(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989650
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】低反射コーティング付ガラス基板、低反射コーティング付ガラス基板を製造する方法、及び光電変換装置
(51)【国際特許分類】
G02B 1/111 20150101AFI20211220BHJP
C03C 17/25 20060101ALI20211220BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20211220BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20211220BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20211220BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20211220BHJP
C09D 201/10 20060101ALI20211220BHJP
H01L 31/048 20140101ALI20211220BHJP
H02S 40/20 20140101ALI20211220BHJP
【FI】
G02B1/111
C03C17/25 A
C03C17/34 Z
G02B1/18
C09D201/00
C09D7/61
C09D201/10
H01L31/04 560
H02S40/20
【請求項の数】24
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-96138(P2020-96138)
(22)【出願日】2020年6月2日
(62)【分割の表示】特願2016-551529(P2016-551529)の分割
【原出願日】2015年9月25日
(65)【公開番号】特開2020-170171(P2020-170171A)
(43)【公開日】2020年10月15日
【審査請求日】2020年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-201590(P2014-201590)
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-15991(P2015-15991)
(32)【優先日】2015年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】小用 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】河津 光宏
【審査官】
池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−201443(JP,A)
【文献】
特開2001−278637(JP,A)
【文献】
特開平02−258646(JP,A)
【文献】
特開昭56−026750(JP,A)
【文献】
特表2010−509175(JP,A)
【文献】
特表2013−512853(JP,A)
【文献】
特開2006−106507(JP,A)
【文献】
特開平07−008900(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第2014−0095863(KR,A)
【文献】
国際公開第2018/192908(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/111
C03C 17/25
C03C 17/34
G02B 1/18
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 201/10
H01L 31/048
H02S 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の主面の少なくとも片方に形成された低反射コーティングと、を備え、
前記低反射コーティングは、平均粒径が80〜600nmである中実な球状のシリカ微粒子が、シリカを主成分として含み、かつ、疎水基を含むバインダによって固定されてなる、80〜800nmの膜厚を有する多孔質膜であり、
前記低反射コーティングは、質量%表示で、
前記シリカ微粒子 35〜70%
前記バインダに含まれるシリカ 25〜64%
前記バインダにおける疎水基 0.2〜10%を含み、
前記低反射コーティングを前記ガラス基板に施すことによって得られる透過率ゲインが1.5%以上であり、
前記バインダにおいて前記疎水基と結合しているシリコン原子のそれぞれには1つのみの前記疎水基が結合しており、
前記低反射コーティングにおける水滴の接触角は、70°以上であり、
前記疎水基は、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基である、
低反射コーティング付ガラス板。
ここで、前記透過率ゲインは、波長域380〜850nmにおける平均透過率に関し、前記低反射コーティングを施す前の前記ガラス基板の平均透過率に対する、前記低反射コーティングを施した当該低反射コーティング付ガラス板の平均透過率の増分である。
【請求項2】
前記疎水基は、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されてもよい炭素数1〜30の鎖状のアルキル基である、請求項1に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項3】
前記疎水基は、水素原子がフッ素原子に置換されていない炭素数1〜30の鎖状のアルキル基である、請求項1に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項4】
前記シリカ微粒子は、親水性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項5】
前記低反射コーティングは、質量%表示で、
前記シリカ微粒子 50〜70%
前記バインダに含まれるシリカ 25〜40%を含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項6】
前記低反射コーティングは、質量%表示で、
前記シリカ微粒子 35〜55%
前記バインダに含まれるシリカ 35〜60%を含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項7】
前記低反射コーティングは、アルミニウム化合物を、Al2O3に換算して、質量%表示で2〜7%含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項8】
前記アルミニウム化合物は、前記低反射コーティングを形成するためのコーティング液に添加されたハロゲン化アルミニウムに由来する、請求項7に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項9】
前記アルミニウム化合物は、前記低反射コーティングを形成するためのコーティング液に添加された硝酸アルミニウムに由来する、請求項7に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項10】
前記低反射コーティングは、リン化合物を、P2O5に換算して、質量%表示で0.1〜5質量%含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項11】
35℃の温度を有する5質量%の塩化ナトリウム水溶液を前記低反射コーティングに192時間噴霧することによって、JIS C8917:2005付属書4に準拠した塩水噴霧試験を行った後の、当該低反射コーティング付ガラス板における380〜850nmの波長の光の平均透過率と、前記塩水噴霧試験を行う前の、当該低反射コーティング付ガラス板における380〜850nmの波長の光の平均透過率との差の絶対値が、0.25%以下である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項12】
前記低反射コーティングが施されていない前記ガラス基板における360〜740nmの範囲の波長の光の平均反射率から、前記低反射コーティングに摩耗子CS−10Fを接触させて往復摩耗試験(荷重:4N、往復回数:50回)を行った後の当該低反射コーティング付ガラス板における360〜740nmの範囲の波長の光の平均反射率を差し引いて求められる反射率ロスが1.6%以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項13】
前記低反射コーティングは、質量%表示で、前記疎水基を0.5〜8%含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項14】
前記疎水基が、前記低反射コーティングを形成するためのコーティング液に添加された、シリコン原子に直接結合した疎水基を有する、加水分解性シリコン化合物又は加水分解性シリコン化合物の加水分解物に由来し、
前記加水分解性シリコン化合物が、下記式(II)に示す化合物を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
RSiY3 (II)
ここで、Yは、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
Rは、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基である。
【請求項15】
前記式(II)におけるRは、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されてもよい炭素数1〜30の鎖状のアルキル基である、請求項14に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項16】
前記式(II)におけるRは、水素原子がフッ素原子に置換されていない炭素数1〜30の鎖状のアルキル基である、請求項14に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項17】
式(II)におけるRは、鎖状のアルキル基である、請求項14に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項18】
前記バインダに含まれるシリカが、前記低反射コーティングを形成するためのコーティング液に添加された、加水分解性シリコン化合物又は加水分解性シリコン化合物の加水分解物に由来し、
前記加水分解性シリコン化合物が、下記式(I)に示す化合物を含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
SiX4 (I)
ここで、Xは、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【請求項19】
擬似ダストを懸濁させた水を当該低反射コーティング付ガラス板に塗布し、かつ、乾燥させて形成された擬似汚れを乾布で擦ることによって、肉眼では認識できないように前記擬似汚れを拭い去ることができる、請求項1〜18のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板を製造する方法であって、
前記低反射コーティングを形成するためのコーティング液をガラス基板に塗布した後で、前記ガラス基板の最高温度が200℃以上かつ350℃以下であり、かつ、前記ガラス基板の温度が200℃以上である時間が5分以下であるように加熱されることによって、前記低反射コーティングを形成する、方法。
【請求項21】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板を製造する方法であって、
前記低反射コーティングを形成するためのコーティング液をガラス基板に塗布した後で、前記ガラス基板の最高温度が120℃以上かつ250℃以下であり、かつ、前記ガラス基板の温度が120℃以上である時間が3分以下であるように加熱されることによって、前記低反射コーティングを形成する、方法。
【請求項22】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板を製造する方法であって、
前記低反射コーティングを形成するためのコーティング液をガラス基板に塗布した後で、前記ガラス基板の最高温度が100℃以上かつ250℃以下であり、かつ、前記ガラス基板の温度が100℃以上である時間が2分以下であるように加熱されることによって、前記低反射コーティングを形成する、方法。
【請求項23】
前記ガラス基板の、前記低反射コーティングが形成されている主面とは反対側の主面に形成された透明導電膜をさらに備えた、請求項1〜19のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板。
【請求項24】
請求項1〜19及び23のいずれか1項に記載の低反射コーティング付ガラス板を備え、
光を入射させるべき前記ガラス基板の主面に前記低反射コーティングが形成されている、
光電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低反射コーティング、この低反射コーティングが形成されたガラス板、この低反射コーティングが形成されたガラス基板、及びこの低反射コーティングが形成された光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、セラミックなどの基材の表面には、その基材の用途における機能改善を目的として、光をより多く透過させるため、または反射による眩惑を防止するために、低反射コーティングが形成される。
【0003】
低反射コーティングは、車両用ガラス、ショーウィンドウ、または光電変換装置に用いられるガラス板などに形成される。光電変換装置の一種であるいわゆる薄膜型太陽電池では、下地膜、透明導電膜、アモルファスシリコンなどからなる光電変換層および裏面薄膜電極を順次積層したガラス板を用いるが、低反射コーティングはこれらが積層された主面とは対向する主表面、つまり太陽光が入射する側の主表面に形成される。このように太陽光の入射側に低反射コーティングが形成された太陽電池では、より多くの太陽光が光電変換層または太陽電池素子に導かれ、その発電量が向上することになる。
【0004】
最もよく用いられる低反射コーティングは、真空蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着法(CVD法)などによる誘電体膜であるが、シリカ微粒子などの微粒子を含む微粒子含有膜が低反射コーティングとして用いられることもある。微粒子含有膜は、微粒子を含むコーティング液を、ディッピング法、フローコート法、スプレー法などによって透明基体上に塗布することにより成膜される。
【0005】
例えば、特許文献1には、表面凹凸を有するガラス板に、微粒子とバインダ前駆体とを含むコーティング液をスプレー法により塗布し、400℃で乾燥後、610℃で8分間の焼成工程によって作製された光電変換装置用カバーガラスが開示されている。このカバーガラスに施された低反射コーティングによって、波長380〜1100nmの光の平均透過率を少なくとも2.37%向上させることができる。
【0006】
さらに、特許文献2には、テトラエトキシシラン、アルミニウムアセチルアセトネート、コロイドシリカを含むゾルを浸漬被覆法によりガラス板に付着させ、680℃で180秒間の熱処理を行なうことで被覆されたガラス基板が開示されている。このガラス基板に施された反射防止層によって、波長300〜1100nmの光の平均透過率を2.5%向上させることができる。
【0007】
また、特許文献3には、平均一次粒子径より分散粒子径が大きく、形状係数とアスペクト比が1よりある程度以上大きいコロイダルシリカ、テトラアルコキシシラン、及び硝酸アルミニウムを含むコーティング組成物を、スピンコーターを用いてシリコン基板に塗布し、100℃1分間の乾燥工程によって乾燥させて作製した被膜付きシリコン基板が開示されている。この被膜による光の平均透過率の向上については記載されていないが、この被膜は1.40以下の屈折率を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−032248号公報
【特許文献2】特表2013−537873号公報
【特許文献3】特開2014−015543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、低反射コーティングの効果について、透過率ゲインと呼ばれる性能が重要である。透過率ゲインとは、透過率、例えば所定の波長範囲の平均透過率に関し、低反射コーティングを施すことによる透過率の増分のことである。具体的には、基板に当該低反射コーティングを施した際の透過率から、当該低反射コーティングを施す前のそれを差し引いた値として求められる。
【0010】
例えば、光電変換装置にガラス板が用いられ、その光入射側表面に低反射コーティングが施される場合、透過率ゲインが高いほど、そのガラス板を透過する光線量が増加し、光電変換装置の効率が向上する。
【0011】
また、ガラス板を用いた光電変換装置を製造する際、低反射コーティングが予め施されたガラス板を用いて光電変換装置を製造することが行われている。しかし、この方法では、ガラス板に施された低反射コーティングが、光電変換装置の製造工程において意図せず破損又は汚損したり、低反射特性が劣化したりする可能性がある。
【0012】
さらに、光電変換装置は、実際に使用される場合、太陽光を入射させるために屋外に設置される。光電変換装置には、雨や砂ぼこりなどによって汚れが付着し、こうした汚れにより入射光の一部が遮られ、光電変換装置の出力電力が低下するという問題がある。
【0013】
また、低反射コーティングに汚れが付着することに伴う問題は、光電変換装置に用いられるガラス板以外の、低反射コーティングが形成された基板にも起こる可能性がある。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑み、低反射コーティングを施していない基板に施すのに適し、特に、光電変換装置を組み立てた後で、その光電変換装置への光が入射する表面を形成するガラス基板に施すのに適し、かつ、雨や砂ぼこりなどによる汚れの除去性に優れた低反射コーティングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
基板の主表面の少なくとも片方に施され得る低反射コーティングであって、
当該低反射コーティングは、平均粒径が80〜600nmである中実な球状のシリカ微粒子が、シリカを主成分として含み、かつ、疎水基を含むバインダによって固定されてなる、80〜800nmの膜厚を有する多孔質膜であり、
質量%表示で、
前記シリカ微粒子 35〜70%
前記バインダに含まれるシリカ 25〜64%
前記バインダにおける疎水基 0.2〜10%を含み、
当該低反射コーティングを前記基板に施すことによって得られる透過率ゲインが1.5%以上である、
低反射コーティングを提供する。
ここで、透過率ゲインは、波長域380〜850nmにおける平均透過率に関し、前記低反射コーティングを施す前の前記基板の平均透過率に対する、前記低反射コーティングを施した前記基板の平均透過率の増分である。
【0016】
また、本発明は、
上記の低反射コーティングが形成されたガラス板を提供する。
【0017】
また、本発明は、
上記の低反射コーティングが形成されたガラス基板であって、前記低反射コーティングが形成されている主面とは反対側の主面に透明導電膜が形成された、ガラス基板を提供する。
【0018】
また、本発明は、
ガラス板を有し、
光を入射させるべき前記ガラス板の主表面に上記の低反射コーティングが形成された、
光電変換装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
上記の低反射コーティングは、所定の範囲の平均粒径を有する中実なシリカ微粒子と、シリカを主成分とするバインダとを、所定の含有率で含むので、高い透過率ゲインを有する。さらに上記の低反射コーティングのバインダは疎水基を所定の含有率で含むので、上記の低反射コーティングは、付着した汚れの除去性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例4に係る低反射コーティング付ガラス板のFE−SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)写真
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の低反射コーティングは、基板の少なくとも片方に施され得る低反射コーティングである。本発明の低反射コーティングは、中実な球状のシリカ微粒子が、シリカを主成分とするバインダによって固定されてなる多孔質膜である。ここで「球状」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で微粒子を観察したときに、微粒子の最小径(Ds)と微粒子の最大径(Dl)との比(Dl/Ds)が1.5以下となる形状を意味する。バインダは疎水基を含む。バインダは、好ましくは、アルミニウム化合物をさらに含む。多孔質膜の膜厚は、例えば80〜800nmであり、好ましくは100〜500nm、より好ましくは100nmを超え150nm以下である。
【0022】
シリカ微粒子は、平均粒径が、例えば80〜600nmであり、好ましくは100〜500nm、より好ましくは100nmを超え150nm以下である、球状の一次粒子である。シリカは有機ポリマ材料より硬度が高く、屈折率が比較的低いため、バインダとシリカ微粒子からなる多孔質膜の見かけの屈折率を低減することができる。さらに、シリカからなる球状で粒径がよく揃った一次粒子は、商業的スケールで、低コストで生産されており、量、質、及びコストの観点から入手が容易である。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて低反射コーティングの断面を観察することによって求められる。具体的に、粒子の全体を観察できる任意の50個の粒子について、その最大径及び最小径を測定してその平均値を各粒子の粒径とし、50個の粒子の粒径の平均値を「平均粒径」とする。
【0023】
低反射コーティングにおけるシリカ微粒子の含有率は、例えば35〜70質量%である。低反射コーティングにおけるシリカ微粒子の含有率は、一の観点から、好ましくは50〜70質量%であり、より好ましくは55〜65質量%である。低反射コーティングにおけるシリカ微粒子の含有率は、別の観点から、好ましくは35〜55質量%であり、より好ましくは、40〜55質量%である。低反射コーティングにおける、バインダに含まれるシリカの含有率は、例えば、25〜64質量%である。バインダに含まれるシリカの含有率は、一の観点から、好ましくは25〜40質量%であり、より好ましくは28〜38質量%である。バインダに含まれるシリカの含有率は、別の観点から、好ましくは35〜60質量%であり、より好ましくは40〜55質量%である。本明細書において、「シリカ」は、ケイ素原子及びそのケイ素原子に直接結合している酸素原子のみによって構成されているものを意味する。
【0024】
低反射コーティングにおける、疎水基の含有率は、例えば0.2〜10質量%であり、好ましくは0.5〜8質量%であり、場合によっては好ましくは1〜6質量%であり、より好ましくは3〜6質量%である。この場合、低反射コーティングにおける水滴の接触角を、例えば、70°以上、好ましくは80°以上、より好ましくは85°以上に高めることができる。これにより、低反射コーティングが高い汚れ除去性を有する。また、バインダにおける疎水基の含有率が、1質量%以上であると、低反射コーティングが高い化学的耐久性を有する。
【0025】
本発明の低反射コーティングにおいて、波長域380〜850nmにおける平均透過率に関し、低反射コーティングを施す前の基板の平均透過率に対する、低反射コーティングを施した基板の平均透過率の増分である透過率ゲインは、例えば1.5%以上であり、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは2.2%以上である。この透過率ゲインは、低反射コーティングが施された基板における380〜850nmにおける平均透過率から低反射コーティングが施されていない基板における380〜850nmにおける平均透過率を差し引いて求められる。この場合、低反射コーティングが施された基板の低反射コーティングに光を入射させる。また、低反射コーティングが施されていない基板の低反射コーティングが施されるべき主表面に光を入射させる。
【0026】
バインダに含まれる疎水基は、低反射コーティングを形成するためのコーティング液に添加された、シリコンに直接結合した疎水基を有する、加水分解性シリコン化合物又は加水分解性シリコン化合物の加水分解物に由来することが好ましい。この加水分解性シリコン化合物は、例えば、下記式(II)に示す化合物を含む。下記式(II)において、加水分解性基であるYは、好ましくは、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1つである。下記式(II)において、疎水基であるRは、好ましくは、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基であり、より好ましくは鎖状のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の鎖状アルキル基であり、とりわけ好ましくはメチル基である。
RSiY
3 (II)
【0027】
本発明の低反射コーティングを施した基板においては、好ましくは、擬似ダストを懸濁させた水を低反射コーティングが施された基板に塗布し、かつ、乾燥させて形成された擬似汚れを乾布で擦ることによって、肉眼では認識できないように擬似汚れを拭い去ることができる。
【0028】
低反射コーティングにおいて、シリカ微粒子の含有量と、加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物の含有量との比(シリカ微粒子の含有量:加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物の含有量)は、質量比で表して、例えば、70:30〜30:70の範囲であり、一の観点から、好ましくは65:35〜50:50であり、別の観点から、好ましくは60:40〜40:60の範囲である。シリカ微粒子の含有比が大きくなるほど、本発明の低反射コーティングの透過率ゲインを大きくすることができる。シリカ微粒子間又はシリカ微粒子と透明基板などの基板との間の空隙が大きくなるからである。一方、シリカ微粒子の含有比が限度を超えて大きい場合、低反射コーティングの耐久性が劣化する。バインダに含まれるシリカは、シリカ微粒子間又はシリカ微粒子と透明基板などの基板との間を接着する働きがあるが、シリカ微粒子の含有比が大きすぎると、その効果が乏しくなるからである。他方、シリカ微粒子の含有比が限度を超えて小さくなると、前述の空隙が小さくなりすぎるため、低反射コーティングの透過率ゲインが低下してしまう。
【0029】
低反射コーティングにアルミニウム化合物が含まれる場合、そのアルミニウム化合物は、低反射コーティングを形成するためのコーティング液に添加された水溶性の無機アルミニウム化合物に由来することが好ましく、ハロゲン化アルミニウム又は硝酸アルミニウムに由来することがより好ましい。この場合、好ましいハロゲン化アルミニウムは塩化アルミニウムである。低反射コーティングにおけるアルミニウム化合物の含有率は、アルミニウム化合物をAl
2O
3に換算して、例えば2〜7質量%であり、好ましくは4〜7質量%である。低反射コーティングに上記の含有率でアルミニウム化合物が含有されることによって、低反射コーティングの化学的耐久性が向上する。アルミニウム化合物の含有率が2質量%より少ない場合、低反射コーティングの化学的耐久性が低下し、一方、アルミニウム化合物の含有率が7質量%を超える場合、低反射コーティングの透過率ゲインが低下する。
【0030】
低反射コーティングには、その他の添加物が含まれていてもよい。他の添加物としては、チタニウム化合物やジルコニウム化合物を挙げることができ、例えば、このような添加物を含んでいると、低反射コーティングのアルカリに対する耐久性を向上させることができる。また、例えば、低反射コーティングは、リン化合物を、P
2O
5に換算して、質量%表示で0.1〜5質量%含んでいてもよい。
【0031】
バインダに含まれるシリカは、例えば、低反射コーティングを形成するための低反射コーティング液に添加された、加水分解性シリコン化合物又は加水分解性シリコン化合物の加水分解物に由来する。この加水分解性シリコン化合物は、例えば、下記式(I)に示す化合物を含む。下記式(I)において、Xは、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
SiX
4 (I)
【0032】
なお、本明細書において、加水分解性シリコン化合物には、加水分解性シリコン化合物のオリゴマーを含む。このオリゴマーは、例えば、2〜200個程度の同じ種類の分子が縮合して形成されている。
【0033】
バインダに含まれるシリカの供給源としては、シリコンアルコキシドに代表される加水分解性シリコン化合物を用いることができる。シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランを例示できる。これら加水分解性シリコン化合物は、いわゆるゾルゲル法により加水分解及び縮重合されてバインダを構成する。
【0034】
加水分解性シリコン化合物の加水分解は、適宜実施することができるが、シリカ微粒子が存在する溶液中で実施することが好ましい。そのシリカ微粒子の表面に存在するシラノール基と、シリコンアルコキシドなど加水分解性シリコン化合物が加水分解して生成したシラノール基との縮重合反応が促進され、シリカ微粒子の結合力向上に寄与するバインダの割合が高まるためである。具体的には、シリカ微粒子を含む溶液を撹拌しながら、加水分解触媒及びシリコンアルコキシドを順次添加することにより、コーティング液を調製することが好ましい。ここで、シリコンアルコキシドは、単量体であってもよいが、オリゴマーであってもよい。なお、加水分解触媒には酸・塩基いずれを用いることもできるが、酸、特に水溶液中での電離度が大きい酸を用いることが好ましい。具体的には、酸解離定数pKa(酸が多塩基酸である場合には第一酸解離定数を意味する)が2.5以下の酸を用いることが好ましい。好適な酸の例としては、塩酸及び硝酸などの揮発性の無機酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、及びp−トルエンスルホン酸などの有機酸、並びにマレイン酸、リン酸、及びシュウ酸などの多塩基酸を挙げることができる。塩基性より酸性の方が、シリカ微粒子の分散性がよく、またコーティング液の安定性にも優れる。さらに、塩酸由来の塩素イオンは、コーティング液中での塩素イオンの濃度を高めるため、前述したコーティング液に添加した塩化アルミニウムがもたらす効果をより促進する。
【0035】
これにより、本発明の低反射コーティングにおいては、透過率ゲインを、例えば1.5%以上、好ましくは2.5%以上、より好ましくは2.6%以上に高めることができるとともに、前述の優れた化学的耐久性を示す。
【0036】
低反射コーティングにおいて、シリカ微粒子を35〜55質量%含み、バインダに含まれるシリカを35〜60質量%含む場合、以下の化学的耐久試験を行った後の、低反射コーティングが施された基板における380〜850nmの波長の光の平均透過率と、その化学的耐久試験を行う前の、低反射コーティングが施された基板における380〜850nmの波長の光の平均透過率との差の絶対値は、例えば、0.25%以下である。化学的耐久試験は、具体的には、35℃の温度を有する5質量%の塩化ナトリウム水溶液を低反射コーティングに192時間噴霧することによって、JIS(日本工業規格) C8917:2005付属書4に準拠した塩水噴霧試験を行うことによってなされる。ここで、380〜850nmの波長の光の平均透過率は、380〜850nmの波長の光の透過率の算術平均である。このように、低反射コーティングは、場合によっては、高い化学的耐久性を有する。
【0037】
また、低反射コーティングにおいて、シリカ微粒子を35〜55質量%含み、バインダに含まれるシリカを35〜60質量%含む場合、以下のようにして求められる往復摩耗試験後の反射率ロスが、例えば1.6%以上であり、好ましくは2.0%以上である。往復摩耗試験後の反射率ロスは、低反射コーティングが施されていない基板における360〜740nmの範囲の波長の光の平均反射率から、低反射コーティングに摩耗子CS−10Fを接触させて往復摩耗試験(荷重:4N、往復回数:50回)を行った後の低反射コーティングが施された基板における360〜740nmの範囲の波長の光の平均反射率を差し引いて求められる。このように、低反射コーティングは、場合によっては、高い化学的耐久性に加え、高い耐摩耗性を有する。
【0038】
本発明の低反射コーティングは、例えば、コーティング液を塗布・乾燥・硬化させて形成することができる。これらコーティング液を供給する方法には、公知の任意の方法、例えばスピンコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティングなど、を用いることができるが、スプレーコーティングは量産性の点で優れ、ロールコーティング又はバーコーティングが量産性に加えて低反射コーティングの外観の均質性の点でより適している。
【0039】
低反射コーティングは、好ましくは、低反射コーティングを形成するためのコーティング液を基板に塗布した後で、基板の最高温度が200℃以上かつ350℃以下であり、かつ、基板の温度が200℃以上である時間が5分以下であるように加熱されることによって、形成されている。低反射コーティングは、より好ましくは、低反射コーティングを形成するためのコーティング液を基板に塗布した後で、基板の最高温度が120℃以上かつ250℃以下であり、かつ、基板の温度が120℃以上である時間が3分以下であるように加熱されることによって、形成されている。低反射コーティングは、さらに好ましくは、低反射コーティングを形成するためのコーティング液を基板に塗布した後で、基板の最高温度が100℃以上かつ250℃以下であり、かつ、基板の温度が100℃以上である時間が2分以下であるように加熱されることによって、形成されている。このように、本発明の低反射コーティングは、場合によっては、比較的低温で加熱することによって形成することができる。そのうえで、上記のような高い汚れ除去性、高い透過率ゲイン、高い耐摩耗性、又は高い化学的耐久性を実現できる。低反射コーティングの乾燥及び硬化は、例えば、熱風乾燥によって行うことができる。
【0040】
本発明の低反射コーティングを好適に施すことができる基板は、コーティングを施していないガラス板であってもよい。すなわち、本発明によれば、上記の低反射コーティングが形成されたガラス板を得ることができる。ガラス板は、その主表面の算術平均粗さRaが例えば1nm以下、好ましくは0.5nm以下の平滑性を有するフロート板ガラスであってもよい。ここで、算術平均粗さRaは、JIS B0601−1994に規定された値である。
【0041】
一方で、ガラス板は、その表面に凹凸を有する型板ガラスであってもよく、その凹凸の平均間隔Smは、例えば0.3mm以上、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.45mm以上であり、かつ、例えば2.5mm以下、好ましくは2.1mm以下、より好ましくは2.0mm以下、とりわけ好ましくは1.5mm以下である。ここで、平均間隔Smは、粗さ曲線が平均線と交差する点から求めた山谷一周期の間隔の平均値を意味する。さらには型板ガラス板の表面の凹凸は、上記範囲の平均間隔Smとともに、0.5μm〜10μm、特に1μm〜8μmの最大高さRyを有することが好ましい。ここで平均間隔Smと最大高さRyは、JIS B0601−1994に規定された値である。
【0042】
なお、ガラス板は、通常の型板ガラスや建築用板ガラスと同様の組成であってよいが、着色成分を極力含まないことが好ましい。ガラス板において、代表的な着色成分である酸化鉄の含有率は、Fe
2O
3に換算して、0.06質量%以下、特に0.02質量%以下が好適である。
【0043】
他方、本発明の低反射コーティングを好適に施すことができる基板は、透明導電膜付きガラス基板であってもよい。この透明導電膜付きガラス基板は、例えば上述の何れかのガラス板の一方の主面に、透明導電膜を有するものであって、ガラス板の主面に、1層以上の下地層、例えばフッ素ドープ酸化スズを主成分とする透明導電層が順に積層されているものである。この場合、透明導電膜は、ガラス板の低反射コーティングが形成されている主面とは反対側の主面に形成されている。例えば、このガラス板がフロート法によって製造されている場合、低反射コーティングは、好ましくは、フロートバスにおいて熔融スズに触れていたガラスによって形成された主面であるガラス板のボトム面に形成される。一方、透明導電膜は、好ましくは、フロートバスにおいて熔融スズに触れていなかったガラスによって形成された主面であるガラス板のトップ面に形成される。このように、本発明によれば、上記の低反射コーティングが形成されたガラス基板であって、低反射コーティングが形成されている主面とは反対側の主面に透明導電膜が形成されたガラス基板を得ることができる。
【0044】
また、本発明によれば、ガラス板を有し、光を入射させるべきガラス板の主表面に上記低反射コーティングが形成された光電変換装置を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。まず、各実施例又は各比較例において、基板上に形成した低反射コーティングの各特性の評価方法を説明する。
【0046】
(光透過特性)
分光光度計(UV−3100PC、株式会社島津製作所製)を用い、低反射コーティングの形成前後における基板の透過率曲線(透過スペクトル)をそれぞれ測定した。平均透過率は、波長380〜850nmにおける透過率を平均化して算出した。低反射コーティングを施した基板の平均透過率の、低反射コーティングを施す前の基板の平均透過率に対する増分を透過率ゲインとした。実施例1〜11及び比較例2に関する結果を表1に示す。
【0047】
(汚れ落ち特性)
汚れ落ち特性は、低反射コーティング表面に形成させた所定の擬似汚れを、乾布で擦った後、擬似汚れを拭い去ることができたかを肉眼で観察し、さらに低反射コーティングに傷が生じたかどうかを100倍の倍率で光学顕微鏡を用いて観察した。上記の擬似汚れは、所定の擬似ダストを懸濁させた水を塗布し乾燥させて形成した。擬似ダストにはJIS Z8901(試験用粉体および試験用粒子)に規定される試験用粉体1のうち第7種「関東ローム」(一般社団法人 日本粉体工業技術協会製)を用い、その懸濁水は擬似ダストをその質量の4倍の水に懸濁させたものを用いた。擬似汚れはその懸濁水の0.5mlを、水平に保持した被試験体に滴下し、大気中で16時間放置することで形成した。各実施例及び各比較例に関する結果を表1に示す。
【0048】
各実施例及び各比較例について、分光光度計(UV−3100PC、株式会社島津製作所製)を用いて、低反射コーティングから擬似汚れを拭い去った後の平均透過率から低反射コーティングに擬似汚れを付着させる前の平均透過率を差し引いた差を求めた。結果を表1に示す。
【0049】
(汚れ付着性)
汚れ付着性は、ダスト懸濁水を流下させ乾燥させたときに、低反射コーティング表面に残存する擬似汚れの有無を肉眼で観察して行なった。ダスト懸濁水には上述の汚れ落ち特性の評価に用いたものと同じものを用い、45°に傾斜させた被試験体に対し1mLをスポイトで流下させ、大気中で16時間放置した後に観察した。各実施例及び各比較例に関する結果を表1に示す。
【0050】
(接触角)
接触角は、協和界面科学社製の接触角計(型式:CA−A)を用いて約4μLの水滴を表面に滴下し、実施例若しくは比較例2に係る低反射コーティング又は比較例1のガラス基板の表面におけるその水滴の接触角を測定した。各実施例及び各比較例に関する結果を表1に示す。
【0051】
(耐摩耗性)
大栄科学精器製作所社製の往復摩耗試験機を用いて実施例4〜11及び比較例2に係る低反射コーティングが形成された基板について往復摩耗試験を行った。具体的に、低反射コーティング側を上向きにして低反射コーティングが形成された基板を治具で固定した。次に、直径19mmの円板状の摩耗子CS−10Fの円形面を低反射コーティングに接触させて4Nの荷重を加えた。このとき、摩耗子CS−10Fと低反射コーティングとの接触面積は、284mm
2であった。この状態で摩耗子CS−10Fを低反射コーティングに対して50回直線的に往復運動させた。このときの摩耗子の速度は、120mm/秒に設定し、摩耗子のストローク幅は120mmに設定した。
【0052】
実施例4〜11及び比較例2に係る低反射コーティングが形成された基板について、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM−2600d)を用いて、360nm〜740nmの範囲の波長の光に対する反射率を測定し、この範囲の波長の光に対する反射率を平均化して平均反射率を求めた。また、実施例4〜11及び比較例2に係る低反射コーティングが形成された基板について、往復摩耗試験を行う前及び往復摩耗試験を行った後でそれぞれ平均反射率を求めた。また、実施例4〜11及び比較例2に係る低反射コーティングが形成された基板の、低反射コーティングが形成される前の基板についても同様にして平均反射率を求めた。実施例4〜11及び比較例2において、低反射コーティングを形成する前の基板の平均反射率から往復摩耗試験を行う前の低反射コーティングが形成された基板の平均反射率を差し引いて、往復摩耗試験前の反射率ロスを求めた。実施例4〜11及び比較例2において、低反射コーティングを形成する前の基板の平均反射率から往復摩耗試験を行った後の低反射コーティングが形成された基板の平均反射率を差し引いて、往復摩耗試験後の反射率ロスを求めた。なお、反射率の測定のための光は、低反射コーティング又は低反射コーティングが形成されるべき基板の表面に入射させた。結果を表1に示す。
【0053】
(化学的耐久性)
実施例4、5、及び9並びに比較例2に係る低反射コーティングが形成された基板の低反射コーティングの化学的耐久性を以下のようにして評価した。まず、35℃の温度を有する5質量%の塩化ナトリウム水溶液を準備した。この塩化ナトリウム水溶液を低反射コーティングが形成された基板の低反射コーティングに192時間噴霧することによって、JIS C8917:2005付属書4に準拠した塩水噴霧試験を行った。この塩水噴霧試験の前後のそれぞれにおいて、分光光度計(UV−3100PC、株式会社島津製作所製)を用いて、低反射コーティングが形成された基板における380〜850nmの波長の光の平均透過率を求めた。その後、塩水噴霧試験を行った後の、低反射コーティングが施された基板における380〜850nmの波長の光の平均透過率と、塩水噴霧試験を行う前の、低反射コーティングが施された基板における380〜850nmの波長の光の平均透過率との差の絶対値を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
(膜厚)
各実施例及び各比較例に係る低反射コーティングを電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日立製作所社製、型式:S‐4500)を用いて観察した。低反射コーティングの30°斜め上方からの断面におけるFE−SEM写真から、測定点5点における低反射コーティングの厚みの平均値を、低反射コーティングの膜厚(平均膜厚)として算出した。実施例4に係る低反射コーティング付ガラス板のFE−SEM写真を
図1に示す。
【0055】
<実施例1>
(コーティング液の調製)
シリカ微粒子分散液(クォートロンPL−7、平均粒径125nmの略球状の一次粒子、固形分濃度23重量%、扶桑化学工業株式会社製)56.2質量部、1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)23.3質量部、1N塩酸(加水分解触媒)1質量部を撹拌混合し、さらに撹拌しながらテトラエトキシシラン(正珪酸エチル、多摩化学工業株式会社製)12.1質量部、メチルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製)7.1質量部を添加し、引き続き40℃に保温しながら8時間撹拌してテトラエトキシシランおよびメチルトリエトキシシランを加水分解し、原液Aを得た。原液Aにおいて、シリカ微粒子の質量と、バインダに含まれる加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物の質量との比は、67.7:32.3であり、加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物100質量部に対する、疎水基を有する加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物は、43.4質量部であった。
【0056】
前述の原液A52.5g、プロピレングリコール(溶媒)3.0g、1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)92.0g、塩化アルミニウム水溶液(AlCl
3として濃度47.6wt%、試薬グレードの塩化アルミニウム6水和物(シグマアルドリッチ社製)を脱イオン水に溶解させて調製)2.49gを撹拌混合し、コーティング液A1を得た。コーティング液A1において、シリカ(シリカ微粒子とアルコキシシランに由来)をSiO
2に換算した固形分濃度は7.0質量%であり、SiO
2に換算したケイ素の酸化物を100質量部としたときのAl
2O
3に換算したアルミニウム化合物は5質量部であり、コーティング液A1の固形分において、疎水基の含有率は、2.8質量%であった。
【0057】
(低反射コーティングの形成)
透明導電膜付きガラス板の、透明導電膜が形成されていない方の主面に低反射コーティングを形成した。この透明導電膜付きガラス板は、通常のソーダライムシリケート組成からなるガラス板の片方の主面にオンラインCVD法を用いて透明導電層を含む透明導電膜が形成されている、厚み3.2mmの日本板硝子株式会社製のガラス板であった。このガラス板はオンラインCVD法によって透明導電膜が形成されているので、透明導電膜が被着されているガラス板はフロート法により形成されたガラス板であった。また、透明導電膜は、フロートバスにおいて熔融スズに触れていなかったガラスによって形成されたガラス板の主面であるトップ面に形成されていた。この透明導電膜付きガラス板を200mm×300mmに切断し、アルカリ溶液(アルカリ性洗浄液LBC−1、レイボルド株式会社製)に浸漬させた後超音波洗浄機を用いて洗浄し、さらに脱イオン水で水洗した後常温で乾燥させた。このようにして、低反射コーティングを形成するためのガラス板(基板)を作製した。低反射コーティングを施す前のこの基板の光透過特性を前述のとおり評価したところ、平均透過率80.0%であった。
【0058】
ロールコーターを用い、前述のガラス板の透明導電膜が施されていない側の主面にコーティング液A1を塗布した。なお、このときコーティング液の膜厚が1〜5μmになるようにした。次いでこのガラス板に塗布したコーティング液を、熱風で乾燥・硬化させた。この熱風乾燥は、ベルト搬送式の熱風乾燥装置を用い、熱風の設定温度を300℃、熱風吐出ノズルとガラス板との間の距離を5mm、搬送速度を0.5m/分に設定し、2回往復してノズルの下を4回通過させることで行なった。このとき、コーティング液が塗布されたガラス板が熱風に触れている時間は140秒であり、ガラス板のコーティング液が塗布されたガラス面における最高到達温度は199℃であった。また、ガラス板のコーティング液が塗布されたガラス面の温度が120℃以上であった時間は、125秒であった。乾燥・硬化後のガラス板は室温まで放冷し、ガラス板に低反射コーティングを施した。このように、実施例1において、フロートバスにおいて熔融スズに触れていたガラスによって形成されたガラス板の主面であるボトム面に低反射コーティングが形成された。
【0059】
こうして得た実施例1に係る低反射コーティングについて、前述の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0060】
<実施例2>
(コーティング液の調製)
実施例1で用いたシリカ微粒子分散液28.3質量部、1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)58.6質量部、1N塩酸(加水分解触媒)1質量部を撹拌混合し、さらに撹拌しながらテトラエトキシシラン(正珪酸エチル、多摩化学工業株式会社製)12.1重量部を添加し、引き続き40℃に保温しながら8時間撹拌してテトラエトキシシランを加水分解し、原液Bを得た。原液Bにおいて、シリカ微粒子をSiO
2に換算した質量と、バインダに含まれる酸化ケイ素成分をSiO
2に換算した質量の比は、65:35であり、SiO
2に換算した固形分濃度は10質量%であった。原液Bには、疎水基が含まれていなかった。
【0061】
前述の原液B70.0g、プロピレングリコール(溶媒)2.0g、1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)26.3g、実施例1で用いた塩化アルミニウム水溶液1.7g、デシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製)0.09gを撹拌混合し、コーティング液B2を得た。コーティング液B2において、シリカ(シリカ微粒子とアルコキシシランに由来)をSiO
2に換算した固形分濃度は7.0質量%であり、SiO
2に換算したケイ素の酸化物を100質量部としたときのAl
2O
3に換算したアルミニウム化合物は5質量部であり、コーティング液B2の固形分において、疎水基の含有率は、0.6質量%であった。
【0062】
(低反射膜の形成)
コーティング液A1の代わりに、前述のコーティング液B2を用いた以外は実施例1と同じ手順で、ガラス板に低反射コーティングを施し、前述の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0063】
<比較例1>
比較例1として、実施例1及び2で用いた透明導電膜付きガラス板を、透明導電膜が形成されていない方の主面に低反射コーティングを施すことなく使用した。評価に先立ち、実施例1及び2と同様に洗浄し乾燥させた。評価結果を表1に示す。
【0064】
実施例1及び2が示す通り、熱風乾燥による硬化のみによる低反射コーティングは、2.5%以上の極めて高い透過率ゲインと、優れた汚れ除去性とを示した。さらに実施例2の低反射コーティングでは、コーティングを施す前のガラス基板表面と同程度の優れた耐傷つき性を得ることができた。
【0065】
<実施例4>
シリカ微粒子分散液(クォートロンPL−7、平均粒径125nmの略球状の一次粒子、固形分濃度23重量%、扶桑化学工業株式会社製)21.7質量部、1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)64.5質量部、1N塩酸(加水分解触媒)1質量部を撹拌混合し、さらに撹拌しながらテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(コルコート株式会社製、商品名:エチルシリケート40、略称:ES−40、平均5量体のオリゴマー)7.7質量部、メチルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製)5.1質量部を添加し、引き続き40℃に保温しながら8時間撹拌してES−40およびメチルトリエトキシシランを加水分解し、原液Cを得た。
【0066】
原液C70.0g、プロピレングリコール(溶媒)2.0g、1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)25.9g、塩化アルミニウム水溶液(AlCl
3として濃度47.6wt%、試薬グレードの塩化アルミニウム6水和物(シグマアルドリッチ社製)を脱イオン水に溶解させて調製)2.1gを撹拌混合し、コーティング液C1を得た。コーティング液C1において、ケイ素の酸化物(シリカ微粒子とES−40及びメチルトリエトキシシランとに由来)としての固形分濃度は7質量%であった。
【0067】
コーティング液A1の代わりにコーティング液C1を用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス板に低反射コーティングを施し、前述の特性を評価した。コーティング液C1から形成された低反射コーティングにおける各成分の含有率は、以下の通りであった。
シリカ微粒子 47.1質量%
バインダに含まれるシリカ 43.0質量%
疎水基 4.0質量%
Al
2O
3に換算したアルミニウム化合物 5.9質量%
【0068】
また、コーティング液C1から形成された低反射コーティングにおいて、シリカ微粒子の含有量と、加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物の含有量との比は、質量比で表して50:50であった。
【0069】
<実施例3、5〜8>
低反射コーティングにおける、シリカ微粒子、バインダに含まれるシリカ、疎水基、及びAl
2O
3に換算したアルミニウム化合物の含有率が表1に示す通りになるように、各原料の添加量を調整した以外は、実施例4と同様にして実施例3、5〜8に係るコーティング液を調製した。なお、実施例3、5〜8に係るコーティング液における固形分の濃度は、7質量%であった。また、コーティング液A1の代わりに、実施例3、5〜8に係るコーティング液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3、5〜8に係る低反射コーティング付ガラス板を作製した。
【0070】
<実施例9>
実施例1で用いたシリカ微粒子分散液26.1質量部と、1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)58.7質量部と、リン酸水溶液(リン酸(東京化成工業社製、濃度89質量%以上)を脱イオン水に溶解させて9.0質量%の水溶液を調製)5.0質量部とを攪拌混合し、さらに攪拌しながら6.2質量部の前述のES−40及びメチルトリエトキシシラン4.0質量部を添加して原液Dを得た。原液Cの代わりに原液Dを用いた以外は実施例4と同様にしてコーティング液D1を得た。コーティング液A1の代わりにコーティング液D1を用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス板に低反射コーティングを施し、実施例9に係る低反射コーティング付ガラス板を作製した。
【0071】
<実施例10>
1−メトキシ−2−プロパノール(溶媒)の添加量を62.7質量部に変更し、リン酸水溶液に代えてトリフルオロ酢酸水溶液(トリフルオロ酢酸(東京化成工業社製)10gを90gの脱イオン水に溶解させて調製)1.0質量部を用いた以外は、実施例9と同様にして原液Eを得た。原液Cの代わりに原液Eを用いた以外は実施例4と同様にしてコーティング液E1を得た。コーティング液A1の代わりにコーティング液E1を用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス板に低反射コーティングを施し、実施例10に係る低反射コーティング付ガラス板を作製した。
【0072】
<実施例11>
トリフルオロ酢酸水溶液に代えてしゅう酸水溶液(しゅう酸二水和物(関東化学株式会社製)10gを90gの脱イオン水に溶解させて調製、しゅう酸の濃度:7.1質量%)1.0質量部を用いた以外は、実施例10と同様にして原液Fを得た。原液Cの代わりに原液Fを用いた以外は実施例4と同様にしてコーティングF1を得た。コーティング液A1の代わりにコーティング液F1を用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス板に低反射コーティングを施し、実施例11に係る低反射コーティング付ガラス板を作製した。
【0073】
<比較例2>
メチルトリエトキシシランを用いず、比較例2に係るコーティング液の固形分における各成分の含有率が表1に示す通りになるように各原料の添加量を調整した以外は、実施例4と同様にして比較例2に係るコーティング液を調製した。なお、比較例2に係るコーティング液における固形分の濃度は7質量%であった。また、コーティング液A1の代わりに、比較例2に係るコーティング液を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る低反射コーティング付ガラス板を作製した。
【0074】
表1に示す通り、比較例2に係る低反射コーティングにおける接触角が6.6°であったのに対し、実施例3〜11に係る低反射コーティングにおける接触角は、79.8°以上であった。このため、低反射コーティングのバインダに疎水基が所定の割合で含有されることによって、汚れが付きにくく汚れの除去性に優れた低反射コーティングが得られることが示された。実施例3〜8に係る低反射コーティングにおける透過率ゲインは、2.24以上であり、比較的高い透過率ゲインを示した。比較例2に係る低反射コーティングにおける往復摩耗試験後の反射率ロスは1.55であるのに対し、実施例4〜8に係る低反射コーティングにおける往復摩耗試験後の反射率ロスは、2.33以上であった。このため、実施例4〜8に係る低反射コーティングは、良好な耐摩耗性を有することが示された。また、比較例2に係る低反射コーティングにおける塩水噴霧試験前後の平均透過率の差の絶対値は、0.27であるのに対し、実施例4及び5に係る低反射コーティングにおける塩水噴霧試験前後の平均透過率の差の絶対値は、それぞれ、0.11及び0.20であった。このため、実施例4及び5に係る低反射コーティングは、良好な化学的耐久性を有することが示された。
【0075】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、高い透過率ゲインを示し、かつ汚れ落ち性に優れた低反射コーティングを提供できる。