特許第6989385号(P6989385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989385
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】アシル化グルカゴン類似体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/605 20060101AFI20211220BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211220BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20211220BHJP
   C07K 1/04 20060101ALI20211220BHJP
   C12P 21/00 20060101ALN20211220BHJP
【FI】
   C07K14/605ZNA
   A61K38/26
   A61P3/04
   A61P3/06
   A61P9/12
   A61P3/10
   A61P43/00 111
   C07K1/02
   C07K1/04
   !C12P21/00 C
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-553371(P2017-553371)
(86)(22)【出願日】2016年4月15日
(65)【公表番号】特表2018-513152(P2018-513152A)
(43)【公表日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】EP2016058359
(87)【国際公開番号】WO2016166289
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2019年4月12日
(31)【優先権主張番号】15163903.6
(32)【優先日】2015年4月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502453045
【氏名又は名称】ジーランド ファーマ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ディデ リーバ
(72)【発明者】
【氏名】ヤコプ リン トルボー
(72)【発明者】
【氏名】ディーター ボルフガング ハンプレヒト
(72)【発明者】
【氏名】レオ トーマス
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−502380(JP,A)
【文献】 特表2012−511902(JP,A)
【文献】 特表2012−511901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
1−H−Aib−QGTFTSDYSKYLDERAAKDFIEWLE−K([17−カルボキシ−ヘプタデカノイル]−イソGlu−GSGSGG)−A−R2
(式中、
1は、H(水素)、C1-4アルキル、アセチル、ホルミル、ベンゾイル又はトリフルオロアセチルであり;そして
2はOH又はNH2である)
を有する化合物又はその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項2】
1は、H(水素)であり、R2はNH2である、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の化合物を担体との混合物中に含む組成物。
【請求項4】
前記組成物が医薬組成物であり、前記担体が薬学的に許容される担体である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
体重増加の防止又は体重減少の促進を必要とする個体における体重増加の防止又は体重減少の促進のための、請求項1又は請求項2に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項6】
循環LDLレベルの低下、及び/又はHDL/LDL比の増加を必要とする個体における循環LDLレベルの低下、及び/又はHDL/LDL比の増加のための、請求項1又は請求項2に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項7】
過剰な体重に起因するか又は過剰な体重を特徴とする疾患状態の治療のための、請求項1又は請求項2に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項8】
血糖コントロールの改善あるいは肥満、病的肥満、手術前の病的肥満、肥満に関連する炎症、肥満に関連する胆嚢疾患、肥満誘発性睡眠時無呼吸、糖尿病、メタボリックシンドローム、高血圧、粥腫性脂質異常血症(atherogenic dyslipidemia)、アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)、動脈硬化症、冠状動脈性心疾患、末梢動脈疾患、卒中もしくは微小血管疾患の予防又は治療のための、請求項1又は請求項2に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項9】
前記化合物が、糖尿病、肥満、脂質異常症又は高血圧の治療薬と合わせた併用療法の一部として投与される、請求項5〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記糖尿病治療薬が、ビグアニド、スルホニル尿素、メグリチニド又はグリニド、DPP−IV阻害剤、SGLT2阻害剤、グリタゾン、GLP−1受容体アゴニスト、SGLT2阻害剤、GPR40アゴニスト又はインスリンである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記肥満治療薬が、GLP−1受容体アゴニスト、ペプチドYY、神経ペプチドY(NPY)、カンナビノイド受容体1アンタゴニスト、リパーゼ阻害剤、ヒトプロ膵島(prolslet)ペプチド(HIP)、メラノコルチン受容体4アゴニストメラニン凝集ホルモン受容体1アンタゴニスト、フェンテルミン(単独もしくはトピラメートとの組み合わせ)、ノルエピネフリン/ドーパミン再取り込み阻害剤及びオピオイド受容体アンタゴニストの組み合わせ、Orlistat(商標)、Sibutramine(商標)、CCK、アミリン、プラムリンチド及びレプチン、又はセロトニンアゴニストである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記高血圧治療薬が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、利尿薬、ベータ遮断薬、又はカルシウムチャンネル遮断薬である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記脂質異常症治療薬が、スタチン、フィブラート、ナイアシン、PSCK9(前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9)阻害剤及び/又はコレステロール吸収阻害剤である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1もしくは請求項2に記載の化合物又は請求項3もしくは請求項4に記載の組成物を含む治療キット。
【請求項15】
固相又は液相ペプチド合成による、請求項1又は請求項2に記載の化合物の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アシル化グルカゴン類似体に関し、また、例えば肥満及び過剰体重、糖尿病、並びに他の代謝障害の治療においてなど、それらの医学的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
プレプログルカゴンは、組織中で異なって処理されて、グルカゴン(Glu)、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)、及びオキシントモジュリン(OXM)を含む多数の構造的に関連したプログルカゴン由来ペプチドを形成する158アミノ酸前駆体ポリペプチドである。これらの分子は、グルコースホメオスタシス、インスリン分泌、胃内容排出及び腸成長、並びに食物摂取量の調節をはじめとする多種多様の生理学的機能に関与する。
【0003】
グルカゴンは、プレプログルカゴンのアミノ酸53〜81に相当する29アミノ酸ペプチドである。オキシントモジュリン(OXM)は、オクタペプチドカルボキシ末端伸張を有するグルカゴンの完全29アミノ酸配列を含む37アミノ酸ペプチドである(プレプログルカゴンのアミノ酸82〜89、「介在ペプチド1」又はIP−1と称する。GLP−1の主な生物活性フラグメントは、30アミノ酸として、プレプログルカゴンのアミノ酸98〜127に相当するC末端アミド化ペプチドを産生する。
【0004】
グルカゴンは、肝細胞上のグルカゴン受容体に結合することによってグルコースの血中レベル維持を支援し、肝臓に、グリコーゲン分解によってグリコーゲンの形態で貯蔵されていたグルコースを放出させる。これらの蓄えが枯渇すると、グルカゴンは肝臓を刺激してグルコネオゲネシスによってさらなるグルコースを合成させる。このグルコースが血流中に放出され、低血糖症の発症を防止する。
【0005】
GLP−1は、グルコースにより刺激されたインスリン分泌を改善することによって上昇した血糖値を低下させ、そして主に食物摂取を減少させることによって体重減少を促進する。
【0006】
OXMは食物摂取に応答し、そして食物のカロリー含有量に比例して血液中に放出される。OXMはヒトにおいて食欲を抑え、食物摂取を抑制することが示されている(Cohen et al, Journal of Endocrinology and Metabolism、88、4696−4701、2003;国際公開第2003/022304号パンフレット)。GLP−1の食欲抑制効果と類似したそれらの食欲抑制効果に加えて、OXMは、オキシントモジュリンで処置したラットが同時飼育のラットよりも少ない体重増加を示すので、別の機序によって体重に影響を及ぼすはずである(Bloom、Endocrinology 2004、145、2687)。OXMでの肥満げっ歯類の治療はまた、それらの耐糖能も改善し(Parlevliet et al, Am J Physiol Endocrinol Metab、294、E142−7、2008)、体重増加を抑制する(国際公開第2003/022304号パンフレット)。
【0007】
OXMはグルカゴン及びGLP−1受容体の両方を活性化し、グルカゴン受容体に対する効力はGLP−1受容体よりも2倍高いが、それらの各々の受容体に関して天然のグルカゴン及びGLP−1よりも効力が低い。ヒトグルカゴンはまた両方の受容体を活性化することもできるが、GLP−1受容体よりもグルカゴン受容体に対して強く優先傾向を有する。一方、GLP−1はグルカゴン受容体を活性化することができない。オキシントモジュリンの作用機序はあまりよく分かっていない。特に、ホルモンの肝外効果の一部がGLP−1及びグルカゴン受容体によって媒介されるのか、又は1以上の未確認の受容体によって媒介されるのかは、わかっていない。
【0008】
他のペプチドはグルカゴン及びGLP−1受容体の両方と結合し活性化すること(Hjort et al, Journal of Biological Chemistry、269、30121−30124、1994)及び食物摂取量を減少させることが示されている(例えば、国際公開第2006/134340号パンフレット、国際公開第2007/100535号パンフレット、国際公開第2008/10101号パンフレット、国際公開第2008/152403号パンフレット、国際公開第2009/155257号パンフレット、国際公開第2009/155258号パンフレット、国際公開第2010/070252号パンフレット、国際公開第2010/070253号パンフレット、国際公開第2010/070255号パンフレット、国際公開第2010/070251号パンフレット、国際公開第2011/006497号パンフレット、国際公開第2011/160630号パンフレット、国際公開第2011/160633号パンフレット、国際公開第2013/092703号パンフレット、国際公開第2014/041195号、国際出願PCT/EP2014/072294号明細書及び国際出願PCT/EP2014/072293号明細書を参照のこと)。
【0009】
肥満は、様々な疾患、特に心臓血管疾患(CVD)、2型糖尿病、閉塞性睡眠時無呼吸、ある種の癌、及び骨関節炎と関連する世界的に増加している健康問題である。結果として、肥満は平均余命を縮めることが判明している。
【0010】
世界保健機関による2005年の予測によると、世界中で肥満に分類される成人(15歳を超える年齢)は4億人いる。米国では、肥満は今や喫煙に次いで2番目の予防可能な死因であると考えられている。
【0011】
肥満の増加は糖尿病の増加を推進し、2型糖尿病に罹っている人の約90%は肥満に分類され得る。世界中で2億4千6百万人が糖尿病に罹っており、2025年までに3億8千万人が糖尿病になると推定されている。多くは、高/異常LDL及びトリグリセリド並びに低HDLを含む、さらなる心血管リスク因子を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の概要
本発明は、式
1−H−Aib−QGTFTSDYSKYLDERAAKDFIEWLE−K([17−カルボキシ−ヘプタデカノイル]−イソGlu−GSGSGG)−A−R2
(式中、
1はH(水素)、C1-4アルキル、アセチル、ホルミル、ベンゾイル又はトリフルオロアセチルである;そして
2はOH又はNH2である)
を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を提供する;
化合物は:
H−H−Aib−QGTFTSDYSKYLDERAAKDFIEWLE−K([17−カルボキシ−ヘプタデカノイル]−イソGlu−GSGSGG)−A−NH2
であり得る。
【0013】
本発明の化合物はグルカゴン類似体とみなすことができる。本明細書におけるグルカゴン類似体ペプチドへの言及は、特に文脈上別段の要望がない限り、本発明の化合物に対する言及と解釈すべきである。
【0014】
本発明の化合物に対する言及は、特に別段の記載がない限り、又は文脈によって除外されない限り、それらのあらゆる薬学的に許容される塩(例えば酢酸塩もしくは塩化物塩)又は溶媒和物を含むと解釈されるべきである。
【0015】
本発明は、本明細書中で定義する本発明の化合物(すでに記載したようなその薬学的に許容される塩又は溶媒和物を含む)を担体との混合物で含む組成物を提供する。好ましい実施形態において、組成物は医薬組成物であり、担体は薬学的に許容される担体である。化合物は薬学的に許容される塩の形態であり得る。
【0016】
本明細書中で記載する化合物は、特に、体重増加の防止又は体重減少の促進で有用である使用できる。「予防する」とは、治療をしない場合と比較して阻害又は軽減することを意味し、必ずしも体重増加の完全な停止を意味するものではない。ペプチドは食物摂取量の減少及び/又はエネルギー消費量の増加を引き起こし、結果として体重に対する効果が観察される可能性がある。体重に対するそれらの効果とは無関係に、本発明の化合物はグルコース調節及び/又は循環コレステロールレベルに対して有益な効果を及ぼすことができ、循環LDLレベルを低下させることができ、またHDL/LDL比を増加させることができる。したがって、本発明の化合物は、過剰な体重に起因するか又は過剰な体重を特徴とするあらゆる疾患状態の直接的又は間接的療法、例えば肥満、病的肥満、肥満に関連する炎症、肥満に関連する胆嚢疾患、肥満誘発性睡眠時無呼吸の治療及び/又は予防に使用できる。それらは、血糖コントロールの改善のため、あるいは不適切なグルコース調節に起因するかもしくは不適切なグルコース調節を特徴とする疾患状態又は脂質異常症(例えば、LDLレベルの上昇又はHDL/LDL比の減少)、糖尿病(特に2型糖尿病)、メタボリックシンドローム、高血圧、粥腫性脂質異常血症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠状動脈性心疾患、末梢動脈疾患、卒中又は微小血管疾患の予防又は治療のために使用することもできる。これらの疾患状態におけるそれらの効果は、体重に対するそれらの効果の結果であり得るかもしくは関連し得るか、又はそれとは無関係であり得る。
【0017】
本発明はさらに、薬物治療法で使用するため、特に上述の疾患状態の治療方法で使用するための本発明の化合物も提供する。
【0018】
本発明はまた、上記疾患状態の治療用医薬の調製における本発明の化合物の使用を提供する。
【0019】
本発明の化合物は、糖尿病、肥満、脂質異常症又は高血圧の治療用薬剤を用いた併用療法の一部として投与することができる。
【0020】
そのような場合、2つの活性剤を一緒に又は別々に、そして同じ製剤の一部として又は別の処方として投与することができる。
【0021】
したがって、本発明の化合物は、限定されるものではないが、ビグアニド(例えば、メトホルミン)、スルホニル尿素、メグリチニド又はグリニド(例えば、ナテグリニド)、DPP−IV阻害剤、SGLT2阻害剤、グリタゾン、GLP−1受容体アゴニスト、SGLT2阻害剤(すなわち、ナトリウム−グルコース輸送の阻害剤、例えばグリフロジン、例えばエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン又はイプラグリフロジン)、GPR40アゴニスト(FFAR1/FFA1アゴニスト、例えばファシグリファム)、又はインスリンもしくはインスリン類似体を含む抗糖尿病薬と組み合わせて使用することができる。
【0022】
化合物はさらに、限定されるものではないが、GLP−1受容体1アゴニスト、ペプチドYY又はその類似体、神経ペプチドY(NPY)又はその類似体、カンナビノイド受容体1アンタゴニスト、リパーゼ阻害剤、ヒトプロ膵島(prolslet)ペプチド(HIP)、メラノコルチン受容体4アゴニスト、メラニン凝集ホルモン受容体1アンタゴニスト、フェンテルミン(単独又はトピラメートとの組み合わせ)、ノルエピネフリン/ドーパミン再取り込み阻害剤及びオピオイド受容体アンタゴニストの組み合わせ(例えば、ブプロピオン及びナルトレキソンの組み合わせ)、Orlistat(商標)、Sibutramine(商標)、CCK、アミリン、プラムリンチド及びレプチン及びその類似体、又はセロトニンアゴニスト(例えば、ロルカセリン)を含む抗肥満薬と組み合わせて使用することができる。
【0023】
化合物は、限定されるものではないが、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、利尿薬、ベータ遮断薬、又はカルシウムチャンネル遮断薬を含む抗高血圧薬と組み合わせて使用できる。
【0024】
化合物は、限定されるものではないが、スタチン、フィブラート、ナイアシン、PSCK9(前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9)阻害剤及び/又はコレステロール吸収阻害剤を含む抗脂質異常症薬と組み合わせて使用できる。
【0025】
したがって、本発明はさらに、本発明の化合物と、例えば上述した抗糖尿病薬、抗肥満薬、抗高血圧薬又は抗脂質異常症薬とを含む組成物もしくは治療キットを提供する。さらに、薬物治療法で使用するため、特に上述したような疾患状態の治療のためのそのような組成物又は治療キットも提供される。
【0026】
本発明の化合物は合成化学によって作製できる。したがって、本発明は本発明の化合物の合成方法を提供する。
【0027】
本発明は、組換え法及び合成法の組み合わせによっても作製できる。方法は、前駆体ペプチド配列を発現し、任意にかくして産生された化合物を精製し、そして1以上のアミノ酸を添加又は修飾して、本発明の化合物を製造することを含み得る。修飾のステップは、Aib残基の導入(例えば、前駆体残基の修飾による)、残基28の側鎖での置換基[17−カルボキシ−ヘプタデカノイル]−イソGlu−GSGSGGの導入及び/又は、例えば遊離C末端でのアミド基R2の導入による、末端基R1及びR2の一方もしくは両方の修飾を含んでもよい。
【0028】
前駆体ペプチドは、そのような核酸を含む細胞又は無細胞発現系において前駆体ペプチドをコード化する核酸から発現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0029】
発明の詳細な説明
本明細書全体にわたって、天然に存在するアミノ酸の通常の1文字コード及び3文字コード、並びにAib(α−アミノイソ酪酸)を含む他のアミノ酸の一般に認められている略語も使用する。
【0030】
グルカゴンは、プレプログルカゴンのアミノ酸53〜81に対応する29アミノ酸ペプチドであり、配列His−Ser−Gln−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Tyr−Ser−Lys−Tyr−Leu−Asp−Ser−Arg−Arg−Ala−Gln−Asp−Phe−Val−Gln−Trp−Leu−Met−Asn−Thrを有する。オキシントモジュリン(OXM)は、オクタペプチドカルボキシ末端伸張を有するグルカゴンの完全29アミノ酸配列を含む37アミノ酸ペプチドである(プレプログルカゴンのアミノ酸82〜89、配列Lys−Arg−Asn−Arg−Asn−Asn−lle−Alaを有し、「介在ペプチド1」、又はIP−1と称する;ヒトオキシントモジュリンの完全配列は、したがってHis−Ser−Gln−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Tyr−Ser−Lys−Tyr−Leu−Asp−Ser−Arg−Arg−Ala−Gln−Asp−Phe−Val−Gln−Trp−Leu−Met−Asn−Thr−Lys−Arg−Asn−Arg−Asn−Asn−lle−Alaである)。GLP−1の主な生物活性フラグメントは30アミノ酸として、プレプログルカゴンのアミノ酸98〜127に相当するC末端アミド化ペプチドを産生する。
【0031】
「天然グルカゴン」という語は、したがって、配列H−His−Ser−Gln−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Tyr−Ser−Lys−Tyr−Leu−Asp−Ser−Arg−Arg−Ala−Gln−Asp−Phe−Val−Gln−Trp−Leu−Met−Asn−Thr−OHを有する天然ヒトグルカゴンを指す。
【0032】
本発明の化合物の直線状配列内のアミノ酸は、通常どおりのN末端からC末端方向で1から29へ連続して付番されると考えることができる。「位置」に関する言及は、天然のヒトグルカゴン及び他の分子内の位置に対する言及と同様に、それに応じて解釈されるべきである。
【0033】
位置28の残基は、アミド結合によってそのイプシロンアミノ基を介して親油性置換基にコンジュゲートしたリジン残基(Lys)である。いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、この置換基は血流中の血漿タンパク質(例えば、アルブミン)と結合し、したがって本発明の化合物を酵素分解から保護し、それによって化合物の半減期を高めると考えられる。それはまた、例えばグルカゴン受容体及び/又はGLP−1受容体に関して化合物の効力も調節し得る。
【0034】
置換基は構造:
【0035】
【化1】
【0036】
を有する。置換基は、本明細書中では、簡単な表記法[17−カルボキシ−ヘプタデカノイル]−イソGlu−GSGSGGで記載する。これは、それが名目上は17−カルボキシ−ヘプタデカノイル単位と、「イソ」配置でグルタミン酸残基によって結合した(すなわち、そのアルファアミノ基を介して17−カルボキシ−ヘプタデカノイル単位に、そしてそのガンマカルボキシル基を介してヘキサペプチドスペーサのN末端に結合した)、配列グリシン−セリン−グリシン−セリン−グリシン−グリシンを有するヘキサペプチドスペーサとから構成されると見なすことができることを意味する。
【0037】
脂肪鎖の末端に酸基が存在することで、例えば半減期及び/又は平均滞留時間の増加、並びにクリアランスの減少によって、化合物の薬物速度論的特性が増強されると考えられている。リンカーもこれらの薬物速度論的特性に貢献し得る。
【0038】
複数のアミノ酸単位(又は同様のサイズの部分)を含むリンカーは、ただ1つのアミノ酸単位又は同種のものからなるものと比較して、薬物速度論的特性を改善し得る。これらの特性は、同じペプチド骨格を有するが、修飾がないか又は異なる修飾(例えば、極性基を欠く、及び/又はより短いリンカー部分を有する脂肪族脂肪鎖を有する置換基)を有する同等の化合物よりも低頻度で化合物を投与することを可能にし得る。
【0039】
「コンジュゲートした」という語は、本明細書中では、1つの識別可能な化学部分を別のものに物理的に結合させること、及びそのような部分間の構造的関係を記載するために使用する。任意の特定の合成方法を意味すると解釈されるべきではない。
【0040】
当業者は、例えば、“Comprehensive Organic Transformations、A Guide to Functional Group Preparations”、2nd edition、Larock、R. C; Wiley−VCH:New York、1999で記載されている一般的合成法を使用してカップリング反応を実施するために使用できる好適な技術がよくわかるであろう。そのような変換は合成プロセス中の任意の好適な段階で起こり得る。
ペプチド合成
【0041】
本発明の化合物は、標準的合成法、組換え発現系、又は任意の他の最先端の方法のいずれかによって製造できる。したがって、グルカゴン類似体は、例えば:
(a)固相又は液相法によって、段階的又はフラグメントアセンブリによるかのいずれかでペプチドを合成し、そして最終ペプチド産物を単離及び精製すること;又は
【0042】
(b)前駆体ペプチドをコード化する核酸構築物から前駆体ペプチド配列を発現させ、発現産物を回収し、前駆体ペプチドを修飾して本発明の化合物を得ること
を含む方法をはじめとする多くの方法で合成することができる。
【0043】
発現は、典型的には、前駆体ペプチドをコード化する核酸から実施され、そのような核酸を含む細胞又は無細胞発現系で実施することができる。
【0044】
固相又は液相ペプチド合成によって本発明の類似体を合成することが好ましい。これに関連して、国際公開第98/11125号パンフレット及び、多くの他のもののうちでも、Fields、GB et al.,2002、“Principles and practice of solid−phase peptide synthesis”. In: Synthetic Peptides (2nd Edition)、及び明細書中の実施例が参照される。
【0045】
組換え発現に関して、前駆体ペプチドをコード化する核酸フラグメントを通常好適なベクターに挿入してクローニング又は発現ベクターを形成する。ベクターは、用途の目的及び種類に応じて、プラスミド、ファージ、コスミッド、ミニ染色体、又はウイルスの形態であり得るが、ある細胞において過渡的にのみ発現される裸のDNAも重要なベクターである。好ましいクローニング及び発現ベクター(プラスミドベクター)は自己複製することができ、それによってその後のクローニングのための高レベルの発現又は高レベルの複製の目的で高コピー数を可能にする。
【0046】
概要では、発現ベクターは5’→3’方向及び操作可能な結合で以下の特徴:核酸フラグメントの発現を駆動するためのプロモータ、任意に(細胞外相へ、又は、必要に応じてペリプラズム(periplasma)中への)分泌を可能にするリーダーペプチドをコード化する核酸配列、前駆体ペプチドをコード化する核酸フラグメント、任意にターミネータをコード化する核酸配列を有する。それらは、選択マーカー及び複製起源などのさらなる特徴を含み得る。プロデューサー株又は細胞株において発現ベクターで操作する場合、ベクターは宿主細胞ゲノムに組み入れることができるのが好ましい可能性がある。当業者は好適なベクターに非常に精通し、ベクターの特定の要件に従って1つを設計することができる。
【0047】
本発明のベクターを使用して、宿主細胞を形質転換して、前駆体ペプチドを産生する。そのような形質転換細胞は、核酸フラグメント及びベクターの増殖に使用される、及び/又は前駆体ペプチドの組換え産生に用いられる、培養された細胞又は細胞株であり得る。
【0048】
好ましい形質転換細胞は、細菌[例えばエシェリキア種(例えば、大腸菌)、バチルス(例えば、枯草菌)、サルモネラ、又はマイコバクテリウム(好ましくは非病原性、例えばウシ結核菌BCG)、酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae及びPichia pastoris)などの微生物、並びに原生動物である。あるいは、形質転換細胞は多細胞生物由来であってもよく、すなわち、真菌細胞、昆虫細胞、藻細胞、植物細胞、又は動物細胞、例えば哺乳動物細胞であってもよい。クローニング及び/又は最適化発現の目的で、形質転換細胞が本発明の核酸フラグメントを複製できることが好ましい。核酸フラグメントを発現する細胞を本発明のペプチドの小規模又は大規模調製のために使用できる。
【0049】
形質転換細胞を用いて前駆体ペプチドを産生する場合、発現産物を培地中に分泌させることが、必須ではないが、都合よい。
有効性
【0050】
関連化合物のGLP−1又はグルカゴン(Glu)受容体への結合は、アゴニスト活性を示すものとして使用できるが、概して、化合物の関連受容体への結合によって起こる細胞内シグナリングを測定する生物学的アッセイを使用することが好ましい。例えば、グルカゴンアゴニストによるグルカゴン受容体の活性化は細胞サイクリックAMP(cAMP)形成を刺激する。同様に、GLP−1アゴニストによるGLP−1受容体の活性化は細胞cAMP形成を刺激する。したがって、これら2つの受容体のうちの1つを発現する好適な細胞におけるcAMPの産生を用いて、関連する受容体活性をモニタリングすることができる。したがって、各々が一方の受容体を発現するが他方の受容体を発現しない、細胞型の好適な対の使用は、両方の型の受容体に対するアゴニスト活性を判定するために使用できる。
【0051】
当業者は好適なアッセイフォーマットがわかるであろうし、また以下に例を提示する。GLP−1受容体及び/又はグルカゴン受容体は、実施例で記載する受容体の配列を有し得る。例えば、アッセイは、プライマリーアクセッション番号Gl:4503947を有するヒトグルカゴン受容体(グルカゴン−R)及び/又はプライマリーアクセッション番号G1:166795283を有するヒトグルカゴン様ペプチド1受容体(GLP−1R)を用いることができる。(前駆体タンパク質の配列が言及される場合、もちろん、アッセイはシグナル配列を欠いた成熟タンパク質を利用できると理解すべきである点で)。
【0052】
EC50値は、所定の受容体でのアゴニスト効力の数値的尺度として用いることができる。EC50値は、特定のEC50における化合物の最大活性の半分を達成するために必要な化合物の濃度の尺度である。したがって、例えば、特定のアッセイにおいてグルカゴンのEC50[GLP−1]よりも低いEC50[GLP−1]を有する化合物は、グルカゴンよりも高いGLP−1受容体アゴニスト効力を有するとみなすことができる。
【0053】
本明細書中に記載する化合物は、典型的には、グルカゴン受容体及びGLP−1受容体の両方でcAMP形成を刺激できるという観察結果によって確認されるように、GluGLP−1二重アゴニストである。各受容体の刺激は、独立したアッセイで測定することができ、その後、互いに比較することができる。
【0054】
GLP−1受容体についてのEC50値(EC50[GLP−1−R])とグルカゴン受容体についてのEC50値、所定の化合物についての(EC50[グルカゴンR])とを比較することによって、相対的なGLP−1R選択性は以下のようにして算出できる:
相対的GLP−1R選択性[化合物]=(EC50[GLP−1R])/(EC50[グルカゴン−R])
【0055】
「EC50」という語は、典型的には特定の受容体で、もしくは受容体機能の特定のマーカーのレベルで、最大有効濃度の半分を表し、特定の生化学的状況に応じて、阻害又は拮抗活性を意味し得る。
【0056】
いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、化合物の相対的選択性は、GLP−1又はグルカゴン受容体に対するその影響を、他の受容体に対するその影響と直接比較することを可能にし得る。例えば、化合物の相対的GLP−1選択性が高いほど、その化合物はグルカゴン受容体と比べてGLP−1受容体に対してより有効であり得る。典型的には、結果を同じ種由来のグルカゴン及びGLP−1受容体、例えばヒトグルカゴンとGLP−1受容体、又はネズミグルカゴンとGLP−1受容体について比較する。
【0057】
本発明の化合物は、特定のレベルのグルカゴン−Rアゴニスト活性について、化合物がグルカゴンよりも高いレベルのGLP−1Rアゴニスト活性(すなわち、GLP−1受容体でより高い効力)を示し得る点で、ヒトグルカゴンよりも高い相対的GLP−1R選択性を有し得る。グルカゴン及びGLP−1受容体で特定の化合物の絶対的効力は、適切な相対的GLP−1R選択性が達成される限り、天然のヒトグルカゴンより高いか、又はより低いか、又はほぼ同等であり得ることが理解されるであろう。
【0058】
それにもかかわらず、本発明の化合物はヒトグルカゴンよりも低いEC50[GLP−1R]を有し得る。化合物は、ヒトグルカゴンよりも100倍未満高いか、ヒトグルカゴンよりも50倍未満高いか、又はヒトグルカゴンよりも10倍未満高いEC50[グルカゴン−R]を維持しつつ、グルカゴンよりも低いEC50[GLP−1−R]を有し得る。
【0059】
本発明の化合物は、ヒトグルカゴンの100倍未満であるEC50[グルカゴン−R]を有し得る。化合物は、ヒトグルカゴンの100倍未満(例えば、50倍未満)であるEC50[グルカゴン−R]を有し得、ヒトグルカゴンの半分未満、ヒトグルカゴンの1/5未満、ヒトグルカゴンの1/10未満、又はヒトグルカゴンの1/100未満、例えばグルカゴンの0.01〜0.1倍、例えばヒトグルカゴンの0.01〜0.05倍のEC50[GLP−1R]を有し得る。
【0060】
化合物の相対的GLP−1R選択性は0.05〜20であり得る。例えば、化合物は、0.05〜0.20、0.1〜0.30、0.2〜0.5、0.3〜0.7、又は0.5〜1.0;1.0〜2.0、1.5〜3.0、2.0〜4.0又は2.5〜5.0;又は0.05〜20、0.075〜15、0.1〜10、0.15〜5、0.75〜2.5又は0.9〜1.1の相対的選択性を有し得る。
【0061】
ある実施形態において、グルカゴン−R又はGLP−1Rの(例えば、ヒトグルカゴン又はGLP−1受容体の)任意の所定の化合物のEC50は1nM未満であることが望ましい可能性がある。特に、GLP−1Rの(例えば、ヒトGLP−1受容体の)EC50は1nM未満であることが望ましい可能性がある。
治療的使用
【0062】
本発明の化合物は、後述するように、とりわけ、糖尿病を含む肥満及び代謝疾患の魅力的な治療及び/又は予防の選択肢を提供し得る。
【0063】
糖尿病は、インスリン分泌、インスリン作用、又は両者における欠陥に起因する高血糖により特徴づけられる一群の代謝疾患を含む。糖尿病の急性兆候には、過剰な尿産生と、その結果としての代償性口渇(compensatory thirst)及び水分摂取量の増加、かすみ目、原因不明の体重減少、倦怠感、及びエネルギー代謝における変化が含まれる。糖尿病の慢性高血糖症は、様々な臓器、特に眼、腎臓、神経、心臓及び血管の長期の損傷、機能不全、及び機能停止に関連する。糖尿病は、病原性に基づいて1型糖尿病、2型糖尿病及び妊娠性糖尿病に分類される。
【0064】
1型糖尿病はすべての糖尿病症例の5〜10%を占め、インスリンを分泌する膵臓β細胞の自己免疫破壊によって引き起こされる。
【0065】
2型糖尿病は糖尿病症例の90〜95%を占め、複雑な一連の代謝障害の結果である。2型糖尿病は、診断閾値より低い血漿グルコースレベルを維持するのに不充分になる内因性インスリン産生の結果である。
【0066】
妊娠性糖尿病は、妊娠中に特定される任意の程度の耐糖能異常を指す。
【0067】
前糖尿病は、空腹時血糖値の異常及び耐糖能異常を含み、血糖値が上昇しているが、糖尿病の臨床診断について確立されているレベルよりも低い場合に起こる状態を指す。
【0068】
2型糖尿病及び前糖尿病に罹っている人の大部分は、腹部肥満(腹部内臓器官のまわりの過剰な脂肪組織)、粥腫性脂質異常血症(動脈壁中のプラークの蓄積を助長する、高トリグリセリド、低HDLコレステロール及び/又は高LDLコレステロールを含む血中脂質障害)、血圧の上昇(高血圧)血栓形成促進状態(例えば、血中の高フィブリノゲン又はプラスミノーゲン活性化物質阻害剤1)、及び炎症促進性状態(例えば血中の高C反応性タンパク質)を含むさらなる代謝性リスク因子の高い出現率(prevalence)のために罹患率及び死亡率のリスクが高い。
【0069】
反対に、肥満は、前糖尿病、2型糖尿病並びに例えばある種の癌、閉塞性睡眠時無呼吸及び胆嚢疾患を発症するリスクの増加をもたらす。
脂質異常症は心臓血管疾患のリスクの増加と関連する。
【0070】
高密度リポタンパク質(HDL)は、血漿HDL濃度とアテローム性動脈硬化症のリスクとの間に逆相関関係が存在するので臨床上重要である。動脈硬化プラークに貯蔵されるコレステロールの大部分はLDLに由来し、したがって高濃度低密度リポタンパク質(LDL)はアテローム性動脈硬化症と密接に関連している。HDL/LDL比は特にアテローム性動脈硬化症及び冠状動脈アテローム性動脈硬化症の臨床リスクインジケータである。
【0071】
メタボリックシンドロームは、1人の人間における一群の代謝性リスク因子によって特徴づけられる。それらには、腹部肥満(腹部内臓器官の周りの過剰な脂肪組織)、粥腫性脂質異常血症(動脈壁におけるプラークの蓄積を助長する、高トリグリセリド、低HDLコレステロール及び/又は高LDLコレステロールを含む血中脂質障害)、血圧の上昇(高血圧)、インスリン耐性及び耐糖能異常、血栓形成促進状態(例えば、血中の高フィブリノゲン又はプラスミノーゲン活性化物質阻害剤1)、及び炎症促進性状態(例えば、血中のC反応性タンパク質の増加)が含まれる。
【0072】
メタボリックシンドロームの個体は、冠状動脈性心疾患及び動脈硬化症の他の兆候に関連する他の疾患(例えば、卒中及び末梢血管疾患)のリスクが高まっている。この症候群の有力な潜在的リスク因子は腹部肥満であるようである。
【0073】
いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、本発明の化合物は、本明細書中では二重GluGLP−1アゴニストと略記する、ヒトグルカゴン受容体及びヒトGLP1受容体の両方に対して二重アゴニストとして作用すると考えられる。二重アゴニストは、グルカゴンの、例えば脂肪代謝に対する効果を、GLP−1の、例えば血糖値及び食物摂取に対する効果と組み合わせることができる。したがって、それらは過剰な脂肪組織の除去を促進することができ、持続可能な体重減少を誘発することができ、そして血糖コントロールを改善することができる。二重GluGLP−1アゴニストは、高コレステロール、高LDL−コレステロール又は低HDL/LDLコレステロール比などの心血管リスク因子を低下させるように作用することもできる。
【0074】
本発明の化合物は、したがって、それを必要とする対象において、体重増加の防止、体重減少の促進、過剰な体重の減少又は、病的肥満を含む肥満の治療(例えば、食欲、摂食、食物摂取量、カロリー摂取量、及び/又はエネルギー消費量の抑制による)、並びに関連する疾患及び健康状態、例えば限定されるものでないが、肥満に関連する炎症、肥満に関連する胆嚢疾患及び肥満誘発性睡眠時無呼吸のための医薬品として使用することができる。
【0075】
化合物は、過食障害及びプラダ・ウィリ症候群などの、食欲又は過剰摂食の不充分な抑制を特徴とする疾患状態に冒された対象における体重減少の促進又は体重増加の防止に有用であり得る。
【0076】
化合物は、糖尿病、脂質異常症、高血圧及び睡眠時無呼吸などの関連する疾患状態又はリスク因子により影響を受ける対象における体重減少の促進又は体重増加の防止のために有用であり得る。
【0077】
本発明の化合物はさらに、それを必要とする対象において、血糖コントロールの改善、並びにメタボリックシンドローム、インスリン耐性、耐糖能異常、前糖尿病、空腹時血糖の増加、2型糖尿病、高血圧、アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)、動脈硬化症、冠状動脈性心疾患、末梢動脈疾患及び卒中を含む、グルコース調節異常に起因するか又はグルコース調節異常に関連する疾患状態の予防又は治療のためにも有用であり得る。これらの疾患状態のいくつかは肥満に関連し得る。しかしながら、これらの疾患状態に対する本発明の化合物の効果は、体重に対する効果によって全体的にもしくは部分的に媒介され得るか、又はそれらと無関係であり得る。
【0078】
二重GluGLP−1アゴニストの相乗効果はまた、高コレステロール及びLDLなどの心血管リスク因子の減少をもたらす可能性があり、体重に対するそれらの効果と完全に無関係であり得る。
【0079】
したがって、本発明は、それを必要とする個体において、前記の疾患状態の治療での本発明の化合物の使用を提供する。
【0080】
本発明はさらに、薬物治療法で使用するため、特に上述の疾患状態の治療法で使用するための、本発明の化合物も提供する。
【0081】
本発明はまた、上記の疾患状態の治療方法で使用するための医薬の調製における本発明の化合物の使用も提供する。
【0082】
好ましい態様において、記載した化合物を糖尿病、特に2型糖尿病の治療で使用することができる。
【0083】
特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする個体において糖尿病、特に2型糖尿病を治療するための化合物の使用を含む。
【0084】
あまり好ましくない態様において、記載した化合物は体重増加の防止又は体重減少の促進で使用することができる。
【0085】
特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする個体において、体重増加の防止又は体重減少の促進のための化合物の使用を含む。
【0086】
特定の実施形態において、本発明は、過剰な体重に起因するか又は過剰な体重を特徴とする疾患状態の治療、例えばそれを必要とする個体において肥満、病的肥満、手術前の病的肥満、肥満に関連する炎症、肥満に関連する胆嚢疾患、肥満誘発性睡眠時無呼吸、前糖尿病、糖尿病、特に2型糖尿病、高血圧、粥腫性脂質異常血症(atherogenic dyslipidimia)、アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)、動脈硬化症、冠状動脈性心疾患、末梢動脈疾患、卒中又は微小血管疾患の治療及び/又は予防方法における化合物の使用を含む。
【0087】
別の態様において、記載した化合物は、循環LDLレベルの低下及び/又はHDL/LDL比の増加の方法で使用することができる。
【0088】
特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする個体において、循環LDLレベルの低下、及び/又はHDL/LDL比の増加の方法での化合物の使用を含む。
【0089】
別の態様において、記載した化合物は循環トリグリセリドレベルを低下させる方法で使用することができる。
医薬組成物
本発明の化合物は、貯蔵又は投与用に調製した医薬組成物として処方することができる。そのような組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体中に治療上有効な量の適切な形態の本発明の化合物を含む。
【0090】
本発明の化合物の治療上有効な量は、投与経路、治療する哺乳動物の種類、及び検討中の特定の哺乳動物の身体特性に依存する。因子及びこの量の決定に対する因子の関係は医療分野の熟練者には周知である。この量及び投与方法は、最適な有効性を達成するために調整することができ、体重、食事、併用投薬及び医療分野の熟練者には周知の他の因子に依存し得る。ヒトに使用するために最も適切な用量サイズ及び投薬レジメンは、本発明によって得られる結果により導くことができ、適切に設計された臨床試験で確認することができる。本発明の化合物はヒトの治療に特に有用であり得る。
【0091】
有効な投薬量及び治療プロトコルは、通常の手段によって、実験動物において低用量で始めて、その後、効果をモニタリングしながら投薬量を増加させ、そして投薬レジメンも同様に統計的に変えて、決定することができる。所定の対象にとって最適の投薬量を決定する場合、臨床医によって多くの因子が考慮され得る。そのような検討事項は当業者には知られている。
【0092】
「薬学的に許容される担体」という語は、標準的医薬担体のいずれかを含む。治療的使用のための薬学的に許容される担体は調剤分野で周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。例えば、弱酸性又は生理的pHの滅菌生理食塩水及びリン酸緩衝食塩水を使用することができる。pH緩衝剤は、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、トリス/ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、重炭酸アンモニウム、ジエタノールアミン、好ましい緩衝液であるヒスチジン、アルギニン、リジン、もしくは酢酸塩又はそれらの混合物であり得る。この用語は、ヒトを含む動物における使用について米国薬局方に記載されている任意の薬剤をさらに包含する。
【0093】
「薬学的に許容される塩」という語は、本発明の化合物のいずれか1つの塩を指す。塩は、酸付加塩及び塩基性塩などの薬学的に許容される塩を含む。酸付加塩の例としては、塩酸塩、クエン酸塩及び酢酸塩が挙げられる。塩基性塩の例としては、カチオンが、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、及びアンモニウムイオン+N(R33(R4)から選択される塩が含まれ、R3及びR4は独立して、任意に置換されていてもよいC1〜6アルキル、任意に置換されていてもよいC2〜6アルケニル、任意に置換されていてもよいアリール、又は任意に置換されていてもよいヘテロアリールを指定する。薬学的に許容される塩の他の例は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,17th edition. Ed. Alfonso R. Gennaro (Ed.), Mark Publishing Company, Easton, PA, U.S.A., 1985、及び最新版、並びにEncyclopaedia of Pharmaceutical Technologyで記載されている。
【0094】
「治療」は有益又は所望の結果を得るためのアプローチである。本発明の目的に関して、有益又は所望の臨床結果としては、限定されるものではないが、検出可能であるか検出不能であるかによらず、症状の軽減、疾患の程度の縮小、疾患状体の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患の進行の遅延又は減速、病状の改善又は緩和、及び鎮静(部分的又は全体的を問わない)が挙げられる。「治療」はまた、治療を受けていない場合に予想される生存と比べて生存を延長摺ることも意味し得る。「治療」は、障害の発症の予防又は病理の変更を意図して行われる介入である。したがって、「治療」とは、ある実施形態における治療的処置及び予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)手段の両方を指す。治療を必要とする者には、障害にすでに罹っている者並びに障害が予防される者が含まれる。治療とは、治療をしない場合と比べると、病理又は症状(例えば、体重増加、高血糖症)の増大の抑制又は減少を意味し、必ずしも関連する疾患状態の完全な停止を意味するものではない。
【0095】
医薬組成物は単位投与形態であり得る。そのような形態において、組成物は適切な量の活性成分を含む単位用量に分割される。単位投与形態はパッケージされた製剤で有り得、パッケージは別々の量の製剤、例えば、パックされた錠剤、カプセル、及びバイアル又はアンプル中の粉末を含む。単位投与形態はまた、カプセル、カシェ剤、もしくは錠剤自体であり得るか、又は適切な数のこれらのパッケージされた形態のいずれかであり得る。単回投与の注射可能な形態で、例えばペンの形態で提供することができる。ある実施形態では、パッケージされた形態は、使用上の指示を含むラベル又はインサートを含む。組成物は任意の好適な経路及び投与手段のために処方することができる。薬学的に許容される担体又は希釈剤としては、経口、直腸、鼻、局所(頬及び舌下を含む)、膣又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、及び経皮を含む)投与に適した処方で用いられるものが挙げられる。処方は、単位投与形態で提供するのが好都合で有り得、そして薬学の分野で周知の任意の方法により調製することができる。
【0096】
皮下又は経皮投与様式は本明細書中で記載する化合物に特に好適であり得る。
【0097】
本発明の組成物はさらに、化合物の安定性の増強、バイオアベイラビリティの増大、溶解度の増大、副作用の減少、当業者に周知の時間療法の達成、及び患者のコンプライアンスの増大又はそれらの任意の組み合わせのために、例えば共有、疎水性及び静電相互作用によって、薬物担体、薬物送達系及び高度の薬物送達系中に配合することができるか、又は結合させることができる。担体、薬物送達系及び高度の薬物送達系の例としては、ポリマー、例えばセルロース及び誘導体、多糖類、例えばデキストラン及び誘導体、デンプン及び誘導体、ポリ(ビニルアルコール)、アクリレート及びメタクリレートポリマー、ポリ乳酸及びポリグリコール酸並びにそのブロックコポリマー、ポリエチレングリコール、担体タンパク質、例えばアルブミン、ゲル、例えば、熱ゲル化(thermogelling)系、例えば当業者に周知のブロックコポリマー系、ミセル、リポソーム、ミクロスフィア、ナノ粒子、液晶及びその分散液、脂質−水系における相挙動の当業者に周知のL2相及びその分散液、ポリマーミセル、多重乳剤、自己乳化、自己ミクロ乳化、シクロデキストリン及びその誘導体、並びにデンドリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
併用療法
【0098】
本発明の化合物又は組成物は、肥満、高血圧、脂質異常症又は糖尿病の治療薬との併用療法の一部として投与することができる。
【0099】
そのような場合、2つの活性剤を一緒に又は別々に、同じ製剤の一部として、又は別の処方として投与してもよい。
【0100】
したがって、本発明の化合物又は組成物はさらに、限定されるものではないが、GLP−1(グルカゴン様ペプチド1)受容体アゴニスト(例えば、後述するとおり)、ペプチドYY又はその類似体、神経ペプチドY(NPY)又はその類似体、カンナビノイド受容体1アンタゴニスト、リパーゼ阻害剤、ヒトプロ膵島ペプチド(HIP)、メラノコルチン受容体4アゴニスト、メラニン凝集ホルモン受容体1アンタゴニスト、フェンテルミン(単独又はトピラメートとの組み合わせ)、ノルエピネフリン/ドーパミン再取り込み阻害剤とオピオイド受容体アンタゴニストとの組み合わせ(例えば、ブプロピオンとナルトレキソンとの組み合わせ)、Orlistat(商標)、Sibutramine(商標)、CCK、アミリン、プラムリンチド及びレプチン、並びにその類似体又はセロトニンアゴニスト(例えば、ロルカセリン)を含む抗肥満薬と組み合わせて使用することができる。
【0101】
本発明の化合物又は組成物は、限定されるものではないが、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、利尿薬、ベータ遮断薬、又はカルシウムチャンネル遮断薬を含む抗高血圧薬と組み合わせて使用することができる。
【0102】
本発明の化合物又は組成物は、限定されるものではないが、スタチン、フィブラート、ナイアシン、PSCK9(前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害剤及び/又はコレステロール吸収阻害剤を含む脂質異常症薬と組み合わせて用いることができる。
【0103】
さらに、本発明の化合物又は組成物は、限定されるものではないが、ビグアニド(例えば、メトホルミン)、スルホニル尿素、メグリチニド又はグリニド(例えば、ナテグリニド)、DPP−IV阻害剤、SGLT2阻害剤、グリタゾン、GLP−1受容体アゴニスト(本発明の化合物とは異なる)、SGLT2阻害剤(すなわち、ナトリウム−グルコース輸送の阻害剤、例えばエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン又はイプラグリフロジン)などのグリフロジン、GPR40アゴニスト(FFAR1/FFA1アゴニスト、例えばファシグリファム)、又はインスリンもしくはインスリン類似体を含む抗糖尿病薬との組み合わせで用いることができる。
GLP−1受容体アゴニストの例としては、GLP−1及びGLP−1類似体、エキセンジン−4及びエキセンジン−4類似体、リラグルチド(Saxenda(商標)、Victoza(商標))、エキセナチド(Byetta(商標)及びBydureon(商標))、Byetta LAR(商標)、リキシセナチド(Lyxumia(商標))、Dulaglutide及びAlbiglutideが挙げられる。
【0104】
インスリン類似体の例としては、限定されるものではないが、Lantus(商標)、Novorapid(商標)、Humalog(商標)、Novomix(商標)、Actraphane(商標)HM、Levemir(商標)Degludec(商標)及びApidra(商標)が挙げられる。
【実施例】
【0105】
実施例1:グルカゴン類似体の一般的合成
固相ペプチド合成(SPPS)を、ポリスチレン樹脂(TentaGel S Ram)上、NMP中で標準的Fmoc方策を使用してマイクロ波支援合成器で実施した。HATUをカップリング試薬として、塩基としてのDIPEAと共に使用した。ピペリジン(NMP中20%)を脱保護のために使用した。シュードプロリン類:Fmoc−Phe−Thr(psiMe,Mepro)−OH(NovaBiochemから購入)を必要に応じて使用した。
使用した略語は以下のとおりである:
Boc:tert−ブチルオキシカルボニル
ivDde:1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)3−メチル−ブチル
Dde:1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)−エチル
DCM:ジクロロメタン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DIPEA:ジイソプロピルエチルアミン
EDT:1,2−エタンジチオール
EtOH:エタノール
Et2O:ジエチルエーテル
HATU:N−[(ジメチルアミノ)−1H−1,2,3−トリアゾ−ル[4,5−b]ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウムヘキサフルオロホスフェートN−オキシド
MeCN:アセトニトリル
NMP:N−メチルピロリドン
TFA:トリフルオロ酢酸
TIS:トリイソプロピルシラン
切断:
【0106】
粗ペプチドを95/2.5/2.5%(v/v)TFA/TIS/水で室温(r.t.)にて2時間処理することによって樹脂から切断した。TFAのほとんどを減圧で除去し、粗ペプチドを沈殿させ、ジエチルエーテルで洗浄し、そして周囲温度で一定重量になるまで乾燥させた。
化合物1:
H−H−Aib−QGTFTSDYSKYLDERAAKDFIEWLE−K([17−カルボキシ−ヘプタデカノイル]−イソGlu−GSGSGG)−A−NH2
【0107】
セマグルチド及びリラグルチドを参考化合物として使用した。
【0108】
実施例2:グルカゴン受容体及びGLP−1−受容体有効性アッセイ
ヒトグルカゴン受容体(グルカゴン−R)(プライマリーアクセッション番号P47871)又はヒトグルカゴン様ペプチド1受容体(GLP−1R)(プライマリーアクセッション番号P43220)のいずれかをコード化するcDNAを合成し、Zeocin耐性マーカーを含有する哺乳動物発現ベクターにクローン化した。
【0109】
グルカゴン−R又はGLP−1−Rをコード化する哺乳動物発現ベクターをAttractene法によってチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクトした。選択圧に対して耐性の細胞の限定希釈によるZeocin選択(250μg/mL)によって、安定して発現するクローンを取得した。グルカゴン−R及びGLP−1−R細胞クローン発現を取り出し、増殖させ、後述するようにグルカゴン−R及びGLP−1−R有効性アッセイで試験した。1つのグルカゴン−R発現クローン及び1つのGLP−1−R発現クリーンを化合物プロファイリングのために選択した。
【0110】
ヒトグルカゴン−R、又はヒトGLP−1−Rを発現するCHO細胞をアッセイの24時間前に384ウェルマイクロタイタープレート中で50μl成長培地中に1ウェルあたり5000で播種した。分析当日に、成長培地を除去し、細胞を100μlのアッセイ緩衝液(Krebs−Ringer緩衝液;KRBH)で1回洗浄した。緩衝液を除去し、細胞を、15分間室温にて10μlのKRBH(KRBH+10mM HEPES、5mM NaHCO3、0.1%(V/V)BSA)中で、含まれる試験ペプチドの濃度を増加させた脱イオン水中0.1mMのIBMXとともにインキュベートした。溶解緩衝液(0.1%w/vのBSA、5mMのHEPES、0.3%v/vのTween−20)を添加することによって反応を停止させた。室温にて10分間細胞を溶解させた後、AlphaScreen(商標)cAMP Functional Assay Kit中に含まれている10μlのアクセプター/ドナービーズ混合物を添加した。室温、暗所で2時間インキュベーションの後、Perkin−Elmer製のAlphaScreen(商標)cAMP Functional Assay Kitを製造業者の指示に従って適用してcAMP含有量を測定した。EC50及び参考化合物(グルカゴン及びGLP−1)と比較した相対的有効性を、コンピュータ支援曲線適合を適用して算出した。GLP−1/グルカゴン比を先に定義のとおりに算出する。表1を参照。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例3:内因性GLP−1受容体に対するアゴニスト活性
内因性GLP−1受容体に対する試験化合物のアゴニスト活性は、ネズミインスリノーマ細胞株を用いて測定した。細胞内cAMPを受容体活性化のインジケータとして使用した。
【0113】
細胞を384ウェルプレート中で10,000細胞/ウェルの密度にて24時間培養した。培地を除去し、試験化合物もしくはGLP−1(0.1pMから100nMまで増加する濃度で)を含む10μlのKRBH緩衝液(NaCl 130mM、KCl 3.6mM、NaH2PO4 0.5mM、MgSO4 0.5mM、CaCl2 1.5mM)又は溶媒対照(0.1%(v/v)DMSO)をウェルに15分間26℃の温度にて添加した。
【0114】
細胞cAMP含有量を、AlphaScreen cAMP Functional Assay Kit(Perkin Elmer)を使用して測定する。測定は、Envision(PerkinElmer)を使用して製造業者の推奨に従って実施した。
【0115】
結果を、0.1%(v/v)DMSOを含有するKRBH緩衝液中で作成したcAMP標準曲線を用いてcAMP濃度に変換した。結果として得られたcAMP曲線を絶対cAMP濃度(nM)としてlog(試験化合物濃度)に対してプロットし、曲線適合プログラムXLfitを用いて解析した。
【0116】
EC50を試験化合物の濃度として計算し、試験化合物の効力を反映するcAMPレベルの最大上昇の半分を得た。表2を参照。
【0117】
【表2】
【0118】
実施例4:内因性グルカゴン受容体に対するアゴニスト活性
内因性グルカゴン受容体に対する試験化合物のアゴニスト活性を、初代ラット肝細胞におけるグリコーゲン合成速度に対する試験化合物の効果を測定することによって判定した。グルカゴン受容体が活性化されると、グリコーゲン合成速度の抑制が予想される。グリコーゲン合成速度は、所定の時間で細胞グリコーゲン貯蔵に取り込まれた、放射活性物質で標識されたグルコースの量をカウントすることによって測定した。
【0119】
初代ラット肝細胞を24ウェルプレート中40,000細胞/ウェルの密度で24時間37℃及び5%CO2にて培養した。
【0120】
培地を捨て、細胞をPBSで洗浄した。0.1%BSA及びグルコースを22.5mMの濃度で含むKRBH系緩衝液180μlを次いでウェルに添加し、続いて試験化合物及び40pCi/mlのD−[U14C]グルコース(各々20μL)を添加した。インキュベーションを3時間続けた。
【0121】
インキュベーション期間の最後で、インキュベーション緩衝液を吸引し、細胞を一度氷冷PBSで洗浄した後、100μlの1mol/lNaOHとともに室温で30分間インキュベーションすることによって溶解させた。
【0122】
細胞溶解物を96ウェルフィルタープレートに移し、フィルタープレートを120分間4℃でインキュベートし、続いてフィルタープレートを氷冷エタノール(70%)で4回洗浄することによって、グリコーゲンを析出させた。結果として得られた沈殿を濾過して乾固させ、製造業者の推奨に従ってTopcountシンチレーションカウンターを使用することによって、取り込まれた1C−グルコースの量を測定した。
【0123】
ビヒクル対照(KRBH緩衝液中0.1%(v/v)DMSO)を含むウェルを非阻害グリコーゲン合成(100%CTL)の基準として含めた。D−[U1 C]グルコースを添加していないウェルを非特異的バックグラウンドシグナル(すべての値から差し引く)の対照として含めた。
【0124】
内因性グルカゴンペプチドを正の対照として使用した。
【0125】
すべての治療は少なくとも2連で実施した。
【0126】
内因性グルカゴン受容体に対する各試験化合物の効力並びにアゴニスト活性の両方を記載するために計算したパラメータはpEC50及び%CTLである。
【0127】
%CTLは、バックグラウンドCPM/ウェルを差し引いた後、ビヒクル対照のCPM/ウェルと比較した、試験化合物の存在下でのCPM/ウェルのパーセンテージを計算することによって決定する:
【0128】
[CPM/ウェル(基底)−CPM/ウェル(サンプル)]×100/[CPM/ウェル(基底)−CPM/ウェル(対照)]
【0129】
グルカゴン受容体のアクチベータはグリコーゲン合成速度の抑制をもたらし、0%CTL(完全阻害)から100%CTL(観察可能な阻害なし)の間の%CTL値をもたらすであろう。
【0130】
結果として得られた活性曲線を絶対数(単位:cpm/サンプル)としてlog(試験化合物濃度)に対してプロットし、曲線適合プログラムXLfitを使用して解析した。
【0131】
EC50を試験化合物の効力の尺度として算出し、表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
GLP−1R活性化に関連して引用されるEC50及びpEC50という語は、グリコーゲン合成に関連して同等にIC50及びpIC50とみなすことができる。
実施例5:薬物動態パラメータの推定
【0134】
試験化合物の薬物動態パラメータをHan/Wistarラットに静脈内投与した後に測定した。アシル化GLP−1類似体セマグルチドも比較目的で試験した。
【0135】
オスWistarラットをCharles River(ドイツ)から入手し、試験施設到着時に約180〜210gの体重であった。ラットを、12時間の暗期及び12時間の明期の光サイクルでヨーロッパ標準的ラットケージIV型中に入れた。試験の間、ラットを標準的ラットケージIII型に入れた。全実験期間中、食餌Altromin1324(Altromin、ドイツ)及び水の両方を自由にとらせた。適切な馴化を確実にするために、動物を少なくとも4日間試験施設に収容した。
【0136】
化合物をまず0.1%アンモニア水溶液中に溶解させて、2mg/mlの公称濃度にし、次いで25mMリン酸塩緩衝液、pH7.4を含有する滅菌PBS中で所望の投与強度(10μΜ)に希釈した。20nmol/kgに相当する静脈内注射を外側尾静脈から投与した。
【0137】
血液サンプル(200μl)を、K3EDTA管中への投与後0.08、0.25、0.5、1、2、4、8、24、32及び48の時点で眼窩周囲網状組織(periorbital plexus)から集め、サンプリングの20分以内に5分間4℃で遠心分離した。血漿サンプル(>100μl)を96ウェルPCRプレートに移し、直ちに凍結し、LC−MS/MSを用いて各GLP−1−グルカゴン化合物の血漿濃度について分析するまで−20℃で保持した。個々の血漿濃度−時間プロファイルを、ToxKin(商標)version 3.2(Unilog IT Services)を用いて非コンパートメントアプローチによって解析し、結果として得られた薬物動態パラメータを判定した。表4を参照。
【0138】
【表4】
【0139】
実施例6:経口ブドウ糖負荷試験
試験化合物の血糖コントロールに対する効果を7〜8週令オスC57BL6/Jマウス(ドイツのCharles River Laboratoriesから入手)での経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)によって判定した。動物を群に分けて、個々に換気したケージ(Tecniplast green line)中に12時間の光サイクルで収容した。動物には標準的げっ歯類用食餌(Provimi Kliba 3438)及び水を過剰に自由にとらせた。動物をOGTTに先立って少なくとも1週間試験施設に収容した。実験動物の使用に関する実験プロトコルはすべて連邦倫理委員会によって再検討され、政府当局によって承認された。
【0140】
化合物をまず0.1%アンモニア水溶液中に溶解させて2mg/mlの名目濃度にし、次いで25mMリン酸塩緩衝液、pH7.4を含有する滅菌PBS中で所望の投与強度に希釈した。化合物を朝に30nmol/kgの用量及び5ml/kgの体積で皮下注射によって投与した。対照動物にはビヒクル注射のみを受けさせた。GLP−1類似体リラグルチドを比較のために試験した。群のサイズは1群あたり5匹の動物であった。
【0141】
化合物投与後24時間又は48時間後にOGTTを実施した。OGTT前10時間動物を絶食させたが、水は自由に飲ませた。一晩絶食させた後、ベースライン血液サンプル(0分)を尾から採血することによって得、そして血糖を血糖値測定器で測定した。動物を次いで、強制飼養(5ml/kg)により溶液として与えた経口グルコース負荷(2g/kg)で攻撃した。グルコース測定用のさらなる血液サンプルを、グルコース負荷後の連続時点(15、30、60、90、及び120分)で尾からの採血によって得た。
【0142】
0分〜120分の間で血糖−時間曲線(AUC)下の総面積を計算することによって、グルコース変動(excursion)を定量化した。AUCの計算は、ベースライン補正なしで台形法則によって行った。阻害の平均%(%CTL)として表す。100%CTLの値は効果が観察されないことを意味し、100%CTLより統計的に有意に低い値は耐糖能の改善を示す。表5を参照のこと。
【0143】
【表5】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]