特許第6989518号(P6989518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989518放射線治療計画を最適化するための方法、コンピュータプログラム、及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989518
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】放射線治療計画を最適化するための方法、コンピュータプログラム、及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20211220BHJP
【FI】
   A61N5/10 P
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-552819(P2018-552819)
(86)(22)【出願日】2017年4月5日
(65)【公表番号】特表2019-510585(P2019-510585A)
(43)【公表日】2019年4月18日
(86)【国際出願番号】EP2017058056
(87)【国際公開番号】WO2017174625
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2018年11月30日
【審判番号】不服2019-16652(P2019-16652/J1)
【審判請求日】2019年12月9日
(31)【優先権主張番号】16164234.3
(32)【優先日】2016年4月7日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516027694
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ,エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ボカランツ,ラスマス
(72)【発明者】
【氏名】フレデリクソン,アルビン
【合議体】
【審判長】 内藤 真徳
【審判官】 倉橋 紀夫
【審判官】 加藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第2878338号明細書(EP,A1)
【文献】 特開平8−280824(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/090459号(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/090457号(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0023018号明細書(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムに格納されたプログラムメモリ(55)にコンピュータプログラムが記録された、放射線療法に関する線量計算を行うためのコンピュータシステム(51)であって、前記コンピュータシステム(51)は、前記コンピュータプログラムがプロセッサ(53)を制御することにより、少なくとも第1のシナリオおよび第2のシナリオに基づき最適化を実行し、各々のシナリオはそれぞれ少なくとも1つの不確実性の変数の実現を表すことを特徴とし、前記第2のシナリオにおける前記少なくとも1つの不確実性の変数の値は、前記第1のシナリオにおける前記少なくとも1つの不確実性の変数の値と異なることを特徴とし、前記コンピュータシステム(51)は:
a.治療計画を最適化するための入力データを提供する手段aと;
b.第1のシナリオに関する第1の目的関数構成要素または制約条件を定義する手段bであって、前記第1の目的関数構成要素または制約条件は第1の目標を表す、手段bと;
c.第2のシナリオに関する第2の目的関数構成要素または制約条件を定義する手段cであって、前記第2の目的関数構成要素または制約条件は第2の目標を表し、前記第2の目標は前記第1の目標とは異なり、前記第1の目標は前記第1のシナリオに用いられ、前記第2の目標は前記第2のシナリオに用いられる、手段cと;および
d.前記第1のシナリオの下で前記第1の目的関数構成要素または制約条件を適用し、かつ前記第2のシナリオの下で前記第2の目的関数構成要素または制約条件を適用する、放射線治療計画を最適化する手段dであって、前記手段dによって、前記第1のシナリオおよび前記第2のシナリオの下で異なる目標を達成する第1の最適化された放射線治療計画を取得する、手段d、
を備える、
コンピュータシステム。
【請求項2】
前記入力データが、前記治療計画に従って治療されるべき患者の領域の3D画像を含む患者データを含む、請求項1に記載のコンピュータシステム。
【請求項3】
前記入力データが最初の治療計画を含む、請求項1または請求項2に記載のコンピュータシステム。
【請求項4】
前記第1のシナリオおよび第2のシナリオに関する前記最初の治療計画を評価する手段と、
前記評価に基づいて第1の目標および第2の目標を選択する手段と、および
前記第1の目標および第2の目標をそれぞれ前記第1の目的関数構成要素または制約条件、および第2の目的関数構成要素または制約条件に基づかせる手段と、
をさらに含む、請求項3に記載のコンピュータシステム。
【請求項5】
最適化が、前記最初の治療計画を別のタイプの放射線または別のビーム構成に合うように変換する際の線量模擬に関係する、請求項3または請求項4に記載のコンピュータシステム。
【請求項6】
少なくとも第1のさらなる目標が前記第1または第2のシナリオに関して設定され、前記第1のさらなる目標は前記第1の目標よりも重要度が低く、
前記コンピュータシステムが、前記手段dに係る放射線治療計画の最適化後に、更新された第1の最適化問題を作成するべく前記最適化された計画に基づく少なくとも1つの制約条件を前記第1または第2の制約条件に追加し、次いで、前記更新された第1の最適化問題および前記第1のさらなる目標に基づいて、前記手段b、手段c、手段dを再度実行し、これにより、第2の最適化された放射線治療計画を取得する手段をさらに含む、請求項4に記載のコンピュータシステム。
【請求項7】
前記更新された第1の最適化問題を作成する手段が、前記目的関数構成要素から前記第1の目標を省き、前記目的関数構成要素に前記第1のさらなる目標を追加し、前記第1の最適化された放射線治療計画に従って前記第1の目標がどのくらい良好に満たされたに関係する制約条件を追加する手段をさらに含む、請求項6に記載のコンピュータシステム。
【請求項8】
少なくとも1つの治療フラクションの送達後に行われる、更新された入力データを取得し、前記更新された入力データに基づいて前記手段dに係る放射線治療計画の最適化を行う手段をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療計画の最適化に関し、特に、異なるシナリオを考慮に入れる放射線治療計画に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、放射線治療計画の作成は、1つ又は複数の設定された目標を達成するべく計画を最適化することを含む。目標をできる限り忠実に達成しようと試みて、最適化問題が定義される。最適化問題は、通常、最適化がそれに向けて努めるべき目標にそれぞれ関係する1つ又は複数の目的関数構成要素を有する目的関数を含む。最適化問題はまた、通常、1つ又は複数の制約条件、すなわち、腫瘍への最小線量、又はリスク臓器への最大線量、或いは目的関数を制御する変数の境界などの、より厳格に遂行される必要がある条件を含む。
【0003】
放射線治療計画を作成するとき、普通は、正確に知ることができない幾つかの変数が存在する。これは、幾らかの不確かさが常に存在することを意味する。このような不確かさを考慮に入れるために、可能性のある変数値の組をそれぞれ表すいくつかの異なるシナリオが定義される場合があり、計画が、シナリオのすべてに関する満足のいく結果を与えるべく最適化される場合がある。
【0004】
考慮に入れることができる不確かさは、以下を含むが、これらに限定されない:
・治療準備の不確かさ。これは、例えば、不正確な描写、画像収集中の不正確な患者の位置決め、及びCT−ハンスフィールドユニットのプロトン阻止能への変換における不正確さに起因する不確かさを含む場合がある。
・治療実行の不確かさ。これらの不確かさは、患者のセットアップ、臓器運動、及び呼吸運動における不確かさなどの、1つの治療フラクション内の変数に関係する場合がある。他の治療実行の不確かさは、腫瘍の縮小又は患者の全身体重減少を含む経時的変化によって生じる。
・放射線生物学モデルパラメータの推定における又は処方線量における不確かさなどの、パラメータの不確かさ。
【0005】
シナリオに基づく最適化方法では、可能な構成又は1つ又は複数の不確かさに関する変数の組をそれぞれ表す、いくつかのシナリオが定義される。目標の組が定義され、これらの目標をすべてのシナリオにおいてできる限り良好に満たす目的で計画が最適化される。このような最適化は、単一のシナリオ上でのみ条件付けられる最適化に比べて誤差にあまり敏感ではない計画につながる。最適化は、例えば、或る最小目標を満たすワーストケースのシナリオに関する目的関数の作成を試みることによって、又はすべてのシナリオにわたる目的関数の加重平均を最小にすることによって行われる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
設定される目標は、それぞれ標的及びリスク臓器に関する最小線量及び最大線量に、或いは、DVH又は治療結果の別の適切な尺度に関係する場合がある。例えば、目標は、標的の少なくとも或る部分が少なくとも或る最小線量を受けるべきであることであり得る。実現可能な計画を達成するために、目標は、すべての可能なシナリオにおいて満たすことができるように設定される。1つ又は複数の不成績のシナリオが他のシナリオよりも顕著に低い目標を満たすことだけが可能なことがありうる。このような場合、不成績のシナリオは通常は無視され、計画は、より好成績のシナリオ上でのみ行われる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、放射線治療計画を最適化するためのシナリオに基づく方法をさらに改善することである。
【0008】
本発明は、少なくとも第1及び第2のシナリオに基づく最適化を行うべくシナリオに基づく最適化関数を用いて放射線治療計画を最適化するための方法であって、各シナリオは少なくとも1つの不確かさの実現を表し、
a.治療計画を最適化するための入力データを提供するステップと、
b.第1のシナリオに関する第1の最適化関数を定義するステップと、
c.第1の最適化関数とは異なる第2のシナリオに関する第2の最適化関数を定義するステップと、
d.第1のシナリオの下で第1の最適化関数及び第2のシナリオの下で第2の最適化関数を適用し、これにより、第1の最適化された放射線治療計画を取得する、放射線治療計画を最適化するステップと、
を含む、方法に関する。
【0009】
第1の最適化関数及び/又は第2の最適化関数は、制約条件として最適化に含まれてよい。代替的に、第1の最適化関数及び/又は第2の最適化関数は、目的関数構成要素として最適化に含まれてよい。1つだけの最適化関数を含むこと、又は一方の最適化関数を制約条件として含み、他方を目的関数構成要素として含むことも可能である。通常、目標は、治療に関して設定され、これらの目標は、目的関数構成要素、制約条件、又はこれらの組み合わせを定義するのに用いられる。目的関数構成要素は、最適化がそれに向けて努めるべき又は最適化ができる限り良好に遂行することを試みるべき所望の目標であり、一方、制約条件は、正確に満足されなければならない厳格な目標である。
【0010】
入力データは、治療計画に従って治療されるべき患者の領域の3D画像を含む患者データを含んでよい。画像の代わりに又は加えて、入力データは、最適化ステップで最適化されるべき最初の治療計画を含んでよい。
【0011】
入力データが最初の治療計画を含む場合、方法は、第1及び第2の最適化関数がそれぞれ基づくべき第1及び第2の目標を選択する前に、第1及び第2のシナリオに関する最初の計画を評価するステップをさらに含んでよい。
【0012】
伝統的に、シナリオに基づく最適化方法では、最適化関数の1つの組がすべてのシナリオの最適化に用いられる。これは、方法が、ワーストケースのシナリオを含むすべてのシナリオに関して同じ目標遂行レベルの達成を試みることを意味する。ワーストケースに基づく最適化方法が用いられる場合、これは、計画の品質が、最も難しいシナリオ、すなわち、計画の品質が最も低い可能性を生み出すことになるシナリオにより制限されることを意味する。他の方法では、満足のいく結果を達成する見込みがより高いシナリオを最適化するのではなく不成績のシナリオの最適化を試みて、最適には及ばない様態でリソースが用いられることになる。本発明に従って異なるシナリオのそれぞれに異なる最適化関数が用いられるようにすることにより、各シナリオは、他のシナリオに関連する制限に関係なく、できる限り上手く最適化することができる。このようにして、より好適なシナリオに関する計画の品質を制限することなく、最も難しいシナリオを含むすべてのシナリオを考慮に入れることができる。より好成績のシナリオに関する最良の可能な結果を依然として達成しながら不成績のシナリオでさえも考慮することができることは、計画全体の顕著な改善を意味する。
【0013】
本発明に係る方法は、異なるシナリオでの達成可能な目標遂行レベルに関する情報が入手可能な場合に特に有用である。
【0014】
異なるシナリオは、通常、以下のような変数の異なる値を含む。
・治療期間中に一定のままであるかもしれないが多くの場合に減少する、患者の体重
・腫瘍の縮小
・患者の位置
・放射線生物学モデルパラメータなどの治療パラメータ
【0015】
異なるシナリオに関する異なる目標は、例えば、腫瘍が大きいままである場合、腫瘍の大部分が放射線療法においてカバーされなければならず、一方、腫瘍が縮小する場合、腫瘍のより小さい部分がカバーされる必要があること、又は腫瘍がリスク臓器に近い場合、リスク臓器へのより低い線量を保証するべく腫瘍へのより低い線量が容認され得ることを意味する場合がある。
【0016】
この発明的な最適化方法は、いくつかの異なるタイプの状況で有利に用いられ得る。
【0017】
例えば、典型的な放射線治療の状況では、少なくとも最小線量を受けるべき標的と、より低い最大を超えない線量を受けるべきリスク臓器が存在する。治療中の標的とリスク臓器との実際の距離は、前述の不確かさに起因して未知であり、したがって、いくつかの異なるシナリオが定義される。いくつかのシナリオでは、標的とリスク臓器との距離は、標的の高いカバー率を可能にするのに十分に大きいであろう。他のシナリオでは、標的とリスク臓器との距離はより小さく、リスク臓器を保護するべく標的のカバー率の幾らかの損失を容認する必要がある場合がある。本発明に係るシナリオに特異的な最適化関数を用いて、これらのシナリオのそれぞれに関する最良の可能な目的関数構成要素及び制約条件を、他のシナリオにより制約されることなく達成することができる。
【0018】
シナリオに依存する最適化はまた、優先順位付けされた又は辞書式最適化と一緒に用いられてよい。優先順位付けされた最適化は、治療計画が優先順位付けされた目標のユーザに特異的なリストに基づいて生成される、半自動化された技術である。計画は、目標をそれらの優先度に従って順序通りにできる限り良好に達成するべく最適化され、第1の最適化における最も重要な目標で開始し、その後の最適化の反復中に1つの反復で成し遂げられた目標達成度を制約条件として用いる。本発明の実施形態によれば、以前に最適化された目標に関係する制約条件は、以前の最適化後のシナリオでの以前に観察された目標達成度に基づく所与のシナリオの組での要求される目標達成度と共に、シナリオごとに独立して決定される。したがって、共通の優先度レベル内の各目標又は目標のグループの達成が、より高優先度の目標に干渉しない程度に最適化される。本発明の実施形態によれば、以前に最適化された目標に関係する制約条件は、1つのシナリオでの要求される目標達成度が該シナリオでの以前に観察された目標達成度に基づいて設定されるような様態で各シナリオに関して独立して課される。
【0019】
優先順位付けされた最適化の目的で、方法は、第1又は第2のシナリオに関する少なくとも第1のさらなる目標を設定するステップを含んでよく、前記第1のさらなる目標は第1の目標よりも重要度が低く、方法は、ステップcに係る放射線治療計画の最適化後に、更新された第1の最適化問題を作成するべく最適化された計画に基づく少なくとも1つの制約条件を最適化問題に追加し、次いで、更新された第1の最適化問題及び第1のさらなる目標に基づいてステップa〜cを再び行い、これにより、第2の最適化された放射線治療計画を取得するステップをさらに含む。
【0020】
更新された第1の最適化問題を作成するステップは、好ましくは、目的関数から第1の目標を省き、目的関数に第1のさらなる目標を追加し、第1の最適化された放射線治療計画に従って第1の目標がどのくらい良好に満たされたかに関係する制約条件を追加することを含む。
【0021】
本発明の実施形態によれば、例えば最初の計画を別のタイプの放射線又は別のビーム構成に合うように変換する際の模擬線量(dose mimicking)の目的で最適化が用いられてよい。模擬線量方法での公分母は、現在の線量と基準線量との(又は現在の線量−体積ヒストグラムと基準線量−体積ヒストグラムとの)不一致を最小にする目的で最適化が行われることである。模擬線量は、以下を含む異なるタイプの計画変換のために用いることができる:
・1つの治療マシンから別の治療マシンへの、又は1つのビーム構成から別のビーム構成への変換
・配信方法の物理的制限に準拠する治療計画への理想的な線量の変換
・例えば標的のカバー率及び均質性を維持しながら積分線量を最小化する、或るタイプの線量低下を防ぐ制約条件の対象となる最適化。
・フォトン療法計画のプロトン療法計画への変換。プロトン療法計画では、不確かさが考慮されなければならず、一方、フォトン療法計画では、標的の周りにマージンを適用することで一般に十分である。フォトン計画が幾何学的マージンを用いて生成された場合、マージンは静的線量クラウド近似を暗黙的にとるので、静的線量クラウド近似を用いてフォトン計画に関するシナリオ線量を抽出することができる。これは、誤差が、厳正に誤差に影響されない線量分布内での患者又は解剖学的構造の動きとみなされることを意味する。次いで、正確なシナリオ線量についての最適化によりプロトン療法計画を生成することができる。
【0022】
シナリオに依存する基準線量分布について模擬線量を行うことが本発明に従って提案される。このような最適化は、誤差に対する頑健性のどのような不必要な損失もなしに計画の変換が行われることを可能にする。
【0023】
多基準ナビゲーションにより作成される頑健なプロトン療法計画の線形結合が、最小スポットウェイト境界(minimum weight bound)について実行可能な頑健なプロトン計画に変換されるときに、模擬線量の別の例が適用され得る。計画の線形結合における1つ又は複数のスポット(すなわち、異なる角度から及び/又は異なるエネルギーで送達される線量のパーティション)が、治療システムで定義された最小ウェイトよりも低いウェイトを有する場合、計画は、例えば、各シナリオに関する基準線量として計画にわたるシナリオ線量の線形結合を用いる模擬線量により再計算されなければならない。
【0024】
本発明に係る方法はまた、適応的治療と組み合わされてよい。適応的治療では、新しい治療計画は、第1の治療フラクションの前だけでなく、さらなる時点でとられる患者の新しい画像に基づいて治療中の1つ又は複数のさらなる時点ででも計算される。新しい治療計画は、各フラクションの前に、すなわち例えば週に1回計算されてよい。新しい治療計画は、この発明の実施形態に係るシナリオに基づくものであってよい。したがって、各計画は全治療の一部のみをカバーすることになり、これは可能な変化の大きさを制限することになるので、考慮に入れる必要がある可能なシナリオの数及び/又はそれらの間の変動を減らすことができる。計画が再計算されるときに含むべきシナリオはまた、以前の治療フラクション間の観察された変化に基づくこともできる。適応的計画と組み合わされるときに、方法は、少なくとも1つの治療フラクションの送達後に行われる、更新された入力データを取得し、更新された入力データに基づいて方法を行うステップをさらに含むことになる。通常、治療中に患者がどのくらい変化したかに関する情報を提供するべく1つ又は複数のフラクション画像が取得されることになる。
【0025】
実施形態のそれぞれにおいて用いられるシナリオの数は、治療期間にわたって、又は適応的治療計画の場合には次の治療計画が計算されるまでの期間にわたって起こりそうな各シナリオの表現を提供するのに十分であるべきである。必要とされるシナリオの実際の数は、不確かさのタイプ及び大きさ、各関心領域のサイズ、及びもしかすると他の因子に応じて変化することになる。例えば密度に関するより小さい不確かさに関係するケースでは、2又は3つのシナリオで十分な場合があり、一方、より複雑な状況に関して、数千のシナリオが、満足のいく結果のために要求される場合がある。
【0026】
本発明の態様はまた、プロセッサで実行されるときにプロセッサに本発明の一実施形態に係る方法を行わせることになるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品に関係する。一時的でないコンピュータ可読媒体は、プロセッサで実行されるときにプロセッサに方法を行わせることになるコンピュータで実行可能な命令でエンコードされる。
【0027】
本発明の態様はまた、放射線治療計画に関する線量計算を行うためのコンピュータシステムであって、処理手段を備え、コンピュータプログラム製品が実行時に本発明の一実施形態に係る方法を行うように処理手段を制御することになるような様態で上記に記載のコンピュータプログラム製品が格納されたプログラムメモリを有する、コンピュータシステムに関係する。
【0028】
本発明は、単なる例として添付図を参照して以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の方法に係る実施形態のフローチャートを示す。
図2図2は、優先順位付けの最適化を併せて使用した場合の本発明の方法に係る実施形態のフローチャートを示す。
図3図3は、本発明の方法に係る代替え的な実施形態のフローチャートを示す。
図4図4は、本発明を実行するのに使用され得るコンピュータシステムの概略を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、例えば模擬線量を使用した場合の、本発明の方法に係る実施形態のフローチャートである。模擬線量に関連しない他のタイプにおける状況にも適用可能である。この実施形態では、開始点は、ステップS11で取得される最初の治療計画及び考慮するべきいくつかのシナリオであり、方法は、最初の治療計画がすべてのマシン制限を満足しない場合に、最初の治療計画に基づいて改善された治療計画を取得すること又は配信可能な治療計画を取得することを目的とする。計画に含まれるデータのタイプに応じて、他の入力データ、例えば患者に関係するデータが、線量計算のために必要とされる場合がある。最初の治療計画は、シナリオに基づく方法及びシナリオに基づかない方法を含む当該技術分野では公知の任意の様態で得られてよい。通常、これは、同じ患者に関して立てられた以前の計画となるが、これは標準的な計画のライブラリから得ることもできる。
【0031】
シナリオは、手動で又は全自動で定義されてよい。シナリオを定義する幾つかの半自動方法も考えられる。好ましい実施形態では、ユーザは、不確かさに基づいてシナリオの適切な組を計算することになるシステムへの入力として、不確かさの大きさを設定することができる。
【0032】
ステップS12で、最初の治療計画が、異なるシナリオでの標的への線量の少なくとも1つの態様に関係する品質について、いくつかのシナリオに関して評価される。態様は、線量レベル、平均線量、DVH、又は全線量分布に関係する場合がある。前述のように、最初の治療計画は、必ずしもシナリオに基づく方法を用いて取得される必要はないが、シナリオに基づく方法を用いて取得される場合、ステップS12で用いられるシナリオは、最初の治療計画に関して用いられたシナリオとは異なる場合がある。本発明のすべての実施形態のように、前述のように、少なくとも2つの、しかし好ましくはより多くのシナリオが用いられる。シナリオは、例えば、以下のうちの1つ又は複数に関する1つ又は複数の不確かさについて定義される:
・セットアップ誤差
・範囲誤差
・臓器の運動
・患者の運動
【0033】
ステップS13で、シナリオのそれぞれに関する異なる目標が設定される。各シナリオに関する目標は、該特定のシナリオに関する最初の計画によって達成された結果を反映するべく設定される。これは、1つのシナリオに関する目標の組が、同じ計画内の代替的なシナリオに関する対応する目標の組よりも厳格であり得ることを意味する。前述のように、目標は、目的関数構成要素として、制約条件として、又はこれらの組み合わせとして設定されてよい。最初の計画によって反映されていないさらなる目標を含むこともできる。
【0034】
ステップS14で、新しい治療計画が新しい条件に関して最適化される。上記で説明したように、模擬線量の場合、これは、例えば、新しい計画が、最初の計画に比べて異なるタイプの放射線又は異なるビーム構成に関して最適化されることを意味し得る。
【0035】
図2は、優先順位付けの最適化を使用した場合の本発明の方法の実施形態を示すフローチャートである。優先順位付けの最適化では、異なる優先度を有するいくつかの目標又は目標の組が存在し、最初に最高の優先度を有する1つ又は複数の目標について最適化が行われる。次いで、最適化は、優先度順位が下がる際の他の目標に関して反復的に行われてよい。ステップS21〜S23は、図1のステップS11〜S13と同じである。第1の反復でのステップS23において、最高の優先度を有する目標又は目標の組が考慮される。好ましくは、これらの目標を反映する最適化関数は目的成分として含まれる。ステップS24で、ステップS23で設定された目標に基づいて計画が最適化される。次いで、計画は、通常、決定ステップS25への入力データとして評価される。
【0036】
ステップS25で、計画がさらに改善されるべきであると判定される場合、ステップS24で得られた目標達成度が、最適化のさらなる反復に関する目標に含められる。これは、方法がステップS22に戻る前のステップS26により例示される。好ましくは、第1の反復でのステップS23で用いられた目標は破棄され、ステップS26で含められた目標を反映する最適化関数は、もしかすると到達したレベルからの幾らかの逸脱を許容するべくずれ因子(slippage factor)と共に、通常、少なくともステップS24で成し遂げられた遂行レベルを達成するべく引き続く最適化を課す制約条件として含まれる。第2の反復において、第2の最高の優先度を有する目標は、ステップS23で設定された目標となるであろう。
【0037】
ステップS25で、決定は、評価の結果が、計画の品質が十分である場合に工程が終了することになるということであるように、上述の評価に基づいてよい。代替的に、工程の反復の数は、或る数の計画の最適化後に決定が「no」をもたらすことになり、且つ工程が終了することになるように、事前に設定されてよい。
【0038】
図2に示された工程の好ましい実施形態では、ステップS26は、最適化関数への以下の補正を含む:以前の最適化の反復に関して設定された少なくとも1つの目標に関係するどの目的関数構成要素も目的関数から破棄される。代わりに、好ましくは、少なくとも1つの目標が以前の最適化の反復において満たされた度合いにより定義される、制約条件が追加される。通常、制約条件は、目標が次の最適化において少なくとも同じ度合いに満たされなければならない又は或る限度内でのみ低下することであろう。例えば、標的の或る線量カバー率が達成される場合、次の最適化で少なくとも同じ線量カバー率が達成されるべきである。また、次の優先度レベル上の少なくとも1つの目標に関係する目的関数構成要素が、次の最適化の反復に関する目的関数に追加される。
【0039】
図3は、ステップS31で患者データ及び複数の異なるシナリオを用いて工程を開始した場合の本発明の方法に係る実施形態を示すフローチャートである。患者データは、通常、患者の計画画像と、もしかすると患者に関する以前の計画又は他の幾何学的データなどの他のデータを含む。
【0040】
計画が含まれる場合、計画は、図3には図示されていないステップS12に対応するステップで、異なるシナリオに関して評価されてよい。
【0041】
ステップS32で、シナリオに関する異なる目標が設定される。これは、手動で又はシステムにより半自動的に又は自動的にサポートされて行われてよい。ステップS33で計画が最適化され、ステップS34で計画が評価される。ステップS34の後で、さらなる最適化が実行されるべきであるかどうかを判定するための決定ステップS35が行われてよい。さらなる最適化が実行されるべきである場合、工程はステップS32に戻り、そうでない場合、工程は終了する。工程終了の決定は、例えば、以前のステップに対する改善のサイズ、方法により費やされた時間、とられたステップの数、又は所望の品質レベルが満たされていることなどの当該技術分野では公知の多くの異なる態様に依存することがある。患者データに計画が含まれていなかった場合、計画システムは、計画を最適化するための開始点として最初の推測を立てることになる。
【0042】
図4は、本発明の方法を実行する場合のコンピュータシステムを示す概略図である。コンピュータ51は、プロセッサ53、データメモリ54、及びプログラムメモリ55を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段、又は任意の他の入手可能なユーザ入力手段の形態の、ユーザ入力手段58も存在する。
【0043】
データメモリは、方法に関する入力データを保持する。入力データのタイプは実施形態に依存する。入力データは、治療計画、患者データ、1つ又は複数の値の組、及び1つ又は複数の目的関数、並びに最適化中に考慮されるべきシナリオを含んでよい。データメモリにおけるデータは、当該技術分野では公知の任意の方法で、コンピュータ51で生成されてよく、ユーザ入力手段によって入力されてよく、又は別のストレージ手段から受信されてよい。
【0044】
理解されるように、データメモリ54は概略的にのみ示される。例えば、値の組に関する1つのデータメモリ、目的関数に関する1つのデータメモリなどの、1つ又は複数の異なるタイプのデータをそれぞれ保持する、いくつかのデータメモリユニットが存在し得る。
【0045】
プログラムメモリ55は、最適化を行うべくプロセッサを制御するように構成されたコンピュータプログラムを保持する。図1図3、及び図2のそれぞれのフローチャートの方法のステップのすべてが必ずしもコンピュータ51で行われる必要はないことが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4