特許第6989345号(P6989345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989345リチウムイオン伝導体前駆体ガラス及びリチウムイオン伝導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989345
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導体前駆体ガラス及びリチウムイオン伝導体
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/17 20060101AFI20211220BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20211220BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211220BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20211220BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20211220BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211220BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20211220BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C03C3/17
   C03C10/02
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01B1/06 A
   H01B1/08
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-206574(P2017-206574)
(22)【出願日】2017年10月25日
(65)【公開番号】特開2019-77591(P2019-77591A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大野 友美
【審査官】 山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−112599(JP,A)
【文献】 特開2015−153588(JP,A)
【文献】 特開2015−127281(JP,A)
【文献】 特開2012−209256(JP,A)
【文献】 特開2016−024916(JP,A)
【文献】 特開2015−111532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00− 14/00
H01B 1/06、 1/08
H01M 4/13、 4/62
H01M 10/052、10/0562
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で
LiO成分 10〜35%
成分 20〜50%
Al成分 0超〜15%
GeO成分 20〜50%及び
Bi成分 0超〜15%
含有し、
TeO成分 0〜15%であり、
Bi成分及びTeO成分の合計含有量が0%超15%以下であり、
600℃で1時間熱処理してリチウムイオン伝導体を得たときの、該リチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導率が6.9×10−5S/cm以上である、リチウムイオン伝導体前駆体ガラス。
【請求項2】
ガラス組成として、モル%で
LiO成分 10〜35%、
成分 20〜50%、
Al成分 0超〜15%、
GeO成分 20〜50%及び
TeO成分 0超〜15%
を含有し、
Bi成分 0〜15%であり、
Bi成分及びTeO成分の合計含有量が0%超15%以下であり、
600℃で1時間熱処理してリチウムイオン伝導体を得たときの、該リチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導率が5.1×10−5S/cm以上である、リチウムイオン伝導体前駆体ガラス。
【請求項3】
質量比(Bi又は/及びTeO)/GeOが1.0以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導体前駆体ガラス。
【請求項4】
TG−DTA測定におけるT温度が590℃未満である請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導体前駆体ガラス。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導体前駆体ガラスと同一の組成を有し、結晶が析出されたリチウムイオン伝導体。
【請求項6】
Li1+xAlGe2−x(PO結晶(0<x<2)が析出していることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項7】
25℃におけるリチウムイオン伝導率が1×10−7 S/cmS以上であることを特徴とする請求項又はに記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項8】
リチウムイオン電池用固体電解質に使用されることを特徴とする請求項からのいずれかに記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項9】
正極又は負極活物質を1.0〜99.9体積%含有し、請求項からのいずれかに記載のリチウムイオン伝導体を0.1〜99.0体積%含有する電極複合体素子。
【請求項10】
請求項からのいずれかに記載のリチウムイオン伝導体と請求項に記載の電極複合体素子を組み合わせてなるリチウムイオン半電池又はリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にリチウムイオン二次電池用固体電解質として好適なリチウムイオン伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車用電源、携帯端末用電源などの用途で、エネルギー密度が高く、充放電可能なリチウムイオン二次電池が広く用いられている。
現在市販されているリチウムイオン二次電池の多くは、高いエネルギー密度を有するために、有機溶媒などの液体の電解質(電解液)が一般的に使用されている。この電解液は、炭酸エステルや環状エステルなどの非プロトン性有機溶媒などにリチウム塩を溶解させて用いられている。
【0003】
しかし、液体の電解質(電解液)を用いたリチウムイオン二次電池においては、電解液が漏出するという危険性がある。また、電解液に一般的に用いられる有機溶媒などは可燃性物質であり、安全上、好ましくないという問題がある。
【0004】
そこで、有機溶媒など液体の電解質(電解液)に替えて、固体電解質を用いることが提案されている。また、電解質として固体電解質を用いるとともに、その他の構成要素も固体で構成された固体二次電池の開発が進められている。
【0005】
特開2013−112599(以下、「特許文献1」という。)には、リチウムイオン二次電池に使用される固体電解質としてLi1+xAlGe2−x(PO結晶を有するリチウムイオン伝導体が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載されている組成物では、結晶化温度が高く、他の成分(電極活物質など)と同時に使用すると、他の成分と反応が起きてしまい、電池性能の低下を引き起こす問題がある。また、他の成分と反応が起きない温度では電池性能に求められるイオン伝導率を得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−112599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、低温で結晶化が進み、電池性能に求められるイオン伝導性をもつリチウムイオン伝導体前駆体ガラス及びリチウムイオン伝導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ガラス組成として、モル%で
LiO成分 10〜35%
成分 20〜50%
Al成分 0超〜15%
GeO成分 20〜50%及び、
Bi成分又は/及びTeO成分 0超〜15%
含有するリチウムイオン伝導体前駆体ガラス。
【0010】
(2)質量比(Bi又は/及びTeO)/GeOが1.0以下であることを特徴とする(1)に記載のリチウムイオン伝導体前駆体ガラス。
【0011】
(3)TG−DTA測定におけるT温度が590℃未満である(1)又は(2)に記載のリチウムイオン伝導体前駆体ガラス。
【0012】
(4)(1)から(3)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導体前駆体ガラスを熱処理し、結晶化させてなることを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【0013】
(5)Li1+xAlGe2−x(PO結晶(0<x<2)が析出していることを特徴とする(4)に記載のリチウムイオン伝導体。
【0014】
(6)25℃におけるリチウムイオン伝導率が1×10−7 S/cm以上であることを特徴とする(4)又は(5)に記載のリチウムイオン伝導体。
【0015】
(7)リチウムイオン電池用固体電解質に使用されることを特徴とする(4)から(6)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導体。
【0016】
(8)正極又は負極活物質を1.0〜99.9体積%含有し、(4)から(7)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導体を0.1〜99.0体積%含有する電極複合体素子。
【0017】
(9)(4)から(7)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導体と請求項8に記載の電極複合体素子を組み合わせてなるリチウムイオン半電池又はリチウムイオン電池。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリチウムイオン伝導体前駆体ガラスは、LiO成分を10〜35%、P成分を20〜50%、Al成分を0超〜15%、GeO成分を20〜50%及び、Bi成分又は/及びTeO成分を0超〜15%含有することを特徴とする。
【0019】
以下、本発明のリチウムイオン伝導体前駆体ガラス及びリチウムイオン伝導体の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0020】
本発明のリチウムイオン伝導体前駆体ガラス及びリチウムイオン伝導体に含まれる各成分の含有量は、特に明記しない限りは酸化物基準のモル%で表す。ここで、「酸化物換算組成」は、ガラス電解質の原料として使用される酸化物、複合塩、金属フッ化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100モル%として、ガラス電解質中に含有される各成分を表記した組成である。
【0021】
LiO成分はリチウムイオン伝導性を得る上で必須となる成分である。特に、LiO成分の含有量を10%以上にすることで、ガラスの熔融性を改善でき、ガラス転移点を低くできる。加えて、リチウムイオン伝導性を向上させることも出来る。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは10%超、より好ましくは13%以上、より好ましくは15%以上、より好ましくは15%超、さらに好ましくは18%以上である。
他方で、LiO成分の含有量を35%以下にすることで、熔解時のガラスの失透を低減でき、耐候性を向上させることができる。また、LiO成分の含有量を低減させることで、リチウムイオン伝導性結晶以外の結晶の析出を抑え、リチウムイオン伝導率が向上する傾向がある。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは35%以下、より好ましくは35%未満、より好ましくは30%未満、さらに好ましくは27%以下である。
【0022】
成分はリチウムイオン伝導性結晶の構成成分であるとともに、ガラスネットワークを形成する必須成分である。特に、P成分の含有量を20%以上にすることで、ガラスの粘性を高め、ガラス転移点を低くでき、ガラスの安定性を高めることができる。加えて、リチウムイオン伝導性結晶が析出しやすくなり、リチウムイオン伝導性を向上させる傾向にある。従って、P成分の含有量は、好ましくは20%以上、より好ましくは20%超、より好ましくは25%超、より好ましくは30%超、さらに好ましくは32%以上とする。
他方で、P成分の含有量を50%以下にすることで、リチウムイオン伝導性結晶の析出を維持し、高いリチウムイオン伝導性を保持できる傾向にある。従って、P成分の含有量は、好ましくは50%以下、より好ましくは50%未満、より好ましくは47%以下、より好ましくは45%未満、さらに好ましくは42%以下とする。
【0023】
GeO成分はリチウムイオン伝導性結晶を構成する必須成分である。特に、GeO成分の含有量を20%以上にすることで、リチウムイオン伝導性結晶が析出しやすくなり、リチウムイオン伝導性を向上させる傾向にある。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは20%以上、より好ましくは20%超、より好ましくは28%以上、より好ましくは30%超、さらに好ましくは32%以上とする。
他方で、GeO成分の含有量を50%以下にすることで、リチウムイオン伝導性結晶の析出を維持し、高いリチウムイオン伝導性を保持できる傾向にある。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは50%以下、より好ましくは50%未満、より好ましくは47%以下、より好ましくは45%未満、さらに好ましくは42%以下とする。
【0024】
Al成分はリチウムイオン伝導性結晶を構成する必須成分である。特に、Al成分の含有量を0%超にすることで、化学的耐久性及び耐失透性を高めることができ、リチウムイオン伝導性結晶のリチウムイオン伝導率を向上させることができる。従って、Al成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.5%超、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上とする。
他方で、Al成分の含有量を15%以下にすることで、リチウムイオン伝導性結晶の析出を維持し、高いリチウムイオン伝導性を保持できる傾向にある。従って、Al成分の含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは15%未満、より好ましくは12%以下、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは8%以下とする。
【0025】
Bi成分は0%超含有する場合に、ガラス転移点を下げることができる成分である。特に、Bi成分の含有量を0%超にすることで、低温でガラスが軟化し、低温でリチウムイオン伝導性結晶が析出しやすくなる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1%以上とする。
他方で、Bi成分の含有量を15%以下にすることで、低温でのリチウムイオン伝導性結晶の析出しやすさを維持し、高いリチウムイオン伝導性を保持できる傾向にある。 従って、Bi成分の含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%未満とする。
【0026】
TeO成分は0%超含有する場合に、ガラス転移点を下げることができる成分である。特に、TeO成分の含有量を0%超にすることで、低温でガラスが軟化し、低温でリチウムイオン伝導性結晶が析出しやすくなる。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上とする。
他方で、TeO成分の含有量を15%以下にすることで、低温でのリチウムイオン伝導性結晶の析出しやすさを維持し、高いリチウムイオン伝導性を保持できる傾向にある。 従って、TeO成分の含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは15%未満、より好ましくは12%以下、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは8.5%以下とする。
【0027】
SiO成分は0%超含有する場合に、ガラスを安定化させ、耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、SiO成分の含有量が多すぎると、ガラスは安定化するが、結晶化しにくくなりリチウムイオン伝導率が低下しやすくなる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは5%未満、より好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%未満とする。
【0028】
成分は0%超含有する場合に、ガラスネットワークを形成し、耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、B成分の含有量が多すぎると、ガラスは安定化するが、結晶化しにくくなりリチウムイオン伝導率が低下しやすくなる。従って、B成分の含有量は、好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%未満とする。
【0029】
Nb成分は0%超含有する場合に、熔解時の耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、Nb成分の含有量を15%以下にすることで、還元反応による価数状態の変化が小さくなり、リチウムイオン伝導性を向上させることができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは15%以下、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは5%未満とする。
【0030】
TiO成分は0%超含有する場合に、熔解時のガラスの安定性を高められる任意成分である。
他方で、TiO成分の含有量を15%以下にすることで、還元反応による価数状態の変化が小さくなり、リチウムイオン伝導性を向上させることができる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満とする。
【0031】
ZrO成分は0%超含有する場合に、熔解時のガラスの安定性を高められる任意成分である。
他方で、ZrO成分が多すぎるとガラス溶融しにくく、また冷却時に失透しやすくなり安定にガラスを得ることができなくなる。さらに、結晶化した際のリチウムイオン伝導率が低下する。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満とする。
【0032】
NaO成分及びKO成分は、出来る限り含まないことが望ましい。これらの成分がリチウムイオン伝導体前駆体ガラス及びリチウムイオン伝導体中に存在すると、アルカリイオンの混合効果により、Liイオンの伝導を阻害してリチウムイオン伝導率を下げ易くなる。従って、NaO成分及びKO成分の含有量は、好ましくは8%以下、より好ましくは4%以下、より好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは1%未満とする。
【0033】
GeO成分に対するBi成分の含有量の比率は1.0以下であることが好ましい。この比率を1.0以下にすることで、低温でリチウムイオン伝導体前駆体ガラスが軟化し易くなり、さらに低温で結晶化が進むようになる。従って、質量比Bi/GeOは、好ましくは1.0以下、より好ましくは1.0未満、より好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下とする。
【0034】
GeO成分に対するTeO成分の含有量の比率は1.0以下であることが好ましい。この比率を1.0以下にすることで、低温でリチウムイオン伝導体前駆体ガラスが軟化しやすくなり、さらに低温で結晶化が進むようになる。従って、質量比TeO/GeOは、好ましくは1.0以下、より好ましくは1.0未満、より好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下とする。
【0035】
GeO成分に対するBi及びTeO成分の含有量の比率は1.0以下であることが好ましい。この比率を1.0以下にすることで、低温でリチウムイオン伝導体前駆体ガラスが軟化しやすくなり、さらに低温で結晶化が進むようになる。従って、質量比(Bi及びTeO)/GeOは、好ましくは1.0以下、より好ましくは1.0未満、より好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下とする。
【0036】
本発明のリチウムイオン伝導体前駆体ガラスの形状は特に限定されず、粉体状やバルク状を採用することができる。特に、本発明のリチウムイオン伝導体前駆体ガラスは粉体状であることで電極活物質との界面を形成しやすく、また電極活物質と良く混合でき、電極活物質の隙間に入り込んで接着するなど電池用部材として活用しやすくなる。
【0037】
リチウムイオン伝導体前駆体ガラスを粉体として使用する場合、粉体の平均粒子径D50は上記効果を得るため、10μm以下、特に5μm以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、小さすぎると凝集しやすくなり上記効果を得ることが難しくなるため、前駆体ガラス粉体の平均粒子径D50は0.1μm以上であることが好ましい。
【0038】
リチウムイオン伝導体前駆体ガラス粉体を得るための粉砕方法(装置)としては、湿式粉砕、乾式粉砕を問わずボールミル(遊星型を含む)、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等が利用可能であるが、ランニングコスト及び粉砕効率の観点から、ボールミルが好ましい。粉砕後、必要に応じて分級することにより所望の平均粒子径を有する前駆体ガラス粉体を得ることができる。
【0039】
リチウムイオン伝導体前駆体ガラスのガラス転移点Tgが低いほど、ガラスが軟化する温度が低くなり電極活物質との界面の反応性を下げながら、電極―固体電解質間の接合性を向上することができる。よって、リチウムイオン伝導体前駆体ガラスのガラス転移点Tgは、好ましくは510℃以下、より好ましくは505℃以下、さらに好ましくは500℃以下である。
【0040】
リチウムイオン伝導体前駆体ガラスを熱処理して結晶化させることにより、リチウムイオン伝導体を得ることできる。
【0041】
リチウムイオン伝導体前駆体ガラスにリチウムイオン伝導性が発現するための熱処理温度を決定付ける、結晶化開始温度Tが低いほど、電極活物質との界面の反応性が抑えられる。これにより、上記前駆体ガラスと電極活物質を接触あるいは完全に混合し熱処理した場合でも、電極活物質の性能を損なうことなく界面形成でき、良好な電池特性を示す固体型のリチウムイオン二次電池や、その電極を作ることができる。Tは、好ましくは590℃未満、より好ましくは585℃以下、さらに好ましくは580℃以下である。
【0042】
リチウムイオン伝導体はリチウムイオン伝導性結晶のLi1+xAlGe2−x(PO結晶(0<x<2)(以下、LAGP)が析出していることが好ましい。
【0043】
また、BiPOに代表されるリチウムイオン伝導性結晶以外の結晶が結晶化することによってエネルギーが放出され、リチウムイオン伝導性結晶の結晶化が促進される効果が得られることもあるため、上記リチウムイオン伝導体はリチウムイオン伝導性結晶以外の結晶(例えば、BiPO、LiPO、LiPO、TeO、GeO、AlPO等)を同時に析出していても良い。
【0044】
本発明のリチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導率は好ましくは1.0×10−7S/cm以上、より好ましくは2.5×10−7S/cm以上、さらに好ましくは5.0×10−7S/cm以上である。これにより、例えば固体型のリチウムイオン二次電池部材に利用可能となる。ここで、リチウムイオン伝導率が高いほど電池の性能が向上する。
【0045】
次に、本発明のリチウムイオン伝導体前駆体ガラス及びリチウムイオン伝導体の製造方法について説明する。
【0046】
本発明のリチウム伝導体前駆体ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英るつぼ、アルミナるつぼ又は白金るつぼに入れて、1100℃〜1350℃の温度範囲で0.5〜4時間溶融して撹拌均質化を行い、成形型にキャストして徐冷、もしくは金型にてプレス成型、もしくは5〜25℃の水中にキャストすることで作製することができる。
【0047】
本発明のリチウムイオン伝導体は、例えば以下のように作製される。すなわち、上記リチウムイオン伝導体前駆体ガラスに結晶化開始温度T近傍での熱処理を施し、結晶化させる。ここで、リチウムイオン伝導体前駆体ガラスの形状は特に限定されず、バルク状や、バルク状のガラスを粉砕して得られた粉体をプレス成形などして成形したものを熱処理してもよい。
【0048】
リチウムイオン伝導体前駆体ガラスの熱処理温度は、温度が低すぎるとリチウムイオン伝導性結晶が十分に析出しないためリチウムイオン伝導率が低下する。一方、熱処理温度が高すぎると、電極活物質と接触又は混合して熱処理した場合に相互反応してしまい、電極活物質の性能低下やリチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導率低下を引き起こす。そのため熱処理温度は好ましくは500〜700℃、より好ましくは510〜675℃、さらに好ましくは520〜650℃の範囲で実施する。
【0049】
次に、本発明のリチウムイオン伝導体を、固体型のリチウムイオン二次電池に固体電解質として使用した例について説明する。
【0050】
固体型のリチウムイオン二次電池は基本的に、正極、負極及び固体電解質層から構成される。固体電解質層は正極と負極の間に、各電極と接するように配置され、電気的絶縁性とリチウムイオン伝導性を提供する。
【0051】
ここで、正極及び負極活物質は特に限定されず、公知の材料を使用することができる。正極活物資としては、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸コバルトリチウム等である。また負極としては、黒鉛、繊維状カーボン、ソフトカーボン等の炭素材料、Si、Sn等の金属、あるいはチタン酸リチウム等の酸化物系材料が挙げられる。固体電解質層には本発明のリチウムイオン伝導体を使用しても良いし、他の固体電解質(NASICON型のLi1−xTi2−x(PO(M=Al又は希土類元素)やLiLaZr12を代表とするガーネット型結晶等)を使用しても良い。
【0052】
また、電極内でのリチウムイオン伝導性向上や、電極活物質の低温接合、電極―固体電解質間の界面抵抗低減を目的として、電極活物質と固体電解質を混合した電極複合素子や、電極―固体電解質の間にも本発明のリチウムイオン伝導体を使用することができる。
【0053】
電極活物質と本発明のリチウムイオン伝導体を混合した電極複合素子は、例えば以下のようにして作製される。すなわち、任意の電極活物質と上記リチウムイオン伝導体前駆体ガラス、必要であればカーボンブラック等の導電助剤、分散剤や増粘剤と有機溶媒を用いて均一に混合し、スラリーやペーストを調整する。これをスクリーン印刷機やドクターブレード等の塗布機を用いてシート化、塗布し積層するなどしてから、熱処理を施す。または、調整したスラリーやペーストを乾燥させ、電極活物質混合粉体を取得して常圧焼結や、ホットプレス、SPS焼結を行う。
【0054】
上記の電極複合素子において、電極内の活物質が多いほどリチウムイオン二次電池のエネルギー密度は向上するため、電極活物質は1.0〜99.9体積%で適宜調整された量を含有することが望ましい。
【0055】
上記の電極複合素子を用いた、固体型のリチウムイオン二次電池は、例えば以下のようにして作製される。すなわち、上記電極活物質混合粉体と固体電解質(本発明のリチウムイオン伝導体前駆体ガラスも含む)を型に順に詰め、ホットプレスやSPS焼結法を用いて電極−固体電解質を一体成形、焼結、結晶化する。
【実施例】
【0056】
本発明の実施例1〜37の組成及び比較例1の組成、並びにT温度、前駆体ガラスの熱処理温度、リチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導率の結果を表1〜7に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
表1〜7に示した本発明の実施例1〜37及び比較例1は、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、塩化物、アンモニウム塩、メタリン酸化合物などの通常のガラスに使用される高純度の原料を選定した。表1〜7に示した各実施例の組成及び比較例の組成となるように、所定のガラス原料紛体を調合し、均一に混合した。均一に混合したガラス原料紛体を白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1100〜1350℃の温度範囲で0.5〜4時間溶融して撹拌均質化を行った。その後溶融ガラスを鋳鉄板上にキャストして徐冷し、もしくは金型に流し出しプレスによって急冷をすることで、リチウムイオン伝導体前駆体ガラスを得た。
【0058】
実施例1〜37及び比較例1に係るT温度の測定は以下の通り行った。上記前駆体ガラスを、乳鉢などを用いて粉体状に粉砕し、NETZSCH社製TG−DTA装置STA−409CDを用いて昇温速度条件10℃/minにてTG−DTA測定を行った。取得したDTA曲線における結晶の析出が始まる温度を結晶化開始温度Tとした。
【0059】
リチウムイオン伝導体前駆体ガラスの熱処理は、以下の通り行った。上記前駆体ガラスを表1〜7に記載の熱処理温度に保持した電気炉等に投入して1時間熱処理し、結晶化させてリチウムイオン伝導体を取得した。
【0060】
実施例1〜37及び比較例1に係るリチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導率の測定は、以下の通り行った。上記リチウムイオン伝導体の厚みは0.1〜3mmで、表面に付着物がある場合はサンドペーパーで研磨する等して取り除き表面を清浄にして、サンユー電子株式会社製のクイックコーターを用い、金をターゲットとしてサンプルの両面にスパッタを行い、金電極を取り付けた。これに関し、プリンストンアプライドリサーチ社製のポテンショガルバノスタットPARSTAT2273を用いて、交流二端子法による複素インピーダンス測定によって、0.1Hz〜1MHzの範囲のナイキストプロットから試料の抵抗値を求め、25℃におけるリチウムイオン伝導率を算出した。
【0061】
リチウムイオン伝導体に析出した結晶相をX線回折測定により同定した結果、リチウムイオン伝導性結晶のLi1+xAlGe2−x(PO(0<x<2)が析出していることを確認した。また、同時に析出しているリチウムイオン伝導性結晶以外の結晶は主にBiPOやAlPO、GeOなどであることを確認した。X線回折測定は粉末X線回折装置(日本フィリップス社製X‘Part−MPD)にて測定し、電圧40KV、電流値30mAでCuターゲットにより発生したX線を用いて、2θ=10〜75°の範囲でスキャンスピード0.04°/秒で測定した。
【0062】
表1〜7から明らかなように、本発明における実施例No.1〜37のリチウムイオン伝導体前駆体ガラスはTが低く、同時にリチウムイオン伝導性結晶以外の結晶が析出することで、低温でも結晶化が進行して、電池性能に求められるリチウムイオン伝導性を示す。一方、比較例1のリチウムイオン伝導体前駆体はTが高いため、低温では結晶化が進行しにくい。その結果、他の成分と反応が起きてしまい、電池性能の低下を引き起こすおそれがある。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】