(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989341
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】レーザレーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20211220BHJP
G01S 7/484 20060101ALI20211220BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S7/484
G02B26/10 104Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-201634(P2017-201634)
(22)【出願日】2017年10月18日
(65)【公開番号】特開2019-74447(P2019-74447A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴夫
【審査官】
仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−109686(JP,A)
【文献】
特開平5−34733(JP,A)
【文献】
特開2010−38859(JP,A)
【文献】
特開2017−97189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48−7/51
17/00−17/95
G02B 26/10−26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント性を有する光を出力する光源と、
前記光源からの光を反射する搖動反射面を有し、該搖動反射面を、第1平面上の第1回転軸線の周りで搖動させることにより、反射光を第1角度範囲内で偏向させながら、該光源からの光を反射する偏向装置と、
該偏向装置からの光の偏向の角度範囲を前記第1角度範囲よりも大きく、かつ、前記第1平面と直交する第2平面上の別の軸線の周りの角度範囲であってほぼ360°である第2角度範囲に拡げる偏向範囲拡張手段とを備え、
前記偏向範囲拡張手段は、
前記偏向装置からの複数の偏向方向の光のうちの一部の偏向方向の光をそれぞれの反射方向に反射する複数の反射部と、
前記偏向装置からの複数の偏向方向の光のうちの前記一部以外の偏向方向の光をそれぞれの屈折方向に屈折させる複数の屈折部とを備えことを特徴とするレーザレーダ装置。
【請求項2】
前記偏向範囲拡張手段は、前記複数の反射部及び前記複数の屈折部を一列に配列して有する素子集合体からなることを特徴とする請求項1に記載のレーザレーダ装置。
【請求項3】
前記素子集合体の配列中心側に前記複数の屈折部が配列され、該配列の両側に前記複数の反射部が配列されており、
各屈折部及び各反射部は、前記偏向装置からの対応する入射光のベクトルとその出射光のベクトルとが成す角が、前記配列の中心に近いものほど小さいことを特徴とする請求項2に記載のレーザレーダ装置。
【請求項4】
各反射部及び各屈折部は、前記偏向装置からの対応する入射光を、基準となる1つの直線に垂直な方向に出射するように構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザレーダ装置。
【請求項5】
各屈折部及び各反射部から出射される光の進路が基準となる1つの平面内に含まれるように、該進路の該平面に垂直な方向の位置を調整するプリズムを該屈折部毎又は該反射部毎に備えることを特徴とする請求項4に記載のレーザレーダ装置。
【請求項6】
隣接する前記屈折部又は前記反射部の間に光が当たらないように、前記偏向装置における搖動反射面の回転角度と前記光源からの光の出力を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザレーダ装置。
【請求項7】
前記光源と前記偏向装置の搖動反射面との間に配置されたビームスプリッタと、
前記偏向装置からの戻り光のうち、前記ビームスプリッタにより分割された部分を観察するための受光装置とを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からのコヒーレント性を有する光を偏向する偏向装置を備えたレーザレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートモビリティの実現への機運の高まりにより、特に自動運転技術への関心が高まっている。自動運転を実現するためには、周囲の交通環境を瞬時に正確に把握する必要がある。このため、周囲360°をスキャニングできるレーザレーダ装置の開発が活発化している。
【0003】
このようなレーザレーダ装置として、例えば、特許文献1には、装置の周囲において三次元的に物体を認識し得るレーザレーダ装置が開示されている。この装置では、複数の受光素子部が二次元的に配置された受光センサが、反射部によって導かれた反射光を受光領域において受光するようにしている。
【0004】
そして、レーザダイオードから外部空間に照射されるまでのレーザ光の投光経路には、凸状鏡が配置され、偏向部から外部空間に向かうレーザ光を拡がらせている。レーザ光は、モータにより回動される偏向部で偏向されて外部空間に照射される。外部空間からの反射光が偏向部に入射するときの入射の向きに対応させて、受光領域での反射光の入射位置が定められている。
【0005】
一方、MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)ミラー(例えば、特許文献3参照)を用いてレーザ光を偏向させることにより該レーザ光で測定対象物を走査する装置が知られている。このような装置の1つとして、特許文献2には複数の光源を使って、広範囲をカバーするレーザ走査装置が開示されている。
【0006】
この装置は、レーザ光源と、レーザ光源から出射されたレーザ光を走査する光走査部と、光走査部によって走査されたレーザ光が測定対象物に反射して戻ってきた反射光を検出する光検出部とを備える。レーザ光源から出射されたレーザ光は、光走査部に対して複数の方向から入射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−072770号公報
【特許文献2】特開2015−025901号公報
【特許文献3】特開2013−007779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レーザレーダ装置を搭載しようとする対象物は、モビリティを向上させる乗用車を始めとした移動体である。このため、レーザレーダ装置には、構造が簡素で揺れや振動に強く、小型で低コストであることが求められる。
【0009】
しかしながら、特許文献1のレーザレーダ装置によれば、偏向部を回動させるためにモータを用いているので、重量とコストの両面で不利である。さらに、偏向部には曲面ミラーを用いているので、その曲率を正確に設定しないと、レーザ光が照射されるときのビーム形状が歪んでしまい、正確なスキャニングが不可能となる恐れがある。
【0010】
また、特許文献2のレーザ走査装置によれば、高価なレーザ光源を複数用いているので装置コストが増大する。また、MEMSミラーの裏面も鏡面とする必要があるので、製造プロセスが増加し、製造コストが増大する恐れがある。
【0011】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、小型で低コストでありながら良好な性能を有するレーザレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係るレーザレーダ装置は、
コヒーレント性を有する光を出力する光源と、
前記光源からの光を反射する搖動反射面を有し、該搖動反射面を第1回転軸線の周りで搖動させることにより、反射光を第1角度範囲内で偏向させながら、該光源からの光を反射する偏向装置と、
該偏向装置からの光の偏向の角度範囲を前記第1角度範囲よりも大きい第2角度範囲に拡げる偏向範囲拡張手段とを備え、
前記偏向範囲拡張手段は、
前記偏向装置からの複数の偏向方向の光のうちの一部の偏向方向の光をそれぞれの反射方向に反射する複数の反射部と、
前記偏向装置からの複数の偏向方向の光のうちの前記一部以外の偏向方向の光をそれぞれの屈折方向に屈折させる複数の屈折部とを備えることを特徴とする。
【0013】
第1発明によれば、光源からの光が、偏向装置により第1角度範囲内で偏向され、さらに、偏向範囲拡張手段によってより大きい第2角度範囲で偏向されながら出力される。そして、偏向範囲拡張手段は、複数の反射部及び複数の屈折部により構成される。
【0014】
これにより、大きい角度範囲を十分な精度でスキャンすることができるレーザレーダ装置を、重量を増大させるモータ等の動力や、光学設計を複雑化させる曲面ミラーなどを使用することなく、小型かつ低コストで提供することができる。
【0015】
第2発明に係るレーザレーダ装置は、第1発明において、前記偏向範囲拡張手段は、前記複数の反射部及び前記複数の屈折部を一列に配列して有する素子集合体からなることを特徴とする。
【0016】
第2発明によれば、偏向拡張手段をコンパクトに構成できるので、レーザレーダ装置の小型化をより確実に達成することができる。
【0017】
第3発明に係るレーザレーダ装置は、第2発明において、
前記素子集合体の配列中心側に前記複数の屈折部が配列され、該配列の両側に前記複数の反射部が配列されており、
各屈折部及び各反射部は、前記偏向装置からの対応する入射光のベクトルとその出射光のベクトルとが成す角が、前記配列の中心に近いものほど小さいことを特徴とする。
【0018】
第3発明によれば、素子集合体から出射される光の偏向方向を、偏向装置からの光の偏向方向が変化する場合と同様に、不規則ではなく連続的に変化させることができる。
【0019】
第4発明に係るレーザレーダ装置は、第1〜第3のいずれかの発明において、各反射部及び各屈折部は、前記偏向装置からの対応する入射光を、基準となる1つの直線に垂直な方向に出射するように構成されることを特徴とする。
【0020】
第4発明によれば、該1つの直線に垂直なほぼ同一平面に含まれる範囲に、スキャン用の光を照射することができる。
【0021】
第5発明に係るレーザレーダ装置は、第4発明において、各屈折部及び各反射部から出射される光の進路が基準となる1つの平面内に含まれるように、該進路の該平面に垂直な方向の位置を調整するプリズムを該屈折部毎又は該反射部毎に備えることを特徴とする。
【0022】
第5発明によれば、第1回転軸線に垂直な同一平面に含まれる範囲に、スキャン用の光を照射することができる。
【0023】
第6発明に係るレーザレーダ装置は、第1〜第5発明において、隣接する前記屈折部又は前記反射部の間に光が当たらないように、前記偏向装置における搖動反射面の回転角度と前記光源からの光の出力を制御する制御部を備えることを特徴とする。
【0024】
第6発明によれば、隣接する屈折部又は反射部の間に当たる光によってレーザレーダ装置による光の照射及びこれに基づく情報の収集に不都合が生じるのを防止することができる。
【0025】
第7発明に係るレーザレーダ装置は、第1〜第6のいずれかの発明において、
前記光源と前記偏向装置の搖動反射面との間に配置されたビームスプリッタと、
前記偏向装置からの戻り光のうち、前記ビームスプリッタにより分割された部分を観察するための受光装置とを備えることを特徴とする。
【0026】
第7発明によれば、レーザレーダ装置から外部に射出され、外部の物体で反射されて戻ってきた戻り光をビームスプリッタで分割し、受光装置で観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーザレーダ装置の主要部を示す斜視図である。
【
図4】
図1のレーザレーダ装置の素子集合体を構成する各反射部及び屈折部における光の進路を示す図である。
【
図5】
図1のレーザレーダ装置の素子集合体を構成する他の反射部における光の進路を示す図である。
【
図6】
図1のレーザレーダ装置にプリズム群を設けた様子を示す斜視図である。
【
図7】
図6中のプリズム群を構成する1つのプリズムにより光の進路が調整される様子を示す図である。
【
図8】
図6中のプリズム群を構成する他の1つのプリズムにより光の進路が調整される様子を示す図である。
【
図9】
図1のレーザレーダ装置に使用される偏向装置の斜視図である。
【
図10】
図1のレーザレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】
図1のレーザレーダ装置の光源から出力される光の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態のレーザレーダ装置の主要部を示す斜視図であり、
図2はその平面図、
図3はその側面図である。これらの図に示すように、このレーザレーダ装置1は、コヒーレント性を有する光を出力する光源2と、光源2からの光を偏向させながら反射する偏向装置3と、偏向装置3からの光の偏向の角度範囲を拡げる偏向範囲拡張手段としての素子集合体4とを備える。
【0029】
光源2は、コヒーレント性を有する光としてレーザ光を出力するものである。レーザ光の波長としては、例えば、750ナノメートル〜1.5マイクロメートルの範囲の波長が、レーザレーダ装置1の使用目的に応じて選択される。なお、上記波長に限定されるものではない。
【0030】
偏向装置3は、光源2からの光が入射する搖動反射面5を有する。偏向装置3は、搖動反射面5をその法線に垂直な第1回転軸線6の周りで搖動させることにより、光源2からの光を第1角度α(
図3参照)の範囲内で偏向させながら搖動反射面5で反射する。
【0031】
なお、以下の説明では、
図1〜
図3で示されるような右手系のXYZ軸直交座標系が用いられる。X軸は、第1回転軸線6に平行である。Y軸及びZ軸は、光源2から素子集合体4までの光路を含む面に平行である。Y軸の正方向は、ほぼ搖動反射面5から光源2又は素子集合体4に向かう方向となっている。
【0032】
図4は、素子集合体4を構成する各反射部A〜F及び屈折部G〜Mにおける光の進路を示す図であり、
図5は、素子集合体4を構成する各反射部N〜Sにおける光の進路を示す図である。各反射部A〜F、N〜Sは、偏向装置3からの各偏向方向の光のうちの一部の偏向方向の光をそれぞれに対応する方向に反射する。各反射部A〜F、N〜Sの反射面は、ガラス面に蒸着したアルミなどの蒸着膜により形成される。
【0033】
屈折部G〜Mは、偏向装置3からの各偏向方向の光のうちの前記一部の偏向方向以外の偏向方向の光をそれぞれに対応する方向に屈折させる。各屈折部G〜Mは、入射面と出射面を有する屈折光学素子で構成され、入射面に入射するとき及び出射面から出射するときに、スネルの法則に従い、光を屈折させる。
【0034】
素子集合体4は、Z軸の正方向又は負方向に上記の19個の反射部A〜F、屈折部G〜M及び反射部N〜Sをこの順で配置して構成される。素子集合体4は、偏向装置3が搖動反射面5を搖動させて上述の回転角度αの範囲内で偏向させながら光源2からの光を反射する場合、この反射光によって、反射部A〜F、屈折部G〜M及び反射部N〜Sが順次往復して照射されるように配置される。
【0035】
屈折部G〜Mのうちの真ん中に配置される屈折部Jは、Z軸方向に見て、光源2からの光が直進するように構成される。すなわち、該光の屈折部Jに対する入射面及び出射面はZ軸方向に見て、該光に対して直交するように構成される。Z軸方向に見た場合の光源2からの入射光のベクトルaに対する出射光のベクトルbが成す角度を偏向角度θとすれば、屈折部Jの偏向角度θはゼロである。
【0036】
屈折部Jの両側の屈折部I及びKは、偏向角度θが単位偏向角度θm(=360/19≒18.947)°となるように、光源2からの光をそれぞれX軸の正方向及び負方向に偏向する。同様に、中心の屈折部Jから両方向に向かってn番目に位置する屈折部又は反射部は、偏向角度θが単位偏向角度θmのn倍となるように、それぞれX軸の正方向及び負方向に偏向する。
【0037】
したがって、各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mの偏向角度θは、これらの配列の中心に近いものほど小さく、中心から遠いものほど大きい。反射部A及びSでは、偏向角度θがθm×9≒170.5°となる。これにより、素子集合体4は、偏向装置3からの光の偏向の角度範囲を、第1角度範囲αよりも大きい第2角度範囲であるほぼ360°に拡げる機能を有する。
【0038】
図3に示すように、各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mは、偏向装置3からの対応する入射光を、基準となる1つの直線に垂直な方向に出射するように構成される。基準となる1つの直線は、本実施形態ではZ軸に平行な直線である。
【0039】
すなわち、各反射部A〜F、N〜Sの反射面のZ軸に対する傾きは、偏向装置3からの対応する偏向方向の光が該反射面によってZ軸に垂直な方向に反射されるように設定される。なお、
図3では、反射部A、S及び屈折部Jについて、反射又は屈折する光の光路が示されている。
【0040】
各屈折部G〜Mの入射面及び出射面のZ軸に対する傾きは、偏向装置3からの対応する偏向方向の光が該入射面及び該出射面によってZ軸に垂直な方向に屈折するように設定される。各屈折部G〜Mの出射面がZ軸に平行であるとすれば、それぞれの入射面が入射光をZ軸に垂直な方向に偏向させるように、その入射面のZ軸に対する傾きが設定される。
【0041】
光源2と偏向装置3の搖動反射面5との間には、ビームスプリッタ11が配置される。また、レーザレーダ装置1の外部からの戻り光のうち、ビームスプリッタ11により分割された部分を観察するための受光装置12が設けられる。
【0042】
図3に示すように、光源2、ビームスプリッタ11及び受光装置12は、光源2からの光が素子集合体4の下側から偏向装置3の搖動反射面5に入射し、また、その戻り光を観察できるように、素子集合体4よりもZ軸の負方向に配置される。YZ平面で見て、光源2からの光とY軸とが成す角は、例えば5〜15°程度である。
【0043】
図6は、レーザレーダ装置1にプリズム群14を設けた様子を示す。同図に示すように、素子集合体4の周りには、素子集合体4の各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mから装置外部に出力される光の進路13を、各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜M毎に調整するプリズム群14が設けられる。この調整は、各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mからの各光の進路13が、Z軸に垂直な基準となる1つの平面PL内に含まれるように行われる。
【0044】
プリズム群14を構成する各プリズム15は、
図7や
図8のように、対応する反射部A〜F、N〜S又は屈折部G〜Mからの光の進路13のZ軸方向における必要な調整量dzに応じて、その形状、寸法、配置、姿勢が選択される。進路13の調整量dzは、該進路13に対応する反射部A〜F、N〜S又は屈折部G〜M毎に異なる。
【0045】
具体的には、例えば、
図3における屈折部Jからの光の進路13を含む平面を上述の基準となる1つの平面PLとすれば、他の屈折部G〜I、K〜L及び反射部A〜F、N〜Sについて、それぞれの調整量dzを調整するためのプリズム15が設けられる。この場合、屈折部Jについては、進路13が平面PLに含まれるので、プリズム15は不要である。
【0046】
屈折部G〜I、K〜L、反射部A〜F、N〜Sのうち、Z軸方向において屈折部Jを中心として対称な位置にあるもの同士については、調整量dzが同じ大きさで符号が異なるだけであるため、プリズム15として同様の形状及び寸法のものを、姿勢だけを変えて用いることができる。
【0047】
図9は、偏向装置3の斜視図である。同図に示すように、偏向装置3は、搖動反射面5を有するミラー部16と、ミラー部16を支持する第1支持部17と、一端がミラー部16に、他端が第1支持部17にそれぞれ連結された第1圧電アクチュエータ18a、18bを備える。第1圧電アクチュエータ18a、18bを圧電駆動することによりミラー部16を第1支持部17に対して第2回転軸線20の周りに回転させることができる。
【0048】
また、偏向装置3は、第1支持部17を支持する第2支持部19と、一端が第1支持部17に、他端が第2支持部19にそれぞれ連結された第2圧電アクチュエータ21とを備える。第2圧電アクチュエータ21を圧電駆動することにより第1支持部17を第2支持部19に対して第1回転軸線6の周りに揺動させることができる。
【0049】
偏向装置3は、第1回転軸線6がX軸と平行となり、かつ光源2からの光を反射して素子集合体4の各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mに入射するように配置される。
【0050】
この偏向装置3は、上述の特許文献3に記載されたものと同様のものであるが、偏向装置3としては、これに限らず、第1回転軸線6の周りに搖動反射面5を回転させる機能を有するものであれば、他のMEMSミラーなどを用いてもよい。
【0051】
図10は、レーザレーダ装置1の各部を示すブロック図である。同図に示すように、レーザレーダ装置1は、さらに、光源2を駆動する光源駆動回路22、偏向装置3を駆動する偏向装置駆動回路23、受光装置12から受光データを検出値として取り込む検出回路24、及びこれらを制御する制御部25を備える。
【0052】
制御部25は、光源駆動回路22及び偏向装置駆動回路23を同期して制御することにより、光源2及び偏向装置3を同期して駆動し、
図11に示すようなパルス状の光を、素子集合体4に照射する。
【0053】
図11において、破線で示した部分は、各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mの継ぎ目部分に時間的又は位置的に相当する部分であり、この部分では、光源2から光が出力されない。これにより、素子集合体4の各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mの継ぎ目部分に光源2からの光が当たるのを回避している。
【0054】
なお、
図11の各パルスの幅は、搖動反射面5からの光が素子集合体4を走査する速度に反比例する。そして、この走査速度は搖動反射面5の回転角度に応じて変動するので、この回転角度に応じてパルス幅が調整される。例えば、操作速度が遅い回転角度のときには、パルス幅が長くなるように制御される。
【0055】
制御部25は、このようなパルス光を、パルス毎に、順次素子集合体4の各反射部A〜F、屈折部G〜M及びN〜Sに入射させる。これにより、パルス光が、ほぼ360°の全周囲のスキャン範囲にわたって順次照射される。
【0056】
制御部25は、照射したパルス光の検出対象物27からの戻り光に基づいて、検出回路24により、検出対象物27に関する検出処理を偏向装置3の駆動と同期して行う。このとき、光源2の点灯時と消灯時における検出回路24による検出データの差分を検出することにより、ノイズの原因となる環境光をフィルタリングして検出を行うことができる。
【0057】
制御部25は、このようにして検出した検出対象物27に関する情報とそのときの偏向装置3における搖動反射面5の回転角度とに基づいて、スキャン範囲におけるどの角度方向に検出対象物27が存在するのかを把握することができる。このとき、搖動反射面5の回転角度とスキャン範囲における角度方向とを対応付けたマッピング情報が参照される。
【0058】
以上のように、本実施形態によれば、1つの光源2からの光を偏向装置3により第1角度αの範囲内で偏向させながら出力し、この光を素子集合体4の反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mによって、さらに大きい角度範囲で偏向するようにしている。これにより、第1角度αの範囲内で偏向されながら偏向装置3から出力される光によって、より大きい第2角度範囲であるほぼ360°の全周囲にわたってスキャンすることができる。
【0059】
したがって、装置の重量を増大させるモータ等の動力や、光学設計を複雑化させる曲面ミラーを使用していないので、小型で低コストでありながら良好な性能を有するレーザレーダ装置1を提供することができる。
【0060】
また、複数の反射部A〜F、N〜S及び複数の屈折部G〜Mを一列に配列して結合し、又は一体的に形成した素子集合体4を採用したことにより、偏向拡張手段をコンパクトに構成できるので、レーザレーダ装置1の小型化をより確実に達成することができる。
【0061】
また、
図4に示すように、各反射部A〜F、N〜S及び各屈折部G〜Mは、偏向装置3からの対応する入射光のベクトルaとその出射光のベクトルbとが成す角θが、反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mの配列の中心に近いものほど小さい。このため、素子集合体4からの光の偏向方向を、偏向装置3からの光の偏向方向が変化する場合と同様に、連続的に変化させることができる。
【0062】
また、各反射部A〜F、N〜S及び各屈折部G〜Mは、偏向装置3からの対応する入射光を、基準となる1つの直線に垂直な方向に出射するように構成したので、該1つの直線に垂直な同一平面にほぼ含まれる範囲に、スキャン用の光を照射することができる。
【0063】
また、各屈折部G〜M及び各反射部A〜F、N〜Sから出射される光の進路が基準となる1つの平面PL内に含まれるように、該進路の該平面に垂直な方向の位置を調整するプリズム15を該屈折部G〜M毎又は該反射部A〜F、N〜S毎に備えるので、平面PLに沿ってスキャンを行うことができる。
【0064】
また、隣接する屈折部G〜M、又は反射部A〜F、N〜Sの間に光が当たらないように、偏向装置3における搖動反射面5の回転角度と光源2からの光の出力を制御するようにしたので、レーザレーダ装置1による光の照射及びこれに基づく情報の収集に不都合が生じるのを防止することができる。
【0065】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、屈折部G〜M及び反射部A〜F、N〜Sの数は、上述の例に限定されることはない。この数を増大させることにより、レーザレーダ装置1による対象物検出の分解能を向上させることができる。
【0066】
また、屈折部G〜M及び反射部A〜F、N〜SのZ軸方向の寸法を長くして、レーザレーダ装置1による観測領域をZ軸の方向に拡張し、三次元レーザレーダを実現するようにしてもよい。
【0067】
この場合、Z軸に平行な軸線の周りの360°のスキャン範囲に加え、搖動反射面5からの光が各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜Mを通過する毎に、X軸に平行な第1回転軸線6の周りについても、各反射部A〜F、N〜S及び屈折部G〜MのZ軸方向の寸法に対応する範囲が、順次スキャンされることになる。
【符号の説明】
【0068】
1…レーザレーダ装置、2…光源、3…偏向装置、4…素子集合体、5…搖動反射面、6…第1回転軸線、11…ビームスプリッタ、12…受光装置、13…進路、14…プリズム群、15…プリズム、16…ミラー部、17…第1支持部、18a、18b…第1圧電アクチュエータ、19…第2支持部、20…第2回転軸線、21…第2圧電アクチュエータ、22…光源駆動回路、23…偏向装置駆動回路、24…検出回路、25…制御部、27…検出対象物、A〜F、N〜S…反射部、G〜M…屈折部、PL…平面。