(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989394
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】スポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/12 20060101AFI20211220BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C22B5/04
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-1814(P2018-1814)
(22)【出願日】2018年1月10日
(65)【公開番号】特開2019-119917(P2019-119917A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 稔
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−363661(JP,A)
【文献】
特開昭61−012838(JP,A)
【文献】
特開昭61−012837(JP,A)
【文献】
特開昭61−012836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロール法によるスポンジチタンの製造において、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃に保持し、且つ、反応容器内の圧力を、0.02MPaG以下に制御しながら、還元反応を行うことを特徴とするスポンジチタンの製造方法。
【請求項2】
前記反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の材質が、炭素鋼又は炭素鋼とステンレス鋼のクラッド材であることを特徴とする請求項1記載のスポンジチタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化チタンを金属マグネシウムにより還元してスポンジチタンを製造するスポンジチタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属チタンは、工業的にはクロール法によって製造されたスポンジチタンをもとに製造されている。そして、近年、半導体デバイス向けの高純度チタンの需要が増加しており、これに伴って高純度のスポンジチタンを安価に製造することが求められている。
【0003】
このクロール法によるスポンジチタン製造工程は、塩化蒸留工程、還元分離工程、破砕工程及び電解工程の四工程に大別される。
【0004】
これらの工程の一つである還元分離工程は、還元工程及び真空分離工程からなる。還元工程では、ステンレス製の還元反応容器内の溶融金属マグネシウムに四塩化チタンを滴下し、還元反応を起こすことで、スポンジチタンを生成させる。次いで、真空分離工程にて、還元工程で生成したスポンジチタンを高温且つ減圧下で真空引きすることで、残存した塩化マグネシウムや金属マグネシウムが取り除かれたスポンジチタンが製造される(非特許文献1)。
【0005】
真空分離工程では、反応容器を加熱し、更に、その反応容器に接続された別の反応容器内を減圧することにより、スポンジチタンに取り込まれている未反応のMg及び副生した塩化マグネシウムを分離し、該別の反応容器に回収する。このとき、反応容器の加熱温度は1000℃を超えるため、反応容器の熱対策が必要であり、その対策の一つとして、ステンレス鋼の使用が有効であるとされている。
【0006】
ここで、ステンレス鋼は、高温強度の確保のために、多量のCr及びNiを含んでいる。ところが、これらの重金属は、容器内の溶融マグネシウム中へ容易に溶出し、容器内に製造されるスポンジチタンを直接又は間接的に汚染する。還元反応中、反応容器内の溶融マグネシウム浴の浴面からは、マグネシウム蒸気が発生しており、反応容器の上部の蓋体は、溶融マグネシウム浴の浴面の温度よりも低いので、マグネシウム蒸気が、蓋体の表面で冷やされて、結露する。蓋体の表面に結露した溶融マグネシウムは、活性であるため、蓋体の成分であるFe、Cr、Niを取り込み、反応容器内の溶融マグネシウム浴に落下する。このような、蓋体の表面に結露してFe、Cr、Niを取り込んだ溶融マグネシウムの、反応容器内の溶融マグネシウム浴への落下が、スポンジチタンの汚染の要因となる。
【0007】
また、ステンレス鋼を使用した蓋体にチタンが付着すると、蓋体から付着チタンにFe、Cr、Niが固相拡散する。そして、Fe、Cr、Niを取り込んだチタンが、落下することによっても、スポンジチタンの汚染が引き起こされる。
【0008】
そこで、例えば、特許文献1には、蓋体を構成する部材のうちの少なくとも反応雰囲気に接する部材の一部又は全部に、反応雰囲気に対して表面側が炭素鋼、裏面側がステンレス鋼の複合材を用いることにより、Cr及びNiによる汚染を低減することが開示されている。なお、特許文献1に記載の複合材は、肉盛法、圧延法、爆着法、熱間押出法によるクラッド材(別名でクラッドメタル:1つの金属の表面と他の金属(異種金属)の表面を圧力を加えて、拡散接合された材料)と呼ばれるものである。
【0009】
また、特許文献2には、蓋体と容器本体内の浴面との間に設置される鉄製の熱遮蔽板の少なくとも下面に、金属酸化物又は金属チタンからなる被覆層を設けることにより、Cr、Ni及びFeによる汚染を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】資源と素材 Vo.1.109 P1157−1163(1993)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3515541号公報
【特許文献2】特許第3952303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1のように、蓋体の反応雰囲気側に炭素鋼を用いるだけでは、Feによる汚染を防止することはできない。また、クラッド鋼は、ステンレス鋼や炭素鋼に比べ、高価であるため、蓋体にクラッド鋼を用いることは、蓋体の製作費を上げ、結果、スポンジチタンの製造コストを押し上げることになる。
【0013】
また、特許文献2のように、蓋体や遮蔽板等の表面に金属酸化物の被膜を形成させる方法では、酸化被膜を設けるために、労力及びコストがかかるため、スポンジチタンの製造コストを押し上げることになる。
【0014】
従って、本発明の目的は、反応容器からのCr、Ni及びFeによる汚染を、安価に防止することができるスポンジチタンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、反応容器の蓋体の表面等、内側上部のうちの、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃と、マグネシウムの融点より低い温度に保持して、蓋体の表面で、反応容器内のマグネシウム浴面から発生したマグネシウム蒸気を冷却して、蓋体の表面にマグネシウムを析出させることにより、蓋体の表面が固体のマグネシウムで覆われるので、溶融マグネシウムの浴面から発生するマグネシウム蒸気が、蓋体の部分で結露して溶融マグネシウムとなっても、その溶融マグネシウムが、蓋体の表面と直接接触しないようにすることができる。そのため、蓋体の表面で結露して生じる溶融マグネシウムが、蓋体の成分であるFe、Cr及びNiを取り込んで、溶融マグネシウム浴に落下することに起因するスポンジチタンの汚染を防止することができる。
【0016】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次の通りである。
すなわち、本発明(1)は、クロール法によるスポンジチタンの製造において、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃に保持しながら、還元反応を行うことを特徴とするスポンジチタンの製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(2)は、反応容器内の圧力を、0.02MPaG以下に制御しながら、還元反応を行うことを特徴とする(1)のスポンジチタンの製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(3)は、前記反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の材質が、炭素鋼又は炭素鋼とステンレス鋼のクラッド材であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのスポンジチタンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反応容器からのCr、Ni及びFeによる汚染を、安価に防止することができるスポンジチタンの製造方法を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のスポンジチタンの製造方法は、クロール法によるスポンジチタンの製造において、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃に保持しながら、還元反応を行うことを特徴とするスポンジチタンの製造方法である。
【0021】
本発明のスポンジチタンの製造方法は、クロール法、すなわち、反応容器に予め溶融マグネシウムを入れておき、反応容器内に四塩化チタンを滴下して、溶融マグネシウムと反応させることにより、四塩化チタンをマグネシウムで還元する還元反応を行い、スポンジチタンを製造するスポンジチタンの製造方法である。
【0022】
本発明のスポンジチタンの製造方法において、クロール法で、四塩化チタンと溶融マグネシウムを反応させる方法としては、特に制限されず、通常、工業的なクロール法によるスポンジチタンの製造方法において用いられている方法であればよい。四塩化チタンと溶融マグネシウムを反応させる方法としては、例えば、反応容器内に、還元反応で用いる溶融マグネシウムを全量装入し、そこに、四塩化チタンを滴下しつつ、副生する塩化マグネシウムを反応容器の底部付近から抜きながら、スポンジチタンを生成させる方法、反応容器内に、還元反応で用いる溶融マグネシウム全量のうちの30〜90質量%程度の量を装入しておき、そこに、四塩化チタンを滴下しつつ、副生する塩化マグネシウムを反応容器の底部付近から抜き、数回にわけて溶融マグネシウムを反応容器内に補充しながら、スポンジチタンを生成させる方法等が挙げられる。
【0023】
クロール法によるスポンジチタンの製造では、還元反応中は、溶融マグネシウム浴の浴面からマグネシウム蒸気が発生しており、そのマグネシウム蒸気は、反応容器の上部に上昇し、反応容器の上部にある蓋体の表面に接触し、あるいは、蓋体と溶融マグネシウム浴の浴面との間に遮蔽板が設けられている場合は、遮蔽体の表面に接触し、そこで冷却されて結露して、溶融マグネシウムの状態で、蓋体の表面又は遮蔽板の表面に一旦付着する。その後、結露して蓋体の表面又は遮蔽板の表面に一旦付着していた溶融マグネシウムは、溶融マグネシウム浴に落下する。還元反応中は、このような、溶融マグネシウム浴の浴面からのマグネシウム蒸気の発生、蓋体の表面又は遮蔽板の表面での溶融マグネシウムの結露、溶融マグネシウム浴への結露した溶融マグネシウムの落下が繰り返されている。
【0024】
そこで、本発明のスポンジチタンの製造方法では、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に保持しながら、還元反応を行う。本発明のスポンジチタンの製造方法では、還元反応中、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度が、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に保持されているので、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度は、マグネシウムの融点より低くなっているため、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分、例えば、蓋体の下面に、あるいは、遮蔽板が付設されている場合は、遮蔽板の下面に、固体のマグネシウムが析出し、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面に、固体のマグネシウム被覆層が形成されている。そのため、本発明のスポンジチタンの製造方法では、還元反応中に、マグネシウム蒸気の結露が、固体のマグネシウム被覆層の表面で起こるので、結露して生じる溶融マグネシウムが、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分、例えば、蓋体の下面に、あるいは、遮蔽板が付設されている場合は、遮蔽板の下面に、直接接触することが妨げられる。これらのことにより、本発明のスポンジチタンの製造方法では、マグネシウム蒸気が結露して生じる溶融マグネシウムが、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分、例えば、蓋体に、あるいは、遮蔽板が付設されている場合は、遮蔽板に、直接接触して、Fe、Cr、Niを取り込み、Fe、Cr、Niを取り込んだ溶融マグネシウムが、溶融マグネシウム浴に落下することに起因するスポンジチタンの汚染を防ぐことができる。また、遮蔽板が付設されている場合、マグネシウム蒸気が蓋体下面まで到達することもあるため、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分である遮蔽板の表面の温度を、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に保持することに加えて、蓋体下面の温度を、100〜650℃に保持することが好ましく、100〜550℃に保持することが特に好ましい。
【0025】
なお、本発明において、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面とは、反応容器の上部に設置されている部材のうち、溶融マグネシウムの浴面と向き合っている面を指す。例えば、反応容器の蓋体に遮蔽板が付設されていない場合は、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面とは、反応容器の上側に設置される蓋体の下面(溶融マグネシウムの浴面側の表面)であり、また、反応容器の蓋体に遮蔽板が付設されている場合は、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面とは、遮蔽板の下面(溶融マグネシウムの浴面側の表面)である。
【0026】
本発明のスポンジチタンの製造方法に係る反応容器は、ステンレス鋼の内面に鉄がクラッドされたクラッド容器又はバタリング容器である。なお、バタリング(Buttering)は、突合せ溶接(母材がほぼ同じ面内の溶接継手となる溶接)を行う際に、突合せ溶接継手の開先面に、1層ずつ、いわばパンにバターを塗るように、溶着金属を肉盛して重ねていく溶接方法であり、母材の溶け込みが少なく、溶接割れが起きにくい溶接方法で、ステンレス鋼と炭素鋼の溶接などの、異材溶接に利用される。バタリング容器は、この溶接方法で製作された複合材の容器のことである。反応容器の上部に設置される蓋体の材質は、ステンレス鋼、炭素鋼、炭素鋼とステンレス鋼のクラッド材である。蓋体と溶融マグネシウムの浴面との間に遮蔽板が付設される場合、遮蔽板の材質は、ステンレス鋼、炭素鋼、炭素鋼とステンレス鋼のクラッド材である。そのため、本発明のスポンジチタンの製造方法では、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の材質は、ステンレス鋼、炭素鋼、炭素鋼とステンレス鋼のクラッド材である。
【0027】
本発明のスポンジチタンの製造方法において、還元反応中の溶融マグネシウム浴の温度は、通常、660〜1100℃、好ましくは720〜1000℃である。
【0028】
本発明のスポンジチタンの製造方法において、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に保持する方法としては、特に制限されない。上記の温度制御方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
(i)蓋体に、送風手段、冷却水の供給手段等の強制冷却機構を設置し、強制冷却機構により蓋体を冷却する方法。
(ii)強制冷却機構を設置せずに、蓋体の形状、蓋体の加熱状態、反応容器の全体又は上部の加熱状態、還元反応の条件、溶融マグネシウムの浴面位置等により、蓋体と外気との熱交換で、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に維持できるのであれば、蓋体に、送風手段、冷却水の供給手段等の強制冷却機構を設置せずに、蓋体の形状、蓋体の加熱状態、反応容器の全体又は上部の加熱状態、還元反応の条件、溶融マグネシウムの浴面位置等により、制御する方法。
(iii)還元反応の反応方式や反応条件により、還元反応の全反応のうち、一部の時間帯は、蓋体の形状、蓋体の加熱状態、反応容器の全体又は上部の加熱状態、還元反応の条件、溶融マグネシウムの浴面位置等により、蓋体と外気との熱交換で、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に維持でき、且つ、他の時間帯は、蓋体の形状、蓋体の加熱状態、反応容器の全体又は上部の加熱状態、還元反応の条件、溶融マグネシウムの浴面位置等では、蓋体と外気との熱交換で、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に維持できず、上記温度より高くなるのであれば、蓋体と外気との熱交換で、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度を、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に維持できる時間帯は、蓋体に、送風手段、冷却水の供給手段等の強制冷却機構を設置せずに、蓋体の形状、蓋体の加熱状態、反応容器の全体又は上部の加熱状態、還元反応の条件、溶融マグネシウムの浴面位置等により、制御し、且つ、他の時間帯は、蓋体に、送風手段、冷却水の供給手段等の強制冷却機構を設置し、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度が、上記温度より高くなる時間帯だけ、強制冷却機構で蓋体を冷却する方法。
【0029】
本発明のスポンジチタンの製造方法では、還元中の反応容器内の圧力を、0.02MPaG(ゲージ圧)以下、好ましくは0.015MPaG以下に制御しながら、還元反応を行うことが、チタンの低級塩化物による排気配管の閉塞や反応状態の悪化によって、TiCl
4の滴下を打ち切ることなく、予定量まで滴下を継続できる点で、好ましい。本発明のスポンジチタンの製造方法では、反応容器の内側上部のうち、溶融マグネシウムの浴面に対向する部分の表面温度が、100〜650℃、好ましくは100〜550℃に保持されているために、従来のクロール法によるスポンジチタンの製造方法に比べ、反応容器内の上部のガス温度が低いので、本発明のスポンジチタンの製造方法では、排気配管の閉塞や反応状態を不安定にさせるチタンの低級塩化物が副生し易い状態となっている。そして、本発明のスポンジチタンの製造方法では、反応容器内の圧力を、0.02MPaG(ゲージ圧)以下、好ましくは0.015MPaG以下に制御しながら、還元反応を行うことにより、チタンの低級塩化物による排気配管の閉塞や、反応状態の悪化によるTiCl
4の滴下打ち切りを起こり難くすることができる。なお、ここで言う反応容器内の圧力とは、還元反応中の定常状態の容器内圧力の平均値を指し、MgCl
2抜きや圧抜き配管の閉塞等、非定常時の圧力は含まない。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0031】
(実施例及び比較例)
スポンジチタン製造用の反応容器(反応容器の上蓋の下面が、金属マグネシウムの浴面に対向する反応容器であり、上蓋と金属マグネシウムの浴面の間には、遮蔽板は設置されていない。)内に金属マグネシウムを所定量挿入し、不活性ガス雰囲気下で金属マグネシウムを溶融保持した。次いで、上蓋の下面温度を表1に示す温度(100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、又は800℃)に、且つ、反応容器内の内圧を表1に示す圧力(0.01MPa、0.015MPa、又は0.02MPa)に制御しつつ、反応容器内に四塩化チタン32000kgを滴下し、スポンジチタンを生成させた。滴下の間、複製した塩化マグネシウムを、適宜、反応容器下部から抜き出し、その合計量は25000kgであった。なお、四塩化チタンの滴下中に、圧抜き口の閉塞が生じた場合には、四塩化チタンの滴下を一旦打ち切り、閉塞物を除去した後、四塩化チタンの滴下を再開した。なお、閉塞物が除去できない場合、または、四塩化チタンの滴下を再開してもすぐに閉塞が再発する場合には、その時点で四塩化チタンの滴下を打ち切り、還元反応を終了した。
滴下終了後、複製した塩化マグネシウムと、反応で消費されなかった金属マグネシウムの混合物を、反応容器下部から抜き出した。その後、反応容器を900℃に保持したまま、静置と抜き出しの操作を3回繰り返した。次いで、当該反応容器を真空分離工程に供し、スポンジチタン塊から塩化マグネシウムと金属マグネシウムを揮発分離させ、冷却後、スポンジチタン塊を反応容器から取り出して、スポンジチタン塊を得た。
次いで、得られたスポンジチタン塊の表面、すなわち、反応容器と接触していた部分をはつり除去し、その後、ギロチンシャーで切断して、平均粒径が5〜100mmの範囲内になるよう細断し、数十kg単位で回収して成分分析を行ない、Cr含有量が1ppm以下、Ni含有量1ppm以下且つFe含有量が10ppm以下のスポンジチタンを、高純度スポンジチタンとして得た。
上記操作後、スポンジチタン塊の全質量に対する高純度スポンジチタンの採取量の割合を歩留まりとして求め、上蓋の下面温度が800℃で内圧が0.02MPaのときの歩留まりを1.00としたときに、各条件における歩留まりの比を算出した。その結果を表1に示す。
また、上記操作において、上蓋の下面温度が800℃で内圧が0.02MPaのときの四塩化チタン滴下の打ち切り頻度を1.00としたときに、各条件における四塩化チタン滴下の打ち切り頻度を算出した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】