【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1である光走査部10を含む測距装置100の全体構成を示す図である。なお、図中のブロック間を接続する実線は電気信号の経路を示し、破線矢印は光の経路を示している。
【0012】
光源20は、例えばパルス光である出射光ELを出射可能なレーザ素子である。
【0013】
光走査部10は、出射光ELの経路上に配されているMEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラー装置10A及びMEMSミラー装置10Aの全体を回転させることが可能な装置角度位置調整部10Bを含んでいる。MEMSミラー装置10Aは、光反射面(図示せず)を有しており、当該光反射面にて出射光ELを反射して、走査対象領域R1に向けて走査光SLを出射可能である。走査光SLは、走査対象領域R1に向けて出射された後、走査対象領域R1に存在する物体に反射され、測距装置100に向けて反射光RLとして戻ってくる。
【0014】
受光部30は、例えば、フォトダイオード等の光検出器である。受光部30は、反射光RLを受光して、電気信号である受光信号を生成可能である。
【0015】
制御部40は、光源20の発光制御を行う光源制御部41及びMEMSミラー装置10Aの光反射面(図示せず)の傾き制御を行うミラー制御部42を含んでいる。光源制御部41は、光源20を、光源20がパルス発光をするように制御する。また、ミラー制御部42は、光源20によって出射されて光反射面(図示せず)によって反射されたパルス光によって、走査対象領域R1の走査がなされるようにMEMSミラー装置10Aを制御する。
【0016】
距離測定部60は、受光部30によって生成された受光信号に基づいて、例えば、タイムオブフライト法によって、測距装置100と走査対象領域R1内にある物体との距離を算出する。
【0017】
具体的には、距離測定部60は、光源20によって出射された1のパルス光の出射時刻と、当該1のパルス光が走査対象領域R1内の物体によって反射されて反射光RLとして受光部30に検出された受光時刻を取得する。そして、当該出射時刻と当該受光時刻の時刻差に基づいて、当該当該1のパルス光が光源部から出射されて受光部30に受光されるまでの光経路の長さを算出し、当該長さに基づいて測距装置100と物体との距離を算出する。
【0018】
図2は、MEMSミラー装置10Aの平面図である。保持部12は、本実施例においては矩形の平板形状に形成されている。尚、保持部12は、矩形の平板形状に限られず、例えば、円板形状であってもよい。
【0019】
固定部13は、本実施例においては矩形の枠形状に形成されている。尚、固定部13の形状は矩形の枠形状に限られず、環状の枠形状に形成されていてもよい。固定部13は、保持部12上に保持されている。
【0020】
可動部14は、反射部材としての内側可動部15と、内側可動部15を囲む枠形状の外側可動部16と、を含んでいる。内側可動部15は、本実施例においては、矩形の平板形状に形成されている。尚、内側可動部15の形状は矩形の平板形状に限られず、例えば、円板形状に形成されていてもよい。内側可動部15の中央には光ビームを反射する光反射面MRが形成されている。
【0021】
第1の軸AX1は、光反射面MRに対して非垂直方向であり、本実施例においては、光反射面MRに平行である。
【0022】
2つの第1のトーションバーTB1は、光反射面MRの面中心Cを通る第1の軸AX1の方向に沿って伸長した板状体に形成されている。2つの第1のトーションバーTB1は、一端が内側可動部15の側面に固定され、他端が外側可動部16の側面に固定されている。すなわち、内側可動部15の第1の軸AX1周りの力が掛かると、第1のトーションバーTB1がねじれる。この結果、内側可動部15は、第1の軸AX1を中心に揺動する。従って、外側可動部16は第1保持部材として、第1の軸AX1の周りに揺動可能に内側可動部15を保持する。また、第1の軸AX1は内側可動部15の揺動軸となる
外側可動部16は、本実施例においては、矩形の枠形状に形成されている。尚、外側可動部16の形状は矩形の枠形状に限られず、例えば、環状の枠形状に形成されていてもよい。第2の軸AX2は、第1の軸AX1と直交して交差する。第2の軸AX2は、光反射面MRに対して非垂直方向であり、本実施例においては、光反射面MRに平行である。
【0023】
2つの第2のトーションバーTB1は、第2の軸AX2の方向に沿って伸長した板状体に形成されている。2つの第2のトーションバーTB2は、一端が外側可動部16の側面に固定され、他端が固定部13の側面に固定されている。すなわち、外側可動部16の第2の軸AX2周りの力が掛かると、第2のトーションバーTB2がねじれる。この結果、外側可動部16は、第2の軸AX2を中心に揺動する。従って、固定部13は第2保持部材として、第2の軸AX2の周りに揺動可能に外側可動部16を保持する。また、第2の軸AX2は外側可動部16の揺動軸となる。
【0024】
2つの第2のトーションバーTB2は、一端が外側可動部16の側面に固定され、他端が固定部13の側面に固定されている。すなわち、外側可動部16の第2の軸AX2周りの力が掛かると、第2のトーションバーTB2がねじれる。この結果、外側可動部16は、第2の軸AX2を中心に揺動する。従って、固定部13は、外側可動部16が揺動軸である第2の軸AX2の周りに揺動可能に外側可動部16を保持する。従って、固定部13は第2保持部材として、外側可動部16が揺動軸である第2の軸AX2の周りに揺動可能に外側可動部16を保持する。尚、固定部13、第1のトーションバーTB1、外側可動部16、第2のトーションバーTB2及び内側可動部15は、半導体基板で一体的に形成されている。
【0025】
外側可動部16の周縁領域にはそれぞれ第1駆動コイルCL1が設けられている。内側可動部15の周縁領域には第2駆動コイルCL2が設けられている。第1駆動コイルCL1と第2駆動コイルCL2とは、それぞれ対向するように設けられている。第1駆動コイルCL1の端部は、固定部13に形成された一対の第1電極端子T1に接続されている。第2駆動コイルCL2の端部は、固定部13に形成された第2電極端子T2に接続されている。
【0026】
第1駆動コイルCL1に磁界を作用させる互いに極性が異なる一対の第1永久磁石MG1及び第2駆動コイルCL2に磁界を作用させる互いに極性が異なる一対の第2永久磁石MG2が内側可動部15及び外側可動部16を挟んでそれぞれ対向して保持部12上に配置されている。
【0027】
したがって、例えば、第1駆動コイルCL1に供給される電流と、第1永久磁石MG1による磁界と、によって、外側可動部16及び内側可動部15に対してローレンツ力が作用する。この結果、内側可動部15及び外側可動部16は、第2のトーションバーTB2の軸周りに揺動する。
【0028】
また、第2駆動コイルCL2に供給される電流と、第2永久磁石MG1による磁界と、によって、内側可動部15に対してローレンツ力が作用する。この結果、内側可動部15は、第1のトーションバーTB1の軸周りに揺動する。したがって、可動部14は、第1の軸AX1及び第2の軸AX2の周りに揺動する。ここで、第1駆動コイルCL1及び第2駆動コイルCL2に供給される電流の周波数のそれぞれは、MEMSミラー装置10Aの共振周波数と同一又はその近傍の周波数に設定されている。
【0029】
図3は、
図2のMEMSミラー装置10Aの第1の軸AX1に沿った断面図である。
図3において、保持部12は、本実施例においては矩形の平板形状に形成されている。尚、保持部12は、矩形の平板形状に限られず、例えば、円板形状であってもよい。保持部12は、その上面TSから突出して形成された突出部17を含んでいる。
【0030】
突出部17は、保持部12の上面TSの中央部を囲うように固定部13の周縁領域に沿って枠形状に形成されている。従って、保持部12の上面TSと、突出部17の互いに対向する内側面17sとによって開口部18が形成されている。
【0031】
突出部17の上面は、平坦に形成され、この上面に固定部13が固定されている。突出部17の高さは、少なくとも、MEMSミラー装置10Aの内側可動部15及び外側可動部16が揺動時に上面TSに干渉しないように形成するとよい。したがって、保持部12は第3保持部材として、固定部13を保持する。
【0032】
第3の軸AX3は、第1の軸AX1及び第2の軸AX2の双方に直交して交差する。なお、本実施例では第1の軸AX1及び第2の軸AX2が直交しており、且つ第3の軸AX3が第1の軸AX1及び第2の軸AX2の交点に位置するものとして説明するが、第1〜第3の軸AX1〜3が必ずしも直交関係である必要はない。第1の軸AX1及び第2の軸AX2は所定の方法で可動部14を搖動させることができる関係となっていればよく、第3の軸AX3についてはMEMSミラー装置10を回転させることができる位置に設定されていればよい。
【0033】
支持部19は、第3の軸AX3方向に沿って伸長する円柱形状に形成されている。支持部19の一端は、保持部12の下面BSの中央に接続され、他端は、アクチュエータ102に接続されている。アクチュエータ102は、例えば、電動モータである。
【0034】
図4は、装置角度位置調整部10Bの構成を示すブロック図である。
図4において温度検知部101は、MEMSミラー装置10Aの温度を検知するもので、例えば、サーミスタ等の温度に応じて抵抗値が変化する温度センサを用いることができる。
【0035】
アクチュエータ102は、例えば、上述したように、電動モータである。したがって、アクチュエータ102が動作することにより、支持部19が第3の軸AX3の周りに回動する。尚、アクチュエータ102は、別部材を介して支持部19に接続されていてもよい。このように別部材を介して支持部19とアクチュエータ102を接続する場合には、電動モータと支持部19との間に設けられるトルク伝達機構としてギア、ベルト、チェーンを用いることができる。
【0036】
設定テーブルTBは、例えば、MEMSミラー装置10Aの温度が15℃のときを初期位置として、MEMSミラー装置10Aの温度の変化に応じて第3の軸AX3の周りに固定部13を回動させる調整角度が設定されている。具体的には、表1に示すように、MEMSミラー装置10Aの温度が5℃のときは調整角度がa度、MEMSミラー装置10Aの温度が15℃のときは調整角度が0度、MEMSミラー装置10Aの温度が25℃のときは調整角度がb度、MEMSミラー装置10Aの温度が35℃のときは調整角度がc度となるように設定されている。
【0037】
【表1】
【0038】
制御部103は、設定テーブルTBを参照してアクチュエータ102を動作させる。すなわち制御部103は、設定テーブルTBを参照しMEMSミラー装置10Aの温度に応じて、MEMSミラー装置10Aの第3の軸AX3の回りの角度を調整する。
【0039】
したがって、支持部19がアクチュエータ102の回転動力を受けて第3の軸AX3の周りに回動すると、これに伴って保持部12に固定された固定部13も回動する。すなわち、MEMSミラー装置10Aの固定部13は、第3の軸AX3の周りに回動可能に保持部12に固定されている。
【0040】
尚、MEMSミラー装置10Aの揺動軸の調整方向は、例えば、走査対象領域R1内の仮想面において、光反射面MRから投射される投射光の軌跡の一部が鉛直方向に沿うようにするとよい。例えば、仮想面において描かれる走査軌跡がリサージュ曲線に沿う場合、リサージュ曲線が描かれる領域の中心付近の交点を構成する2の軌跡のうち、一方の軌跡が他方の軌跡に対して鉛直方向に沿うようにMEMSミラー装置10Aの第3の軸AX3の回りの角度をするとよい。
【0041】
以上で説明した本実施例に係る測距装置100の測距動作について説明する。
【0042】
図5は、測距装置100の投光系の動作を示す概念図である。
図5において、光源20と光走査部10との間には、ビームスプリッタBSが設けられている。ビームスプリッタBSは、光源20側から入射した光ビームを光走査部10側に通すものである。したがって、光源20から出射された光ビームがビームスプリッタBSを介して光走査部10に入射される。光走査部10は入射した光ビームを走査対象領域R1に向けて反射させる。
【0043】
具体的には、MEMSミラー装置10Aは、可動部14を揺動して走査する態様で光ビームを走査対象領域R1内に向けて反射させる。この結果、MEMSミラー装置10Aによって反射された光ビームは、走査対象領域R1内であり光ビームの反射方向にある仮想の面である仮想面R2においてリサージュ軌跡を描くように、照射方向を変化させながら照射される。この軌跡は、MEMSミラー装置10による光ビームの反射方向の変化によって描かれるものである。測距装置100は、走査対象領域R1に存在する対象物OBの測距を行う。なお、仮想面R2は実在するものではない。
【0044】
また、
図6において、走査対象領域R1に対象物OBが存在すると、対象物OBから反射された光ビームが光走査部10に入射され、ビームスプリッタBSを介して受光部30に入射される。受光部30は、入射された反射光に基づいて電気信号に変換し距離測定部60に供給する。距離測定部60は、光ビームを出射した時刻と光ビームを受光した時刻に基づいて、対象物OBまでの距離を計測する。
【0045】
図7(a)は、第1駆動コイルCL1と第2駆動コイルCL2とに供給される電流値を変化させたときの仮想面R2において描かれるリサージュ走査軌跡を示している。ここでは、
図7(b)に示す第1駆動コイルCL1に供給される電流と
図7(c)に示す第2駆動コイルCL2に供給される電流との位相差、すなわち、水平方向走査と垂直方向走査との位相差を、下記のようにした場合のリサージュ走査軌跡を示している。
水平方向走査: DX(θx)=Ax sin(θx+Bx)
垂直方向走査: DY(θy)=Ay sin(θy+By)
【0046】
ところで、仮想面R2で描かれる走査軌跡は、可動部14の固有の振動数の変化に伴って予め想定されているリサージュ軌跡、すなわち想定軌跡から変化する。装置角度位置調整部10Bは、想定軌跡から変化した走査軌跡を例えば、鉛直方向に沿うようにMEMSミラー装置10Aの固定部13を第3の軸AX3の周りに回動させる。
【0047】
具体的には、装置角度位置調整部10Bの制御部103は、設定テーブルTBを参照して、例えば、MEMSミラー装置10Aの温度が5℃のときに、調整角度がa度となるようにMEMSミラー装置10Aの第3の軸AX3の回りの角度を調整する。
【0048】
装置角度位置調整部10Bの制御部103は、温度検知部101が検知したMEMSミラー装置10Aの温度と設定テーブルTBを参照して、MEMSミラー装置10Aの温度に応じてアクチュエータ102を動作させてMEMSミラー装置10Aの第3の軸AX3の回りの角度を調整する。
【0049】
ここで、MEMSミラー装置10Aの第3の軸AX3の回りの角度調整処理は、例えば、予め定めた所定時間の経過するごとに行ってもよい。また、温度検知部101がMEMSミラー装置10Aの温度を随時検知し、前回の角度調整時の当該温度と現在の温度を比較して差異がある場合に行ってもよい。
【0050】
尚、第2の軸AX2は第1の軸AX1と直交する軸であることを説明したが、第2の軸AX2は第1の軸AX1と第1の軸AX1と直交していなくてもよく、垂直でない角度で交差、もしくはねじれの関係にあってもよい。また、本実施例においては、走査軌跡を鉛直方向に沿うようにMEMSミラー装置10Aの固定部13を第3の軸AX3の周りに回動させるようにしたが、これには限られず、例えば、走査軌跡を水平方向に沿うようにMEMSミラー装置10Aの固定部13を第3の軸AX3の周りに回動させるようにしてもよい。
【0051】
以上のように、本実施例の測距装置100によれば、保持部12が第3の軸AX3の回りに回動することにより、固定部13を第3の軸AX3の周りに回動させることが可能となる。したがって、例えば、MEMSミラー装置10Aの温度の変化や経年劣化等の環境の変化によって、可動部14の固有の振動数が変化した場合でも、MEMSミラー装置10Aの第3の軸AX3の回りの角度調整をすることが可能となる。したがって、実際の走査軌跡が予め想定された走査軌跡から変化した場合であっても、良好な走査状況を維持することが可能となる。
【0052】
ところで、距離データに基づいて人や樹木等の対象物を画像処理によって認識する場合、鉛直方向もしくは水平方向の実測データが揃っている方が画像処理上好ましい。本実施例の測距装置100によれば、MEMSミラー装置10Aの第3の軸AX3の回りの角度調整をすることが可能となるため、鉛直方向のデータを得やすくすることが可能となる。したがって、測距装置100は、例えば、人や樹木等の認識率を高めることが可能となる。