(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなセンシング用の電子装置をもつ締結ボルト(ここでは、センシング締結ボルトという)は、その輸送や締め付けの作業の時、デリケートな電子装置が損傷してしまわないよう、通常の締結ボルトよりも注意深く取り扱われる必要がある。これは、ボルト締め付け作業の能率低下を引き起こすおそれがある。
【0007】
特に、複数のセンシング締結ボルトを構造物の異なる複数箇所に取り付ける場合、締め付け作業の能率低下は無視できない問題になるであろう。
【0008】
また、複数のセンシング締結ボルトを構造物の異なる複数箇所に取り付ける場合、各センシング締結ボルトが他のセンシング締結ボルトから識別され得ることが望まれる。さらに好ましくは、それぞれのセンシング締結ボルトの構造物における配置位置が容易に特定できるようになっていることが望まれる。そうなっていれば、それらのセンシング締結ボルトからのセンシング信号とそれらのボルトの識別情報又は位置情報にもとづいて、構造物のそれら複数箇所をカバーする領域全体にわたる力学的状態を推定できる可能性がある。これは、その構造物の老朽化や災害被害などによる損傷又は不健康を推定して、適切なメンテナンスを計画するのに役立つと期待される。
【0009】
このような識別や測位の機能をセンシング締結ボルトにもたせた場合、センシング締結ボルトを構造物に取り付ける作業がいっそう面倒になり、作業能率が落ちるおそれがある。
【0010】
これらの問題及び要望は、締結ボルトだけに限らず、センシングのための電子装置をもつ他の力学部材にもあてはまるであろう。
【0011】
本発明の目的は、センシング機能をもつ力学部材を構造物に取り付ける又は組み込む作業の能率低下を小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面に従えば、次のような構造物のための力学部材が提供される。
【0013】
その力学部材は、その力学部材の力学的状態をセンスして外部へ送信するための電子装置を備える。その電子装置は、第1装置と第2装置を有する。その第1装置は、初期的に前記力学部材に搭載される。他方、その第2装置は、初期的には力学部材に未搭載であり、後の任意の時に前記力学部材に搭載されて第1装置に電気的に接続されることができるようになっている。さらに、第2装置が、識別コードを有し、その識別コードを、外部へ送信することができるようになっている。
【0014】
その力学部材は、第2装置が力学部材に未搭載である時に第1装置への異物侵入を防ぐ遮蔽部材を更に備えていてよい。
【0015】
その力学部材は、第2装置が力学部材に搭載されたている時に第2装置を外部からの衝撃又は異物の侵入から防護する防護部材を更に備えていてよい。
【0016】
第2装置は、第1装置に接続された時も未接続である時も、識別コードを外部へ送信することができるようになっていてよい。
【0017】
第2装置が測位装置をさらに有して、位置データを外部へ送信できるようになっていてよい。
【0018】
測位装置は、第2装置に内蔵されていてよい。あるいは、測位装置は、第2装置の外部に設けられていて、第2装置と電気的に接続されるようになっていてもよい。
本発明の別の側面に従えば、次のような構造物のための力学部材が提供される。
【0019】
その力学部材は、その力学部材の力学的状態をセンスして外部へ送信するための電子装置を備える。その電子装置が、第1装置と第2装置を有する。その第1装置は、初期的に前記力学部材に搭載される。他方、その第2装置は、力学部材の外部に設けられている。そして、その第2装置は、初期的に前記第1装置に電気的に未接続であり、後の任意の時に前記第1装置に接続されることができるようになっている。
【0020】
第2装置は、識別コードを有して、識別コードを外部へ送信することができるようになっていてよい。
【0021】
第2装置は、第1装置に接続された時も未接続である時も、前記識別コードを外部へ送信することができるようになっていてよい。
【0022】
第2装置が測位装置をさらに有し、位置データを外部へ送信できるようになっていてよい。
【0023】
測位装置は、第2装置に内蔵されていてよい。あるいは、測位装置は、第2装置の外部に設けられていて、第2装置と電気的に接続されるようになっていてもよい。
【0024】
本発明のまた別の側面に従えば、力学部材の力学的状態をセンスするための電子装置のための、次のような電子部品が提供される。その電子部品は、初期的にその力学部材に未搭載であり、後の任意の時にその力学部材に搭載され得るようになっている。その電子部品がその力学部材に搭載されると、その電子部品は、力学部材に初期的に搭載されていた上記電子装置の別の部品と電気的に接続され、これにより、上記電子装置を完成される。その電子部品は、識別コードを有し、その識別コードを、外部へ送信することができるようになっている。
【0025】
その電子部品は、上記別の部品に接続された時も未接続である時も、識別コードを外部へ送信することができるようになっていてよい。
【0026】
その電子部品は測位装置をさらに有して、位置データを外部へ送信できるようになっていてよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、センシング機能をもつ力学部材を構造物に取り付ける又は組み込みむ作業の能率低下を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、構造物に使われる様々な力学部材、例えば、締結ボルト、鉄骨、鉄筋、コンクリート成形物、ワイヤーなどとして実施できる。以下では、説明のための例示として、締結ボルトに適用された本発明の幾つかの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る締結ボルトの構造と使用例を示す。
【0031】
図1に示すように、締結ボルト(以下、“ボルト”という)1は、例えば鋼製であり、円柱状のシャンク2と、シャンク2の一端に設けられた6角柱状のヘッド3と、ヘッド3のシャンク2側の外縁に設けられたフランジ4を備える。シャンク2の他端側には、雄ねじ部4が形成されている。
図1は、ボルト1とナット8の組み合わせが、ある構造物9の複数の部材91と92を締結している状態を示すが、これは説明のための例示にすぎない。
【0032】
ヘッド3の上面には、凹部6が形成されている。凹部6の内側に電子装置7が搭載されている。電子装置7は、ボルト1内に生じた応力による凹部6の内表面の歪を電子的にセンスする機能をもつ。電子装置7は、また、電子装置7の固有の識別コードを記憶している。電子装置7は、さらに、電子装置7の位置を測定する測位装置を有してもよい。測位装置として、例えば、GPS (Global Positioning System)受信機やQZSS(Quasi-Zenith Satellite System)受信機のような衛星測位システムの受信機、地上の複数の無線基地局を利用したローカルな測位システムの受信機、それらの組み合わせ、あるいは、その他の種類の測位システムが採用できる。
【0033】
電子装置7の駆動電力は、
図2に示されたモニタ装置100から、例えば電磁誘導を利用したワイヤレスの方法で、電子装置7に供給される。電子装置7は、給電を受けると自動的に、ヘッド3の凹部6の内表面の歪みの大きさ(そこから、シャンク2の軸力の大きさが分かる)を電子的にセンスして、その歪みの大きさに応じた軸力値をもつ軸力データを、例えばワイヤレス通信により、
図2に示されたモニタ装置100に送信する。給電を受けたとき、電子装置7は、さらに、電子装置7内に記憶されている識別コードも、モニタ装置100に送信する。電子装置7が測位システムを有する場合には、電子装置7は、給電を受けると、測位システムで電子装置7の位置を測定し、その位置を示す位置データを、モニタ装置100に送信するようになっていてよい。
【0034】
図2は、上述したモニタ装置100を示す。
【0035】
図2に示すように、モニタ装置100は、人が携帯できるように設計されており、通信装置110と、通信装置110と接続されたコンピュータ120を有する。通信装置110は、例えばラケットのような形状を有し、人が片手でつかめるハンドル130と、ハンドル130の一端に取り付けられたアンテナユニット140を有する。アンテナユニット140は、電子装置7に対してワイヤレス給電を行うための送電コイル150と、電子装置7とワイヤレスの近接通信を行うための通信アンテナ160を有する。ハンドル130内には、電子装置7へのワイヤレス給電を行うための電池、送電コイル150の駆動回路、及び通信アンテナ160の駆動回路が収容されている(図示省略)。
【0036】
通信装置110を電子装置7の近くにかざして通信装置110を駆動することで、通信装置110と電子装置7との間でワイヤレスの給電と通信の結合が形成される。すると、通信装置110から電子装置7へ電力が供給されて、電子装置7が動作する。それにい、通信装置110と電子装置7の間で通信が行われて、電子装置7からの軸力データ、識別コード及び/又は位置データが通信装置110に送られる。
【0037】
コンピュータ120は、ディスプレイスクリーン170と、マイクロプロセッサ(図示せず)を有する。コンピュータ120は、アンテナユニット130で受信された軸力データ、識別コード及び/又は位置データを入力し、軸力データに基づいてボルト1の力学的状態(例えば、シャンク2の軸力の大きさ、及び/又は、ボルト1の締まり/緩み程度(軸力が適正か過小か過大かの判断))を計算する。また、コンピュータ120は、入力された位置データを処理することで、対応する位置座標を算出するようになっていてよい。
【0038】
そして、コンピュータ120は、算出されたボルト1の力学的状態を、ボルト1(電子装置7)の識別コード及び/又は位置座標と関連づけて、ディスプレイスクリーン170に表示し、及び/又は記憶することができる。
【0039】
コンピュータ120は、例えば、市販の携帯電話機、タブレット型情報処理端末、あるいはパーソナルコンピュータなどに、上述した処理を行うアプリケーションプログラムをインストールすることで実現することができる。
【0040】
再び
図1を参照して、ボルト1の電子装置7は、ヘッド3の凹部6内に完全に収容されておらず、その一部がヘッド3から突出している。この突出した部分の中には、モニタ装置100から電力を受ける受電コイルや、モニタ装置100と通信する通信アンテナが収容されている。その理由は、受電コイルや通信アンテナが鋼(導体)製のヘッド3の内部に収容されていたならば、導体の電磁シールド効果によって受電や通信の機能が低くなるおそれがあるからである。
【0041】
しかし、ボルト1の輸送や締め付け作業の時、電子装置7のヘッド3から突出した部分が周囲の物体や構造物や工具などに衝突して損傷するおそれがある。そのため、作業員はボルト1の取り扱いを注意深くしなければならず、それが作業能率を落とす可能性がある。また、電子装置7の全部がヘッド3の凹部6内に完全に収容されていたとしても、ボルト1の輸送や締め付け作業の時、ボルト1に加わる可能性のある強い衝撃や振動によって、電子装置7が損傷するおそれもある。
【0042】
この問題に対処するために、
図1に示すように、電子装置7は、相互に結合及び分離可能な第1装置71 と第2装置72を有する。第1装置71は、初期的に(つまり、ボルトの出荷時に既に)ボルト1に搭載されている。第1装置71は、ヘッド3の凹部6の中に完全に収容される。
【0043】
これに対し、第2装置72は、初期的には(つまり、ボルトの出荷時には)ボルト1に未搭載であってよい(つまり、ボルト1から空間的に分離されていてよい)。後の任意の時に、第2装置72をボルト1に搭載することができる。第2装置72がボルト1に搭載されたときに、第2装置72と第1装置71が電気的に接続されて、電子装置7が完成する。
【0044】
第2装置72がボルト1に搭載された状態では、第2装置72の一部(そこには、前述の受電コイルや通信アンテナが収容されている)がヘッド3の外へ突出する。しかし、輸送や締め付けなど、第2装置72に危険な衝撃や振動が加わる作業の時には、ボルト1から第2装置72を分離しておけば(ボルト1に第2装置72を搭載しなければ)、第2装置72が作業の妨げにならない。そのような作業が終わった後に、第2装置72をボルト1に搭載すればいい。
【0045】
図3は、上述した締結ボルト1のヘッド3と電子装置7の構造をより具体的に示す。
【0046】
図4は、電子装置7の第2装置72がヘッド3から分離されている(ヘッド3に未搭載である)時の状態を示す。
【0047】
図3及び
図4に示すように、電子装置7の第1装置71は、例えば2つの抵抗歪みゲージ711、712を有し、それらはボルト1のヘッド3の凹部6の内面に貼りつけられている。歪みのセンシング感度を高くするために、抵抗歪みゲージ711、712が貼りつけられる凹部6の内面の箇所は、そこの歪みが軸力の変化によって比較的大きく変化する箇所であることが望ましい。
図3及び
図4に示すように、抵抗歪みゲージ711、712の場所は、凹部6の底近くの内側面であるが、それは一例にすぎず、その箇所に限られるわけではない。例えば、凹部6の内底面に、抵抗歪みゲージ711、712が貼りつけられていてもよい。ボルト1の軸力による凹部6の内面の歪みに応じて、抵抗歪みゲージ711、712の電気抵抗値が変化する。抵抗歪みゲージ711、712は、例えば4本の電線を介して、第2装置72と接続するためのコネクタ713に接続される。コネクタ713は、支持部材714により、ボルト1の凹部6の底付近の所定位置に強固に固定される。コネクタ713は、第2装置72のコネクタ727と接続及び切り離しが可能である。コネクタ713が第2装置72のコネクタ727と接続することで、抵抗歪みゲージ711、712が、後述する第2装置72内のしかるべき回路に電気的に接続される。
【0048】
ボルト1を輸送や締め付け作業の時には、
図4の下段に示すように、電子装置7のうちの第1装置71だけがボルト1に搭載されていて、第2装置72はボルト1に未搭載であってよい。それらの作業が終わった後に、第2装置72をボルト1に搭載することができる。第2装置72がボルト1に搭載されると、第1装置71のコネクタ713が第2装置72のコネクタ727と接続し、それにより、抵抗歪みゲージ711、712が、後述する第2装置72内のしかるべき回路に電気的に接続される(電子装置7が完成する)。
【0049】
第2装置72は、
図3に示すように第1装置71と接続された状態で、第1装置71の抵抗歪みゲージ711、712の電気抵抗値に基づいてボルト1の軸力の値を計算し、その値を示す軸力データを前述したモニタ装置100へ送信する機能をもつ。
【0050】
さらに、第2装置72は、第2装置72に固有の識別コードを記憶していて、その識別コードをモニタ装置100へ送信する機能ももつ。またさらに、第2装置72は、第2装置72の位置を測定して、その位置を示す位置データをモニタ装置100へ送信する機能を有していてよい。識別コードと位置データに関する上記2つの機能は、
図3に示すように第2装置72が第1装置71と接続された状態だけでなく、
図4に示すように第2装置72が第1装置71に未接続の状態であっても、働き得るようにすることができる。
【0051】
図3及び
図4に示すように、第2装置72は、例えば、情報処理部722、電源部723及び歪みセンサ部724を有する。これらの部品722、723、724は、例えば、重層化されて樹脂製のケーシング721の中に収容される。
【0052】
ケーシング721は、例えば円筒状で、その一部分(特に、歪みセンサ部724が収容した部分)は、ヘッド3の凹部6の第1装置71より上の部分にぴったり嵌まり込む形状に設計されている。ケーシング721の残りの部分(特に、情報処理部722及び電源部723を収容した部分)はヘッド3の外側に突出する。
【0053】
第2装置72がボルト1のヘッド3に
図3に示すように搭載されたとき、ケーシング721とヘッド6の凹部6の相互の接触面の間に、接着剤やOリングなどのシールを挟んで、凹部6と電子装置7内への水やガスの侵入、及び電子装置7の凹部6からの離脱を防止することができる。まだ、脱離防止のために、ケーシング721と凹部6との間の結合を、ネジ結合又はロッキング結合としてもよい。
【0054】
情報処理部722は、軸力データ及び識別コードの生成又は記憶、並びにモニタ装置100との通信を行うための回路ユニットである。通信情報処理部722は、モニタ装置100の通信アンテナ160(
図2)と信号を送受する通信アンテナを含んだ通信回路、例えば、RFID(Radio Frequency Identifier)タグ725を有する。また、情報処理部722は、軸力データ、識別コード及び/又は位置データの生成又は記憶、並びにRFID(Radio Frequency Identifier)タグ725との信号通信を行うマイクロプロセッサ731を有する。
【0055】
電源部723は、電子装置7の駆動電力を生成するための回路ユニットである。電源部723は、モニタ装置100の送電コイル150(
図2)から交流電力を受け取る受電コイル726を有する。電源部723は、また、受電コイル150で受け取った交流電力を所定の直流電力に変換して、電子装置7の諸回路要素に供給する回路モジュールも有する。
【0056】
歪みセンサ部724は、ヘッド3の凹部6の内面の歪みの大きさをセンスする回路ユニットである。歪みセンサ部724は、第1装置71のコネクタ713と機械的及び電気的に接続するためのコネクタ727を有する。
図3に示すように第2装置72がヘッド3の凹部6に搭載された状態で、歪みセンサ部724は、コネクタ727、713を通じて、第1装置71の抵抗歪みゲージ711、712と電気的に接続される。その状態で、歪みセンサ部724は、ヘッド3の凹部6の内面の歪みの大きさに応じた歪みデータを生成して、その歪みデータを情報処理部722に送ることができる。
【0057】
図5は、電子装置7の回路構成の一例を示す。
【0058】
電子装置7の第1装置71の構成は既に説明したとおりである。
【0059】
第2装置72の情報処理部722は、前述したとおり、RFID タグ725及びマイクロプロセッサ731を有する。RFID タグ725は、モニタ装置100と通信するための通信回路として機能する。マイクロプロセッサ731は、予めプログラムされた変換プログラムを有し、歪みセンサ部724から歪みデータを受け、その変換プログラムを実行することで、その歪みデータを軸力データに変換し、その軸力データをRFIDタグ725内のICメモリ(図示省略)に記録する。変換プログラムの内容は固定であっても、変更可能であってもよい。また、マイクロプロセッサ731は、第2装置72に固有の識別コードを記憶しており、その識別コードをRFIDタグ725内のICメモリに記録する。識別コードは固定であっても、変更可能であってもよい。さらに、マイクロプロセッサ731は、生成された軸力データに基づいて、ボルト1の所定の力学的状態(例えば、軸力値が適正であるか否か、つまり、ボルト1が適正に締っているか、不適正に緩んでいるかの判断)を特定して、その力学的状態情報をRFIDタグ725内のICメモリに記録してもよい。RFIDタグ725は、そのICメモリに記憶された軸力データ、識別コード及び/又は力学的状態情報を、モニタ装置100に送信する。
【0060】
電源部723は、前述した受電コイル726に加えて、整流・平滑回路732及び電圧レギュレータ733を有する。受電コイル726から出力される交流電力は、整流・平滑回路732により直流電力に変換され、その直流電力が電圧レギュレータ733により一定電圧Vdの安定化直流電力に変換される。その安定化直流電力が、情報処理部722、電源部723及び歪みセンサ部724に供給される。
【0061】
歪みセンサ部724は、前述したコネクタ727に加えて、複数(例えば2つ)の固定抵抗734、335、直流電圧変換回路736、及びセンシング信号変換回路737を有する。
【0062】
固定抵抗734、335は、コネクタ727、713を介して第1装置71の抵抗歪みゲージ711、712と電気的に接続されることで、抵抗歪みゲージ711、712の抵抗値変化に応じたセンシング電圧信号Va、Vbを生成するための抵抗ブリッジを形成する。直流電圧変換回路736は、電源部723からの電圧Vdを、前記抵抗ブリッジのための参照電圧Vr1、Vr2に変換して、その参照電圧Vr1、Vr2を前記抵抗ブリッジに印加する。センシング信号変換回路737は、前記抵抗ブリッジからのセンシング電圧信号Va、Vbを歪みデータに変換し、その歪みデータを情報処理部722のマイクロプロセッサ731に提供する。
【0063】
上記の回路構成において、第2装置72の識別コードをモニタ装置100に送信する機能は、第2装置72が第1装置71に接続されている時だけでなく、第2装置72が第1装置71から分離されている時にも、正常に働くことができる。すなわち、第2装置72が第1装置71から分離されていても、モニタ装置100から第2装置72に電力が送られれば、電源部723はその電力を受けて情報処理部722に電力を供給し、情報処理部722は、マイクロプロセッサ731に記憶されている識別コードを、RFIDタグ725を通じてモニタ装置100に送信する。
【0064】
図1から
図5を参照して説明した第1の実施の形態にかかるボルト1には、その取扱いにおいて次のような幾つかの利点がある。
【0065】
まず、ボルト1の注意深い取り扱いの必要性に起因する作業能率の低下が抑えられる。なぜなら、ボルト1の輸送や締め付けの作業時、作業員は、電子装置7のデリケートな第2装置72がまだ搭載されてないボルト1を扱うことができるからである。
【0066】
第二に、構造物9の特定箇所に特定の識別コードをもつボルト1を取り付けなければならない場合、ボルト1の識別コードの確認の必要性に起因する作業能率の低下が抑えられる。なぜなら、作業員は、識別コードを意識せずに、任意のボルト1を手に取ってその箇所に取り付けることができるからである。その後に、作業員は、所望の識別コードをもつ第2装置72を選んで、そのボルト1に取り付けることができる。したがって、ボルト1の締め付け作業時は、識別コードによるボルト1の選択が不要である。
【0067】
第三に、構造物におけるボルト1の配置位置を把握することが容易になる。なぜなら、ボルト1の配置位置と、そのボルト1に搭載された第2装置72の識別コードとを紐づけた情報ベースを用意しておけば、そのボルト1からモニタ装置100で読み取った識別コードをその情報ベースに照らせば容易に、そのボルト1の位置が特定できるからである。
【0068】
第四に、構造物9の老朽化や災害被害などに対処するメンテナンス計画に貢献できるであろう。すなわち、構造物9の異なる複数箇所に複数のボルト1が取り付けられていれば、上述した情報ベースを利用して、構造物9のぞれぞれの箇所の位置と軸力が特定できる。複数箇所の相互の位置関係と関連づけて複数個所の軸力を分析することで、構造物9における軸力の空間的な分布が明らかになる。この情報から、構造物1の力学的状態(例えば、構造物9の荷重分布の異常、構造物9の全体的又は部分的な歪み、変形又は劣化、あるいは、構造物9の異常な傾きなど)が推定できる。
【0069】
図6は、第1の実施の形態にかかるボルト1の電子装置7の変形構成例を示す。
【0070】
図6に示した構成例の、
図5に示した構成例との違いは、第2装置72の情報処理部722に、測位装置、例えば、GPS受信機738が追加されていることである。GPS受信機738は、電源部723かから供給される電力で動作する。GPS受信機738は、第2装置72の位置を自動的にセンスして、位置情報をマイクロプロセッサ731に提供する。マイクロプロセッサ731は、その位置情報から位置データを生成して、その位置データをRFIDタグ725に記録する。RFIDタグ725は、軸力データ及び識別コードの他に、位置データもモニタ装置100へ送信する。
【0071】
第2装置72がボルト1にまだ搭載されてなく第1装置71に接続されてない状態でも、モニタ装置100か第2装置72に給電すれば、第2装置72が動作して、GPS受信機738による位置データがモニタ装置100に送信できるようにしてよい。
【0072】
図6に示した構成の電子装置7を用いることにより、前述した情報ベースがなくても、構造物9に取り付けられたボルト1の位置を自動的に把握することできる。それにより、構造物9の老朽化や災害被害などに対処するメンテナンス計画に、より効果的に貢献できるであろう。
【0073】
図7は、電子装置7の第2装置72が搭載されてないヘッド3の変形構成例を示す。
【0074】
図7に示すように、ヘッド3の凹部6の開口に遮蔽蓋81が嵌めこまれている。遮蔽蓋81は、凹部6の開口を塞いで、凹部6及び第1装置71内への水や粉塵やその他の異物の侵入を防ぐ。作業員は手で遮蔽蓋81からヘッド3から取り外した後に、第2装置7をヘッド3に搭載することができる。
【0075】
図8は、電子装置7の第2装置7が搭載されてないヘッド3の別の変形構成例を示す。
【0076】
図8に示すように、遮蔽フィルム82がヘッド3の上面、凹部6の内周面及び第1装置71の上面に貼りつけられている。遮蔽フィルム82は凹部6の内周面及び第1装置71の上面を全部覆っており、水や粉塵やその他の異物の凹部6の内周面への付着、及び第1装置71へ侵入を防ぐ。作業員は、遮蔽フィルム82を手でヘッド3から剥がした後に、第2装置7をヘッド3に搭載することができる。
【0077】
凹部6の内周面と遮蔽フィルム82との間に接着剤(又は、接着剤が入ったマイクロカプセル)83が封入されていてもよい。遮蔽フィルム82を剥がしても、接着剤83は凹部6の内表面に残留する。第2装置72をヘッド3に搭載したとき、接着剤83が第2装置72をヘッド3に固定するとともに、第2装置72と凹部6との間の隙間をシールする。
【0078】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係るボルト1の構造と使用例を示す。
【0079】
図9に示すように、電子装置7の第2装置72の外部に、測位装置(例えば、GPS受信機)73が設けられている。第2装置72と測位装置73は、空間的には相互に分離されているが、給電及び通信ケーブル74を介して、電気的に相互に接続されている。第2装置72と測位装置73との間の電気的接続(とりわけ、通信接続)は、ワイヤレス接続であってもよい。
【0080】
測位装置73は、構造物9上のボルト1とは別の場所93に取り付けることができる。例えば、測位装置73がGPS受信機である場合、ボルト1がGPS受信に適さない場所に配置されているならば、測位装置73はGPS受信に適した場所に配置することができる。ボルト1と測位装置73の距離がある程度近ければ、測位装置73からの位置データがボルト1の位置を示すとみなしても実用的な問題は生じないであろう。あるいは、ボルト1と測位装置73との位置の違い分だけ、測位装置73からの位置データを修正することもできる。
【0081】
図10は、本発明の第3の実施の形態に係るボルト1の構造と使用例を示す。
【0082】
図10に示すように、電子装置7の第2装置72が、ボルト1の外部に設けられている。第2装置72は、ボルト1から空間的に分離されているが、給電及び通信ケーブル75とケーブル75の先端のコネクタ76を介して、ボルト1に搭載された第1装置71に電気的に接続されている。コネクタ76は、第1装置71に接続することも、第1装置71から取り外すこともできる。したがって、第2装置72は、ボルト1に接続することも、ボルト1から切り離すこともできる。第1装置71と第2装置72の間の電気的な接続は、ワイヤレス接続であってもよい。
【0083】
第2装置72は、第1装置71に接続されている時でも未接続の時でも、記憶している識別コード及び/又は測位機能により得た位置データを、モニタ装置100のような外部装置へ送信することができる。
【0084】
第2装置72は、構造物9上のボルト1とは別の場所93に取り付けることができる。例えば、ボルト1がモニタ装置100の使用に適さない場所に配置されているならば、第2装置72はモニタ装置100の使用に適した場所に配置することができる。
【0085】
第2装置72が測位機能をもつ場合、ボルト1と第2装置72の距離がある程度近ければ、第2装置72が生成する位置データがボルト1の位置を示すとみなしても実用的な問題は生じないであろう。あるいは、ボルト1と第2装置72との位置の違い分だけ、第2装置72からの位置データを修正することもできる。
【0086】
図11は、本発明の第4の実施の形態に係るボルト1の構造と使用例を示す。
【0087】
図11に示すように、電子装置7の第2装置72が、ボルト1の外部に設けられている。第2装置72は、ボルト1から空間的に分離されているが、給電及び通信ケーブル75とそのケーブル75の先端のコネクタ76を介して、第1装置71に電気的に接続されている。コネクタ76は、第1装置71に接続することも、第1装置71から取り外すこともできる。したがって、第2装置72は、ボルト1に接続することも、ボルト1から切り離すこともできる。
【0088】
さらに、第2装置72の外部に、測位装置(例えば、GPS受信機)73が設けられている。第2装置72と測位装置73は、空間的には相互に分離されているが、給電及び通信ケーブル74を介して、電気的に相互に接続されている。第2装置72と測位装置73との間の電気的な接続(とりわけ、通信接続)は、ワイヤレス接続であってもよい。
【0089】
第2装置72は、第1装置71に接続されている時でも未接続の時でも、記憶している識別コード及び/又は測位装置73から得た位置データを、モニタ装置100のような外部装置へ送信することができる。
【0090】
第2装置72と測位装置73は、構造物9上のボルト1とはそれぞれ別の場所93、94に取り付けることができる。例えば、第2装置72はモニタ装置100の使用に適した場所に設置され、測位装置73は測位に適した場所に設置することができる。
【0091】
図12は、本発明の第5の実施の形態に係るボルト1の構造と使用例を示す。
【0092】
図12に示すように、電子装置7の第2装置72が、給電ケーブル78を介して、外部電源装置(例えば、電池、発電装置、又は商用電源装置など)91に電気的に接続され、また、通信ケーブル79を介して、データ処理装置(例えば、コンピュータ)93に電気的に接続されている。外部電源装置91が電子装置7に駆動電力を供給する。データ処理装置93が、電子装置7から軸力データ、識別コード、及び/又は位置データを受けて、それらのデータを処理して処理結果(例えば、構造物9の力学的状態を示すデータ)を出力する。
【0093】
通信ケーブル79に代えて、ワイヤレス通信ネットワーク(例えば、携帯電話ネットワーク、衛星通信ネットワーク、Wi-Fiネットワークなど)を用いて、電子装置7とデータ処理装置93との間でワイヤレス通信を行うこともできる。
【0094】
外部電源装置91から第2装置72への給電も、ワイヤレス給電にすることもできる。
【0095】
図13は、本発明の第6の実施の形態に係るボルト1のヘッド3と電子装置7を示す。
【0096】
図13に示すように、防護カバー84がボルト1のヘッド3に搭載されている。防護カバー84は、ヘッド3と、ヘッド3から露出した電子装置7を包囲し、それにより、電子装置7を外部からの衝撃、及び水や粉塵やガスなどの異物の侵入から防護する。
【0097】
防護カバー84は、ボルト1及び第2装置72から分離された別部品であってもよいし、第2装置72が具備している(例えば、第2装置のケーシングと一体化された部品、又は第2装置72に前もって取り付けられた部品)であってもよい。後者の場合、第2装置72と同時に防護カバー84もボルト1に搭載できる。後者の場合、さらに、防護カバー84は、さらに、ボルト1に搭載される前の第2装置72の輸送やハンドリングの時、異物との衝突や落下の衝撃から第2装置72を防護することができる。
【0098】
以上説明した本発明の幾つかの実施の形態は、説明のための単なる例示であり、本発明の範囲をそれらの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、上記の実施の形態とは違うさまざまな形態で、実施することができる。
【0099】
例えば、電子装置7の構成は
図5又は
図6に示した構成と異なるものとすることができる。例えば、第1装置71に、歪みセンサ部724に含まれる要素の全部又は一部を組み込んでもいいし、他の部品722,723に含まれる要素の一部を組み込んでもいい。
図5又は
図6に示した3つの部品724、722,723の機能を、より少ない数又はより多い数の部品で実施してもよい。複数の要素を一つの要素に集積化してもよい。
【0100】
また、電子装置7への給電と通信の方法は、それぞれ、発明の実施時点で利用可能な任意のワイヤ式、近接ワイヤレス式、及び/又は遠隔ワイヤレスの方法で実施することができる。測位の方法として、GPSだけでなく、発明の実施時点で利用可能な他の様々な方法が採用できる。
【0101】
電子装置7の第2装置72の識別コードは、必ずしも固定である必要はなく、外部装置から書き込み及び/又は書き換え可能であってもよい。また、第2装置72が測位装置を有する場合、第2装置72が識別コードをもたなくてもよい。
【0102】
電子装置7の第1装置71が、固有の特徴コードを有していてよい。第1装置71の特徴コードは、第1装置71の個性(例えば、歪みゲージ711、712の歪み−電気抵抗変換特性、つまり、歪みセンシングの特性)を識別又は特定するために利用できる。そして、歪みデータを軸力データに変換するための第2装置72の変換プログラムを、第1装置71の特徴コード(換言すれば、第1装置71の個性)に応じてキャリブレート、プログラム又は選択できるようにしてよい。例えば、第2装置72が、第1装置71に接続された時、第1装置71から特徴コードを読み、そして、第2装置72が、そこに予めプログラムされた変換プログラムを、その特徴コードに応じて、キャリブレートとするように、第2装置72を構成することができる。あるいは、例えば、第2装置72が、第1装置71の特徴コードを外部装置(例えば、モニタ装置100)に通知し、そして、外部装置から第2装置72に、その特徴コードに適した変換プログラムを送信して、第2装置72にプログラムするようにすることもできる。あるいは、例えば、第1装置71の特徴コードを利用して、異なる変換プログラムをもつ複数の第2装置72の中から、その特徴コードに適した変換プログラムが予めプログラムされた一つの第2装置72を選択するようにすることもできる。
【0103】
本発明は、締結ボルト以外のさまざまな金属製又は非金属製の力学部材に適用することができる。例えば、構造物の躯体構造又は基礎を構成する柱材、梁材、線材、棒材、板材、ブロック材、吊材、固定材、補強材など、外力を支える機能をはたす多種多様な部材で、本発明は実施できる。