特許第6989591号(P6989591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989591多能性細胞の誘導及び自己再生並びにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989591
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】多能性細胞の誘導及び自己再生並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20211220BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20211220BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20211220BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   A61K35/34
   A61K38/39
   A61P9/00
   A61P9/04
   A61P9/10 103
   A61P11/00
   A61P1/04
   A61P37/06
   A61P19/02
   A61P29/00 101
   A61P29/00
   A61P25/00
   A61P21/02
   A61P11/06
   A61P15/00
   A61P1/16
   A61P17/00
   A61P13/12
【請求項の数】18
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2019-507991(P2019-507991)
(86)(22)【出願日】2016年4月26日
(65)【公表番号】特表2019-514425(P2019-514425A)
(43)【公表日】2019年6月6日
(86)【国際出願番号】EP2016059291
(87)【国際公開番号】WO2017186273
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】518380698
【氏名又は名称】アイレットワン・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オスキャル・シモンソン
(72)【発明者】
【氏名】カール−ヘンリク・グリンネモ
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0164958(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/079086(WO,A2)
【文献】 特表2003−500023(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0330825(US,A1)
【文献】 Stem Cell Reports,2016年,vol.6,p.607-617
【文献】 Stem Cell Research & Therapy,2013年,4:120
【文献】 Stem Cells,2008年,vol.26,p.2800-2809
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞(MSC)を培養増殖するための方法であって、少なくとも1つの、α4鎖を含むラミニンの存在下、低酸素又は正常酸素状態下でMSCを培養することを含む方法。
【請求項2】
細胞を、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン423からなる群から選択されるα4を含む少なくとも1つのラミニンの存在下で培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞を低酸素状態で培養する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの、α4鎖を含むラミニンが、全ラミニンの少なくとも50%(w/w)を占める、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの、α4鎖を含むラミニンが、全ラミニンの少なくとも70%(w/w)を占める、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
多能性前駆細胞を誘導するために使用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
心筋前駆細胞を誘導するために使用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
MSCが、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤の存在下で培養される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
PDGFR-アルファ及び/又はHLA-Gを発現する、請求項6又は8に規定の方法により得られた、多能性前駆細胞。
【請求項10】
請求項9に規定の多能性前駆細胞を心細胞に分化させるための方法であって、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン211、ラミニン221、及びその任意の組合せを含む群から選択される少なくとも1つのラミニンの存在下で前記多能性前駆細胞を培養する工程を含む方法。
【請求項11】
(i)心細胞がα-アクチニン、トロポニンT、及びトロポニンIを発現し;並びに
(ii)心細胞が自発的に1分間あたり40〜100拍動で拍動している
ことを特徴とする、請求項10に規定の方法により得られた、心細胞。
【請求項12】
Isl1、Sox2、SSEA1、Nanog、Tra-1、Brachyury T、CXCR4、PDGFRα、及びHLA-Gのうちの少なくとも1つに対して陽性であることを特徴とする、請求項7又は8に規定の方法により得られた、心筋前駆細胞。
【請求項13】
CXCR4を発現し、虚血心臓組織において伸張された形態で配置される、請求項12に記載の心筋前駆細胞。
【請求項14】
LN-511、LN-521、LN-421、LN-411、LN-111、LN-121、LN-221、LN-211を含む群から選択される少なくとも1つの外因的に由来するラミニンにより被覆されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に規定の方法により得られたMSC、又は請求項6から8及び10のいずれか一項に規定の方法により得られた前駆細胞、心筋前駆細胞又は心細胞。
【請求項15】
請求項9及び11から14のいずれか一項に記載の細胞を含む、医薬。
【請求項16】
心臓機能不全、心不全、心筋梗塞、先天性心疾患、心筋炎、弁膜機能不全、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、移植片対宿主病(GvHD)、固形臓器拒絶並びに/又は細胞及び/若しくは組織移植の拒絶、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、関節炎等のリウマチ様疾患、多発性硬化症等の任意のタイプの炎症駆動型若しくは免疫誘発疾患、ALS、サルコイドーシス、特発性肺線維症、乾癬、腫瘍壊死因子(TNF)受容体関連周期熱症候群(TRAPS)、インターロイキン1受容体アンタゴニストの欠損(DIRA)、子宮内膜症、自己免疫性肝炎、強皮症、筋炎、脳卒中、急性脊髄損傷、血管炎、又は腎不全、肝不全、肺不全、心不全等の本質的に任意のタイプの臓器不全、並びに/或いはその任意の組合せの処置及び/又は予防において使用するための、請求項15に記載の医薬。
【請求項17】
請求項9及び11から14のいずれか一項に記載の細胞並びに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項18】
少なくとも1つのラミニンを更に含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に、培養中の間葉系由来の種々の幹細胞の多能性を維持するために、多能性細胞、例えば、Isl1陽性でありうる間葉系幹細胞又は心筋前駆細胞を誘導するための新規の効率的方法(すなわち、細胞を多能性細胞系列に入るように誘発するための方法)、例えば、心筋前駆細胞を通常心臓に存在するすべての細胞系列に分化させるための方法、そのような方法により入手可能な細胞、本発明に従った方法を実行するためのキット及び組成物、並びに本発明の細胞を使用する医療応用及び処置にも関係する。
【背景技術】
【0002】
心筋細胞の代謝回転は、成人心臓では低いが、Islet-1陽性(Isl1+)又はC-Kit陽性(C-Kit+)多能性心筋前駆細胞の上方調節を通じて虚血中は増加することが可能である(Geneadら、PlosOne 7、e36804 (2012))。内在性前駆細胞を上方調節しても、かなりの虚血性損傷後損傷を受けた筋系を交換するには十分ではなく、心不全がもたらされる。心不全の発症を予防するための魅力的なアプローチは、心臓での組織損傷を修復することができる前駆細胞を提供することだと考えられる。これらの前駆細胞は、心筋細胞、平滑筋細胞、神経細胞及び内皮を生じることができるはずである。哺乳動物心臓は、一次及び二次心臓領域の心筋前駆体(それぞれ、TBX5、NKX2.5及びIslet-1(Isl1)により同定される)に並びにプロ心外膜(TBX18)に由来する。Isl1+細胞はこの能力を有しており、洞房結節(SA)、心房心室結節(AV)の一部、右心房、右心室、近位大動脈、肺動脈幹及び冠動脈の近位部を含む発生中の心臓の3分の2を形成する(Lamら、Pediatr. Cardiol. 30、690頁(2009))。
【0003】
しかし、再生医療にこれらの前駆細胞を使用する1つの考慮に入れるべき限界として、特徴がはっきりしたクローン前駆細胞集団を、成人組織から又は胎児/胚性幹細胞組織から創出する困難さが挙げられる。Laugwitz及び共同研究者らは、以前、出生後Isl1+細胞を心筋間葉系フィーダー細胞と共培養すれば、トランスジェニックマウスから出生後Isl1+細胞を創出することが可能であることを明らかにした(Laugwitzら、Nature 433, 647頁(2005))。更に、本発明者らも以前、ある特定種のラミニンとWnt活性化剤の組合せを使用することに基づいて、Isl1陽性細胞並びに心筋細胞を作製するための改良された独創的な方法を教示していた(PCT/SE2013/000112)。ラミニンは幹細胞を培養拡大するために当技術分野では広範に使用されてきたが、ラミニンの使用は、それでも、洗練されておらず、偶然によるところが大きい。用語ラミニンは習慣的にラミニン111(単離された最初のラミニンであり3Dマトリックスマトリゲル(登録商標)の一部を形成する)を表すのに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】PCT/SE2013/000112
【特許文献2】WO2014/011095
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Geneadら、PlosOne 7、e36804 (2012)
【非特許文献2】Lamら、Pediatr. Cardiol. 30、690頁(2009)
【非特許文献3】Laugwitzら、Nature 433, 647頁(2005)
【非特許文献4】Chon及び共同研究者ら、Stem Cell Res Ther, 2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、間葉系幹細胞(MSC)を培養拡大するための方法を改良し、例えば、心臓様細胞、例えば、心筋細胞を、in vitroでもin vivoでもいずれでも生じることが可能な多能性細胞を培養し誘導し分化させる大きな必要性が当技術分野にはいまだ存在する。更に、種々のタイプの幹細胞、例えば、間葉系幹細胞(MSC)の多能性及び免疫調節特性を維持することは、いくつかの再生医療戦略の背後にある重要項目であり、現行技術はこれを達成するための効率的な方法論を欠く。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、上記問題を克服し当技術分野内の既存の必要性を満たす、すなわち、明確に定められ高度に制御可能な方法を使用してMSC及び高度に強力な前駆細胞の手軽で効率的な誘導を提供することが本発明の目的である。更に、本発明は、多能性前駆細胞の効率的な誘導を可能にするだけではなく、種々のタイプの多能性細胞(本質的にはいかなるタイプの幹細胞でも、例えば、間葉系幹又は間質細胞(MSC))の実質的に無期限の自己再生及び増殖(すなわち、クローン増殖)並びにそれに続く細胞分化、例えば、心筋前駆体のin vitroとin vivo両方での拍動する心臓組織への分化も提供する。本発明に従った方法を使用して入手可能な細胞は種々の臨床応用に非常に適しており、目的の組織及び部位、例えば、梗塞後の心臓組織への強いホーミング能力を示す。具体的には、本発明は、間葉系幹/間質細胞(MSC)のIsl1+PDGFR-α+NKX2.5+(多能性心筋前駆)細胞への誘導、及び心臓組織への更なる分化のための、並びに幹細胞(MSC等の)を多能性状態に維持する、例えば、いかなるタイプのMSCでも多能性及び免疫調節特性を維持するための新規の方法を開示する。本発明に従った誘導及び分化方法を使用して得られる細胞は心臓の梗塞性(虚血性)領域に強くホーミングし、そこで細胞は伸張され周囲の心筋細胞と平行に配置される。本発明は、細胞の臨床能力及び有効性を更に増加させることができるある特定のラミニンにより少なくとも部分的に覆われている細胞並びにラミニン被覆細胞のみならず本来本発明に従った細胞の両方の医療における種々の応用にも関する。本発明の方法を介して入手可能な多能性細胞は強い免疫調節能力を有し、例えば、T細胞から調節T細胞への転換を誘発することが可能であり、これはこのタイプのMSC由来多能性前駆細胞について以前一度も記載されたことがない特長である。更に、細胞は、既知の免疫調節分子であるヒト白血球抗原G(HLA-G)を発現することがあり、これは動脈内ナチュラルキラー細胞(NK細胞)媒介免疫応答を阻害することが当技術分野では知られている。
【0008】
要約すると、本発明は、維持された及び/又は増強された多能性を有し、並びに維持された及び/又は増強された免疫調節潜在力を有する本質的にすべてのタイプのMSCを培養拡大するための方法であって、低酸素状態下でα5ラミニン鎖を含む少なくとも1つのラミニンアイソフォームの存在下で及び/又はα4ラミニン鎖を含む少なくとも1つのラミニンアイソフォームの存在下でMSC及び/又は間葉系画分由来の細胞を培養することを含む方法に関する。更に、本発明は、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下で、場合により低酸素状態下で、MSCを培養することを含むMSCを培養拡大するための方法にも関し、前記方法を使用してMSCから高度に強力な多能性前駆細胞を誘導してもよい。前記前駆細胞は心筋前駆体でもよいが、他のタイプの多能性細胞も培養拡大し、間葉系間質組織及び細胞から誘導することが可能である。
【0009】
上記の通り、低酸素状態はある特定の応用にとって重要であるが、優れた培養結果はα5及びα4ラミニンと正常酸素の組合せを使用しても得られてきた。更に手短に言えば、本発明は、多能性であるだけでなく、例えば、T細胞から調節T細胞への転換を介して又は/及びNK細胞の阻害を通じて、免疫調節能力も有するMSC及び多能性前駆細胞に関係する。更に、本発明は、自発的に拍動している心筋細胞、すなわち、1分間あたり約40〜100拍動(bpm)の頻度で自発的に拍動する心筋細胞にも関する。本発明による心筋細胞は、優れたペースメーカー細胞であり、約70〜90bpmで拍動すると思われる。更に、本発明による心筋前駆体をin vivoで投与すると、細胞は損傷部位にホーミングし虚血性組織と整列する。いかなる理論にも縛られたくはないが、細胞の遊走能力はSDF-1とCXCR4の間の相互作用の結果であり、これにより損傷及び炎症部位にホーミングすると考えられている。虚血性組織にホーミング後、前駆体は問題の組織において伸張しうる。
【0010】
更に、本発明は、前記細胞の医学的利用及び応用、本発明の実施形態を実行するための前臨床及び臨床キット及び組成物、並びに他の種々の非限定的態様にも関係する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】胚性ラット心筋間葉系幹細胞からの及びラット骨髄からの多能性心筋前駆Isl1+細胞の誘導。(a)最初の付着幹細胞画分では、少数のIsl1+細胞しかなかった(<1%)。ラミニン511、ラミニン521、又はこの2つの組合せ上でのWnt培地における低酸素状態での第1週の培養中、間葉系幹細胞はIsl1を発現する細胞に転換した。ラミニン511若しくはラミニン521、又はこの2つの組合せは、アルファ4鎖を含むラミニンとも組み合わされ(主にLN-421及びLN-411)、これにより培養中のより良好な拡大及びIsl1+細胞への誘導がもたらされた。Isl1+細胞と共に、心筋αアクチニンを発現している更に分化した細胞が存在した。それに続く継代中、心筋αアクチニンを発現している細胞の相対的割合は低減され、培養2週間(5継代)後、細胞の80±15%(低酸素と組み合わせたLN-521上)、細胞の85±8%(LN-521+LN-421上)、細胞の89±8%(低酸素又は正常酸素と組み合わせたLN-521+LN-421上)がIsl1を発現し分化した細胞は残されていなかった。(b)培養2週間以内に、最初の画分が18倍に拡大していた。(c)ウェスタンブロット分析により、培養Isl1+細胞でのWnt/βカテニン経路の活性化が確認され、最初の付着細胞画分と比べて、セリン1490上のリン酸化Lrp6と活性(脱リン酸化)βカテニン(ABC)の両方のレベルが増加していることを示した。パネルでは、バーは50μmを表す。
図2】骨髄、臍帯血、並びに胎児及び成人心臓間葉系幹細胞(MSC)からの多能性MSC及び前駆細胞の誘導。(A)MSC供給源から多能性細胞を作製し拡大するのに使用した実験手順の模式図。(B)Wnt及びラミニン(少なくとも1つのα5含有ラミニン及び少なくとも1つのα4含有ラミニン)プロトコルの開始前、間葉系幹細胞画分の5%未満がIsl1を発現した。ある特定の実験では、細胞は心筋αアクチニン(α-act)を発現している細胞と混合してもよいが、それは任意の工程である。(C)少なくとも1つのα5含有ラミニン、少なくとも1つのα4含有ラミニン上での、及びWnt培地での低酸素培養中の最初の週の間、MSCはIsl1を発現する細胞に転換した。(D)2週間の培養後、平均で細胞の95±3%がIsl1陽性であり、細胞の40%超がまだ増殖中でKi67を発現していた。(E)培養された細胞は、心筋αアクチニン、フォンヴィルブランド因子(vWF)及び平滑筋アクチン(SMA)を発現している細胞に分化させることができた。プロトコルを検証するため、最初の間葉系幹細胞画分は異なる条件下:Wnt培地+LN-521+LN-421+正常酸素、Wnt培地+LN-521+LN-411+低酸素、Wnt培地+LN-511+LN-411、Wnt培地+プラスチック、Wnt3a+LN-521 +/- LN-511のない培地、及びWnt3a+プラスチックのない培地で培養した。(G)qRT-PCR分析によれば、Wnt培地とα5鎖を含む少なくとも1つのラミニン(例えば、ラミニン511若しくはラミニン521又はこの2つの組合せ)の組合せが未分化Isl1+細胞の誘導及び拡大には必要であることが示されている。少なくとも1つのα5含有ラミニンと少なくとも1つのα4含有ラミニンの組合せにより、Isl1陽性細胞の誘導が増強され、低酸素状態を加えると細胞成長が更に改良された(データは図8図11、及び図12に示されている)。パネルBからEには、DAPIでの核染色がマゼンタ色で示されている。Isl1についてとマゼンタ色で共染色している細胞は白色で示されている。バーは50μmを表す。パネルFでは、エラーバーは平均±標準偏差を表す。図では、**p<0.01;***p<0.001。
図3】ヒト胎児/胚性心臓、成人心臓組織、及び対象からの骨髄吸引液由来の付着画分のフローサイトメトリー分析。細胞は間葉系幹細胞マーカーである、CD105、CD90、CD73、及びCD44を発現し、造血系列マーカーCD14、CD19、CD34、CD45及び内皮マーカーCD31については陰性であった。全体では、本発明のMSCは一般に、従来のMSC最小基準、すなわち、CD105、CD73及びCD90を発現しているが、CD45、CD34、CD14、CD11b、CD79アルファ、CD19又はHLA-DRは発現していないプラスチック付着細胞に付着した。
図4】胎児心臓のIsl1陽性及び陰性領域におけるin vivo提示細胞と比べた培養された多能性前駆細胞の遺伝子発現プロファイルを表すヒートマップ。細胞の起源は(A)ラット及び(B)ヒトにある。シグナルの平均連鎖及びlog2変換が提示されている。ヒートマップカラースケールは、赤色(高発現)から黒色(平均発現)を経て緑色(低発現)までの範囲に及ぶ。
図5】培養されたヒト多能性前駆Isl1+細胞の遺伝子発現プロファイルを表すヒートマップ及び異なる前駆体集団を定義するフローサイトメトリー分析。(A)全RNAはヒト胎児心臓(9.5週間)由来のIsl1陽性(Islet1+ve、赤血球)及び陰性(Islet-1-ve)領域から及びレーザーキャプチャー法を通じて単離された。図では、OFT:流出路; LA:左心房; LV:左心室; RA:右心房; RV:右心室。核はDAPIにより青色に染色される。バーは50μmを表す。(B)ヒートマップ:培養されたヒト多能性心筋前駆Isl1+細胞(ヒト胎児心臓から得た)はヒト胚性心臓のIsl1陽性領域よりも高いIsl1の発現を有し、分化マーカーの発現ははるかに低かった。培養されたIsl1+細胞の多能性マーカーの発現は培養過程中(2〜3週間)増加した。図では、シグナルの平均連鎖及びlog2変換が提示されている。ヒートマップカラースケールは、赤色(高発現)から黄色を経て青色(低発現)までの範囲に及ぶ。(C)ヒト胎児及び成人心臓、ヒト臍帯血MSC、並びにヒト骨髄MSCのフローサイトメトリー分析では、CD34+及びCD45+細胞集団は除外された(ある特定の状況下ではそれが好ましい場合がある)。ヒトIsl1+細胞はKDR、(約60%SSEA-1)及び約5%C-kitを共発現した。SSEA-1細胞はKDRを共発現し、C-kit+細胞集団の約3%を占めた。
図6】免疫染色及び蛍光標識細胞ソーティング(FACS)を使用する培養されたヒト多能性心筋前駆Isl1+細胞の特徴付け。(A)免疫染色は培養された多能性心筋前駆細胞でのIsl1、TBX18、及びNKX2.5の発現を示している。(B)細胞のFACS分析は、既知のマーカー幹細胞KDR、c-kit、及びSSEA-1を発現している細胞の亜集団を示している。(C)免疫染色は、培養された多能性心筋前駆Isl1+細胞の一部でSSEA-1の発現を確認しており、心筋多能性前駆細胞の既知のマーカー、PDGFRα及び種々の細胞型の走化活性に関与しているケモカイン受容体であるCXCR4の発現を示している。
図7】蛍光標識細胞ソーティング(FACS)を使用する培養されたヒト多能性MSC細胞の特徴付け。代表的なグラフは、インターフェロンγ(INF-γ)処置及び非処置細胞が細胞表面にHLA-Gを発現することを示している。HLA-G発現のシフトはINF-γ刺激すると見ることが可能であり、これは細胞の免疫調節応答性を示している。
図8】ルシフェラーゼ及びβ-gal発現トランスポゾンで標識された移植ラット多能性MSC細胞(胚性若しくは胎児心臓から又はラット骨髄から得られる)の免疫組織化学による検出。(A)ヘマトキシリンエオシン染色は、左心室壁への標識されたIsl1+細胞の注射部位を示している。注射24時間後、X-gal染色は注射部位(図Aの挿入図)とPAとAoに近い流出路領域(図Bの挿入図)の両方での標識された多能性細胞(青色細胞)を同定した。2週間後、注射部位で検出することができた多能性細胞はわずかであった(C)。これらの細胞はその外見を変えており、周囲の心筋細胞と平行に伸張され組織化された。(D、E)標識された多能性細胞が左心室の周囲虚血領域に注射されると、細胞の大多数は梗塞巣(図Dの挿入図)にとどまり、注射24時間後流出路領域で見出された細胞はわずかであった(図Eの挿入図)。(F)2週間後、標識された細胞は梗塞巣でまだ見出され、再び、移植細胞は伸張され周囲の心筋細胞の間に分散された(図Fの挿入図)。図では、バーは1000μmを挿入図では100μmを表す。略字:Ao:大動脈; PA:肺動脈; RA:右心房; LV:左心室。
図9】ルシフェラーゼ及びβ-gal発現トランスポゾンで標識されたラット多能性MSC前駆体(骨髄の間葉系画分から又は成体若しくは胚性心臓から得られた)のin vivo生存及び遊走の研究。(A)標識された細胞は正常のラット心臓の左心室壁に注射され、そこでin Vitroイメージングシステム(IVISシステム)は注射の数時間後強いシグナルを検出した。(B)24時間後、もっとも強いシグナルは流出路に対応する領域で検出され、そこにシグナルは1週間の検出期間中とどまった(C)。標識された細胞は次の工程で正常な心臓の左心室壁に注射された。24時間以内に、もっとも強いシグナルが流出路領域で検出された(D)。心筋梗塞の誘発後、もっとも強いシグナルは再び虚血領域で検出され、そこでシグナルは24時間から(E)梗塞後1週間まで増加した(F)。(G)心筋梗塞誘発の8時間後、標識されたIsl1+細胞の尾部静脈への注射。細胞はシグナルがもっとも強かった梗塞域にホーミングした。種々のラミニンの組合せ(LN-521、LN-511、LN-421、LN-411、LN-111、LN-211、及び/又はLN-221並びにその種々の組合せ、特にLN-521及び/又はLN-111/211/221、並びに、場合によりLN-421及びLN-411のいずれか1つ)で被覆された細胞は、ホーミング、生着、及び生存が更に改良された。シグナルは肺でも見ることが可能であり、これはおそらく細胞の一部が肺の毛細管網目構造で維持されていることを示している。
図10】α5鎖を含むラミニンは培養拡大、自己再生、及び多能性MSCの誘導に極めて重要であり、低酸素状態は細胞成長を劇的に改良するが、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンを組み合わせると(場合により、低酸素と組み合わせて)、MSCのはるかに効率的な培養(培養拡大)及び誘導をもたらす。ラミニン511、ラミニン521、及びこの2つの組合せは、MSC(健康なヒトドナーの骨髄から、ヒト臍帯血から、ヒト羊膜腔から、又はヒト胎児若しくは成人心臓組織から入手可能である)を誘発して、免疫調節潜在力を保持しつつ多能性系列に入らせ、他のラミニンはそのようは細胞成長を促進することができない。しかし、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンを組み合わせると(例えば、LN-421及び/又はLN-411)、MSCの培養拡大並びにIsl1及び/又はHLA-Gに陽性であることがある多能性免疫調節性細胞への誘導を劇的に更に増強する。再び、図8から見ることが可能なように、低酸素状態を適用すると、培養拡大及び誘導を更に改良することができ、MSCの免疫調節特性を保持する。
図11】ラミニン111、211、221、及びその2つの組合せは、多能性心筋前駆細胞の分化を含む、細胞分化を促進する。ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、又はその任意の組合せは、多能性心筋前駆(場合により、Isl1+細胞)細胞の心細胞(例えば、心筋細胞、平滑筋細胞、及び/又は内皮細胞)への分化を促進する。分化プロトコルは、正常酸素又は低酸素と組み合わせてもよい。
図12】標準状態下で(正常酸素下プラスチック上で)及び低酸素状態下LN-521上で培養される多能性細胞(MSC)(ls1+陽性及び/又はHLA-Gに対し陽性であってもよい)の成長曲線。Isl1+細胞は、大半の例では、標準状態下でよりも低酸素下LN-521上で有意に速く増殖した。
図13】種々の条件下で成長させた細胞での多能性のマーカー(Isl1、KDR、Nkx_2_5)及び分化した筋細胞のマーカー(トロポニンT2)の発現はqRT-PCRにより分析した。低酸素下で成長させたLN-521上の細胞は、正常酸素下LN-521上で、低酸素下プラスチック上で及び正常酸素下プラスチック上で成長させた細胞よりも有意に多くの数のIsl1、KDR及びNkx_2_5 mRNA転写物並びに少ない数のトロポニンT2転写物を発現した。エラーバーは95%信頼区間を表す。
図14】アルファ5含有ラミニン上で並びにアルファ5含有及びアルファ4含有ラミニンの混合物上で成長させたIsl1細胞での多能性のマーカー(Isl1、KDR、Nkx_2_5)及び分化した筋細胞のマーカー(トロポニンT2)の発現はqRT-PCRにより分析した。混合物上で成長させた細胞は、アルファ5含有ラミニンのみの上で成長させた細胞よりも高いレベルの多能性マーカー及び低いレベルの分化マーカーを発現した。エラーバーは95%信頼区間を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、MSC(すなわち、間葉系間質細胞又は間葉系幹細胞)並びに維持された及び/若しくは増強された多能性を有する並びに/又は維持された及び/若しくは増強された免疫調節潜在力を有する間葉系画分から入手可能な細胞を培養するための方法であって、(i)α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及び/又は(ii)α4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下、低酸素又は正常酸素状態下でMSCを培養することを含む方法に関する。更に、本発明は、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及び/又はα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下、場合により、低酸素状態下でMSCを培養することを含む、MSCを培養拡大するための方法にも関する。これらの方法は、MSCから高度に強力な多能性(前駆)細胞を誘導するのにも使用することができ、これは再生心臓学の分野を前進させるための重要な成果である。
【0013】
更に、本発明は、多能性であるだけでなく、例えば、T細胞を調節T細胞に転換することを介して強力な免疫調節能力も有する多能性MSCに関係する。更に、本発明は、HLA-Gに対して陽性である免疫調節性細胞(例えば、MSC、前駆細胞(例えば、心筋前駆細胞)等の多能性細胞、及び/又は心細胞等の分化した細胞)にも関する。更に、本発明は、拍動している心筋細胞、すなわち、約40〜100bpmの頻度で自発的に拍動する心細胞にも関する。本発明による心筋細胞は優れたペースメーカー細胞であり、正常な状態下では約70〜90bpmで拍動する。更に、本発明による心筋前駆体をin vivoで投与すると、細胞は損傷部位にホーミングし、虚血組織と整列する。いかなる理論にも縛られたくはないが、細胞の遊走能力はSDF-1とCXCR4の間の相互作用の結果であり、その結果損傷及び炎症部位にホーミングすると考えられている。虚血組織にホーミング後、前駆体は問題の組織において伸長しうる。
【0014】
本発明は、特に、多能性細胞を誘導するための方法(例えば、細胞を誘発して多能性前駆系列に入らせるための方法)であって、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及び/又はα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下、低酸素又はある特定の状況では正常酸素状態下で間葉系幹細胞(MSC)(例えば、骨髄、ワルトン膠様質、周産期組織、臍帯血、羊膜組織、脂肪組織、等から入手可能な、例えば、間葉系細胞画分由来の細胞)を培養する工程を含む方法に関係する。場合により、培養培地はWnt古典的経路(Wnt canonical pathway)を活性化する少なくとも1つの薬剤を含んでもよい。
【0015】
更に、本発明は、細胞集団を、好ましくは心筋細胞まで更に分化させるために、ラミニン111、ラミニン221、及びラミニン211、又はその任意の組合せを含む群から選択される少なくとも1つのラミニンの存在下で、本発明の方法を使用して得ることができる、多能性心筋前駆細胞の培養にも関する。その上、本発明は、多能性前駆細胞の自己再生及び/又は増殖のための方法であって(場合により、本発明による誘導方法を介して入手可能であるが、自己再生及び/又は維持手順は他の方法を介して又は他の供給源から得られる細胞に適用してもよい)、(i)α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下、及び、場合により、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を含む培地で、MSC等の多分化能及び/又は間葉系画分由来の細胞(例えば、とりわけ、マーカー、HLA-G又は間葉系画分から入手可能な心筋前駆Isl1+細胞に対して陽性でありうるいかなるタイプのMSCでも、)を培養する工程と、(ii)工程(i)から入手可能な細胞を細胞培養で維持する及び/又は拡大する工程を含む方法に関係する。工程(i)及び/又は(ii)(すなわち、自己再生(増殖)方法)で得られる細胞(特に、HLA-G及び/又はIsl1+に対して陽性でありうる)は、それに続いて、細胞集団を(心細胞、具体的には心筋細胞に)更に分化させるために、ラミニン111、ラミニン211、及びラミニン221、及びその組合せを含む群から選択される少なくとも1つのラミニンの存在下で培養してもよい。
【0016】
更に、本発明は、維持された及び/又は増強された多能性を有する、任意の組織由来のMSCを含む、任意のタイプの幹細胞、間葉系画分由来の細胞、及び/又は心筋前駆体等の多能性前駆細胞を培養拡大するための方法であって、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及び/又はα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下、低酸素状態下でMSCを培養することを含む方法に関係する。低酸素状態は一般に種々のタイプの幹細胞を培養するために利用されているが、低酸素は、培養中に幹細胞の多能性を維持する又は増加するためにα5鎖及び/又はα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンと一緒に適用されたことはこれまで一度もなかった。臍帯間葉系間質細胞を低酸素下及びマトリゲル(とりわけ、完全に異なる分子であるラミニン111を含有する)上で培養することは、Chon及び共同研究者らによりMSCを分化する方法として以前記載されており(Stem Cell Res Ther, 2013年)、すなわち、細胞をより多能性の低いものにし、これは本発明の教示とは全く正反対の方向を指している。本発明の発明者らはこれに関して偶然(serendipitous)の発見をしたのであり、なぜならば、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンと低酸素状態を組み合わせる場合の効果は、この組合せが幹細胞、及び具体的には、間葉系幹細胞(MSC)の多能性を予想外に維持し及び/又は増加する様子が並はずれているからである。
【0017】
更に、本発明は、MSC及び種々のタイプの前駆細胞を含む、維持された及び/又は増強された多能性を有する任意のタイプの幹細胞のクローン成長及び拡大のための方法であって、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下、正常酸素又は低酸素状態下で幹細胞を培養することを含む方法に関する。クローン成長は個別化された細胞の生存及び拡大を意味し、この細胞は遺伝子的に操作されていてもいなくてもよい。
【0018】
更に、本発明は、医療において、例えば、心臓学関連徴候において使用するための本発明の方法により入手可能な細胞(例えば、MSC、間葉系画分由来の細胞、多能性細胞、心筋前駆細胞でもよい前駆細胞、Isl1+細胞及び/又は心細胞、例えば、心筋細胞)、並びに標的部位/組織への細胞の効率的送達を可能にするために、細胞及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物にも関係する。更に、本発明は、少なくとも1つの外来性ラミニン、すなわち、細胞又は細胞培養物由来ではなく外来性起源でありそのin vitro及びin vivo有効性を増強するために細胞に接触させるラミニンで覆われた(少なくとも部分的には)細胞にも関する。細胞を覆う少なくとも1つのラミニンは、LN-521、LN-511、LN-421、LN-411、LN-423、LN-211、LN-221、LN-111、等、及びその任意の組合せのうちのいずれか1つから選択してよい。本発明は、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンと多能性細胞を誘導するために(例えば、細胞を誘発して多能性系列に入らせ、場合により、HLA-G及び/又はIsl1に対して陽性であるために)Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤の組合せの使用に更に関する。同様に、本発明は、(i)ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、又はその組合せ、と場合により、(ii)多能性細胞(場合により、Isl1に対して陽性の細胞)を心細胞に分化させるためのWnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤の組合せの使用にも関する。Wnt古典的経路を活性化する薬剤は、その存在は絶対に必要であるというわけではないが分化工程に含まれてよい。
【0019】
本発明の特長、実施形態、又は態様はマーカッシュ群の点から記載されている場合、当業者であれば、本発明がそれによって、マーカッシュ群の任意の個別のメンバー又はメンバーのサブグループの点からも記載されることは認識するであろう。当業者であれば、本発明はそれによって、マーカッシュ群の個別のメンバー又はメンバーのサブグループの任意の組合せの点からも記載されることは更に認識するであろう。更に、本発明の態様及び/又は実施形態のうちの1つに関連して記載される実施形態及び特長も必要な変更を加えて本発明のその他のすべての態様及び/又は実施形態に適用されることは注目するべきである。例えば、多能性細胞を誘導するための方法に関連して記載されるWnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤は部品のキット(互換的にキットと名付けられる)にも適していると理解されるべきである。更に、ある特定の態様と関連して記載されるある特定の実施形態、例えば、多能性細胞を誘導するための方法に属する態様との関係で記載されるブロモインディルビン-3'-オキシム(BIO)は、当然のことながら、例えば、本発明に従って、組成物又は部品のキットに関係する態様/実施形態におけるBIOの場合でも、他の態様及び/又は実施形態と関連して適切でありうる。
【0020】
便宜上及び明確にするために、本明細書で用いられるある特定の用語を下に集めた。他の方法で定義されていなければ、本明細書で使用される専門用語及び科学用語はすべて本発明が属している分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有している。
【0021】
本発明の文脈内では、用語「〜の存在下で…を培養する」とは、細胞(単数又は複数)を、例えば、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニン及び/又はWnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤に接触させることを包含すると解釈してもよいと理解されるものとする。下により詳細に概要を述べているように、例えば、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤の存在下での培養時間は当然のことながら、本発明にとり重要である場合がある。通常、本発明の文脈内で使用されるラミニンは、細胞/組織培養装置、例えば、細胞培養皿又は治療目的で、例えば、本発明の方法工程を使用して、Isl1+細胞を誘導し、それに続いて前記細胞を心筋細胞まで分化させるためにヒト又は動物の身体内に移植されることがあるステント上を被覆している。
【0022】
更に本発明に従って、間葉系幹細胞(間葉系間質細胞又は多能性間質細胞と呼ばれることが多い)(MSC)(例えば、間葉系画分由来の細胞)は、胎児若しくは成人心筋間葉系細胞、胚性幹細胞、臍帯血MSC、周産期MSC、骨髄由来MSC、及び/又は羊膜幹細胞、歯蕾MSC、脂肪組織若しくはワルトン膠様質由来のMSC、又はこれらの細胞供給源の任意の組合せでもよい。間葉系細胞は、間葉系幹細胞(MSC)としても知られているが、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞を含むがこれらに限定されない種々の細胞型に分化することが可能な多能性間質細胞である。MSCは、上記の通り、骨髄、中胚葉、臍帯血、ワルトン膠様質、成人の筋肉、例えば、心筋、成長中の歯蕾、及び/又は羊水由来でもよい。「間葉系画分」由来の細胞は、本発明の文脈内では、上記供給源、例えば、骨髄、中胚葉、臍帯血、ワルトン膠様質、成人の筋肉、成長中の歯蕾、及び/又は羊水のいずれか由来でもよい細胞に関係すると理解されるものとする。骨髄液は間葉系細胞画分の細胞(すなわち、間葉系細胞)の適切な供給源である。骨髄液は、吸引針を用いて腸骨稜に入り、続いてある一定容積の細胞含有吸引液を抽出することにより得てもよく、その吸引液は続いて選別し、培養し、又は将来の使用のために凍結してもよい。代わりに、本発明の目的のために臍帯血、成人心筋、又は羊膜細胞を抽出して単離してもよい。前記細胞の単離は、従来の技法により分娩に関連して実行してもよい。患者の処置のために用いられるMSC(すなわち、間葉系画分由来の細胞)は、同種起源でもよく、すなわち、通常は処置を必要とする患者由来の自己細胞を使用する必要はないが、自己MSCはある特定の設定では及びある特定の目的には有利であることがある。本発明による細胞は、疾患又は障害を有する対象から、例えば、後天的又は先天的心臓又は心血管障害、疾患又は機能障害、例えば、心臓欠陥を有する対象から更に入手してもよい。細胞は、哺乳動物起源、例えば、ヒトでもよく、細胞は遺伝的に改変された細胞であってもよい。更に、上記の通りに、MSCは完全に無関係な、適合した又は適合していないドナー、好ましくは、若い健康なドナー(好ましくは、35歳未満)から、例えば、骨髄から細胞を吸引する(例えば、約50ml)ことにより入手してもよい。
【0023】
用語「ラミニン」は、ヒト組織において約15の異なる組合せを形成するそれぞれ5つ、4つ、及び3つの遺伝的に異なる種類として存在するα、β、及びγ鎖で構成されたヘテロ三量体糖タンパク質のファミリーに属する。ラミニンは、鎖組成に従って名付けられ、例えば、ラミニン511(LN-511)はα5、β1、及びγ1鎖からなる。以前、ラミニンはその発見の順に名付けられた。したがって、ラミニン111はラミニン1と名付けられ、ラミニン511はラミニン10と名付けられ、ラミニン521はラミニン11と名付けられた。ラミニンは、基底膜の主成分であり、in vivoで種々の細胞と接触し、異なるラミニンは発生中の生物において様々な時間空間的な発現パターンその上組織特異的位置及び機能を示す。したがって、ラミニン211及びラミニン221は主に筋肉細胞及び運動ニューロンシナプス周辺の基底膜に存在し、ラミニン332は上皮下基底膜に特異的であり、ラミニン511は特に遍在している。最初に発見されたラミニンであるラミニン111は、ラミニン-1又はただのラミニンとしても知られており、初期胚に限定されており、成人ヒト組織中では極めて稀なアイソフォームである。ラミニン111はもっとも広範囲に研究された。なぜならば、ラミニン111はマウスEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)肉腫から単離することが可能であり、これは誘発するのが簡単だからである。他のラミニンは広範囲な架橋のせいで組織から単離するのは困難であり、好ましくは、哺乳動物細胞においては組換えタンパク質として発現されるべきである。ラミニンの細胞効果は主に、インテグリン、ジストログリカン、及びルーテル糖タンパク質等の細胞膜受容体に結合しているリガンドを介して媒介される。細胞効果は細胞中で直接アウトサイドインシグナル伝達を誘発することが可能であり、これは遺伝子の転写レベルを変更し、遺伝子プロモーターのクロマチンリモデリングに影響さえ与えることが明らかにされている。ラミニンはそのリガンド特異性が非常に異なっている。したがって、α5鎖を含むラミニンはインテグリンα6β1、インテグリンα3β1及びルーテル糖タンパク質に強く結合することが可能であり、ラミニン111(又はラミニン)はインテグリンα7X2β1及びジストログリカンにもっとも高い親和性を有する。ラミニ
ンβ及びγ鎖はラミニン-インテグリン結合を調節することが可能であるが、細胞相互作用は主に受容体へのα鎖の結合を介して媒介される。したがって、α5含有又はα4含有ラミニンは、例えば、α2含有又はα1含有ラミニンとは高度に違っている。α1含有ラミニンは長い間細胞培養では広い範囲で使用されてきたが、本発明の文脈での培養拡大及び/又はIsl1+誘導のために使用されるラミニン(すなわち、α5含有及び/又はα4含有ラミニン)とは機能的にも構造的にも類似していない。
【0024】
したがって、本明細書で使用される用語「α5鎖を含むラミニン」とは、タイプ5(5)のα鎖を含む任意のラミニンポリペプチド、例えば、ラミニン511、521、523、等のことである。α5鎖を含む追加のラミニンも当然のことながら本発明の範囲内にある。同様に、本明細書で使用される用語「α4鎖を含むラミニン」とは、タイプ4(4)のα鎖を含む任意のラミニンポリペプチド、例えば、ラミニン411、421、423、等のことである。α4鎖を含む追加のラミニンも当然のことながら本発明の範囲内にある。更に一般的には、本出願で開示されるすべてのポリペプチド及び/又はヌクレオチドは、問題のポリペプチド及び/又はヌクレオチドに少なくとも70%配列同一性、好ましくは少なくとも80%の配列同一性、並びに更に好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチド及び/又はヌクレオチド配列を包含する。
【0025】
本発明の文脈で用語「に陽性である」及び「に陰性である」(例えば、問題のポリペプチド及び/又はポリヌクレオチド「に陽性である」細胞)とは、生物学及び医科学内で通常その用語に与えられる意味の通りに理解されるものとし、本質的には、ある特定のポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドに陽性である細胞は前記ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを発現する。問題のポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドは、種々の手段を介して、例えば、蛍光標識細胞ソーティング(FACS)及び/又は免疫組織化学技法及び/又はLC-MS及び/又は2D-PAGE等のプロテオミクス技法を使用して同定してもよい。用語「に陽性である」はある特定の例では、細胞の少なくとも50%が問題のポリペプチド(又はポリヌクレオチド又は他の任意のマーカー)を発現する、しかし、好ましくは集団の少なくとも70%又は更に好ましくは少なくとも90%が問題のポリペプチドを発現する細胞集団を含むと理解してもよい。用語「に陰性である」は同様の趣旨で、当然のことながら用語「に陽性である」とは反対である、すなわち、集団の細胞のうちの少なくとも50%、しかし、好ましくは少なくとも70%、又は更に好ましくは少なくとも90%が問題のポリペプチド(又は他の適切なマーカー)を発現させないと理解してもよい。しかし、ある特定のマーカー(例えば、ポリペプチド)では、細胞集団はしたがって、問題のマーカーの非常に低い全体的発現(例えば、3%)を有することがあるが、ある特定の細胞はそのマーカーの上方調節を示す。
【0026】
用語「Isl1+細胞」又は「多能性心筋前駆Isl1+細胞」又は「多能性心筋前駆細胞」又は「多能性細胞」は適切な場合には、正常な状況下では以下のマーカー:Isl1、Sox2、SSEA1、Nanog、Tra-1、BrachyuryT、CXCR4、HLA-G、PDGFRα、及び好ましくはKDR、又はその任意の組合せ(特に、Isl1、HLA-G及びPDGFRアルファを含む組合せ)のうちのいずれか1つを発現することがある細胞のことであってもよい。更に、本発明に従った細胞は、Tbx6、C-Kit、GATA4、Mef2c、Nkx2.5、Tbx1、Tbx18、Hand2、FoxH1、Fgf8及び/又はFgf10に対しても陽性でありうる。心筋前駆細胞は好ましくはトロポニンT(TnT)、トロポニンI(TnI)、ミオシン重鎖(MHC)及び心筋αアクチニンのような成熟心筋細胞マーカーを発現するべきではないし、成熟内皮マーカーCD31を発現するべきでもない。
【0027】
更に、本発明によるMSC及び他の多能性細胞は、好ましくは、IFNガンマ及び/又はTNFアルファで刺激すると、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現することがあり、これらの多能性細胞はT細胞と一緒に共培養するとT細胞を調節T細胞に変換することがあり、これらの多能性細胞は損傷及び/又は炎症部位へホーミングすることがある。更に、本発明によるそのような細胞は、HLA-Gも発現することがあり、HLA-Gはその強い免疫調節特性を媒介することに寄与する場合もある。本発明による細胞は、以下の順序のポリペプチド存在量(すなわち、LC-MS等のプロテオミクス技法を使用して分析した場合、以下の順序のポリペプチドの発現の存在量):ビメンチン>アネキシンA1、及び好ましくは、ビメンチン>アネキシンA1>CD44>インスリン様成長因子結合タンパク質7>脂肪酸結合タンパク質3を更に示すことがある。更に、(b)での細胞外小嚢集団の集団は以下の順序のポリペプチド存在量:セロトランスフェリン(serotransferrin)>アネキシンA2を示す。好ましくは、Isl1+細胞から入手可能な細胞外小嚢の集団は以下のポリペプチド存在量:セロトランスフェリン>アネキシンA2>結合組織成長因子を示すことがあり、前記細胞外小嚢は以下のポリペプチド:LIMドメイン唯一タンパク質7、LIMドメイン及びアクチン結合タンパク質1、コートマータンパク質複合体、サブユニットベータ2(ベータプライム)、アイソフォームCRA_b、リボヌクレアーゼ阻害剤、PDZ及びLIMドメインプロテイン5、レティキュロカルビン(reticulocalbin)-1、初期エンドソーム抗原1、セプチン-2、アクチン関連タンパク質2/3複合体サブユニット2、セプチン11のうちの少なくとも1つに対して実質的に陰性であってもよい。Isl1+細胞のこれらの特徴は以前記載されたことは一度もなく、本発明に従った細胞の臨床応用において非常に重要である。例えば、インスリン様成長因子結合タンパク質7(IGFBP7)の発現を介して、免疫系を調節するIsl1+細胞の能力は、T細胞のTregへの変換を誘発するが、治療効果への重要な寄与因子であることがある。同様に、IDOの発現(炎症性刺激により)並びに、例えば、ビメンチン及びアネキシンA1(並びに、その他の上記ポリペプチド)の高発現は本発明のIsl1+細胞の重要な特徴である。
【0028】
用語「心細胞」又は「心臓細胞」又は「心筋細胞」は、正常な状況下では、ミオシン重鎖(MyH)、心筋αアクチニン、トロポニンT(TnT)及び/又はトロポニンI(TnI)等のマーカーを発現することがある細胞として理解されるものとし、そのタンパク質は通常は収縮要素に組織化される。心筋細胞は1分間で約40〜100拍動(好ましくは、約50〜80bpm)で拍動しており、急速な収縮期及び緩慢な弛緩期を有する。
【0029】
用語「前駆細胞」又は「前駆体」とは、それが分化により生じることが可能な細胞と比べて、もっと原始的である(すなわち、完全に分化した細胞よりも早い段階で発生経路又は進歩の途中である)細胞表現型を有する細胞のことであると理解されるべきである。前駆細胞は著しい又は非常に高度な増殖ポテンシャルも有していることが多く、発生経路及び細胞が成長し分化する周囲の環境に応じて、複数の異なる分化した細胞型を又は単一の分化した細胞型を生じることが可能である。細胞は前駆細胞として開始し分化した表現型へと進んでいくが、次に、先祖返りして前駆細胞表現型を再発現することが可能である。したがって、前駆細胞は非幹細胞に由来することが可能である。
【0030】
用語「幹細胞」とは、未分化細胞のことであると理解されるべきであり、この未分化細胞は著しく増殖する能力があり、母型の多数の細胞を作製する能力を有するもっと多くの前駆細胞を生じ、その細胞が今度は分化した又は分化可能な娘細胞を生じることができる。娘細胞それ自体を、増殖して子孫を生み出すように誘発させることが可能であり、この子孫はそれに続いて、同時に親の発生ポテンシャルを有する1つ又は複数の細胞を保持しつつ、1つ又は複数の成熟細胞型に分化することが可能である。語句「幹細胞」とは、特定の状況下で、更に特殊化した又は分化した表現型にまで分化する能力又は潜在力を有する及びある特定の状況下で、実質的に分化せずに増殖する能力を保持する前駆体のサブセットのことである。用語「幹細胞」とは一般に、胚細胞及び/又は組織の進行性の多様化で起こるように、例えば、完全に個別の特徴を獲得することによりその子孫が分化を通じて、多くの場合異なる方向へ特殊化する天然に存在する母細胞のことであってもよい。細胞分化は、典型的には多くの細胞分裂を通じて起こる複雑な過程であり、分化した細胞はそれ自体が多能性細胞、等に由来する多能性細胞から導き出されてもよい。これらの多能性細胞のそれぞれが幹細胞であると見なしてもよいが、それぞれが生じることが可能な細胞型の範囲はかなり変動することがある。一部の分化した細胞は更に大きな発生ポテンシャルの細胞を生じる能力も有し、そのような能力は様々な因子を用いた処置により人工的に誘発されてもよいし、天然でもよい。幹細胞は、多くの場合、「多能性」でもある。なぜならば、幹細胞は1つよりも多い異なる細胞型の子孫を生み出すことができるからであり、これはその「幹細胞性」には要求されない。更に詳細には、多能性は、1つ又はいくつかのタイプの高分化した細胞型に分化する細胞の能力として及び/又は自己再生能力として定義することが可能である。自己再生は幹細胞定義のもう一方の典型的な部分であり、自己再生は本発明の目的には重要である。理論的には、自己再生は、2つの主要な機構のいずれかにより、すなわち、対称的に又は非対称的に起こることが可能である。非対称的分裂は、1つの娘が幹状態を保持しもう一方の娘がある異なった他の特異的機能及び表現型を発現していることである。対称的分裂とは、集団中の幹細胞の一部が2つの幹に対称的に分裂し、したがって、集団全体としていくつかの幹細胞を維持しており、集団中の他の細胞は分化した子孫のみを生じる場合の過程のことである。幹細胞として始まる細胞が分化した表現型へと進むが、次に、先祖返りして幹細胞表現型を再発現することが公式的に起こりえ、これは、例えば、「脱分化」又は「再プログラム」又は「逆分化(retrodifferentiation)」と呼ばれることが多い過程である。多能性は、多能性についてのマーカー、例えば、Isl1、KDR、SEEA-1、Sca-1、NANOG、PDGFRα、及び/又はSox-2の発現により現出することが多い。
【0031】
本文脈での用語「分化」とは、もっと特殊化し高分化細胞になるのが近くなっている細胞に関連することが知られているマーカー又は特徴を発現している細胞の形成を意味すると理解されるべきであり、高分化細胞は更に分裂する又は分化することはできない。進行性の分化又は進行性のコミットメントとは、細胞があまりコミットメントしていない細胞から特定の細胞型にますますコミットメントしてくる細胞へ、及び最後には高分化している細胞まで進行していく経路のことである。比較的特殊化している(例えば、進行性の分化の進路に沿って進行し始めた)がまだ高分化していない細胞は部分的に分化していると呼ばれる。分化は、細胞が特殊化した表現型を獲得する(例えば、他の細胞型とは異なる1つ又は複数の特徴、特長、又は機能を獲得する)発生過程である。ある特定の場合、分化した表現型は、ある発生経路における成熟エンドポイント(いわゆる高分化細胞)にある細胞表現型のことであってよい。多くの(しかし、すべてではない)組織では、分化の過程は細胞周期からの出口と関連しており、これらの場合には、高分化細胞は増殖能力を失う又はひどく制限する。本発明の目的では、用語「分化」又は「分化した」は、その発生での前の時点よりもその運命及び/又は機能がより特殊化している細胞のことであり、したがって、高分化している細胞と(高分化しているのではないが)その発生での前の時点よりも特殊化している細胞の両方を含むと理解されるべきである。
【0032】
用語「再生」又は「自己再生」又は「増殖」は本明細書では互換的に使用されており、長い期間にわたり、例えば、何か月から何年も同じ非特殊化細胞型に分裂することにより自己更新する幹細胞の能力のことだと理解されるべきである。増殖は、いくつかの場合、単細胞の2つの同一の娘細胞への繰り返される分裂による拡大のことであってもよい。
【0033】
用語「胚性」とは本発明の文脈内では、胎児の材料(すなわち、細胞又は組織)、すなわち、発生中の胎児から入手可能な細胞/組織を指すのに使用してもよい。定義によれば、胚は臓器形成の時期(すなわち、臓器が形成され始める時)に胎児段階に入り(すなわち、胎児になり)、本発明に従ったある特定の例で使用される組織及び細胞は胎児材料から、すなわち、妊娠6〜10週から得られる。通常、ヒトでの定義は、胚性期は受精から受精8週間後まで伸び、8週間から始まって分娩まで続く時期は胎児期と定義される。本質的に、本発明の文脈内では、出生前細胞及び/又は組織が利用される場合、通常は胎児特徴であるが、胚性特徴の場合もある。
【0034】
本明細書で使用される用語「増強された及び/又は維持された多能性」とは、細胞のより多能性の状態への脱分化として、又は細胞を問題の状態に曝露する前と同じ多能性状態での細胞の維持として理解してもよい。本明細書で使用される用語「系列」とは、共通の先祖を持つ細胞又は共通の発生運命を有する細胞に関係すると理解されるべきである。非限定的例によれば、「Islet 1+系列」に入っている細胞は、Isl 1+前駆体でありIsl 1+を発現している細胞、及びIsl 1+前駆体系列制限経路に沿って分化することがある細胞とのことであると理解されるべきである。そのような経路は、1つ又は複数の発生系列経路、例えば、内皮系列、心臓系列又は平滑筋系列であってもよい。例えば、Islet 1+系列に入っている細胞とは、心臓において3つの主要細胞型(すなわち、心臓、平滑筋、及び内皮細胞)に分化する能力を有する細胞のことである。
【0035】
「マーカー」とは、細胞の特徴/特長及び/又は表現型を記載すると理解されるべきであり、マーカーは多くの場合、目的の特徴を含む細胞の選択/同定のために使用することが可能である。マーカーは特異的な細胞により変動する。マーカーは、特定の細胞型の細胞、又はその細胞型から発現される分子の形態的、機能的又は生化学的(酵素的)特徴であれ、特徴である。マーカーは好ましくは、タンパク質であり、より好ましくは、入手可能な抗体又は他の結合分子に対する少なくとも1つのエピトープを有する。しかし、マーカーは、タンパク質(ペプチド及びポリペプチド)、多糖類、核酸、脂質、及びステロイドを含むがこれらに限定されない細胞中又は上に見出される任意の分子であってもよい。形態的特徴/特長又は形質のいくつかの例は、例えば、形状、サイズ、及び核対細胞質比を含む。機能的特徴又は形質の例は、例えば、ある特定の条件下で遊走する能力、ある特定の基質に付着する能力、及び特定の系列に沿って分化する能力を含む。
【0036】
用語「対象」及び「個体」及び「患者」は本明細書では互換的に使用してもよく、細胞を得ることができる及び/又は予防又は予防的処置を含む処置(例えば、本発明による細胞を使用して)が提供される動物、例えば、ヒトのことであると理解されるべきである。有利なことに、本発明の文脈で記載される処置の対象は哺乳動物、好ましくは、ヒト、又は他の哺乳動物、好ましくは、家畜化若しくは生産哺乳動物である。
【0037】
心血管疾患、状態又は障害は、心血管(心臓)又は循環系(血管)に関係する医学的状態を含むと理解されるべきである。心筋損傷への応答は、一部の細胞が死滅し他の細胞は休眠(hibernation)の状態(細胞はまだ死滅してはいないが機能障害になっている)に入る明確に定義された経路の後に続く。これに続いて、瘢痕化過程の一部として炎症性細胞の浸潤及びコラーゲンの沈着が起こる。これは、新しい血管の内殖及びある程度の連続する細胞死と並行して起こる。用語循環器疾患は、不十分で望ましくない又は異常な心機能、例えば、先天性心疾患及び対象、特に、ヒト対象におけるうっ血性心不全をもたらす任意の状態、虚血性心疾患、高血圧性心疾患及び肺高血圧性心疾患、並びに弁膜症を特徴とするすべての障害及び疾患を含むことが意図されている。不十分である又は異常である心機能は、例えば、心膜、心臓弁、(例えば、狭窄した弁、役に立たない弁、リウマチ性心疾患、大動脈弁逆流、僧帽弁逸脱)、心筋(心筋梗塞、冠動脈疾患、心不全、アンギーナ、虚血性心疾患)、血管(例えば、動脈硬化症又は動脈瘤)、又は静脈(例えば、静脈瘤、痔核)の疾患及び/又は障害を含む、疾患、損傷、外傷、及び/又は老化を意味することができる。用語「虚血」とは、血液の流入の減少に起因する任意の局所的組織虚血のことであると理解されるべきであり、用語「心筋虚血」は冠動脈硬化及び/又は心筋への不十分な酸素供給により引き起こされる循環障害を含むと理解されるべきである。急性心筋梗塞は、心筋組織へ不可逆的虚血発作を表してもよい。この発作は、冠循環に閉塞性(例えば、血栓性又は塞栓性)イベントをもたらし、心筋代謝要求が心筋組織への酸素供給を上回っている環境を作り出しうる。他の種々の疾患は本発明による様々な細胞集団を用いた処置を受け入れられる。そのような疾患は、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、移植片対宿主病(GvHD)、固形臓器拒絶及び細胞及び/若しくは組織移植片の拒絶、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、関節炎等のリウマチ様疾患、多発性硬化症等の任意のタイプの炎症駆動型(inflammation-driven)若しくは免疫誘発(immunologically induced)疾患、ALS、サルコイドーシス、特発性肺線維症、乾癬、腫瘍壊死因子(TNF)受容体関連周期熱症候
群(TRAPS)、インターロイキン1受容体アンタゴニストの欠損(DIRA)、子宮内膜症、自己免疫性肝炎、強皮症、筋炎、脳卒中、急性脊髄損傷、血管炎、又は腎不全、肝不全、肺不全、心不全等の本質的にいかなるタイプの臓器不全も、並びに/或いはその任意の組合せから選択してもよい。
【0038】
用語「薬剤」とは、例えば、(いかなる限定もせずに)合成及び天然に存在する非タンパク質性及びタンパク質性実体を含む、任意の化学的実体又は部分のことである。薬剤は、核酸、核酸類似物、ペプチド、タンパク質、抗体、アプタマー、例えば、オリゴヌクレオチド、リボザイム、DNAザイム、糖タンパク質、タンパク質、siRNA、リポタンパク質、アプタマーを含むアミノ酸、核酸、若しくは炭水化物のオリゴマー、及びその任意の修飾物及び組合せであってもよい。薬剤も、おそらく、例えば、非置換又は置換アルキル、芳香族、若しくはマクロライドを含むヘテロシクリル(heterocyclyl)部分、レプトマイシン、及び関連する天然産物又はその類似物等の化学的部分を含む、ある特定の化学的部分を有する小分子を含むと理解されるべきである。本明細書で使用されるように、用語「Wnt活性化剤」とはWnt古典的経路を活性化する、又はWnt古典的経路の阻害剤の活性を阻害する若しくは抑制する任意の薬剤のことである。活性化は好ましくは選択的活性化であり、これはWnt3経路が非Wnt3経路に対する効果(すなわち、阻害の活性化)を実質的に排除するほど活性化されることを意味する。
【0039】
用語「治療有効量」とは、疾患、障害、又は疾患若しくは状態の症状の改善、軽減、又は治療をもたらす量のことであると理解されるべきである。
【0040】
用語「投与する」、「導入する」及び「移植する」は本発明の目的のために、例えば、本発明の方法を使用して分化される前駆体(例えば、Isl1+細胞)及び/又は心筋細胞を対象内に置くという文脈では互換的に使用される。適切な方法又はルートとは、所望の部位への心血管幹細胞の少なくとも部分的局在化をもたらす方法又はルートである。細胞は、細胞又は細胞の成分の少なくとも一部が生存可能なままでいる(投与後の細胞の生存可能な期間はわずか数時間から数日でも、から数年でもよい)対象中の所望の場所/部位への送達をもたらす任意の適切なルートにより投与されて(送達されて)もよい。本発明の目的に適した投与様式は、例えば、(限定せずに)静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、脳室内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節腔内、嚢下、くも膜下、脊髄内、脳内脊髄(intracerebro spinal)、並びに胸骨内(intrasternal)注射及び注入を含む。
【0041】
本明細書で使用される語句「薬学的に許容される賦形剤」とは、薬学的に許容される物質、組成物又はビヒクル、例えば、主題の薬剤を懸濁させる、その活性を維持する又は1つの臓器若しくは身体の部分から別の臓器若しくは身体の部分に運ぶ若しくは輸送することに関与する固体若しくは液体充填剤、希釈剤、賦形剤、担体、溶媒又はカプセル封じ材料に関すると理解されるべきである。本明細書で使用される用語「誘導体」又は「変異体」とは、例えば、天然に存在するポリペプチド又は核酸と少なくとも1つのアミノ酸又は核酸の、例えば、欠失、付加、置換又は側鎖修飾が異なっているが、同時に天然に存在する分子の1つ又は複数の特異的な機能及び/又は活性を保持しているペプチド、化学物質又は核酸のことであると理解されるべきである。アミノ酸置換は、アミノ酸が異なる天然に存在する又は従来にないアミノ酸残基で置き換えられている変化を含んでいてもよく、これらの置換は保存的でも非保存的でもよい。本発明は、特に、Wnt古典的経路を活性化する薬剤の使用に関係している。Wnt活性化剤の例は、例えば、ポリペプチド、ペプチド、核酸、核酸類似物、ファージ、ペプチド模倣物、抗体、小若しくは大有機分子、リボザイム又は無機分子又はその任意の組合せ(場合により、天然に存在する)を含んでいてもよい。Wnt古典的経路を活性化する薬剤は、例えば、本明細書に記載される又は当技術分野で公知のWnt経路に参加する1つ又は事情次第で複数の核酸及び/又はタンパク質を不活化する又は活性化できるように機能する抗体(ポリクローナル又はモノクローナル)、中和抗体、抗原結合抗体断片、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣物、アプタマー、オリゴヌクレオチド、ホルモン、小分子、核酸、核酸類似物、炭水化物又はその変異体を含んでいてもよい。上記の例となる実施形態は、特に、記載される成分、材料、及び適用されるプロセスパラメータに関して、本発明の範囲から逸脱することなく改変することが可能であることは理解されるものとする。
【0042】
本発明は、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの賢明な組合せを使用すると極めて有利であり、MSC(Isl1に対して陽性でありうる)の驚くほど増強された誘導をもたらすという予想外の認識に一部基づいている。本発明の培養方法を用いると、MSC集団は培養状態で長期間にわたり拡大し、維持された及び/若しくは増強された多能性を有する並びに/又は維持された及び/若しくは増強された免疫調節潜在力を有するが、こうしたことは当技術分野では以前一度も記載されたことがない。α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンは、ラミニン511、ラミニン521、ラミニン523、前記ラミニンの任意の組合せ、ラミニン511又はラミニン521のポリペプチド配列に少なくともおおおよそ70%(好ましくは少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも90%)の配列同一性を有する任意の天然、組換え、又は合成タンパク質、ラミニンα5鎖Gドメインのポリペプチド配列を含む任意の天然、組換え、又は合成タンパク質、ラミニンα5鎖Gドメインのポリペプチド配列に少なくともおおよそ50%(好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは少なくとも90%)の配列同一性を有するポリペプチド配列を含む任意の天然、組換え、又は合成タンパク質、及びラミニン511若しくはラミニン521若しくはラミニン523又はα5鎖を含む他の任意のラミニントリマーのポリペプチド配列由来のポリペプチドを含む任意の細胞培養成長下層又は細胞培養培地添加物を含む群から選択されてもよい。α4鎖を含む少なくとも1つのラミニンは、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン423、前記ラミニンの任意の組合せ、ラミニン411又はラミニン421又はラミニン423のポリペプチド配列に少なくともおおよそ50%(好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは少なくとも90%)の配列同一性を有する任意の天然、組換え、又は合成タンパク質、ラミニンα4鎖Gドメインのポリペプチド配列を含む任意の天然、組換え、又は合成タンパク質、ラミニンα4鎖Gドメインのポリペプチド配列に少なくともおおよそ50%(好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは少なくとも90%)の配列同一性を有するポリペプチド配列を含む任意の天然、組換え、又は合成タンパク質、及びラミニン411若しくはラミニン42
1若しくはラミニン423又はα4鎖を含む他の任意のラミニントリマーのポリペプチド配列由来のポリペプチドを含む任意の細胞培養成長下層又は細胞培養培地添加物を含む群から選択されてもよい。
【0043】
予想外にも、本発明者らは、低酸素下、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下でMSCを培養することが、維持された及び/又は増加した多能性を有する極端に効率的な培養拡大にとり重要であり、低酸素も、特にα5鎖を含む少なくとも1つのラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下で培養された場合は、多能性細胞(例えば、Isl1に対して陽性であるMSC又は心筋前駆細胞)の誘導に積極的な影響を及ぼすことを見出していた。細胞を10%又はそれ未満(好ましくは5%又はそれ未満)の酸素を含有する雰囲気(本質的に、低酸素状態)において培養すると、多能性マーカー及び免疫調節潜在力についてのマーカーの発現は、培養2週間後、細胞集団の90%よりも多くで安定的に検出された。α5鎖を有する少なくとも1つのラミニンとα4鎖を有する少なくとも1つのラミニンの組合せで、低酸素状態下でMSCを培養すると、5週間よりも長く、時には10〜20週間よりもはるかに長く、ある特定の場合には、1年よりも長く細胞の増殖が可能になった。本発明者らは、以前WO2014/011095において、α5鎖を有する少なくとも1つのラミニンとWnt古典的経路を活性化する薬剤とを組み合わせた使用がMSCから多能性心筋前駆Isl1陽性細胞を誘導するための効率的な技法であると記載しているが、本発明の培養プロトコル(α5とα4鎖を有するラミニンを組み合わせる)の有効性は、場合により低酸素状態の間でのα5及びα4含有ラミニンの偶然の組合せのために、以前記載したものよりもはるかに高く細胞成長ははるかに速い。この結果は極めて予想外である。なぜならば、低酸素は従来幹細胞の多能性を維持するために使用されているのであり、ある特定の系列(この場合は、免疫調節MSC系列)への誘導を誘発するためではないからであり、そのためこの結果は極めて偶然の発見である。
【0044】
好ましい有利な実施形態では、α5含有ラミニン(例えば、LN-511、LN-521、LN-523、等、及びその任意の組合せ)及びα4含有ラミニン(例えば、LN-411、LN-421、LN-423、等、及びその任意の組合せ)の組合せは、α5含有ラミニンが全ラミニンの約25%までを占める場合最適化されると思われる。しかし、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンの量をかなり実質的に減らすことは可能であるが、細胞成長とIsl1誘導との間の均衡を最適化するためには、約25(重量)%のα5含有ラミニンと約75%のα4含有ラミニンとの濃度比である。しかし、良好な結果は40%対60%で、30%対70%で、及び20%対80%でも得られてきた。
【0045】
更に本発明に従って、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤は、Wnt-1、Wnt-3a、Wnt-8、Wnt-8b、及びその任意の組合せを含む群から選択してもよい。Wnt古典的経路を活性化する追加の薬剤も、Wnt古典的経路の活性化が、問題の経路の直接的活性化を介して(例えば、Wnt-3aにより媒介されて)もたらされるのか非古典的経路の遮断によるWnt古典的経路の間接的刺激を介して(例えば、ベータカテニンの上方調節を引き起こすグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)の遮断を介して)(すなわち、BIOを使用して)もたらされるのかどうかとは無関係に、当然のことながら、本発明の範囲内である。その上、種々のタイプの薬剤を本発明の範囲内で利用してもよく、下で更に詳細に概要を述べられる。
【0046】
本発明者らは、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤の適切な濃度間隔は本発明には重要であり、適切にはおおよそ10〜250ng/mlの濃度であるが、好ましくはおおよそ50〜150ng/mlの濃度、更に好ましくはおおよそ約100ng/mlであると認識していた。当然のことながら、濃度間隔は特定の場合に用いられるWnt活性化剤の活性及び有効性に依存する。例えば、Wnt活性化ポリペプチド(例えば、Wnt-3)と組み合わせて又は単独で、BIOを利用する場合、適切な濃度範囲はおおよそ0.1〜5mM、好ましくはおおよそ0.5〜3mM、更に好ましくはおおよそ2.5mMでもよい。更に、上皮成長因子(EGF)は、細胞拡大を増強するためには、1ng/mlから100ng/mlまでの範囲に及ぶ濃度で(好ましくは約10ng/ml)培養培地に含まれてもよい。更に、DMEM/F12培地が細胞培養法に使用される場合、培地にはB27を補充してもよい。
【0047】
本発明の方法により入手可能な細胞を更に分化させるためには、更なる分化工程を含んでいてもよく、多能性細胞(本発明の方法を介して得られる又は他の任意の供給源から入手可能な細胞)は、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、及びその任意の組合せ、並びにラミニン111、ラミニン221、又はラミニン211のポリペプチド配列に少なくともおおよそ70%配列同一性を有するポリペプチド配列を含む任意の天然の、組換え、又は合成タンパク質を含む群から選択される少なくとも1つのラミニンの存在下で培養される。ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、及びその任意の組合せ、並びにラミニン111、ラミニン221、又はラミニン211のポリペプチド配列に少なくともおおよそ70%配列同一性を有するポリペプチド配列を含む任意の天然の、組換え、又は合成タンパク質を含む群から選択される少なくとも1つのラミニンの存在下で細胞を培養する場合、所望の細胞型、この場合、心(心臓)細胞(及びおそらく組織)までの分化を更に増強するために、Wnt活性化剤は培養培地から排除してもよい(図9)。ラミニン111及び他のα1含有ラミニン(ラミニン121等の)(及びそのようなラミニンを含むマトリックス、例えば、GelTrex(登録商標))は、一部の例では、本発明による間葉組織からMSCを培養する(場合により、α4含有ラミニン(例えば、LN-411、LN-421、LN-423、等、又はその任意の組合せ)と組み合わせて)のにも利用してよいが(前駆細胞を心細胞に分化させるために使用することに加えて)、α5含有及びα4含有ラミニンの組合せを使用する誘導のほうが有意により効率的であり確実である。
【0048】
更に別の態様では、本発明は、場合により、HLA-Gに対して陽性であることに加えて、場合により、例えば、心細胞、例えば、心筋細胞に更に分化させる(本発明の方法を使用して分化される心細胞は通常、トロポニンT発現の少なくとも100倍の増加、多くの場合、発現の150倍の増加を示す)、本発明の方法により入手可能な細胞に関係する。本発明による細胞は、貯蔵、容易になった取扱い、並びにそれに続く使用及び実験を可能にするため、場合により、凍結保存してもよい。
【0049】
更に別の態様では、本発明は組成物及び/又はα5鎖を含む少なくとも1つのラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニン、及び、場合により、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を含むキットに関する。更に本発明に従って、Wnt古典的経路を活性化し組成物に含まれる少なくとも1つの薬剤は、Wnt-1、Wnt-3a、Wnt-8、Wnt-8b、及びその任意の組合せを含む群から選択してもよい。Wnt古典的経路を活性化する追加の薬剤は、Wnt古典的経路の活性化が問題の経路の直接的活性化を介して(例えば、Wnt-3aにより媒介されて)もたらされるのかWnt古典的経路の間接的刺激を介してもたらされるのかどうかとは無関係に、当然のことながら、本発明の範囲内である。組成物は、液体、固体、マトリックス、分散液、懸濁液、乳濁液、ミクロ乳濁液、ゲル、又は溶液、又はその任意の組合せでもよい。本発明に従った組成物は、例えば、液体(好ましくは、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を含む)と実質的に固体及び/又はゲル及び/又はマトリックス(好ましくは、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンとを含む)の組合せであってもよい。
【0050】
更なる態様では、本発明は、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニン、並びに、場合により、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を場合により含む細胞培養培地を含むキット(すなわち、部品のキット)に関する。キットの成分(すなわち、ラミニン及び任意選択のWnt活性化剤)は、本発明による方法を実行する際に成分を組み合わせることができるように、別々の容器(例えば、バイアル、アンプル、チューブ、又は同類の物)で有利に提供してもよい。キットは、例えば、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を(適切な濃度で)含む細胞培養培地、並びに、例えば、細胞培養に適した表面(細胞培養プレート、マルチウェルプレートのウェル、ペトリ皿、細胞培養フラスコ、等)に被覆されたα5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンを含んでいてもよい。更に、キットはMSC又は多能性細胞、例えば、Isl1+細胞を心細胞(例えば、心筋細胞)にまで分化させるための追加の成分、すなわち、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、及びその任意の組合せを含む群から選択される少なくとも1つのラミニンを含んでいてもよい。したがって、本発明による適切な誘導及び分化キットは、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を含む細胞培養培地、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン、α4鎖を含む少なくとも1つのラミニン、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を欠くことがある細胞培養分化培地、並びに、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、及びその任意の組合せを含む群から選択される少なくとも1つのラミニンを含むと考えられる。一実施形態では、α5鎖及びα4鎖を含むラミニンは細胞培養設備の第1のセット上に被覆されていてもよく、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、及びその任意の組合せを含む群から選択される少なくとも1つのラミニンが細胞培養設備の第2のセット上に被覆されており、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を含む細胞培養培地が1つの容器で提供され、Wnt活性化剤を欠く細胞培養分化培地が別の容器で提供される。しかし、α5鎖を含むラミニン及びα4鎖を含むラミニン並びにラミニン111、ラミニン211、ラミニン221
の賢明な組合せも本発明の範囲内である。
【0051】
更に、ヒト又は動物身体内部で誘導及び/又は心筋細胞分化を可能にするために、ヒト又は動物身体への移植のためのステント又は他の医療機器も、α5鎖を含むラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニン、又はラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、及びその任意の組合せを含む群から選択される少なくとも1つのラミニンの適切な組合せで被覆してもよい。ステントは、例えば、金、コバルトクロム、タンタル(tanatalum)、ニチノール、シリコン、ポリエチレン、及び/又はポリウレタン又はその任意の組合せを含んでいてもよい。問題のステントは、例えば、冠動脈ステント、血管バイパスステント、及び/又は気管用ステント(trachea stent)でもよい。ステントは、薬剤溶出性ステントでもよく、その場合、溶出される薬物は、例えば、Wnt活性化剤(例えば、Wnt-1、Wnt-3a、Wnt-8、Wnt-8b、及びその任意の組合せ)、血管新生のための薬剤、免疫調節剤、又は生着及びステント機能を最適化する他の任意の適切な薬剤でもよい。ステントは、細胞、例えば、MSC、前駆細胞、Isl1+及び/若しくはPDGFRアルファ及び/若しくはHLA-Gに対して陽性の細胞、又は心細胞に更に分化されている細胞(例えば、心筋細胞又は心臓内皮若しくは平滑筋細胞)と一緒に又はなしで移植されてもよい。
【0052】
更に、本発明による多能性細胞及びMSCは、その治療効果を増強するために、少なくとも部分的に外因的に由来するラミニンにより被覆されていてもよい。一実施形態では、MSCは、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンに、α4鎖を含む少なくとも1つのラミニンに、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンとの組合せに、ラミニン111、211、221のうちのいずれか1つ、又は上記ラミニンのすべてのうちの任意の組合せに覆われていてもよい。本発明者らは、対象に投与すると、ラミニンに覆われた/被覆された細胞はより強い再生効果を発揮し、これは細胞の免疫調節特性をin vitroで評価しても見ることが可能であるとの予想外の発見をした。MSC及び/又は心筋細胞のコーティングは、例えば、いわゆるUpCell(商標)表面(本質的には、温度が(例えば、37℃から室温へ)低下すると細胞が粘着しなくなる細胞培養プレート)を有する温度調節された細胞培養プレート上で細胞を培養することにより達成してもよいし、又は注射前にラミニンが添加されるマトリックスで培養されてもよい。これらの手順によりラミニンが細胞に付着し、細胞は少なくとも部分的に少なくとも1つのタイプのラミニンで「被覆される」及び/又は「覆われる」。細胞へのラミニンのコーティング又は付着は、対象への投与に先立ってラミニンに対する抗体染色により評価される。少なくとも部分的にα4含有及び/若しくはα5含有ラミニン並びに/又はLN-111、LN-211、及び/若しくはLN-221で被覆されたMSCは強い治療効果を発揮し、損傷及び炎症部位へのホーミングが改善され、生着が増強され、全体的に生存がより長くなる。
【0053】
別の態様では、本発明は医療における使用のための本発明による細胞に関係する。更に具体的には、細胞は、第2心臓野に由来する部分(例えば、右心房、右心室、流出路(大動脈、肺動脈)及び心室中隔)を冒す心臓欠陥に起因する心臓機能不全、心不全、心筋梗塞、及び/又は先天性心疾患の処置及び/又は予防において使用してもよい。更に、本発明は、医療における使用のための、例えば、第2心臓野に由来する部分(例えば、右心房、右心室、流出路(大動脈、肺動脈)及び心室中隔)を冒す心臓欠陥に起因する心臓機能不全、心不全、心筋梗塞、及び/又は先天性心疾患、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、移植片対宿主病(GvHD)、固形臓器拒絶及び細胞及び/又は組織移植の拒絶、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、関節炎等のリウマチ様疾患、多発性硬化症等の任意のタイプの炎症駆動型若しくは免疫誘発疾患、ALS、サルコイドーシス、特発性肺線維症、乾癬、腫瘍壊死因子(TNF)受容体関連周期熱症候群(TRAPS)、インターロイキン1受容体アンタゴニストの欠損(DIRA)、子宮内膜症、自己免疫性肝炎、強皮症、筋炎、脳卒中、急性脊髄損傷、血管炎、又は腎不全、肝不全、肺不全、心不全等の本質的にいかなるタイプの臓器不全も、並びに/或いはその任意の組合せの処置及び/又は予防において使用するための、本発明による細胞を、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と共に含む医薬組成物にも関する。本発明の誘導方法を通じて(すなわち、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニン及びα4鎖を含む少なくとも1つのラミニンの存在下で、場合により、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤を含む培地で間葉系細胞を培養することを通じて)入手可能であるMSCと、本発明の分化方法を使用して(すなわち、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、又はその任意の組合せのいずれか1つの存在下で培養することを通じて)更に分化されている細胞の両方は、上記の疾病及び障害に限定されない、種々の病気及び不快の処置又は予防のために医薬組成物に含まれてもよい。本発明による医薬組成物は、遊離の可溶化剤として又はそれ自体細胞上のコーティング物及び/若しくは付着物として、少なくとも1つのラミニンを更に含んでいてもよい。適切なラミニンは、本発明の培養方法において使用されるラミニン
、例えば、α5若しくはα4鎖(LN-521、LN-511、LN-411、LN-421)及び/又はLN-111、LN-211、LN-221、若しくはその任意の組合せのうちのいずれか1つを含むラミニンから選択してもよい。
【0054】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体、通常は、約9%NaClを含む水溶液中、1mlあたり少なくとも100,000(1*105)細胞、好ましくは、1mlあたり少なくとも500,000(5*105)を含んでいてもよい。更に、好ましくは、体重1kgあたり少なくとも100,000細胞、好ましくは、体重1kgあたり少なくとも500,000細胞、又は更に好ましくは、体重1kgあたり少なくとも1,000,000MSCを使用してもよい。
【0055】
本発明に従った更なる態様は、必要とする対象において、第2心臓野に由来する部分(例えば、右心房、右心室、流出路(大動脈、肺動脈)及び心室中隔)を冒す心臓欠陥に起因する心不全、心臓機能不全、心不全、及び/又は先天性心疾患を改善する、軽減する又は予防するための処置の方法であって、治療有効量の本発明に従った細胞を対象に投与することを含む方法に関係する。対象は、好ましくは、哺乳動物、例えば、ヒトである。細胞は、血管内投与、静脈内投与、脳室内投与、心外膜投与、筋肉内投与、門脈内投与、くも膜下腔内投与、及び/若しくは皮下投与を介して、又は細胞を標的部位/組織に送達する他の任意の適切な投与法を介して投与してもよい。具体的には、心筋梗塞という文脈では、細胞は、カテーテルを使用して、閉塞血管において(再開通前に又は後で)血管内注射/注入を介して又は経皮投与を介して有利に患者に投与してもよい。更に、洞結節機能不全の処置のために、Isl1+細胞(場合により、心筋細胞、この場合、ペースメーカー細胞に分化した)は好ましくは、冠状静脈洞を通じて、右心房に導入されたカテーテルを使用して経皮投与を介して患者に投与してもよい。
【0056】
代わりに、本発明の多能性細胞(例えば、MSC及び/若しくは多能性心筋前駆細胞又は心筋細胞に更に分化した細胞でもよい)は、適切なステント(例えば、処置手順と関連して導入される冠動脈ステント)の導入を介して患者に投与されてもよい。更に、細胞の子宮内投与は胎児心欠陥を処置するのに適用してもよい。
【0057】
更なる態様では、本発明は、多能性前駆細胞を誘導するための(すなわち、細胞を多能性前駆系列に入るように誘発するための)、α5鎖を含む少なくとも1つのラミニンとα4鎖を含む少なくとも1つのラミニン、及び、場合により、Wnt古典的経路を活性化する少なくとも1つの薬剤の組合せの使用に関係する。本発明の方法により作製され拡大された多能性細胞、MSC及び更に分化した心細胞は、例えば、薬剤、例えば、先天性及び成人心不全の治療薬を含むがこれに限定されない疾患の治療介入の開発のための薬剤をスクリーニングするためのin vitroアッセイ及び実験において使用してもよい。代わりに、本発明の細胞は、細胞に対して有毒である薬剤をスクリーニングするためのアッセイ(例えば心毒性試験)において用いてもよい。
【実施例】
【0058】
多能性細胞の起源及び拡大をたどることができるフィーダーなし培養系を更に改善するために、本発明者らは、蛍光マーカー緑色蛍光タンパク質(GFP)に連結されたIsl1プロモーター領域の一部を含むプラスミド構築物を合成した。プラスミドはエレクトロポレーションにより細胞内に導入された。(i)ラット胚心臓、(ii)ラット骨髄から得られた、(iii)若い健康なドナーの骨髄から得られた、(iv)ヒト臍帯血及び他のタイプの周産期組織から得られた、(v)ヒト羊膜供給源から単離された、(vi)ヒト成人心臓組織から単離された間葉系細胞にIsl1遺伝子構築物で標識し、同時にWnt含有培地(100ng/ml Wnt-3a及び2.5mM BIO)に添加した。細胞培養プラスチックは、α5鎖を含む種々のラミニン及びα4鎖を含むラミニン(特に、ラミニン511、ラミニン521、ラミニン411、ラミニン421、及びその任意に組み合わせ)で前被覆していた。培養では、細胞は集密度まで成長し、一日おきに継代培養された。それぞれの継代で、細胞はIsl1の発現について免疫組織化学的に分析された。
【0059】
それぞれの連続する継代ごとに、多能性細胞の比率が増加し、これはIsl1遺伝子構築物の活性化を通じてプレート上に直接登録されるIsl1発現に対応することが多かった。最初の画分は、Isl1を発現した細胞は1%未満であり、これは培養状態での2週間後80%を超えるまで増加した。2週間以内で、多能性細胞集団(Isl1に対して陽性である場合がある)はWnt+ラミニンプロトコルの開始から25倍まで拡大し、細胞のうちの50%までがまだ増殖しており、培養過程の終了時にはKi67を発現していた。α5鎖を含むラミニンとα4鎖を含むラミニンとの最適比は、付着及び成長を促進するためには、約25%α5含有LN、MSCシグナル伝達を促進するためには、75%α4含有LNであると思われる。
【0060】
多能性細胞を生じる種々のMSC供給源の能力を研究するため、細胞が集密度まで成長し終わった後、本発明に従ってα5含有及びα4含有ラミニンで前被覆されたプレート上に播種する前に、細胞はIsl1+遺伝子構築物で標識された。更に、100ng/ml Wnt-3aを再び利用してWnt古典的経路を活性化したが、今回、BIOは排除し、ウシ胎仔血清(FBS)の濃度は10%まで増やし、細胞はラットIsl1+細胞まで類似する様式で増殖した。これらの細胞は、ラット細胞及び他のヒト組織由来のMSC(すなわち、骨髄、羊膜又は臍帯血細胞から入手可能な間葉系細胞)と類似する成長パターンを示し、2週間後、細胞はプロトコルの開始からほとんど70倍拡大しており、Isl1、NKX2.5、及びPDGFRαを発現している多能性細胞の約95%純粋な集団を生み出していた。
【0061】
5週間拡大された付着MSCは続いて間葉系パネルを使用してFACS分析された。付着画分は、造血系列マーカーCD14、CD19、CD34、CD45及び内皮マーカーCD31に対して陰性である一方で、間葉系幹細胞マーカーCD105、CD90、CD73及びCD44を発現した(図3)。類似の発現プロファイルが利用したすべての供給源由来のMSCを使用して得られた。拡大中細胞がその表現型を変化させていないことを確かめるため、異なる供給源由来の細胞の試料を取り除きWnt/ラミニンプロトコルに従って刺激した。これにより、Isl1、NKX2.5、及びPDGFRαを発現している類似する量と比率の多能性細胞が得られた。これらの所見により、我々は多能性幹細胞及びMSCは、ラミニン上で培養した場合、Wnt古典的経路の刺激により種々の間葉系細胞供給源から作製することが可能であり、α5鎖を含むラミニンとα4鎖を含むラミニンを組み合わせ、低酸素培養条件を利用した場合には最適の結果が得られると結論付ける。
【0062】
Isl1、NKX2.5、及びPDGFRαを発現している培養されたラット及びヒト多能性細胞の遺伝子発現プロファイルが研究され、胚性心臓中にin vivoで存在するIsl1+細胞と比べられた(図4)。これらの研究は、培養された多能性心細胞が心臓の体細胞型を生じるIsl1+細胞に類似していることを確かめるために実施された。ほぼ確実にIsl1+細胞において活性化される転写因子の中核となるグループを同定するために、本発明者らは、マウスにおいてSHF発生を調節するのに重要であると示されている関連している転写因子を同定した。これらの研究により、SHFの転写ネットワークに密接に関与している転写因子のセットが同定された。これらには、ホメオドメインタンパク質のNKクラスのメンバー、ジンクフィンガー転写因子GATA4、MADSドメイン転写因子Mef2c、T-box及びフォークヘッド転写因子並びにベーシックループヘリックス(Hand)因子のHandクラスが含まれる。Isl1転写因子の下流、Isl1-GATA4-Mef2c経路は心筋細胞の誘導を誘発するカスケードの活性化に中心的な役割を果たしていると思われる。Isl1及びGATA4因子は相互作用してMef2c転写因子の活性化を誘発し、続いて転写因子Nkx2.5及びHand2を上方調節していると思われる。SHFの他の重要な調節因子はフォークヘッド転写因子FoxH1、Tbx1転写因子であり、これはその活性化をフォークヘッド因子に及び最終的にFgf8に依存しており、これは今度はTbx1により調節される。更に、Fgfシグナル伝達の遮断はSHFでのIsl1+細胞の拡大を防ぎ、Isl1経路に対する上流効果を示している。培養されたラット及びヒト多能性心筋幹細胞は、SHFの転写ネットワークに関与している上記の重要な転写因子、すなわち、Isl1、Mef2c、Nkx2.5、FoxH1、Tbx1、Fgf8及びFgf10と共に、中胚葉マーカーTBX6及びBrachyuryTを発現している。更に、培養されたラット及びヒト多能性心筋幹細胞は、もっと成熟した心筋細胞マーカートロポニンI(TnI)、トロポニンT(TnT)並びにミオシン重鎖(Myh)6及び7に対して陰性である一方で、初期心筋細胞マーカー中胚葉後部1(MESP1)も発現する。本明細書で用いられる異なる供給源(例えば、成人骨髄、成人心臓組織、等)から得られる培養された多能性心筋幹細胞は、胚性心臓から単離されたIsl1+細胞に類似する遺伝子発現プロファイルを示す。培養されたヒトIsl1+細胞では、Isl1-GATA4-MEF2c経路は、培養されたラット多能性心筋幹細胞とin vivo提示Isl1+細胞の両方よりも上方調節されている。これは骨形成ペプチド(BMP)の上方調節とよく相関しており、このペプチドは初期心発生の刺激及び初期心筋細胞マーカーNkx2.5及びMESP1の付随する上方調節にとって重要である。
【0063】
他の重要な所見は、培養された細胞とin vivo提示Isl1+細胞の両方が、多能性マーカー、Tra-1、Sox2、Nanog及びステージ特異的胚性抗原-1(SSEA-1)を発現しており、同時に、ネスチン(NES)、神経堤細胞で発現されることが知られている、ペアードボックス3(PAX3)、並びにもっと少ない程度に平滑筋マーカーミオカルディン(MYOCD)及びMyh11を発現していることである。マイクロアレイデータによれば、培養されたヒト及びラット多能性心筋幹細胞は、3つの心血管系列への分化に効果的であることを示しており、心筋細胞において強調される遺伝子シグネチャ(Isl1+、KDR+、Nkx2.5+、Mef2c+、PDGFRα+)を有する多能性幹細胞である。培養された多能性心筋幹細胞はまた、幹細胞マーカーC-Kit、心外膜マーカーTbx18を、多能性表面マーカーSSEA1及び重要なことに免疫調節ポリペプチドHLA-Gと一緒に発現する。先行研究では、本発明者らは、Isl1+細胞が胚性及び出生後期の間に流出路(OFT)に局在化していることを明らかにした。成人の心臓でも、常在Isl1+細胞はこの領域に見出すことが可能であり、OFTから虚血領域に遊走することにより虚血に応答する。これは、Isl1+細胞がこの領域に活発にホーミングすることにより心筋虚血に応答することを意味している可能性がある。培養された多能性心筋幹細胞のin vivoでのホーミング能力を追跡し、同時に、この遊走を免疫組織化学的に確かめるために、細胞はエレクトロポレーションによりルシフェラーゼ及びβ-gal発現トランスポゾンで標識した。ルシフェラーゼを発現している細胞は生物発光撮像を用いてin vivoで追跡することが可能であり、β-gal発現細胞は免疫組織化学のために染色することが可能である。スリーピングビューティー(Sleeping-Beauty)-100X(SB-100X)トランスポゾン系を利用することにより、トランス遺伝子を安定的にゲノム内に組み込んだ。標識されたラット培養多能性心筋幹Isl1+細胞は免疫非適合性ラットの左心室壁に注射し、Isl1+細胞の遊走はin Vivo撮像システム(IVIS(登録商標)Spectrum CT)(PerkinElmer社、USA)により検出された。24時間以内に、大多数のIsl1+細胞は流出路のほうに遊走しはじめており、注射部位に残っている細胞はもっと少なかった(図5A図5C及び図6A図6C)。これとは対照的に、Isl1+細胞が左前下行動脈(LAD)のライゲーションにより誘発される周囲虚血領域に注射された場合、大多数の細胞はOFTに遊走しなかった。それどころか、Isl1+細胞は梗塞に見出され、そこで2週間目には、周囲の心筋細胞と平行に伸張され配置された。Isl1+細胞のホーミング能力を更に特徴付けるため、Isl1+細胞は正常な心臓の左心室に注射され、その遊走をIVISを用いて追跡した。24時間以内に、Isl1+細胞はOFTで検出されたが、LADライゲーションを通じて心筋梗塞を誘発後、細胞は虚血領域に遊走した。Isl1+細胞のホーミング特徴を更に研究するため、心筋梗塞が誘発され、続いて尾部静脈を通じて標識されたIsl1+細胞が静脈内に投与された。再び、細胞は心筋梗塞まで遊走した。これらの結果は、Isl1+細胞が、特に心臓の虚血領域に、しかしIsl1+細胞が胚性及び成人心臓に常在している領域にもホーミングする能力を有することを意味する。この遊走応答についての説明は、心筋虚血の間、周囲の心筋細胞が、間質細胞由来因子-1(SDF-1)の受容体であるCXCR4を上方調節するからである可能性がある。
【0064】
間葉系幹細胞はSDF-1を発現することで知られており、虚血の間、これらの細胞は循環からSDF-1-CXCR4系を通じて刺激される閉塞領域にホーミングする。更に、生着した間葉系幹細胞はSDF-1を分泌し、これは閉塞への心筋前駆体のホーミングを引き起こすことが明らかにされた。我々のマイクロアレイデータによれば、培養された多能性心筋幹細胞と特にin vivo提示Isl1+細胞の両方がCXCR4を発現し、これはおそらく虚血領域への細胞のホーミングを媒介する。SDF-1-CXCR4系は、正常心臓のOFTへのIsl1+細胞のホーミングにとっても重要である可能性がある。なぜならば、in vivo提示Isl1+細胞はこの受容体の高い発現を有するからである。更に、培養された多能性心筋幹細胞はin vitroでラミニンの種々の組合せ(α5含有ラミニン、α4含有ラミニン、α1含有及び/若しくはα2含有ラミニン、又はその種々の組合せ、特に、LN-521 + LN-421 +/- LN-211)で被覆され、これらの被覆(覆われた)細胞ははるかに優れたホーミング及び生存パターンを示した。
【0065】
本研究では、本発明者らは、健康な若いドナーの骨髄由来の間葉系細胞から、臍帯血から得られる間葉系細胞から、羊膜嚢供給源から、ワルトン膠様質から、成人心臓組織から、並びにフィーダー細胞が、α5鎖を含むラミニン(特に、ラミニン511、ラミニン521、及びその組合せ)及びα4鎖を含むラミニン(特に、ラミニン411、ラミニン421、及びその組合せ)により置き換えられており、Wnt古典的経路を刺激する少なくとも1つの薬剤を含む培養培地が使用されている培養系での胚性/胎児心筋間葉系細胞からラット及びヒトMSCの純粋な集団並びに多能性前駆細胞も誘導することが可能であることを明らかにした。更に、本発明者らは、場合により、低酸素状態を用いてMSC及び多能性幹細胞を高度に効果的な様式で培養もし、この方法は完全に新規のアプローチである。ヒトとラット多能性心筋幹細胞の両方が、そのそれぞれのin vivo提示相応物と類似する遺伝子発現プロファイルを有しているが、前者のほうが未成熟である。培養された多能性心筋幹細胞は、3つの心血管系列に分化するのに有利である遺伝子シグネチャを有しており、これらの幹細胞は積極的に虚血心筋にホーミングし、ある特定のプロテオミクスプロファイルにより特徴付けられる免疫調節特性を示している。本研究では、我々は、培養物中にラミニン111、211、若しくは221、又はその任意の組合せを含むことにより、多能性幹細胞を心細胞(心筋細胞、平滑筋細胞、及び内皮細胞)に分化させるための方法も考案した。これらの特徴は、例えば、心筋梗塞後に損傷を受けた心臓を修復するのに多能性幹細胞を使用するのに有益である。別の分野は、先天性心疾患であり、大動脈弓、近位肺動脈及び流出路を冒す欠損がすべての先天性心臓欠損のほぼ30%を占めている。
【0066】
動物及び倫理
Karolinska大学病院の動物管理委員会はすべての実験動物手順を承認した。妊娠したスプラーグドーリー(B&K Universal AB社、Sollentuna, Sweden)、妊娠日数14日及びRowettヌードラット(RNU, genotype rn/rnu) (Charles River Deutchland社、Germany)体重250〜300gが本研究では使用された。骨髄組織、心臓組織、及び臍帯血を収集するため、標準インフォームドコンセント手順及び地域倫理委員会による事前承認を使用して個人の許可を得た。ヒト胚組織(妊娠5〜10週)を収集するため、標準インフォームドコンセント手順及び地域倫理委員会による事前承認を使用して個人の許可を得た。調査は、ヘルシンキ宣言で概要を述べられている原則に適合している。
【0067】
低酸素細胞培養
細胞は種々の方法を使用して低酸素状態下で成長させることが可能である。通常、細胞培養のために低酸素状態は、5%又はそれ未満の酸素を含有する雰囲気での細胞の培養と定義されている。
【0068】
これは、例えば、以下の2つの方法で達成された。
1)低酸素が窒素等の化学的に不活性な重質気体を注入することによって達成される、細胞が曝露される酸素濃度を低減させた環境での細胞の培養。
2)予混合雰囲気が供給されて正常で酸素豊富な雰囲気が完全に置き換えられる環境での細胞の培養。
【0069】
Isl1プロモーター構築物のクローニング及び間葉系細胞のトランスフェクション
Isl1開始コドンの上流の3kbゲノムヒトDNA断片(ATGから-3から-3170)は、高忠実度Phusion DNAポリメラーゼ(Thermo Scientific社)を用いてPCRにより増幅させた。フォワードプライマー5'- aaa gag ctc GGT GTA ACA GCC ACA TTT -3'及びリバースプライマー5'- gga gaa ttc CTG TAA GAG GGA GTA ATG TC -3'。PCR産物は、ベクターpEGFP-1のMCS(Clontech Laboratories社、USA)の制限酵素切断部位SaclとEcoRIとの間にクローニングされた。Isl1プラスミドは、Neon(商標)エレクトロポレーションシステム(Invitrogen社、US)を使用してラット及びヒト細胞に導入された。ブタ膵臓Isl1+細胞は正の対照として使用し、ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)はIsl1遺伝子構築物の負の対照として使用した。
【0070】
胚性ラット心臓からのIsl1+MSCの誘導及び拡大
実験ごとに、10頭の妊娠したスプラーグドーリーラット(妊娠日数、GD、13〜14日)を使用した。ラットはCO2チャンバーで安楽死させ、その後に全胎仔(おおよそ10胎仔/ラット)を低正中開腹手術により摘出した。それぞれの胎仔から、顕微鏡下で心臓を摘出し、刻んで小片にし、ハンクス緩衝食塩水(HBSS)(GibcoBRL社、NY, USA)で繰り返しゆすいだ。次に心臓小片は、HBSS中0.5mg/mlトリプシン溶液で4℃、終夜予め消化した。次の工程は間葉系画分を調製することであり、この工程はLaugwitz及び共同研究者ら(Laugwitzら、2005)が開発したプロトコルの改変である。予め消化された心臓小片は、穏やかに撹拌しながら10〜15分間、37℃でインキュベータ中1ラウンドあたり2〜3ml、
コラーゲナーゼタイプII(Worthington Biochemical社、Lakewood, NJ)HBSS中240U/mlで処置された。次に、上澄みは330〜350gで8分間遠心分離し、氷冷したHBSSに再懸濁した。この手順は心臓小片が解離されるまで繰り返した。プールした細胞は再び洗浄し、330〜350gで2回遠心分離し、10%ウマ血清(GibcoBRL社)及び5%ウシ胎仔血清(FBS)(PAA Laboratories社、USA)をMycoZap(Lonza社、Switzerland)と一緒に含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)4.5/M199(4対1)(GibcoBRL社)に再懸濁した。間葉系(付着)画分は、インキュベータ中37℃、3%O2中5%CO2で1時間プラスチックウェル上で2ラウンド培養することにより、心筋細胞及び内皮細胞から分離した。付着画分からのIsl1+細胞の誘導を追跡するため、これらの細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に連結されたIsl1遺伝子用のプロモーターを含有するIsl1遺伝子構築物(上に記載)で標識した。この遺伝子構築物のおかげで、直接培養皿でIsl1+細胞の誘導を追跡することができた。間葉系細胞のIsl1+細胞への形質転換を刺激するため、付着画分をTrypLE(商標)Express(GibcoBRL社)を使用して引き離し、インキュベータ中37℃、3%O2中5%CO2で、培地DMEM高グルコース(GibcoBRL社)、MycoZap(Lonza社)、Hepes(25mM)(GibcoBRL社)、グルタミン(2mM)(Fisher Scientific社)及び15%FBS(PAA社)において培養したラミニン511、521又はこれらの組合せの薄層で被覆したプレート上で再培養した。密集時(48時間)、細胞はTrypLE(商標)Express(GibcoBRL社)を使用して引き離し、1ml B27(GibcoBRL社)、2%FBS(PAA社)、MycoZap(Lonza社)、上皮成長因子(EGF、10ng/ml)(R&Dsystems社、Minneapolis、USA)、2.5mM BIO(Sigma-Aldrich社、USA)、Wnt 3a(100ng/ml)(R&Dsystems社)を補充したDMEM/F12を含有するWnt培地において、ラミニン511、521又はこれらの組合せで被覆したプレート上で再培養した。密集時、細胞は継代させ、同じ培地で、ラミニン511、521又はこれらの組合せで被覆したウェル上で再培養した。それぞれの継代時、細胞は下に記載される分析のために収穫した。Wnt培地を用いた2週間の処置後、培養過程は終了し、細胞は更なる分析又は注射のために収穫した。更に、異なる時点由来の付着細胞も凍結し解凍した。培養された付着細胞の凍結は、細胞を引き離し、遠心分離後細胞を冷却Recovery(商標)細胞培養凍結培地(GibcoBRL社)に再懸濁することにより実施した。細胞は貯蔵バイアルに移し-70℃まで徐々に凍結し(1分あたり-1℃)、その後液体窒素(-180℃)に移した。凍結細胞を再培養する場合、37℃まで急速に解凍し、洗浄し、同じWnt培地及び上記と同じ培養条件で、ラミニン511、521又はこれらの組合せで被覆したプラスチックプレート上で再培養した。
【0071】
ヒトMSC及び多能性幹細胞の誘導及び拡大
骨髄細胞の吸引は若い健康なヒトドナーから以前記載した通りに実行した。臍帯血及び羊膜細胞は、標準的な従来の手順を使用して収集し単離した。成人心臓検体は従来の手順を使用して得た。流産はWestgrenらが以前記載した技法に従って実施した。予め蒔いておく手順は72時間まで延ばされ、DMEM低グルコース(GibcoBRL社)、10%FBS(PAA)及びMycoZap(Lonza社)を有する間葉系幹細胞培地で実施する以外は、以下の手順はラットIsl1+細胞の培養と同じ工程に従った。代案として、非ヒト成分のない培養培地を用いてもよく、FBSがヒト血液から入手可能な溶解血小板で置き換えられる。Isl1+細胞の誘導を追跡するため、間葉系細胞をラットIsl1+細胞の誘導と同じIsl1遺伝子構築物を使用して標識した。適切な場合にIsl1+細胞への形質転換を刺激するため、ラミニン511、521若しくは組合せ、又はラミニン511若しくは521とラミニン411若しくは421の任意の組合せを用いて、しかしBIOが排除され血清レベルが15%FBS(PAA社)まで増加したWnt培地を(又は溶解ヒト血小板を適切な濃度で)用いてラットIsl1+細胞と類似する培養条件を使用した。それぞれの継代後、細胞は更なる分析のために保存され、2週間後培養過程は終了して、細胞は免疫組織化学的染色及びマイクロアレイ分析のために収穫された。ラットIsl1+細胞について記載された通りに、異なる時期由来の間葉系細胞も凍結され、解凍された。
【0072】
培養された細胞の免疫組織化学分析
それぞれの継代で及び培養過程の終了時に、細胞増殖を検出するため、細胞はサイトスピンし、Isl1+細胞及びKi67の存在について免疫組織化学的に分析した。サイトスピンされた細胞は最初凍結保存され、続いて4%ホルムアルデヒドに固定し、血清で遮断し、一次抗体と一緒にインキュベートした(それぞれIsl1対ヤギ抗ヒトIsl1(R&D systems社);Ki67対マウス抗ラットKi67(clone MIB-5, DakoCytomation社、Denmark)及び直接コンジュゲートマウス抗ヒトKi67-FITC (clone MIB-1, DakoCytomation社))。非コンジュゲート一次抗体を可視化するため、切片を洗浄し蛍光標識二次抗体と一緒にインキュベートした(Isl1対Alexa Fluor488ウサギ抗ヤギ(Molecular Probes社、Invitrogen社)及びKi67では対Alexa fluor568ヤギ抗マウス(Molecular Probes社))。対照抗体での染色、並びに負及び正対照組織の染色は、すべての抗体の特異性を確認するために行った。
【0073】
ヒト多能性間葉系細胞の拡大
異なる供給源からのヒト間葉系幹細胞(MSC)は上記と同じプロトコルに従って調製した。Wnt培地に変える代わりに、MSCは、37℃で5週間、5%CO2及び3%O2を含有する加湿空気でDMEM高グルコース(GibcoBRL社)、MycoZap(Lonza社)、Hepes(25mM)(GibcoBRL社)、グルタミン(2mM)(Fisher Scientific社)及び15%FBS(PAA)において維持した。この期間の間細胞は2度継代させ、続いてフローサイトメトリーにかけた。適切なMSCが拡大していることを試験するため、細胞をラミニン511、521、421、411又はこれらの組合せで被覆したウェルに移した。多能性は、骨、軟骨及び脂肪組織の3つの間葉系列への分化により評価されてきた。免疫調節特性は、場合により、炎症誘発性刺激、例えば、INF-γ処置への応答での、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)及びHLA-Gの発現により評価してきた。
【0074】
フローサイトメトリー
1回の染色あたりおおよそ0.85×105細胞をPBSで洗浄し、300gで5分間で1回遠心分離し、適切な量の抗体と一緒に4℃で30分間インキュベートした。次に、標識された細胞は上と同じくPBSで洗浄した。間葉系画分の特徴付けでは、ヒト表面抗原に対する蛍光色素コンジュゲートモノクローナル抗体(mAb)を含有する以下のパネル:CD31(WM59)、CD34(581)、CD73(AD2)、CD44(G44-26)、CD14(MoP9)、CD19(HIB19)、CD105(266)(すべてBD Biosciences社製、San Jose, CA);HLA DR (Tu36)、CD45(HI30)(Invitrogen社)及びCD90(eBio5E10) (eBioscience社、USA)を使用した。それぞれの抗体クローンは、一次ヒト試料を使用して最適染色濃度まで滴定した。データ取得はCyFlow ML(Partec GmbH社、Munster, Germany)上で行い、続いてFloJoソフトウェア(TreeStar社、USA)を用いてデータ分析した。
【0075】
レーザーキャプチャー法(LCM)
頭部から尾部まで横断面でスライスした、全ラット胎仔(GD13)の凍結切片(7μm)並びに凍結切片(7μm)のヒト胚性心臓(妊娠9.5週)及び骨髄由来MSCを無菌ガラススライド上に並びに1-μm-厚PEN-膜被覆ガラススライド(Carl Zeiss社、Germany)上に収集した。Isl1陽性と陰性の両方を含む標的領域は、10×及び40×対物レンズを使用するキャプチャのために選択した。陰性領域は発生中の左心室から収穫した。凍結切片化は4-2-4プロトコルを使用して実施し、それぞれのスライドは3切片を乗せた。このプロトコルを使用する際、2つの非染色膜スライドを先行させ、その後4つの凍結切片スライドを続けたが、それに続いて、後者のスライドは培養された細胞についてと同じ一次及び二次抗体を使用して、Isl1に対して染色された。これらのプロトコルは、Isl1陽性及び陰性領域の位置を組織解剖学的に突き止め並びに高い品質のRNA収率を生むことを目指した。顕微解剖過程は目的の細胞を同定することにより実施し、この細胞は次の工程では線引きされて、レーザー解剖により切り取られた。
【0076】
対応するIsl1陽性及び陰性領域はレーザーキャプチャーされ、全RNAはPicoPure RNA単離キット(PicoPure RNA isolation kit, Arcturus Engineering社、Invitrogen社)を製造業者のプロトコルに従って使用して単離した。RNAの量と質は2100 Agilent Bioanalyzer, RNA 6000 Pico LabChip (Agilent社、Palo Alto, CA, USA)を使用して決定した。すべてのRNA試料は将来の分析のために-80℃、無菌状態下で保存した。RNA分解を回避するためのあらゆる安全操作基準を満たした。
【0077】
マイクロアレイ分析
培養されたラット及びヒト多能性幹細胞由来の全RNAは、前のセクションに記載された通りにPicoPure RNA単離キット(PicoPure RNA isolation kit)を製造業者のプロトコルに従って使用して単離した。顕微解剖した組織由来の並びに培養された細胞由来の精製された全RNAの相当量(約2ng)は逆転写して、Ovation Pico WTA system(NuGEN Technologies社、CA, USA)を製造業者の使用説明書に従って使用して増幅させた。センス鎖cDNAはWT-Ovation Exon Module (NuGEN Technologies社)を使用して作製した。cDNAは断片化し、Encore Biotin Module (NuGEN社)を使用して標識した。標識されたcDNAは、それぞれAffymetrixラット及びヒト遺伝子ST 1.0マイクロアレイ(Affymetrix社、CA, USA)にハイブリダイズさせた。遺伝子チップを洗浄し、染色し、Fluidic Station 450及びGeneChip Scanner 3000 7G (Affymetrix社)を使用してスキャンした。マイクロアレイデータの前処理は、以下の方法:要約:PLIER;バックグランド補正:PM-GCBG;標準化:Global Medianを使用して、Affymetrix Expression Console (v. 1.1) (Affymetrix社)で実施した。
【0078】
ヒートマップの作成
ヒートマップはQlucore Omics Explorer 2.2を使用して作成された。試料と変数の両方の階層的クラスタリングは、ユークリッド計量及びデータを使用して行われ、それぞれの変数は平均値0及び変動1に標準化された。平均連結法及びシグナルのlog2変換が使用された。ヒートマップカラースケールは赤色(高発現)から黒色(平均発現)を介して緑色(低発現)までの範囲である。
【0079】
麻酔及び術後ケア
標識されたラットIsl1+細胞の心筋内注射用に使用されたRNUラット(遺伝子型rn/rnu, Charles River Deutschland社)は、ミダゾラム(ドルミカム, 5mg/kg)(Algol Pharma AB社、Germany)、メデトミジン塩酸塩(Domitor vet, 0.1mg/kg)(Orion社、Espoo, Finland)、フェンタニル(0.3mg/kg)(B.Braun Medical AG社、Seesatz, Switzerland)の皮下注射により麻酔し、それに続いて、心筋内注射を実施し下記の心筋梗塞を誘発することができるように気管内に挿管した。換気装置(7025 Rodent ventilator, UGO BASILE社 S.R.L, Italy)を使用して、室内気が一回換気量4〜5mlを用いて1分間あたり100サイクルの速度で陽圧換気を保った。麻酔は、フルマゼニル(Lanexat, 0.1mg/kg)(Hameln Pharma社、Germany)及びティパメゾル(Tipamezol)塩酸塩(Antisedan vet 5mg/kg)(Orion社、Espoo, Finland)の筋肉内注射により無効にした。術後鎮痛法は、ブプレノルフィン塩酸塩(Temgesic,3日間で1日あたり0.004mg/kg/twice) (Schering-Plough社、Belgium)を投与することにより維持した。機能不全の兆候を示したラットは研究から排除した。
【0080】
標識されたIsl1+細胞のin vivo生存及び遊走の研究
RUNラットはIsl1+細胞がどのようにして注射されたかに応じて4つの群に分けられた。それぞれの実験では、心臓は左開胸術により露出された。心筋梗塞群では、左前下行動脈(LAD)は永久に結紮され、梗塞誘発は左心室の前後側壁の変色及びジスキネジアにより確かめられた。それぞれの実験では、400万の細胞が注射された静脈内実験を除いて、100万の標識されたIsl1+細胞(心臓組織から又は骨髄から得られた)を使用した。注射前、Isl1+細胞は、Neon(商標)エレクトロポレーションシステム(Invitrogen社)を使用して、2μgのpT2/C-fluc(Addgene社、US)、2μgのpT2-β-gal及び1μgのSB 100×を標識した。心筋への移植後細胞を検出するため、D-ルシフェリン(300mg/kg)を腹腔内に注射し、続いて15分間インキュベートした。生物発光撮像は、次の工程で、5分間露出及び高感度設定を使用して、IVIS(登録商標)Spectrum CT (Perkin Elmer社)において実施した。ラットは、移植細胞の発現を検出し全流束をLiving Image Software (Perkin Elmer社)を使用して定量化できるように腹側位で撮像した。対応するCT画像はQuantum FX μCT (Caliper, Perkin Elmer社)上17秒スキャン時間で実施した。発光画像は対応するCTスキャン上でスーパーインポーズした。
【0081】
ラットは以下の群:1)正常な心臓の左心室壁に注射(n=4);2)心筋梗塞誘発直後、左心室の周囲虚血領域に注射(n=4)、細胞生存及び分布はIVIS(Perkin Elmer社)により追跡され、心臓はIVISデータを確かめるための免疫組織化学分析のため1週間及び2週間で収穫された;3)再開胸術及びLAD結紮を通じた心筋梗塞の誘発による3日後に続いて、正常心筋の左心室壁への注射(n=3);4)梗塞誘発8時間後尾部静脈を通じた静脈内注射により追跡される心筋梗塞の誘発(n=2)に分けられた。細胞生存及び分布はIVISシグナルとよく相関していることが見出されており、群3及び4の動物は1週間IVISのみを使って追跡した。
【0082】
心筋内注射後のIsl1+細胞の検出
心臓は収穫され、7μm厚切片に凍結切片化された。ヘマトキシリン及びエオシン染色を使用して、心臓の異なる領域及びサブドメインの全体像を得た。これらの切片から、次に、目的の領域に対するX-gal染色へと向けることは可能であった。X-gal染色はβ-gal染色キット(K1465-01)(Invitrogen社)を製造業者のプロトコルに従って使用して行った。
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