(54)【発明の名称】ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の変異型3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素及びそれを含む方法
【文献】
Accession No. A0A0N9NPT3, Confluentimicrobium sp. EMB200-NS6, 20-JAN-2016, entry version 1, Jin H.M., Jeong H.I., Kim K.H., Jeon C.O.,Database UniProt/Swisss-Prot[online],2016年01月20日,https://www.uniprot.org/uniprot/A0A0N9NPT3.txt?version=1
【文献】
Accession No. A0A0D6B253, Rhodobacter sulfidophilus, 09-DEC-2015, entry version 5. , Nagao N.,Database UniProt/Swisss-Prot[online],2015年12月09日,https://www.uniprot.org/uniprot/A0A0D6B253.txt?version=5
【文献】
Cloning and functional expression of the D-β-hydroxybutyrate dehydrogenase gene of Rhodobacter sp. DSMZ 12077.,Applied Microbiology and Biotechnology,1999年
【文献】
Accession No. Q9XDL3, Rhodobacter sp. DSM 12077, 09-DEC-2015, entry version 58., Krueger K., Lang G., Engel A.M.,Database UniProt/Swisss-Prot[online],2015年12月09日,https://www.uniprot.org/uniprot/Q9XDL3.txt?version=58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
野生型3−HBDHに対し相対的に性能が向上したロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の変異型3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素(3−HBDH)において、前記変異型が、配列番号1(ロドバクター・スフェロイデス由来の3−HBDH;野生型3−HBDH)のアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ前記変異型が、野生型3−HBDHと相対的に配列番号1の位置250に対応する位置にて少なくとも1つのアミノ酸置換を伴いここで配列番号1の位置250に対応する位置においてアミノ酸が、Met(250Met)又はIle(250Ile)で置換される、変異型3−HBDH。
前記変異型が、配列番号1の位置66、109、113、125、140、144、145、195、197、217、223、232、239及び/又は257、特に、配列番号1の少なくとも位置125、144及び/又は232、より具体的には少なくとも配列番号1の位置125及び/又は144に対応する1つ以上の位置に少なくとも1つの更なるアミノ酸置換を伴う、請求項1又は2に記載の変異型3−HBDH。
前記変異型3−HBDHが、任意の配列番号1〜11のアミノ酸配列に対して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含むか又はそのアミノ酸配列からなり、前記変異型3−HBDHが、とりわけ配列番号5〜11からなる群から選択される配列を含むか又はその配列からなる、請求項1から6のいずれか一項に記載の変異型3−HBDH。
前記変異型3−HBDHは、野生型3−HBDHと相対的に少なくとも2倍安定性が増強され、好ましくは少なくとも3倍安定性が増強され、好ましくは少なくとも4倍安定性が増強され、より好ましくは少なくとも5倍安定性が増強されていることを特徴とし;且つ/あるいは前記変異型3−HBDHの基質及び/又は補因子の親和性が野生型3−HBDHと相対的に増強され、とりわけ、(i)3−ヒドロキシブチレート及び/又は(ii)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)もしくはその機能的に活性な誘導体の親和性が増強され、且つ/あるいはとりわけ基質及び/又は補因子の親和性が少なくとも5%、より具体的には少なくとも10%、更により具体的には少なくとも15%又は20%増強されていることを特徴とする、請求項8に記載の変異型3−HBDH。
a)NADもしくはその誘導体の酸化還元状態の変化を判別する工程が、(i)NADもしくその誘導体、又は(ii)NADHもしくはその誘導体の濃度を定量することを含み;且つ/あるいは
b)前記NADもしくはその誘導体の酸化還元状態の変化を判別する工程が、電気化学的又は光学的であり;且つ/あるいは
c)前記方法が、アセトアセテートもしくはアセトンの量又は濃度を定量することを更に含み;且つ/あるいは
d)前記グルコースの量又は濃度を定量することを更に含み;且つ/あるいは
e)前記NADの機能的に活性な誘導体がカルバNADであり;且つ/あるいは
f)前記変異型3−HBDHが、センサー、試験ストリップ、試験エレメント、試験ストリップデバイス又は液体試験の一部であり;且つ/あるいは
g)前記試料が体液、特に血液試料又は尿試料である、請求項12に記載の方法。
請求項1から9のいずれか一項に記載の変異型3−HBDH、及び任意で、前記定量を行うのに必要とされる更なる構成要素を含む、試料中の3−ヒドロキシブチレートの量又は濃度を定量するためのデバイス。
【発明を実施するための形態】
【0010】
野生型3−HBDH中にかなりの量のアミノ酸があり、それらアミノ酸の置換によって、結果として得られた変異体の性能が野生型HBDHと相対的に増強したことが、本発明者らによって同定された(例えば、実施例の表1A及び表1Bを参照)。とりわけ、アミノ酸の置換によって熱安定性が増強され、任意で、基質及び/又は補因子(3−ヒドロキシブチレート及び/又はNADもしくはNADの誘導体、例えば、カルバNAD)に対する親和性が増強される可能性がある。これらの部位の好適な例としては、配列番号1の位置66、109、113、125、140、144、145、195、197、217、223、232、239、250及び/又は257が挙げられる。上記及び更なる部位において突然変異を組み合わせることによって、変異型3−HBDHの性能を更に増強させ得る(表2A及び表2Bを参照)。これらの変異体の特に好適な例としては、突然変異を伴うもの(下記の略語の定義について)が挙げられる。
− 125Phe;
− 144Arg;
− 232Cys;
− 250Met;
− 230Leu及び250Met;
− 37Tyr及び250Met;
− 37Tyr、230Leu及び250Met;
− 202Gly、230Leu及び250Met;
− 37Tyr、145Gly、230Leu及び250Met;あるいは
− 37Tyr、195Gln、230Leu及び250Met(実施例を参照)。
【0011】
したがって、第1の態様において本発明は、野生型3−HBDHに対し相対的に性能が向上している、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の変異型3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素(3−HBDH)に関する。ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の変異型3−HBDHは、野生型3−HBDHに対し相対的に性能が向上しているものであり、配列番号1(ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の3−HBDH;野生型3−HBDH)のアミノ酸配列に対して少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ野生型3−HBDHと相対的に配列番号1の位置250に対応する位置にて少なくとも1つのアミノ酸置換を伴うものであることが、好ましい。より好ましくは、以下の対応する位置(配列番号1の)アミノ酸位置250が、Met(250Met)又はIle(250Ile)で、特にMet(250Met)で置換される。その位置及び置換は、変異型3−HBDHの性能を向上させるために有利であることが立証されており(表1A及び表1Bを参照)、更なる突然変異と組み合わせられる場合もある(表2A及び表2Bを参照)。したがって、特に好適な変異型としては、以下の突然変異を伴うものが挙げられる。
− 250Met;
− 230Leu及び250Met;
− 37Tyr及び250Met;
− 37Tyr、230Leu及び250Met;
− 202Gly、230Leu及び250Met;
− 37Tyr、145Gly、230Leu及び250Met;あるいは
− 37Tyr、195Gln、230Leu及び250Met(実施例を参照)。
【0012】
3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素(別称:3−HBDH、EC1.1.1.30)は、酸化還元酵素の系統群に属し、3−ヒドロキシブタノエート/3−ヒドロキシブチレート/(R)−3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシブチル酸(3−HB)の立体特異的酸化を補因子としてのNAD又は誘導体を用いて触媒することによってアセトアセテートを生ずる酵素である、という点で特異的である。
【数1】
【0013】
この酵素クラスの系統的な名前は、(R)−3−ヒドロキシブタノエート:NAD
+酸化還元酵素である。他の通称としては、NAD
+−β−ヒドロキシブチレート脱水素酵素、ヒドキシブチレート酸化還元酵素、β−ヒドロキシブチレート脱水素酵素、D−β−ヒドロキシブチレート脱水素酵素、D−3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素、D−(−)−3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素、β−ヒドロキシブチレート脱水素酵素、3−D−ヒドロキシブチレート脱水素酵素、及びβ−ヒドロキシブチリック脱水素酵素が挙げられる。この酵素は、ケトン体及びブタン酸代謝の合成ならびに分解に関与し、血液試料等の試料中のケトン体を判別する目的に使用される場合もある。
【0014】
「野生型3−HBDH」という用語は、概ね天然起源の3−HBDHに関する。紅色光合成細菌ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の野生型3−HBDHは、大腸菌(E. coli)においてクローンされ、独国特許出願公開第19815685(A1)号明細書(1999年)に更に詳述されている。しかしながら、この酵素は安定性が相当に低い(そのため貯蔵寿命が短い)ことを特徴とし、この点では生物工学、生物医学及び診断用途に不利である。とりわけ、予備調製済みの酵素の使用が意図されている場合、貯蔵寿命が短いと酵素の適用性に対して悪影響が及ぶ。これには、通例、大規模に調製・貯蔵された後、例えば小規模化されたバッチで市場投入される酵素調製物、キット、試験ストリップ等のような、とりわけ市販製品が含まれる。加えて、基質及び/又は補因子に対する酵素の親和性を増強させることが望しいのは明らかである。親和性及び/又は安定性が増強された場合、工学的応用及びデバイスにおける酵素の性能が増強される。概してロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)に由来する野生型3−HBDHの、遍く容認されているアミノ酸配列は、配列番号1として後述されている。
【0015】
「ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の変異型3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素(3−HBDH)」という用語は、3−HBDH酵素に関し、この酵素のアミノ酸配列は、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の野生型3−HBDH、特に配列番号1のアミノ酸配列(少なくとも1つの突然変異によるもの、すなわち1つ以上のアミノ酸の置換、付加、欠失又はこれらの組み合わせ、特に少なくとも1つの置換によるもの)とは異なる。
【0016】
「野生型3−HBDHに対し相対的に性能が向上した」という用語は、変異型酵素に対し、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の野生型3−HBDHに対し相対的に性能が向上していることを意味する。突然変異型酵素の性能が向上した場合、特定の基質又は補因子の濃度において、任意の条件(例えば、貯蔵後、特定のpHで、特定の緩衝液を用い、選択された温度で、特定の補因子(例えばカルバNAD)を用いて、3−HBをアセトアセテートに変換した際に活性が増強された等)の場合、性能が向上したことになる。性能の向上は、とりわけ、1つ以上の基質/補因子(例えば、カルバNAD及び/又は3−HB)に対する安定性(例えば熱安定性)及び/又は親和性の増大であると言える。所与の条件(例えば、補因子又は基質の貯蔵、緩衝液条件、温度、濃度)にてストレスを受けた際、これらの条件下でストレスを受けない場合の活性、及び/又は変異酵素の相対的な活性(すなわち、部分飽和濃度での活性/飽和濃度での活性)が増強された場合等と相対的に、変異体酵素によって3−HBがアセトアセテートに変換されるときに、例えば、相対的な残存活性が比較的高い場合に、性能が改善されることが好ましい。
【0017】
ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の野生型3−HBDHの配列は、配列番号1として示してある。
【0019】
したがって、天然起源の野生型3−HBDHの好ましい実施例は、配列番号1として上記されている。
【0020】
1つ以上の突然変異が、野生型配列(特に、配列番号1の配列)に導入された場合、変異型3−HBDHが得られる。本発明の変異型3−HBDHに関して言うと、変異体は機能的に活性であり、野生型3−HBDHに対し相対的に性能の向上が明らかであることが注目される。これは、変異体が、3−HBからアセトアセテートへの変換の酵素的機能を維持していることを意味する。加えて、少なくとも基質及び/又は補因子に対する安定性、ならびに任意で、酵素の親和性が増強することが好ましい。変異体は、1つ以上のアミノ酸置換、付加及び/又は欠失、特に少なくとも1つ以上の置換による、野生型3−HBDHとは異なる。
【0021】
本発明による変異型3−HBDHの配列は、(任意で、本明細書で指定された置換に加えて)1つ以上のアミノ酸置換、欠失又は付加、特に1つ以上の置換、特に1つ以上の保存的アミノ酸置換を含む。
【0022】
本発明の一実施形態において、本発明による変異型3−HBDHは、1つ以上のアミノ酸置換、とりわけ限られた数の置換(例えば、最高50個、40個、30個、20個、特に10個のアミノ酸置換)を含む場合がある。好適な置換は、実施例、特に表に示してある。実施例において3−HBDHの性能を向上させるために好適であると同定された全ての置換は、本発明において、単独で、又は互いに組み合わせて使用される場合もあれば、且つ/あるいは更なる置換、例えば、保存的置換と組み合わせて使用される場合もある。「保存的アミノ酸置換」とは、残基が、類似の側鎖を有する異なる残基で置換されることを意味する。したがって、典型的には、ポリペプチド中のアミノ酸が、同一又は類似の規定クラスのアミノ酸で置換されることを含む。例を挙げれば、限定されるものではないが、脂肪族側鎖を有する或るアミノ酸は、別の脂肪族アミノ酸、例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンで置換され得;ヒドロキシル側鎖を有する或るアミノ酸は、ヒドロキシル側鎖を有する別のアミノ酸(例えばセリン及びトレオニン)で置換され;芳香族側鎖を有する或るアミノ酸は、芳香族側鎖を有する別のアミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン及びヒスチジンで置換され;塩基性側鎖を有する或るアミノ酸は、塩基性側鎖を有する別のアミノ酸、例えばリジン及びアルギニンで置換され;酸性側鎖を持つアミノ酸は酸性側鎖を持つ別のアミノ酸、例えばアスパラギン酸又はグルタミン酸で置換され;且つ疎水性又は親水性アミノ酸は、別の疎水性又は親水性アミノ酸でそれぞれ置換される。保存的アミノ酸置換の例には、以下に列挙されているものが含まれる。
【0024】
本発明の一実施形態において、本発明による変異型3−HBDHは、1つ以上のアミノ酸付加、とりわけ少数(例えば、最高50個、40個、30個、20個、特に10個のアミノ酸)の内部アミノ酸付加を含む場合がある。代替的に、変異型3−HBDHを、本発明の変異型3−HBDHを含む融合タンパク質に化合することによって、付加を達成できる。
【0025】
融合タンパク質は、2つ以上の元々別個のタンパク質又はペプチドの結合によって生じたタンパク質である。この手順によって、結果として、元のタンパク質の各々に由来する機能的特性を備えるポリペプチドが生ずる。したがって、3−HBDHの意図された用途に応じて、更なるペプチド又はタンパク質との化合によって、融合タンパク質を得ることができる。タンパク質は、リンカー又はスペーサーを介して融合される場合があり、これにより、タンパク質が独立に折り畳まれ、且つ予期されたとおりに挙動する可能性が高まる。リンカーによってタンパク質の精製を可能にする場合は特に、タンパク質又はペプチド融合物中のリンカーが、2つの別個のタンパク質の遊離を可能にするプロテアーゼもしくは化学薬剤の開裂部位で時には工学操作されることがある。二量体又は多量体の融合タンパク質は、人工タンパク質の二量体化又は多量体化(例えば、ストレプトアビジンもしくはロイシンジッパー)を誘導するペプチドドメインの元のタンパク質との融合を介して遺伝子工学によって製造される場合もあれば、それらのタンパク質に毒素又は抗体を付着させることによって、融合タンパク質を製造する場合もある。他の融合には、シグナル配列の付加、例えば脂質化シグナル、配列、分泌シグナル配列、グリコシル化シグナル配列、転座シグナルペプチド等の付加が含まれる。
【0026】
本発明の融合タンパク質はタグを含むことが好ましい。タンパク質にタグを付着させる目的は、例えば、精製を容易にする、タンパク質における適切な折り畳みを助ける、タンパク質の沈殿を防ぐ、クロマトグラフィー特性を変更する、タンパク質を修飾する、又はタンパク質をマークもしくは標識する等、多岐にわたっている。タグの例としては、Arg−タグ、His−タグ、Strep−タグ、Flag−タグ、T7−タグ、V5−ペプチド−タグ、GST−タグ及びc−Myc−タグが挙げられる。
【0027】
本発明の一実施形態において、本発明による変異型3−HBDHは、1つ以上のアミノ酸欠失、とりわけN末端及び/又はC末端の欠失を含む場合がある。アミノ酸の欠失は少数、例えば、最高50個、40個、30個、20個、特に10個であり得る。
【0028】
別の実施形態において、本発明による変異型3−HBDHの配列は、好ましくは本明細書中に明記されている置換以外にも、上記に定義されているような1つ以上の欠失、置換又は付加の組み合わせを含む場合がある。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、変異型3−HBDHは、配列番号1(ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の3−HBDH;野生型3−HBDH)のアミノ酸配列に対して少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0030】
本明細書において、「少なくとも80%同一」又は「少なくとも80%の配列同一性」という用語は、本発明による変異型3−HBDHの配列は、100アミノ酸鎖以内、少なくとも80アミノ酸残基が、対応する野生型配列の配列と同一であることを特徴とするアミノ酸配列を有することを意味する。したがって、他のパーセンテージの配列同一性が定義してある。
【0031】
本発明による配列同一性は、例えば、配列比較の形態での配列アラインメント方法によって判別できる。配列アラインメントの方法は、当該技術分野において周知であり、例えばPearson及びLipman (1988)に記載されている多様なプログラム及びアライメントアルゴリズムが包含される。そのうえ、NCBI Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)は、National Center for Biotechnology Information(NCBI, Bethesda, MD)をはじめとする幾つかの情報源から、ならびにインターネット上で入手可能であり、配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn及びtblastxと関連して使用可能である。本発明による変異体の、例えば配列番号1のアミノ酸配列との同一性パーセンテージは、典型的には、標準設定のNCBI Blast blastpを使用して、特徴付けられる。代替的に、配列同一性を、標準設定のGENEiousソフトウェアを使用して定量することもできる。例えば、フリーエンドギャップをアライメントタイプとするグローバルアライメントプロトコル、及びコストマトリックスとしてのBlosum62を使用して、Software Geneious(バージョンR8)で、アライメント結果を導出できる。
【0032】
上記に詳述されているように、一実施形態において、本発明の変異型3−HBDHは、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む。好ましい実施形態において、変異型3−HBDHが、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含むか又はそのアミノ酸配列からなる。配列同一性は、上述したように定量できる。
【0033】
別の好ましい実施形態において、本発明の変異型は、野生型3−HBDHと相対的に少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、少なくとも1つのアミノ酸置換は、配列番号1の位置66、109、113、125、140、144、145、195、197、217、223、232、239、250及び/又は257、特に少なくとも配列番号1の位置125、144、232及び/又は250、より具体的には少なくとも配列番号1の位置125、144、及び/又は250、特に、配列番号1の少なくとも位置250に対応する1つ以上の位置にある。実施例において、配列番号1の上の位置に対応する位置のアミノ酸の置換によって、基質及び/又は補因子に対する安定性及び/又は親和性が増強される(例えば、表1A及び表1Bを参照)。これらの位置での置換は、互いに組み合わせて使用できる(実施例も参照のこと)。
【0034】
好ましくは、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の変異型3−3−HBDHは、野生型3−HBDHに対し相対的に性能が向上しており、配列番号1(ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の3−HBDH;野生型3−HBDH)に対して少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含み、位置250、好ましくは配列番号1の250Metに対応する位置にて野生型3−HBDHと相対的に少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、且つ少なくとも1つの更なるアミノ酸置換を有し、配列番号1の位置66、109、113、125、140、144、145、195、197、217、223、232、239及び/又は257、特に少なくとも配列番号1の位置125、144及び/又は232、より具体的には配列番号1の少なくとも位置125及び/又は144に対応する1つ以上の位置にある。
【0035】
本発明の変異型3−HBDHの置換のとりわけ好適な例を、以下に示す。
− 配列番号1の位置66が、Tyr(66Tyr)、又はAsn(66Asn)で置換されているか;
− 配列番号1の位置109が、Glu(109Glu)で置換されているか;
− 配列番号1の位置113が、Thr(113Thr)で置換されているか;
− 配列番号1の位置125が、Phe(125Phe)で置換されているか;
− 配列番号1の位置140が、Val(140Val)で置換されているか;
− 配列番号1の位置144が、Arg(144Arg)で置換されているか;
− 配列番号1の位置145が、Gly(145Gly)で置換されているか;
− 配列番号1の位置195が、Gln(195Gln)又はLeu(195Leu)で置換されているか;
− 配列番号1の位置197が、Ile(197Ile)で置換されているか;
− 配列番号1の位置217が、Val(217Val)で置換されているか;
− 配列番号1の位置223が、Val(223Val)で置換されているか;
− 配列番号1の位置232が、Cys(232Cys)、Tyr(232Tyr)、又はTrp(232Trp)、特に232Cysで置換されているか;
− 配列番号1の位置239が、Tyr(239Tyr)、又はTrp(239Trp)で置換されているか;
− 配列番号1の位置250が、Met(250Met)で置換されているか;且つ/あるいは
− 配列番号1の位置257が、Met(257Met)、又はGln(257Gln)で置換されている。
【0036】
更に、上記の置換は、以下の置換のうちの1つ以上と組み合わせてもよい。
− 配列番号1の位置37が、Tyr(37Tyr)で置換されているか;
− 配列番号1の位置202が、Gly(202Gly)で置換されているか;且つ/あるいは
− 配列番号1の位置230が、Leu(230Leu)で置換されていて;
これらは250Metと組み合わせられていることが好ましい。
【0037】
とりわけ好ましい本発明の実施形態において、
a) 変異型3−HBDHは、少なくとも配列番号1の位置に対応する突然変異125Phe、144Arg、232Cys、及び/又は250Met、特に125Phe、144Arg、及び/又は250Met、より具体的には250Metを有するか;あるいは
b) 変異型3−HBDHは以下の突然変異
− 125Phe;
− 144Arg;
− 232Cys;
− 250Met;
− 230Leu及び250Met;
− 37Tyr及び250Met;
− 37Tyr、230Leu及び250Met;
− 202Gly、230Leu及び250Met;
− 37Tyr、145Gly、230Leu及び250Met;且つ/あるいは
− 37Tyr、195Gln、230Leu及び250Metを有し、これらの突然変異は配列番号1の位置に対応し、あるいは
c) 変異型3−HBDHの変異型は
− 125Phe;
− 144Arg;
− 232Cys;
− 250Met;
− 230Leu及び250Met;
− 37Tyr及び250Met;
− 37Tyr、230Leu及び250Met;
− 202Gly、230Leu及び250Met;
− 37Tyr、145Gly、230Leu及び250Met;あるいは
− 37Tyr、195Gln、230Leu及び250Metだけに限られていて、これらの突然変異は配列番号1の位置に対応している。
【0038】
更により特に好ましい本発明の実施形態において、変異型は、配列番号1(ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の3−HBDH;野生型3−HBDH)のアミノ酸配列に対して少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含み、野生型3−HBDHと相対的に、位置250、好ましくは配列番号1の250Metに対応する位置にて少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、且つ
a) 少なくとも配列番号1の位置に対する対応する突然変異125Phe、144Arg、及び/又は232Cys、とりわけ125Phe及び/又は144Argを有し;あるいは
b) 変異型3−HBDHは以下の突然変異
− 125Phe;
− 144Arg;
− 232Cys;
− 250Met;
− 230Leu及び250Met;
− 37Tyr及び250Met;
− 37Tyr、230Leu及び250Met;
− 202Gly、230Leu及び250Met;
− 37Tyr、145Gly、230Leu及び250Met;且つ/あるいは
− 37Tyr、195Gln、230Leu及び250Metを有し、これらの突然変異は配列番号1の位置に対応し、あるいは
c) 変異型3−HBDHの変異型は以下のものだけに限られ、これらは
− 250Met;
− 230Leu及び250Met;
− 37Tyr及び250Met;
− 37Tyr、230Leu及び250Met;
− 202Gly、230Leu及び250Met;
− 37Tyr、145Gly、230Leu及び250Met;あるいは
− 37Tyr、195Gln、230Leu及び250Metであり、配列番号1の位置に対応している。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、変異型3−HBDHが、配列番号1〜11のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含むか又はそのアミノ酸配列からなり、特に、変異型3−HBDHが、配列番号2〜11からなる群から選択される配列を含むか又はその配列からなる。
【0040】
上記に詳述されているように、配列番号1の配列は、野生型3−HBDHに関する。配列番号2〜11の配列は、好ましい変異型の配列である。配列番号5〜11の配列は、極めて好ましい変異型の配列である。当該の変異型の配列及び行われている置換を、セクション「配列」に示す。配列同一性は、上述したように定量できる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、野生型3−HBDHに対し相対的に性能が向上しており、
− 安定性、特に熱安定性が野生型3−HBDHと相対的に増強され;且つ/あるいは
− 基質、特に3−ヒドロキシブチレートの親和性が、野生型3−HBDHと相対的に増強され;且つ/あるいは
− 補因子の親和性(特にNAD又はその誘導体、特に誘導体がカルバNADである)が、野生型3−HBDHと相対的に増強されている。
【0042】
「安定性、特に熱安定性が野生型3−HBDHと相対的に増強された」という用語は、変異型3−HBDHが、特定の条件下で、特に高温では(酵素)活性の損失が抑えられる傾向のあることを意味する。それらの触媒としての完全な可能性の維持を目指して、変性機序の回避等、酵素の安定化は、バイオテクノロジーにおいて重要な目標とされている。酵素安定化は、酵素の適用数の増加に起因して顕著に重要である。安定性が増強されば、ユーザビリティの持続化(例えば、保管時間の長期化、ユーザビリティの長期化等)が可能となる。野生型と相対的に変異体の安定性の増強は、例えば、特定の条件(高温、乾燥、緩衝液、又は塩等)(絶対的な残存活性)に暴露された後に、両方の酵素(野生型及び変異体)の残存活性を比較することによって定量できる。代替的に、変異体によって例えば3−HBがアセトアセテートに変換される際の相対的な残存活性が改善された場合、野生型と比較して安定性が増強されている。相対的な残存活性は、所与の条件(例えば、貯蔵時間、温度)で貯蔵した後の残存又は残留酸性度を、貯蔵前の初期活性と比較することによって定量できる。代替的に、変異体が、例えば3−HBをアセトアセテートに変換する際の活性が、野生型酵素よりも高ければ、安定性が改善される。相対的な残存活性は、所与の条件(例えば貯蔵時間、温度)で貯蔵された後の野生型酵素及び変異体酵素の残存活性又は残留活性を比較することによって、定量できる。
【0043】
酵素活性及びその定量という用語は、当業者に周知である。酵素活性は概ね、時間当たりの基質の変換量として定義される。酵素活性のSI単位は、カタール(1カタール=1mol s
-1)である。実用性が高く且つ繁用されている値は、酵素単位(U)=1μmol min
-1である。1Uは、16.67ナノカタールに対し、1分当たり1マイクロモルの基質の変換を触媒する酵素の量として定義される。酵素の比活性は、総タンパク質1ミリグラム当たりの酵素の活性である(μmol min
-1mg
-1で表される)。
【0044】
酵素活性は、経時的な基質もしくは補因子の消費量、又は生成物形成を測定するアッセイで定量できる。基質及び生成物の濃度を測定する多数の異なる方法が存在し、多くの酵素は、当業者に公知の数種の方法でアッセイできる。本発明において、当該の3−HBDHは、例えば、3−ヒドロキシブチレート及び補因子、例えば、NADもしくはその誘導体(そのカルバNAD等)と共にインキュベートし、補因子の、NADからNADHへの変換、又はカルバNADからカルバNADHへの変換をモニタリングする。モニタリングは、例えば、340nmでの吸光度を測定することによって実行できる。酵素活性は、得られた1分間当たりの吸収の変化(dE/min)で表される。詳細については、実施例2を参照のこと。
【0045】
本発明の好ましい実施形態において、突然変異を伴わない各3−HBDHに対する変異型3−HBDHの安定性の増強は、それぞれの野生型に対する半減期(t
1/2(野生型))と相対的な変異型の半減期(t
1/2(変異型))の増分として表すことができる。酵素の半減期(t
1/2)は、元の活性の50%(t=0における活性)が失われてから残りの活性が50%になるまでの時間を示す。したがって、安定性が増強されると、それぞれの野生型と相対的に変異型の半減期が延長する。安定性の増加は、t
1/2(変異型)/t
1/2(野生型)として求めることができる。半減期の延長率は、[t
1/2(変異型)/t
1/2(野生型)−1]×100として求めることができる。
【0046】
本発明の極めて好ましい実施形態では、突然変異を伴わないそれぞれの3−HBDHに対する変異3−HBDHの安定性の増加を定量し、ストレスインキュベーション/貯蔵前の初期活性と相対的なストレスインキュベーション後の残存活性として表すことができる(例えば、64℃で30分間、実施例に記載されている他の任意の条件)である(実施例を参照)。これに関して、酵素反応を(例えば、室温で340nmにて5分間)モニタリングすることもできるし、各試料について時間当たりの吸収の変化(例えば、dE/min)を計算することもできる。ストレスを受けた試料について得られた値を、それぞれのストレスを受けない試料(値を100%活性に設定)と比較し、活性率((dE/min(ストレスを受けた試料)/dE/min(ストレスを受けない試料)×100)で計算される。したがって、変異体の値が、野生型酵素で得られた値を上回った場合、熱安定性が向上したことを表す。安定性の増強が認められるのは、[変異体の残存活性率(%)]−[野生型の残存活性率(%)]が0を上回った場合である。代替的に、変異体の残存活性は、活性率(パーセント数)として表すことができ、次式:[変異体の残存活性率(%)]/[野生型の残存活性率(%)]×100%として計算できる。結果値が100%を超える場合、野生型に対する変異体の安定性は増強されている。安定性を定量するための特定の好適な試験については、実施例2にて詳述する。この実施例によれば、安定性を残存活性として表すことができ、[dE/min(ストレスを受けた試料)]/[dE/min(ストレスを受けなかった試料)]×100として計算できる。更なる詳細については、実施例2に示す。野生型酵素を使用して得られた値よりも、変異体を使用して得られた値の方が高い場合、変異体の安定性が増強されたことを表す。
【0047】
好ましくは、安定性は、少なくとも10%、20%、30%又は40%、好ましくは少なくとも50%、75%又は100%、更により好ましくは少なくとも125%、150%、175%又は200%、特に250%、及び最も好ましくは300%増強された。
【0048】
しかも、酵素反応を高い温度で遂行することに商業上の利益が存在する。したがって、変異型の熱安定性を増強することが好ましい。これは、温度上昇に対する耐性は、変異体の方が野生型よりも高いことを意味する。熱安定性の増強は、とりわけ実施例、例えば、実施例2及び実施例3に示すようにして、定量できる。概して、変異型及び野生型酵素を、規定の時間(例えば、10分又は30分)、高温(例えば、54℃又は64℃のような50℃を超える温度)で予備インキュベートした後、3−HBをアセトアセテートに変換する際の残存活性を、野生型酵素の残存活性と比較する。変異体の残存活性が、野生型の残存活性よりも高い場合、変異体の熱安定性は増強されている。
【0049】
熱安定性の増分を定量するのに好適な方法については、実施例で詳述する。ストレス条件の例示的条件を、50〜90℃、特に50〜64℃にて(例えば、50℃、54℃もしくは64℃)30分間予備インキュベートし、以後、62.22mMの3−ヒドロキシブチレート;4.15mMのcNAD;0.1%TritonX−100;200mMのHepes pH9.0又は150mMの3−ヒドロキシブチレート;5mMのcNAD;0.1%TritonX−100;70mMのMops pH7.5にて試験を実施することとしてもよい。
【0050】
「基質、特に3−ヒドロキシブチレートの親和性が、野生型3−HBDHと相対的に増強された」という用語は、アセトアセテートに変換される基質3−ヒドロキシブチル酸/3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシブタノエート(3−HB)に対する変異型の親和性が増強されていることを意味する。定量のために、酵素反応をモニタリングしてもよいし(例えば、室温で340nmにて5分間)、試料ごとにdE/分を計算することもできる。変異体の親和性は、野生型と比較して増強されている。変異体は、例えば、基質、特に3−HBに対する親和性が絶対的又は相対的に高い。野生型と比較した変異体の親和性は、両方の酵素(野生型及び変異体)の絶対的な親和性(絶対比較)を比較することによって定量される場合があり、活性率((dE/min(変異型)/dE(野生型))×100)(%)で計算される場合がある。代替的に、野生型と比較した変異体の親和性は、両方の酵素(野生型及び変異体)の相対的な親和性の比較(相対的な比較)によって定量できる。野生型又は変異体の相対的な親和性は、飽和基質濃度での親和性を基準として相対的に、準飽和基質濃度での親和性を設定することによって定量できる。実施例2及び実施例3に詳述されるように、基質の量を減少させた活性アッセイにおいて(すなわち、準飽和濃度で)、例えば、1.94mMの3−ヒドロキシブチレート(更なる例示的な条件:4.15mMのcNAD;0.1%TritonX−100;200mMのHepes pH9.0)を用い、3−ヒドロキシブチレートに対する親和性を定量できる。親和性を定量するための特定の好適な試験については、実施例2にて詳述する。これによれば、親和性は、相対的な活性として表すことができ、[dE/min(準飽和基質濃度)]/[dE/min(飽和基質濃度)]×100として計算できる。更なる詳細については、実施例2に示す。野生型酵素を使用して得られた値よりも、変異体を使用して得られた値の方が高い場合、変異体の親和性が増強されたことを表す。
【0051】
親和性の増大は、Km値の減少と相関する。ミカエリス定数Kmは、酵素反応速度が半最大になったときの基質濃度、すなわち酵素に対する基質の親和性の逆数である。
【0052】
「補因子の親和性、特に、NAD又はその誘導体の親和性、特に誘導体はカルバNADであり、野生型3−HBDHと相対的に増強された」という用語は、3−HBをアセトアセテートに変換するのに必要な補因子(NAD又はその誘導体、特にカルバNAD)に対する変異型の親和性が増強されていることを意味する。実施例2及び実施例3に詳述されるように、補因子に対する親和性は、補因子の量を減少させた活性アッセイ(すなわち、飽和未満)において、例えば、0.032mMのcNAD(更なる例示的な条件:62.22mMの3−ヒドロキシブチレート;0.1%TritonX−100;200mMのHepes pH9.0)又は0.5mMのcNADで定量できる。基質の親和性に関して与えられた上記の詳細は、補因子の親和性に類似して適用可能である。親和性を定量するための特定の好適な試験については、実施例2にて詳述する。
【0053】
とりわけ、本発明の変異型3−HBDHは、野生型3−HBDHと相対的に少なくとも2倍安定性が増強され、好ましくは少なくとも3倍安定性が増強され、好ましくは少なくとも4倍安定性が増強され、より好ましくは少なくとも5倍安定性が高いことを特徴とし;且つ/あるいは、変異型3−HBDHは、野生型3−HBDHと相対的に基質及び/又は補因子の親和性が増強され、(i)3−ヒドロキシブチレート及び/又は(ii)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)又はその機能的に活性な誘導体のとりわけ親和性が増強され、且つ/あるいはとりわけ、基質及び/又は補因子の親和性は、少なくとも5%、より具体的には少なくとも10%、更により具体的には少なくとも15%又は20%高いことを特徴とする。
【0054】
別の態様において、本発明は、上述されている本発明の変異型3−HBDHをコードする核酸に関する。
【0055】
本明細書において「核酸」という用語は概して、本発明の変異型3−HBDHをコードする、可変長であってもよい任意のヌクレオチド分子に関する。本発明の核酸の例としては、限定されるものではないが、プラスミド、ベクター、又は標準的な分子生物学手順(例えば、イオン交換クロマトグラフィー等)によって単離できる任意の種類のDNA及び/又はRNA断片が挙げられる。本発明の核酸は、特定の細胞もしくは生物を形質移入又は形質導入する目的で使用される場合がある。
【0056】
本発明の核酸分子は、mRNA又はcRNAのようなRNAの形態であってもよいし、あるいは例えば、cDNA及びゲノムDNAを含むDNAの形態(クローン化によって得られたもの、又は化学合成技術によって、又はこれらの組み合わせによって生成されたもの)であってもよい。DNAは、三本鎖、二本鎖又は一本鎖であってもよい。一本鎖DNAは、センス鎖としても知られているコード鎖であってもよいし、又はアンチセンス鎖とも呼ばれる非コード鎖であってもよい。また、本明細書中に使用されている核酸分子は、とりわけ、一本鎖DNA及び二本鎖DNA、一本鎖RNA及び二本鎖RNAの混合物であるDNA、ならびに一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖領域又はより典型的には二本鎖領域もしくは三本鎖領域、又は一本鎖領域及び二本鎖領域の混合物であり得るDNA及びRNAを含むハイブリッド分子も指す。加えて、本明細書中で使用されている核酸分子は、RNAもしくはDNA、又はRNAとDNAの両方を含む、三本鎖領域を意味する。
【0057】
付加的に、核酸は、1つ以上の修飾塩基を含む場合がある。また、そのような核酸には、例えばリボース−リン酸主鎖中に、生理学的環境におけるそのような分子の安定性及び半減期を延長させ得る修飾を含めてもよい。したがって、安定性又は他の理由で修飾された主鎖を有するDNA又はRNAは、その特徴が本明細書中で意図されているようなものである「核酸分子」である。そのうえ、イノシンのような異常な塩基又はトリチル化塩基のような修飾塩基を含むDNAもしくはRNAは、わずか2例にすぎないが、本発明の文脈の範囲内にある核酸分子である。当業者に公知の多くの有用な用途に役立つ多種多様な改変が、DNA及びRNAに対してなされてきたことが理解されるであろう。本明細書中で使用されている核酸分子という用語には、化学的、酵素的又は代謝的に修飾された核酸分子の形態、ならびに、特に単純及び複雑な細胞を含む、ウイルス及び細胞に特徴的なDNAならびにRNAの化学的形態が包含される。
【0058】
更に、本発明の変異型3−HBDHをコードする核酸分子は、標準的なクローニング技術のような標準技術を使用して、調節配列、リーダー配列、異種マーカー配列又は異種コード配列のような任意の所望の配列に機能的に連結され、融合タンパク質を作製する場合がある。
【0059】
本発明の核酸は当初、エンドヌクレアーゼ及び/又はエキソヌクレアーゼ及び/又はポリメラーゼ及び/又はリガーゼ及び/又はリコンビナーゼによる核酸の操作、あるいは当業者に公知の他の核酸生成方法で概して、in vitro又は培養中の細胞中で形成できる。
【0060】
本発明の核酸を、発現ベクターに含めることができ、そうすることによって、この核酸が、宿主細胞中で核酸の発現を促進できるプロモータ配列に作動可能に連結されるようになる。
【0061】
本明細書において、「発現ベクター」という用語は概して、関心対象のタンパク質を細胞内で発現させるために使用できる任意の種類の核酸分子を指す(本発明の核酸に関しては、上記の詳細も参照)。特に、本発明の発現ベクターは、哺乳動物細胞、細菌細胞及び酵母細胞を含むがこれらに限定されない特定の宿主細胞内でタンパク質を発現させるのに適した、当業者に公知の任意のプラスミド又はベクターとして差し支えない。本発明の発現構築物はまた、本発明の3−HBDHをコードする核酸であって、それぞれのベクターに引き続きクローニングして発現を保証するのに使用される核酸とすることもできる。タンパク質発現用のプラスミド及びベクターは当該技術分野において周知であり、例えばPromega(Madison, WI, USA)、Qiagen(Hilden, Germany)、Invitrogen(Carlsbad, CA, USA)、又はMoBiTec(Germany)等、多様な供給業者から商業的に購入できる。タンパク質発現方法は当業者に周知であり、例えば、Sambrook et al., 2000(Molecular Cloning: A laboratory manual, Third Edition)に記載されている。
【0062】
ベクターは、宿主細胞において、例えば、複製起点、1つ以上の治療用遺伝子及び/又は選択マーカー遺伝子、ならびに、当該技術分野において公知の他の遺伝子エレメント、例えばコードされたタンパク質の転写、翻訳及び/又は分泌を指図する制御エレメント等の複製を可能にする核酸配列を、追加的に含み得る。このベクターを用い、細胞への形質導入、形質転換もしくは感染を行い、細胞に固有の核酸、及び/又はタンパク質以外のタンパク質を発現させることが可能である。ベクターは、任意で、核酸がウイルス粒子、リポソーム、タンパク質コーティング等の細胞への侵入を達成する一助となる材料を含む。標準的な分子生物学技術によるタンパク質発現に関しては、多くのタイプの該当する発現ベクターが、当該技術分野において公知である。そのようなベクターは、昆虫類、例えば、バキュロウイルス発現系、又は酵母、真菌、細菌もしくはウイルス発現系を含む、従来のベクター型の中から選択される。当該技術分野において多数のタイプが公知となっている他の適切な発現ベクターも、この用途に使用できる。そのような発現ベクターを得るための方法は周知である(例えば、Sambrook et al, supraを参照のこと)。
【0063】
上記に詳述されているように、本発明の変異型3−HBDHをコードする核酸は、タンパク質を確実に発現させるように、宿主細胞内でのタンパク質の発現を駆動するのに適した配列に作動可能に連結されている。しかしながら、本発明の範囲内に包含されているように、請求された発現構築物が、タンパク質を確実に発現させるために、以後に好適な発現ベクターにクローン化される中間産物を表し得る。本発明の発現ベクターは、全ての種類の核酸配列を更に含み得る。それらの核酸配列としては、限定されるものではないが、ポリアデニル化シグナル、スプライスドナー及びスプライスアクセプターシグナルのほか、介在配列、転写エンハンサー配列、翻訳エンハンサー配列、薬剤耐性遺伝子、又はこれらに類するものが挙げられる。任意で、薬物耐性遺伝子は、細胞周期特異的又は細胞周期非依存のいずれかであり得る内部リボソーム侵入部位(IRES)に作動可能に連結される場合がある。
【0064】
本明細書において「作動可能に連結される」という用語は概して、遺伝子エレメントは、意図された目的に合わせて機能するように配置され、例えば、転写がプロモータによって開始され、且つ本発明のタンパク質をコードするDNA配列を通って進行することを意味する。すなわち、RNAポリメラーゼは、融合タンパク質をコードする配列をmRNAに転写し、mRNAをスプライシングしてタンパク質に翻訳する。
【0065】
本発明との関連において用いられる「プロモータ配列」という用語は概して、下流のコード配列に作動可能に連結された任意の種類の調節DNA配列を指し、前記プロモータはRNAポリメラーゼに結合し、細胞内のコードされたオープンリーディングフレームの転写を開始し、それにより前記下流のコード配列の発現を駆動する。本発明のプロモータ配列は、構成的プロモータ、誘導性プロモータ、細胞周期特異的プロモータ、及び細胞型特異的プロモータを含むが、これらに限定されない、当業者に公知の任意の種類のプロモータ配列とされる場合がある。
【0066】
本発明の別の態様は、本発明の変異型3−HBDH、又は本発明の核酸を含む細胞に関する。本発明の一実施形態において、変異型を含む細胞は、本発明との関連において用いられる。この細胞は、宿主細胞であることが好ましい。本発明の「宿主細胞」は、組換えDNA技術に適用するのに適した任意の種類の生物とすることができ、限定されないが、1種以上の組換えタンパク質を発現するのに適したあらゆる種類の細菌及び酵母株が挙げられる。宿主細胞の例としては、例えば、多様な枯草菌(Bacillus subtilis)又は大腸菌(E. coli)株が挙げられる。多様な大腸菌(E. coli)細菌宿主細胞は当業者に公知であり、例えばStratagene(CA, USA)、Promega(WI, USA)又はQiagen(Hilden, Germany)等、多様な供給業者から商業的に購入できるDH5−α、HB101、MV1190、JM109、JM101、又はXL−1Blue等の株が挙げられるが、これらに限定されない。また、とりわけ好適な宿主細胞は、実施例に記載されているもの、言い換えれば、大腸菌(E. coli)XL−1Blue細胞である。宿主細胞として使用可能な枯草菌(Bacillus subtilis)株としては、例えば、MoBiTec(Germany)から市販されている1012野生型:leuA8 metB5 trpC2 hsdRM1及び168 Marburg:trpC2(Trp−)等が挙げられる。
【0067】
本発明による宿主細胞の培養は、当業者に公知の常法である。つまり、本発明の変異型3−HBDHをコードする核酸は、好適な宿主細胞に導入して組換え手段によって、これらのタンパク質を産生できる。これらの宿主細胞は、任意の種類の好適な細胞とすることができ、例えば、容易に培養できる大腸菌(E. coli)のような細菌細胞とすることが好ましい。第1の工程では、それぞれの遺伝子を好適なプラスミドベクターにクローニングすることを、このアプローチに含めてもよい。プラスミドベクターは、遺伝子クローニング用に広く使用されており、コンピテントにされた細菌細胞に容易に導入(すなわち形質転換)できる。タンパク質がそれぞれの宿主細胞内で発現した後、この細胞を、化学的又は機械的細胞溶解のいずれかによって破壊できることは当業者に周知である。この細胞溶解としては、限定されないが、例えば、低張塩処理、界面活性剤処理、ホモゲナイズ、又は超音波処理が挙げられる。
【0068】
別の態様において、本発明は、試料中の3−ヒドロキシブチレートの量又は濃度を定量する方法に関し、前記方法が、
a)3−HBDHの活性に資する条件下にて試料を、本発明の変異型3−HBDHに接触させる工程と;
b)3−ヒドロキシブチレートをニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)又はその機能的に活性な誘導体と反応させる工程と;
c)NADもしくはその誘導体の酸化還元状態の変化を判別する工程と;
を含み、これにより、試料中の3−ヒドロキシブチレートの濃度を定量する、方法。
【0069】
上記の方法は、3−HBDHを用い、以下のスキームに従って3−HBからアセトアセテートへの変換を触媒できるという事実に基づく。
【数2】
【0070】
本発明の方法の第1の工程では、試料を本発明の3−HBDHと接触させる。試料と変異型3−HBDHとの接触は、直接的に(例えば、液体アッセイ中で)、又は間接的に(例えば、試料(検体を含む)の一部のみを3−HBDHと接触させるセンサー系内で)為される場合がある。
【0071】
3−HBDHの活性に資する条件下、すなわち酵素で3−HBをアセトアセテートに変換する条件下にて、接触を遂行すべきことは明白である。インキュベーション工程は、約5秒〜数時間、好ましくは約10秒〜約10分と変動し得るのに対し、インキュベーション時間は、アッセイ形式、溶液の容量、濃度等に依存する。アッセイは、周囲温度で遂行されるか又は他の試験形式での所要温度(例えば、30℃又は37℃のような25℃〜38℃)にて同時的に遂行されるのが通例であるが、10℃〜40℃のような温度範囲で実施される場合もある。
【0072】
任意で、酵素を、試料との接触に先立って支持層中に固定化又は不動化することによって、アッセイを促進する場合もある。支持層の例としては、例えば、マイクロタイタープレート、ガラス顕微鏡スライドもしくはカバースリップ、スティック、ビーズ、又はマイクロビーズ、膜(例えば、試験ストリップ中に使用されるもの)及びバイオセンサーの層の形態の、ガラス又はプラスチックが挙げられる。
【0073】
試料は、3−HBが含有されている疑いのある任意の試料、特に被験者から採取された試料である場合がある。「被験者から採取された試料」という用語は、任意の所与の被験者(特に、ヒト)から単離された、あらゆる生物学的流体、排泄物及び組織を含む。本発明との関連において、そのような試料としては、血液、血清、血漿、乳頭吸引液、尿、精液、精漿、精漿液、前立腺液、排泄物、涙、唾液、汗、生検、腹水、脳脊髄液、乳汁、リンパ液、気管支及び他の洗浄試料、又は組織抽出試料が挙げられる。好ましくは、被験者は、動物(ヒトを含む)、より好ましくは哺乳動物、更により好ましくはヒトである。試料は、体液、特に血液試料又は尿試料であることが好ましい。
【0074】
血液試料は典型的に、本発明との関連において使用するのに好ましい試験試料である。この用途では、血液が静脈から、通常は肘の内側又は手の後ろ又は指先から採血される場合がある。とりわけ乳児又は幼児では、ランセットと呼ばれる鋭利な器具を用い、皮膚を穿刺して出血させる場合がある。例えば、ピペットもしくはカニューレに、又はスライドもしくは試験ストリップ上に血液を採取できる。
【0075】
3−HB(存在する場合)の接触及び変換後、3−HBDHによって媒介されたNADの酸化還元状態の変化又は誘導体を定量し、それにより、試料中の3−HBを定量する。NADHもしくはその誘導体の生成量、及びNAD又はその誘導体の消費量は、試料中に存在する3−HBの量と相関することが明白である。したがって、NADの酸化還元状態の変化NAD及び/又はNADHの量もしくは濃度、ならびに2つの比率を定量すること含む。同じことは、NAD誘導体にも当てはまる。
【0076】
NADH/NAD又はその誘導体を判別する方法は、当該技術分野において様々な種類のものが公知であり、これらのいずれも使用できる。
【0077】
NADH/NADもしくはその誘導体を定量する例示的な方法としては、電気化学的方法が挙げられる(例えば、米国特許第6,541,216(B1)号明細書に記載されている)又は光学的方法(例えば、340nmもしくは365nm等の吸光度によるNADH/NAD変換を測定することにより、又は、ルシフェリンを生ずる還元酵素ベースのアッセイによって光学的に定量化される)。電気化学的方法が使用される場合、NADH/NAD又はその誘導体は、a)測定電極上で直接反応し得るか、あるいはb)第1段階において、NADH/NAD又はその誘導体が、追加のレドックス中間体物質と反応すると、この中間体物質が、その酸化還元状態を規定された関係NADH/NAD又はその誘導体の酸化還元状態に変換し、後続の段階では、このレドックス中間体が、測定電極上で反応する。
【0078】
NAD及びNADPは両方とも塩基不安定分子であり、その分解経路は、文献に記載されている(例えば、N.J.Oppenheimer in The Pyridine Nucleotide Coenzymes Academic Press, New York, London 1982, J. Everese, B. Anderson, K. Yon, Editors, chapter 3, pages 56−65を参照)。したがって、NADH/NADの誘導体が開発されてきており、その市販品が出回っている。一部の誘導体は、Pyridine Nucleotide Coenzymes, Academic Press New York, London 1982 , Eds.J. Everese, B. Anderson, K. You, Chapter 4、国際公開第01/94370(A)号パンフレット、国際公開第98/33936(A)号パンフレット、及び米国特許第5,801,006(B1)号明細書に記載されている。
【0079】
好ましくはカルバNADであり(cNAD)はNADの誘導体として使用されている。カルバNADにおいて、リボースは炭素環式糖単位で置換される。カルバNADの構造(I)は以下のとおりである。
【0081】
本化合物、その製造及び使用については、国際公開第2007/012494(A)号パンフレット、国際公開第2011/012270(A)号パンフレット、及び国際公開第2014/195363(A)号パンフレットに詳述されている。本発明の補因子は、カルバNADであることが好ましい。本発明の一実施形態において、補因子はNADの機能的に活性な誘導体であり、その補因子について言及している国際公開第2011/012270(A)号パンフレットの式IIIにおいて開示されている。本発明の一実施形態において、NADPはNADの代わりに使用される。
【0082】
本発明の方法は、例えばキュベット中でいわゆる液体試験もしくは湿潤試験にて、又は適当な試薬担体上でいわゆる乾式試験として遂行でき、このため、必要な試験試薬は固体担体の中もしくは上に存在し、好ましくは吸収性材料又は膨潤性材料である。
【0083】
代替的に又は付加的に、3−HBDHは、センサー、試験ストリップ、試験エレメント、試験ストリップデバイス又は液体試験の一部とされる場合がある。
【0084】
センサーは、物理的/化学的な量を測定し、これを観察者又は器具で読み取ることができる信号に変換するための実体である。本発明において、3−HBDHはセンサーの一部とされる場合がある。センサーは、3−HB及びNADもしくはその誘導体をアセトアセテート、ならびにNADHもしくはその誘導体に変換し、これを色の変化又は表示された値等の信号に更に変換して、例えば、ディスプレイ又はモニター上に表示する。
【0085】
一実施形態において、センサーは、3−HBDHと、試料の3−HBを定量するための電流測定デバイスとを含む場合がある。また、電気化学フローセルに共役された微小透析システムを使用して、試料中又は被験者における3−HBを連続的にモニタリングすることもできる。フローセルの作用電極は、電極表面上のレドックスポリマーフィルム中に固定化された3−HBDHを用いて調製できる。電気化学3−HBセンサーを微量透析に直接共役することにより、試料アリコートを、ポストカラムオキシダーゼ酵素反応器を有する液体クロマトグラフィーシステムに移す必要がなくなる。微量透析プローブからの透析液中の3−HBは、他の酸化可能な種からの有意な干渉をいっさい受けることなしに、酵素電極にて選択的に検出できる。更に、当該技術分野において酵素共役型バイオセンサーが記載されてきた。これによれば、3−HBDHは、例えば、3−HBDH/グラファイト混合物を電気メッキグラファイトパッド上にプリントすることによって、あるいは炭素粒子、白金化炭素粒子、炭素/炭素複合体上に変異型3−HBDHを吸着又は固定化させて、二酸化マンガン粒子、ガラス状炭素もしくはカーボンペースト電極等と混合する。
【0086】
試験ストリップ又は試験要素は、試料中の標的物質の存在及び/又は量を定量するために使用される、分析デバイス又は診断デバイスである。標準試験ストリップには、試験と接触したときに反応する(例えば、色が変化する)試薬を含む1つ以上の異なる反応ゾーン又はパッドを、含めてもよい。試験ストリップは、多くの実施形態において、例えば米国特許第6,541,216(B1)号明細書、欧州特許第262445(B)号明細書及び米国特許第4816224(B1)号明細書において公知となっている。定量方法を遂行するために必要な1つ以上の試薬(例えば、酵素)が固体担体層の上又は中に存在することは、遍く公知である。担体層として、分析対象となる試料液体によって湿潤される特に好ましい吸収性材料及び/又は膨潤性材料が存在し、例としては、ゼラチン、セルロース及び合成繊維フリース層が挙げられる。
【0087】
本発明の3−HBDHを、液体試験の一部としてもよい。液体試験は、試験成分が液体媒体中で反応する試験である。実験室分析の分野において、液体試薬は水を主成分とするものが通例であり、例えば、関与する酵素の活性を提供するための緩衝塩溶液とされる。液体は通常、特定の意図された用途に適応する。液体試験を実施するためには、全ての試験成分を液体中に溶解し、混合する(又はその逆も同様である)。そのような試験を実施するための典型的な容器としては、バイアル、マルチウェルプレート、キュベット、容器、試薬カップ、チューブ等が挙げられる。
【0088】
本発明の一実施形態において、本発明の3−HBDHは固定化される場合がある。固定化の典型的な方法としては、膜等への共有結合、ポリマー内でのカプセル化、支持マトリックスへの架橋、又はゾル−ゲルマトリックス(例えば、シリケートガラスのようなガラス)内での固定化、あるいは多孔性基材上への吸着が挙げられる。酵素を固定化するための好適な方法は当該技術分野において公知である(例えば、Lillis et al., 2000, Sensors and Actuators B 68: 109−114を参照のこと)。
【0089】
本発明の好ましい実施形態において、本方法は、グルコースの量又は濃度を定量する工程を更に含む。本発明の別の実施形態において、前記方法は、アセトン及び/又はアセトアセテートの量もしくは濃度を定量する工程;ならびに/あるいはグルコースの量もしくは濃度を定量する工程を含む。これらの化合物の定量は、上記の疾患及び医学的状態の診断に特に関連する。これらの化合物を定量するための方法は、当該技術分野において周知である。加えて、複数の検体を分析するためのシステム及び方法は、国際公開第2014/068024(A)号パンフレットで公知である。
【0090】
したがって、本発明の方法は、以下:
a)NADもしくはその誘導体の酸化還元状態の変化を判別する工程が、(i)NADもしくその誘導体、又は(ii)NADHもしくはその誘導体の濃度を定量することを含み;且つ/あるいは
b)前記NADもしくはその誘導体の酸化還元状態の変化を判別する工程が、電気化学的又は光学的であり;且つ/あるいは
c)前記方法が、アセトアセテートもしくはアセトンの量又は濃度を定量することを更に含み;且つ/あるいは
d)前記方法が、グルコースの量又は濃度を定量することを更に含み;且つ/あるいは
e)前記NADの誘導体がカルバNADであり;且つ/あるいは
f)前記変異型3−HBDHが、センサー、試験ストリップ、試験エレメント、試験ストリップデバイス又は液体試験の一部であり;且つ/あるいは
g)前記試料が体液、特に血液試料又は尿試料であることを更に特徴とすることが好ましい。
【0091】
更に別の態様において、本発明は、試料中の3−ヒドロキシブチレートの量もしくは濃度を定量するための、本発明の変異型3−HBDHの使用に関する。
【0092】
本発明の使用に関しては、本態様にも適用可能である、本開示の他の態様に関連して使用される用語、実施例及び特定の実施形態を参照する。とりわけ、本発明の方法について詳述されているように、本発明による変異型3−HBDHを使用できる。
【0093】
更に、別の態様において、本発明は、本発明の変異型3−HBDH、及び任意で、前記定量を行うのに必要とされる更なる構成要素を含む、試料中の3−ヒドロキシブチレートの量又は濃度を定量するためのデバイスに関する。
【0094】
本発明のデバイスに関しては、本態様にも適用可能である、本開示の他の態様に関連して使用される用語、実施例、及び特定の実施形態を参照する。とりわけ、上記に詳述されているように、本発明による変異型3−HBDHを使用できる。
【0095】
本発明の3−HBDHを、試料中の3−HBを測定するためのデバイスの一部としてもよいし、本デバイスは、この目的に適した任意のデバイスとすることも、3−HBを定量するために使用できる機械又は工具とすることもできる。本デバイスは、センサーとするのが好ましく、好適には電気化学センサー又は試験ストリップである。例示的なデバイスとしては、上述されているもの以外に、後述のものもある。
【0096】
本デバイスは、例えばセンサーであってもよい。生物学的成分(ここでは本発明による3−HBDH)と検出器成分、特に物理化学的な検出器成分とを組み合わせた検体を検出するための分析デバイスであるバイオセンサーである。
【0097】
バイオセンサーは、特に血液由来の生物学的試料からの様々な検体(3−HBを含む)の濃度を定量するのに特に有用である。電気化学試験ストリップ形式に基づく例示的なバイオセンサーは、米国特許第5,413,690(B1)号明細書;同第5,762,770(B1)号明細書及び同第5,997,817(B1)号明細書に記載されている。
【0098】
本発明の(バイオ)センサーにおいて、3−HBDH及びNAD又は誘導体の存在下でアセトアセテートに変換された3−HB、ならびにNAD又は誘導体の酸化還元状態の変化は、トランスデューサ又は検出素子によってモニタリングできる。
【0099】
とりわけ、3−HBセンサーは、グルコース、アセトン、アセトアセテート、コレステロール、トリグリセリド、尿素、血液ガス又は電解質等を定量するための、他のセンサーと組み合わせて用いられる場合がある。本発明の変異型3−HBDHは、これらの複数の検体デバイスにおいても使用できることが明白である。
【0100】
上記に詳述されているように、センサーは、電気化学センサー又は光学センサーであることが、好ましい。電気化学センサーは、化学信号(ここでは3−HBの存在)から電気信号(例えば、電流)への変換に基づくものである。好適な電極は、電気信号としてのNADH又はその誘導体の3−HB媒介生成物を測定できる。
【0101】
好適な光学センサーは、NAD又はその誘導体の酸化還元状態における3−HBDH媒介変化を測定できる。シグナルは、光のNAD/NADH媒介吸光度/発光である場合がある。
【0102】
本発明のデバイスは、本発明の3−HBDHに加えて、前記定量に必要であるか、又は前記定量に役立つ1つ以上の更なる成分(例えば、他の試薬)を含み得る。これらの成分は、本発明の方法及びデバイスの文脈において記載された成分のいずれかであり得る。加えて、これは、取扱説明書、ランセットデバイス、毛細管ピペット、更なる酵素、基質及び/又は対照溶液等を含み得る。
【0103】
好ましくは、本発明のデバイスは、デバイスは、センサー、好ましくは電気化学センサーもしくは光学センサー、又は試験片、特に試験片であるか、又はそれらを含み、且つ/あるいは試料中のグルコースの量もしくは濃度を定量することを可能にすることを特徴とする。本発明のデバイスに関しては、上述の用語、実施例及び特定の実施形態についても言及する。
【0104】
別途定義されていない限り、本明細書中に使用されている全ての技術用語、科学用語、及び頭字語は、本発明の分野における当業者が概して理解するのと同じ意味を有する。分子生物学における汎用用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes V, published by Oxford University Press, 1994 (ISBN 0−19−854287−9); Kendrew et al.(eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Science Ltd., 1994 (ISBN 0−632−02182−9); 及びRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1 −56081 −569−8)で見つけることができる。
【0105】
本明細書中に記載されている特定の方法、プロトコル、及び試薬は変更される可能性があるので、本発明はこれらに限定されない。本発明の実施に際して、本明細書中に記載されているものと類似又は等価な任意の方法及び材料を使用できるが、好ましい方法及び材料は本明細書中に記載されている。更に、本明細書中に使用されている用語は、専ら特定の実施形態を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0106】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されているように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上別の意味が明示されていない限り、複数の参照を含む。同様に、「含む(comprise)」、「含有する(contain)」及び「包含する(encompass)」という用語は、排他的ではなく包括的に解釈すべきである。同様に、「又は」という用語は、文脈上別の意味に解釈すべきことが明示されていない限り、「及び」を含むことが意図されている。「複数」という用語は、2つ以上であることを指す。
【0107】
以下の実施例は、本発明の多様な実施形態を例証することを意図したものである。そのため、考察された特定の修正は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。本発明の範囲から逸脱することなく様々な均等物、変更、及び修正を行うことができることは当業者にとって明らかであり、したがって、そのような均等な実施形態を本明細書中に含めるべきことを理解する必要がある。
【実施例】
【0108】
実施例1:3−HBDH変異型のライブラリの確立
ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来の3−ヒドロキシブチレート脱水素酵素(3−HBDH)遺伝子(データベースUniProtKB − D0VWQ0)を合成し、ベクターpKKt5内でクローンして、分子生物学における繁用の方法により大腸菌(E. coli)株XL−1Blue内で変形させる。
【0109】
飽和突然変異誘発を酵素の多くのアミノ酸位置に適用した。突然変異誘発は、QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kit (Agilent Technologies Cat200518)を使用して、ランダムに合成されたプライマーを適用することによって達成された。
【0110】
突然変異誘発用に使用される5’−及び3’−プライマーは互いに相補的であり、アミノ酸交換のため中心位置にNNN(ランダムに合成されたヌクレオチド)が含有されていた。この無作為に作成されたコドンは、各末端で12〜16ヌクレオチドに隣接していた。これらヌクレオチドの配列は、cDNA鎖、又はアミノ酸置換のためのコドンに隣接する相補的なcDNA鎖と同一であった。突然変異した遺伝子を形質転換させ、寒天プレート上で37℃にて一晩培養して、大腸菌(E. coli)株Xl−Blue内で変異型ライブラリによって作製される。
【0111】
実施例2:1回目の突然変異誘発(単一アミノ酸置換を伴う変異型)による3−HBDH変異型の特性の判別
3−HBDH変異型のライブラリを、実施例1に記載されているように生成し、以下の酵素特性についてスクリーニングした。
− 熱安定性
− 3−ヒドロキシブチレートに対する親和性
− c−NAD(カルバNAD=人工補因子に対する親和性、米国特許出願公開第20120130062(A1)号明細書を参照)
【0112】
上記の寒天プレート上の変異体コロニーを、200μlのLB−アンピシリン−培地/穴を含有するマイクロタイタープレート(mtp)中でピックし、37℃で一晩インキュベートした。これらのプレートをマスタープレートと呼んだ。各アミノ酸位置について、2つのマスタープレートをピックして、全ての可能な交換が含まれることを確認した。
【0113】
各マスタープレートから、40μl試料/キャビティを、200μlの0.1%TritonX−100;500mMのNaCl;200mMのHepes pH9.0;2%B−パー/キャビティ(B−PER=バクテリアタンパク質抽出試薬ピアス番号78248)含有のmtpに移し、40℃にて30分間インキュベートして細胞を破壊した。このプレートを作業プレートと呼んだ。
【0114】
作業プレートから、4×20μl試料/キャビティを4つの空のmtpsに移した。これらのうちの1つを62.22mMの3−ヒドロキシブチレート;4.15mMのcNAD;0.1%TritonX−100;200mMのHepes pH9.0にて室温で試験し、基準測定と呼んだ。他のmtpをそれぞれ異なる条件下で試験し、得られた値を、パーセントで表された基準プレートと比較した。
【0115】
測定対象パラメータは、以下のとおり:
− 熱安定性:Mtpを(特に明記しない限り)50℃で30分間インキュベートし、以後に62.22mMの3−ヒドロキシブチレート;4.15mMのcNAD;0.1%TritonX−100;200mMのHepes pH9.0にて試験した。
− 3−ヒドロキシブチレートに対する親和性:基質の量を減少させた活性アッセイ(すなわち、基質飽和未満)。測定には、1.94mMの3−ヒドロキシブチレート;4.15mMのcNAD;0.1%TritonX−100;200mMのHepes pH9.0を用いた。
− cNADに対する親和性:補因子の量を減少させた活性アッセイ(すなわち、飽和未満)。測定には、62.22mMの3−ヒドロキシブチレート;0.032mMのcNAD;0.1%TritonX−100;200mMのHepes pH9.0を用いた。
【0116】
室温で340nmにて5分間、酵素反応をモニタリングし、各作業プレートの各キャビティについてdE/minを計算した。基準測定からの値を100%活性に設定した。他の3つのプレートで得られた値(3−ヒドロキシブチレート又はcNADに対する熱安定性、親和性)を基準と比較し、活性の百分率((dE/minパラメータ/dE/min基準)×100)で計算した。各マスタープレートには、変異体だけでなく、特性の改善又は劣化に関する評価が良好化されるように対照としての野生型酵素も含まれていた。
【0117】
残存活性として表される熱安定性を、次式として計算した。
【0118】
【数3】
【0119】
野生型酵素を使用して得られた値よりも、変異体を使用して得られた値の方が高い場合、変異体の熱安定性が増強されたことを表す。したがって、活性比率として表される基質の親和性を計算した。
【0120】
【数4】
【0121】
基質の親和性が高い変異体は、基質の親和性が低い変異体よりも少ない基質(基質飽和未満のもの)と反応した場合に、活性の増強を示す。野生型酵素を使用して得られた値よりも、変異体を使用して得られた値の方が高い場合、変異体に対する基質の親和性が増強されたことを表す。
【0122】
したがって、活性比率として表される補因子の親和性を計算した。
【0123】
【数5】
【0124】
0.001 dE/min未満のデータをゼロに設定し、結果として「ゼロ」値が得られた。
【0125】
野生型酵素に対する結果は、表1A及び表1Bに要約されている。
【0126】
1回目の飽和突然変異誘発において、以下の変異体が見出された。
【0127】
【表1A-1】
【表1A-2】
【0128】
【表1B】
【0129】
熱安定性の向上は、多くの場合、基質及び/又は補因子に対する親和性に影響を及ぼすことを表に示す。安定性及び親和性の両方のパラメータを向上させる4つの位置、すなわち、配列番号1の位置125、144、232及び250が見出された。
【0130】
追加の見出された位置の組み合わせによって、更なる最適化用の交換を伴う例示的な変異体V250Mを選択した。
【0131】
実施例3:2回目の突然変異誘発による3−HBDH変異型(アミノ酸置換、及び任意で、更なるアミノ酸置換を伴う変異型V250M/I)のスクリーニング
特に明記しない限り、実験を実施例2に詳述されているようにして遂行した。2回目の突然変異誘発において、選択された置換を変異体WT+V250Mと組み合わせた。結果は、表2A及び表2Bに要約されている。
【0132】
【表2A】
【0133】
複数の置換によって安定性が更に増強されたものを(V250M以外に)、表2Aに示してある。変異型WT+G230L+V250M、WT+F37Y+V250M、WT+F37Y+G230L+V250M及びWT+D202G+G230L+V250Mは、3−HBに対しても良好な親和性を示すという点で、特に興味深い。
【0134】
例示的な変異体WT+F37Y+G230L+V250Mを、他の見つかった位置と更に組み合わせた。その結果の要約が、表2Bである。
【0135】
【表2B】
【0136】
表2Bに、置換P195Q又はA145Gを加えれば、変異体WT+F37Y+G230L+V250Mの安定性が更に増強される可能性のあること、ならびに、3−HB及びcNADに対する許容可能な親和性を示してある。
【0137】
【化3】
【化4】