特許第6989300号(P6989300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989300アンモニアの定量方法、定量試薬キット、試験片及びアンモニアの定量装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989300
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】アンモニアの定量方法、定量試薬キット、試験片及びアンモニアの定量装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/25 20060101AFI20211220BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20211220BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20211220BHJP
   C12Q 1/54 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C12Q1/25
   C12Q1/48 Z
   C12Q1/32
   C12Q1/54
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-118045(P2017-118045)
(22)【出願日】2017年6月15日
(65)【公開番号】特開2018-68278(P2018-68278A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2020年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-208760(P2016-208760)
(32)【優先日】2016年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】船本 武宏
(72)【発明者】
【氏名】村上 正樹
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−285297(JP,A)
【文献】 特開2000−232898(JP,A)
【文献】 特開2000−253898(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1749756(CN,A)
【文献】 特開2014−187980(JP,A)
【文献】 特開昭62−003800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン合成酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素を含有する含浸液1をろ紙に含浸し、乾燥させることと、
前記ろ紙にグルコースを含有する含浸液2を含浸し、乾燥させることと、を含み、
ATP、L−グルタミン酸及びNAD系化合物の酸化型はそれぞれ独立に、前記含浸液1及び前記含浸液2の少なくとも一方に含有される試験片の製造方法。
【請求項2】
グルタミン合成酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素及び電子キャリアーを含有する含浸液1をろ紙に含浸し、乾燥させることと、
前記ろ紙にグルコース及び発色剤を含有する含浸液2を含浸し、乾燥させることと、を含み、
ATP、L−グルタミン酸及びNAD系化合物の酸化型はそれぞれ独立に、前記含浸液1及び前記含浸液2の少なくとも一方に含有される試験片の製造方法
【請求項3】
前記ATP、前記L−グルタミン酸及び前記NAD系化合物の酸化型は、前記含浸液1に含有される請求項1又は請求項2に記載の試験片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの定量方法、定量試薬キット、試験片及びアンモニアの定量装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア定量方法としては、化学測定方法及び酵素測定方法が知られている。化学測定方法としては、インドフェノール法が主に用いられている。一方、酵素測定方法としては、グルタミン酸脱水素酵素を用いる方法の他、グルタミン合成酵素、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)合成酵素、カルバメートキナーゼ、カルバモイルリン酸合成酵素等を用いる方法がある。
【0003】
グルタミン合成酵素を用いた酵素測定方法としては、例えば、アンモニア、アデノシン三リン酸(ATP)及びL−グルタミン酸にグルタミン合成酵素を作用させ、生成したアデノシン二リン酸(ADP)とキナーゼ基質用リン化合物にキナーゼを作用させて、生成したキナーゼ反応生成物を定量することでアンモニアを定量する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。より具体的には、生成したADPとホスホエノールピルビン酸にピルビン酸キナーゼを作用させてピルビン酸を生成し、生成したピルビン酸にピルビン酸オキシダーゼを作用させて、生成した過酸化水素をペルオキシダーゼ系の呈色反応により定量することでアンモニアを定量する方法が提案されている。
【0004】
また、グルタミン合成酵素を用いた他の酵素測定方法としては、例えば、アンモニアを含有する被検液に、被定量成分ではないATP、及びL−グルタミン酸の存在下でグルタミン合成酵素を作用させ、生成した無機リン酸にプリンヌクレオチドの存在下、プリンヌクレオチドホスホリラーゼを作用させて、生成したプリン化合物をキサンチン・オキシダーゼで定量するアンモニアの定量方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
NAD合成酵素を用いた酵素測定方法としては、例えば、被検液にATP、デアミド−NAD、アミド供与体であるアンモニア及びMg2+の存在下でNAD合成酵素を作用させる主反応を行い、主反応により生成したNADについて補酵素サイクリング反応を行い、そのサイクリング反応により消費又は生成された成分を定量してアンモニアを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−3800号公報
【特許文献2】特開昭62−142272号公報
【特許文献3】特開昭59−198995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載のアンモニアを測定する方法では、サイクリング法により基質を増幅させて測定しているが、微量でも検体があれば反応が加速的に進むため、プラトーに達しやすくなってしまい、検体の濃度に依存した反応制御が困難であるという問題がある。また、酵素反応を利用する場合、測定温度等の影響を受けやすいため、測定環境が変わりやすい場合、サイクリング法では測定ごとに結果が変わるおそれがある。さらに、特許文献3に記載の方法では、非常に高価な酵素であるNAD合成酵素を用いるため、より安価にアンモニアを定量可能な方法が望ましい。
【0008】
特許文献1、2に記載のアンモニアの定量方法は、エンドポイント法でアンモニアを定量する方法である。ここで、特許文献1に記載の方法では、酸化酵素を用いた呈色反応を行っているが、その場合に溶存酸素の影響を受けやすくなるという問題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の方法では、生成したピルビン酸にピルビン酸オキシダーゼを作用させる際、L−グルタミン生成の際に生じたリン酸及び酸素を反応に用い、アセチルリン酸、二酸化炭素及び過酸化水素を生成する。そのため、特許文献1に記載の方法では、特許文献2に記載の方法と同様、反応の途中にてリン酸を基質として使用する。リン酸は、血液(2.5mg/dL〜4.5mg/dL)、尿(0.3g/day〜2.2g/day)、唾液(約16.8mg/dL)等の被検液中に存在する物質であるため、被検液中のリン酸濃度に応じて測定結果に正の誤差が生じるおそれがある。そのため、反応の基質としてリン酸を使用せずにアンモニアを定量可能な方法が望ましい。
【0010】
本発明は、反応の基質としてリン酸を使用せずに高感度でアンモニアを定量することが可能なアンモニアの定量方法、定量試薬キット、試験片及び定量装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の特許文献1に記載のグルタミン合成酵素を用いる方法では、酸化酵素を用いた呈色反応によりアンモニアを定量しており、脱水素酵素を用いた方法は今まで開示されていなかった。本発明者らは、鋭意工夫により、グルタミン合成酵素を用い、さらに脱水素酵素を用いる還元系での検出系を検討した結果、ADP依存性ヘキソキナーゼを用いることで、脱水素酵素を用いる還元系での検出系を確立することができた。すなわち、グルタミン合成酵素を用いる方法において、従来公知の酸化酵素を用いる酸化系発色色素でのアンモニア検出系以外に新たな脱水素酵素を用いる還元系でのアンモニア検出系を完成させ、本発明に至った。
【0012】
上述した目的を達成するための具体的な手段は、以下の通りである。
<1> 本発明の一態様は、アンモニアを含有する被検液に、ATP及びL−グルタミン酸の存在下にてグルタミン合成酵素を作用させてADPを生成し、生成された前記ADP及びグルコースにADP依存性ヘキソキナーゼを作用させ、グルコース−6−リン酸を生成し、生成された前記グルコース−6−リン酸及びNAD系化合物の酸化型にグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させNAD系化合物の還元型を生成し、生成された前記NAD系化合物の還元型を定量してアンモニアの定量を行うアンモニアの定量方法である。
<2> 本発明の一態様は、生成された前記NAD系化合物の還元型及び発色剤を反応させて得られる色素を定量してアンモニアの定量を行う<1>に記載のアンモニアの定量方法である。
<3> 本発明の一態様は、更に、触媒であるマグネシウムイオン(Mg2+)及びマンガンイオン(Mn2+)の少なくとも一方の存在下にて前記被検液に前記グルタミン合成酵素を作用させて前記ADPを生成する<1>又は<2>に記載のアンモニアの定量方法である。
<4> 本発明の一態様は、グルコースを含有する第1試薬と、グルタミン合成酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素を含有する第2試薬と、を備え、ATP、L−グルタミン酸及びNAD系化合物の酸化型はそれぞれ独立に、前記第1試薬及び前記第2試薬の少なくとも一方に含有される定量試薬キットである。
<5> 本発明の一態様は、前記ATP、前記L−グルタミン酸及び前記NAD系化合物の酸化型は前記第1試薬に含有される<4>に記載の定量試薬キットである。
<6> 本発明の一態様は、前記第1試薬は、発色剤を更に含有し、前記第2試薬は、電子キャリアーを更に含有する<4>又は<5>に記載の定量試薬キットである。
<7> 本発明の一態様は、グルコース、グルタミン合成酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ATP、L−グルタミン酸及びNAD系化合物の酸化型を含有する試験片である。
<8> 本発明の一態様は、アンモニアを含有する被検液に、ATP及びL−グルタミン酸の存在下にてグルタミン合成酵素を作用させてADPを生成し、生成された前記ADP及びグルコースにADP依存性ヘキソキナーゼを作用させ、グルコース−6−リン酸を生成し、生成された前記グルコース−6−リン酸及びNAD系化合物の酸化型にグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させNAD系化合物の還元型を生成し、生成された前記NAD系化合物の還元型を定量してアンモニアの定量を行うアンモニアの定量装置である。
<9> 本発明の一態様は、アンモニアと、グルコースと、グルタミン合成酵素と、ADP依存性ヘキソキナーゼと、グルコース−6−リン酸脱水素酵素と、ATPと、L−グルタミン酸と、NAD系化合物の酸化型と、を含有する被検対象が配置され、前記被検対象中にて、前記アンモニア、前記ATP及び前記L−グルタミン酸の存在下にて前記グルタミン合成酵素を作用させてADPを生成し、生成された前記ADP及び前記グルコースに前記ADP依存性ヘキソキナーゼを作用させ、グルコース−6−リン酸を生成し、かつ、生成された前記グルコース−6−リン酸及び前記NAD系化合物の酸化型に前記グルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させ前記NAD系化合物の還元型を生成する反応を行う反応部と、前記反応部での反応により生成された前記NAD系化合物の還元型を定量する定量部と、を備えるアンモニアの定量装置である。
<10> 本発明の一態様は、前記反応部は、生成された前記NAD系化合物の還元型及び発色剤を反応させて色素を生成し、前記定量部は、前記反応部での反応により生成された前記色素を定量する<9>に記載のアンモニアの定量装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、反応の基質としてリン酸を使用せずに高感度でアンモニアを定量することが可能なアンモニアの定量方法、定量試薬キット、試験片及び定量装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1において、アンモニア量とK/S値との関係を示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態に係る定量装置100を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一態様のアンモニアの定量方法、定量試薬キット、試験片及び定量装置について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、アンモニアを含有する被検液は、アンモニア及びアンモニウムイオンの少なくとも一方を含む被検液を意味し、アンモニア濃度及びアンモニア量はそれぞれ、アンモニアとアンモニウムイオンとの合計濃度及び合計量を意味している。
本明細書において、L−グルタミン酸、リン酸及びテトラゾリウム化合物は、それぞれ塩であってもよく、イオンであってもよい。
【0016】
〔アンモニアの定量方法〕
本発明の一態様は、アンモニアを含有する被検液に、ATP(アデノシン三リン酸)及びL−グルタミン酸の存在下にてグルタミン合成酵素を作用させてADP(アデノシン二リン酸)を生成し、生成されたADP及びグルコースにADP依存性ヘキソキナーゼを作用させ、グルコース−6−リン酸を生成し、生成されたグルコース−6−リン酸及びNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)系化合物の酸化型にグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させNAD系化合物の還元型を生成し、生成されたNAD系化合物の還元型を定量してアンモニアの定量を行うアンモニアの定量方法である。
【0017】
本態様のアンモニアの定量方法では、ATP(アデノシン三リン酸)及びL−グルタミン酸にグルタミン合成酵素を作用させて生成されるリン酸を反応の基質として使用せず、その代わりに、リン酸とともに生成されるADPを反応の基質として使用する。そのため、本態様のアンモニアの定量方法では、反応の基質としてリン酸を使用せずに高感度でアンモニアを定量することが可能となる。
【0018】
本態様のアンモニアの定量方法は、最終的な反応生成物を定量してアンモニアを定量するエンドポイント法であるため、反応の制御が容易である。
本態様のアンモニアの定量方法は、NAD合成酵素及びホスホエノールピルビン酸といった高価な試薬原料を使用せず、グルコースという安価な試薬原料を使用してアンモニアの定量が可能であるため、安価である。
本態様のアンモニアの定量方法は、溶存酸素を反応として使用しないため、例えば、密閉系にて本態様のアンモニアの定量方法を実施することにより、溶存酸素の影響を回避することができる。また、被検液、試薬中等に溶存酸素が含まれる場合であっても、酸化酵素を使用しない還元系にてアンモニアを定量するため、溶存酸素の影響を受けにくい。
【0019】
本態様の定量方法では、アンモニアを含有する被検液を用いる。被検液としては、アンモニアを含有するものであればよく、例えば、酵素反応により生成されたアンモニアを含有するもの、及び、化学反応(例えば、加水分解)により生成又は遊離されたアンモニアを含有するものが挙げられる。被検液として、より具体的には、血液、血清、尿、唾液等が挙げられる。なお、本態様の定量方法では、分析対象となる被検液に、後述の各成分をそれぞれ添加してアンモニアの定量を行ってもよく、後述の各成分を含浸させたろ紙等にアンモニアを含有する被検液を付着させてアンモニアの定量を行ってもよい。
【0020】
本態様の定量方法では、アンモニアを含有する被検液に、ATP及びL−グルタミン酸の存在下にてグルタミン合成酵素を作用させることでADPを生成する。例えば、アンモニア(NH)を含有する被検液に、ATP及びL−グルタミン酸塩(L−Glutamate)の存在下にてグルタミン合成酵素(Glutamine Synthetase)を作用させることにより、以下の反応式(1)に示すように、ADP、リン酸塩(Orthophosphate)及びL−グルタミン(L−Glutamine)が生成される。
【0021】
【化1】

【0022】
また、本態様の定量方法では、ADPの合成反応を効率よく行う観点から、触媒であるマグネシウムイオン(Mg2+)及びマンガンイオン(Mn2+)の少なくとも一方の存在下にて、アンモニアを含有する被検液にグルタミン合成酵素を作用させてADPを生成することが好ましい。
【0023】
本態様の定量方法では、生成されたADP及びグルコースにADP依存性ヘキソキナーゼを作用させる。例えば、生成されたADP及びD−グルコースにADP依存性ヘキソキナーゼ(ADP−HK)を作用させることにより、以下の反応式(2)に示すように、グルコース−6−リン酸(G6P)及びAMP(アデノシン一リン酸)が生成される。
【0024】
【化2】

【0025】
次に、生成されたグルコース−6−リン酸及びNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)系化合物の酸化型にグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させる。例えば、生成されたグルコース−6−リン酸及びNAD酸化型(NAD)にグルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)を作用させることにより、以下の反応式(3)に示すように、NAD還元型(NADH)及びD−グルコノ−1,5−ラクトン−6−リン酸(6−Phosphogluconolactone)が生成される。
【0026】
【化3】

【0027】
NAD系化合物としては、前述のNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に限定されず、他にもチオNAD(チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)、NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)、チオNADP(チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)等が挙げられる。
【0028】
上述のように、グルコース−6−リン酸及びNAD系化合物の酸化型にグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させることにより、NAD系化合物の還元型が生成される。生成されたNAD系化合物の還元型(例えば、NADH)を定量することにより、アンモニアの定量が行われる。例えば、NAD系化合物の還元型自体を定量してアンモニアを定量する方法、NAD系化合物の還元型と発色剤とを反応させて得られる色素を定量してアンモニアを定量する方法等が挙げられる。例えば、前者としては、NAD系化合物の還元型が生成される際の電流値を測定する、あるいは、NAD系化合物の還元型が発色剤との反応により消費されることに基づいた、NAD系化合物の還元型由来の吸光度(340nm)減少量を測定すればよく、後者としては、色素が生成されることに基づいた、色素由来の吸光度増加量を測定すればよい。ここで、NAD系化合物の還元型が消費されることにより、NAD系化合物の還元型が吸収する特定波長(340nm)における吸光度の減少量及びアンモニア濃度、ならびに、生成された色素が吸収する特定波長における吸光度の増加量及びアンモニア濃度は比例関係にあるため、特定波長における吸光度を測定することでアンモニアの定量を行うことが可能である。
【0029】
目視により色調を区別することが可能となる観点及びアンモニア濃度が低い場合であっても高い測定精度が得られる観点から、NAD系化合物の還元型と発色剤とを反応させて得られる色素を定量してアンモニアを定量する方法が好ましい。
【0030】
また、ろ紙等に生成された色素を付着させて得られた試験紙の反射率を測定することでアンモニアの定量を行ってもよい。例えば、アンモニアの定量に用いる各基質、各酵素等を含有する液体にろ紙等を含浸して得られた試験紙にアンモニア溶液を付着させた後、アンモニア溶液が付着した箇所の反射率を測定することでアンモニアの定量を行ってもよい。
【0031】
色素を定量してアンモニアを定量する方法の一例として、生成されたNAD系化合物の還元型であるNADHと発色剤であるテトラゾリウムバイオレット(TV)に、電子キャリアーであるジアホラーゼ(DI)を作用させることにより、以下の反応式(4)に示すように、ホルマザン色素(Formazan Dye)が生成され、560nmの吸光度が増加する。
【0032】
【化4】

【0033】
発色剤としては、NAD系化合物の還元型との反応により色素が生成されるもの、すなわち、NAD系化合物の還元型から電子を受け取って色素が生成されるものであれば特に限定されず、例えば、テトラゾリウム化合物が挙げられる。
【0034】
テトラゾリウム化合物としては、テトラゾール環を有する化合物であればよく、テトラゾール環の少なくとも二箇所に環構造置換基を有する化合物であることが好ましく、テトラゾール環の少なくとも三箇所に環構造置換基を有する化合物であることがより好ましい。
【0035】
テトラゾリウム化合物が、テトラゾール環の少なくとも二箇所に環構造置換基を有する場合、環構造置換基をテトラゾール環の2位及び3位に有することが好ましい。また、テトラゾリウム化合物が、テトラゾール環の少なくとも三箇所に環構造置換基を有する場合、環構造置換基をテトラゾール環の2位、3位及び5位に有することが好ましい。環構造置換基としては、例えば、置換基を有していてよいベンゼン環(ベンゼン環構造置換基)、置換基を有していてよいチエニル基、置換基を有していてよいチアゾイル基等が挙げられる。
【0036】
テトラゾール環の2位、3位及び5位に環構造置換基を有するテトラゾリウム化合物としては、例えば、2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウム塩、3,3’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジル)−ビス(2,5−ジフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、3,3’−[3,3’−ジメトキシ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジル]−ビス[2−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウム塩]、2,3−ジフェニル−5−(4−クロロフェニル)テトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(p−ジフェニル)テトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−(p−ジフェニル)テトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(4−スチリルフェニル)テトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(m−トリル)テトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(p−トリル)テトラゾリウム塩等が挙げられる。
【0037】
テトラゾリウム化合物としては、他にも、テトラゾール環の2箇所にベンゼン環構造置換基を有し、かつ1箇所にその他の環構造置換基を有する化合物であってもよく、例えば、2,3−ジフェニル−5−(2−チエニル)テトラゾリウム塩、2−ベンゾチアゾイル−3−(4−カルボキシ−2−メトキシフェニル)−5−[4−(2−スルホエチルカルバモイル)フェニル]−2H−テトラゾリウム塩、2,2’−ジベンゾチアゾイル−5,5’−ビス[4−ジ(2−スルホエチル)カルバモイルフェニル]−3,3’−(3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレン)ジテトラゾリウム塩、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾイル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム塩等が挙げられる。
【0038】
また、テトラゾリウム化合物としては、他にも、テトラゾール環の2箇所にベンゼン環構造置換基を有し、かつ1箇所に環構造でない置換基を有する化合物であってもよく、例えば、2,3−ジフェニル−5−シアノテトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−カルボキシテトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−メチルテトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−エチルテトラゾリウム塩等が挙げられる。
【0039】
前述のテトラゾリウム化合物の中でも、環構造置換基を3つ有する化合物が好ましく、ベンゼン環構造置換基を3つ有し、かつ電子吸引性官能基を有する化合物がより好ましく、2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩が更に好ましい。
【0040】
電子キャリアーとしては、ジアホラーゼ、フェナジンメトサルフェート、メトキシフェナジンメトサルフェート、ジメチルアミノベンゾフェノキサジニウムクロライド(メルドラブルー)等が挙げられ、中でも、ジアホラーゼが好ましい。
【0041】
本態様の定量方法では、反応温度は、10℃〜50℃であることが好ましく、15℃〜40℃であることがより好ましく、20℃〜30℃であることが更に好ましい。また、反応時間は、1分間〜60分間であることが好ましく、2分間〜30分間であることがより好ましく、5分間〜15分間であることが更に好ましい。
【0042】
本態様の定量方法では、アンモニアを含む被検液を酵素反応に適したpH(例えば、pHが6.0〜9.0)に調整するため、緩衝液を用いてもよい。緩衝液としては、pHが好ましくは6.0〜9.0、より好ましくは6.0〜8.0のものを用いてもよい。緩衝液としては、例えば、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)等のグッド緩衝液、リン酸緩衝液、イミダゾール酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液等が挙げられる。
【0043】
また、本態様の定量方法では、アンモニアを含む被検液に、必要に応じて上述した成分以外のその他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、防腐剤、安定化剤等が挙げられる。
【0044】
〔定量試薬キット及び試験片〕
また、本発明の一態様は、グルコースを含有する第1試薬と、グルタミン合成酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素を含有する第2試薬と、を備え、ATP、L−グルタミン酸及びNAD系化合物の酸化型はそれぞれ独立に、第1試薬及び第2試薬の少なくとも一方に含有される定量試薬キットである。本態様の定量試薬キットは、例えば、アンモニアの定量に用いられる。
また、本発明の一態様は、グルコース、グルタミン合成酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ATP、L−グルタミン酸及びNAD系化合物の酸化型を含有する試験片である。本態様の試験片は、例えば、アンモニアの定量に用いられる。
【0045】
本態様の定量試薬キット及び試験片では、反応の基質としてリン酸を使用せずに高感度でアンモニア(アンモニア及びアンモニウムイオンの合計)を定量することが可能である。
【0046】
本態様の定量試薬キットでは、基質及び酵素が試薬中にて反応しないようにする観点から、ATP、L−グルタミン酸及びNAD系化合物の酸化型は第1試薬に含有されることが好ましい。
【0047】
本態様の定量試薬キットでは、NAD系化合物の還元型と発色剤とを反応させて得られる色素を定量してアンモニアを定量する観点から、第1試薬は、発色剤を更に含有し、第2試薬は、電子キャリアーを更に含有することが好ましい。同様に、本態様の試験片は、発色剤及び電子キャリアーを更に含有していてもよい。
【0048】
なお、本態様の定量試薬キットにおける第1試薬及び第2試薬並びに試験片は、前述のアンモニアの定量方法に記載されている緩衝液及び他の成分を含んでいてもよい。本態様の定量試薬キット及び試験片における発色剤及び電子キャリアーは、前述のアンモニアの定量方法に記載されているものと同様であるため、その説明を省略する。また、本態様の試験片は、例えば、ろ紙等であってもよく、ろ紙等に各成分が含浸されたものであってもよい。
【0049】
〔アンモニアの定量装置〕
本発明の一態様は、アンモニアを含有する被検液に、ATP及びL−グルタミン酸の存在下にてグルタミン合成酵素を作用させてADPを生成し、生成されたADP及びグルコースにADP依存性ヘキソキナーゼを作用させ、グルコース−6−リン酸を生成し、生成されたグルコース−6−リン酸及びNAD系化合物の酸化型にグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させNAD系化合物の還元型を生成し、生成されたNAD系化合物の還元型を定量してアンモニアの定量を行うアンモニアの定量装置である。
【0050】
本態様のアンモニアの定量装置では、ATP(アデノシン三リン酸)及びL−グルタミン酸にグルタミン合成酵素を作用させて生成されるリン酸を反応の基質として使用せず、その代わりに、リン酸とともに生成されるADPを反応の基質として使用する。そのため、本態様のアンモニアの定量装置では、前述のアンモニアの定量方法と同様、反応の基質としてリン酸を使用せずに高感度でアンモニアを定量することが可能となる。
【0051】
本態様の定量装置の具体例について以下に説明する。まず、本態様の定量装置の具体例としては、アンモニアと、グルコースと、グルタミン合成酵素と、ADP依存性ヘキソキナーゼと、グルコース−6−リン酸脱水素酵素と、ATPと、L−グルタミン酸と、NAD系化合物の酸化型と、を含有する被検対象が配置され、被検対象中にて、アンモニア、ATP及びL−グルタミン酸の存在下にてグルタミン合成酵素を作用させてADPを生成し、生成されたADP及びグルコースにADP依存性ヘキソキナーゼを作用させ、グルコース−6−リン酸を生成し、かつ、生成されたグルコース−6−リン酸及びNAD系化合物の酸化型にグルコース−6−リン酸脱水素酵素を作用させNAD系化合物の還元型を生成する反応を行う反応部と、反応部での反応により生成されたNAD系化合物の還元型を定量する定量部と、を備える定量装置が挙げられる。例えば、本発明の一実施形態に係る定量装置100は、図2に示すように、前述の反応を行う反応部1と、反応部1での反応により生成されたNAD系化合物の還元型を定量する定量部2と、を少なくとも備えていてもよい。
【0052】
具体例の定量装置は、前述の反応部を備える。反応部は、前述の被検対象を配置可能な構成を有し、例えば、被検対象である被検液が貯留された採血管、採尿管等が配置される箇所、被検液が貯留される容器、アンモニアの定量に用いる各成分が含浸され、アンモニアを含有する被検液が付着したろ紙などを備える構成であればよい。
【0053】
また、反応部は、前述の反応式(1)〜反応式(3)に示す反応が効率よく生じるように反応条件(反応温度、被検液のpH等)を調整できる構成であることが好ましい。
【0054】
具体例の定量装置は、反応部での反応により生成されたNAD系化合物の還元型を定量する定量部を備える。定量部は、例えば、NAD系化合物の還元型自体を定量してアンモニアを定量する構成であってもよく、NAD系化合物の還元型と発色剤とを反応させて得られる色素を定量してアンモニアを定量する構成であってもよい。
【0055】
定量部が反応部での反応により生成されたNAD系化合物の還元型自体を定量してアンモニアを定量する場合、定量部は、NAD系化合物の還元型が生成される際の電流値を測定するか、又は、NAD系化合物の還元型が発色剤との反応により消費されることに基づいた、NAD系化合物の還元型由来の吸光度(340nm)減少量を測定することが好ましい。
【0056】
定量部がNAD系化合物の還元型と発色剤とを反応させて得られる色素を定量してアンモニアを定量する場合、反応部は、生成されたNAD系化合物の還元型及び発色剤を反応させて色素を生成し、かつ、定量部は、反応部での反応により生成された色素を定量することが好ましい。この場合、定量部は、色素が生成されることに基づいた、色素由来の吸光度増加量を測定することが好ましい。
【0057】
また、定量部がNAD系化合物の還元型と発色剤とを反応させて得られる色素を定量してアンモニアを定量する場合、定量部は、色素を付着させた試験紙の反射率を測定する構成を備えていてもよい。
【0058】
本態様の定量装置における分析対象となるアンモニアを含有する被検対象は、前述のアンモニアの定量方法に記載されている触媒、緩衝液及び他の成分を含んでいてもよい。
【0059】
アンモニアと、前述の各成分と、を含有する被検対象は予め準備され、本態様の定量装置は、準備された被検対象が反応部に配置される構成であってもよい。
【0060】
また、本態様の定量装置は、前述の第1試薬及び前述の第2試薬、又は前述の各成分を貯留する貯留部を更に備え、反応部に配置されたアンモニアを含有する被検液に各試薬又は各成分が供給される構成であってもよい。あるいは、本態様の定量装置は、反応部に配置されたアンモニアの定量に用いる各成分が含浸されたろ紙等にアンモニアを含有する被検液を付着させる構成であってもよい。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の一態様を以下の実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1〕
以下に示す含浸液1及び含浸液2を調製し、ろ紙を準備した。
<含浸液1>
TES−水酸化ナトリウム緩衝液(同仁化学社製、pH7.0) 150mmol/L
L−グルタミン酸ナトリウム(ナカライテスク社製) 15mmol/L
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(Roche社製) 15mmol/L
アデノシン三リン酸二水和物(Roche社製) 15mmol/L
塩化マグネシウム六水和物 75mmol/L
グルコース−6−リン酸脱水素酵素(東洋紡社製) 80U/mL
ジアホラーゼ(旭化成社製) 50U/mL
ADP依存性ヘキソキナーゼ(旭化成社製) 40U/mL
グルタミン合成酵素(キッコーマン社製) 45U/mL
<含浸液2>
グルコース一水和物(Merck社製) 25mmol/L
テトラゾリウムバイオレット(同仁化学社製) 15mmol/L
<ろ紙>
3MM HP(Whatman社製)
【0063】
次に、ろ紙に含浸液1を含浸し、50℃で25分間乾燥した。次いで、含浸液1を含浸させたろ紙に含浸液2を含浸し、50℃で10分間乾燥させて試験片を得た。得られた試験片に、図1に示すアンモニア濃度のアンモニア水溶液を点着し、常温にて約10分間放置した後に、アンモニア水溶液を点着させた箇所の反射率(560nm)を読み取り、以下に示すK/S値に変換した。
K/S値=(1−R)/2R(Kubelka−Munk式、Rは反射率)
【0064】
図1に示すように、アンモニア濃度と560nmにおけるK/S値との間で良好な直線関係が得られた。
【0065】
以上により、本実施例では、高感度なアンモニアの定量が可能であることが示された。
【符号の説明】
【0066】
1 反応部、2 定量部、100 定量装置
図1
図2