特許第6988215号(P6988215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988215
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】遠心圧縮機インペラ及び遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/30 20060101AFI20211220BHJP
   F04D 29/44 20060101ALI20211220BHJP
   F04D 29/42 20060101ALI20211220BHJP
   F04D 29/62 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   F04D29/30 C
   F04D29/44 X
   F04D29/44 F
   F04D29/42 H
   F04D29/62 C
   F04D29/30 F
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-136518(P2017-136518)
(22)【出願日】2017年7月12日
(65)【公開番号】特開2019-19695(P2019-19695A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】神崎 大
(72)【発明者】
【氏名】王 宝潼
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/046135(WO,A1)
【文献】 米国特許第09567942(US,B1)
【文献】 特開2012−184751(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0170497(US,A1)
【文献】 特開2011−21491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/30
F04D 29/44
F04D 29/42
F04D 29/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、前記ハブに設けられた羽根と、を備え、回転軸方向に対向するガス吸入口からガスを導入し回転径方向に前記ガスを排出する方式の遠心圧縮機インペラであって、
子午面上に回転方向に投影された投影像における前記羽根のチップライン上に、前記チップラインの前縁側の端部よりもチップ外径が小さい小外径部が存在し、
前記チップラインは、前記前縁側の端部を始点として下流側に延び、回転径方向内側に凹状に湾曲した湾曲凹部を前記小外径部として備える、遠心圧縮機インペラ。
【請求項2】
前記チップラインのうち最もチップ外径が小さい部分は、
無次元子午面位置0.1〜0.4に存在する、請求項1に記載の遠心圧縮機インペラ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遠心圧縮機インペラと、
前記遠心圧縮機インペラを囲むシュラウド面を有するハウジングと、を備え、
前記シュラウド面上には、
前記羽根の前記小外径部に沿った断面形状で前記チップライン側に突出する凸部が存在する、遠心圧縮機。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記遠心圧縮機インペラを挟んで位置し周方向に分離可能な複数の部品を有する、請求項3に記載の遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機インペラ及び遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載の遠心圧縮機が知られている。この遠心圧縮機のインペラにおいて、インペラの羽根の子午面形状を見ると、チップラインの上流側の部分が回転軸線に平行な直線をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/076102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のインペラにおいては、特に小流量域において、チップラインの上流側の近傍に流体の逆流域が発生する場合があり、この逆流域が遠心圧縮機の性能向上の妨げになる場合がある。このような課題に鑑み、本発明は、流体の逆流を低減させ遠心圧縮機の性能の向上を図る遠心圧縮機インペラ、及びこれを用いた遠心圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の遠心圧縮機インペラは、ハブと、ハブに設けられた羽根と、を備える遠心圧縮機インペラであって、子午面上に投影された投影像における羽根のチップライン上に、チップラインの前縁側の端部よりもチップ外径が小さい小外径部が存在する。
【0006】
また、チップラインのうち最もチップ外径が小さい部分は、無次元子午面位置0.1〜0.4に存在することとしてもよい。
【0007】
本発明の遠心圧縮機は、上記の何れかの遠心圧縮機インペラと、遠心圧縮機インペラを囲むシュラウド面を有するハウジングと、を備え、シュラウド面上には、羽根の小外径部に沿った断面形状でチップライン側に突出する凸部が存在する。
【0008】
また、ハウジングは、遠心圧縮機インペラを挟んで位置し周方向に分離可能な複数の部品を有することとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体の逆流を低減させ遠心圧縮機の性能の向上を図る遠心圧縮機インペラ、及びこれを用いた遠心圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態の過給機の回転軸線を含む断面図である。
図2図2は、インペラの長羽根及びシュラウド面近傍を拡大して示す断面図である。
図3図3は、インペラ及びコンプレッサハウジング近傍を拡大して示す断面図である。
図4図4(a),(b)は、本発明者らによるシミュレーション結果を示すグラフである。
図5図5(a),(b)は、本発明者らによるシミュレーション結果を示すコンター図である。
図6図6は、第2実施形態の過給機におけるインペラの長羽根及びシュラウド面近傍を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る遠心圧縮機インペラ及び遠心圧縮機の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、過給機1の回転軸線Aを含む断面を取った断面図である。過給機1は、本実施形態に係る遠心圧縮機として、コンプレッサ3を備えている。また、コンプレッサ3は、本実施形態に係る遠心圧縮機インペラとして、コンプレッサ翼車7を備えている。
【0013】
過給機1は、例えば、船舶や車両の内燃機関に適用されるものである。図1に示されるように、過給機1は、タービン2とコンプレッサ3とを備えている。タービン2は、タービンハウジング4と、タービンハウジング4に収納されたタービン翼車6と、を備えている。タービンハウジング4は、タービン翼車6の周囲において周方向に延びるスクロール流路16を有している。コンプレッサ3は、コンプレッサハウジング5と、コンプレッサハウジング5に収納されたコンプレッサ翼車7と、を備えている。コンプレッサハウジング5は、コンプレッサ翼車7の周囲において周方向に延びるスクロール流路17を有している。
【0014】
タービン翼車6は回転軸14の一端に設けられており、コンプレッサ翼車7は回転軸14の他端に設けられている。タービンハウジング4とコンプレッサハウジング5との間には、軸受ハウジング13が設けられている。回転軸14は、軸受15を介して軸受ハウジング13に回転可能に支持されており、回転軸14、タービン翼車6及びコンプレッサ翼車7が一体の回転体12として回転軸線A周りに回転する。
【0015】
タービンハウジング4には、排気ガス流入口(図示せず)及び排気ガス流出口10が設けられている。内燃機関(図示せず)から排出された排気ガスが、排気ガス流入口を通じてタービンハウジング4内に流入し、スクロール流路16を通じてタービン翼車6に流入し、タービン翼車6を回転させる。その後、排気ガスは、排気ガス流出口10を通じてタービンハウジング4外に流出する。
【0016】
コンプレッサハウジング5には、吸入口9及び吐出口(図示せず)が設けられている。上記のようにタービン翼車6が回転すると、回転軸14を介してコンプレッサ翼車7が回転する。回転するコンプレッサ翼車7は、吸入口9を通じて外部の空気を吸入する。この空気が、コンプレッサ翼車7及びスクロール流路17を通過して圧縮され吐出口から吐出される。吐出口から吐出された圧縮空気は、前述の内燃機関に供給される。
【0017】
続いて、コンプレッサ翼車7(以下「インペラ7」という)の近傍の構造について更に説明する。以下、「上流」、「下流」の語は、インペラ7におけるガスの上流及び下流に対応する。また、単に「径方向」、「周方向」、「軸方向」と言うときには、それぞれ、インペラ7の回転径方向、回転周方向、回転軸方向を意味するものとする。
【0018】
図2に示されるように、インペラ7は、ハブ21と、ハブ21に設けられた複数の長羽根(羽根)23とを備えている。複数の長羽根23はハブ21の表面で周方向に等間隔で配置されている。インペラ7は、長羽根23同士の各間に設けられた短羽根を更に備えてもよい。図2には、長羽根23の子午面形状が示される。長羽根23の子午面形状とは、長羽根23をインペラ7の子午面上に回転方向に投影した投影像の形状を言う。また、インペラ7の子午面とは、回転軸線Aを含む平面を言う。図2で示される長羽根23の詳細な形状の描写は、図1では省略されている。
【0019】
長羽根23の子午面形状について説明する。子午面上に投影された長羽根23のチップライン27は、前縁25側の端部(以下「前縁側端部27a」という)から、後縁29側の端部(以下「後縁側端部27b」という)まで、湾曲して延びている。チップライン27上には、前縁側端部27aよりもチップ外径が小さい小外径部が存在している。すなわち、チップライン27上で最もチップ外径が小さい部分は、前縁側端部27aではなく、前縁側端部27aよりも下流側に存在している。チップライン27上の所定の点のチップ外径とは、図中に符号「R」で示されるように、回転軸線Aから上記所定の点までの距離を言う。
【0020】
具体的には、チップライン27は、上記の小外径部として湾曲凹部31を備えている。湾曲凹部31は、前縁側端部27aを始点として下流側に延び、径方向内側に凹状に湾曲している。湾曲凹部31上のすべての点は、前縁側端部27aよりも径方向内側に位置しており、前縁側端部27aよりもチップ外径が小さい。湾曲凹部31の頂点は、チップライン27の中でチップ外径が最も小さい最小外径部33である。最小外径部33の上下流方向の位置に関して、最小外径部33は、無次元子午面位置0.1〜0.4の何れかの位置に配置される。すなわち、チップライン27のうち前縁側端部27aから最小外径部33までの部分の長さは、チップライン27全体の長さの10〜40%である。また、最小外径部33は、インペラ7の翼間スロートよりも下流側に位置するようにすることが好ましい。
【0021】
インペラ7を収納するコンプレッサハウジング5は、インペラ7を囲むシュラウド面35を備えている。シュラウド面35は長羽根23のチップライン27に沿って一定のクリアランスをもって延在している。シュラウド面35上において、チップライン27の湾曲凹部31に対面する部分には、凸部37が存在する。凸部37は、湾曲凹部31に沿った断面形状でチップライン27側に突出する。凸部37の存在により、湾曲凹部31を含めたチップライン27全体に亘って、チップライン27とシュラウド面35との間に一定のクリアランスが形成されている。
【0022】
通常のコンプレッサの組立工程では、一体的に形成されたコンプレッサハウジングに対し、インペラが軸方向に挿入されて設置される。しかしながら、本実施形態のコンプレッサ3では、インペラ7の前縁側端部27aがシュラウド面35の凸部37に干渉するので、上記の組立工程は適用できない。そこで、本実施形態のコンプレッサハウジング5は、インペラ7を挟んで位置し周方向に分離可能な複数の部品を有している。
【0023】
具体的には、図3に示されるように、コンプレッサハウジング5は、インペラ7を挟んで位置する2つのハウジング部品5a,5bで構成されている。ハウジング部品5a,5bは、分割面5dを境界として分割可能であり、分割面5dは回転軸線Aを含む平面に沿って存在している。ハウジング部品5a,5bは、それぞれ、周方向に分割されたシュラウド面35の一部を含んでいる。この構造により、インペラ7を間に挿入した状態でハウジング部品5a,5bを組み合わせて、コンプレッサハウジング5を組立てることができる。
【0024】
以上説明したインペラ7及びコンプレッサ3による作用効果について説明する。従来のインペラ(以下「従来インペラ」という)では、チップラインのうち前縁側端部のチップ外径が最も大きい。この羽根形状によれば、小流量域において、流体が逆流する逆流域(再循環領域ともいう)が発生し、性能低下の一因となる。これに対し、本実施形態のインペラ7では、長羽根23のチップライン27に湾曲凹部31が存在することにより、従来インペラに比較して翼負荷が低下する。翼負荷の低下により、流体の流れ方向(上下流方向)の逆圧力勾配が緩和され、その結果、小流量域において逆流域が縮小しコンプレッサ3の性能が向上する。
【0025】
遠心圧縮機インペラでは、小流量域での流体の逆流は、無次元子午面位置0.1〜0.4の位置で特に生じやすい。これに対し、インペラ7では、無次元子午面位置0.1〜0.4に最小外径部33が存在することにより、無次元子午面位置0.1〜0.4において翼負荷が低下し、逆流域が効率的に縮小され、上記の作用効果が顕著に奏される。また、前述のように、最小外径部33をインペラ7の翼間スロートよりも下流側に位置するようにすれば、インペラ7のチョーク流量(最大流量)も維持することができる。
【0026】
次に、本発明者らによるシミュレーションについて説明する。シミュレーション結果は、図4及び図5に示される。図4(a),(b)は、インペラの長羽根の子午面位置に対する圧力分布を示すグラフである。図4(a)が従来インペラ107、図4(b)が本実施形態のインペラ7に対応する。各グラフ中の上の曲線が長羽根の正圧面の圧力分布を示し、下の曲線が長羽根の負圧面の圧力分布を示す。長羽根の正圧面の圧力と負圧面の圧力との差を、以下では、単に「圧力差」という。
【0027】
図5(a)は、従来インペラ107の長羽根における流体の流速分布を示すコンター図であり、図5(b)は、本実施形態のインペラ7の長羽根23における流体の流速分布を示すコンター図である。図5(a)において、閉じた等高線で囲まれた領域E1が逆流域に該当する。同様に、図5(b)では、領域E2が逆流域に該当する。
【0028】
図4(a),(b)を比較すると、長羽根の子午面位置に対する圧力差の勾配(圧力差の増加率)は、従来インペラ107に比べてインペラ7のほうが小さくなっている。また、図5(a),(b)を比較すると、インペラ7の逆流域E2は、従来インペラ107の逆流域E1に比較して小さくなっている。以上により、インペラ7によれば、子午面位置に対する圧力差の勾配が小さくなり、逆流域が縮小されることが判った。
【0029】
(第2実施形態)
続いて、本実施形態の遠心圧縮機の第2実施形態について説明する。本実施形態の遠心圧縮機において、第1実施形態と同一又は同等の構成要件には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0030】
図6に示されるように、コンプレッサ53はインペラ7とコンプレッサハウジング55とを備えている。コンプレッサハウジング55はインペラ7を囲むシュラウド面56を備えている。シュラウド面56のうち、チップライン27の湾曲凹部31に対面する部分57は回転軸線Aに平行な直線状の断面をなしている。すなわち、シュラウド面56は、図2に示されるような凸部37を備えていない。従って、湾曲凹部31においては、シュラウド面56との間に、他の部分よりも広いクリアランスが生じている。このコンプレッサ53をコンプレッサ3に代えて過給機1に採用してもよい。
【0031】
上記の構造のコンプレッサ53によっても、第1実施形態と同様の作用効果が奏される。すなわち、コンプレッサ53のインペラ7では、長羽根23のチップライン27に湾曲凹部31が存在することにより、従来インペラに比較して翼負荷が低下する。翼負荷の低下により、流体の流れ方向(上下流方向)の逆圧力勾配が緩和され、その結果、小流量域において逆流域が縮小しコンプレッサ53の性能が向上する。
【0032】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 過給機
3,53 コンプレッサ(遠心圧縮機)
5,55 コンプレッサハウジング
5a,5b ハウジング部品
35,56 シュラウド面
7 インペラ(遠心圧縮機インペラ)
21 ハブ
23 長羽根
27 チップライン
27a 前縁側端部
31 湾曲凹部(小外径部)
33 最小外径部
37 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6