(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0017】
〔塩素含有樹脂組成物〕
本発明の塩素含有樹脂組成物(単に「樹脂組成物」とも称す)は、塩素含有樹脂と、ハイドロタルサイト型粉体と、有機酸亜鉛とを含む。必要に応じ、更に他の成分を1種又は2種以上含んでいてもよく、各含有成分はそれぞれ1種又は2種以上を使用することができる。以下、各含有成分について説明する。
【0018】
−塩素含有樹脂−
塩素含有樹脂は、塩素原子を含む樹脂(重合体)である限り特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂が好ましい。これにより、柔軟性や難燃性に優れる成型体が得られる。
【0019】
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン等の単独重合体;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−ウレタン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−マレイミド共重合体等の共重合体;等が挙げられる。なお、塩素含有樹脂と塩素非含有樹脂とのブレンド品を使用してもよいし、また塩化ビニル系樹脂を得るための重合方法は特に限定されない。
【0020】
−ハイドロタルサイト型粉体−
ハイドロタルサイト型粉体は、マグネシウム元素(Mg)及び/又は亜鉛元素(Zn)とアルミニウム元素(Al)とを含み、かつ吸油量が30ml/100g以下であるか、又は、マグネシウム元素(Mg)及び亜鉛元素(Zn)とアルミニウム元素(Al)とを含み、かつ吸油量が50ml/100g以下である。ハイドロタルサイト型粉体を構成する元素の種類に応じて吸油量がこの範囲にあることで、上述した本発明の作用効果を充分に発揮することが可能となる。ハイドロタルサイト型粉体がマグネシウム元素(Mg)及び亜鉛元素(Zn)とアルミニウム元素(Al)とを含む場合の吸油量は、好ましくは45ml/100g以下、より好ましくは40ml/100g以下である。更に好ましくは30ml/100g以下である。
また、耐熱性の観点から、構成する元素の種類に関わらず、吸油量の下限値は5ml/100g以上であることが好ましい。より好ましくは10ml/100g以上である。
【0021】
本明細書中、ハイドロタルサイト型粉体の吸油量は、JIS K5101−13−1(2004年:精製あまに油法)に準拠して測定する。
【0022】
上記ハイドロタルサイト型粉体は、マグネシウム元素(Mg)及び/又は亜鉛元素(Zn)と、アルミニウム元素(Al)とを含む。また、マグネシウム元素及び亜鉛元素の合計量と、アルミニウム元素量とのモル比〔(Mg+Zn)/Al〕が2.20以下である。これにより、成型体の熱安定性及び耐熱性がより向上するとともに、吸油量が上記範囲にあることと相まって、プレートアウト発生を充分に抑制することができる。
上記モル比〔(Mg+Zn)/Al〕は、好ましくは2.15以下、より好ましくは2.10以下、更に好ましくは2.05以下である。また、下限は特に限定されないが、1.9以上が好ましく、より好ましくは2.0以上である。
【0023】
上記ハイドロタルサイト型粉体として特に好ましくは、下記一般式(1):
{(Mg)
x(Zn)
y}(Al)
z(OH)
2(A
n−)
z/n・mH
2O (1)
(式中、A
n−は、n価の層間アニオンを表す。x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0.2≦z≦0.4、x+y+z=1を満たす数であって、かつx+yとzとの比{(x+y)/z}は2.20以下である。n及びmは、それぞれ1≦n≦4、及び、0≦mを満たす数である。)で表されるものである。これにより、耐熱性や熱安定性がより向上する。
【0024】
上記一般式(1)中、n価の層間アニオンとしては特に限定されないが、反応性及び環境負荷低減の観点から、水酸化物イオン(OH
−)、炭酸イオン(CO
32−)及び硫酸イオン(SO
42−)からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。中でも、炭酸イオンが好ましい。
【0025】
x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0.2≦z≦0.4、x+y+z=1を満たす数であって、かつx+yとzとの比{(x+y)/z}は2.20以下である。
ここで、y=0であるものは、Mg/Al系ハイドロタルサイトと称され、0<yであるものは、亜鉛変性ハイドロタルサイトと称される。本発明では、これらのいずれも好適に使用できる。亜鉛変成ハイドロタルサイトを用いる場合は0.01≦y<1であることが好ましい。
【0026】
x+yとzとの比{(x+y)/z}は、好ましくは2.15以下、より好ましくは2.10以下、更に好ましくは2.05以下である。また、下限は特に限定されないが、1.9以上が好ましく、より好ましくは2.0以上である。
【0027】
nは、1≦n≦4を満たす数であり、層間アニオンの価数によって適宜調整すればよい。好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは2である。
【0028】
上記ハイドロタルサイト型粉体中の粒子の形状は特に限定されず、例えば、板状、球状、円盤状等が挙げられる。中でも、板又は円盤状であることが好ましい。
なお、粒子形状は、走査型電子顕微鏡等によって観察することができる。
【0029】
上記ハイドロタルサイト型粉体の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上、2.0μm以下であることが好ましい。これにより塩素含有樹脂への分散性が向上され、本発明の作用効果がより向上する。より好ましくは0.3μm以上であり、また、より好ましくは1.5μm以下である。
【0030】
本明細書中、平均粒子径は、例えば、レーザー回折粒度分布測定装置(HORIBA社製LA950)を用いてD50として測定することができる。
D50とは、体積基準での50%積算粒径を意味し、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径をいう。具体的には、下記の方法に従って求められる。
【0031】
〔D50測定方法〕
サンプル(試料粉体)0.1gに0.025wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液60mLを加え、超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製作所社製)を用いて、強度をV−LEVEL3に設定して2分間分散処理を行うことにより、サンプルの懸濁液を準備する。この後、0.025wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を試料循環器に循環させ、透過率が80〜95%になるように上記懸濁液を滴下して、循環速度5、撹拌速度1にて、60秒間超音波分散してから測定を行う。
【0032】
上記ハイドロタルサイト型粉体の比表面積(SSAとも称す)は、例えば、1m
2/g以上、50m
2/g以下であることが好ましい。これにより、塩素含有樹脂への分散性が向上され、本発明の作用効果がより向上する。より好ましくは5m
2/g以上、更に好ましくは10m
2/g以上であり、また、より好ましくは40m
2/g以下、更に好ましくは30m
2/g以下である。
【0033】
本明細書中、比表面積は、BET法により得られたBET比表面積(SSAとも称す)を意味する。BET法は、窒素等の気体粒子を固体粒子に吸着させ、吸着した量から比表面積を測定する気体吸着法であり、圧力Pと吸着量Vとの関係からBET式によって単分子吸着量VMを求めることで、比表面積が定まる。
具体的には、以下の条件によりBET比表面積を求める。
【0034】
〔比表面積の測定条件〕
使用機:マウンテック社製、Macsorb Model HM−1220
雰囲気:窒素ガス(N
2)
外部脱気装置の脱気条件:105℃−15分
比表面積測定装置本体の脱気条件:105℃−5分
【0035】
上記ハイドロタルサイト型粉体は、粉体中の粒子が被覆層を有していてもよい。この場合、当該被覆層を有する粒子を含むハイドロタルサイト型粉体の物性が、上記物性(粒子形状、平均粒子径、比表面積等)を満たすことが好ましい。被覆層としては特に限定されないが、表面処理剤を用いて表面処理を行って被覆したものであることが好ましい。
【0036】
上記表面処理剤としては特に限定されず、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩(金属石ケン)、アニオン界面活性剤、リン酸エステル、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤等のカップリング剤が挙げられる。なお、1種又は2種以上を使用することができる。
【0037】
より具体的な表面処理剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸、これら高級脂肪酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の金属塩;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩、ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エーテル結合スルホン酸塩;エステル結合スルホネート、アミド結合アルキルアリールスルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリールスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤;オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等とのモノ又はジエステル又はこれらの混合物であって、それらの酸型又はアルカリ金属塩又はアミン塩等のリン酸エステル;ビニルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタンカップリング剤;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルカリカップリング剤;を挙げることができる。
【0038】
上記表面処理剤の使用量は特に限定されないが、例えば、最終的に得られる被覆層を有する粒子を含むハイドロタルサイト型粉体100質量%に対し、表面処理剤による被覆量が0.1〜30質量%の範囲となるように表面処理剤の使用量を調節することが好ましい。より好ましくは0.1〜20質量%の範囲である。
【0039】
上記樹脂組成物において、ハイドロタルサイト型粉体の含有量は、例えば、塩素含有樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましく、また、10質量部以下であることが好ましい。これにより、耐熱性及び熱安定性が更に向上する。より好ましくは0.1質量部以上、また、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0040】
−有機酸亜鉛−
本発明の樹脂組成物はまた、有機酸亜鉛を含む。有機酸亜鉛を含むことで、塩素含有樹脂の塩素が安定化され、加工時、また使用時に変色が抑制されるという効果を発揮できるため、外観を低下させることなく成型体を得ることが可能になる。
【0041】
有機酸亜鉛における有機酸としては特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、2−エチルヘキシル酸、ネオデカン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸、安息香酸、モノクロル安息香酸、p−t−ブチル安息香酸、ジメチルヒドロキシ安息香酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、トルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、クミン酸、n−プロピル安息香酸、アミノ安息香酸、N,N−ジメチルアミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、サリチル酸、p−t−オクチルサリチル酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、オクチルメルカプトプロピオン酸等の1価有機カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヒドロキシフタル酸、クロルフタル酸、アミノフタル酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、メタコン酸、イタコン酸、アコニット酸、チオジプロピオン酸等の2価有機カルボン酸;等の他、2価有機カルボン酸のモノエステル又はモノアミド化合物、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、メロファン酸、ピロメリット酸等の3価又は4価の有機カルボン酸のジ又はトリエステル;等が挙げられる。またこれらの有機酸を構成する水素原子の一部が水酸基等により置換されていてもよい。中でも、炭素数12〜20の高級脂肪酸が好ましい。具体的には、適度な滑性と塩素含有樹脂との相溶性がある、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸の亜鉛塩等が好ましい。中でも、安価で入手しやすいことから、パルミチン酸亜鉛やステアリン酸亜鉛等が好適に使用される。
なお、後述するデヒドロ酢酸亜鉛のように、有機酸亜鉛にもβ−ジケトン化合物にも該当する化合物は、本発明ではβ−ジケトン化合物に分類される。すなわち、上記有機酸亜鉛は、有機酸の亜鉛塩であって、β−ジケトン化合物に該当する化合物以外のものである。
【0042】
上記有機酸亜鉛の含有量は特に限定されず、例えば、塩素含有樹脂100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましい。これにより、変色を抑制することができる。より好ましくは0.1質量部以上である。また、5質量部以下であることが好ましく、これにより、耐熱性をより高めることができ、成形体の外観がより低下せず、色調もより良好なものとなる。より好ましくは2質量部以下である。
【0043】
−充填剤−
本発明の樹脂組成物はまた、充填剤を含むことが好ましい。これにより、成形品の寸法安定性や成形品の強度が向上するので、成型体用途に好ましい樹脂組成物となる。充填剤は中和剤としても機能する。
【0044】
充填剤としては特に限定されず、無機塩類、無機酸化物、無機水酸化物等の無機粉体が挙げられ、例えば、亜鉛、チタン、鉄、セリウム、バリウム、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、硼素、ジルコニウム等の塩類、酸化物、水酸化物、複合酸化物が挙げられる。塩類としては特に限定されず、例えば、硫酸塩、炭酸塩、塩化塩、酢酸塩、硝酸塩等が挙げられる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸亜鉛、チタン酸亜鉛、チタン酸バリウム、クレー、タルク等が挙げられ、中でも、炭酸カルシウムが好適である。
【0045】
炭酸カルシウムの中でも、比表面積(BET比表面積)が23m
2/g以下であるものが好ましい。より好ましくは20m
2/g以下、更に好ましくは18m
2/g以下であり、また、下限は0.1m
2/g以上が好ましい。より好ましくは5m
2/g以上である。
【0046】
上記樹脂組成物が充填剤を含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、塩素含有樹脂100質量部に対して40質量部以下であることが好ましい。40質量部を超えるとプレートアウトが抑制されないことがある。より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは1〜30質量部である。より更に好ましくは25質量部以下、一層更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下であり、また下限は1質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上である。最も好ましくは、比表面積が20m
2/g以下である炭酸カルシウムの含有量がこれらの好ましい範囲内にあることである。
【0047】
−β−ジケトン化合物−
本発明の樹脂組成物はまた、β−ジケトン化合物を含むことが好ましい。β−ジケトン化合物を含むことで、成形(成型)時の着色性改善を図ることができる。
【0048】
β−ジケトン化合物としては特に限定されないが、例えば、ステアロイルアセチルメタン、ベンゾイルアセチルメタン、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、オクチルベンゾイルメタン、ビス(4−オクチルベンゾイル)メタン、4−メトキシベンゾイルベンゾイルメタン、ビス(4−カルボキシメチルベンゾイル)メタン、2−カルボキシメチルベンゾイルアセチルオクチルメタン、2−ベンゾイルシクロヘキサン等のアルカノイルアロイルメタンやジアロイルメタン;デヒドロ酢酸;及びそれらの金属塩が好適である。
また、塩素含有樹脂組成物を電線被覆材として用いる場合には、デヒドロ酢酸亜鉛を含むことが好適である。樹脂添加剤の業界ではデヒドロ酢酸亜鉛はβ−ジケトン化合物の金属塩として認知されているため本願でも同様に扱う。
【0049】
上記樹脂組成物がβ−ジケトン化合物やを含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、塩素含有樹脂100質量部に対して2質量部以下であることが好ましい。より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0050】
−ワックス−
本発明の樹脂組成物はまた、成型中の樹脂混練状態の調整や成形品のツヤなど外観調整等のために、必要に応じてポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の炭化水素ワックス及び/又は脂肪酸エステルワックスを含んでもよい。具体的には、ポリエチレンワックスとしては、例えば、三井化学社製ハイワックスシリーズ、三洋化成工業社製サンワックスシリーズ、三洋化成工業社製ビスコールシリーズ、日本精蝋社製ルバックスシリーズ等が挙げられる。エステルワックスとしては、例えば、リケンビタミン社製リケスタシリーズ、エメリー社製ロキシオールシリーズ等が挙げられる。
【0051】
−他の成分−
本発明の樹脂組成物は更に、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。例えば、耐熱助剤、上記ワックス以外の滑剤(例えば、脂肪酸モノグリセライド等の内滑剤)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋助剤、可塑剤等の各種添加剤が挙げられる。添加剤はそれぞれ特に限定されないが、例えば、耐熱助剤としてはジペンタリスリトール等の多価アルコール化合物や、エポキシ樹脂等のエポキシ化合物が挙げられ、滑剤としてはステアリン酸モノグリセライド、パルミチン酸モノグリセライド、ステアリン酸、パルミチン酸等が挙げられ、架橋助剤としてはトリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられ、可塑剤としてはジオクチルフタレート(DOP)やトリオクチルトリメリテート(TOTM)、ジオクチルアジペート(DOA)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等が挙げられる。
【0052】
−電線用塩素含有樹脂組成物−
塩素含有樹脂組成物を用いて銅線を被覆した電線やハーネスは、時間が経つと銅線の表面が変色、変質することがある(銅害変色とも言う)。この原因の一つとして塩素含有樹脂組成物に含まれる有機化合物、特にジベンソイルメタンが影響している可能性がある。つまり、ジベンゾイルメタンを含む塩素含有樹脂組成物を用いて電線を成型する際のプレートアウト物にはジベンソイルメタンが多く含まれることがあるので銅線表面の変色、変質がより大きくなると推定される。
本発明の樹脂組成物は成型時のプレートアウトが抑制されることから、電線用途に使用した場合、電線中の銅線に付着する成分が低減するので、銅線表面の変色、変質が低減することが期待される。このとき、ジベンゾイルメタンを含まず、ステアロイルベンゾイルメタンまたはデヒドロ酢酸亜鉛を含むことで、銅線表面の変色、変質がより抑えられた電線を製造することが出来る。
【0053】
〔製造方法〕
本発明の塩素含有樹脂組成物を得る方法は特に限定されず、塩素含有樹脂、ハイドロタルサイト型粉体、有機酸亜鉛及び必要に応じて使用される任意成分を混合すればよい。混合方法も特に限定されず、例えば、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサーで混合し、得られた混合物をロール、バンバリーミキサー、押出機等を用いて均一に混練することが好適である。
【0054】
〔用途〕
本発明の塩素含有樹脂組成物は、熱安定性及び耐熱性に優れ、しかも塩素含有樹脂由来の各種物性に優れる成型体を、外観を低下させることなく与えることができ、かつ成型時のプレートアウトを充分に抑制できるものである。それゆえ、成型体用途に特に有用である。このような上記塩素含有樹脂組成物の成型体もまた、本発明者による好適な実施形態の1つである。
【0055】
上記成型体の形状は特に限定されず、シート状、フィルム状の他、ひも状、板状、棒状、ペレット状、管状等のその他の形状が挙げられる。また、成型体として具体的には、例えば、農業用フィルム等の各種フィルム、電線、パイプ、樹脂窓枠等が好適である。
【0056】
成型方法も限定されず、押出成型、射出成型、ロール成形、ディップ成型、ブロー成型等が挙げられる。なお、上記成型体は、押出成型により得られる成型体(押出成型体)であることが好適である。押出成型(押出成形)は、押出成形機を用いて行うことが好ましいが、このように本発明の塩素含有樹脂組成物を用い、押出成形機により成型する工程を含む成型体の製造方法は、本発明の1つである。この方法によれば、各種物性に優れる成型体を、作業性よく、容易かつ簡便に、収率良く与えることができる。
【0057】
上記製造方法は、押出成形品の中でも、特に形状が複雑で生産しにくい窓枠等異型成型品と呼ばれる類いの成型加工で特に威力を発揮する。異型の押出成型に使用する金型は形状が複雑なため、プレートアウトが発生しやすいことから、成型不良品の発生率が一般的に高く、成型中に樹脂が変色したり分解しやすい。そのため、本発明を利用することで、成型品の収率を上げることが期待できる。このように本発明の製造方法が、異型成型品を製造する方法である形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0058】
また押出成型では、金型の使用頻度が上がると金型と樹脂が接触する部分が劣化し様々な不具合が発生することが知られている、例えば金型を160〜220℃で累積3000時間以上使用すると、赤すじが発生することがあるが、本発明を利用することで赤すじの発生が抑制されることも期待される。
【実施例】
【0059】
本発明を詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
1、原料
後述の表1〜4に記載する原料は以下のとおりである。
(1)塩素含有樹脂
塩化ビニル系樹脂:信越化学工業社製、TK−1000、重合度1100
【0061】
(2)ハイドロタルサイト型粉体
特許第5056014号公報の実施例4に記載のハイドロタルサイトの製造操作にて、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム及び硫酸亜鉛の各モル比、並びに、製造条件を種々変化させ合成を行い、製造毎に後述する方法で吸油量と比表面積を測定し、表1〜4に記載のハイドロタルサイト型粉末を選び出した。一部については上述したD50平均粒子径測定方法により、D50平均粒子径を測定し、表1に測定結果を記載した。表1において「Mg/Al=2.0」と記載したものは、MgとAlを含み、Znを含まないハイドロタルサイト型粉体を表し、「(Mg+Zn)/Al=2.0」と記載したものは、MgとZnとAlを含むハイドロタルサイト型粉体を表す。
【0062】
(3)有機酸亜鉛
ステアリン酸亜鉛:堺化学工業社製、SZ−P
【0063】
(4)その他成分
炭酸カルシウム:白石カルシウム社製、μ−powder3S、比表面積8.5m
2/gジベンゾイルメタン:ロディア社製β−ジケトン化合物、ロディアスタブ83P
ステアロイルベンゾイルメタン:ロディア社製β−ジケトン化合物、ロディアスタブ50ポリエチレンワックス:三井化学社製、ハイワックス220MP
エステルワックス:理研ビタミン社製、リケスターSL−02
ステアリン酸カルシウム:堺化学工業社製、SC−P
ジペンタエリスリトール:広栄化学社製、ジペンタリット300
ステアリン酸モノグリセライド:理研ビタミン社製、リケマールS−100
フェノール系酸化防止剤:Ciba−Geigy社製、Irganox1010
ステアリン酸:日油社製、粉末ステアリン酸さくら
可塑剤(ジオクチルフタレート):ジェイプラス社製、DOP
【0064】
2、樹脂組成物
塩素含有樹脂3kgに対し、他の材料を表1〜4に記載の比率で計量した。計量した材料を、20Lヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)を用い、混合物の温度が100℃になるまで混合して樹脂組成物を作製した。
例えば試験例A1では、塩化ビニル系樹脂3kg、ハイドロタルサイト型粉体30g、炭酸カルシウム150g、ステアリン酸カルシウム15g、ステアリン酸亜鉛30g、ジペンタエリスリトール15g、ジベンソイルメタン15g、ポリエチレンワックス15g、エステルワックス15gをそれぞれ計量してヘンシェルミキサーに投入し、ヘンシェルミキサーの羽根を2000rpmで回転させ混合物の温度が100℃になった時点でヘンシェルミキサーから排出した。
【0065】
3、成型加工
冷却機能を備えた吸引サイジング(成形品の表面性を平滑にする装置)を有するラボ押出機(東洋精機製作所社製、コニカル2D20C型、押出条件:C1 175℃、C2 180℃、C3 185℃、AD 185℃、D1 180℃、D2 205℃、金型:パイプ用)にて上記樹脂組成物を使用し、5時間かけてパイプを成型した。
【0066】
4、評価試験
各試験例において、以下の方法に従って各種物性等を評価した。結果を表1〜4に示す。(1)プレートアウト性
上記「3、成型加工」におけるパイプ成型中及び成型が終了した後、金型及びサイジングへのプレートアウト発生状況(すなわち、金型やサイジングへの付着物の発生状況)を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
◎:金型及びサイジングへの付着物は確認されなかった。
〇:成形途中には確認されなかったが、成型終了時には金型及びサイジングに少量の付着物が確認された。
△:成型途中から金型及びサイジングに付着物が確認されたが、成型したパイプには異常が見られなかった。
×:成型途中から金型及びサイジング全面に付着物があり、金型またはサイジングから剥がれた付着物が成型したパイプに付着していた。
【0067】
(2)成形品色調
上記「3、成型加工」において、パイプ成型開始直後と成型終了直前とのパイプを採取し、それぞれのパイプを10mm長に切断しその試験片を160℃に設定したプレス機を用いて3分加圧加熱後、冷却し1mm厚のシートを作成した。成型開始直後のパイプとプレートアウト終了直前のパイプとについて色差計(日本電色工業社製、同時測光方式分光式色差計SQ−2000)にて色差を測定しΔYI値を求めた。
白色標準板は、X:79.04、Y:81.79、Z:93.84のものを使用した。なお、ΔYIが10以下ではパイプ製造工程で着色問題が発生する可能性は低く、ΔYIが10を超えると、製造工程で不良品の発生率が上昇するおそれがあるレベルの着色とされる。
【0068】
(3)耐熱性(オーブン耐熱性及びプレス耐熱性)及び透明性
上記「3、成型加工」で得られたパイプ100gを破砕機にて破砕し、破砕品をロール表面温度180℃に調整した8インチロール機(関西ロール社製)にて、5分間混練し、厚さ0.3mmのシートを作成した。このシートを用い、以下それぞれの試験を行った。
【0069】
(3−1)オーブン耐熱性
上記で作成したシートをESPEC社製ギアオーブン180℃に入れて30分間保持した。保持する前後のシートを用い、前述の色差計にて色相を測定しΔEを求めた。
なお、ΔEが15以下では、色調が良好であり問題が発生する可能性が低く、ΔEが15を超えると、成型加工機の故障等のトラブルが発生するおそれがあるとされる。
【0070】
(3−2)プレス耐熱性
上記シートを13枚重ねてプレス表面温度190℃のプレス機(TOYOSEIKI MINI TEST PERESS−10)を用い、厚さ3mmになるように100kg/cm
2にて20分間プレスした。プレス前後のシートで、前述の色差計にて下記基準にて色差を測定しΔEを求めた。
なお、ΔEが10以下では、色調が良好であり問題が発生する可能性が低く、ΔEが10以上では、成型加工機の故障等のトラブルが発生するおそれがあるとされる。
【0071】
(3−3)透明性
上記シートのうち、表4に示す配合で作成した1mmプレスシートのHAZE値を、ヘイズメーター(日本電色工業社製)にて測定した。
HAZE値は小さいほど透明であるが、概ね、HAZE値26を超えると1mm厚さのシートの向こう側は視認できず不透明となる。
【0072】
(4)銅害変色性試験
表5記載の材料を用い、上記、2、樹脂組成物の作成条件で作成した樹脂組成物を、ロール表面温度160℃に調整した8インチロール機(関西ロール社製)にて、5分間混練し、厚さ0.6mmのロールシートを作製した。MISUMI−VONA社製の銅板(厚さ0.2mm)の表裏にロールシートを2枚づつ重ね、プレス表面温度170℃のプレス機(東洋精機製作所社製、MINI TETS PRESS−10)を用い、100kg/cm
2にて5分間保持し銅板入りのシートを得た。次に銅板入りシートを、恒温恒湿(ESPEC社製)50℃、90%の条件にて168時間保持した。その後取り出したシートと銅板を引きはがし、接触面の状態を以下の基準で判定した。
〇:促進前と比較し、変色が確認されなかった。
△:促進前と比較し、変色は確認されたが僅かであった。
×:促進前と比較し、著しく変色が確認された。
変色の程度が著しいというほどではなかったり、著しい変色があっても変色箇所が一様で無い場合は×△と表記した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1では、金属元素のモル比は同一である一方、吸油量が異なる種々のハイドロタルサイト型粉体を使用して試験を行った。
【0075】
【表2】
【0076】
表2では、金属元素のモル比及び/又は吸油量が異なる種々のハイドロタルサイト型粉体を使用して試験を行った。
【0077】
【表3】
【0078】
表3では、金属元素のモル比及び/又は吸油量が異なる種々のハイドロタルサイト型粉体を使用して試験を行った。但し、表2とはその他成分の種類を適宜変更した。
【0079】
【表4】
【0080】
表4では、可塑剤を使用して試験を行った。
【0081】
【表5】
【0082】
表5では、電線被覆材としての評価を行った。
【0083】
上述の全試験例より、塩素含有樹脂、ハイドロタルサイト型粉体及び有機酸亜鉛を含む樹脂組成物であって、かつハイドロタルサイト型粒子が、所定元素の比〔(Mg+Zn)/Al〕が2.20以下であり、かつ吸油量が50ml/100g以下であることによって初めて、成型時のプレートアウトの発生や経時的な付着量増加が充分に抑制され、熱安定性及び耐熱性に優れ、良好な色調や透明性を呈する成型体が得られることが分かった。この点について、例えば試験例A1〜A4と試験例A5とは、ハイドロタルサイト型粒子の吸油量が50ml/100g以下であるか否かの点で主に異なるが、吸油量が当該範囲外である試験例A5ではプレートアウト評価が著しく劣る結果となっている(表1参照)。原因は不明だが、成型時には溶融して液状となっている滑剤がハイドロタルサイト型粉体に吸油されにくくなったことに起因すると考えられる。だが、たとえハイドロタルサイト型粒子の吸油量が本発明で規定した上記範囲内であっても、所定元素の比〔(Mg+Zn)/Al〕が2.20を超える場合には、耐熱性や成型品の色調がより優れたものとはならないことも見いだした(表2参照)。それゆえ、本発明の効果を奏するには、ハイドロタルサイト型粒子の吸油量だけでなく、所定元素の比〔(Mg+Zn)/Al〕も重要であり、これらの相乗効果によって本発明の効果が奏されることが分かった。なお、可塑剤を含ませた軟質の樹脂組成物においてもほぼ同様の傾向が見られた(表4参照)。
また、試験E1〜E10の結果から、ハイドロタルサイト型粒子の吸油量が50ml/100g以下であり、かつ、ステアロイルベンゾイルメタンまたはデヒドロ酢酸亜鉛を含むことで、銅害変色を防止する効果に優れ、電線被覆材として好適な組成物となることも見出した(表5)。