(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる実施の形態例を説明する。
【0023】
従来、主として繊維の洗浄によりセパレータのイオン性不純物を低減させることで、電気化学素子に用いた時の性能劣化を抑制してきた。
しかしながら、この手法では、上述した通り、電気化学素子に近年求められるような、高温環境下での長寿命化は困難であった。
【0024】
本発明の電気化学素子用セパレータは、一対の電極間に介在し、両電極の隔離と、電解質を含有した電解液の保持が可能な電気化学素子用セパレータであって、セパレータがセルロース系繊維を含有し、JIS P 8215に規定された測定方法により測定された、セパレータの極限粘度が150〜500ml/gの範囲である。
【0025】
JIS P 8215に規定された測定方法では、溶媒に銅エチレンジアミン(CED)の希薄水溶液を用いて、この溶媒にセルロースを溶解させて、極限粘度を測定する。
なお、JIS P 8215では、A法「希薄濃度におけるセルロース極限粘度数の測定」とB法「一定のせん断速度における極限粘度数の測定」の2つの方法が規定されている。
本発明では、極限粘度の測定に、これらA法及びB法のどちらの方法を採用しても構わない。同じセルロースを測定した場合に、A法による測定値とB法による測定値には、大きな差が生じないためである。
【0026】
セパレータの極限粘度を150〜500ml/gの範囲に制御することで、コンデンサや電気二重層キャパシタの高温長寿命化に適したセパレータにできる。
極限粘度は、パルプの重合度の算出にも用いられる数値であり、製造工程の蒸解や晒工程でのセルロースの崩壊の程度を評価するために測定される。極限粘度が高いほど、セルロースの重合度が高いことを示す。つまり、極限粘度が高いほど、崩壊し難い、強固な繊維であると考えるのが一般的である。これまで、セパレータに用いる材料としても、繊維の崩壊等のような劣化を抑制する観点から、重合度が高い繊維が好まれてきた。
【0027】
本発明では、セルロースの重合度ではなく、セルロースの極限粘度を採用したが、この理由は以下の通りである。
【0028】
セルロースの重合度は、以下に示す式により求めるのが一般的である。
P={[η]/(M
a・K
m)}
1/a
P :重合度
[η]:極限粘度
M :単量体の分子量(162.15)
a :定数
K
m :定数
ここで、a及びK
mは、セルロースの材種によって異なる。このため、セルロースの材種に関わらずセパレータの評価を行うことを目的として、極限粘度[η]を採用した。
【0029】
従来の天然繊維を用いたセパレータの極限粘度は、600〜1000ml/g程度である。また、再生セルロース繊維である溶剤紡糸セルロース繊維を用いたセパレータの極限粘度も、600ml/g以上である。
セパレータの極限粘度が500ml/gを超過すると、該セパレータを電気化学素子に用いた際、高温環境下では、抵抗が次第に上昇していく場合や、容量が徐々に低下していく場合がある。
一方、セパレータの極限粘度が150ml/g未満では、該セパレータを電気化学素子に用いた際、ショート不良が発生しやすくなる。
これは、以下の理由によると考えられる。
【0030】
セルロース繊維は、セルロース分子の束であるミクロフィブリルが更に束になって構成されている。そして、セルロース分子間やミクロフィブリル間は、多数の水素結合により強固に結合・結着している。繊維が電解液に浸漬されると、セルロース分子間・ミクロフィブリル間に電解液が浸入する。
極限粘度が高すぎる場合は、繊維内部の結合・結着が強固であるため、セルロース分子間やミクロフィブリル間に電解液が侵入し難く、繊維の電解液保持性や親液性が低い。
一方、極限粘度が低すぎる場合は、繊維内部の結合・結着が弱いことを示している。そのため、セパレータの製造過程で繊維が崩壊するおそれや、このセパレータを用いた電気化学素子が高温環境に置かれた際に、セパレータを構成する繊維が徐々に分解等することで電気化学素子の特性劣化が大きくなるリスクや、セパレータが崩壊してショート不良に至るリスクがある。
【0031】
極限粘度を150〜500ml/gの範囲とした、本発明のセパレータを用いることで、セパレータの保液性や親液性を向上させ、電解液保持量の不均一化を防止し、電気化学素子の長寿命化ができる。また、これにより、電気化学素子の抵抗も低減できる。
【0032】
また、セルロース系繊維の極限粘度が上記範囲のとき、セパレータの製造過程で繊維が洗浄された際や、繊維が叩解された際に、繊維の内部まで水が浸入しやすい。このため、繊維表層だけでなく繊維内部のイオン性不純物まで抽出され、セパレータのイオン性不純物も低減させやすい。従って、本発明のセパレータを用いた電気化学素子が、高温環境で使用されたとしても、セパレータ内部から電解液に溶出する不純物を低減できる。
【0033】
本発明のセパレータは、セルロース系繊維の極限粘度を150〜500ml/gの範囲とすることで、電気化学素子用セパレータとして必要な耐久性を維持しつつ、繊維の親液性や保液性を高めて低抵抗化すると共に、イオン性不純物を効率よく除去できる。
繊維の耐久性と親液性・保液性のバランスの観点から、セルロース系繊維の極限粘度は、200〜400ml/gがより好ましく、250〜350ml/gが更に好ましい。
【0034】
本発明に用いるセルロース系繊維は、天然セルロース繊維と比べて極限粘度を制御しやすいため、セルロースを溶解した後に貧溶媒浴で再生して得られる再生セルロース繊維が好ましい。
再生セルロース繊維の中でも、純度の高い再生セルロース繊維を得られるため、セルロースの化学変化を経ずに溶解・再生される溶剤紡糸セルロースがより好ましい。但し、再生セルロース繊維であっても、キュプラ繊維やビスコースレーヨン繊維、ポリノジックレーヨン繊維は、製法上、銅や硫酸イオン等の不純物を多量に含むため、適さない。
【0035】
また、本発明に用いるセルロース系繊維は、上述した不純物除去の観点から、叩解して用いることが好ましい。
【0036】
このようなセルロース系繊維を用いることで、親液性や保液性が良好で、繊維内部のイオン性不純物まで除去したセパレータとすることができる。
【0037】
本発明のセパレータを石英管燃焼法で測定した全塩素含有量は、30ppm以下が好ましい。
本発明のセパレータに含まれる塩素含有量は「セパレータを石英管燃焼法により燃焼分解し、発生ガスを吸収液に吸収させ、イオンクロマトグラフ法によって定量」した塩素量であって、従来管理されてきた、セパレータから水に抽出される塩化物イオン量とは異なり、セパレータに含有される全塩素量である。
セパレータに含まれる全塩素含有量は、30ppm以下が好ましい。より好ましくは15ppmであり、更に好ましくは10ppmである。
【0038】
電気化学素子がアルミニウム電解コンデンサの場合は、セパレータに含有される全塩素が30ppmを超過すると、セパレータに含浸保持された電解液に塩素がイオン化して浸出し、陽極酸化被膜を侵し、弁作動によるガス漏れや液漏れ、或いはショートにいたる。
電気化学素子が電気二重層キャパシタ(電気二重層コンデンサ)の場合、セパレータに含浸保持された電解液に塩素がイオン化して浸出し、集電体であるアルミニウム箔を侵し、容量の低下や抵抗の増大を招く。
【0039】
本発明のセパレータは、セルロース系繊維の極限粘度が150〜500ml/gの範囲であり、また、セパレータとして要求されるその他の機能を阻害しない範囲であれば、再生セルロース繊維以外の繊維も特に限定なく使用できる。
【0040】
本発明に用いるセルロース系繊維の製造方法には、特に限定はないが、極限粘度の制御、及び高純度化のため、セルロース系繊維の原材料となるパルプは、アルカリ法、サルフェート法(クラフト法)、サルファイト法、といった蒸解方法が採用できる。また、蒸解前や蒸解後に加水分解処理を行うことで、更に純度を高めてもよい。更に、漂白処理をしてもよい。なお、漂白する場合、塩化物イオンの残留の観点から、無塩素漂白が好ましく、無塩素漂白の中でも、完全無塩素漂白がより好ましい。
そして、このような原材料を溶解し、再生することで、所望の極限粘度の再生セルロース繊維を得ることができる。
ただし、セパレータ原料となる繊維の製造方法に限定はなく、上述した蒸解方法や漂白方法に限定されるものではない。
【0041】
セパレータの厚さは10〜80μm程度が、セパレータの密度は0.25〜1.00g/cm
3程度が、それぞれ一般的に用いられ、更に、これらの厚さ及び密度のシートを組み合わせることで多層構造としたものもある。
しかし、本発明では、セルロース系繊維の極限粘度が150〜500ml/gであれば、セパレータの厚さ及び密度は特に限定されない。
【0042】
以上説明したとおり、セルロース系繊維を用いた極限粘度が500ml/g以下のセパレータは、親液性・保液性を高めることで低抵抗化することができ、また、セパレータ製造過程でイオン性不純物を容易に除去できる。そして、全塩素含有量が30ppm以下のセパレータであれば、例えばコンデンサを150℃のような高温環境で使用する場合であっても、コンデンサ特性の劣化を抑制し、また、ショート不良や内圧上昇による弁作動或いは液漏れの低減にも寄与できる。
そして、極限粘度が150ml/g以上のセルロース系繊維を用いたセパレータは、例えばコンデンサを150℃のような高温環境で使用する場合であっても、セパレータを構成する繊維の劣化を抑制し、コンデンサの特性劣化抑制に寄与できる。
さらに、近年要望されるほどの高温での使用ではない場合であっても、従来のセパレータを用いたコンデンサと比べ、長寿命化が可能となる。
【0043】
以下、本発明にかかる電気化学素子用セパレータ、及び当該電気化学素子用セパレータを備えた電気化学素子の具体的な各種実施例、比較例等について、詳細に説明する。
【0044】
〔極限粘度〕
『JIS P 8215セルロース希薄溶液−極限粘度数測定方法−銅エチレンジアミン法』に規定された、「6.A法−希薄濃度におけるセルロース極限粘度の測定」に従い、各繊維、パルプ、セパレータの極限粘度数を求め、極限粘度とした。
なお、合成繊維の極限粘度は測定していない。
【0045】
〔全塩素含有量〕
『JIS K 0127イオンクロマトグラフィー通則「6.3.5 有機化合物の燃焼前処理」』に記載された、石英管燃焼法よる前処理を行い、発生ガスを吸収液に吸収させてイオンクロマトグラフィー測定に使用した。つまり、試験片を全量完全燃焼させてガス化して、発生した塩素全量を測定した。
【0046】
〔抽出塩素含有量〕
『JIS C 2300−2電気用セルロース紙−第2部:試験方法「17塩素含有量」』の、「17.2.3限度法(抽出第3法)」に規定された方法で抽出液を得て、この抽出液を用いて、「17.2.4.3イオンクロマトグラフ法(測定)」に準じて抽出液の塩素含有量を測定し、抽出塩素含有量とした。
【0047】
〔CSF〕
『JIS P 8121−2「パルプ−ろ水度試験方法−第2部:カナダ標準ろ水度法」』に従い、セパレータに用いた繊維のろ水度を測定し、CSFとした。
【0048】
各実施例、比較例等に用いた各種パルプ及び繊維の極限粘度、及び塩素含有量を、表1に示す。なお、表1の塩素含有量は、叩解処理前の測定値である。
【0050】
表1からも明らかなように、抽出塩素含有量が2ppm以下と非常に少ない繊維やパルプであっても、全塩素含有量が少ないとは限らないことがわかる。
【0051】
表1に記載した各繊維、各パルプを用いて、以下の各実施例、比較例、従来例のセパレータを作製した。
なお、本実施の形態例では、セパレータは全て抄紙法により形成したが、セパレータの形成方法は抄紙法に限定されるものではない。
【0052】
本実施の形態例のセパレータの各種物性は、以下の方法により測定した。
【0053】
〔厚さ〕
「JIS C 2300−2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1 厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器及び測定方法 a) 外側マイクロメータを用いる場合」のマイクロメータを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法で、セパレータの厚さを測定した。
【0054】
〔密度〕
「JIS C 2300−2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 7.0A 密度」のB法に規定された方法で、絶乾状態のセパレータの密度を測定した。
【0055】
〔セパレータの極限粘度〕
セパレータの極限粘度は、上述した〔極限粘度〕と同じ方法で測定した。
なお、合成繊維のみからなるセパレータの極限粘度は測定していない。
また、合成繊維とセルロース繊維とを混合して作製したセパレータの極限粘度の値は、使用したセルロース繊維の極限粘度の値を用いた。
【0056】
〔全塩素含有量及び抽出塩素含有量〕
全塩素含有量及び抽出塩素含有量は、上述した〔パルプ及び繊維の塩素含有量〕と同じ方法で測定した。
【0057】
(実施例1)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの繊維1のみを用いて長網抄紙して、実施例1のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは80μm、密度は0.85g/cm
3であった。また、極限粘度は470ml/g、全塩素含有量は23.1ppm、抽出塩素含有量は0.4ppmであった。
【0058】
(実施例2)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF10mlの繊維2のみを用いて長網抄紙して、実施例2のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは60μm、密度は0.40g/cm
3であった。また、極限粘度は388ml/g、全塩素含有量は9.2ppm、抽出塩素含有量は0.2ppmであった。
【0059】
(実施例3)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの繊維3のみを用いて長網抄紙して、実施例3のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは40μm、密度は0.48g/cm
3であった。また、極限粘度は339ml/g、全塩素含有量は5.5ppm、抽出塩素含有量は0.1ppmであった。
【0060】
(実施例4)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの繊維4のみを用いて長網抄紙して、実施例4のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは30μm、密度は0.45g/cm
3であった。また、極限粘度は252ml/g、全塩素含有量は28.9ppm、抽出塩素含有量は0.5ppmであった。
【0061】
(実施例5)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの繊維5のみを用いて長網抄紙して、実施例5のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは25μm、密度は0.40g/cm
3であった。また、極限粘度は206ml/g、全塩素含有量は14.6ppm、抽出塩素含有量は0.3ppmであった。
【0062】
(実施例6)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの繊維6のみを用いて長網抄紙して、実施例6のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは10μm、密度は0.30g/cm
3であった。また、極限粘度は153ml/g、全塩素含有量は5.7ppm、抽出塩素含有量は0.4ppmであった。
【0063】
(実施例7)
50質量%の繊維3をコニカルリファイナーにより叩解したCSF0mlの原料と、叩解していない50質量%の繊維9(CSF780ml)とを混合して長網抄紙し、実施例7のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは40μm、密度は0.38g/cm
3であった。また、極限粘度は331ml/g、全塩素含有量は3.7ppm、抽出塩素含有量は0.3ppmであった。
【0064】
(実施例8)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlのパルプ1のみを用いて長網抄紙した、厚さ20μm、密度0.85g/cm
3のシートと、ディスクリファイナーにより叩解したCSF50mlの繊維4のみを用いて円網抄紙した、厚さ40μm、密度0.45g/cm
3のシートとを抄き合わせて、実施例8のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは60μm、密度は0.58g/cm
3であった。また、極限粘度は390ml/g、全塩素含有量は16.1ppm、抽出塩素含有量は0.5ppmであった。
【0065】
(比較例1)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの繊維7のみを用いて長網抄紙して、比較例1のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは40μm、密度は0.40g/cm
3であった。また、極限粘度は610ml/g、全塩素含有量は64.0ppm、抽出塩素含有量は0.7ppmであった。
なお、この比較例1は、特許文献5の実施例1を参考に作製したセパレータである。
【0066】
(比較例2)
ディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの繊維8のみを用いて長網抄紙して、比較例2のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは80μm、密度は0.75g/cm
3であった。また、極限粘度は135ml/g、全塩素含有量は9.7ppm、抽出塩素含有量は0.6ppmであった。
【0067】
(比較例3)
繊維9と繊維10とを50質量%ずつ混合して円網抄紙し、比較例3のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは40μm、密度は0.35g/cm
3であった。また、全塩素含有量は2.1ppm、抽出塩素含有量は0.4ppmであった。
このセパレータは合成繊維のみからなるセパレータであり、極限粘度は測定していない。
【0068】
(従来例1)
特許文献1の表1に従い、ディスクリファイナーにより叩解したCSF400mlのパルプ4のみを用いて円網抄紙し、従来例1のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは50μm、密度は0.50g/cm
3であった。また、極限粘度は680ml/g、全塩素含有量は55.8ppm、抽出塩素含有量は0.4ppmであった。
【0069】
(従来例2)
特許文献3の実施例1に従い、叩解していない60質量%のパルプ4(CSF660ml)と、40質量%の繊維7をコニカルリファイナーによりCSF100mlに叩解した原料とを、混合して長網抄紙し、従来例2のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは70μm、密度は0.48g/cm
3であった。また、極限粘度は604ml/g、全塩素含有量は47.3ppm、抽出塩素含有量は0.5ppmであった。
【0070】
(従来例3)
特許文献4の実施例2に従い、叩解していない50質量%の繊維7(CSF780ml)と、50質量%の繊維9をコニカルリファイナーによりCSF0mlに叩解した原料とを、混合して円網抄紙し、従来例5のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは25μm、密度は0.55g/cm
3であった。また、極限粘度は610ml/g、全塩素含有量は33.0ppm、抽出塩素含有量は0.6ppmであった。
【0071】
(従来例4)
特許文献2の実施例3に従い、パルプ3をディスクリファイナーにより叩解したCSF0mlの原料を用いて長網抄紙した、厚さ25μm、密度0.95g/cm
3の層と、パルプ2とパルプ3とを質量比1:1で混合したCSF700mlの原料を用いて円網抄紙した、厚さ25μm、密度0.32g/cm
3の層とを抄き合わせ、従来例4のセパレータを得た。
このセパレータの厚さは50μm、密度は0.64g/cm
3、であり、長網層と円網層との質量比は長網74:円網26であった。従って、セパレータ全体の各パルプの質量比は、パルプ3:パルプ2=87:13である。また、極限粘度は667ml/g、全塩素含有量は51.8ppm、抽出塩素含有量は0.4ppmであった。
【0072】
各実施例、比較例、従来例のセパレータ評価結果を、表2に示す。
【0074】
次に、表2に記載した各実施例、比較例のセパレータを用いて電気化学素子を作製した。
実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例3、従来例2乃至従来例4のセパレータをそれぞれ用いて、定格電圧16V、定格容量550μF、外径10mm、高さ20mmのアルミニウム電解コンデンサと、定格電圧2.5V、定格容量300F、直径35mm、高さ60mmの電気二重層キャパシタを作製した。
また、実施例8及び従来例4のセパレータをそれぞれ用いて、定格電圧450V、定格容量3.3μF、外径12mm、高さ20mmのアルミニウム電解コンデンサを作製した。
なお、比較例3のセパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサ及び電気二重層キャパシタは、作製直後の静電容量が定格容量と比べ20%以上少なかったため、詳細な素子評価は実施していない。
【0075】
各実施例、比較例のセパレータを用いて作製した電気化学素子の具体的な評価は、以下の条件及び方法で行った。
なお、本実施の形態例の電気化学素子は、全て一対の電極にセパレータを介在させて巻回し、有底円筒状のアルミニウムケース内に収納し、電解液を注入して含浸を行った後、封口ゴムで封止して作製した。
この作製方法は、電極部材と電解液が異なる以外は、アルミニウム電解コンデンサも電気二重層キャパシタも同様である。
【0076】
〔静電容量〕
アルミニウム電解コンデンサの静電容量は、「JIS C 5101−1 『電子機器用固定コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.7 静電容量」の方法により求めた。
また、電気二重層キャパシタの静電容量は、「JIS C 5160−1 『電子機器用固定電気二重層コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.5静電容量」の定電流放電法により求めた。
【0077】
〔インピーダンス〕
アルミニウム電解コンデンサの抵抗は、「JIS C 5101−1 『電子機器用固定コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.10 インピーダンス」の方法により求めた。
【0078】
〔内部抵抗〕
電気二重層キャパシタの内部抵抗は、「JIS C 5160−1 『電子機器用固定電気二重層コンデンサー第1部:品目別通則』」に規定された、「4.6内部抵抗」の交流(a.c.)抵抗法により測定した。
【0079】
更に、実施例、比較例、従来例のセパレータを用いた電気化学素子の寿命特性をはかる目的で、高温負荷試験及び長時間負荷試験を行い、試験前後の特性差等を算出した。
【0080】
〔アルミニウム電解コンデンサの高温負荷試験後特性変化率〕
以下の条件で、アルミニウム電解コンデンサの高温負荷試験を行った。
160℃環境下で、定格直流電圧を1000時間印加した。
この負荷試験中にショートした電気化学素子の個数を計数し、試験に供した電気化学素子数で除して、ショート不良率を算出した。
また、この負荷試験後、上記の測定方法により、負荷試験後の静電容量、及び、抵抗値(インピーダンス又は内部抵抗)を測定した。
そして、それぞれの負荷試験後の静電容量と初期の静電容量との差を、初期の静電容量で除して、高温負荷試験後の容量減少率を算出した。
また、高温負荷試験後の抵抗値と初期の抵抗値との差を、初期の抵抗値で除して、高温負荷試験後の抵抗増加率を算出した。
なお、このショート不良率、容量減少率及び抵抗増加率は、百分率で表記した。
【0081】
〔アルミニウム電解コンデンサの長時間負荷試験後の特性変化率〕
以下の条件で、アルミニウム電解コンデンサの長時間負荷試験を行った。
130℃環境下で、定格直流電圧を4000時間印加した。
そして、高温負荷試験後の特性変化率と同様の方法で、長時間負荷試験後の特性変化率を測定、算出した。
【0082】
〔電気二重層キャパシタのフロート試験〕
以下の条件で、電気二重層キャパシタのフロート試験を行った。
80℃環境下で、2.7Vの直流電圧を1000時間印加した。
この試験後、上記の測定方法により、フロート試験後の静電容量と内部抵抗を測定し、アルミニウム電解コンデンサと同様にフロート試験後の容量減少率及び抵抗増加率を算出した。
【0083】
〔電気二重層キャパシタのサイクル試験〕
以下の条件で、電気二重層キャパシタのサイクル試験を行った。
60℃環境下で、100Aの電流量で25000サイクルの充放電を行った。
この試験後、上記の測定方法により、サイクル試験後の静電容量と内部抵抗を測定し、アルミニウム電解コンデンサと同様にサイクル試験後の容量減少率及び抵抗増加率を算出した。
【0084】
作製したアルミニウム電解コンデンサの評価結果を表3に、電気二重層キャパシタの評価結果を表4に、それぞれ示す。
【0087】
表3及び表4からわかる通り、各実施例のアルミニウム電解コンデンサのインピーダンス、及び電気二重層キャパシタの内部抵抗の値は、比較例1及び各従来例の水準より小さい。これは、各実施例のセパレータの極限粘度が、比較例1及び各従来例と比べ低く、セパレータを構成する繊維間、及び繊維内部の電解液保持性が高まった結果と考えられる。
各実施例と、比較例1及び各従来例との比較から、セパレータの極限粘度は500ml/g以下が好ましいとわかる。
【0088】
また、比較例2のアルミニウム電解コンデンサの高温負荷試験後のショート不良率、及び電気二重層キャパシタのフロート試験後のショート不良率は、各実施例、従来例と比べ大幅に高い。これは、比較例2のセパレータの極限粘度が、各実施例及び従来例と比べ低すぎた結果、セパレータを構成する繊維が高温電解液中で分解したことが原因と考えられる。
比較例2と、各実施例及び各従来例との比較から、セパレータの極限粘度は150ml/g以上が好ましいとわかる。
【0089】
比較例3のアルミニウム電解コンデンサ及び電気二重層キャパシタは、初期の容量が定格容量より20%以上低かった。比較例3のセパレータは、合成繊維のみで構成したセパレータであり、セルロース系繊維を含有していないため、セパレータの親液性、電解液保持性が低かった結果と考えられる。
比較例3と、各実施例との比較から、セパレータは、セルロース系繊維を50質量%以上含有することが好ましいとわかる。
また、再生繊維である溶剤紡糸セルロース繊維のみからなる実施例1乃至実施例6と、天然繊維を含有した実施例8や従来例との比較から、再生繊維を用いることで電気化学素子の抵抗を低減できるとわかる。
【0090】
各実施例のアルミニウム電解コンデンサの長時間負荷試験後の容量減少率及び抵抗増加率と、電気二重層キャパシタのサイクル試験後の容量減少率及び抵抗増加率は、各従来例の水準と比べ低い。また、ほとんどの例でショート不良は一切発生していない。各実施例のセパレータの全塩素含有量は30ppm以下である。これは、セパレータを構成する繊維内部の塩化物イオン含有量も少ないことを示し、長時間の試験後であっても電解液中に塩化物イオンが抽出されにくく、電気化学素子の電極部材を侵すことがないためと考えられる。
各実施例と各従来例との比較から、セパレータの全塩素含有量は30ppm以下が好ましいとわかる。
【0091】
また、実施例8のアルミニウム電解コンデンサは、従来例4のアルミニウム電解コンデンサと比べ、初期のインピーダンスが大幅に低く、高温負荷試験及び長時間負荷試験後の容量減少率、抵抗増加率がともに低い。また、高温負荷試験後のショート不良も発生していない。このことから、本発明のセパレータを用いることで、電気化学素子の定格電圧に関わらず、電気化学素子の高温長寿命化が図れ、また、抵抗値も低減できるとわかる。
また、実施例8のセパレータの抽出塩素含有量は、従来例4のセパレータより多いにもかかわらず、このような結果であることから、アルミニウム電解コンデンサの高温環境下での信頼性や長寿命化には、従来検討されてきた抽出法による塩素含有量でなく、全塩素含有量が重要であるとわかる。
【0092】
表1に記載した繊維3と繊維6とを比較すると、繊維6の全塩素含有量が50%以上多いが、これらの繊維を用いた実施例3と実施例6のセパレータの全塩素含有量は略同じである。このように、表1の繊維1乃至繊維6の全塩素含有量と、これらの繊維のみを用いた表2の実施例1乃至実施例6のセパレータの全塩素含有量を比較すると、極限粘度が低いほどセパレータに用いたときの全塩素含有量の除去率が高いことがわかる。
一方、実施例5及び実施例6のアルミニウム電解コンデンサではわずかにショート不良が発生しており、前述した比較例2も考慮すると、極限粘度は200〜400ml/gがより好ましく、250〜350ml/gが更に好ましいとわかる。
【0093】
各実施例のセパレータの全塩素含有量と、アルミニウム電解コンデンサの長時間負荷試験後の容量減少率及び抵抗増加率、及び電気二重層キャパシタのサイクル試験後の容量減少率及び抵抗増加率から、セパレータの全塩素含有量が少ないほど、これらの特性変化を抑制することができるとわかる。実施例1乃至実施例7から、セパレータの全塩素含有量が15ppm以下であれば、より特性変化を抑制することができ、10ppm以下が更に特性変化を抑制することができるとわかる。
【0094】
以上説明したとおり、極限粘度が150〜500ml/gの本発明のセパレータを用いることで、電気化学素子に近年求められる過酷な使用環境での信頼性向上や、長寿命化、低抵抗化に寄与できる。
【0095】
以上、本実施の形態のセパレータをアルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタについて用いた例を説明した。
本発明に係る電気化学素子において、電極材料及び電解液材料、その他の部材等については、特別に限定を必要とすることはなく、種々の材料を用いることができる。
また、本発明の電気化学素子用セパレータは、本実施の形態例で説明した以外の電気化学素子、例えばリチウムイオンキャパシタやリチウム一次電池、リチウムイオン二次電池といった電気化学素子に適用することも可能である。