(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、過給機Cの概略断面図である。以下では、
図1に示す矢印L方向を過給機Cの左側として説明する。
図1に示す矢印R方向を過給機Cの右側として説明する。
図1に示すように、過給機Cは、過給機本体1を備えて構成される。過給機本体1は、ベアリングハウジング2と、タービンハウジング4と、コンプレッサハウジング6とを含んで構成される。タービンハウジング4は、ベアリングハウジング2の左側に締結ボルト3によって連結される。コンプレッサハウジング6は、ベアリングハウジング2の右側に締結ボルト5によって連結される。
【0016】
ベアリングハウジング2には、軸受孔2aが形成されている。軸受孔2aは、過給機Cの左右方向に貫通する。軸受孔2aは、シャフト7の一部を収容する。軸受孔2aには、一対のフルフローティング軸受(軸受)8が収容される。シャフト7は、一対のフルフローティング軸受8によって、回転自在に軸支されている。シャフト7の左端部には、タービンインペラ9が設けられている。タービンインペラ9は、タービンハウジング4に回転自在に収容されている。シャフト7の右端部には、コンプレッサインペラ10が設けられている。コンプレッサインペラ10は、コンプレッサハウジング6に回転自在に収容されている。
【0017】
コンプレッサハウジング6には、吸気口11が形成されている。吸気口11は、過給機Cの右側に開口する。吸気口11は、不図示のエアクリーナに接続される。ベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6の対向面によって、ディフューザ流路12が形成される。ディフューザ流路12は、空気を昇圧する。ディフューザ流路12は、環状に形成される。ディフューザ流路12は、径方向内側において、コンプレッサインペラ10を介して吸気口11に連通している。
【0018】
コンプレッサハウジング6には、コンプレッサスクロール流路13が設けられている。コンプレッサスクロール流路13は、環状に形成される。コンプレッサスクロール流路13は、例えば、ディフューザ流路12よりもシャフト7の径方向外側に位置する。コンプレッサスクロール流路13は、不図示のエンジンの吸気口と、ディフューザ流路12とに連通している。コンプレッサインペラ10が回転すると、吸気口11からコンプレッサハウジング6内に空気が吸気される。吸気された空気は、コンプレッサインペラ10の翼間を流通する過程において加圧加速される。加圧加速された空気は、ディフューザ流路12およびコンプレッサスクロール流路13で昇圧される。昇圧された空気は、エンジンの吸気口に導かれる。
【0019】
タービンハウジング4には、吐出口14が形成されている。吐出口14は、過給機Cの左側に開口する。吐出口14は、不図示の排気ガス浄化装置に接続される。タービンハウジング4には、連通路15と、タービンスクロール流路16とが設けられている。タービンスクロール流路16は、環状に形成される。タービンスクロール流路16は、例えば、連通路15よりもタービンインペラ9の径方向外側に位置する。タービンスクロール流路16は、不図示のガス流入口と連通する。ガス流入口には、不図示のエンジンの排気マニホールドから排出される排気ガスが導かれる。連通路15は、タービンスクロール流路16と吐出口14とを連通させる。したがって、ガス流入口からタービンスクロール流路16に導かれた排気ガスは、連通路15およびタービンインペラ9を介して吐出口14に導かれる。吐出口14に導かれる排気ガスは、流通過程においてタービンインペラ9を回転させる。
【0020】
そして、タービンインペラ9の回転力は、シャフト7を介してコンプレッサインペラ10に伝達される。コンプレッサインペラ10が回転すると、上記のとおりに空気が昇圧される。こうして、空気がエンジンの吸気口に導かれる。
【0021】
図2は、
図1の破線部分を抽出した図である。過給機Cは、
図2に示すように、軸受構造Sを有している。軸受構造Sは、軸受孔2aと、シャフト7と、一対のフルフローティング軸受8とを含んで構成される。一対のフルフローティング軸受8は、シャフト7の軸方向(以下、単に軸方向と称す)に離隔している。
【0022】
以下、一対のフルフローティング軸受8を区別して称するときは、
図2中、左側(タービンインペラ9側)のフルフローティング軸受8をタービン側軸受21と称する。
図2中、右側(コンプレッサインペラ10側)のフルフローティング軸受8をコンプレッサ側軸受22と称する。
【0023】
タービン側軸受21およびコンプレッサ側軸受22については、本実施形態に特有の構成を有するため、後に詳述する。
【0024】
ベアリングハウジング2には、第1リング24と、第2リング26と、第3リング28と、スラスト軸受30、32とが設けられる。第1リング24は、タービン側軸受21より
図2中、左側(タービンインペラ9側)の軸受孔2a内に配される。軸受孔2aには、タービン側軸受21より
図2中、左側(タービンインペラ9側)に環状の内周溝が形成されている。第1リング24は、軸受孔2aのタービン側軸受21よりタービンインペラ9側に形成された内周溝に嵌合している。
【0025】
第2リング26は、タービン側軸受21より
図2中、右側(コンプレッサインペラ10側)の軸受孔2a内に配される。軸受孔2aには、タービン側軸受21より
図2中、右側(コンプレッサインペラ10側)に環状の内周溝が形成されている。第2リング26は、軸受孔2aのタービン側軸受21よりコンプレッサインペラ10側に形成された内周溝に嵌合している。
【0026】
タービン側軸受21は、シャフト7の軸方向において、第1リング24と第2リング26との間に配される。タービン側軸受21は、第1リング24と第2リング26により、シャフト7の軸方向の動きが規制される。
【0027】
第3リング28は、コンプレッサ側軸受22より
図2中、左側(タービンインペラ9側)の軸受孔2a内に配される。軸受孔2aには、コンプレッサ側軸受22より
図2中、左側(タービンインペラ9側)に環状の内周溝が形成されている。第3リング28は、軸受孔2aのコンプレッサ側軸受22よりタービンインペラ9側に形成された内周溝に嵌合している。第3リング28は、第2リング26より
図2中、右側(コンプレッサインペラ10側)に配される。スラスト軸受30、32は、コンプレッサ側軸受22より
図2中、右側(コンプレッサインペラ10側)に配される。
【0028】
コンプレッサ側軸受22は、シャフト7の軸方向において、第3リング28とスラスト軸受30との間に配される。コンプレッサ側軸受22は、第3リング28とスラスト軸受30により、シャフト7の軸方向の動きが規制される。
【0029】
シャフト7は、大径部7aと、小径部7bとを有する。大径部7aの外径は、小径部7bの外径より大きい。大径部7aと小径部7bの間には、大径部7aと小径部7bの外径差による段差部が形成される。小径部7bのうち段差部近傍には、スラストカラー34が取り付けられる。
【0030】
大径部7aには、タービン側軸受21と、コンプレッサ側軸受22と、スラスト軸受30とが挿通される。小径部7bには、スラスト軸受32とスラストカラー34とが挿通される。
【0031】
スラスト軸受30は、スラストカラー34のタービンインペラ9側に配される。スラスト軸受30は、スラストカラー34を介して、シャフト7がタービンインペラ9側に移動する際の荷重を受ける。スラスト軸受32は、スラストカラー34のコンプレッサインペラ10側に配される。スラスト軸受32は、スラストカラー34を介して、シャフト7がコンプレッサインペラ10側に移動する際の荷重を受ける。
【0032】
ベアリングハウジング2には、油路36が形成される。油路36には、不図示のポンプから送出された潤滑油が導入される。油路36は、軸受孔2a内と連通する2つの開口36a、36bを有する。開口36a、36bは、シャフト7の軸方向に離間して配される。
【0033】
開口36aは、シャフト7の径方向において、タービン側軸受21と対向する。開口36bは、シャフト7の径方向において、コンプレッサ側軸受22と対向する。油路36に導入された潤滑油は、開口36a、36bを介して軸受孔2a内に流入する。潤滑油は、開口36aを介してタービン側軸受21に供給される。潤滑油は、開口36bを介してコンプレッサ側軸受22に供給される。潤滑油は、タービン側軸受21およびコンプレッサ側軸受22を潤滑する。
【0034】
潤滑油は、一対のフルフローティング軸受8の外周面と軸受孔2aとの間を流通する。一対のフルフローティング軸受8の外周面と軸受孔2aとの間には、油膜が形成される。一対のフルフローティング軸受8は、外周面と軸受孔2aとの間の油膜圧力によって回転自在に支持される。
【0035】
潤滑油は、一対のフルフローティング軸受8の内周面とシャフト7との間を流通する。一対のフルフローティング軸受8の内周面とシャフト7との間には、油膜が形成される。一対のフルフローティング軸受8は、内周面とシャフト7との間の油膜圧力によって、シャフト7を回転自在に軸支する。
【0036】
一対のフルフローティング軸受8は、シャフト7の回転に伴う潤滑油の流れによってシャフト7の回転より低速で回転する。一対のフルフローティング軸受8は、軸受孔2aと非接触状態で相対的に回転することができる。
【0037】
ベアリングハウジング2には、鉛直孔2bが設けられる。鉛直孔2bは、軸受孔2aと連通し、鉛直下方に延在する。軸受孔2a内に流入した潤滑油の一部は、鉛直孔2bを介して鉛直下方に排出される。
【0038】
軸受孔2a内に流入した潤滑油の一部は、軸受孔2aのシャフト7の軸方向の両端側から排出される。軸受孔2aのコンプレッサインペラ10側から排出された潤滑油の一部は、スラスト軸受30、32に供給される。スラスト軸受30、32に供給された潤滑油の一部は、スラスト軸受30、32を潤滑した後、鉛直下方に排出される。
【0039】
図3Aは、本実施形態のフルフローティング軸受8の正面図である。
図3Bは、本実施形態のフルフローティング軸受8の回転軸を含む断面図である。ここでは、タービン側軸受21について詳述する。コンプレッサ側軸受22の構成については、タービン側軸受21と実質的に等しいため説明を省略する。
【0040】
フルフローティング軸受8は、環状の本体8aを備える。本体8aは、貫通孔8bと、外周溝8cと、内周溝8dとを有する。貫通孔8bは、本体8aの径方向に貫通する。貫通孔8bは、例えば、本体8aの周方向に等間隔に6つ設けられる。貫通孔8bは、本体8aの外周面8e側の潤滑油の一部を内周面8f側に導く。ただし、貫通孔8bは、本体8aの周方向に不等間隔に設けられてもよい。また、本体8aには、複数の貫通孔8bが設けられなくてもよい。例えば、本体8aには、単一(1つ)の貫通孔8bだけが形成されてもよい。貫通孔8bは、本体8aの中心軸方向(幅方向)における中心位置(中央位置)に形成される。ただし、貫通孔8bは、本体8aの中心軸方向における中心位置から離隔した(ずれた)位置に形成されてもよい。また、貫通孔8bは、本体8aに複数形成される場合、本体8aの中心軸方向において互いに等しい位置に形成される。ただし、貫通孔8bは、本体8aに複数形成される場合、本体8aの中心軸方向において互いに異なる位置に形成されてもよい。
【0041】
外周溝8cは、本体8aの周方向に延在する周方向溝である。外周溝8cは、本体8aの周方向において、6つの貫通孔8bと連通する。外周溝8cは、6つの貫通孔8bの中心軸を通過している。ただし、外周溝8cは、6つの貫通孔8bと連通しなくてもよい。すなわち、外周溝8cは、本体8aの中心軸方向において、貫通孔8bと異なる位置に設けられてもよい。
【0042】
内周溝8dは、本体8aの周方向に延在する周方向溝である。内周溝8dは、本体8aの周方向において、6つの貫通孔8bと連通する。内周溝8dは、6つの貫通孔8bの中心軸を通過している。ただし、内周溝8dは、6つの貫通孔8bと連通しなくてもよい。すなわち、内周溝8dは、本体8aの中心軸方向において、貫通孔8bと異なる位置に設けられてもよい。
【0043】
本体8aは、外周面8eに形成された一対の面取部8gを有する。本体8aは、内周面8fに形成された一対の面取部8hを有する。一対の面取部8g、8hは、本体8aの中心軸方向の両端に形成される。面取部8gは、本体8aの中心軸方向において、外径が変化する。面取部8hは、本体8aの中心軸方向において、内径が変化する。面取部8gは、本体8aの中心軸方向における中心位置から離間する方向に向かって、外径が漸減する。面取部8hは、本体8aの中心軸方向における中心位置から離間する方向に向かって、内径が漸増する。したがって、本体8aの厚さは、面取部8g、8hにおいて、本体8aの中心軸方向における中心位置から離間する方向に向かって薄くなる。
【0044】
図3Aに示すように、本体8aは、中心軸方向に一定の幅(全幅)W1を有する。面取部8gは、本体8aの中心軸方向に一定の幅W2を有する。面取部8gは、本体8aの中心軸方向の両端に一対設けられている。そのため、一対の面取部8gの合計幅(面取幅)は、幅W2の2倍である。貫通孔8bは、本体8aの中心軸方向に最大の幅W3を有する。幅W3は、貫通孔8bの直径と大凡等しい。外周溝8cは、本体8aの中心軸方向に最大の幅(外周溝幅)W4を有する。
【0045】
外周溝8cの幅W4は、面取部8gの幅W2よりも大きい。外周溝8cの幅W4は、例えば、0.85mmである。面取部8gの幅W2は、例えば、0.3mmである。貫通孔8bの幅W3は、外周溝8cの幅W4よりも大きい。貫通孔8bの幅W3は、例えば、1.5mmである。本体8aの幅W1は、貫通孔8bの幅W3よりも大きい。本体8aの幅W1は、例えば、5.8mmである。
【0046】
図3Bに示すように、本体8aは、径方向に一定の厚さT1を有する。外周溝8cは、本体8aの径方向に最大の深さ(外周溝深さ)D1を有する。一方、内周溝8dは、本体8aの中心軸方向に最大の幅(内周溝幅)W5を有する。内周溝8dは、本体8aの径方向に最大の深さ(内周溝深さ)D2を有する。
【0047】
本実施形態では、内周溝8dの幅W5は、外周溝8cの幅W4と同じである。ただし、内周溝8dの幅W5は、外周溝8cの幅W4と異なっていてもよい。例えば、内周溝8dの幅W5は、外周溝8cの幅W4より小さくてもよい。また、内周溝8dの幅W5は、外周溝8cの幅W4より大きくてもよい。
【0048】
本実施形態では、内周溝8dの深さD2は、外周溝8cの深さD1と同じである。ただし、内周溝8dの深さD2は、外周溝8cの深さD1と異なっていてもよい。例えば、内周溝8dの深さD2は、外周溝8cの深さD1より小さくてもよい。また、内周溝8dの深さD2は、外周溝8cの深さD1より大きくてもよい。
【0049】
本実施形態では、本体8aの厚さT1は、例えば、1.8mmである。外周溝8cおよび内周溝8dの幅W4、W5は、例えば、0.85mmである。外周溝8cおよび内周溝8dの深さD1、D2は、例えば、0.2mmである。
【0050】
ところで、過給機Cでは、フルフロート方式の軸受を採用した場合、ホワール音と呼ばれる異音の発生が指摘される場合がある。このホワール音の発生原因は、軸受内外に形成される油膜の圧力に起因するフルフローティング軸受8の自励振動(ホワール振動)が原因であると考えられる。
【0051】
ここで、フルフローティング軸受8は、例えば、
図3Aに示すように外周面8eに外周溝8cが形成されると、固有振動数が変化する。例えば、外周溝8cの幅W4が大きくなるほど、フルフローティング軸受8の固有振動数は大きくなる。フルフローティング軸受8の固有振動数が変化すると、例えば、軸受構造Sの振動と軸受構造Sの周囲に配される部材との共振を回避することができる。したがって、ホワール音は、フルフローティング軸受8の外周面8eに外周溝8cを形成した場合に低減することができる。
【0052】
しかし、フルフローティング軸受8の外周面8eに外周溝8cが形成された場合、フルフローティング軸受8の外周面8eの面積は減少する。フルフローティング軸受8は、外周面8eの面積が減少すると摩耗しやすくなる。
【0053】
そこで、本実施形態では、外周溝8cの幅W4は、所定の範囲内に設定される。
図4は、フルフローティング軸受8の正味幅を全幅で除した値と、フルフローティング軸受8の負荷容量との関係を示す図である。ここで、正味幅は、本体8aの中心軸方向の幅(全幅)W1から一対の面取部8gの軸方向の合計幅(面取幅)および外周溝8cの軸方向の幅(外周溝幅)W4を減じた値である。
【0054】
図4に示すA1点は、正味幅を全幅で除した値が0.690となる点である。B1点は、正味幅を全幅で除した値が0.750となる点である。C1点は、正味幅を全幅で除した値が0.819となる点である。D1点は、正味幅を全幅で除した値が0.862となる点である。E1点は、正味幅を全幅で除した値が0.897となる点である。F1点は、正味幅を全幅で除した値が0.931となる点である。
【0055】
図4に示すように、正味幅を全幅で除した値が大きくなるほど、フルフローティング軸受8の負荷容量は大きくなる。つまり、フルフローティング軸受8の摩耗は、正味幅を全幅で除した値が大きくなるほど、低減する。
【0056】
図4に示すA1点は、
図3Aで説明した外周溝8cの幅W4を大きくした(例えば、幅W4を0.85mmから1.2mmに変更した)ときの正味幅を全幅で除した値である。A1点では、外周溝8cの幅W4を大きくしたことにより、フルフローティング軸受8の固有振動数を大きくすることができる。その結果、ホワール音は、外周溝8cの幅を
図3Aで説明した幅W4としたときよりも、低減することができる。しかし、外周面8eの面積は、外周溝8cの幅W4を大きくしたことにより減少する。そのため、フルフローティング軸受8の外周面8eは摩耗しやすくなる。ここで、正味幅を全幅で除した値がA1点となるフルフローティング軸受8の評価試験を行った結果、フルフローティング軸受8の摩耗量は基準値を超える結果となった。
【0057】
外周面8eの面積は、正味幅を大きくすることで、増加させることができる。フルフローティング軸受8の摩耗量は、外周面8eの面積を増加させることができれば、低減することができる。
【0058】
したがって、本実施形態では、正味幅を全幅で除した値は、A1点よりも大きい値としている。具体的には、正味幅を全幅で除した値は、0.69より大きい値としている。フルフローティング軸受8の摩耗量は、正味幅を全幅で除した値を0.69より大きい値とすることで、基準値未満となる摩耗量に抑制することができる。
【0059】
一方、ホワール音の低減効果は、正味幅を大きくする(すなわち、外周溝8cの幅W4を小さくする)ほど、小さくなる。したがって、好ましくは、正味幅を全幅で除した値は、
図4に示すB1点以下(すなわち、0.75以下)の値に設定される。
【0060】
本実施形態のフルフローティング軸受8は、正味幅を全幅で除した値を0.69より大きい値、かつ、0.75以下の値に設定している。これにより、本実施形態のフルフローティング軸受8は、ホワール音の低減とフルフローティング軸受8の摩耗量の低減の両立を図ることができる。
【0061】
図5は、外周溝8cの深さD1を外周溝8cの幅W4で除した値と、振動無次元数との関係を示す図である。
図5に示すA2点は、深さD1を幅W4で除した値が0(すなわち、外周面8eに外周溝8cが形成されていない状態)となる点である。B2点は、深さD1を幅W4で除した値が0.083となる点である。C2点は、深さD1を幅W4で除した値が0.167となる点である。D2点は、深さD1を幅W4で除した値が0.250となる点である。E2点は、深さD1を幅W4で除した値が0.333となる点である。
【0062】
図5に示すように、振動無次元数は、深さD1を幅W4で除した値を大きくするほど、小さくなる。つまり、ホワール振動の振幅は、深さD1を幅W4で除した値を大きくするほど、小さくすることができる。ホワール音は、ホワール振動の振幅を小さくするほど、低減することができる。
【0063】
図5に示すA2点では、例えば、外周溝8cの深さD1は0mmである。つまり、フルフローティング軸受8の外周面8eには、外周溝8cが形成されていない。ホワール音は、外周溝8cが形成されない場合、低減することが困難になる。
【0064】
深さD1を幅W4で除した値は、例えば、外周溝8cの深さD1を大きくすることで、大きくすることができる。ホワール音は、深さD1を幅W4で除した値を大きくすることができれば、低減することができる。
【0065】
本実施形態では、深さD1を幅W4で除した値は、B2点以上の値としている。具体的には、深さD1を幅W4で除した値は、0.083以上の値としている。ホワール振動の振幅は、深さD1を幅W4で除した値を0.083以上とすることで、外周溝8cを形成しない場合と比して大凡半分に小さくすることができる。これにより、ホワール音は、基準値未満に抑制される。
【0066】
上述したように、本実施形態のフルフローティング軸受8は、正味幅を全幅で除した値を0.69より大きい値、かつ、0.75以下の値に設定している。また、本実施形態のフルフローティング軸受8は、深さD1を幅W4で除した値を0.083以上の値としている。これにより、本実施形態のフルフローティング軸受8は、ホワール音を効果的に低減することができる。
【0067】
ただし、フルフローティング軸受8の外周面8e側の潤滑油は、外周溝8cの深さD1が大きくなる(すなわち、深さD1を幅W4で除した値が大きくなる)ほど、外周面8e側から内周面8f側に漏れやすくなる。潤滑油が外周面8e側から内周面8f側に漏れやすくなると、外周面8eと軸受孔2aとの間に形成される油膜の厚さは薄くなる。フルフローティング軸受8の外周面8eは、油膜の厚さが薄くなると、摩耗しやすくなる。したがって、深さD1を幅W4で除した値は、
図5に示すE2点以下(すなわち、0.333以下)の値に設定することが好ましい。
【0068】
本実施形態によれば、フルフローティング軸受8は、外周溝8cの幅W4および深さD1を所定の範囲内に設定している。これにより、フルフローティング軸受8は、ホワール音およびフルフローティング軸受の摩耗量を低減することができる。
【0069】
また、本実施形態では、本体8aの内周面8fに周方向に延在する内周溝8dが形成されている。外周面8eに外周溝8cを形成した場合と同様に、内周面8fに内周溝8dを形成した場合も、ホワール音を低減することができる。したがって、フルフローティング軸受8は、内周面8fに内周溝8dが形成されていない場合よりも内周面8fに内周溝8dが形成されている方が、ホワール音を効果的に低減することができる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0071】
上記実施形態では、フルフローティング軸受8の本体8aに貫通孔8bが形成される例について説明した。しかし、貫通孔8bは必須ではない。したがって、本体8aには、貫通孔8bが形成されなくてもよい。本体8aに貫通孔8bが形成されない場合、潤滑油は、本体8aの外周面8eから本体8aの側面を通ってシャフト7と内周面8fとの間に流入する。
【0072】
上記実施形態では、フルフローティング軸受8の内周面8fに内周溝8dを形成する例について説明した。しかし、内周溝8dは必須ではない。したがって、フルフローティング軸受8の内周面8fには、内周溝8dが形成されなくてもよい。
【0073】
上記実施形態では、フルフローティング軸受8の外周面8eに1つの外周溝8cを形成する例について説明した。しかし、これに限定されず、フルフローティング軸受8の外周面8eに複数の外周溝8cを形成してもよい。その場合、外周溝8cの幅W4は、複数の外周溝8cの合計幅となる。
【0074】
上記実施形態では、フルフローティング軸受8の内周面8fに1つの内周溝8dを形成する例について説明した。しかし、これに限定されず、フルフローティング軸受8の内周面8fに複数の内周溝8dを形成してもよい。その場合、内周溝8dの幅W5は、複数の内周溝8dの合計幅となる。
【0075】
上記実施形態では、幅W4を調整することで正味幅を調整する例について説明した。しかし、これに限定されず、正味幅は、面取部8gの幅W2により調整されてもよい。例えば、上記実施形態では、面取部8gの幅W2は、0.3mmとしているが、この幅W2を小さくし、例えば、0.1mmに設定してもよい。幅W2を0.3mmから0.1mmに変更することで、正味幅を大きくすることができる。面取部8gの幅W2は、0.1〜0.3mmの範囲で適宜変更することができる。なお、面取部8gの幅W2は、タービンインペラ9側とコンプレッサインペラ10側とで異なっていてもよい。また、正味幅は、外周溝8cの幅W4と面取部8gの幅W2の組み合わせにより調整されてもよい。