(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の工程において、基材上に前記塗工膜を設けた後、前記基材を前記平板の前記表面に接触させることにより、前記表面に前記塗工膜を配置する請求項1から4いずれか1項記載の凹凸形状を有する膜の製造方法。
前記膜の材料が、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、および活性エネルギー線重合性化合物の少なくとも1つである請求項1から7いずれか1項記載の凹凸形状を有する膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、
図1を参照しながら説明する。
[第1の工程]
第1の工程は、表面10cが平滑であり、かつ、表面10cにおいて熱伝導率分布を有する平板10を準備する工程である。
(平板)
平板10は、
図1(a)に示すように、表面10cが平滑であり、かつ、表面10cにおいて熱伝導率分布を有する。平板10は、必ずしも平らな形状のみを示すものではなく、表面が平滑であって熱伝導率分布を有するものであれば、ロール状に加工されていてもよい。
ここで、「平滑」とは、最大高さRtが500nm以下であることを意味する。最大高さRtは、1nm以上200nm以下であることが好ましく、3nm以上20nm以下であることがさらに好ましい。なお、最大高さRtは実施例に記載した方法で測定する。
平板10は、例えば、
図2に示すように、熱伝導率の高い金属板に孔11を形成した後、孔11に熱伝導率の低い材料を充填させることにより作製することができる。さらに、熱伝導率の低い材料を充填した後、平板10の表面10cを、バフ研磨、ベルト研磨、電解研磨、および化学機械研磨等の方法で研磨すること等により平滑にすることができる。このようにして、
図1(a)に示すように、平板10の表面10cには、熱伝導率の高い領域10aと熱伝導率の低い領域10bとを周期的に配置されてなる熱伝導率分布が形成される。
【0019】
平板10の厚さは、100〜2000μmが好ましい。孔あけ加工における孔11の形状に特に制限はなく、円、楕円、長円、多角形状など、様々な形状に孔あけ加工することができるが、一般的には円形状の孔あけ加工が行われる。この場合、孔11の直径は、通常0.3〜4.0mm程度、好ましくは0.5〜3.5mmである。孔間のピッチ(隣接する孔11の中心点と中心点との距離は、通常0.5〜6.0mm、好ましくは0.7〜5.0mmである。また、隣接する孔11と孔11との間の最短距離は、通常0.2〜6.0mm程度、好ましくは0.5〜5.0mmである。例えば、
図2に示すような孔間のピッチx(送りピッチ)と、孔11の列の間隔y(型ピッチ)を有し、60°千鳥配列状に並んだ孔パターンなどが適当である。
孔11の形成方法としては、ドリル加工、パンチング加工、エッチング加工、およびレーザー加工などを挙げることができる。
【0020】
熱伝導率分布を生じさせる材料のうち、少なくとも1種類は金属であり、他の材料は有機材料であることが好ましい。金属としては、アルミニウム(熱伝導率:230W/m・K)、ステンレス鋼板(例えば、SUS304の熱伝導率:16.1W/m・K)等の熱伝導率が15W/m・K以上のものを用いることができる。有機材料としては、アクリル樹脂(熱伝導率:0.3W/m・K)、ポリスチレン樹脂(熱伝導率:0.12W/m・K)等を用いることができる。また、有機材料にシリカ等の無機粒子を添加した熱伝導グリースを用いてもよい。
【0021】
熱伝導率分布を生じさせるための少なくとも2種類の材料間の熱伝導率差は、10W/m・K以上であることが好ましい。
図2では、熱伝導率が異なる2種の材料によって形成した熱伝導率分布を示したが、3種以上の材料を配置させることによって熱伝導率分布を形成してもよい。3種類以上の材料を配置させる場合、「少なくとも2種類の材料間の熱伝導率差は、10W/m・K以上である」とは、いずれの材料の組合せにおいても熱伝導率差が10W/m・K以上であることを意味する。
【0022】
[第2の工程]
第2の工程は、
図1(a)および(b)に示すように、平板10の表面10cに、液状媒体および膜の材料を含有する塗工膜20を配置する工程である。
(塗工膜の形成)
塗工膜20の形成方法としては、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いることができる。この場合、塗工膜20の厚さが、乾燥後で、通常3〜200μm、好ましくは5〜150μm、より好ましくは10〜100μmになるようにする。
【0023】
(膜の材料)
本発明の凹凸形状を有する膜の製造方法において用いられる塗工膜20の材料としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂および活性エネルギー線重合性化合物の少なくとも1つを基本成分として含み、さらに必要に応じて架橋剤、粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、カップリング剤、難燃剤、着色剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤などを含んでもよい。
【0024】
(熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー)
熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
熱可塑性エラストマー(ゴム状弾性体を含む)としては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、天然ゴム、共役ジエン系合成ゴムなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、例えば炭素−炭素二重結合やグリシジル基を有するアクリレート系重合体、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの熱硬化性樹脂は、通常硬化剤が使用される。この硬化剤としては、例えば有機過酸化物、アゾ化合物、ポリイソシアネート化合物、ポリアミン類、酸無水物類、イミダゾール類やジシアンジアミド、ルイス酸、ホルムアルデヒドなどが挙げられ、使用する熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択される。
【0026】
(活性エネルギー線重合性化合物)
活性エネルギー線重合性化合物(電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などを照射することにより、架橋、硬化する重合性化合物)としては、例えば活性エネルギー線重合性プレポリマーおよび/または活性エネルギー線重合性モノマーを挙げることができる。活性エネルギー線重合性プレポリマーには、ラジカル重合型とカチオン重合型があり、ラジカル重合型の活性エネルギー線重合性プレポリマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系などが挙げられる。
一方、カチオン重合型の活性エネルギー線重合性プレポリマーとしては、エポキシ系樹脂が通常使用される。このエポキシ系樹脂としては、例えばビスフェノール樹脂やノボラック樹脂などの多価フェノール類にエピクロルヒドリンなどでエポキシ化した化合物、直鎖状オレフィン化合物や環状オレフィン化合物を過酸化物などで酸化して得られた化合物などが挙げられる。
また、活性エネルギー線重合性モノマーとしては、例えば2官能以上の多官能アクリレート類を挙げることができる。
【0027】
(光重合開始剤)
活性エネルギー線重合性化合物には、所望により光重合開始剤が加えられる。この光重合開始剤としては、活性エネルギー線重合性のプレポリマーやモノマーの中でラジカル重合型の光重合性プレポリマーや光重合性モノマーに対しては、例えばベンゾイン類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケトン類、α−ジケトン類、α−ジケトンジアルキルアセタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。
また、カチオン重合型の光重合性プレポリマーに対する光重合開始剤としては、例えば芳香族スルホニウムイオン、芳香族オキソスルホニウムイオン、芳香族ヨードニウムイオンなどのオニウムと、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネートなどの陰イオンとからなる化合物が挙げられる。なお、活性エネルギー線として電子線を用いる場合には、光重合開始剤は用いなくてもよい。
【0028】
(塗工液の種類)
本発明においては、用途に応じて様々な種類の塗工液を使用することができ、例えば粘着剤用塗工液、光学用ハードコート形成用塗工液、艶調整層形成用塗工液などを用いることが可能である。
例えば、粘着剤用塗工液を用いた場合には、粘着剤層表面に、凹凸状の微細パターンが形成されるので、被着体に貼付する場合、空気の流通経路ができ、空気の留まりが生じにくくなり、貼付性が良好となる。
艶調整層形成用塗工液を用いた場合には、膜表面に、凹凸状の微細パターンが形成され、光の乱反射により、艶調整効果が発揮されるため、化粧シートや壁紙などに用いることができる。
光学用ハードコート形成用塗工液を用いた場合には、膜表面に、凹凸状の微細パターンが形成されるため、防眩性ハードコート層などに用いることができる。
【0029】
(塗工液の液状媒体、粘度)
本発明において用いられる塗工液は、液状媒体を含み、液状媒体については特に制限はなく、塗工液に含まれる樹脂成分や重合性化合物の種類に応じて、水および各種有機溶媒の中から適宜選択することができる。有機溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤等を挙げることができる。
塗工液の濃度に特に制限はないが、本発明の効果が好適に発揮される点から、温度23℃における粘度が、10〜3500mPa・s程度、好ましくは、50〜3000mPa・s、より好ましくは、100〜2500mPa・sになるような濃度が好適である。
【0030】
(基材)
塗工膜20は、
図3(a)および(b)に示すように、平板10の表面10c上に、基材22上に塗工膜20を形成した後、配置してもよい。その後、平板10を加熱板30で加熱することにより、膜21の表面21cに凹凸形状を形成することができる。
基材22については特に制限はなく、例えば紙基材、プラスチックフィルムやプラスチックシート、金属箔、金属シートなどが挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。これらの基材は、単独で用いてもよく、紙同士、あるいはプラスチックフィルムやプラスチックシート同士などの同種の素材の複合体、紙とプラスチックフィルムやプラスチックシートなどの異種の素材の複合体など、任意の素材を組み合わせた積層シートを用いることもできる。
紙基材としては、例えば薄葉紙、クラフト紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙、パーチメント紙、パラフィン紙、和紙、チタン紙、リンター紙、板紙、石膏ボード用原紙、あらかじめ紙間の強化の目的で樹脂を含浸してなる樹脂含浸紙、紙の表面に塩化ビニル樹脂層を設けたビニル壁紙原反などが挙げられる。
【0031】
プラスチックフィルムやプラスチックシートとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等、および、これらの樹脂のシートなどを挙げることができる。
金属箔、または金属シートとしては、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス鋼、または銅等の素材からなるものが使用される。
本発明においては、基材の厚さに特に制限はなく、用途に応じて広い範囲、例えば20μmないし10mm程度の範囲で適宜選択される。より好ましくは、1μm以上200μm以下である。
【0032】
(プラスチック基材の表面処理)
基材22として、プラスチックフィルムやプラスチックシートを用いる場合、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果および操作性などの面から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0033】
[第3の工程]
第3の工程は、
図1(c)に示すように、平板10を加熱板30等で加熱して、平板10の表面10cに配置された塗工膜20中の液状媒体を除去することにより、表面21cに凹凸形状を有する膜21を形成する工程である。
平板10を加熱することによる膜の凹凸形状が形成されるメカニズムは以下の通りである。液状媒体を含有する塗工膜20が加熱されると、熱伝導率の高い領域10aと接する領域の塗工膜20は、気化熱によって塗工膜20の温度が下がり、温度低下による表面張力の上昇によって、加熱部分に凸形状が形成される。本発明では、平板10の熱伝導率分布によって、熱伝導率の高い領域10aと接する塗工膜20の部分と熱伝導率の高い領域10aと接する塗工膜20の部分とで塗工膜20の乾燥速度に差が生じる。この乾燥速度の違いによって、塗工膜20に生じる表面張力に勾配が生じ、表面に凹凸形状を形成する膜を形成することができる。
【0034】
(加熱板)
平板10の加熱方法に特に制限はないが、
図1(b)および(c)に示すように、加熱板30を平板10の裏面10dに接触させて行う方法が好ましい。加熱板30の形状に特に制限なく、平板状であってもよく、凹凸形状を有するものであってもよい。
加熱板30としては、熱伝導性金属の平板の他、熱伝導性金属板に複数の孔あけ加工を施したものを用いることができる。熱伝導性金属板としては、特に制限はなく、例えばアルミニウム板やステンレス鋼板などが用いられる。
加熱板30の温度は50〜200℃が好ましい。温度が低すぎると、加熱部と非加熱部の温度差が小さく、表面張力流れが生じにくい。温度が高すぎると加熱時の基材の熱変形が懸念される。
【0035】
塗工膜20の形成から、加熱板30に塗工膜20(または基材22)を接触させるまでの時間は、塗工液中の溶媒の種類や膜厚にもよるが、通常0〜30秒間程度である。30秒を超えると、塗布層表面が固化してしまい、所定のパターン形状が得られなくなる場合がある。
また、塗布直後の塗布層表面は、溶媒の蒸発による温度低下が生じ、雰囲気中の水蒸気が塗布層表面に凝縮するおそれがあるため、あらかじめ塗布層表面の温度低下を非接触温度計などで測定し、雰囲気を調温調湿するなどの対策を施すことが好ましい。さらに、加熱板30に塗工膜20を接触させている時間は、15〜500秒間が好ましい。
連続塗布装置を用いる場合には、熱伝導率分布を有する平板10をロール状に加工し、そのロール状の平板10を公知の加熱装置によって加熱してもよい。
【0036】
なお、塗工膜20は、
図3(a)および(b)に示すように、基材22上に塗工膜20を設けた後、基材22を平板10の表面10cに接触させることにより、表面10cに塗工膜20を配置してもよい。その後、
図3(c)に示すように、加熱板30で平板10を加熱することにより、表面21cに凹凸形状を有する膜21が形成される。
【0037】
(冷却板)
第3の工程において、
図4(a)に示すように、塗工膜20の平板10とは反対側の表面20aに、冷却板40を近接させてもよい。そして、加熱板30を加熱することにより、
図4(b)に示すように、凹凸形状を形成することができる。
ここで、「近接」とは塗工膜20の表面20aから冷却板40の最も突出した点において、0.1mm以上5mm以下であることを意味する。より好ましくは、0.5〜1.5mmである。
冷却板40は平板10の熱伝導分布に対応した凹凸形状を有することが好ましい。冷却板40を、塗工膜20の表面20aに近接させる場合、
図4に示されるように、冷却板40の凸部40aを、平板10の熱伝導率が高い領域10aに対応させることにより、加熱板30の熱伝導率が高い領域10aが接触している部分に対応する塗工膜20の表面20aの表面温度が気化熱により下がるため、より効果的に塗工膜の表面温度差を設けることができ、その結果形成する凹凸形状が一層明瞭となる。
【0038】
冷却板40としては、例えば熱伝導性金属板を加工してなるものを用いることができる。熱伝導性金属板としては、特に制限はなく、例えばアルミニウム板やステンレス鋼板などを用いることができる。冷却板40の厚さは、0.1〜2mmが好ましい。なお、凹凸形状を設けた冷却板40における厚さは、背面と凹部内部における底面との間の距離を示す。
【0039】
凸部40aの形状については特に制限はなく、円柱状、楕円柱状、長円柱状、多角柱状などを挙げることができる。また、各凸部40aは幾何学的に配列していてもよいし、模様状に配列していてもよく、ランダムに配列していてもよい。凸部40aの高さ(凹部底面から凸部先端までの距離)は、通常0.05〜100mm程度、好ましくは1〜5mmであり、また、円柱状の場合、その断面直径は、通常0.3〜4.0mm程度、好ましくは0.5〜3.5mmであり、凸部間のピッチ(隣接する凸部40aの中心点と中心点との距離)は、通常0.5〜6.0mm、好ましくは0.7〜5.0mmである。また、隣接する凸部40aと凸部40aとの間の最短距離は、通常0.2〜6.0mm程度、好ましくは0.5〜5.0mmである。
【0040】
冷却板40の表面温度は、効果の面から、5〜20℃が好ましく、10〜15℃がより好ましい。この場合、冷却板40と加熱板30の表面温度の差は冷却板40の凹凸に対応する凹凸形状形成性の観点から、20〜70℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0041】
塗工膜形成後から、冷却板40を塗工膜20の表面20aに近接させるまでの時間は、塗工膜中の液状媒体の種類や膜厚にもよるが、通常0〜30秒間程度である。30秒を超えると、塗布層表面が固化してしまい、所定のパターン形状が得られなくなる場合がある。
【0042】
塗工膜20の表面近傍に所定形状の凹凸形状が設けられた冷却板40を配設し、かつ塗工膜20中の液状媒体を蒸散させることにより、冷却板40の凹凸に対応する凹凸形状が、塗工膜表面に形成される機構としては、次のことが推測される。
流体の自由表面に温度差があると、表面張力に差が生じ、表面張力の大きな方(低温側)に流体表面が引っ張られるために流れ、いわゆるマランゴニ対流が生じる。
塗工膜の表面近傍に所定形状の凹凸形状を有する冷却板40を配設することにより、冷却板40の形状に対応して、塗工膜表面に温度差が生じる。その結果、表面温度が高い所から低い所に流れようとする駆動力が発生し、表面温度の高い部分が凹部を、低い部分が凸部を形成すると推測される。
【0043】
(エネルギー硬化塗工膜の形成)
このようにして、平板10の熱伝導率差に対応する凹凸形状を有する膜が得られるが、本発明においては、塗工膜20に、必要に応じてさらにエネルギーを印加して、塗工膜20を硬化させることができる。例えば、活性光線硬化型重合性化合物を含む塗工液を用いた場合、上記のようにして、表面に凹凸形状を有する乾燥塗工膜を形成したのち、これに紫外線や電子線などの活性光線を照射して硬化樹脂膜を形成させる。この硬化樹脂膜の表面には、乾燥塗工膜の表面に設けられた凹凸形状が、そのまま残る。
また、熱エネルギー硬化型樹脂を含む塗工液を用いた場合、前記のようにして、表面に凹凸形状を有する乾燥塗工膜または熱硬化塗工膜を形成したのち、これらに熱エネルギーを印加し、完全熱硬化させることもできる。この完全熱硬化樹脂膜の表面には、前記の乾燥塗工膜または熱硬化塗工膜の表面に設けられた凹凸形状が、そのまま残る。
【0044】
このように、本発明によれば、膜に、傷や型の凹凸痕をつけることなく、所定形状の凹凸形状を形成することができる。
このようにして製造された表面に凹凸形状を有する膜は、例えば粘着剤層、光学用ハードコート層、化粧材における艶調整層や立体感付与層などとして有用である。特に、本発明の製造方法によれば、3種以上の材料によって構成される熱伝導率分布を有する平板10を用いてき、複雑な表面装飾も作製可能な、凹凸形状を有する膜を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
(第1の工程)
熱伝導率分布を有する平板を以下のようにして作製した。まず、厚さ0.5mm、片面の面積が25cm
2(5cm×5cm)のアルミニウム板に、パンチング加工により500μmφの孔を、送りピッチ1mm、型ピッチ0.5mmで、60°千鳥状に配列加工し形成した。次に、全ての孔に、熱伝導率の低い材料としてアクリル樹脂(JSR(株)製、商品名「オプスターZ7530」(UV硬化型アクリルモノマー))を充填した。最後に、表面(両面)を、400番手のバフ研磨により研磨して平らにした。非接触型3次元光干渉式表面粗さ計(日本Veeco社製、商品名:Wyko NT1100)を用いて測定した研磨面の最大高さRtは15nmであった。
(第2の工程)
ポリエチレンテレフタレートを基材とする剥離フィルム(リンテック株式会社 SP−PET 50)の剥離処理面に、アクリル系粘着剤(日本カーバイド工業株式会社製、商品名「ニッセツPE-121」、固形分20wt%)を塗工して、フィルム上に厚さ80μmの塗工膜を形成した。
(第3の工程)
次に、70℃に加熱された加熱板(株式会社北里サイエンス マイクロヒートプレート MP-1000H)に、平板および基材つき塗工膜を順次配置し、平板を介して試料を1分間加熱し、凹凸形状を有する膜を得た。
平板と接していた、基材の裏面に傷は観察されなかった。
【0047】
[実施例2]
全ての孔に熱伝導グリース(信越化学工業株式会社製、サーマルグリース 商品名「WW−7868」)を充填した平板を用いた以外は実施例1と同様にした。実施例1と同様、平板と接していた基材の裏面に傷は観察されなかった。平板の研磨面の最大高さRtは15nmであった。
【0048】
[実施例3]
アルミニウム板の代わりにステンレス鋼板(SUS304)を用いた以外は実施例1と同様にした。平板の研磨面の最大高さRtは19nmであった。
【0049】
[実施例4]
アクリル樹脂の代わりに熱伝導グリース(信越化学工業株式会社製、サーマルグリース 商品名「WW−7868」)を用いた場合は、実施例3と同様にした。平板の研磨面の最大高さRtは19nmであった。
【0050】
[比較例1]
上記熱伝導率分布を有する平板の代わりに平らなアルミニウム板(実施例1で用いたアルミニウム板の孔を形成していないもの)を用いてホットプレートで加熱した以外は、実施例1と同様にした。膜表面は平滑で、アルミニウム板と接していた基材の裏面は傷が観察されなかった。
【0051】
[比較例2]
アルミニウム板の代わりに、ステンレス鋼板(SUS304)(実施例3で用いたステンレス鋼板の孔を形成していないもの)を用いた以外は比較例1と同様にした。
【0052】
[比較例3]
実施例1の平板の代わりに、アルミニウム板に500μmφの孔を60°千鳥状パターンに加工した凹凸パターン板を用いた。塗工膜を、凹凸板を介して加熱板で加熱した結果、膜表面に凹凸が形成された。一方凹凸パターン板と接していた、基材の裏面には、約500μmφの円弧状の傷がついた。平板の基材付塗工膜を配置した側の最大高さはRtは500μmである。
【0053】
[比較例4]
アルミニウム板の代わりに、ステンレス鋼板(SUS304)を用いた以外は比較例3と同様にした。平板の基材付塗工膜を配置した側の最大高さRtは500μmである。
【0054】
上記実施例および比較例で得られた膜の評価は下記の方法で行った。
(膜表面凹凸評価)
光学式顕微鏡(株式会社キーエンス、デジタルマイクロスコープ VHX5000)で第3の工程後、膜表面の凹凸を観察した。観察倍率は250倍であり、得られた膜の表面の面積25mm×25mmにおける任意の25点で観測を行った。観測位置の一点における観測面積は1600μm×1200μmであった。
【0055】
(基材の裏面傷評価)
光学式顕微鏡(株式会社キーエンス、デジタルマイクロスコープ VHX5000)で、第3の工程後、基材の裏面(塗工膜を設けた面と反対側の面)を観察した。観察倍率は250倍であり、基材の裏面の面積25mm×25mmにおける任意の25点で観測を行った。観測位置の一点における観測面積は1600μm×1200μmであった。
【0056】
(凹凸の高低差評価)
なお、作製された膜の凹凸の高低差は、下記の方法により測定した。
非接触型3次元光干渉式表面粗さ計(日本Veeco社製、商品名:Wyko NT1100)を用いて、ANSI/ASME B46.1に基づく最大高さRtを測定をし、これを膜の凹凸の高低差とした。なお、最大高さRtは粗さ曲線の基準長さにおける最も高い高い山と最も深い谷の和を示す。
【0057】
(熱伝導率の評価)
熱伝導率は、株式会社アイフェイズの「ai-Phase Mobile 1μ」を使用して測定した。空気の熱伝導率は、産業図書株式会社「化学工学概論」のp.350を参照した。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例および比較例の評価結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、本発明の製造方法を用いた実施例1から4は、膜表面に高低差が数μmの凹凸形状が形成され、かつ、基材の裏面に傷および加熱板の痕が見られなかった。
熱伝導率の小さい材料として熱伝導グリースを用いた実施例2は、熱伝導率の小さい材料としてアクリル樹脂を用いた実施例1と比較して、凹凸の高低差は小さいものであった。実施例1および実施例3から、平板の熱伝導率が高い領域を構成する材料がアルミニウム板とSUS304とでは、膜の凹凸の高低差に違いは見られなかった。これは、蒸発量には限りがあるので、熱伝導率が高くなって、乾燥速度が増加しても、気化熱による温度低下は頭打ちになったものと考えられる。