特許第6989133号(P6989133)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989133高スループット、単一細胞への効率的な分子送達のためのフィードバック制御されたエレクトロポレーションマイクロデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989133
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】高スループット、単一細胞への効率的な分子送達のためのフィードバック制御されたエレクトロポレーションマイクロデバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20211220BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20211220BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   C12M1/42
   C12N15/87 Z
【請求項の数】18
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-511721(P2018-511721)
(86)(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公表番号】特表2018-529333(P2018-529333A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】US2016050201
(87)【国際公開番号】WO2017040995
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年9月2日
(31)【優先権主張番号】62/214,665
(32)【優先日】2015年9月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517349186
【氏名又は名称】ラトガース ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニュージャージー
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ザーン,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ミンデ
(72)【発明者】
【氏名】シュライバー,デイヴィッド,アイ.
(72)【発明者】
【氏名】リン,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】シャン,ジェリー,ダブリュ.
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−505073(JP,A)
【文献】 特開平07−184686(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0105565(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0039327(US,A1)
【文献】 特表2008−545415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体細胞をエレクトロポレーションするためのシステムにおいて、
緩衝液中の複数の生体細胞のフローを受容するように適合され、検出領域(312)を含むマイクロ流体チャネル;
前記検出領域を横切る電界を印加するように適合された一対の電極;
前記電極を介して細胞検出信号および透過信号を生成することができる信号生成部;
前記検出領域のインピーダンスを検出するとともに、前記細胞検出信号を用いて前記検出領域のインピーダンスを監視するように適合された検出部であって、ベースライン閾値を超える前記検出領域のインピーダンス値の増加が前記生体細胞の存在を示す検出部;および
制御部であって、
前記検出部によって検出されたインピーダンスに従って前記信号生成部を制御し、
前記検出部によって検出されたインピーダンスに従って前記透過信号を生成するように前記信号生成部を制御し、
前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値よりも大きいかどうかを判定し、
前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値よりも大きいと判定されたことに応じて、前記透過信号の生成を停止するように前記信号生成部を制御し、
前記検出部によって検出されたインピーダンスに従って、送達信号(102)を生成するように前記信号生成部を制御し、前記送達信号が前記検出領域内に集束された細胞内への分子の送達を引き起こし、
前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値と等しくないと判定されたことに応じて、前記送達信号の少なくとも1つのパラメータを調整して、細胞の死を示すインピーダンスの過度の変化に達することなく分子を送達をできるように前記信号生成部を制御する、ように構成された制御部;
を含むことを特徴とする、システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記制御部が、前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値とほぼ等しいかどうかを判定するように構成され、
前記送達信号の少なくとも1つのパラメータを調整して、細胞の死を示すインピーダンスの過度の変化に達することなく分子を送達をできるように前記信号生成部を制御することが、前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値とほぼ等しいと判定されたことに応じて行われることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムにおいて、前記制御部が、前記検出領域のインピーダンス値の検出に応じて、前記透過信号の少なくとも1つのパラメータを調整するように前記信号生成部を制御するように構成されていることを特徴とする、システム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記信号生成部が、前記細胞検出信号および前記透過信号を同時に生成することができることを特徴とする、システム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記検出部が、ロックインアンプを含むことを特徴とする、システム。
【請求項6】
請求項に記載のシステムにおいて、前記ロックインアンプ(325)が、前記細胞の透過を検出するように構成された検出周波数範囲で作動し、前記検出周波数範囲が1kHzから10kHzであることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項に記載のシステムにおいて、前記検出部が、前記検出領域内の細胞の蛍光を測定することができる撮像デバイスをさらに含むことを特徴とする、システム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記マイクロ流体チャネルが、前記検出領域を介して複数の生物細胞のフローを単一の細胞に流体力学的に集束させるように構成されていることを特徴とする、システム。
【請求項9】
請求項8に記載のシステムにおいて、前記複数の生物細胞のフローが連続的であり、選択的に、前記検出領域を通る細胞のインピーダンスの監視が連続的に行われることを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記システムが、緩衝液のフローを受容するように適合された第2のマイクロ流体チャネルをさらに含み、前記第2のマイクロ流体チャネルが第2の検出領域を含むことを特徴とする、システム。
【請求項11】
請求項10に記載のシステムにおいて、前記検出部が、前記第2の検出領域のインピーダンスを検出するように適合されることを特徴とする、システム。
【請求項12】
緩衝液中で生体細胞をエレクトロポレーションする方法において、
前記生体細胞を検出領域(312)に流体力学的に集束させること;
第1の電気信号を生成することであって、前記第1の電気信号が細胞検出信号であること;
ベースライン閾値を超える前記検出領域のインピーダンス値の増加が前記生体細胞の存在を示す、前記検出領域のインピーダンス値を、前記細胞検出信号を用いて監視すること;
前記検出領域のインピーダンスの増加に応答して、第2の電気信号を生成することであって、前記第2の電気信号が透過信号(101)であること;
前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値よりも大きいかどうかを判定すること;
前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値よりも大きいと判定されたことに応じて、前記透過信号を停止すること;
第3の電気信号を生成することであって、前記第3の電気信号が送達信号(102)であり、前記送達信号が前記検出領域内に集束された細胞内への分子の送達を引き起こすこと;
前記検出領域のインピーダンス値の判定に応じて、前記送達信号の少なくとも1つのパラメータを調整して、細胞の死を示すインピーダンスの過度の変化に達することなく分子を送達をできるようにすること;
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法が、さらに、
前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値とほぼ等しいかどうかを判定することを含み、前記検出領域のインピーダンス値が透過閾値とほぼ等しいと判定されたことに応じて、前記送達信号の少なくとも1つのパラメータを調整することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法が、さらに、
前記検出領域のインピーダンス値の検出に応じて、前記透過信号の少なくとも1つのパラメータを調整することを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法が、さらに、
前記検出領域のインピーダンス値が、(a)細胞の死亡を示す生存可能閾値未満である、(b)細胞の死亡を示す生存可能閾値と等しい、(c)前記ベースラインと等しい、うちの少なくとも1つであると判定したことに応じて、前記送達信号を停止すること、を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記検出領域のインピーダンス値が、細胞の死亡を示す生存可能閾値未満であるか等しいと判定したことに応じて、前記送達信号を停止することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項12に記載の方法において、複数の生体細胞の連続的な流れが、単一の細胞に集束され、前記単一の細胞のそれぞれが、前記検出領域を通して前記複数の生体細胞のそれぞれを通過することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記検出領域のインピーダンスの監視が連続的であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2015年9月4日に出願された米国特許出願第62/214,665号明細書に対する優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦支援研究に関する声明
本発明は、IDBR賞1959918号およびCBET賞0967598号で、全米科学財団(NSF)より一部資金提供された。
【0003】
本発明は、単一細胞を連続フロー方式でトランスフェクトするための、インテリジェントな、フィードバック制御された、マイクロスケールのエレクトロポレーションシステムを用いた、一般的な細胞エレクトロポレーションおよび分子送達の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
例えば、DNA、薬物分子、造影剤、ペプチド、抗体、および酵素を含む、小分子および高分子を細胞に送達することは、研究および治療用途の範囲において、それらの可能性を最大限に実現する上で重要であるが、細胞内送達およびトランスフェクションは依然として困難な作業である。トランスフェクションの成功は、バイオ医薬品、RNA干渉スクリーニング、および幹細胞研究を含む市場を支配する、多くのタイプの生物医学研究および生物生産ワークフローにおける律速段階である。しかしながら、この可能性は、細胞を安全に、効果的に、効率的にトランスフェクトすることが困難であることを大きな原因として、実現されてこなかった。この課題には、特に、発生動態、創薬、および再生医療の研究に大きな関心が持たれている初代細胞系および幹細胞系などのトランスフェクションが困難な細胞系において、トランスフェクション効率が可変的で低いことが含まれる。
【0005】
エレクトロポレーションの間、遺伝子または他の高分子は、緩衝液中で生細胞と混合され、高電界の短パルスが適用される。細胞膜は一時的に多孔性となり、遺伝子または高分子は細胞に侵入する。しかしながら、エレクトロポレーションは、所望の効率および信頼性に満たないことが多く、それは2つの欠点を大きな原因とする。第1には、エレクトロポレーション後の分子輸送を支配する機序が十分に理解されていないことである。第2に、細胞が電気信号への過剰曝露による透過処理を乗り越える能力と同様に、透過処理の閾値は、集団内の異なる細胞ごと、そして異なる細胞の種類ごとに変動することである。さらに、本方法は、集団中の個々の細胞間で特性が異なる大きな細胞集団で実施されるため、エレクトロポレーションの条件は、その細胞集団の平均的な質に合わせて選択することができるのみであって、この現在実施されている方法では、個々の細胞の特定の特性に適合させることができず、また、同時に高スループットおよび自動化のカスタマイズをすることができない。
【0006】
したがって、上記課題を解決することのできる、新規かつ改良されたマイクロ流体エレクトロポレーションデバイスへの需要が存在する。
【発明の概要】
【0007】
1つの態様では、本発明は、生体細胞をエレクトロポレーションするためのシステムであって、緩衝液中の複数の生体細胞のフローを受容するように適合され、検出領域を含むマイクロ流体チャネル;検出領域を横切る電界を印加するように適合された一対の電極;電極を介して細胞検出信号および透過信号を生成することができる信号生成部;検出領域のインピーダンスを検出するように適合された検出部;および検出部によって検出されたインピーダンスに従って信号生成部を制御するように適合された制御部、を含むシステムを提供する。
【0008】
一実施形態では、信号生成部は、細胞検出信号および透過信号を同時に生成することができる。別の実施形態では、信号生成部は、交流(AC)波形および単一または連続の直流(DC)パルス波形を生成することができる。一実施形態では、信号生成部は、一対の電極間に低振幅の正弦波ベースの検知電界を生成することができる。一実施形態では、信号生成部は、単一および連続のDCパルスを生成することができる。
【0009】
一実施形態では、検出部は、ロックインアンプを含む。別の実施形態では、検出部は、細胞検出信号および透過信号の両方を同時に分析することができる。別の実施形態では、検出部は、検出領域内の細胞の蛍光を測定することができる撮像デバイスをさらに含む。
【0010】
一実施形態では、マイクロ流体チャネルは、検出領域を介して複数の生物細胞のフローを流体力学的にセンタリングすることができる。別の実施形態では、システムは、緩衝液のフローを受容するように適合された第2のマイクロ流体チャネルをさらに含み、第2のマイクロ流体チャネルは第2の検出領域を含む。一実施形態では、検出部は、第2の検出領域のインピーダンスを検出するように適合される。
【0011】
一実施形態では、信号生成部は、送達信号を生成することができる。一実施形態では、制御部は、検出部によって検出されたインピーダンスに従って透過信号を生成するように信号生成部を制御する。別の実施形態では、制御部は、透過信号の生成を停止し、検出部によって検出されたインピーダンスに従って送達信号を生成するように信号生成部を制御する。
【0012】
別の態様では、本発明は、緩衝液中で生体細胞をエレクトロポレーションする方法において、生体細胞を検出領域に流体力学的に集束させること、第1の電気信号を生成すること、ベースライン閾値を超える検出領域のインピーダンス値の増加が生体細胞の存在を示す、検出領域のインピーダンス値を、第1の電気信号を用いて監視すること、検出領域のインピーダンスの増加に応答して、第2の電気信号を生成すること、検出領域のインピーダンス値が透過閾値よりも大きいかどうかを判定すること、および検出領域のインピーダンス値の判定に応答して、第2のパルス信号の少なくとも1つのパラメータを調整すること、を含む方法を提供する。
【0013】
一実施形態では、第1の電気信号は、連続的な低振幅の正弦波形を含む。別の実施形態では、第2の電気信号は、所定の周波数で1つのパルスまたは複数のパルスを含む、DCパルス波形を含む。
【0014】
一実施形態では、本方法は、測定されたインピーダンス値が透過閾値にほぼ等しいという判定に応答して、第2の電気信号を停止すること、および検出領域内に集束された細胞内への分子送達を促進する、第3の電気信号を生成すること、をさらに含む。別の実施形態では、本方法は、検出領域のインピーダンス値が透過閾値にほぼ等しいかどうかを判定すること、および検出領域のインピーダンス値が透過閾値とほぼ等しいものでないという判定に応答して、第3の電気信号の少なくとも1つのパラメータを調整すること、をさらに含む。
【0015】
一実施形態では、本方法は、検出領域のインピーダンス値が生存閾値以下である、またはベースライン閾値に等しいという判定に応答して、第3の電気信号を停止することをさらに含む。一実施形態では、第3の電気は、検出領域のインピーダンス値が生存閾値以下であるという判定に応答して停止される。別の実施形態では、第3の電気信号は、検出領域のインピーダンス値がベースライン閾値に等しいという判定に応答して停止される。
【0016】
一実施形態では、ベースライン閾値は、緩衝液のみが流れている第2の検出領域のインピーダンス値を連続的に監視することによって決定される。
【0017】
一実施形態では、第2の電気信号の少なくとも1つのパラメータは、電界振幅、パルス持続時間、パルス列周波数、デューティサイクル、およびサイクル数からなる群から選択される。別の実施形態では、第3の電気信号の少なくとも1つのパラメータは、電界振幅、パルス持続時間、パルス列周波数、デューティサイクル、およびサイクル数からなる群から選択される。
【0018】
一実施形態では、透過閾値は実験的に決定される。別の実施形態では、透過閾値は、数学的モデルを用いて決定される。一実施形態では、透過閾値は、細胞死を引き起こさない最適な細胞透過処理に対応する。
【0019】
別の態様では、本発明は、複数の生体細胞をエレクトロポレーションする方法において、複数の生体細胞の連続フローを、検出領域を介して複数の生体細胞それぞれを通過する単縦列フローへと流体力学的に集束させること、第1の電気信号を生成すること、ベースライン閾値を超える検出領域のインピーダンス値の増加が複数の生体細胞それぞれの存在を示す、検出領域のインピーダンス値を、第1の電気信号を用いて監視すること、検出領域のインピーダンスの増加に応答して、第2の電気信号を生成すること、検出領域のインピーダンス値が透過閾値よりも大きいかどうかを判定すること、検出領域のインピーダンス値の判定に応答して、第2のパルス信号の少なくとも1つのパラメータを調整すること、を含む方法を提供する。
【0020】
一実施形態では、本方法は、測定されたインピーダンス値が透過閾値にほぼ等しいという判定に応答して、第2の電気信号を停止すること、および検出領域内に集束された複数の生体細胞それぞれの中への分子送達を引き起こす、第3の電気信号を生成すること、をさらに含む。別の実施形態では、本方法は、検出領域のインピーダンス値が透過閾値にほぼ等しいかどうかを判定すること、および検出領域のインピーダンス値が透過閾値と等しいものでないという判定に応答して、第3の電気信号の少なくとも1つのパラメータを調整すること、をさらに含む。
【0021】
一実施形態では、本方法は、検出領域のインピーダンス値が生存閾値以下である、またはベースライン閾値に等しいという判定に応答して、第3の電気信号を停止することをさらに含む。一実施形態では、第3のパルスは、検出領域のインピーダンス値が生存閾値以下であるという判定に応答して停止される。別の実施形態では、第3の電気信号は、検出領域のインピーダンス値がベースライン閾値にほぼ等しいという判定に応答して停止される。
【0022】
一実施形態では、ベースライン閾値は、緩衝液のみが流れている第2の検出領域のインピーダンス値を連続的に監視することによって決定される。
【0023】
一実施形態では、第2の電気信号の少なくとも1つのパラメータは、電界振幅、パルス持続時間、パルス列周波数、デューティサイクル、およびサイクル数からなる群から選択される。別の実施形態では、第3の電気信号の少なくとも1つのパラメータは、電界振幅、パルス持続時間、パルス列周波数、デューティサイクル、およびサイクル数からなる群から選択される。
【0024】
一実施形態では、透過閾値は実験的に決定される。別の実施形態では、透過閾値は、数学的モデルを用いて決定される。一実施形態では、透過閾値は、細胞死を引き起こさない最適な細胞透過処理に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
実施形態を、以下の図面を参照して説明する。図中、同様の番号は、図面を通して同様の項目を表す。
【0026】
図1A図1Aは、一実施形態による、透過処理および送達エレクトロポレーション信号の概略を示す。
図1B図1Bは、一実施形態による、浸透化および送達エレクトロポレーション信号の概略を示す。
図2A図2Aは、一実施形態による、細胞が検出領域に入るときおよび細胞が透過処理されるときの経時的なインピーダンスの変化を示す。
図2B図2Bは、一実施形態による、細胞が検出領域に入るときおよび細胞が透過処理されるときの経時的なインピーダンスの変化を示す。
図2C図2Cは、一実施形態による、細胞が検出領域に入るときおよび細胞が透過処理されるときの経時的なインピーダンスの変化を示す。
図3A図3Aは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムの概略を示す。
図3B図3Bは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムの概略を示す。
図3C図3Cは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムの概略を示す。
図3D図3Dは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムの概略を示す。
図3E図3Eは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムの概略を示す。
図3F図3Fは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムの概略を示す。
図3G図3Gは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムの概略を示す。
図4A図4Aは、一実施形態による、連続フローで細胞をエレクトロポレーションする方法のフローチャートを示す。
図4B図4Bは、一実施形態による、図4Aのステップを実行するための自動エレクトロポレーション制御アルゴリズムの動作を示す状態図を表す。
図5A図5Aは、一実施形態による、細胞検出のためのインピーダンスプロットの変化を表す、電流の大きさ対時間の図を示す。
図5B図5Bは、一実施形態による、細胞検出のためのインピーダンスプロットの変化を表す、電流の大きさ対時間の図を示す。
図6A図6Aは、捕捉された細胞の実験のための連続的なインピーダンス追跡下での、細胞膜の透過処理電流の大きさの顕著な増加を示す、電流の大きさ対時間のプロットを表す。
図6B図6Bは、単一細胞を捕捉し、インピーダンス情報をスキャンするように設計されたマイクロ流体細胞捕捉チャネルを示す。
図7A図7Aは、一実施形態による、閾値インピーダンスモデルおよび対応する実験データを示す。
図7B図7Bは、一実施形態による、閾値インピーダンスモデルおよび対応する実験データを示す。
図7C図7Cは、一実施形態による、モデル細胞/電解質の等価回路を表す。
図8A図8Aは、一実施形態による、細胞検出、透過処理および送達のためのインピーダンスプロットの変化を表す、電流対時間の図を示す。
図8B図8Bは、一実施形態による、細胞検出、透過処理および送達のためのインピーダンスプロットの変化を表す、電流対時間の図を示す。
図8C図8Cは、一実施形態による、細胞検出、透過処理および送達のためのインピーダンスプロットの変化を表す、電流対時間の図を示す。
図8D図8Dは、一実施形態による、細胞検出、透過処理および送達のためのインピーダンスプロットの変化を表す、電流対時間の図を示す。
図9図9は、本明細書で記載する方法を実施することができる、例示的なコンピュータハードウェアの理解に有用なブロック図である。
図10図10は、一実施形態による細胞膜応答の特徴付けを、持続時間の関数として表す。
図11図11は、一実施形態による細胞膜応答の完全な特徴付けを、電界強度および持続時間の両方の関数として表す。
図12図12は、一実施形態による細胞膜応答の特徴付けを、光学ヨウ化プロピジウム蛍光検証と共に、電界強度および持続時間の両方の関数として表す。
図13A図13Aは、一実施形態による、様々な電界強度および持続時間のパラメータで処理された細胞集団の細胞集団のヒストグラムを表す。
図13B図13Bは、一実施形態による、様々な電界強度および持続時間のパラメータで処理された細胞集団の細胞集団のヒストグラムを表す。
図13C図13Cは、一実施形態による、様々な電界強度および持続時間のパラメータで処理された細胞集団の細胞集団のヒストグラムを表す。
図13D図13Dは、一実施形態による、様々な電界強度および持続時間のパラメータで処理された細胞集団の細胞集団のヒストグラムを表す。
図13E図13Eは、一実施形態による、様々な電界強度および持続時間のパラメータで処理された細胞集団の細胞集団のヒストグラムを表す。
図13F図13Fは、一実施形態による、様々な電界強度および持続時間のパラメータで処理された細胞集団の細胞集団のヒストグラムを表す。
図14図14は、一実施形態による、様々なエレクトロポレーション条件に対する細胞の生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
フロー単一細胞をトランスフェクトするための、インテリジェントな、フィードバック制御された、マイクロスケールのエレクトロポレーションシステムを用いた、細胞エレクトロポレーションおよび分子送達のための方法およびシステムが開示される。
【0028】
本明細書に一般的に記載され、添付の図面に示される実施形態の構成要素は、多種多様な異なる構成で配置され、設計され得ることは容易に理解されよう。したがって、図面に表されるような、様々な実施形態の以下のより詳細な説明は、本開示の範囲を制限することを意図するものではなく、様々な実施形態の単なる代表例に過ぎない。実施形態の様々な態様が図面に提示されているが、図面は、特に示されていない限り、必ずしも縮尺通りに描かれたものではない。
【0029】
本開示は、その思想または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で実施することができる。記載された実施形態は、すべての点において例示的なものとみなされるべきである。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示される。
【0030】
本明細書を通して、特徴、利点、または同様の文言への言及は、本開示によって実現され得るすべての特徴および利点が本開示の任意の単一の実施形態にあるべき、またはあることを意味するものではない。むしろ、特徴および利点に言及する文言は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、利点、または特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味すると理解される。したがって、本明細書を通じて、特徴および利点、ならびに同様の文言についての議論は、必ずしもそうではないが、同一の実施形態に言及し得る。
【0031】
さらに、本開示の、記載された特徴、利点および特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。当業者は、本明細書の記載に照らして、特定の実施形態の特定の特徴または利点のうちの1つ以上を用いずに本開示を実施できることを認識するであろう。他の例では、本開示のすべての実施形態に存在しない可能性のある特定の実施形態において、さらなる特徴および利点が認識され得る。
【0032】
本明細書を通じて、「一実施形態(one embodiment)」、「一実施形態(a embodiment)」、または同様の文言は、示された実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて、「一実施形態では(in one embodiment)」、「一実施形態では(in a embodiment)」という表現、および類似の文言は、必ずしもそうではないが、すべて同一の実施形態を指し得る。
【0033】
本文書において用いられる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されていない限り、複数の言及を含む。他に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本文書において用いられる場合、用語「含む(comprising)」は、「含むが、これに限定されない」を意味する。
【0034】
エレクトロポレーションは、分子の送達のために細胞の細胞質にアクセスする手段である。この技術では、インビトロまたはインビボで適用することができる電界が、細胞膜を一時的に透過処理し、この細胞膜を通じて、DNA、RNA、およびアミノ酸などの生物学的に活性な分子が細胞に侵入できる。本開示は、細胞を検出およびエレクトロポレーションする、フローベースの自動細胞検出およびエレクトロポレーション信号システムのためのシステムおよび方法を記載する。
【0035】
一実施形態では、本発明のシステムは、エレクトロポレーションの前、間および後にマイクロ流体チャネルを流れる単一細胞の細胞膜インピーダンスを決定するために、検出領域を横切って流れる電流を連続的に監視する。システムはさらに、単一細胞がいつ検出領域に入るかを決定するために第1の電気検出信号を用いてマイクロ流体チャネルの検出領域のインピーダンスを監視する、細胞膜透過処理フィードバック制御ループを含み得る検出部を含む。一実施形態では、第1の電気検出信号は、低振幅のAC正弦波形である。検出領域に入る単一細胞は、ベースライン閾値を超えるインピーダンスの上昇として表すことができ、例えばコールターカウンタ内の、パルス抵抗センサと似たものである。第2の電気透過信号の印加により、単一細胞の細胞膜が透過処理される。システムは、所定の致死量以下の透過閾値が満たされるまで、第2の透過信号のパラメータを自動的に調整されてもよい。検出された細胞のインピーダンスは、致死量以下の透過閾値がいつ達成されるかを決定するために継続的に監視される。第3の電気送達信号は、分子を細胞の細胞質に送達するために印加される。第3の送達信号のパラメータは、システムによって自動的に調整されてもよい。このプロセスの間、検出領域および検出された単一細胞のインピーダンスは、インピーダンス変化が所定の最大閾値を超えるかどうかを検出するために、連続的に監視されてもよい。この最大閾値を超えると、可能な不可逆的細胞損傷を引き起こす可能性があり、この場合、フィードバック制御ループは、第3の電気送達信号を遮断し、次に通過する細胞のためにシステムをリセットする。上記閾値は、検出された細胞の細胞サイズおよび細胞集団のタイプに基づいて、事前に実行された、および/または計算モデルを用いてリアルタイムで導出された、較正結果のデータセットを含むデータベースから選択されてもよい。
【0036】
一実施形態では、連続フローマイクロチャネル内の一対の電極が低振幅のAC正弦波を印加して、電極間の検出領域のインピーダンス変化を検知する。通過する細胞からの電流の変位によるインピーダンスの増加に伴い、信号生成部はDCパルス波形を出力して細胞の細胞膜を透過処理する。細胞膜の透過処理により、透過処理DCパルス波形の結果として、その膜がより導電性になるため、検出部は、その細胞のインピーダンス変化を監視する。この膜透過処理は、特定の細胞の細胞死に関連するインピーダンス閾値を超えないことを確実にするため所定の閾値に対して監視および検査される、電気インピーダンス読み出しとして反映される。フィードバックループは、閾値を超えていないか、透過処理DCパルス波形が印加されているかを監視し、閾値に達した場合、透過処理DCパルス波形を停止する。次に、膜開孔を維持し、電気泳動的に送達を駆動するため、膜透過処理DCパルス波形と比較してより低振幅であるが、より持続時間が長い送達DCパルス波形を印加して、外来分子を細胞内に運ぶ。このプロセスの間、検出部は、細胞死目前であることを示す閾値を透過処理読み出しが超えないことを確実にするために細胞のインピーダンスを連続的に監視するため、作動したままである。
【0037】
本明細書において用いられる場合、信号は、任意の時間変化波形であり、例えば、交流(AC)波形または直流(DC)波形を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本発明の信号は、AC正弦波波形、単一DCパルス波形、または一連のDCパルス波形であってもよい。いくつかの実施形態では、第1の電気検出信号はAC波形であってもよい。他の実施形態では、第1の電気検出信号は、一連のDCパルス波形であってもよい。他の実施形態では、第2の電気透過信号は、DCパルス波形または一連のDCパルス波形であってもよい。いくつかの実施形態では、第3の送達信号は、DCパルス波形または一連のDCパルス波形であってもよい。
【0038】
図1Aおよび図1Bは、上述したような透過信号および送達信号を示す:透過処理につき第1の信号101、その後、分子送達につき第2の信号102が続く。第1の高電界(「HV」)信号の印加は、一般的に膜透過処理の必要条件であり、膜内外電位差の臨界閾値を克服する。他方で、一度透過処理が達成されると、低電界(「LV」)信号を使用して、小分子および大分子を効果的に送達すると同時に、電界暴露による損傷を減少させることができる。したがって、2信号エレクトロポレーションシステムは、第1の信号が、細胞を不可逆的に損傷させることなく細胞膜を透過処理するのに適した、高振幅、短持続時間で、第2の信号が、膜開孔を維持し、分子を電気泳動的に細胞内へ運ぶのに適した、より長い持続時間およびより低振幅で、独自に設計されてもよい。このようにして一連の信号を利用することにより、既知のエレクトロポレーション技術よりも細胞生存率が増加すると同時に、細胞エレクトロポレーションおよび分子輸送効率が改善される。自動エレクトロポレーションシステム全体として、透過信号および送達信号の両方を、当該信号をいつどの程度印加するかを管理する中央処理アルゴリズムを含む制御部によって、監視、実行および/または調節してもよい。中央処理アルゴリズムはまた、観察下で単一細胞が存在し続けている細胞膜インピーダンス監視期間中いつでも、透過化信号または送達信号のいずれかを開始または終了することができてもよい。
【0039】
電界強度および持続時間は、当業者に知られている技術を用いて、全体的な性能を高めるために標的分子に関して調整されてもよい。いくつかの実施形態では、透過信号の印加電界強度は0.1〜5kV/cmの範囲であり、持続時間は0.1〜100ミリ秒であってもよい。別の実施形態では、送達信号の印加電界強度は0.1〜5kV/cmの範囲であり、持続時間は0.1〜100ミリ秒であってもよい。一実施形態において、透過信号は、細胞膜を電気的に透過処理するために、高振幅(例えば、1kV/cmより大)であるが持続時間が短い(例えば、1ミリ秒未満)透過信号、および第1の信号から開孔を維持し、分子を電気泳動的に細胞内へ輸送するのに適した、低振幅(0.6kV/cm未満)であるが持続時間が長い送達信号で、設計される。例えば、一実施形態では、このようなエレクトロポレーションを受ける任意の選択された細胞型に関して、2つの信号の初期出力振幅および持続時間情報は、文献で知られている設定値に基づいて選択されてもよく、システム実行前にオペレータによって入力されてもよい。いくつかの実施形態では、共通の細胞型のパラメータをシステムに保存してもよい。他の実施形態では、2つの信号のいずれかの印加中の細胞膜インピーダンス情報の感覚掃引に依存して、中央制御アルゴリズムは、細胞生存率を維持するために、細胞膜状態の連続的な追跡/掃引に基づく信号のいずれかを変更(例えば、振幅などのパラメータの変更、終了または延長)する能力を保持する。
【0040】
例えば、一実施形態では、第1の信号は、異なる細胞および分子タイプについて、低い送達および高い生存率で有意な透過処理を促進するために、常時、強度および持続時間においてそれぞれV1=100V(E1=100,000V/m)およびt1=0.001秒でプログラムされてもよい。第2のLV信号パラメータは、分子のサイズおよび電荷、細胞型、およびHV信号パラメータを標的にするようにプログラムされてもよい。例えば、一実施形態では、第2の信号は、強度および持続時間において1〜10V/mおよびt1=0〜0.1秒でプログラムされてもよい。電気信号の振幅および持続時間の値は、手元で様々な細胞型を扱うために動的に自動調整することもできる。自動エレクトロポレーションシステムにおいては、このようなエレクトロポレーションを受ける任意の選択された細胞タイプについて、オペレータは、細胞膜透過信号がシステムによって検出されるまで、電界0kV/cmなどのベース値から電界10kV/cm/ミリ秒の最大増加率未満で振幅を増加させることによって、単一細胞の検出およびそのインピーダンス読み取りの際に、システムに透過信号のための初期パラメータを決定させる選択肢を有する。第1の信号の電界および持続時間は、このタイプの細胞の今後の参考として用いるために記録および保存されてもよい。
【0041】
さらに、第2の信号の印加は、第1のパルスの電界強度に基づいてもよく、第1の信号と比較して低減された電界強度を有する信号が使用されてもよい。例えば、第1の信号によって細胞を透過処理するために1kV/cmの電界強度が使用された場合、システムは、電界強度0.6kV/cmの電気パルスを出力するために、40%などのユーザ定義可能な減少で第2の信号を開始してもよい。細胞膜の状態の連続的な追跡はまた、細胞生存率に関する情報を提供することができ、第2の信号は、細胞生存率が不可逆的な損傷(閾値は事前較正によって決定される)の点への到達に近づいたこと、または送達物質の飽和(閾値は事前較正によって決定される)のいずれかに基づいて停止され得る。
【0042】
一実施形態では、2信号エレクトロポレーションシステムは、マイクロスケールレベルで動作するように設計されてもよく、2つの信号は、電気分解の発生なしにエレクトロポレーション中の細胞膜透過処理応答を測定するために、調整可能な周波数(1Hz〜1GHz、デューティサイクル0〜100%)で、透過処理要件を満たす適切な振幅調整によって、DCパルス列へと「刻まれ」てもよい。一実施形態では、細胞型、構造、バッファ特性、マイクロ流体チャネル特性などに基づいて透過信号の実験的特性決定および/または計算モデルを含むデータベースを作成してもよい。以下に記載するように、次に、データベースおよび/またはデータベースに基づいた計算モデルを用いて、検出された細胞および他の特性に基づき、信号を設計してもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、本発明のシステムは、マイクロ流体チャネルの検出領域内の細胞を検出するためにマイクロ流体チャネルの検出領域を監視し、インピーダンスの監視を介して検出された細胞の透過処理状態を監視する。図2Aおよび図2Bは、細胞がマイクロ流体チャネルを通って移動する際のチャネル全体のインピーダンスの変化を示す。交流電流検出信号がマイクロ流体チャネルを横切って印加され、細胞210がマイクロ流体チャネル200を通って引き出されると、周囲の電解質が変位され、液体の電流型センサ検出202(抵抗パルスに類似)の下、電気インピーダンスが短期間上昇し、これは、オームの法則に従ったチャネルを横切る電流203の変化を介して監視される。これにより、抵抗パルスの数およびパルスの大きさに基づいたサイズ情報を介して細胞を計数することが可能となり、これは変位した電解質の体積に依存する。インピーダンスの増加は、細胞膜を含む非導電性の脂質二重層が無傷であり、細胞内および細胞間の溶液の連通を妨げるために生じる。しかしながら、一旦透過処理220されると、細胞は導電性になり、インピーダンスは低下204する(および電流が増加する)。インピーダンスの変化は、図2に示すように、細胞の透過処理状態のシグネチャを提供するために検出されてもよく、印加される電界は、上述したように、送達を最大にするために、特定の細胞型およびサイズにつきカスタマイズされた低強度で十分に許容される電界へと切り替えるよう、動的に調節されてもよい。図2Cは、同様の原理を用いて細胞侵入および透過処理を検出するためにインピーダンス低下を利用する連続フロープロセスを示す。
【0044】
図3A図3Cは、各細胞の透過処理状態を認識し、透過信号を動的に調節して高強度電界への過度の暴露を防止し、そして、所望の分子を細胞内に移動させるように特に設計された送達信号を印加する、本開示の「スマート」エレクトロポレーションシステムの実施形態を示す。
【0045】
図3Aは、スマートエレクトロポレーションシステム300の概略図を提供する。システムは、異なるタイプの細胞を透過処理するための、完全に自律的で、同期され、インピーダンスフィードバック制御されたマイクロエレクトロポレーションプラットフォームを形成するために、電気透過処理測定装置320と一体化されたマイクロ流体細胞ハンドリングシステム310を含んでもよい。
【0046】
マイクロ流体細胞ハンドリングシステム310は、緩衝液中の複数の生体細胞のフローを受容するように適合され、検出領域を含むマイクロ流体チャネルを含んでもよい。電気透過装置320は、検出領域を横切る電界を印加するように適合された一対の電極;電極を介して細胞検出信号および透過信号を生成することができる信号生成部;検出領域のインピーダンスを検出するように適合された検出部;および検出部によって検出されたインピーダンスに従って信号生成部を制御するように適合された制御部、を含んでもよい。いくつかの実施形態において、エレクトロポレーションの間に細胞膜に生じるインピーダンス変化は、ロックインアンプ325を用いて検出され、監視され、透過処理の指標として使用される。一実施形態では、信号生成部は、1つ以上の電気信号生成器を含み得る。いくつかの実施形態では、信号生成部は、1つ以上の電気信号生成器と一体化された電気的記録装置を含み、制御部(ここでは図示せず)は、中央処理アルゴリズムに従って、細胞インピーダンスフィードバック情報を用いて信号パラメータを動的に調節するようプログラムされてもよい。一実施形態では、分子送達および細胞生存率を改善するために、電気透過処理装置320は、フィードバック制御ループ301を利用して、インピーダンスの激しい変化に基づく持続時間および信号強度を調節するため、制御部によって生成された信号フィードバック制御信号を電極312(a)および312(b)へ送信してもよい。一実施形態では、制御部は、ロックインアンプ325からのインピーダンス読み取りおよび信号生成部326からの信号特性を利用して、制御信号を生成してもよい。信号生成部は、信号を生成する、および/またはフィードバックループを介して電極と通信するために使用されてもよい。透過装置320はまた、透過処理のための閾値を分析および決定するための検出部327を含んでもよい。透過処理装置320はまた、認識可能なまたは増強された細胞全体のインピーダンスまたは膜透過信号を許容する、限定された空間を通る単一細胞のフローを可能とする、様々な設計の閉マイクロ流体チャネルであるDUT328を含んでもよい。
【0047】
細胞ハンドリングシステム310は、画定された検出領域312に単一細胞を流体力学的に集束させるように設計されたマイクロ流体デバイス311を含んでもよい。信号は、検出領域312内での細胞の検出時にスマートエレクトロポレータによってのみ印加されてもよく、細胞膜インピーダンスは監視され、検出領域に細胞が存在しないことを示すベースライン閾値、効率および細胞生存率を最大にする致死量以下の透過閾値、および、これを超えると細胞生存率が低下して許容量を下回る、透過閾値の最大値などの様々な閾値と比較されてもよい。電気エレクトロポレーション装置および細胞型に対する閾値は、過剰の電気透過処理を防止するために、較正中、事前に設定されてもよく、または使用中にリアルタイムで決定されてもよい。システムは、閾値条件が満たされると様々な信号を印加、終了、または変更するように構成されてもよい。
【0048】
図3Bは、一実施形態による、スマートエレクトロポレーションシステムのマイクロ流体細胞ハンドリングシステム310を示す。システムは、当業者に知られている微細加工技術を用いて設計されてもよい。図3Bに示すように、マイクロ流体チャネル313は、リソグラフィなどの技術を用いてスライドガラス上にパターニングされてもよく、電極間に送達するための単一細胞316が(流体マイクロチャネル315を用いて)流体力学的に集束するように構成されてもよい。サイドインレットからの流体流を用いて細胞を流体力学的に単縦列に集束させることにより、連続的な細胞導入が可能となり、チャネルが閉塞する傾向があるため、狭い単一チャネルより好ましい。細胞濃度および流速は、細胞間の最適な間隔を提供するように制御されてもよい。一実施形態では、電極312(a)および312(b)は、清浄なスライドガラス上のリフトオフ技術を用いて製造され、共平面検出、細胞の透過処理、および輸送促進電界の送達に使用されてもよい。例示的な実施形態では、電極領域を画定するためにリソグラフィで画定されたフォトレジストマスキング層(EVG620露光システム)を用いて電極をパターニングし、続いて1000ÅのTi/Pt層(Kurt J.Lesker PVD75)をスパッタリングし、フォトレジストをアセトン溶液中で除去する。マイクロ流体チャネルは、リソグラフィでパターン化されたSU−8ネガ型フォトレジスト(Microchem、ニュートン、マサチューセッツ州)がマイクロチャネルレプリカ成形のためのネガ型テンプレートとして働く、標準的なソフトリソグラフィを用いて製造される。ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)(Dow Corning、ミッドランド、ミシガン州)溶液をマスタ上に注ぎ、60℃でベークしてネガ型レリーフを作製する。PDMSをマスタから剥離し、孔を入口および出口に向けて穿孔する。PDMSおよびスパッタされたスライドガラスは、表面を活性化させるために酸素プラズマで処理され、フィーチャアライメントと共に接合される。マイクロチャネルは、長さ1cm、幅150μm、深さ10μmであってもよい。120〜400μmの間隔を有する一対の微小電極が、各マイクロチャネルに沿って所定の位置に定められる。インレットは、細胞および試料導入のためにポリエチレンチューブ(Small Part、マイアミレイクス、フロリダ州)を用いてシリンジポンプ(Harvard Apparatus、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)に接続される。露出した電極パッドを銅線で融着させるために、導電性エポキシ(Circuit Works,Inc.、サマービル、ニュージャージー州)を用い、外部電子機器との接続を可能にする。
【0049】
図3Cに示すように、一実施形態では、システムはまた、電極を有する第2の同一のマイクロチャネル350を含んでもよい。第2の同一のマイクロチャネルは、細胞を含まない緩衝液が流れていてもよく、第2の同一のマイクロチャネルのインピーダンス値は、識別のための理想的な基準信号および高速移動する単一細胞を検出する補助を提供するため、細胞が流れる第1のマイクロチャネルと並行してサンプリングされてもよい。2つのマイクロチャネルのそれぞれからの微小電極は、電流−電圧変換器318(a)および318(b)にそれぞれ接続されてもよく、これらは次にロックインアンプ325に接続される。
【0050】
このシステムはまた、スマートエレクトロポレーションシステムの透過処理ステージおよび送達ステージを撮像することができる撮像デバイス(例えば、蛍光撮像デバイス)を含んでもよい。例えば、フルフィールド(2560×2160ピクセル)のエピ蛍光画像を100fpsで、部分フィールド(100×2160)を2000fpsに近いところで捕捉することができる、Cooke scientificのCMOSカメラを使用してもよい。細胞が電極内にある間にエピ蛍光画像を捕捉するためカメラがトリガされる。
【0051】
図3E図3Gは、本開示によるスマートエレクトロポレーションシステムの様々な実施形態を示す。
【0052】
図4Aは、図3A図3Cのスマートエレクトロポレーションシステムを用いて連続フロー中で単一細胞を透過処理する方法を提供する。図4Aに示すように、工程401において、連続フローシステム内の細胞は流体力学的に集束され、信号印加のためのスマートエレクトロポレーションシステムおよび細胞インピーダンスを記録するためのロックインアンプをトリガすることができる所定の検出領域に単一細胞が導入される。流体力学的集束に関する概念は、当業者に知られている。
【0053】
異なる細胞型は、本明細書に記載されるように、スマートエレクトロポレーションシステムを用いてエレクトロポレーションされてもよい。例としては、3T3線維芽細胞、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)、およびリンパ芽球様細胞(LCL)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。細胞は、当業者に公知の技術を用いてエレクトロポレーションのために調製されてもよい。例えば、3T3線維芽細胞は、完全細胞培地中で維持され、実験のために収集される前に培養密度80%まで培養され得る。エレクトロポレーションの前に、細胞をトリプシン処理し、エレクトロポレーション緩衝液中に再懸濁する。エレクトロポレーション緩衝液は、pH7.4で、250mMのスクロース、10mMのHEPES、および選択的濃度のMgClの等浸透圧溶液である。添加されたMgClの量(0.4〜11.2mMの範囲)は、その細胞外緩衝液の最終導電率(100〜2000μS/cmの範囲)を決定する。溶液の浸透圧を、Advanced Osmometer 3D3(Advanced Instrument、ノーウッド、マサチューセッツ州)を用いて細胞適合性が310mOsm/kgに調整される。トリプシン処理した細胞を、シリンジポンプ(Harvard Apparatus、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)を介して3インレットマイクロデバイスの中間インレットに導入する。3インレットアプローチは、細胞が単縦列でデバイスの動作領域の中心に確実に入るように、細胞を約20〜25μmの幅に流体力学的に集束させる。
【0054】
本開示に記載されるシステムおよび方法は、数百ダルトンから数十万ダルトンに及ぶ様々な分子を送達するために使用され得る。より小さい分子は、高レベルの細胞生存率を維持しながら効率的に送達することができる。他方、より大きな分子は、より多くの細胞死を代価として、それらを細胞内に運ぶためにより高い電界強度またはより長いパルスを要し得る。本開示の「スマート」エレクトロポレーションシステムを使用することにより、生存率を維持しながら送達を最大化することができる。本明細書に記載のシステムおよび方法を用いて細胞に送達され得る分子の例としては、薬物および分子プローブなどの小型有機化合物、典型的には干渉RNA(siRNA)として用いられる小型RNA鎖、miRNA、タンパク質、および直接トランスフェクションのためのプラスミドDNAが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
工程402では、第1の細胞検出信号が検出領域を横切って印加され、インピーダンスが監視される。いくつかの実施形態では、第1の細胞検出信号は、シミュレーションモデルまたは既知の文献から得られるAC検出波形であってもよい。AC検出波形を使用して、検出領域内の細胞の有無を監視してもよい。
【0056】
工程403において、ベースライン閾値を超えて増加したインピーダンス値によって生体細胞が検出されたときに、検出領域を横切って第2の透過信号が印加される。いくつかの実施形態では、第2の透過信号は、上記のように、短持続時間、高周波数のDCパルスを含む。AC検出信号およびDCパルス列波形は、2つの波形を単純に重ね合わせることによって検出領域に同時に印加される。このようにして、エレクトロポレーション信号が印加されると、検出領域のインピーダンスおよび検出された細胞の細胞透過処理の状態は、連続的に監視され得る。特定の実施形態では、AC検出波形は、高周波DCパルス列から分離されてもよく、高周波DCパルス列は、インピーダンス変化に基づいて検出領域内の細胞の検出時にのみ印加されてもよい。いくつかの実施形態では、透過信号が開始されると、DCパルス列印加の終了まで検出が一時的に停止される。ソリッドステートスイッチは、信号経路を制御して、透過信号からロックインアンプセンサ内の電気的アーチファクトの発生を防止し得る。
【0057】
一実施形態では、AC検出波形および高周波DCパルス列のパルスパラメータは、(特定の細胞タイプについて)固定化細胞上でエレクトロポレーションシステムを用いて受信した実験データに基づいて選択されてもよい。例えば、適切な閾値レベル、AC波形パラメータ、およびDCパルス列パラメータは、細胞は、一対の電極内の小さな細胞トラップ領域(5×5×10μm未満)を有するマイクロ流体装置内に捕捉されてもよい。図6は、捕捉された細胞に対するロックインアンプのインピーダンス検出応答を表す。一実施形態では、連続的な2VDC、100KHz、デューティサイクル50%の透過処理パルス列に重ね合わされた連続的な0.2Vpp15kHz検出信号が印加されてもよい。線601は、溶液のみがチャネルを流れるときのインピーダンスを表す。トラップ内に細胞が導入されると、インピーダンスは劇的に低下する(ライン602)。また、小さい電界(0.2kV/cm)が連続的に印加されてもよく、その結果、数秒後に細胞は不可逆的電気透過処理を受けた。電流の増加(インピーダンスの減少と一致)は、パルスが除去された後も残る(ライン609)。挿入図610は、細胞が捕捉されたチャネル、および透過処理の間の電流増加を示す。次いで、エレクトロポレーションの間のインピーダンス変化の検出の感度および一貫性を評価するために、2つの別個の調査を行ってもよい。第1に、デューティサイクルを一定に保ちながら、異なる強度および持続時間の電界の100kHzパルス列を印加することができる。印加される電界強度は、0.1〜1kV/cmの範囲であってもよく、全印加パルスの持続時間は、10〜100ミリ秒の範囲であってもよく、透過処理のない状態から完全および永久的に透過処理された状態まで、このパラメータ空間内の透過処理結果のスペクトルが得られる。電界強度と持続時間の各組み合わせについて、電流の変化の大きさが記録されてもよい。膜透過処理を示す電流の変化は、各条件について同定され、一貫性のため各条件にわたって試験され得る。
【0058】
次に、電気透過処理の検出を確認した後、パルス列の印加中のインピーダンス変化を介して可逆的な透過処理を検出するよう、細胞トラップを用いてスマートエレクトロポレータを較正してもよい。1kV/cm(10VDC、100KHz、50%デューティサイクル)の電界強度で一連のパルス列を印加してもよいが、各パルス持続時間の合計は1〜20ミリ秒に制限してもよく、この範囲の下限は可逆的な透過処理を生じ得る一方、上限は有意な細胞死を生じ得る。上記のパルスパラメータおよびそれらを発展させる方法は、例示のためにのみ提供され、本開示の原理から逸脱することなく調整され得る。
【0059】
印加されたパルス列が致死量以下である場合、膜インピーダンスはパルス列の間に低下し、細胞の透過処理を示すが、パルスが停止すると回復し、膜は再封される。しかしながら、細胞がパルス列によって殺された場合、インピーダンスは回復しない。したがって、総パルス長を変化させることによって、細胞死を示す生存度閾値インピーダンス変化を決定することができる。生存閾値のインピーダンス変化を用いて、連続フロー試験を実施するための最良のパルスパラメータ、すなわち、特定の細胞型のためのAC検出波形および高周波DCパルス列の設計を決定してもよい。捕捉された細胞で検査されたパラメータ空間のサブセットは、連続フロースマートエレクトロポレータに適用されてもよく、また、細胞挙動および感度の変化における任意の差異を評価するために用いられてもよい。
【0060】
捕捉された細胞では、細胞を取り囲む緩衝液が限られており、細胞は、全体のインピーダンスに対して高い割合に寄与する。しかしながら、細胞が流体力学的に集束されるとき、細胞のいずれかの側にかなりの量の流体が存在し得る。したがって、細胞膜電流の変化は、溶液電流変位による細胞全体の検出信号よりも数桁小さくてもよい。電極内の溶液緩衝液に対する細胞の相対容積が大きいほど、電流信号に対する細胞の寄与(または細胞への変化)は大きくなる。一実施形態では、細胞を取り囲む導電性流体の総量を減少させるために、ハロカーボンオイルなどの、電気的および化学的に不活性で、低表面張力の溶液を、中央インレット中の細胞を含むエレクトロポレーション緩衝液を流体力学的に集束させるため、2つの側方インレットでシース流として用いてもよい(図3C参照)。これは、流体力学的に制御可能な幅を有するチャネルの中央に狭い導電性の流れを提供することによって、緩衝液からの電流ノイズの大部分を排除することができる。あるいは、および/またはさらに、徐々に狭くなった狭窄部(図3D)からなるマイクロチャネル設計を採用してもよい。このマイクロチャネル狭窄設計は、細胞の体積分率、検出信号対雑音比を増大させるのに役立つと共に、狭窄部を通る電界の集中により、印加電界を増幅するのに役立つ。マイクロチャネル狭窄部の長さは、検出領域における細胞通過時間を増加させる手段を提供し、可逆的または不可逆的なエレクトロポレーションの前、間および後の細胞膜からの詳細な電気的情報を特徴付けるための時間を長くするのに役立つ。例えば、全細胞流速が0.3μL/minである長さ250μmの狭窄部は、200〜400ミリ秒の通過時間範囲を提供することができる。狭窄部の幅は、細胞サイズに合わせて調整され、高い電解質電流変位と狭窄チャネルを通る単一細胞の滑らかで連続的な通過とを可能にする良好な適合性を提供する。例えば、10〜15μmの平均直径を有するNIH 3T3線維芽細胞の場合、20〜25μmの幅を使用して、シース液および細胞の両方を通過させることができた。チャネルの幅は、マイクロチャネル製造のフォトリソグラフィ工程で調整することができる。チャネルの深さは、検出およびパルス領域でもある狭窄領域での溶液容積を制限するために、10μmの深さで定められてもよい。平面電極は、印加された電界の増幅のためにチャネル狭窄部の外側に配置されてもよい。狭窄部の長さが250μmの場合、260μmより大きい電極距離を用いることができる。
【0061】
実験データに基づいて、一実施形態では、重ね合わされた検出/透過処理波形は、細胞電流検出のための1Vp−p、20kHzのAC、および静的細胞捕捉実験により決定された電界強度を有する透過処理パルス列(例えば、1kV/cm、10kHz)を印加することによって得てもよい。
【0062】
工程401〜403を実施することにより、プロトタイプの信号差動流体チャネルベースの信号検出器を用いて、細胞膜インピーダンスの変化を検出および増強し、マイクロチャネル内に流体力学的に集束した単一細胞の存在を同定し、流体力学的に集束された細胞への透過信号の印加をトリガすることができる。この検出およびトリガ信号を示す実験データを図5Aおよび図5Bに示す。図5Aは、差動信号センサを用いた単一細胞検出ピークを表す。図5Aの結果は、100mVp−pのAC電圧を15kHzで、100μS/cmの溶液導電性を有し、0.5μL/minの流速でマイクロチャネルを通って移動する細胞緩衝液へ印加することで得られた。信号におけるスパイクは、平面電極間の細胞による導電性緩衝液の容積変位(したがって、電流の変位)から生じる。一実施形態では、細胞検出のための電気的測定は、スマートエレクトロポレータと一体化した視覚化システムを介して、細胞(図示せず)の光学的視覚化によっても確認され得る。
【0063】
図5Bは、連続フローにおける各細胞の検出時のインピーダンスの変化を示すリアルタイム自動単一細胞検出およびトリガ信号追跡プロットの別の例を表す。図示された電流−時間プロットでは、各単一細胞が検出領域(狭窄部長さ)を通って、高い37dBの信号対雑音比が得られ、各窪み501(n)は、細胞上での持続時間、速度、およびインピーダンスの大きさに関する情報を提供する。
【0064】
図4に戻って、工程404において、細胞インピーダンスの変化は、検出部を用いてインピーダンスを継続的に監視することによって検出されてもよい。いくつかの実施形態において、検出部は、ロックインアンプを含む。細胞特異的信号を区別するため、周波数ロックイン増幅技術を実施してもよい。ロックインアンプは、基準信号周波数周辺の帯域通過フィルタとして作用する。ノイズは、基準信号によって伝えられる周波数および位相で入力信号をフーリエ変換することによって除去することができる。基準信号に入力信号を乗算して2つの出力成分、すなわち内部基準と信号成分との周波数の差(W−W)に等しい周波数を有するものと、2つの周波数の和(W+W)に等しいものとを生成する。周波数が等しい場合(W=W)、第1の成分はDC信号を生成し、第2の成分は基準周波数の2倍(2W)を有する。ローパスフィルタは、DC成分以外のすべてを拒絶する。この信号は、独立した基準正弦波および余弦波によって別個に乗算され、最終信号の振幅を計算するのに必要な位相情報を抽出する。
【0065】
ロックインアンプの最適検出周波数を決定するために、インピーダンスアナライザを使用してもよい。インピーダンスアナライザは、エレクトロポレーションの前後両方で、周波数の関数として細胞インピーダンスを決定することができる。エレクトロポレーションの前および後にインピーダンスを特徴付けることによって、膜破壊によるインピーダンスの最大の変化を検知するロックインアンプの最適な周波数を決定してもよい。次いで、検出周波数を予想される周波数範囲に設定して、エレクトロポレーションによって誘導された細胞膜透過処理に起因する膜コンダクタンスの増加の検出および定量を最適化するために、チャネル内の細胞膜インピーダンス変化を固定してもよい。
【0066】
重ね合わされた検出/透過処理パルスについて、細胞検出インピーダンス変化を透過処理検出インピーダンス変化と区別するために2つの別個の最適周波数を使用してもよく、印加周波数範囲は、検出領域における細胞検出に最適な周波数から、細胞を検知する際の透過処理検出に最適な周波数へと素早く調節される。例えば、関数生成器を備えた90VのNチャネル高速スイッチングPower Trench MOSFET(FDS6298、Fairchild Semiconductor、ハンツビル、アラバマ州)モジュールは、細胞信号が検出されると、ナノ秒の速度で2つの所定の周波数間で切り替える(細胞検出のための20kHzから膜インピーダンス変化のためのMHz範囲へ)ように構成することができる。
【0067】
本開示は、細胞インピーダンスの変化を監視するためにロックインアンプを利用するが、インピーダンス変化を監視するための現在または将来公知の他の方法も本開示の範囲内である。
【0068】
工程405では、検出されたインピーダンス値は、透過閾値インピーダンスと比較することができ、閾値インピーダンスは、細胞の透過処理の所望のレベルを示す。閾値インピーダンス値は、細胞生存率(すなわち、致死量以下の透過処理)を確保するように選択されてもよい。閾値インピーダンスは、特定の細胞について捕捉された細胞の実験データを用いるか、または数学的モデルを用いて計算してもよい。検出されたインピーダンス値が閾値インピーダンスよりも大きいことが判明した場合、工程403のDC透過信号のパルスパラメータは、制御信号を用いて動的に制御(406)されてもよく、この工程は、所望の閾値インピーダンスが検出されるまで繰り返されてもよい。制御信号は、(上述したように)特定の細胞につき捕捉された細胞の実験データを用いて、または数学的モデルを用いて、信号パラメータを変更するために生成されてもよい。所望の閾値インピーダンスにおいて、細胞は所望のレベル、すなわち致死量以下の透過処理で処理されてもよい。所望のレベルの透過処理は、細胞死を伴わない最大の膜透過処理に対応してもよい。DCパルス列には、電界振幅、パルス持続時間、パルス列周波数、デューティサイクルおよびサイクル数といった、所望の透過処理を達成するために変更できる、エレクトロポレーションの間の送達効率に潜在的に影響を及ぼす可能性のある、いくつかの相互に関連するパラメータが存在する。例えば、50kHzパルス列は20パルス周期を有し、50%デューティサイクルでは、各パルスは長さ10μsである。10ミリ秒の合計パルス印加を得るために、50kHzの周波数で20ミリ秒の間に1000サイクルが印加される。デューティサイクルは、各パルスに続く休止期間の量を制御する。上記パラメータのいずれかは、細胞の電気分解を引き起こすことなく所望の透過処理を達成するように変更されてもよい。例えば、一実施形態では、デューティサイクルを調整して、電気分解によってパルス列がより単一DCパルスのようになることと引き換えに、パルス幅を増加させ送達時間を改善することができ、または、パルス数を増加させて電気分解を最小化し、デューティサイクルを減少させて送達時間を低減することができる。
【0069】
工程407の、工程405における致死量以下の透過処理の検出では、透過信号を停止させてもよく、別々の送達信号が検出領域に導入されてもよい。送達信号は、帯電種の流入を誘導する低強度電界であってもよい。一実施形態では、送達信号は、大きさが0.1〜1kV/cmおよび持続時間が10〜100ミリ秒の範囲であってもよいDCパルス列を含んでもよい。AC検出信号および送達DCパルス列波形は、2つの波形を単純に重ね合わせることによって検出領域に同時に印加されてもよい。これにより、送達信号が印加されているときに、検出領域のインピーダンスおよび検出された細胞の細胞透過処理状態を連続的に監視することができる。
【0070】
送達パルス列は、検出および透過信号のパルス特性、細胞型、細胞の大きさ、緩衝液の特性、および透過信号に関して上述したような他の特性に基づいて、予め設計されていてもよい。送達パルス列はまた、細胞死を示すインピーダンスの過度の変化に達することなく分子送達を可能にする、細孔が開いたままの状態で電界強度を維持するために、インピーダンス変化を連続的に監視し(408)、それを透過閾値インピーダンス(致死量以下の透過処理に対応する)と比較する(409)フィードバック制御を用いて動的に制御410されてもよい。このように、第2のパルス列特性を動的に変更して、送達可能性を最大にすることができる。例えば、インピーダンス特性は、捕捉細胞の実験、数学的モデル、および/またはスマートエレクトロポレータシステムにおいて以前に行われた連続フロー測定に基づいて、細孔の閉塞、安定化、および永続性を検出するために監視されてもよい。
【0071】
電界が低下しても、過曝露の生存閾値に近づいた場合、またはインピーダンス値がベースライン閾値に戻って、細胞が検出領域を通過したことを示す場合、電界は中断411される。一実施形態では、インピーダンス変化は、ロックインアンプによって100kHzでサンプリングされた細胞内電流の読み取り値を用いて監視され、予測される透過処理状態に対して反復的にチェックされてもよい。
【0072】
図4Bは、図4Aの工程の少なくともいくつかを実行するためのアルゴリズムの状態図を示す。
【0073】
本開示のシステムおよび方法を利用する例示的なデータが、図8A図8Dに表される。図8A図8Dは、細胞全体の電流変位および細胞膜インピーダンス変化のプロットおよび対応するパルスを示す。図8Aは、リアルタイム自動単一細胞検出およびトリガパルス追跡プロットを示し、上記のシステムおよび方法がそれぞれ通過する単一細胞を高精度で検出およびエレクトロポレーションすることを示す。各垂直線801は、所定のパルスパラメータを有する5ミリ秒パルス列の自動印加を表し、この場合、電界強度0.6kV/cmのDCパルス列が印加された。インピーダンス曲線802上の各窪み809は単一細胞の通過を表し、1.3細胞/秒の精度で93.7%の自動エレクトロポレーション精度を示す。
【0074】
図8Bは、8秒〜14秒のタイムスロットにおける図8Aの5つの細胞の拡大図であり、透過信号印加前後の細胞状態に関する特徴的な情報が示される。電流−時間プロットにつき、電流信号の急激な低下はそれぞれ、パルス領域内の単一細胞の存在を示し、この窪みが元のベースラインに戻ることは、パルス領域から細胞が出たことを示す。これらの5つの細胞について、信号印加後の電流上昇と共に、約900ミリ秒の平均通過時間が観察される。
【0075】
図8Cは、図8Bの単一細胞の拡大プロットを示す。ΔIは、電流変位信号を表し、この場合は0.72nAであり、ΔIは、細胞に印加されるパルスの大きさおよび持続時間に応じて変化する透過信号の変化を表す。ΔIは、細胞が非致死的なパルスを受けることで膜が再封され得る膜の再封電流を示す。
【0076】
図8Dは、フロー単一細胞(底片)に送達される核酸結合色素(ヨウ化プロピジウム)の時間的追跡を示す。タイムマーク20ミリ秒では、0.6kV/cmの電界振幅で5ミリ秒のパルス列が印加され、蛍光強度が連続的に追跡され、膜の孔が開いたことにより安定した増加を示し、観察された透過処理ピークを過ぎた後は、強度の低下を示し、我々はこれが膜孔の再封を示すものと確信する。
【0077】
図9は、上記のような様々なコンピュータプロセスおよびシステムを包含または実施するために使用され得る内部ハードウェアの一例を示す。例えば、上述したスマートエレクトロポレーションは、図9に示すようなハードウェアを含んでもよい。電気バス900は、ハードウェアの他の図示された構成要素を相互接続する情報ハイウェイとして働く。CPU905は、システムの中央処理装置であり、プログラムを実行するために必要な計算および論理演算を実行する。CPU905は、単独でまたは他の要素のうちの1つ以上と組み合わせて、本開示内でそのような用語が使用される場合、処理デバイス、計算デバイスまたはプロセッサである。CPUまたは「プロセッサ」は、プログラミング命令を実行する電子デバイスの構成要素である。「プロセッサ」という用語は、単一のプロセッサ、またはプロセスの様々な工程を一緒に実行する複数のプロセッサのいずれかを示し得る。文脈上、単一のプロセッサが必要であること、または複数のプロセッサが必要であることを特に述べていない限り、「プロセッサ」という用語は、単数および複数の実施形態の両方を含む。リードオンリメモリ(ROM)910およびランダムアクセスメモリ(RAM)915は、メモリデバイスの例を構成する。「メモリデバイス」という用語および同様の用語は、単一デバイスの実施形態、プログラムまたはデータを一緒に格納する複数のデバイス、またはそのようなデバイスの個々のセクタを含む。
【0078】
コントローラ920は、システムバス900に日付保存装置として働く1つ以上の任意選択のメモリデバイス925とインターフェースで接続する。これらのメモリデバイス925は、例えば、外部または内部のディスクドライブ、ハードドライブ、フラッシュメモリ、USBドライブ、またはデータ記憶装置として働く別のタイプのデバイスを含んでもよい。先に示したように、これらの様々なドライブおよびコントローラは任意選択のデバイスである。さらに、メモリデバイス925は、任意のソフトウェアモジュールを格納するための個々のファイルもしくは命令、補助データ、事象データ、分割表および/もしくは回帰モデル群を格納するための共通ファイル、または上述したような情報を格納するための1つ以上のデータベースを含むように構成されてもよい。
【0079】
上述したプロセスに関連する機能的工程のいずれかを実行するためのプログラム命令、ソフトウェアまたは対話型モジュールは、ROM910および/またはRAM915に格納されてもよい。任意選択的に、プログラム命令は、コンパクトディスク、デジタルディスク、フラッシュメモリ、メモリカード、USBドライブ、光ディスク記憶媒体、および/または他の記録媒体などの非一時的なコンピュータ可読媒体上に格納することができる。
【0080】
任意選択のディスプレイインターフェース940は、バス900からの情報を、オーディオ、ビジュアル、グラフィックまたは英数字の形式でディスプレイ945上に表示させ得る。外部装置との通信は、種々の通信ポート950を用いて行われてもよい。通信ポート950は、インターネット、ローカルエリアネットワーク、またはセルラ電話データネットワークなどの通信ネットワークに接続されてもよい。
【0081】
また、ハードウェアは、スキャナの撮像センサ960やキーボード、マウス、ジョイスティック、タッチスクリーン、リモコン、ポインティングデバイス、ビデオ入力デバイス、および/または音声入力デバイスなどの他の入力デバイス965などの入力デバイスからのデータの受信を可能にするインターフェース955を含んでもよい。
【実施例】
【0082】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって、より完全に記載される。これらの実施例の改変は、当業者にとって明らかであろう。
【0083】
実施例1
細胞膜の透過性を検出するのに必要な最適なチャネル形状および検出周波数を決定するために、細胞/電解質等価回路を構築して、微細加工フローサイトメータでの単一細胞の電気インピーダンス応答をモデル化した。この回路モデルは、エレクトロポレーション中の細胞膜コンダクタンスの劇的な増加を説明するために前のモデルから適合された。このモデルは、図7Cに示すように、一対の電極間の緩衝液中に懸濁した細胞のインピーダンスの決定を可能にする。ここで、CDLは二重層容量である。RおよびCは、それぞれ細胞外媒体の抵抗および容量である。Cmemは細胞膜の容量であり、Rは細胞の内部抵抗である。エレクトロポレーションによる細胞膜透過処理の結果としての全体のインピーダンス変化を反映するため、可変RmemはCmemと平行して実施された。二層効果を含む膜透過処理細胞を説明するための結果として得られた全体的なインピーダンスの式を式1に示す。
【0084】
|Z|は単一細胞のインピーダンスの大きさであり、ωは角周波数であり、Rmemを除く個々の電気成分の値を計算する式は、当業者に公知であり得る。Rmemは、典型的な膜断片の抵抗R=10000Ω/cmに基づき、球状で半径rを有すると推定した細胞は、以下のように計算することができる:
電気透過処理された細胞膜の抵抗であるRporated_memは、以前に公表された数値モデルに基づき、従来の方法で近似され、細胞膜の0.1%のみが穿孔されていると推定される。
ここで、dは5nmの膜厚であり、σは100μS/cmでの緩衝液伝導率である。
【0085】
未処理細胞のインピーダンスの大きさをプロットし、エレクトロポレーションした細胞と重ね合わせた(図7A)。無傷(高Rmem)から透過処理された細胞膜状態(低Rmem)へのRmemの変化の結果としてのインピーダンスΔ|Z|の変化は、1〜10kHzの周波数領域にある。エレクトロポレーションの前および後に100μS/cmの緩衝液に懸濁された個々の細胞上で周波数掃引(100Hz〜100kHz)した、対応する実験データ(図7B)は、モデルによって予測された周波数の範囲で同等のインピーダンス変化を示した。
【0086】
エレクトロポレーション後のΔ|Z|に影響を与える因子を決定するために、細胞体積分率および細胞外緩衝液の伝導度を、掃引周波数の関数として系統的に変化させた。エレクトロポレーション後の最大Δ|Z|は、より低い周波数スペクトルでの細胞体積分率(Vcell/Vchannel)および緩衝液の伝導度の両方によって示されることが決定された。マイクロ狭窄チャネルを用いて5%の細胞体積分率および100μS/cmでの細胞外緩衝液の伝導度を提供することにより、エレクトロポレーション後の細胞膜透過処理の最大変化は、1〜10kHzの周波数範囲を用いて見出すことができる。
【0087】
実施例2
方法および材料
デバイスは、ガラス基板上の一対の平面電極と、ソフトリソグラフィによって製造されたポリジメチルシロキサン(PDMS)マイクロチャネルとからなる。デバイスの特徴を有するシリコンマスタモールドは、標準的なフォトリソグラフィ手順を用いて製造された。デバイスの主なチャネルは、長さ1mm、幅150μm、深さ10μmであり、250μm(長さ)×25μm(幅)×10μm(深さ)の寸法を有する狭窄部を組み込んでいる。簡潔には、PDMSポリマーと硬化剤との10:1の混合物を鋳型上に注ぎ、ネガ型レプリカを作製し、65℃で一晩硬化させた。インレットチャネル(直径0.5mm)およびアウトレットリザーバ(直径1.5mm)へのアクセスを形成するために、PDMSに穿孔した。チタン/プラチナ(Ti/Pt)平面電極は、金属の「リフトオフ」プロセスによって製造された。電極トレースをガラス基板上にリソグラフィでパターニングし、凹部を10:1の緩衝フッ化水素酸で約1分間、約2000Åの深さまでエッチングした。金属は、物理蒸着(KJL PVD75、Kurt J.Lesker Co.)によって堆積され、その後、電極トレースを残してアセトン中でフォトレジストを溶解した。得られたTi/Pt電極の幅は50μmであり、中心間距離は300μmであった。この距離は、SNR品質を損なうことなく、電気および光学分析のための十分な細胞通過時間を可能にした。パターニングされた電極を有するPDMSおよびガラス基板の表面を、100Wの電力で、酸素プラズマ下、700mTorr、250sccmのOで60秒間処理した(PX−250、March Instruments)。活性化した基質を、立体顕微鏡(SZ61双眼ステレオズーム、オリンパス)を用いて整列させ、不可逆的に結合させた。銅線を、導電性エポキシを介して平面電極パッドに接合した。
【0088】
各実験の前に、マイクロチャネルを、チャネル表面への望ましくない細胞接着を防ぐために、室温で1時間、10%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液で前処理した。次いで、マイクロチャネルを排液し、過剰のBSA溶液をアウトレットリザーバから除去し、10μLのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)と交換した。NIH 3T3マウス線維芽細胞を、10%v/vウシ胎仔血清、1%v/vペニシリン−ストレプトマイシンおよび1%の1−グルタミン(Sigma−Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)を補充したDMEM中で培養した。細胞は、実験のために収集される前に〜70%の培養密度まで培養された。収穫した細胞を、250mMのスクロース、10mMのHEPES、および0.4mMのMgCl塩からなる等浸透圧エレクトロポレーション緩衝液中に懸濁して、100μS/cmの導電率を得た。精密マイクロ流体シリンジポンプ(Pico Plus、Harvard Apparatus)を使用して0.1μL/分の流速で細胞を灌流し、マイクロチャネル狭窄部を横切る250ミリ秒の平均細胞通過時間を得た。単一細胞の安定したフローが確立された後、エレクトロポレーションシステムはユーザコマンドによって開始された。5つの電界(細胞で測定したところ、0.44、0.58、0.70、0.87、1.05kV/cm)を、異なる細胞膜透過処理度を付与する5つのパルス持続時間(0.2、0.8、1.0、3.0、5.0ミリ秒)で試験した。エレクトロポレーションシステムを検証するために、2細胞アッセイを行った。最初のアッセイの間、細胞質ゾル核酸への結合時に蛍光を発する細胞膜不透過性色素、ヨウ化プロピジウム(PI)(P3566、Life Technologies)を、100μMの総濃度でエレクトロポレーション緩衝液に添加し、膜透過処理を光学的に示した。ロックインアンプ(HF2LIロックインアンプ、Zurich Instruments)からの電気信号およびPI送達の蛍光強度を個々の細胞ごとに記録した。第2のアッセイでは、単一細胞は、PI添加なしで同じエレクトロポレーション処理を受けた。所定の各パルス処理の後、約2000個の細胞を、生存率評価のためにアウトレットリザーバから20分間にわたって収集した。収集した細胞を2000RPMで2分間遠心分離して1×PBS緩衝液で洗浄し、次いで氷上で2μMの7−アミノアクチノマイシンD(7AAD)(7AAD、ThermoFisher Scientific)と共に20分間インキュベートして細胞生存性染色を行った。次いで、細胞を1×PBS緩衝液中で再び洗浄した後、蛍光顕微鏡下で画像化した。採取した細胞の蛍光強度を処理するために、MATLAB(MATLAB R2012b、Mathworks)で書かれた半自動細胞走査および処理アルゴリズムを使用した。
【0089】
ロックインアンプを用いて、動的に信号を抽出し、エレクトロポレーションパルスを印加した。特注のLab VIEW制御アルゴリズムは、リアルタイム処理のためにロックインアンプの組み込みシステムにロードされた。一方のデバイス電極は、リードIを介してロックインアンプの波形ジェネレータ出力に接続して、1Vp−pの検出励起信号を供給し、他方の電極は、リードIIを介して低ノイズ電流プリアンプ入力(HF2CA電流プリアンプ、Zurich Instruments)に接続した後、ロックインアンプセンサに信号を送った。微分ベースのピーク検出アルゴリズムによる最適な細胞検出と最高のSNRによる最も感度の高い細胞膜透過処理検出の両方を提供するために、1.224kHzの周波数を選択した。細胞がエレクトロポレーション領域内で検出されると、エレクトロポレーションパルスは、関数生成器(33220A波形生成器、Agilent)によってリードIを通って、リードIIIを介した監視オシロスコープに即時送達される。パルスは関数生成器でプログラムされ、高電圧アンプ(Model2350、TEGAM)に供給され、0.44〜1.05kV/cmの範囲の電界パルスを0.2〜5.0ミリ秒の持続時間で供給する。関数生成器に同期したCMOSスイッチ(DF419DJ+アナログスイッチ、Maxim Integrated)をロックインアンプのプリアンプ入力と直列に追加して、エレクトロポレーションパルスによる測定アーチファクトを防止した。パルストリガ信号はまた、各パルスの後にPIが細胞内へ侵入する画像を同時に捕捉するため、顕微鏡に搭載されたCMOSカメラ(PowerView1.4MP、TSI)の外部トリガ入力に分割された。
【0090】
結果
自動細胞検出およびエレクトロポレーション
単一細胞の自動検出および各細胞への即時パルス印加が1.3細胞/秒のスループットで得られた。狭窄部長さを横切る細胞の移動により、チャネル内の一定の容積変位に起因した、安定したベースライン電流が得られる。250ミリ秒の推定細胞通過時間により、エレクトロポレーションおよびパルス後インピーダンス測定のための十分な時間窓が提供された。この代表的なプロットにおいて、垂直の赤線は、所定のエレクトロポレーションパルスの印加を示し、この場合、5.0ミリ秒で1.05kV/cmの電界である。パルスを投与した後、電流の急激な上昇が直ちに観察される。この電流の急上昇は、細胞膜コンダクタンスの増加に起因し、エレクトロポレーション誘発細胞膜透過処理の結果としての孔の形成の特徴である。細胞がチャネル狭窄部から離れると、電気信号は緩衝液のベースラインに戻る。このプロセスは、エレクトロポレーション領域を通過する各細胞について繰り返される。単一細胞検出のため、37dBの信号対雑音比(SNR)が測定された。システムは、光学的観察と比較して、各細胞の検出およびパルス化において97%の精度を維持した。エラーは、主に、通過中の各細胞に複数のパルスを印加することにつながる複数の細胞の偶発的なテールゲーティングに起因した。
【0091】
細胞膜透過処理分析
エレクトロポレーションパルスの強度および持続時間を変化させることによって、我々は細胞膜透過処理の程度に特徴的な細胞インピーダンスの変化を示す。図10に示すように、5つの代表的な細胞につき測定された細胞電流応答が、パルス印加時に重畳される。パルス持続時間を0〜5.0ミリ秒に変化させながら電界を1.05kV/cmで一定に保つことにより、より長いパルス持続時間は、電極間の電流のより大きな急上昇を生じさせ、より高い膜透過処理の程度を示すようである。電界強度と持続時間の両方の関数としての細胞膜応答の完全な特徴付けを図11に表す。サイズ差による細胞間の差異を説明するために、細胞ベースライン(ΔI)からの透過処理電流の変化を、最初に全細胞電流変位(ΔI)によって正規化し、検出された細胞−電流ベースラインからの増加の百分率として表した。パルス持続時間の関数としてプロットすると、所与の電界強度につき、正規化された透過処理電流(ΔI/ΔI)とパルス持続時間との間に強い依存性が見られ、より長いパルス持続時間はより大きな透過処理をもたらした。同じパルス持続時間で異なる強度が印加される場合にはまた、電界強度の大きさに強い依存性が観察され、より強い電界がより大きな透過処理を導いた。0.58〜1.05kV/cmの範囲の電界では、パルス持続時間が1.0ミリ秒に達し、これを超えたときに、透過信号の急速な遷移が観察された。システムは電流の連続フローおよび動的測定を可能にするので、少なくとも200個の細胞が各パルス条件について測定され、総計で個々の細胞5,000個の分析に達した。
【0092】
透過処理検証−ヨウ化プロピジウム蛍光追跡
電気的に観察される細胞膜透過処理はまた、PIの細胞間核酸への結合の際に生じる蛍光強度の変化を記録することによって光学的にも確認された(図12)。光学カメラをロックインアンプセンサと同期させて、各パルス印加後にパルス化された細胞の連続画像を捕捉した。次に、これらの画像を、個々の細胞に基づいて、蛍光強度について評価した。より大きいパルス強度および持続時間は、より大きな細胞膜透過処理をもたらし、これは、穿孔された細胞膜を通って侵入するより多くのPIが、細胞質空間中で核酸と結合し、蛍光強度を上昇させることを可能にする。
【0093】
電気システムの感度がより高いため、光学的に識別可能な蛍光強度を生成するためには、より高いパルス閾値が必要である。光学的には、細胞膜透過処理の程度を電気パラメータに確実に相関させるため、1.0ミリ秒よりも長いパルス持続時間が必要であった。例えば、透過信号の電気的測定値と一致する0.8ミリ秒のパルス持続時間後に、蛍光強度の有意な急上昇が観察された。この関係は、すべてのパルス強度および持続時間について電気透過信号(ΔI/ΔI)対蛍光強度をプロットすることによってさらに検証され、これは膜開孔度と細胞内部へ送達されるPI量との間に線形的な依存関係が存在することを示す。穿孔度が大きいことは、より高いΔI/ΔI値によってマークされ、処理された細胞内で測定されたPI蛍光強度のより大きな範囲に対応する。これらのデータは、PI送達の量と膜透過処理の程度との間の直接的な相関を示し、両方とも電気パルスパラメータに比例する。
【0094】
細胞生存率試験−コレクション
所定のエレクトロポレーション処理を受ける単一細胞の生存率はまた、7AAD染色によるエレクトロポレーション−パルスパラメータと相関していた。生存細胞が膜再封のための時間を有するよう、細胞は、エレクトロポレーションパルスに曝されてから20分後に回収した。我々は、最高電界強度(1.05kV/cm)とパルス持続時間(5ミリ秒)の組み合わせが、死細胞からの分布への最も大きなシフトを引き起こすことを見出した。このことは、強力なエレクトロポレーション処理が細胞膜を不可逆的に損傷し、再封を妨げる可能性がより高いため、予想される。パルス強度または持続時間を減少させると、シフトの大きさが減少する。0.7kV/cmでエレクトロポレーション処理を受けたすべての細胞は、対照生存細胞の蛍光と同等の蛍光を保持し、透過後20分以内に細胞膜の完全な再封を示した。生存閾値は、図13D図13Fの垂直線によって示されるように、死細胞集団の平均蛍光強度の95%信頼下限を計算することによって、各細胞集団について決定された。図14は、各エレクトロポレーション条件での細胞の生存率を表す。全体の細胞生存率は、電界強度およびパルス持続時間の両方に応じて単調に減少する。より強いパルス条件は、細胞死をもたらす不可逆的な細胞膜損傷を引き起こす可能性がより高い一方で、中程度の条件(0.7kV/cm)で処理された細胞は回復の可能性があり、より高い集団生存率を示した。
【0095】
上記で開示された特徴および機能、ならびに代替物は、多くの他の異なるシステムまたはアプリケーションに組み合わせることができる。当業者であれば、現在予見できない、または予期せぬ種々の代替、改変、変形または改良を行うことができ、そのそれぞれはまた、開示された実施形態に包含されることも意図される。
図1A-1B】
図2A-2C】
図3A-3B】
図3C-3D】
図3E-3F】
図3G
図4A
図4B
図5A-5B】
図6A-6B】
図7A-7C】
図8A
図8B-8C】
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
図14