(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照して、幾つかの実施形態を説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。なお、各部材の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
図1は、一実施形態に係るフェライト焼結磁石を模式的に示す斜視図である。異方性のフェライト焼結磁石10は、端面が円弧状となるように湾曲した形状を有しており、一般にアークセグメント形状、C形形状、瓦型形状、又は弓形形状と呼ばれる形状を有している。フェライト焼結磁石10は、例えばモータ及び発電機等の回転機用の磁石として好適に用いられる。ただし、フェライト焼結磁石の用途は上述のものに限定されない。また、フェライト焼結磁石の形状は
図1の形状に限定されない。
【0018】
フェライト焼結磁石は、六方晶のマグネトプランバイト型の結晶構造を有するフェライト相を主相として含有することが好ましい。本開示において「主相」とはフェライト焼結磁石に最も多く含まれる結晶相をいう。フェライト焼結磁石は、フェライト相とは異なる結晶相(異相)として、粒界相を含有していてもよい。
【0019】
フェライト焼結磁石におけるGa(ガリウム)の含有量はGa
2O
3換算で0.027〜0.217質量%である。Gaの上記含有量は、HcJ及びBrを一層向上する観点から、0.1〜0.22質量%であってもよく、0.15〜0.2質量%であってもよい。Gaを含有することによって磁気特性が向上する理由としては、配向率f
0の向上が考えられる。すなわち、本実施形態のフェライト磁石では飽和磁気分極が小さくなってHcJが高くなると考えられる。そして、通常、飽和磁気分極が小さくなるとBrが低下する傾向にあるものの、配向率f
0が向上することによって飽和磁気分極の影響が小さくなり、Brが高くなると考えられる。
【0020】
保磁力向上の観点から、フェライト焼結磁石におけるBの含有量はB
2O
3換算で0.1〜0.6質量%であってもよい。磁気特性を一層高くする観点から、Bの上記含有量は、0.5質量%以下であってもよく、0.4質量%以下であってもよい。同様の観点から、Bの上記含有量は、0.1質量%を超えていてもよく、0.2質量%を超えていてもよい。
【0021】
フェライト焼結磁石の全体の組成は、例えば、以下の一般式(I)で表したときに、下記式(1)、(2)及び(3)を満たすものであってもよい。一般式(I)におけるx、y及びmはモル基準の比率を示している。一般式(I)において、Rは、Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、AはCa、又は、CaとSr及びBaの一方又は双方とからなる元素を示す。
R
1−xA
xFe
m−yCo
y (I)
0.2≦x≦0.8 (1)
0.1≦y≦0.65 (2)
3≦m<14 (3)
【0022】
一般式(I)におけるxは、保磁力を一層高くする観点から、0.7以下であってもよく、0.6以下であってもよい。xは、残留磁束密度を一層高くする観点から、0.25以上であってもよく、0.3以上であってもよい。
【0023】
一般式(I)におけるyは、保磁力と残留磁束密度を一層高くする観点から、0.15以上であってもよく、0.2以上であってもよい。yは、同様の観点から、0.55以下であってもよく、0.5以下であってもよい、一般式(I)におけるmは、保磁力と残留磁束密度を一層高くする観点から、4以上であってもよく、5以上であってもよい。一般式(I)におけるmは、同様の観点から、12以下であってもよく、11以下であってもよい。
【0024】
上記フェライト焼結磁石は式(4)、(5)及び(6)を満たしていてもよい。
0.25≦x≦0.7 (4)
0.15≦y≦0.55 (5)
4≦m≦12 (6)
上記式(4)、(5)及び(6)を満たすことによって、保磁力と残留磁束密度の両方を一層高い水準で両立することができる。
【0025】
一般式(I)におけるAは、磁気特性を高くする観点から、主成分としてCa、又はCa及びSrを含むことが好ましい。AはCaのみ、又は、Ca及びSrのみからなっていてもよい。
一般式(I)に示される各元素の含有比率は、蛍光X線分析によって測定することができる。なお、一般式(I)に示される各元素の含有比率は、通常、後述する配合工程における各原材料の配合比率と同一である。Ga(ガリウム)及びB(ホウ素)の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP発光分光分析)で測定することができる。
【0026】
一般式(I)におけるRは、La(ランタン)、又は、La(ランタン)と、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)及びSm(サマリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素と、を含むことが好ましい。Rは、Laのみからなっていてもよい。
【0027】
フェライト焼結磁石は、上記一般式(I)に示されていない元素を副成分として含有していてもよい。フェライト焼結磁石は、副成分として、Si及びNaの少なくとも一方を含んでいてもよい。これらの副成分は、例えば、それぞれの酸化物又は複合酸化物としてフェライト焼結磁石に含まれていてもよい。
【0028】
フェライト焼結磁石におけるSiの含有量は、SiをSiO
2に換算して、例えば、3質量%以下であってもよい。磁気特性を一層高くする観点から、フェライト焼結磁石におけるSiの含有量は、SiをSiO
2に換算して、0.3質量%未満であってもよい。同様の観点から、フェライト焼結磁石におけるSiとBの合計含有量は、SiとBをそれぞれSiO
2及びB
2O
3に換算して、0.1〜0.8質量%であってもよく、0.2〜0.5質量%であってもよい。
【0029】
フェライト焼結磁石におけるNaの含有量は、NaをNa
2Oに換算して、例えば0.2質量%以下であってもよく、0.01〜0.15質量%であってもよく、0.02〜0.1質量%であってもよい。Si及びNaの含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP発光分光分析)で測定することができる。
【0030】
フェライト焼結磁石には、上述の成分の他に、原料に含まれる不純物又は製造設備に由来する不可避的な成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、Ti(チタン),Cr(クロム),Mn(マンガン),Mo(モリブデン),V(バナジウム)及びAl(アルミニウム)等が挙げられる。これらの成分はそれぞれの酸化物又は複合酸化物としてフェライト焼結磁石に含まれていてもよい。上述の不純物及び不可避的成分の含有量は、蛍光X線分析、又はICP発光分光分析によって測定することができる。
【0031】
フェライト焼結磁石における主相を含む結晶粒(フェライト粒子)の平均粒径は、例えば5μm以下であってもよく、4μm以下であってもよく、0.5〜3μmであってもよい。このような平均粒径を有することで、保磁力を一層高くすることができる。フェライト焼結磁石の結晶粒の平均粒径は、TEM又はSEMによるフェライト焼結磁石の断面の観察画像を用いて求めることができる。具体的には、数百個の結晶粒を含むSEM又はTEMの観察画像において、画像処理を行って粒径分布を測定する。測定した個数基準の粒径分布から、結晶粒の粒径の個数基準の平均値を算出する。このようにして測定される平均値を、結晶粒の平均粒径とする。
【0032】
フェライト焼結磁石の20℃における保磁力は、例えば、好ましくは5000Oe以上であり、より好ましくは5800Oe以上である。フェライト焼結磁石の20℃における残留磁束密度は、好ましくは3500G以上であり、より好ましくは3900G以上である。フェライト焼結磁石の角型は、例えば86%以上である。フェライト焼結磁石の配向率は、例えば93%以上である。
【0033】
フェライト焼結磁石は、モータ及び発電機等の回転機用の磁石として好適に用いられる。具体的には、フューエルポンプ用、パワーウィンドウ用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータの磁石として使用することができる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータの磁石として使用することができる。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータの磁石としても使用することができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータの磁石としても使用することが可能である。
【0034】
図2は、回転機の一例であるモータの模式断面図である。
図2のモータ30は、フェライト焼結磁石10を備える。モータ30は、ブラシ付き直流モータであり、有底筒状のハウジング31(ステータ)と、ハウジング31の内周側に同心に配置された回転可能なロータ32と、を備える。ロータ32は、ロータ軸36とロータ軸36上に固定されたロータコア37とを備える。ハウジング31の開口部にはブラケット33が嵌め込まれており、ロータコアは、ハウジング31とブラケット33とで形成される空間内に収容されている。ロータ軸36は、互いに対向するように、ハウジング31の中心部とブラケット33の中心部にそれぞれ設けられた軸受34,35によって回転可能に支持されている。ハウジング31の筒部分の内周面には、2個のC型のフェライト焼結磁石10が互いに対向するように固定されている。
【0035】
図3は、
図2のモータ30のIII−III線断面図である。モータ用磁石としてのフェライト焼結磁石10は、その外周面を接着面として、ハウジング31の内周面上に接着剤で接着されている。フェライト焼結磁石10は、厚みを薄くすること可能であることから、ハウジング31とロータ32の隙間を十分に小さくすることができる。したがって、モータ30は、その性能を維持しながら小型化することができる。
【0036】
次に、フェライト焼結磁石の製造方法の一例を説明する。以下に説明する製造方法は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、成形工程及び焼成工程を含む。各工程の詳細を以下に説明する。
【0037】
配合工程では、複数の原材料を配合して原料組成物を得る。原材料としては、構成元素として、一般式(I)に示す元素、ガリウム、ホウ素又はケイ素を含む化合物(原料化合物)が挙げられる。原料化合物は、例えば粉末状のものが好適である。原料化合物としては、酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物(炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等)が挙げられる。例えばSrCO
3、La(OH)
3、Fe
2O
3、BaCO
3、CaCO
3、Co
3O
4、Ga
2O
3、B
2O
3及びSiO
2等が例示できる。原料化合物の粉末の平均粒径は、例えば、配合を容易にする観点から、例えば0.1〜2.0μm程度である。
【0038】
酸化ホウ素等のホウ素化合物は、他の原材料に比べて水に溶けやすく且つ加熱条件下で飛散し易い傾向にある。このため、ホウ素化合物を配合する場合は、フェライト焼結磁石におけるホウ素の含有割合に比べて、配合工程の原料組成物におけるホウ素化合物の配合割合を多くする必要がある。上記含有割合に対する配合割合の比率は、例えば120〜300%である。
【0039】
配合工程では、必要に応じて、副成分の原料化合物(元素単体、酸化物等)を配合してもよい。原料組成物は、例えば、各原材料を、所望とするフェライト焼結磁石が得られるように秤量し、混合した後、湿式アトライタ、ボールミル等を用い、0.1〜20時間程度、混合、粉砕処理することにより原料組成物を得ることができる。
【0040】
仮焼工程では、配合工程で得られた原料組成物を仮焼する。仮焼は、例えば、空気等の酸化性雰囲気中で行ってもよい。仮焼の温度は、例えば1100〜1400℃であってもよく、1200〜1350℃であってもよい。仮焼の時間は、例えば1秒間〜10時間であってもよく、1秒間〜3時間であってもよい。仮焼により得られる仮焼粉(フェライト粒子)におけるフェライト相(M相)の比率は、例えば70体積%以上であってもよく、75体積%以上であってもよい。このフェライト相の比率は、フェライト焼結磁石におけるフェライトの主相の比率と同様にして求めることができる。
【0041】
粉砕工程では、仮焼工程により顆粒状又は塊状となった仮焼粉を粉砕する。このようにしてフェライト粒子が得られる。粉砕工程は、例えば、仮焼粉を粗い粉末となるように粉砕(粗粉砕工程)した後、これをさらに微細に粉砕する(微粉砕工程)、2段階の工程に分けて行ってもよい。
【0042】
粗粉砕は、例えば、振動ミル等を用いて、仮焼粉の平均粒径が0.5〜5.0μmとなるまで行うことができる。微粉砕では、粗粉砕で得られた粗粉を、さらに湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等によって粉砕する。微粉砕では、得られる微粉(フェライト粒子)の平均粒径が、例えば0.08〜2.0μm程度となるように粉砕を行う。微粉の比表面積(例えばBET法により求められる。)は、例えば7〜12m
2/g程度とする。粉砕時間は、粉砕方法によって異なり、例えば湿式アトライタの場合、30分間〜10時間であり、ボールミルによる湿式粉砕では10〜50時間である。フェライト粒子の比表面積は、市販のBET比表面積測定装置(Mountech製、商品名:HM Model−1210)を用いて測定することができる。
【0043】
微粉砕工程では、焼成後に得られる焼結体の磁気的配向度を高めるため、例えば一般式C
n(OH)
nH
n+2で示される多価アルコールを添加してもよい。一般式におけるnは、例えば4〜100であってもよく、4〜30であってもよい。多価アルコールとしては、例えばソルビトールが挙げられる。また、2種類以上の多価アルコールを併用してもよい。さらに、多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤を併用してもよい。
【0044】
多価アルコールを添加する場合、その添加量は、添加対象物(例えば粗粉)に対して、例えば0.05〜5.0質量%であってもよく、0.1〜3.0質量%であってもよい。なお、微粉砕工程で添加した多価アルコールは、後述する焼成工程で熱分解して除去される。
【0045】
成形工程では、粉砕工程で得られたフェライト粒子を、磁場中で成形して、成形体を得る。成形は、乾式成形及び湿式成形のいずれの方法でも行うことができる。磁気的配向度を高くする観点からは、湿式成形で行うことが好ましい。
【0046】
湿式成形により成形する場合は、例えば上述した微粉砕工程を湿式で行うことでスラリーを得た後、このスラリーを所定の濃度に濃縮して、湿式成形用スラリーを得る。この湿式成形用スラリーを用いて成形を行うことができる。スラリーの濃縮は、遠心分離又はフィルタープレス等によって行うことができる。湿式成形用スラリーにおけるフェライト粒子の含有量は、例えば30〜80質量%である。スラリーにおいて、フェライト粒子を分散する分散媒としては例えば水が挙げられる。スラリーには、グルコン酸、グルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤を添加してもよい。分散媒としては非水系溶媒を使用してもよい。非水系溶媒としては、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加してもよい。なお、湿式成形用スラリーは、微粉砕後の乾燥状態のフェライト粒子に、分散媒等を添加することによって調製してもよい。
【0047】
湿式成形では、次いで、この湿式成形用スラリーに対し、磁場中成形を行う。その場合、成形圧力は、例えば9.8〜49MPa(0.1〜0.5ton/cm
2)である。印加する磁場は、例えば398〜1194kA/m(5〜15kOe)である。
【0048】
焼成工程では、成形工程で得られた成形体を焼成してフェライト焼結磁石を得る。成形体の焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。焼成温度は、例えば1050〜1270℃であってもよく、1080〜1240℃であってもよい。また、焼成時間(焼成温度に保持する時間)は、例えば0.5〜3時間である。
【0049】
焼成工程では、焼成温度まで到達させる前に、例えば室温から100℃程度まで、0.5℃/分程度の昇温速度で加熱してもよい。これによって、焼結が進行する前に成形体を十分に乾燥することができる。また、成形工程で添加した界面活性剤を十分に除去することができる。なお、これらの処理は、焼成工程のはじめに行ってもよく、焼成工程よりも前に別途行っておいてもよい。
【0050】
このようにしてフェライト焼結磁石を製造することができる。ただし、フェライト焼結磁石の製造方法は、上述の例に限定されない。例えば、成形工程及び焼成工程は、以下の手順で行ってもよい。すなわち、成形工程は、CIM(Ceramic Injection Molding(セラミック射出成形)成形法、又は、PIM(Powder Injection Molding、粉末射出成形の一種)で行ってもよい。CIM成形法では、まず、乾燥させたフェライト粒子をバインダ樹脂とともに加熱混練してペレットを形成する。このペレットを、磁場が印加された金型内で射出成形して予備成形体を得る。この予備成形体を脱バインダ処理することによって成形体が得られる。より詳細な手順を以下に説明する。
【0051】
湿式粉砕で得られたフェライト粒子を含む微粉砕スラリーを乾燥させる。乾燥温度は、例えば80〜150℃であってもよく、100〜120℃であってもよい。乾燥時間は、1〜40時間あってもよく、5〜25時間であってもよい。乾燥後の磁性粉末の一次粒子の平均粒径は、例えば0.08〜2μmであってもよく、0.1〜1μmであってもよい。
【0052】
乾燥後のフェライト粒子を、バインダ樹脂、ワックス類、滑剤、可塑剤、及び昇華性化合物等の有機成分と共に混練し、ペレタイザなどで、ペレットに成形する。有機成分は、成形体中に、例えば35〜60体積%含まれていてもよく、40〜55体積%含まれていてもよい。混練は、例えば、ニーダーなどで行えばよい。ペレタイザとしては、例えば、2軸1軸押出機が用いられる。混練及びペレット成形は、使用する有機成分の溶融温度に応じて、加熱しながら実施してもよい。
【0053】
バインダ樹脂としては、熱可塑性樹脂などの高分子化合物が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン、及びポリアセタール等が挙げられる。
【0054】
ワックス類としては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックス以外に、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、及びポリエチレングリコール等の合成ワックスが用いられる。
【0055】
滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、フタル酸エステルが挙げられる。
【0056】
バインダ樹脂の添加量は、フェライト粒子100質量%に対して、例えば3〜20質量%である。ワックス類の添加量は、フェライト粒子100質量%に対して、例えば3〜20質量%である。滑剤の添加量は、フェライト粒子100質量%に対して、例えば0.1〜5質量%である。可塑剤の添加量は、バインダ樹脂100質量%に対して、例えば0.1〜5質量%である。
【0057】
次に、通常の磁場射出成形装置にペレットを導入し、所定形状のキャビティを有する金型内に射出成形する。金型への射出前に、金型には磁場が印加される。ペレットは、押出機の内部で、たとえば160〜230℃に加熱溶融され、スクリューにより金型のキャビティ内に射出される。金型の温度は、例えば20〜80℃である。金型への印加磁場は398〜1592kA/m(5〜20kOe)程度とすればよい。このようにして磁場射出成形装置によって予備成形体が得られる。
【0058】
得られた予備成形体を、大気中又は窒素中において100〜600℃の温度で熱処理して、脱バインダ処理を行って成形体を得る。有機成分を複数種使用している場合、脱バインダ処理を複数回に分けて実施してもよい。
【0059】
次いで焼成工程において、脱バインダ処理した成形体を、例えば、大気中で1050〜1270℃、又は1080〜1240℃の温度で0.2〜3時間程度焼成して、フェライト焼結磁石を得る。
【0060】
本実施形態のフェライト焼結磁石は、高い保磁力及び高い残留磁束密度を兼ね備える。したがって、例えば回転機用の磁石として好適に用いることができる。また、角型にも優れている。
【0061】
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、また、回転機は、
図2及び
図3に示すモータに限定されるものではなく、別の形態のモータであってもよいし、発電機であってもよい。
【実施例】
【0062】
本発明の内容を実施例及び比較例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(製造例1−1〜1−9)
[フェライト焼結磁石の製造]
原材料として、酸化鉄(Fe
2O
3)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、酸化コバルト(Co
3O
4)、水酸化ランタン(La(OH)
3)を準備した。これらの原材料を、一般式(I)の組成が、表1のとおりになるように配合した。このようにして得られた配合物に対して、0.35質量%の酸化ケイ素(SiO
2)を添加し、湿式アトライタを用いて10分間の混合及び粉砕を行ってスラリーを得た(配合工程)。
【0064】
このスラリーを乾燥した後、大気中、1300℃で2時間保持する仮焼を行って仮焼粉を得た(仮焼工程)。得られた仮焼粉を、小型ロッド振動ミルで10分間粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉に対して、以下の添加物を添加した。その後、湿式ボールミルを用いて35時間微粉砕し、フェライト粒子を含むスラリーを調製した(粉砕工程)。なお、製造例1−1については、粗粉に対して添加物を添加せずにスラリーを調製した。
<添加物>
・製造例1−2〜1−5:酸化ガリウム(Ga
2O
3)
・製造例1−6,1−7:酸化アルミニウム(Al
2O
3)
・製造例1−8,1−9:酸化クロム(Cr
2O
3)
【0065】
微粉砕後に得られたスラリーを、固形分濃度が73〜75質量%となるように調整して湿式成形用スラリーとした。この湿式成形用スラリーを、湿式磁場成型機を使用して、796kA/m(10kOe)の印加磁場中で成形し、直径30mm×厚み15mmの円柱状を有する成形体を得た(成形工程)。得られた成形体を、大気中、室温にて乾燥し、次いで大気中、1140℃で1時間保持する焼成を行った(焼成工程)。このようにして円柱状のフェライト焼結磁石を得た。
【0066】
<組成分析>
各製造例のフェライト焼結磁石におけるGa
2O
3換算のGaの含有量、Al
2O
3換算のAlの含有量、及びCr
2O
3換算のCrの含有量を以下の手順で測定した。フェライト焼結磁石の試料0.1gを、過酸化ナトリウム1g及び炭酸ナトリウム1gと混合して加熱し融解した。融解物を、純水40ml及び塩酸10mlの溶液に溶解した後、純水を加えて100mlの溶液とした。この溶液を用いて、ICP発光分光分析(ICP−AES)によって、Ga
2O
3換算のGaの含有量、Al
2O
3換算のAlの含有量、及びCr
2O
3換算のCrの含有量を求めた。ICP発光分光分析には島津製作所製の分析装置(装置名:ICPS 8100CL)を用い、測定にあたってはマトリックスマッチングを行った。上記一般式(I)における組成は、配合工程における原材料の配合比率に基づいて算出した。これらの結果を表1に示す。
【0067】
[フェライト焼結磁石の評価]
<磁気特性の評価>
フェライト焼結磁石の上下面を加工した後、最大印加磁場29kOeのB−Hトレーサを用いて、20℃における磁気特性を測定した。測定によって、残留磁束密度[Br(G)]、飽和磁気モーメント[Bs(G)]、及び保磁力[HcJ(Oe)]を求めた。BrはB−Hトレーサで測定されるH=0(Oe)におけるBの値、BsはB−Hトレーサで測定されるBの最大値として、配向率(Br/Bs)を求めた。また、一部の製造例について、Brの90%になるときの外部磁界強度(Hk)を測定し、これに基づいて角型(Hk/HcJ(%))を求めた。これらの結果を表2に示す。また、実施例及び比較例の区別を、表2の備考欄に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
図4は、製造例1−1〜1−5におけるGa
2O
3換算のGaの含有量とBrの関係を示すグラフである。
図5は、製造例1−1〜1−5におけるGa
2O
3換算のGaの含有量とHcJの関係を示すグラフである。
図6は、製造例1−1〜1−5におけるGa
2O
3換算のGaの含有量と角型の関係を示すグラフである。
【0071】
表1及び表2、並びに
図4、
図5及び
図6に示すとおり、Gaを含有する製造例1−2〜1−5のうち、Ga
2O
3換算のGaの含有量が0.027〜0.217質量%である製造例1−2〜1−4は、高いHcJと高いBrを兼ね備えていたGaを含有しない製造例1−1に比べて、Br及びHcJの両方と角型が向上した。一方、製造例1−5〜1−9は、いずれも製造例1−1に比べてBrが低下した。製造例1−2〜1−4は配向率が高くなっており、これがBr向上の要因になっていると考えられる。
【0072】
(製造例2−1〜2〜6)
粗粉に対する添加物として、酸化ガリウム(Ga
2O
3)に加えて酸化ホウ素(B
2O
3)を所定量添加したこと、各原材料を、一般式(I)の組成が表3のとおりになるように配合したこと以外は、製造例1−2〜1−5と同様にしてフェライト焼結磁石を得た。なお、製造例2−1では、酸化ガリウム(Ga
2O
3)を添加せず、酸化ホウ素(B
2O
3)のみを所定量添加した。得られたフェライト焼結磁石について、製造例1−2〜1−5と同様にして組成分析と磁気特性の評価を行った。結果は、表3及び表4に示すとおりであった。実施例及び比較例の区別を、表4の備考欄に示した。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
表3及び表4に示すとおり、Ga
2O
3換算のGaの含有量が0.054〜0.217質量%である製造例2−2〜2−5では、Gaを含まない製造例2−1に比べてBr及びHcJの両方が向上した。製造例2−2〜2−5は、製造例2−1よりも配向率が高くなっており、これがBr向上の要因になっていると考えられる。一方、Gaの含有量が所定の範囲外である製造例2−6では、製造例2−1よりもHcJが低下した。表1〜表4に示すとおり、GaとBの両方を含有することによって、HcJとBrを一層高水準で両立できることが確認された。
【0076】
(製造例3−1〜3〜6)
一般式(I)の組成が表5のとおりになるように配合したこと以外は、製造例2−1〜2−6と同様にしてフェライト焼結磁石を得た。なお、製造例3−1〜製造例3−3では、酸化ガリウム(Ga
2O
3)を添加せず、酸化ホウ素(B
2O
3)のみを所定量添加した。得られたフェライト焼結磁石について、製造例2−1〜2−6と同様にして組成分析と磁気特性の評価を行った。結果は、表5及び表6に示すとおりであった。実施例及び比較例の区別を、表6の備考欄に示した。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
図7は、Gaを含有する製造例(製造例3−4〜3−6及び製造例2−4)と、Gaを含有しない製造例(製造例3−1〜3−3及び製造例2−1)において、一般式(I)におけるxとBrの関係を示すグラフである。
図8は、Gaを含有する製造例(製造例3−4〜3−6及び製造例2−4)と、Gaを含有しない製造例(製造例3−1〜3−3及び製造例2−1)において、一般式(I)におけるxとHcJの関係を示すグラフである。
図7及び
図8中、黒四角のプロットはGaを含有する製造例のデータであり、白丸のプロットはGaを含有しない製造例のデータである。
【0080】
表5及び表6、並びに
図7及び
図8に示すとおり、一般式(I)におけるA、Fe及びRの原子比率が変わっても、Gaを所定量含有することによって、BrとHcJの両方が向上することが確認された。
【0081】
(製造例4−1〜4〜4)
一般式(I)の組成が表7のとおりになるように配合したこと以外は、製造例2−1〜2−6と同様にしてフェライト焼結磁石を得た。なお、製造例4−1,製造例4−2では、酸化ガリウム(Ga
2O
3)を添加せず、酸化ホウ素(B
2O
3)のみを所定量添加した。得られたフェライト焼結磁石について、製造例2−1〜2−6と同様にして組成分析と磁気特性の評価を行った。結果は、表7及び表8に示すとおりであった。実施例及び比較例の区別を、表8の備考欄に示した。
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
図9は、Gaを含有する製造例(製造例4−3〜4−4及び製造例2−4)と、Gaを含有しない製造例(製造例4−1〜4−2及び製造例2−1)において、一般式(I)におけるyとBrの関係を示すグラフである。
図10は、Gaを含有する製造例(製造例4−3〜4−4及び製造例2−4)と、Gaを含有しない製造例(製造例4−1〜4−2及び製造例2−1)において、一般式(I)におけるyとHJの関係を示すグラフである。
図9及び
図10中、黒四角のプロットはGaを含有する製造例のデータであり、白丸のプロットはGaを含有しない製造例のデータである。
【0085】
表7及び表8、並びに
図9及び
図10に示すとおり、一般式(I)におけるCoの原子比率が変わっても、Gaを所定量含有することによって、BrとHcJの両方が向上することが確認された。
【0086】
(製造例5−1〜5〜12)
一般式(I)の組成が表9のとおりになるように配合したこと以外は、製造例2−1〜2−6と同様にしてフェライト焼結磁石を得た。なお、製造例5−1〜製造例5−6では、酸化ガリウム(Ga
2O
3)を添加せず、酸化ホウ素(B
2O
3)のみを所定量添加した。得られたフェライト焼結磁石について、製造例2−1〜2−6と同様にして組成分析と磁気特性の評価を行った。結果は、表9及び表10に示すとおりであった。実施例及び比較例の区別を、表10の備考欄に示した。
【0087】
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
図11は、Gaを含有する製造例(製造例5−7〜5−12及び製造例2−4)と、Gaを含有しない製造例(製造例5−1〜5−6及び製造例2−1)において、一般式(I)におけるmとBrの関係を示すグラフである。
図12は、Gaを含有する製造例(製造例5−7〜5−12及び製造例2−4)と、Gaを含有しない製造例(製造例5−1〜5−6及び製造例2−1)において、一般式(I)におけるmとHcJの関係を示すグラフである。
図11及び
図12中、黒四角のプロットはGaを含有する製造例のデータであり、白丸のプロットはGaを含有しない製造例のデータである。
【0090】
表9及び表10、並びに
図11及び
図12に示すとおり、一般式(I)におけるmの値が変わっても、Gaを所定量含有することによって、BrとHcJの両方が向上することが確認された。