【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、放射線治療計画を最適化するためのシナリオに基づく方法をさらに改善することである。
【0008】
本発明は、少なくとも第1及び第2のシナリオに基づく最適化を行うべくシナリオに基づく最適化関数を用いて放射線治療計画を最適化するための方法であって、各シナリオは少なくとも1つの不確かさの実現を表し、
a.治療計画を最適化するための入力データを提供するステップと、
b.第1のシナリオに関する第1の最適化関数を定義するステップと、
c.第1の最適化関数とは異なる第2のシナリオに関する第2の最適化関数を定義するステップと、
d.第1のシナリオの下で第1の最適化関数及び第2のシナリオの下で第2の最適化関数を適用し、これにより、第1の最適化された放射線治療計画を取得する、放射線治療計画を最適化するステップと、
を含む、方法に関する。
【0009】
第1の最適化関数及び/又は第2の最適化関数は、制約条件として最適化に含まれてよい。代替的に、第1の最適化関数及び/又は第2の最適化関数は、目的関数構成要素として最適化に含まれてよい。1つだけの最適化関数を含むこと、又は一方の最適化関数を制約条件として含み、他方を目的関数構成要素として含むことも可能である。通常、目標は、治療に関して設定され、これらの目標は、目的関数構成要素、制約条件、又はこれらの組み合わせを定義するのに用いられる。目的関数構成要素は、最適化がそれに向けて努めるべき又は最適化ができる限り良好に遂行することを試みるべき所望の目標であり、一方、制約条件は、正確に満足されなければならない厳格な目標である。
【0010】
入力データは、治療計画に従って治療されるべき患者の領域の3D画像を含む患者データを含んでよい。画像の代わりに又は加えて、入力データは、最適化ステップで最適化されるべき最初の治療計画を含んでよい。
【0011】
入力データが最初の治療計画を含む場合、方法は、第1及び第2の最適化関数がそれぞれ基づくべき第1及び第2の目標を選択する前に、第1及び第2のシナリオに関する最初の計画を評価するステップをさらに含んでよい。
【0012】
伝統的に、シナリオに基づく最適化方法では、最適化関数の1つの組がすべてのシナリオの最適化に用いられる。これは、方法が、ワーストケースのシナリオを含むすべてのシナリオに関して同じ目標遂行レベルの達成を試みることを意味する。ワーストケースに基づく最適化方法が用いられる場合、これは、計画の品質が、最も難しいシナリオ、すなわち、計画の品質が最も低い可能性を生み出すことになるシナリオにより制限されることを意味する。他の方法では、満足のいく結果を達成する見込みがより高いシナリオを最適化するのではなく不成績のシナリオの最適化を試みて、最適には及ばない様態でリソースが用いられることになる。本発明に従って異なるシナリオのそれぞれに異なる最適化関数が用いられるようにすることにより、各シナリオは、他のシナリオに関連する制限に関係なく、できる限り上手く最適化することができる。このようにして、より好適なシナリオに関する計画の品質を制限することなく、最も難しいシナリオを含むすべてのシナリオを考慮に入れることができる。より好成績のシナリオに関する最良の可能な結果を依然として達成しながら不成績のシナリオでさえも考慮することができることは、計画全体の顕著な改善を意味する。
【0013】
本発明に係る方法は、異なるシナリオでの達成可能な目標遂行レベルに関する情報が入手可能な場合に特に有用である。
【0014】
異なるシナリオは、通常、以下のような変数の異なる値を含む。
・治療期間中に一定のままであるかもしれないが多くの場合に減少する、患者の体重
・腫瘍の縮小
・患者の位置
・放射線生物学モデルパラメータなどの治療パラメータ
【0015】
異なるシナリオに関する異なる目標は、例えば、腫瘍が大きいままである場合、腫瘍の大部分が放射線療法においてカバーされなければならず、一方、腫瘍が縮小する場合、腫瘍のより小さい部分がカバーされる必要があること、又は腫瘍がリスク臓器に近い場合、リスク臓器へのより低い線量を保証するべく腫瘍へのより低い線量が容認され得ることを意味する場合がある。
【0016】
この発明的な最適化方法は、いくつかの異なるタイプの状況で有利に用いられ得る。
【0017】
例えば、典型的な放射線治療の状況では、少なくとも最小線量を受けるべき標的と、より低い最大を超えない線量を受けるべきリスク臓器が存在する。治療中の標的とリスク臓器との実際の距離は、前述の不確かさに起因して未知であり、したがって、いくつかの異なるシナリオが定義される。いくつかのシナリオでは、標的とリスク臓器との距離は、標的の高いカバー率を可能にするのに十分に大きいであろう。他のシナリオでは、標的とリスク臓器との距離はより小さく、リスク臓器を保護するべく標的のカバー率の幾らかの損失を容認する必要がある場合がある。本発明に係るシナリオに特異的な最適化関数を用いて、これらのシナリオのそれぞれに関する最良の可能な目的関数構成要素及び制約条件を、他のシナリオにより制約されることなく達成することができる。
【0018】
シナリオに依存する最適化はまた、優先順位付けされた又は辞書式最適化と一緒に用いられてよい。優先順位付けされた最適化は、治療計画が優先順位付けされた目標のユーザに特異的なリストに基づいて生成される、半自動化された技術である。計画は、目標をそれらの優先度に従って順序通りにできる限り良好に達成するべく最適化され、第1の最適化における最も重要な目標で開始し、その後の最適化の反復中に1つの反復で成し遂げられた目標達成度を制約条件として用いる。本発明の実施形態によれば、以前に最適化された目標に関係する制約条件は、以前の最適化後のシナリオでの以前に観察された目標達成度に基づく所与のシナリオの組での要求される目標達成度と共に、シナリオごとに独立して決定される。したがって、共通の優先度レベル内の各目標又は目標のグループの達成が、より高優先度の目標に干渉しない程度に最適化される。本発明の実施形態によれば、以前に最適化された目標に関係する制約条件は、1つのシナリオでの要求される目標達成度が該シナリオでの以前に観察された目標達成度に基づいて設定されるような様態で各シナリオに関して独立して課される。
【0019】
優先順位付けされた最適化の目的で、方法は、第1又は第2のシナリオに関する少なくとも第1のさらなる目標を設定するステップを含んでよく、前記第1のさらなる目標は第1の目標よりも重要度が低く、方法は、ステップcに係る放射線治療計画の最適化後に、更新された第1の最適化問題を作成するべく最適化された計画に基づく少なくとも1つの制約条件を最適化問題に追加し、次いで、更新された第1の最適化問題及び第1のさらなる目標に基づいてステップa〜cを再び行い、これにより、第2の最適化された放射線治療計画を取得するステップをさらに含む。
【0020】
更新された第1の最適化問題を作成するステップは、好ましくは、目的関数から第1の目標を省き、目的関数に第1のさらなる目標を追加し、第1の最適化された放射線治療計画に従って第1の目標がどのくらい良好に満たされたかに関係する制約条件を追加することを含む。
【0021】
本発明の実施形態によれば、例えば最初の計画を別のタイプの放射線又は別のビーム構成に合うように変換する際の模擬線量(dose mimicking)の目的で最適化が用いられてよい。模擬線量方法での公分母は、現在の線量と基準線量との(又は現在の線量−体積ヒストグラムと基準線量−体積ヒストグラムとの)不一致を最小にする目的で最適化が行われることである。模擬線量は、以下を含む異なるタイプの計画変換のために用いることができる:
・1つの治療マシンから別の治療マシンへの、又は1つのビーム構成から別のビーム構成への変換
・配信方法の物理的制限に準拠する治療計画への理想的な線量の変換
・例えば標的のカバー率及び均質性を維持しながら積分線量を最小化する、或るタイプの線量低下を防ぐ制約条件の対象となる最適化。
・フォトン療法計画のプロトン療法計画への変換。プロトン療法計画では、不確かさが考慮されなければならず、一方、フォトン療法計画では、標的の周りにマージンを適用することで一般に十分である。フォトン計画が幾何学的マージンを用いて生成された場合、マージンは静的線量クラウド近似を暗黙的にとるので、静的線量クラウド近似を用いてフォトン計画に関するシナリオ線量を抽出することができる。これは、誤差が、厳正に誤差に影響されない線量分布内での患者又は解剖学的構造の動きとみなされることを意味する。次いで、正確なシナリオ線量についての最適化によりプロトン療法計画を生成することができる。
【0022】
シナリオに依存する基準線量分布について模擬線量を行うことが本発明に従って提案される。このような最適化は、誤差に対する頑健性のどのような不必要な損失もなしに計画の変換が行われることを可能にする。
【0023】
多基準ナビゲーションにより作成される頑健なプロトン療法計画の線形結合が、最小スポットウェイト境界(minimum weight bound)について実行可能な頑健なプロトン計画に変換されるときに、模擬線量の別の例が適用され得る。計画の線形結合における1つ又は複数のスポット(すなわち、異なる角度から及び/又は異なるエネルギーで送達される線量のパーティション)が、治療システムで定義された最小ウェイトよりも低いウェイトを有する場合、計画は、例えば、各シナリオに関する基準線量として計画にわたるシナリオ線量の線形結合を用いる模擬線量により再計算されなければならない。
【0024】
本発明に係る方法はまた、適応的治療と組み合わされてよい。適応的治療では、新しい治療計画は、第1の治療フラクションの前だけでなく、さらなる時点でとられる患者の新しい画像に基づいて治療中の1つ又は複数のさらなる時点ででも計算される。新しい治療計画は、各フラクションの前に、すなわち例えば週に1回計算されてよい。新しい治療計画は、この発明の実施形態に係るシナリオに基づくものであってよい。したがって、各計画は全治療の一部のみをカバーすることになり、これは可能な変化の大きさを制限することになるので、考慮に入れる必要がある可能なシナリオの数及び/又はそれらの間の変動を減らすことができる。計画が再計算されるときに含むべきシナリオはまた、以前の治療フラクション間の観察された変化に基づくこともできる。適応的計画と組み合わされるときに、方法は、少なくとも1つの治療フラクションの送達後に行われる、更新された入力データを取得し、更新された入力データに基づいて方法を行うステップをさらに含むことになる。通常、治療中に患者がどのくらい変化したかに関する情報を提供するべく1つ又は複数のフラクション画像が取得されることになる。
【0025】
実施形態のそれぞれにおいて用いられるシナリオの数は、治療期間にわたって、又は適応的治療計画の場合には次の治療計画が計算されるまでの期間にわたって起こりそうな各シナリオの表現を提供するのに十分であるべきである。必要とされるシナリオの実際の数は、不確かさのタイプ及び大きさ、各関心領域のサイズ、及びもしかすると他の因子に応じて変化することになる。例えば密度に関するより小さい不確かさに関係するケースでは、2又は3つのシナリオで十分な場合があり、一方、より複雑な状況に関して、数千のシナリオが、満足のいく結果のために要求される場合がある。
【0026】
本発明の態様はまた、プロセッサで実行されるときにプロセッサに本発明の一実施形態に係る方法を行わせることになるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品に関係する。一時的でないコンピュータ可読媒体は、プロセッサで実行されるときにプロセッサに方法を行わせることになるコンピュータで実行可能な命令でエンコードされる。
【0027】
本発明の態様はまた、放射線治療計画に関する線量計算を行うためのコンピュータシステムであって、処理手段を備え、コンピュータプログラム製品が実行時に本発明の一実施形態に係る方法を行うように処理手段を制御することになるような様態で上記に記載のコンピュータプログラム製品が格納されたプログラムメモリを有する、コンピュータシステムに関係する。
【0028】
本発明は、単なる例として添付図を参照して以下でより詳細に説明される。