【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の発明者は、驚くべきことに、塩素化アルケン又はアルカンが塩素と反応し、そして酸素源が存在する場合に、塩素は酸素化化合物の生成を促進することを、徹底的な研究を通して発見した。
【0018】
したがって、本発明の第一の態様によれば、アルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む、反応混合物を生成する塩素化アルカンの製造方法であって、塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧より高い圧力で操作され、及び/又は、塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満である、方法は提供される。
【0019】
添付の実施例によって実証されるように、本発明の発明者は、低酸素レベルを有する塩素の使用によって塩素化反応における酸素化有機不純物の生成を最小限に抑えることができることを確認した。
【0020】
したがって、本発明の別の態様によれば、アルケン又はアルカンフィードストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む反応混合物を生成する、塩素化アルカンを生成する際の酸素化塩素化化合物の生成を最小限に抑えるための方法であって、塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、
塩素化ゾーンは大気に対して閉じられており、及び/又は、
塩素化ゾーンは大気圧又は大気圧より高い圧力下で操作され、及び/又は、
塩素化ゾーンは不活性雰囲気下で操作され、及び/又は、
アルケンフィードストック中の溶存酸素の含有分は2000ppm未満である、
方法は提供される。
【0021】
低レベルの酸素を含む商業的な塩素源は存在するが、当業者は、これらの塩素源がクロルアルカリ膜又はダイアフラム電気分解プラントから得られるものなどの従来的に使用される塩素ガス源(典型的には約0.5〜2.0%のレベルで酸素を含む)よりもかなり高価であり、正当な理由なしに工業的規模では使用しないことを認識するであろう。
【0022】
US3932544は、重質分を避けるために制御された塩素フィード速度での塩素化、及び、酸素のパージについて述べている。塩素フィード自体から酸素を除去することについては言及されていない。
【0023】
KR100686200は酸素が塩素から除去される方法を記載しており、この塩素は、例えば、クロロホルム、四塩化炭素の製造方法に使用される。
【0024】
本明細書で使用されるときに、用語「酸素化有機不純物」又は「酸素化有機化合物」は、炭素、水素及び酸素原子を含む化合物を意味する。酸素化有機化合物の例としては、塩素化アルコール、塩素化アルカノール、塩素化酸塩化物、塩素化カルボン酸、塩素化アルデヒド、塩素化ケトン、塩素化過酸化物が挙げられる。
【0025】
C
3酸素化有機不純物の例としては、プロパノール又はプロパノイル化合物が挙げられ、一方、C
2酸素化有機不純物の例としては、エタノール又はエタノイル化合物が挙げられる。C
1酸素化有機不純物の例としてはホスゲンが挙げられる。
【0026】
これらの化合物は、蒸留などの従来の技術を用いて塩素化アルカンから分離することが一般的に困難であるため、特に問題である。これらの化合物の存在から生じる他の問題は、本明細書で論じられる。
【0027】
塩素化ゾーンで生成された反応混合物は、そこから取り出されてよく、そして場合によって、以下に詳述する追加の処理工程に供されてよい。
【0028】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンから取り出された反応混合物中の酸素化有機化合物の含有分は、約2000ppm以下、約1000ppm以下、約500ppm以下、約200ppm以下、約150ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約20ppm以下、約10ppm以下、又は、約5ppm以下である。
【0029】
酸素化有機化合物の含有分の決定を可能にする反応混合物の組成は、塩素化ゾーンからの反応混合物の取り出しに続いて実施可能になるとすぐに決定されうる。例えば、反応混合物のサンプルは、塩素化ゾーンの出口に隣接するか又はわずかに下流にある点取り出すことができる。
【0030】
反応混合物は、塩素化ゾーンから連続的又は間欠的に取り出すことができる。当業者であれば、塩素化ゾーンが運転条件にあり、そしてその目的が安定した状態反応を設定することであれば、一旦、そこにある反応混合物が要求される定常状態に達したら、反応混合物が塩素化ゾーンから取り出される実施形態において、材料を実質的に連続的に取り出すことができることを認識するであろう。
【0031】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンで行われる反応は液相中であり、すなわち、その中に存在する反応混合物は、主に又は完全に液体である。反応混合物は、当業者に知られている任意の技術、例えばクロマトグラフィーを用いて分析することができる。
【0032】
上記のように、本発明の方法で使用される塩素は、約2000ppmv以下の酸素(O
2)含有分を含む。そのような低レベルの酸素を含む塩素の使用は、問題のある酸素化有機化合物、特に酸素化塩素化化合物の生成を有利に最小限に抑える。本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにフィードされる塩素は、約1500ppmv以下、約1000ppmv以下、約500ppmv以下、約250ppmv以下、約150ppmv以下、約100ppmv以下、約50ppmv以下、約20ppmv以下又は約10ppmv以下の酸素を含むことができる。
【0033】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンに供給される塩素は気体である。
【0034】
低レベルの酸素を含む市販の塩素源は入手可能である。しかしながら、そのような低レベルの酸素を含む塩素源は、従来的に使用されている塩素源よりも高価である。本発明の実施形態において、運転コストを最小限に抑え、またプロセスの使用者に塩素出発材料の酸素含有分に対するよりよい制御性を提供するために、塩素化ゾーンにフィードされるものよりも高い酸素含有分を有する市販の塩素源を、まず、その酸素含有量を低減するために処理されることができる。あるいは、技術的に実現可能であれば、例えば塩酸の膜又はダイアフラム電気分解によって低酸素含有塩素ガスを生成することができる。
【0035】
KR100686200は、酸素を塩素から除去し、この塩素を、例えば、クロロホルム、四塩化炭素の製造方法に使用する方法を記載している。
【0036】
当業者は、塩素源中の酸素の含有分を低減するための技術及び装置に精通しているであろう。例えば、塩素ガスフィードストックを適切な温度及び圧力の組み合わせを用いて部分的に液化する液化ユニットの使用によって、塩素源から酸素を除去することができる。液化された塩素は酸素含有分が低く、そして蒸発させて低酸素含有塩素ガスフィードストックを生成することができる。このようなアプローチは高価であり、液化塩素の貯蔵は危険であるが、塩素化アルカンの製造に使用される塩素源の酸素含有分を最小限に抑えることの重要性を発明者らが見出したことから、塩素源の酸素含有分を最小限に抑えるという負担は正当化される。
【0037】
本発明の方法において出発材料として使用される塩素は、好ましくは高純度である。本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにフィードされる塩素は、好ましくは、少なくとも約95体積%、少なくとも約97体積%、少なくとも約99体積%、少なくとも約99.5体積%、少なくとも約99.8体積%又は少なくとも約99.9体積%の純度を有する。
【0038】
それに加えて又はそれに代えて、本発明の方法で使用される塩素は、約200ppmv以下、約100ppmv以下、約50ppmv以下、約20ppmv以下又は約10ppmv以下の量の水を含むことができる。
【0039】
塩素は、液体及び/又は気体の形態で塩素化ゾーンに、連続的に又は間欠的にフィードされうる。例えば、塩素化ゾーンに1つ以上の塩素フィードでフィードされることができる。
【0040】
塩素化ゾーンにおける反応混合物が液体である場合に、塩素はガスとして塩素化ゾーンにフィードされ、そして塩素化ゾーンにおいて溶解されうる。
【0041】
実施形態において、塩素は、分散装置、例えば、ノズル、多孔板、チューブ、エジェクターなどを介して塩素化ゾーンにフィードされる。本発明の実施形態において、塩素は液体反応混合物に直接フィードされうる。それに加えて又はそれに代えて、塩素は、塩素化ゾーンの上流で他の反応体の液体フィード中にフィードされうる。
【0042】
追加の激しい攪拌を用いて、液体反応混合物中への塩素の良好な混合及び/又は溶解を保証することができる。当業者に認識されるように、塩素化装置への酸素(又は空気などのその供給源)及び/又は水の進入を最小限に抑えるための工程を取るべきである。
【0043】
本発明の方法において使用されるアルケンは、C
2−6アルケン、例えばエテン(すなわちC
2アルケン)、プロペン、ブテン、ペンテン又はヘキセンであってもよい。アルケンは、ハロゲン化、例えば、塩素化、臭素化及び/又はヨウ素化されていても又はされていなくてもよい。さらに、アルケンは直鎖又は枝分かれ鎖、環状であり及び/又は置換されていてもよい。アルケンが塩素化される形態において、それは好ましくは1、2、3、4又は5個の塩素原子を含む。
【0044】
本発明の方法において使用されうるアルケンの例としては、エテン、クロロエテン、クロロプロペン、クロロブテン、塩化ビニル、プロペン、2-クロロプロペン、3-クロロプロペン、2,3,3,3-テトラクロロプロペン、1,1-ジクロロエテン、トリクロロエテン、クロロフルオロエテン、1,2-ジクロロエテン、1,1-ジクロロ-ジフルオロエテン、1-クロロプロペン、1-クロロブテン、1,1,3-トリクロロプロペン、1,1,2-トリクロロプロペン、2,3,3トリクロロプロペン、1,1,4,4,4-ペンタクロロブテン、3,3,3-トリクロロプロペン、1,2,3-トリクロロプロペン、1,3-ジクロロプロペン、1,1-ジクロロプロペン、1,1,2,3-テトラクロロプロペン、1,1,3,3-テトラクロロプロペン、1,1,2,3,3-ペンタクロロプロペン、1,1,3,3,3-ペンタクロロプロペン及び1,1,2,3,3,3-ヘキサクロロプロペン及び/又はUS5902914に開示されている他の任意のアルケンが挙げられ、その内容を参照により取り込む。
【0045】
塩素化プロペン、ブテン、ペンテン又はヘキセンを本発明の方法で使用して、注目の塩素化C
3-6化合物を製造することができ、該化合物は低い地球温暖化係数を有するフッ素化化合物の製造に有用性を見い出す。
【0046】
本発明の方法において出発材料として使用されるアルケン又はアルカンは好ましくは高い純度を有する。本発明の実施形態において、アルケンは少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約99%又は少なくとも約99.5%の純度レベルを有する。
【0047】
それに加えて又はそれに代えて、アルケン又はアルカンは約2質量%未満、約1質量%未満、約0.1質量%未満、約0.01質量%未満又は約0.001質量%未満のアルケン及び/又はアルカン不純物を含むことができる。例えば、塩素化アルケン出発材料が1,1,3-トリクロロプロペンである場合に、1,1,3-トリクロロプロペン出発材料は約2質量%未満、約1質量%未満、約0.1質量%未満、約0.01質量%未満、約0.001質量%未満の、3,3,3-トリクロロプロペン及び/又はテトラクロロエチレンなどの塩素化アルケン不純物及び/又は1,1,1,3-テトラクロロプロパンなどの塩素化アルカン不純物を含むことができる。
【0048】
高純度塩素化アルケンを製造する方法は、WO2016/058567に開示されており、その内容を参照により本明細書に取り込む。これらの方法の生成物は、有利には、
約95%以上、約97%以上、約99%以上、約99.2%以上、約99.5%以上又は約99.7%以上の塩素化アルケン、
約1000ppm未満、約500ppm未満、約200ppm未満又は約100ppm未満の塩素化C
5−6アルカン不純物、
約1000ppm未満、約500ppm未満、約200ppm未満又は約100ppm未満の塩素化アルケン不純物(すなわち、出発材料以外の塩素化アルケン)、
約500ppm未満、約200ppm未満、約100ppm未満、約50ppm未満、約20ppm未満、約10ppm未満又は約5ppm未満の金属(例えば、鉄)、
約1000ppm未満、約500ppm未満、約250ppm未満又は約100ppm未満の酸素化有機化合物、及び/又は、
約500ppm未満、約250ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約20ppm以下又は約10ppm以下の水、
を含む。
【0049】
疑義を避けるために、上で概説した金属の限定は元素形態の金属(例えば、粒子状金属)ならびにイオン形態(例えば塩の形態)の金属を包含する。
【0050】
本発明の方法において出発材料として使用されるアルケン材料は、上に概説したような不純物プロファイルを有する組成物中に提供することができる。
【0051】
本発明の方法においてフィードストックとして使用されるアルケン材料は、さらに、溶存酸素を、約2000ppm未満、約1000ppm以下、約500ppm以下、約200ppm以下、約150ppm以下、約100ppm以下、約50ppm以下、約20ppm、約10ppm以下、約5ppm以下、又は、約2ppm以下の量で含むことができる。
【0052】
本発明の方法において使用される塩素化アルケンは、当業者に既知の任意の技術を用いて塩素化ゾーンにフィードすることができる。当業者に認識されるように、塩素化装置への酸素(又は空気などの供給源)及び/又は湿分の侵入を最小限に抑えるための工程を取るべきである。
【0053】
当業者は、塩素化反応を介してアルケン出発材料から塩素化アルカンを得ることを可能にする技術及び装置に精通しているであろう。追加の支援もここに提供される。このような方法を用いて、広範囲の塩素化アルカンを調製することができる。そのような方法の例は、PCT/CZ2015/000122、US2012/053374、US2014/235906及びWO2013/015068に開示されており、その内容を参照により取り込む。
【0054】
本発明はより高度に塩素化されたアルカンを製造するための塩素化アルカンの塩素化にも適用可能である。塩素化アルカン出発材料の塩素化は中間体を経て進行し、それは、次いで、その場で塩素化されて、より高度に塩素化されたアルカン生成物を生成するものと考えられている。この中間体は酸素と反応しやすいようである。したがって、非常に低い酸素含有分を確保するように制御された塩素及び反応器条件が重要であると考えられている。例えば、出発塩素化アルカンは1,1,1,3-テトラクロロプロパンであり、それは、適用されたUV及び/又は触媒、例えば金属塩の存在下で塩素により塩素化されて、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンを生成する。金属塩は、例えば、遷移金属又はポスト遷移金属のルイス酸などのイオン性金属化合物であることができる。
【0055】
その場で生成された中間体、例えば塩素化アルケンを介した塩素化アルカンの別の塩素化アルカンへのこのような塩素化のための例示の方法は、WO2017028826、WO2009085862、WO2014116562、WO2014164368に記載されているとおりであることができる。本明細書で使用するアルカン出発材料は、例えばWO2016058566に記載されている。
【0056】
実施形態において、ラジカル及び/又はイオン塩素化を用いることができる。当業者が認識するように、イオン塩素化は、典型的には、使用されるある形態の触媒(例えば、遷移金属又はポスト遷移金属のルイス酸などのイオン性金属化合物)を必要とし、それは良好な収率及び生成物純度を達成しながら、より低温で反応を進行させることができる。ラジカル塩素化は、典型的には、電磁線照射(例えば、UV及び/又は可視光の照射)又は熱の適用を含む。
【0057】
本発明の実施形態において、生成される塩素化アルカンは、C
2−6クロロアルカン、例えば、クロロエタン、クロロプロパン又はクロロブタン、又は、C
3−6クロロアルカンであることができる。本発明の方法で製造することができる塩素化アルカンの例としては、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン、1,1,2,3-テトラクロロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,2-ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタクロロブタン、1,1,1,2,3,3-ヘキサクロロプロパン、 1,1,1,2,3,3,3-ヘプタクロロプロパン、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタクロロプロパン及び1,1,1,2,2,3,3,3-オクタクロロプロパンが挙げられる。
【0058】
注目の塩素化アルカンを生成するためのアルケン又はアルカン出発材料の塩素化をもたらす任意の条件を塩素化ゾーンで用いることができる。しかしながら、本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにおける操作温度は、比較的低いレベル、例えば約100℃以下、約90℃以下又は約80℃以下に維持することができる。塩素化ゾーンの操作温度は、約−30℃〜約75℃、約−20℃〜約40℃、約−10℃〜約30℃又は約0℃〜約20℃であることができる。塩素化ゾーンでのこのような温度の使用は、目的の塩素化アルカンの異性体の生成を減少させるが、必要な生成物を高収率で選択的に与えるので、予想外に有利であることが判明した。これらの温度での反応速度を増加させるために、必要に応じて、光(可視及び/又は紫外線)を使用して、塩素の付加を促進することができる。
【0059】
本発明の実施形態において、塩素:アルケン又は塩素:アルカンフィードストックのモル比は、約0.3:1.0又は約0.5:1.0〜約1.1:1.0又は約1.5:1.0の範囲であることができる。特定の実施形態において、塩素化ゾーンに提供される塩素は、化学量論的過剰のアルケン又はアルカンフィードストックが存在することを確保するように制御することができる。例えば、塩素化ゾーンにおける反応混合物中の塩素:アルケン又は塩素:アルカンのモル比は、<1:1であることができ、≦0.95:1であることができ、≦0.9:1であることができ、≦0.85:1であることができ、≦0.8:1であることができ、≦0.5:1であることができ、又は、≦0.3:1以下であることができる。反応混合物中の塩素含有分のこのような制御は、本発明の実施形態において(特に塩素化ゾーンが連続的に操作される実施形態において)、より制御された塩素化反応を促進し、これで、酸素化塩素化副生成物の過剰生成を阻害することができる。
【0060】
塩素化ゾーンの操作温度は、当業者に知られている任意の温度制御手段、例えば加熱/冷却ジャケット、反応器の内部又は外部の加熱/冷却ループ、熱交換器などによって制御することができる。それに加えて又はそれに代えて、温度は、反応混合物に添加される材料の温度を制御し、このようにして、反応混合物の温度を制御することによって制御することができる。反応混合物は、要求レベルの塩素化を達成するのに十分な時間及び条件下で塩素化ゾーンに維持される。
【0061】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンは光、例えば可視光及び/又は紫外線に暴露される。反応混合物の光への暴露は、低温で操作される場合に反応を促進し、そのことは高温の使用を避けるべき場合に有利である。
【0062】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンにおける反応混合物の滞留時間は約30〜300分、約40〜約120分又は約60〜約90分の範囲であることができる。
【0063】
当業者に知られている任意のタイプの反応器を本発明の方法に用いることができる。塩素化ゾーンを提供するために使用されうる反応器の特定の例はカラム反応器(例えば、カラム気液反応器)、管状反応器(例えば、管状気相反応器)、バブルカラム反応、プラグ/フロー反応器及び攪拌タンク反応器、例えば、連続攪拌タンク反応器である。
【0064】
本発明の実施形態において、複数の塩素化ゾーンを使用することができる。これらは、順次に提供することができる。複数の塩素化ゾーンが存在する実施形態において、これらは同一又は異なるタイプの反応器で提供されうる。例えば、塩素化ゾーンは、順次に操作されている複数の連続攪拌タンク反応器によって提供されうる。
【0065】
あるいは、第一の塩素化ゾーンは、上記の段落で特定したものから場合により選ばれる第一の反応器において提供されることができ、第二の塩素化ゾーンは、上記の段落で特定したものから場合により選ばれる、第一の反応器タイプとは異なる第二の反応器において提供されることができる。例えば、第一の反応器は連続撹拌タンク反応器であることができ、そして第二の反応器はプラグ/フロー反応器であることができる。
【0066】
本発明の実施形態において、塩素化ゾーンは大気に対して閉じている。言い換えれば、塩素化ゾーンの操作中に、それは外部環境と流体連通しておらず、酸素(例えば、空気中の酸素)及び/又は湿分の進入を防止するように構成されている。
【0067】
本発明の方法で使用される反応器は、それぞれ異なるフローパターン及び/又は異なる操作温度/圧力を有する異なるゾーンに分割されることができる。例えば、塩素化は、複数の反応ゾーンを含む反応器で行うことができる。これらのゾーンは、異なる温度及び/又は圧力で操作されうる。
【0068】
それに加えて又はそれに代えて、本発明の方法において使用される反応器は外部循環ループを備えることができる。外部循環ループには、場合により、冷却及び/又は加熱手段を備えることができる。
【0069】
当業者に認識されるように、塩素化ゾーンは、冷却チューブ、冷却ジャケット、冷却スパイラル、熱交換器、加熱ファン、加熱ジャケットなどの冷却/加熱要素の使用によって異なる温度に維持することができる。
【0070】
当業者は、このような装置は、特に連続的に操作されるシステムにおいて、出発材料、反応混合物及び他の材料を輸送するための導管(例えば、パイプ)を含むことを理解するであろう。本発明の実施形態において、これらの導管とシステムの他の構成要素との間の接続部は、例えば、ゴム周縁体を使用することによって、湿分及び/又は酸素の侵入を最小限に抑えるように構成することができる。
【0071】
それに加えて又はそれに代えて、酸素及び/又は湿分の侵入を防止するために、本発明の実施形態において、装置(塩素化ゾーンを含む)は、大気圧又は大気圧を超える圧力で操作されうる。
【0072】
それに加えて又はそれに代えて、塩素化ゾーンは不活性雰囲気中で操作することができる。言い換えれば、塩素化ゾーン内の環境は、操作時に、空気、特に湿分及び/又は酸素の存在を最小限に抑えるか又は排除するように制御される。このような制御は、塩素化ゾーンをパージすること及び/又は塩素化ゾーンを窒素などの不活性ガスでブランケットすることによって達成することができる。したがって、このような実施形態において、不活性雰囲気下での操作時に塩素化ゾーンの酸素含有分は、約7000体積ppm未満、約5000体積ppm未満、4000体積ppm未満、3000体積ppm未満、2000体積ppm未満、1000体積ppm未満、500体積ppm未満、250体積ppm未満、100体積ppm未満、50体積ppm未満、10体積ppm未満の酸素であることができる。
【0073】
上記に開示したように、低レベルの酸素を含む塩素の使用は、問題のある酸素化有機不純物の生成を最小限に抑える効果的な方法として確認された。本発明の発明者は、生成されるとしたらそのような不純物の存在が1つ以上の加水分解工程の使用によってさらに最小限に抑えることができることをさらに確認した。
【0074】
このような工程において、塩素化ゾーンから取り出される反応混合物は、直接的に加水分解に供し(すなわち、塩素化ゾーンからの取り出しと加水分解との間に追加の処理工程を一切行わずに)、又は、間接的に加水分解に供する(すなわち、塩素化ゾーンからの取り出しの後であるが、加水分解の前に行われる1つ以上の処理工程(例えば、1つ以上の蒸留工程及び/又は他の処理工程)の後に)。
【0075】
反応混合物(典型的には、アルケン又はアルカン出発材料、塩素化アルカン生成物及び酸素化有機化合物を含む不純物を含む混合物)を加水分解工程に供する実施形態において、これは、典型的には、反応混合物を加水分解ゾーンにおいて水性媒体と接触させることを含む。加水分解工程で使用することができる水性媒体の例としては、水、水蒸気及び水性酸が挙げられる。
【0076】
加水分解工程の実施は、反応混合物中に存在する酸素化有機化合物の含有分を減少させるので好ましい。
【0077】
反応混合物を水性媒体と接触させて加水分解ゾーンにおいて混合物を形成したら、その混合物を1つ以上の処理工程に供することができる。例えば、反応混合物(例えば、塩素化アルカン生成物及び/又は未反応アルケン又はアルカン出発材料を含む混合物)の成分は、加水分解ゾーンで生成された混合物から、例えば、好ましくは減圧下及び/又は低温下に蒸留により取り出されることができる。このような工程は、混合物が加水分解ゾーンに存在する間に達成されうる。それに加えて又はそれに代えて、混合物をまず加水分解ゾーンから取り出し、そのゾーンから隔離して抽出工程に供することができる。
【0078】
それに加えて又はそれに代えて、本発明の実施形態において、二相混合物は加水分解ゾーンにおいて形成されうる。そのような実施形態において、塩素化アルカンを含む有機相が水性廃棄物相から分離される相分離工程を実施することができる。これは、加水分解ゾーンからの相の逐次抽出によって達成されうる。あるいは、二相混合物を加水分解ゾーンから取り出し、水性加水分解ゾーンから隔離して相分離工程に供して有機相を抽出することができる。
【0079】
加水分解後に塩素化アルカン生成物を含む混合物がどのように得られるかにかかわらず、加水分解工程の実施は、その混合物中に存在する酸素化有機不純物の量を低減させる。疑義を避けるために、加水分解ゾーンから回収された生成物に関して「塩素化アルカンを含む混合物」と参照される場合に、この混合物は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%又は少なくとも約90%の塩素化アルカン生成物を含む。
【0080】
有機相は、場合により行うろ過の後に、蒸留に供して、精製された塩素化アルカン生成物及び/又は未反応アルケン又はアルカン出発材料を含むストリームを得ることができる。アルケン又はアルカン出発材料は塩素化ゾーンにリサイクルすることができる。
【0081】
加水分解工程が実施される本発明の実施形態において、このような工程から得られる塩素化アルカンは、約500ppm以下、約200ppm以下、約100ppm以下、約75ppm以下、約50ppm以下、又は、約10ppm以下、又は、約5ppm以下の酸素化有機化合物含有分を有することができる。それに加えて又はその代わりに、加水分解工程の実施は、反応混合物の酸素化有機化合物含有分を、少なくとも約1000ppm、少なくとも約800ppm、少なくとも約600ppm、少なくとも約500ppm、少なくとも約400ppm、少なくとも約300ppm、少なくとも約250ppm、少なくとも約200ppm、少なくとも約150ppm、少なくとも約100ppm、少なくとも約50ppm、少なくとも約25ppm、少なくとも約20ppm又は少なくとも約10ppmだけ低減する。
【0082】
それに加えて又はそれに代えて、有機相を、上記で概説したような追加の加水分解工程に供することができる。加水分解工程は、必要ならば、例えば、1、2、3回又はそれ以上繰り返すことができる。
【0083】
本発明の実施形態において、水性相は、有機不純物含有分、特に塩素化有機不純物含有分を低減するために、1つ以上の処理工程に供されてよい。実施されうるこのような処理工程の例としては、蒸留及び/又は水蒸気ストリッピング、活性炭及び/又はイオン交換樹脂などへの吸着、アルカリ高温処理、生物学的好気性処理又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0084】
塩素化ゾーンから得られた反応混合物は、1つ以上の蒸留工程(実施することができる加水分解工程の前及び/又は後)に供されてよく、該蒸留工程は好ましくは約100℃以下、約90℃以下又は約80℃以下の温度で行われる。
【0085】
このような蒸留工程は真空下で行うことができる。真空蒸留を実施する場合に、真空条件は、蒸留が低温で行われるように、及び/又は、高分子量塩素化アルカンの抽出を促進するように選択されうる。
【0086】
当業者に知られているいかなる蒸留装置も本発明の方法に用いることができ、例えば蒸留ボイラ/カラム装置である。しかしながら、予期せぬことに、特定の材料から作られた蒸留装置を回避するならば、塩素化アルカン分解生成物の生成を最小限に抑えることができることが判明した。
【0087】
したがって、蒸留装置を使用する本発明の実施形態において、蒸留装置は、蒸留装置の使用中にプロセス流体(液体又は留出物を含む)と接触しそして約20%以上、約10%以上、約5%以上、約2%以上、又は、約1%以上の鉄を含む構成要素を含まない。
【0088】
塩素化アルカンリッチの生成物を蒸留工程に供する本発明の実施形態において、蒸留装置は、蒸留装置の使用中に留出物又はプロセス流体と接触するその構成要素の全てが、フルオロポリマー、フルオロクロロポリマー、ガラス、エナメル、フェノール樹脂含浸グラファイト、炭化ケイ素及び/又はフルオロポリマー含浸グラファイトから製造されるように構成されうる。
【0089】
蒸留工程が本発明の方法の一部として実施される場合には、高レベルのアルケン出発材料を有するこのような工程から得られるストリームを再循環して塩素化ゾーンにフィードすることができる。
【0090】
酸素化有機化合物の生成を最小限に抑えるための追加の工程を得ることもできる。例えば、塩素化ゾーン、加水分解ゾーン(使用される場合)及び/又は蒸留装置(使用される場合)は低減された酸素及び/又は湿分条件下で操作されることができ、すなわち、塩素化ゾーン、加水分解ゾーン(使用される場合)及び/又は蒸留装置(使用される場合)は、周囲雰囲気と比較して酸素及び/又は湿分レベルが低減されるように制御される。これは、例えば、塩素化ゾーン、加水分解ゾーン(使用される場合)及び/又は蒸留装置(使用される場合)を不活性雰囲気中で操作することにより達成でき、不活性雰囲気は不活性ガスパージ及び/又はブランケットによって達成されうる。不活性ガスは窒素であってよい。
【0091】
それに加えて又はそれに代えて、塩素化ゾーンの上流及び/又は下流の装置は、酸素化有機不純物の生成をもたらすことができる酸素及び/又は水の侵入を防止するために気密性とすべきである。
【0092】
本発明の方法は、連続式でも又はバッチ式でもよい。
【0093】
本発明の方法は、当業者がよく知っているであろう単純で直接的な技術及び装置を用いて許容可能に低レベルの酸素化有機化合物を含む塩素化アルカンを製造することができるので、特に有利である。
【0094】
本明細書で提供される開示から判るように、本発明の発明プロセスは、場合により、他のプロセスと組み合わせて、統合プロセスで操作することができる。
【0095】
前述したように、従来技術は、塩素化アルカンフィードストック中の酸素化有機化合物の存在が問題であることを開示又は教示していない。酸素化有機化合物の生成及び存在が最小限に抑えられた塩素化アルカン化合物の製造方法に焦点を当てた先行技術の教示又は開示は存在しない。したがって、本発明の方法は多種の塩素化反応に適用可能であり、例えば、塩素化アルカンを塩素化してより高度に塩素化されたアルカンを生成させるのに適用可能である。
【0096】
本発明の別の態様において、アルケン又はアルカンフィーストックを塩素化ゾーンにおいて塩素と接触させて、塩素化アルカンを含む反応混合物を生成させる、塩素化アルカンの製造方法であって、塩素化ゾーンに供給される塩素は約2000ppmv未満の酸素含有分を有し、該塩素は、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び/又は塩化水素の膜又はダイアフラム電気分解によって生成された液体塩素の蒸発によって調製されうる塩素ガスである、方法が提供される。
【0097】
ここで、本発明を以下の例でさらに説明する。これらの例において、以下のものが使用される。
113-TCPe = 1,1,3-トリクロロプロペン、
23-DCPC = 2,3-ジクロロプロパノイルクロライド、
1133-TeCPe = 1,1,3,3-テトラクロロプロペン、
11133-TCPa = 1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン、
11123-PCPa = 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン、
111233-HCPa = 1,1,1,2,3,3-ヘキサクロロプロパン、
111223-HCPa = 1,1,1,2,2,3-ヘキサクロロプロパン。