(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1は電動ウィンチが搭載された車両を示す概要図を、
図2は
図1の車両を上方から見た電動ウィンチの説明図を、
図3(a)は車両に設置された操作パネルを示す平面図,(b)は車室外から操作可能なリモコンを示す平面図を、
図4は電動ウィンチの詳細構造を示す斜視図を、
図5は電動モータ部の内部構造(減速機構)を示す平面図を、
図6は電動ウィンチの内部構造(ドラム周辺)を示す斜視図を、
図7は電動ウィンチを構成する部材の接続関係を示す模式図を、
図8はコントローラの周辺(電気系統)を示すブロック図を、
図9は後退検知部の動作を禁止させるロジックを示すフローチャートを、
図10はベルト位置記憶部に設けられた第1,第2しきい値を説明する説明図を、
図11は後退検知部の動作が禁止された状態を説明する説明図をそれぞれ示している。
【0019】
図1および
図2に示される車両10は、軽自動車(小型車)をベースとした福祉車両である。車両10の車室内でかつ後方側(図中右側)には、車椅子(牽引物)20を搭載する搭載スペース11が設けられている。搭載スペース11の車両前方側(図中左側)には、車両10の車幅方向(
図2における上下方向)に所定間隔で配置された一対の電動ウィンチ30が設けられている。これらの電動ウィンチ30は、車両10の運転席DRおよび助手席ASの下部にそれぞれ設置されている。なお、
図1においては、運転席DR側のみを図示している。
【0020】
一対の電動ウィンチ30は、それぞれ先端側にフック31が設けられたベルト32を備え、ベルト32は車椅子20を牽引するようになっている。ここで、フック31は、容易に変形しないよう十分な剛性を備えた鋼製となっている。そして、一対の電動ウィンチ30からベルト32をそれぞれ引き出して、それぞれのフック31を車椅子20の左右側にある一対の前フレーム21に引っ掛ける。その後、この状態で一対の電動ウィンチ30を同期動作させて一対のベルト32を引き込むことで、車椅子20は搭載スペース11に向けて移動される。
【0021】
搭載スペース11の車両後方側には、地面Jと車両10の床面Fとを緩やかな傾斜角度で接続するスロープ12が設けられ、このスロープ12は、合計3枚のアルミ板をスライド自在に組み合わせて形成されている。そして、車両10の走行時には、スロープ12はコンパクトに畳まれて、搭載スペース11の車両後方側で、かつ閉じられたバックドア13の内側等に立て掛けられる。
【0022】
そして、一対の電動ウィンチ30を同期動作させて一対のベルト32を引き込むことで、車椅子20は、
図2に示される状態からスロープ12上を移動していき、やがて
図1に示されるように床面F上に到達して、搭載スペース11内の固定位置に搬入される。ここで、固定位置とは、車椅子20が
図1および
図10の最上段に示される状態となる位置、つまり車椅子20が車両10に対してがたつかないように固定され、車両10が走行可能な状態となる位置のことを言う。
【0023】
ここで、車椅子20を車両10の搭載スペース11に搬入する際には、まず、後部座席(セカンドシート)RSを前方に倒した状態にする。これにより、軽自動車である車両10の後方に、比較的大きな搭載スペース11が出現する。そして、運転席DRおよび助手席ASと、前方に倒された後部座席RSとの間には、床面Fに向けて凹んだ窪み部Gが形成され、当該窪み部Gから一対のベルト32が引き出されるようになっている。
【0024】
また、一対の電動ウィンチ30を同期動作させて一対のベルト32を送り出すことで、搭載スペース11内に搭載された車椅子20がスロープ12上を移動していき、やがて床面Fから地面Jに搬出される。このようにスロープ12を設けることで、車椅子20を地面Jと床面Fとの間で容易に移動させることが可能となる。なお、一対の電動ウィンチ30は介助者(操作者)によって操作され、一対の電動ウィンチ30の操作中は、介助者は車椅子20の後方から当該車椅子20を支える(サポートする)ようにする。
【0025】
一対の電動ウィンチ30を制御する制御装置40は、
図2に示されるように構成されている。つまり、制御装置40は、一対の電動ウィンチ30,コントローラ50,操作パネル60およびリモコン70から構成されている。一対の電動ウィンチ30とコントローラ50との間および操作パネル60とコントローラ50との間には、それぞれ配線14が電気的に接続して設けられている。なお、リモコン70はワイヤレス式で無線によりコントローラ50と通信自在であり、リモコン70を車室外に持ち出すことで、一対の電動ウィンチ30を車室外から操作することができる。
【0026】
また、
図2に示されるように、車両10の床面Fにはフック15を備えた一対の固定ベルト16が設けられている。これらの固定ベルト16のフック15は、搭載スペース11にある車椅子20の左右側の一対の車輪22にそれぞれ引っ掛けられる。これにより、搭載スペース11に搭載された車椅子20は、ベルト32のフック31および固定ベルト16のフック15の合計4箇所で支持される。よって、車両10の固定位置において、車椅子20は移動したりがたついたりすることがない。
【0027】
なお、
図1に示されるように、車椅子20が搭載スペース11内の固定位置に固定された状態では、車椅子20の左右側でかつ前方側に設けられた一対のキャスター(小車輪)23は、前方に倒された後部座席RSの上に配置されている。言い換えれば、軽自動車(小型車)である車両10の内部空間を有効に利用して、比較的大きな搭載スペース11を形成している。
【0028】
操作パネル60は、
図3(a)に示されるように、パネル本体61を備えている。パネル本体61は車両10の後方側に配置され、操作パネル60は車室外から容易に操作可能となっている。パネル本体61には、主電源スイッチ62,ベルトフリースイッチ63,速度切替スイッチ64およびブザー(報知部)65が設けられている。
【0029】
主電源スイッチ62は、制御装置40のシステム電源を入れるときに操作するスイッチである。そして、主電源スイッチ62をオン操作することでシステム電源が入り、インジケータ62aが点灯するようになっている。ここで、主電源スイッチ62は、制御装置40を初期化するときにも操作され、例えば、3秒以上の長押しをすることで制御装置40が初期化される。
【0030】
ベルトフリースイッチ63は、一対の電動ウィンチ30をアンロック状態とするときに操作するスイッチである。そして、ベルトフリースイッチ63をオン操作することで、一対のベルト32をそれぞれ手動で自由に引き出したり収納したり(出し入れ)することができる。つまり、ベルトフリースイッチ63をオン操作し、一対のベルト32を引き出して、車室外にある車椅子20に一対のフック31を引っ掛けたり、一対の電動ウィンチ30からそれぞれ引き出された一対のベルト32の長さを揃えたりできる。ここで、ベルトフリースイッチ63をオン操作すると、インジケータ63aが点灯するようになっている。
【0031】
速度切替スイッチ64は、車椅子20を搭載スペース11に搭載したり搭載スペース11から降ろしたりする際に、一対のベルト32の移動速度、つまり引き込み速度や送り出し速度を、低速(LOW)または高速(HIGH)に切り替えるときに操作するスイッチである。
【0032】
また、ブザー65は、一対のベルト32の引き込み作動時や送り出し作動時(正常作動時)、さらには一対の電動ウィンチ30の動作不良時(故障発生時)等において、電子音等の警告音を吹鳴するようになっている。つまり、ブザー65は、車椅子20の後退等を周囲に知らせるようになっている。ここで、警告音としては電子音に限らず、音声によるアナウンスであっても良い。
【0033】
リモコン70は、ワイヤレスリモートコントロールユニットで、操作パネル60の主電源スイッチ62が操作され、制御装置40のシステム電源が入っているときに使用可能となる。リモコン70は、
図3(b)に示されるように、リモコン本体71を備えている。リモコン本体71には、リモコン電源スイッチ72,入スイッチ73および出スイッチ74が設けられている。リモコン70は、さらにインジケータ75を備えており、当該インジケータ75は、リモコン70の操作時等に点灯するようになっている。
【0034】
なお、リモコン70の操作は、介助者が行うようにする。そして、介助者によりリモコン電源スイッチ72をオン操作し、その後、入スイッチ73または出スイッチ74を押すことで、一対の電動ウィンチ30が同期して作動する。具体的には、入スイッチ73を押している間は、一対の電動ウィンチ30が継続して作動して、車椅子20の搭載スペース11への搬入が補助される。一方、出スイッチ74を押している間は、一対の電動ウィンチ30が逆回転して、車椅子20の搭載スペース11からの搬出が補助される。
【0035】
ただし、リモコン70の操作中は、介助者は車椅子20のグリップGR(
図1参照)を把持して、車椅子20を支持するとともに、その移動を誘導するようにする。このように、制御装置40は、一対の電動ウィンチ30を制御することで、介助者による車椅子20の移動を補助するようになっている。
【0036】
図4および
図7に示されるように、電動ウィンチ30は、電動モータ部80とドラム部90とを備えている。これらの電動モータ部80およびドラム部90は、図示しない複数の締結ネジにより一体化(ユニット化)されている。
【0037】
電動モータ部80は、モータ部81とギヤ部82とを備えている。モータ部81の内部には、
図5に示されるように、複数のマグネット81aが設けられ、これらのマグネット81aの内側には、コイル81bが巻装されたアーマチュア81cが回転自在に設けられている。アーマチュア81cの回転中心にはアーマチュア軸81dが固定されている。アーマチュア軸81dの長手方向中間部分には、一対のブラシ81eが摺接する整流子81fが設けられ、一対のブラシ81eから整流子81fを介してコイル81bに駆動電流を供給することで、アーマチュア軸81dは回転する。
【0038】
アーマチュア軸81dの先端側(図中左側)には、ウォーム81gが一体に設けられ、このウォーム81gはギヤ部82の内部にまで延ばされている。ギヤ部82の内部には、ウォーム81gと噛み合うウォームホイール82aが回転自在に設けられ、これらのウォーム81gおよびウォームホイール82aによって減速機構SDを構成している。そして、減速機構SDは、アーマチュア軸81dの回転R1を減速して高トルク化し、高トルク化された回転R2を、ウォームホイール82aを介して出力軸83から外部に出力するようになっている。ここで、出力軸83はドラム部90に向けて突出され、ドラム部90を形成するドラム92(
図6参照)を回転させる。つまり、モータ部81は、ベルト32を開口部91a(
図4参照)から出し入れするようになっている。
【0039】
このように、減速機構SDを、ウォーム81gおよびウォームホイール82aからなるウォーム減速機とすることで、出力軸83からの回転力をアーマチュア軸81dに伝達し難くしている。すなわち、ウォーム81gおよびウォームホイール82aよりなる減速機構SDは、ドラム部90から伝わる出力軸83の回転を止める制動力を発生するようになっている。
【0040】
図7に示されるように、ギヤ部82(ウォームホイール82a)と出力軸83との間、つまりモータ部動力伝達経路におけるドラム92とモータ部81との間には、電磁クラッチ84が設けられている。電磁クラッチ84は、コントローラ50(
図2参照)により制御され、ドラム92およびモータ部81を締結状態または開放状態とする。具体的には、電磁クラッチ84を締結状態とすることで、ドラム92とモータ部81とが動力伝達可能に接続され、電磁クラッチ84を開放状態とすることで、ドラム92とモータ部81とが切り離される。
【0041】
ここで、電磁クラッチ84は、ウォームホイール82aと一体回転する第1プレート(図示せず)と、出力軸83と一体回転する第2プレート(図示せず)と、ステータコイル(図示せず)とを備えている。そして、ステータコイルに駆動電流を供給することでステータコイルが電磁力を発生し、これにより各プレートは吸引されて締結される(締結状態)。これに対し、ステータコイルへの駆動電流の供給を停止することで、各プレートは切り離される(開放状態)。
【0042】
ドラム部90は、
図4に示されるようにケーシング91を備えている。ケーシング91は略箱形状に形成され、その内部には、
図6に示されるドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ケーシング91の外部には、ドラム92に巻かれるベルト32の弛みを取り除く弛み取りモータ95,ドラム92の回転を検出する回転センサ96,電動モータ部80や弛み取りモータ95等に駆動電流を供給するための外部コネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部97等が設けられている。
【0043】
ケーシング91の側部には、開口部91aが形成されており、当該開口部91aからは、ベルト32が出入り自在となっている。ベルト32は、ケーシング91の開口部91aの近傍に設けられた案内部材98によって出入りが案内され、これによりベルト32が捻れるのを防止している。また、案内部材98はフック31の通過を許さず、これによりベルト32の全てがケーシング91内に引き込まれてしまうのを防止している。
【0044】
ここで、
図4の符号STは、電動ウィンチ30を車両10の床面F(
図2参照)に固定するための一対の取付ステーであり、これらの取付ステーSTは、図示しない複数の締結ボルトによって床面Fに強固に固定されている。これにより電動ウィンチ30は、車両10に対してがたつくことなく強固に固定される。
【0045】
また、ケーシング91の内部には、ドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されるが、弛み取りモータ95,案内部材98およびフック31については、ケーシング91の外部に配置されている。
【0046】
ドラム92にはベルト32が巻かれ、当該ドラム92の回転中心には、ドラム軸92aが一体回転可能に取り付けられている。ドラム軸92aには、電動モータ部80の出力軸83(
図5参照)の回転が伝達されるようになっており、ドラム軸92aおよびドラム92は、電動モータ部80の正逆方向への回転駆動に伴って正逆方向に回転駆動される。これにより、ベルト32をケーシング91内に引き込んだり、ケーシング91外に送り出したりすることができる。
【0047】
ドラム92とドラム軸92aとの間には、
図7に示されるように、ワンウェイクラッチ92bが設けられている。ワンウェイクラッチ92bは、ドラム軸92aがベルト32の引き込み方向(
図6において反時計回り方向)に向かって回転する際、そのままこの回転をドラム92に伝達するよう構成されている。これに対し、ドラム軸92aよりも先にドラム92がベルト32の引き込み方向に向かって回転すると、ドラム92の回転はドラム軸92aに伝達されず、ドラム92は空回り可能となっている。
【0048】
ラチェット機構93は、ドラム92に一体回転可能に設けられたラッチギヤ93aと、ラッチギヤ93aと係合し、ドラム92のベルト32の引き込み方向への回転を許容し、ベルト32の送り出し方向への回転(
図6において時計回り方向)を規制する揺動自在な歯止め93bと、歯止め93bを揺動駆動するソレノイド駆動部材93cとを備えている。
【0049】
ソレノイド駆動部材93cは駆動ピン93dを備えており、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cに駆動電流を供給することで、駆動ピン93dはピンの軸方向に移動して引っ込むようになっている。これにより、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解かれてアンロック状態となり、ベルト32の引き込み方向および送り出し方向の双方にドラム92が回転自在となる。このように、ドラム92を双方向に回転自在とすることで、車椅子20を搭載スペース11から降ろせるようになる。
【0050】
これに対し、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止することで、図示しない復帰ばねのばね力により駆動ピン93dは突出するようになっている。これにより、ラッチギヤ93aに歯止め93bが係合してロック状態となり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92の回転を許容しつつ、ベルト32の送り出し方向へのドラム92の回転が規制され、ひいてはスロープ12上での車椅子20の後退が防止される。
【0051】
弛み取り機構94は、ドラム92に一体回転可能に設けられたスパーギヤ94aと、スパーギヤ94aと噛み合う小径ギヤ94bと、弛み取りモータ95により回転駆動される減速ギヤ機構94cとを備えている。弛み取りモータ95は、ドラム92がベルト32を巻き取る方向の回転力を発生し、弛み取りモータ95の回転力は、減速ギヤ機構94c,小径ギヤ94b,トルクリミッタ94dおよびスパーギヤ94aを介してドラム92に伝達される。
【0052】
ここで、小径ギヤ94bと減速ギヤ機構94cとの間には、
図7に示されるように、トルクリミッタ94dが設けられ、当該トルクリミッタ94dは、一定以上のトルクの伝達をカットするようになっている。これにより、弛み取りモータ95に過負荷が掛かるのを防止し、弛み取りモータ95が保護される。つまり、弛み取りモータ95には、ベルト32の弛みを取ることができる程度のトルク(低トルク)を発生し得る小型モータを採用することができる。
【0053】
図8に示されるように、コントローラ50には、一対の電動ウィンチ30(図示では一方のみ示す)の他に、イグニッションスイッチIG,車速センサVS,シフトポジションセンサSP,操作パネル60およびブザー65が、配線14(
図2参照)等を介して電気的に接続されている。また、コントローラ50には、リモコン70からの種々の操作信号を無線により受信可能となっている。
【0054】
コントローラ50は、種々の入力信号に基づいて、電動ウィンチ30を統括的に制御、つまり車椅子20を牽引するベルト32の出し入れを制御する駆動制御部51を備えている。駆動制御部51は、電動ウィンチ30の駆動系部品であるモータ部81,電磁クラッチ84,ソレノイド駆動部材93cおよび弛み取りモータ95を、それぞれ制御するようになっている。
【0055】
また、コントローラ50には、ドラム92の回転状態を示す回転信号rが入力されるとともに、モータ部81を流れる電流信号Aが入力されるようになっている。これにより、駆動制御部51は、回転信号rおよび電流信号Aに基づいて、電動ウィンチ30の駆動状態を把握する。
【0056】
ここで、コントローラ50は、イグニッションスイッチIGからのON信号の入力により起動され、これにより電動ウィンチ30はスタンバイ状態となる。このとき、駆動制御部51は、車速センサVSからの車速信号V(m/s)が入力され、車両10が走行中であると判断した場合には、電動ウィンチ30の動作を禁止する。これに加えて、駆動制御部51は、シフトポジションセンサSPからの信号がパーキング信号(P信号)以外である場合にも、車両10が停車状態にないと判断して、電動ウィンチ30の動作を禁止する。
【0057】
このように、駆動制御部51は、車両10が確実に停車されていることをトリガとして、電動ウィンチ30の動作を許可するようになっている。よって、制御装置40(
図2参照)は、信頼性および安全性の高いものとなっている。
【0058】
また、コントローラ50には、ベルト32の引き出し量を検出するベルト引き出し量検出部52が設けられている。そして、コントローラ50は、ベルト引き出し量検出部52によって検出されたベルト32のドラム92(
図6参照)からの引き出し量に基づいて、車椅子20が車両10(
図1参照)に対してどの位置にあるのかを把握する。そして、このベルト32の引き出し量の情報(車椅子20の位置情報)は、駆動制御部51,しきい値格納部53および後退検知部54に出力される。
【0059】
駆動制御部51は、入力された車椅子20の位置情報に基づいて、電動ウィンチ30を制御する。具体的には、駆動制御部51による電動ウィンチ30の制御内容には、例えば、下記(1)〜(5)に示されるような制御内容が挙げられる。
【0060】
(1)車椅子20が搭載スペース11に搬入される直前において、電動ウィンチ30のモータ部81の回転速度を遅くなるよう制御する。これにより要介護者に不安感を与えないようにできる。このとき、「間もなく車両への搭載が終了します。」等のアナウンスを、ブザー65を介して行っても良い。
【0061】
(2)車椅子20の搬入時で、かつスロープ12上に乗り上げられる直前において、電動ウィンチ30のモータ部81の回転速度を遅くなるよう制御し、これにより要介護者に不安感を与えないようにできる。このとき、「スロープ上に移動します。グリップを掴んで下さい。」等のアナウンスを、ブザー65を介して行っても良い。
【0062】
(3)一対の電動ウィンチ30からのベルトの引き出し量をそれぞれ同じ長さに揃えて、例えば、車椅子20の進行方向がスロープ12上で曲がってしまうような不具合をなくすことができる。このとき、「ベルトの引き出し量を調整しています。車椅子を繋げないで下さい。」等のアナウンスを、ブザー65を介して行っても良い。
【0063】
(4)車椅子20の搬入時であって、かつ車椅子20がスロープ12上にあるとき、すなわち、電動ウィンチ30に対する負荷が大きいときに、モータ部81への通電電流を大きくして、モータ部81の出力を高める制御を行うことができる。これにより、車椅子20を搭載スペース11に迅速に搬入可能となる。
【0064】
(5)車椅子20の車室外への搬出時であって、かつ車椅子20がスロープ12上にあるとき、すなわち、電動ウィンチ30に対する負荷が大きいときに、モータ部81への通電電流を小さくして、モータ部81にブレーキを掛ける制御を行うことができる。これにより、車椅子20のスロープ12上での急加速を抑えて、要介護者に不安感を与えることがない。
【0065】
ここで、ベルト32の引き出し量は、ベルト32が巻かれたドラム92の回転を検出する回転センサ96からのパルス信号(回転信号r)の「オン」のカウント数(
図10のPct参照)に比例した値となっている。つまり、ベルト32の引き出し量の増減は、カウント数Pctの増減に比例する。そして、ベルト引き出し量検出部52では、車椅子20が車両10の固定位置に固定された状態(
図10の最上段の状態)のときのカウント数Pctを、車椅子20の基準位置(搬入完了状態の位置)n1として記憶している。
【0066】
なお、回転センサ96はホール素子よりなり、回転センサ96と対向するドラム92の部分には、当該ドラム92の回転に伴い回転するリングマグネット(図示せず)が設けられている。これにより、回転センサ96は、リングマグネットの相対回転に伴い「オン」または「オフ」を示す矩形波信号(パルス信号)を発生する。
【0067】
また、ベルト引き出し量検出部52に記憶された基準位置n1は、イグニッションスイッチIGの操作に関わらず、制御装置40(
図2参照)のシステム電源をオフにしても消失することがない。
【0068】
さらに、しきい値格納部53には、ベルト32の引き出し量(カウント数Pct)と比較される第1しきい値TH1および第2しきい値TH2が格納(記憶)されている。これらの第1,第2しきい値TH1,TH2においても、イグニッションスイッチIGの操作に関わらず、制御装置40のシステム電源をオフにしても消失することがない。
【0069】
そして、第1しきい値TH1は、本発明における比較しきい値を構成している。具体的には、第1しきい値TH1の大きさは、
図10に示されるように、車椅子20が車両10の固定位置に固定された状態、つまり[乗車完了状態]のときのベルト32の引き出し量(=基準位置n1)よりも若干小さい値に設定されている(TH1<n1)。
【0070】
よって、コントローラ50により、カウント数Pctが第1しきい値TH1よりも小さいと判断された場合(Pct<TH1)、すなわちカウント数Pctがカウント小領域AR1にある場合には、ベルト32は車椅子20に接続されていないと判断することができる。言い換えれば、第1しきい値TH1は、ベルト32が車椅子20に接続されているか否かを判断するのに用いられるしきい値となっている。
【0071】
これに対し、第2しきい値TH2は、第1しきい値TH1よりも大きい値に設定されている(TH2>TH1)。具体的には、第2しきい値TH2の大きさは、
図10に示されるように、車椅子20が車両10の車室外に出ている状態、つまり[降車完了状態]のときのベルト32の引き出し量n3よりも若干小さい値に設定されている(TH2<n3)。
【0072】
ここで、ベルト32が引き出し量n3の状態とは、車椅子20の車輪22の車軸部分の位置が、スロープ12から所定距離Sの分だけ離れており、車輪22が確実に地面Jの上にある状態のことである。このような状態であれば、車椅子20のキャスター23がスロープ12の上にあったとしても、車椅子20は後退することがない。
【0073】
よって、コントローラ50により、カウント数Pctが第2しきい値TH2よりも大きいと判断された場合(Pct>TH2)、すなわちカウント数Pctがカウント大領域AR3にある場合には、車椅子20は確実に車室外に出ていると判断することができる。言い換えれば、第2しきい値TH2は、車椅子20が車室外に出ているか否かを判断するのに用いられるしきい値となっている。
【0074】
以上のことから、コントローラ50は、カウント数Pctが、第1しきい値TH1と第2しきい値TH2との間のカウント中領域AR2にある場合(TH1≦Pct≦TH2)には、車椅子20は傾斜した床面Fまたはスロープ12上にあると判断することができる。例えば、
図10に示されるように、ベルト32が引き出し量n2(n1<n2<n3)の状態においては、車椅子20はスロープ12上にあり、このときの車椅子20は[乗降途中状態]であると判断できる。言い換えれば、第1,第2しきい値TH1,TH2は、いずれも車椅子20が傾斜状態にあるか否かを判断するのに用いられるしきい値となっている。
【0075】
さらに、
図8に示されるように、コントローラ50には、車椅子20が後退していることを検知する後退検知部54が設けられている。後退検知部54には、ベルト引き出し量検出部52と同様に、ベルト32が巻かれたドラム92の回転を検出する回転センサ96から、パルス信号(回転信号r)が入力される。そして、後退検知部54は、カウント数Pctの増減を監視して、車椅子20の搬入時、つまりカウント数Pctが減少すべき場合において、カウント数Pctが増加した場合に、車椅子20が何らかの原因(電動ウィンチ30の故障等)で後退していると判断する。その後、後退検知部54は、ブザー65を駆動して警告音を吹鳴させる。
【0076】
また、後退検知部54は、車椅子20の搬出時において、カウント数Pctが急激に増加するような場合にも、車椅子20が何らかの原因(電動ウィンチ30の故障等)で異常な後退をしていると判断する。その後、後退検知部54は、ブザー65を駆動して警告音を吹鳴させる。
【0077】
なお、後退検知部54は、コントローラ50の起動に伴い機能するようになる。つまり、後退検知部54は、イグニッションスイッチIGからのON信号の入力に基づいて起動される。
【0078】
次に、以上のように形成された制御装置40の動作について、図面を用いて詳細に説明する。なお、
図9に示されるフローチャートは、特に、ベルト引き出し量検出部52,しきい値格納部53および後退検知部54の具体的な動作内容を示している。
【0079】
まず、操作者等によりイグニッションスイッチIGがオン操作されると、コントローラ50にON信号が出力される。すると、イグニッションスイッチIGからのON信号の入力に基づいて、コントローラ50が起動される。これに伴い、後退検知部54も起動される(ステップS1)。
【0080】
ステップS2では、コントローラ50が、操作パネル60の主電源スイッチ62(
図3(a)参照)がON操作されたか否かを判断する。ステップS2で「no」と判定された場合には、「yes」と判定されるまでステップS2の判断処理を繰り返す。そして、ステップS2で「yes」と判定された場合には、次のステップS3に進む。
【0081】
ステップS3では、駆動制御部51が、弛み取り機構94の弛み取りモータ95(
図6参照)を駆動する。これにより、例えば、
図11の破線部分に示されるように、ベルト32が引き出された状態のままで放置されている場合には、ベルト32が矢印M1のように電動ウィンチ30(ドラム92)に巻き取られていく。つまり、ベルト32の弛みが取り除かれていく。このとき、ベルト32のフック31には車椅子20が繋がれていないので、フック31は後部座席RSの上を滑るようにして移動し、弛み取りモータ95の低トルクでもベルト32を十分に巻き取ることができる。
【0082】
ステップS4では、後退検知部54が、車椅子20が後退されたか否かを判断する。すなわち、ステップS4では、後退検知部54により、ベルト32が引き出されてカウント数Pctが増加したか否かが判断される。ステップS4で「no」と判定された場合には、「yes」と判定されるまでステップS4の判断処理を繰り返す。そして、ステップS4で「yes」と判定された場合には、次のステップS5に進む。
【0083】
ステップS5では、コントローラ50が、カウント数Pctが第1しきい値TH1よりも小さいか否かを判断する。つまり、コントローラ50は、ベルト32の引き出し量が、カウント小領域AR1にあるか否かを判断する。ステップS5で「no」と判定された場合にはステップS8に進み、ステップS5で「yes」と判定された場合にはステップS6に進む。
【0084】
続くステップS6では、ステップS4においてベルト32が引き出されたと判断されたこと、かつステップS5においてベルト32の引き出し量がカウント小領域AR1にあると判断(
図11において引き出し量n0と判断)されたことから、コントローラ50は、ベルト32のフック31が電動ウィンチ30に近付いて、かつ窪み部Gに落下したと推定する。
【0085】
そして、
図11に示される状態では、車椅子20が実際に後退しているわけではないので、ブザー65(
図3(a)参照)から警告音を吹鳴させるべきではなく、ブザー65を駆動しない方が望ましい。そこで、本実施の形態では、ステップS6において、後退検知部54の動作を禁止する処理を実行する。具体的には、ステップS6では、コントローラ50が後退検知部54の機能の一部を停止させて、ブザー65を駆動させない(警告音を吹鳴させない)ようにしている。
【0086】
これにより、操作者はブザー65の突然の警告音の吹鳴に驚くことがなく、さらには、主電源スイッチ62を長押しして制御装置40を初期化することでブザー65の駆動を停止させる作業(誤吹鳴停止作業)をせずに済む。
【0087】
その後のステップS7では、コントローラ50は、操作者によりベルト32を自由に出し入れ可能なベルトフリーモードへの移行(切り替え)を許可する処理を実行する。これにより、操作パネル60のベルトフリースイッチ63(
図3(a)参照)が使用可能となり、操作者がベルトフリースイッチ63を操作することで、ベルト32を自由に出し入れ可能となる。すなわち、例えば、車椅子20を搭載スペース11に搬入するためにベルト32を引き出し、当該ベルト32のフック31を車椅子20の前フレーム21に繋ぐ作業が可能となる。その後、上流のステップS2に戻る。
【0088】
ステップS8では、コントローラ50が、カウント数Pctが第1しきい値TH1と第2しきい値TH2との間にあるか否か(TH1≦Pct≦TH2であるか否か)を判断する。ステップS8で「no」と判定された場合にはステップS11に進み、ステップS8で「yes」と判定された場合にはステップS9に進む。
【0089】
続くステップS9では、ステップS4においてベルト32が引き出されたと判断されたこと、かつステップS8においてベルト32の引き出し量がカウント中領域AR2にあると判断されたことから、コントローラ50は、ベルト32のフック31に繋がれた車椅子20が後退していると推定する。
【0090】
そして、このような状態においては、ブザー65から警告音を吹鳴させて周囲に注意を促すべきである。したがって、ステップS9では、コントローラ50が、後退検知部54の動作を許可する処理を実行する。これにより、操作者は、ブザー65からの警告音の吹鳴によって、車椅子20のそれ以上の後退を防止するよう車椅子20を支持したりする(サポートする)ことが可能となる。
【0091】
その後のステップS10においては、ベルト32の引き出し量がカウント中領域AR2にあり、車椅子20が傾斜された床面Fまたはスロープ12上にあることから、コントローラ50は、ベルトフリーモードへの移行を禁止する処理を実行する。つまり、ベルト32の引き出し量がカウント中領域AR2にある場合には、操作パネル60におけるベルトフリースイッチ63の操作が無効となる。その後、上流のステップS2に戻る。
【0092】
ステップS11では、ステップS4においてベルト32が引き出されたと判断されたこと、かつステップS8においてベルト32の引き出し量がカウント大領域AR3にあると判断されたことから、コントローラ50は、車椅子20が外部に搬出され、かつベルト32のフック31に繋がれた車椅子20が後退していると推定する。
【0093】
この場合は、例えば、車両10の後方側の地面Jが坂の下を向いているような場所で搬出され、外部に搬出された状態であっても車椅子20が後退していることを意味する。そのため、ブザー65から警告音を吹鳴させて周囲に注意を促すべきである。したがって、ステップS11では、コントローラ50は、後退検知部54の動作を許可する処理を実行する。これにより、操作者は、ブザー65からの警告音の吹鳴によって、車椅子20のそれ以上の後退を防止するよう車椅子20を支持したりする(サポートする)ことが可能となる。
【0094】
その後のステップS12では、コントローラ50は、操作者によりベルト32を自由に出し入れ可能なベルトフリーモードへの移行を許可する処理を実行する。これにより、操作パネル60のベルトフリースイッチ63が使用可能となり、操作者がベルトフリースイッチ63を操作することで、ベルト32を自由に出し入れ可能となる。つまり、ベルト32を少しだけ引き出してフック31を車椅子20から外したり、外したベルト32を電動ウィンチ30に引き込ませたりする(仕舞ったりする)ことが可能となる。その後、上流のステップS2に戻る。
【0095】
以上詳述したように、本実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、しきい値格納部53には、ベルト32の引き出し量と比較される第1しきい値TH1が設けられ、コントローラ50は、ベルト32の引き出し量が第1しきい値TH1よりも小さいときに、後退検知部54の動作を禁止する。
【0096】
これにより、ベルト32が車室内で多少の弛みを持って放置されたまま電源がオフされ、その後再度電源がオンされて弛み取りモータ95が作動したとしても、後退検知部54を動作させないようにできる。したがって、車椅子20の後退ではない場合に警告音の吹鳴を禁止させることができ、ひいては利便性および信頼性を向上させることが可能となる。
【0097】
また、本実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、後退検知部54は、車椅子20が後退していることを検知すると、車椅子20の後退を周囲に知らせるブザー65を駆動する。
【0098】
これにより、操作者は、ブザー65からの警告音の吹鳴によって、車椅子20のそれ以上の後退を防止するよう車椅子20を支持することが可能となる。
【0099】
さらに、本実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、第1しきい値TH1は、車椅子20が車室内の固定位置にあるときのベルト32の引き出し量(=基準位置n1,
図10参照)よりも小さい。
【0100】
これにより、車椅子20が車室内の固定位置にある状態から後退した場合においても、コントローラ50は、確実にブザー65から警告音を吹鳴させることができる。
【0101】
また、本実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、コントローラ50は、ベルト32の引き出し量が第1しきい値TH1よりも小さいときに、操作者によりベルト32を自由に出し入れ可能なベルトフリーモードへの切り替えを許可する。
【0102】
これにより、車椅子20を搭載スペース11に搬入するためにベルト32を引き出し、当該ベルト32のフック31を車椅子20の前フレーム21に繋ぐ作業が可能となり、利便性を低下させずに済む。
【0103】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態では、牽引物が車椅子20であるものを示したが、本発明はこれに限らず、牽引物がキャスター付きの担架であっても良い。
【0104】
また、上記実施の形態では、一対の電動ウィンチ30を、運転席DRおよび助手席ASの下部にそれぞれ設置した場合を示したが、本発明はこれに限らず、車両10の後方下部等、他のデッドスペースに設置しても構わない。
【0105】
その他、上記実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であって、上記実施の形態に限定されるものではない。