制することができ、制御が容易になる。
【0095】
また、ピッキング動作時には、図24に示す破線矢示方向にモータプーリー123を回転させることで、図24に示す実線矢示方向にワイヤ113−1,113−2を滑動させ、指機構11を屈曲状態とすることで、ワーク15を引っ掛けて把持する。
【0096】
本実施形態では、上述したように、移動時及びピッキング動作時において能動的に指機構11の姿勢制御が行えるので、より精密に指機構11を制御することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 多関節一指ハンド
2 多関節アーム
3 基台
4,4a 制御装置
5 俯瞰センサ
6 ハンドアイセンサ
7 力覚センサ
11 指機構
12 駆動部(直動アクチュエータ)
12a 直動軸
12b 滑車
12c ローラ
13 トレー
14 作業エリア
15 ワーク(対象物)
21a 第1アーム部
21b 第2アーム部
21c 第3アーム部
21d 第4アーム部
22a 第1軸
22b 第2軸
22c 第3軸
22d 第4軸
22e 第5軸
23 ハンドエフェクタ
100,100a ピッキング装置
111 リンク
111A 爪部
111a 第1リンク
111b,111b−1,111b−2,111b−3 第2リンク
111c 第3リンク
112 関節部
113,113−1,113−2 ワイヤ
113a,113a−1,113a−2 一方端(ワイヤ)
114 ワイヤ固定部
115 付勢バネ
116 切り欠き
117 挿通孔
120 シーソー
121 モータ
122 シーソープーリー
123 モータプーリー
124 ベルト
125−1,125−2 ガイドローラ
126 ベース
127 シーソーベース
128 モータベース
図1
図2
図3
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図5
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