特許第6989519号(P6989519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989519
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/04 20060101AFI20211220BHJP
   C07C 19/01 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C07C17/04
   C07C19/01
【請求項の数】19
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-553936(P2018-553936)
(86)(22)【出願日】2017年4月12日
(65)【公表番号】特表2019-511539(P2019-511539A)
(43)【公表日】2019年4月25日
(86)【国際出願番号】CZ2017000024
(87)【国際公開番号】WO2017177988
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2020年4月9日
(31)【優先権主張番号】PV2016-214
(32)【優先日】2016年4月13日
(33)【優先権主張国】CZ
(73)【特許権者】
【識別番号】517132706
【氏名又は名称】スポレク プロ ヘミコウ アー フツニ ブイロブ,アクツィオバ スポレチェノスト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】ズデニェク オンドルシュ
(72)【発明者】
【氏名】パベル クビーチェク
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−135003(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0686200(KR,B1)
【文献】 特開昭62−048638(JP,A)
【文献】 米国特許第03932544(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/04
C07C 19/01
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化されたアルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、C3-6塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、C3-6塩素化アルカンの製造方法であって、
前記塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、
前記塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧を超える圧力で操作され、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
前記アルケン又はアルカンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満であり、
前記塩素化ゾーンから取り出される前記反応混合物は、酸素化有機化合物を約500ppm以下の量で含む、方法。
【請求項2】
前記塩素は、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び/又は塩化水素の電気分解によって生成される塩素ガスである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記塩素化ゾーンに供給される前に、前記塩素の酸素含有分は低減される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記塩素の酸素含有分は塩素液化により低減される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記塩素化ゾーンにおける操作温度は約−30℃〜約100℃である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記反応混合物は前記塩素化ゾーンから取り出され、酸素化有機化合物を加水分解する加水分解工程に供される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記加水分解工程は加水分解ゾーンにおいて前記反応混合物を水性媒体と接触させることを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記水性媒体は酸性である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記塩素化アルカンを含む混合物を前記加水分解ゾーンから取り出す工程をさらに含む、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記塩素化ゾーンから取り出される前記反応混合物は1つ以上の蒸留工程に供される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応混合物を前記塩素化ゾーンから取り出し、酸素化有機化合物を加水分解する加水分解工程に供し、加水分解工程の前に少なくとも1つの蒸留工程を行う、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記反応混合物を前記塩素化ゾーンから取り出し、酸素化有機化合物を加水分解する加水分解工程に供し、加水分解工程の後に少なくとも1つの蒸留工程を行う、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
前記蒸留工程の1つ、幾つか又は全ては約100℃以下の温度で行われる、請求項10〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記蒸留工程の1つ、幾つか又は全ては約80℃以下の温度で行われる、請求項10〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
蒸留装置及び/又は加水分解ゾーンを不活性ガスでパージ及び/又はブランケットすることを含む、請求項6〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記塩素化ゾーンを不活性ガスでパージ及び/又はブランケットすることを含む、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記不活性ガスは窒素である、請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
塩素化されたアルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、C3-6塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、C3-6塩素化アルカンの生成の際に、生成する酸素化塩素化化合物の量を最小限に抑える方法であって、
前記塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、そして、
前記塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧を超える圧力で操作され、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
前記アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満である、方法。
【請求項19】
塩素化されたアルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させてC3-6塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、C3-6塩素化アルカンの生成の際に、生成する酸素化塩素化化合物の量を最小限に抑える方法であって、
前記塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧を超える圧力下で操作され、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
前記アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満であり、
前記塩素化ゾーン中の酸素の含有分は約7000ppmvol未満である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、許容可能に低いレベルの酸素化不純物を有する塩素化アルカン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロアルカンは様々な用途に有用である。例えば、ハロカーボンは、冷媒、発泡剤及び起泡剤として広範囲に使用されている。20世紀の後半にわたって、クロロフルオロアルカンの使用は、特にオゾン層の枯渇に関する環境への影響が懸念された1980年代まで指数関数的に増加した。
【0003】
次いで、クロロフルオロアルカンの代わりに、パーフルオロカーボン及びハイドロフルオロカーボンなどのフッ素化炭化水素が使用されてきたが、より最近では、そのクラスの化合物の使用に関する環境上の懸念が高まり、その使用を減らすためにEU及び他の地域で法律が制定されている。
【0004】
新しいクラスの環境にやさしいハロカーボンが出現し、研究されており、幾つかの場合には、多くの用途に、特に自動車分野及び家庭分野の冷媒として採用されている。このような化合物の例としては、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1234xf)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブテン(HFO-1345zf)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブテン(HFO-1336mzz)、3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロペンテン(HFO-1447fz)、2,4,4,4-テトラフルオロブト-1-エン(HFO-1354mfy)及び1,1,1,4,4,5,5,5-オクタフルオロペンテン(HFO-1438mzz)などのハイドロフルオロオレフィン(HFO)が挙げられる。
【0005】
これらの化合物は、相対的に言えば、化学的に複雑ではないが、要求される純度レベルで工業規模にて合成することは困難である。
【0006】
HFO製造における望ましくない不純物の生成を防止又は抑制させる試みは、従来技術に開示されている。例えば、US2010/331583及びWO2013/119919は、部分フッ素化フィードストックにおける純度の必要性(ならびに純度を改善するためのアプローチ)を記載している。さらに、US8252964は、HFO化合物から不純物を除去するためのモレキュラーシーブの使用を記載している。WO2013/184865は注目のHFO化合物から除去困難な不純物を分離するためのさらなる反応の使用を提唱している。US2014/235903は反応器不純物の問題に取り組んでいる。
【0007】
塩素化出発材料は、HFO化合物の製造のためのフィードストックとしての重要性が増している。望ましくない不純物の生成に影響を及ぼし得る1つの要因は塩素化出発材料の純度及び不純物プロファイルである。というのは、これは、所望のフッ素化HFO生成物を製造するための下流プロセス(特に連続プロセス)の成功及び実行可能性に実質的な影響を及ぼすからである。特定の不純物の存在は副反応をもたらし、標的化合物の収率を低減する。塩素化フィードストック中の不純物はまた、注目のHFO化合物中のフッ素化不純物に転化されることもある。蒸留工程の使用によるこれらの不純物の除去もまた、困難であり及び/又は非効率的である。さらに、特定の不純物の存在は、例えば、触媒毒として作用することによって触媒の寿命を損なうであろう。
【0008】
種々の不純物が市販の塩素化アルカンフィードストック中に存在することが当該技術分野で知られており、例えば、注目の化合物以外の塩素化アルカン、低塩素化化合物(すなわち、注目の化合物よりも少ない塩素原子を含む化合物)、高塩素化化合物(すなわち、注目の化合物よりも多い塩素原子を含む化合物)、目的化合物の異性体、及び/又は、使用される触媒の残渣である。
【0009】
そのような化合物の特定の例及びその生成を最小限に抑える方法は当該技術分野で提案されている。
【0010】
例えば、WO2013/086262は、メチルアセチレンガスから1,1,2,2,3-ペンタクロロプロパンを製造する方法を開示している。
【0011】
WO2013/055894は、テトラクロロプロペン、特に1,1,2,3-テトラクロロプロペンの製造方法を開示しており、この文献に開示された方法から得られる生成物は、フルオロカーボンを製造するための下流プロセスにおいて問題となり得る不純物のレベルが有利に低いことを報告している。WO2013/055894の著者によって問題となると考えられる種々のタイプの不純物の議論は、その文献の段落[0016]及び[0017]に記載されている。
【0012】
US2012/157723は三工程法による塩素化アルカンの製造方法を開示している。
【0013】
下流の段階で粗製中間体を使用することによってプロセスが合理化されるさらなる方法はWO2009/085862に開示されている。
【0014】
しかしながら、これらの不純物のうちのどれが特に問題であり、どの不純物が許容され得るかに関しては先行技術の開示は限定されている。本発明の発明者は、現在、1つの特定のクラスの不純物が下流反応(例えば、注目のクロロフッ素化又はフッ素化最終化合物の調製をもたらすハイドロフッ素化反応)で特に問題となり、すなわち酸素化有機化合物が問題となることを理解している。これらの化合物は、貯蔵又は輸送の際に塩素化アルカンフィードストックを不安定化させる可能性がある。さらに、塩素化アルカンフィードストック中にそれらが存在すると、注目のHFO化合物の収率を低下させる多量の下流不純物の生成をもたらす可能性がある。
【0015】
本発明の発明者の知る限りでは、このクラスの不純物は、以前に問題であるとは認識されておらず、また、塩素化アルカン化合物の製造中にこれらの不純物を最小限に抑えるか、又は、排除することに焦点を当てた開示も又は教示も存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
塩素化アルカンフィードストック中の酸素化不純物の存在は、下流工程を実用可能とせず、又は、少なくとも困難なものにする可能性があるというこの理解の観点から、許容可能な低レベルの酸素化不純物を含む塩素化アルカン化合物、及び、効率的で信頼性の高いそのような材料の調製方法に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の発明者は、驚くべきことに、塩素化アルケン又はアルカンが塩素と反応し、そして酸素源が存在する場合に、塩素は酸素化化合物の生成を促進することを、徹底的な研究を通して発見した。
【0018】
したがって、本発明の第一の態様によれば、アルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む、反応混合物を生成する塩素化アルカンの製造方法であって、塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧より高い圧力で操作され、及び/又は、塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満である、方法は提供される。
【0019】
添付の実施例によって実証されるように、本発明の発明者は、低酸素レベルを有する塩素の使用によって塩素化反応における酸素化有機不純物の生成を最小限に抑えることができることを確認した。
【0020】
したがって、本発明の別の態様によれば、アルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、塩素化アルカンを生成する際の酸素化塩素化化合物の生成を最小限に抑えるための方法であって、塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、
塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧より高い圧力下で操作され、及び/又は、
塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満である、
方法は提供される。
【0021】
低レベルの酸素を含む商業的な塩素源は存在するが、当業者は、これらの塩素源がクロルアルカリ膜又はダイアフラム電気分解プラントから得られるものなどの従来的に使用される塩素ガス源(典型的には約0.5〜2.0%のレベルで酸素を含む)よりもかなり高価であり、正当な理由なしに工業的規模では使用しないことを認識するであろう。
【0022】
US3932544は、重質分を避けるために制御された塩素フィード速度での塩素化、及び、酸素のパージについて述べている。塩素フィード自体から酸素を除去することについては言及されていない。
【0023】
KR100686200は酸素が塩素から除去される方法を記載しており、この塩素は、例えば、クロロホルム、四塩化炭素の製造方法に使用される。
【0024】
本明細書で使用されるときに、用語「酸素化有機不純物」又は「酸素化有機化合物」は、炭素、水素及び酸素原子を含む化合物を意味する。酸素化有機化合物の例としては、塩素化アルコール、塩素化アルカノール、塩素化酸塩化物、塩素化カルボン酸、塩素化アルデヒド、塩素化ケトン、塩素化過酸化物が挙げられる。
【0025】
酸素化有機不純物の例としては、プロパノール又はプロパノイル化合物が挙げられ、一方、C酸素化有機不純物の例としては、エタノール又はエタノイル化合物が挙げられる。C酸素化有機不純物の例としてはホスゲンが挙げられる。
【0026】
これらの化合物は、蒸留などの従来の技術を用いて塩素化アルカンから分離することが一般的に困難であるため、特に問題である。これらの化合物の存在から生じる他の問題は、本明細書で論じられる。
【0027】
塩素化ゾーンで生成された反応混合物は、そこから取り出されてよく、そして場合によって、以下に詳述する追加の処理工程に供されてよい。
【0028】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンから取り出された反応混合物中の酸素化有機化合物の含有分は、約2000ppm以下、約1000ppm以下、約500ppm以下、約200ppm以下、約150ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約20ppm以下、約10ppm以下、又は、約5ppm以下である。
【0029】
酸素化有機化合物の含有分の決定を可能にする反応混合物の組成は、塩素化ゾーンからの反応混合物の取り出しに続いて実施可能になるとすぐに決定されうる。例えば、反応混合物のサンプルは、塩素化ゾーンの出口に隣接するか又はわずかに下流にある点取り出すことができる。
【0030】
反応混合物は、塩素化ゾーンから連続的又は間欠的に取り出すことができる。当業者であれば、塩素化ゾーンが運転条件にあり、そしてその目的が安定した状態反応を設定することであれば、一旦、そこにある反応混合物が要求される定常状態に達したら、反応混合物が塩素化ゾーンから取り出される実施形態において、材料を実質的に連続的に取り出すことができることを認識するであろう。
【0031】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンで行われる反応は液相中であり、すなわち、その中に存在する反応混合物は、主に又は完全に液体である。反応混合物は、当業者に知られている任意の技術、例えばクロマトグラフィーを用いて分析することができる。
【0032】
上記のように、本発明の方法で使用される塩素は、約2000ppmv以下の酸素(O )含有分を含む。そのような低レベルの酸素を含む塩素の使用は、問題のある酸素化有機化合物、特に酸素化塩素化化合物の生成を有利に最小限に抑える。本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにフィードされる塩素は、約1500ppmv以下、約1000ppmv以下、約500ppmv以下、約250ppmv以下、約150ppmv以下、約100ppmv以下、約50ppmv以下、約20ppmv以下又は約10ppmv以下の酸素を含むことができる。
【0033】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンに供給される塩素は気体である。
【0034】
低レベルの酸素を含む市販の塩素源は入手可能である。しかしながら、そのような低レベルの酸素を含む塩素源は、従来的に使用されている塩素源よりも高価である。本発明の実施形態において、運転コストを最小限に抑え、またプロセスの使用者に塩素出発材料の酸素含有分に対するよりよい制御性を提供するために、塩素化ゾーンにフィードされるものよりも高い酸素含有分を有する市販の塩素源を、まず、その酸素含有量を低減するために処理されることができる。あるいは、技術的に実現可能であれば、例えば塩酸の膜又はダイアフラム電気分解によって低酸素含有塩素ガスを生成することができる。
【0035】
KR100686200は、酸素を塩素から除去し、この塩素を、例えば、クロロホルム、四塩化炭素の製造方法に使用する方法を記載している。
【0036】
当業者は、塩素源中の酸素の含有分を低減するための技術及び装置に精通しているであろう。例えば、塩素ガスフィードストックを適切な温度及び圧力の組み合わせを用いて部分的に液化する液化ユニットの使用によって、塩素源から酸素を除去することができる。液化された塩素は酸素含有分が低く、そして蒸発させて低酸素含有塩素ガスフィードストックを生成することができる。このようなアプローチは高価であり、液化塩素の貯蔵は危険であるが、塩素化アルカンの製造に使用される塩素源の酸素含有分を最小限に抑えることの重要性を発明者らが見出したことから、塩素源の酸素含有分を最小限に抑えるという負担は正当化される。
【0037】
本発明の方法において出発材料として使用される塩素は、好ましくは高純度である。本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにフィードされる塩素は、好ましくは、少なくとも約95体積%、少なくとも約97体積%、少なくとも約99体積%、少なくとも約99.5体積%、少なくとも約99.8体積%又は少なくとも約99.9体積%の純度を有する。
【0038】
それに加えて又はそれに代えて、本発明の方法で使用される塩素は、約200ppmv以下、約100ppmv以下、約50ppmv以下、約20ppmv以下又は約10ppmv以下の量の水を含むことができる。
【0039】
塩素は、液体及び/又は気体の形態で塩素化ゾーンに、連続的に又は間欠的にフィードされうる。例えば、塩素化ゾーンに1つ以上の塩素フィードでフィードされることができる。
【0040】
塩素化ゾーンにおける反応混合物が液体である場合に、塩素はガスとして塩素化ゾーンにフィードされ、そして塩素化ゾーンにおいて溶解されうる。
【0041】
実施形態において、塩素は、分散装置、例えば、ノズル、多孔板、チューブ、エジェクターなどを介して塩素化ゾーンにフィードされる。本発明の実施形態において、塩素は液体反応混合物に直接フィードされうる。それに加えて又はそれに代えて、塩素は、塩素化ゾーンの上流で他の反応体の液体フィード中にフィードされうる。
【0042】
追加の激しい攪拌を用いて、液体反応混合物中への塩素の良好な混合及び/又は溶解を保証することができる。当業者に認識されるように、塩素化装置への酸素(又は空気などのその供給源)及び/又は水の進入を最小限に抑えるための工程を取るべきである。
【0043】
本発明の方法において使用されるアルケンは、C2−6アルケン、例えばエテン(すなわちCアルケン)、プロペン、ブテン、ペンテン又はヘキセンであってもよい。アルケンは、ハロゲン化、例えば、塩素化、臭素化及び/又はヨウ素化されていても又はされていなくてもよい。さらに、アルケンは直鎖又は枝分かれ鎖、環状であり及び/又は置換されていてもよい。アルケンが塩素化される形態において、それは好ましくは1、2、3、4又は5個の塩素原子を含む。
【0044】
本発明の方法において使用されうるアルケンの例としては、エテン、クロロエテン、クロロプロペン、クロロブテン、塩化ビニル、プロペン、2-クロロプロペン、3-クロロプロペン、2,3,3,3-テトラクロロプロペン、1,1-ジクロロエテン、トリクロロエテン、クロロフルオロエテン、1,2-ジクロロエテン、1,1-ジクロロ-ジフルオロエテン、1-クロロプロペン、1-クロロブテン、1,1,3-トリクロロプロペン、1,1,2-トリクロロプロペン、2,3,3トリクロロプロペン、1,1,4,4,4-ペンタクロロブテン、3,3,3-トリクロロプロペン、1,2,3-トリクロロプロペン、1,3-ジクロロプロペン、1,1-ジクロロプロペン、1,1,2,3-テトラクロロプロペン、1,1,3,3-テトラクロロプロペン、1,1,2,3,3-ペンタクロロプロペン、1,1,3,3,3-ペンタクロロプロペン及び1,1,2,3,3,3-ヘキサクロロプロペン及び/又はUS5902914に開示されている他の任意のアルケンが挙げられ、その内容を参照により取り込む。
【0045】
塩素化プロペン、ブテン、ペンテン又はヘキセンを本発明の方法で使用して、注目の塩素化C3-6化合物を製造することができ、該化合物は低い地球温暖化係数を有するフッ素化化合物の製造に有用性を見い出す。
【0046】
本発明の方法において出発材料として使用されるアルケン又はアルカンは好ましくは高い純度を有する。本発明の実施形態において、アルケンは少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約99%又は少なくとも約99.5%の純度レベルを有する。
【0047】
それに加えて又はそれに代えて、アルケン又はアルカンは約2質量%未満、約1質量%未満、約0.1質量%未満、約0.01質量%未満又は約0.001質量%未満のアルケン及び/又はアルカン不純物を含むことができる。例えば、塩素化アルケン出発材料が1,1,3-トリクロロプロペンである場合に、1,1,3-トリクロロプロペン出発材料は約2質量%未満、約1質量%未満、約0.1質量%未満、約0.01質量%未満、約0.001質量%未満の、3,3,3-トリクロロプロペン及び/又はテトラクロロエチレンなどの塩素化アルケン不純物及び/又は1,1,1,3-テトラクロロプロパンなどの塩素化アルカン不純物を含むことができる。
【0048】
高純度塩素化アルケンを製造する方法は、WO2016/058567に開示されており、その内容を参照により本明細書に取り込む。これらの方法の生成物は、有利には、
約95%以上、約97%以上、約99%以上、約99.2%以上、約99.5%以上又は約99.7%以上の塩素化アルケン、
約1000ppm未満、約500ppm未満、約200ppm未満又は約100ppm未満の塩素化C5−6アルカン不純物、
約1000ppm未満、約500ppm未満、約200ppm未満又は約100ppm未満の塩素化アルケン不純物(すなわち、出発材料以外の塩素化アルケン)、
約500ppm未満、約200ppm未満、約100ppm未満、約50ppm未満、約20ppm未満、約10ppm未満又は約5ppm未満の金属(例えば、鉄)、
約1000ppm未満、約500ppm未満、約250ppm未満又は約100ppm未満の酸素化有機化合物、及び/又は、
約500ppm未満、約250ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約20ppm以下又は約10ppm以下の水、
を含む。
【0049】
疑義を避けるために、上で概説した金属の限定は元素形態の金属(例えば、粒子状金属)ならびにイオン形態(例えば塩の形態)の金属を包含する。
【0050】
本発明の方法において出発材料として使用されるアルケン材料は、上に概説したような不純物プロファイルを有する組成物中に提供することができる。
【0051】
本発明の方法においてフィードストックとして使用されるアルケン材料は、さらに、溶存酸素を、約2000ppm未満、約1000ppm以下、約500ppm以下、約200ppm以下、約150ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約20ppm、約10ppm以下、約5ppm以下、又は、約2ppm以下の量で含むことができる。
【0052】
本発明の方法において使用される塩素化アルケンは、当業者に既知の任意の技術を用いて塩素化ゾーンにフィードすることができる。当業者に認識されるように、塩素化装置への酸素(又は空気などの供給源)及び/又は湿分の侵入を最小限に抑えるための工程を取るべきである。
【0053】
当業者は、塩素化反応を介してアルケン出発材料から塩素化アルカンを得ることを可能にする技術及び装置に精通しているであろう。追加の支援もここに提供される。このような方法を用いて、広範囲の塩素化アルカンを調製することができる。そのような方法の例は、PCT/CZ2015/000122、US2012/053374、US2014/235906及びWO2013/015068に開示されており、その内容を参照により取り込む。
【0054】
本発明はより高度に塩素化されたアルカンを製造するための塩素化アルカンの塩素化にも適用可能である。塩素化アルカン出発材料の塩素化は中間体を経て進行し、それは、次いで、その場で塩素化されて、より高度に塩素化されたアルカン生成物を生成するものと考えられている。この中間体は酸素と反応しやすいようである。したがって、非常に低い酸素含有分を確保するように制御された塩素及び反応器条件が重要であると考えられている。例えば、出発塩素化アルカンは1,1,1,3-テトラクロロプロパンであり、それは、適用されたUV及び/又は触媒、例えば金属塩の存在下で塩素により塩素化されて、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンを生成する。金属塩は、例えば、遷移金属又はポスト遷移金属のルイス酸などのイオン性金属化合物であることができる。
【0055】
その場で生成された中間体、例えば塩素化アルケンを介した塩素化アルカンの別の塩素化アルカンへのこのような塩素化のための例示の方法は、WO2017028826、WO2009085862、WO2014116562、WO2014164368に記載されているとおりであることができる。本明細書で使用するアルカン出発材料は、例えばWO2016058566に記載されている。
【0056】
実施形態において、ラジカル及び/又はイオン塩素化を用いることができる。当業者が認識するように、イオン塩素化は、典型的には、使用されるある形態の触媒(例えば、遷移金属又はポスト遷移金属のルイス酸などのイオン性金属化合物)を必要とし、それは良好な収率及び生成物純度を達成しながら、より低温で反応を進行させることができる。ラジカル塩素化は、典型的には、電磁線照射(例えば、UV及び/又は可視光の照射)又は熱の適用を含む。
【0057】
本発明の実施形態において、生成される塩素化アルカンは、C2−6クロロアルカン、例えば、クロロエタン、クロロプロパン又はクロロブタン、又は、C3−6クロロアルカンであることができる。本発明の方法で製造することができる塩素化アルカンの例としては、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン、1,1,2,3-テトラクロロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,2-ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタクロロブタン、1,1,1,2,3,3-ヘキサクロロプロパン、 1,1,1,2,3,3,3-ヘプタクロロプロパン、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタクロロプロパン及び1,1,1,2,2,3,3,3-オクタクロロプロパンが挙げられる。
【0058】
注目の塩素化アルカンを生成するためのアルケン又はアルカン出発材料の塩素化をもたらす任意の条件を塩素化ゾーンで用いることができる。しかしながら、本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにおける操作温度は、比較的低いレベル、例えば約100℃以下、約90℃以下又は約80℃以下に維持することができる。塩素化ゾーンの操作温度は、約−30℃〜約75℃、約−20℃〜約40℃、約−10℃〜約30℃又は約0℃〜約20℃であることができる。塩素化ゾーンでのこのような温度の使用は、目的の塩素化アルカンの異性体の生成を減少させるが、必要な生成物を高収率で選択的に与えるので、予想外に有利であることが判明した。これらの温度での反応速度を増加させるために、必要に応じて、光(可視及び/又は紫外線)を使用して、塩素の付加を促進することができる。
【0059】
本発明の実施形態において、塩素:アルケン又は塩素:アルカンフィードストックのモル比は、約0.3:1.0又は約0.5:1.0〜約1.1:1.0又は約1.5:1.0の範囲であることができる。特定の実施形態において、塩素化ゾーンに提供される塩素は、化学量論的過剰のアルケン又はアルカンフィードストックが存在することを確保するように制御することができる。例えば、塩素化ゾーンにおける反応混合物中の塩素:アルケン又は塩素:アルカンのモル比は、<1:1であることができ、≦0.95:1であることができ、≦0.9:1であることができ、≦0.85:1であることができ、≦0.8:1であることができ、≦0.5:1であることができ、又は、≦0.3:1以下であることができる。反応混合物中の塩素含有分のこのような制御は、本発明の実施形態において(特に塩素化ゾーンが連続的に操作される実施形態において)、より制御された塩素化反応を促進し、これで、酸素化塩素化副生成物の過剰生成を阻害することができる。
【0060】
塩素化ゾーンの操作温度は、当業者に知られている任意の温度制御手段、例えば加熱/冷却ジャケット、反応器の内部又は外部の加熱/冷却ループ、熱交換器などによって制御することができる。それに加えて又はそれに代えて、温度は、反応混合物に添加される材料の温度を制御し、このようにして、反応混合物の温度を制御することによって制御することができる。反応混合物は、要求レベルの塩素化を達成するのに十分な時間及び条件下で塩素化ゾーンに維持される。
【0061】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンは光、例えば可視光及び/又は紫外線に暴露される。反応混合物の光への暴露は、低温で操作される場合に反応を促進し、そのことは高温の使用を避けるべき場合に有利である。
【0062】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにおける反応混合物の滞留時間は約30〜300分、約40〜約120分又は約60〜約90分の範囲であることができる。
【0063】
当業者に知られている任意のタイプの反応器を本発明の方法に用いることができる。塩素化ゾーンを提供するために使用されうる反応器の特定の例はカラム反応器(例えば、カラム気液反応器)、管状反応器(例えば、管状気相反応器)、バブルカラム反応、プラグ/フロー反応器及び攪拌タンク反応器、例えば、連続攪拌タンク反応器である。
【0064】
本発明の実施形態において、複数の塩素化ゾーンを使用することができる。これらは、順次に提供することができる。複数の塩素化ゾーンが存在する実施形態において、これらは同一又は異なるタイプの反応器で提供されうる。例えば、塩素化ゾーンは、順次に操作されている複数の連続攪拌タンク反応器によって提供されうる。
【0065】
あるいは、第一の塩素化ゾーンは、上記の段落で特定したものから場合により選ばれる第一の反応器において提供されることができ、第二の塩素化ゾーンは、上記の段落で特定したものから場合により選ばれる、第一の反応器タイプとは異なる第二の反応器において提供されることができる。例えば、第一の反応器は連続撹拌タンク反応器であることができ、そして第二の反応器はプラグ/フロー反応器であることができる。
【0066】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンは大気に対して閉じている。言い換えれば、塩素化ゾーンの操作中に、それは外部環境と流体連通しておらず、酸素(例えば、空気中の酸素)及び/又は湿分の進入を防止するように構成されている。
【0067】
本発明の方法で使用される反応器は、それぞれ異なるフローパターン及び/又は異なる操作温度/圧力を有する異なるゾーンに分割されることができる。例えば、塩素化は、複数の反応ゾーンを含む反応器で行うことができる。これらのゾーンは、異なる温度及び/又は圧力で操作されうる。
【0068】
それに加えて又はそれに代えて、本発明の方法において使用される反応器は外部循環ループを備えることができる。外部循環ループには、場合により、冷却及び/又は加熱手段を備えることができる。
【0069】
当業者に認識されるように、塩素化ゾーンは、冷却チューブ、冷却ジャケット、冷却スパイラル、熱交換器、加熱ファン、加熱ジャケットなどの冷却/加熱要素の使用によって異なる温度に維持することができる。
【0070】
当業者は、このような装置は、特に連続的に操作されるシステムにおいて、出発材料、反応混合物及び他の材料を輸送するための導管(例えば、パイプ)を含むことを理解するであろう。本発明の実施形態において、これらの導管とシステムの他の構成要素との間の接続部は、例えば、ゴム周縁体を使用することによって、湿分及び/又は酸素の侵入を最小限に抑えるように構成することができる。
【0071】
それに加えて又はそれに代えて、酸素及び/又は湿分の侵入を防止するために、本発明の実施形態において、装置(塩素化ゾーンを含む)は、大気圧又は大気圧を超える圧力で操作されうる。
【0072】
それに加えて又はそれに代えて、塩素化ゾーンは不活性雰囲気中で操作することができる。言い換えれば、塩素化ゾーン内の環境は、操作時に、空気、特に湿分及び/又は酸素の存在を最小限に抑えるか又は排除するように制御される。このような制御は、塩素化ゾーンをパージすること及び/又は塩素化ゾーンを窒素などの不活性ガスでブランケットすることによって達成することができる。したがって、このような実施形態において、不活性雰囲気下での操作時に塩素化ゾーンの酸素含有分は、約7000体積ppm未満、約5000体積ppm未満、4000体積ppm未満、3000体積ppm未満、2000体積ppm未満、1000体積ppm未満、500体積ppm未満、250体積ppm未満、100体積ppm未満、50体積ppm未満、10体積ppm未満の酸素であることができる。
【0073】
上記に開示したように、低レベルの酸素を含む塩素の使用は、問題のある酸素化有機不純物の生成を最小限に抑える効果的な方法として確認された。本発明の発明者は、生成されるとしたらそのような不純物の存在が1つ以上の加水分解工程の使用によってさらに最小限に抑えることができることをさらに確認した。
【0074】
このような工程において、塩素化ゾーンから取り出される反応混合物は、直接的に加水分解に供し(すなわち、塩素化ゾーンからの取り出しと加水分解との間に追加の処理工程を一切行わずに)、又は、間接的に加水分解に供する(すなわち、塩素化ゾーンからの取り出しの後であるが、加水分解の前に行われる1つ以上の処理工程(例えば、1つ以上の蒸留工程及び/又は他の処理工程)の後に)。
【0075】
反応混合物(典型的には、アルケン又はアルカン出発材料、塩素化アルカン生成物及び酸素化有機化合物を含む不純物を含む混合物)を加水分解工程に供する実施形態において、これは、典型的には、反応混合物を加水分解ゾーンにおいて水性媒体と接触させることを含む。加水分解工程で使用することができる水性媒体の例としては、水、水蒸気及び水性酸が挙げられる。
【0076】
加水分解工程の実施は、反応混合物中に存在する酸素化有機化合物の含有分を減少させるので好ましい。
【0077】
反応混合物を水性媒体と接触させて加水分解ゾーンにおいて混合物を形成したら、その混合物を1つ以上の処理工程に供することができる。例えば、反応混合物(例えば、塩素化アルカン生成物及び/又は未反応アルケン又はアルカン出発材料を含む混合物)の成分は、加水分解ゾーンで生成された混合物から、例えば、好ましくは減圧下及び/又は低温下に蒸留により取り出されることができる。このような工程は、混合物が加水分解ゾーンに存在する間に達成されうる。それに加えて又はそれに代えて、混合物をまず加水分解ゾーンから取り出し、そのゾーンから隔離して抽出工程に供することができる。
【0078】
それに加えて又はそれに代えて、本発明の実施形態において、二相混合物は加水分解ゾーンにおいて形成されうる。そのような実施形態において、塩素化アルカンを含む有機相が水性廃棄物相から分離される相分離工程を実施することができる。これは、加水分解ゾーンからの相の逐次抽出によって達成されうる。あるいは、二相混合物を加水分解ゾーンから取り出し、水性加水分解ゾーンから隔離して相分離工程に供して有機相を抽出することができる。
【0079】
加水分解後に塩素化アルカン生成物を含む混合物がどのように得られるかにかかわらず、加水分解工程の実施は、その混合物中に存在する酸素化有機不純物の量を低減させる。疑義を避けるために、加水分解ゾーンから回収された生成物に関して「塩素化アルカンを含む混合物」と参照される場合に、この混合物は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%又は少なくとも約90%の塩素化アルカン生成物を含む。
【0080】
有機相は、場合により行うろ過の後に、蒸留に供して、精製された塩素化アルカン生成物及び/又は未反応アルケン又はアルカン出発材料を含むストリームを得ることができる。アルケン又はアルカン出発材料は塩素化ゾーンにリサイクルすることができる。
【0081】
加水分解工程が実施される本発明の実施形態において、このような工程から得られる塩素化アルカンは、約500ppm以下、約200ppm以下、約100ppm以下、約75ppm以下、約50ppm以下、又は、約10ppm以下、又は、約5ppm以下の酸素化有機化合物含有分を有することができる。それに加えて又はその代わりに、加水分解工程の実施は、反応混合物の酸素化有機化合物含有分を、少なくとも約1000ppm、少なくとも約800ppm、少なくとも約600ppm、少なくとも約500ppm、少なくとも約400ppm、少なくとも約300ppm、少なくとも約250ppm、少なくとも約200ppm、少なくとも約150ppm、少なくとも約100ppm、少なくとも約50ppm、少なくとも約25ppm、少なくとも約20ppm又は少なくとも約10ppmだけ低減する。
【0082】
それに加えて又はそれに代えて、有機相を、上記で概説したような追加の加水分解工程に供することができる。加水分解工程は、必要ならば、例えば、1、2、3回又はそれ以上繰り返すことができる。
【0083】
本発明の実施形態において、水性相は、有機不純物含有分、特に塩素化有機不純物含有分を低減するために、1つ以上の処理工程に供されてよい。実施されうるこのような処理工程の例としては、蒸留及び/又は水蒸気ストリッピング、活性炭及び/又はイオン交換樹脂などへの吸着、アルカリ高温処理、生物学的好気性処理又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0084】
塩素化ゾーンから得られた反応混合物は、1つ以上の蒸留工程(実施することができる加水分解工程の前及び/又は後)に供されてよく、該蒸留工程は好ましくは約100℃以下、約90℃以下又は約80℃以下の温度で行われる。
【0085】
このような蒸留工程は真空下で行うことができる。真空蒸留を実施する場合に、真空条件は、蒸留が低温で行われるように、及び/又は、高分子量塩素化アルカンの抽出を促進するように選択されうる。
【0086】
当業者に知られているいかなる蒸留装置も本発明の方法に用いることができ、例えば蒸留ボイラ/カラム装置である。しかしながら、予期せぬことに、特定の材料から作られた蒸留装置を回避するならば、塩素化アルカン分解生成物の生成を最小限に抑えることができることが判明した。
【0087】
したがって、蒸留装置を使用する本発明の実施形態において、蒸留装置は、蒸留装置の使用中にプロセス流体(液体又は留出物を含む)と接触しそして約20%以上、約10%以上、約5%以上、約2%以上、又は、約1%以上の鉄を含む構成要素を含まない。
【0088】
塩素化アルカンリッチの生成物を蒸留工程に供する本発明の実施形態において、蒸留装置は、蒸留装置の使用中に留出物又はプロセス流体と接触するその構成要素の全てが、フルオロポリマー、フルオロクロロポリマー、ガラス、エナメル、フェノール樹脂含浸グラファイト、炭化ケイ素及び/又はフルオロポリマー含浸グラファイトから製造されるように構成されうる。
【0089】
蒸留工程が本発明の方法の一部として実施される場合には、高レベルのアルケン出発材料を有するこのような工程から得られるストリームを再循環して塩素化ゾーンにフィードすることができる。
【0090】
酸素化有機化合物の生成を最小限に抑えるための追加の工程を得ることもできる。例えば、塩素化ゾーン、加水分解ゾーン(使用される場合)及び/又は蒸留装置(使用される場合)は低減された酸素及び/又は湿分条件下で操作されることができ、すなわち、塩素化ゾーン、加水分解ゾーン(使用される場合)及び/又は蒸留装置(使用される場合)は、周囲雰囲気と比較して酸素及び/又は湿分レベルが低減されるように制御される。これは、例えば、塩素化ゾーン、加水分解ゾーン(使用される場合)及び/又は蒸留装置(使用される場合)を不活性雰囲気中で操作することにより達成でき、不活性雰囲気は不活性ガスパージ及び/又はブランケットによって達成されうる。不活性ガスは窒素であってよい。
【0091】
それに加えて又はそれに代えて、塩素化ゾーンの上流及び/又は下流の装置は、酸素化有機不純物の生成をもたらすことができる酸素及び/又は水の侵入を防止するために気密性とすべきである。
【0092】
本発明の方法は、連続式でも又はバッチ式でもよい。
【0093】
本発明の方法は、当業者がよく知っているであろう単純で直接的な技術及び装置を用いて許容可能に低レベルの酸素化有機化合物を含む塩素化アルカンを製造することができるので、特に有利である。
【0094】
本明細書で提供される開示から判るように、本発明の発明プロセスは、場合により、他のプロセスと組み合わせて、統合プロセスで操作することができる。
【0095】
前述したように、従来技術は、塩素化アルカンフィードストック中の酸素化有機化合物の存在が問題であることを開示又は教示していない。酸素化有機化合物の生成及び存在が最小限に抑えられた塩素化アルカン化合物の製造方法に焦点を当てた先行技術の教示又は開示は存在しない。したがって、本発明の方法は多種の塩素化反応に適用可能であり、例えば、塩素化アルカンを塩素化してより高度に塩素化されたアルカンを生成させるのに適用可能である。
【0096】
本発明の別の態様において、アルケン又はアルカンフィーストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む反応混合物を生成させる、塩素化アルカンの製造方法であって、塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、該塩素は、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び/又は塩化水素の膜又はダイアフラム電気分解によって生成された液体塩素の蒸発によって調製されうる塩素ガスである、方法が提供される。
【0097】
ここで、本発明を以下の例でさらに説明する。これらの例において、以下のものが使用される。
113-TCPe = 1,1,3-トリクロロプロペン、
23-DCPC = 2,3-ジクロロプロパノイルクロライド、
1133-TeCPe = 1,1,3,3-テトラクロロプロペン、
11133-TCPa = 1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン、
11123-PCPa = 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン、
111233-HCPa = 1,1,1,2,3,3-ヘキサクロロプロパン、
111223-HCPa = 1,1,1,2,2,3-ヘキサクロロプロパン。
【実施例】
【0098】
例1:窒素下での可視光照射を用いた塩素化
塩素化
スターラー、温度計、バッククーラー、フィード及び排出ネック、窒素導入用ネック及び冷却ジャケットを備えた4つ口Simax(登録商標)ガラスフラスコからなるバッチ操作型反応器を設置した。反応器は、主に可視スペクトルを生成する発光層タイプRVLX400を有する400W高圧Hg外部ランプを装備していた。フィードストックは、実験の直前に新たに蒸留した純粋な1,1,3-トリクロロプロペンからなり、その品質をGCで分析し、窒素下で取り扱った。少量のHClガスが生成され、それを微量の塩素と一緒にバッククーラー/コンデンサーによって冷却し、次いで苛性ソーダスクラバーにおいて吸収させた。品質2.8のシリンダー(供給元Linde Gas、99.8%vol)からの液体塩素から気体の塩素を蒸発させ、トリクロロプロペンフィードストックに基づいて理論値の80%に等しい量で浸漬管を介して70分間かけて液体反応混合物に導入させた。窒素ブランケットを制御測定モードにて反応器に事前に導入し、反応、サンプリング及び水処理中に維持した。反応の温度を30〜34℃に維持した。圧力は大気圧であった。反応中に塩素は完全に消費された。反応混合物のサンプルを、フェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)中で1:1wt比で溶解させ、混合物をガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。
【0099】
加水分解
次いで、熱水を反応混合物の質量に基づいて35質量%の量で加え、そして、温度を最初に44℃から34℃に低下させながら、得られた液体系をさらに30分間撹拌した。撹拌を停止した後に、2つの液体層を分離し、そして各層からサンプルを採取した。反応混合物のサンプル(有機下層)をフェノール系安定剤を含む不活性溶媒中に溶解し、GCで分析し、そして結果を表1に示す(溶媒を含まない)。
【0100】
【表1】
【0101】
理解されるように、塩素化により、標的生成物(1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン)が82%を超えて得られた。塩素化はまた、0.0172%の2,3-ジクロロプロパノイルクロリド(23-DCPC)の酸素化有機不純物の生成をもたらした。加水分解工程は、その不純物の含有分を0.0063%へとさらに低減した。
【0102】
例2:空気からの添加酸素を用いた、窒素下での可視光照射を用いた塩素化
塩素化
スターラー、温度計、バッククーラー、フィード及び排出ネック、窒素導入用ネック及び冷却ジャケットを備えた4つ口Simax(登録商標)ガラスフラスコを含むバッチ操作型反応器を設置した。反応器は、主として可視スペクトルを生成する400W高圧Hg外部ランプタイプRVLX400を例1のように装備した。フィードストックは、実験の直前に新たに蒸留した純粋な1,1,3-トリクロロプロペンからなり、その品質をGCで分析し、窒素下で取り扱った。少量のHClガスが生成され、それを微量の塩素と一緒にバッククーラー/コンデンサーによって冷却し、次いで苛性ソーダスクラバーに吸収させた。
【0103】
例1と同様に、品質2.8のシリンダー(供給者Linde Gas)からの気体の塩素を、トリクロロプロペンフィードストックに基づいて理論量の80%に等しい量で浸漬管を介して液体反応混合物に72分間かけて導入した。
【0104】
また、制御測定モードの加圧空気を同じ塩素ガス浸漬管に導入した。すなわち、塩素は、浸漬管を介して反応混合物に到達する前に空気と混合された。導入空気の量は混合後の塩素ガス中の酸素が0.75体積%に達するように設定した。窒素ブランケットを制御測定モードで反応器に事前に導入し、反応、サンプリング及び水処理中に維持した。反応温度は23〜30℃に維持した。圧力は大気圧であった。塩素は反応中に完全に消費された。反応混合物のサンプルをフェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解し、混合物をガスクロマトグラフィーで分析した。
【0105】
加水分解
熱水を添加し[反応混合物の量に対して35wt%の量]、温度を当初44℃から34℃に低下しながら、得られた液体系をさらに30分間撹拌した。攪拌を停止した後に、2つの液体層を分離し、各層からサンプルを採取した。反応混合物のサンプル(有機下層)をフェノール系安定剤を含む不活性溶媒に溶解し、GCで分析し、結果を表2に示す(溶媒を含まず)。
【0106】
【表2】
【0107】
表1及び表2の結果を比較すると明らかなように、有意な量の酸素を含有する塩素が塩素化ゾーンにフィードされた場合に、塩素化の間に生成される酸素化有機化合物2,3-ジクロロプロパノイルクロリド(23-DCPC)の量は実質的により多量になった。
【0108】
他の酸塩化物と同様に、湿分の存在下では2,3-ジクロロプロパノイルクロリドは安定ではなく、対応する酸を生成することができ、それは反応器、相互接続配管、継手、蒸留ユニット及び水処理ユニットの腐食などの腐食又は汚染の問題をさらに引き起こすことがある。このような酸はまた、蒸留により除去することも困難である。
【0109】
例3:窒素下でのUV光照射を用いた塩素化
塩素化
スターラー、温度計、バッククーラー、フィード及び排出ネック、窒素導入用ネック及び冷却ジャケットを備えた4つ口Simax(登録商標)ガラスフラスコからなるバッチ操作型反応器を設置した。反応器には、浸漬石英ガラス管内の125W高圧Hg内部ランプHPL125を装備した。フィードストックは、実験の直前に新たに蒸留した純粋な1,1,3-トリクロロプロペンからなり、その品質をGCで分析し、窒素下で取り扱った。少量のHClガスが生成され、それを微量の塩素と一緒にバッククーラー/コンデンサーによって冷却し、次いで苛性ソーダスクラバーにおいて吸収させた。気体塩素を、品質2.8のシリンダー(供給元Linde Gas、99.8%vol)からの液体塩素から蒸発させ、トリクロロプロペンフィードストックに基づいて理論値の80%に等しい量で浸漬管を介して液体反応混合物に97分かけて導入した。窒素ブランケットを制御測定モードで反応器に事前に導入し、反応、サンプリング及び水処理中に維持した。反応温度を29〜30℃に維持した。圧力は大気圧であった。塩素は反応中に完全に消費された。反応混合物のサンプルをフェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトロクロロメタン)中に1:1のwt比で溶解し、混合物をガスクロマトグラフィーで分析した。
【0110】
加水分解
次いで、水を反応混合物の質量に基づいて37wt%の量で加え、得られた液体系をさらに60分間撹拌し、その間、温度は23℃であった。撹拌を停止した後に、2つの液体層を分離し、各層からサンプルを採取した。反応混合物のサンプル(有機下層)をフェノール系安定剤を含む不活性溶媒に溶解し、GCで分析し、結果を表3に示す(溶媒を含まず)。
【0111】
【表3】
【0112】
理解されるように、塩素化により、目標生成物(1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン)が83%超えて得られた。また、塩素化により、0.0198%の2,3-ジクロロプロパノイルクロリド(23-DCPC)の酸素化有機不純物を生成した。加水分解工程はさらに、その不純物の含有分を0.0081%へと低減した。
【0113】
例4:空気からの添加酸素を用いた、窒素の下でUV光照射を用いた塩素化
塩素化
スターラー、温度計、バッククーラー、フィード及び排出ネック、窒素導入用ネック及び冷却ジャケットを備えた4つ口Simax(登録商標)ガラスフラスコを含むバッチ操作型反応器を設置した。反応器には、浸漬石英ガラス管内の125W高圧Hg内部ランプHPL125を装備した。フィードストックは、実験の直前に新たに蒸留した純粋な1,1,3-トリクロロプロペンからなり、その品質をGCで分析し、窒素下で取り扱った。少量のHClガスが生成され、それを微量の塩素と一緒にバッククーラー/コンデンサーによって冷却させ、次いで苛性ソーダスクラバーにおいて吸収させた。
【0114】
例1と同様に、品質2.8のシリンダー(供給元:Linde Gas)からの気体塩素を、トリクロロプロペンフィードストックに基づいて理論量の80%に等しい量で浸漬管を介して液体反応混合物に101分間にわたって導入した。
【0115】
また、制御測定モードで加圧空気を同塩素ガス浸漬管に導入した。すなわち、塩素は、浸漬管を介して反応混合物に到達する前に空気と混合された。導入空気の量は、混合後に塩素ガス中の酸素が0.79体積%に達するように設定された。窒素ブランケットを制御測定モードで反応器に事前に導入し、反応、サンプリング及び水処理中に維持した。反応温度を29〜31℃に維持した。圧力は大気圧であった。塩素は反応中に完全に消費された。反応混合物のサンプルをフェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解し、混合物をガスクロマトグラフィーで分析した。
【0116】
加水分解
水を添加し[反応混合物の量に対して36wt%の量]、得られた液体系をさらに60分間撹拌し、その間に、温度は23℃であった。攪拌を停止した後に、2つの液体層を分離し、各層からサンプルを採取した。反応混合物のサンプル(有機下層)をフェノール系安定剤を含む不活性溶媒に溶解し、GCで分析し、結果を表4に示す(溶媒を含まず)。
【0117】
【表4】
【0118】
表3及び表4の結果を比較すると明らかなように、有意な量の酸素を含有する塩素が塩素化ゾーンにフィードされる場合に、塩素化中に生成される酸素化有機化合物2,3-ジクロロプロパノイルクロリド(23-DCPC)の量は実質的により多量になる。
【0119】
他の酸塩化物と同様に、湿分の存在下では2,3-ジクロロプロパノイルクロリドは安定ではなく、対応する酸を生成することができ、それは反応容器、相互接続配管、継手、蒸留ユニット及び水処理ユニットの腐食などのさらなる腐食又は汚染の問題を引き起こすことがある。このような酸はまた、蒸留により除去することも困難である。
【0120】
例5:液体塩素から蒸発した気体塩素を用いた1,1,3-トリクロロプロペンの塩素化の間の2,3-ジクロロプロパノイルの生成に及ぼす酸素の効果
スターラー、温度計、バッククーラー、フィード及び排出ネック、窒素導入用ネック及び冷却ジャケットを備えた4つ口Simax(登録商標)ガラスフラスコからなるバッチ操作型反応器を設置した。反応混合物を日光に暴露した。オフガスを、コンデンサーの下流に位置する吸収塔によって吸収させた。使用したフィードストック(純粋な1,1,3-トリクロロプロペン996g)を水で洗浄し、実験の開始直前に乾燥させ、その品質をGCで分析し、窒素下で取り扱った。反応中に微量のHClガスが生成され、これを微量の塩素とともにバッククーラー/コンデンサーによって冷却し、次いで苛性ソーダスクラバーにおいて吸収させた。 0.025モル%の酸素を含む気体塩素を、液体塩素を含むスチールシリンダーから蒸発させ、浸漬管を介して液体反応混合物中に124〜125分にわたって導入した。反応の開始前に窒素ブランケットを反応器に制御測定モードで導入し、次いで反応及びサンプリング中に維持した。反応温度を25℃に維持した。圧力は大気圧であった。
【0121】
反応の進行に応じて様々な時刻に反応混合物のサンプルを採取し、フェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解し、得られた混合物をGCで分析した。結果(溶媒を含まないGC数値)を表5に示す。
【0122】
【表5】
【0123】
理解されるように、低レベルの酸素が存在する環境での出発アルケンの塩素化は、許容可能な低レベルのジクロロプロパノイルクロリドの生成をもたらした。
【0124】
例6:膜電気分解の塩素品質を用いた1,1,3-トリクロロプロペンの塩素化の間の2,3 - ジクロロプロパノイルクロリドの生成に及ぼす酸素の効果
例5のプロセスを、同じ装置、温度及び圧力を用いて繰り返した。低酸素含有分の塩素の代わりに、約0.5体積%の酸素含有分を有する気体塩素(これは、塩素-アルカリ膜電解プロセスによって得られる典型的な塩素ガスである)を使用した。空気を制御測定モードで塩素に導入した。すなわち、浸漬管を介して反応混合物に導入する前に塩素を空気と混合した。塩素ガス中で0.54モル%の酸素レベルの達成を容易にするように導入空気量を制御した。0.54モル%の目標レベルは、膜等級の乾燥塩素中の酸素含有分(圧縮前)に相当するものとして選択した。例5に従って処理した1,1,3-トリクロロプロペンフィードの量は1024gであった。
【0125】
反応の進行に応じて様々な時刻に反応混合物のサンプルを採取し、フェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解し、得られた混合物をGCで分析した。結果(溶媒を含まないGC数値)を表6に示す。
【0126】
【表6】
【0127】
理解されるように、増加される酸素含有分の存在下での塩素化は、有意な量のジクロロプロパノイルクロリドの生成をもたらした。出発材料のより高い反応進行/転化率では、有機酸素化不純物DCPCの量も増加し、さらに重質物111233-HCPa及び111223-HCPaの量も増加する。
【0128】
例7:1,1,3-トリクロロプロペンの酸化−2,3-ジクロロプロパノイルクロリドの生成
に及ぼす酸素の効果
同じ反応時間(これは膜塩素を用いた塩素化に対応する)で同量の酸素を使用するが、塩素を液体反応混合物に導入することなく、上記例6に記載のようにしてプロセスを実施した。したがって、加圧空気を使用する1,1,3-トリクロロプロペンフィードストックの酸化のみが起こった。例5に従って処理した1,1,3-トリクロロプロペンフィードの量は1073gであった。
反応の進行に応じて様々な時刻に反応混合物のサンプルを採取し、フェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解し、得られた混合物をGCで分析した。結果(溶媒を含まないGC数値)を表7に示す。
【0129】
【表7】
【0130】
理解されるように、塩素化の不存在下で1,1,3-トリクロロプロペンの酸化が起こる場合に、ジクロロプロパノイルクロリドの生成は有意に低減される。
【0131】
例8:1,1,3-トリクロロプロペンの酸化−2,3-ジクロロプロパノイルクロリドの生成に及ぼす酸素の効果
例6の塩素化と比較して同じ反応時間(膜塩素を用いた塩素化に対応する)及び気体フィードストック中で使用したのと同じ酸素分圧を用いて、上記例7に記載したようにプロセスを実施した(空気中の酸素を例6と同じ気体フィードストック中の分圧を得るために窒素でさらに希釈した)。従って、酸素と窒素の混合物を用いた1,1,3-トリクロロプロペンフィードストックの酸化のみが起こった。例5に従って処理した1,1,3-トリクロロプロペンフィードの量は807gであった。
反応の進行に応じて様々な時刻で反応混合物のサンプルを採取し、フェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解し、得られた混合物をGCで分析した。結果(溶媒を含まないGC数値)を表8に示す。
【0132】
【表8】
【0133】
理解されるように、例6と比較して気体フィードストック中の同じ酸素分圧を用いた、塩素化なしの酸化のみでは、はるかに低い量のジクロルプロパノイルクロリドの生成をもたらす。驚くべきことに、塩素は、酸素分子とアルケン有機基質との間の増加した反応速度を促進すると思われること、すなわち有機酸素化化合物の生成速度が増加することが見出されている。したがって、有機分子(基質)の塩素化のための気体フィードストックとしての塩素中の酸素含有分は重要なパラメータである。というのは、塩素が酸化反応の促進剤であり、所望されない酸化副生成物がより多く生成されることが発見されたからである。
【0134】
例9:1,1,3-トリクロロプロペンの酸化−2,3-ジクロロプロパノイルクロリドの生成に及ぼす酸素の効果
スターラー、温度計、バッククーラー、フィード及び排出ネック、窒素導入用ネック及び冷却ジャケットを備えた4つ口Simax(登録商標)ガラスフラスコからなるバッチ操作型反応器を設置した。反応混合物を日光に暴露した。オフガスは、コンデンサーの下流に位置する吸収塔によって吸収された。フィードストック(純粋な1,1,3-トリクロロプロペン805g)を水で洗浄し、実験開始直前に乾燥させ、その品質をGCで分析し、窒素下で取り扱った。気体フィードストック(空気)を35.4Ndm3/時の速度で合計6時間反応器にフィードした。
【0135】
窒素ブランケットを、反応及びサンプリングの前及び間に、制御測定モードで反応器に導入した。反応温度を30℃に維持した。圧力は大気圧であった。
【0136】
反応の開始後2時間毎に反応混合物のサンプルを採取し、フェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解した。得られた混合物をGCで分析した。結果(溶媒を含まないGC数値)を表9に示す。
【0137】
【表9】
【0138】
理解されるように、出発材料を30℃で6時間かけて塩素の非存在下に酸化すると、ジクロロプロパノイルクロリドの生成量が制限された。
【0139】
例10:1,1,3-トリクロロプロペンの酸化−2,3-ジクロロプロパノイルクロリドの生成に及ぼす酸素中の塩素の存在の効果
同じ反応時間及び温度及び同じ量の空気を用いて、上記の例9に記載したように、このプロセスを実施した。少量の塩素を空気フィードストリームに添加した。使用したフィードストック(純粋な1,1,3-トリクロロプロペン805g)を水で洗浄し、実験の開始直前に乾燥させた。その品質をGCで分析し、窒素下で取り扱った。
【0140】
気体フィードストック(35.4Ndm3/時の空気及び6g/時の塩素のそれぞれの速度で空気及び塩素は提供される)を合計6時間反応器にフィードした。
【0141】
反応の開始後2時間毎に反応混合物のサンプルを採取し、フェノール系安定剤を含む不活性溶媒(テトラクロロメタン)に溶解した。得られた混合物をGCで分析した。結果(溶媒を含まないGC数値)を表10に示す。
【0142】
【表10】
【0143】
理解されるように、例9と同じ方法で実施された酸化プロセスにおいて、気体塩素及び酸素の存在により、酸素化有機化合物のジクロロプロパノイルクロリドの収率が14倍増加する。
【0144】
したがって、驚くべきことに、塩素は分子酸素と有機基質との間の反応を促進し、すなわち塩素は基質酸化の速度を促進し、したがって有機酸素化化合物の生成速度を促進すると考えられる。
【0145】
したがって、塩素が酸化反応の強力な促進剤であると思われ、所望されない酸化副生成物の生成を有意に増加させるので、有機出発材料の塩素化のための気体フィードストック中での酸素と塩素との組み合わせの使用を避けることが重要であることが見出された。
【0146】
例11:1,1,1,3-テトラクロロプロパンの酸化−2,3-ジクロロプロパノイルクロリドの生成に及ぼす塩素中の低酸素の効果
スターラー、バッククーラー、フィード及び排出ネック、窒素ブランケット導入及び冷却ジャケットと組み合わせた温度計ネックを備えた4つ口Simax(登録商標)ガラスフラスコからなるバッチ操作型反応器を設置した。UV導入のための125W高圧Hgランプを備えた石英スリーブチューブも挿入した。オフガスを、コンデンサーの下流に位置する吸収塔によって吸収した。使用したフィードストックは、1050gの量の純粋な1,1,1,3-テトラクロロプロパンからなり(GCで分析した品質)、窒素下で取り扱った。HClガスを反応中に生成させ、微量の塩素とともにバッククーラー/コンデンサーによって冷却させ、次いで苛性ソーダスクラバーで吸収させた。
【0147】
気体フィードストックは、シリンダーからの液体塩素からの蒸発ガスのみからなり、このガスを、浸漬管を用いて液体反応混合物に導入した。
【0148】
塩素を導入する前に窒素ブランケットを制御測定モードで反応器に導入し、反応及びサンプリング中に維持した。反応温度を25℃に維持した。圧力は大気圧であった。反応混合物のサンプルをそれぞれ約23分の間隔で採取し(塩素の理論量の10%を間隔で等分する)、混合物をGCで分析した。サンプルが周囲条件下で十分に安定であるので、サンプルの安定化はなされなかった。結果を表11に示す。
【0149】
【表11】
【0150】
理解されるように、25℃で1時間30分の間、限定された酸素を含む塩素を用いたアルカンのUV塩素化により、限定された量(30〜60ppm)の2,3-ジクロロプロパノイルクロリドが生成される。
【0151】
例12:1,1,1,3-テトラロロプロパンの酸化−2,3-ジクロロプロパノイルクロリドの生成に及ぼす塩素中の高酸素含有分の効果
同じ反応時間、温度及びテトラクロロプロパンフィードストック量で例11に記載したようにプロセスを行ったが、塩素を空気と混合して酸素含有分を約0.5体積%に増加させ、この気体フィードストリームを浸漬管を介して反応器に導入した。反応混合物のサンプルをそれぞれ約23分間の間隔で採取し(間隔を開けて塩素の理論量の10%を添加するように等分する)、混合物をGCで分析した。サンプルは周囲条件下で十分に安定であるので、サンプルの安定化はなされなかった。結果を表12に示す。
【0152】
【表12】
【0153】
理解されるように、アルカン塩素化の間の塩素中の酸素の増加した量の存在により、酸化生成物、すなわち2,3-ジクロロプロパノイルクロリドの生成量がはるかに大きくなる。
【0154】
このような塩素中0.5体積%の酸素は、塩素液化の前の膜クロロアルカリプラントから出る乾燥塩素中の酸素含有分に近い。
【0155】
したがって、驚くべきことに、塩素中の酸素は、飽和アルカン分子、特に塩素化アルカンの塩素化中にプロパノイルクロリドなどの酸素化有機化合物を生成させることもできる。したがって、有機アルケン及びアルカン分子(基質)の両方の有機物の塩素化のための気体フィードストック中の酸素及び塩素の組み合わせ、すなわち塩素中の酸素の含有分は重要なパラメータである。というのは、塩素は酸化反応の促進剤でもあり、酸素化副生成物が多量に生成されるからである。
本開示は以下も包含する。
[1] アルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、塩素化アルカンの製造方法であって、
前記塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、
前記塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧を超える圧力で操作され、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
前記アルケン又はアルカンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満である、方法。
[2] 前記塩素は、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び/又は塩化水素の電気分解、好ましくは膜又はダイアフラム電気分解によって生成される塩素ガスである、上記態様1記載の方法。
[3] 前記塩素化ゾーンに供給される前に、前記塩素の酸素含有分は低減される、上記態様1又は2記載の方法。
[4] 前記塩素の酸素含有分は塩素液化により低減される、上記態様3記載の方法。
[5] 前記塩素化ゾーンにおける操作温度は約−30℃〜約100℃である、上記態様4記載の方法。
[6] 前記アルケン又はアルカンは塩素化アルケン又はアルカンである、上記態様1〜5のいずれか記載の方法。
[7] 前記塩素化アルカンはC3-6塩素化アルカンである、上記態様1〜6のいずれか記載の方法。
[8] 前記塩素化ゾーンから取り出される反応混合物は約500ppm以下、約250ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約10ppm以下又は約5ppm以下の量の酸素化有機化合物を含む、上記態様1〜7のいずれか記載の方法。
[9] 前記反応混合物は前記塩素化ゾーンから取り出され、加水分解工程に供される、上記態様1〜8のいずれか記載の方法。
[10] 前記加水分解工程は加水分解ゾーンにおいて前記反応混合物を水性媒体と接触させることを含む、上記態様9記載の方法。
[11] 前記水性媒体は酸性である、上記態様10記載の方法。
[12] 前記塩素化アルカンを含む混合物を前記加水分解ゾーンから取り出す工程をさらに含む、上記態様10又は11記載の方法。
[13] 前記塩素化アルカンを含む混合物は約500ppm以下、約250ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約10ppm以下又は約5ppm以下の量の酸素化有機化合物を含む、上記態様12記載の方法。
[14] 前記塩素化ゾーンから取り出される前記反応混合物は1つ以上の蒸留工程に供される、上記態様1〜13のいずれか記載の方法。
[15] 加水分解工程の前に少なくとも1つの蒸留工程を行う、上記態様14記載の方法。
[16] 加水分解工程の後に少なくとも1つの蒸留工程を行う、上記態様14又は15記載の方法。
[17] 前記蒸留工程の1つ、幾つか又は全ては約100℃以下の温度で行われる、上記態様14〜16のいずれか記載の方法。
[18] 前記蒸留工程の1つ、幾つか又は全ては約80℃以下の温度で行われる、上記態様14〜17のいずれか記載の方法。
[19] 蒸留装置及び/又は加水分解ゾーンを不活性ガスでパージ及び/又はブランケットすることを含む、上記態様9〜18のいずれか記載の方法。
[20] 前記塩素化ゾーンを不活性ガスでパージ及び/又はブランケットすることを含む、上記態様1〜19のいずれか記載の方法。
[21] 前記不活性ガスは窒素である、上記態様19又は20記載の方法。
[22] アルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、塩素化アルカンの生成の際に、酸素化塩素化化合物を最小限に抑える方法であって、
前記塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、そして、
前記塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧を超える圧力で操作され、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
前記アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満である、方法。
[23] アルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、塩素化アルカンの生成の際に、酸素化塩素化化合物を最小限に抑える方法であって、
前記塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧を超える圧力下で操作され、及び/又は、
前記塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
前記アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満であり、
前記塩素化ゾーン中の酸素の含有分は約7000ppmvol未満、約5000ppmvol未満、4000ppmvol未満、3000ppmvol未満、2000ppmvol未満、1000ppmvol未満、500ppmvol未満、250ppmvol未満、100ppmvol未満、50ppmvol未満、10ppmvol未満の酸素である、方法。