(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部に形成された冷却液流路に冷却液供給装置から供給される冷却液を流すことによって冷却される冷却板の表面に、駆動電流が直列に供給される複数のレーザダイオードモジュールが、前記冷却板と熱的に接続して配列されたレーザダイオードモジュール/冷却板アセンブリを備えたレーザ装置であって、
前記複数のレーザダイオードモジュールに前記駆動電流を供給するレーザ電源と、
前記冷却液流路に接続する冷却液配管に設けられ、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換える切換弁と、
前記複数のレーザダイオードモジュールを構成するレーザダイオードモジュールの発熱部における発熱によって、温度が変動する前記レーザダイオードモジュール/冷却板アセンブリの中のいずれか少なくとも一つの温度変動部位の温度の時系列データを参照して、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する時機判定装置と、
前記レーザ電源に対して駆動電流出力指令を出力すると共に、前記時機判定装置の判定結果を参照して、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換えるために、前記切換弁に対して弁切換指令を出力する制御回路と、を備え、
前記時機判定装置は、
前記レーザダイオードモジュールが標準駆動条件で駆動された場合の寿命消費速度を基準として、前記レーザダイオードモジュールが標準駆動条件とは異なった駆動条件で駆動された場合の寿命消費速度の比率を表す寿命消費の加速係数において、前記レーザダイオードモジュールの光出力と前記温度変動部位の温度に依存する前記加速係数である第1加速係数のデータと、前記レーザダイオードモジュールの駆動電流と前記温度変動部位の温度に依存する加速係数である第2加速係数のデータとの少なくとも一方の加速係数のデータを記録した第1記録部と、
前記温度変動部位の温度の時系列データに加えて、前記レーザダイオードモジュールの光出力の時系列データと前記レーザダイオードモジュールの駆動電流の時系列データの少なくとも一方の時系列データを参照して、前記第1記録部から読み出した加速係数を、前記レーザダイオードモジュールの駆動を開始した最初の時点から最新の時点までの時間積分を行うことによって実効的累積駆動時間を算出する算出回路と、
前記複数のレーザダイオードモジュールのうちの少なくとも一つのレーザダイオードモジュールについて算出した前記実効的累積駆動時間を記録する第2記録部と、を備え、
前記時機判定装置が、前記第2記録部に記録された前記実効的累積駆動時間に基づいて、前記冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する、レーザ装置。
前記温度変動部位の少なくとも一つが前記複数のレーザダイオードモジュールのうちの少なくとも一つのレーザダイオードモジュールの発熱部であるレーザダイオードのpn接合部であり、前記温度の時系列データの少なくとも一つが前記レーザダイオードのpn接合部の温度の時系列データであり、
前記第1記録部に記録されている前記第1加速係数のデータと前記第2加速係数のデータとのうち、少なくとも一方の加速係数のデータは、それぞれ、前記レーザダイオードモジュールの標準光出力に対する光出力による加速係数である光出力加速係数のデータと前記レーザダイオードモジュールの発熱部の温度による加速係数である温度加速係数のデータ、前記レーザダイオードモジュールの標準駆動電流に対する駆動電流による加速係数である電流加速係数のデータと前記レーザダイオードモジュールの発熱部の温度による加速係数である前記温度加速係数のデータ、として記録されており、
前記算出回路が、前記複数のレーザダイオードモジュールのうちの少なくとも1つのレーザダイオードモジュールについて、前記レーザダイオードモジュールの駆動を開始した最初の時点から最新の時点までの、前記光出力加速係数と前記温度加速係数との積、あるいは、前記電流加速係数と前記温度加速係数との積を時間積分することによって、前記実効的累積駆動時間を算出する、請求項1に記載のレーザ装置。
前記第1記録部に記録されている、前記温度加速係数のデータと、前記光出力加速係数のデータと、前記電流加速係数のデータとのうち、少なくとも一つの加速係数のデータは、加速係数を直接表す数値データではなく、加速係数を算出するための数式の形式で記録されている、請求項2に記載のレーザ装置。
前記光出力加速係数のデータと前記電流加速係数のデータとの少なくとも一方の加速係数データが、前記実効的累積駆動時間に依存するデータとして、前記第1記録部に記録されている、請求項3に記載のレーザ装置。
前記実効的累積駆動時間に依存する前記光出力加速係数データあるいは前記電流加速係数データが、それぞれ、レーザダイオードモジュールの全寿命のうちの所定の一時期だけ、前記標準駆動条件に含まれる標準光出力とは異なる一定の光出力で駆動することによって、あるいは、レーザダイオードモジュールの全寿命のうちの所定の一時期だけ、前記標準駆動条件に含まれる標準駆動電流とは異なる一定の駆動電流で駆動することによって、前記実効的累積駆動時間に依存する前記光出力加速係数あるいは前記電流加速係数を導出する加速係数導出装置あるいは加速係数導出方法で求められた光出力加速係数データあるいは電流加速係数データである、請求項4に記載のレーザ装置。
前記時機判定装置が、前記複数のレーザダイオードモジュールのうちの第1レーザダイオードモジュールの前記実効的累積駆動時間である第1実効的累積駆動時間と、前記複数のレーザダイオードモジュールのうちの前記第1レーザダイオードモジュールとは異なる第2レーザダイオードモジュールの前記実効的累積駆動時間である第2実効的累積駆動時間との時間差である第1時間差が第1設定時間を超えた時点を、前記冷却液の流れの方向を切り換える時機と判定する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザ装置。
前記第1設定時間が、前記第1実効的累積駆動時間、前記第2実効的累積駆動時間および前記第1実効的累積駆動時間と前記第2実効的累積駆動時間との和のいずれかを第1変数とする第1関数であり、前記第1関数は、前記第1変数が正の範囲で、広義単調減少関数であると共に、最小値を正の第1定数とする関数である、請求項6に記載のレーザ装置。
前記時機判定装置が、前記複数のレーザダイオードモジュールのうち、前記冷却液の流れの方向が切替わっても、前記駆動電流が同じ場合、レーザダイオードモジュールの発熱部あるいは前記発熱部に熱的に接続したレーザダイオードモジュールの所定位置の温度の変化が最も小さいレーザダイオードモジュールを第3レーザダイオードモジュールとして、前記第3レーザダイオードモジュールの最新の前記実効的累積駆動時間である第3実効的累積駆動時間と、最後に前記冷却液の流れの方向を切換えた時点における前記第3レーザダイオードモジュールの前記実効的累積駆動時間との時間差である第2時間差が第2設定時間を超える時点を、前記冷却液の流れの方向を切り換える時機と判定する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザ装置。
前記第2設定時間が、前記第3実効的累積駆動時間を第2変数とする第2関数であり、前記第2関数は、前記第2変数が正の範囲で、広義単調減少関数であると共に、最小値を正の第2定数とする関数である、請求項8に記載のレーザ装置。
前記制御回路からの指令により、前記複数のレーザダイオードモジュールを発光源又は励起光源とするレーザ発振器の光出力特性を所定の駆動条件で、所定のスケジュールに沿って測定し、前記光出力特性の測定結果の履歴を、前記第1記録部に記録されている前記実効的累積駆動時間に関連付けて記録する第3記録部を備え、
前記第3記録部に記録されている前記実効的累積駆動時間に関連付けた前記光出力特性の測定結果を使用して、前記制御回路が、前記光出力特性から導出される所定の駆動電流で出力される光出力である実光出力又は所定の光出力を得るために必要な駆動電流である実駆動電流について、前記実光出力又は前記実駆動電流の実効的累積駆動時間依存性と、ある光出力特性測定時点とその前の光出力特性測定時点との両時点間における前記実光出力又は実駆動電流の劣化幅又は劣化率と、前記劣化幅を前記両時点間の前記実効的累積駆動時間の差で除した劣化速度との、少なくともいずれか一つを出力可能である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のレーザ装置。
前記駆動電流が直列に供給される複数のレーザダイオードモジュールからなるレーザダイオードモジュールグループが複数存在し、各レーザダイオードモジュールグループに対して、独立に前記駆動電流を供給可能なレーザ装置であって、
前記制御回路が、所定の光出力指令を出力するために、前記レーザ電源に対して前記各レーザダイオードモジュールグループに対する駆動電流出力指令を出力するにあたって、前記複数のレーザダイオードモジュールグループのうち、相対的に前記実効的累積駆動時間の短いレーザダイオードモジュールグループあるいは相対的に前記劣化速度が小さいレーザダイオードモジュールグループに対して、優先的に前記駆動電流を割振るように、前記駆動電流出力指令を出力する、請求項10に記載のレーザ装置。
前記制御回路が、ネットワークを経由して、前記実効的累積駆動時間と、前記実光出力あるいは前記実駆動電流の前記実効的累積駆動時間依存性と、前記劣化速度との少なくともいずれか一つをクラウドサーバーあるいはフォグサーバーに出力する、請求項10又は11に記載のレーザ装置。
前記切換弁が、前記冷却液供給装置から供給される冷却液を前記冷却液流路に流入させるための3本の冷却液配管が接続された流入側の1個の三方弁と、前記冷却液流路から流出した冷却液を流出させるための3本の冷却液配管が接続された流出側の1個の三方弁との2個で1組の三方弁で構成されている、請求項1〜12のいずれか1項に記載のレーザ装置。
前記切換弁が、4本の冷却液配管が接続された1つの四方弁であり、前記四方弁の少なくとも主要部分は弗化樹脂製であり、前記四方弁により、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換える、請求項1〜12のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【背景技術】
【0002】
近年のレーザ加工用高出力レーザ装置においては、加工可能な被加工物(ワーク)の範囲(例えば厚さや材質等)の拡大や、加工速度の高速化等を目的として、益々高出力化が進められている。特に、少なくとも一つのレーザダイオード(以下、LDという。)を備えるLDモジュールをレーザ装置のレーザ光源、あるいは励起光源として使用するレーザ装置においては、高出力化の傾向は顕著である。複数のLDモジュールをレーザ光源、あるいは励起光源として使用するレーザ装置の高出力化のためには、各LDモジュールの光出力を高出力化すると共に、使用するLDモジュールの個数を増やすことが必要である。
【0003】
LDモジュールが高出力化し、LDモジュールの個数が増えると発熱量も増大するので、LDモジュールの温度上昇を抑制するため、複数のLDモジュールは、殆どの場合、冷却液が流れることによって冷却される冷却板の表面に配列されている。また、冷却液を流すことによって冷却板を冷却するために、
図1に示したように、内部を冷却液が流れる破線で表した冷却液流路3が、冷却板2の内部や表面に敷設されている。各LDモジュール1の直近の冷却液流路3には、冷却液が直列に流れる冷却構造が採られているのが普通である。
【0004】
なお、
図1において、破線の矢印は、冷却液の流れの方向を示している。また、LDモジュール1の一部を凸状にしているのは、LDモジュール1の内部の複数のLDから出射されたレーザ光は、レンズやミラーで集光されて光ファイバ端に入射され、光ファイバを伝播するレーザ光として外部に取り出されることが多いので、LDモジュール1の凸状の先端から光ファイバが出ている構造を模式的に示したためである。また、LDモジュール1が冷却液流路3の長さ方向から傾けて配置されているのは、LDモジュール1の凸状の先端から出ている光ファイバが、隣接するLDモジュール1と干渉しないようにするためである。冷却液は冷却液供給装置等から冷却液配管4を経由して冷却板2の冷却液流路3に流れ込む。
【0005】
図1のように、冷却板の表面に複数のLDモジュールが配置された集合体を、本明細書では、LDモジュール/冷却板アセンブリと称している。
図1に示したようなLDモジュール/冷却板アセンブリ5においては、複数のLDモジュール1による発熱を吸収することによって、冷却液の温度が次第に上昇するので、冷却液を流した時の上流側の冷却液流路3に近い位置に配列されたLDモジュール1に比べて、下流側の冷却液流路3に近い位置に配列されたLDモジュール1の温度が高くなるという問題が生じる。
【0006】
冷却液から各LDモジュールの発熱部、すなわち、LDのpn接合までの熱抵抗が同じであれば、直近の冷却液流路を流れる冷却液の温度が上昇した分だけ、LDモジュールの発熱部の温度も上昇する。LDモジュールの発熱部の温度が上昇すると、それに応じて、LDモジュールの寿命消費に対する負荷は増大して、LDモジュールの寿命が短くなる、あるいは、平均故障率が上昇する。複数のLDモジュールの総発熱量がそれ程大きくない時は余り大きな問題にはならないが、上記のように、LDモジュールが高出力化し、LDモジュールの個数が増えると発熱量も増大するので、軽視できない問題となってきている。なお、複数のLDモジュールの駆動電流供給用の配線の複雑化を防ぎ、駆動電流の増大を避けるために、複数のLDモジュールには、通常、駆動電流が直列に供給されるので、LDモジュール毎に駆動電流を変えてLDモジュールの温度を均一化することは現実的ではない。
【0007】
例えば、LDモジュールの電気光変換効率を仮に60%として、複数のLDモジュールで合計5kWの光出力を得ようとすると、複数のLDモジュールの総発熱量は約3.33kWになる。そのため、仮に冷却液が冷却水で、流量が10L/min(=1.67×10
−4m
3/s)と仮定すると、冷却液の温度上昇は、総発熱量/(流量×水の比熱×水の密度)=3.33×10
3(W)/(1.67×10
−4(m
3/s)×4.183×10
3(J/(kg・K))×9.982×10
2(kg/m
3))=4.8(K)になる。
【0008】
言うまでもないことだが、同じ冷却板によって他の発熱源、例えば、ファイバレーザにおける増幅用光ファイバ等の発熱も放熱する場合は、その他の発熱源の発熱量に応じて、冷却液の温度上昇は更に大きくなる。仮に4.8Kの温度差で寿命や平均故障率がどの程度変化するかを見積るために、冷却液を流した時の上流側の冷却液流路に近い位置に配列されたLDモジュールの発熱部の温度が50℃であり、一般的に言われているように、10℃上昇すると寿命が50%に減少すると仮定すると、4.8K上昇することによって、下流側の冷却液流路に近い位置に配列されたLDモジュールの寿命は、上流側の冷却液流路に近い位置に配列されたLDモジュールの71%程度に減少する。平均故障率は、その逆数で、1.4倍程度になる。すなわち、複数のLDモジュールが1枚の冷却板の表面に配列されているLDモジュールユニットを交換単位とすると、寿命が最も短いLDモジュールの寿命でLDモジュールユニット全体の寿命が決まることになる。従って、上記の冷却液の温度上昇の分だけ、LDモジュールユニットの寿命が短くなるということが問題である。
【0009】
この問題を解決あるいは軽減する技術として、例えば、
図2に示す特許文献1に記載の冷却構造が知られている。特許文献1において、各LDモジュール1の直近の冷却液流路3は、冷却部流路と記載されている。この冷却構造は、冷却部流路に冷却水を直列ではなく、並列に流しており、必要な冷却性能を実現するために、冷却部流路の流路高さが流路長及び流路幅に対して1/20以下の条件と、流路高さが0.5mm以下の条件とのうちの少なくとも一方の条件を満たすと共に、冷却部流路内を流れる冷却媒体の管摩擦による圧力損失が、共通供給流路と共通排出流路内を流れる冷却媒体の管摩擦による圧力損失より大きい、という構成を有する。
【0010】
図2においても、
図1と同様に、冷却液流路3を破線で表し、冷却液の流れの方向を破線の矢印で示している。各LDモジュール1の真下の矩形の冷却液流路3が、流路高さが流路長及び流路幅に対して1/20以下の条件と、流路高さが0.5mm以下の条件とのうちの少なくとも一方の条件を満たす冷却部流路である。
図2のように、各LDモジュール1近傍の冷却液流路3に冷却液を並列に流すと、上流や下流という概念がなくなり、LDモジュール1,1間の温度差という問題を根本的に解消し、最も優れた冷却性能が実現可能である。しかし、流路構造が複雑になると共に流路の形状精度に対する要求が厳しくなるために冷却板2の製造コストがやや高くなるという点でさらに改善の余地があった。流路の形状精度に対する要求が厳しくなる理由は、冷却液が並列に流れる流路間で、圧力損失に差があると、それぞれの流路に流れる流量が不均一になるという点と、各流路に流れる流量が桁違いに減少するので、上記のように、流路を大幅に狭小化して流速を上げないとLDモジュール1が効率良く冷却されないという点にある。そのため、非常に狭小な流路を精度良く製作することが要求される。
【0011】
また、他の方法として、冷却液供給能力が高い冷却液供給装置、例えば循環式冷却液供給装置(チラー)を使用して流量を増やすことが考えられる。例えば、冷却液の流量を2倍に増やせば、上記の冷却液の温度上昇は半分に低減できる。しかし、最大流量が大きいチラーは当然、それだけ高価であり、やはりコストアップが問題になる。また、冷却液の流量を2倍に増やすために流路断面積を大きくすると、冷却板の厚さを厚くする必要が出てくる等の問題がある。一方、流路断面積を同じにすると、冷却液の流量を2倍に増やした場合の流路における圧力損失は4倍になる。この場合、チラーには、吐出圧力の高い冷却液送出ポンプの使用が要求され、冷却液配管や配管継手、電磁弁等の配管部品への耐圧性要求が厳しくなり、冷却液漏出のリスクも高くなる。
【0012】
更に、他の方法として、上記の2つ方法の折衷案も考えられる。すなわち、
図3に示したように、複数のLDモジュール1を、例えば2つのグループに分け、冷却液配管4も2つに並列に分岐し、分岐したぞれぞれの冷却液配管4を流れる冷却液で、それぞれのグループの複数のLDモジュール1を直列的に冷却するという冷却構造である。
図3においても、破線が冷却液流路3を表し、破線の矢印は冷却液の流れの方向を示している。分岐したそれぞれの冷却液配管4に、全てのLDモジュール1を直列的に冷却する場合の流量の冷却液を流すようにすれば、全体として2倍の流量は必要という問題点は前記の方法と同じだか、流速の増加によって圧力損失が増加するという問題は無くなる。しかし、分岐したそれぞれの冷却液配管4に確実に同じ流量の冷却水が流れるようにするには、分岐したそれぞれの冷却液配管4における圧力損失を増やす構造を意図的に設けるか、それぞれの冷却液配管4を流れる冷却液の流量を計測した結果をフィードバックして、それぞれの冷却液配管4を流れる冷却液の流量が同じになるように流量調節弁を制御する等の機構が必要になってくる。すなわち、この折衷案は上記の2つの方法のそれぞれの問題点の一部を解決するが、逆に上記の2つの方法のそれぞれの問題点の一部を併せ持つということになる。
【0013】
上記のような従来技術と比べて、製造コストを殆ど上げることなく、LDモジュール間の寿命消費に対する負荷の不均一を軽減する方法として、
図1に示した冷却構造と同様の各LDモジュールの直近の冷却液流路に冷却液が直列に流れる冷却板構造において、冷却液の流れの方向を切り換えることによって、冷却液をある一方向から流した時の上流側に配置されたLDモジュールと下流側に配置されたLDモジュールとの寿命負荷の差を軽減することが考えられる。しかし、この場合は、冷却液の流れの方向を切り換えるタイミング(時機)が適切でないと、LDモジュール間の寿命負荷の差を軽減する効果が小さくなる。
【0014】
複数のLDモジュールの冷却において、冷却液の流れの方向を切換えているレーザ装置は見当たらないが、特許文献2は、複数の冷却対象を冷却するための冷却媒体が循環する環状の冷却流路と、前記冷却流路に配置され、前記冷却媒体を放熱させて冷却する放熱部と、前記冷却流路に配置され、複数の前記冷却対象に前記冷却媒体を移送するポンプと、複数の前記冷却対象に移送される前記冷却媒体の移送方向を、正方向、及び正方向とは逆の逆方向のいずれかに切り替えることの可能な移送方向切替機構と、前記移送方向切替機構を制御する制御部と、を備える冷却装置を開示している。しかし、冷却液の流れの方向を切り換えるタイミングについては、複数の冷却対象のそれぞれの温度や、負荷状態を示す値の大小関係に基づいて判断しているので、本願のような複数のLDモジュールの冷却に適用すると、複数のLDモジュールの温度や負荷状態に差が出ないように、LDモジュールの駆動中にも冷却液の流れの方向の切換えが頻繁に行われることになる。冷却液の流れの方向を頻繁に切り換えると、LDモジュールの温度が不安定になり、切替機構の急速な摩耗故障を引き起こすので、本願のような複数のLDモジュールの冷却に到底適用できるような切換タイミングではない。LDモジュールの駆動中にも冷却液の流れの方向の切換えが頻繁に行われないように、複数のLDモジュールの温度や負荷状態に差がある状態を認める判断条件に設定にすると、その差が固定化して、LDモジュール間の寿命負荷の差を軽減する効果が小さくなったり、殆ど無くなったりする。
【0015】
また、特許文献3は、内部が真空とされた真空チャンバと、この真空チャンバ内に設けられた陽極及び陰極と、を備え、陽極と陰極との間にアーク放電を生起して陰極とされた電極を蒸発させることでPVD処理を行うに際しては、前記陽極とされた電極及び陰極とされた電極のうち少なくとも一方に、冷却媒体を流通させて電極を冷却する冷却流路を設けておき、前記電極に設けられた冷却流路における冷却媒体の流通方向を、一方側から他方側又は他方側から一方側へ交互に切り替えつつ、前記電極を冷却して、PVD処理を行うことを特徴とするPVD処理方法やPVD処理装置を開示している。しかし、冷却媒体の流通方向の切替えのタイミングついては、PVD処理のバッチ処理毎に流通方向を交互に切り替える方法や、陰極とされた電極の使用寿命を複数の期間に分割し、分割された期間ごとに、冷却流路における冷却媒体の流通方向を交互に切り替える方法しか言及していない。本願のように、レーザ装置のレーザ光源、あるいは励起光源として使用される複数のLDモジュールについては、後述のように、寿命に影響を与えるLDモジュールの温度の過渡的な変化が無視できないことが多く、また、常に同じ駆動条件で駆動される訳でなく、駆動電流やLDモジュールの温度が異なる、あるいは変化する条件で駆動されることも多いので、特許文献3が開示しているような、所定の時間、あるいは所定の駆動時間が経過するごとに冷却媒体の流通方向を交互に切り替える方法では、LDモジュール間の寿命負荷の差を軽減する効果が小さいという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のように、複数のLDモジュールをレーザ光源や励起光源として備えた高出力レーザ装置においては、冷却液を流通させる配管を設けた冷却板の表面に複数のLDモジュールを配列して、LDモジュールの発熱によるLDモジュールの温度上昇を抑えているが、冷却液は、LDモジュールで発生した熱を吸収することによって、冷却液自身の温度が上昇するので、冷却液流路に冷却液を流した時に、上流側の配管近傍に配置されたLDモジュールに比べて、下流側の配管近傍に配置されたLDモジュールは、温度が高くなる。そのため、上流側の配管近傍に配置されたLDモジュールに比べて、下流側の配管近傍に配置されたLDモジュールの寿命が短くなったり、平均故障率が高くなったりするので、複数のLDモジュール全体の寿命や信頼性が、下流側の配管近傍に配置されたLDモジュールの寿命や信頼性によって制限されるという問題が生じている。
【0018】
上記の各LDモジュール近傍の冷却液流路に冷却液を並列に流す技術は、上流側や下流側という概念が無くなり、原理的には理想的な解決方法ではあるが、実際に各LDモジュール近傍の冷却液流路に同じ流量の冷却液が流れ、各LDモジュール近傍の冷却液流路に冷却液を直列に流した場合と同等の冷却液流量で同等以上の冷却性能を実現しようとすると、流路構造が複雑になると共に流路の形状精度に対する要求が厳しくなるために冷却板の製造コストがやや高くなるという点でさらに改善の余地がある。また、その他の冷却液流量を増やす方法は、冷却液供給装置を含めたコストが高くなるので望ましい解決方法とは言えない。
【0019】
コストを殆ど上げることなく、複数のLDモジュール間で、寿命や信頼性の差を低減する方法として、冷却液の流れの方向を切り換える方法が考えられるが、冷却液の流れの方向を切り換えるタイミング(時機)が適切でないと、LDモジュール間の寿命負荷の差を軽減する効果が小さくなる。上記の冷却液の流れの方向を切り換える従来技術を、複数のLDモジュールを備えたレーザ装置に適用すると、LDモジュールの駆動中にも冷却液の流れの方向の切換えが頻繁に行われたり、LDモジュールの駆動条件が様々に変化するのに対応できず、LDモジュール間の寿命負荷の差を軽減する効果が小さかったりするという問題がある。
【0020】
従って、複数のLDモジュールを備えたレーザ装置の分野においては、コストを殆ど上げることなく、LDモジュールの駆動条件が様々に変化しても、LDモジュール間の寿命負荷の差を効果的に軽減できるようにするという課題がある。より具体的には、複数のLDモジュールを備えたレーザ装置の分野においては、複数のLDモジュールを冷却する冷却液の流れの方向を適切なタイミングで切り換えることによって、LDモジュールの駆動条件が様々に変化しても、LDモジュール間の寿命負荷の差を効果的に軽減することができるレーザ装置を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本開示の一実施形態に係るレーザ装置は、内部に形成された冷却液流路(例えば、後述の冷却液流路3)に冷却液供給装置(例えば、後述の冷却液供給装置7)から供給される冷却液を流すことによって冷却される冷却板(例えば、後述の冷却板2)の表面に、駆動電流が直列に供給される複数のLDモジュール(例えば、後述のLDモジュール1)が、前記冷却板と熱的に接続して配列されたLDモジュール/冷却板アセンブリ(例えば、後述のLDモジュール/冷却板アセンブリ5)を備えたレーザ装置(例えば、後述のレーザ装置6、6A〜6F)であって、前記複数のLDモジュールに前記駆動電流を供給するレーザ電源(例えば、後述のレーザ電源8)と、前記冷却液流路に接続する冷却液配管(例えば、後述の冷却液配管4)に設けられ、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換える切換弁(例えば、後述の切換弁9a〜9d、23a,23b、27)と、前記複数のLDモジュールを構成するLDモジュールの発熱部における発熱によって、温度が変動する前記LDモジュール/冷却板アセンブリの中のいずれか少なくとも一つの温度変動部位の温度の時系列データを参照して、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する時機判定装置(例えば、後述の時機判定装置10)と、前記レーザ電源に対して駆動電流出力指令を出力すると共に、前記時機判定装置の判定結果を参照して、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換えるために、前記切換弁に対して弁切換指令を出力する制御回路(例えば、後述の制御回路11)と、を備える。
【0022】
冷却液供給装置から供給される冷却液の温度を変えた場合だけでなく、冷却液供給装置から供給される冷却液の温度が一定であっても、LDモジュールの温度は、熱平衡状態に達するまで時間が掛かるので、LDモジュールの駆動中に変化して、LDモジュールの寿命に影響を及ぼす。そのため、上記の構成により、LDモジュールの温度変化と連動して温度が変化する温度変動部位の温度の時系列データを参照して、冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定することによって、LDモジュール間の寿命負荷の差を効果的に軽減できるタイミングで冷却液の流れの方向を切り換えることが可能になり、LDモジュール全体として長寿命化できる。
【0023】
レーザ装置の他の態様では、前記時機判定装置が、前記LDモジュールが標準駆動条件で駆動された場合の寿命消費速度を基準として、前記LDモジュールが標準駆動条件とは異なった駆動条件で駆動された場合の寿命消費速度の比率を表す寿命消費の加速係数において、前記LDモジュールの光出力と前記温度変動部位の温度に依存する前記加速係数である第1加速係数のデータと、前記LDモジュールの駆動電流と前記温度変動部位の温度に依存する加速係数である第2加速係数のデータとの少なくとも一方の加速係数のデータを記録した第1記録部(例えば、後述の第1記録部20)と、前記温度変動部位の温度の時系列データに加えて、前記LDモジュールの光出力の時系列データと前記LDモジュールの駆動電流の時系列データの少なくとも一方の時系列データを参照して、前記第1記録部から読み出した加速係数を、前記LDモジュールの駆動を開始した最初の時点から最新の時点までの時間積分を行うことによって実効的累積駆動時間を算出する算出回路(例えば、後述の算出回路21)と、前記複数のLDモジュールのうちの少なくとも一つのLDモジュールについて算出した前記実効的累積駆動時間を記録する第2記録部(例えば、後述の第2記録部22)と、を備え、前記時機判定装置が、前記第2記録部に記録された前記実効的累積駆動時間に基づいて、前記冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定するようにしてもよい。
【0024】
上記の構成により、レーザ装置の駆動条件が、定格光出力や定格駆動電流でオンオフだけを制御するのではなく、LDモジュールの光出力や駆動電流を変えた条件で駆動する必要がある場合でも、光出力や駆動電流の大きさによる寿命消費速度の変化も考慮して算出したLDモジュールの実効的累積駆動時間に基づいて、時機判定装置が、冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定することによって、複数のLDモジュール間で、実効的累積駆動時間の差、言い換えれば、寿命消費時間の差を減少させることが可能になり、複数のLDモジュール間における寿命が終わる時期のばらつきが低減できる。
【0025】
レーザ装置の他の態様では、前記温度変動部位の少なくとも一つが前記複数のLDモジュールのうちの少なくとも一つのLDモジュールの発熱部であるLDのpn接合部であり、前記温度の時系列データの少なくとも一つが前記LDのpn接合部の温度の時系列データであり、前記第1記録部に記録されている前記第1加速係数のデータと前記第2加速係数のデータとのうち、少なくとも一方の加速係数のデータは、それぞれ、前記LDモジュールの標準光出力に対する光出力による加速係数である光出力加速係数のデータと前記LDモジュールの発熱部の温度による加速係数である温度加速係数のデータ、前記LDモジュールの標準駆動電流に対する駆動電流による加速係数である電流加速係数のデータと前記LDモジュールの発熱部の温度による加速係数である前記温度加速係数のデータ、として記録されており、前記算出回路が、前記複数のLDモジュールのうちの少なくとも1つのLDモジュールについて、前記LDモジュールの駆動を開始した最初の時点から最新の時点までの、前記光出力加速係数と前記温度加速係数との積、あるいは、前記電流加速係数と前記温度加速係数との積を時間積分することによって、前記実効的累積駆動時間を算出するものであってもよい。
【0026】
上記の構成により、LDの寿命消費速度の温度依存性をLDのpn接合部の温度依存性とすることで、光出力や駆動電流の変化に伴うLDのpn接合部の温度変化の寿命消費速度への影響を取り込むことができ、光出力や駆動電流による加速係数と、温度による加速係数とを分けることが可能になる。加速係数を温度による加速係数と、光出力あるいは駆動電流による加速係数とに分けることによって、実験等によって取得して、第1記録部に記録することが必要な加速係数のデータの量が、加速係数のデータを光出力と温度とを変数とする二次元のデータテーブルや、駆動電流と温度とを変数とする二次元のデータテーブルとして記録する場合に比べて、大幅に低減でき、工数が削減できる。
【0027】
レーザ装置の他の態様では、前記第1記録部に記録されている、前記温度加速係数のデータと、前記光出力加速係数のデータと、前記電流加速係数のデータとのうち、少なくとも一つの加速係数のデータは、加速係数を直接表す数値データではなく、加速係数を算出するための数式の形式で記録されていてもよい。
【0028】
上記の構成により、加速係数のデータを、数値データでなく、式の形のデータとして記録することによって、より少ないデータで実効的累積駆動時間が計算できるようになり、データ収集に要する工数を更に低減できる。
【0029】
レーザ装置の他の態様では、前記光出力加速係数のデータと前記電流加速係数のデータとの少なくとも一方の加速係数データが、前記実効的累積駆動時間に依存するデータとして、前記第1記録部に記録されていてもよい。
【0030】
上記の構成により、光出力が標準光出力より大きい条件、即ち光出力加速係数>1の条件、あるいは、駆動電流が標準駆動電流より大きい条件、即ち、電流加速係数>1の条件では、寿命後期になると光出力加速係数や電流加速係数が次第に大きくなる傾向があった場合にも、より精度良く実効的駆動時間を算出することができるようになる。
【0031】
レーザ装置の他の態様では、前記実効的累積駆動時間に依存する前記光出力加速係数データあるいは前記電流加速係数データが、それぞれ、LDモジュールの全寿命のうちの所定の一時期だけ、前記標準駆動条件に含まれる標準光出力とは異なる一定の光出力で駆動することによって、あるいは、LDモジュールの全寿命のうちの所定の一時期だけ、前記標準駆動条件に含まれる標準駆動電流とは異なる一定の駆動電流で駆動することによって、前記実効的累積駆動時間に依存する前記光出力加速係数あるいは前記電流加速係数を導出する加速係数導出装置あるいは加速係数導出方法で求められた光出力加速係数データあるいは電流加速係数データであってもよい。
【0032】
上記の構成により、光出力加速係数あるいは電流加速係数の実効的累積駆動時間依存性を合理的かつ比較的容易に導出することができ、より精度良く実効的累積駆動時間を算出することができるようになる。
【0033】
レーザ装置の他の態様では、前記時機判定装置が、前記複数のLDモジュールのうちの第1LDモジュール(例えば、後述の第1LDモジュール24)の前記実効的累積駆動時間である第1実効的累積駆動時間と、前記複数のLDモジュールのうちの前記第1LDモジュールとは異なる第2LDモジュール(例えば、後述の第2LDモジュール25)の前記実効的累積駆動時間である第2実効的累積駆動時間との時間差である第1時間差が第1設定時間を超えた時点を、前記冷却液の流れの方向を切り換える時機と判定するようにしてもよい。
【0034】
上記の構成により、配列位置の異なるLDモジュール間の実効的累積駆動時間の差の拡大を直接的に防止でき、LDモジュール間で寿命が終わる時機のばらつきをより確実に低減できる。
【0035】
レーザ装置の他の態様では、前記第1設定時間が、前記第1実効的累積駆動時間、前記第2実効的累積駆動時間および前記第1実効的累積駆動時間と前記第2実効的累積駆動時間との和のいずれかを第1変数とする第1関数であり、前記第1関数は、前記第1変数が正の範囲で、広義単調減少関数であると共に、最小値を正の第1定数とする関数であってもよい。
【0036】
上記の構成により、冷却液の流れの方向を頻繁に切り換える必要がない実効的累積駆動時間が少ないうちは、冷却液の流れの方向を頻繁に切り換えないことによって、切換弁の摩耗等を低減することができる。また、実効的累積駆動時間が長くなり、LDモジュールが寿命末期になっても、正の第1定数時間よりも頻繁には冷却液の流れの方向を切り換えないように設定することもできる。
【0037】
レーザ装置の他の態様では、前記時機判定装置が、前記複数のLDモジュールのうち、前記冷却液の流れの方向が切替わっても、前記駆動電流が同じ場合、LDモジュールの発熱部あるいは前記発熱部に熱的に接続したLDモジュールの所定位置の温度の変化が最も小さいLDモジュールを第3LDモジュール(例えば、後述の第3LDモジュール26)として、前記第3LDモジュールの最新の前記実効的累積駆動時間である第3実効的累積駆動時間と、最後に前記冷却液の流れの方向を切換えた時点における前記第3LDモジュールの前記実効的累積駆動時間との時間差である第2時間差が第2設定時間を超える時点を、前記冷却液の流れの方向を切り換える時機と判定するようにしてもよい。
【0038】
上記の構成により、実効的累積駆動時間を算出するLDモジュールが、第3LDモジュールの1つだけになり、算出回路における計算負荷を低減できる。
【0039】
レーザ装置の他の態様では、前記第2設定時間が、前記第3実効的累積駆動時間を第2変数とする第2関数であり、前記第2関数は、前記第2変数が正の範囲で、広義単調減少関数であると共に、最小値を正の第2定数とする関数であってもよい。
【0040】
上記の構成により、冷却液の流れの方向を頻繁に切り換える必要がない実効的累積駆動時間が少ないうちは、冷却液の流れの方向を頻繁に切換えないことによって、切換弁の摩耗等を低減することができる。また、実効的累積駆動時間が長くなり、LDモジュールが寿命末期になっても、正の第2定数時間よりも頻繁には冷却液の流れの方向を切り換えないように設定することもできる。
【0041】
レーザ装置の他の態様では、前記制御回路からの指令により、前記複数のLDモジュールを発光源又は励起光源とするレーザ発振器の光出力特性を所定の駆動条件で、所定のスケジュールに沿って測定し、前記光出力特性の測定結果の履歴を、前記第1記録部に記録されている前記実効的累積駆動時間に関連付けて記録する第3記録部(例えば、後述の第3記録部29)を備え、前記第3記録部に記録されている前記実効的累積駆動時間に関連付けた前記光出力特性の測定結果を使用して、前記制御回路が、前記光出力特性から導出される所定の駆動電流で出力される光出力である実光出力又は所定の光出力を得るために必要な駆動電流である実駆動電流について、前記実光出力又は前記実駆動電流の実効的累積駆動時間依存性と、ある光出力特性測定時点とその前の光出力特性測定時点との両時点間における前記実光出力又は実駆動電流の劣化幅又は劣化率と、前記劣化幅を前記両時点間の前記実効的累積駆動時間の差で除した劣化速度との、少なくともいずれか一つを出力可能であってもよい。
【0042】
上記の構成により、複数のLDモジュール全体(LDモジュールユニット)としての劣化状況や残存寿命が把握でき、交換用LDモジュールユニットの準備や保守作業を計画的に実施できるので、レーザ装置が使用できない期間を最小限に抑えることができる。
【0043】
レーザ装置の他の態様では、前記駆動電流が直列に供給される複数のLDモジュールからなるLDモジュールグループ(例えば、後述のLDモジュールグループ100)が複数存在し、各LDモジュールグループに対して、独立に前記駆動電流を供給可能なレーザ装置(例えば、後述のレーザ装置6F)であって、前記制御回路が、所定の光出力指令を出力するために、前記レーザ電源に対して前記各LDモジュールグループに対する駆動電流出力指令を出力するにあたって、前記複数のLDモジュールグループのうち、相対的に前記実効的累積駆動時間の短いLDモジュールグループあるいは相対的に前記劣化速度が小さいLDモジュールグループに対して、優先的に前記駆動電流を割振るように、前記駆動電流出力指令を出力するようにしてもよい。
【0044】
上記の構成により、所定の光出力指令に対して、LDモジュールグループ間で、相対的に実効的累積駆動時間の短いLDモジュールグループや相対的に特性劣化の小さいLDモジュールグループに優先的に駆動電流を割り振ることで、相対的に実効的累積駆動時間の長いLDモジュールグループや相対的に特性劣化の大きいLDモジュールグループの寿命消費を抑えることできる。これにより、各LDモジュールグループの交換時期を揃えることができるので、レーザ装置のメンテナンス回数やメンテナンスコストを低減できる。
【0045】
レーザ装置の他の態様では、前記制御回路が、ネットワーク(例えば、後述のネットワーク200)を経由して、前記実効的累積駆動時間と、前記実光出力あるいは前記実駆動電流の前記実効的累積駆動時間依存性と、前記劣化速度との少なくともいずれか一つをクラウドサーバー(例えば、後述のクラウドサーバー201)あるいはフォグサーバー(例えば、後述のフォグサーバー202)に出力するようにしてもよい。
【0046】
上記の構成により、駆動電流の供給を独立に制御可能なLDモジュールグループ毎に、駆動状況や劣化状況、残存寿命が、クラウドサーバーあるいはフォグサーバーによって一括して管理できるため、計画的な保守が可能になり、LDモジュールの交換保守作業のためにレーザ装置が稼働できない時間を極力低減することができる。
【0047】
レーザ装置の他の態様では、前記切換弁が、前記冷却液供給装置から供給される冷却液を前記冷却液流路に流入させるための3本の冷却液配管(例えば、後述の冷却液配管42a,42b,42f)が接続された流入側の1個の三方弁(例えば、後述の切換弁23a)と、前記冷却液流路から流出した冷却液を流出させるための3本の冷却液配管(例えば、後述の冷却液配管42c,42d,42e)が接続された流出側の1個の三方弁(例えば、後述の切換弁23b)との2個で1組の三方弁で構成されていてもよい。
【0048】
上記の構成により、開閉機能だけの二方弁を使用した場合より、配管部品点数を減らしながら、切換弁を経由した熱伝導に起因する流入側冷却液と流出側冷却液との熱交換による流入側冷却液の温度上昇を抑制することができる。
【0049】
レーザ装置の他の態様では、前記切換弁が、4本の冷却液配管が接続された1つの四方弁(例えば、後述の切換弁27)であり、前記四方弁の少なくとも主要部分は弗化樹脂製であり、前記四方弁により、前記冷却液流路を流れる前記冷却液の流れの方向を切り換えるようにしてもよい。
【0050】
上記の構成により、配管部品点数が低減でき、小型化、低コスト化、高信頼化に有利になる。また、流入側冷却液と流出側冷却液が同じ四方弁内を流れることになるが、四方弁の主要部分の材質を熱伝導率が低く機械的強度の高いポリクロロトリフルオロエチレン等の弗化樹脂製とすることで、流入側冷却液と流出側冷却液との熱交換による流入側冷却液の温度上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0051】
一態様のレーザ装置によれば、複数のLDモジュールを冷却する冷却液の流れの方向を適切なタイミングで切り換えることによって、LDモジュールの駆動条件が様々に変化しても、LDモジュール間の寿命負荷の差を効果的に軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本開示の複数のLDモジュールを冷却する冷却構造を備えたレーザ装置の実施形態を、図面を参照して説明する。各図面において、同じ部材には同じ参照符号を付している。また、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。なお、これらの図面は見易くするために、縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は本発明を実施するための一つの例であり、本発明は図示された形態に限定されるものではない。
【0054】
<第1実施形態>
図4は、第1実施形態に係るレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図であり、LDモジュールの冷却に関連する部分であるLDモジュール/冷却板アセンブリについては、模式的な構造を示した平面図で表している。
レーザ装置6Aは、LDモジュール/冷却板アセンブリ5の冷却板2の表面に、複数のレーザダイオードモジュール(LDモジュール)1を備えている。複数のLDモジュール1は、冷却板2と熱的に接続して配列されている。駆動電流は、複数のLDモジュール1に直列に供給される。
【0055】
冷却板2の内部には、
図4において破線で示している冷却液流路3が形成されている。冷却液流路3には、冷却液供給装置7から冷却液が供給される。冷却液は、冷却液供給装置7から冷却液配管4を経由して冷却板2に形成されている冷却液流路3に流入する。冷却液流路3から流出した冷却液も冷却液配管4を経由して、冷却液供給装置7に戻るようになっている。冷却液供給装置7には、本実施形態では、一般にチラーと呼ばれている循環式冷却液供給装置を使用している。複数のLDモジュール1は、冷却液流路3に沿って配列されており、冷却液流路3に冷却液が流れることによって冷却される。
【0056】
レーザ装置6Aは、複数のLDモジュール1に駆動電流を供給するレーザ電源8と、冷却液流路3に接続する冷却液配管4に設けられ、冷却液流路3を流れる冷却液の流れの方向を切り換えるための二方弁からなる4つの切換弁9a〜9dと、切換弁9a〜9dによって冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する時機判定装置10と、レーザ電源8に駆動電流出力指令を出力すると共に、時機判定装置10の判定結果を参照して、切換弁9a〜9dに弁切換指令を出力する制御回路11と、を備えている。
【0057】
本実施形態において、冷却液供給装置7と冷却板2とに亘って設けられる冷却液配管4は、第1冷却液配管41aと、第2冷却液配管41bと、第3冷却液配管41cと、第4冷却液配管41dと、から構成される。第1冷却液配管41aは、冷却液供給装置7の冷却液の流出口7aと冷却板2に形成された冷却液流路3の第1接続部3aとの間を接続している。切換弁9aは、第1冷却液配管41aの途中に設けられている。第2冷却液配管41bは、冷却液供給装置7の冷却液の流入口7bと冷却板2に形成された冷却液流路3の第2接続部3bとの間を接続している。切換弁9bは、第2冷却液配管41bの途中に設けられている。
【0058】
第3冷却液配管41c及び第4冷却液配管41dは、第1冷却液配管41aと第2冷却液配管41bとの間を、冷却液が流通可能となるように接続している。詳しくは、第3冷却液配管41cの一端は、第1冷却液配管41aにおける切換弁9aと冷却液流路3の第1接続部3aとの間に接続されている。第3冷却液配管41cの他端は、第2冷却液配管41bにおける切換弁9bと冷却液供給装置7の流入口7bとの間に接続されている。切換弁9cは、第3冷却液配管41cの途中に設けられている。また、第4冷却液配管41dの一端は、第1冷却液配管41aにおける切換弁9aと冷却液供給装置7の流出口7aとの間に接続されている。第4冷却液配管41dの他端は、第2冷却液配管41bにおける切換弁9bと冷却液流路3の第2接続部3bとの間に接続されている。切換弁9dは、第4冷却液配管41dの途中に設けられている。
【0059】
切換弁9a〜9dは二方弁からなるため、
図4に示すように、切換弁9a,9bが開の状態であり、切換弁9c,9dが閉の状態である場合は、冷却液供給装置7の流出口7aから流出した冷却液は、第1冷却液配管41a、冷却液流路3の第1接続部3a、冷却液流路3、冷却液流路3の第2接続部3b、第2冷却液配管41bの順に流れて冷却液供給装置7の流入口7bに流入する。また、切換弁9a,9bを閉の状態に切り換え、切換弁9c,9dを開の状態に切り換えると、冷却液供給装置7の流出口7aから流出した冷却液は、第1冷却液配管41aの途中から第4冷却液配管41dに流入し、第2冷却液配管41bを通って冷却液流路3の第2接続部3bに流入する。冷却液流路3を流れて第1接続部3aから流出した冷却液は、第1冷却液配管41aの途中から第3冷却液配管4cに流入し、第2冷却液配管41bを通って冷却液供給装置7の流入口7bに流入する。従って、切換弁9a,9bと切換弁9c,9bとの開閉を切り換え制御することにより、冷却液流路3を流れる冷却液の流れの方向を逆方向に切り換えることができる。
【0060】
なお、本実施形態の冷却液流路3は、冷却板2を横断する複数本の平行な直線状流路301によって構成されている。隣接する直線状流路301,301同士は、冷却板2の外側で複数のU字管40によって、冷却液が流通可能となるように接続されている。これにより、冷却液流路3は、第1接続部3aと第2接続部3bとに亘って複数のLDモジュール1の直下を直列に流れる1本の流路を構成している。
【0061】
制御回路11は、レーザ装置6Aの各種制御に係る演算処理を実行するCPU等の演算回路、レーザ装置6Aの各種制御に必要なプログラムやデータ等を記録しているメモリ回路、レーザ電源8を駆動する駆動回路、時機判定装置10や切換弁9a〜9d等のレーザ装置6Aの各部と通信するための通信回路等(いずれも図示せず)から構成されている。
【0062】
なお、
図4において、各機能ブロック等間を接続している太い実線の矢印は、通信における信号の出力方向や駆動電流の供給方向等を示している。しかし、図が煩雑になることを避けるために、レーザ電源8から複数のLDモジュール1への駆動電流の供給を表す矢印は、レーザ電源8から一番端の一つのLDモジュール1までの矢印だけを示し、LDモジュール1間の配線を示す線等は省略している。また、本実施形態では、切換弁9a〜9dが二方弁であり、4つの切換弁9a〜9dを備えているが、制御回路11から切換弁9a〜9dへの矢印についても、制御回路11から一つの切換弁9bへの矢印だけを示し、他の切換弁9a,9c,9dへの矢印は省略している。
【0063】
また、複数のLDモジュール1から出射されたレーザ光は、光結合器等で結合されてそのまま光源として加工ヘッドからワークに向かって照射されたり、ファイバレーザの励起光源として使用され、ファイバレーザからデリバリファイバを経由して加工ヘッドからワークに照射されたりして、レーザ加工が行われる。しかし、
図4では、これらのLDモジュール1以降のレーザ光学部品は、各LDモジュール1からレーザ光を取り出すための各LDモジュール1の光ファイバも含めて図示を省略している。
【0064】
時機判定装置10も、切換弁9a〜9dによって冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定するために必要な演算処理を実行する演算回路と、演算処理を実行するために必要なプログラムやデータ等を記録しているメモリ回路とを備えるが、いずれの図示も省略している。本実施形態においては、時機判定装置10は、内部に第1タイマ12と第2タイマ13との2つのタイマを備え、それぞれのタイマの進み方を制御する第1タイマ制御回路14と第2タイマ制御回路15とを更に備えている。また、時機判定装置10は、第1タイマ12及び第2タイマ13からの時間の計測結果を受け取り、切換弁9a〜9dによって冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する演算回路として、時機判定回路16を備えている。
【0065】
ここで、本実施形態では、冷却液流路3に第1接続部3aから第2接続部3bに向けて冷却液を流した場合に、冷却板2上の複数のLDモジュール1のうちで最も上流側に配置されるLDモジュール17と最も下流側に配置されるLDモジュール18の2つのLDモジュール1に、2つの温度センサ19a,19bが設置されている。これらの温度センサ19a,19bは、LDモジュール1の発熱部の発熱に追随して温度が上昇する温度変動部位として、各LDモジュール17、18のパッケージにおいて、基板上にLDチップがマウントされたCOS(chip on substrate)が配置されている場所に近いベースプレート部分の温度を測定する。
【0066】
時機判定装置10は、温度センサ19a,19bから出力される温度の時系列データに基づいて、LDモジュール17とLDモジュール18との間の寿命消費の差が減少するように、切換弁9a〜9dによって冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する。
【0067】
本実施形態では、最も簡単な実施形態として、複数のLDモジュール1全体からの光出力が定格光出力として、あるいは、各LDモジュール1に供給される駆動電流が定格駆動電流として決められており、レーザ電源8に対しては、制御回路11によって、駆動電流のオンオフだけの制御が行わるものとしている。このように簡単な制御であっても、一定の定格駆動電流が供給された後のLDモジュール1の温度は、冷却板2等の熱容量のために、直ぐに一定の温度に達して平衡状態になる訳ではないので、簡単に実際の駆動時間を積算するだけで寿命消費の量を正確に見積ることができない。
【0068】
図5は、各LDモジュール1に供給される駆動電流のオンオフと、その駆動電流に対して、LDモジュール17に設置された温度センサ19aによって測定される温度T
Aと、LDモジュール18に設置された温度センサ19bによって測定される温度T
Bとの時系列データの例を示している。
図5の時系列データは、各LDモジュール1に定格駆動電流を30秒間供給してレーザ加工を行い、その30後に、定格駆動電流を60秒間供給して次のレーザ加工を行い、その30秒後に、定格駆動電流を120秒間供給して更に次のレーザ加工を行った場合の例を示している。時系列データが
図5のような過渡的な温度変化を示す主な理由は、冷却板2やLDモジュール1がかなり熱容量を有しているためである。
図5のグラフは、非定常熱流体シミュレーションによって得ることも可能である。
【0069】
また、温度T
Bが温度T
Aよりも高いのは、
図5に示した温度の時系列データを取得した時には、LDモジュール18がLDモジュール17より下流側の冷却液流路3近傍に配置されて、冷却液の温度が上昇するためである。各LDモジュール1の寿命消費は各LDモジュール1に含まれているLDの発熱部であるLDのpn接合部の温度に左右される。しかし、冷却板2やLDモジュール1のパッケージに比べて、LDチップの熱容量は、LDチップがマウントされている基板を含めて小さいため、LDモジュール1に駆動電流が供給されている時は、LDのpn接合部の温度は、温度センサ19a,19bを設置しているLDモジュール17,18の温度変動部位の温度に追随して変化する。駆動電流が一定の場合、LDのpn接合部の温度と温度センサ19a,19bによって測定される温度との差は、略一定なので、温度センサ19a,19bで測定される温度で、寿命消費の速さを評価することが可能である。
【0070】
例えば、駆動電流が長時間オンに保たれ、上流側のLDモジュール17の温度センサ19aを設置した場所の温度が平衡に達した時の平衡温度をT
EQ(=45.7℃)として、温度センサ19aによって測定された温度がT
EQより10K高いと寿命消費の速さが2倍になるという実験結果があると、LD等の半導体デバイスの寿命消費の速さは、絶対温度の逆数に指数関数的に速まることが知られている。そのため、温度センサ19aによって測定された温度と寿命消費の速さ、すなわち、第1タイマ制御回路14や第2タイマ制御回路15がそれぞれ第1タイマ12や第2タイマ13の進む速さを制御する時のタイマカウント速度は、
図6に示した関係があることが分かる。
【0071】
従って、
図5に示したような温度の時系列データが、第1タイマ制御回路14と第2タイマ制御回路15に入力されると、第1タイマ制御回路14と第2タイマ制御回路15とは、それぞれ第1タイマ12と第2タイマ13とに対して、
図6に示した関係を利用して、
図7に示したようなタイマカウント速度でタイマを進めるように制御信号を出力する。なお、LDモジュール1の温度が上昇していても、駆動電流が供給されていない時のLDモジュール1の劣化はほぼ無視できるので、LDモジュール1に駆動電流が供給されていない時のタイマカウント速度は0であり、タイマのカウントは停止させている。LDモジュール1に駆動電流が供給されているか否かは、制御回路11から出力される信号で判断することができる。
【0072】
上記のように、第1タイマ12と第2タイマ13の進み方、すなわち、第1タイマ12に対応するタイマカウント速度1と第2タイマ13に対応するタイマカウント速度2とを制御すると、
図7に示した例では、最初のレーザ加工が行われた30秒間、次の60秒間、そして最後の120秒間で、計210秒の間レーザ加工を行っているのに対して、第1タイマ12は、それぞれ、19.2秒、47.6秒、106.3秒進み、計173.1秒進む。一方、第2タイマ13は、同様に、それぞれ、22.1秒、60.9秒、143.7秒進み、計226.7秒進む。なお、第1タイマ12と第2タイマ13によるタイマカウント速度の進む秒数は、
図7のタイマカウント速度と時間との関係を示すグラフにおけるタイマカウント速度1とタイマカウント速度2とをそれぞれ時間積分することによって得られる。
【0073】
このように、
図7に一点鎖線で示したように、定格駆動電流がLDモジュール1に供給されている時は、常にタイマカウント速度=1とすることによって求まる実際のLDモジュール1の駆動時間に対して、寿命消費時間をカウントするタイマでカウントした時間はかなり異なっており、特にレーザ加工時間が短い時に比率の差が大きくなる。
図5や
図7から明らかなように、駆動電流のオン時間やオフ時間が充分長い場合には、図に示したような過渡的温度変化を無視することも可能である。しかし、実際のレーザ加工においては、数秒から数十秒の時間間隔で駆動電流のオンオフが繰り返されることが多いため、このような過渡的温度変化を無視すると、LDを含む半導体デバイスは温度が上昇する程、寿命が短くなる、あるいは平均故障率が増加するという現象を十分考慮せずに、冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定することになる。そのため、目標としているLDモジュール1間の寿命負荷の差を効果的に低減できるタイミングで冷却液の流れの方向を切り換えることが難しくなる。
【0074】
なお、寿命が短くなるという表現と、平均故障率が増加するという表現は、物理的には同じ意味ではないが、説明を簡素化するために、これ以降は、寿命が例えば1/2に短くなるという表現は、平均故障率が2倍に増加するという意味も含めて、使用している。
【0075】
第1タイマ12と第2タイマ13とでカウントされた時間をそれぞれタイム1とタイム2とすると、時機判定回路16は、タイム1とタイム2とから冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する。例えば、時機判定回路16は、タイム1とタイム2の差が所定時間を越えると冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定し、その判定結果を制御回路11に出力する。
【0076】
制御回路11は、判定結果を受けて、LDモジュール1に駆動電流が供給されていない時、あるいは、レーザ装置6Aが直ぐにレーザ発振を行えないような状態である時に、切換弁9a〜9dに対して冷却液の流れの方向を切り換える指令を出力する。これにより、切換弁9a〜9dは、冷却液の流れの方向を切り換える。冷却液の流れの方向を切り換える時機をこのように判定し、冷却液の流れの方向を切り換えることによって、冷却液の流れの方向を切換えない場合に最も寿命消費時間が異なってくるLDモジュール17とLDモジュール18との寿命消費の差が所定時間以上に拡大しないようにすることができる。
【0077】
図8は、レーザ装置6Aにおける、冷却液の流れの方向を切り換える動作の流れを示したフローチャートである。レーザ装置6Aの電源が入ると、時機判定回路16は、制御回路11からレーザ装置6Aの状態を確認し(ステップS101)、レーザ装置6Aがレーザ発振の可能な起動状態にあるか否かを判断する(ステップS102)。レーザ装置6Aがレーザ発振の可能な起動状態であると判断された場合には、時機判定回路16は、例えば、10ms間隔で、LDモジュール1の駆動状態を確認し(ステップS103)、LDモジュール1に駆動電流が供給されているか否かを判定する(ステップS104)。
【0078】
LDモジュール1に駆動電流が供給されていると判定されると、時機判定回路16は、第1タイマ制御回路14と第2タイマ制御回路15とにそれぞれ接続されている温度センサ19a,19bの出力を読み取るように指令する(ステップS105)。第1タイマ制御回路14及び第2タイマ制御回路15は、読み取った温度センサ19a,19bの出力、すなわち温度から、
図6に示したような、温度センサ19a,19bによって測定された温度とタイマカウント速度との関係を示すデータを利用して、タイマカウント速度を算出する(ステップS106)。次いで、第1タイマ制御回路14及び第2タイマ制御回路15は、10msにタイマカウント速度を掛けたタイムを、それぞれ第1タイマ12と第2タイマ13に加算するように指令する。これにより、タイム1とタイム2が更新される(ステップS107)。
【0079】
続いて、時機判定回路16は、更新されたタイム1とタイム2の差が所定時間より大きいか否かを判定する(ステップS108)。更新されたタイム1とタイム2の差が所定時間より大きいと判定された場合は、時機判定回路16は、制御回路11に、冷却液の流れの方向を切り換える時機が来たという判定結果を出力する(ステップS109)。
【0080】
その判定結果を受けて、制御回路11は、LDモジュール1に駆動電流が供給されて、LDモジュール1が駆動中であるか否かを判定する(ステップS110)。LDモジュール1が駆動中でないと判定された場合は、切換弁9a〜9dに対して、冷却液の流れの方向を切り換えるための駆動指令を出力する(ステップS111)。これにより、冷却板2の冷却液流路3を流れる冷却液の流れの方向が切り換えられる(ステップS112)。
【0081】
本実施形態では、
図4において、例えば、切換弁9a,9bを開の状態から閉の状態に切り換え、同時に、切換弁9c,9dを閉の状態から開の状態に切り換えることによって、冷却板2の冷却液流路3を流れる冷却液の流れの方向を逆方向に切り換えることができる。
【0082】
その後、ステップS113で、LDモジュール/冷却板アセンブリ5の交換等のために、時機判定装置10に対して、動作停止指令が出ていないと判定された場合は、ステップS101に戻って、レーザ装置6Aの状態を確認する。ステップS113で、時機判定装置10に対して、動作停止指令が出ていると判定された場合は、時機判定装置10は動作を終了する。また、ステップS102で、レーザ装置6Aがレーザ発振の可能な起動状態でないと判断された場合にも、ステップS101に戻って、レーザ装置6Aの状態を繰り返し確認する。また、ステップS104で、LDモジュール1に駆動電流が供給されていないと判定された場合や、ステップS108で、更新されたタイム1とタイム2の差が所定時間より大きくないと判定された場合や、ステップS110で、LDモジュール1が駆動中と判定された場合は、ステップS103に戻って、時機判定回路16は、引き続き、10ms間隔で、LDモジュール1の駆動状態を確認する。
【0083】
本実施形態では、このように、上記のステップS101からステップS113の動作を繰り返すことによって、LDモジュール1間の寿命消費時間の差を低減するのに適したタイミングで冷却液の流れの方向を切り換えることができる。そのため、複数のLDモジュール1のうちの一部のLDモジュール1の寿命の終了が他のLDモジュール1より早く来てしまい、LDモジュール/冷却板アセンブリ5の交換時期が早まる、という問題が解決できる。
【0084】
上記のように、本実施形態のレーザ装置6Aによれば、定格光出力条件、あるいは、定格駆動電流条件で駆動される場合、LDモジュール1の温度が、過渡的な変化も含めて変化しても、任意のLDモジュール1間の寿命消費時間の差を所定時間あるいは所定時間を僅かに超えた時間以内に抑えることができる。上記の所定時間の詳細な決定方法は後述する。
【0085】
なお、本実施形態では、LDモジュール17とLDモジュール18との両方のLDモジュール1のパッケージのベースプレート部分に温度センサ19a,19bを設置しているが、これに限定されない。LDのpn接合部の温度と温度センサ19a,19bによって測定される温度の差を精度良く一定にするには、LDモジュール1の発熱部の熱(発熱部から冷却板2に流れる熱)が最も多く流れる熱経路の近傍の温度が測定できるような位置であることが望ましい。しかし、温度センサ19a,19bの設置位置は、原則として、温度センサ19a,19bを設置した位置の温度からLDモジュール1の発熱部の温度が推定できる位置であればよい。従って、温度センサ19a,19bの設置位置は、例えば、冷却板2の一方向から冷却液を流した時に、上流に近い冷却板2上の位置と下流に近い冷却板2上の位置に設けてもよい。
【0086】
また、冷却液の流量が分かると、LDモジュール1の発熱による冷却液の温度上昇は計算で見積ることができるので、LDモジュール17,18のうちの一方や冷却板2の一箇所にだけ温度センサを設けた構成としてもよい。また、冷却液供給装置7の設定条件等から冷却液の流量と温度が分かり、冷却板2やLDモジュール1の熱容量が分かっていると、レーザ装置6Aに温度センサが設置されていなくても、
図5のようなLDモジュール1の温度変化も計算で見積ることができるので、レーザ装置6A側に温度センサを設置することは上記の機能を果たす上で必要不可欠な条件ではない。
【0087】
更に、冷却板2に流入する冷却液の温度や流量が一定で、駆動電流のオン時間やオフ時間が充分長く、LDモジュール1の温度の過渡的な変化が無視できる場合には、温度センサは不要で、タイマとタイマ制御回路も1つずつでもよい。タイマ制御回路はLDモジュールに定格電流が供給されている時にだけタイマが進むように制御するだけでよく、時機判定回路16は、タイマで計測された時間が所定時間経過するごとに、冷却液の流れの方向を切り換える時機になったか否かを判定するだけでよい。
【0088】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係るレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図である。第1実施形態の
図4と同様に、LDモジュール1の冷却に関連する部分であるLDモジュール/冷却板アセンブリ5については、模式的な構造を示した平面図で表している。
図4と同様に、冷却板2内の冷却液流路3は破線で表している。また、各機能ブロック等間を接続している太い実線の矢印は、通信における信号の出力方向や駆動電流の供給方向等を示しているが、図が煩雑になることを避けるために、レーザ電源8から複数のLDモジュール1への駆動電流の供給を表す矢印は、レーザ電源8から一番端のLDモジュール1までの矢印だけを示し、LDモジュール1間の配線を示す線等の図示を省略している。また、LDモジュール1以降のレーザ光学部品は、各LDモジュール1からレーザ光を取り出すための各LDモジュール1の光ファイバも含めて図示を省略している。
【0089】
図9に示した第2実施形態のレーザ装置6Bが第1実施形態の
図4と異なる第1の点は、時機判定装置10が、
図4の第1タイマ制御回路14、第2タイマ制御回路15、第1タイマ12、第2タイマ13の代りに、第1記録部20、第2記録部22、算出回路21を備えている点である。
【0090】
第1記録部20は、LDモジュール1の光出力(P
o)と温度変動部位の温度(T
v)とに対する依存性を示す第1加速係数(k
1(P
o, T
v))と、LDモジュール1に供給される駆動電流(I
d)と温度変動部位の温度(T
v)とに対する依存性を示す第2加速係数(k
2(I
d, T
v))と、のうちの少なくとも一方の加速係数のデータを記録している。第1加速係数(k
1(P
o, T
v))及び第2加速係数(k
2(I
d, T
v))は、LDモジュール1が標準駆動条件で駆動された場合の寿命消費速度を基準として、LDモジュール1が標準駆動条件とは異なった駆動条件で駆動された場合の寿命消費速度の比率(倍率)を表す寿命消費の加速係数である。
【0091】
算出回路21は、後述のように、温度変動部位の温度の時系列データに加えて、LDモジュール1の光出力の時系列データとLDモジュール1の駆動電流の時系列データとの少なくとも一方の時系列データを参照して、第1記録部20から読み出した加速係数に対して、LDモジュール1の駆動を開始した最初の時点から最新の時点までの時間積分を行うことによって、実効的累積駆動時間を算出する。
【0092】
第2記録部22は、複数のLDモジュール1のうちの少なくとも一つのLDモジュール1について算出回路21が算出した実効的累積駆動時間を記録する。なお、本実施形態においても、温度変動部位は、第1実施形態と同様に、各LDモジュール1のパッケージにおいて、基板上にLDチップがマウントされたCOSが配置されている場所に近いベースプレート部分とし、その位置に温度センサ19a,19bを設置している。
【0093】
本実施形態において、温度センサ19a,19bは、複数のLDモジュール1のうちで、冷却液流路3に第1接続部3aから第2接続部3bに向けて冷却液を流した場合に、最も上流側の冷却液流路3に近い位置に配置されたLDモジュール(以下、第1LDモジュール24という。)と、最も下流側の冷却液流路3に近い位置に配置されたLDモジュール(以下、第2LDモジュール25という。)とに設置している。温度センサ19a,19bが設置される2つのLDモジュール1は異なるLDモジュールであればよく、必ずしも
図9に示した第1LDモジュール24及び第2LDモジュール25である必要はない。しかし、冷却液流路3に沿った距離が近いと、後述のように適切な時機判定を行う上での判定精度が低下するので、冷却液流路3に沿った第1LDモジュール24と第2LDモジュール25との間の距離は、比較的離れていることが望ましい。
【0094】
第1実施形態の
図4と異なる第2の点は、第1実施形態では二方弁からなる4個の切換弁9a〜9dを使用していたのに対して、本実施形態では、流入側の切換弁23aと流出側の切換弁23bとの2個で1組の三方弁を使用している点である。詳しくは、冷却液供給装置7と冷却板2とに亘って設けられる冷却液配管4は、
図9に示すように、第1冷却液配管42aと、第2冷却液配管42bと、第3冷却液配管42cと、第4冷却液配管42dと、第5冷却液配管42eと、第6冷却液配管42fと、から構成される。第1冷却液配管42aは、冷却液供給装置7の冷却液の流出口7aと切換弁23aとの間を接続している。第2冷却液配管42bは、切換弁23aと冷却板2に形成された冷却液流路3の第1接続部3aとの間を接続している。第3冷却液配管42cは、冷却板2に形成された冷却液流路3の第2接続部3bと切換弁23bとの間を接続している。第4冷却液配管42dは、切換弁23bと冷却液供給装置7の冷却液の流入口7bとの間を接続している。第5冷却液配管42eは、第2冷却液配管42bの途中と切換弁23bとの間を接続している。第6冷却液配管42fは、第3冷却液配管42cの途中と切換弁23aとの間を接続している。
【0095】
各切換弁23a,23bは三方弁からなるため、切換弁23a,23bが
図9に示す状態である場合は、冷却液供給装置7の流出口7aから流出した冷却液は、第1冷却液配管42a、切換弁23a、第2冷却液配管42b、冷却液流路3の第1接続部3a、冷却液流路3、冷却液流路3の第2接続部3b、第3冷却液配管42c、切換弁23b、第4冷却液配管42dの順に流れて冷却液供給装置7の流入口7bに流入する。また、切換弁23aの中子を反時計方向に90°回転させ、切換弁23bの中子を時計方向に90°回転させると、冷却液供給装置7の流出口7aから流出した冷却液は、第1冷却液配管42a、切換弁23a、第6冷却液配管42fを通って、第3冷却液配管42cの途中に流入し、第3冷却液配管42cを通って冷却液流路3の第2接続部3bに流入する。冷却液流路3を流れて冷却液流路3の第1接続部3aから流出した冷却液は、第2冷却液配管42bを通って、第2冷却液配管42bの途中から第5冷却液配管42eに流入し、切換弁23b、第4冷却液配管42dを通って冷却液供給装置7の流入口7bに流入する。従って、各切換弁23a,23bの流路を切り換え制御することにより、冷却液流路3を流れる冷却液の流れの方向を逆方向に切り換えることができる。
【0096】
本実施形態では、第1実施形態のように、開閉機能だけの二方弁(切換弁9a〜9d)を使用した場合より、配管部品点数を減らしながら、切換弁23a,23bを経由した熱伝導に起因する流入側冷却液と流出側冷却液との熱交換による流入側冷却液の温度上昇を抑制することができる。
【0097】
本実施形態のレーザ装置6Bにおける時機判定装置10の算出回路21には、前述のように、第1LDモジュール24に設置された温度センサ19aによって計測された温度変動部位の温度(T
v1(t))と、第2LDモジュール25に設置された温度センサ19bによって計測された温度変動部位の温度(T
v2(t))と、制御回路11が指令したLDモジュール1の光出力(P
o(t))あるいは駆動電流(I
d(t))と、が変数として入力される。算出回路21は、第1記録部20から各変数に対応した第1加速係数(k
1)あるいは第2加速係数(k
2)を読み出して、時間積分を行うことによって、次の式のように、第1LDモジュール24と第2LDモジュール25との実効的累積駆動時間を算出して、第2記録部22に最新の実効的累積駆動時間を記録する。
【0099】
ここで、t
sは、LDモジュール1の駆動を開始した最初の時点である。t
sは、例えば、出荷試験終了時点や出荷後最初にLDモジュール1を駆動した時点等を設定すればよい。また、t
pは、最新の時点である。t
pは、現在までLDモジュール1を駆動した最後の時点としてもよい。
【0100】
本実施形態では、第1LDモジュール24の実効的累積駆動時間である第1実効的累積駆動時間と第2LDモジュール25の実効的累積駆動時間である第2実効的累積駆動時間との時間差を第1時間差としたとき、時機判定回路16は、この第1時間差が第1設定時間を超えた時点を、冷却液の流れの方向を切り換える時機と判定し、その判定結果を制御回路11に出力する。
【0101】
このように、冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定することによって、配列位置の異なるLDモジュール1間の実効的累積駆動時間の差の拡大を直接的に防止でき、LDモジュール1間で寿命が終わる時機のばらつきをより確実に低減できる。なお、第1LDモジュール24と第2LDモジュール25の配置位置が、冷却液流路3に沿った距離で近いと、第1LDモジュール24の温度変動部位の温度と第2LDモジュール25の前記温度変動部位の温度との差が小さくなり、実効的累積駆動時間が増加しても第1時間差は余り増加しないため、適切な時機判定を行う上での判定精度が低下する。従って、第1LDモジュール24と第2LDモジュール25間の冷却液流路に沿った距離は比較的離れていることが望ましい。
【0102】
第1設定時間は一定時間に設定してもよいが、第1設定時間を、第1実効的累積駆動時間、第2実効的累積駆動時間および第1実効的累積駆動時間と第2実効的累積駆動時間との和のいずれかを第1変数とする第1関数として、第1関数を、
図10に示したように、第1変数が正の範囲で、広義単調減少関数であると共に、最小値を正の第1定数とする関数に設定してもよい。
【0103】
第1設定時間を
図10のように設定することで、冷却液の流れの方向を頻繁に切り換る必要がない実効的累積駆動時間が少ないうちは、冷却液の流れの方向を頻繁に切り換えないようにすることができる。冷却液の流れの方向を頻繁に切り換えないことによって、切換弁23a,23bの摩耗等を低減することができる。また、実効的累積駆動時間が長くなり、LDモジュール1が寿命末期になると、第1LDモジュール24と第2LDモジュール25の実効的累積駆動時間の差が余り大きくならないうちに切り換えることが望ましくなるが、LDモジュール1が寿命末期になっても、正の第1定数時間よりも頻繁には冷却液の流れの方向を切り換えないように設定することができる。
【0104】
図11は、本実施形態のレーザ装置6Bにおける、冷却液の流れの方向を切り換える動作の流れを示したフローチャートである。
図11のフローチャートにおいて、
図8のフローチャートと異なるステップは、ステップS205〜ステップS208だけである。従って、ここでは、異なるステップについてのみ説明する。
ステップS205では、算出回路21が、2つの温度センサ19a,19bの出力データである温度の時系列データを読み取り、それと同期して、第1加速係数で実効的累積駆動時間を算出する場合は、光出力の時系列データを読み取る(ステップS206)。光出力の時系列データは、制御回路11からの光出力指令を直接読み込んでもよいし、実際のレーザ出力を出力光検出器(図示せず)で計測した結果を用いてもよい。
【0105】
なお、実効的累積駆動時間を第2加速係数で算出する場合は、光出力の時系列データの代りに駆動電流の時系列データを読み込む。続いて、算出回路21は、読み取った温度の時系列データと光出力の時系列データとに対して、第1記録部20に記録されている第1加速係数の温度と光出力に対する依存性のデータを利用して、第1LDモジュール24の実効的累積駆動時間(t
ec1)と第2LDモジュール25の実効的累積駆動時間(t
ec2)とを算出し、第2記録部22に記録する(ステップS207)。具体的には、第2記録部22に記録されている実効的累積駆動時間に新たに算出した実効的駆動時間を加算し、新たな実効的累積駆動時間として、記録されている実効的累積駆動時間を更新する。続いて、時機判定回路16は、第1LDモジュール24の実効的累積駆動時間(t
ec1)と第2LDモジュール24の実効的累積駆動時間(t
ec2)との差が第1設定時間より大きいか否かを判定する(ステップS208)。その結果、第1LDモジュール24の実効的累積駆動時間(t
ec1)と第2LDモジュール25の実効的累積駆動時間(t
ec2)との差が第1設定時間より大きいと判定された場合は、時機判定回路16は、制御回路11に、冷却液の流れの方向を切り換える時機が来たという判定結果を出力する。
【0106】
上記のように、レーザ装置6Bの駆動条件が、定格光出力や定格駆動電流でオンオフだけを制御するのではなく、LDモジュール1の光出力や駆動電流を変えた条件で駆動する必要がある場合でも、光出力や駆動電流の大きさによる寿命消費速度の変化も考慮して算出したLDモジュール1の実効的累積駆動時間、すなわち、LDモジュール1の実際の駆動時間を、LDモジュール1を標準駆動条件で駆動した場合の駆動時間に換算した実効的累積駆動時間に基づいて、時機判定装置10が冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定している。そのため、本実施形態のレーザ装置6Bによれば、複数のLDモジュール1間で、実効的累積駆動時間の差、言い換えれば、寿命消費時間の差を減少させることが可能になり、複数のLDモジュール1間における寿命が終わる時期のばらつきが低減できる。
【0107】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態に係るレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図である。第1実施形態の
図4や第2実施形態の
図9と同様に、LDモジュール1の冷却に関連する部分であるLDモジュール/冷却板アセンブリ5については、模式的な構造を示した平面図で表している。また、
図4や
図9と同様に、冷却板2内の冷却液流路3は破線で表しており、各機能ブロック等間を接続している太い実線の矢印は、通信における信号の出力方向や駆動電流の供給方向等を示しているが、図が煩雑なることを避けるために、レーザ電源8から複数のLDモジュール1への駆動電流の供給を表す矢印は、レーザ電源8から一番端のLDモジュール1までの矢印だけを示し、LDモジュール1間の配線を示す線等は省略している。また、LDモジュール1以降のレーザ光学部品は、各LDモジュール1からレーザ光を取り出すための各LDモジュール1の光ファイバも含めて省略している。
【0108】
図12に示した第3実施形態のレーザ装置6Cが第2実施形態の
図9と異なる第1の点は、複数のLDモジュール1のうちの1つの第3LDモジュール26にのみ温度センサ19を設置している点である。第3LDモジュール26は、冷却液の流れの方向が切替わっても、駆動電流が同じ場合に、LDモジュール1の発熱部あるいは発熱部に熱的に接続したLDモジュールの所定位置の温度の変化が最も小さいLDモジュールである。具体的には、第3LDモジュール26は、
図12に示したように、冷却液を一方向に流した時に冷却液流路3の最も上流側に近い位置に配置されたLDモジュール1と最も下流に近い位置に配置されたLDモジュール1を両端のLDモジュールとして、冷却液流路3に沿って配置されたLDモジュール1の列の中で中央に位置するLDモジュールのことである。本実施形態では、第1実施形態や第2実施形態と同様に、温度変動部位として、第3LDモジュール26のパッケージにおいて、基板上にLDチップがマウントされたCOSが配置されている場所に近いベースプレート部分に温度センサ19を設置している。
【0109】
第3LDモジュール26の最新の実効的累積駆動時間である第3実効的累積駆動時間と、最後に冷却液の流れの方向を切り換えた時点における第3LDモジュール26の実効的累積駆動時間との時間差を第2時間差とした場合、本実施形態では、第2時間差が第2設定時間を超える時点を、冷却液の流れの方向を切り換える時機と判定する。これによって、実効的累積駆動時間を算出するLDモジュール1が、第3LDモジュール26の1つだけになり、算出回路21における計算負荷を低減しながら、第2実施形態とほぼ同様の判定精度で、LDモジュール1の光出力や駆動電流を変えた条件で駆動した場合であっても、複数のLDモジュール1間における寿命が終わる時期のばらつきが低減できる。
【0110】
また、第2設定時間についても、
図10の第1設定時間と同様に、第3実効的累積駆動時間を第2変数とする第2関数であり、第2関数は、第2変数が正の範囲で、広義単調減少関数であると共に、最小値を正の第2定数とする関数に設定してもよい。第1設定時間を
図10のように設定した場合と同様の効果が得られる。
【0111】
本実施形態のレーザ装置6Cにおける、冷却液の流れの方向を切り換える動作の流れは、
図11のフローチャートと殆ど同じであり、異なるステップは、ステップS205で出力を読み取る温度センサが1個であることと、ステップS207が、算出回路21が1つだけのLDモジュール1(第3LDモジュール26)について実効的累積駆動時間を算出することと、ステップS208の判定式が、第2時間差>第2設定時間に変わることだけである。
【0112】
図12に示した第3実施形態のレーザ装置6Cが第2実施形態の
図9と異なる第2の点は、切換弁が、第2実施形態では三方弁からなる2個の切換弁23a,23bを使用していたのに対して、本実施形態では、少なくとも主要部分が弗化樹脂製の四方弁からなる1個の切換弁27を使用して、配管部品点数を低減している点である。詳しくは、冷却液供給装置7と冷却板2とに亘って設けられる冷却液配管4は、
図12に示すように、第1冷却液配管43aと、第2冷却液配管43bと、第3冷却液配管43cと、第4冷却液配管43dと、から構成される。第1冷却液配管43aは、冷却液供給装置7の冷却液の流出口7aと切換弁27との間を、冷却液が流通可能となるように連結している。第2冷却液配管43bは、切換弁27から冷却板2に形成された冷却液流路3の第1接続部3aとの間を、冷却液を流通可能となるように連結している。第3冷却液配管43cは、冷却液流路3の第2接続部3bと切換弁27との間を、冷却液が流通可能となるように連結している。第4冷却液配管43dは、切換弁27と冷却液供給装置7の冷却液の流入口7bとの間を、冷却液を流通可能となるように連結している。
【0113】
切換弁27は四方弁からなるため、切換弁27が
図12に示す状態である場合は、冷却液供給装置7の流出口7aから流出した冷却液は、第1冷却液配管43a、切換弁27、第2冷却液配管43b、冷却液流路3の第1接続部3a、冷却液流路3、冷却液流路3の第2接続部3b、第3冷却液配管43c、切換弁27、第4冷却液配管43dの順に流れて冷却液供給装置7の流入口7bに流入する。また、
図12で切換弁27の中子を反時計方向に90°回転させると、冷却液供給装置7の流出口7aから流出した冷却液は、第1冷却液配管43a、切換弁27、第3冷却液配管43c、冷却液流路3の第2接続部3b、冷却液流路3、冷却液流路3の第1接続部3a、第2冷却液配管43b、切換弁27、第4冷却液配管43dの順に流れて冷却液供給装置7の流入口7bに流入する。従って、切換弁27の流路を切り換え制御することにより、冷却板2の冷却液流路3を流れる冷却液の流れの方向を切り換えることができる。
【0114】
なお、四方弁からなる切換弁27では、流入側冷却液と流出側冷却液が同じ切換弁27内を流れることになるが、四方弁の少なくとも主要部分の材質を熱伝導率が低く機械的強度の高いポリクロロトリフルオロエチレン等の弗化樹脂製とすることで、流入側冷却液と流出側冷却液との熱交換による流入側冷却液の温度上昇を抑制することができる。四方弁の主要部分とは、冷却液と直に接触する部分のことであり、例えば中子である。中子を収納しているケース部分も弗化樹脂製としてもよい。
【0115】
<第4実施形態>
図13は、第4実施形態に係るレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図である。第2実施形態の
図9と同様に、LDモジュール1の冷却に関連する部分であるLDモジュール/冷却板アセンブリ5については、模式的な構造を示した平面図で表している。
図9と同様に、冷却板2内の冷却液流路3は破線で表しており、各機能ブロック等間を接続している太い実線の矢印は、通信における信号の出力方向や駆動電流の供給方向等を示しているが、図が煩雑なることを避けるために、レーザ電源8から複数のLDモジュール1への駆動電流の供給を表す矢印は、レーザ電源8から一番端のLDモジュール1までの矢印だけを示し、LDモジュール1間の配線を示す線等は省略している。また、LDモジュール1以降のレーザ光学部品は、各LDモジュール1からレーザ光を取出すための各LDモジュール1の光ファイバも含めて省略している。
【0116】
図13に示した第4実施形態に係るレーザ装置6Dが第2実施形態の
図9と異なる点は、温度センサ19a,19bからの出力が、温度変換回路28を経由して、算出回路21に入力されるようになっている点である。本実施形態では、温度変動部位をLDモジュール1の発熱部であるLDのpn接合部に設定している。すなわち、冷却液の流れの方向を切り換える時機の判定に使用する温度の時系列データを2つのLDモジュール(第1LDモジュール24及び第2LDモジュール25)内のLDのpn接合部の温度の時系列データとしている。しかし、レーザ装置6Dでレーザ加工中に、LDのpn接合部の温度を常時測定することは困難であるので、例えば、LDで発生した熱が冷却板2に流れる様子を模式化した熱回路網において、LDで発生した熱が冷却板2に流れる経路の節点の温度を温度センサ19a,19bで測定し、温度変換回路28によって、(pn接合部の温度)=(温度センサ19a,19bで計測した温度)+(LDのpn接合部での発熱量)×(LDのpn接合部から温度センサ19a,19bで温度を計測している節点までの熱抵抗)等の式によって、温度センサ19a,19bによって測定された温度の時系列データをpn接合部の温度の時系列データに変換している。
【0117】
なお、上記の式で、LDのpn接合部での発熱量は、LDモジュール1に供給される駆動電流と駆動電流が流れることによってLD1個当たりに印加される電圧との積である駆動電力からLD1個当たりの光出力を差し引くことによって求めることができる。LDのpn接合部から温度センサ19a,19bで温度を計測している節点までの熱抵抗については、固定値なので、レーザ波長のpn接合部温度依存性等から予め測定して求めておくことができ、熱流体シミュレーションでも容易に見積ることができる。
【0118】
寿命消費速度の温度依存性をLDのpn接合部の温度依存性とすることで、光出力や駆動電流の変化に伴うLDのpn接合部の温度変化の寿命消費速度への影響を取り込むことができるようになるので、第1記録部20に記録している第1加速係数のデータについては、LDモジュール1の標準光出力に対する光出力による加速係数である光出力加速係数(k
P(P
o))のデータとLDモジュール1の発熱部、すなわち、LDモジュール1内のLDのpn接合部の温度による加速係数である温度加速係数のデータ(k
T(T
j))に分けて記録しておくことが可能になる。第2加速係数のデータについても、同様に、LDモジュール1の標準駆動電流に対する駆動電流による加速係数である電流加速係数(k
I(I
d))のデータとLDのpn接合部の温度による加速係数である温度加速係数のデータk
T(T
j))に分けて記録しておくことが可能になる。なお、LDのpn接合部の温度による加速係数である温度加速係数のデータは、第1加速係数と第2加速係数で、同じデータを共通して使用することができる。
【0119】
算出回路21は、温度変換回路28から出力されるLDのpn接合部の温度の時系列データと、制御回路11から取得したLDモジュール1の光出力の時系列データ、あるいは、LDモジュール1の駆動電流の時系列データに対して、第1記録部20に記録している上記の加速係数のデータを利用して、次の式のように時間積分を行って、第1LDモジュール24と第2LDモジュール25との実効的累積駆動時間を算出して、第2記録部22に最新の実効的累積駆動時間を記録する。
【0121】
ここで、T
j1は、第1LDモジュール24のLDのpn接合部の温度、T
j2は、第2LDモジュール25のLDのpn接合部の温度である。
【0122】
この第4実施形態に係るレーザ装置6Dによれば、光出力や駆動電流による加速係数と温度による加速係数とを分けることが可能になり、実験等によって取得して、第1記録部20に記録することが必要な加速係数のデータの量が、加速係数のデータを光出力と温度を変数とする二次元のデータテーブルや、駆動電流と温度を変数とする二次元のデータテーブルとして記録する場合に比べて、大幅に低減でき、工数が削減できる。
【0123】
また、第1記録部20に記録されている温度加速係数のデータと光出力加速係数のデータと電流加速係数のデータとのうち、少なくとも一つの加速係数のデータは、加速係数を直接表す数値データではなく、加速係数を算出するための数式の形式で記録されていてもよい。例えば、温度加速係数については、よく知られた下記のアレニウス反応式で表すことができるので、活性化エネルギー(E
a)とボルツマン定数(k
B=8.63×10
−5(eV/K))を含む数式だけ第1記録部20に記録しておけばよい。活性化エネルギーは、実験で求めるか、それぞれの半導体デバイスについて報告されている値を使用すればよい。
【0124】
反応速度=定数・exp(−E
a/k
BT)・・・・(アレニウス反応式)
従って、
温度加速係数=exp(−Ea/k
BT
j)/exp(−E
a/k
BT
js)
=exp{(1/T
js−1/T
j)・Ea/k
B}
ここで、T
jはpn接合部の温度であり、T
jsは標準駆動条件で熱的平衡に達するまで長時間駆動した時のpn接合部の温度である。
【0125】
光出力加速係数や電流加速係数も、例えば、下記のような数式で表してもよい。
光出力加速係数=(P
o/P
os)
m
電流加速係数={(I
d−I
th)/(I
ds−I
th)}
n
ここで、P
osはLDモジュール1を標準駆動条件で駆動した時の光出力、すなわち標準光出力であり、I
dsはLDモジュール1を標準駆動条件で駆動した時の駆動電流、すなわち標準駆動電流であり、I
thはLDの閾値電流である。mとnは定数である。
【0126】
このように、加速係数のデータを、数値データでなく、式の形のデータとして記録することで、より少ないデータで実効的累積駆動時間が計算できるようになり、データ収集に要する工数を更に低減できる。
【0127】
また、出力加速係数データ、あるいは、電流加速係数データが、実効的累積駆動時間に依存するデータとして、第1記録部20に記録されていてもよい。例えば、電流加速係数の実効的累積駆動時間依存性データを取得するには、
図14に示したように、実験で、LDモジュール1の全寿命のうちの所定の一時期だけ、標準駆動電流とは異なる一定の駆動電流で駆動して寿命の変化を調べればよい。
図14のような結果が得られた場合は、実効的累積駆動時間t
1+t
2/2における加速駆動電流による加速係数は、t
2/t
3から駆動電流を増やしたことによるpn接合の温度上昇による増加分だけ補正することによって求めることができる。加速係数の実効的累積駆動時間依存性データの取得に要する時間を短縮するために、標準駆動電流で駆動中を含め、LDのpn接合部の温度は、標準駆動条件で駆動した時のLDのpn接合部の温度より高くして実験することが望ましい。光出力加速係数の実効的累積駆動時間依存性データを取得する場合も上記と同様の方法が適用できる。
【0128】
実効的累積駆動時間依存性を考慮した出力加速係数や電流加速係数は、下記のような式で与えてもよい。
光出力加速係数=(P
o/P
os)^(m+at
ec)
電流加速係数={(I
d−I
th)/(I
ds−I
th)}^(n+bt
ec)
ここで、t
ecは実効的累積駆動時間であり、aとbは係数(定数)である。
【0129】
このように、出力加速係数データ、あるいは、電流加速係数データの実効的累積駆動時間依存性を考慮することによって、光出力が標準光出力より大きい条件、すなわち光出力加速係数>1の条件、あるいは、駆動電流が標準駆動電流より大きい条件、すなわち、電流加速係数>1の条件では、寿命後期になると光出力加速係数や電流加速係数が次第に大きくなる傾向があった場合にも、より精度良く実効的駆動時間を算出することができるようになる。
【0130】
<第5実施形態>
図15は、第5実施形態に係るレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図である。第3実施形態の
図12と類似しており、
図12と同様に、LDモジュール1の冷却に関連する部分であるLDモジュール/冷却板アセンブリ5については、模式的な構造を示した平面図で表している。また、
図12と同様に、冷却板2内の冷却液流路3は破線で表しており、各機能ブロック等間を接続している太い実線の矢印は、通信における信号の出力方向や駆動電流の供給方向等を示しているが、図が煩雑なることを避けるために、レーザ電源8から複数のLDモジュール1への駆動電流の供給を表す矢印は、レーザ電源8から一番端のLDモジュール1までの矢印だけを示し、LDモジュール1間の配線を示す線等は省略している。また、LDモジュール1以降のレーザ光学部品は、各LDモジュール1からレーザ光を取出すための各LDモジュール1の光ファイバも含めて省略している。
【0131】
図15に示した第5実施形態に係るレーザ装置6Eが第3実施形態の
図12と異なる点は、第4実施形態と同様に温度変換回路28を備えていることと、新たに、第3記録部29と表示装置30とを備えている点である。温度変換回路28については、第4実施形態と同様に温度センサ19で測定した温度を第3LDモジュール26のLDのpn接合部の温度に換算するためのものであり、説明を省略するが、冷却液の流れの方向を切り換える時機を判定する温度の時系列データを、LDのpn接合部の温度の時系列データとすることによって、実効的累積駆動時間を算出するに当たって必要となる加速係数データを大幅に削減できることは前述の通りである。
【0132】
本実施形態のレーザ装置6Eは、制御回路11からの指令により、複数のLDモジュール1を発光源あるいは励起光源とするレーザ発振器の光出力特性を、所定の駆動条件で、所定のスケジュールに沿って測定し、光出力特性の測定結果の履歴を、第1記録部20に記録されている実効的累積駆動時間に関連付けて、第3記録部29に記録する。
【0133】
また、制御回路11は、第3記録部29に記録されている実効的累積駆動時間に関連付けた光出力特性の測定結果を使用して、光出力特性から導出される所定の駆動電流で出力される光出力である実光出力又は所定の光出力を得るために必要な駆動電流である実駆動電流について、実光出力又は実駆動電流の実効的累積駆動時間依存性と、光出力特性測定時点とその前の光出力特性測定時点との両時点間における実光出力又は実駆動電流の劣化幅又は劣化率と、劣化幅を両時点間の実効的累積駆動時間の差で除した劣化速度との、少なくともいずれか一つを表示装置30に出力する。これにより、表示装置30は、実光出力又は実駆動電流の実効的累積駆動時間依存性や、実光出力又は実駆動電流の劣化幅や劣化率や劣化速度を表示する。
【0134】
図16は、実駆動電流の実効的累積駆動時間依存性を示すグラフを例示している。図中に、劣化幅を図示すると共に、劣化率と劣化速度を示す式を記載している。実光出力あるいは実駆動電流の実効的累積駆動時間依存性や、実光出力あるいは実駆動電流の劣化幅や劣化率や劣化速度を表示装置30に表示することによって、レーザ装置6Eの使用者や管理者は、複数のLDモジュール1全体(LDモジュールユニット)としての劣化状況や残存寿命が把握でき、交換用LDモジュールユニットの準備や保守作業を計画的に実施できるので、レーザ装置6Eが使用できない期間を最小限に抑えることができる。表示装置30には実効的累積駆動時間を表示するようにしてもよい。
【0135】
<第6実施形態>
図17は、第6実施形態に係るレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図である。他の実施形態のレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図と同様に、LDモジュール1の冷却に関連する部分であるLDモジュール/冷却板アセンブリ5については、模式的な構造を示した平面図で表している。また、冷却板2内の冷却液流路3は破線で表しており、各機能ブロック等間を接続している太い実線の矢印は、通信における信号の出力方向や駆動電流の供給方向等を示しているが、図が煩雑なることを避けるために、レーザ電源8から複数のLDモジュール1への駆動電流の供給を表す矢印は、レーザ電源8から一番端のLDモジュール1,1までの矢印だけを示し、LDモジュール1間の配線を示す線等は省略している。また、LDモジュール1以降のレーザ光学部品は、各LDモジュール1からレーザ光を取出すための各LDモジュール1の光ファイバも含めて省略している。
【0136】
本実施形態のレーザ装置6Fは、駆動電流が直列に供給される複数のLDモジュール1からなるLDモジュールグループ100が2グループ存在し、各LDモジュールグループ100,100に対して、独立に駆動電流を供給可能なレーザ装置である。本実施形態の制御回路11は、所定の光出力指令を出力するために、レーザ電源8に対して各LDモジュールグループ100,100に対する駆動電流出力指令を出力するにあたって、複数のLDモジュールグループ100,100のうち、実効的累積駆動時間が相対的に短いLDモジュールグループ100あるいは劣化速度が相対的に小さいLDモジュールグループ100に対して、優先的に駆動電流を割振るように、駆動電流出力指令を出力する。
【0137】
なお、本実施形態において、1つの冷却液供給装置7と2つのLDモジュールグループ100,100の冷却板2,2とに亘って設けられる冷却液配管4は、
図12に示したレーザ装置6Cにおける冷却液配管4の構成を、2つの冷却板2,2毎に備えている。冷却液供給装置7の冷却液の流出口7aに連結される冷却液配管43aは、途中から各切換弁27,27に向けて2本に分岐している。また、各切換弁27,27に連結される冷却液配管43d,43dは、途中から1本にまとめられて冷却液供給装置7の冷却液の流入口7bに連結されている。
【0138】
本実施形態の時機判定装置10において、冷却板2の冷却液流路3を流れる冷却液の流れの方向を切り換える時機の判定は、LDモジュールグループ100,100毎に、すなわち、LDモジュール/冷却板アセンブリ5,5毎に独立して判定し、実際に冷却液の流れを切り換える時刻も、LDモジュール/冷却板アセンブリ5,5毎に異なるようにしてもよい。また、分岐した各冷却液配管4の途中に、図示していないが、流量計と流量調節弁を設置して、各冷却板2,2の冷却液流路3,3に流れる冷却液の流量が同じになるようにしてもよい。
【0139】
本実施形態のレーザ装置6Fにおいては、所定の光出力指令に対して、LDモジュールグループ100,100間で、実効的累積駆動時間が相対的に短いLDモジュールグループ100や特性劣化が相対的に小さいLDモジュールグループ100に優先的に駆動電流を割振ることで、実効的累積駆動時間が相対的に長いLDモジュールグループ100や特性劣化が相対的に大きいLDモジュールグループ100の寿命消費を抑えることできるので、各LDモジュールグループ100,100の交換時期を揃えることができる。このため、レーザ装置6Fのメンテナンス回数やメンテナンスコストを低減できる。なお、駆動電流が直列に供給される複数のLDモジュール1からなるLDモジュールグループ100は、
図17のように2グループに限定されず、3グループ以上であってもよい。
【0140】
<第7実施形態>
図18は、第7実施形態に係るレーザ装置の概念的な構成を示すブロック図である。レーザ装置6については、以上説明したレーザ装置6のうち、第3記録部29を備えたレーザ装置6E又は6Fのどちらかを使用することができる。各レーザ装置6において、制御回路11以外の機能ブロック等の図示は省略している。冷却液供給装置の図示も省略している。本実施形態のレーザ装置6は、制御回路11が、ネットワーク200を経由して、実効的累積駆動時間と、実光出力あるいは実駆動電流の実効的累積駆動時間依存性と、劣化速度の少なくともいずれか一つをクラウドサーバー201あるいはフォグサーバー202に出力する。
【0141】
本実施形態のレーザ装置6においては、駆動電流の供給を独立に制御可能なLDモジュールグループ毎に、駆動状況や劣化状況、残存寿命がクラウドサーバー201あるいはフォグサーバー202によって、一括して管理できるため、計画的な保守が可能になり、LDモジュール1の交換保守作業のためにレーザ装置6が稼働できない時間を極力低減することができる。
【0142】
なお、以上の各実施形態または変形例において、制御回路11、第1タイマ制御回路14、第2タイマ制御回路15、時機判定回路16、算出回路21、温度変換回路28は、いずれも、CPUやROM、RAM等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。CPUは、各回路に要求される機能に係る演算処理を実行する。これらの回路は、機能別に分離されているように記載しているが、一つのCPUが複数の回路に要求される演算を行うようにしてもよいし、上記の全ての回路に要求される機能に係る演算処理を一つのCPUで実行するようにしてもよい。また、これらの回路は、FPGA(Field Programmable Gate Array)により構成されてもよい。
【0143】
また、以上の各実施形態または変形例において、第1記録部20、第2記録部22、第3記録部29についても機能別に分離したブロックとして記載しているが、一つのROM等のメモリが複数の記録部20、22、29の機能を果たしてもよいし、一つのメモリで上記の全ての記録部20、22、29の機能を果たしてもよい。
【0144】
更に、以上の各実施形態または変形例において、冷却液供給装置7は、循環式冷却液供給装置に限定されず、工場配管から冷却液をレーザ装置6(6A〜6F)に供給するようにしてもよい。また、冷却液は、少なくとも、水を主成分とする冷却水であってもよく、クーラント液等であってもよい。
【0145】
また、以上の各実施形態または変形例において、冷却板の冷却液流路3と冷却液配管4という用語を区別して使用しているが、互いに分離している構造に限定していない。例えば、銅パイプを溝が形成された2枚のアルミ合金板で挟み込んだ構造等も含めており、この場合、2枚のアルミ合金が冷却板2で、2枚のアルミ合金で挟まれた銅パイプの内側を冷却液流路3と称しており、2枚のアルミ合金で挟まれていない銅パイプの部分を冷却液配管4と称している。
【0146】
レーザ装置6Aの二方弁からなる切換弁9a〜9dを有する冷却液配管4の構成は、レーザ装置6B〜6Fの冷却液配管4の構成に適用してもよい。また、レーザ装置6B、6Dの三方弁からなる切換弁23a,23bを有する冷却液配管4の構成は、レーザ装置6A、6C、6E、6Fの冷却液配管4の構成に適用してもよい。レーザ装置6C、6E、6Fの四方弁からなる切換弁27を有する冷却液配管4の構成は、レーザ装置6A、6B、6Dの冷却液配管4の構成に適用してもよい。
【0147】
なお、ここに挙げられた全ての例及び特定の用語は、読者が、本発明及び当該技術の促進に対する本発明者により寄与された概念を理解することを助ける、教示的な目的において意図されたものであり、本発明の優位性及び劣等性を示すことに関する、本明細書の如何なる例の構成、そのような特定の挙げられた例及び条件に限定しないように解釈されるべきものである。本発明の実施形態は詳細に説明されているが、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。