(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989607
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】電磁弁、電磁弁を備えた内燃機関および電磁弁を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20211220BHJP
F02M 51/00 20060101ALI20211220BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20211220BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
F02M51/00 E
F02M51/06 K
F02M51/06 R
F02M51/06 S
F02M61/16 M
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-538123(P2019-538123)
(86)(22)【出願日】2018年1月8日
(65)【公表番号】特表2020-514639(P2020-514639A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】EP2018050319
(87)【国際公開番号】WO2018137913
(87)【国際公開日】20180802
【審査請求日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】102017201300.1
(32)【優先日】2017年1月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】アルブロット,ハルトムート
(72)【発明者】
【氏名】テーメス,フランツ
(72)【発明者】
【氏名】ギーベル,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ジャンネル,ローラン
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−298066(JP,A)
【文献】
特開2004−360762(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/034339(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06
F02M 51/06
F02M 51/00
F02M 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を制御するための電磁弁において、
バルブニードル(2)が設けられていて、該バルブニードル(2)が、ニードルヘッド(3)と、前記バルブニードル(2)の軸方向(X−X)で前記ニードルヘッド(3)に配置されたニードルシャフト(4)とを有しており、前記ニードルヘッド(3)がバルブシート(15)において少なくとも1つの吐出孔(5)を開放および閉鎖するようになっており、
前記バルブニードル(2)の少なくとも1つの表面がオーステナイト鋼より形成されていて、
前記バルブニードル(2)およびコイル(13)を少なくとも部分的に包囲するとともに前記少なくとも1つの吐出孔(5)を有するバルブハウジング(6)がオーステナイト鋼より形成されている、電磁弁。
【請求項2】
前記ニードルヘッド(3)の表面がオーステナイト鋼より形成されていることを特徴とする、請求項1記載の電磁弁。
【請求項3】
前記ニードルヘッド(3)が全体的にオーステナイト鋼より形成されていることを特徴とする、請求項1記載の電磁弁。
【請求項4】
前記ニードルシャフト(4)の表面がオーステナイト鋼より形成されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の電磁弁。
【請求項5】
前記ニードルシャフト(4)が全体的にオーステナイト鋼より形成されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の電磁弁。
【請求項6】
前記オーステナイト鋼がコールスタライジング処理されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の電磁弁。
【請求項7】
前記オーステナイト鋼がDLC膜によってコーティングされていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の電磁弁。
【請求項8】
内燃機関であって、請求項1から7までのいずれか1項記載の電磁弁(1)を有する、内燃機関。
【請求項9】
電磁弁(1)を製造するための方法であって、バルブニードル(2)を有していて、該バルブニードル(2)が、ニードルヘッド(3)と、前記バルブニードル(2)の軸方向(X−X)で前記ニードルヘッド(3)に配置されたニードルシャフト(4)とを備えており、前記ニードルヘッド(3)がバルブシート(15)で少なくとも1つの吐出孔(5)を開放および閉鎖するようになっていて、前記バルブニードル(2)およびコイル(13)を少なくとも部分的に包囲するとともに前記少なくとも1つの吐出孔(5)を有するバルブハウジング(6)を有している電磁弁(1)を製造するための方法において、前記方法が、前記バルブニードル(2)の少なくとも1つの表面をオーステナイト鋼より形成するステップと、前記バルブハウジング(6)をオーステナイト鋼より形成するステップとを有している、電磁弁(1)を製造するための方法。
【請求項10】
前記オーステナイト鋼をコールスタライジング処理することを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記オーステナイト鋼にDLC膜を被着するステップを有することを特徴とする、請求項9または10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な耐腐食性を有する電磁弁、並びにこのような電磁弁を製造するための方法に関する。さらに本発明は、腐食に対して保護された電磁弁を備えた内燃機関に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
電磁弁、特に電磁弁のバルブニードルは、非常に良好な機械的特性および特に高い硬度に基づいて、大抵はマルテンサイト鋼より製造される。マルテンサイト鋼の欠点は、特に水分を含んだ制御しようとする媒体において腐食を招き、短時間で電磁弁の故障を招く、その高い腐食発生率にある。
【発明の概要】
【0003】
これに対して、請求項1の特徴を有する本発明による電磁弁は、水分を含んだ媒体をガイドする場合でも、非常に良好な耐腐食性を有しているという点で優れている。このために、流体を制御するために設けられた電磁弁はバルブニードルを有している。バルブニードルは、特に少なくとも部分的にバルブハウジング内に配置されており、この場合、バルブニードルとハウジングとの間に、流体をガイドするための流体路が設けられている。つまり、バルブニードルは、制御しようとする流体に直に接触している。この場合、バルブニードルは、バルブシートで少なくとも1つの吐出孔を開放および閉鎖するニードルヘッドを有している。さらに、バルブニードルは、バルブニードルの軸方向に配置されたニードルシャフトを有しており、ニードルシャフトの一端部にニードルヘッドが配置されている。良好な腐食安定性を維持するために、バルブニードルの少なくとも1つの表面がオーステナイト鋼より形成されている。オーステナイト鋼は、水分を含む媒体と持続的に接触する場合でも高い耐腐食性を有しているという点で優れている。従って、本発明による電磁弁は、バルブニードルの少なくとも1つの表面にオーステナイト鋼を使用することによって、腐食による劣化に対して非常に良好に保護されるので、その機能が長期間に亘って維持されることが保証される。
【0004】
従属請求項には本発明の好適な発展形態が記載されている。
【0005】
好適な発展形態によれば、ニードルヘッドの表面がオーステナイト鋼より形成されている。ニードルヘッドは、バルブシートにおける少なくとも1つの吐出孔の開放および閉鎖の機能を満たし、従って制御しようとする流体と永久的に接触する。何故ならば、特に単数または複数の吐出孔の閉鎖後に、流体自体がニードルヘッドから完全に遠ざけられないからである。従って、電磁弁の特に良好な腐食保護のために、ニードルヘッドの表面をオーステナイト鋼より形成することが有利である。
【0006】
ニードルヘッドの製造を容易にし、それと同時にニードルヘッドの耐腐食性を最大化するために、好適には、ニードルヘッドは全体的にオーステナイト鋼より形成されている。
【0007】
ニードルヘッドと共に、ニードルシャフトも通常は、制御しようとする流体と永久的に直に接触している。従って、さらに好適な形式で、ニードルシャフトの表面がオーステナイト鋼より形成されている。
【0008】
ニードルシャフトの製造を容易にし、それと同時にニードルシャフトの耐腐食性を最大化するために、さらに好適には、ニードルシャフトが全体的にオーステナイト鋼より形成されている。
【0009】
バルブニードル全体の耐腐食性を最適化するために、ニードルシャフトの少なくとも1つの表面も、またニードルヘッドの表面もオーステナイト鋼より形成されていれば、特に有利である。さらに好適には、ニードルヘッドもニードルシャフトもオーステナイト鋼より成っている。これは、ニードルヘッドとニードルシャフトとの間の接続部形成も容易にし、この接続部形成は、素材結合式の接続、特に溶接結合によって非常に容易に製造可能である。
【0010】
オーステナイト鋼は、従来のマルテンサイト鋼と比較して、より低い機械的な耐負荷能力を有していてよい。高い機械的負荷にも対抗するために、電磁弁のオーステナイト鋼は好適な形式で“kolsterisiert「コールスタライジング処理」”されている。
【0011】
機械的な特性、特に電磁弁の耐摩耗性は、さらに好適には、オーステナイト鋼がDLC膜によってコーティングされていることによって改善され得る。DLC、つまり“diamond-like-carbon「ダイヤモンドライクカーボン」”は、特殊な構造を有する炭素を含有する膜であって、この膜は、良好な耐スクラッチ性および高い硬度を有する点で優れており、従って機械特性、特に電磁弁の表面特性の最適化のために非常に良好に適している。
【0012】
別の好適な発展形態によれば、バルブニードルを少なくとも部分的に包囲する構成部分、特にバルブハウジングもオーステナイト鋼より形成されている。
【0013】
同様に本発明によれば、前記電磁弁を有する内燃機関も開示される。本発明による電磁弁を使用することによって、持続的に安定した信頼できる走行性能が得られると共に内燃機関の耐腐食性も改善され得る。
【0014】
さらに本発明によれば、電磁弁を製造するための方法も記載される。製造しようとする電磁弁は、ニードルヘッドと、バルブニードルの軸方向でニードルヘッドに配置されたニードルシャフトとを備えたバルブニードルを有している。ニードルヘッドは、バルブシートで少なくとも1つの吐出孔を開放および閉鎖する機能を有している。本発明の方法によれば、バルブニードルの少なくとも1つの表面をオーステナイト鋼から形成するステップが意図されている。バルブニードルの少なくとも1つの表面をオーステナイト鋼から形成することによって、一般的な標準プロセスを使用して、電磁弁の耐腐食性が著しく改善され得る。特に、ニードルヘッドの少なくとも1つの表面および/またはニードルシャフトの表面がオーステナイト鋼から形成され、この場合、ニードルヘッドおよび/またはニードルシャフトが全体的にオーステナイト鋼から形成されてもよい。これによって、製造プロセスが軽減される。何故ならば、1つの材料、つまりオーステナイト鋼だけを処理すればよいからである。
【0015】
本発明による電磁弁のために記載された利点、好適な効果および発展形態は、本発明による内燃機関にも、また電磁弁を製造するための本発明による方法にも適用される。
【0016】
オーステナイト鋼の硬度を改善し、ひいては電磁弁の全体的な機械的な安定性を改善するために、オーステナイト鋼は好適な形式でコールスタライジング処理される。
【0017】
さらに、電磁弁の耐摩耗性は、この方法が特にオーステナイト鋼にDLC膜を被着するステップを有していることによって、さらに高められ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施例による電磁弁の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好適な実施例を、添付の図面を用いて詳しく説明する。
【0020】
図1に示されているように、電磁弁1はバルブニードル2を有している。バルブニードル2は、ニードルヘッド3と、バルブニードル2の軸方向X−Xでニードルヘッド3に配置されたニードルシャフト4とを有している。ニードルシャフト4とニードルヘッド3とは、溶接結合14によって素材結合式に互いに結合されている。
【0021】
バルブニードル2は、バルブハウジング6によって包囲されていて、この場合、バルブハウジング6とバルブニードル2との間に、流体をガイドするための流体路7が設けられている。
【0022】
バルブニードル2を初期位置に戻すために、バルブニードル2にリセット部材11が接続されている。この場合、
図1は、この実施例では電磁弁1の閉鎖された位置である、電磁弁1の初期位置を示す。この場合、バルブニードル2はバルブシート15上に載っていて、これによって吐出孔5との接続が遮断されている。これによって、この実施例ではバルブボールとして構成されたニードルヘッド3は、電磁弁1の初期位置で吐出孔5を閉鎖する。
【0023】
電磁弁1はさらに、磁石可動子10と内極12とを有している。さらにコイル13が設けられており、このコイル13は電流供給時に磁石可動子10を内極12の方向に引き寄せる。
【0024】
図1に示した実施例では、ニードルシャフト4の表面およびニードルヘッド3の表面がオーステナイト鋼より形成されている。これによって、バルブニードル2の非常に良好な耐腐食性が得られる。従って、溶接結合14も簡単かつ頑丈に構成することができる。特に、ニードルヘッド3およびニードルシャフト4は全体的にオーステナイト鋼から形成されている。
【0025】
バルブニードル2はさらに、第1の可動子ストッパ8および第2の可動子ストッパ9を有している。この場合、磁石可動子10は、第1の可動子ストッパ8と第2の可動子ストッパ9との間に配置されている。この場合、バルブニードル2に、磁石可動子10のためのガイド領域16が設けられている。
【0026】
好適には、バルブニードル2のその他の構成部分、特にバルブハウジング6も、オーステナイト鋼より製造されている。この構成は、特に水を含んだ流体に対しても、持続的な特に高い耐腐食性を提供する。
【0027】
機械安定性および特に硬度特性を改善するために、使用されたオーステナイト鋼は“kolsterisiert「コールスタライジング処理」”されている。さらに、オーステナイト鋼の耐摩耗性は、DLCコーティングによって高められてよい。
【符号の説明】
【0028】
1 電磁弁
2 バルブニードル
3 ニードルヘッド
4 ニードルシャフト
5 吐出孔
6 バルブハウジング
8 第1の可動子ストッパ
9 第2の可動子ストッパ
10 磁石可動子
11 リセット部材
12 内極
13 コイル
14 素材結合、溶接結合
15 バルブシート