【実施例】
【0017】
NCCMの生物活性の分画中に存在するタンパク質を、液体クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析法(LC−MS/MS)を使用して同定した。NCCM中で同定されたTGFβ1、CTGFおよびWnt誘発性可溶タンパク質−2(WISP2)の再生可能性を、インビトロ(ラット、ウシおよびヒトのNP細胞)およびDDDの前臨床齧歯動物モデルを使用して評価した。
【0018】
DDDの前臨床モデルの開発
DDDの十分に特徴づけされた動物モデルの欠点は、可能性のある治療剤の比較分析および正確なアセスメントに対して大きい難題を課すことである。その上、治療剤に対する応答が、種の間の組織学的および表現型の差によって影響されると思われる
25、26。ヒトDDDを模倣して、治療剤の評価のために適当な動物モデルを探して、ヒトの変性椎間板NPの組織学的特性を、ウシ、NCDイヌおよびウィスターラットのIVDと比較した。ヒトおよびウシの変性したIVD(
図7a)から得られたNP中の線維軟骨のマトリックスを示す強いサフラニン−O染色を観察した。対照的に、健常な脊索細胞に富む軟骨形成異常のない(NCD)イヌおよび若い健常なウィスターラットは、サフラニン−O染色が微弱な、高度に細胞のNCに富む(>90%)NP(
図7a)を有する。NPの間の細胞の表現型における差を、NCに特異的なマーカーであるブラキウリ、および幹細胞の公知のマーカーであるOct4
4、5に対する免疫組織化学を使用して検証した。免疫組織化学分析により、ヒトまたはウシの変性椎間板NPにおけるブラキウリまたはOct4の検出可能な発現は明らかにならなかった(
図7a)。しかしながら、ブラキウリおよびOct4の強い核発現が、健常な若いNCDのイヌのおよびウィスターラットの椎間板で観察されて、これらのNP内におけるNCおよび幹細胞の存在が確認された(
図7a)。
【0019】
治療剤の評価のためのプラットホームを確立するために、DDDの前臨床齧歯動物モデルを採用した。画像ガイド下で針穿刺の損傷を12週齢の健常ウィスターラットの尾の(尾部)の椎間板につくった(n=21、1匹の動物当たり4個の椎間板)。細胞外マトリックス(ECM)および細胞の表現型における変化を、時間依存性様式で(72時間〜10週間、
図1a〜g)決定した。組織学的分析により、2〜10週間から増大したサフラニン−Oの染色強度と一緒にNCが徐々に失われる(>70%)ことが明らかになり、損傷後のNPにおけるECMの改造が示された(
図1b、
図7b)。アグリカンおよびコラーゲン2の減少した発現も損傷後10週間の終わりまでに観察された(
図1b)。注目すべきは、NPにおいて損傷後72時間で早くも、針穿刺損傷が、炎症誘発性サイトカイン、腫瘍壊死因子α(TNFα)およびインターロイキン−1ベータ(IL−1β)の発現を増大させた(
図1c)。しかしながら、IL−1β(約17kDa)の活性形態は10週間まで観察されず、炎症メディエーター、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)およびECM分解酵素、マトリックスメタロプロテイナーゼの発現における突然の増大と一致した(MMP−3、MMP−13、
図1c)。興味深いことに、メタロプロテイナーゼ1(TIMP1)の組織阻害剤、MMPの天然阻害剤の損失が、損傷後10週間の終わりに観察され、MMP(
図1c)の発現と一致した。アグリカン分解に関与する主要な酵素の1種である、トロンボスポンジン1型モチーフ4を有するディスインテグリン様およびメタロプロテアーゼ(ADAMTS4)の発現における有意な増大が、損傷後1週間で観察された(
図1c)。それに加えて、針穿刺損傷も、p42/44(Thr202/Tyr204)およびp38MAPK(Thr180/Tyr182)のリン酸化を誘発して、椎間板変性におけるそれらの役割を示唆した(
図1d)。平行して、ウェスタンブロットおよび共焦点顕微鏡を使用する免疫蛍光が、損傷椎間板NPで、損傷後10週間に、NCマーカー(ブラキウリおよびガレクチン3)および幹細胞マーカー(Oct4およびNanog)の損失を示した(
図1e〜g)。これらの発見は、健常なホメオスタシスに調節される環境から炎症誘発性の異化状態へのNP環境における偏移を、変性椎間板におけるNCおよび幹細胞の両者の損失と共に明確に示す。
DDDにおけるECMのターンオーバーの調節
【0020】
健常なNPで見られる親水性でプロテオグリカンに富むECMとは異なり、変性椎間板の微小環境は、異化であり、炎症誘発性サイトカイン(IL−1βおよびTNFα)に富み、ラットの尾部椎間板損傷モデルで示されるようなホメオスタシスの不全を反映する。ECMのターンオーバーに対するIL−1βおよびTNFαの効果を決定するために、ラットのNP細胞をIL−1β単独またはTNFαと組み合わせて24時間処置して、ECMおよび細胞接着分子の遺伝子アレイ(84種の遺伝子を含む)を使用して、リアルタイム定量的PCRを実施した。ラットのNP細胞のIL−1β単独またはTNFαと組み合わせた処置は、健常マトリックス遺伝子(HAPLN1、CTGF、トロンボスポンジン1および2)の下方制御およびマトリックス分解酵素、MMP(MMP−3/9/11/13)の上方制御を含む22種のmRNA転写物の発現において、無処置の対照と比較して、有意な変化を示した(p<0.05)(NTC、
図2a〜c、表1)。
【0021】
【表1】
【0022】
ウェスタンブロットが、IL−1βおよびTNFαで処置されたラットのNP細胞におけるMMP−3およびMMP−13の発現レベルにおける著しい上昇を検証する(
図2d)。それに加えて、ラットのNP細胞におけるCox2では増大するが、減少したコラーゲン2の発現も、IL−1βおよびTNFα処置に対する応答で観察された(
図2d)。
【0023】
注目すべきは、IL−1βまたはそのTNFαとの組合せは、c−Raf(S259)、p42/44(Thr202/Tyr204)およびp38MAPK(Thr180/Tyr182)のリン酸化レベルを増大させたが、それらの合計タンパク質含有率にはいかなる有意な変化もなかった(
図2d、e)。IL−1βおよびTNFαは両方共、ラットのNP細胞中でp42/44MAPKの特異的阻害剤であるU0126の存在下で、MMP−3、MMP−13またはCox2の発現を誘発できなかった(
図2f、g)。p38MAPK阻害剤の存在下で、SB203580は、MMP−3、MMP−13の発現を低下させたが、Cox2がIL−1βで処置されたラットのNP細胞中で観察された(
図2f)。これらの観察は、IL−1βおよびTNFαの下流におけるp42/44およびp38MAPKの活性化が、椎間板変性中におけるECMタンパク質の調節において重要であることを示唆するインビボデータを支持する(
図1d)。得られた結果も、NP細胞中におけるIL−1βおよびTNFαに誘発されたMMP−3、MMP−13およびCox2の発現における核因子カッパB(NFκB)、ヤヌス活性化キナーゼ1(JAK1)、およびシグナル伝達性転写因子3(STAT3)の関与を示唆する。MMP−3、MMP−13およびCox2タンパク質の低下した発現が、BAY−11−7082(NFκB阻害剤)、JAK1またはSTAT3特異的阻害剤の存在下で、IL−1βおよびTNFαにより処置されたラットのNP細胞中で示された(
図2f、g)。対照的に、ウォルトマンニン(Wortamanin)(PI3K阻害剤)の存在はMMP−3およびMMP−13の発現だけを低下させた(
図2f、g)。同様に、ヒトの変性椎間板から得られたNP細胞では、IL−1βおよびTNFαが、p38MAPK、NFκB、JAK1またはSTAT3という阻害剤の存在下で、Cox2を誘発できなかった(
図2h)。これらの発見は、進行性椎間板変性におけるp38MAPK、NFκB、JAK1およびSTAT3タンパク質の重要性を示唆する。
NCCMは、ECMのターンオーバーを促進して、インビボにおける炎症を低下させる
【0024】
本発明者らは、脊索細胞に由来する馴化培地(NCCM)が、抗アポトーシス効果を示して、インビトロで、アグリカンおよびコラーゲン2のmRNAレベルにおける上方制御を誘発したことを以前に示した
19、20。しかしながら、前臨床のDDDのインビボモデルにおけるNCCMの再生可能性は、評価されたことがなかった。NCDイヌから得られたNCに富むNPを、フェノールレッドを含まず血清を含まないハイブリドーマ培地および以前記載されたプロトコルに従って収穫されて馴化培地に入れることにより、NCCMを集めた
18-20。濃縮されたNCCMまたは対照培地(約8μL/椎間板)を、X線透視の撮像を使用して、損傷した(4週損傷後)ラット尾部の椎間板NPに注射した。損傷後10週間に、組織学的分析は、NCCMを注射されたラット尾部の損傷椎間板で、中程度にサフラニン−Oで染色されたNCに富むNPを明らかにした(
図3a)。対照的に、対照培地を注射されたラット尾部の損傷椎間板は、低い細胞充実性を示し、線維軟骨の形態を示す、サフラニン−Oで強く染色された線維軟骨のマトリックスを示した(
図3a)。免疫組織化学およびウェスタンブロットにより、NCCMを注射されたラット尾部の損傷椎間板におけるアグリカン、コラーゲン2、ブラキウリ、Oct4およびNanogの回復が、擬似対照との比較で明らかになった(
図3a、b)。これらの結果は、NCCM内の可溶性因子がDDDのための再生可能性を有することをインビボで示す。
質量分析法を使用するNCCM中の可溶性因子の同定
NCにより分泌された可溶性因子を同定するために、50kDaおよび3kDaフィルターを順に使用し、それに続いてサイズ排除クロマトグラフィーを使用して分画して、NCCMを濃縮した(
図3c)。タンパク質を含有する分画の中で、5分画(50PF4、50PF5、50PF6、3PF4および3PF5)だけが、エトポシドに誘発されるカスパーゼ3/7活性をウシNP細胞で低下させた(
図8a〜c)。これらの生物活性分画の質量分光分析が、イヌのタンパク質データベースに対応する303種の非冗長タンパク質の同定を導いた(
図3c)。
【0025】
これらのタンパク質の約31%が、分泌性ペプチドシグナル配列を有し、ECM内で報告されている(
図3d)。成長因子およびそれらのモジュレーターは、TGFβ1、結合組織成長因子(CTGF)、Wnt誘発性可溶タンパク質−2(WISP−2)、コーディン、スクレロスチン、軟骨中間層タンパク質(CILP)およびCD109を含むと確認されている(
図9)。免疫組織化学分析により、NC細胞の細胞質においておよび健常ラットの尾部椎間板NP中のECMにおいて、CTGF、WISP−2およびTGFβ1の中程度ないし強い免疫染色が示された。しかしながら、損傷したラットの尾部椎間板およびヒトの変性椎間板NPは、ECM内におけるCTGF、WISP−2またはTGFβ1の検出可能な発現を示さなかった(
図3e)。これらの発見は、CTGF、WISP−2またはTGFβ1の損失はDDDの発達と関連することを示唆した。
CTGFおよびTGFβ1は、インビトロで、同化および抗異化の効果をNP細胞に付与する
【0026】
ラットの尾部椎間板NP細胞(健常/変性)をCTGF、WISP−2またはTGFβ1で処置して、細胞生存能力に対するそれらの効果を用量および時間依存性様式で評価した(24時間〜96時間、
図10a〜d)。細胞生存能力は、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)に基づく比色分析アッセイを使用して決定した。CTGF(100ng/ml)またはTGFβ1(10ng/ml)単独または組み合わせた処置は、ラットの尾部椎間板(健常/損傷)およびウシ椎間板に由来するNP細胞の生存能力を48時間〜72時間で増大させた(
図4a、b、
図11a、b)。注目すべきは、CTGF(100ng/ml)とTGFβ1(10ng/ml)の組合せを用いる処置は、ヒトの変性椎間板NP細胞において、増大した細胞生存能力を≧35%だけ増大させた(
図4c、
図11c)。しかしながら、WISP−2を用いる処置では、NP細胞(ラットおよびヒト)の生存能力における有意な変化は観察されなかった(
図4a〜c、
図10b、5a〜c)。このことは、ブロモデオキシウリジン(BrdU)組み込みを使用する細胞増殖アッセイでさらに確認された。TGFβ1を単独で用いる処置で、DNA合成における有意な増大がラット尾部(健常/損傷)およびヒトの変性椎間板NP細胞で観察された(
図4d、e)。コラーゲン2、ヒアルロナンおよびプロテオグリカン連結タンパク質1(HAPLN1)、バーシカンおよびトロンボスポンジンl(THBS1)の増大したmRNAレベルも、ヒトの変性椎間板NP細胞において、TGFβ1単独でまたはCTGFと組み合わせた処置で観察された(
図4f)。ウェスタンブロットにより、TGFβ1単独でまたはCTGFと組み合わせた処置で24時間以内に、コラーゲン2発現における増大が検証され(
図4g)、これらの成長因子のタンパク同化の役割が支持された。
【0027】
炎症に誘発されたカスパーゼ活性およびMMPの発現を抑制するCTGFおよびTGFβ1の可能性を評価した。ラットおよびヒトの両方の変性椎間板NP細胞を、IL−1β単独またはTNFαと組み合わせて、CTGF、WISP−2またはTGFβ1の存在下において48時間処置した。その結果、TGFβ1単独の存在下において、変性椎間板NP細胞(ラット/ヒト)におけるサイトカイン(IL−1βおよびTNFα)に誘発されるカスパーゼ3/7活性の有意な減少が明らかになった(
図5a−c)。対照的に、IL−1βおよびTNFαが誘発したカスパーゼ9活性における有意な低下が、CTGF、WISP−2またはTGFβ1のいずれかの存在下で、ヒトの変性椎間板NP細胞で観察された(
図5e、f)。CTGF、WISP−2またはTGFβ1を用いる処置は、IL−1βおよびTNFαで処置されたラット尾部のNP細胞におけるMMP−3、MMP−13およびCox2タンパク質の発現を低下させた(
図5g、h)。同様に、IL−1βおよびTNFαで処置されたヒトの変性椎間板NP細胞は、CTGFとTGFβ1の組合せの存在下で、Cox2およびMMP−13mRNAレベルのより低いレベルを示して、これらの成長因子の抗異化の効果を示した(
図5i、j)。
CTGFおよびTGFβ1を用いる処置は、変性椎間板髄核をインビボで再生させる
【0028】
したがって、これまで、結果は、CTGFおよびTGFβ1の抗異化作用およびタンパク同化促進の役割を、インビトロで示唆した。CTGFおよびTGFβ1の再生可能性を齧歯動物モデルで試験するために、画像ガイド下の尾部椎間板損傷(n=30、4個の椎間板/動物)を、2回の独立の実験で実施した。損傷後4週間で、動物を5群に無作為に分けて(n=6動物/群)、CTGF(100ng/mL)、TGFβ1(10ng/mL)、CTGF(100ng/mL)とTGFβ1(10ng/mL)の組合せまたはビヒクル対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS、1×、pH=7.2)の椎間板内注射を与えた。PBS(1×、pH=7.2)を注射された椎間板の組織学的分析は、NP内に線維軟骨のマトリックスおよび強いサフラニン−O染色を有する細胞を殆ど示さなかった(
図6a)。しかしながら、損傷したラットの尾部椎間板でCTGFまたはTGFβ1単独または組み合わせて処置されたものは、損傷後10週間に、健常な椎間板を示し、NCに富んでいた(
図6a)。免疫組織化学分析により、健常NPの回復が確認され、損傷椎間板NPでビヒクル対照を注射されたものと比較してアグリカンおよびコラーゲンIIの強い発現を示した(
図6a、b)。CTGFとTGFβ1の組合せを用いる処置は、MMP−13およびCox2タンパク質を抑制して、ラット尾部の損傷椎間板NP中におけるブラキウリおよびOct4の発現を回復させた(
図6b)。
【0029】
DDDは、IVDの構造的完全性の損失、およびNP ECMの発達不良により特徴づけられる多元的な過程であり、しばしば、椎間板の疼痛および移動性の制限に至る
27-31。健常なIVDのNPでは、親水性のECMが、脊椎の生体力学的性質を維持することにおいて重要な役割を演じる。例は、DDDの齧歯動物モデルにおけるNP−ECMの悪化は炎症ならびに脊索および幹細胞の損失と関連して、それらが共同してヒトの変性椎間板で観察されるのと同様な線維軟骨のNPの発達をもたらすことを示す。これらの発見は、DDDにおける炎症誘発性サイトカインの発現(TNFαおよびIL−1β)とマトリックス分解酵素(MMP−3、MMP−13、ADAMTS4)の間の関係を直接示す。これらの炎症誘発性サイトカインによる処置により、椎間板変性進行性中のECM分解およびターンオーバーの調節における炎症についての有意な役割がインビトロで確立された。それ故、変性椎間板NPにおける炎症を標的にすることは、DDDの処置のためのキーであり得る。インターロイキン1受容体のアンタゴニスト(IL−1Ra)、ならびにTNFαおよびその主要な下流の標的、NFκBを標的とする合成ペプチドおよび阻害剤を含む数種の単剤戦略を設計して、DDDにおける炎症を標的として試験した
32-39。支持の中で、NFκBまたはMAPK(p42/44およびp38MAPK)、Jak1およびSTAT3の阻害が、NP細胞中のIL−1βおよびTNFαの下流におけるCox2、MMP−3およびMMP−13の発現を低下させることができることも示された。しかしながら、これらの特異的阻害剤の治療剤としての作用は、抗異化の活性に限定される。これらの薬剤は、健常なNP ECMの新たな合成を触媒するかまたは変性するIVDにおけるNP細胞生存能力および増殖を促進するいかなるタンパク同化応答も示すことができない。
【0030】
本発明者らは、NCCM中のTGFβ1、CTGFおよびWISP−2を同定して、それらの再生可能性を示した。TGFβ1は、脊椎の胚形成期ならびに出生後の発達におけるIVDおよび軟骨の発達において決定的役割を果たす
40。終板の軟骨細胞および内部線維輪細胞におけるTGFβシグナル伝達の損失は、マトリックス組織の損失、およびTGFβ1欠損マウスの脊椎における異常な成長プレート形態をもたらす
40。データは、ヒトおよび損傷したラットの両方の尾部椎間板中の変性した、線維軟骨のNPにおける低下したTGFβ1発現も示した。変性椎間板NPにおけるTGFβ1の損失は、健常なNCに富む髄核の維持のためのTGFβシグナル伝達の重要性を示す。健常なウサギのNP中におけるTGFβ1の過剰発現は、プロテオグリカン合成において、対照のアデノウイルスベクターまたは生理食塩水を注射されたIVDと比較して有意な増大を示した
41。
【0031】
別の治療剤、NCCM中で同定されたCTGFは、アミノ末端の分泌性ペプチドとそれに続く、インスリン様成長因子結合タンパク質と相同性の配列を有する4個の保存ドメイン、フォンウィルブラント因子C(VWC)ドメイン、1型トロンボスポンジンの反復(TSR)およびシステイン節モチーフを含有するカルボキシ末端ドメインを有するマトリックス細胞タンパク質である。CTGFは、椎骨間椎間板の微小環境の重要な構成成分であり、数種の成長因子およびインテグリンおよびヘパラン硫酸プロテオグリカンを含むマトリックスタンパク質と相互作用する。実施例で示したように、CTGFとTGFβ1の組合せによる処置は、IL−1βに誘発されたCox2およびマトリックス分解酵素(MMP−3およびMMP−13)の発現を、DDDのインビトロおよびインビボ両方のモデルで有意に低下させて、これらの可能性のある治療剤の組み合わされた作用を示した(
図6c)。
CTGFおよびTGFβ単独ならびにDRS組成物と組み合わせた再生可能性
図12(a)は、上で記載された齧歯動物のDDDの椎間板損傷モデルにおける、CTGFおよびTGFβ1単独ならびにDRSと組み合わせた(「方法」に基づいて調製したグルコサミン塩酸塩およびコンドロイチン硫酸を含む組成物)再生可能性のインビボにおける評価を示す。該図は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、対照として使用した)を用いたECMタンパク質、アグリカンおよびコラーゲン2のサフラニン−Oおよび免疫組織化学染色を示す。この評価は、DRS+CTGF+TGFβ1が、健常対照との比較に基づいて特に効果的な処置であることを示した。
図12(b)は、ラット尾部の損傷椎間板を、CTGF、TGFβ1、CTGFとTGFβ1の組合せ、DRS、CTGFと組み合わせたDRSまたはDRS、CTGFおよびTGFβ1の組合せで処置されたものから得られたNP組織溶解物におけるMMP−13およびCox2の減少した発現、および幹細胞マーカー、Oct4の回復を示すウェスタンブロットを提供する。
【0032】
図13は、DDDのラットの尾部損傷モデルにおける20週間を通したさらなる評価を示す。3通りの異なる条件が存在する。(a)はラットの尾部椎間板(IVD)のサフラニン−O染色された矢状方向の切片であり、健常髄核、線維輪および脊椎の終板を絵で示す(赤い矢印);(b)針穿刺損傷により誘発されたSaf−O染色された変性椎間板。椎間板は、通常の方法に従って損傷し、続いて4週間後にPBS緩衝生理食塩水を注射され、注射後16週間(損傷後20週間)に収穫された。損傷対照に対する結果は、高さの損失、組織形態、脊索細胞の損失および線維軟骨性の細胞外マトリックスの発達が明瞭な、大きく変性した表現型を示す。(c)損傷後4週間を除いて同一の実験で、生理食塩水ではなくCTGF、TGFβ1、およびDRSを含む組成物を注射した。この処置された椎間板は、殆ど正常な表現型および椎間板高さの維持、健常な脊椎の終板および保たれた細胞充実性および健常なマトリックスを有する形態を明らかにする。
【0033】
(方法)
脊索細胞由来の馴化培地(NCCM)を、前に記載された軟骨形成異常のないイヌのIVDから得られた脊索細胞(notcohordal cell)に富む髄核(NP)から集めた
18。全ての動物(n=12)は、認可された動物施設との共同で得て、全ての実行は、トロント Western Hospital(トロント、オンタリオ州、カナダ)の動物飼育方針および倫理承認委員会に従った。全ての軟骨形成異常のないイヌは、8〜14カ月の月齢であり、他の目的のために採用時に失格するかまたは安楽死させることになっていた。1ml/15Kg体重の組み合わされた用量でキシラジン100mg/mL(Xylomax−Bimeda−NHC Animal Health、Broomhill Road、Tallaght、ダブリン、アイルランド)と混合されたアセプロマジン(10mg/mL、Atravet−Aerst Pharmaceuticals St. Laurent、ケベック州、カナダ)の組合せを使用して、深い鎮静を達成した。深い鎮静が起こったら、安楽死を、静脈内ナトリウムペントバルビタール(CDMV)(St.Hyacinthe、ケベック州、カナダ)を30mL/kg体重の用量で使用して遂行した。安楽死の2時間以内に、腰部の脊椎を取り出して、髄核を無菌条件下で単離した
18。核の肉質(pulposi)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH=7.2)で洗浄して、2〜3のNPを、低酸素条件下(3.5%O
2、および5%CO
2、NuAire incubators)37℃の6ウェルプレート中の、100単位のペニシリン/ストレプトマイシンを含有するCDハイブリドーマ培地(タンパク質およびフェノールレッドを含まない、カタログ番号#11279−023、Life Technologies、米国)中の組織培養挿入物内に10μmフィルターを用いて入れた。この後NCCMと称する馴化培地を24時間〜48時間後に収集して、8000rpmで30分間遠心分離して、0.2μmのシリンジ先端フィルターを通して濾過し、−80℃でさらなる使用まで貯蔵した。
【0034】
NCCMを室温(RT)で解凍し、50kDaおよび3kDaの遠心限外濾過タンパク質濃縮装置(EMD Millipore、マサチューセッツ州、米国)をメーカーの使用説明書に従って使用して、順次濃縮した。濃縮されたそれぞれのNCCM試料を、Superose 12HR 10/30急速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)カラム(Pharmacia)を用いて、10mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、1mMのEDTAを含有するpH7.4の泳動緩衝液でサイズ排除により分画した。30分画(約1ml)を集めて、タンパク質濃度を280nmにおける吸光度により測定してさらなる使用まで−80℃で貯蔵した。連続するタンパク質含有分画を対でプールして、ウシの尾部椎間板のNP細胞におけるエトポシド(細胞毒性薬)に誘発されたカスパーゼ3/7の活性に対するそれらの効果を、下で記載するように評価した。生物活性の分画は、エトポシドによる処置でウシNP細胞中のカスパーゼ3/7活性における減少を示すタンパク質分画と定義した。これらの生物活性の分画は、後でタンパク質の同定のために質量分析法を使用して分析した。
【0035】
生物活性の分画をジチオスレイトール(DTT)で還元して、遊離のシステイン残基をヨードアセトアミドでアルキル化し、改変されたウシトリプシン(Promega、Madison、米国)で終夜消化した。トリプシンによって生じたペプチドを脱塩して、積分エミッターを備える、RSLC 2μmC18充填材(EASY−スプレー、Thermo−Fisher、Odense、デンマーク)を含有する50cm×75μmIDのカラムに搭載した。該ペプチドを、90分で0.1%ギ酸中0%から35%へのアセトニトリルの勾配でEasy−Spray nLC 1000クロマトグラフィーシステム(Thermo−Fisher、Odenseデンマーク)を使用するQ−Exactiveハイブリッド質量分析計(Thermo−Fisher、SanJose、カリフォルニア州)中に溶離した。質量分析計をデータ依存性様式で操作して、1MSそれに続いて10MS/MSスペクトルを得た。70,000FWHMの分割、1×10
6イオンの標的および120msの最大走査時間でMSを得た。MS/MS走査は、17,500FWHMの分割、1×10
6イオンの標的および120msの最大走査時間で27%の相対衝突エネルギーを使用して得た。15秒の動的排除時間をMS/MS走査のために使用した。粗データファイルをXCalibur 2.2(Thermo−Fisher Scientific)で得て、Sequest検索エンジン(Thermo−Fisher Scientific)で、UniProtのイヌのデータベース 28,460件のエントリーがあった8月12日、2014バージョンをX!−タンデム(Beavis Informatics、Winnipeg、マニトバ州)と共に使用して加工処理した。加工処理されたデータをスキャフォールド3.2(Proteome Software、Portland、オレゴン州)にインポートした。ペプチドは、スキャフォールドスコアが、逆UniProtのイヌのデータベースに対する検索により決定されたように、0.1%の偽発見率(FDR)を超えれば、同定されたと考えられた。
6頭の3歳の雄の子牛からウシ尾部の椎間板NPを得た。ヒトの変性椎間板の髄核細胞は、椎間板切除または固定手術をToronto Western Hospital、University Health Network、トロントで受ける患者(n=4)から得られた(インフォームドコンセントを得て)。
【0036】
12週齢の雌ウィスターラット(Charles River Laboratories International Inc.、マサチューセッツ州、米国)を、DDDの前臨床齧歯動物モデルを開発するために使用して、NCCM、CTGFおよびTGFβ1の治療可能性をこれらの前臨床齧歯動物モデルで評価した。実験は、実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って実施して、実験計画案はToronto Western Hospital、トロント、オンタリオ州、カナダの倫理承認委員会により承認された。外科的手技は以下のとおりであった;麻酔はイソフルオラン(5L/分プラス1L/分O
2)を使用して達成し、3L/分を維持した。深く麻酔がかかったら、動物を、ノーズコーン吸入を備える定位の手技装置(モデル900、Kopf Instruments カリフォルニア州、米国)上に固定した。動物実験のために、尾部を剃毛して、イソプロパノールを用いて滅菌様式で準備した。X線透視を使用して針の侵入を可視化して針がNPの中心に侵入することを確実にした。椎間板損傷のために、26ゲージ(G)、35°斜角、0.75インチ高の針(Hamilton Company、米国)がマウントされたHamiltonシリンジを使用した。針を、選択された尾部IVDに完全に通して進めて、椎間板の両側で線維輪を含む全厚に侵入させた。針の位置の確認は、X線透視を使用して行い、位置に2分間維持し、半分引き出してNPの中心に置き、そこに1分間放置して、次に1分間かけてゆっくりと完全に引き出した。次に、動物を定位装置から取り外して、温めたケージ中で快復させた。研究期間、即ち72時間〜10週間の終わりに、CO
2を使用して動物を人道的に安楽死させ、各脊椎の腰部/尾の運動セグメントを無菌的に解剖した。IVDは、組織学的分析のためにホルマリンで固定するか、または髄核(健常/損傷)を収穫し、ウェスタンブロットのためにRIPA緩衝液(50mM Tris、pH=7.4、150mM NaCl、1%NP−40およびプロテアーゼ阻害剤カクテル)中で溶解するかのいずれかを行った。
【0037】
NCCM、CTGFまたはTGFβ1の再生可能性を決定するために、12週齢のラットの動物1匹当たり4個のIVDを、上で記載された26G針を使用して損傷した。損傷後4週間に、動物を6群に無作為化して、NCCM、CTGF(100ng/mL)またはTGFβ1(10ng/mL)のいずれかの椎間板内の注射(約8μL)を、局所麻酔下で与えた。NCCMを注射された動物に対して、対照群は、ハイブリドーマ培養培地だけの椎間板内の注射(約8μL)を受けた動物からなり、一方、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、1×、pH=7.2)は、CTGFおよびTGFβ1を注射された動物群のための対照として役立った。6週間後に、損傷椎間板および対照椎間板からNPを収穫し、組織学的分析のためにホルマリンで固定するかまたはウェスタンブロットのためにRIPA溶解緩衝液中で溶解させるかのいずれかを行った。この実験の各々を独立に繰り返して再現性を確実にした。
【0038】
ホスホ−p42/p44(Thr202/Tyr204)、ホスホ−p38(Thr180/Tyr182)、ホスホ−cRaf(Ser338)、合計p42/p44、p38MAPKタンパク質に対するウサギポリクローナル/モノクローナル抗体を含む細胞シグナル伝達技法のSamplerキットを、New England Biolabs Ltd.(オンタリオ州、カナダ)から得た。コラーゲン2(ab34712)、MMP−13(ab39012)、Cox2(ab15191)、Oct4(ab18976)、Nanog(ab106465)、CTGF(ab6995)、STAT3(ab7966)に対するウサギポリクローナル抗体、MMP−3(ab52915)に対するウサギモノクローナルおよびガレクチン3(ab2785)およびβ−アクチン(ab6276)に対するマウスモノクローナル抗体は、Abcam Inc.(トロント、カナダ)から購入した。ヤギポリクローナルブラキウリ抗体(sc−17743)およびアグリカン(sc−25674)、TIMP−1(sc−5538)、ADAMTS−4(sc−25582)、TNFα(sc−8301)、TGFβ1(sc−146)に対するウサギポリクローナル抗体およびマウスモノクローナルWISP2(sc−514070)は、Santa Cruz Biotechnology Inc.(カリフォルニア州、米国)から得た。p42/44(U0126)、p38MAPK(SB203580)、NFκB(BAY−11−7082)、PI3K(Wortamanin)を標的とする特異的阻害剤、JAK1阻害剤およびSTAT3阻害剤は、EMD Millipore(オンタリオ州、カナダ)から購入した。ヒト組み換えIL−1β、TNFα、CTGF、WISP2およびTGFβ1タンパク質は、Peprotech Inc.(ケベック州、カナダ)から購入した。
【0039】
組織を10%ホルマリンで固定して、10%EDTA溶液中で脱カルシウムした。脱カルシウムされた椎間板を、最初に正中矢状方向の平面で縦に裂き、パラフィンに包埋して、組織学的評価のために厚さ5μmの切片を得た。ヘマエトキシリンおよびエオシン(H&E)およびサフラニン−O染色を実施して、これらの組織切片の一般的形態およびプロテオグリカン含有率を前に記載した
16ようにアセスメントした。免疫組織化学/免疫蛍光(IF)のために、ヒトの変性椎間板NP、ウシNP、健常イヌ(NCD)およびラット(健常/損傷)椎間板のパラフィン包埋切片(5μm)をキシレン中で脱パラフィンして、勾配アルコールで水和し、続いてTris−EDTA緩衝液(pH=9.0)中で抗原を回収した。切片をメタノール中の過酸化水素(0.3%v/v)と15分間インキュベートして、内因性ペルオキシダーゼ活性をクエンチし、続いて非特異的結合を除外するために10%血清でブロックした。その後、スライドをウサギまたはヤギのいずれかのポリクローナル/マウスモノクローナル一次抗体と終夜(O/N)4℃でインキュベートした。タンパク質発現は、Vectastain ABCキットからのそれぞれの二次抗体(ウサギ/ヤギ/マウス)および色原体としてのジアミノベンジジン(DAB)を使用して検出した。陰性対照では、一次抗体を、イソ型を合わせたIgGによって置き換えた。明視野切片を、Advanced Optical Microscopy Facility(AOMF)、Toronto Medical Discovery(TMDT)で利用できるScanScope XT、Aperio Whole Slide Scannerを使用して、顕微鏡検査により評価した。画像を、Aperio ImageScope(バージョン10)を使用して分析した。免疫蛍光のためには、一次抗体を、Alexa fluor(488/568nm)で標識されたそれぞれの二次抗体(ウサギ/ヤギ/マウス、Invitrogen、Life Technologies、カリフォルニア州、米国)を使用して検出した。切片をDAPIで対比染色して、Fluoromount(Sigma−Aldrich、米国)の封入剤を使用してマウントした。全ての画像は、AOMF、Toronto Medical Discovery(TMDT)で利用できるFluoview 1000倒立顕微鏡(Olympus 1X81、Olympus)を使用して得た。画像を、Fluoview 1000(バージョン3.1)ソフトウェアを使用して分析した。
【0040】
安楽死の後、健常ラットの腰部/尾の脊椎IVD、損傷尾部椎間板およびウシの尾のIVDのNPを無菌的に取り出して、髄核(NP)を別に取り出し、本発明者らにより確立された方法
16に従って酵素で消化した。同様に、ヒトの変性椎間板NPを、プロナーゼを使用して(0.4%、37℃で1時間)酵素的に消化し、続いてコラゲナーゼIIで処置した(0.015%、O/N、37℃)。翌日、細胞を70μmの細胞ストレーナーで濾過して、3.5%O
2、5%CO
2の低酸素インキュベーター(NuAire、ミネソタ州、米国)内で、8%ウシ胎児血清(FBS)およびペニシリンおよびストレプトマイシン(100U/mL)を補完されたアドバンストダルベッコ改変イーグル培地(Advanced Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(ADMEM)中で培養した。処置のために、低酸素条件下の種々の時点について、血清を含まないADMEM中で細胞を培養するか(無処置の対照)またはインターロイキン−1β(IL−1β、10ng/mL)、腫瘍壊死因子−α(TNFα、50ng/mL)、結合組織成長因子(CTGF、10〜100ng/mL)、Wnt誘発性可溶タンパク質2(WISP2、10〜100ng/mL)またはトランスフォーミング成長因子ベータ1(TGFβ1、5〜20ng/mL)で処置するかのいずれかを行った。
【0041】
等量の全細胞またはRIPA溶解緩衝液を使用して調製した組織溶解物を、前に記載したように
18、19ウェスタンブロットにかけた。全溶解物(30μg)を10%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル(SDS−PAGE)上で還元条件下に分離して、次にタンパク質をポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜(BioRad、カリフォルニア州)上に電気泳動転写した。Trisで緩衝された生理食塩水(TBS、0.1M、pH=7.4)中5%の脱脂粉乳でブロックした後、ブロットを、ウサギまたはヤギポリクローナル/マウスモノクローナル一次抗体と4℃で終夜インキュベートした。膜をTween(0.1%)トリス緩衝生理食塩水(TTBS)で3回洗浄して、次にメーカーの提案によるようにTBS(pH=7.2、1×)中2%脱脂乳で希釈したそれぞれのHRP−コンジュゲート抗lgG二次抗体(BioRad、カリフォルニア州)と2時間室温(RT)でインキュベートした。ブロットをTTBSで15分間3回洗浄して、タンパク質のバンドを、増強化学発光法(BioRad、カリフォルニア州)によりコダックのHyperfilmで検出した。
【0042】
成長因子による処置の効果を細胞生存能力および増殖アッセイで評価するために、髄核細胞(ラット、ウシおよびヒト)を96ウェル平底プレートに入れた。ラットのNP細胞を、CTGF、WISP−2およびTGFβ1によって用量(1ng/mL〜100ng/mL)および時間依存性様式(24時間〜96時間)で処置して、生存能力に基づくこれらの成長因子のアセスメントのための最適用量および時間を決定した。細胞生存能力は、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT、Sigma−Aldrich、米国)を、以前に記載したように
44使用して決定した。ヒトおよびラットのNP細胞(健常/損傷)に対するCTGFまたはTGFβ1による処置の効果を決定するために、BrdU−ELISA(比色分析)アッセイ(カタログ番号ab126556、Abcam)を、メーカーの使用説明書に従って使用した。簡単に述べれば、NP細胞をCTGFまたはTGFβ1単独または組み合わせて48時間処置した後、各ウェルにBrdU試薬を添加してO/N置いた。増殖する細胞のDNAに組み込まれたBrdUを、抗BrdU抗体を使用して決定し、メーカーの使用説明書に従ってELISAにより定量した。
【0043】
炎症誘発性サイトカイン(IL−1βおよびTNFα)による処置の結果としてNP細胞(ラットおよびヒト)で誘発されたアポトーシスを、カスパーゼ3/7およびカスパーゼ9に特異的なLumi−Gloアッセイ(Promega、Madison)を使用して決定した。簡単に述べれば、NP細胞をプレートで培養して、IL−1β単独もしくはTNFαのみと組み合わせて、またはCTGFおよびTGFβ1の存在下のいずれかで48時間処置して、それに続いてカスパーゼ3/7およびカスパーゼ9のための特異的試薬をメーカーの使用説明書に従って添加した。細胞をさらに4時間37℃でインキュベートして、プレートをマルチウェルルミネッセンスプレートリーダーで読み取った。
健常なおよび処置された(IL−1β単独またはTNFαと組み合わせて)ラットのNP細胞からの全RNAを、RNAeasy抽出キット(カタログ番号74134、Qiagen)を使用して単離し、Nanodrop分光光度計を使用して定量した。cDNAを調製するために、全RNA(約400ng)を、RT
2 First Strand Kit(カタログ番号330401、Qiagen)を、メーカーの使用説明書に従って使用して逆転写した。ラットのNP細胞中の細胞外マトリックス(ECM)遺伝子に対するIL−1β単独またはTNFαと組み合わせた効果を評価するために、RT
2Profiler(商標)PCR PCRArray Rat Extracellular Matrix & Adhesion Molecules(PARN−013Z、Qiagen)を使用して、ABI7900HTの384ウェルの急速ブロック機で実施されたリアルタイムPCRを使用する3回の独立の実験で、無処置の対照(NTC)と比較した。ΔΔCt値、制御の変化およびp値の計算を含むデータ分析を、オンライン(https;//www.qiagen.com/ca)で利用できるソフトウェアを使用して実施した。CTGF、TGFβ1、CTGF+TGFβ1で処置されたヒトの変性椎間板NP細胞(H1/H2)から全RNAを単離して、それらのコラーゲン2、HAPLN1、バーシカンおよびトロンボスポンジン1に対する効果を、遺伝子特異的プライマーを使用して評価した。同様に、CTGFおよびTGFβ1の存在下でIL−1β単独またはTNFαと組み合わせて処置されたヒトNP細胞からRNAを単離して、それらのCox2およびMMP−13発現に対する効果を、qRT−PCRを使用して決定した。
【0044】
全てのデータは、平均±SDで表した。試験と無処置の対照における有意差は、対応のあるスチューデントt検定を使用して決定した。統計分析は、Graphpad Prismを使用して実施した。全ての検定について、p<0.05を統計的に有意と定義した。
典型的組成物の調製
30mlの1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を入れたチューブに、0.048gのカルボキシメチルセルロース(カタログ番号419273、Sigma)を散布により添加した。このチューブをアルミニウム箔中に包んで2〜3時間室温で振り動かした。次に、0.384gのデキストロース(カタログ番号D8066、Sigma)を加えた。次に、0.384gのグルコサミン塩酸塩(カタログ番号G1514、Sigma)を加えた。次に、72mgのコンドロイチン硫酸(カタログ番号C4384、Sigma)を加えて、1mlの滅菌プラスチックチップを使用して、材料の任意の塊を分散および溶解させた。次に、このチューブを、全部が溶解されるまで振り動かした。pHを、1.0NのNaOHでpH7.4に調整して、「DRS貯蔵溶液」を形成した。
【0045】
「DRS作業溶液」を作製するために、バイオセーフティーキャビネット中で、DRS貯蔵溶液の1:10希釈を1×PBSで行い、0.22μmのシリンジフィルターを通して濾過して4℃で貯蔵した。
「CTGF貯蔵溶液」を作製するために、CTGFをPeprotech Inc.(カタログ番号120−19)から購入した。20μgの凍結乾燥されたCTGFを遠心分離して1mlの滅菌脱イオン水で溶解した。
DRS中で「CTGF作業溶液」を作製するために、5μlのCTGF貯蔵溶液を995μlのDRS作業溶液に加えて、100ng/mlのCTGFを生じさせた。
【0046】
「TGF−ベータ1貯蔵溶液」を作製するために、TGF−ベータ1をPeprotech Inc.から購入した(カタログ番号100−21)。10μgの凍結乾燥されたTGF−ベータ1を遠心分離して1mlの滅菌10mMクエン酸(pH約3.0)で溶解した。
提示した図において最も大きい効果を有した「DRS中のCTGF+TGF−ベータ1作業溶液」を作製するためには、1μlのTGF−ベータ1貯蔵溶液、5μlのCTGF貯蔵溶液、および994μlのDRS貯蔵溶液を混合して、4本のチューブに250μlを各々分注した。
本明細書において本発明の好ましい実施形態を記載したが、それらに対する変形は、本発明の精神または添付の特許請求の範囲を逸脱することなく行うことができることが、当業者により理解されるであろう。以下の参考文献リスト中の文献を含む本明細書で開示された全ての文献は、参照により組み込まれる。
なお、本発明としては、以下の態様も好ましい。
〔1〕
約0.1質量%〜約2.0質量%のレベルで存在するコンドロイチン硫酸、
約1質量%〜約25質量%のレベルで存在するグルコサミン塩酸塩、
組成物1mg当たり約50ng〜約500ngの濃度で存在する結合組織成長因子、
組成物1mg当たり約10ng〜約100ngの濃度で存在するトランスフォーミング成長因子ベータ1、
任意選択で約0質量%〜約25質量%のレベルのデキストロース、
任意選択で約0質量%〜約0.5質量%のレベルのカルボキシメチルセルロース、および
質量に基づき全体を合せて組成物の残部に等しいレベルの、水と、任意選択で薬学的に許容される担体、緩衝剤および/またはジメチルスルホキシドとを含む水溶液
を含む組成物。
〔2〕
コンドロイチン;グルコサミン;ならびに結合組織成長因子、WISP−2、およびトランスフォーミング成長因子ベータ1から選択される因子;または薬学的に許容されるそれらの塩を含む組成物。
〔3〕
結合組織成長因子およびトランスフォーミング成長因子ベータ1のいずれかもしくは両方、または薬学的に許容されるそれらの塩を含む、〔2〕に記載の組成物。
〔4〕
水をさらに含む、〔3〕に記載の組成物。
〔5〕
デキストロースまたは薬学的に許容されるその塩をさらに含む、〔4〕に記載の組成物。
〔6〕
前記組成物のpHを約6〜約7の間で安定化させるために十分な量で緩衝剤をさらに含む、〔4〕に記載の組成物。
〔7〕
前記コンドロイチンがコンドロイチン硫酸である、〔4〕に記載の組成物。
〔8〕
前記コンドロイチン硫酸が前記組成物の約0.5質量%〜約2.0質量%のレベルで存在する、〔7〕に記載の組成物。
〔9〕
前記コンドロイチン硫酸が前記組成物の約0.1質量%〜約0.5質量%のレベルで存在する、〔7〕に記載の組成物。
〔10〕
前記グルコサミンがグルコサミン塩酸塩である、〔4〕に記載の組成物。
〔11〕
前記グルコサミン塩酸塩が、前記組成物の約5質量%〜約20質量%のレベルで存在する、〔10〕に記載の組成物。
〔12〕
前記グルコサミン塩酸塩が、前記組成物の約1質量%〜約5質量%のレベル、好ましくは約1.0質量%〜約1.5質量%のレベルで存在する、〔10〕に記載の組成物。
〔13〕
麻酔薬をさらに含む、〔4〕に記載の組成物。
〔14〕
前記麻酔薬がブピバカインである、〔13〕に記載の組成物。
〔15〕
前記デキストロースが、前記組成物の約25質量%までのレベルで、好ましくは約1質量%〜約2質量%のレベルで、より好ましくは約1.0質量%〜約1.5質量%のレベルで存在する、〔5〕に記載の組成物。
〔16〕
前記結合組織成長因子が、前記組成物1mL当たり少なくとも約50ngの濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔17〕
前記結合組織成長因子が、前記組成物1mL当たり少なくとも約100ngの濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔18〕
前記結合組織成長因子が、前記組成物1mL当たり少なくとも約200ngの濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔19〕
前記結合組織成長因子が、前記組成物1mL当たり約50〜約500ngの間の濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔20〕
前記トランスフォーミング成長因子ベータ1が、前記組成物1mL当たり少なくとも約1ngの濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔21〕
前記トランスフォーミング成長因子ベータ1が、前記組成物1mL当たり少なくとも約5ngの濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔22〕
前記トランスフォーミング成長因子ベータ1が、前記組成物1mL当たり少なくとも約10ngの濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔23〕
前記トランスフォーミング成長因子ベータ1が、前記組成物1mL当たり約1〜約100ngの間の濃度で存在する、〔4〕に記載の組成物。
〔24〕
薬学的に許容される担体をさらに含み、且つジメチルスルホキシドを含んでいてもよい、〔4〕に記載の組成物。
〔25〕
前記薬学的に許容される担体がカルボキシメチルセルロースを含む、〔24〕に記載の組成物。
〔26〕
前記薬学的に許容される担体がヒアルロン酸を含む、〔24〕に記載の組成物。
〔27〕
少なくとも1種のグリコサミノグリカンまたはそれらの誘導体もしくは前駆体、好ましくはコンドロイチンおよび/もしくはグルコサミン、および結合組織成長因子、およびトランスフォーミング成長因子ベータ;または薬学的に許容されるそれらの塩を含む組成物。
〔28〕
患者における脊椎の椎間板から発する疼痛を低下させる方法であって、〔1〕から〔27〕のいずれか1項に記載の組成物の治療的有効量を、前記椎間板中に注射することを含む方法。
〔29〕
前記椎間板が変性している、〔28〕に記載の方法。
〔30〕
前記椎間板が、以前に損傷している、〔28〕に記載の方法。
〔31〕
患者における変性椎間板疾患または椎間板損傷を処置する方法であって、〔1〕から〔27〕のいずれか1項に記載の組成物の治療的有効量を、前記椎間板中に注射することを含む方法。
〔32〕
患者の身体領域における疼痛、関節炎、または疑われる関節炎を処置する方法であって、〔1〕から〔27〕のいずれか1項に記載の組成物の治療的有効量を前記身体領域中に注射することを含む方法。
〔33〕
前記身体領域が脊椎である、〔32〕に記載の方法。
〔34〕
前記身体領域が関節である、〔32〕に記載の方法。
〔35〕
前記身体領域が膝である、〔32〕に記載の方法。
〔36〕
前記身体領域が肩である、〔32〕に記載の方法。
〔37〕
前記身体領域が手首である、〔32〕に記載の方法。
〔38〕
前記身体領域が肘である、〔32〕に記載の方法。
【0047】
参考文献