特許第6989095号(P6989095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6989095-リチウムイオン二次電池 図000014
  • 特許6989095-リチウムイオン二次電池 図000015
  • 特許6989095-リチウムイオン二次電池 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989095
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20211220BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211220BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20211220BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20211220BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20211220BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20211220BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20211220BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20211220BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M50/426
   H01M50/434
   H01M50/46
   H01M50/449
   H01M50/443 E
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-509848(P2019-509848)
(86)(22)【出願日】2018年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2018012290
(87)【国際公開番号】WO2018181243
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-66794(P2017-66794)
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸司
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕理
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−060481(JP,A)
【文献】 特開2007−005293(JP,A)
【文献】 特開2016−131127(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/136441(WO,A1)
【文献】 特開2013−157219(JP,A)
【文献】 特開2016−225261(JP,A)
【文献】 特開2017−107853(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/134501(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/078828(WO,A1)
【文献】 特開2005−019157(JP,A)
【文献】 特開2014−013693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の少なくとも片面に正極又は負極を備える電極と、前記正極及び負極を隔離するセパレーターと、前記電極とセパレーターとの間に形成された多孔質絶縁層と、非水電解質と、を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記多孔質絶縁層は、ポリフッ化ビニリデンと、融点降下剤と、無機酸化物フィラー及び/又はガス発生剤とを含む結着材からなり、
前記融点降下剤は、非水電解質の共存下に示差走査熱量測定法で測定される前記結着材の溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度を、ポリフッ化ビニリデンのみの場合に比べて低下させ、
前記融点降下剤は、ポリ(ビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレン)を含み、
前記融点降下剤の含有率は、多孔質絶縁層の総量に対して、1質量%以上30質量%以下であり、
前記多孔質絶縁層は、前記正極と前記セパレーターとを接着している、ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
記無機酸化物フィラーが、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、マグネシア、水酸化マグネシウム、ジルコニア、チタニア、シリカ、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム又は窒化ホウ素からなる群より選ばれた1種以上であり、該無機酸化物フィラーの平均粒径は、0.01〜5μmである請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
記ガス発生剤が、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム及び炭酸水素カルシウムからなる群より選ばれた1種以上である請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記非水電解質が、シクロアルキルベンゼン化合物、アルキルベンゼン化合物、ビフェニル化合物、アルキルビフェニル化合物からなる群より選ばれた1種以上のガス発生化合物を含有する請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記非水電解質は、スルトンを含まない請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記ガス発生剤は、4,4'−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、及びアゾジカルボンアミドの少なくとも一方を含む、請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2017年3月30日に日本国において出願された特願2017−66794号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願に記載された内容は全て、参照によりそのまま本明細書に援用される。また、本願において引用した全ての特許、特許出願及び文献に記載された内容は全て、参照によりそのまま本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、電極とセパレーターとの間に多孔質絶縁層を備えたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコンなどの電子機器、或いは電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く使用されている。特に最近では、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載可能な、高容量で高出力かつエネルギー密度の高い電池の要望が急拡大している。このリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという利点の反面、リチウム金属及び非水電解質を使用することから安全性に対する十分な対応策が必要となる。
【0004】
例えば、特許文献1に開示された非水電解質二次電池は、集電体に負極活物質層が形成されてなる負極と、集電体に正極活物質層が形成されてなる正極を有する非水電解液二次電池において、負極活物質層、正極活物質層のいずれかの表面に厚さ0.1〜200μmの多孔性保護膜を形成している。この活物質層表面に形成した保護膜によって、活物質層を形成した後、電極が電池缶内に収納されるまでの間に発生する活物質の脱落、再付着を防止する。これにより、電極表面に再付着した活物質によって誘発される電池の内部ショートが防止でき、高い信頼性,安全性を有する非水電解液二次電池が得られる。
【0005】
また、特許文献2には、正極活物質および水を含む正極ペーストを正極集電体の表面に塗布して正極合剤層を形成する工程と、無機酸化物フィラーおよび有機溶媒を含む絶縁ペーストを正極合剤層の表面に塗布して多孔質絶縁膜を形成する工程とを含み、正極活物質が、リチウムおよびニッケルを含む複合酸化物を含み、複合酸化物に含まれるNiのLiに対するモル比が60モル%以下であるリチウムイオン二次電池の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3371301号公報
【特許文献2】特開2010−21113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の多孔性保護膜は、製造に際する電極からの活物質の脱落を抑え、内部ショートの発生が防止できるものの、釘刺試験、圧壊試験及び過充電試験のような内部短絡が起きた場合の発熱抑制効果については記載がない。また、特許文献2に記載の製造法についても、正極合剤層の表面に多孔質絶縁膜を形成する場合の不具合を抑制し、高出力かつ高容量のリチウムイオン二次電池を提供するが、電池の内部短絡時の発熱抑制効果については明らかではない。
本発明の課題は、電極とセパレーターとの間に多孔質絶縁層を形成することにより、電池の内部短絡時の発熱を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、集電体と、集電体の少なくとも片面に正極又は負極を備える電極と、正極及び負極を隔離するセパレーターと、電極とセパレーターとの間に形成された多孔質絶縁層と、非水電解質とを備える。多孔質絶縁層は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、融点降下剤との混合物とを含む結着材からなり、この融点降下剤は、非水電解質の共存下に示差走査熱量測定法で測定される結着材の溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度を、ポリフッ化ビニリデンのみの場合に比べて低下させることを特徴とする。上記結着材は、PVDFと融点降下剤との混合物に代えて、フッ化ビニリデン単量体と他の含フッ素単量体又は含酸素単量体との共重合体であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電極とセパレーターとの間に多孔質絶縁層を形成することにより、電池の内部短絡時の発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る電極層の断面図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る電極層の断面図である。
図3】PVDF単独及びPMMAを共存させた試料の典型的なDSC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。最初に、電極素子を構成する正極、負極及びセパレーターからなる電極層の構造を図面に基づいて説明し、その後、電池の各構成部材について詳細に説明する。
【0012】
[電極層の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電極層を示す概略断面図である。図1に示すように、本実施形態の電極層10は、正極集電体16の片面に塗布された正極合剤層15と、セパレーター13と、負極集電体11の表面に塗布された負極合剤層12とを有する。そして、セパレーター13と正極合剤層15との間に、セパレーターの正極合剤層側の表面を被覆するように多孔質絶縁層14が形成されている。
【0013】
この多孔質絶縁層14は、結着成分としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、融点降下剤とを含む結着材又はフッ化ビニリデン単量体と他の含フッ素単量体若しくは含酸素単量体との共重合体(以下、「PVDF共重合体」と称する場合がある。)からなり、場合によりさらに無機酸化物フィラー及び/又はガス発生剤を含んでもよい。多孔質絶縁層14は、セパレーター13と正極合剤層15とを接着するが、セパレーター13を介したリチウムイオンの透過を阻害することはない。ところが、内部短絡などにより電池の温度が急に上昇したときは、セパレーター13の溶融温度以下で、多孔質絶縁層14が溶融することによって多孔質形状の少なくとも一部が閉鎖し、電解液中のリチウムイオンの透過を阻害する。結着材の溶融温度は、セパレーターの溶融温度よりも低温であればよく、例えば、約70℃〜約100℃の温度範囲で溶融開始することが好ましい。
【0014】
さらに、この多孔質絶縁層14は、所定の電池電圧を超えた際(例えば、4.5V以上の過充電状態となった場合)に、圧力検知式の電流遮断装置(CID:Current Interrupt Device)(図示せず)を確実に作動させるため、ガス発生を促進することが好ましい。多孔質絶縁層が無機酸化物フィラーを含む場合、その種類や物性(比表面積や粒子径)によって、高温保存時や高電圧条件下でカーボネート溶媒が分解し、ガスが発生する場合がある。例えば、多孔質絶縁層14に含有される無機フィラーは、所定の電池電圧を超えた際(例えば、4.5V以上の過充電状態となった場合)に、非水電解液(炭酸エステル)を分解してガスを発生する。該ガス発生化合物が、水素(H)及び二酸化炭素であることが好ましい。
【0015】
さらに好ましい実施形態において、多孔質絶縁層14にガス発生剤を添加することにより、所定の電池電圧を超えた際(例えば、4.8V〜5.0Vの過充電状態となった場合)に、当該ガス発生剤が分解してガスを発生する。該ガス発生剤が、二酸化炭素(CO)を発生する化合物であることが好ましい。また、非水電解液にガス発生化合物を添加することにより、所定の電池電圧を超えた際(例えば、4.5V以上の過充電状態となった場合)に、分解してガスを発生する。該ガス発生化合物が、水素(H)及び二酸化炭素であることが好ましい。
【0016】
多孔質絶縁層14の厚さは、溶融時にリチウムイオンの透過を阻害できる程度であればよく、例えば、0.1μm〜10μm、好ましくは5μm以下である。0.1μm未満では異常発熱時にリチウムイオンの透過を十分阻害できない場合があり、発熱抑制機能が確実に発揮されない。10μmを超えると、正常時の抵抗までもが高くなり、電池特性としてのハイレート時の性能が低下する。多孔質絶縁層14の厚さは、例えば、0.1、0.3、0.5、1、2、5、10μmであってもよい。
【0017】
図2は、他の実施形態に係る電極層20の構成を示す断面図である。図2に示す電極層20では、正極合剤層25とセパレーター23との間に介在する多孔質絶縁層24の構成のみが図1に示す構成と異なる。すなわち、本実施形態では、多孔質絶縁層24は、セパレーター23と接する正極合剤層25の表面を被覆するように形成されているが、その他の構成は図1に示す電極層と同様である。
【0018】
他の実施形態では、多孔質絶縁層は、セパレーターと負極合剤層との間に形成されていてもよいが(図示せず)、内部短絡時のリチウムイオンの透過を効果的に抑制する点で、多孔質絶縁層は正極合剤層とセパレーターとの間に存在することが好ましい。また、この多孔質絶縁層は、溶融時にリチウムイオンの透過を抑制し、さらに、所定の電池電圧を超えた際にガス発生剤が分解してガスを発生するものであるから、正極活物質を含む必要はないが、通常作動時の電池特性を向上させるために、正極表面に塗布する場合は導電助剤等を含んでもよい。本明細書において、多孔質絶縁層を正極合剤層の表面に設ける場合は、これをオーバーコート層と称する場合がある。
【0019】
セパレーターの溶融温度以下で、多孔質絶縁層中の結着材が溶融するメカニズムについては、結着材の中に融点降下剤あるいは/及びPVDF共重合体を含むことによって、結着材の主成分であるPVDFの融点が降下することに基づくと考えられる。
【0020】
多孔質絶縁層からガスが発生するメカニズムについては、多孔質絶縁層の中にガス発生剤を含むことによって、所定の電池電圧を超えた際にガス発生剤が分解してガスを発生することに基づくと考えられる。
【0021】
さらに、多孔質絶縁層の中に無機フィラーを含むことによって、所定の電池電圧を超えた際にカーボネート溶媒が分解してガスを発生することに基づくと考えられる。
以下、図1及び2の電極層(10及び20)を構成する各構成要素について順に説明する。
【0022】
[セパレーター]
セパレーター13、23としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる微多孔膜や多孔質の平板、更には不織布を挙げることができる。好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性樹脂シートが挙げられる。セパレーターの厚みは、例えば15μm〜30μmとすることができる。好ましい一態様では、シャットダウン機能を発揮する(所定温度になると樹脂が融解して細孔が目詰まりすることにより電流を遮断する)多孔性樹脂層を備えた、単層または多層のセパレーターを使用する。
【0023】
[多孔質絶縁層]
多孔質絶縁層14、24は、結着成分としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、融点降下剤とを含む結着材又はPVDF共重合体からなる。非水電解質の共存下に示差走査熱量測定法で測定される前記結着材又はPVDF共重合体の溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度は、PVDFのみの場合に比べて低下しており、それによって前記多孔質絶縁層が、温度上昇時に溶融してリチウムイオンの透過を阻害する。
さらに、多孔質絶縁層は、所定の電池電圧を超えた際(例えば、4.5V以上の過充電状態となった場合)に、圧力検知式の電流遮断装置の作動を促進するため、ガス発生を促進する。
【0024】
(結着材)
結着材としては、結着成分としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、その融点降下剤及び/又はPVDF共重合体とを含む。結着成分は集電体金属に対する粘着性を有する必要があり、これは結着成分中の極性基の存在によって達成される。また、結着成分は、電極を扱うための十分な可撓性と、充放電サイクル中の活物質の寸法変化に対応できなければならない。結着成分は、特定の電気化学的特性を備えていなければならず、使用される非水電解質液と相溶性でなければならない。
【0025】
PVDFの機械的特性および電気化学的特性は、結着成分に必要な上記多数の目的に適している。PVDF単独の融点は約180℃であることが報告されているが、非水電解質二次電池の中では非水電解質と接触しているためにその融点が若干低下していると考えられる。さらに融点降下剤を含むことによって、本実施形態の結着材は非水電解質二次電池の温度上昇時に溶融して導電層の抵抗を増大させ、非水電解質二次電池の熱暴走を抑制することができる。熱暴走を抑制するという観点からは、結着材の溶融開始温度は低いことが好ましいが、あまりに低すぎると結着材としての機能を阻害するため好ましくない。このため、結着材の溶融開始温度としては約50℃から約150℃が好ましく、約60℃から約130℃がより好ましく、約70℃から約110℃がさらに好ましい。
【0026】
結着材の溶融開始温度が低下することに伴って、その溶融ピーク温度(融点)も低下する場合があり、上記測定条件下において、結着材の溶融ピーク温度が、70℃〜130℃であることが好ましい。結着材の溶融ピーク温度は、70℃以上であることが熱安定性の点で好ましい。一方、安全性の観点からは、結着材の融点が130℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは130℃未満であり、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらになお好ましい。
【0027】
本実施形態における「融点降下剤」あるいは/及び「PVDF共重合体」は、上記PVDFの溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度を低下させることによってセパレーターよりも低温で上記多孔質絶縁層を溶融させる成分をいう。また、多孔質絶縁層が無機酸化物フィラーやガス発生剤を含む場合には、それらによるガス発生機能を促進すると考えられる。例えば、無機酸化物フィラーとして用いられるアルミナには、電解液として含まれるカーボネート類の酸化分解を促進する場合があり、さらにガス発生剤としての炭酸リチウムなどが用いられる場合にはその酸化分解を促進すると考えられる。これらの作用は、電池電圧が所定の値を超えた場合(例えば、4.8V〜5.0Vの過充電状態)になったときに発揮される。ところが、正極合剤層の電位分布は一様ではなく、正極合剤層の厚み方向で異なり、表面側ほど高くなることから、本実施形態の多孔質絶縁層は正極合剤層とセパレーターとの界面に位置し、電池電位の上昇を速やかに検出することができる。このような機能は、結着材の溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度が低下することによって好ましく発揮されることから、本実施形態の結着材は、通常のPVDF単独の溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度よりも低下していることを特徴とする。
【0028】
したがって、本実施形態の多孔質絶縁層に含まれる結着材は、結着成分であるPVDFと、融点降下剤あるいは/及びPVDF共重合体とを混合し、当該混合物を、非水電解質の共存下に、示差走査熱量測定法で測定したときの溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度が、同一条件で測定したPVDFのみの場合に比べて低下しているものを選択することができる。なお、本実施形態において、溶融開始温度とは、示差走査熱量分析法(以下、DSCともいう)によって分析される吸熱がベースラインから立ち上がるときの温度を意味し、一般的には、JIS7121(プラスチックの転移温度測定法)に準拠して測定することができる。より明確化のためには吸熱ピークのピークトップに対して10%若しくは20%程度又は50%程度の吸熱が認められる温度であってもよい。あるいは、結着材が溶融することによる吸熱量をDSCカーブのピーク面積から計算し、総吸熱量の約2分の1に達したときの温度を指標としてもよい。結着材の溶融開始温度が低下することによって、より低い温度から吸熱が始まり、ある一定の吸熱量に達したときに結着材が溶融するからである。
【0029】
(融点及び溶融開始温度の測定方法)
例えば、日立ハイテクサイエンス製高感度型示差走査熱量計DSC7000X装置等を用い、PVDFと融点降下剤とを有機溶媒に溶解するか、または粉体のまま乳鉢等で混合した後、乾燥した粉体約5mgをアルミパンに詰め、これに非水電解質を加えて試料とする。試料に添加する非水電解質は、環状カーボネート及び鎖状カーボネートから選ばれる有機溶媒が単独あるいは複数種を組み合せた溶媒混合物中に、電解質として少なくともLiPFを含むリチウム塩を溶解させた電解液が好ましい。本実施形態では、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との、3:7の混合溶液中、1Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解した非水電解質を用いる。測定条件は、例えば、室温から約200℃まで、5℃/分で昇温する。このとき得られる吸熱曲線より求めることができる。
【0030】
融点降下剤としては、結着成分として用いられるPVDFの溶融開始温度及び溶融ピーク温度を降下させうる物質であれば特に限定されるものではないが、結晶性高分子であるPVDFと相溶(適合)する化合物、好ましくは結晶性又は非結晶性の高分子化合物を用いることができる。本明細書において、用語「相溶」とは、2種類の異なる物質、特に、高分子が均一に混和する状態をいい、これらは、完全に相溶しても、また一部が相溶してもよい。混合後の試料が透明になるか、又はフィルム形成能を有することによって均一に混和したことを判定することができる。例えば、カルボニル基又はシアノ基を含有する化合物である。カルボニル基は、−C(=O)−なる構造を有し、酸素原子は、炭素原子よりもはるかに電気陰性度が大きいので、C=O結合の電子は、電気的に陽性な炭素原子の近傍よりも、電気陰性度の大きい酸素原子の近傍に偏って存在する。同様に、シアノ基は、炭素原子と窒素原子間の三重構造を有し、窒素原子上に電子が偏っており、強い電子吸引基である。カルボニル基及びシアノ基は1又は複数個含まれていてもよい。
【0031】
一般に、結晶性高分子と非結晶性高分子に相溶性がある場合には、結晶性高分子の融点降下が生じることが知られている。融点降下に最も影響を与える因子は、両高分子間の相互作用の強さを表す熱力学的パラメータχ12値であり、フローリー−ハギンス(Flory-Huggins)理論により導き出される。この理論に基づくと、相溶する結晶性/非結晶性高分子ブレンド系においては、χ12値が負の値を示す場合に融点降下が生じるといわれている。好ましい実施形態では、前記相溶性物質が、カルボキシル基(−COOH)、カルボン酸エステル(−COO−R)、カーボネート基(R−O−(C=O)−O−R')、イミド基(R−CONHCO−R')、又はアミド基(R−C=ONH−R')を含有する結晶性又は非結晶性高分子である。
【0032】
本実施形態において、このような相溶性物質からなる融点降下剤が、PVDFの融点を降下させる具体的理由は明らかではないが、これらの添加剤がカルボニル基やシアノ基に由来する電気的性質(極性)を有することが、PDVFとの相互作用を強め、その融点降下作用を発揮するものと推察される。
【0033】
したがって、好ましい実施形態では前記融点降下剤が、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAc)、アセチルアセトン、ポリアクリル酸メチル(PMA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びそれらの誘導体(共重合体)からなる群より選ばれる1種以上である。
【0034】
PVDFと相溶性の良いメタクリル酸エステルとしては、例えば、以下の化合物を挙げることができる。メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸n−ブトキシエチル、メタクリル酸イソブトキシエチル、メタクリル酸t−ブトキシエチル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸ノニルフェノキシエチル、メタクリル酸3−メトキシブチル、ブレンマーPME−100(商品名、日本油脂(株)製)、ブレンマーPME−200(商品名、日本油脂(株)製)。
前記メタクリル酸エステルの中では、入手のし易さやPVDFとの相溶性などの観点から、以下のものが好ましく用いられる。メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチルがより好ましい。ビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
また、フッ素化アルキルメタクリレートとしては、以下の化合物が好適に使用可能である。2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,2−トリフロオロエチルαフルオロアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルαフルオロアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルαフルオロアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルαフルオロアクリレート等。
【0036】
本発明の一実施形態として、上記融点降下剤は、アミド、イミド、マレイミドなどが含まれる。
アミドとしては、 第1級アミドが特に好ましく、例えば、N−ビニルアミド、ジビニルアミド、シリル(ビニル)アミド、グリオキシル化ビニルアミドなどを挙げることができる。
イミドの具体例としては、例えば、N−ビニルイミド、N−ビニルフタルイミド、ビニルアセトアミドなどのジビニルイミドを挙げることができる。
マレイミドとしては、例えば、モノマレイミド、ビスマレイミド、トリスマレイミド、ポリマレイミドなどを挙げることができる。
【0037】
ビスマレイミドの具体例としては、例えば、N,N'−ビスマレイミド−4,4'−ジフェニルメタン、1,1'−(メチレンジ−4,1−フェニレン)ビスマレイミド、N,N'−(1,1'−ビフェニル−4,4'−ジイル)ビスマレイミド、N,N'−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビスマレイミド、1,1'−(3,3'−ジメチル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジイル)ビスマレイミド、N,N'−エチレンジマレイミド、N,N'−(1,2−フェニレン)ジマレイミド、N,N'−(1,3−フェニレン)ジマレイミド、N,N'−チオジマレイミド、N,N'−ジチオジマレイミド、N,N'−ケトンジマレイミド、N,N'−メチレンビスマレインイミド、ビスマレインイミドメチル−エーテル、1,2−ビスマレイミド−1,2−エタンジオール、N,N'−4,4'−ジフェニルエーテル−ビスマレイミド、4,4'−ビスマレイミド−ジフェニルスルホンなどを挙げることができる。
【0038】
本発明の一実施形態として、上記融点降下剤は、アミド、イミド、マレイミドなどが含まれる。
【0039】
前記結着材中に含まれるこれらの融点降下剤あるいは/及びPVDF共重合体の含有率は、1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは、2〜40質量%であり、さらに好ましくは5〜30質量%である。融点降下剤の含有量が1質量%より少ないと、結着成分の融点降下作用が小さく、また50質量%より多いと、結着材として電極活物質との結合力が低下するおそれがある。
【0040】
本実施形態の結着材は、結着成分としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、融点降下剤あるいは/及びPVDF共重合体とを、これらを共に溶解する共通溶媒に溶解した後、溶媒置換して沈殿させた混合物として調製することが好ましい。この方法により調製された結着材は、結着成分と融点降下剤とが分子レベルで均一に混合した状態で存在するからである。
【0041】
他の実施形態では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、融点降下剤あるいは/及びPVDF共重合体との粉体混合物を、ボールミルやロッキングミキサーなどの粉体混合機又は公知の解砕機などにて混合して調製してもよい。電解液若しくは電極合剤層を調製する際の溶媒中で容易に均一化して結着材となるからである。
【0042】
(PVDF共重合体)
融点降下剤としては、フッ化ビニリデン単量体と他の含フッ素単量体又は含酸素単量体との共重合体(PVDF共重合体)であってもよい。他の含フッ素単量体としては、例えば、フッ化ビニル、3−フッ化プロピレン、フルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられ、含酸素単量体としては、エチレングリコール等が挙げられる。好ましくはPVDF−HFP(ポリ(ビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレン))又はPVDF−PEO(ポリ(ビニリデンフルオリド−オキシエチレン))である。融点降下剤が、これらの共重合体である場合は、結着材中に含まれる当該共重合体の含有率は50質量%を超えてもよく、好ましくは1〜75質量%である。
【0043】
あるいは、他の一実施形態として、結着成分であるPVDFと、融点降下剤とを分子内に含むポリフッ化ビニリデン(PVDF)共重合体を結着材として用いてもよい。この場合には、非水電解質の存在下に、PVDF共重合体の溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度が、フッ化ビニリデン単独のポリマーであるPVDFの場合に比べて低下していることが好ましく、例えば、45℃〜110℃、より好ましくは、50℃〜100℃に溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度を有するものである。このようなPVDF共重合体としては、PVDF−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)及びPVDF−PEO(ポリオキシエチレン)等を用いることができる。
【0044】
さらに、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とPVDF共重合体とを混合することで、溶融開始温度及び/又は溶融ピーク温度を所望の温度に調整して用いることができる。
【0045】
(無機酸化物フィラー)
多孔質絶縁層には、さらに無機酸化物フィラーを含むことが好ましい。この無機酸化物フィラーとしては、酸化アルミニウム(α−Al、γ−Al)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、ベーマイト(AlOOH))、マグネシア(酸化マグネシウム:MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、シリカ(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)、炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)または窒化ホウ素(BN)などが用いられる。これらは1種で用いても2種以上を混合して用いてもよい。無機酸化物フィラーの形状は、限定されるものではなく、例えば、球形状、針状、楕円体状、板状、鱗片状などの種々の形状のものを用いることができる。また、その平均粒径も特に限定されないが、0.01〜5μmであることが好ましい。本明細書において、「平均粒径」とは、特記しない場合、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50体積%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径)をいう。
【0046】
多孔質絶縁層における無機酸化物フィラーの含有量は、0〜99質量%であり、80〜90質量%程度が好ましい。無機酸化物フィラーの添加量を多くすれば、セパレーターの耐熱性に寄与し、無機酸化物フィラーの添加量を極力少なくすればセパレーターに密着する多孔質絶縁層となって、内部短絡時に結着材が溶融し安全性向上に寄与する。さらに、無機酸化物フィラーの種類や物性を選択することにより、電池の過充電時に電解液を分解しガスを発生させることもできる。
【0047】
(ガス発生剤)
本実施形態におけるガス発生剤としては、所定の電池電圧を超えた際(例えば、4.8〜5.0Vの過充電状態となった場合)に分解してガスを発生しうる化合物であれば制限されない。好ましくは、分解して炭酸ガスを発生する化合物であって、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸水素リチウム(LiHCO)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、4,4'−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)(OBSH)及びアゾジカルボンアミド(ADCA)などから選択される1種又はそれ以上を用いることができる。多孔質絶縁層におけるガス発生剤の含有量は、0〜10質量%であり、0.5〜5質量%程度が好ましい。また、多孔質絶縁層に無機酸化物フィラーとガス発生剤がともに含まれる場合、無機酸化物フィラーに対するガス発生剤の含有比率は、90:10〜99:1が好ましい。
【0048】
多孔質絶縁層の製造方法としては、上記結着材並びに所望により無機酸化物フィラー及びガス発生剤を、水、又はN−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどに代表される非プロトン性極性溶剤もしくはこれらの混合液に溶解又は分散してなるスラリーを、電極合剤層又はセパレーターの表面に塗布して、乾燥することによって製造することができる。スラリー塗布後に乾燥することにより、分散溶媒(水又は有機溶媒)が揮発して開孔し多孔質層が形成される。このときの孔の大きさは、無機酸化物フィラーを少量添加することにより増加させることができる。
【0049】
水系結着材(例えば、水分散系PVDFと水分散系PMMAなど)を使用した場合は、ガス発生剤としての炭酸リチウムと共に、水に不溶又は難溶なシクロヘキシルベンゼン(CHB)やビフェニル(BP)を混ぜ込むこともできる。この場合も、溶媒が揮発する際に孔が開き、多孔質層を形成することができる。多孔質層に混ぜ込んだCHBやBPは、カーボネート系の電解液に接触すれば溶出するため、これらのガス発生剤を電解液に添加する場合と同様の作用を発揮する。
孔の大きさや量はスラリー固形分濃度や乾燥速度によって調節することができる。好ましくは、無機酸化物フィラー、ガス発生剤及び結着材を、76:4:20〜94:5:1の比率で混合したスラリーを正極合剤層の表面に塗布し乾燥させて、正極合剤層の表面に多孔質絶縁層を形成し、これをロールプレスによって所定の厚みに圧縮して作製することができる。
【0050】
[電極層]
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質でありうる。具体的には、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、リチウム及びニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素及び/又は典型金属元素)を、原子数換算でニッケルと同程度またはニッケルよりも少ない割合で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、Co,Mn,Al,Cr,Fe,V,Mg,Ca,Na,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0051】
好ましい実施形態において、上記正極活物質は、例えば、一般式(1):LiNi1−x−yCoAl(但し、式中において、0.95≦t≦1.15、0≦x≦0.3、0.1≦y≦0.2、x+y<0.5を満たす。)で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(NCA)が挙げられる。NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05があげられる。
【0052】
他の好ましい実施形態において、上記正極活物質は、例えば、一般式(2):LiNiCoMn(ただし式中、0<a<1、0<b<1、0<c<1であり、a+b+c=1を満たす)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)が挙げられる。NCMは体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れている。
電極合剤層中の正極活物質の含有量は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上である。また、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0053】
(負極活物質)
負極活物質としては、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、および、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれた少なくとも1種(単独で用いてもよいし、これらの2種以上を含む混合物を用いてもよい)を用いることができる。
【0054】
リチウム(又はリチウムイオン)との合金化が可能な金属もしくは合金としては、シリコン、シリコン合金、スズ、スズ合金などを挙げることができる。また、チタン酸リチウムでもよい。
これらの中でもリチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料が好ましい。このような炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料(人造黒鉛、天然黒鉛)、非晶質炭素材料、等が挙げられる。前記炭素材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状いずれの形態であってもよい。
【0055】
前記非晶質炭素材料として具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
【0056】
前記黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。また、黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。また、黒鉛材料としては、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0057】
(導電助剤)
電極合剤層は、導電助剤を含むことが好ましい。本発明で用いる導電助剤としては、公知の導電助剤を使用することができる。公知の導電助剤としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000、LITX−50、LITX−200等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等、グラファイトとしては例えば人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられるが、これらに限定されるものではない。電極合剤層中に含まれる導電助剤の含有量は、好ましくは1質量%以上であり、例えば1〜10質量%程度とすることが好ましい。
【0058】
[集電体]
本実施形態における集電体としては、各種のものを使用することができるが、通常は金属や合金が用いられる。図1又は図2において、正極集電体(16又は26)としては、アルミニウムやニッケル、SUS等が挙げられ、負極集電体(11又は21)としては、銅やニッケル、SUS等が挙げられる。その中でも導電性の高さとコストのバランスからアルミニウム、銅が好ましい。なお、アルミニウムは、アルミニウム及びアルミニウム合金を意味し、銅は純銅および銅合金を意味する。本実施形態において、アルミニウム箔は二次電池正極側、二次電池負極側、銅箔は二次電池負極側に用いることができる。アルミニウム箔としては、特に限定されないが、純アルミ系であるA1085材や、A3003材など種々のものが使用できる。また、銅箔としても同様であり、特に限定されないが、圧延銅箔や電解銅箔が好んで用いられる。
【0059】
(電極層の形成方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池が備える電極層は、上述した電極活物質、導電助剤、及び結着剤を含む電極合剤スラリーを集電体の表面に塗布して、乾燥することによって製造することができる。電極活物質を結着させる結着剤は、PVDFに代表されるフッ素系樹脂、多糖類高分子、SBRなどを用いることができるが、これに限定されるものではない。また、上記多孔質絶縁層に含まれる結着材を使用することもできる。この場合、上述した結着材を溶媒に溶解させた溶液に、前記電極活物質及び導電助剤を分散させで電極合剤スラリーを形成することが好ましい。
【0060】
合剤スラリーに含まれる溶剤は、上記結着材を調製する際の共通溶媒と兼ねるものであり、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどに代表される非プロトン性極性溶剤もしくはこれらの混合液を選択できる。
【0061】
集電体へ合剤スラリーを塗布・乾燥する上で、塗布・乾燥方法は特に限定されない。例えば、スロット・ダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、又はグラビアコーティングなどの方法が挙げられる。乾燥方法としては、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線などの乾燥法が挙げられる。乾燥時間や乾燥温度については、特に限定されないが、乾燥時間は通常1分〜30分であり、乾燥温度は通常40℃〜180℃である。
合剤層の製造方法においては、集電体上に上記合剤スラリーを塗布乾燥後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。
【0062】
[電解液]
電解液としては、例えば、通常リチウムイオン二次電池で用いられるものであることが好ましく、具体的には、有機溶媒に支持塩(リチウム塩)が溶解した形態を有する。リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li10Cl10)等の無機酸陰イオン塩、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CFSON)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(CSON)等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩等を挙げることができる。その中でも、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)が好ましい。
【0063】
また、有機溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ラクトン類、含フッ素γ−ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類及び含フッ素鎖状エーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を用いることができる。
【0064】
環状カーボネート類としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)を挙げることができる。また、含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を挙げることができる。更に、鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)を挙げることができる。また、脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルを挙げることができる。更に、γ−ラクトン類としては、例えば、γ−ブチロラクトンを挙げることができる。また、環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンを挙げることができる。更に、鎖状エーテル類としては、例えば、1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを挙げることができる。その他としては、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類を挙げることができる。これらは、1種を単独で、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
(ガス発生化合物)
電解液にはさらにガス発生化合物を含むことができる。このガス発生化合物は、電解液に直接添加してもよく、あるいは、電池内部において多孔質絶縁層から電解液に溶出させてもよい。電解液に含有されるガス発生化合物は、所定の電池電圧を超えた際(例えば、4.5V以上の過充電状態となった場合)に、分解してガスを発生し得る化合物である。このガス発生化合物としては、水素を発生する化合物が好ましく、シクロアルキルベンゼン化合物(例えば、シクロヘキシルベンゼン(CHB))、アルキルベンゼン化合物、ビフェニル化合物(例えば、ビフェニル(BP))、アルキルビフェニル化合物からなる群より選ばれた1種以上を添加することができる。電解液に対するガス発生化合物の添加量は、あらかじめ定めた条件で所定量のガスが発生する限り特に限定されないが、例えば、約0.05〜5.0質量%であり、好ましくは0.1〜4.0質量%である。
【0066】
[作用・効果]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、内部短絡時の瞬間的な温度上昇に対して、電極とセパレーターとの間に形成された多孔質絶縁層内の結着材が溶融してリチウムイオンの透過を阻害し、それによって電池の内部短絡時の発熱を抑制するという作用効果を奏する。さらに、好ましい実施形態では、過充電時の緩やかな温度上昇に対して、電極とセパレーターとの間に形成された多孔質絶縁層から水素(H)や二酸化炭素(CO)などのガスが発生し、圧力検知式の電流遮断装置(CID:CURRENT Interrupt Device)の作動を促進するという利点がある。
【実施例】
【0067】
本発明に係るリチウムイオン二次電池が、内部短絡時等に発揮する発熱抑制作用は多孔質絶縁層に含まれる融点降下剤の融点降下作用に起因すると考えられる。そこで、以下にその典型的な具体例を挙げて説明する。
【0068】
[DSCによる非水電解質共存下での結着材の融点測定]
<融点降下剤一覧表>
融点降下剤として用いた化合物の一覧表を以下の表1に示す。
【表1】
【0069】
<サンプル調製>
PVDFと種々の融点降下剤(粉末)とを、所定の割合にてメノウ乳鉢を用いて約15分混合した。例えば、PVDF(粉末)と融点降下剤(粉末)との混合比が1:1の場合、それぞれ0.1gを秤量して混合した。この混合粉末を常温(25℃)で10時間以上真空乾燥した。
予め秤量しておいたDSC測定用のSUS−PANに、上記試料3mgを秤量し投入した。続いて、電解液(1M−LiPF/3EC7EMC)6mgを、上記SUS−PANへ追加した(重量比で粉:電解液=1:2)。その際、目視で粉体がほぼ全て液に浸漬している状態になっていることを確認した。素早く蓋(予め秤量)をセット(秤量)し、専用プレスで密閉シールした。
【0070】
<測定>
日立ハイテクサイエンス製高感度型示差走査熱量計DSC7000X装置を用い、走査速度5℃/分、室温→210℃の条件で融解温度を測定した。
【0071】
<結果>
表2に、PVDFのメーカー名及び商品名と、PVDF単独の溶融温度を示す。
【表2】
【0072】
表3に、結着成分(PVDF)75質量%と融点降下剤25質量%、又はそれぞれ50質量%ずつを混合した時の融解開始温度及びピーク温度(融点)を表に示す。
【表3-1】
【表3-2】
【0073】
表2及び3に示したように、上記PVDFと融点降下剤との混合物は、約70℃から融解が始まり、90℃〜130℃付近にピーク温度を有することが分かった。
また、図3には、表2に示したPVDFW#7200の粉体試料(実線)若しくはこれに電解質を共存させた試料(点線)と、PVDFW#7200にPMMAを25%添加した試料(表3の上から1行目)のDSCチャートを示す。図3に示した結果から、融点降下剤の添加によって、結着成分であるPVDFの溶融開始温度及び融点が明らかに低下していることが分かる。
【0074】
[実施例1]
正極作
1.正極合剤層スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
NCM523(Umicore社製、組成式 LiNi0.5Co0.2Mn0.3)920gと、Super−P(TIMCAL社製導電性カーボン)20g、KS−6(TIMREX社製鱗片状黒鉛)20gを10分間混合した後、N−メチルピロリドン(NMP)を100g加え更に20分間混合した。
次いで、8%−PVDF溶液(クレハ製PVDFW#7200をNMPに溶解)200gを加えて、30分間混練した後、更に8%−PVDF溶液200gを加えて30分間混練した。次いで、8%−PVDF溶液100g加えて30分間混練した。その後、粘度調整のためNMP52gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。こうして固形分濃度62%のスラリーを調製した。このようにして作製した正極の組成は、質量比で、NCM523:Super−P:KS−6:PVDF=92:2:2:4である。
【0075】
2.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。乾燥後の塗布重量が19.0mg/cmになるように、上記スラリーをアルミ箔(厚み20μm、幅200mm)の片面に塗布し乾燥した。次いで、反対面(未塗工面)に、同様に塗布重量が19.0mg/cmになるように、上記スラリーをアルミ箔に塗布し乾燥した。こうして得た両面塗工(38.0mg/cm)した正極を作製した(CA−1)。
【0076】
3.オーバーコート層スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
炭酸リチウム860g、Super−P(TIMCAL社製導電性カーボン)100g、8%−PVDF溶液(クレハ製PVDFW#7200をNMPに溶解)250g、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)20gに、N−メチルピロリドン(NMP)540gを加えて30分間混合した。
次いで、NMP1125gを加え更に60分間混合した後、真空脱泡30分間を行い、固形分濃度32%のスラリーを調製した。
【0077】
4.塗工・乾燥
正極合剤層と同様にして、スラリー塗工にはダイコーターを用いた。乾燥後の塗布重量が2.0mg/cmになるように、上記スラリーを正極合剤層が塗布されたアルミ箔(厚み20μm、幅200mm)の片面に塗布し乾燥した。さらに、もう一面にも塗布し乾燥した。こうしてオーバーコート層(OC−1)を塗布した正極CB−1を得た。
【0078】
5.プレス
35トンプレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記正極をプレス密度が2.95±0.05g/cmになるように圧縮した。
【0079】
6.スリット
電極塗布面積(表面:56mm×334mm、裏:56mm×408mm)とタブ溶接余白が得られるように電極をスリットし正極C−1を得た。
【0080】
負極作製
1.スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
天然黒鉛930gと、Super−P10gを10分間混合した後、NMPを500g加え更に20分間混合した。次いで、8%−PVDF溶液(PVDFをNMPに溶解)500gを加えて30分間混練した後、更に8%−PVDF溶液250gを加えて30分間混練した。その後、粘度調整のためNMP32gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。こうして固形分濃度45%のスラリーを調製した。このようにして作製した負極の組成は、質量比で、天然黒鉛:Super−P:PVDF=93:1:6である。
【0081】
2.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。
乾燥後の塗布重量が11.0mg/cmになるように、上記スラリーを銅箔(厚み10μm)の片面に塗布し乾燥した。次いで、反対面(未塗工面)に、同様に塗布重量が11.0mg/cmになるように、上記スラリーを銅箔に塗布し乾燥した。こうして得た両面塗工(22.0mg/cm)した負極ロールを、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥した。
【0082】
3.プレス
小型プレス機を用いた。
上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記負極をプレス密度が1.45±0.05g/cmになるように圧縮した。
【0083】
4.スリット
電極塗布面積(表面:58mm×372mm、裏面:58mm×431mm)とタブ溶接余白が得られるように電極をスリットし、負極A−1を得た。
【0084】
[実施例2]
オーバーコート層スラリーの調製以外は実施例1と同様に正極及び負極を作製した。オーバーコート層スラリーは、実施例1で用いたPMMAの代わりに8%−PVDF−HFP溶液(ARKEMA製FLEX2751をNMPに溶解)250gを添加してオーバーコート層スラリー(OC−2)を調製し実施例1と同様の方法にて塗工・乾燥を行い、オーバーコート層(OC−2)を塗布した正極CB−2を得た。
【0085】
[実施例3]
オーバーコート層スラリーの調製以外は実施例1に準じて正極及び負極を作製した。オーバーコート層スラリーの調製は、5Lのプラネタリーディスパを用いて行った。粒径2μm、比表面積2m/gのα−アルミナ(Al)430g、炭酸リチウム430g、Super−P(TIMCAL社製導電性カーボン)100g、8%−PVDF溶液(クレハ製PVDFW#7200をNMPに溶解)250g、8%−PVDF−HFP溶液(ARKEMA製FLEX2751をNMPに溶解)250gに、N−メチルピロリドン(NMP)540gを加えて30分間混合した。次いで、N−メチルピロリドン(NMP)を1125g加え更に60分間混合した後、真空脱泡30分間を行い、固形分濃度32%のスラリー(OC−3)を調製した。
【0086】
実施例1と同様にして、スラリー塗工にはダイコーターを用いた。乾燥後の塗布重量が2.0mg/cmになるように、上記スラリーを正極合剤層が塗布されたアルミ箔(厚み20μm、幅200mm)の片面に塗布し乾燥した。さらに、もう一面にも塗布し乾燥した。こうしてオーバーコート層(OC−3)を塗布した正極CB−3を得た。
【0087】
[試料作製]
表4に示した正極仕様からなる正極(C−1)に、表5のオーバーコート層の各種仕様を配した試験用正極(片面塗工、電極面30mm×30mm)の余白部分にアルミニウム製タブを超音波接合機で接合した(CK1)。表4の負極仕様(A−1)を配した試験用負極のCu箔2.8cm×2.8cmにニッケル製タブを超音波接合機で接合した(AK1)。CK1の塗布面にPEセパレーターを挟んでAK1を接触させ、5cm×5cmのラミネートシートで挟み込み、3辺を加熱シールした。電解液注液前に、上記を真空乾燥機にて、70℃×12h減圧乾燥した。電解液(1mol−LiPF、EC/DEC=3/7(vol.比))300μLを注液した後、真空引きしながら加熱シールした(K1)。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
[加熱抵抗測定]
作製した試料セル(K1)を拘束圧力0.2kgf/cmにてヒートブロックで挟み込み、測定条件は、例えば、室温から約200℃まで、5℃/分で昇温する。このとき各周波数(例えば、1kHz、10kHz、100kHz)での交流抵抗値(Ω)を得ることができる。その結果の一例を以下に示した。表6は上記試料について測定した抵抗増大開始温度と最大抵抗値の値である。なお、参考例1はオーバーコート層なしの正極を用いて行った試験結果である。
【0091】
【表6】
【0092】
多孔質絶縁層付セパレーターの作製
1.スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
粒径2μm、比表面積2m/gのα−アルミナ(Al)、PVDF(Solvay製Solef5130)、炭酸リチウム及びシクロヘキシルベンゼン(CHB)及びビフェニル(BP)を、以下の表7に記載した割合で、水又はN−メチルピロリドン(NMP)中に分散し、多孔質絶縁層用スラリーを調製した。
【0093】
【表7】
【0094】
PP層とPE層とPP層とが順に積層されて構成されたセパレーター基材(空隙率50%、厚さが16μm)を準備した。グラビア塗工装置を用いて、セパレーター基材に多孔質絶縁層用スラリーを塗布した。このようにして多孔質な基材の片側の表面に多孔質絶縁層(厚さが4〜5μm)を有するセパレーターを得た。
【0095】
[試料作製]
表4に示した正極仕様(C−1)及び負極仕様(A−1)と、表7に示した多孔質絶縁層付セパレーターとを用いて、上記と同じ方法にて加熱抵抗測定用の試料(K−1)を作製した。
【0096】
[加熱抵抗測定]
作製した試料セル(K1)を拘束圧力0.2kgf/cmにてヒートブロックで挟み込み、測定条件は、例えば、室温から約200℃まで、5℃/分で昇温する。このとき各周波数(例えば、1kHz、10kHz、100kHz)での交流抵抗値(Ω)を得ることができる。その結果の一例を以下に示した。表8は上記試料について測定した抵抗増大開始温度と最大抵抗値の値である。なお、参考例2は、多孔質絶縁層なしのセパレーターを用いて行った試験結果を示す。
【0097】
【表8】
【0098】
電池作製
捲回型電池(設計容量1Ah)
1.捲回
表5に示したオーバーコート層又は表7に示した多孔質耐熱層付セパレータ(60.5mm×450mm)を用いて捲回型電池(設計容量1Ah)を作製した。
負極A−1(表面/裏面)とセパレーター(多孔質絶縁層が正極C−1と接するように配置)と正極C−1(裏面/表面)とセパレーター(多孔質絶縁層が正極C−1と接するように配置)を重ねて捲回した後プレス成型した。次いで、正極C−1の余白部分にアルミニウム製タブを超音波接合機で接合し、負極A−1の余白部分にニッケル製タブを超音波接合機で接合した。これをラミネートシートで挟み込み、3辺を加熱シールした。
【0099】
2.電解液注液
電解液注液前に、上記を真空乾燥機にて、70℃×12h減圧乾燥した。電解液(1mol−LiPF6、EC/DEC=3/7(vol.比)、添加剤VC 1.0質量%)4.7±0.1gを注液した後、真空引きしながら加熱シールした。
【0100】
3.活性化処理
電解液注液後の電池を24h保持した。次いで、0.05Cで4h定電流充電(0.05C−CC)した後12h休止した。その後、0.1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電(0.1C−CCCV)し、30分間休止した後、2.8Vまで0.1Cで定電流放電(0.1C−CC)した。更に、充放電サイクル(0.1C−CCCVで4.2Vの充電と、0.1C−CCで2.8Vの放電)を5回繰り返した後、4.2V(SOC100%)の満充電にした状態で、25℃、5日間保存した。こうして電池D−1を得た。
【0101】
[試験例及び比較例]
[圧壊試験]
実施例1で作製した正極及び負極を有する捲回型電池(設計容量1Ah)を用いて圧壊試験を行った。直径10mmのシリンダーで、速度1mm/秒で電池(セル)の中央部を圧迫し、電池厚みの50%深さまで圧壊し、電池容器の内部において正極と負極とを短絡させた。同一仕様で作製した電池を用いて行った5回の圧壊試験の結果、うち4回で発熱抑制効果を確認できた。
比較例としては、実施例1の仕様においてオーバーコート層を設けない正極を用いて捲回型電池(設計容量1Ah)を作製した(比較例1)。同様の圧壊試験を5回行ったところ、全てで発熱抑制効果が確認できなかった。
【0102】
以下に、実施例1と同様の仕様で作製したその他のオーバーコート層仕様の電池(表5に示したOC−2〜OC−11のオーバーコート仕様の正極を有する電池を実施例2〜11とする)及びセパレーター仕様の電池(表7のOC−101及びOC102の絶縁層仕様のセパレーターを有する電池を参考例101及び102とする)を用いて行った圧壊試験結果(表9)をまとめて示す。なお、比較例としては、参考例101と同様の仕様においてオーバーコート層を設けないセパレーターを用いて捲回型電池(設計容量1Ah)を作製した(比較例2)。同様の圧壊試験を5回行ったところ、全てで発熱抑制効果が確認できなかった。
【0103】
【表9】
【0104】
また、上記実施例1〜11並びに参考例101及び102で作製したそれぞれ5個の電池を用いて、1CでSOC200%(1Cで2hr)充電後、CID機構の付いた筐体に捲回体を挿入して過充電試験を行い、電流遮断機構が作動する頻度を調べたところ、比較例として、オーバーコート層の無い正極を用いて作成した電池(比較例1)及び多孔質絶縁層が無いセパレーター(空隙率45%、厚さが20μm)を用いて作製した電池(比較例2)と比較して、有意な差が認められた。その結果を以下の表10に示す。
【0105】
【表10】
【0106】
また、上記実施例1〜11並びに参考例101及び102で作製したそれぞれ5個の電池を用いて、1CでSOC200%(1Cで2hr)充電後、CID機構の付いた筐体に捲回体を挿入して過充電試験を行い、電流遮断機構が作動する頻度を調べたところ、比較例として、オーバーコート層の無い正極を用いて作成した電池(比較例1)及び多孔質絶縁層が無いセパレーター(空隙率45%、厚さが20μm)を用いて作製した電池(比較例2)と比較して、有意な差が認められた。その結果を以下の表11に示す。
【0107】
【表11】
【符号の説明】
【0108】
10、20 電極層
11、21 負極集電体
12、22 負極合剤層
13、23 セパレーター
14、24 多孔質絶縁層
15、25 正極合剤層
16、26 正極集電体
図1
図2
図3