特許第6988312号(P6988312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6988312温水ユニット用の外装ケースおよびこれを備えた温水ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988312
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】温水ユニット用の外装ケースおよびこれを備えた温水ユニット
(51)【国際特許分類】
   F24H 9/02 20060101AFI20211220BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20211220BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20211220BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   F24H9/02 301B
   B41J2/01 501
   B41M5/50 100
   B41M5/50 110
   B41M5/00 120
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-183446(P2017-183446)
(22)【出願日】2017年9月25日
(65)【公開番号】特開2019-60508(P2019-60508A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】福井 宣広
(72)【発明者】
【氏名】藤井 弘士
【審査官】 岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0297621(US,A1)
【文献】 特開2014−040950(JP,A)
【文献】 特開平11−138863(JP,A)
【文献】 特開平10−296906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 9/02
B41J 2/01
B41M 5/50
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温水生成用または温水貯留用の温水機器を内部に収容するのに用いられる温水ユニット用の外装ケースであって、
この外装ケースは、金属板を用いて構成され、かつこの金属板の外面および内面の少なくとも一方には、塗料層が設けられており、
この塗料層上に積層して設けられ、かつ文字、記号、図、または模様の少なくともいずれかを表すインクジェット印刷層を備えており、
この外装ケースは、絞り加工部を有しており、
この絞り加工部のうち、前記金属板の板厚が他の部分よりも薄くされている部分は、前記他の部分よりも前記インクジェット印刷層の厚みも薄くされていることを特徴とする、温水ユニット用の外装ケース。
【請求項2】
請求項1に記載の温水ユニット用の外装ケースであって、
この外装ケースは、少なくとも一面が開口部とされた外装ケース本体と、前記開口部を塞ぐようにして前記外装ケース本体に取付けられるカバー体と、を備えており、
これら外装ケース本体およびカバー体の少なくとも一方に、前記インクジェット印刷層が設けられている、温水ユニット用の外装ケース。
【請求項3】
請求項1または2に記載の温水ユニット用の外装ケースであって、
周縁部にバーリング部が突設されたバーリング孔を備えており、
前記バーリング部には、前記バーリング孔の周辺部に設けられるインクジェット印刷層に繋がったインクジェット印刷層が設けられている、温水ユニット用の外装ケース。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の温水ユニット用の外装ケースであって、
この外装ケースの少なくとも一部の構成部品は、プレス加工品とされており、
前記インクジェット印刷層として、前記構成部品をプレス加工する際の位置決め用の目印が設けられている、温水ユニット用の外装ケース。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の温水ユニット用の外装ケースであって、
前記インクジェット印刷層は、紫外線硬化樹脂を含有している、温水ユニット用の外装ケース。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の温水ユニット用の外装ケースであって、
前記インクジェット印刷層は、熱硬化性樹脂を含有している、温水ユニット用の外装ケース。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の温水ユニット用の外装ケースを備えていることを特徴とする、温水ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば給湯装置やコージェネレーションシステムなど、温水生成用または温水貯留用の温水機器を外装ケース内に収容させた温水ユニット、およびその外装ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
給湯装置として構成された温水ユニットの具体例として、たとえばバーナにより発生された燃焼ガスを利用して湯水加熱を行なう温水機器が、外装ケース内に収容されたものがある(たとえば、特許文献1〜3を参照)。このような温水ユニット用の外装ケースは、表面が単色のカラー鋼板にプレス加工を施して製造されるのが一般的である。
【0003】
このような温水ユニットにおいては、たとえば温水ユニットのメーカ名、種類、あるいは能力などを示す文字や記号を外装ケースに表示する他、外装ケースの表面の広い範囲をカラー鋼板の表面の地色とは異なった所定の色彩にすることが要請される場合がある。この場合、従来においては、プレス成形によって外装ケースの構成部品(外装ケース本体とカバー体)を形成した後に、この構成部品にスプレイ方式で塗装を行なっている。塗料としては、溶剤塗料や粉体塗料が用いられている。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、改善すべき余地がある。
【0005】
すなわち、従来のスプレイ方式の塗装手段を用いた場合には、非塗装部分へのマスキング処理や、塗料の色合せが面倒である他、スプレイガン(エアガン)を用いた塗料の吹き付け作業も面倒であり、しかも熟練を要する。したがって、作業性、生産性が悪い。また、マスキング部分などへも塗料が吹き付けられるため、塗料の無駄が多い。したがって、外装ケースの製造コスト、ひいては温水ユニットの製造コストが高価となる。
このような不具合は、塗装される模様が複雑化し、また色彩の数が多くなるほど顕著となり、きめ細かな図柄表現なども難しい。さらに、溶剤塗料や粉体塗料をスプレイ塗装で使用することは、環境負荷が大きく、作業環境を良好な状態に維持することや、塗料の廃棄処理を適切に行なうといった点においても苦慮する。
なお、従来では、転写方式の塗装手段も適宜採用されているが、この方式の塗装手段によれば、転写用の版が必要であり、高コストとなる。また、広い面積の塗装には不向きであるといった不具合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−32029号公報
【特許文献2】特開平11−294867号公報
【特許文献3】特開2014−40950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、複雑な模様などを付す場合であっても、環境汚染を生じさせるようなことなく、簡易な作業工程によって生産性よく、かつ低コストで製造することができ、全体のデザイン性を良好にすることが可能な温水ユニット用の外装ケース、およびこれを備えた温水ユニットを提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明の第1の側面により提供される温水ユニット用の外装ケースは、温水生成用または温水貯留用の温水機器を内部に収容するのに用いられる温水ユニット用の外装ケースであって、この外装ケースは、金属板を用いて構成され、かつこの金属板の外面および内面の少なくとも一方には、塗料層が設けられており、この塗料層上に積層して設けられ、かつ文字、記号、図、または模様の少なくともいずれかを表すインクジェット印刷層を備えており、この外装ケースは、絞り加工部を有しており、この絞り加工部のうち、前記金属板の板厚が他の部分よりも薄くされている部分は、前記他の部分よりも前記インクジェット印刷層の厚みも薄くされていることを特徴としている。
ここで、インクジェット印刷層は、インクジェットプリンタを利用し、微小液滴化されたインク滴が塗装対象領域に吹き付けられて形成された印刷層である。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、外装ケースを構成する金属板の外面または内面の少なくとも一方に設けられた塗料層の上に、インクジェット印刷層がさらに設けられているため、所望の文字、記号、図、または模様を適切に表わすことが可能である。前記塗料層が設けられた金属板としては、たとえばカラー鋼板をそのまま用いることが可能である。一方、前記インクジェット印刷層は、インクジェットプリンタを用いて簡易に設けることが可能であり、従来のスプレイ方式による塗装とは異なり、外装ケースへのマスキング処理や塗料の色合わせなどは不要であって、熟練も必要とされない。また、従来の転写方式の塗装とは異なり、転写用の版は不要であり、かつ広い面積の塗装も容易である。したがって、塗装の作業性がよく、外装ケースの生産性を高めることができる。さらに、インクジェット印刷層は、所望の箇所に限定的に設けることができるため、インク塗料の無駄を無くし、または少なくすることもできる。その結果、外装ケースの製造コスト、ひいては温水ユニットの製造コストを廉価にすることが可能である。
さらに、インクジェット印刷層によれば、形状が複雑な模様や、色彩が多く用いられる模様もきめ細かく表現することが可能であるため、温水ユニットの外観体裁をよくする上で、一層好ましいものとなる。また、従来技術と比較して、環境負荷を少なくし、作業環境を良好な状態にするといったことも容易に実現することができる。
また、外装ケースにインクジェット印刷層を設けた後に、絞り加工部を設ける場合において、この絞り加工部の全体のインクジェット印刷層の厚みが大きく、かつ均一にされていると、金属板の絞り量が多くされた部分(絞り加工部のうち、板厚が他の部分よりも薄くされる部分)において、インクジェット印刷層が剥離する虞がある。これに対し、前記構成によれば、そのような虞を適切に回避することが可能である。
【0011】
好ましくは、本発明に係る温水ユニット用の外装ケースは、少なくとも一面が開口部とされた外装ケース本体と、前記開口部を塞ぐようにして前記外装ケース本体に取付けられるカバー体と、を備えており、これら外装ケース本体およびカバー体の少なくとも一方に、前記インクジェット印刷層が設けられている。
【0014】
好ましくは、本発明に係る温水ユニット用の外装ケースは、周縁部にバーリング部が突設されたバーリング孔を備えており、前記バーリング部には、前記バーリング孔の周辺部に設けられるインクジェット印刷層に繋がったインクジェット印刷層が設けられている。
【0015】
このような構成によれば、バーリング孔の周辺部とバーリング部とを、一連に繋がった色彩あるいは模様をなす状態に塗装することができ、この部分の外観体裁を良好なものとすることが可能である。前記構成とは異なり、たとえばバーリング孔の周辺部のみにインクジェット印刷層が設けられ、かつバーリング部にはインクジェット印刷層が設けられていない場合には、バーリング部が外部から不体裁な部分として見える虞があるが、前記構成によれば、そのような虞を解消することが可能である。
【0016】
好ましくは、本発明に係る温水ユニット用の外装ケースの少なくとも一部の構成部品は、プレス加工品とされており、前記インクジェット印刷層として、前記構成部品をプレス加工する際の位置決め用の目印が設けられている。
【0017】
このような構成によれば、外装ケースの前記構成部品をプレス加工により形成する際に、インクジェット印刷層によって表された位置決め用の目印を基準として、プレス加工を実施することができる。したがって、インクジェット印刷層により表された文字や模様などと、プレス加工による加工部分とを正確に位置合わせし、これらが大きくずれないようにすることができる。
【0018】
好ましくは、前記インクジェット印刷層は、紫外線硬化樹脂を含有している。
【0019】
このような構成によれば、紫外線照射により、インクジェット印刷層を早期に硬化させることが可能である。このため、たとえばインクジェット印刷時において、インクジェット印刷層に紫外線を照射し、インクジェット印刷層を硬化させながらインクジェット印刷を進めていくといったことが可能となる。未硬化状態のインクジェット印刷層に隣接する領域に色彩などが異なる新たなインクジェット印刷層を設けると、滲みを生じる虞があるが、前記したように紫外線照射によってインクジェット印刷層を硬化させながらインクジェット印刷を進めていけば、前記した滲みを生じないようにすることが可能である。
【0020】
好ましくは、前記インクジェット印刷層は、熱硬化性樹脂を含有している。
【0021】
このような構成によれば、インクジェット印刷を完了した後に、インクジェット印刷層を加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させることにより、インクジェット印刷層の強度を高め、耐候性などに優れたものとすることが可能である。
【0022】
本発明の第2の側面により提供される温水ユニットは、本発明の第1の側面により提供される温水ユニット用の外装ケースを備えていることを特徴としている。
【0023】
このような構成によれば、本発明の第1の側面により提供される温水ユニット用の外装ケースについて述べたのと同様な効果が得られる。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)は、本発明に係る温水ユニットの一例を示す側面図であり、(b)は、(a)に示した温水ユニットの外装ケース(内部の温水機器を省略した状態)の分解斜視図である。
図2】(a)は、図1に示す外装ケースのカバー体の正面図であり、(b)は、インクジェット印刷層を省略した状態での(a)に示すカバー体の正面図である。
図3】(a)は、図2(a)のIIIa−IIIa断面図であり、(b)は、図2(a)のIIIb−IIIb要部断面図であり、(c)は、図2(a)のIIIc−IIIc要部断面図であり、(d)は、図2(a)の符号IIIdで示す部分の正面断面図である。
図4図1および図2(a)に示すカバー体の背面図である。
図5】(a)〜(e)は、図1および図2(a)に示すカバー体の製造工程を示す説明図である。
図6図1および図2(a)に示すカバー体の製造に用いられるカラー鋼板の一例を示す要部断面図である。
図7】(a)は、インクジェット印刷に用いられるプリンタの概略構成の一例を示す斜視図であり、(b)は、(a)の矢視VIIbの図であって、(a)に示すプリンタのプリントヘッドの概略構造を示す図である。
図8図3(c)の構造を得るための作業工程の一例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1に示す温水ユニットUは、給湯装置であり、外装ケースC内に、温水生成用の温水機器1が収容された構成である。温水機器1は、湯水が流通する熱交換器10、この熱交換器10内の湯水を加熱するためのバーナ11、およびこのバーナ11に燃焼用空気を供給するファン12などを備えている。
【0028】
外装ケースCは、前面に開口部20を有する矩形箱状の外装ケース本体2と、開口部20を塞ぐカバー体3(フロントカバー体)とを備えている。カバー体3は、たとえばビスなどのネジ体9、およびこれが挿通するネジ挿通孔31,21を利用することにより、外装ケース本体2の前面部に着脱可能に取付けられる。
【0029】
本実施形態においては、インクジェット印刷層4(図において、網点模様や波線模様が付された部分)が、カバー体3に設けられている。ただし、外装ケース本体2には設けられていない。したがって、以降は、カバー体3の構成を詳細に説明することとし、外装ケース本体2の説明は省略する。ただし、後述するように、外装ケース本体2にインクジェット印刷層を設けてもよいことは勿論である。
【0030】
カバー体3は、プレス成形された後述のカラー鋼板30(塗料層が設けられた金属板の一例に相当する)に、インクジェット印刷層4(4a〜4g)が設けられた構成である。ただし、本実施形態におけるカバー体3の製造に際しては、後述するように、カラー鋼板30にインクジェット印刷層4を設けた後に、プレス加工が行なわれる。
【0031】
カバー体3は、正面視略矩形のパネル状であり、外周フランジ部32と、この外周フランジ部32に周囲が囲まれ、かつこの外周フランジ部32よりも前方(外装ケースCの手前側)に膨出した膨出部33とを備えている。外周フランジ部32は、外装ケース本体2の前面部に設けられた略矩形枠状のフランジ部22に当接させるための部位であり、図3(a)に示すように、その外側縁部には、ヘミング加工による折り返し部32aが連設されている。
【0032】
カバー体3の膨出部33は、カバー体3の大部分を占めており、この膨出部33には、給気口34、および排気口35が設けられている(図2も参照)。給気口34は、外装ケースC内への外気の流入を可能とする部位である。排気口35は、熱交換器10による熱回収を終えた排ガスを外装ケースCの外部に排出するための部位であり、図3(c)に示すように、その周縁部に筒状のバーリング部35aが連設されたバーリング孔として形成されている。給気口34についても、排気口35と同様に、バーリング孔とすることができる。
【0033】
インクジェット印刷層4は、後述するように、インクジェットプリンタ8を用いて設けられた塗膜層である。インクジェット印刷用のインクとしては、水系顔料インク、あるいは溶剤系顔料インクを用いることが可能であるが、本実施形態においては、紫外線硬化樹脂、および熱硬化性樹脂を含有したものが用いられる。
【0034】
インクジェット印刷層4としては、カバー体3の表面に設けられたものとして、たとえばペンギンなどの所定の図柄D1を表すインクジェット印刷層4a〜4d、および温水ユニットUのメーカ、機種、あるいは商標などの文字D2(図面では、一例として「AABBCC」)を表すインクジェット印刷層4eが設けられている。また、カバー体3の四隅部分には、後述するプレス加工時の位置決め用マークD3を表すインクジェット印刷層4fが設けられている。位置決め用マークD3は、図面においては、+の形状に示されているが、これに限定されない。また、位置決め用マークD3は、カバー体3の表面に代えて、または加えて、カバー体3の裏面に設けた構成とすることもできる。
【0035】
図4に示すように、カバー体3の裏面には、温水機器1の電気配線図D4を表すインクジェット印刷層4gがさらに設けられている。電気配線図D4に代えて、または加えて、温水機器1の配管図を表した構成とすることも可能である。図示説明は省略するが、カバー体3の裏面には、電気配線図D4や配管図とは別に、温水ユニットUの仕様説明、注意書きなどを表すインクジェット印刷層をさらに設けた構成とすることが可能である。
【0036】
図6に示すように、カバー体3の原材料としてのカラー鋼板30は、メッキ鋼板30a、このメッキ鋼板30aの表面に積層された白色系(白色を含む)の表側の塗料層30b、およびメッキ鋼板30aの裏面に積層されたサービスコートとしての裏側の塗料層30cを有する複数層構造である。インクジェット印刷層4a〜4eは、白色系の表側塗料層30bとは異なる色彩で、前記したペンギンの姿態などの図柄D1、および文字D2を表している。図2(a)の白色部分は、カラー鋼板30の表側塗料層30bのうち、インクジェット印刷が施されていない部分である。
【0037】
インクジェット印刷層4aは、基本的には、それらの全域が同一色で同一厚みに形成されている。ただし、図2(d)に示すように、膨出部33の周壁部33a(外周フランジ部33から前方に起立した壁部)の角部33a'の厚みtaは、周壁部33aの他の部分の厚みtb、および周壁部33a以外の部分の厚みよりも薄くされている。膨出部33は、絞り加工により形成され、その周壁部33aは、本発明でいう絞り加工部の一例に相当するが、この絞り加工においては、周壁部33aの角部33a'における延び量が最も大きくなる(角部角部33a'は、本発明でいう「絞り加工部のうち、板厚が他の部分よりも薄く形成されている部分」の一例に相当する)。このことに対応し、角部33a'におけるインクジェット印刷層4aの厚みtaが小さくされていれば、後述するように、インクジェット印刷層4aの剥離防止効果が得られる。なお、膨出部33の膨出量を大きくすべく周壁部33aの全体の絞り量(延び量)が多くされる場合には、周壁部33の角部33a'以外の部分の厚みtbを、インクジェット印刷層4aの他の部分の厚みよりも薄くしてもよい。
【0038】
インクジェット印刷層4bは、排気口35の周辺部に設けられているが、図3(c)を参照して説明したように、排気口35は、バーリング部35aを有するバーリング孔として形成されている。これに対し、インクジェット印刷層4bの一部は、バーリング部35aの内面にも設けられている。このことにより、排気口35の周辺部とバーリング部35aの内面とを同一の色彩に揃えることが可能となり、排気口35およびその周辺部を体裁よくすることができる。
【0039】
インクジェット印刷層4eは、文字D2を立体的に表す段押し部36(図2(b),図
3(b)も参照)の前面に設けられている。より具体的には、段押し部36は、カラー鋼板30の一部がプレス加工によって部分的に押し出されることにより文字D2が立体的に形取られた部分であり、インクジェット印刷層4eは、そのような段押し部36の前面部に設けられている。段押し部36としては、カラー鋼板30の一部がカバー体3の前方側へ押し出された前面側凸状の形態と、カラー鋼板30の一部がカバー体3の後方側へ押し出された前面側凹状の形態とがあるが、いずれであってもよい。
【0040】
前記したカバー体3は、次のような工程を経て製造することが可能である。
【0041】
まず、図5(a)に示すように、カバー体3の原材料として、図6を参照して説明した平板状のカラー鋼板30を準備する。次いで、このカラー鋼板30上(厳密には、カラー鋼板30の塗料層30b,30c上)にインクジェット印刷を施すことにより、同図(b)に示すように、インクジェット印刷層4を設ける。インクジェット印刷は、たとえば図7(a)に示すようなインクジェットプリンタ8を用いて行なう。インクジェットプリンタ8は、カラー鋼板30を載置支持する載置台81の上側において、プリントヘッド80を互いに直交するx,y方向に移動自在としたものである。プリントヘッド80は、図7(b)に示すように、所定色のインクジェット塗料を微滴化してカラー鋼板30に向けて吹き付ける複数のインクジェットノズル82を具備しており、この点は従来既知のものと同様であるが、本実施形態では、一対の紫外線光源83(83a,83b)がさらに具備されている。
【0042】
たとえば、主走査方向としての同図のx1方向にプリントヘッド80を移動させながらインクジェット印刷を施す際には、主走査方向後側の紫外線光源83aを発光させ、インクジェット印刷がなされた直後の領域に紫外線を照射させる。インクジェット印刷層4には、紫外線硬化樹脂が含有されているため、前記した紫外線の照射によりインクジェット印刷層4を迅速に硬化(後述の滲みを生じない程度の硬化)させることが可能である。したがって、色彩が相違する未硬化状態のインクジェット印刷層4どうしが混ざり合って、滲みを生じるといった不具合を防止することができる。インクジェット印刷を、前記したx1方向とは反対方向に進めていく際には、紫外線光源83aに代えて、紫外線光源83bを発光させることにより、前記したのと同様な作用が得られる。
【0043】
なお、インクジェット印刷層4aを設ける場合、カラー鋼板30のうち、図3(d)に示した周壁部33aの角部33a'とされる予定箇所には、その厚みtaを他の部分の厚みtbよりも薄くする。
【0044】
カラー鋼板30の表裏両面への前記したインクジェット印刷を終えた後には、図5(c)に示すように、カラー鋼板30を加熱し、インクジェット印刷層4を乾燥させつつ、このインクジェット印刷層4に含有されている熱硬化性樹脂を硬化させる。この加熱は、たとえば加熱炉を利用して行なう。このような処理により、インクジェット印刷層4の強度を高め、耐候性などに優れたものとすることができる。また、その後のプレス加工に対しても耐久性をもつものとすることができる。
【0045】
次いで、前記したカラー鋼板30にプレス加工としての絞り加工を施し、図5(d)に示すように、外周フランジ部32および膨出部33を形成する。その後は、図5(e)に示すように、給気口34、排気口35、および段押し部36などを形成するプレス加工、外周フランジ部32の余分な部分を除去するトリミング加工、およびその後のヘミング加工などを行なう。このことにより、前記したカバー体3を製造することができる。前記した作業工程においては、位置決め用マークD3を基準として、カラー鋼板30の位置決めを正確に行なうことができる。また、排気口35の形成作業は、たとえば図8に示すように、パンチ7aとダイ7bを利用して行なうが、排気口35の形成予定箇所の周辺部のみ
ならず、排気口35の形成対象箇所にもインクジェット印刷層4bが一連に設けられているため、図3(c)に示したように、排気口35の周辺部からバーリング部35aにわたってインクジェット印刷層4bが一連に設けられた構成を適切に実現することができる。
【0046】
次に、前記したカバー体3を備えた外装ケースC、および温水ユニットUの作用について説明する。
【0047】
まず、カバー体3の前面部には、ペンギンなどの図柄D1が表されているため、たとえばカバー体3の表面が単一色かつ無模様にされたものと比較すると、温水ユニットUをデザイン性に優れたものとすることが可能である。排気口35のバーリング部35aの内面は、排気口35の周辺部に連続した塗装とされているため、バーリング部35aの内側がバーリング部35aの周辺部とは異なった色彩とされている場合と比較して外観体裁もよい。また、周壁部33aの角部33a'は、絞り加工によってカラー鋼板30の一部分が大きく延ばされているが、この部分におけるインクジェット印刷層4の厚みtaは、他の部分の厚みtbよりも薄くされているため、前記した絞り加工によってインクジェット印刷層4が剥離し易くなるといった虞も生じないようにすることが可能である。
【0048】
カバー体3の裏面には、電気配線図D4または配管図がインクジェット印刷層4gによって表わされているため、メンテナンス作業などに際して便利である。たとえば、電気配線図を印刷したシートをカバー体3の裏面に貼付したような手段では、前記シートが破損し、あるいはカバー体3から剥離して紛失するといった虞があるが、本実施形態によれば、そのような虞もない。
【0049】
カバー体3の図柄D1、文字D2、位置決め用マークD3、および電気配線図D4などを表わす塗膜層は、いずれもインクジェット印刷層4とされているため、既述したようなインクジェットプリンタ8を用いて簡易に設けることが可能である。たとえば、スプレイ方式による塗装とは異なり、マスキング処理や塗料の色合わせなども不要であり、熟練も必要とされない。したがって、作業性、生産性を良好にすることが可能である。また、図柄D1などのデザイン変更も容易であり、少量多品種生産にも適する。さらに、インクジェット印刷によれば、インク塗料の無駄も無く、または少なく、環境負荷も小さい。インクジェット印刷層4の下地は、カラー鋼板3の塗料層30b,30cであるため、インクジェット印刷層4が設けられていない箇所の見栄えや耐候性なども良好なものにすることが可能である。
【0050】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る温水ユニット用の外装ケース、および温水ユニットの各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0051】
上述の実施形態においては、カバー体3のみにインクジェット印刷を施した例を示したが、本発明においては、それに代えて、または加えて、外装ケース本体2にもインクジェット印刷を施してもよいことは勿論である。本発明のインクジェット印刷層で表わされる文字や図柄などの具体的な内容は限定されず、文字、記号、図、または模様のうちの少なくともいずれかが表わされていればよい。
【0052】
本発明に係る温水ユニットは、給湯装置など、温水生成用の温水機器を外装ケース内に収容したものに代えて、貯湯タンクなどの温水貯留用の温水機器が外装ケース内に収容された貯湯タンクユニットなどとして構成とすることもできる。したがって、外装ケースとしても、前面開口状の外装ケース本体と、その前面開口部を塞ぐカバー体とを組み合わせたものに限定されない。
外装ケースの素材としては、平板状の金属板が用いられるが、この金属板としては、市
販されているようなカラー鋼板とは別の素材を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
U 温水ユニット
C 外装ケース
D1 図柄
D2 文字
D3 位置決め用マーク
D4 電気配線図
1 温水機器
2 外装ケース本体
20 開口部(外装ケース本体の)
3 カバー体
30 カラー鋼板
30b,30c 塗料層
33a 周壁部(絞り加工部)
33a' 周壁部の角部(絞り加工部)
35 排気口(バーリング孔)
35a バーリング部
4(4a〜4g) インクジェット印刷層
図1
図2
図3
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図5
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図8