特許第6989127号(P6989127)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人広島市立大学の特許一覧

<>
  • 特許6989127-道路修繕順位決定システム 図000005
  • 特許6989127-道路修繕順位決定システム 図000006
  • 特許6989127-道路修繕順位決定システム 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989127
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】道路修繕順位決定システム
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/01 20060101AFI20211220BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20211220BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20211220BHJP
【FI】
   E01C23/01
   G08G1/00 J
   G01M99/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-76719(P2018-76719)
(22)【出願日】2018年4月12日
(65)【公開番号】特開2019-183527(P2019-183527A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2020年11月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月7日に、日本機械学会中国四国支部 学術講演会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】510108951
【氏名又は名称】公立大学法人広島市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴彦
【審査官】 小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−243535(JP,A)
【文献】 特開2007−072667(JP,A)
【文献】 特開2008−297872(JP,A)
【文献】 特開2016−089593(JP,A)
【文献】 特開2016−113814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 23/01
G08G 1/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
救急車の緊急走行中に、車内に設置した測位センサ及び加速度センサで、それぞれ、車両の緯度lat [deg]、経度lng [deg]、速度v [m/s]、上下方向加速度ax [m/s2]、左右方向加速度ay [m/s2]、前後方向加速度az [m/s2]を時系列データとして計測する走行データ計測部と、前記走行データ計測部で計測された前記上下方向加速度ax、前記左右方向加速度ay、前記 前後方向加速度azから、時系列値として、国際規格ISO2631-1に基づいて、仰臥位に対する不快度aw [m/s2]を計算する不快度計算部と、前記走行データ計測部で計測された前記上下方向加速度ax、前記左右方向加速度ay、前記 前後方向加速度azの時系列計測値と、前記不快度計算部で計算された前記不快度awの時系列計算値を記録する記録部と、前記記録部に記録された時系列データである前記緯度lat 、前記経度lng 、前記速度v [m/s]、及び、前記不快度awの時系列計算値を基に修繕候補箇所を選定する修繕候補箇所選定部と、前記修繕候補選定部で選定された前記修繕候補箇所について、評価指数に基づいて前記修繕候補箇所の優先順位を決定する優先順位決定部を備える、道路修繕順位決定システム。
【請求項2】
前記修繕候補箇所の選定は、前記不快度awが閾値TH1 [m/s2]以上、かつ、速度vが閾値TH2 [m/s]以上となるデータを異常データとして抽出し、抽出された前記異常データについて、前記緯度latと前記経度lngを用いて、地図上で半径R [m]の同一円以内に入る異常データを同一箇所の異常データと見なしてグループ化し、これを前記修繕候補箇所とすることを特徴とする請求項1に記載の道路修繕順位決定システム。
【請求項3】
前記異常データ抽出時の不快度閾値THI及び速度閾値TH2が、それぞれ、1.25、5.56であることを特徴とする、請求項2に記載の道路修繕順位決定システム。
【請求項4】
前記異常データをグループ化するための、前記地図上での円の半径Rを25とすることを特徴とする、請求項2に記載の道路修繕順位決定システム。
【請求項5】
前記優先順位決定部での優先順位の決定方法は、グループ化されたN番目の前記修繕候補箇所に含まれる異常データの個数nについて、前記不快度aw、前記速度v、及び、単調増加関数K(n)で表される式(1)で与えられる評価指数J(N)の値が大きいほど上位に位置づけることを特徴とする請求項2に記載の道路修繕順位決定システム。
(1)
【請求項6】
前記式(1)の単調増加関数K(n)を、正の実数cに対して、K(n)=n/(n+c)と設定することを特徴とする請求項5に記載の道路修繕順位決定システム。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窪みや段差のある道路を補修又は修繕する場合、救急搬送の安全性向上の観点から、救急車の走行データを利用してその優先順位を決定するシステムに関し、より詳細には、緊急走行時の救急車の緯度、経度、速度、ISO2631-1で規定される周波数補正加速度実効値(以下、不快度と略記することがある。)を時系列データとして計測及び記録して修繕候補箇所を抽出し、当該修繕候補箇所における不快度と検出回数、および救急車の通過速度を考慮した評価指標に基づいて修繕の優先順位を決定することを特徴とする道路修繕順位決定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
救急機関員は、緊急走行時、患者に急激な速度変動や振動等による負荷を与えることを避けるため、振動の発生要因となる段差等がある箇所を可能な限り避けて走行し、回避不可能な場合には事前に減速して過大な振動が発生しないように対処している。一方、現状の道路修繕箇所の選定は市民からの連絡、専門業者による振動データや振動体感に基づいて行われていると推測されるが、救急救命という観点で適正な選定になっているか否かには不安がある。
【0003】
特許文献1には路面状態を正確に検出する方法が開示され、点検車両のタイヤと路面との接触音の基準データが地図情報に対応して記憶され、他の主体から得られた接触音が提供されたとき、その平均音量が基準データの基準音量より大きい場合、その区間の路面は舗装の必要性があると判定している。この判定法で使用する基準データは救急車から得られたデータとは限らず、また、舗装が必要な路面が複数存在する場合でも、その優先度までは決定することはできない。したがって、救急搬送時の安全性という観点からは、適正な道路修繕箇所の選定に繋がるか否かは定かではない。
【0004】
特許文献2には道路修繕が必要な場所の特定に要する時間を短縮するための方法として、走行中の車両から道路の異常を検知して修繕が必要な箇所を特定することが開示されているが、具体的な検知方法は開示されておらず、修繕の優先順位付けに関する方法も示されていない。したがって、救急搬送時の安全性向上のための適正な道路修繕箇所の選定という観点からは課題が残されている。
【0005】
特許文献3には車両を用いて路面性状情報を取得し、この道路と同一の仕様又は修繕履歴を有する他の道路で事前に取得された路面性状情報と比較することで、路面状態が異常であるか否かを判定する方法が開示されているが、救急搬送車両に限定して路面性状情報を得るものではなく、また、異常と判定された路面が複数存在しても修繕の優先順位までは求めることはできていない。そのため、救急搬送時の安全性向上のための適正な道路修繕箇所の選定という観点からは課題が残されている。
【0006】
特許文献4には道路の補修優先度を簡易に判定することができる道路維持管理システムと制御方法及びコンピュータプログラムが開示されており、公的機関とそれとは異なる主体から道路情報を取得し、両者を比較することで補修の優先度を決定する方法が示されているが、公的機関以外からの道路情報は道路の損傷状態を定量的に評価したデータではなく、救急搬送時の安全性向上という観点から、適正な道路修繕箇所の優先順位決定に繋がるか否かは定かではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−243535号公報
【特許文献2】特開2007−072667号公報
【特許文献3】特開2008−297872号公報
【特許文献4】特開2016−089593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
救急搬送機関員は、患者に急激な速度変動や振動等による負荷を与えないために、安全性が確保される範囲内で、振動の発生要因となる段差等がある箇所を避けて走行する。回避が不可能な場合には経験的に段差通過時の振動が患者に悪影響を与えるか否かを予測し、悪影響を与えると判断した場合には通過前に速度を落として過大な振動が起きないように対処している。一方、市民や専門業者が運転する自動車では、患者の救急搬送を想定していないため、段差等を回避できる状況でも素通りし、かつ減速せずに通過することが一般的と考えられる。このように、救急搬送車両とそれ以外の自動車では運転の仕方が異なっており、市民や専門業者から提供された振動データに基づいて道路の修繕優先度を決定しても、救急搬送時の安全性向上の観点から適正であるか否かは定かではない。
本発明は、救急搬送車両と一般自動車の走行法の違いに着目し、救急搬送車両の走行データを利用することで、救急搬送時の安全性向上を最優先に考えた道路の修繕の優先度を決定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するための本発明の道路修繕順位決定システムは、救急車の緊急走行中に、
車内に設置した測位センサ及び加速度センサで、それぞれ、車両の緯度lat [deg]、経度lng [deg]、速度v [m/s]、上下方向加速度ax [m/s2]、左右方向加速度ay [m/s2]、前後方向加速度az [m/s2]を時系列データとして計測する走行データ計測部と、国際規格ISO2631-1に基づいて、上下方向加速度ax、左右方向加速度ay、 前後方向加速度azから、時系列値として、仰臥位に対する不快度aw [m/s2]を計算する不快度計算部と、これらの時系列計測値および時系列計算値を記録する記録部と、記録部に記録された時系列データを基に、修繕候補箇所を選定する修繕候補箇所選定部と、後述する評価指数に基づいて選定した修繕候補箇所の優先順位を決定する優先順位決定部を備える。
【0010】
修繕候補箇所の選定は、記録部に蓄えられた時系列データから、不快度awが閾値TH1 [m/s2]以上(aw≧TH1)、かつ、速度vが閾値TH2 [m/s]以上(v≧TH2)のデータ(以下、異常データと略記することがある。)を抽出し、抽出された異常データに対して、緯度latと経度lngを用いて、地図上で半径R [m]の同一円以内に入る異常データを同一箇所の異常データと見なしてグループ化し、これを修繕候補箇所とすることとしても良い。
【0011】
異常データ抽出時の不快度閾値THI及び速度閾値TH2は、それぞれ、1.25、5.56とすることとしても良い。
【0012】
異常データをグループ化するための地図上での円の半径Rは25とすることとしても良い。
【0013】
優先順位決定部での優先順位の決定方法は、式(1)で与えられる評価指数J(N)の値が大きいほど上位に位置づけることとしても良い。
(1)
式(1)において、nはN番目の修繕候補箇所に属する異常データの数である。
また、K(n)は、異常データ数nに対して単調的に増加して1に収束する飽和関数である。
【0014】
評価指数J(N)の計算時、飽和関数K(n)は、正の実数cに対して、K(n)=n/(n+c)と設定することとしても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、道路修繕箇所の選定に救急車の緊急搬送時の走行データを利用し、回避困難な段差等を通過する際に取る機関員の減速行動が反映された評価指数に基づいて修繕箇所の順位付けをすることで、救急搬送時の安全性向上という観点から、適正な道路修繕箇所の選定と順位付けが可能となる。
さらに、異常データ数nと速度vが同じであるような段差等が複数点在していた場合、より大きな振動が検出された場所ほど優先順位が上がる。これは,一般ドライバーから見た場合、不快度の低減を目的とした順位付けと解釈でき、本発明は、一般自動車の振動乗り心地改善という観点からも、道路修繕箇所の適正な優先順位付けが可能なシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のシステム構成を示す図である。
図2】本発明の実施例での修繕候補箇所選定結果例を示す図である。
図3】本発明の実施例での優先順位決定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を用いて、本発明の道路修繕順位決定システムの構成及びデータ処理手順を説明する。
図1において、1は走行データ計測部であり、救急車の緊急走行中に、車内に設置した、図には示さなかった測位センサ及び加速度センサで、それぞれ、車両の緯度lat [deg]、経度lng [deg]、速度v [m/s]、上下方向加速度ax [m/s2]、左右方向加速度ay [m/s2]、前後方向加速度az [m/s2]を時系列データとして計測する。2は不快度計算部であり、国際規格ISO2631-1に基づいて、ax、ay、azから、時系列値として、仰臥位に対する不快度aw [m/s2]を計算する。3は記録部であり、これらの時系列計測値および時系列計算値を記録する。4は修繕候補箇所選定部であり、記録部3に記録された時系列データを基に、修繕候補箇所を選定する。
修繕候補箇所選定部4では、不快度awが閾値TH1 [m/s2]以上(aw≧TH1)、かつvが閾値TH2 [m/s]以上(v≧TH2)のデータを異常データとして抽出し、latとlngを用いて、地図上で半径R [m]の同一円以内に入る異常データを同一箇所のデータと見なしてグループ化する。これを修繕候補箇所とし、固有のグループ番号Nを与える。5は優先順位決定部であり、式(1)で与えられる評価指数J(N)によって修繕候補箇所の優先順位を決定し、J(N)の値が大きいほど上位に位置づける。
(1)
式(1)において、nはグループNに属する異常データ数である。
式(1)から判るように、評価指数J(N)は不快度awに比例して増大し、速度vに反比例して減少する。
【0018】
式(1)の右辺のK(n)は、修繕候補箇所として選定された同一箇所中に含まれる異常データの数nを評価指数J(N)反映させるための補正関数である。例えば、正の実数cを用いてK(n)=n/(n+c)と設定することで、K(n)は、異常データ数nの増加に伴って単調的に増加して1に収束する飽和関数となり、同一グループ内の異常データ数nに合わせてJ(N)を単調的に増加させつつ、かつ、nが大きい修繕候補箇所が無条件に上位に位置づけられないように,J(N)の上限を抑える効果を持たせることができる。
なお、K(n)=n/(n+c)のcは、異常データ数nの値に応じて決定することができる。どの修繕候補箇所でもnが小さい場合には、そのnの範囲内でK(n)が大きく変化して修繕候補箇所ごとにK(n)に差がつくようにcを小さく設定する。逆に、どの修繕候補箇所でもnが大きい場合にはcを大きく設定する。修繕候補箇所ごとにnがばらつく場合には、c=10程度に設定することが望ましい。
【0019】
本発明の実施形態によれば、修繕候補箇所の優先順位を決定するための評価指数J(N)に速度vの逆数が含まれることで、救急機関員が回避困難な段差等を通過する際に取る減速行動が反映され、救急車の安全性向上の観点から適正な優先順位付けを行うことができる。異常データ数nと通過速度vが同じであるような段差等が複数点在していた場合には、振動がより大きな場所ほど優先順位が上がる。これは、一般ドライバーから見ても妥当な順位付けであることから、本発明は、救急車のみならず、一般自動車の振動乗り心地の向上を目的とした道路修繕箇所の優先順位決定法としても適用可能である。
【実施例】
【0020】
走行時の時系列データの計測と記録は、測位センサと加速度センサが組み込まれているアップル社のiPhoneを利用した。iPhoneに計測と計測データの記録を行うプログラムを実装し、1台で緯度、経度、速度、3軸方向(上下方向、左右方向、前後方向)の加速度を記録できるようにした。このiPhoneを自治体が所有する高規格救急車に設置し、緯度、経度、速度をサンプリング周波数1Hzで、3軸方向加速度を100Hzで記録し、合計50搬送分の走行データを得た。
修繕候補箇所の選定は、iPhone内のデータをPCにコピーした後にPC上で行った。不快度aw を計算する際の時間幅は1秒とし、aw≧1.25(ISO2631-1の基準で「不快である」以上に相当する不快度)、かつ、v≧5.56(時速20 km/h以上に相当)を満たすデータを異常データとして抽出した。その後、半径R=25[m]以内の円領域に存在する異常データを同一箇所の異常データと見なしてグループ化した。各グループにはグループ番号として1から始まる整数を与えた。
式(1)で与えられる評価指数の計算と優先順位付けは、PC上で行った。
図2は50搬送分の走行データからaw≧1.25、かつ、v≧5.56となる、半径R=25[m]以内の円領域に存在する異常データを同一箇所の異常データと見なしてグループ化した結果の一例を示したものである。
図3は、図2に示すようにグループ化した複数の修繕候補箇所について、K(n)=n/(n+10)と設定して、評価指数上位10番までの結果を表したものであり、「修繕箇所」欄に記されている○印は、今回の順位付けとは独立して自治体で実際に道路修繕された場所を表す。
優先順位決定部で決定された優先順位1位の場所と自治体での実際の修繕場所が一致する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の道路補修順位決定システムによれば、救急車での実際の患者搬送時に得られた走行データから、搬送経路の道路の窪み、凹凸等に関連する情報を把握することが可能となり、救急救命と言う観点から、補修を要する道路箇所を決定することが可能となる。
本発明は、道路渋滞にかかわらず優先的に走行する救急搬送車によって得られた走行データに基づくシステムであり、道路渋滞等の影響の少ない、道路の窪み、凹凸等が反映された道路補修順位の決定が可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 走行データ計測部
2 不快度計算部
3 記録部
4 修繕候補箇所選定部
5 優先順位決定部












図1
図2
図3