(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989616
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】放射線処置中の患者の放射線被爆線量を測定するような、表面における放射線量を測定するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20211220BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20211220BHJP
H01Q 1/38 20060101ALI20211220BHJP
G01T 1/16 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
A61N5/10 Q
A61N5/10 S
G01T7/00 A
H01Q1/38
G01T1/16 B
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-551767(P2019-551767)
(86)(22)【出願日】2017年12月8日
(65)【公表番号】特表2020-501857(P2020-501857A)
(43)【公表日】2020年1月23日
(86)【国際出願番号】IB2017057750
(87)【国際公開番号】WO2018104917
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2020年12月4日
(31)【優先権主張番号】16/70747
(32)【優先日】2016年12月9日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519208018
【氏名又は名称】バイオメディカ
(73)【特許権者】
【識別番号】519208029
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィク
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】マウル,フォアド
(72)【発明者】
【氏名】ゲラン,ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ロイス,クリストフ
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/093038(US,A1)
【文献】
特表2005−512028(JP,A)
【文献】
特表2017−511715(JP,A)
【文献】
仏国特許出願公開第2945128(FR,A1)
【文献】
特開2010−057708(JP,A)
【文献】
特表2006−517031(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0033700(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/00
A61B 6/00
G01T 7/00
H01Q 1/38
G01T 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線処置中の患者の放射線被爆線量を測定するような、表面における放射線量を測定するためのデバイスであって、
前記デバイスが、
‐受け取った電磁放射線に対応する電気信号を生成することができる放射線透過性アンテナを備えたセンサ(3)を有するマトリックス(2)、
‐各センサにより放射された電束のための測定手段(6)、
‐前記マトリックスの所定の領域により受け取られた線量の蓄積を計算するための、電束測定の処理手段(9)
を備えることを特徴とする、表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項2】
前記処理手段(9)が、前記マトリックスの領域による線量蓄積レベルをマップの形式で表示するための手段を備える、請求項1記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項3】
前記処理手段(9)が、少なくとも2回の放射線処置における線量を蓄積するために、前記電束測定を記録するための手段を備える、請求項1又は2記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項4】
前記処理手段(9)が、前記マトリックスの所定の領域あたりの少なくとも一つの放射線閾値を超過したことを警告するための手段を備える、請求項1〜3のいずれか一つに記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項5】
前記マトリックス(2)が、患者の形状に一致するように適合された、可撓性の放射線透過性マット(5)に一体化される、請求項1〜4のいずれか一つに記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項6】
前記マット(5)が、患者上への位置決めを可能にするように適合された配置手段を備える、請求項5記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項7】
前記放射線センサ及び電束測定手段(6)が、RFIDタイプのトランスミッタに関連付けられた放射線透過性アンテナを備える、請求項1〜6のいずれか一つに記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項8】
前記アンテナ(10)が、ポリマー材料及び/又は透明な放射線伝導性ポリマー混合物により作られる、請求項7記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項9】
前記アンテナの材料が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)及びポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)の混合物である、請求項7又は8記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項10】
前記アンテナの厚さが、2〜20ミクロンであり、好ましくは5〜10ミクロンである、請求項7〜9のいずれか一つに記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【請求項11】
各センサ(3)が、各センサ(3)の全表面積の少なくとも95%に等しい放射線透過性領域を有する、請求項1〜10のいずれか一つに記載の表面における放射線量を測定するためのデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面における放射線量を測定するためのデバイスに関し、とりわけ、放射線処置中の患者の放射線被爆線量を測定するためのデバイスに関する。
【0002】
本発明は、1回以上の処置中に患者により受け取られた放射線被曝線量を測定する技術分野に属し、上記処置は、単純な放射線療法又はコンピュータ断層撮影(CT)スキャン又は放射線治療、又は、外部の若しくは内部の若しくは介入的な放射線処置であり得る。
【0003】
しかしながら、この用途は限定されておらず、かつ、該測定デバイスは、他の用途、とりわけ、放射線科の医療従事者に関する、又は一般に、放射線のリスクがある分野及び特に産業において働く人物に関する、放射線被曝線量の測定のために使用され得る。
【背景技術】
【0004】
特に、電磁放射線又は電離放射線の医学的用途は、検査及び治療の分野又は外科手術中の支援における用途に関してより多い故に、患者により受け取られた放射線量の測定は、極めて重要な医療データである。
【0005】
現在まで、患者により受け取られた線量を評価するために使用された方法の一つは、所与の放射線療法又はCTスキャンに関する平均線量測定の定量化、及び、患者において実施される各処置又は作業に関する推定線量の累積である。この近似法は、患者により受け取られた線量の正確な推定を許さず、また患者の身体の様々な部位により受け取られた線量を区別することができない。
【0006】
別の方法は、デバイスにより放出された放射線の線量に従って、患者により受け取られた線量を推定することである。ここで、この方法もまた不正確であり、一方では、放出された放射線の推定が、異なるタイプの電離放射装置に関する計算が正規化されていない場合には困難であり、かつ、他方では、これらのデバイスにより放出された放射線が、患者により受け取られた線量を正確に反映しない。
【0007】
実際、とりわけ、分散の影響、身体の位置、及び、デバイスに対する距離を考慮すると、電離放射線の線量が、全て患者により受け取られず、最終的に、曝露の期間は正確に測定されない。この不正確性に加えて、第1の方法と同様に、曝露された又は過剰曝露された身体の部位を他の部位に対して、とりわけ、異なる複数の投射の間の接合領域において、正確に同定することも不可能である。
【0008】
患者により受け取られた線量の正確な監視ができない結果は、一方では、とりわけ、複数回の照射を受ける領域において、患者に推奨される線量を超過するというリスクが生じ、そして他方では、患者がはるかにより低い線量しか受けていなくても、推奨される線量の超過を回避するために必要な検査を実施するというリスクが生じる。
【0009】
この累積線量のリアルタイムでの正確な測定のためのデバイスは、患者に以下のような二重の利益を提供する:上記デバイスは、副作用の発生のリスクを低減し、患者の皮膚に送達される最大線量に応じて放射線ビームの入射を選択するようにリアルタイムで医師をガイドし;また、患者の過剰曝露のリスクをその正しい値に対して評価することにより、医師が求めている診断又は治療上の目標を達成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の目的は、上述の従来技術に関連する技術的課題の全て又は一部を解決することにある。本発明の別の目的は、患者に対して実施される処置の間に患者により受け取られた線量を正確に測定するためのデバイスを提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、電離放射デバイスの動作を修正せず、また撮像デバイスによって得られた画像又はシーケンスの品質に影響を与えない、患者により受け取られた線量を測定できるようにするデバイスを提案することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、患者の身体の異なる複数の領域により受け取られた放射線レベルを直接決定するためのデバイスを提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、患者に対する使用及び設置がいずれも簡単でありながら、信頼性の高い測定のためのデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、表面における放射線量を測定するためのデバイス、とりわけ、放射線処置中の患者の放射線被曝線量を測定するためのデバイスに関し、上記デバイスが、本発明によれば、受け取った電磁放射線に対応する電気信号を生成できる放射線透過性アンテナを備えたセンサを有するマトリクス、各センサにより放射された電束を測定するための手段、及び上記マトリクスの所定の領域により受け取られた線量の蓄積を計算するための、電束測定の処理手段を備える。
【0015】
用語「マトリックス(matrix)」は、本発明の意味において、複数のセンサのための支持体であって、上記センサを、規則的に編成された若しくはされていない、又は均一に編成された若しくはされていない組として一体に維持できる、支持体を定義する。
【0016】
本発明は、非限定的な例として提供されている添付の図面を参照しながら、実施形態の詳細な例を読むことにより、更に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に従うデバイスの例示的実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、放射線処置中に患者上に配設された本発明に従うデバイスの概略斜視図である。
【
図3】
図3は、放射線センサの例示的実施形態の写真である。
【
図4】
図4は、放射線センサのある実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照すると、測定デバイス1が示されており、この測定デバイスは、それぞれ放射線透過性アンテナを備えるセンサ3を有するマトリックス2を備える。センサ3の個数は、とりわけ、放射線の測定に必要な精度に左右され、有利には、センサ3は、cm
2あたり1個のセンサ程度の密度に従って、マトリクス2の表面に分散される。
【0019】
これらのセンサ3は、受け取った電磁放射線に対応する電気信号を生成でき、これにより、センサが吸収した放射線、及びマトリクスに接触する患者の身体へと伝達された放射線を正確に測定できる。
【0020】
マトリクス2のサイズ及び形状は可変であり、被覆対象の患者の身体の部位に左右される。例えば
図2を参照すると、患者4の体幹の高さで放射線を実質的に測定できる寸法を有するマトリクス2を確認できる。
【0021】
患者の下肢又は全身を被覆するためには、他の形状のマトリクス2がより好適となる。
【0022】
有利には、マトリクス2は可撓性かつ放射線透過性のマット5に一体化される。マット5は患者の形状に適合できる。マトリクス2をマット5に一体化する利点は、センサ3を損傷するリスクなしにマット5を清掃又は洗浄できる点である。
【0023】
ある有利な変形例では、マット5は、患者上への位置決めを可能とする配置手段(添付の図面では図示せず)を備える。例えばマット5は、体幹の胸骨を含む患者の解剖学的構造に対する、位置決め地点を示すことができる。このようにして、マトリクス2を組み込んだマット5を、複数回の処置中に同様に位置決めできる。
【0024】
他の配置手段、例えば患者4に対するマット5の正確な配置及び維持の両方を可能とするストラップを用いた手段も考えられる。
【0025】
図1を参照すると、各センサ3の電束を測定するための手段6が図示されている。これらの測定手段6は、とりわけ、多入力電束メータを備え、これらは、センサ3からの流れの伝達のための第1の伝達手段7、及び電束測定の処理手段9への第2の伝達手段8に関連付けられる。これらの処理手段9により、マトリクス2の所定の領域が受ける線量の蓄積を計算できる。
【0026】
ここで
図3を参照すると、第1の伝達手段7を伴うセンサ3の例示的実施形態が、写真で示されている。
【0027】
このセンサ3により、受けた放射線に対応する信号を生成でき、上記センサ3は、第1の伝達手段7を構成するRFID(radio frequency identification device:無線周波数識別デバイス)タイプのトランスミッタ11に関連付けられたアンテナ10を備える。
【0028】
好ましくは、トランスミッタ11に関連付けられたこのアンテナ10は、ISM(industrial, scientific and medical:産業、科学及び医療)帯域、ブロードバンド:超高周波数(860〜960MHz)で動作するよう最適化される。
【0029】
アンテナ10は、ポリマー材料及び/又は透明な放射線伝導性ポリマー混合物で作成される。好ましくは、低伝導性のポリマーであるPEDOT:PSSというポリマー混合物、即ち、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)との混合物が使用される。
【0030】
センサ3を通過する一定数の放射線透過性試験及びビーム劣化試験の後、出願人は、有利となるように、アンテナ10の厚さとして2〜20ミクロン、好ましくは5〜10ミクロンを選択した。
【0031】
写真では、ポリマーは6マイクロメートルの厚さで印刷されている。使用された基板は3mm厚のガラスであり、これは誘電率εr=5.6及び誘電正接tanδ=0.02を有する。ガラス基板は単なる例として与えられており、PEDOT:PSSは、伝導性ポリマーの堆積の前に特定の表面処理を行うことにより、プラスチックタイプ(PTE)の可撓性基板、従来の産業用電子機器(カプトン)の基板だけでなく、生体適合性の基板(パリレン)上に堆積させることができる。
【0032】
ここで
図4を参照すると、センサ3が、その異なる複数の寸法を伴って、概略図で示されている。有利には、アンテナ10の高さ及び幅は30〜60mmのオーダーである。PEDOT:PSSアンテナの伝導性は、6ミクロン程度のアンテナ厚さで1.5×10
4S/mのオーダーである。よって、第1の伝達手段8は、アンテナの幾何学的形状、伝導性材料の伝導性及び堆積厚さを考慮すると、1メートルオーダーの読み取り距離を可能とする。
【0033】
センサ3のアンテナ10により占められる範囲は、センサ3の全表面と比較して極めて大きく、その一部は放射線透過性ではない。有利には、各センサ3は、患者における放射線の作用を実質的に変更しないように、とりわけ、生成される放射線画像の品質に実質的に影響しないように、その全表面の少なくとも95%に等しい放射線透過性領域を有する。
【0034】
各アンテナ10により伝達される信号は、センサ3の識別情報、従ってマトリクス2上でのその位置と、電束レベルとの両方を含む。従って、電束測定手段6は、所与のセンサに関する電束レベルの測定を可能とする。そしてデータは、第2の伝達手段8によって、処理手段9へと伝達される。これらの第2の伝達手段8は、公知の伝達手段によって、とりわけ、有線又は遠隔無線手段によって、作製され得る。別の実施形態では、第1の伝達手段7は、電束メータ(又はその等価物)及び処理手段9からなる組に、データを直接送信する。
【0035】
処理手段9は、各センサ3のための電束測定をこれらのデータから受信し、処理手段9は、処置中にマトリクスの所定の領域により受け取られた累積線量を計算する。これらの領域は、センサ3又は複数のセンサ3の組の検出領域を構成できる。
【0036】
有利には、処理手段9は、マトリクス2の複数の領域による線量蓄積レベルのマップの形態の、表示手段12を備える。リアルタイム表示により、施術者は、表示されたデータに応じて極めて迅速に反応して、場合によっては、ビームを停止させることができ、又は強度若しくはその方向を調整できる。
【0037】
ある有利な実施形態では、処理手段9は更に、少なくとも2回の放射線処置における線量を累積するために、電束測定を記録するための手段を備える。
【0038】
別の実施形態では、マトリクスは、センサ3のいくつかの層(重なっていてもいなくてもよい)を備え、また処理手段9は、センサ3の異なる複数の層から体積を再構築することによって、表面に対してではなく体積に対する線量を計算できる。
【0039】
よって、上述の測定デバイス1は、患者を過剰曝露のリスクから保護しながら、患者に送達される線量を施術者が正確に調整できるようにする、患者により受け取られた線量を測定するための有力な解決策を構成する。
【0040】
当然のことながら、以下の請求項によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の他の特徴を想定することもできる。
【0041】
例えば、ある有利な実施形態では、処理手段は、マトリクスの所定の領域あたりの少なくとも1つの放射線閾値を超過したことを警告する手段を備える。