【実施例】
【0018】
図1、
図2に示すように、受光装置1は、集光レンズ2と、この集光レンズ2を支持するレンズホルダ3と、半導体受光素子4と、この半導体受光素子4及びレンズホルダ3を固定する基台5を有する。そして、矢印Iで示すように、例えば検体で散乱された拡散光が様々な方向から集光レンズ2に入射し、集光レンズ2を透過した光が半導体受光素子4に入射するように、受光装置1が構成されている。
【0019】
半導体受光素子4は、半導体基板として例えばリン化インジウム(InP)基板と、光吸収層としてInGaAs層を備えたフォトダイオードである。この半導体受光素子4は受光した赤外光を光電流に変換する。
【0020】
基台5に固定された半導体受光素子4の不図示のアノード電極及びカソード電極は、対応する基台5の1対の出力端子5a,5bに例えば金属ワイヤによって接続されている。受光装置1は、集光レンズ2を透過して半導体受光素子4が受光した光を光電流に変換し、1対の出力端子5a,5bを介して外部に出力する。
【0021】
レンズホルダ3は、集光レンズ2の装着部3aと、半導体受光素子4の収容部3bと、これら装着部3aと収容部3bを連通させる光通路部6を有する。このレンズホルダ3は、例えば樹脂成形によって外形が円形又は多角形の筒状に形成されている。また、集光レンズ2の外形は、円形でもよく多角形でもよい。
【0022】
光通路部6は、装着部3aに装着された集光レンズ2から収容部3bに収容された半導体受光素子4に近づく程径が小さくなる円錐台状に形成されている。そして、レンズホルダ3の光通路部6に臨む面に、例えば蒸着法によって金属反射膜(例えばAu膜、Cr膜等)が形成されたことにより、円錐台状の光通路部6の側面を囲む筒状の反射面7が形成されている。この反射面7の中心線Cは、円錐台状の光通路部6の中心線と共通であり、中心線Cが集光レンズ2の中心を通るように集光レンズ2が装着部3aに装着されている。
【0023】
集光レンズ2は、その材料の半導体基板10として例えばシリコン(Si)基板の片面である第1面11に部分球面状の複数の凸レンズ面14が一体的に形成され、第1面11の裏面である第2面12が平坦に形成された複眼レンズである。この集光レンズ2は、平坦な第2面12が光通路部6に臨むように、レンズホルダ3の装着部3aに装着されている。集光レンズ2を形成する半導体基板10は、例えば波長が1.2μm以上の赤外光を透過させることができ、屈折率は3.2よりも大きい。
【0024】
集光レンズ2が装着されたレンズホルダ3は、基台5に固定された半導体受光素子4の中心を反射面7の中心線Cが通るように位置決めされ、基台5に例えば接着剤によって固定されている。この受光装置1に入射する拡散光について行った光線追跡シミュレーションの結果を
図3に示す。
【0025】
光線追跡シミュレーションでは、発散角(全角)が40°の光を、集光レンズ2の第1面11側に設定された複数の出射点Eから集光レンズ2に入射させる。これにより、集光レンズ2の全体に様々な方向から入射する拡散光が再現されている。集光レンズ2の各凸レンズ面14は、直径が100μm、曲率半径が90μm、厚さが50μmの微小レンズとして設定されている。このような複数の微小レンズを、50μmの間隔を空けて並べることにより、集光レンズ2(複眼レンズ)が再現されている。
【0026】
半導体受光素子4は、受光径が500μmに設定されている。反射面7の半導体受光素子4側の開口径は、半導体受光素子4の受光径と同等に設定されている。そして、反射面7を中心線Cに対してφ=18°傾けて集光レンズ2側の開口径を大きくし、集光レンズ2の複数の凸レンズ面14が全て反射面7の内側に収まるように設定されている。このときの微小レンズと半導体受光素子4の間の距離は2.7mmである。反射面7の中心線Cは、集光レンズ2の中心及び半導体受光素子4の中心を通る。
【0027】
複数の出射点Eから出射されて集光レンズ2を透過した光の一部は、反射面7によって1回以上反射されながら半導体受光素子4に向かって光通路部6を進行し、半導体受光素子4に入射する。また、反射面7で1回も反射されずに半導体受光素子4に入射する光もある。
【0028】
反射面7は、集光レンズ2側の開口径が大きいので、光の反射時に、中心線Cの方向における光の集光レンズ2側に向かう方向成分を増加させて半導体受光素子4側に向かう方向成分を減少させる作用(集光レンズ2側に戻す作用)を有する。そのため、
図3では省略しているが、反射面7で複数回反射されて集光レンズ2側に戻り、半導体受光素子4に入射しない光もある。
【0029】
光通路部6に入射した光(集光レンズ2を透過した光)のうち半導体受光素子4に入射する光の割合を結合効率(Coupling Efficiency)とした場合に、
図3における結合効率は57.5%である。一方、比較例として、例えば受光装置1の集光レンズ2を単一の凸レンズ面を備えた平凸レンズ30にした場合(
図13参照)の結合効率は42%である。また、受光装置1の集光レンズ2を除去した場合(
図12参照)の結合効率は20%、受光装置1の反射面7を除去して集光レンズ2を平凸レンズ30にしたの場合(
図11参照)の結合効率は21%である。複眼レンズである集光レンズ2が入射する拡散光を集光し、光通路部6を中心線Cの方向に進行する光が増加するので、反射面7で複数回反射されて集光レンズ2側に戻る光が減少し、結合効率が向上している。
【0030】
集光レンズ2の複数の凸レンズ面14が、半導体受光素子4側(光通路部6の奥側)に向けて光を集光すれば、結合効率が一層向上すると考えられる。そこで、
図3の微小レンズの光軸が半導体受光素子4に向かうように、微小レンズの光軸を例えば中心線Cと交差角θ=30°で交差するように傾けた場合の光線追跡シミュレーション結果を
図4に示す。この場合、結合効率が65%に向上する。
【0031】
中心線Cと複数の微小レンズの光軸の交差角θを0°から30°まで5°ずつ増加させたときの結合効率を上記比較例と共に
図5に示している。比較例は、
図13の場合を四角形(□)、
図12の場合を三角形(△)、
図11の場合を菱形(◇)で表示している。
【0032】
図5において、交差角θが増加することにより、結合効率は交差角θ=0°の場合よりも大きくなっている。従って、集光レンズ2が、複数の凸レンズ面14の光軸を反射面7の中心線Cと30°以下の交差角θで交差するように夫々傾けた複眼レンズである場合には、結合効率の一層の向上を図ることができる。そして、複数の凸レンズ面14の光軸の傾きが同じでなくても中心線Cと30°以下の交差角θであれば、交差角θが0°の場合よりも結合効率が向上することが容易に理解される。
【0033】
次に、複数の凸レンズ面14の光軸を反射面7の中心線Cと交差するように夫々傾けた複眼レンズの形成について説明する。平坦面に光軸を傾けた複数の凸レンズ面14を形成することは容易ではないので、凸状に形成した面に複数の凸レンズ面14を形成する。
【0034】
図6に示すように半導体基板10の第1面11の中央に、第1レジスト膜21を平面視円形に且つこの円の中心を半導体基板10の中心に一致させて形成する(第1レジスト膜形成工程)。次に、この半導体基板10を例えば150℃程度に加熱して第1レジスト膜21を溶融させることにより、
図7のように溶融した第1レジスト膜21の表面張力を利用して平凸レンズ状の第1レジストマスク22が形成される(第1レジストマスク形成工程)。
【0035】
次に
図8に示すように、半導体基板10の第1面11側を反応性イオンエッチング(RIE)法によって第1レジストマスク22が無くなるまでエッチングする(凸面エッチング工程)。こうして半導体基板10の第1面11に、第1レジストマスク22の形状が反映された凸面11aが形成される。尚、凸面11aの周りの平坦な面は、エッチングによって露出した半導体基板10の第1面11になる。
【0036】
次に、第1レジストマスク22の形成と同様の方法で、
図9に示すように、凸レンズ状の複数の第2レジストマスク24を形成する(第2レジストマスク形成工程)。具体的には、凸面11a上に複数の凸レンズ面14形成用の複数の第2レジスト膜を形成して加熱し、第2レジスト膜の溶融時の表面張力を利用して凸レンズ状の複数の第2レジストマスク24を形成する。
【0037】
次に、図示を省略するが、
図8と同様に半導体基板10の第1面11側を反応性イオンエッチング(RIE)法によって複数の第2レジストマスク24が無くなるまでエッチングする。こうして
図10のように凸面11aに、複数の第2レジストマスク24の形状が反映された複数の凸レンズ面14が形成される。尚、複数の凸レンズ面14の周りはエッチングによって露出した凸面11aになり、この凸面11aの周りの平坦な面はエッチングによって露出した半導体基板10の第1面11になる。
【0038】
上記のように、半導体基板10の片面(第1面11)に形成された部分球面状の凸面11aに、凸面11aよりも曲率半径が小さい部分球面状の複数の凸レンズ面14が一体的に形成され、複眼レンズである集光レンズ2が形成される。凸面11aの円形の輪郭の中心は、集光レンズ2の中心に一致させている。個片状の半導体基板10を用いて説明したが、ウェハ状の半導体基板10に複数の複眼レンズを一括形成してから分割して個片化することもできる。
【0039】
集光レンズ2の凸面11aに沿って複数の凸レンズ面14が形成されたので、集光レンズ2の中心から離隔するほど、反射面7の中心線Cと凸レンズ面14の中心を通る光軸との交差角θが大きくなる。例えば第1レジスト膜21の粘性を調整することによって、凸面11a曲率半径を調整し、複数の凸レンズ面14の光軸の交差角θを調整することができる。一方、凸面11aの形成を省略して、上記と同様にして複数の凸レンズ面14を平坦な第1面11に一体的に形成することにより、複数の凸レンズ面14の光軸が中心線Cと夫々平行な複眼レンズを形成することもできる(
図3参照)。
【0040】
上記受光装置1の作用、効果について説明する。
受光装置1において、複眼レンズである集光レンズ2を透過した光の一部が、レンズホルダ3内の反射面7で反射されながら円錐台状の光通路部6を進行して半導体受光素子4に入射する。集光レンズ2が複眼レンズなので、集光レンズ2全体に様々な方向から入射する拡散光を複数の凸レンズ面14によって集光することができる。そして、反射面7は、集光レンズ2を透過した光の一部を反射、集光して、集光レンズ2よりも径が小さい半導体受光素子4に入射させることができる。それ故、拡散光が入射する場合の結合効率を向上させることができる。
【0041】
集光レンズ2は、部分球面状の凸面11aに沿って配設された複数の凸レンズ面14を有する複眼レンズである。凸面11aに配設された複数の凸レンズ面14の光軸は、半導体受光素子4に向かうように傾けられているので、集光レンズ2を透過した光を半導体受光素子4に入射させ易くすることができる。
【0042】
集光レンズ2は、複数の凸レンズ面14を有する複眼レンズであり、集光レンズ2の中心を通る反射面7の中心線Cから離隔する程、凸レンズ面14の光軸が中心線Cに対して大きく傾いている。これにより複数の凸レンズ面14の光軸が半導体受光素子4に向かうように傾けられているので、集光レンズ2を透過した光を半導体受光素子4に入射させ易くすることができる。
【0043】
複数の凸レンズ面14を有する集光レンズ2は、半導体基板10としてシリコン基板を高精度に加工して形成することができ、シリコン基板を透過する赤外光を用いる分光分析に適した受光装置1を形成することができる。
【0044】
集光レンズ2は、例えば光学樹脂材料によって形成された複眼レンズであってもよく、この複眼レンズを透過する光に応じた半導体受光素子4を搭載した受光装置1を形成することもできる。また、複数の凸レンズ面14の数量及びサイズ、凸面11aのサイズ、反射面7のサイズ及び傾斜角φ、半導体受光素子4のサイズ等は、受光装置1に要求される性能等に基づいて適宜設定することが可能である。その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態も包含するものである。