特許第6989162号(P6989162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989162統合リアルタイムモニタリングシステムが付随したケモーサーモーピエゾ抵抗性高感知スマートセメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989162
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】統合リアルタイムモニタリングシステムが付随したケモーサーモーピエゾ抵抗性高感知スマートセメント
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20211220BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   G01N27/04 Z
   G01N33/38
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-59668(P2020-59668)
(22)【出願日】2020年3月30日
(62)【分割の表示】特願2018-501304(P2018-501304)の分割
【原出願日】2016年7月12日
(65)【公開番号】特開2020-115146(P2020-115146A)
(43)【公開日】2020年7月30日
【審査請求日】2020年3月30日
(31)【優先権主張番号】62/192,010
(32)【優先日】2015年7月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511248249
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ヒューストン システム
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】クマラスワミー・ビプラナンダン
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−051889(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/077524(WO,A1)
【文献】 特開昭64−057163(JP,A)
【文献】 特開2014−228436(JP,A)
【文献】 特開2002−207021(JP,A)
【文献】 特開平01−057163(JP,A)
【文献】 特開2007−017405(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0318783(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0045311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 − G01N 27/10
G01N 27/14 − G01N 27/24
G01N 33/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントの性能関連特性をモニタリングするシステムであって、
ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントから構成されるセメント構造物、ここに、
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントが前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの0.03重量%から0.1重量%の改質導体または半導体フィラーを含み、かつ、前記改質導体または半導体フィラーが、分散カーボンファイバー、分散玄武岩ファイバー、またはそれらの混合物を含み;および、
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートスマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化をモニタリングする統合リアルタイムモニタリングシステム、ここに、
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化がケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの性能関連特性に相関し、
前記統合リアルタイムモニタリングシステムを用いて、選択された周波数にて前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントのAC抵抗測定値を収集し;
前記統合リアルタイムモニタリングシステムが前記AC抵抗測定値を用いて前記電気抵抗率および電気インピーダンスの変化を計算し、前記計算には、前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気特性を表す等価回路を用い、
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントは、前記等価回路において、接点付きのバルク材料として表され、前記等価回路の総インピーダンス(Z)は、以下:
【数1】
[式中、Rはバルク材料のレジスタンスであり、RcおよびCcは、それぞれ、前記接点のレジスタンスおよびキャパシタンスであり、前記バルク材料のキャパシタンスは無視できると仮定した。]で表される、
を含む、システム。
【請求項2】
ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの性能関連特性が、ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの硬化、圧縮強度、誘導応力、水対セメント比、温度変化、流体損失、および汚染を含む、請求項1のシステム。
【請求項3】
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化が汚染の有無のケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの性能関連特性と相関する、請求項1のシステム。
【請求項4】
セメント構造物が油井またはガス井の一部である、請求項1のシステム。
【請求項5】
セメント構造物が、足場、建築物、パイプライン、ビルディング、トンネル、橋梁、および高速道路からなる群より選択される社会インフラの一部である、請求項1のシステム。
【請求項6】
ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントが、グラウト、コンクリート、コーティング、または修復材の一部である、請求項1のシステム。
【請求項7】
前記統合リアルタイムモニタリングシステムが、前記AC抵抗測定値を用いて前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気インピーダンスにおける変化を計算する、請求項1のシステム。
【請求項8】
セメントの性能関連特性をリアルタイムでモニタリングする方法であって、
(1)セメント構造物を建造すること、ここに、
前記セメント構造物は、ケモーサーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメント、および前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化をモニタリングするための統合リアルタイムモニタリングシステムを含み、
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントが、前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの0.03重量%から0.1重量%の改質導体または半導体フィラーを含み、かつ、前記改質導体または半導体フィラーが、分散カーボンファイバー、分散玄武岩ファイバー、またはそれらの混合物を含み;
(2)前記統合リアルタイムモニタリングシステムを用いて、選択された周波数にて前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントのAC抵抗測定値を収集すること;
(3)前記AC抵抗測定値を用いて前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化を計算すること、ここに、
前記計算には、前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気特性を表す等価回路を用い、
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントは、前記等価回路において、接点付きのバルク材料として表され、前記等価回路の総インピーダンス(Z)は、以下:
【数2】
[式中、Rはバルク材料のレジスタンスであり、RcおよびCcは、それぞれ、前記接点のレジスタンスおよびキャパシタンスであり、前記バルク材料のキャパシタンスは無視できると仮定した。]で表され;および、
(4)前記統合リアルタイムモニタリングシステムを用いて、前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化をモニターすること、ここに、
前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化がケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの性能関連特性に相関する、
を含む、方法。
【請求項9】
ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率および電気インピーダンスにおける変化が汚染の有無のケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの性能関連特性と相関する、請求項8の方法。
【請求項10】
ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの性能関連特性が、ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの硬化、圧縮強度、誘導応力、水対セメント比、温度変化、流体損失、および汚染を含む、請求項8の方法。
【請求項11】
セメント構造物が油井またはガス井の一部である、請求項8の方法。
【請求項12】
セメント構造物が、足場、建築物、パイプライン、ビルディング、トンネル、橋梁、および高速道路からなる群より選択される社会インフラの一部である、請求項8の方法。
【請求項13】
ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントが、グラウト、コンクリート、コーティング、または修復材の一部である、請求項8の方法。
【請求項14】
前記統合リアルタイムモニタリングシステムが、前記AC抵抗測定値を用いて前記ケモ−サーモ−ピエゾ抵抗性スマートセメントの電気インピーダンスにおける変化を計算する工程をさらに含む、請求項8の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2015年7月13日に出願され、「Piezo-Chemi-Resistive Highly Sensing Smart Cement with Integrated Real-Time Monitoring System」と題され、出典明示して、その全内容が本明細書に含まれる米国仮特許出願第62/192,010号に対する優先権主張を行う。
【0002】
本発明は、ある程度、エネルギー省 (DOE)、アメリカのためにエネルギー確保するための研究パートナーシップ (RPSEA)、プロジェクト No. 10121-4501-01からの基金を使用した。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、リアルタイムでその完全性および性能をモニタリングするためにスマートセメントの電気特性の変化を測定するバルク感知特性を持つケモーサーモーピエゾ抵抗性スマートセメントの開発およびアプリケーションに関する。
【0004】
油井セメントは、大水深掘削プロジェクトにおいて多くの目的を達成する。これらの中で最も重要なのは、井戸ケーシングと地層との間にシーリング層を形成することであり、ゾーン隔離 [zonal isolation]と呼ばれる。油井およびガス井セメンティング操作の成功のため、ケーシングと地層との間のセメントスラリーの流れ、循環損失および流体損失の深さ、所定の場所でのセメントの硬化、ならびに、硬化後のセメントの性能を測定することが重要である。社会インフラ(基礎、建築物、パイプライン、橋梁、高速道路、貯蔵設備およびビルディング)において、ポルトランドセメントは、建造および/または修復アプリケーションを成功させる多くの目的を適える。それゆえ、セメントの硬化を測定し、全耐用年数を通じてセメントの状態をモニタリングすることが重要である。
【0005】
1971から1991および1992から2006の期間に米国領海外大陸棚 [outer continental shelf; OCS]上の噴出についてなされた2つの研究は、明らかに、セメンティング失敗を噴出の主たる原因として確認した(Izon et al. 2007)。セメンティング失敗は、研究の2番目の時期著しく増加し、39件の噴出のうち18件がセメンティング問題によるものであった(Izon et al. 2007)。メキシコ湾における2010のディープウォーターホライズン噴出もセメンティング問題によるものであった(Kyle et al. 2014)。報告されたいくつかの失敗ならびに石油およびガス産業および社会インフラにおける環境的および経済的な懸念への関心の増大で、セメント化材料の完全性が主に重要である。したがって、井戸セメンティングその他のセメンティング操作の全プロセスを適正にモニタリングしトラッキングすることが、耐用年数の間、セメント完全性を保証するために重要になった(Vipulanandan et al. 2014a-d)。現在、アプリケーションの配置から耐用年数を通してリアルタイムでセメンティング/コーティング/コンクリーティング操作をモニターできる技術はない。油井およびガス井の設置の間も、ケーシングを支持するセメントが適格である期間を決定する信頼性のある方法はない。
【0006】
セメンティングについてのAPIおよびASTM試験は、密度、自由水、流体損失、レオロジー特性および圧縮強度を見つけ出す手順を含む。これら全ての試験は、セメントグラウトの成功を構成するために重要であるが、それらのほとんどが硬化プロセスの間の一時点(シックニングタイム [thickening time])または数時点しか考慮していない。いくつかの非破壊方法(X線回折、熱量分析、走査型電子顕微鏡および超音法)が、セメント質材料の硬化をモニターし、挙動をキャラクタライズするために、研究者によって用いられてきた (Vipulanandan et al. 2014a,b)。電気抵抗率測定は、種々のアプリケーションについてコンクリートおよびセメント質グラウトをキャラクタライズするために多くの研究者によって用いられてきた(McCarter 1996; Wei et al. 2008; Azhari et al. 2012; Han et al. 2012; Vipulanandan et al. 2014a-c; Liao et al. 2014)。材料をキャラクタライズするために電気抵抗率を用いる利点は、変化に対する感度および比較的簡単な測定であることを含む。セメントの電気抵抗率は、細孔構造、間隙溶液組成、セメント質含量、w/c比、水分量および温度のような多数の要因に影響される(McCarter 1994; Vipulanandan et al. 2014a,b)。電気伝導は、主に、セメントベースシステムの間隙溶液を通るイオン輸送により生じ、それゆえ、間隙溶液導電率および孔隙率の双方に強く依存する (Wei et al. 2008)。したがって、水和プロセスの間のセメントの微細構造の化学反応および変化はセメントベースコンポジットの電気抵抗率応答に影響する(Zuo et al. 2014; Vipulanandan et al. 2014b)。
【0007】
過去の研究は、界面因子 [the interfacial factor]が電気抵抗から電気抵抗率を求めるために重要であることを報告している(Chung 2001)。電気抵抗測定の間に存在する電圧により、電気分極抵抗測定を連続的に行っている間、電気分極が発生する。分極は、実測抵抗の上昇をもたらす。セメント質材料の電気抵抗率を測定する従来方法は、直流 (DC)法と交流 (AC)法に分類することができ、それらの双方が測定に電極を要する。したがって、電極とマトリクスとの間の接触問題が潜在的に存在し、それは、完全に、測定精度に影響する。近年の研究は、DC測定をAC測定で置き換えると、分極効果を排除できることを示唆している(Zhang et al. 2010、Vipulanandan et al. 2013)。種々のタイプのセメントグラウトについて抵抗率と硬化時間との間の関係は、同様のパターンになることが観察されている。(Wei et al. 2008; Vipulanandan et al. 2014a-c)。電気抵抗率は最小値まで低下し、そして、時間と共に徐々に上昇する。まず、セメントを水と混合した後、抵抗率は最小値(ρmin)まで低下し、最小抵抗率に達する対応時間は(tmin)である。このtminは、化学反応の速度およびセメント硬化時間の指標として用い得る。電気抵抗率も、間隙溶液の導電率および孔の接続性に支配される。混合直後、孔は接続され、より多くの伝導パスがセメント粒子間に形成される。硬化24時間後、水和生成物が伝導パスをふさぎ、迂回路 [tortuosity]が増加する。孔の接続性の減少が抵抗率曲線に急峻な上昇をもたらす (Wei et al. 2008; Vipulanandan et al. 2014a-c)。しかしながら、油井セメントが硬化する間の電気抵抗率の定量についての文献には非常に限定的な情報しかない。セメントグラウト孔の収縮およびその中の水和生成物の増大した蓄積により孔隙率が減少すると、圧縮強度の上昇がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
以下の引用文献は、本明細書に記載されているものを補足する例示的手順その他の詳細を提供する程度まで、出典明示して具体的に本明細書に含まれるとみなされる。
【0009】
【非特許文献1】API Recommended Practice 10B (1997). “Recommended practice for testing well cements”Exploration and Production Department, 22nd Edition.
【非特許文献2】API recommended Practice 65 (2002). “Cementing shallow water flow zones in deepwater wells.”
【非特許文献3】Azhari, F. and Banthia, N. (2012). “Cement-based sensors with carbon fibers and carbon nanotubes for piezoresistive sensing, cement and concrete composites.” 34, 866-873.
【非特許文献4】Chung, D.D.L. (2001). “Functional properties of cement-matrix composites.” Material Science, 36, 1315-1324.
【非特許文献5】Han, B., Zhang, K., Yu, X., Kwon, E. and J. Ou, (2012). “Composites electrical characteristics and pressure-sensitive response measurements of Carboxyl MWNT/cement composites.” Cement and Concrete Composites, 34, 794-800.
【非特許文献6】Izon, D., Mayes, M. (2007). “Absence of fatalities in blowouts encouraging in MMS study of OCS incidents 1992-2006.” Well Control, 86-90.
【非特許文献7】Kyle, M. and Eric, O. (2014). “Improved regulatory oversight using real- time data monitoring technologies in the Wake of Mocondo.” SPE 170323, 1-51.
【非特許文献8】Liao, Y. and Wei, X. (2014). “Relationship between chemical shrinkage and electrical resistivity for cement pastes at early age.” Journal of Materials in Civil Engineering, 26, 384-387.
【非特許文献9】McCarter, W. J. (1996). “Monitoring the influence of water and ionic ingress on cover-zone concrete subjected to repeated absorption, Cement Concrete and Aggregates.” 18, 55-63.
【非特許文献10】McCarter, W. J., Starrs, G., and Chrisp, T. M. (2000). “Electrical conductivity, diffusion, and permeability of Portland cement-based mortars.” Cement and Concrete Research, 30, 1395-1400.
【非特許文献11】Mohammed, A. and Vipulanandan, C. (2014). “Compressive and tensile behaviour of polymer treated sulfate contaminated CL soil, Geotechnical and Geological Engineering, 32, 71-83.
【非特許文献12】Usluogullari, O. and Vipulanandan, C. (2011). “Stress-strain behavior and California bearing ratio of artificially cemented sand” Journal of Testing and Evaluation, 39, 1-9.
【非特許文献13】Vipulanandan, C. and Paul, E., 1990. “Performance of Epoxy and Polyester Polymer Concrete.” ACI Materials Journal, Vol. 87, No. 3, May-June, 1990, p. 241-251.
【非特許文献14】Vipulanandan, C. and Liu, J. (2002). “Film Model for Coated Cement Concrete.” Cement and Concrete Research, Vol. 32(4), 1931-1936.
【非特許文献15】Vipulanandan, C., Ahossin, Y.J. and Bilgin, O. (2007). “Geotechnical properties of marine and deltaic soft clays.” GSP 173 Advances in Measurement and Modelling of Soil Behaviour, 1-13.
【非特許文献16】Vipulanandan, C. and Garas, V. (2008). “Electrical resistivity, pulse velocity and compressive properties of carbon fiber reinforced cement mortar.” Journal of Materials in Civil Engineering, 20, 93-101.
【非特許文献17】Vipulanandan, C. and Prashanth, P. (2013). “Impedance spectroscopy characterization of a piezoresistive structural polymer composite bulk sensor.” Journal of Testing and Evaluation, 41, 898-904.
【非特許文献18】Vipulanandan, C, Krishnamoorti, R. Saravanan, R. Qi, Q. and Pappas, J. (2014a) “Development of Smart Cement for Oil well Applications”, Offshore Technology Conference (OTC) 2014, OTC-25099-MS, CD Proceeding, 1-18.
【非特許文献19】Vipulanandan, C., Heidari, M., Qu, Q., Farzam, H.and Pappas, J. M. (2014b). “Behavior of piezoresistive smart cement contaminated with oil based drilling mud.” Offshore Technology Conference, OTC 25200-MS, 1-14.
【非特許文献20】Vipulanandan, C, Ali, K. and Pappas, J. (2014c). “Smart Cement Modified with Meta Silicate For Oil Well Cementing,” American Association of Drilling Engineers (AADE), 2014, AADE-14-NTCE-03, CD Proceeding, Houston, Texas, April 2014.
【非特許文献21】Vipulanandan, C. and Mohammed, A. (2014d). “Hyperbolic rheological model with shear stress limit for acrylamide polymer modified bentonite drilling muds.” Petroleum Science and Engineering, 122, 38-47.
【非特許文献22】Wei, X., Lianzhen, X. and Li, Z. (2008). “Electrical measurement to assess hydration process and the porosity formation.” Journal of Wuhan University of Technology-Material Science. Ed., 23, 761-766.
【非特許文献23】Zhang, J., Weissinger, E.A., Peethamparan, S. and Scherer, G.W. (2010). “Early hydration and setting of oil well cement.” Cement and Concrete research, 40, 1023-1033.
【非特許文献24】Zuo, Y., Zi, J. and Wei, X. (2014). “Hydration of cement with retarder characterized via electrical resistivity measurements and computer simulation.” Construction and Building Materials, 53, 411-418.
【発明の概要】
【0010】
本開示は、概略、いわゆる「スマートセメント」、すなわち、応力変化、水和、汚染、クラック形成および流体損失のような特性を測定し、モニタリングすることにおいて、当該スマートセメントのケモーサーモーピエゾ抵抗挙動を促進するために、導体フィラー(ナノ粒子なし)で改質されたセメントに関する。
【0011】
スマートセメントは高感知材料である。感知特性は電気抵抗率である。前記感知特性は、応力、汚染、クラック、流体損失および温度で変化する。アプリケーションに応じて、要求されるセンシングの程度は異なり得る。導体フィラーのタイプも、アプリケーションに応じて異なり得る。セメントがケモーサーモーピエゾ抵抗性であるためには、前記導電性ファイバー含量は、セメントの重量基準で約0.03%から約0.1%の間である。
【0012】
社会インフラにおいて、バルクセンサー(これらは埋込み型外来センサーではない)は存在せず、それゆえ、スマートセメントは、コンクリートの硬化、コーティングまたはグラウトおよび全耐用年数の間の性能をモニタリングするバルクセンサーとして使用できる。
【0013】
過去の研究は、改質セメントベースおよびポリマーコンポジットのピエゾ抵抗挙動といわれる、負荷応力での電気抵抗率変化を調査した(Vipulanandan et al. 2008)。それらの研究は、負荷応力での電気抵抗率変化が材料の歪みの30から50倍高いことを示した。それゆえ、抵抗率変化は、材料の完全性を測定するために用いる可能性を有し、非線形スマートセメントの挙動のモデリングが、この研究で調査された種々のパラメータの効果をよりよく理解するのに重要である(Zuo et al. 2014; Vipulanandan et al. 2002-2014a-c)。
【0014】
本開示と併せて、スマートセメントの性能をモニタリングするために用い得るセメントの感知特性が確認された。油井セメントおよびポルトランドセメントに対する多数の研究後、現在の研究に基づき、電気抵抗率(ρ)がセメントベース材料の感知特性として選択された。それゆえ、2つのパラメータ(抵抗率および抵抗率変化)が、セメントの感知特性の定量に用いられた。電気抵抗率は、以下:
【0015】
【数1】
で与えられる。変化条件での正規化抵抗率変化は、以下:
【0016】
【数2】
で表される。
【0017】
スマートセメントの完全性および性能をモニタリングすることは、総抵抗率(ρ0)および抵抗率変化(Δρ)の率を測定することを含む。300 kHz以上の周波数にてRbを決定することによって、抵抗は決定できる(Vipulanandan et al. 2013および2014a,b)。総抵抗率は、上記のように、較正パラメータKを実測抵抗と用いることによって決定する。
【0018】
スマートセメントの感知特性を理解することは、そのようなセメントをその物理特性をモニタリングし、トラッキングするための方法およびシステムと併せて用いることを許容する。この開示は、バルクセンサーコンセプト(ケモーサーモーピエゾ抵抗性)および特定されたモニタリングパラメータを利用する。セメントの約0.1%未満を占める特別の導体フィラーを用いる。前記特別の導体フィラーは、分散カーボンファイバーまたは玄武岩ファイバーで作られた改質生成物である。モニタリングシステムをリアルタイムで利用し、セメント部分から延在するフレキシブルワイヤーを配置することを必要とするであろう。変化は、ケモーサーモーピエゾ抵抗特性に基づいて定量することができ、非常に高感知のセメントが製造される。さらに、セメントの汚染は本方法を用いて検出できる。
【0019】
抵抗率変化に基づき、スマートセメントにおける応力は、以下のp-qピエゾ抵抗性導電性モデル:
【0020】
【数3】
を用いて決定できる。
【0021】
スラリー抵抗率が、初期設置の間に20%以上も急激に変化する場合、セメントは汚染されている。急激な抵抗率変化は、汚染の種類および量に依存する。
【0022】
スマートセメントの挙動は、建造の様々な段階、ならびに、構造物、特に、油井、基礎、建築物、パイプライン、橋梁、高速道路、貯蔵設備およびビルディングの耐用年数の間、モニタリングすることができる。ケモーサーモーピエゾ抵抗性スマートセメントもいかなるグラウト、コンクリート、コーティング、または修復材の一部として用いることができる。本発明のスマートセメントのピエゾ抵抗挙動は、セメントの粘性および硬化性に影響することなく、実質的に向上した。スマートセメントに対して、ピーク圧縮応力での抵抗率変化は、歪みの変化(わずか0.2%)より高く、1000倍を超える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、スマートセメントの電気特性を表す例示的な等価回路を示す。
【0024】
図2図2は、スマートセメントの電気特性を表す例示的な等価回路を示す。
【0025】
図3図3は、例示的な等価回路の典型的なインピーダンス対周波数応答の比較を示す。
【0026】
図4図4は、(a)1日間、(b)7日、および(c)28日間の硬化時間での油井セメントの実測および予測ピエゾ抵抗挙動を示す。
【0027】
図5図5は、(a)1日間、(b)7日、および(c)28日間の硬化時間での油井セメントの実測および予測ピエゾ抵抗挙動を示す。
【0028】
図6図6は、水対セメント比が0.38から0.54のスマートセメントの比抵抗指数 (RI24hr)と圧縮強度との関係を示す。
【0029】
図7図7は、異なる量の油系泥水 (OBM)汚染を有するセメント試料の初期抵抗率を示す。
【0030】
図8図8は、1日間の硬化後、(a)非汚染および(b)汚染のセメントのピエゾ抵抗挙動(圧縮応力対抵抗率変化)を示す。
【0031】
図9図9は、28日間の硬化後、(a)非汚染および(b)汚染のセメントのピエゾ抵抗挙動(圧縮応力対抵抗率変化)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示は、導体フィラーで改質したスマートセメントならびにその構造特性および劣化の指標としてのケモーサーモーピエゾ抵抗挙動の使用に関する。
【0033】
好ましい具体例において、セメントの性能関連特性をモニタリングするためのシステムが記載される。そのシステムは、スマートセメントで構成されるセメント構造物を含み、前記スマートセメントは、セメントに対して約0.03重量%から約0.1重量%の改質導体フィラーを含み、前記改質導体フィラーは、分散カーボンファイバー、分散玄武岩ファイバー、またはそれらの混合物を含む。そのシステムは、スマートセメントの電気特性をモニタリングするための統合モニタリングシステムも含み、前記スマートセメントの電気特性はセメントの性能関連特性と相関する。
【0034】
改質導体および/または半導体フィラーは、分散カーボンファイバーもしくは分散玄武岩ファイバー、またはそれら二つの混合物を含み得る。前記ファイバー、典型的に、10以上の長さ対直径比を有する。スマートセメントにナノ粒子を使用しないので、環境的に許容される。改質導体フィラーを作るファイバーは、カーボンファイバー(例えば、Zoltek PANEX(R) カーボンファイバー, St. Louis, MO)または玄武岩ファイバー(例えば、Sudaglass Fiber Technology, Inc. 玄武岩ファイバー, Houston, TX)として市場で入手できる。前記ファイバーは、好ましくは、界面活性剤溶液または温水中で混合され、分散のためにミキサーでブレンドされ、次いで、それらをセメントに用いる前に乾燥する。
【0035】
スマートセメントは幾通りかのやり方で調製できる。主な目的は、セメント中にファイバーを非常によく分散させることにある。第1のシンプルな例は以下である:ファイバーを水に分散させる。セメントを添加して混合する。スマートセメントスラリーの抵抗率は、水対セメント比に依存して約1Ω.mである。第2の例は以下である:ファイバーを乾燥セメントと混合する。水を添加し、ファイバー添加のセメントと混合する。スマートセメントスラリーの抵抗率は、水対セメント比に依存して約1Ω.mである。
【0036】
実施例1 電気抵抗率測定
2つの異なる方法が、油井セメントスラリーの電気抵抗率測定について調査された。測定の反復性を保証するために、初期抵抗率は、各セメントスラリーに対して少なくとも3回測定し、平均抵抗率を報告した。セメントスラリーの電気抵抗率は、(i) 導電率プローブおよび(ii) デジタル抵抗計を用いて測定した。市場で入手可能な導電率プローブを用いてスラリーの導電率(抵抗率の逆数)を測定した。セメントの場合、セメントの初期硬化の間、このメーターを用いた。導電率測定範囲は0.1μS/cmから1000mS/cmであり、0.1Ω.mから10,000 Ω.mの抵抗率を表す。デジタル抵抗計(石油産業で用いられている)を用いて、流体、スラリーおよび半固体の抵抗率を直接測定した。このデバイスの抵抗率範囲は0.01Ω-mから400Ω-mであった。導電率プローブおよびデジタル電気抵抗デバイスは、塩化ナトリウム(NaCl)の標準液を用いて較正した。
【0037】
実施例2 インピーダンス分光モデル
材料の電気特性および界面腐食を表す最も適当な等価回路の識別は、その特性をさらに理解するために必須である。この研究において、前記スマートセメントを表す等価回路は、インピーダンス分光データの解析によるより良いキャラクタリゼーションが必要であった。回路の異なるエレメントと対応する試料のインピーダンスデータにおける異なる領域との間のリンクを作ることが必要であった。困難性および不確実性を考えると、研究者は、現実的な手法を用い、彼らが、研究の下に予測される材料の挙動の知見から最も適当と確信する回路を採用し、結果が用いた回路と整合することを実証した。この実施例において、異なる可能性のある等価回路を解析して、前記スマートセメントおよび、該当する場合、スマート掘削泥水を表すのに適当な等価回路を見つけ出した。
【0038】
第1のケース(ケース1)において、接点は直列で接続され、接点およびバルク材料の双方が並列で接続されたキャパシターおよびレジスターを用いて表された。
【0039】
図1に示すケース1に対する等価回路において、RbおよびCbは、それぞれ、バルク材料のレジスタンスおよびキャパシタンスであり、RcおよびCcは、それぞれ、接点のレジスタンスおよびキャパシタンスである。双方の接点は、それらが同一なので、同じレジスタンス (Rc)およびキャパシタンス (Cc)で表される。ケース1に対する等価回路の総インピーダンス (Z1)は以下:
【0040】
【数4】
で表される。印加信号の周波数が、非常に低いときはω → 0、Z1 = Rb + 2Rcであり、非常に高いときはω → ∞、Z1= 0である。
【0041】
第2のケース(ケース2)において、前記バルク材料のキャパシタンス (Cb)は無視できると仮定した。等価回路を図2に示す。ケース2の等価回路の総インピーダンス (Z2)は以下:
【0042】
【数5】
である。印加信号の周波数が、非常に低いときはω → 0、Z2 = Rb + 2Rcであり、非常に高いときはω → ∞、Z2 = Rb図3)である。
【0043】
図3は、ケース1およびケース2の等価回路に対する典型的応答の比較を示す。試験は、ケース2が20 Hzから300 kHzの周波数レンジのうち周波数が300 kHzでの挙動を表すことを示している。
【0044】
実施例3 試験およびキャラクタリゼーション
この研究において、水対セメントが0.38、0.44および0.54の油井セメントおよびポルトランドセメントを用いた。試料は、APIおよびASTMスタンダードに従って調製した。セメントに対して0.1重量%の導体フィラー (CF)で改質したセメントの感知特性およびピエゾ抵抗挙動を向上するために、全ての試料と混合した。混合後、試験片を、直径が50 mmで高さが100 mmのシリンダー状金型で準備した。2本の導電ワイヤーを全ての金型に配置して、電気抵抗率を測定した。各混合物に対して少なくとも3つの試験片を準備した。
【0045】
圧縮強度試験について、シリンダー状試験片(50 mm直径×100 mm高)にふたをして、所定の制御された変位速度で試験した。圧縮試験は、1、7および28日間の硬化後のセメント試料に対して、水圧機を用いて行った。各試験条件下、少なくとも3つの試験片を試験し、平均結果を報告した。
【0046】
ピエゾ抵抗性は、応力下の材料の電気抵抗率変化を記述する。現実の適用において石油およびガス井の圧力負担部分の働きをするので、異なるw/c比のスマートセメント(応力−抵抗率関係)のピエゾ抵抗性を、異なる硬化時間にて圧縮負荷下で調査した。圧縮試験の間、電気抵抗は、負荷応力の方向で測定した。分極効果を除外するために、AC抵抗測定を、LCRメーターを用いて300 kHzの周波数にて行った (Vipulanandan et al. 2013)。
【0047】
モデル予測の精度を決定するために、下式で定義されるカーブフィッティングにおける決定係数 (R2)および二乗平均平方根誤差 (RMSE)の双方を定量した。
【0048】
【数6】
【0049】
いつかの特徴抵抗率パラメータが、セメントの硬化(硬化プロセス)をモニタリングするのに使用できる。前記パラメータは、初期抵抗率(ρo)、最小電気抵抗率(ρmin)、最小抵抗率(tmin)に達するまでの時間、ならびに、下式で定義される24時間(RI24hr)および7日間(RI7days)の終わりでの抵抗率の最大変化のパーセンテージである。
【0050】
【数7】
【0051】
(a)w/c = 0.38
w/cが0.38のスマートセメントの単位重量は16.48 ppgであった。w/c比が0.38の0.1% CFで改質したスマートセメントの初期電気抵抗率(ρo)は1.03Ω-mであり、電気抵抗率は、表1にまとめたように、99分間(tmin)後、0.99Ω-mのρminに達するまで低下した。セメントの24時間電気抵抗率(ρ24hr)は4.15Ω.mであった。そして、24時間後の電気抵抗率の最大変化(RI24hr)は、表1にまとめたように、319%であった。セメントグラウトの7日間電気抵抗率(ρ7days)は7.75Ω.mであり、そして、7日間後の電気抵抗率の最大変化(RI7days)は683%であった。
【0052】
(b)w/c = 0.44
w/cが0.44のスマートセメントの単位重量は16.12 ppgであった。w/c比が0.44の0.1% CFで改質したスマートセメントの初期電気抵抗率(ρo)は1Ω-mであり、電気抵抗率は、表1にまとめたように、114分間(tmin)後、0.89Ω-mのρminに達するまで低下した。セメントの24時間電気抵抗率(ρ24hr)は2.55Ω.mであった。そして、24時間後の電気抵抗率の最大変化 (RI24hr)は、表1にまとめたように、187%であった。試料の7日間電気抵抗率(ρ7days)は7.75Ω.mであり、そして、7日間後の電気抵抗率の最大変化(RI7days)は462%であった。
【0053】
(c)w/c = 0.54
w/cが0.54のスマートセメントの単位重量は15.78ppgであった。w/c比が0.54の0.1%CFで改質したスマートセメントの初期電気抵抗率(ρo)は0.9Ω-mであり、電気抵抗率は、表1にまとめたように、128分間 (tmin)後、0.78Ω-mのρminに達するまで低下した。セメントの24時間電気抵抗率(ρ24hr)は1.67Ω.mであった。そして、24時間後の電気抵抗率の最大変化(RI24hr)は、表1にまとめたように、114%であった。試料の7日間電気抵抗率(ρ7days)は4.6Ω.mであり、そして、7日間後の電気抵抗率の最大変化(RI7days)は490%であった。
【0054】
【表1】
【0055】
スマートセメントの初期電気抵抗率(ρo)は、表1にまとめたように、w/c比が0.38から0.44および0.54に上昇したとき、それぞれ、3%および13%低下した。スマートセメントの最小電気抵抗率(ρmin)も、表1にまとめたように、w/c比が0.38から0.44および0.54に上昇したとき、それぞれ、10%および21%低下した。最小電気抵抗率 (tmin)に達するまでの時間は、表1にまとめたように、w/c比が0.38から0.44および0.54に上昇したとき、それぞれ、15%および21%低下した。
【0056】
パラメータtminおよびρminは品質管理指標として使用でき、以下のようにw/c比に関連する。
【0057】
【数8】
それゆえ、電気抵抗率パラメータは、w/c比に線形関係にあった。
【0058】
さらなる0.1%導体フィラーは、セメントのピエゾ抵抗挙動を実質的に向上した。実験結果に基づき、p-qモデル (Vipulanandan and Paul (1990))を変形し、1、7および28日間の硬化につき、負荷応力の間のセメントの電気抵抗率の変化を予測するのに用いた。新規ピエゾ抵抗性構成モデル(応力−抵抗率関係)は以下である。
【0059】
【数9】
【0060】
(i) 1日間の硬化
【0061】
1日間の硬化につき、w/c比が0.38、0.44および0.54のセメントの圧縮強度(σf)は、それぞれ、10.6 MPa、8.4 MPaおよび4.6 MPaであり、以下の表2にまとめたように、w/c比が0.38から0.44および0.54に上昇したとき、それぞれ、14%および53%減少した。w/c比が0.38、0.44および0.54のセメント(スマートセメント)への0.1% CFの添加は、圧縮強度を、それぞれ、10.9 MPa、9.8 MPaおよび5.3 MPaに増大した。そして、0.1% CFの添加は、以下の表2にまとめたように、w/c比が0.38、0.44および0.54のセメントの強度を、それぞれ、3%、17%および15%増大した。
【0062】
【表2】
【0063】
0.38、0.44および0.54の異なるw/c比の未改質油井セメントについて、破壊時電気抵抗率
【0064】
【数10】
の変化は、表2にまとめたように、それぞれ、0.70%、0.60%および0.48%であった。スマートセメントへの0.1% CF添加で、w/c比が0.38、0.44および0.54のスマートセメントについての破壊時電気抵抗率
【0065】
【数11】
は、それぞれ、583%、531%および355%であった。セメントへのさらなる0.1% CFは、表2にまとめたように、w/c比が0.38、0.44および0.54の油井セメントの破壊時電気抵抗率
【0066】
【数12】
の変化を、それぞれ、832、697および729の倍数で実質的に促進した。
【0067】
上記のp-qピエゾ抵抗性導電性モデルを用いて、1日間の硬化につき、w/c比が0.38、0.44および0.54のセメントの圧縮応力と電気抵抗率
【0068】
【数13】
の変化との間の関係をモデル化した。ピエゾ抵抗性導電性モデルは、実測した応力−抵抗率変化関係を非常によく予測した(図4(a)および5(b))。モデルパラメータq2およびp2を表2にまとめた。決定係数 (R2)は0.98および0.99であった。二乗平均平方根誤差 (RMSE)は、表2にまとめたように、0.02 MPaと0.04 MPaとの間である。
【0069】
(ii) 7日間の硬化
【0070】
7日間の硬化後、w/c比が0.38、0.44および0.54のセメントの圧縮強度(σf)は、表2にまとめたように、1日間の硬化後のセメントの圧縮強度(σf)と比較して、それぞれ、61%、56%および115%上昇した。w/c比が0.38、0.44および0.54のセメント(スマートセメント)への0.1% CFの添加は、それぞれ、圧縮強度を17.2 MPa、13.7 MPaおよび9.2 MPaに増大した。それゆえ、セメントへの0.1% CFの添加は、w/c比が0.38、0.44および0.54のセメントについて、それぞれ、圧縮強度を9%、5%および4%増大した。
【0071】
0.38、0.44および0.54の異なるw/c比の未改質油井セメントの破壊時電気抵抗率
【0072】
【数14】
の変化は、図4(b)に示すように、それぞれ、0.62%、0.55%および0.41%であった。スマートセメントへの0.1% CF添加で、w/cが0.38、0.44および0.54のスマートセメントについての破壊時電気抵抗率
【0073】
【数15】
は、それぞれ、432%、405%および325%であった(図5(b))。セメントへのさらなる0.1% CFは、表2にまとめたように、w/c比が0.38、0.44および0.54の油井セメントの破壊時電気抵抗率
【0074】
【数16】
の変化を、それぞれ、697、736および792の倍数で実質的に促進した。
【0075】
1日間の硬化について、0.38、0.44および0.54の異なるw/c比のセメントの圧縮応力と電気抵抗率
【0076】
【数17】
の変化との間の関係をモデル化して、p-qピエゾ抵抗性モデルを訴求した。ピエゾ抵抗性導電性モデルは、実測した応力−抵抗率変化関係を非常によく予測した(図4(b)および5(b))。ピエゾ抵抗性モデルパラメータq2およびp2を表2にまとめた。決定係数 (R2)は0.99であった。二乗平均平方根誤差 (RMSE)は、表2にまとめたように、0.02 MPaと0.04 MPaとの間で変化した。
【0077】
(iii) 28日間の硬化
【0078】
28日間の硬化につき、w/c比が0.38、0.44および0.54のセメントの圧縮強度(σf)は、7日間の硬化と比較して、それぞれ、12%、16%および14%上昇上昇した。w/c比が0.38、0.44および0.54のセメント(スマートセメント)への0.1% CFの添加は、圧縮強度を、それぞれ、19.4 MPa、16.8 MPaおよび12.6 MPaに増大した。そして、セメントへの0.1% CFの添加は、w/c比が0.38、0.44および0.54のセメントにつき、それぞれ、圧縮強度を12%、11%および12%増大した。
【0079】
0.38、0.44および0.54の異なるw/c比の油井セメントの破壊時電気抵抗率
【0080】
【数18】
の変化は、図4 (c)に示し、表2にまとめたように、それぞれ、0.55%、0.41%および0.33%であった。セメント(スマートセメント)への0.1%CF添加で、0.38、0.44および0.54のスマートセメントについて、破壊時電気抵抗率
【0081】
【数19】
は、それぞれ、401%、389%および289%であった(図5(c))。セメントへのさらなる0.1% CFは、表2にまとめたように、w/c比が0.38、0.44および0.54の油井セメントの破壊時電気抵抗率
【0082】
【数20】
の変化を、それぞれ、729、948および875の倍数で増大した。
【0083】
1日間の硬化について、0.38、0.44および0.54の異なるw/c比のセメントの圧縮応力と電気抵抗率
【0084】
【数21】
の変化との間の関係をモデル化して、p-qピエゾ抵抗性モデルを訴求した。ピエゾ抵抗性導電性モデルは、実測応力−抵抗率変化関係を非常に良く予測した(図4(c)および5(c))。ピエゾ抵抗性モデルパラメータq2およびp2を表2にまとめた。決定係数 (R2)は0.99であった。二乗平均平方根誤差 (RMSE)は、表2にまとめたように、0.02 MPaと0.04 MPaとの間で変化した。
【0085】
まとめると、油井セメントへの0.1% CFの添加は、セメントのピエゾ抵抗挙動を実質的に促進して(700倍以上)、それを非常に感度よく高性能にした。CFなしの油井セメントについてのモデルパラメータq2は、表2にまとめたように、w/c比および硬化時間に基づき、0.05と3.51との間で変化した。0.1% CF入りの油井セメントについてのモデルパラメータq2は、表2にまとめたように、w/c比および硬化時間に基づき、0.05と1.59との間で変化した。CFなしの油井セメントについてのモデルパラメータp2は、表2にまとめたように、w/c比および硬化時間に基づき、0と0.89との間で変化した。スマートセメントについて、パラメータp2は、0から0.16まで変化した(表2)。0.1% CFの添加は、油井セメントの圧縮強度も向上した。
【0086】
全セメント水和プロセスの間、セメントの電気抵抗率および圧縮強度は両方とも、硬化時間にしたがって徐々に上昇した。様々なw/c比のセメントペーストについて、抵抗率変化は、硬化の間に変化した。低いw/c比のセメントペーストは、表1に示すように、高いw/c比のセメントよりも低い電気抵抗率変化 (RI24hr)を有していた。
【0087】
(RI24hr)と1日間、7日間および28日間後の圧縮強度 (MPa)との間の関係(図6)は、
【0088】
【数22】
である。
【0089】
それゆえ、様々な硬化時間後のスマートセメントの圧縮強度は、比電気抵抗、RI24hrに対して線形関係にあった。RI24hrは1日間で決定できるので、28日間までのスマートセメントの圧縮強度を予測するのに使用できる。
【0090】
w/c比が0.38、0.44および0.54のスマートセメントの硬化およびピエゾ抵抗挙動の実証研究および解析モデリングに基づき、以下の結論に達した。
【0091】
(1)スマートセメントの初期抵抗率(ρo)は、1.03Ω-mから1Ω-mおよび0.9Ω-mに低下し、水対セメント比が0.38からそれぞれ、0.44および0.54へ上昇するにしたがって、3%および12%の低下であった。電気抵抗率の変化は、セメントの単位重量の変化よりも高かった。それゆえ、電気抵抗率も品質管理に使用できる。
【0092】
(2)スマートセメントは、未改質セメントと比較して促進したピエゾ抵抗挙動を示した。0.1%導体フィラー(CF)改質で、ピーク応力でのピエゾ抵抗は未改質セメントの700倍以上促進した。ピエゾ抵抗促進は、水対セメント比および硬化時間に依存した。新規ピエゾ抵抗性導電性モデルは、圧縮応力-抵抗率変化の関係を非常に良く予測した。さらなる0.1% CFも28日間後圧縮強度を10%以上増大した。
【0093】
(3)異なる硬化時間についてスマートセメントの比抵抗指数 (RI24hr)と圧縮強度との間で、
線形関係が観察された。RI24hrは1日間で決定できるので、28日間までスマートセメントの圧縮強度を予測するのに使用できる。
【0094】
(4)抵抗率パラメータ、最小抵抗率および最小抵抗率に達するまでの時間は、水対セメント比に対して線形関係にあった。それゆえ、これらの抵抗率パラメータも、スマートセメント混合物に品質管理に使用できる。
【0095】
まとめると、スマート油井セメントのピエゾ抵抗挙動に対する水対セメント比 (w/c)の影響を調査した。スマートセメントの感知特性は0.1%導体フィラー (CF)で変更し、その挙動を28日間の硬化まで調査した。電気抵抗率は、スマートセメントについての特性を感知しモニタリングすることが認められた。スマートセメントの初期抵抗率(ρo)は、w/c比が0.38から0.44および0.54に上昇すると、それぞれ、1.03Ω-mから1Ω-mおよび0.9Ω-mに低下し、3%および12%低下であり、セメントグラウトの初期単位重量の変化よりも高かった。スマートセメントの最小抵抗率(ρmin)も、w/c比が0.38から0.44および0.54に上昇すると、それぞれ、0.99Ω-mから0.89Ω-mおよび0.78Ω-mに低下し、10%および21%低下であった。スマートセメントの硬化24時間後の電気抵抗率(ρ24hr)は、w/c比が0.38から0.44および0.54に上昇すると、それぞれ、39%および60%低下した。スマートセメントの硬化7日間後の電気抵抗率(ρ7days)は、w/c比が0.38から0.44および0.54について、それぞれ、7日間後の電気抵抗率よりも87%、96%および175%高かった。非線形硬化モデルを用いて、硬化時間での電気抵抗率の変化を予測し、それは、全ての実測傾向を非常に良く予測した。硬化電気的パラメータは、水対セメント(w/c)比に線形関係にあった。スマートセメントの破壊時ピエゾ抵抗は、未改質セメント(0.7%未満)よりも700倍以上高かく、w/c比および硬化時間に依存し、セメントを非常に感度良くした。非線形ピエゾ抵抗性導電性モデルは、スマートセメントの圧縮応力−抵抗率変化の関係を非常に良く予測した。w/c比が0.38、0.44および0.54の0.1%CF入りスマートセメントの圧縮強度は、未改質セメントと比較して、28日間の硬化後、10%以上上昇した。異なる硬化時間についてスマートセメントの比抵抗指数(RI24hr)と圧縮強度との間で、線形関係が観察された。
【0096】
実施例4 汚染スマートセメント
試料調製直後の非汚染および汚染ケモーサーモーピエゾ抵抗性スマートセメントの電気抵抗率を図7に示す。図7に示すように、スマートセメントの初期電気抵抗率は、汚泥汚染の増加とともに上昇した。改質された非汚染セメントの平均初期電気抵抗率は1.06Ω.mであった。スマートセメントを0.1 パーセントの油系泥水 (OBM)で汚染しただけで、その初期電気抵抗率を1.95Ω.mに増大し、非汚染セメントの84パーセントも高かった。スマートセメントが1パーセントおよび3パーセントのOBMで汚染されると、初期電気抵抗率の上昇は、それぞれ、216パーセントおよび304パーセントを超えた。それゆえ、電気抵抗率は、OBM汚染に対して高度に感知性であり、セメントの初期電気抵抗率はOBM汚染の良好な指標であった。
【0097】
1日間および28日間硬化後の非汚染および汚染セメントのケモーサーモーピエゾ抵抗挙動(圧縮応力および/または汚染対抵抗率変化)を、それぞれ、図8および9に示す。電気抵抗率は、圧縮応力に感知性であった。図8および9は、電気抵抗率は圧縮負荷の間上昇し、試験片内部のクラック形成ではっきりとし上昇することを示した。OBM汚染は、スマートセメントのピエゾ抵抗性応答に影響した。1日間の硬化後、非汚染スマートセメントは抵抗率変化が780パーセントで破壊され、一方、3% OBM汚染セメントは、抵抗率変化が220パーセントで破壊された。28日間の硬化後、3% OBM汚染試験片は、破壊時電気抵抗率の変化が非汚染セメントよりも3倍も低かった。スマートセメントは、OBM汚染の有無でケモーサーモーピエゾ抵抗挙動を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9