特許第6989389号(P6989389)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989389ワクチン配合物に適用するためのリン酸アルミニウムゲルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989389
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】ワクチン配合物に適用するためのリン酸アルミニウムゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/36 20060101AFI20211220BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C01B25/36 Z
   A61K39/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-564347(P2017-564347)
(86)(22)【出願日】2016年6月13日
(65)【公表番号】特表2018-518447(P2018-518447A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】IN2016000151
(87)【国際公開番号】WO2016199162
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2019年5月15日
(31)【優先権主張番号】2963/CHE/2015
(32)【優先日】2015年6月12日
(33)【優先権主張国】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517176375
【氏名又は名称】バイオロジカル イー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィ ガナパティ
(72)【発明者】
【氏名】ナギレッディ ガーデ
(72)【発明者】
【氏名】マニシュ マノハー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクラム マドゥサダン パラドカー
(72)【発明者】
【氏名】マヒマー ダトラ
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−533123(JP,A)
【文献】 米国特許第03271299(US,A)
【文献】 国際公開第2013/078102(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102188701(CN,A)
【文献】 国際公開第2009/136233(WO,A1)
【文献】 英国特許第00777018(GB,B)
【文献】 特公昭50−020560(JP,B1)
【文献】 BURRELL, L. S. et al.,Aluminium phosphate adjuvants prepared by precipitation at constant pH. Part II: physicochemical properties,Vaccine,NL,ELSEVIER,2000年09月15日,Vo.19, No.2-3,p.282-287,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10930683
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00−25/46
A61K 39/00−39/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸アルミニウムゲルを製造するための改良法であって:
i)添加時間の最後の5〜10%を除き、pHが3.0〜4.0に維持されるように、塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を撹拌下で水に添加して沈殿を得る;
ii)リン酸アルミニウム沈殿を120〜150℃の範囲の温度に30〜90分の期間加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌する;そして
iii)3.0μm〜9.0μmの範囲のd(50)を有するサイズ分布および7μm未満の平均粒子サイズをもつ粒子を有する、リン酸アルミニウムゲルを得る
ことを含み、リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて上清を除去する工程を含まず、pH調整のために、他のいずれかの酸またはアルカリを添加しない、方法。
【請求項2】
使用する塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液の濃度が400〜500ミリモル濃度(mM)の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用する塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液の濃度が480〜490mMの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液の添加を、400rpm以上での撹拌下に実施する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液の添加を、500〜600rpmでの撹拌下に実施する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(i)における添加を室温または20℃〜25℃の温度で実施する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
添加を10〜60分の期間実施する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
添加を35〜55分の期間実施する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
d(90)が<15μmの範囲である粒度分布を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により製造されたリン酸アルミニウムゲル。
【請求項10】
d(90)が5〜10μmの範囲である粒度分布を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により製造されたリン酸アルミニウムゲル。
【請求項11】
方法が閉鎖系で実施される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
方法が3.2〜3.5のpH範囲で、他のいずれかの酸またはアルカリを添加せずに実施される、請求項1〜8及び11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
方法が沈降の工程を含まず、それによって上清の形成が無い、請求項1〜8、11及び12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
リン酸アルミニウムゲルを製造するための改良法であって:
i)添加時間の最後の5〜10%を除き、形成される沈殿のpHが3.0〜4.0に維持されるように、塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を注射用水に撹拌下で60分以内で添加する;
ii)リン酸アルミニウム沈殿を120〜150℃の範囲の温度に30〜90分の期間加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌する;そして
iii)3.0μm〜9.0μmの範囲のd(50)を有するサイズ分布および7μm未満の平均粒子サイズをもつ粒子を有する、リン酸アルミニウムゲルを得る
工程を含み、リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて上清を除去する工程を含まず、pH調整のために、他のいずれかの酸またはアルカリを添加しない、方法。
【請求項15】
添加を35〜55分の期間実施する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
形成される沈殿のpHを3.2〜3.5に維持する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜8及び11〜16のいずれか1項の記載の方法により製造したリン酸アルミニウムゲルに吸着した1以上の抗原を含むワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸アルミニウム(AlPhos)ゲルを製造するための改良法に関する。本発明はまた、特に免疫原組成物および/またはワクチン組成物における、抗原(単数または複数)を吸着するためのリン酸アルミニウムゲルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチン組成物は1種類以上のアジュバントを含むことができる。“アジュバント”は、抗原と共に取り込まれるかあるいは同時に注射され、続いて起きる免疫応答を非特異的に増強する物質である。生じる免疫応答は、投与された集団において十分なレベルの抗体が維持されることによってより長く持続する。実用上および経済上の理由で、この予防免疫化は、最少の投与回数で、効果的な免疫化と適合する最少量の抗原を用いて得られる必要がある。これらのアジュバントの性質は、ヒトのワクチンに最も一般的に用いられるミョウバン、たとえばリン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムのように無機であってもよく、スクアレンのように有機アジュバントであってもよい。
【0003】
動物用ワクチンは一般に油性アジュバントを利用する。H5N1ウイルスにより引き起こされるインフルエンザ(一般にavian influenzaまたは“bird flu”(トリインフルエンザ)と呼ばれる)の予防に用いられるワクチンは、水中油型エマルジョンであるアジュバントAS03を含有する。AS03アジュバントは、油性化合物D,L−アルファ−トコフェロール(ビタミンE)、スクアレン、乳化剤ポリソルベート−80(成分を互いに混和してそれらの分離を防ぐのを補助する)、少量の塩類を含有する水で構成される。
【0004】
アルミニウム塩は1930年代以来、広く用いられている。安全かつ有効に用いられてきた長い歴史のためヒトのワクチンに用いるものとして米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)が承認した唯一のアジュバントがアルミニウム含有アジュバントである。Glennyらはアジュバントとしてのアルミニウム化合物の効果を記載している(Glenny AT, Pope CG Waddington H, Wallace U. Immunological Notes XVII to XXIV. J. Pathol. 29, 31-40, 1926)。
【0005】
それにもかかわらず、アルミニウム含有アジュバントは再現性のある物理化学的特性を備えたものを製造するのが困難であると記載されている。Scholtzらは1984年に、等モル量の塩化アルミニウムおよびリン酸三ナトリウムを用いて純粋なリン酸アルミニウムを製造した。
【0006】
リン酸アルミニウムゲルは‘アジュバント’として液体五価ワクチン(liquid pentavalent vaccine)(LPV)中に用いられ、ゲル粒子に吸着されたB型肝炎表面抗原、ジフテリアおよび破傷風トキソイドに対して、またおそらく全細胞百日咳抗原に対しても、免疫原応答をブーストするのを補助する。アルミニウム塩はDTaPワクチン、肺炎球菌コンジュゲートワクチンおよびB型肝炎ワクチンに用いられる。代替アジュバントの探索が行なわれてはいるが、アルミニウム化合物(リン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウム)はそれらの安全性、低コスト、および多様な抗原とのアジュバント性という良好な実績のため、ヒトのワクチンのためのアジュバントとして長年使い続けられるであろう。
【0007】
アルミニウム化合物を含むワクチンおよびトキソイドを調製するために一般に2つの方法が用いられている−抗原の存在下でのアルミニウム化合物のイン−サイチュ製造(本来は、ミョウバンと共に沈殿させることによりトキソイドを精製するために開発されたもの)、および予め形成したアルミニウムゲル上への抗原の吸着。アルミニウムアジュバント上への抗原の吸着は、アルミニウムアジュバントのイン−サイチュ沈殿に際してまたは予め形成したアルミニウムゲル上への吸着のいずれも、抗原の物理的および化学的特性、アルミニウムアジュバントのタイプ、ならびに吸着条件に依存する。これらの条件は見過ごされることがしばしばあり、配合不良のアルミニウムアジュバント製剤は最適なアジュバント性を示さない。
【0008】
SU481539には、塩化アルミニウムを85%リン酸と反応させることによって多孔質ヒドロゲルであるアルミノ−ホスフェート(alumino-phosphate)を製造する方法が開示されている。得られた溶液を−8〜−10℃に冷却し、激しく撹拌しながら同じ温度に冷却したエチレンオキシドを徐々に導入した。得られたゲルを50〜350℃の温度および1〜170気圧の水蒸気圧で2時間加熱し、蒸留水で洗浄し、200℃で空気中において乾燥させ、650〜700℃で4〜6時間、か焼した。
【0009】
SU550340には、酢酸アルミニウムとリン酸の反応、続いて濾過、洗浄、30〜40℃で12時間、次いで110〜120℃で4時間の乾燥、そして600℃で4時間以内の生成物活性化により、リン酸アルミニウムゲルを製造する方法が開示されている。提唱されたこの方法も、長い乾燥時間および高温での最終生成物の活性化を必要とするので、複雑であり、手間がかかる。
【0010】
SU559895には、硝酸アルミニウムおよびリン酸のモル比1:0.95〜1.05の溶液を反応させ、続いてアンモニアを用いて15〜20℃の範囲の温度でpH=6.0に中和することにより、非晶質リン酸アルミニウム水和物を製造する方法が開示されている。得られた生成物を濾過し、水で洗浄し、60〜80℃の温度で乾燥させる。
【0011】
DE 2152228には、リン酸アルミニウムゲルを製造するための方法が開示され、それは水性媒体中におけるアルミン酸ナトリウム、リン酸および硫酸アルミニウムの混合物を作成し、生じる懸濁液のpH値が5〜6になるように混合物を反応させ、沈殿したリン酸アルミニウムをそれの沈殿の途中または後に70℃より高い温度に加熱することを含む。
【0012】
RU2149138Cには、リン酸アルミニウムゲルの製造方法が開示され、その際、水溶性アルミニウム塩類およびリン酸ナトリウムの初期溶液を閾値バンド幅0.22ミクロンのマイクロフィルトレーションユニットで濾過し、可溶性アルミニウム塩をリン酸ナトリウムと反応させた。撹拌機の回転速度3.3〜8.3 sec−1で15〜45分間の激しい撹拌下に目的生成物を沈殿させた。18〜60℃の温度で5〜7日間、リン酸アルミニウムゲルを形成させ、続いてそれを洗浄する。
【0013】
WO 2009/136233A1 には、1000nm未満、好ましくは10〜600nmの粒子直径をもつリン酸アルミニウムのナノ粒子を製造するための、下記を含む方法が開示されている:a.リン酸アルミニウムゲルを調製する;b.リン酸アルミニウムゲルのpHを調整する;c.リン酸アルミニウムゲルをサイズ低下処理する;d.目的サイズのリン酸アルミニウムナノ粒子を取得する;そして、e.場合によりナノ粒子を適切な緩衝液に懸濁する;その際、リン酸アルミニウムゲルは(i)イン−サイチュで、(ii)リン酸アルミニウム粉末を適切な溶媒に懸濁することにより、または(iii)等モルの塩化アルミニウムをリン酸三ナトリウムで処理してリン酸アルミニウムゲルを形成させ、続いて必要ならばクロリドを除去することにより調製できる。
【0014】
US Patent No. 8,540,955には、アルミニウムアジュバントAlPOを製造するための改良法が開示され、それは塩化アルミニウムの溶液と三塩基性リン酸ナトリウムの溶液を混合してリン酸アルミニウム沈殿を生成させる工程を含み、その際、改良点は約50℃〜約70℃の範囲の温度でリン酸アルミニウム沈殿を沈降させることを含む。
【0015】
Burrell et al. [Vaccine. 1999 Jun 4;17(20-21):2599-603]には、リン酸アルミニウムアジュバントが121℃で30または60分間オートクレーブ処理した際に非晶質状態を維持したことが開示されている。しかし、pH低下によって明らかなように、脱プロトン反応および脱水反応が起きた。タンパク質吸着能、pH2.5における酸中和速度、およびゼロ電荷点(point-of-zero charge)も低下し、これらは脱プロトン/脱水反応の結果として表面積が低減したことを指摘する。
【0016】
Burrell et al. [Vaccine. 2000 Sep 15;19(2-3):275-81]には、リン酸アルミニウムアジュバントを製造するための方法が開示され、その際、塩化アルミニウムおよびリン酸二水素ナトリウムを含有する水溶液を反応器に一定速度でポンプ送入した。第2ポンプにより、目的pHを維持するために必要な速度で水酸化ナトリウム溶液を注入した。pH3.0〜7.5(pH0の間隔)で沈殿させた。
【0017】
アルミニウムアジュバントの特性、たとえばゲル粒子のサイズ、吸着能、等電点、およびアルミニウム対リン酸の比は、これらのゲルを生成させる条件に依存し、それには試薬を添加する順序、試薬を添加および混合する速度、混合速度、pH調整に要する時間、ならびにゲル製造の規模が含まれる。したがって、アルミニウムアジュバントを物理−化学的に再現性のある様式で製造するのは困難であり、よってバッチ間変動が生じると記載されている。
【0018】
前記の先行技術に開示されたリン酸アルミニウムゲル製造方法は冗長で複雑である。リン酸アルミニウムアジュバントを製造するための方法が記載されてはいるが、工業的規模においてより効率的である方法に対するニーズが依然として当技術分野にある。さらに、いずれの新規方法により製造されたリン酸アルミニウムアジュバントの特性も、それをワクチン製剤に使用できるためには、種々の市販製品に既に存在するアジュバントの性質を満たすことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】SU481539
【特許文献2】SU550340
【特許文献3】SU559895
【特許文献4】DE 2152228
【特許文献5】RU2149138C
【特許文献6】WO 2009/136233A1
【特許文献7】US Patent No. 8,540,955
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Glenny AT, Pope CG Waddington H, Wallace U. Immunological Notes XVII to XXIV. J. Pathol. 29, 31-40, 1926
【非特許文献2】Burrell et al. [Vaccine. 1999 Jun 4;17(20-21):2599-603]
【非特許文献3】Burrell et al. [Vaccine. 2000 Sep 15;19(2-3):275-81]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の主な目的は、簡潔でコスト効果の高い方法によってリン酸アルミニウムゲルを製造するための改良法を提供することである。
本発明の他の目的は、種々のpH管理のために当技術分野で採用されていたアルカリまたは酸の添加を採用するのを避けて、むしろ最適な条件および濃度でリン酸アルミニウムゲルが製造されるようにプロセス材料およびパラメーターを調整することである;これによって、新たな種の塩類および不均一なゲル構造を作り出し、したがってそれらを除去することが必要となる可能性のある、カーボネートおよび水酸化物のようなアルカリの使用が避けられる。
【0022】
本発明のさらに他の目的は、簡潔で制御しやすく、製造がより速く、かつ極端な温度または長い熟成期間が避けられるなどの方法を得ることである。
本発明の最終目的は、前記に従って製造したリン酸アルミニウムゲルの、ワクチン製剤におけるアジュバントとしての適性を立証することである。
【0023】
要するに、本発明は、良好な効率を備えているけれども時間、労力およびコストの低減した、無菌リン酸アルミニウムゲルを製造するための改良された拡張性のある方法に関するものであり、安定なワクチン製剤の調製におけるそれの適性の立証を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、リン酸アルミニウムゲルを製造するための改良法であって:
i)撹拌下でpHを3.0〜4.0に維持することにより、アルミニウム塩の溶液およびリン酸アルカリ塩の溶液を水に添加して沈殿を得る;
ii)リン酸アルミニウム沈殿を120〜150℃の範囲の温度に30〜90分の期間加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌する;そして
iii)3.0μm〜9.0μmの範囲のd(50)を有するサイズ分布および7μm未満の平均粒子サイズをもつ粒子を有する、リン酸アルミニウムゲルを得る
ことを含み、リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて上清を除去する工程を含まない方法を提供する。
【0025】
本質的に、本発明は、溶液の濃度、混合パラメーターおよび添加速度を操作することにより、ただし分粒(sizing)およびゲル洗浄の工程を必要とせずに、制御された一定の粒度分布をもつリン酸アルミニウムゲルを製造するための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、撹拌下でpHを3.0〜4.0に維持することにより、アルミニウム塩およびリン酸アルカリ塩を水に添加して沈殿を得る工程を含む、リン酸アルミニウムゲルの製造方法を提供する。
【0027】
本発明に従って用いるアルミニウム塩は、塩化アルミニウム・6水和物の形態である。
本発明に従って用いるリン酸アルカリは、リン酸ナトリウム、好ましくは三塩基性リン酸ナトリウムまたは二塩基性リン酸ナトリウムである。
【0028】
pHは、特定濃度の塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を添加することにより維持される。好ましくは、400〜500ミリモル濃度(mM)の濃度を用い、より好ましくは480〜490mMの濃度を用いる。
【0029】
塩化アルミニウムおよびリン酸三ナトリウムを両方とも、10〜60分間、好ましくは35〜55分間の撹拌下で水に添加し、リン酸ナトリウム溶液を添加する1〜60秒、好ましくは30秒、より好ましくは2〜10秒前に初回量の塩化アルミニウム溶液を添加し、それにより添加の最後の5〜10%部分を除く反応のほぼ全体を通して沈殿のpHを3.0〜4.0、好ましくは3.2〜3.5に維持する。
【0030】
それらの溶液を400rpm以上、好ましくは500〜600rpm、より適切には中間ないしそれより高い範囲での撹拌下で水に添加する。
塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を、室温または20℃〜25℃の温度で水に添加する。
【0031】
塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を、最低2個、好ましくは2〜4個のバッフルを備えた容器内で水に添加して混合する。撹拌機構は上置き型(top-mounted)であり、撹拌棒は少なくとも3つのインペラーを備え、それぞれが4つ以上のブレードをもつ。
【0032】
本発明の方法によれば、ゲルは3.2〜3.5のpH範囲で、他のいずれかの酸またはアルカリを添加せずに形成される。この方法を用いて、3mg/mLを超えないアルミニウム濃度、好ましくは最大2.5mg/mLまでの範囲の‘アルミニウム’濃度のゲルを得ることができる。
【0033】
本発明に従って製造されたリン酸アルミニウムゲルは、d(90)が<15μm、好ましくは5〜10μmの範囲である粒度分布をもつ。
本方法の有効性は、塩化アルミニウムおよび三塩基性リン酸ナトリウムを一定の比率で水に添加することによって、かつpHおよび温度を維持することによって、有意に改良される。そのような方法により、最終製品、すなわちリン酸アルミニウムゲルの精製および濃縮に必要な工程も不必要になる。
【0034】
さらに他の態様において、本方法は、リン酸アルミニウム沈殿を120℃以上、好ましくは120〜150℃の温度に30分以上、好ましくは30〜90分の期間、加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌することを伴う。
【0035】
本発明の他の改良点は、プロセス工程を閉鎖系内で実施し、それによって最終製品の無菌確実度が増し、無菌検査の必要性が減ることである。それによって実施する必要がある無菌検査の回数が減るので、これによって全体的プロセスがより効率的になる。
【0036】
さらに他の態様において、本発明は容器内の予め滅菌したWFI、無菌濾過した化学薬品溶液、および他のプロセス関連アクセサリーを用いて、60分以内、より好ましくは45分以内に無菌リン酸アルミニウムゲルを無菌的に製造するための方法を提供し、それは精製、分粒または他の検査なしに直ちにワクチンの配合に使用できる。
【0037】
さらに他の態様において、本発明により製造されたリン酸アルミニウムゲルは粒子のサイズおよび他の物理化学的パラメーターの変化をより生じにくい。さらに、滅菌後のゲルのpHは、抗原のブレンディングにいっそう適切な範囲にあり、それは5.0を超える等電点(pI)をもち、それによってpH調整が不必要になる。
【0038】
さらに他の態様において、本発明は無菌リン酸アルミニウムゲルを製造するための方法を提供し、それは意外にも沈降の工程を避けるのに役立ち、それによって上清の形成がない。よって、全プロセスが1〜5時間の期間内に完了し(続いて製造後滅菌を行なう場合は後者になる)、それによって本方法は簡潔で経済的になり、きわめて操作しやすくなる。
【0039】
好ましい態様において、本方法はリン酸アルミニウムゲルを製造するための方法であって:
i)形成された沈殿のpHを3.0〜4.0、好ましくは3.2〜3.5に維持することにより、塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を注射用水に撹拌下で60分以内、好ましくは35〜55分で添加する;
ii)リン酸アルミニウム沈殿を120〜150℃の範囲の温度に30〜90分の期間加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌する;そして
iii)3.0μm〜9.0μmの範囲のd(50)を有するサイズ分布および7μm未満の平均粒子サイズをもつ粒子を有する、リン酸アルミニウムゲルを得る
工程を含み、リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて上清を除去する工程を含まない方法を提供する。
【0040】
本発明に従って製造されたリン酸アルミニウムゲルアジュバントは、室温以下で貯蔵した場合、貯蔵寿命期間中、安定なままである。
より好ましい態様において、本方法は、d(90)が<15μmの範囲である粒度分布をもつリン酸アルミニウムゲルを製造するための方法であって:
i)形成された沈殿のpHを3.0〜4.0、好ましくは3.2〜3.5に維持することにより、400〜500ミリモル濃度(mM)の濃度の塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を注射用水に撹拌下で60分以内、好ましくは35〜55分で添加し、その際、リン酸ナトリウム溶液を添加する2〜10秒前に初回量の塩化アルミニウム溶液を添加する;
ii)リン酸アルミニウム沈殿を120〜150℃の範囲の温度に30〜90分の期間加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌する;そして
iii)3.0μm〜9.0μmの範囲のd(50)を有するサイズ分布および7μm未満の平均粒子サイズをもつ粒子を有する、リン酸アルミニウムゲルを得る
工程を含み、リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて上清を除去する工程を含まない方法を提供する。
【0041】
アルミニウム化合物のアジュバント性のメカニズムには下記が含まれる:デポーが形成される;アルミニウム吸着された抗原粒子が粒子性および最適サイズ(<10μm)であるため抗原提示細胞によって効率的に取り込まれる;ならびに補体の活性化によって身体の免疫コンピテント細胞が刺激される。
【0042】
さらに他の態様において、本発明はワクチンを製造するための方法であって:
i.形成された沈殿のpHを3.0〜4.0、好ましくは3.2〜3.5に維持することにより、無菌濾過した塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を予め滅菌した注射用水に撹拌下で60分以内、好ましくは35〜55分で添加する;
ii.抗原を、工程(i)で得られたリン酸アルミニウムゲルに精製、滅菌、分粒を行なわずに直ちに添加する
工程を含む方法を提供する。
【0043】
さらに他の態様において、本発明は、ワクチン製剤中の抗原を吸着するための、本方法により製造されたリン酸アルミニウムゲルの使用を提供する。
本発明の利点
1.本発明の方法は、pH調整のための酸/アルカリのいずれの添加も伴わない
2.本方法は、リン酸アルミニウムゲルの粒子サイズ低減のためのいかなる工程も伴わない
3.本方法は、沈降およびそれによる上清除去の工程を伴わない
4.本方法は、いかなる洗浄工程も伴わない
5.本方法は、高温条件および長期間の熟成を含まない。
【0044】
以下の実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって決して限定されず、本明細書に記載したパラメーター内での当業者に分かるようなそれらのバリエーションを含むということを理解すべきである。
【実施例】
【0045】
実施例−1.リン酸アルミニウムゲルの製造
リン酸アルミニウムゲル製造のために、485±1mM濃度の塩化アルミニウム溶液およびリン酸三ナトリウム溶液を原料として用い、注射用水(Water For Injection)(WFI)を溶媒として用いた。下記の表に示す両溶液を、一定速度で45±10分以内にWFI(溶液の体積の3.1〜3.15×の体積)に、2〜4つのバッフル、異なる高さにあってそれぞれ4つのブレードをもつ最低3つのインペラーを備えた上置き型攪拌機をもつ容器に、550±50rpmで撹拌しながら添加した。リン酸ナトリウム溶液の添加を開始する2〜5秒前に塩化アルミニウム溶液の添加を開始して、プロセス全体を通して沈殿のpHを3.5より低く維持した;ただし、添加時間の最後の5〜10%を除く:この期間はpHが5.0付近にまで上昇するのがみられた。添加終了後、121.1℃の蒸気を用いて30〜45分間、ゲルをイン−サイチュ滅菌した。滅菌後にゲルのpHは約1単位低下して4.0±0.3付近に達した。
【0046】
【表1】
【0047】
前記方法を用いてリン酸アルミニウムゲルを1Lから40Lまでの規模で製造して、それぞれの規模でパラメーターが一定範囲内にある再現性のある結果を得た。この方法は、他の沈降、精製−すなわちいずれかの緩衝液、たとえば生理食塩水などを用いるゲルの洗浄がなく、よってきわめて簡潔、簡単であり、そのままブレンディングに使用できるゲルを生成する。それによってこの方法はそれの多能性、拡張性およびコスト効果が立証され、それによって商業的生産に対するそれの適性が確認される。
【0048】
実施例−2.リン酸アルミニウムゲル製品の粒子サイズ
実施例1の記載に従って製造したリン酸アルミニウムゲルの粒子サイズを決定して、いずれかの追加処理工程、たとえば均質化、微粒子の選択/除去などを行なわずに平均粒子サイズは7μm以下であり、d(10)、d(50)および(90)範囲はそれぞれ>1μm、3〜8μmおよび<14μmであることが認められた。18Lおよび40L規模で行なったゲルロットの製造に際してのpHおよび粒子サイズについての代表的データを、推定したPZCおよびゼータ電位値と共に表−2に挙げる(滅菌の前と後の両方)。これらのデータは、いずれかの追加プロセスを必要としないこの方法の簡潔性および再現性が立証されたことを指摘する。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例−3.免疫原組成物中におけるリン酸アルミニウムゲルアジュバントの配合物
実施例−1の記載に従って製造したリン酸アルミニウムゲルを、抗原成分としてのジフテリアトキソイド(Diphtheria toxoid)(DT)、破傷風トキソイド(Tetanus Toxoid)(TT)、全細胞百日咳(Whole-cell pertussis)(wP)、B型肝炎表面抗原(Hepatitis-B surface antigen)(HBsAg)、およびインフルエンザb型菌(Haemophilus influenzae type-b)ポリリボシルリビトールホスフェート(Polyribosyl Ribitol phosphate)−TTコンジュゲート(Hib)を最終希釈剤としての生理食塩水中に含む液体五価ワクチン(LPV)の配合物中に用いた。この配合に際し、実施例−1に従って得られたゲルに、200〜300rpmにおける撹拌下でHBsAg、DTおよびTT抗原を、pH調整の必要なしに順次添加した;文献によれば、かつ本発明者らの試験で証明したように、それはゲル(アジュバント)へのそれらの吸着に理想的pHであるので。次いでこのブレンドに最終体積調整に必要な生理食塩水の最大80%を添加し、続いてwPを添加した;次いで全ブレンドを10℃より低温に冷却し、撹拌しながらHib成分を添加した。次いで最終体積を生理食塩水で必要レベルに調整した。次いで必要な場合にはブレンドのpHを6.2〜6.5に調整したが、大部分の場合は不必要であることが認められた。
【0051】
前記方法を、実施例1の記載に従って製造したリン酸アルミニウムゲルを用いる種々の規模でのLPVブレンディング法に最適化した。100mLから60Lまでの範囲の体積のLPVブレンドをこの方法で調製し、すべてを検査して、安全性および配合物中に用いた各抗原の力価パラメーターを含めたワクチン規格に適合することが証明された。
【0052】
このリン酸アルミニウムゲルは、抗原成分としてのジフテリアトキソイド(DT)、破傷風トキソイド(TT)、全細胞百日咳(wP)、およびインフルエンザb型菌ポリリボシルリビトールホスフェート−TTコンジュゲート(Hib)を最終希釈剤としての生理食塩水中に含む液体四価ワクチン(LQV)の調製に適することも示された。このワクチンの配合は、LPV製剤において最初に添加するHBsAgを用いないこと以外は、同じ抗原およびそれらの添加順序に従う。
【0053】
1Lから60Lまでの範囲の体積のLQVブレンドをこの方法で調製し、すべてを検査して、安全性および配合物中に用いた各抗原の力価パラメーターを含めたワクチン規格に適合することが証明された。
【0054】
実施例−4.抗原吸着能の操作および結果
LPVの配合に用いた抗原のうち、HBsAg、DTおよびTTがリン酸アルミニウムゲルに結合する3つであった。LPVにおける結合についての社内要求は、HBsAgについて90%であり、DTのものについてそれは28%であり、TTについてそれは30%であった。種々の規模で製造したリン酸アルミニウムゲルは、最大40Lのゲルロットおよび最大60LのLPVブレンド体積で調製したものについて検査した場合、一貫してこれらの要求に適合した。両方を異なる規模で行なった実施例−1の記載に従って製造したリン酸アルミニウムゲルを用いて調製したLPVブレンド間の吸着値%の変動は有意でない。同様に、ワクチンをストレス条件(37℃で14日間)に曝露しても吸着値%は有意には変化しなかった。異なる規模(1Lおよび18L)で実施し、2Lおよび60L規模のLPVブレンディングに用いたこの特性のゲルの代表例を、Brenntag Biosector(販売業者)のAdju−Phos(登録商標)を用いて調製した2Lおよび60LのLPVブレンドと共に、表−3にまとめる。
【0055】
実施例−1の記載に従って製造したリン酸アルミニウムゲルを用いて調製したゲル/LPVブレンドの安定性試験の一例として、調製して0日目(リリース)、37℃でのインキュベーション後5、7および14日目に検査した4LのLPVブレンドの3つの抗原についての吸着%の結果を表−4にまとめる。
【0056】
【表3】
【0057】
表−3に提示したデータにより、実施例−1の記載に従って製造したリン酸アルミニウムゲルの吸着%はBrenntagのAdju−Phosのものと一致することが確認される。
【0058】
【表4】
【0059】
実施例−5.ゲルを特性分析するための他の方法およびそれらの結果
実施例1の記載に従って製造した数ロットのリン酸アルミニウムゲルを、それらが十分に特性分析されるように種々の物理化学的特性について分析した。pH以外に、粒子サイズおよびアルミニウム含量、さらに他の幾つかのパラメーターも検査し、それらの分析理由と共に表−5にまとめる。
【0060】
【表5】
【0061】
実施例−1に記載した方法に従って18L規模で製造した6バッチのリン酸アルミニウムゲルからの代表的定量データを、LPVおよびLQVバッチのプロセスバリデーションバッチについて表6および7にまとめる。これらのバッチはすべて、滅菌後および滅菌前の両方で検査したすべてのパラメーターについて要求に適合した;一方、すべてのバッチが外観、無菌性および不純物レベルについての規格に適合し、それらのうち定量パラメーターをこれらの表中で分析した。
【0062】
【表6】
【0063】
個々の粒度分布範囲を考慮せずに検査したすべてのパラメーターについてのCV(Co-efficient of Variation)(変動係数)値は、十分に10%以内であり、滅菌段階後についてはなおさらそうであった;これは、6か月間にわたって種々のロットの装入材料を用いて製造された6つの分析バッチにわたるゲル製造法の良好な一貫性を指摘した。これらのデータにより、滅菌後にゲルの物理化学的パラメーターにわずかな有意ではない変化が起きたにすぎないことも確認された。
【0064】
【表7】
【0065】
数バッチについて、これらのパラメーターのうち幾つかをゲルの貯蔵期間(最大7日間)にわたって、種々の貯蔵時点で、すなわち製造後、イン−サイチュ滅菌後、およびイン−サイチュ滅菌ゲルのオートクレーブ処理後に検査した。種々のパラメーターに対する貯蔵の影響を試験した1バッチからの代表的データを表−8にまとめる。これらのデータにより、滅菌/オートクレーブ処理後7日目まではパラメーターはそれほど変化しないことが確認される。これらの特性分析データおよびそれらの解析により、種々の規模で製造したゲルの一貫性が確認され、ゲル製造法の堅実性も確認される。
【0066】
【表8】
【0067】
実施例−6.ワクチン製剤におけるアジュバントとしてのAlPhosゲルの有効性およびそれらの安定性
実施例−1の記載に従って製造した3つの異なるバッチのリン酸アルミニウムゲルを用いて3バッチの60LのLPVを配合し、かつ‘対照’としてのBrenntagのAdju−Phosゲルを用いて1バッチの60LのLPVを配合した−実施例−1の記載に従って製造した製品とBrenntagのAdju−Phosゲルの比較のため。滅菌溶液を用いて無菌容器内でリン酸アルミニウムゲルを18L規模で製造し、オートクレーブ処理による滅菌のために無菌ガラスボトルに移した;この無菌ゲルをLPVブレンディング用のブレンディング容器へ移した。
【0068】
社内リン酸アルミニウムゲルを用いて、下記のバッチ番号をもつ3つの最終LPVバルクを調製した(実施例−5の表6および7に述べたとおり):LPV−1、LPV−2およびLPV−3。BrenntagのAdju−Phosを用いて調製した‘参照’バッチのLPV最終バルクに番号‘LPV−4’を付与した。
【0069】
本発明に従って製造したゲルの影響とBrenntag Biosectorにより製造された市販のAdju−Phosの影響との比較ができるように、LPV−1とLPV−4の配合に用いた抗原のロットは同じであった。
【0070】
すべての定性および定量試験の結果は各パラメーターについての許容基準と適合し、よって本発明に従って製造したAlPhosゲルにより、BrenntagのAdju−Phosを用いて調製したものとの適合度の高いLPVロットが調製され、よってワクチン製剤の調製における社内AlPhosゲルの適性が確認された。
【0071】
LPVと同様に、3つの最終LQVバルク(D−T−P−Hibワクチン)も、本発明に従って製造したリン酸アルミニウムゲルを用いて下記のバッチ番号で調製された(実施例−5の表6および7に述べたとおり):LQV−A、LQV−BおよびLQV−C。すべての定性および定量試験の結果は、各パラメーターについての許容基準(LPVに関するものと同じ)と適合し、よってLQVロットのブレンディングのために本発明に従って製造したゲルも同様に一貫性が高いことが再確認された。これらのデータにより、ワクチン製剤の調製における本発明のAlPhosゲルの適性が再確認された。
【0072】
前記に従って調製したすべてのロットのLPVおよびLQVを単回量(0.5mL)、10回量(5.0mL)体裁でガラスバイアルに充填し、リアルタイム(2〜8℃)および促進(25±2℃)温度貯蔵条件で安定性試験を行なった。安定性を検査するための試験パラメーターを評価し、両方の条件で両方のワクチンについて、最終試験した3か月目の貯蔵まですべてが規格に適合した;LPV−1およびLPV−4から充填した最終ロットについて試験した安定性パラメーターの結果は、この場合もリアルタイム貯蔵条件で貯蔵した9か月目の時点まで同等であり、これは試験したパラメーターのいずれにもAlPhosゲル源における変化による変化がないことを指摘する。
【0073】
よって、新規方法を用いてリン酸アルミニウムゲルを製造するための本発明方法は、容易に再現でき、スケーラブルであり、かつワクチン製剤にアジュバントとして使用するのにきわめて適切であることが証明された。
本発明の態様には、下記も含まれる。
態様1
リン酸アルミニウムゲルを製造するための改良法であって:
i)撹拌下でpHを3.0〜4.0に維持することにより、アルミニウム塩の溶液およびリン酸アルカリ塩の溶液を水に添加して沈殿を得る;
ii)リン酸アルミニウム沈殿を120〜150℃の範囲の温度に30〜90分の期間加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌する;そして
iii)3.0μm〜9.0μmの範囲のd(50)を有するサイズ分布および7μm未満の平均粒子サイズをもつ粒子を有する、リン酸アルミニウムゲルを得る
ことを含み、リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて上清を除去する工程を含まない方法。
態様2
使用する塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液の濃度が400〜500ミリモル濃度(mM)、好ましくは480〜490mMの範囲である、態様1に記載の方法。
態様3
塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液の添加を、400rpm以上、好ましくは500〜600rpmでの撹拌下に実施する、態様1に記載の方法。
態様4
工程(i)における添加を室温または20℃〜25℃の温度で実施する、態様1に記載の方法。
態様5
添加を10〜60分、好ましくは35〜55分の期間実施する、態様1に記載の方法。
態様6
d(90)が<15μm、好ましくは5〜10μmの範囲である粒度分布を有する、態様1に記載の方法により製造されたリン酸アルミニウムゲル。
態様7
方法が閉鎖系で実施される、態様1に記載の方法。
態様8
方法が3.2〜3.5のpH範囲で、他のいずれかの酸またはアルカリを添加せずに実施される、態様1に記載の方法。
態様9
方法が沈降の工程を含まず、それによって上清の形成が無い、態様1に記載の方法。
態様10
リン酸アルミニウムゲルを製造するための改良法であって:
i)形成された沈殿のpHを3.0〜4.0、好ましくは3.2〜3.5に維持することにより、塩化アルミニウムの溶液およびリン酸三ナトリウムの溶液を注射用水に撹拌下で60分以内、好ましくは35〜55分で添加する;
ii)リン酸アルミニウム沈殿を120〜150℃の範囲の温度に30〜90分の期間加熱することにより、工程(i)のリン酸アルミニウム沈殿を滅菌する;そして
iii)3.0μm〜9.0μmの範囲のd(50)を有するサイズ分布および7μm未満の平均粒子サイズをもつ粒子を有する、リン酸アルミニウムゲルを得る
工程を含み、リン酸アルミニウム懸濁液を沈降させて上清を除去する工程を含まない方法。
態様11
態様1〜10のいずれか1項の記載により製造したリン酸アルミニウムゲルに吸着した1以上の抗原を含むワクチン組成物。