【実施例】
【0061】
[実験]
[皮膚の粗度分析による、ブタの皮膚に対する本発明の組成物の角質溶解効果の評価]
【0062】
ブタの皮膚は、組織学的にヒトの皮膚と似ている[GrayおよびYardley、1975年;Westerら、1998年]。毛包の平均密度さえも似ている:ヒトの前頭部の皮膚についての14〜32個/cm
2と比較して、ブタの耳の皮膚については20個/cm
2[Jacobiら、2007年]。したがって、ブタの皮膚は、角質溶解の有効性研究を行うために適便な基質である。
【0063】
本明細書に記載のアッセイを遂行するために、ブタの皮膚を、地元の屠殺場(San Giuliano Terme、Pisa、Italy)から入手した。皮膚を水で洗浄し、目に見える剛毛を付け根で切断した。
【0064】
上記の弾性コロジオンと20%ASAに基づく組成物を、いかなる処置もしていないブタの皮膚からなる陰性対照に加えて、このアッセイに付した。
【0065】
組成物を、ブタの皮膚に、6mmの円形面を覆うように塗布し、これを3回繰り返し、組成物をブタの皮膚と接触した状態に14時間保った。この時間の後、Maikong IndustryによるIntelligent Skin Analysis System(GBS−1800)デジタルデルマトスコープの使用により、皮膚の粗度の測定を行った。15%未満のCV(測定の変動係数)を有するように、各評価を行った。
【0066】
結果を下の表に平均+/−SDとして与える。対照に対する様々な処置の効果をt検定(t-test)により評価した。
【0067】
【表1】
【0068】
[再構築されたヒトの皮膚に対する本発明の組成物の角質溶解効果の評価]
【0069】
組織を試料で14時間処置した。この期間の終了時に、それらを支持体から取り外し、PBSで洗浄し、次いで、4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した。
【0070】
固定された組織を、先ず、巨視的分析に付してケラチノサイト表層中のあらゆる可視病変の存在を強調し、次いで、組織化学的分析に付した。このために、組織を、先ず、アルコールの度数を上げながら(70°〜85°〜90°〜100°)で、それぞれの段階で60〜100分間にわたって脱水し、キシレンでダイアファナイズし(diaphanized)、51℃で2時間、次いで60℃で1時間、オーブンで溶融されたパラフィンに移し、室温で放置して凝固させる。
(訳注:「ダイアファナイズする」とは、一般に、体形及び骨格を染色するが、皮膚及び組織を透明にするように、生体標本を処理すること。)
【0071】
ヘマトキシリン/エオシンで染色するために、スライドガラス上に置いた切片を、15分間、キシレンで脱パラフィンし、水へとアルコール度数を下げていくことで再水和した。次いで、スライドガラスをMayerによるEmallume(ヘマトキシリン)に3分間、浸漬し、流水で洗浄し、次いで、1%エオシンG溶液に3分間、浸漬した。染色終了時に、アルコール度を上昇させることで切片を脱水し、DPXでマウントした。
【0072】
図1に示す、巨視的評価(実体顕微鏡から撮影した写真)に基づいて、処置した組織では、大部分の表層についての変化が認められる。損傷は、コロジオンに基づく組成物で処置した組織において、特に顕著である。
【0073】
組織学的評価(
図2)に基づいて、コロジオンで処置した組織では、角質組織にはまだ存在する表面角質層の非存在が認められる。
【0074】
[ヒト皮膚の人工構築物(SkinEthic)の超微細構造を用いて、異なるASA含有組成物を比較する実験]
以下の組成物を比較して評価した。
【0075】
[組成物1−弾性コロジオンを含む溶液]
前述の通り調製した組成物は、以下のもの(重量百分率)を含有した:
ASA 20%
エチルエーテル 10%
純エチルアルコール 10%
弾性コロジオン 60%。
【0076】
[組成物2−弾性コロジオン+プロピレングリコールを含む、溶液]
前述の通り調製した組成物は、以下のもの(重量百分率)を含有した:
ASA 18%
エチルエーテル 9%
純エチルアルコール 9%
弾性コロジオン 54%
プロピレングリコール 10%。
【0077】
[組成物3−高濃度のプロピレングリコールを含む溶液]
組成物3は、99%より高い純度で、排他的にプロピレングリコールを含有した。
【0078】
[組成物4−親水性ゲル]
この組成物は、以下のもの(重量百分率)を含有した:
ASA 2%
純エチルアルコール 18%
植物性グリセリン 5%
プロピレングリコール 5%
キサンタンガム 2.5%
カラギーナン 1.5%
フェノキシエタノール 0.5%
精製水 100にするために十分な量
(注釈)
調製:
完全に透明溶液になるまでASAをエタノールに可溶化し、次いで、それを、ゲル中にゆっくりと、少しずつ添合する。
ゲルについて: キサンタンガムおよびカラギーナンを、グリセリン+プロピレングリコールに予備分散させ、次いで、水を添加し、その混合物を55〜60℃にし、真空下、ブレードおよびタービンで均質化する。
ゲルを室温に冷却し、フェノキシエタノールを添加し、次いで、ASAアルコール溶液を添加する。
【0079】
[組成物5−ワセリンに基づくASA軟膏]
この組成物は、以下のもの(重量百分率)を含有した:
ASA 20%
石油ゼリー/ワセリン 78%
流動パラフィン 2%
(注釈)
調製:
均質になるまで、ASAを少しずつ石油ゼリー中で混合し、次いで、流動パラフィンを添加する。調製物をさらに精製するために、微粒子化したASAおよび軟膏精製器を使用して、手で触ることにより知覚されうる結晶のない生成物を得、活性成分の接触面を増加させ、したがって、その有効性を増大させた。
【0080】
[組成物6−親水性エマルジョン]
この組成物は、以下のもの(重量百分率)を含有した:
ASA 2%
純エチルアルコール 18%
両親媒性基剤 80%
(注釈)
調製:
完全に透明な溶液になるまでASAをエタノールに可溶化し、次いで、それを、ブレードによって的確かつ継続的に撹拌しながら両親媒性基剤中にゆっくりと、少しずつ添合する。従来の機械において真空下で操作する。
基剤組成:水100%にするに十分な量;ワセリン25.5%;プロピレングリコール10%;トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル7.5%;ステアリン酸PEG−8 7%;セチルアルコール6%;ステアリン酸グリセリル4%;フェノキシエタノール0.5%;安息香酸ナトリウム0.4%;ソルビン酸カリウム0.3%;所定のpHにするためのクエン酸。
【0081】
[組成物7−パッチ]
この組成物は、以下のもの(重量百分率)を含有した:
ASA 5%。
(注釈)
調製:
個々の原料を計量した:パッチの調製の際の従来の高分子接着剤を、ASAを添加するバルク接着剤の調製に使用した。
このようして得たバルク接着剤をポリエステル支持体上に塗り広げた。塗沫を乾燥器の中で乾燥させ、次いで、乾燥器から出てくる半完成品をポリウレタンフィルムと結合し、その後、「母材」コイルで巻いた。
前記「母材」コイルは、他のより小さいコイルに切断されている。切断されたコイルを自動型抜きに付して、12mmの直径を有する10個の円形パッチのライナーを得た。得られた円形パッチを包装した。
【0082】
* * *
様々な組成物に使用したASAの量は、様々な試験から出発し、巨視的に安定な組成物を生じさせるもの、すなわち、ASAが、組成物から固体として分離しないものの中から選択することによって、決定した。
【0083】
[ヒトの皮膚の人工構築物]
SkinEthic(商標)RHE/S/17再建ヒト表皮試料を使用した。これは、ポリカーボネートフィルター上の気液界面で増殖させた正常ヒトケラチノサイトから、インビトロ(in vitro)で再建されたヒト表皮である。
【0084】
組織試料を保護アガロースから除去し、6ウェルを有するマルチウェルにおいて、1ウェルにつき1mlの維持培地と共にインキュベートした。おおよそ27時間のインキュベーション後、試料を次のように試験した:
−組成物1、2、3の溶液および純水(対照)100μlを、マイクロピペットを使用してそれぞれの表皮シートの上に付けた。
−組成物4(親水性ゲル)、5(軟膏)および6(親水性エマルジョン)の混合物の十分な量を、それぞれの表皮シートの表面に、綿棒を使用して塗り広げた;
−パッチ(組成物7)の小片を上皮シート上に接着した。
【0085】
上記(各)組成物との約14時間のインキュベーション後、表皮挿入物を切断し、500マイクロリットルの固定剤(pH7.4のカコジル酸緩衝液中、0.1M中、グルタルアルデヒド2.5%、パラホルムアルデヒド2%)で2時間、室温で固定した。
【0086】
小さい長方形のファブリック(小片)を切り取った後、試料をエポキシ樹脂に含めた。極薄切片を得、銅製スクリーン上に配置し、次いで、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色した。
【0087】
未処置の表皮組織(水のみで処置した対照試料)のTEM電子顕微鏡観察は、非常に多数のデスモソームによる24〜25層の角質細胞層の第1層との顆粒層結合部を示した(
図3)。
【0088】
処置後、組成物3、7および5で処置した試料では基底層、棘層および顆粒層の全体的外観が保存され、対照と同様であった(
図4)。組成物1、2および4で処置した試料では、すべての細胞層が壊死しているように見え(
図5)、非常に高い細胞傷害指数を有する。組成物6で処置した試料では、棘層に全般的な細胞の被害が存在し、壊死細胞もあり、濃縮した核もあり、これは、アポトーシス過程の誘導を示唆する。
【0089】
それ故、処置の有効性を評価するための重要なパラメータである、処置後の試料上に残存する角質細胞層の数を、判定した。これは残存角質層厚の指標であるからである。
【0090】
下記の表は、この判定の結果を示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表に提示したデータは、組成物5(軟膏)および6(親水性エマルジョン)の実質的無効性;組成物3(プロピレングリコールに基づく組成物)の不良な有効性;組成物4(親水性ゲル)および7(パッチ)の中程度の有効性;組成物1(コロジオンに基づく組成物)のより顕著な有効性;組成物2(コロジオン+プロピレングリコールに基づく組成物)の極めて高い有効性を示す。
【0093】
したがって、最後に述べたデータは、ASAとコロジオンとプロピレングリコールの組合せの注目に値する相乗効果を示す。組成物2の結果は、組成物1および3について報告したものの相加(的)効果と見なすことができないからである。
【0094】
例えば、組成物4(ASA2%)および7(ASA5%)のほうが、組成物5(ASA20%)より活性であるので、組成物中のASAの量が活性組成物と不活性組成物との間の判別子ではないことにも注目されうる。
【0095】
<組成物の安定性>
室温で約5カ月の期間にわたって保管後に本発明の一部の組成物中に存在するサリチル酸(SA)の量を判定した。この評価は、EUEPおよびUSP薬局方に従って妥当性が確認されているHPLC/UV法を使用して行った。結果は、次の通りである:
組成物7(パッチ) SA 75.86重量%
組成物1(コロジオン) SA 15.57重量%
組成物2(コロジオン+プロピレングリコール) SA 約7重量%。
【0096】
<組成物の具体例>
【0097】
[製剤A(ブラッシング可能な溶液)]
ASA 10%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 10%
ヒドロキシプロピルセルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシエチルセルロース 10%
VP/VAコポリマー 10%
PVP 3%
水 3%
エチルアルコール 54%
【0098】
[製剤B(ブラッシング可能な溶液)]
ASA 20%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 10%
ニトロセルロース 20%
ヒドロキシプロピルセルロース 10%
ヒマシ油 4%
酢酸エチル 26%
エチルアルコール 10%
【0099】
[製剤C(ブラッシング可能な溶液)]
ASA 15%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 8%
ヒドロキシエチルセルロース 10%
VP/VAコポリマー 12%
ポリビニルアルコール 5%
エチルアルコール 50%
【0100】
[製剤D(ブラッシング可能な溶液)]
ASA 25%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 5%
アクリル酸エステルポリマー 25%
イソオクタン 45%
【0101】
[製剤E(スプレー)]
ASA 10%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 10%
アクリル酸エステルポリマー 18%
ポリウレタン 12%
エチルエーテル 20%
エチルアルコール 20%
水 10%
【0102】
[製剤F(エアロゾルスプレー)]
ASA 25%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 10%
ヒドロキシプロピルセルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシエチルセルロース 5%
VP/VAコポリマー 15%
PVP 4%
エチルアルコール 20%
水 5%
ブタン、プロパンまたはイソブタン 16%
【0103】
[製剤G(ゲル)]
ASA 15%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 7%
ヒドロキシプロピルセルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシエチルセルロース 8%
アクリル酸エステルポリマー 5%
VP/VAコポリマー 10%
エチルアルコール 30%
水 25%
【0104】
[製剤H(膣用ゲル)]
ASA 20%
1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、またはブチレングリコールもしくはペンチレングリコール 20%
ヒドロキシプロピルセルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシエチルセルロース 10%
ポリカルボフィル 1%
パラベン混合物 1%
水 48%
【0105】
[製剤I(溶液)]
ASA 20%
エチルエーテル 10%
純エチルアルコール 10%
弾性コロジオン 60%
【0106】
[製剤L(溶液)]
ASA 18%
エチルエーテル 9%
純エチルアルコール 9%
弾性コロジオン 54%
プロピレングリコール 10%
【0107】
本発明は更に、単回もしくは複数回適用のための量の本発明の組成物と、病変の機械的除去のためのデバイスとを含むキットに関する。
【0108】
有用なデバイスは、例えば、機械的な研磨特性を有する、数回使用することができるやすり、一連の使い捨てやすり、軽石またはこれらに類するものでありうる。研磨材は、出血を避けるために、病変に冒された組織のみを除去するような粒度分布を有さなければならない。やすりから除去される感染した皮膚の微小鱗屑が、環境に残存し、何らかの接触感染の原因となりうることを回避するために、一連の使い捨てやすりが、好ましいであろう。
【0109】
*** ***
説明してきた本発明のほんの一部の特定の実施形態に対して、技術者が、本発明の保護範囲から逸脱することなく、特定の用途へのそれらの適用に必要なあらゆる変更を加えることができることは、明らかである。