特許第6989073号(P6989073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989073通信システムにおける高精度ケーブル長測定のためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989073
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】通信システムにおける高精度ケーブル長測定のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/02 20060101AFI20211220BHJP
【FI】
   G01B21/02 Z
【請求項の数】20
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-541700(P2018-541700)
(86)(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公表番号】特表2019-516947(P2019-516947A)
(43)【公表日】2019年6月20日
(86)【国際出願番号】US2017024359
(87)【国際公開番号】WO2017165893
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2020年3月9日
(31)【優先権主張番号】62/313,683
(32)【優先日】2016年3月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502188642
【氏名又は名称】マーベル ワールド トレード リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ダイ、シャオアン
(72)【発明者】
【氏名】チェオン、コック−ウイ
(72)【発明者】
【氏名】グ、ゼンジョン
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0162262(US,A1)
【文献】 米国特許第08582443(US,B1)
【文献】 特表2007−528152(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102426363(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00−21/32
G01B 11/00−11/30
G01S 7/48− 7/51
G01S 17/00−17/95
G01D 5/26− 5/38
G01M 11/00−11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機において、有線データ通信リンクを介して複数のデータシンボルを第1データシンボルレートで送信する段階と、
前記送信に応答して、受信機において、前記有線データ通信リンクから反射信号を受信する段階と、
信号サンプラにおいて、受信された前記反射信号をサンプリングするために、シフトサンプリング位相の位相シフト数を取得する段階と、
前記信号サンプラにおいて、前記シフトサンプリング位相の位相シフト数からサンプリング位相だけシフトされた前記受信された反射信号のサンプリングされた値に各々が対応する複数の反射サンプルを生成するために、前記受信された反射信号を前記シフトサンプリング位相の位相シフト数に基づいてサンプリングする段階と、
異なるサンプリング位相を有する前記複数の反射サンプルを組み合わせて、前記第1データシンボルレートよりも高い第2データシンボルレートに対応する一連の反射サンプルを生成する段階と、
ケーブル長計算ユニットにおいて、送受信機から前記有線データ通信リンクの端部に送信すべき信号の送信時間を示す遅延パラメータを、前記一連の反射サンプルの値に基づいて決定する段階と、
前記ケーブル長計算ユニットにおいて、決定された前記遅延パラメータに少なくとも部分的に基づいて前記有線データ通信リンクの長さの推定値を生成する段階と
を備える、
通信システムにおけるケーブル長測定のための方法。
【請求項2】
前記一連の反射サンプルの塊の中心に対応する第1タイムスタンプを検出する段階と、
前記塊の前記中心に対応するデータシンボルの第2タイムスタンプを特定する段階と、
前記第1タイムスタンプと前記第2タイムスタンプとを比較することにより前記遅延パラメータを生成する段階と
をさらに備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一定の信号送信速度を複数の反射サンプルに関連する前記遅延パラメータと乗算することにより、前記有線データ通信リンクの前記長さの前記推定値を計算する段階をさらに備え、
前記長さの前記推定値は、前記第2データシンボルレートでのデータ送信に基づく長さ推定値と実質的に同等である解像度を有する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記シフトサンプリング位相の位相シフト数を用いて前記複数のデータシンボルのうちからのデータシンボルの位相をシフトさせて、一連のデータシンボルを生成する段階と、
前記一連のデータシンボルを前記第2データシンボルレートで送信する段階と
をさらに備える、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の反射サンプルからエコーノイズを除去する段階と、
前記複数の反射サンプルに関連する反射係数を適応させる段階と、
当該反射係数が適応された前記複数の反射サンプルを組み合わせて、多相反射サンプルを取得する段階と
をさらに備え、
記多相反射サンプルは、前記第2データシンボルレートを有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反射信号に整合フィルタを適用して、反射テールノイズを減らす段階
をさらに備え、
前記整合フィルタは、アナログ反射信号の信号対ノイズ比を上げる、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有線データ通信リンクの端部、前記有線データ通信リンクのコネクタ反射箇所またはバスインタフェースネットワークにおける前記反射信号の形状特性に少なくとも部分的に基づいて、複数の整合フィルタ係数を決定する段階
をさらに備える、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反射信号の形状に少なくとも部分的に基づいて前記複数の整合フィルタ係数を動的に更新して、反射テールノイズを減らす段階
をさらに備える、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
複数の反射サンプルの異なるセットを取得するために、前記シフトサンプリング位相の位相シフト数とは異なるシフトサンプリング位相のセットに基づいて前記反射信号をサンプリングする段階と、
前記複数の反射サンプルの異なるセットに少なくとも部分的に基づいて、前記有線データ通信リンクの前記長さの異なる推定値を生成する段階と
をさらに備える、
請求項4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
サンプリングのための前記シフトサンプリング位相のセットの数を増やして、前記シフトサンプリング位相のセットの測定分解能を上げる段階
をさらに備える、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
有線データ通信リンクを介して複数のデータシンボルを第1データシンボルレートで送信するように構成される送信機と、
前記送信に応答して、前記有線データ通信リンクから反射信号を受信するように構成される受信機と、
受信された前記反射信号をサンプリングするためにシフトサンプリング位相の位相シフト数を取得し、前記シフトサンプリング位相の位相シフト数を用いて前記受信された反射信号をサンプリングして、前記シフトサンプリング位相の位相シフト数からサンプリング位相だけシフトされた前記受信された反射信号のサンプリングされた値に各々が対応する複数の反射サンプルを生成し、異なるサンプリング位相を有する前記複数の反射サンプルを組み合わせて、前記第1データシンボルレートよりも高い第2データシンボルレートに対応する一連の反射サンプルを生成するように構成される信号サンプラと、
前記一連の反射サンプルから遅延パラメータを決定し、前記遅延パラメータに少なくとも部分的に基づいて前記有線データ通信リンクの長さの推定値を生成するように構成されるケーブル長計算ユニットと
を備える、
通信システムにおけるケーブル長測定のためのシステム。
【請求項12】
前記ケーブル長計算ユニットはさらに、
前記一連の反射サンプルの塊の中心に対応する第1タイムスタンプを検出し、
前記塊の前記中心に対応するデータシンボルの第2タイムスタンプを特定し、
前記第1タイムスタンプと前記第2タイムスタンプとを比較することにより前記遅延パラメータを生成する
ように構成される、
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ケーブル長計算ユニットはさらに、一定の信号送信速度を複数の反射サンプルに関連する前記遅延パラメータと乗算することにより、前記有線データ通信リンクの前記長さの前記推定値を計算するように構成され、
前記長さの前記推定値は、前記第2データシンボルレートでのデータ送信に基づく長さ推定値と実質的に同等である解像度を有する、
請求項11または12に記載のシステム。
【請求項14】
前記送信機はさらに、前記シフトサンプリング位相の位相シフト数を用いて前記複数のデータシンボルのうちからのデータシンボルの位相をシフトさせて、一連のデータシンボルを生成し、
前記一連のデータシンボルを前記第2データシンボルレートで送信する
ように構成される、
請求項11から13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記複数の反射サンプルからエコーノイズを除去するように構成されるノイズキャンセルユニットと、
前記複数の反射サンプルに関連する反射係数を適応させ、当該反射係数が適応された前記複数の反射サンプルを組み合わせて、多相反射サンプルを取得するように構成される適応エンジンと
をさらに備え
記多相反射サンプルは、前記第2データシンボルレートを有する、
請求項11から14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記反射信号に適用して、反射テールノイズを減らすように構成される整合フィルタであって、アナログ反射信号の信号対ノイズ比を上げる、整合フィルタ
をさらに備える、
請求項11から15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記整合フィルタは、前記有線データ通信リンクの端部、前記有線データ通信リンクのコネクタ反射箇所またはバスインタフェースネットワークにおける前記反射信号の形状特性に少なくとも部分的に基づいて決定される複数の整合フィルタ係数を含む、
請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記複数の整合フィルタ係数は、反射テールノイズを減らすために、前記反射信号の形状に少なくとも部分的に基づいて動的に更新される、
請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
複数の反射サンプルの異なるセットを取得するために、前記シフトサンプリング位相の位相シフト数とは異なるシフトサンプリング位相のセットに基づいて前記反射信号をサンプリングし、
前記複数の反射サンプルの異なるセットに少なくとも部分的に基づいて、前記有線データ通信リンクの前記長さの異なる推定値を生成する
ように構成されるアナログ/デジタルコンバータ
をさらに備える、
請求項11から18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記アナログ/デジタルコンバータはさらに、サンプリングのための前記シフトサンプリング位相のセットの数を増やして、前記シフトサンプリング位相のセットの測定分解能を上げるように構成される、
請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照 本願は、2016年3月25日に出願された米国仮特許出願第62/313,683号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張する。当該出願は、ここに、参照により、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、ケーブル通信システムの性能測定に関し、特に、高精度ケーブル長測定メカニズムに関する。
【0003】
本開示の背景 本明細書において提供される背景説明は、本開示の背景を一般的に示すことを目的とする。この背景部分において説明される範囲における本明細書の発明者らの成果、および、そうでない場合には出願時に従来技術とは言えない本明細書の態様は、明示的または黙示的のいずれにも、本開示に対する従来技術とは認められない。
【0004】
高速イーサネット(登録商標)通信が、コンピュータネットワーキングのために一般的に用いられており、近年、自動車環境における使用に適応されている。例えば、自動車のケーブルは、例えば、エンジンンサブシステム、ブレーキサブシステム、ステアリングサブシステム、安全サブシステムおよび様々なセンササブシステムを含む、自動車のサブシステムを接続するために用いられる。そのようなケーブル通信接続は通常、様々な自動車サブシステムの間での安全かつ効率的なデータ転送を提供すべく、厳しい電磁干渉(EMI)要件の対象となる。ケーブル長などのケーブル接続部の特性が、接続性能を評価するために測定される。
【0005】
ケーブル長を測定するための既存の方法は、時間領域反射(TDR)またはデジタル信号処理(DSP)ベースのエコー応答の利用を含む。これらの方法において、測定分解能は、(通常、データシンボルレートと同等な)サンプリングレート、または、反射またはエコーを生成するために送信される入射信号のパルス幅に大きく依存する。サンプリングレート、つまり、送信データシンボルレートが低い場合、ケーブル長の測定分解能は通常、不十分である。
【発明の概要】
【0006】
本明細書において説明される実施形態は、通信システムにおけるケーブル長測定のための方法を提供する。送信機において、複数のデータシンボルが、有線データ通信リンクを介して第1データレートで送信される。送信に応答して、受信機において、反射信号が有線データ通信リンクから受信される。信号サンプラにおいて、シフトサンプリング位相の位相シフト数が、受信された反射信号をサンプリングするために取得される。受信された反射信号は、反射サンプルを生成するために、シフトサンプリング位相の位相シフト数に基づいて、サンプラにおいてサンプリングされる。各反射サンプルは、シフトサンプリング位相の位相シフト数からサンプリング位相だけシフトされた受信された反射信号のサンプリングされた値に対応する。異なるサンプリング位相を有する反射サンプルは、第1データレートよりも高い第2データレートに対応する一連の反射サンプルを生成するために組み合わされる。送受信機から有線データ通信リンクの端部に送信すべき信号の送信時間を示す遅延パラメータが、一連の反射サンプルの値に基づいて決定される。データ通信リンクの長さの推定値が、決定された遅延パラメータに少なくとも部分的に基づいて生成される。
【0007】
いくつかの実装において、一連の反射サンプルの塊の中心に対応する第1タイムスタンプが検出される。塊の中心に対応するデータシンボルの第2タイムスタンプが特定され、遅延パラメータが、第1タイムスタンプと第2タイムスタンプとを比較することにより生成される。
【0008】
いくつかの実装において、データ通信リンクの長さの推定値は、一定の信号送信速度を複数の反射応答サンプルに関連する遅延パラメータと乗算することにより計算される。長さの推定値は、第2データレートでのデータ送信に基づく長さ推定値と実質的に同等である解像度を有する。
【0009】
いくつかの実装において、一連のデータシンボルを生成するために、データシンボルの位相が、シフトサンプリング位相の位相シフト数を用いて複数のデータシンボルのうちからシフトされる。一連のデータシンボルは、第2データレートで送信される。
【0010】
いくつかの実装において、反射ノイズが複数の反射サンプルから除去される。反射係数が、複数の反射サンプルに関連して適応される。複数の反射サンプルは、複数の多相反射応答サンプルを取得するために組み合わされる。複数の多相反射応答サンプルは、第2データレートを有する。
【0011】
いくつかの実装において、反射テールノイズを減らすために、整合フィルタが反射信号に適用される。整合フィルタは、アナログ反射信号の信号対ノイズ比を上げる。
【0012】
いくつかの実装において、複数の整合フィルタ係数が、データ通信リンクの端部、有線データ通信リンクのコネクタ反射箇所またはバスインタフェースネットワークにおける反射信号の形状特性に少なくとも部分的に基づいて決定される。
【0013】
いくつかの実装において、複数の整合フィルタ係数は、反射テールノイズを減らすために、反射信号の形状に少なくとも部分的に基づいて動的に更新される。
【0014】
いくつかの実装において、反射信号は、反射サンプルの異なるセットを取得するために、シフトサンプリング位相の位相シフト数とは異なるシフトサンプリング位相のセットに基づいてサンプリングされる。有線データ通信リンクの長さの異なる推定値が、反射応答サンプルの異なるセットに少なくとも部分的に基づいて生成される。
【0015】
いくつかの実装において、シフトサンプリング位相のセットの測定分解能を上げるために、シフトサンプリング位相のセットの数が、サンプリングのために上げられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
添付図面と共に用いられる以下の詳細な説明を考慮すると、本開示のさらなる特徴、その性質および様々な利点が、明らかになろう。当該図面の全体を通じて、同様の参照符号は、同様の部分を指す。
【0017】
図1】本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、位相シフトサンプリングを用いたケーブル測定に基づくDSPエコー応答を示すブロック図である。
【0018】
図2】本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、位相シフトサンプリングおよび受信された反射信号の信号対ノイズ比(SNR)を上げるための整合フィルタ(MF)を用いたTDRベースのケーブル測定を示すブロック図である。
【0019】
図3】本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、MFが適用された後のSNRが上がった反射応答を示すデータプロットダイアグラムを提供する。
図4】本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、MFが適用された後のSNRが上がった反射応答を示すデータプロットダイアグラムを提供する。
【0020】
図5】本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、低データシンボルレート環境における精度が向上したケーブル長測定の態様を示す例示的なロジックフローダイアグラムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示は、より高いシンボルレートで送信シンボルを生成するために、送信信号のサンプリング位相をシフトさせることにより高精度ケーブル長測定メカニズムを提供するための方法およびシステムを説明する。
【0022】
いくつかの実施形態において、送信機から送信される入射信号に応答して、反射信号の遅延の測定に基づいて、ケーブル長測定が行われる。入射信号、例えば、アナログ信号またはデジタル信号のいずれかが、通常、送信機からケーブル接続部へと送信される。入射信号がケーブルの端部に到達した場合、ケーブルの端部におけるインピーダンスのばらつきに起因して、入射信号の一部が反射信号の形式で送信機に戻るように反射される。反射信号の形状は通常、送信された入射信号と実質的に同様である。信号伝搬の速度は、所与の送信媒体、例えば、銅ケーブルまたは光ケーブルについて、ほぼ一定である。従って、送信機からケーブルの端部に送信し、次に、ケーブルの端部から送信機に戻るように反射すべき入射信号の送信遅延は通常、ケーブル長の推定値を計算するために測定される。送信遅延がτと表され、信号進行速度υが一定とみなされる場合、ケーブル長dの推定値は、d=υτ/2として計算される。従って、遅延パラメータτの測定分解能により、ケーブル長dの測定分解能が決定される。
【0023】
送信遅延は通常、反射信号の信号ピークを特定することにより測定される。例えば、入射信号における信号ピークの第1タイムスタンプが記録されると、次に、反射信号における対応する信号ピークが検出される必要がある。反射信号における対応する信号ピークに関連する第2タイムスタンプが、第1タイムスタンプを減算して送信遅延パラメータτを取得するために用いられる。
【0024】
反射信号の信号ピークの検出において、入射信号のサンプリング周期および/またはパルス幅が、測定分解能に影響を及ぼす。なぜなら、パルス幅全体のうちの信号部分が、「ピーク」として特定されることがあり得るからである。従って、データシンボルレートが比較的低い場合、これは入射信号のサンプリング周期およびパルス幅が比較的大きいことを意味し、受信された反射信号の「ピーク」部分は、その結果として比較的広くなり、受信された反射信号の検出される「ピーク」の精度が比較的低くなる。
【0025】
例えば、66.7メガシンボル/秒(MSPS)のシンボルレートが100BASE−T1システムにおいて用いられる場合、遅延パラメータτの測定分解能は15nsであり、従って、対応するケーブル測定分解能は1.5m程度である。ケーブル長が通常は8m未満である自動車環境において、そのような1.5m程度の測定分解能は典型的に、十分な技術的な正確性および精度を提供することはない。
【0026】
本明細書において説明される実施形態は、シンボルレートが低いシステムにおいてサンプリングレートまたはデータシンボルレートを効果的に上げ、その結果として反射遅延の測定分解能を向上させるための位相シフトサンプリングメカニズムを提供する。シフトサンプリング位相のセットが、ケーブル接続部へと送信されるべきデータシンボルまたはケーブル接続部から受信される反射信号をサンプリングするために用いられる。シフトサンプリング位相のセットは、サンプリング信号のシフト位相を各々が表す多数のシフトサンプリング位相θ, θ, …, θを含む。シフトサンプリング位相のセットからの各サンプリング位相は、同じ信号をサンプリングするために用いられる。例えば、シフト位相θを有するサンプリング信号s(2πt)をサンプリングすることは、θ/2πの量だけ時間軸に沿ってサンプリング信号を「シフトさせ」、時点tにおけるサンプルポイントを取得することと同様である。結果として得られる信号サンプルは、s[2π(t−θ)]である。従って、送信されるべきデータシンボル、または受信された信号は、毎回シフトサンプリング位相のセットθ, θ, …, θからのサンプリング位相で、n回サンプリングされる。多相サンプリングを行うことにより、データシンボルまたは受信された信号を1回のみサンプリングした場合と比較してより多くの(異なるサンプリング位相を有する)データサンプルが生成される。
【0027】
いくつかの実装において、送信されるべきデータシンボルが、サンプリングされ、シフトサンプリング位相のセットと共に再送信される。例えば、送信用の各データシンボルは、毎回多数のシフトサンプリング位相θ, θ, …, θからのシフト位相で複数回、再送信される。従って、各データシンボルが、異なるシフト位相を有する複数のシンボルの形式で送信され、それが繰り返されるので、当該データシンボルレートは「事実上」上げられ、送信された信号のパルス幅がより狭くなる。従って、送信された信号に応答して、反射信号は、その結果として、「ピーク」検出時により狭いパルス幅を有し、従って、より正確な測定値を有する。
【0028】
別の実装において、データシンボルの送信に応答して、反射信号またはエコー信号がケーブル接続部から受信された場合、反射信号は、例えば、受信された反射信号を各シフトサンプリング位相に従って時間シフトし、次に、ある時点におけるサンプルを取得することにより、多数のシフトサンプリング位相θ, θ, …, θでサンプリングされる。従って、例えば、上述の「事実上」上げられたシンボルレートと同様である、より高いデータシンボルレートにおいて生成された反射サンプルと同等の数の一連の反射サンプルが生成される。「事実上」上げられたシンボルレート、故に、より狭いパルス幅で、受信された反射信号の「ピーク」を検出することにより、解像度の向上が実現される。
【0029】
結果として、送信されたシンボルまたは受信された反射信号のいずれかがシフトサンプリング位相でサンプリングされた場合、反射遅延の測定分解能は改善され、その結果として、ケーブル長の測定分解能も改善される。
【0030】
図1は、本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、位相シフトサンプリングを用いたケーブル測定に基づくDSPエコー応答を示すブロック図である。一実施形態において、ケーブル測定に基づくDSPエコー応答技術は、好適に構成されたDSP送受信機100において実装される。DSP送受信機100は、送信シンボル生成器102において送信するためにデータシンボル112を取得するように構成される。一実装において、全てのデータシンボル112は、デジタル/アナログコンバータ101においてアナログ信号に変換される。別の実装において、データシンボルは、デジタル形式で送信される。次に、データシンボルまたは変換されたアナログ信号は、通信リンク、例えば、イーサネット(登録商標)ケーブルなどを介して送信される。
【0031】
DSP送受信機100は、受信機のコンポーネントも含む。受信機のコンポーネントでは、デジタル位相コントローラ105が、受信されたアナログ信号、例えば、反射信号をアナログ/デジタルコンバータ(ADC)104においてサンプリングするように構成される。シフトサンプリング位相生成器106が、位相シフト数nに基づいて複数のシフトサンプリング位相を生成するように構成される。いくつかの実装において、位相シフト数nは予め定められている。いくつかの他の実装において、位相シフト数nは、シフトサンプリング位相の異なるセットを取得するために動的に調整される。例えば、位相シフト数n=4である場合、シフトサンプリング位相は、0、π/4、π/2および3π/4である。従って、受信された信号の結果として得られるサンプル111は、r(t)で表され、r[4k]、r[4k+1]、r[4k+2]およびr[4k+3](k=0, 1, …, m−1)である。ここで、mは、ケーブルに沿った反射応答タップの最大数であり、通常、ケーブル長により決定される。
【0032】
次に、ADC104からのシフト位相を有する出力サンプル111、つまり、r[4k]、r[4k+1]、r[4k+2]およびr[4k+3](k=0, 1, …, m−1)は、エコーキャンセラ103によりエコーノイズをキャンセルするために処理される。例えば、一実装において、エコーキャンセラ103は、一般的なエコー抑制技術またはエコーキャンセル技術を採用するように構成される。103でのエコーキャンセルの後に、送信シンボル112は、エコーがキャンセルされた信号113を生成するために、ロジックオペレータ107において、出力サンプル111から減算される。次に、エコーがキャンセルされた信号113は、適応エンジン108に提供される。適応エンジン108において、信号113のエコー係数がそれに応じて適応される。例えば、一実施形態において、適応エンジン108は、エコー係数を適応して、例えば、再帰的最小二乗誤差(RLS)法または最小平均二乗誤差(LMS)法により、エコーノイズのエネルギーを最小化するように構成される。適応エンジン108においてエコーの適応が実行された後に、エコー応答109が生成される。例えば、位相シフト数n=4であり、シフトサンプリング位相が0、π/4、π/2および3π/4である場合、エコー応答109の4つのグループが生成され、それぞれ、ec(4k)、ec(4k+1)、ec(4k+2)およびec(4k+3)により表される(k=0, 1, …, m−1)。
【0033】
一実施形態において、送信機から受信機までの待ち時間は固定されているので、異なる位相シフトを有するエコー応答、例えば、ec(4k)、ec(4k+1)、ec(4k+2)およびec(4k+3)は、多相反射を得るために組み合わされる。この多相反射は、n倍高いサンプリングレートを有するエコー応答と同等である。ここで、nは位相シフト数である。従って、上記の例において、エコー応答ec(4k)、ec(4k+1)、ec(4k+2)およびec(4k+3)の各々が遅延測定値を生成するので、遅延分解能は、4倍より正確である。例えば、位相シフトサンプリング後の遅延分解能=位相シフトサンプリング/4なしの遅延分解能である。
【0034】
そのように、エコー応答109に関連する遅延測定値が、ケーブル長計算ユニット110においてケーブル長を計算するために用いられる場合、上記の例において、ケーブル長の解像度も、位相シフトサンプリングなしに受信された元の反射信号を用いた測定と比較して、4倍より正確である。
【0035】
別の実装において、シフトサンプリング位相生成器106からのシフトサンプリング位相を有する受信された反射信号をADC104においてサンプリングする代わりに、送信シンボル生成器102が、各データシンボルの位相をシフトさせるように構成される。例えば、各データシンボルt[n]、およびシフトサンプリング位相0、π/4、π/2および3π/4のセットについて、一連のデータシンボル、つまり、t[4k], t[4k+1], t[4k+2], t[4k+3], …が、位相シフト回路を介して送信シンボル生成器102において生成される。従って、シフト位相サンプリング後の結果として得られるデータシンボルのセットは、同じ期間内に送信すべきデータシンボルを4倍多く含み、従って、4倍高いデータシンボルレートとみなされ得る。次に、データシンボルは、送信信号を生成するために、異なるシフト位相でDAC101へと渡される。このように、多相シーケンスを有する送信信号は、より高いシンボルレートをもたらす。具体的には、一実施形態において、より高いシンボルレートでは、送信シンボル生成器102において実行されたシフト位相サンプリングがない場合、送信信号は、元の送信信号と比較してより狭いパルス幅を有する。送信信号のより高いシンボルレートに応答して、任意の反射信号が同様に、より狭いパルス幅を有するであろう。結果として、上述のように、反射信号の「ピーク」の検出の解像度はこのように高められ、従って、より良い解像度での反射遅延の測定をもたらす。
【0036】
図2は、本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、位相シフトサンプリングおよび受信された反射信号の信号対ノイズ比(SNR)を上げるための整合フィルタ(MF)を用いたTDRベースのケーブル測定を示すブロック図である。図1に示される位相シフトサンプリングは、TDRメカニズム200にも適用され得る。図2に示されるように、TDR送受信機201は、入射信号211を送信するように構成される。入射信号211はケーブル202の端部で反射され、反射信号212が送受信機201に戻るように送信される。例えば、図1に関連して論じられる106と同様のシフトサンプリング位相生成器106が、複数のシフトサンプリング位相を生成するように構成される。これらのシフトサンプリング位相は、反射信号212を複数のシフトサンプリング位相でサンプリングするように構成される(例えば、図1における106と同様の)位相サンプリングユニット205に送信される。例えば、反射信号212がr(t)と表される場合、例示的なシフトサンプリング位相0、π/4、π/2および3π/4で、反射サンプルは、r[4k]、r[4k+1]、r[4k+2]およびr[4k+3](k=0, 1, …, m−1。ここで、mは最大タップ数である)である。このように、生成された反射応答サンプルr[4k]、r[4k+1]、r[4k+2]およびr[4k+3](k=0, 1, …, m−1)は、サンプリング位相をシフトさせることなく(これは、例えば、受信された反射信号を位相0のみでサンプリングすることと同等である)生成された応答サンプルよりも4倍「密度が高」い。従って、結果として得られる反射応答サンプルr[4k]、r[4k+1]、r[4k+2]およびr[4k+3](k=0, 1, …, m−1)は、図1に関連して説明されるように、4倍高いデータシンボルレートで取得された反射応答サンプルと同等のデータレートを有する。従って、4倍高いデータシンボルレートでは、多相の反射サンプルに対応するパルス幅が、元の反射信号のパルス幅の1/4に減る。従って、反射サンプルの「ピーク」の測定分解能は、4倍高められる。従って、送信遅延の測定分解能およびケーブル長は、4倍高められる。同様に、反射信号212がn個のシフト位相でサンプリングされる場合、例えば、反射サンプルは、r[nk], r[nk+1], r[nk+2] … r[nk+n−1](k=0, 1, …, m−1。ここで、mは最大タップ数である)であり、ケーブル長の測定分解能は、n倍高められる。
【0037】
いくつかの実装において、MF204が受信機に配置される。MFは、反射信号212が位相サンプリングユニット205においてサンプリングされる前に反射信号212を処理するように構成される。例えば、ケーブル202の遠端部が適切に終端されている場合、反射はほとんどなく、残っている入射信号211は、終端により、ケーブル202の端部において吸収される。この場合、受信された反射信号212は、弱過ぎて検出できず、反射の検出は、信号強度の減少および比較的大きなノイズに起因して、信頼性のないものになり得る。一実施形態において、次に、MF204は、テール反射の検出のノイズを抑制し、SNRを高めるために用いられる。
【0038】
いくつかの実装において、MF204は、最小二乗残存法により導き出される係数を有する線形フィルタとして構成される。例えば、MF係数は、ケーブル端部の反射応答形状に基づいて決定される。反射応答形状は、コネクタ反射箇所およびバスインタフェースネットワーク(BIN)を含む。例えば、終端の反射応答がes(k)(k=0, 1, …, p−1。ここで、pは、時間領域における反射信号の長さを示す形状特性、例えば、ケーブル202の端部から反射された反射信号の持続時間における形状特性である)である場合、MF係数は、mf(k)=es(−k)と決定される。また、MFは、ケーブルの端部(例えば、図2における202)における終端インピーダンスの特性を表すように構成され、ケーブルの端部とインラインコネクタとを分離するように構成される。いくつかの実装において、MFは、ハードウェア実装における複雑性を減らすために、上述の係数を有する単純な線形フィルタであるように構成される。いくつかの実装において、望ましいSNRを実現すべく、MF係数は、受信された反射信号の特性に応じて動的に調整されるように構成される。
【0039】
図3および図4は、本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、MFが適用された後のSNRが上がった反射応答を示すデータプロットダイアグラムを提供する。データプロットダイアグラム300に示されるように、(信号プロット301により示される)MF(例えば、図2における204)が適用された後の反射応答信号(例えば、図2における212)は、(信号プロット302により示される)MFなしに、元の反射応答信号よりも大きい振幅を有する。従って、反射応答信号301のピークは、振幅の最大の絶対値を検出することによって、より特定可能になる。反射信号のピークの拡大表示305が、図4において提供される。いくつかの実装において、反射応答信号の塊の中心(the center of mass of the reflection response signal)が、反射応答信号のピークの代わりに測定される。なぜなら、当該信号の塊の中心は、検出する時のノイズがより少ないと共に、測定誤差がより少なく、特に、応答タップ数が限定されているからである。
【0040】
図5は、本明細書において説明されるいくつかの実施形態による、低データシンボルレート環境における精度が向上したケーブル長測定の態様を示す例示的なロジックフローダイアグラムを提供する。501において、多数のデータシンボルが、低シンボルレートで、例えば、100BASE−T1システムにおいて66.7MSPSで、ケーブル接続部に送信される。502において、データシンボルの送信に応答して、反射信号(例えば、図2における212)がケーブル接続部から受信される。503において、シフトサンプリング位相の位相シフト数、例えばnが、サンプリングのために取得される。例えば、n=4である場合、0、π/4、π/2および3π/4という4つのシフトサンプリング位相が用いられることになる。504において、受信された反射信号は、シフトサンプリング位相でサンプリングされる。例えば、0、π/4、π/2および3π/4という4つのシフトサンプリング位相が用いられる場合、反射サンプルの4つのグループ、例えば、ec[4k]、ec[4k+1]、ec[4k+2]およびec[4k+3](k=0, 1, …, m−1)がそれぞれ、これら4つのシフトサンプリング位相の各々を用いて取得される。505において、異なるシフトサンプリング位相で取得された反射サンプルは、組み合わされて、4倍高いシンボルレートで取得された反射サンプルと同様である一連の反射サンプル、例えば、ec(0)、ec(1)、ec(2)、ec(3)、ec(4)、ec(5)、ec(6)、ec(7)、…ec(4m−4)、ec(4m−3)、ec(4m−2)およびec(4m−1)を形成する。従って、506において、遅延パラメータは、例えば、ピークのタイムスタンプまたは反射サンプルの塊の中心およびピークのタイムスタンプまたは送信されたデータシンボルの塊の中心を検出および比較することにより、組み合わされた反射サンプルに基づいて計算される。ピークまたは反射サンプルの塊の中心の検出は、図3および図4に示されている。507において、ケーブル長の推定値が、遅延パラメータと、イーサネット(登録商標)ケーブル接続部の一定の信号伝搬速度とに基づいて計算される。
【0041】
いくつかの実装において、シフトサンプリング位相の異なるセットが、反射サンプルの異なるセットを取得するために用いられる。例えば、シフトサンプリング位相は、0、π/4、π/2および3π/4から0、π/6、π/3、π/2、2π/3および5π/6に変わるように設定される。次に、異なる一連の反射サンプルが、シフトサンプリング位相に基づいて生成される。従って、ケーブルの長さの異なる推定値が、その結果として生成される。シフトサンプリング位相のセットは、異なる測定精度要件に適応するよう動的に変えられるように設定される。例えば、位相シフト数が増えた場合、通常、測定精度がそれに応じて向上する。
【0042】
本開示の様々な実施形態が本明細書において示され、説明されてきたが、そのような実施形態は、例としてのみ提供されている。本明細書において説明される実施形態に関連する数多くの変形例、変更および代用が、本開示から逸脱することなく適用可能である。本明細書において説明される、本開示の実施形態に対する様々な代替形態が、本開示の実施において利用され得ることに留意されたい。以下の請求項が本開示の範囲を定め、これらの請求項の範囲内の方法および構造ならびにそれらの均等物が当該請求項により包含されることが意図されている。
【0043】
複数の動作が特定の順序で図面に示されているが、これは、そのような動作が、示されている特定の順序で、または連続した順序で実行されること、または図示されている全ての動作が、望ましい結果を実現するために実行されることを要求するものと解釈されるべきではない。
【0044】
本明細書の主題が特定の態様に関して説明されてきたが、他の態様も実装され得、以下の請求項の範囲内である。例えば、請求項に記載されている動作は、異なる順序で実行され、望ましい結果を依然として実現し得る。一例として、図5に示されている処理は、望ましい結果を実現するために、示されている特定の順序、または連続した順序を必ずしも必要としない。特定の実装において、マルチタスクおよび並列処理が有利であり得る。他の変形例は、以下の請求項の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5