(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0019】
本発明者らは、最外層として、光触媒材料を用いた親水性膜、及び下地膜を、鋭意研究した結果、反射防止効果を損なうことなく、十分な親水性効果が得られ、防曇性を向上させるに至った。すなわち、本実施形態の親水性反射防止膜付きレンズは、以下の特徴的部分(1)〜(3)を備えている。
【0020】
(1)ガラスレンズの表面に、少なくとも、下地膜及び親水性膜の順に積層された親水性反射防止膜を有する。
(2)下地膜は、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、及びY
2O
3から選択される単層、又は、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Y
2O
3、TiO
2、及びTi
3O
5から選択される1種以上の材料を50%以上含む混合層で形成される。下地膜の膜厚は、1nm以上30nm以下である。
(3)親水性膜は、下地膜の表面に、TiO
2及びTi
3O
5の少なくとも一方からなる酸化チタン、又は、TiNからなる窒化チタンの単層、或いは、酸化チタン及び窒化チタンの少なくとも一方を50%以上含む混合層で形成される。親水性膜の膜厚は、1nm以上30nm以下である。
【0021】
なお、上記(2)及び(3)において、含有量である「%」は、「質量%」である。
【0022】
図1は、本実施形態の親水性反射防止膜付きレンズの模式図である。
図1に示す親水性反射防止膜付きレンズ1は、基板としてのガラスレンズ2と、ガラスレンズ2の光入射側の表面に形成された親水性反射防止膜3と、を有して構成される。
【0023】
ガラスレンズ2は、特に限定されるものでないが、例えば、監視カメラや車載カメラ用のガラスレンズである。また、親水性反射防止膜3が成膜されるガラスレンズ2の表面は、例えば、非球面である。
図1のガラスレンズ2は、例えば、負のパワーを有するメニスカスレンズであるが、正のパワーを有するメニスカスレンズであってもよいし、両凸レンズあるいは両凹レンズ等でもよい。ただし、ガラスレンズ2の表面は、非球面以外であってもよい。
【0024】
親水性反射防止膜3は、上記(1)で示したように、少なくとも、下地膜及び親水性膜を備える。また、下地膜は、上記(2)の特徴的部分を、親水性膜は、上記(3)の特徴的部分を、夫々、備えている。なお、光学的には、親水性反射防止膜3全体で反射防止効果を発揮する。
【0025】
以下、親水性反射防止膜3について、更に詳しく説明する。
【0026】
<第1実施形態>
図2に示すように、第1実施形態の親水性反射防止膜3は、ガラスレンズ2の表面から、反射防止膜4、下地膜5、及び、親水性膜6の順に積層されている。
【0027】
反射防止膜4は、ガラスレンズ2の表面に、SiO
2、MgF
2、ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2、Ti
3O
5、Ta
2O
5、及び、Nb
2O
5から選択される単層又は2種以上の材料を含む混合層を、1層以上有して構成される。反射防止膜4を構成するこれらの無機化合物は、いずれも透明酸化物である。
【0028】
反射防止膜4は、ガラスレンズ2単体の場合よりも反射率が低くなるように調整される。具体的には、反射防止膜4、下地膜5、及び親水性膜6を設けたレンズ全体が、所望の分光反射率を持つように各層の屈折率及び膜厚を決定する。よって、ガラスレンズ2の屈折率よりも低い膜であれば反射防止膜4は、1層でもよい。また、多層膜の場合、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構成とすることができる。このとき、高屈折率層は、ガラスレンズ2の屈折率より高くてもよい。また、多層膜では、低屈折率層が反射防止膜4の最外層に位置することが好ましい。反射防止膜4は、例えば、1層から15層程度、積層され、好ましくは、1層から10層積層されて構成される。反射防止膜4の積層数、材質及び膜厚は、反射率を抑制する波長領域に基づいて種々選択できる。
【0029】
なお、反射防止膜4の膜厚を限定するものでないが、反射防止膜4の膜厚(トータル厚)は、50nm〜500nm程度である。
【0030】
図2に示す反射防止膜4の表面に形成される下地膜5は、親水性膜6の結晶粒成長を促進する下地として機能する。下地膜5は、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、及びY
2O
3から選択される単層、又は、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Y
2O
3、TiO
2、及びTi
3O
5から選択される1種以上の材料を50%以上含む混合層で形成される。
【0031】
下地膜5として選択可能な材質を用いて、反射防止膜4の最外層(低屈折率膜が好ましい)が形成されているとき、下地膜5と、反射防止膜4の最外層とを異なる材質で形成してもよいし、反射防止膜4の最外層を下地膜5と兼用させることもできる。
【0032】
下地膜5の膜厚は、親水性膜6の結晶粒成長及び反射防止効果の観点から、1nm以上30nm以下の範囲にて調節される。なお、下地膜5の膜厚の測定条件等により測定誤差やずれが生じた場合でも、例えば、透明性を保ちつつ、所望の接触角度を満たすことで、本実施形態の構成を含むものと推測することが可能である。下地膜5の膜厚は、5nm以上15nm以下であることが好適である。
【0033】
下地膜5の表面に形成される親水性膜6は、TiO
2及びTi
3O
5の少なくとも一方からなる酸化チタン、又は、TiNからなる窒化チタンの単層、或いは、酸化チタン及び窒化チタンの少なくとも一方を50%以上含む混合層で形成される。
【0034】
このように、親水性膜6は、酸化チタン、及び/又は、窒化チタンが50%以上100%未満含される混合層であっても、酸化チタン或いは窒化チタンが100%の単層であってもよい。混合層としては、酸化チタン及び窒化チタン以外の金属酸化物を混ぜたり、或いは、酸化チタン及び窒化チタン以外に、半導体物質、導電性物質、及び絶縁性物質の少なくともいずれかを混合させることができる。なお、親水性膜6に含まれる酸化チタン及び窒化チタン以外の材質は、酸化チタン及び窒化チタンとの混合層において、透明性を保ちつつ、酸化チタン及び窒化チタンによる光触媒効果を保持可能な材質であることが必要である。例えば、酸化チタン及び窒化チタン以外の材質としてSiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、ZrO
2、Al
2O
3、MgF
2を例示できる。
【0035】
親水性膜6が混合層で形成される場合、酸化チタン、及び/又は、窒化チタンは、80%以上含まれていることが好ましい。
【0036】
酸化チタンのうち、Ti
3O
5は、TiO
2を成膜する際の出発材料として用いることができ、Ti
3O
5全てが、TiO
2に入れ替わった状態で成膜されてもよいし(相転移)、膜中にTi
3O
5の一部が残されていてもよい。酸化チタン及び窒化チタンの組成分析は、既存の方法を用いることができ、例えば、分光光度計により測定することが可能である。なお、親水性膜6を構成する酸化チタンは、TiO
2単相、及び、TiO
2とTi
3O
5との混相のほか、Ti
3O
5の単相で構成されていてもよい。
【0037】
本実施形態では、親水性膜6は、窒化チタン単層とすることもできるが、酸化チタン単層、或いは、少なくとも酸化チタンを含む膜構造とすることが、十分な親水性効果(光触媒励起)を得る上で好ましい。
【0038】
親水性膜6の膜厚は、透明性、及び親水性膜6の結晶粒成長の観点から、1nm以上30nm以下で形成される。このように、親水性膜6は、薄膜で、下地膜5の表面に成膜される。なお、親水性膜6の膜厚は、5nm以上15nm以下であることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態では、親水性膜6の空孔率は、20%以下であることが好ましい。空孔率が0%、すなわち、親水性膜6に空孔が無い状態であっても本実施形態に含まれる。ただし、光触媒効果を高めるには、空孔を有し、実効表面積を大きくすることが好ましい。したがって、本実施形態では、親水性膜6は、0%より大きく20%以下の空孔率を有することが好ましい。また、親水性膜6の空孔率の下限値は、2%以上であることがより好ましく、5%以上であることが更に好ましい。なお、空孔率の測定条件等により測定誤差やずれが生じた場合でも、例えば、透明性を保ちつつ、所望の接触角度を満たすことで、本実施形態の構成を含むものと推測することが可能である。
【0040】
<第2実施形態>
図3に示すように、第2実施形態の親水性反射防止膜3は、ガラスレンズ2の表面に、下地膜5、及び、親水性膜6の順に積層されている。第2実施形態は、第1実施形態に示した反射防止膜4を除去した構成である。
【0041】
下地膜5、及び親水性膜6の膜構成については、上記の第1実施形態の説明を参照されたい。
【0042】
図3に示す第2実施形態では、下地膜5は、ガラスレンズ2の屈折率よりも低い屈折率の材質で形成されることが好ましい。例えば、下地膜5には、MgF
2を選択することができる。
【0043】
なお、
図2において、ガラスレンズ2の表面と反射防止膜4との間、或いは、
図3において、ガラスレンズ2の表面と下地膜5との間に、任意の前処理コート(図示せず)が施されていてもよい。
【0044】
ところで、本実施形態の親水性膜6として用いられる酸化チタンは、屈折率が高い。このため、従来では、酸化チタン膜を、レンズ表面に形成される、反射防止効果を備えた多層膜の最外層に用いることはなかった。
【0045】
本実施形態では、親水性膜6を、所定の材質且つ薄膜からなる下地膜5の表面に成膜した。これにより、親水性膜6の膜厚が薄くても、酸化チタンや窒化チタンの光触媒性材料の結晶粒を大きく成長させることができると考えられる。このように、親水性膜6の結晶粒を成長させることで、膜厚が薄くても親水性効果(光触媒励起)を十分に得ることができる。
【0046】
また、親水性膜6の膜厚が薄いため、親水性膜6を最外層に設けても、反射防止効果を損なうことがない。
【0047】
以上により、本実施形態によれば、反射防止効果を損なうことがなく、優れた親水性を得ることが可能である。本実施形態では、光触媒作用により長期間、優れた親水性を保持することができる。したがって、使用者が、普段、レンズ表面を拭くことを前提としていない監視カメラや車載カメラ等に本実施形態の親水性反射防止膜付きレンズを用いることで、反射防止効果とともに優れた防曇性を長期間、保持することが可能である。
【0048】
<親水性反射防止膜付きレンズの製造方法>
図2に示す第1実施形態の親水性反射防止膜付きレンズの製造方法について説明する。
【0049】
まず、ガラスレンズ2の表面に、反射防止膜4を成膜する。本実施形態では、SiO
2、MgF
2、ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2、Ti
3O
5、Ta
2O
5、及び、Nb
2O
5から選択される単層又は2種以上の材料を含む混合層を、1層以上成膜して反射防止膜4を形成する。
【0050】
反射防止膜4を成膜した後、反射防止膜4の表面に下地膜5を成膜する。本実施形態では、下地膜5を、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、及びY
2O
3から選択される単層、又は、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Y
2O
3、TiO
2、及びTi
3O
5から選択される1種以上の材料を50%以上含む混合層で形成する。また、下地膜5の膜厚を、1nm以上30nm以下の範囲にて調節する。
【0051】
続いて、下地膜5の表面に、親水性膜6を成膜する。親水性膜6を、TiO
2及びTi
3O
5の少なくとも一方からなる酸化チタン、又は、TiNからなる窒化チタンの単層、或いは、酸化チタン及び窒化チタンの少なくとも一方を50%以上含む混合層で成膜する。また、親水性膜の膜厚を、1nm以上30nm以下の範囲にて調節する。
【0052】
本実施形態において、反射防止膜4、下地膜5及び親水性膜6の成膜方法を限定するものではないが、反射防止膜4、下地膜5及び親水性膜6を、蒸着法或いはスパッタ法にて成膜することが好ましい。
【0053】
蒸着法としては、イオンビームアシスト蒸着(Ion−beam Assisted Deposition:IAD)法、或いは、電子ビーム(Electron Beam:EB)法を用いることが好ましい。イオンビームアシスト蒸着法では、真空蒸着中に、イオン銃で、ガスイオンを基板であるガラスレンズの表面に照射する。また、電子ビーム法では、高真空雰囲気の中で、蒸発材料をるつぼに入れ、電子ビームをるつぼに照射し、るつぼ中の蒸発材料を加熱蒸発させる。
【0054】
例えば、本実施形態では、親水性膜6を蒸着法にて成膜する際、蒸着材料としてTi
3O
5を用い、成膜チャンバ内にて減圧下で、Ti
3O
5を加熱蒸発させる。蒸発したTi
3O
5は、基板としてのガラスレンズ2の表面に向かう。このとき、O
2と結合し、Ti
3O
5は、TiO
2となってガラスレンズ2の表面に堆積する。したがって、蒸着法を用いて親水性膜6を成膜する場合、親水性膜6は、TiO
2単相か、或いは、TiO
2とTi
3O
5との混相となりやすい。
【0055】
また、本実施形態では、親水性膜6を蒸着法で成膜する際、成膜チャンバ内での基板加熱温度を、250℃以上とすることが好ましい。また、基板加熱温度の上限値を限定するものでないが、例えば、400℃以下に調節することが好ましい。
【0056】
また、親水性膜6を酸化チタンで成膜する際の酸素ガスを、5.0×10
−3Pa以上のガス圧にて導入することが好ましい。また、酸素ガスのガス圧を、1.0×10
−2Pa〜3.0×10
−2Pa程度にて調節することがより好ましい。
【0057】
このように、基板加熱温度及び酸素ガスのガス圧を調節することで、下地膜5の下地効果と合わせて、親水性膜6の結晶粒成長を促進することができる。
【0058】
本実施形態では、下地膜5及び親水性膜6を連続して成膜することが好ましい。したがって、下地膜5と親水性膜6を同じ成膜方法にて成膜する。このとき、下地膜5及び親水性膜6と、反射防止膜4との間で、成膜方法が異なっていてもよい。例えば、後述する実験では、下地膜5及び親水性膜6を、イオンビームアシスト蒸着法で成膜し、反射防止膜4を、電子ビーム法で成膜している実施例がある。また、下地膜5及び親水性膜6を、電子ビーム法で成膜し、反射防止膜4を、イオンビームアシスト蒸着法で成膜している実施例がある。
【0059】
また、
図3に示す第2実施形態では、上記の下地膜5及び親水性膜6の成膜のみを行なえばよい。
【0060】
本実施形態では、下地膜5の表面に、酸化チタンや窒化チタンを具備する親水性膜6を成膜する。本実施形態における下地膜5は、親水性膜6の結晶粒成長を促進させる作用を有している。このため、親水性膜6を、1nm〜30nm程度(好ましくは、5nm〜15nm程度)の薄膜で形成しても、親水性膜6の結晶粒成長が促進され、親水性効果(光触媒励起)を十分に得ることができる。
【0061】
また、本実施形態では、親水性膜6及び下地膜5の双方が、1nm〜30nm程度(好ましくは、5nm〜15nm程度)の薄い膜厚であり、反射防止効果を損なうことがない。
【0062】
また、本実施形態では、親水性膜6及び下地膜5の双方を、薄い膜厚にて成膜することができるため、従来と同様の製造効率を得ることができる。
【0063】
このように、本実施形態の親水性反射防止膜付きレンズ1の製造方法によれば、反射防止効果を損なわず、優れた親水性効果を備えた親水性反射防止膜付きレンズ1を、簡単且つ適切に製造することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本実施形態を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。実験では、以下に示す実施例1から実施例
4、参照例1及び比較例1から比較例3を製造した。
【0065】
[実施例1]
実施例1では、以下の表1に示す材料を用い、表1に示す基板加熱温度にて、表1に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜、下地膜及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。実験では、(株)昭和真空製の蒸着機(SGC−22SA)を使用して成膜した。なお、ガラスレンズの屈折率nd(d線(588nm)での屈折率)は、1.85135であった。ガラスレンズの屈折率ndは、実施例2から実施例
4、参照例1及び比較例1から比較例3においても同様である。ここで、各層の屈折率は、膜の反射率から換算して求めた(大気中の膜の屈折率に該当)。具体的には、大気中に取り出した基板を、オリンパス(株)製の顕微鏡型分光測定機(USPM―RU3)にて反射率を測定し、屈折率に換算して求めた。なお、屈折率は、波長550nmにおけるものである。また、膜厚は、例えば、断面TEM写真を用いて測定することができる。上記の屈折率、及び膜厚の測定は、実施例2から実施例
4、参照例1及び比較例1から比較例3においても同様である。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例1では、基板加熱温度を350℃とし、イオンビームアシスト蒸着法により、SiO
2とTa
2O
5とを交互に7層まで積層して反射防止膜を得た。次に、基板加熱温度を350℃のまま、電子ビーム法にて、ZrO
2からなる下地膜、及びTiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を連続して成膜した。
【0068】
親水性膜は、Ti
3O
5を出発原料として蒸着され、このとき、Ti
3O
5の全部又は一部が、TiO
2に入れ替わって成膜されやすい。親水性膜の膜構造は、分光光度計により測定することができる。本実施例では、親水性膜は、TiO
2単相、Ti
3O
5単相、或いは、TiO
2及びTi
3O
5の混相のいずれかの膜構造であればよい。
【0069】
なお、実施例1では、親水性膜の空孔率は、5%であった。空孔率は、次のように算出することができる。
【0070】
まず、親水性膜に使用される材質の既知の屈折率をnとし、本実験にて成膜された親水性膜の真空中の屈折率をn(V)とする。真空中の屈折率は、真空保持された成膜チャンバ内にて光学膜厚計を使用して、成膜中の反射率を測定し、屈折率に換算して求めた。親水性膜の充填率は、以下のように表すことができる。
【0071】
充填率(%)=[真空中の屈折率(%)/既知の屈折率(%)]×100(%)
したがって、空孔率は、
空孔率(%)=100(%)−充填率(%)
となる。
【0072】
[実施例2]
実施例2では、以下の表2に示す材料を用い、表2に示す基板加熱温度にて、表2に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜、下地膜及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例2では、基板加熱温度を250℃とし、電子ビーム法にて、下から、SiO
2、MgF
2又は、Al
2O
3/Al
2O
3/ZrO
2/SiO
2又はMgF
2の順に積層された反射防止膜を成膜した。次に、基板加熱温度を250℃のまま、イオンビームアシスト蒸着法にて、ZrO
2からなる下地膜、及びTiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を連続して成膜した。
【0075】
[実施例3]
実施例3では、以下の表3に示す材料を用い、表3に示す基板加熱温度にて、表3に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜、下地膜及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例3では、基板加熱温度を25℃(無加熱)とし、反射防止膜を、スパッタ法にて、SiO
2と、Nb
2O
5とを交互に9層まで積層した。次に、基板加熱温度を25℃(無加熱)のまま、スパッタ法にて、Y
2O
3からなる下地膜、及びTiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を連続して成膜した。
【0078】
[実施例4]
実施例4では、以下の表4に示す材料を用い、表4に示す基板加熱温度にて、表4に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜、下地膜及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。
【0079】
【表4】
【0080】
実施例4では、基板加熱温度を350℃とし、反射防止膜を、電子ビーム法にて、SiO
2の単層で形成した。連続して、基板加熱温度を350℃のまま、電子ビーム法にて、MgF
2からなる下地膜、及びTiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を成膜した。
【0081】
[
参照例1]
参照例1では、以下の表5に示す材料を用い、表5に示す基板加熱温度にて、表5に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜、下地膜及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。
【0082】
【表5】
【0083】
参照例1では、基板加熱温度を350℃とし、イオンビームアシスト蒸着法にて、SiO
2とTa
2O
5とを交互に7層まで積層して反射防止膜を得た。次に、基板加熱温度を350℃のまま、電子ビーム法にて、ZrO
2からなる下地膜、及びTiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を連続して成膜した。
【0084】
参照例1では、親水性膜の空孔率は0%であった。
【0085】
[比較例1]
比較例1では、以下の表6に示す材料を用い、表6に示す基板加熱温度にて、表6に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜、及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。
【0086】
【表6】
【0087】
比較例1では、基板加熱温度を350℃とし、イオンビームアシスト蒸着法にて、SiO
2とTa
2O
5とを交互に7層まで積層して反射防止膜を得た。次に、電子ビーム法にて、TiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を成膜した。
【0088】
比較例1では、上記の各実施例と異なって、親水性膜に対する下地膜を成膜しなかった。
【0089】
[比較例2]
比較例2では、以下の表7に示す材料を用い、表7に示す基板加熱温度にて、表7に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜、下地膜及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。
【0090】
【表7】
【0091】
比較例2では、基板加熱温度を350℃とし、反射防止膜を、イオンビームアシスト蒸着法にて、SiO
2とTa
2O
5とを交互に7層まで積層した。次に、基板加熱温度を350℃のまま、電子ビーム法にて、Al
2O
3からなる下地膜、及びTiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を連続して成膜した。
【0092】
比較例2では、下地膜に本実施例では使用しないAl
2O
3を用いた。
【0093】
[比較例3]
比較例3では、以下の表8に示す材料を用い、表8に示す基板加熱温度にて、表8に示す膜厚及び屈折率を有する反射防止膜及び親水性膜を成膜し、親水性反射防止膜付きレンズを得た。
【0094】
【表8】
【0095】
比較例3では、基板加熱温度を350℃とし、反射防止膜を、イオンビームアシスト蒸着法にて、SiO
2とTa
2O
5とを交互に7層まで積層した。次に、基板加熱温度を350℃のまま、電子ビーム法にて、TiO
2(Ti
3O
5)からなる親水性膜を成膜した。
【0096】
比較例3では、上記の各実施例と異なって、下地膜を成膜しなかった。また、親水性膜の膜厚を、各実施例よりも厚い50nmとした。
【0097】
[接触角の測定]
実験では、レンズ表面に、UV照射し、US照射時間と接触角度との関係について測定した。接触角の測定は、サンプル表面に純水を0.8μl液下し、その接触角θを求めた。なお、実験では、各擦り試験を、3回ずつ行って接触角θの平均値を求めた。
図4及び
図5に示す接触角度は、いずれも平均値である。また、実験でのUV波長は、約365nmであった。なお、UV波長は、280〜400nm程度であればよい。
【0098】
[実施例1と、比較例1及び比較例2との接触角度の試験結果]
図4に示すように、実施例1では、UV照射を行うことで、接触角度が、短時間で急激に小さくなることがわかった。一方、下地膜がない比較例1及び、下地膜の材質が本実施例と異なる比較例2では、UV照射後も接触角度は、ほぼ一定であった。
【0099】
これにより、実施例では、UV照射により光触媒効果が作用し、十分な親水性が得られた結果、接触角度が小さくなったことがわかった。
【0100】
この実験結果から、親水性膜に対し下地膜が必要であり、このとき、下地膜の材質として適切なものを選択することが重要であるとわかった。所定の材質からなる下地膜は、親水性膜の結晶粒成長を促進するものと考えられる。この結果、親水性膜の膜厚が薄くても、十分な親水性効果(光触媒励起)を得ることができると考えられる。
【0101】
本実施例では、下地膜として、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、及びY
2O
3から選択される単層、又は、ZrO
2、MgF
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Y
2O
3、TiO
2、及びTi
3O
5から選択される1種以上の材料を50%以上含む混合層を、下地膜として用いることとした。
【0102】
下地膜の膜厚は、実施例では、5nm〜30nm程度であるため、下地膜の膜厚を1nm以上30nm以下に設定した。
【0103】
また、親水性膜の膜厚を、各実施例に基づいて、1nm以上30nm以下に設定した。親水性膜は、屈折率がガラスより高いため、親水性膜を、あまり厚く形成すると、反射防止効果が低下する。
【0104】
そこで、本実施例では、適切な材質からなる下地膜に、親水性膜を重ねて積層することで、親水性膜の膜厚を薄くして反射防止効果を損なうことなく、優れた親水性を得ることができた。
【0105】
[実施例1と
参照例1との接触角度の試験結果]
図5に示すように、実施例1及び
参照例1共に、UV照射により、接触角度は小さくなった。これにより、実施例1のみならず、
参照例1も光触媒効果が作用し、親水性を得ることができた。
【0106】
ただし、
図5に示すように、
参照例1は実施例1に比べて、UV照射の時間経過に対する接触角度の低下は緩やかである。これは、
参照例1では、実施例1に比べて、親水性膜の空孔が小さいためと考えられる。
【0107】
したがって、親水性膜はある程度、空孔を備えていたほうが好ましいことがわかった。ただし、あまり空孔率が大きすぎても、十分な光触媒効果が得られないものと考えられるため、空孔率を20%以下に設定することとした。
【0108】
[波長と反射率との関係]
実験では、実施例1、比較例3及び反射防止膜を形成しない
参照例2(未コート)を用いて、波長と反射率との関係を調べた。反射率は、上記したオリンパス(株)製の顕微鏡型分光測定機(USPM―RU3)により測定した。
【0109】
図6に示すように、
参照例2の反射率を基準として、実施例1及び比較例3の反射率を相対評価した。
【0110】
図6に示すように、親水性膜の膜厚が厚い比較例3では、可視光域にて、反射率が参照例よりも高くなった。
【0111】
一方、実施例1では、可視光域にて、反射率が
参照例2よりも低くなった。このように、実施例1では、反射防止効果が損なわれていないことがわかった。