特許第6989206号(P6989206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6989206
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】受光装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/04 20060101AFI20211220BHJP
【FI】
   G01J1/04 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-560870(P2021-560870)
(86)(22)【出願日】2021年7月13日
(86)【国際出願番号】JP2021026314
【審査請求日】2021年10月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000161862
【氏名又は名称】株式会社京都セミコンダクター
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】磯村 尚友
(72)【発明者】
【氏名】大村 悦司
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−232506(JP,A)
【文献】 特開2016−80556(JP,A)
【文献】 特開2001−272274(JP,A)
【文献】 特開2007−292721(JP,A)
【文献】 特開2011−163980(JP,A)
【文献】 特開2012−202683(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0336389(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0363859(US,A1)
【文献】 中国特許第108604055(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 − G01J 1/60
G01J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光レンズと、この集光レンズを支持するレンズホルダと、半導体受光素子と、この半導体受光素子及び前記レンズホルダを固定する基台を有し、前記集光レンズを透過した光が前記レンズホルダ内の光通路部を介して前記半導体受光素子に入射する受光装置において、
前記集光レンズは、片面に複数の凸レンズ面を備えた複眼レンズであり、
前記レンズホルダは、前記集光レンズから前記半導体受光素子に近づくほど径が小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなるように形成された断面円形の前記光通路部に臨む筒状の反射面を有し、
前記集光レンズを透過した光の一部が、前記反射面で反射されて前記半導体受光素子に入射するように構成したことを特徴とする受光装置。
【請求項2】
前記集光レンズの中心を通る前記反射面の中心線上で前記集光レンズからの距離をx、係数をα、前記集光レンズ側における前記反射面の開口半径をAとしたときに、前記反射面は、前記中心線を軸にして、指数関数A×exp(−αx)で表される曲線を回転させた回転曲面に沿うように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の受光装置。
【請求項3】
前記集光レンズの中心を通る前記反射面の中心線上で前記集光レンズからの距離をx、係数をα、前記集光レンズ側における前記反射面の開口半径をAとしたときに、前記反射面は、前記中心線を軸にして、指数関数A×exp(−αx)を4次の項まで展開した近似多項式A×(1−αx+a(αx)2−b(αx)3+c(αx)4)で表される曲線を回転させた回転曲面に沿うように、且つこの反射面の前記半導体受光素子側の径が前記指数関数の場合よりも大きくなるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の受光装置。
【請求項4】
前記指数関数の係数αが0.1≦α≦0.2であることを特徴とする請求項2又は3に記載の受光装置。
【請求項5】
前記集光レンズは、前記集光レンズの片面に形成された部分球面状の凸面に、前記凸面よりも小さい曲率半径の前記凸レンズ面が形成された複眼レンズであることを特徴とする請求項1に記載の受光装置。
【請求項6】
前記集光レンズは、前記集光レンズの中心を通る前記反射面の中心線から離隔するほど、前記中心線と前記凸レンズ面の中心を通る光軸との交差角が大きくなるように形成された複眼レンズであることを特徴とする請求項1に記載の受光装置。
【請求項7】
前記集光レンズは複数の前記凸レンズ面がシリコン基板に一体的に形成された複眼レンズであり、前記半導体受光素子は赤外光を受光することを特徴とする請求項1に記載の受光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析機器等の計測機器に装備される受光装置に関し、特に赤外光を受光する受光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、分光分析等の計測機器には、例えば赤外光領域にある検体の吸収スペクトルを検知するための受光装置が利用されている。このような受光装置には、高精度の分析のために、微弱な光信号を検知することが要求されている。それ故、受光する面積を大きくして受光量を増加させると共に、信号雑音比の改善のために、ノイズの主な原因の1つである半導体受光素子の暗電流を抑制することが求められている。
【0003】
暗電流は、受光装置に装備される半導体受光素子(フォトダイオード)の面積を小さくすることにより減少することが知られている。しかし、半導体受光素子の面積を小さくすると、光を受ける面積が小さくなるため、受光量が減少する。従って、受光量の増加と暗電流の抑制とは相反する関係にあり、両立が容易ではない。
【0004】
そのため、例えば特許文献1のように、集光レンズによって受光素子に集光するように構成された受光ユニットが知られている。受光素子よりも広い面積で光を受ける集光レンズによって、集光レンズの光軸に平行に入射する光が集光されて受光素子に入射するので、集光レンズに入射する光のうち受光素子に入射する光の割合(結合効率)が向上する。
【0005】
しかし、分光分析において、集光レンズが受ける光の大部分は検体で散乱された拡散光である。それ故、例えば図17の光線追跡シミュレーション結果に示すように、集光レンズとして平凸レンズ30に入射する拡散光の多くが迷光となって受光素子31に入射させることができない。このときの結合効率(coupling efficiency)は21%である。
【0006】
一方、例えば特許文献2のように、様々な方向から入射する拡散光を円錐状の筒の内面で反射させる反射鏡が知られている。例えば図18の光線追跡シミュレーション結果に示すように、円錐筒状の反射鏡32を装備させて受光素子31に入射させる場合には、反射鏡32内に入射する光のうち受光素子31に入射する光の割合(結合効率)は20%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−2062号公報
【特許文献2】特開2016−80556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2では、結合効率が夫々20%程度であり、結合効率向上の余地がある。そこで、例えば図19のように、平凸レンズ30と反射鏡32を組み合わせて受光素子31に入射させる場合について検討した結果、結合効率が42%に向上した。しかし、結合効率は高い程好ましく、結合効率の一層の向上が要求されている。
【0009】
本発明の目的は、拡散光が入射する場合の結合効率を向上させた受光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明の受光装置は、集光レンズと、この集光レンズを支持するレンズホルダと、半導体受光素子と、この半導体受光素子及び前記レンズホルダを固定する基台を有し、前記集光レンズを透過した光が前記レンズホルダ内の光通路部を介して前記半導体受光素子に入射する受光装置において、前記集光レンズは、片面に複数の凸レンズ面を備えた複眼レンズであり、前記レンズホルダは、前記集光レンズから前記半導体受光素子に近づくほど径が小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなるように形成された断面円形の前記光通路部に臨む筒状の反射面を有し、前記集光レンズを透過した光の一部が、前記反射面で反射されて前記半導体受光素子に入射するように構成したことを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、受光装置において、複眼レンズである集光レンズを透過した光の一部が、レンズホルダ内の反射面で反射されながら光通路部を進行して、半導体受光素子に入射する。集光レンズが複眼レンズなので、集光レンズ全体に様々な方向から入射する拡散光を、複数の凸レンズ面によって半導体受光素子に向けて光通路部に集光することができる。半導体受光素子に近づくほど径が小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなる光通路部に臨む筒状の反射面は、集光レンズを透過した光の一部を反射、集光して、集光レンズよりも径が小さい半導体受光素子に入射させることができる。それ故、拡散光が入射する場合の結合効率を向上させることができる。
【0012】
請求項2の発明の受光装置は、請求項1の発明において、前記集光レンズの中心を通る前記反射面の中心線上で前記集光レンズからの距離をx、係数をα、前記集光レンズ側における前記反射面の開口半径をAとしたときに、前記反射面は、前記中心線を軸にして、指数関数A×exp(−αx)で表される曲線を回転させた回転曲面に沿うように形成されたことを特徴としている。
上記構成によれば、筒状の反射面は、集光レンズから離隔して半導体受光素子に近づくほど、径が指数関数的に小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなるので、反射面が中心線に対して平行に近づく。この反射面は、光の反射時に、中心線の方向における光の集光レンズ側に向かう方向成分を増加させ、半導体受光素子側に向かう方向成分を減少させる作用を有する。そして、半導体受光素子に近づくほど、筒状の反射面が中心線に対して平行に近づくので、この作用が緩和される。従って、集光レンズを透過して反射面で反射、集光される光は、反射面で複数回反射される場合に集光レンズ側に戻り難くなるので、結合効率を向上させることができる。
【0013】
請求項3の発明の受光装置は、請求項1の発明において、前記集光レンズの中心を通る前記反射面の中心線上で前記集光レンズからの距離をx、係数をα、前記集光レンズ側における前記反射面の開口半径をAとしたときに、前記反射面は、前記中心線を軸にして、指数関数A×exp(−αx)を4次の項まで展開した近似多項式A×(1−αx+a(αx)2−b(αx)3+c(αx)4)で表される曲線を回転させた回転曲面に沿うように、且つこの反射面の前記半導体受光素子側の径が前記指数関数の場合よりも大きくなるように形成されたことを特徴としている。
上記構成によれば、筒状の反射面は、指数関数を近似する近似多項式で表される曲線を回転させた回転曲面に沿うように形成されている。この反射面は、集光レンズから離隔して半導体受光素子に近づくほど、径が指数関数的に小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなる。また、この反射面は、光の反射時に、中心線の方向における光の集光レンズ側に向かう方向成分を増加させて半導体受光素子側に向かう方向成分を小さくする作用を有する。そして、この反射面の半導体受光素子側の径が指数関数の場合よりも大きいことによって、指数関数の場合よりも集光レンズ側で反射面が中心線に対して平行に近づくので、この作用が緩和される。従って、集光レンズを透過して反射面で反射、集光される光は、反射面で複数回反射される場合に集光レンズ側に戻り難くなるので、結合効率を向上させることができる。
【0014】
請求項4の発明の受光装置は、請求項2又は3の発明において、前記指数関数の係数αが0.1≦α≦0.2であることを特徴としている。
上記構成によれば、中心線に対する反射面の傾きが最適化され、拡散光が入射する場合の結合効率を向上させることができる。
【0015】
請求項5の発明の受光装置は、請求項1の発明において、前記集光レンズは、前記集光レンズの片面に形成された部分球面状の凸面に、前記凸面よりも小さい曲率半径の前記凸レンズ面が形成された複眼レンズであることを特徴としている。
上記構成によれば、集光レンズは、部分球面状の凸面に沿って配設された複数の凸レンズ面を有する複眼レンズである。複数の凸レンズ面の光軸が半導体受光素子に向かうように傾けられているので、集光レンズを透過した光を半導体受光素子に入射させ易くすることができる。
【0016】
請求項6の発明の受光装置は、請求項1の発明において、前記集光レンズは、前記集光レンズの中心を通る前記反射面の中心線から離隔するほど、前記中心線と前記凸レンズ面の中心を通る光軸との交差角が大きくなるように形成された複眼レンズであることを特徴としている。
上記構成によれば、集光レンズは、複数の凸レンズ面を有する複眼レンズであり、集光レンズの中心を通る反射面の中心線から離隔するほど、凸レンズ面の光軸がこの中心線に対して傾いている。これにより複数の凸レンズ面の光軸が半導体受光素子に向かうように傾けられ、集光レンズを透過した光を半導体受光素子に入射させ易くすることができる。
【0017】
請求項7の発明の受光装置は、請求項1の発明において、前記集光レンズは複数の前記凸レンズ面がシリコン基板に一体的に形成された複眼レンズであり、前記半導体受光素子は赤外光を受光することを特徴としている。
上記構成によれば、高精度の加工に適したシリコン基板に複数の凸レンズ面を一体的に形成することによって集光レンズを形成することができ、シリコン基板を透過する赤外光領域の分光分析に適した受光装置を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の受光装置によれば、拡散光が入射する場合の結合効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例に係る受光装置の全体図である。
図2図1の受光装置の要部断面図である。
図3】実施例に係る反射面を形成するために回転させる曲線の例を示す図である。
図4】実施例に係る受光装置における光線追跡シミュレーション結果の例である。
図5図4で省略した集光レンズ側に戻る光線の例である。
図6図4の受光装置の集光レンズを除去した場合の光線追跡シミュレーション結果の例である。
図7図4の複数の凸レンズ面の光軸を傾けた場合の光線追跡シミュレーション結果の例である。
図8】複眼レンズの凸レンズ面の光軸の傾きと結合効率の関係を示す図である。
図9】係数αと結合効率と光通路部の通路面積の縮小率の関係を示す図である。
図10】4次の近似多項式で表される反射面の3次の展開係数と4次の展開係数と結合効率の関係を示す図である。
図11】指数関数で表される反射面と近似多項式で表される反射面について、複眼レンズの凸レンズ面の光軸の傾きと結合効率の関係を示す図である。
図12】凸面形成用の第1レジスト膜形成工程の説明図である。
図13】凸面形成用の第1レジストマスク形成工程の説明図である。
図14】凸面エッチング工程の説明図である。
図15】複数の凸レンズ面形成用の第2レジストマスク形成工程の説明図である。
図16】凸面に形成された複眼レンズの説明図である。
図17】集光レンズとして平凸レンズを装備した受光装置に拡散光が入射した場合の光線追跡シミュレーション結果の例である。
図18】円錐状の筒の内面で反射させる反射鏡を装備した受光装置に拡散光が入射した場合の光線追跡シミュレーション結果の例である。
図19図17の平凸レンズと図18の反射鏡を組み合わせた場合の光線追跡シミュレーション結果の例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0021】
図1図2に示すように、受光装置1は、集光レンズ2と、この集光レンズ2を支持するレンズホルダ3と、半導体受光素子4と、この半導体受光素子4及びレンズホルダ3を固定する基台5を有する。そして、矢印Iで示すように、例えば検体で散乱された拡散光が様々な方向から集光レンズ2に入射し、集光レンズ2を透過した光が半導体受光素子4に入射するように、受光装置1が構成されている。
【0022】
半導体受光素子4は、半導体基板として例えばリン化インジウム(InP)基板と、光吸収層としてInGaAs層を備えたフォトダイオードである。この半導体受光素子4は、受光した赤外光を光電流に変換する。
【0023】
基台5に固定された半導体受光素子4の不図示のアノード電極及びカソード電極は、対応する基台5の1対の出力端子5a,5bに例えば金属ワイヤによって接続されている。受光装置1は、集光レンズ2を透過して半導体受光素子4が受光した光を光電流に変換し、1対の出力端子5a,5bを介して外部に出力する。
【0024】
レンズホルダ3は、集光レンズ2の装着部3aと、半導体受光素子4の収容部3bと、これら装着部3aと収容部3bを連通させる光通路部6を有する。このレンズホルダ3は、例えば樹脂成形によって外形が円形又は多角形の筒状に形成されている。また、集光レンズ2の外形は、円形でもよく多角形でもよい。
【0025】
光通路部6は、装着部3aに装着された集光レンズ2から収容部3bに収容された半導体受光素子4に近づくほど径が小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなるように形成されている。そして、レンズホルダ3の光通路部6に臨む面に、例えば蒸着法によって金属反射膜(例えばAu膜、Cr膜等)が形成されたことにより、断面円形の光通路部6の側面を囲む筒状の反射面7が形成されている。この反射面7の中心線Cは、光通路部6の中心線と共通であり、中心線Cが集光レンズ2の中心を通るように集光レンズ2が装着部3aに装着されている。
【0026】
反射面7は、図3に示すx軸からの距離yが次の(1)式の指数関数(exponential)で表される曲線を、中心線Cと一致させたx軸を中心に回転させた回転曲面に形成されている。
y=A×exp(−αx) ・・・(1)
以下では、この反射面7を指数関数で表される反射面7とする。集光レンズ2は、x=0の位置に配設され、係数Aが反射面7の集光レンズ2側における開口半径に相当する。尚、図3では係数A=1、α=0.2としている。
【0027】
また、反射面7は、距離yが(1)式の指数関数を4次の項まで展開した次の(2)式の近似多項式(polynomial)で表される曲線を、中心線Cと一致させたx軸を中心に回転させた回転曲面に形成することもできる。
y=A×(1−αx+a(αx)2−b(αx)3+c(αx)4) ・・・(2)
以下では、この反射面7を近似多項式で表される反射面7とする。この近似多項式は、(1)式の指数関数をテイラー展開した多項式の4次の項までの近似式であり、2次〜4次の項の展開係数を夫々a,b,cとしている。集光レンズ2は、x=0の位置に配設され、係数Aが反射面7の集光レンズ2側における開口半径に相当する。尚、図3ではA=1、α=0.2、a=0.5、b=0.167、c=0.3としている。
【0028】
集光レンズ2は、その材料の半導体基板10として例えばシリコン(Si)基板の片面である第1面11に部分球面状の複数の凸レンズ面14が一体的に形成され、第1面11の裏面である第2面12が平坦に形成された複眼レンズである。この集光レンズ2は、平坦な第2面12が光通路部6に臨むように、レンズホルダ3の装着部3aに装着されている。集光レンズ2を形成する半導体基板10は、例えば波長が1.2μm以上の赤外光を透過させることができ、屈折率は3.2よりも大きい。
【0029】
集光レンズ2が装着されたレンズホルダ3は、基台5に固定された半導体受光素子4の中心を反射面7の中心線Cが通るように位置決めされ、基台5に例えば接着剤によって固定されている。指数関数で表される反射面7を有する受光装置1に入射する拡散光について行った光線追跡シミュレーションの結果を図4に示す。
【0030】
光線追跡シミュレーションでは、発散角(全角)が40°の光を、集光レンズ2の第1面11側に設定された複数の出射点Eから集光レンズ2に入射させる。これにより、集光レンズ2の全体に様々な方向から入射する拡散光が再現されている。集光レンズ2の各凸レンズ面14は、直径が100μm、曲率半径が70μm、厚さが50μmの微小レンズとして設定されている。このような複数の微小レンズを、50μmの間隔を空けて並べることにより、集光レンズ2(複眼レンズ)が再現されている。
【0031】
反射面7は、集光レンズ2の複数の凸レンズ面14が全て反射面7の内側に収まるように、上記(1)式において係数A=1、α=0.2に設定されている。この反射面7は、中心線Cの方向の長さが3.8mmに設定され、x=3.8mmの位置に半導体受光素子4の受光面が設定されている。この受光面における受光径(半径)が例えば0.5mmに設定され、x=3.8mmにおける半径0.47mmの反射面7の内側の光通路部6からの光が半導体受光素子4に入射する。反射面7の中心線Cは、集光レンズ2の中心及び半導体受光素子4の受光面中心を通る。
【0032】
複数の出射点Eから出射されて集光レンズ2を透過した光の一部は、反射面7によって1回以上反射されながら半導体受光素子4に向かって光通路部6を進行し、半導体受光素子4に入射する。また、反射面7で1回も反射されずに半導体受光素子4に入射する光もある。
【0033】
反射面7は、集光レンズ2側から半導体受光素子4側に向かって径が小さくなる。それ故、反射面7は、光の反射時に、中心線Cの方向において、光の集光レンズ2側に向かう方向成分を増加させて半導体受光素子4側に向かう方向成分を減少させる作用(集光レンズ2側に戻す作用)を有する。それ故、図4では省略しているが、例えば図5のように反射面7で複数回反射されて集光レンズ2側に戻り、半導体受光素子4に入射しない光もある。尚、図5では集光レンズ2を省略している。
【0034】
光通路部6に入射した光(集光レンズ2を透過した光)のうち半導体受光素子4に入射する光の割合を結合効率(coupling efficiency)とした場合に、図4における結合効率は56.8%である。一方、図6のように、上記構成の集光レンズ2を除去して指数関数で表される反射面7のみの場合には、結合効率は47.2%である。集光レンズ2が入射する拡散光を集光して、光通路部6を中心線Cの方向に進行する光が増加するので、反射面7で複数回反射されて集光レンズ2側に戻る光が減少し、結合効率が向上している。
【0035】
指数関数で表される反射面7は、集光レンズ2から離隔して半導体受光素子4に近づくほど、径が小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなって、中心線Cに対して平行に近づき、傾きが小さくなる。それ故、半導体受光素子4に近づくほど、反射面7が有する反射時の上記集光レンズ2側に戻す作用が緩和される。従って、図18の従来の円錐台状の反射鏡32と比べて、集光レンズ2を透過して反射面7で反射、集光される光のうち、複数回反射されて集光レンズ2側に戻る光が減少し、結合効率が向上する。
【0036】
集光レンズ2の複数の凸レンズ面14が、半導体受光素子4側(光通路部6の奥側)に向けて光を導入すれば、結合効率が一層向上すると考えられる。そこで、図4の微小レンズの光軸を、中心線Cと交差角θ=30°で交差するように中心線Cに向けて傾けた場合の光線追跡シミュレーション結果を図7に示す。この場合、結合効率が69.6%に向上する。
【0037】
中心線Cと複数の微小レンズの光軸の交差角θを−30°から45°まで5°ずつ増加させたときの結合効率を図8に示している。尚、微小レンズの光軸が中心線Cと平行であるときにθを0°、光通路部6内で微小レンズの光軸が中心線Cと交差しない方向に傾けたときにθを負の値としている。
【0038】
図8において、結合効率は、何れの交差角θにおいても集光レンズ2が無い場合よりも大きい。また、交差角θ=25°〜45°の場合には、交差角θ=0°の場合よりも結合効率が大きい。従って、集光レンズ2が、複数の凸レンズ面14の光軸を反射面7の中心線Cとθ=25°〜45°の交差角で交差するように夫々傾けた複眼レンズである場合には、結合効率の一層の向上を図ることができる。そして、複数の凸レンズ面14の光軸の傾きが同じでなくてもθ=25°〜45°の交差角であれば、θ=0°の場合よりも結合効率が向上することが容易に理解される。
【0039】
反射面7は、その係数αによって形状が変わり、結合効率も変化する。交差角θ=0°の集光レンズ2を有する場合に、指数関数で表される反射面7の係数αを変化させたときの係数αと結合効率の関係を図9に示す。係数αが小さい方が、丸(●)で示す結合効率が向上する傾向があり、係数αが0.1〜0.2の場合に65%を超える結合効率が得られる。係数αが小さいほど、反射面7が中心線Cに対して平行に近づくので、反射面7が集光レンズ2を透過した光を半導体受光素子4側に向けて反射、集光し易くなる。
【0040】
一方、係数αが大きいほど、反射面7が中心線Cに対して大きく傾く。それ故、集光レンズ2から一定距離離隔した位置(例えばx=3.8mm)において、図9の曲線で示す反射面7の内側の光通路部6の通路面積の縮小率は、係数αが大きいほど小さくなる。例えば暗電流の抑制のために受光径が小さい半導体受光素子4を使用する場合等、受光装置1に要求される事項に応じて係数αを設定可能である。
【0041】
上記(2)式の近似多項式で表される反射面7の場合には、係数αに加えて、3次及び4次の項の展開係数b,cを調整することによって、反射面7の形状を最適化することができる。図10には、α=0.2,a=0.5の場合の展開係数b,cと結合効率の関係が例示されており、この関係に基づいて、上記(1)式の指数関数をテイラー展開したb=0.167(≒1/(3!))、c=0.042(≒1/(4!))の場合よりも結合効率を向上させることができる。
【0042】
例えば展開係数b=0.167、c=0.3に調整した場合には、70%程度の結合効率になる。このとき図3に示すように、半導体受光素子4側で反射面7の径が指数関数の場合よりも大きくなり、指数関数の場合よりも集光レンズ2側で反射面7が中心線Cに平行に近づく。それ故、この近似多項式で表される反射面7は、光を集光レンズ2側に戻す作用が指数関数の場合よりも緩和されて集光レンズ2側に戻る光が減少し、結合効率が向上する。
【0043】
また、例えばb=0.2、c=3.5にした場合には、80.8%の結合効率が得られる。このとき反射面7は集光レンズ2から半導体受光素子4に向かって途中まで径が縮小した後、半導体受光素子4側の径が徐々に拡大する形状になる。この反射面7は、径が拡大する半導体受光素子4側では、中心線Cの方向における光の半導体受光素子4側に向かう方向成分を増加させる作用を有する。それ故、指数関数で表される反射面7よりも集光レンズ2側に戻る光が減少し、結合効率が向上する。
【0044】
反射面7が指数関数で表される場合とその近似多項式で表される場合の結合効率を、集光レンズ2の複数の凸レンズ面40の交差角θを変えて比較した例を図11に示す。指数関数で表される場合と近似多項式で表される場合の両方で、交差角θ=30°〜40°のときに特に結合効率が向上する。また、交差角θが同じであれば、近似多項式の方が高い結合効率であり、展開係数b,cの調整によって反射面7の形状が最適化されていることが分かる。
【0045】
次に、複数の凸レンズ面14の光軸を反射面7の中心線Cと交差するように夫々傾けた複眼レンズの形成について説明する。平坦面に光軸を傾けた複数の凸レンズ面14を形成することは容易ではないので、凸状に形成した面に複数の凸レンズ面14を形成する。
【0046】
図12に示すように半導体基板10の第1面11の中央に、第1レジスト膜21を平面視円形に且つこの円の中心を半導体基板10の中心に一致させて形成する(第1レジスト膜形成工程)。次に、この半導体基板10を例えば150℃程度に加熱して第1レジスト膜21を溶融させることにより、図13のように溶融した第1レジスト膜21の表面張力を利用して平凸レンズ状の第1レジストマスク22が形成される(第1レジストマスク形成工程)。
【0047】
次に図14に示すように、半導体基板10の第1面11側を反応性イオンエッチング(RIE)法によって第1レジストマスク22が無くなるまでエッチングする(凸面エッチング工程)。こうして半導体基板10の第1面11に、第1レジストマスク22の形状が反映された凸面11aが形成される。尚、凸面11aの周りの平坦な面は、エッチングによって露出した半導体基板10の第1面11になる。
【0048】
次に、第1レジストマスク22の形成と同様の方法で、図15に示すように、凸レンズ状の複数の第2レジストマスク24を形成する(第2レジストマスク形成工程)。具体的には、凸面11a上に複数の凸レンズ面14形成用の複数の第2レジスト膜を形成して加熱し、第2レジスト膜の溶融時の表面張力を利用して凸レンズ状の複数の第2レジストマスク24を形成する。
【0049】
次に、図示を省略するが、図13と同様に半導体基板10の第1面11側を反応性イオンエッチング(RIE)法によって複数の第2レジストマスク24が無くなるまでエッチングする。こうして図16のように凸面11aに、複数の第2レジストマスク24の形状が反映された複数の凸レンズ面14が形成される。尚、複数の凸レンズ面14の周りはエッチングによって露出した凸面11aになり、この凸面11aの周りの平坦な面はエッチングによって露出した半導体基板10の第1面11になる。
【0050】
上記のように、半導体基板10の片面(第1面11)に形成された部分球面状の凸面11aに、凸面11aよりも曲率半径が小さい部分球面状の複数の凸レンズ面14が一体的に形成され、複眼レンズである集光レンズ2が形成される。凸面11aの円形の輪郭の中心は、集光レンズ2の中心に一致させている。個片状の半導体基板10を用いて説明したが、ウェハ状の半導体基板10に複数の複眼レンズを一括形成してから分割して個片化することもできる。
【0051】
集光レンズ2の凸面11aに沿って複数の凸レンズ面14が形成されたので、集光レンズ2の中心から離隔するほど、反射面7の中心線Cと凸レンズ面14の中心を通る光軸との交差角θが大きくなる。例えば第1レジスト膜21の粘性を調整することによって、凸面11a曲率半径を調整し、複数の凸レンズ面14の光軸の交差角θを調整することができる。
【0052】
凸面11aに一体形成された複数の凸レンズ面14のうち、図8の交差角θ=5°〜20°に相当する凸レンズ面14は、中心線Cに近いものであり少数である。これらの外側の複数の凸レンズ面14について交差角θ=25°〜40°にすることができるので、結合効率が向上する。一方、凸面11aの形成を省略して、上記と同様にして複数の凸レンズ面14を平坦な第1面11に一体的に形成することにより、交差角θ=0°である複数の凸レンズ面14を備えた複眼レンズを形成することもできる。また、凸面エッチング工程においてエッチングを途中で止めて、中央が平坦面且つその外周が部分球面状の傾斜面である凸部を形成し、この凸部に複数の凸レンズ面14を形成することもできる。
【0053】
上記受光装置1の作用、効果について説明する。
受光装置1において、複眼レンズである集光レンズ2を透過した光の一部が、レンズホルダ3内の反射面7で反射されながら光通路部6を進行して半導体受光素子4に入射する。集光レンズ2が複眼レンズなので、集光レンズ2全体に様々な方向から入射する拡散光を、複数の凸レンズ面14によって半導体受光素子4に向けて光通路部6に集光することができる。半導体受光素子4に近づくほど径が小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなる光通路部6に臨む筒状の反射面7は、集光レンズ2を透過した光の一部を反射、集光して、集光レンズ2よりも径が小さい半導体受光素子4に入射させることができる。それ故、受光装置1は、拡散光が入射する場合の結合効率を向上させることができる。
【0054】
指数関数で表される反射面7の場合には、この筒状の反射面7は、集光レンズ2から離隔して半導体受光素子4に近づくほど、径が指数関数的に小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなる。この反射面7は、光の反射時に、中心線Cの方向における光の集光レンズ2側に向かう方向成分を増加させて半導体受光素子4側に向かう方向成分を減少させて、集光レンズ2側に戻す作用を有する。そして、半導体受光素子4に近づくほど筒状の反射面7が中心線Cに対して平行に近づき、中心線Cに対する反射面7の傾きが小さくなるので、半導体受光素子4に近づくほどこの集光レンズ2側に戻す作用が緩和される。従って、集光レンズ2を透過して反射面7で反射、集光される光は、反射面7で複数回反射される場合に集光レンズ2側に戻り難くなるので、結合効率を向上させることができる。
【0055】
指数関数の近似多項式で表される反射面7の場合には、この筒状の反射面7は、集光レンズ2から離隔して半導体受光素子4に近づくほど、径が指数関数的に小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなる。この反射面7は、光の反射時に、中心線Cの方向における光の集光レンズ2側に向かう方向成分を増加させて半導体受光素子4側に向かう方向成分を減少させて、集光レンズ2側に戻す作用を有する。そして、この反射面7の半導体受光素子4側の径が指数関数の場合よりも大きいことによって、指数関数の場合よりも集光レンズ2側で反射面7が中心線Cに対して平行に近づき、この集光レンズ2側に戻す作用が緩和される。従って、集光レンズ2を透過して反射面7で反射、集光される光は、反射面7で複数回反射される場合に集光レンズ2側に戻り難くなるので、結合効率を向上させることができる。
【0056】
指数関数の係数αが0.1≦α≦0.2である場合には、中心線Cに対する反射面7の傾きが最適化され、結合効率を向上させることができる。
【0057】
集光レンズ2は、部分球面状の凸面11aに沿って配設された複数の凸レンズ面14を有する複眼レンズである。これにより複数の凸レンズ面14の光軸が半導体受光素子4に向かうように傾けられ、集光レンズ2を透過した光を半導体受光素子4に入射させ易くすることができる。
【0058】
集光レンズ2は、複数の凸レンズ面14を有する複眼レンズであり、集光レンズ2の中心を通る反射面7の中心線Cから離隔するほど、凸レンズ面14の光軸が中心線Cに対して傾いている。これにより複数の凸レンズ面14の光軸が半導体受光素子4に向かうように傾けられているので、集光レンズ2を透過した光を半導体受光素子4に入射させ易くすることができる。
【0059】
複数の凸レンズ面14を有する集光レンズ2は、半導体製造技術によって高精度の加工が可能な半導体基板10としてシリコン基板に、複数の凸レンズ面14を一体的に形成した複眼レンズである。それ故、シリコン基板を透過する赤外光を用いる分光分析に適した受光装置1を形成することができる。
【0060】
複数の凸レンズ面14の数量及びサイズ、凸面11aのサイズ、反射面7のサイズ及び形状、半導体受光素子4のサイズ等は、受光装置1に要求される性能等に基づいて適宜設定することが可能である。その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0061】
1 :受光装置
2 :集光レンズ(複眼レンズ)
3 :レンズホルダ
3a :装着部
3b :収容部
4 :半導体受光素子
5 :基台
5a,5b:端子
6 :光通路部
7 :反射面
10 :半導体基板
11 :第1面
11a:凸面
12 :第2面
14 :凸レンズ面
21 :第1レジスト膜
22 :第1レジストマスク
24 :第2レジストマスク
30 :平凸レンズ
31 :受光素子
32 :反射鏡
C :中心線
【要約】
【課題】拡散光が入射する場合の結合効率を向上させた受光装置を提供すること。
【解決手段】集光レンズ(2)と、この集光レンズ(2)が装着されたレンズホルダ(3)と、半導体受光素子(4)と、この半導体受光素子(4)及びレンズホルダ(3)を固定する基台(5)を有し、集光レンズ(2)を透過した光がレンズホルダ(3)内の光通路部(6)を介して半導体受光素子(4)に入射する受光装置(1)において、集光レンズ(2)は、片面に複数の凸レンズ面(14)を備えた複眼レンズであり、レンズホルダ(3)は、集光レンズ(2)から半導体受光素子(4)に近づくほど径が小さくなると共に径が小さくなる割合が小さくなるように形成された光通路部(6)に臨む筒状の反射面(7)を有し、集光レンズ(2)を透過した光の一部が、反射面(7)で反射されて半導体受光素子(4)に入射するように構成した。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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